(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087925
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】ねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20220607BHJP
【FI】
B25B23/14 620H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200069
(22)【出願日】2020-12-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】594018832
【氏名又は名称】株式会社岩崎電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(74)【代理人】
【識別番号】100142376
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】川西 哲詩
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038CA06
3C038CA10
(57)【要約】
【課題】ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【解決手段】ねじ締結判断システムは、動力ドライバー10と、トルク検出装置12と、正常異常判断装置14とを備える。動力ドライバー10は、ねじの締付を行う。トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。トルク検出装置12は、その締付トルクを示す検出データを出力する。正常異常判断装置14は、トルク検出装置12が出力した検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かを判断する。正常異常判断装置14は、後述される推移の形態が、少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかに基づき、ねじの締付が正常か異常かを判断する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。上述された少なくとも3種類の形態範疇は、正常または異常の一方にそれぞれ対応付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじの締付を行う動力ドライバーと、
前記動力ドライバーによる前記ねじの締付トルクを検出し前記締付トルクを示す検出データを出力するトルク検出装置と、
前記トルク検出装置が出力した前記検出データに基づいて前記ねじの締付が正常か異常かを判断する正常異常判断装置とを備えるねじ締結判断システムであって、
前記正常異常判断装置が、前記ねじの締付の開始から前記締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間である判断対象動作期間における前記ねじの締付に伴う前記締付トルクの推移の形態が、正常または異常の一方にそれぞれ対応付けられる少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかに基づき、前記ねじの締付が正常か異常かを判断することを特徴とするねじ締結判断システム。
【請求項2】
前記正常異常判断装置が、
前記検出データに基づいて、前記判断対象動作期間における前記ねじの締付の開始からの経過時間と前記締付トルクの推移との相関係数、および、前記判断対象動作期間における前記ねじの締付の開始からの経過時間と前記締付トルクの推移との間における回帰式の係数の少なくとも一方を算出する係数算出部と、
前記係数算出部が算出した係数が前記形態範疇ごとに定められる所定の範囲内か否かに応じて前記ねじの締付に伴う前記締付トルクの推移の形態が前記少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかを識別する係数範囲識別部とを有していることを特徴とする請求項1に記載のねじ締結判断システム。
【請求項3】
前記係数算出部が前記回帰式の2次の前記係数および前記回帰式の1次の前記係数を少なくとも算出し、
前記形態範疇ごとに定められる所定の範囲が前記2次の係数および前記1次の係数それぞれについて定められることを特徴とする請求項2に記載のねじ締結判断システム。
【請求項4】
前記係数算出部が前記相関係数をさらに算出し、
前記形態範疇ごとに定められる所定の範囲が、前記相関係数、前記2次の係数、および、前記1次の係数について、それぞれ定められることを特徴とする請求項3に記載のねじ締結判断システム。
【請求項5】
ねじの締付が動力ドライバーにより行われることに伴って前記動力ドライバーによるねじの締付トルクが検出され前記締付トルクを示す検出データが出力されるトルク検出工程と、
前記トルク検出工程において得られた検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かが正常異常判断装置により判断される正常異常判断工程とを備えるねじ締結判断方法であって、
前記正常異常判断工程において、前記ねじの締付の開始から前記締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間である判断対象動作期間における前記ねじの締付に伴う前記締付トルクの推移の形態が、正常または異常の一方にそれぞれ対応付けられる少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかに基づき、前記ねじの締付が正常か異常かが判断されることを特徴とするねじ締結判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はねじ締め不良防止システムを開示する。このねじ締め不良防止システムは、電動ドライバーと、トルク検出装置と、回転角検出器と、複数のねじ締め箇所検出装置と、制御装置とを備えたものである。電動ドライバーは、ワークに被締結部材を固定するためのねじの締付を行う。トルク検出装置は、電動ドライバーによるねじの締付トルク、および、ねじの締付軸力を検出する。回転角検出器は、電動ドライバーのねじ締め角度を検出する。ねじ締め箇所検出装置は、データを検出する。それらのデータは、予め設定された複数の管理項目のそれぞれの正常異常を判断するためのデータである。それら複数の管理項目は、ねじ締め不良を引き起こす要因となりうるものである。制御装置は、複数のねじ締め箇所検出装置からの各検出データに基づいて複数の管理項目のいずれかの正常異常を判断する。制御装置は、トルク検出装置および回転角検出器の検出データに基づいてねじ締結状態が正常か異常かを判断する。制御装置は、ねじ締結状態が異常と判断した場合、その異常が解消されるまで次工程へ移行できないように電動ドライバーの動作を制限する。特許文献1に開示されているねじ締め不良防止システムによれば、締結不良品が市場に流出する不都合を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたねじ締め不良防止システムには、ねじがワークに被締結部材を固定する際のねじの挙動に基づく正常か異常かの判断がさほど詳細ではないという問題点がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解消するものである。その目的は、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施されるねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図面に基づいて本発明のねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法が説明される。なお、この欄で図中の符号を使用したのは、発明の内容の理解を助けるためであって、内容を図示した範囲に限定する意図ではない。
【0007】
上述された課題を解決するために、本発明のある局面に従うと、ねじ締結判断システムは、動力ドライバー10と、トルク検出装置12と、正常異常判断装置14とを備える。動力ドライバー10は、ねじの締付を行う。トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。トルク検出装置12は、その締付トルクを示す検出データを出力する。正常異常判断装置14は、トルク検出装置12が出力した検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かを判断する。正常異常判断装置14は、後述される推移の形態が、少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかに基づき、ねじの締付が正常か異常かを判断する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。判断対象動作期間とは、ねじの締付の開始から締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間のことである。上述された少なくとも3種類の形態範疇は、正常または異常の一方にそれぞれ対応付けられる。
【0008】
ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかに基づき、ねじの締付が正常か異常かが判断される。ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかに基づく判断により、その推移の形態の原因であるねじの挙動に基づいて正常か異常かが判断されることとなる。その結果、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【0009】
また、上述された正常異常判断装置14が、係数算出部80と、係数範囲識別部82とを有していることが望ましい。係数算出部80は、検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数の少なくとも一方を算出する。それらの係数の一方は、判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が形態範疇ごとに定められる所定の範囲内か否かに応じてねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかを識別する。
【0010】
ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかが、係数算出部80が算出する係数が形態範疇ごとに定められる所定の範囲内か否かに応じて識別される。この場合、係数算出部80が算出する係数が一定ならば、その係数のもととなった推移の形態がどの形態範疇に所属するかに関する識別結果は一定となる。係数算出部80が算出する係数は、相関係数および回帰式の係数の少なくとも一方である。相関係数および回帰式の係数は、所定の手順に沿って計算することで一意に定まる。このため、同一の締付トルクに基づいて算出される限り、係数算出部80が算出する係数がその算出のたびに異なることはない。その結果、ねじの締結が正常か異常かの判断が安定的に実施される。
【0011】
もしくは、上述された係数算出部80が、回帰式の2次の係数および回帰式の1次の係数を少なくとも算出することが望ましい。この場合、形態範疇ごとに定められる所定の範囲が2次の係数および1次の係数それぞれについて定められることが望ましい。
【0012】
ねじの挙動に影響を及ぼす何らかの要因があるとき、その要因がない場合に比べて、検出データに基づいて算出される回帰式における2次の係数の影響は大きくなる。その要因に応じて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態は異なるものとなる。その推移の形態が異なるものとなるので、その回帰式における2次の係数および1次の係数の値は異なるものとなる。これにより、2次の係数および1次の係数それぞれについて上述された所定の範囲が定められていると、係数範囲識別部82は、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかを適切に識別できる。
【0013】
もしくは、上述された係数算出部80が相関係数をさらに算出することが望ましい。この場合、形態範疇ごとに定められる所定の範囲が、相関係数、2次の係数、および、1次の係数について、それぞれ定められることが望ましい。
【0014】
判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式が3次以上の多次式に類似する場合、その回帰式が2次式である場合に比べて相関係数は小さくなる。これにより、回帰式の2次の係数および回帰式の1次の係数のみが算出される場合に比べて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が詳細に識別され得る。
【0015】
本発明の他の局面に従うと、ねじ締結判断方法は、トルク検出工程S102と、正常異常判断工程S104とを備える。トルク検出工程S102において、ねじの締付が動力ドライバー10により行われることに伴って動力ドライバー10によるねじの締付トルクが検出される。トルク検出工程S102において、その締付トルクを示す検出データが出力される。正常異常判断工程S104において、トルク検出工程S102において得られた検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かが正常異常判断装置14により判断される。正常異常判断工程S104において、後述される推移の形態が、少なくとも3種類の形態範疇のいずれに所属するかに基づき、ねじの締付が正常か異常かが判断される。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。判断対象動作期間とは、ねじの締付の開始から締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間のことである。上述された少なくとも3種類の形態範疇は、正常または異常の一方にそれぞれ対応付けられる。
【0016】
本発明にかかるねじ締結判断方法によれば、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法によれば、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるねじ締結判断システムの構成が示される概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる正常異常判断装置を実現するコンピュータのハードウェア構成が示される概念図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる正常異常判断装置の機能ブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかるねじ締結判断方法の手順が示されるフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる正常異常判断工程における制御の手順を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態にかかる範疇識別工程における制御の手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態において正常にねじが締付られる場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【
