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特開2022-87945波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087945
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20220607BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20220607BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20220607BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20220607BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20220607BHJP
   C08K 5/08 20060101ALI20220607BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
G02B5/22
C08L69/00
C08K5/521
C08K3/32
C08K5/3415
C08K5/08
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200101
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲福▼▲間▼ 智彦
(72)【発明者】
【氏名】長尾 厚史
【テーマコード(参考)】
2H148
4J002
5J084
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA14
2H148CA18
4J002CG011
4J002DH027
4J002EE058
4J002EU028
4J002EW046
4J002FD098
4J002FD206
4J002FD207
4J002GP00
5J084AC02
5J084BA03
5J084BA20
5J084BB20
5J084CA03
5J084EA02
(57)【要約】
【課題】高温で成形加工しても光学特性に実質的な変化を生じない、波長選択透過性を有する、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(B)、及びリン酸エステル系化合物又はリン酸(C)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、着色剤(B)を0.001~2.0質量部で含み、リン酸エステル系化合物又はリン酸(C)について、リン酸エステル系化合物(C1)を0.005~0.3質量部で含む又はリン酸(C2)を0.0001~0.004質量部で含む、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(B)、及びリン酸エステル系化合物又はリン酸(C)を含み、
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、
前記着色剤(B)を0.001~2.0質量部で含み、
前記リン酸エステル系化合物又はリン酸(C)について、リン酸エステル系化合物(C1)を0.005~0.3質量部で含む又はリン酸(C2)を0.0001~0.004質量部で含むことを特徴とする、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記着色剤(B)が、吸収極大波長が700nm未満の色素を含む着色剤(B1)、および/または700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有する色素を含む着色剤(B2)を含む、請求項1記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記着色剤(B)が、アントラキノン系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、メチン系色素、アゾ系色素、キノリン系色素、フタロシアニン系色素、及び複素環系色素から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記極大吸収波長が700nm未満の色素を含む着色剤(B1)が、アントラキノン系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、メチン系色素から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記極大吸収波長が700nm未満の色素を含む着色剤(B1)が、アントラキノン系色素を含む、請求項2又は4に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記アントラキノン系色素が、Solvent Yellow 163、Disperse Violet 28、Solvent Blue 97、Solvent Green 28、Solvent Green 3、Disperse Blue 60からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有する色素を含む着色剤(B2)が、フタロシアニン系色素、アントラキノン系色素及び複素環系色素から選択される少なくとも1種を含む、請求項2及び4~6のいずれか1項に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記リン酸エステル系化合物又はリン酸(C)が、下記一般式(I)で示されるリン酸エステル系化合物またはリン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
式(I):
O=P(OH)(OR)3-n
[一般式(I)中、Rはアルキル基またはアリール基であり、各々同一でも異なっていてもよく、nは0~3の整数を示す。]
【請求項9】
前記一般式(I)で示される化合物が、モノステアリルアシッドホスフェイトとジステアリルアシッドホスフェイトの混合物を含む、請求項8に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有するフタロシアニン系化合物を含む色素(E)を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
前記色素(E)が、下記一般式(II)式で表される、請求項10に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
式(II):
【化6】

[式中、R31は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
32及びR33は、同一でも異なってもよく、ハロゲン原子、OR34基、SR35基又はNR36又はR37基を示す。
11は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
34及びR35基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
36及びR37基は、同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。