図8】本発明の一実施形態にかかる第1範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態において端子が取り付けられていないままねじが締付られる場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【
図10】本発明の一実施形態にかかる第2範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態においてねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【
図12】本発明の一実施形態にかかる第3範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例を示す図である。
【
図13】本発明の一実施形態においてねじ山が潰れた場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態が説明される。その説明において図面が参照される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付される。それらの名称および機能は同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
[ねじ締結判断システムの構成の説明]
図1は、本実施形態にかかるねじ締結判断システムの構成が示される概念図である。
図1に基づいて、本実施形態にかかるねじ締結判断システムの構成が説明される。
【0021】
本実施形態にかかるねじ締結判断システムは、動力ドライバー10と、トルク検出装置12と、正常異常判断装置14とを備える。
【0022】
動力ドライバー10は、ねじ締めに用いられる。本実施形態の場合、動力ドライバー10は電力によって駆動される。本実施形態において用いられる動力ドライバー10の構成は周知である。したがってその具体的内容は説明されない。
【0023】
本実施形態の場合、トルク検出装置12は、動力ドライバー10に固定されている。トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。本実施形態の場合、トルク検出装置12は、一定の周期でその締付トルクを検出する。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する。この検出データはねじの締付トルクを示す。本実施形態において用いられるトルク検出装置12の構成は周知である。したがってその具体的内容は説明されない。
【0024】
正常異常判断装置14は、トルク検出装置12が出力した検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かを判断する。本実施形態の場合、正常異常判断装置14は、周知のコンピュータ20と、プリンタ22と、マウス24とによって実現される。コンピュータ20は、トルク検出装置12が出力した検出データを処理する。プリンタ22は、コンピュータ20から受付けた情報を出力する。マウス24は、オペレータの入力に応じて信号を生成する。マウス24は、その信号をコンピュータ20に出力する。これにより、コンピュータ20に情報が入力される。
図2は、上述されたコンピュータ20のハードウェア構成が示される概念図である。
図2に基づいて、そのコンピュータ20のハードウェア構成が説明される。
【0025】
上述されたコンピュータ20は、制御部30と、メモリ32と、固定ディスク34と、キーボード36と、表示装置38と、コネクタ40と、第1I/O(Input/Output)42と、第2I/O44と、第3I/O46とを有する。
【0026】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)などによって実現される。制御部30は、これがメモリ32から読出したプログラムを実行することにより、そのプログラムにおいて定められた手順にしたがってコンピュータ20を構成する各装置を制御する。メモリ32は、ROM(Read only memory)およびRAM(Random access memory)などによって実現される。メモリ32は、プログラムとデータその他の情報とを記憶する。固定ディスク34は、プログラムを記録する。キーボード36は、オペレータの入力に応じて信号を生成する。これにより、コンピュータ20に情報が入力される。表示装置38は、画像を表示することにより情報を出力する。コネクタ40にはUSB(Universal Serial Bus)メモリ26が接続される。USBメモリ26に記録されたプログラムおよび情報はコネクタ40を介して制御部30に読み込まれる。第1I/O42は、トルク検出装置12に接続される。第1I/O42は、トルク検出装置12と通信する。第2I/O44は、プリンタ22に接続される。第2I/O44は、プリンタ22と通信する。第3I/O46は、マウス24に接続される。第3I/O46は、マウス24と通信する。
【0027】
[情報分析装置の機能の説明]
図3は、本実施形態にかかる正常異常判断装置14の機能ブロック図である。
図3に基づいて、本実施形態にかかる正常異常判断装置14の構成とその機能とが説明される。
【0028】
本実施形態にかかる正常異常判断装置14は、検出データ受付部60と、超過判断部62と、範疇識別部64と、判断結果情報出力部66とを有する。
【0029】
本実施形態の場合、検出データ受付部60はコンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34と表示装置38と第1I/O42とによって実現される。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける。また、検出データ受付部60は、ワークのうち被締結部材がねじにより固定される位置を示す情報を出力する。本実施形態の場合、検出データ受付部60は、次に述べられる複数の情報を予め記憶している。それらの情報は、被締結部材がねじにより固定される位置を示す。それらの情報が示す位置は互いに異なっている。本実施形態の場合、検出データ受付部60は、それらの情報をそれらの情報が出力される順序に対応付けて記憶している。
【0030】
本実施形態の場合、超過判断部62はコンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34とによって実現される。超過判断部62は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する。上述されたように、本実施形態の場合、トルク検出装置12は、一定の周期でその締付トルクを検出する。これにより、本実施形態の場合、ねじの締付が開始された時以降にトルク検出装置12が出力した検出データの量が所定の量を上回ったか否かに基づいて、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かが判断され得る。本実施形態の場合、この制限時間は、後述される判断対象動作期間より十分長い時間となるように設定されている。
【0031】
本実施形態の場合、範疇識別部64はコンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34とによって実現される。本実施形態の場合、範疇識別部64は、次に述べられる推移の形態が、4種類の形態範疇のいずれに所属するかを識別する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。本実施形態の場合、判断対象動作期間とは、ねじの締付の開始から締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間のことである。本実施形態の場合、上述された形態範疇は、締付トルクの推移の形態の範疇を意味する。したがって、同一の形態範疇に属している複数種類の締付トルクの推移の形態間の差は、異なる形態範疇に属している締付トルクの推移の形態との差に比べれば小さいとみなされる。本実施形態の場合、上述されたそれら形態範疇は、正常または異常の一方にそれぞれ対応付けられるものである。これにより、範疇識別部64による上述された識別は、ねじ締付状態が正常か異常かの判断ともなる。本実施形態の場合、範疇識別部64は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過する前に次に述べられる要件が満たされると上述された識別を開始する。その要件は、動力ドライバー10がねじの締付を開始した時以降にトルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが所定のトルクに到達するというものである。この締付トルクは検出データに基づいて特定される。なお、本実施形態の場合、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態に対して、二次曲線という形態範疇、比例状態という形態範疇、複雑増減状態という形態範疇、および、非典型状態という形態範疇のいずれに所属するかが識別される。
【0032】
本実施形態の場合、判断結果情報出力部66は、コンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34と表示装置38と第2I/O44とプリンタ22とによって実現される。判断結果情報出力部66は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したと超過判断部62が判断した場合にはその旨を示す情報を出力する。判断結果情報出力部66は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態がいずれの形態範疇に所属するかが範疇識別部64によって識別されると、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する。
【0033】
本実施形態の場合、範疇識別部64は、係数算出部80と、係数範囲識別部82とを有している。
【0034】
係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。本実施形態の場合、係数算出部80は、回帰式を2次式とみなした上で、その回帰式の2次の係数および1次の係数を算出する。また、本実施形態の場合、係数算出部80は、その回帰式の定数も算出する。これらの係数および定数の算出法は周知なので、ここではその詳細な説明は繰返されない。
【0035】
係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かに応じて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が4種類の形態範疇のいずれに所属するかを識別する。その範囲は、形態範疇ごとに定められる。この場合、上述された所定の範囲は、上述された相関係数、上述された2次の係数、および、上述された1次の係数のそれぞれについて定められる。このために、係数範囲識別部82は、相関係数の範囲を示す情報と、2次の係数の範囲を示す情報と、1次の係数の範囲を示す情報とを記憶している。これらの情報はいずれも次に述べられる情報に対応付けられている。その情報は、形態範疇の名称を示す。その形態範疇の名称を示す情報は、その形態範疇に属する締付トルクの推移の形態が正常か異常かを示す情報にも対応付けられている。形態範疇の名称を示す情報および正常か異常かを示す情報も係数範囲識別部82は記憶している。本実施形態の場合、それらの情報の集団は「範疇情報集団」と称される。係数範囲識別部82は、複数の範疇情報集団を記憶している。それらの範疇情報集団が範疇識別部64による識別に用いられる順番は予め定められている。係数算出部80が算出した係数がいずれも同一の範疇情報集団に属する情報が示す範囲内ならば、その係数の算出に用いられた締付トルクの推移の形態は、その範疇情報集団に対応する形態範疇に属するとみなされる。本実施形態の場合、上述された所定の範囲は周知のティーチングによって特定された範囲である。本実施形態の場合、形態範疇の名称を示す情報および正常か異常かを示す情報は、コンピュータ20のキーボード36を介して入力された情報である。ティーチングによって上述された所定の範囲を示す情報を入力するための手順ならびに形態範疇の名称を示す情報および正常か異常かを示す情報を入力するための手順は周知のものと同一である。したがって、ここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0036】
[プログラムの説明]
本実施形態にかかるねじ締結判断システムは、上述されたコンピュータ20の制御部30がメモリ32から読出したプログラムを実行することにより実現される。一般的にこうしたプログラムは、USBメモリ26などのコンピュータ20が読取可能な記録媒体に記録された状態で流通する。こうしたプログラムは図示されないインターネットを介して流通することもある。こうしたプログラムは、固定ディスク34にいったん記録される。制御部30が実行するプログラムは、その固定ディスク34に記録されたプログラムをメモリ32が記憶したものである。したがって、本発明にかかる正常異常判断装置14の最も本質的な部分は、USBメモリ26などのコンピュータ読取可能な記録媒体に記録されたソフトウェアである。
【0037】
[ねじ締結判断方法にかかるフローチャートの説明]
図4は、本実施形態にかかるねじ締結判断方法の手順が示されるフローチャートである。このねじ締結判断方法は、次に述べられる複数の工程をねじ締結判断システムに実行させるものである。それら複数の工程は、締付箇所指定工程S100、トルク検出工程S102、正常異常判断工程S104、判断結果情報出力工程S106、および、完了判断工程S108である。以下、これらの各工程の具体的な内容が説明される。
【0038】
締付箇所指定工程S100において、正常異常判断装置14の検出データ受付部60(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、および、表示装置38)は、次に述べられる位置を示す情報を出力する。その位置は、ワークのうち被締結部材がねじにより固定される位置である。本実施形態の場合、その情報は画像表示により出力される。本実施形態の場合、検出データ受付部60は、この工程が実施されるたびに1つずつそれらの情報を出力する。それらの情報は出力される順序に対応付けられているので、それらの情報はその順序にしたがって出力される。そのために、検出データ受付部60はそれらの情報を予め記憶している。
【0039】
トルク検出工程S102において、トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。この締付トルクは、次に述べられる締付が動力ドライバー10により行われることに伴って検出される。この締付は、ワークに被締結部材を固定するためのねじの締付である。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する。
【0040】
正常異常判断工程S104において、正常異常判断装置14は、トルク検出工程S102において得られた検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かを判断する。その正常異常判断装置14は、次に述べられる推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかに基づき、ねじの締付が正常か異常かを判断する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。
【0041】
判断結果情報出力工程S106において、正常異常判断装置14の判断結果情報出力部66は、正常異常判断工程S104において実施された判断の結果を示す情報を出力する。
【0042】
完了判断工程S108において、正常異常判断装置14の検出データ受付部60は、被締結部材がねじにより固定される位置を示す情報(固定位置情報)がすべて出力された(出力が完了した)か否かを判断する。固定位置情報の出力が完了したと判断された場合(S108にてYES)、処理は終了する。もしそうでないと(S108にてNO)、処理はS100へと移される。
【0043】
図5は、本実施形態にかかる正常異常判断工程S104における制御の手順を示すフローチャートである。この工程は、次に述べられる複数の工程をコンピュータ20に実行させるものである。それら複数の工程は、検出データ受付工程S120、超過判断工程S122、識別開始判断工程S124、範疇識別工程S126、および、超過情報出力工程S128である。以下、これらの各工程の具体的な内容が説明される。
【0044】
検出データ受付工程S120において、検出データ受付部60(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、および、第1I/O42)は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける。上述されたように、本実施形態の場合、トルク検出装置12は、一定の周期でその締付トルクを検出する。検出データ受付部60は、受付けられた検出データが何番目に受付られたのかを示す値とその周期との積を算出することにより、受付けられた検出データがどの時点の締付トルクを示すのかを特定する。
【0045】
超過判断工程S122において、超過判断部62(現実には、制御部30、メモリ32、および、固定ディスク34)は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する。ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したと判断された場合(S122にてYES)、処理はS130へと移される。もしそうでないと(S122にてNO)、処理はS124へと移される。
【0046】
識別開始判断工程S124において、範疇識別部64(現実には、制御部30、メモリ32、および、固定ディスク34)は、次に述べられるトルクが締付の完了を示す所定のトルク(締付完了トルク)に到達したか否かを判断する。そのトルクは、動力ドライバー10がねじの締付を開始した時以降にトルク検出装置12が検出したねじの締付トルクである。その締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断された場合(S124にてYES)、処理はS126へと移される。もしそうでないと(S124にてNO)、処理はS120へと移される。
【0047】
範疇識別工程S126において、範疇識別部64(現実には、制御部30、メモリ32、および、固定ディスク34)は、次に述べられる推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかを識別する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。範疇識別部64は、その識別の結果を示す情報を判断結果情報出力部66(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、表示装置38、第2I/O44、および、プリンタ22)に出力する。
【0048】
超過情報出力工程S128において、超過判断部62は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、表示装置38、第2I/O44、および、プリンタ22)に出力する。それらの情報は、制限時間を超過するまでねじの締付トルクが締付完了トルクに到達しない旨の情報およびねじの締結に異常がある旨の情報である。
【0049】
図6は、本実施形態にかかる範疇識別工程S126における制御の手順を示すフローチャートである。この工程は、次に述べられる複数の工程をコンピュータ20に実行させるものである。それら複数の工程は、係数算出工程S150、形態別範囲判断工程S152、対応情報出力工程S154、範囲判断完了工程S156、および、外情報出力工程S158である。以下、これらの各工程の具体的な内容が説明される。
【0050】
係数算出工程S150において、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。本実施形態の場合、係数算出部80は、回帰式を2次式とみなした上で、その回帰式の2次の係数および1次の係数を算出する。また、本実施形態の場合、係数算出部80は、その回帰式の定数も算出する。
【0051】
形態別範囲判断工程S152において、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する。それらの範囲は、1つの範疇情報集団に属する情報が示す。係数範囲識別部82は、自らが記憶する複数の範疇情報集団のいずれかを用いて係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かを判断する。用いられる範疇情報集団は、この工程が実施されるたびに変更される。範疇情報集団が用いられる順番は予め定められている。係数算出部80が算出した係数がいずれも所定の範囲内であると判断された場合(S152にてYES)、処理はS154へと移される。もしそうでないと(S152にてNO)、処理はS156へと移される。
【0052】
対応情報出力工程S154において、係数範囲識別部82は、形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報を判断結果情報出力部66へ出力する。これらの情報は、次に述べられる範疇情報集団と同一の範疇情報集団に属する。その範疇情報集団は、形態別範囲判断工程S152において係数算出部80が算出した係数が範囲内と判断された範囲に対応するものである。
【0053】
範囲判断完了工程S156において、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する。係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたと判断された場合(S156にてYES)、処理はS158へと移される。もしそうでないと(S156にてNO)、処理はS152へと移される。
【0054】
外情報出力工程S158において、係数範囲識別部82は次に述べられる情報を出力する。それらの情報の一方は、非典型状態という形態範疇の名称を示す。それらの情報の他方は、異常であることを示す。
【0055】
[動作の説明]
以下、本実施形態にかかるねじ締結判断システムの動作が説明される。
【0056】
(正常にねじが締付られる場合)
動力ドライバー10によってねじを締付ようとする者(以下「作業者」と称される)は、本実施形態にかかるねじ締結判断システムを起動させる。これに伴い、動力ドライバー10とトルク検出装置12とが起動させられる。それらが起動すると、検出データ受付部60は、ワークのうち被締結部材がねじにより固定される位置を示す情報を表示する(S100)。なお、本実施形態の場合、周知の端子台がワークとなる。もちろん、被締結部材をねじによって締結するための物はいずれもワークとなり得る。また、本実施形態の場合、端子が被締結部材となる。もちろん、ねじによってワークに締結される部材はいずれも被締結部材となり得る。
【0057】
その情報が表示されると、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。これにより、端子台(ワーク)に端子(被締結部材)が固定される。ねじの締付の際、トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。
【0058】
正常異常判断装置14に対して検出データが出力されると、正常異常判断装置14の検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。
【0059】
検出データが受付けられると、超過判断部62は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する(S122)。この場合、その制限時間が経過していないとすると(S122にてNO)、範疇識別部64は、動力ドライバー10がねじの締付を開始した時以降にトルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したか否かを判断する(S124)。この場合、その締付トルクが締付完了トルクに到達していないとすると(S124にてNO)、検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを再び受付ける(S120)。
【0060】
その後、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したとする。これにより、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断されるので(S124にてYES)、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する(S150)。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。この場合、相関係数が「0.9945」、回帰式の2次の係数が「0.02」、回帰式の一次の係数が「-0.19」、回帰式の定数が「12.4」であることとする。
【0061】
この場合、正常にねじが締付られたこととする。
図7は、その場合についての時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。この図に示されているのは、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクである。本実施形態の場合、ねじの締付トルクが締付完了トルクに到達すると、動力ドライバー10はこれが有する機能によって自動的に動作を停止する。トルク検出装置12はその後も引き続き検出データを出力する。このため、
図7においては、締付完了トルクに到達すると締付トルクは低下し締付開始トルク未満となる。
図7において、横軸は、判断対象動作期間の始期からの経過時間である。本実施形態の場合、ねじの締付トルクが予め定められたトルク(締付開始トルク)に到達した時にねじの締付が開始されたとみなされる。したがって、ねじの締付トルクが締付開始トルクに到達した瞬間が横軸の原点である。
図7においては、縦軸が締付トルクを示す。
図7から明らかなように、この場合、時間の経過に伴って二次曲線に似た曲線を描くように締付トルクが増加している。
【0062】
上述されたように、時間の経過に伴って二次曲線に似た曲線を描くように締付トルクが増加する。このため、時間の経過に伴う締付トルクの推移にバラツキがほとんど含まれていなくても、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの増加とが比例している場合に比べると、それらの間の相関係数が小さくなると考えられる。また、それらの間における回帰式の2次の係数は大きな値となると考えられる。
【0063】
係数および定数が算出されると、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する(S152)。本実施形態の場合、最初に用いられる範疇情報集団は、端子台に端子が正しく固定される場合の範疇情報集団(第1範疇情報集団)であることとする。
図8は、この範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例である。なお、
図8における「名称」欄は形態範疇の名称を示す情報の内容を示している。「正常異常」欄は正常か異常かを示す情報の内容を示している。
図8から明らかなように、係数算出部80が算出した係数はいずれも
図8に示された範囲内である。係数算出部80が算出した係数がいずれも
図8に示された範囲内なので(S152にてYES)、係数範囲識別部82は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66へ出力する(S154)。それらの情報は、「二次曲線」という形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報(この場合、この情報は正常であることを示す)である。これにより、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が、「二次曲線」という形態範疇に所属すると範疇識別部64により識別されたことになる。また、その識別の結果を示す情報とその推移の形態が正常か異常かを示す情報とが出力されたこととなる。
【0064】
それらの情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する(S106)。これにより、表示装置38に、その推移の形態が正常である旨の情報が表示されることとなる。
【0065】
その推移の形態が正常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0066】
(端子が取り付けられていない場合)
本実施形態にかかるねじ締結判断システムが起動された後、S100の処理を経て、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。その後、S120乃至S124の処理が当面繰り返される。
【0067】
この場合、端子が取り付けられないままねじが締付られることとする。
図9は、その場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。端子が取り付けられていない場合、それが取り付けられている場合に比べて、締付トルクは締付完了トルクに到達するまで時間に比例するに近い状態で増加する。これにより、S102乃至S124の処理が繰り返される。その後、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断されるので(S124にてYES)、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する(S150)。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。この場合、相関係数が「0.9981」、回帰式の2次の係数が「0.005」、回帰式の一次の係数が「1.17」、回帰式の定数が「12.4」であることとする。