36とR37とは、これらが結合する窒素原子とともに、他の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して又は介することなく互いに結合して5~10員の飽和又は不飽和複素環を形成していてもよい。該5~10員の飽和又は不飽和複素環は、1個以上の置換基を有していてもよい。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【請求項12】
前記色素(E)が、下記一般式(III)で表される、請求項10に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
式(III):
【化7】

[式中、R31は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
11、X12及びX13は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
34及びR35基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【請求項13】
前記フタロシアニン系化合物が、オキソバナジウム、銅、アルミニウム、コバルトおよび亜鉛から選択される中心金属を有するフタロシアニン系染料である、請求項10~12のいずれか1項に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項14】
熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、軟化剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤及び展着剤を含有する群から選択される少なくとも1種を更に含有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物を含有する波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項16】
Lidarカバーである、請求項15に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形することを含む、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、可視光を透過しないが、赤外線を透過する、波長選択的な透過性を有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いたリモートセンシング技術の一つに、パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析する、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging、「光検出と測距」ないし「レーザー画像検出と測距」、「ライダー」ともいう)が、知られている。この技法はレーダーに類似しており、レーダーの電波を光に置き換えたものである。対象までの距離は、発光後反射光を受光するまでの時間から求まる。ライダーはレーダーよりも遥かに短い波長の電磁波、典型的には紫外線、可視光線、近赤外線を使用する。
【0003】
近年、自動車の自動運転技術が急速に発展しつつある。 条件付き自動運転であるレベル3及び、ドライバーによる運転を前提としないレベル4~5に対応するために、高速道路及び一般道路を安全に自律走行する機能が必要となる。そのため、センシングの冗長性を担保するために、カメラやミリ波レーダーに加えて、ライダーが注目されている。自動運転を支援するために、Lidarの精度をより高めることが必要であり、より優れた性能を有する波長選択フィルターを開発することが求められている。
【0004】
特許文献1は、アゾアントラキノン系混合物等を含むエポキシ樹脂硬化体が、波長380nmの範囲で平均透過率が0%であり、波長900nmでの光透過率が80%以上であるため、Lidarで使用するレーザー光波長が850~950nmの範囲にある場合好適に使用できることを開示する(特許文献1、実施例1~2、[0050]、[図1]参照)。更に、特許文献1は、アゾアントラキノン系混合物等を含むエポキシ樹脂硬化体が、波長380nmの範囲で平均透過率が0%であり、波長1550nmでの光透過率が80%以上であるため、Lidarで使用するレーザー光波長が1500~1600nmの範囲にある場合好適に使用できることを開示する(特許文献1、実施例1~3、[0050]、[図1]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-167484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、エポキシ樹脂の硬化体を開示するが、エポキシ樹脂の硬化体は安価に大量に提供するには、必ずしも適さない。今後のLidarの発展を考慮すると、より安価に大量に製造することができる組成物及びその成形物を提供することが必要である。
【0007】
本発明者等は、透明性に優れ、機械強度に優れる、ポリカーボネートの成形物に着目したが、ポリカーボネートは成形温度が高いので、ポリカーボネート樹脂組成物を高温で成形する間に、透過率が低下及び/又は増加し得ること、即ち、透過率(光学特性)が変化し得ることに気づいた。光学特性の変化は、誤作動を生じるおそれがある。従って、本発明の目的は、高温で成形加工しても光学特性に実質的な変化を生じない、波長選択透過性を有する、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(例えば、アントラキノン系色素)と、リン酸又はリン酸エステル系化合物を含むポリカーボネート樹脂組成物は、高温で成形加工しても、光学特性に実質的な変化を生じず、波長選択透過性を有する、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することを見出した。更に、そのような樹脂組成物及び成形品は、Lidar用途に好適に使用できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明に係る波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(B)、及びリン酸エステル系化合物又はリン酸(C)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、着色剤(B)を0.001~2.0質量部で含み、リン酸又はリン酸エステル系化合物(C)について、リン酸エステル系化合物(C1)を0.005~0.3質量部で含む又はリン酸(C2)を0.0001~0.004質量部で含む。
【0010】
本発明に係る波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品は、上記の波長選択透過性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含有する。
【0011】
本発明に係る波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法は、上記の樹脂組成物を成形することを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、通常の装置を用いて成形加工して、成形品を製造することができ、その成形の間に光学特性に実質的な変化を生ずることがない。よって、本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、適切に波長選択性を有し、光学特性に変化を実質的に生じない成形品を提供することができる。その成形品は、Lidar用途に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(B)、及びリン酸エステル系化合物又はリン酸(C)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、着色剤(B)を0.001~2.0質量部で含み、リン酸又はリン酸エステル系化合物(C)について、リン酸エステル系化合物(C1)を0.005~0.3質量部で含む又はリン酸(C2)を0.0001~0.004質量部で含む。