【0068】
上述されたように、この場合、時間に比例しているに近い状態で締付トルクが増加する。これにより、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの増加との間の相関係数は「1」に近い値となっていると考えられる。また、それらの間における回帰式の2次の係数は、端子が取り付けられている場合に比べると「0」に近い値となると考えられる。
【0069】
係数および定数が算出されると、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する(S152)。上述されたように、本実施形態の場合、最初に用いられる範疇情報集団は、第1範疇情報集団である。これにより、係数算出部80が算出した係数がいずれも
図8に示された範囲外なので(S152にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する(S156)。この場合、まだ第1範疇情報集団が用いられたに過ぎないので(S156にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを再度判断する(S152)。
【0070】
本実施形態の場合、2度目に用いられる範疇情報集団は、端子台に端子が固定されている場合の範疇情報集団(第2範疇情報集団)である。
図10は、この範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例である。
図10から明らかなように、この場合に係数算出部80が算出した係数はいずれも
図10に示された範囲内である。係数算出部80が算出した係数がいずれも
図10に示された範囲内なので(S152にてYES)、係数範囲識別部82は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66へ出力する(S154)。それらの情報は、「比例状態」という形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報(この場合、この情報は異常であることを示す)である。これにより、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が、「比例状態」という形態範疇に所属すると範疇識別部64により識別されたことになる。また、その識別の結果を示す情報とその推移の形態が正常か異常かを示す情報とが出力されたこととなる。
【0071】
それらの情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する(S106)。これにより、表示装置38に、その推移の形態が異常である旨の情報が表示されることとなる。
【0072】
その推移の形態が異常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0073】
(ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合)
本実施形態にかかるねじ締結判断システムが起動された後、S100の処理を経て、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。その後、S120乃至S124の処理が当面繰り返される。
【0074】
この場合、ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されていることとする。
図11は、その場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合、ねじがねじ穴に沿って挿入されている場合に比べて、締付トルクは複雑に増減する。その間、S102乃至S124の処理が繰り返される。その後、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断されるので(S124にてYES)、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する(S150)。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。この場合、相関係数が「0.7693」、回帰式の2次の係数が「0.02」、回帰式の一次の係数が「-1.2」、回帰式の定数が「17.4」であることとする。
【0075】
上述されたように、締付トルクは複雑に増減する。これにより、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの増加との間の相関係数は正常にねじが締付られる場合に比べると小さな値となると考えられる。また、
図11に示されているように締付トルクが推移する場合、いったん締付トルクが低下するため、締付トルクは締付完了トルクにゆっくり到達しているのと同様に推移することとなる。これにより、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間に関する回帰式の2次の係数は、ねじがねじ穴に沿って挿入されている場合に比べて小さな値となると考えられる。同じ理由により、それらの間における回帰式の1次の係数は、端子が取り付けられている場合に比べて大きな値となると考えられる。
【0076】
係数および定数が算出されると、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する(S152)。上述されたように、本実施形態の場合、最初に用いられる範疇情報集団は、第1範疇情報集団である。これにより、回帰式の2次の係数を除けば係数算出部80が算出した係数がいずれも
図8に示された範囲外となる(S152にてNO)。したがって、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する(S156)。この場合、まだ第1範疇情報集団が用いられたに過ぎないので(S156にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを再度判断する(S152)。上述されたように、本実施形態の場合、次に用いられる範疇情報集団は、第2範疇情報集団である。これにより、係数算出部80が算出した係数がいずれも
図10に示された範囲外なので(S152にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する(S156)。この場合、まだ第1範疇情報集団および第2範疇集団が用いられたに過ぎない(S156にてNO)。したがって、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを再度判断する(S152)。
【0077】
本実施形態の場合、3度目に用いられる範疇情報集団は、ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合の範疇情報集団(第3範疇情報集団)である。
図12は、この範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例である。
図12から明らかなように、この場合に係数算出部80が算出した係数はいずれも
図12に示された範囲内である。係数算出部80が算出した係数がいずれも
図12に示された範囲内なので(S152にてYES)、係数範囲識別部82は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66へ出力する(S154)。それらの情報は、「複雑増減状態」という形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報(この場合、この情報は異常であることを示す)である。これにより、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が、「複雑増減状態」という形態範疇に所属すると範疇識別部64により識別されたことになる。また、その識別の結果を示す情報とその推移の形態が正常か異常かを示す情報とが出力されたこととなる。
【0078】
それらの情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する(S106)。これにより、表示装置38に、その推移の形態が異常である旨の情報が表示されることとなる。
【0079】
その推移の形態が異常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0080】
(ねじ山が潰れた場合)
本実施形態にかかるねじ締結判断システムが起動された後、S100の処理を経て、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。その後、S120乃至S124の処理が当面繰り返される。
【0081】
この場合、ねじの締付開始直後にねじ山が潰れたとする。ねじ山が潰れるとねじは空回りする。
図13は、その場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
図13から明らかなように、この場合、時間の経過に伴って締付トルクは増加と減少とを繰り返す。ねじ山が潰れている場合、ねじが端子台のねじ孔内に進入せず同じ深さで回転を繰り返すためである。
【0082】
その後、超過判断部62は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する(S122)。この場合、その制限時間が経過したとすると(S122にてYES)、超過判断部62は、制限時間を超過するまでねじの締付トルクが締付完了トルクに到達しない旨の情報およびねじの締結に異常がある旨の情報を判断結果情報出力部66に出力する(S128)。
【0083】
ねじの締結に異常がある旨の情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その情報を出力する(S106)。
【0084】
ねじの締結が異常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0085】
[効果の説明]
本実施形態にかかるねじ締結判断システムによれば、ねじの挙動についての正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【0086】
また、本実施形態にかかるねじ締結判断システムにおいては、係数算出部80が算出する係数が一定ならば、その係数のもととなった推移の形態がどの形態範疇に所属するかに関する識別結果は一定となる。係数算出部80が算出する係数は、所定の手順に沿って計算することで一意に定まる。このため、同一の締付トルクに基づいて算出される限り、係数算出部80が算出する係数がその算出のたびに異なることはない。その結果、ねじの挙動についての正常か異常かの判断が安定的に実施される。
【0087】
また、ねじの締結に影響を及ぼす何らかの要因があるとき、その要因に応じて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態は異なるものとなる。その推移の形態が異なるものとなるので、その回帰式における2次の係数および1次の係数の値は異なるものとなる。これにより、係数範囲識別部82は、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかを適切に識別できる。その結果、ねじの挙動についての正常か異常かの判断がより適切に実施される。
【0088】
また、判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式が3次以上の多次式に類似する場合、その回帰式が2次式である場合に比べて相関係数は小さくなる。これにより、回帰式の2次の係数および回帰式の1次の係数のみが算出される場合に比べて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が詳細に識別され得る。その結果、ねじの挙動についての正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【0089】
[変形例の説明]
今回開示された実施形態はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施形態に基づいて制限されるものではない。もちろん、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0090】
例えば、トルク検出装置12は図示されない時間計測部を有してもよい。その時間計測部は、ねじの締付の開始からの経過時間を計測する。
【0091】
また、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかの判断手順は上述したものに限定されない。例えば、締付トルクを示す検出データと形態範疇それぞれについて予め定められるモデルデータとを対比して、締付トルクを示す検出データとの差が最も小さいモデルデータが属する形態範疇に属すると判断されてもよい。また、範疇識別部64が識別可能な形態範疇の種類数は、少なくとも3種類である限り特に限定されない。
【0092】
また、係数算出部80が算出する係数は、上述された相関係数と上述された回帰式の係数とのうち一方のみであってもよい。それらの係数の一方のみが算出される場合、回帰式の係数が算出されることが望ましい。回帰式の係数のみが算出される場合、2次の係数のみが算出されてもよい。その場合、1次の係数のみが算出されてもよい。また、係数算出部80は、回帰式を3次式以上の式とみなした上で3次以上の係数を算出してもよい。
【0093】
また、超過判断部62は設けられていなくてもよい。この場合、公知の動作開始手段(例えば周知の指示受付手段)が使用者の指示を受付けると範疇識別部64の動作が開始されてもよい。
【0094】
また、判断結果情報出力部66による情報の出力形態は上述されたものに限定されない。例えば、その出力形態は、通信によって他の情報処理装置に情報を送信するものであってもよい。また、コンピュータ20が何らかのプログラムを実行することにより正常異常判断装置14に加えて他の装置として動作する場合、判断結果情報出力部66による情報の出力形態は、メモリ32の所定のアドレスに情報を記憶させるものであってもよい。その場合、コンピュータ20が当該他の装置として動作する際にそのアドレスに記憶された情報を読むことで、正常異常判断装置14が情報を出力し当該他の装置が情報の入力を受け取ることとなる。
【0095】
また、本実施形態にかかるねじ締結判断システムは、判断結果情報出力工程S106においてねじの締結が異常である旨の情報が出力された場合に、公知の方法によってねじの締結をやり直すための動作を実施するものであってもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…動力ドライバー
12…トルク検出装置
14…正常異常判断装置
20…コンピュータ
22…プリンタ
24…マウス
26…USBメモリ
30…制御部
32…メモリ
34…固定ディスク
36…キーボード
38…表示装置
40…コネクタ
42…第1I/O
44…第2I/O
46…第3I/O
60…検出データ受付部
62…超過判断部
64…範疇識別部
66…判断結果情報出力部
80…係数算出部
82…係数範囲識別部
【手続補正書】
【提出日】2021-05-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はねじ締め不良防止システムを開示する。このねじ締め不良防止システムは、電動ドライバーと、トルク検出装置と、回転角検出器と、複数のねじ締め箇所検出装置と、制御装置とを備えたものである。電動ドライバーは、ワークに被締結部材を固定するためのねじの締付を行う。トルク検出装置は、電動ドライバーによるねじの締付トルク、および、ねじの締付軸力を検出する。回転角検出器は、電動ドライバーのねじ締め角度を検出する。ねじ締め箇所検出装置は、データを検出する。それらのデータは、予め設定された複数の管理項目のそれぞれの正常異常を判断するためのデータである。それら複数の管理項目は、ねじ締め不良を引き起こす要因となりうるものである。制御装置は、複数のねじ締め箇所検出装置からの各検出データに基づいて複数の管理項目のいずれかの正常異常を判断する。制御装置は、トルク検出装置および回転角検出器の検出データに基づいてねじ締結状態が正常か異常かを判断する。制御装置は、ねじ締結状態が異常と判断した場合、その異常が解消されるまで次工程へ移行できないように電動ドライバーの動作を制限する。特許文献1に開示されているねじ締め不良防止システムによれば、締結不良品が市場に流出する不都合を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたねじ締め不良防止システムには、ねじがワークに被締結部材を固定する際のねじの挙動に基づく正常か異常かの判断がさほど詳細ではないという問題点がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解消するものである。その目的は、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施されるねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図面に基づいて本発明のねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法が説明される。なお、この欄で図中の符号を使用したのは、発明の内容の理解を助けるためであって、内容を図示した範囲に限定する意図ではない。
【0007】
上述された課題を解決するために、本発明のある局面に従うと、ねじ締結判断システムは、動力ドライバー10と、トルク検出装置12と、正常異常判断装置14とを備える。動力ドライバー10は、ねじの締付を行う。トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。トルク検出装置12は、その締付トルクを示す検出データを出力する。正常異常判断装置14は、トルク検出装置12が出力した検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かを判断する。正常異常判断装置14は、後述される推移の形態が、比例状態の範疇、二次曲線より複雑に増減して締付完了トルクに到達する状態の範疇、および、締付トルクが増加と減少とを繰り返して判断対象動作期間を超えても締付完了トルクに到達しない状態の範疇からなる群のうち少なくとも2つであってそれぞれ異常に対応付けられる範疇と正常に対応付けられる二次曲線の範疇とのうちいずれかに所属すると、締付トルクの推移の形態が所属する範疇が正常と異常とのうちいずれに対応付けられているかに基づき、ねじの締付が正常か異常かを判断する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。判断対象動作期間とは、ねじの締付の開始から締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間のことである。
【0008】
ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が範疇のいずれに所属すると、締付トルクの推移の形態が所属する範疇が正常と異常とのうちいずれに対応付けられているかに基づき、ねじの締付が正常か異常かが判断される。ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が範疇のいずれに所属するかに基づく判断により、その推移の形態の原因であるねじの挙動に基づいて正常か異常かが判断されることとなる。その結果、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【0009】
また、上述された正常異常判断装置14が、係数算出部80と、係数範囲識別部82とを有していることが望ましい。係数算出部80は、検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数の少なくとも一方を算出する。それらの係数の一方は、判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が範疇ごとに定められる所定の範囲内か否かに応じてねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が範疇のいずれかに所属するか否かを識別する。
【0010】
ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が範疇のいずれかに所属するか否かが、係数算出部80が算出する係数が範疇ごとに定められる所定の範囲内か否かに応じて識別される。この場合、係数算出部80が算出する係数が一定ならば、その係数のもととなった推移の形態がどの範疇に所属するかに関する識別結果は一定となる。係数算出部80が算出する係数は、相関係数および回帰式の係数の少なくとも一方である。相関係数および回帰式の係数は、所定の手順に沿って計算することで一意に定まる。このため、同一の締付トルクに基づいて算出される限り、係数算出部80が算出する係数がその算出のたびに異なることはない。その結果、ねじの締結が正常か異常かの判断が安定的に実施される。
【0011】
もしくは、上述された係数算出部80が、回帰式の2次の係数および回帰式の1次の係数を少なくとも算出することが望ましい。この場合、範疇ごとに定められる所定の範囲が2次の係数および1次の係数それぞれについて定められることが望ましい。
【0012】
ねじの挙動に影響を及ぼす何らかの要因があるとき、その要因がない場合に比べて、検出データに基づいて算出される回帰式における2次の係数の影響は大きくなる。その要因に応じて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態は異なるものとなる。その推移の形態が異なるものとなるので、その回帰式における2次の係数および1次の係数の値は異なるものとなる。これにより、2次の係数および1次の係数それぞれについて上述された所定の範囲が定められていると、係数範囲識別部82は、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が範疇のいずれかに所属するか否かを適切に識別できる。
【0013】
もしくは、上述された係数算出部80が相関係数をさらに算出することが望ましい。この場合、範疇ごとに定められる所定の範囲が、相関係数、2次の係数、および、1次の係数について、それぞれ定められることが望ましい。
【0014】
判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式が3次以上の多次式に類似する場合、その回帰式が2次式である場合に比べて相関係数は小さくなる。これにより、回帰式の2次の係数および回帰式の1次の係数のみが算出される場合に比べて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が詳細に識別され得る。
【0015】
本発明の他の局面に従うと、ねじ締結判断方法は、トルク検出工程S102と、正常異常判断工程S104とを備える。トルク検出工程S102において、ねじの締付が動力ドライバー10により行われることに伴って動力ドライバー10によるねじの締付トルクがトルク検出装置12によって検出される。トルク検出工程S102において、その締付トルクを示す検出データがトルク検出装置12によって出力される。正常異常判断工程S104において、トルク検出工程S102において得られた検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かが正常異常判断装置14により判断される。正常異常判断工程S104において、後述される推移の形態が、比例状態の範疇、二次曲線より複雑に増減して締付完了トルクに到達する状態の範疇、および、締付トルクが増加と減少とを繰り返して判断対象動作期間を超えても締付完了トルクに到達しない状態の範疇からなる群のうち少なくとも2つであってそれぞれ異常に対応付けられる範疇と正常に対応付けられる二次曲線の範疇とのうちいずれかに所属すると、締付トルクの推移の形態が所属する範疇が正常と異常とのうちいずれに対応付けられているかに基づき、ねじの締付が正常か異常かが判断される。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。判断対象動作期間とは、ねじの締付の開始から締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間のことである。
【0016】
本発明にかかるねじ締結判断方法によれば、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるねじ締結判断システム、および、ねじ締結判断方法によれば、ねじの締結が正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるねじ締結判断システムの構成が示される概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる正常異常判断装置を実現するコンピュータのハードウェア構成が示される概念図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる正常異常判断装置の機能ブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかるねじ締結判断方法の手順が示されるフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる正常異常判断工程における制御の手順を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態にかかる範疇識別工程における制御の手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態において正常にねじが締付られる場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【
図8】本発明の一実施形態にかかる第1範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態において端子が取り付けられていないままねじが締付られる場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【
図10】本発明の一実施形態にかかる第2範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態においてねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【
図12】本発明の一実施形態にかかる第3範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例を示す図である。
【
図13】本発明の一実施形態においてねじ山が潰れた場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態が説明される。その説明において図面が参照される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付される。それらの名称および機能は同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
[ねじ締結判断システムの構成の説明]
図1は、本実施形態にかかるねじ締結判断システムの構成が示される概念図である。
図1に基づいて、本実施形態にかかるねじ締結判断システムの構成が説明される。
【0021】
本実施形態にかかるねじ締結判断システムは、動力ドライバー10と、トルク検出装置12と、正常異常判断装置14とを備える。
【0022】
動力ドライバー10は、ねじ締めに用いられる。本実施形態の場合、動力ドライバー10は電力によって駆動される。本実施形態において用いられる動力ドライバー10の構成は周知である。したがってその具体的内容は説明されない。
【0023】
本実施形態の場合、トルク検出装置12は、動力ドライバー10に固定されている。トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。本実施形態の場合、トルク検出装置12は、一定の周期でその締付トルクを検出する。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する。この検出データはねじの締付トルクを示す。本実施形態において用いられるトルク検出装置12の構成は周知である。したがってその具体的内容は説明されない。
【0024】
正常異常判断装置14は、トルク検出装置12が出力した検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かを判断する。本実施形態の場合、正常異常判断装置14は、周知のコンピュータ20と、プリンタ22と、マウス24とによって実現される。コンピュータ20は、トルク検出装置12が出力した検出データを処理する。プリンタ22は、コンピュータ20から受付けた情報を出力する。マウス24は、オペレータの入力に応じて信号を生成する。マウス24は、その信号をコンピュータ20に出力する。これにより、コンピュータ20に情報が入力される。
図2は、上述されたコンピュータ20のハードウェア構成が示される概念図である。
図2に基づいて、そのコンピュータ20のハードウェア構成が説明される。
【0025】
上述されたコンピュータ20は、制御部30と、メモリ32と、固定ディスク34と、キーボード36と、表示装置38と、コネクタ40と、第1I/O(Input/Output)42と、第2I/O44と、第3I/O46とを有する。