【0014】
本発明の実施形態において、「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」は、芳香族化合物に基づくポリカーボネート樹脂であって、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。そのような芳香族ポリカーボネート樹脂として、例えば、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体を例示できる。代表例は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂を含む。
【0015】
前記ジヒドロキシジアリール化合物として、ビスフェノールAの他に、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類を例示できる。これらは単独で又は組み合わせて使用できる。これらの他にも、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル等を組み合わせて使用することができる。
【0016】
さらに、前記ジヒドロキシジアリール化合物と、例えば以下に示す3価以上の芳香族化合物とを組み合わせて使用してもよい。
【0017】
前記3価以上のフェノール化合物として、例えば、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン及び2,2-ビス-[4,4-(4,4’-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル]-プロパン等を例示できる。
【0018】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10000~100000であることが好ましく、12000~30000であることがより好ましい。なお、このような芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。そのような芳香族ポリカーボネート樹脂として、市販品を使用することができる。
【0019】
本発明の実施形態において、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(B)とは、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含み、その色素は、例えば、染料(有機、無機)、顔料(有機、無機)等から選択することができ、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。そのような色素として、染料でも顔料でも使用することができるが、通常、染料は粒子の表面で光を乱反射し難いので、染料を用いることがより好ましい。これらの色素を含む着色剤(B)は、単独で、または、二つ以上を組合せて用いることができる。
【0020】
上記染料系色素としては、例えば、アントラキノン系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、メチン系色素、アゾ系色素、キノリン系色素、フタロシアニン系色素、複素環系色素などが挙げられる。樹脂組成物に、より容易に均一に分散することができるので、油溶性の染料が好ましい。染料は、顔料より小さな粒子からできているので、染料は樹脂組成物により均一に混合することができるので、成形体の曇り度(ヘイズ値)をより小さくできるので好ましい。染料は、Lidar用としてより好ましい。
【0021】
上記顔料系の色素としては、例えば、アゾ系(溶性アゾ系,不溶性アゾ系)色素、縮合系色素、スレン系顔料、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、イソインドリン系色素等の有機色素や、酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、カーボンブラック、群青(ウルトラマリン)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、硫酸鉛、チタンブラック、合成鉄黒等の無機色素等があげられる。
【0022】
着色剤(B)は、吸収極大波長が700nm未満の色素を含む着色剤(B1)、および/または700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有する色素を含む着色剤(B2)を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の実施形態において、極大吸収波長が700nm未満の色素を含む着色剤(B1)は、アントラキノン系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、メチン系色素から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。着色剤(B1)は、アントラキノン系色素を含むことが好ましい。
【0024】
着色剤(B1)は、フタロシアニン系色素、複素環系色素から選択される少なくとも1種を、更に含むことができる。
【0025】
本発明の実施形態の樹脂組成物には、着色剤(B1)として、アントラキノン系色素の他に、別の色素を複数組み合わせて用いることができる。例えば、顔料と顔料の組み合わせ、顔料と染料の組み合わせ、染料と染料の組み合わせであってよいが、染料と染料を組み合わせて用いることが好ましい。アントラキノン系色素と他の色素とを組み合わせて用いることが、種々の波長の光を抑制または遮断することができ、かつ種々の波長領域において良好な光透過性を備えることができることから好ましい。
【0026】
本発明の実施形態の組成物を得られる限り、上述の色素は、特に制限されないが、具体的には以下のようなものを使用できる。
【0027】
アントラキノン系色素は、Solvent Yellow 163、Disperse Violet 28、Solvent Blue 97、Solvent Green 28、Solvent Green 3、Disperse Blue 60からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0028】
ペリノン系色素としては、Solvent Orange 60、Solvent Orange 78、Solvent Orange 90、Solvent Violet 29、Solvent Red 135、Solvent Red 162、Solvent Red 179等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
【0029】
ペリレン系色素としては、Solvent Green 3、Solvent Green 5、Solvent Orange 55、Vat Red 15、Vat Orange7、F Orange 240、F Red 305、F Red 339、F Yellow 83、Solvent Red 179等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
【0030】