【0026】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)などによって実現される。制御部30は、これがメモリ32から読出したプログラムを実行することにより、そのプログラムにおいて定められた手順にしたがってコンピュータ20を構成する各装置を制御する。メモリ32は、ROM(Read only memory)およびRAM(Random access memory)などによって実現される。メモリ32は、プログラムとデータその他の情報とを記憶する。固定ディスク34は、プログラムを記録する。キーボード36は、オペレータの入力に応じて信号を生成する。これにより、コンピュータ20に情報が入力される。表示装置38は、画像を表示することにより情報を出力する。コネクタ40にはUSB(Universal Serial Bus)メモリ26が接続される。USBメモリ26に記録されたプログラムおよび情報はコネクタ40を介して制御部30に読み込まれる。第1I/O42は、トルク検出装置12に接続される。第1I/O42は、トルク検出装置12と通信する。第2I/O44は、プリンタ22に接続される。第2I/O44は、プリンタ22と通信する。第3I/O46は、マウス24に接続される。第3I/O46は、マウス24と通信する。
【0027】
[情報分析装置の機能の説明]
図3は、本実施形態にかかる正常異常判断装置14の機能ブロック図である。
図3に基づいて、本実施形態にかかる正常異常判断装置14の構成とその機能とが説明される。
【0028】
本実施形態にかかる正常異常判断装置14は、検出データ受付部60と、超過判断部62と、範疇識別部64と、判断結果情報出力部66とを有する。
【0029】
本実施形態の場合、検出データ受付部60はコンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34と表示装置38と第1I/O42とによって実現される。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける。また、検出データ受付部60は、ワークのうち被締結部材がねじにより固定される位置を示す情報を出力する。本実施形態の場合、検出データ受付部60は、次に述べられる複数の情報を予め記憶している。それらの情報は、被締結部材がねじにより固定される位置を示す。それらの情報が示す位置は互いに異なっている。本実施形態の場合、検出データ受付部60は、それらの情報をそれらの情報が出力される順序に対応付けて記憶している。
【0030】
本実施形態の場合、超過判断部62はコンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34とによって実現される。超過判断部62は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する。上述されたように、本実施形態の場合、トルク検出装置12は、一定の周期でその締付トルクを検出する。これにより、本実施形態の場合、ねじの締付が開始された時以降にトルク検出装置12が出力した検出データの量が所定の量を上回ったか否かに基づいて、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かが判断され得る。本実施形態の場合、この制限時間は、後述される判断対象動作期間より十分長い時間となるように設定されている。
【0031】
本実施形態の場合、範疇識別部64はコンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34とによって実現される。本実施形態の場合、範疇識別部64は、次に述べられる推移の形態が、4種類の形態範疇のいずれに所属するかを識別する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。本実施形態の場合、判断対象動作期間とは、ねじの締付の開始から締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間のことである。本実施形態の場合、上述された形態範疇は、締付トルクの推移の形態の範疇を意味する。したがって、同一の形態範疇に属している複数種類の締付トルクの推移の形態間の差は、異なる形態範疇に属している締付トルクの推移の形態との差に比べれば小さいとみなされる。本実施形態の場合、上述されたそれら形態範疇は、正常または異常の一方にそれぞれ対応付けられるものである。これにより、範疇識別部64による上述された識別は、ねじ締付状態が正常か異常かの判断ともなる。本実施形態の場合、範疇識別部64は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過する前に次に述べられる要件が満たされると上述された識別を開始する。その要件は、動力ドライバー10がねじの締付を開始した時以降にトルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが所定のトルクに到達するというものである。この締付トルクは検出データに基づいて特定される。なお、本実施形態の場合、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態に対して、二次曲線という形態範疇、比例状態という形態範疇、複雑増減状態という形態範疇、および、非典型状態という形態範疇のいずれに所属するかが識別される。
【0032】
本実施形態の場合、判断結果情報出力部66は、コンピュータ20の制御部30とメモリ32と固定ディスク34と表示装置38と第2I/O44とプリンタ22とによって実現される。判断結果情報出力部66は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したと超過判断部62が判断した場合にはその旨を示す情報を出力する。判断結果情報出力部66は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態がいずれの形態範疇に所属するかが範疇識別部64によって識別されると、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する。
【0033】
本実施形態の場合、範疇識別部64は、係数算出部80と、係数範囲識別部82とを有している。
【0034】
係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。本実施形態の場合、係数算出部80は、回帰式を2次式とみなした上で、その回帰式の2次の係数および1次の係数を算出する。また、本実施形態の場合、係数算出部80は、その回帰式の定数も算出する。これらの係数および定数の算出法は周知なので、ここではその詳細な説明は繰返されない。
【0035】
係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かに応じて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が4種類の形態範疇のいずれに所属するかを識別する。その範囲は、形態範疇ごとに定められる。この場合、上述された所定の範囲は、上述された相関係数、上述された2次の係数、および、上述された1次の係数のそれぞれについて定められる。このために、係数範囲識別部82は、相関係数の範囲を示す情報と、2次の係数の範囲を示す情報と、1次の係数の範囲を示す情報とを記憶している。これらの情報はいずれも次に述べられる情報に対応付けられている。その情報は、形態範疇の名称を示す。その形態範疇の名称を示す情報は、その形態範疇に属する締付トルクの推移の形態が正常か異常かを示す情報にも対応付けられている。形態範疇の名称を示す情報および正常か異常かを示す情報も係数範囲識別部82は記憶している。本実施形態の場合、それらの情報の集団は「範疇情報集団」と称される。係数範囲識別部82は、複数の範疇情報集団を記憶している。それらの範疇情報集団が範疇識別部64による識別に用いられる順番は予め定められている。係数算出部80が算出した係数がいずれも同一の範疇情報集団に属する情報が示す範囲内ならば、その係数の算出に用いられた締付トルクの推移の形態は、その範疇情報集団に対応する形態範疇に属するとみなされる。本実施形態の場合、上述された所定の範囲は周知のティーチングによって特定された範囲である。本実施形態の場合、形態範疇の名称を示す情報および正常か異常かを示す情報は、コンピュータ20のキーボード36を介して入力された情報である。ティーチングによって上述された所定の範囲を示す情報を入力するための手順ならびに形態範疇の名称を示す情報および正常か異常かを示す情報を入力するための手順は周知のものと同一である。したがって、ここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0036】
[プログラムの説明]
本実施形態にかかるねじ締結判断システムは、上述されたコンピュータ20の制御部30がメモリ32から読出したプログラムを実行することにより実現される。一般的にこうしたプログラムは、USBメモリ26などのコンピュータ20が読取可能な記録媒体に記録された状態で流通する。こうしたプログラムは図示されないインターネットを介して流通することもある。こうしたプログラムは、固定ディスク34にいったん記録される。制御部30が実行するプログラムは、その固定ディスク34に記録されたプログラムをメモリ32が記憶したものである。したがって、本発明にかかる正常異常判断装置14の最も本質的な部分は、USBメモリ26などのコンピュータ読取可能な記録媒体に記録されたソフトウェアである。
【0037】
[ねじ締結判断方法にかかるフローチャートの説明]
図4は、本実施形態にかかるねじ締結判断方法の手順が示されるフローチャートである。このねじ締結判断方法は、次に述べられる複数の工程をねじ締結判断システムに実行させるものである。それら複数の工程は、締付箇所指定工程S100、トルク検出工程S102、正常異常判断工程S104、判断結果情報出力工程S106、および、完了判断工程S108である。以下、これらの各工程の具体的な内容が説明される。
【0038】
締付箇所指定工程S100において、正常異常判断装置14の検出データ受付部60(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、および、表示装置38)は、次に述べられる位置を示す情報を出力する。その位置は、ワークのうち被締結部材がねじにより固定される位置である。本実施形態の場合、その情報は画像表示により出力される。本実施形態の場合、検出データ受付部60は、この工程が実施されるたびに1つずつそれらの情報を出力する。それらの情報は出力される順序に対応付けられているので、それらの情報はその順序にしたがって出力される。そのために、検出データ受付部60はそれらの情報を予め記憶している。
【0039】
トルク検出工程S102において、トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。この締付トルクは、次に述べられる締付が動力ドライバー10により行われることに伴って検出される。この締付は、ワークに被締結部材を固定するためのねじの締付である。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する。
【0040】
正常異常判断工程S104において、正常異常判断装置14は、トルク検出工程S102において得られた検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かを判断する。その正常異常判断装置14は、次に述べられる推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかに基づき、ねじの締付が正常か異常かを判断する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。
【0041】
判断結果情報出力工程S106において、正常異常判断装置14の判断結果情報出力部66は、正常異常判断工程S104において実施された判断の結果を示す情報を出力する。
【0042】
完了判断工程S108において、正常異常判断装置14の検出データ受付部60は、被締結部材がねじにより固定される位置を示す情報(固定位置情報)がすべて出力された(出力が完了した)か否かを判断する。固定位置情報の出力が完了したと判断された場合(S108にてYES)、処理は終了する。もしそうでないと(S108にてNO)、処理はS100へと移される。
【0043】
図5は、本実施形態にかかる正常異常判断工程S104における制御の手順を示すフローチャートである。この工程は、次に述べられる複数の工程をコンピュータ20に実行させるものである。それら複数の工程は、検出データ受付工程S120、超過判断工程S122、識別開始判断工程S124、範疇識別工程S126、および、超過情報出力工程S128である。以下、これらの各工程の具体的な内容が説明される。
【0044】
検出データ受付工程S120において、検出データ受付部60(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、および、第1I/O42)は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける。上述されたように、本実施形態の場合、トルク検出装置12は、一定の周期でその締付トルクを検出する。検出データ受付部60は、受付けられた検出データが何番目に受付られたのかを示す値とその周期との積を算出することにより、受付けられた検出データがどの時点の締付トルクを示すのかを特定する。
【0045】
超過判断工程S122において、超過判断部62(現実には、制御部30、メモリ32、および、固定ディスク34)は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する。ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したと判断された場合(S122にてYES)、処理はS130へと移される。もしそうでないと(S122にてNO)、処理はS124へと移される。
【0046】
識別開始判断工程S124において、範疇識別部64(現実には、制御部30、メモリ32、および、固定ディスク34)は、次に述べられるトルクが締付の完了を示す所定のトルク(締付完了トルク)に到達したか否かを判断する。そのトルクは、動力ドライバー10がねじの締付を開始した時以降にトルク検出装置12が検出したねじの締付トルクである。その締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断された場合(S124にてYES)、処理はS126へと移される。もしそうでないと(S124にてNO)、処理はS120へと移される。
【0047】
範疇識別工程S126において、範疇識別部64(現実には、制御部30、メモリ32、および、固定ディスク34)は、次に述べられる推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかを識別する。その推移の形態は、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態である。範疇識別部64は、その識別の結果を示す情報を判断結果情報出力部66(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、表示装置38、第2I/O44、および、プリンタ22)に出力する。
【0048】
超過情報出力工程S128において、超過判断部62は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66(現実には、制御部30、メモリ32、固定ディスク34、表示装置38、第2I/O44、および、プリンタ22)に出力する。それらの情報は、制限時間を超過するまでねじの締付トルクが締付完了トルクに到達しない旨の情報およびねじの締結に異常がある旨の情報である。
【0049】
図6は、本実施形態にかかる範疇識別工程S126における制御の手順を示すフローチャートである。この工程は、次に述べられる複数の工程をコンピュータ20に実行させるものである。それら複数の工程は、係数算出工程S150、形態別範囲判断工程S152、対応情報出力工程S154、範囲判断完了工程S156、および、外情報出力工程S158である。以下、これらの各工程の具体的な内容が説明される。
【0050】
係数算出工程S150において、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。本実施形態の場合、係数算出部80は、回帰式を2次式とみなした上で、その回帰式の2次の係数および1次の係数を算出する。また、本実施形態の場合、係数算出部80は、その回帰式の定数も算出する。
【0051】
形態別範囲判断工程S152において、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する。それらの範囲は、1つの範疇情報集団に属する情報が示す。係数範囲識別部82は、自らが記憶する複数の範疇情報集団のいずれかを用いて係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かを判断する。用いられる範疇情報集団は、この工程が実施されるたびに変更される。範疇情報集団が用いられる順番は予め定められている。係数算出部80が算出した係数がいずれも所定の範囲内であると判断された場合(S152にてYES)、処理はS154へと移される。もしそうでないと(S152にてNO)、処理はS156へと移される。
【0052】
対応情報出力工程S154において、係数範囲識別部82は、形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報を判断結果情報出力部66へ出力する。これらの情報は、次に述べられる範疇情報集団と同一の範疇情報集団に属する。その範疇情報集団は、形態別範囲判断工程S152において係数算出部80が算出した係数が範囲内と判断された範囲に対応するものである。
【0053】
範囲判断完了工程S156において、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する。係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたと判断された場合(S156にてYES)、処理はS158へと移される。もしそうでないと(S156にてNO)、処理はS152へと移される。
【0054】
外情報出力工程S158において、係数範囲識別部82は次に述べられる情報を出力する。それらの情報の一方は、非典型状態という形態範疇の名称を示す。それらの情報の他方は、異常であることを示す。
【0055】
[動作の説明]
以下、本実施形態にかかるねじ締結判断システムの動作が説明される。
【0056】
(正常にねじが締付られる場合)
動力ドライバー10によってねじを締付ようとする者(以下「作業者」と称される)は、本実施形態にかかるねじ締結判断システムを起動させる。これに伴い、動力ドライバー10とトルク検出装置12とが起動させられる。それらが起動すると、検出データ受付部60は、ワークのうち被締結部材がねじにより固定される位置を示す情報を表示する(S100)。なお、本実施形態の場合、周知の端子台がワークとなる。もちろん、被締結部材をねじによって締結するための物はいずれもワークとなり得る。また、本実施形態の場合、端子が被締結部材となる。もちろん、ねじによってワークに締結される部材はいずれも被締結部材となり得る。
【0057】
その情報が表示されると、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。これにより、端子台(ワーク)に端子(被締結部材)が固定される。ねじの締付の際、トルク検出装置12は、動力ドライバー10によるねじの締付トルクを検出する。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。
【0058】
正常異常判断装置14に対して検出データが出力されると、正常異常判断装置14の検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。
【0059】
検出データが受付けられると、超過判断部62は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する(S122)。この場合、その制限時間が経過していないとすると(S122にてNO)、範疇識別部64は、動力ドライバー10がねじの締付を開始した時以降にトルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したか否かを判断する(S124)。この場合、その締付トルクが締付完了トルクに到達していないとすると(S124にてNO)、検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを再び受付ける(S120)。
【0060】
その後、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したとする。これにより、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断されるので(S124にてYES)、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する(S150)。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。この場合、相関係数が「0.9945」、回帰式の2次の係数が「0.02」、回帰式の一次の係数が「-0.19」、回帰式の定数が「12.4」であることとする。
【0061】
この場合、正常にねじが締付られたこととする。
図7は、その場合についての時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。この図に示されているのは、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクである。本実施形態の場合、ねじの締付トルクが締付完了トルクに到達すると、動力ドライバー10はこれが有する機能によって自動的に動作を停止する。トルク検出装置12はその後も引き続き検出データを出力する。このため、
図7においては、締付完了トルクに到達すると締付トルクは低下し締付開始トルク未満となる。
図7において、横軸は、判断対象動作期間の始期からの経過時間である。本実施形態の場合、ねじの締付トルクが予め定められたトルク(締付開始トルク)に到達した時にねじの締付が開始されたとみなされる。したがって、ねじの締付トルクが締付開始トルクに到達した瞬間が横軸の原点である。
図7においては、縦軸が締付トルクを示す。
図7から明らかなように、この場合、時間の経過に伴って二次曲線に似た曲線を描くように締付トルクが増加している。
【0062】
上述されたように、時間の経過に伴って二次曲線に似た曲線を描くように締付トルクが増加する。このため、時間の経過に伴う締付トルクの推移にバラツキがほとんど含まれていなくても、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの増加とが比例している場合に比べると、それらの間の相関係数が小さくなると考えられる。また、それらの間における回帰式の2次の係数は大きな値となると考えられる。
【0063】
係数および定数が算出されると、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する(S152)。本実施形態の場合、最初に用いられる範疇情報集団は、端子台に端子が正しく固定される場合の範疇情報集団(第1範疇情報集団)であることとする。
図8は、この範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例である。なお、
図8における「名称」欄は形態範疇の名称を示す情報の内容を示している。「正常異常」欄は正常か異常かを示す情報の内容を示している。
図8から明らかなように、係数算出部80が算出した係数はいずれも
図8に示された範囲内である。係数算出部80が算出した係数がいずれも
図8に示された範囲内なので(S152にてYES)、係数範囲識別部82は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66へ出力する(S154)。それらの情報は、「二次曲線」という形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報(この場合、この情報は正常であることを示す)である。これにより、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が、「二次曲線」という形態範疇に所属すると範疇識別部64により識別されたことになる。また、その識別の結果を示す情報とその推移の形態が正常か異常かを示す情報とが出力されたこととなる。
【0064】
それらの情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する(S106)。これにより、表示装置38に、その推移の形態が正常である旨の情報が表示されることとなる。
【0065】
その推移の形態が正常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0066】
(端子が取り付けられていない場合)
本実施形態にかかるねじ締結判断システムが起動された後、S100の処理を経て、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。その後、S120乃至S124の処理が当面繰り返される。
【0067】
この場合、端子が取り付けられないままねじが締付られることとする。
図9は、その場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。端子が取り付けられていない場合、それが取り付けられている場合に比べて、締付トルクは締付完了トルクに到達するまで時間に比例するに近い状態で増加する。これにより、S102乃至S124の処理が繰り返される。その後、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断されるので(S124にてYES)、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する(S150)。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。この場合、相関係数が「0.9981」、回帰式の2次の係数が「0.005」、回帰式の一次の係数が「1.17」、回帰式の定数が「12.4」であることとする。
【0068】
上述されたように、この場合、時間に比例しているに近い状態で締付トルクが増加する。これにより、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの増加との間の相関係数は「1」に近い値となっていると考えられる。また、それらの間における回帰式の2次の係数は、端子が取り付けられている場合に比べると「0」に近い値となると考えられる。
【0069】
係数および定数が算出されると、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する(S152)。上述されたように、本実施形態の場合、最初に用いられる範疇情報集団は、第1範疇情報集団である。これにより、係数算出部80が算出した係数がいずれも
図8に示された範囲外なので(S152にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する(S156)。この場合、まだ第1範疇情報集団が用いられたに過ぎないので(S156にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを再度判断する(S152)。
【0070】
本実施形態の場合、2度目に用いられる範疇情報集団は、端子台に端子が固定されている場合の範疇情報集団(第2範疇情報集団)である。
図10は、この範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例である。
図10から明らかなように、この場合に係数算出部80が算出した係数はいずれも
図10に示された範囲内である。係数算出部80が算出した係数がいずれも
図10に示された範囲内なので(S152にてYES)、係数範囲識別部82は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66へ出力する(S154)。それらの情報は、「比例状態」という形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報(この場合、この情報は異常であることを示す)である。これにより、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が、「比例状態」という形態範疇に所属すると範疇識別部64により識別されたことになる。また、その識別の結果を示す情報とその推移の形態が正常か異常かを示す情報とが出力されたこととなる。
【0071】
それらの情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する(S106)。これにより、表示装置38に、その推移の形態が異常である旨の情報が表示されることとなる。
【0072】
その推移の形態が異常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0073】
(ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合)
本実施形態にかかるねじ締結判断システムが起動された後、S100の処理を経て、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。その後、S120乃至S124の処理が当面繰り返される。
【0074】
この場合、ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されていることとする。