メチン系色素としては、Solvent Orange 80、Solvent Yellow 93、Disperse Yellow 201等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
またキノリン系色素としては、Solvent Yellow 33、Solvent Yellow 98、Solvent Yellow 157、Disperse Yellow 54、Disperse Yellow 201等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
【0031】
本発明の実施形態において、700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有する色素を含む着色剤(B2)は、フタロシアニン系色素、アントラキノン系色素及び複素環系色素から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0032】
着色剤(B2)は、フタロシアニン系色素を含むことが好ましく、そのようなフタロシアニン系色素として、山田化学工業から市販されているFDN-002、FDN-023、FDN-024等が挙げられる。
【0033】
着色剤(B2)は、複素環系色素を含むことが好ましく、そのような複素環系色素として、有本化学工業から市販されているSDO-C8等が挙げられる。
【0034】
着色剤(B2)は、アントラキノン系色素を含むことが好ましく、そのようなアントラキノン系色素として、有本化学工業から市販されているSDO-C33等が挙げられる。
【0035】
本発明の実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(B)を0.001~2.0質量部含むことが好ましく、0.005~1.5質量部含むことがより好ましく、0.006~1.0質量部含むことが更に好ましい。着色剤(B)の含有量の下限は、0.02質量部であってよく、0.025質量部であってよい。
【0036】
本発明の実施形態において、リン酸エステル系化合物又はリン酸(C)は、本発明の実施形態の樹脂組成物を得られる限り、特に制限されることはないが、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル系化合物及びリン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0037】
式(I):O=P(OH)(OR)3-n
[式(I)中、Rはアルキル基またはアリール基であり、各々同一でも異なっていてもよく、nは0~3の整数を示す。]
【0038】
上記一般式(I)中、Rは、好ましくは、炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~30のアリール基であり、より好ましくは、炭素原子数2~25のアルキル基である。また、nは好ましくは1又は2である。
【0039】
式(I)のリン酸エステル系化合物として、例えば、モノまたはジ-ステアリルアシッドホスフェートが挙げられ、リン酸ステアリル混合エステル(リン酸モノステアリル約50モル%とリン酸ジステアリル約50モル%の混合物(旭電化株式会社製商品名「AX-71」)などが知られている。
【0040】
リン酸は、不揮発性の弱酸であり、市販品を使用することができ、特に限定されないが、ナカライテスク社製のリン酸、和光純薬製のリン酸などが挙げられる。
【0041】
本発明の実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、リン酸エステル系化合物又はリン酸(C)について、リン酸エステル系化合物(C1)を0.005~0.3質量部で含むことが好ましく、0.007~0.1質量部で含むことがより好ましく、0.009~0.08質量部で含むことが更に好ましい。又はリン酸(C2)を0.0001~0.004質量部で含むことが好ましく、0.0001~0.001質量部で含むことが好ましく、0.0003~0.0008質量部で含むことがより好ましく、0.0004~0.0006質量部で含むことが更に好ましい。
【0042】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、リン系酸化防止剤(D)を含むことができる。
【0043】
リン系酸化防止剤は、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。
【化1】
【0044】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、前記リン系酸化防止剤(D)が、下記式(1)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(3)で表される亜リン酸エステル化合物及び下記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0045】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0046】
式(1):
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す。)
【0047】
前記式(1)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0048】
式(1)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0049】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0050】
式(2):
【化3】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0051】
式(2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0052】
ここで、炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0053】
前記R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R及びRは、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0054】
前記Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0055】
式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0056】
式(2)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-で表される基を示す。ここで、式:-CHR-中のRは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0057】
式(2)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR-におけるRは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0058】
式(2)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0059】
式(2)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0060】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0061】
式(3):
【化4】
(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0062】
式(3)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブPEP-24G」として商業的に入手可能である。(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0063】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0064】
式(4):
【化5】
【0065】
(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X~Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X~Xが単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は式(4)から除外される。)
【0066】
式(4)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標) S-9228」、(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブPEP-45」(ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0067】
リン系酸化防止剤(D)は、さらに、例えば、[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン]等も挙げることができ、例えば、BASF社製のイルガフォスP-EPQ(商品名)、クラリアントケミカルズ社製 HOSTANOX P-EPQ(商品名)が商業的に入手可能である。
【0068】
下記のことから選択される少なくとも1を満たす、上述の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が好ましい:
前記式(1)で表される亜リン酸エステル化合物が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトを含むこと;
前記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンを含むこと;
前記式(3)で表される亜リン酸エステル化合物が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンを含むこと;及び
前記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物が、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトを含むこと。
【0069】
リン系酸化防止剤(D)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部までが好ましく、0.02~0.2質量部がより好ましい。
【0070】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有するフタロシアニン系化合物を含む色素(E)を含有しても良い。波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物が色素(E)を含有する場合、1000~1200nmの波長の光を吸収するため、透過波長域を長波長側にシフトさせることができる。
【0071】
色素(E)は、下記一般式(II)式で表される化合物を含むことが好ましい。
式(II):
【化6】
[式中、R31は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
32及びR33は、同一でも異なってもよく、ハロゲン原子、OR34基、SR35基又はNR36又はR37基を示す。
11は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
34及びR35基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
36及びR37基は、同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。
36とR37とは、これらが結合する窒素原子とともに、他の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して又は介することなく互いに結合して5~10員の飽和又は不飽和複素環を形成していてもよい。該5~10員の飽和又は不飽和複素環は、1個以上の置換基を有していてもよい。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【0072】
上記一般式(II)で表されるフタロシアニン系化合物は、下記一般式(III)で表される化合物であることが好ましい。
式(III):
【化7】
[式中、R31は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
11、X12及びX13は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
34及びR35基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【0073】
「ハロゲン原子」として、例えば、フッ素、塩素、臭素及び沃素を例示できる。
【0074】
「アルキル基」として、例えば、炭素数1~12の直鎖又は炭素数3~12の分岐鎖 状或いは炭素数3~12の環状アルキル基を例示できる。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基(以下、t-Buともいう)、n-ペンチル基、2-メチルブチル 基、1-メチルブチル基、neo-ペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、シクロヘキシル基、n-へプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、2,4-ジメチルペンチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、2,5-ジメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、2,4-ジメチルヘキシル基、2,2,4-トリメチルペンチル基、t-オクチル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、4-エチルオクチル基、4-エチル-4,5-ジメチルヘキシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、1,3,5,7-テトラメチルオクチル基、4-ブチルオクチル基等を挙げることができる。好ましくは、炭素数1~8の直鎖又は炭素数3~8の分岐鎖状或いは炭素数3~8の環状アルキル基であり、特に好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基である。
【0075】
「アリール基」として、例えば、単環、多環(例えば、2環又は3環)のアリール基 を例示できる。具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等を例示できる。単環又は2環のアリール基が好ましく、フェニル基、ナフ チル基が特に好ましい。