図11は、その場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合、ねじがねじ穴に沿って挿入されている場合に比べて、締付トルクは複雑に増減する。その間、S102乃至S124の処理が繰り返される。その後、トルク検出装置12が検出したねじの締付トルクが締付完了トルクに到達したと判断されるので(S124にてYES)、係数算出部80は、判断対象動作期間における検出データに基づいて、次に述べられる2種類の係数を算出する(S150)。それらの係数の一方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との相関係数である。それらの係数の他方は、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式の係数である。この場合、相関係数が「0.7693」、回帰式の2次の係数が「0.02」、回帰式の一次の係数が「-1.2」、回帰式の定数が「17.4」であることとする。
【0075】
上述されたように、締付トルクは複雑に増減する。これにより、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの増加との間の相関係数は正常にねじが締付られる場合に比べると小さな値となると考えられる。また、
図11に示されているように締付トルクが推移する場合、いったん締付トルクが低下するため、締付トルクは締付完了トルクにゆっくり到達しているのと同様に推移することとなる。これにより、ねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間に関する回帰式の2次の係数は、ねじがねじ穴に沿って挿入されている場合に比べて小さな値となると考えられる。同じ理由により、それらの間における回帰式の1次の係数は、端子が取り付けられている場合に比べて大きな値となると考えられる。
【0076】
係数および定数が算出されると、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを判断する(S152)。上述されたように、本実施形態の場合、最初に用いられる範疇情報集団は、第1範疇情報集団である。これにより、回帰式の2次の係数を除けば係数算出部80が算出した係数がいずれも
図8に示された範囲外となる(S152にてNO)。したがって、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する(S156)。この場合、まだ第1範疇情報集団が用いられたに過ぎないので(S156にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを再度判断する(S152)。上述されたように、本実施形態の場合、次に用いられる範疇情報集団は、第2範疇情報集団である。これにより、係数算出部80が算出した係数がいずれも
図10に示された範囲外なので(S152にてNO)、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数が所定の範囲内か否かの判断にすべての範疇情報集団が用いられたか否かを判断する(S156)。この場合、まだ第1範疇情報集団および第2範疇集団が用いられたに過ぎない(S156にてNO)。したがって、係数範囲識別部82は、係数算出部80が算出した係数それぞれについて、それらの係数がそれぞれについての所定の範囲内か否かを再度判断する(S152)。
【0077】
本実施形態の場合、3度目に用いられる範疇情報集団は、ねじがねじ穴に対して斜めに挿入されている場合の範疇情報集団(第3範疇情報集団)である。
図12は、この範疇情報集団に属する情報が示す係数の範囲の一例である。
図12から明らかなように、この場合に係数算出部80が算出した係数はいずれも
図12に示された範囲内である。係数算出部80が算出した係数がいずれも
図12に示された範囲内なので(S152にてYES)、係数範囲識別部82は、次に述べられる情報を判断結果情報出力部66へ出力する(S154)。それらの情報は、「複雑増減状態」という形態範疇の名称を示す情報、および、正常か異常かを示す情報(この場合、この情報は異常であることを示す)である。これにより、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が、「複雑増減状態」という形態範疇に所属すると範疇識別部64により識別されたことになる。また、その識別の結果を示す情報とその推移の形態が正常か異常かを示す情報とが出力されたこととなる。
【0078】
それらの情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その推移の形態が正常か異常かを示す情報を出力する(S106)。これにより、表示装置38に、その推移の形態が異常である旨の情報が表示されることとなる。
【0079】
その推移の形態が異常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0080】
(ねじ山が潰れた場合)
本実施形態にかかるねじ締結判断システムが起動された後、S100の処理を経て、作業者は、動力ドライバー10を用いてその位置にてねじを締付る。トルク検出装置12は、正常異常判断装置14に対して検出データを出力する(S102)。検出データ受付部60は、トルク検出装置12が出力した検出データを受付ける(S120)。その後、S120乃至S124の処理が当面繰り返される。
【0081】
この場合、ねじの締付開始直後にねじ山が潰れたとする。ねじ山が潰れるとねじは空回りする。
図13は、その場合についての、時間に対する締付トルクの推移を示す概念図である。
図13から明らかなように、この場合、時間の経過に伴って締付トルクは増加と減少とを繰り返す。ねじ山が潰れている場合、ねじが端子台のねじ孔内に進入せず同じ深さで回転を繰り返すためである。
【0082】
その後、超過判断部62は、ねじの締付の開始から所定の制限時間が経過したか否かを判断する(S122)。この場合、その制限時間が経過したとすると(S122にてYES)、超過判断部62は、制限時間を超過するまでねじの締付トルクが締付完了トルクに到達しない旨の情報およびねじの締結に異常がある旨の情報を判断結果情報出力部66に出力する(S128)。
【0083】
ねじの締結に異常がある旨の情報が判断結果情報出力部66に出力されると、判断結果情報出力部66は、その情報を出力する(S106)。
【0084】
ねじの締結が異常である旨の情報が表示装置38に表示されると、検出データ受付部60は、被締結部材がすべてねじにより固定されたか否かを判断する(S108)。以下、被締結部材がすべてねじにより固定されたと判断される(S108にてYES)まで、S100以降の処理が繰返される。
【0085】
[効果の説明]
本実施形態にかかるねじ締結判断システムによれば、ねじの挙動についての正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【0086】
また、本実施形態にかかるねじ締結判断システムにおいては、係数算出部80が算出する係数が一定ならば、その係数のもととなった推移の形態がどの形態範疇に所属するかに関する識別結果は一定となる。係数算出部80が算出する係数は、所定の手順に沿って計算することで一意に定まる。このため、同一の締付トルクに基づいて算出される限り、係数算出部80が算出する係数がその算出のたびに異なることはない。その結果、ねじの挙動についての正常か異常かの判断が安定的に実施される。
【0087】
また、ねじの締結に影響を及ぼす何らかの要因があるとき、その要因に応じて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態は異なるものとなる。その推移の形態が異なるものとなるので、その回帰式における2次の係数および1次の係数の値は異なるものとなる。これにより、係数範囲識別部82は、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかを適切に識別できる。その結果、ねじの挙動についての正常か異常かの判断がより適切に実施される。
【0088】
また、判断対象動作期間におけるねじの締付の開始からの経過時間と締付トルクの推移との間における回帰式が3次以上の多次式に類似する場合、その回帰式が2次式である場合に比べて相関係数は小さくなる。これにより、回帰式の2次の係数および回帰式の1次の係数のみが算出される場合に比べて、ねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が詳細に識別され得る。その結果、ねじの挙動についての正常か異常かの判断がより詳細に実施される。
【0089】
[変形例の説明]
今回開示された実施形態はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施形態に基づいて制限されるものではない。もちろん、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0090】
例えば、トルク検出装置12は図示されない時間計測部を有してもよい。その時間計測部は、ねじの締付の開始からの経過時間を計測する。
【0091】
また、判断対象動作期間におけるねじの締付に伴う締付トルクの推移の形態が形態範疇のいずれに所属するかの判断手順は上述したものに限定されない。例えば、締付トルクを示す検出データと形態範疇それぞれについて予め定められるモデルデータとを対比して、締付トルクを示す検出データとの差が最も小さいモデルデータが属する形態範疇に属すると判断されてもよい。また、範疇識別部64が識別可能な形態範疇の種類数は、少なくとも3種類である限り特に限定されない。
【0092】
また、係数算出部80が算出する係数は、上述された相関係数と上述された回帰式の係数とのうち一方のみであってもよい。それらの係数の一方のみが算出される場合、回帰式の係数が算出されることが望ましい。回帰式の係数のみが算出される場合、2次の係数のみが算出されてもよい。その場合、1次の係数のみが算出されてもよい。また、係数算出部80は、回帰式を3次式以上の式とみなした上で3次以上の係数を算出してもよい。
【0093】
また、超過判断部62は設けられていなくてもよい。この場合、公知の動作開始手段(例えば周知の指示受付手段)が使用者の指示を受付けると範疇識別部64の動作が開始されてもよい。
【0094】
また、判断結果情報出力部66による情報の出力形態は上述されたものに限定されない。例えば、その出力形態は、通信によって他の情報処理装置に情報を送信するものであってもよい。また、コンピュータ20が何らかのプログラムを実行することにより正常異常判断装置14に加えて他の装置として動作する場合、判断結果情報出力部66による情報の出力形態は、メモリ32の所定のアドレスに情報を記憶させるものであってもよい。その場合、コンピュータ20が当該他の装置として動作する際にそのアドレスに記憶された情報を読むことで、正常異常判断装置14が情報を出力し当該他の装置が情報の入力を受け取ることとなる。
【0095】
また、本実施形態にかかるねじ締結判断システムは、判断結果情報出力工程S106においてねじの締結が異常である旨の情報が出力された場合に、公知の方法によってねじの締結をやり直すための動作を実施するものであってもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…動力ドライバー
12…トルク検出装置
14…正常異常判断装置
20…コンピュータ
22…プリンタ
24…マウス
26…USBメモリ
30…制御部
32…メモリ
34…固定ディスク
36…キーボード
38…表示装置
40…コネクタ
42…第1I/O
44…第2I/O
46…第3I/O
60…検出データ受付部
62…超過判断部
64…範疇識別部
66…判断結果情報出力部
80…係数算出部
82…係数範囲識別部
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじの締付を行う動力ドライバーと、
前記動力ドライバーによる前記ねじの締付トルクを検出し前記締付トルクを示す検出データを出力するトルク検出装置と、
前記トルク検出装置が出力した前記検出データに基づいて前記ねじの締付が正常か異常かを判断する正常異常判断装置とを備えるねじ締結判断システムであって、
前記正常異常判断装置が、前記ねじの締付の開始から前記締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間である判断対象動作期間における前記ねじの締付に伴う前記締付トルクの推移の形態が、比例状態の範疇、二次曲線より複雑に増減して締付完了トルクに到達する状態の範疇、および、前記締付トルクが増加と減少とを繰り返して前記判断対象動作期間を超えても前記締付完了トルクに到達しない状態の範疇からなる群のうち少なくとも2つであってそれぞれ異常に対応付けられる範疇と正常に対応付けられる二次曲線の範疇とのうちいずれかに所属すると、前記締付トルクの推移の形態が所属する前記範疇が正常と異常とのうちいずれに対応付けられているかに基づき、前記ねじの締付が正常か異常かを判断することを特徴とするねじ締結判断システム。
【請求項2】
前記正常異常判断装置が、
前記検出データに基づいて、前記判断対象動作期間における前記ねじの締付の開始からの経過時間と前記締付トルクの推移との相関係数、および、前記判断対象動作期間における前記ねじの締付の開始からの経過時間と前記締付トルクの推移との間における回帰式の係数の少なくとも一方を算出する係数算出部と、
前記係数算出部が算出した係数が前記範疇ごとに定められる所定の範囲内か否かに応じて前記ねじの締付に伴う前記締付トルクの推移の形態が前記範疇のいずれかに所属するか否かを識別する係数範囲識別部とを有していることを特徴とする請求項1に記載のねじ締結判断システム。
【請求項3】
前記係数算出部が前記回帰式の2次の前記係数および前記回帰式の1次の前記係数を少なくとも算出し、
前記範疇ごとに定められる所定の範囲が前記2次の係数および前記1次の係数それぞれについて定められることを特徴とする請求項2に記載のねじ締結判断システム。
【請求項4】
前記係数算出部が前記相関係数をさらに算出し、
前記範疇ごとに定められる所定の範囲が、前記相関係数、前記2次の係数、および、前記1次の係数について、それぞれ定められることを特徴とする請求項3に記載のねじ締結判断システム。
【請求項5】
ねじの締付が動力ドライバーにより行われることに伴って前記動力ドライバーによるねじの締付トルクがトルク検出装置によって検出され前記締付トルクを示す検出データが前記トルク検出装置によって出力されるトルク検出工程と、
前記トルク検出工程において得られた検出データに基づいてねじの締付が正常か異常かが正常異常判断装置により判断される正常異常判断工程とを備えるねじ締結判断方法であって、
前記正常異常判断工程において、前記ねじの締付の開始から前記締付トルクが所定のトルクに到達するまでの締付動作期間である判断対象動作期間における前記ねじの締付に伴う前記締付トルクの推移の形態が、比例状態の範疇、二次曲線より複雑に増減して締付完了トルクに到達する状態の範疇、および、前記締付トルクが増加と減少とを繰り返して前記判断対象動作期間を超えても前記締付完了トルクに到達しない状態の範疇からなる群のうち少なくとも2つであってそれぞれ異常に対応付けられる範疇と正常に対応付けられる二次曲線の範疇とのうちいずれかに所属すると、前記締付トルクの推移の形態が所属する前記範疇が正常と異常とのうちいずれに対応付けられているかに基づき、前記ねじの締付が正常か異常かが判断されることを特徴とするねじ締結判断方法。