【0076】
「ヘテロアリール基」として、例えば、単環、多環(例えば、2環又は3環)のヘテ ロアリール基を例示できる。具体的には、ピリジル基、ピリミジン基、インドリル基、キ ノリン基、ベンズイミダゾール基、フラニル基、チエニル基、ベンゾフラン基、1,3, 4-チアジアゾール基等を例示できる。特に単環又は2環のヘテロアリール基が好ましい 。
【0077】
上記置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基の、アルキル鎖、アリール環又はヘテロアリール環上の置換基 (アルキル鎖、アリール環又はヘテロアリール環上に置換しうる基)として、例えば、 アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、 アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、環状アミノ基、ハロゲン原子、アシル基、アルコキシカルボニル基、ウレイド基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。該置換基(アルキル鎖、アリール環又はヘテロアリール環上に置換しうる基、以下、置換基と称する)は、アルキル鎖、アリール環又はヘテロアリール環上に、1~5個有していてもよい。
【0078】
例えば、上記置換基を有していてもよいアルキル基が、「置換基を有するアルキル基」である場合、置換基を有するアルキル基として、例えば、具体的には、2-クロロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、ベンジル基、フェネチル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルエチル基、4-ヒドロキシブチル基、2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル基、2-イソプロポキシエチル基、ブタン酸エチル基等を例示することができる。
【0079】
上記置換基を有していてもよいアリール基が、「置換基を有するアリール基」である場 合、置換基を有するアリール基として、例えば、具体的には、2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、2,3-ジフルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、2,4,6-トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、N,N-ジメチルアミノフェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、4-エチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、4-ビフェニル基、4-ヒドロキシフェニル基、2-メトキシフェニル基、4-メチルチオフェニル基、4-(トリフルオロメチル)フェニル基、4-フェノキシフェニル基、4-アセチルフェニル基、4-メトキシカルボニルフェニル基等を例示することができる。
【0080】
上記置換基を有していてもよいヘテロアリール基が、「置換基を有するヘテロアリール 基」である場合、置換基を有するヘテロアリール基として、例えば、具体的には、2-メチルピリジル基、2-クロロピリジル基、6-フルオロベンゾチアゾール基、6-クロロベンゾチアゾール基、6-メチルベンゾチアゾール基、6-メトキシベンゾチアゾール基、5-メチル-1,3,4-チアジアゾール基、5-メチルチオ-1,3,4-チアジアゾール基、5-トリフルオロメチル-1,3,4-チアジアゾール基等を例示することができる。
【0081】
Mで示される2価の金属として、例えば、周期律表第3族~第15族に属する金属原 子を例示できる。例えば、具体的には、Cu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Pb、Rh、Pd 、Pt、Mn、Sn、Pb等を例示できる。
【0082】
Mで示される3価若しくは4価の金属化合物として、例えば、周期律表第3族~第1 5族に属する金属の、ハロゲン化物、水酸化物及び酸化物等を例示できる。具体的には、AlCl、AlOH、InCl、FeCl、MnOH、SiCl、SnCl、GeCl、Si(OH)、Si(OCH、Si(OPh)、Si(OSiCH、Sn(OH)、Ge(OH)、VO、TiO等を挙げることができる。なお、上記Phは、フェニル基を示す。
【0083】
前記フタロシアニン系化合物が、オキソバナジウム、銅、アルミニウム、コバルトおよび亜鉛から選択される中心金属を有するフタロシアニン系染料であることが好ましい。
【0084】
色素(E)は、下記式で表される少なくともいずれかのフタロシアニン系化合物を含むことが好ましい。
【化8】
【0085】
1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(E)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.2質量部含まれることが好ましく、0.002~0.18質量部含まれることがより好ましく、0.004~0.16質量部含まれることがさらにより好ましく、0.005~0.15質量部含まれることが特に好ましく、0.01~0.1質量部含まれることがさらに特に好ましい。
【0086】
1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(E)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.2質量部含まれる場合、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品は、より長波長の光をカット出来るので、より優れる。
【0087】
1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(E)は、市販品を用いることができる。例えば、山田化学工業製FDN-010(商品名)等を例示することができ、それを使用することができる。
【0088】
以上の成分に加えて、実施の形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物へは、例えば、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させる成分である紫外線吸収剤を、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品の用途に応じて適宜用いることができる。
【0089】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物等の、ポリカーボネート樹脂に通常配合される紫外線吸収剤を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-butyl-2-hydroxy-5-methylphenyl)-5-chloro-2H-benzotriazole、2-(3,5-di-tert-pentyl-2-hydroxyphenyl)-2H-benzotriazole、2-(2H-benzotriazole-2-yl)-4-methyl-6-(3,4,5,6-tetrahydrophthalimidylmethyl)phenol、2-(2-hydroxy-4-octyloxyphenyl)-2H-benzotriazole、2-(2-hydroxy-5-tert-octylphenyl)-2H-benzotriazole、2-[2’-hydroxy-3,5-di(1,1-dimethylbenzyl)phenyl]-2H-benzotriazole、2,2’-Methylenbis[6-(2H-benzotriazol-2-yl)4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol]などが挙げられる。なかでも、特に、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が好適であり、例えば、BASF社製のTINUVIN 329(TINUVINは登録商標)、シプロ化成(株)製のシーソーブ709、ケミプロ化成(株)製のケミソーブ79等が商業的に入手可能である。
【0091】
トリアジン系化合物としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシフェニル-4-ヘキシルオキシフェニル)1,3,5-トリアジン、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられ、例えば、BASF社製のTINUVIN 1577等が商業的に入手可能である。
【0092】
シュウ酸アニリド系化合物としては、例えば、クラリアントジャパン(株)製のSanduvor VSU等が商業的に入手可能である。
【0093】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2、4-dihydroxybenzophenone、2-hydroxy-4-n-octoxybenzophenoneなどが挙げられる。
【0094】
紫外線吸収剤の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0~1.0質量部であり、0~0.5質量部であることが好ましい。紫外線吸収剤の量が1.0質量部を超える場合は、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の初期の色相が低下するおそれがある。また、紫外線吸収剤の量が0.1質量部以上の場合は、特に、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させる効果が大きく奏される。
【0095】
さらに、実施の形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤、他の酸化防止剤、離型剤(例えば、理研ビタミン(株)製 リケマールS-100A等が挙げられる)、軟化剤、帯電防止剤及び衝撃性改良剤等の各種添加剤、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等が適宜配合されていてもよい。
【0096】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、着色剤(B)、及びリン酸エステル系化合物又はリン酸(C)を混合し、必要に応じて、リン系酸化防止剤(D)、色素(E)、前記各種添加剤、及び芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等を混合する製造方法を例示することができる。本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはなく、各成分の種類及び量を適宜調整することができる。成分の混合方法も特に制限されることはなく、例えば、タンブラー、及びリボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法を例示できる。これらの方法により、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。
【0097】
前記のごとく得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの形状及び大きさには特に限定がなく、一般的な樹脂ペレットが有する形状及び大きさであればよい。例えば、ペレットの形状としては、楕円柱状、円柱状等が挙げられる。ペレットの大きさとしては、長さが2~8mm程度であることが好適であり、楕円柱状の場合、断面楕円の長径が2~8mm程度、短径が1~4mm程度であることが好適であり、円柱状の場合、断面円の直径が1~6mm程度であることが好適である。なお、得られたペレット1つずつがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体を形成する全てのペレットがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体の平均値がこのような大きさであってもよく、特に限定はない。
【0098】
本発明の実施形態の樹脂組成物の熱安定性は、成形品の10分間滞留後のΔが200nm以下であることが好ましく、成形品の30分間滞留後のΔが200nm以下であることがより好ましく、成形品の60分間滞留後のΔが200nm以下であることが更に好ましい。樹脂組成物の熱安定性は、実施例記載の方法で測定することができる。
【0099】
本発明の実施形態の樹脂組成物の信頼性は、成形品を85℃95%RH条件下で240時間静置後の分子量が16000以上であることが好ましく、成形品を120℃の条件下で240時間静置後の分子量が16000以上であることがより好ましい。樹脂組成物の信頼性は、実施例記載の方法で測定することができる。
【0100】
本発明の実施形態の成形品は、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得ることができ、センサー用、フィルター用等に好適に使用することができる。
【0101】
本発明が目的とする成形品を得ることができる限り、成形品の製造方法は特に限定されることはなく、例えば、公知の射出成形法、圧縮成形法等により芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。
【0102】
本発明の実施形態の成形品は、例えば、Lidar用センサーカバー等として好適である。
【0103】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例0104】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0105】
本実施例で使用した成分を以下に示す。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
(a1)ビスフェノールAと塩化カルボニルとから合成されたポリカーボネート樹脂
粘度平均分子量:18800、住化ポリカーボネート(株)製のSDポリカ 200-20(商品名)、「SDポリカ」は住化ポリカーボネート(株)の登録商標
【0106】
(B)極大吸収波長が1200nm未満の色素
(b1)アントラキノン系色素(Solvent Blue 97)
バイエルAG製 Macrolex Blue RR(商品名) 、最大吸収波長:630nm
【化9】
【0107】
(b2)アントラキノン系色素(Solvent Green 28)
バイエルAG製 Macrolex Green G(商品名)、最大吸収波長:690nm
【化10】
【0108】
(b3)アントラキノン系色素(SD-3、混合物)
研栄興業(株)社製、最大吸収波長:630nm

(b4)アントラキノン系色素(Solvent Green 3)
三井化学ファイン(株)社製 Mitsui PS Green B(商品名)、最大吸収波長:640nm
【化11】
【0109】
(b5)メチン系色素(Disperse Yellow 201)
バイエルAG製 Macrolex Yellow 6G(商品名)、最大吸収波長:440nm
【化12】
【0110】
(b6)ペリレン系色素(Solvent Red 179)
バイエルAG製 Macrolex Red E2G(商品名)、最大吸収波長:480nm
【化13】
【0111】
(b7)フタロシアニン系色素(FDN-001 商品名)
山田化学工業(株)製、極大吸収波長:754nm
(b8)フタロシアニン系色素(FDN-002 商品名)
山田化学工業(株)製、極大吸収波長:807nm
(b9)フタロシアニン系色素(FDN-023 商品名)
山田化学工業(株)製、極大吸収波長:790nm
【0112】
(b10)フタロシアニン系色素(FDN-024 商品名)
山田化学工業(株)製、極大吸収波長:830nm
【0113】
(b11)アントラキノン系色素(SDO-C33 商品名)
有本化学工業(株)、極大吸収波長:846nm
(b12)複素環系色素(SDO-C8 商品名)
有本化学工業(株)製、極大吸収波長:785nm
【0114】
(b13)フタロシアニン系色素(FDN-004 商品名)
山田化学工業(株)製、極大吸収波長:880nm
(b14)フタロシアニン系色素(FDN-006 商品名)
山田化学工業(株)製、極大吸収波長:927nm
【0115】
(C)リン酸又はリン酸エステル系化合物
(c1)リン酸エステル系化合物
リン酸ステアリル混合エステル(リン酸モノステアリル約50モル%とリン酸ジステアリル約50モル%の混合物;(株)ADEKA製アデカスタブ「AX-71(商品名)」
【化14】
(c2)リン酸
ナカライテスク社製リン酸(HPO
【0116】
(D)リン系酸化防止剤
(d1)リン系酸化防止剤
クラリアントケミカルズ社製HOSTANOX P-EPQ(商品名)
[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-
ブチルフェノキシ)フォスフィン]
添加剤
【0117】
(E)極大吸収波長が1000nm以上1200nm以下の色素
(e1)フタロシアニン系色素(FDN-010 商品名)
山田化学工業(株)製、極大吸収波長:1014nm
【0118】
(X)離型剤
(x1)理研ビタミン(株)製 リケマールS-100A(商品名)
【0119】
これらの成分を表1~3に示す質量比で配合し、実施例1~18及び比較例1~4のポリカーボネート組成物を製造した。
【0120】
実施例1~18及び比較例1~4のポリカーボネート組成物の各々を、下記の評価方法で評価した。
(1)熱安定性
熱安定性を評価するため、ポリカーボネート樹脂組成物を日本製鋼所製J100 E2Pを用いてシリンダー温度320℃、金型温度100℃にて成形し、次いでそれをシリンダー内(320℃)で10、30、60分間滞留させて、成形品(1mm)を得た。成形品の光学スペクトルを日立ハイテクサイエンス製のUH4150を用いて透過スペクトルを評価し、光学特性の変化を以下のように定量化した。
【0121】
1200nmから500nmまで2nm毎に透過率を測定し、透過率が低下し始めた波長(以下、低下開始波長という)から透過率が低下しきった波長(以下、低下完了波長という)の差を測定した。低下開始波長―低下完了波長(Δ)が、200nm以下の場合を良品とした。200nm以上の場合は不良とした。尚、特定波長選択フィルターにおいては、光学スペクトルが急峻であることが好まれ、波長の差が大きい場合、すなわち上記Δが、200nm以上の場合(急峻でない場合)はフィルターとして不具合を生じる場合があるため、好ましくない。
【0122】
(2)信頼性
実施例1~18及び比較例1~4のポリカーボネート樹脂組成物の各々を、下記の評価方法で評価した。
【0123】
ポリカーボネート樹脂組成物を日本製鋼所製J100 E2Pを用いてシリンダー温度320℃、金型温度100℃にて成形し、その成形品を85℃95%RH、及び、耐熱老化性評価120℃の条件下でそれぞれ240時間静置して、(評価用)試料を得た。それの重量平均分子量を測定した。重量平均分子量が、16000以上の場合を良品とし、16000未満の場合を不良とした。重量平均分子量は、GPC装置として日本ウォーターズ社製Alliance HPLCシステムを使用して測定した。GPC用カラムとしては、アジレント・テクノロジー社製のPLgel 5μm MiniMIX-Cを使用した。溶媒としてジクロロメタンを用いて、試料を溶かして溶液を準備した。その溶液を、溶離液としてTHFを使用して、40℃で、流速0.3mL/minで、カラムに流通させて、測定値を得た。重量平均分子量が既知のサンプル(単分散のポリスチレン)を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の検量線を作成して、測定値を校正して、目的とする重量平均分子量を得た。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
実施例1~18のポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、極大吸収波長が1200nm未満の色素を含む着色剤(B)、及びリン酸エステル系化合物又はリン酸(C)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、着色剤(B)を0.001~2.0質量部で含み、リン酸又はリン酸エステル系化合物(C)について、リン酸エステル系化合物(C1)を0.005~0.3質量部で含む又はリン酸(C2)を0.0001~0.04質量部で含む。
【0129】
実施例1~18のポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性及び信頼性に優れ、フィター用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物として適する。
【0130】
比較例1および2の成形品は、透過率低下開始波長から、低下完了波長までの波長幅が大きいため、Lidarで使用される850-950nmの近赤外線を適切に透過する事が出来ない。その為、Lidarの検出能力が低下する恐れがある。これに対し、本発明のリン酸エステル系化合物または、リン酸を使用した実施例1~18の場合、透過率低下開始波長及び、波長幅は滞留時間が60分間においても大きな変化は見られず、850nm-950nmの近赤外線を適切に透過させる事が可能になり、波長選択フィルターとして優れている事が明らかである。
【0131】
比較例3,4のようにリン酸エステル、又は、リン酸を過剰量配合した場合、信頼性試験後の分子量低下が著しく、ポリカーボネート樹脂に求められる耐衝撃性が損なわれる。Lidarカバーとして用いられた場合、路面の小石等に衝突し、カバーが破損するなどの不具合が発生する恐れがある。これに対して、リン酸エステル、及び、リン酸を適切な量を添加した場合においては、著しい分子量低下は見られておらず、ポリカーボネート樹脂の特性を維持出来る事がわかる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、通常の装置を用いて成形加工して、成形品を製造することができ、その成形の間に光学特性に実質的な変化を生じない。よって、本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、適切に波長選択性を有し、光学特性に変化を実質的に生じない成形品を提供することができる。その成形品は、Lidar用途に好適に使用できる。