(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088078
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】抗菌性粒子、抗菌性粒子を用いたカビ、細菌の防除方法、および、抗菌性粒子を用いた衣服、住居向け抗菌製品
(51)【国際特許分類】
A01N 35/02 20060101AFI20220607BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20220607BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20220607BHJP
A01N 31/06 20060101ALI20220607BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220607BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220607BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220607BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
A01N35/02
A01N25/12
A01N31/02
A01N31/06
A01P3/00
A01P1/00
A61L9/01 M
A61L9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200327
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】杉山 祐樹
【テーマコード(参考)】
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA18
4C180AA19
4C180CA04
4C180CA07
4C180EB03X
4C180EB04X
4C180EB05Y
4C180EB12X
4C180EB22Y
4C180EB30Y
4C180EC01
4H011AA02
4H011AA03
4H011BB03
4H011BB05
4H011DA02
(57)【要約】
【課題】安全な防黴防虫成分を長期間にわたり空間に徐放し続ける抗菌性粒子を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌性粒子は、セルロース等の多孔質粒子中に熱溶融性樹脂および抗菌性薬剤を包埋してなり、多孔質粒子、熱溶融性樹脂、抗菌性薬剤の合計重量に対する抗菌性薬剤の重量が10%以上~40%未満とすることで、前記抗菌性薬剤の揮発量をコントロールでき、前記抗菌性薬剤を適宜選択することによって、特定のカビや細菌を防除することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性樹脂と抗菌性薬剤を包埋した多孔質粒子からなる抗菌性粒子であって、抗菌性薬剤がシンナムアルデヒド、リナロール、カルバクロール、1-オクテン-3-オール、シトラールの少なくとも一つから選択され、多孔質粒子、熱溶融性樹脂、抗菌性薬剤の合計重量に対する抗菌性薬剤の重量が10%以上~40%未満であることを特徴とする抗菌性粒子。
【請求項2】
熱溶融性樹脂と抗菌性薬剤を包埋した多孔質粒子からなる抗菌性粒子であって、25℃における抗菌粒子からの抗菌薬剤の揮発量が、前記抗菌性粒子1g当たり20mg以上であることを特徴とする請求項1記載の抗菌性粒子。
【請求項3】
熱溶融性樹脂と抗菌性薬剤を包埋した多孔質粒子からなる抗菌性粒子であって、多孔質粒子がセルロースであることを特徴とする請求項1または2記載の抗菌性粒子。
【請求項4】
前記抗菌性粒子を用いたカビ、細菌の防除方法であって、Aspergillu属、Cladosporium属、Penicillium属のカビ、および、Staphylococcus属、Escherichia属の細菌の防除することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のカビ、細菌の防除方法。
【請求項5】
前記抗菌性粒子を、抗菌性薬剤が通過可能な材料からなる容器包装材に封入したことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の衣服、住居向け抗菌製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性粒子、抗菌性粒子を用いたカビ、細菌の防除方法、および、抗菌性粒子を用いた衣服、住居向け抗菌製品に関する。
【背景技術】
【0002】
衣服や住居に繁殖するカビや細菌に対し、様々な防除製品が市販されている。一部には人体やペットに悪影響を与えたり、不快臭のある防黴成分や防虫成分もあり、安全で快適に使用できるものが求められている。また衣装ケースやタンス、押し入れなどの空間に満遍なく防カビ成分を行き渡らせる方法として揮発性の薬剤を用いる場合があるが、薬剤の揮発が早いために効果が長続きせず頻繁に取り換えの作業が生じるなどの問題があった(特許文献1)。
【0003】
特許文献2には防カビ性の薬剤を装置により揮発させ部屋中に充満させる方法が記載されている。しかしながら防カビ剤を充満させるための送風機構が必要であったり、防カビ剤の処理後に換気が必要であったりと取り扱い性に難点があった。
【0004】
さらに、殺菌・抗菌効果のある金属、例えば銀、銅、亜鉛等をゼオライト等の無機担体に吸着させた微粉末からなる無機系抗菌剤が各種知られている。しかし、これらの無機担体はいずれも微粉末であるので取扱いにくく、溶出速度が無機担体の金属担持力だけに依存するので 、徐放性の点でも不十分であった(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-224214号公報
【特許文献2】特開2017-333240号公報
【特許文献3】特開2006-8672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安全な防黴防虫成分を長期間にわたり空間に徐放し続ける抗菌性粒子を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様に係る、熱溶融性樹脂と抗菌性薬剤を包埋した多孔質粒子であって、抗菌性薬剤がシンナムアルデヒド、リナロール、カルバクロール、1-オクテン-3-オール、シトラールの少なくとも一つから選択され、多孔質粒子、熱溶融性樹脂、抗菌性薬剤の合計重量に対する抗菌性薬剤の重量が10%以上~40%未満であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る抗菌性粒子であって、25℃における前記抗菌性粒子からの抗菌性薬剤の揮発量が、抗菌性粒子1gあたり20mg以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る抗菌性粒子であって、前記多孔質粒子がセルロースであることを特徴とする
また、本発明の一態様に係る抗菌性粒子を用いたカビ、細菌の防除方法であって、Aspergillu属、Cladosporium属、Penicillium属のカビ、および、Staphylococcus属、Escheri
chia属の細菌の防除方法であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る衣服、住居向け抗菌製品であって、前記抗菌性粒子を用いた薬剤が通過可能な材料からなる容器包装材に封入したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な抗菌性を有し、かつ、安全な防黴防虫成分を長期間にわたり空間に徐放可能な抗菌性粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態にかかる抗菌性粒子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態の抗菌性粒子について説明する。ここで、図面は模式的なものであり、大きさや比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す各実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成する材質、形状、及び構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の抗菌性粒子4は、
図1に示すように、多孔質粒子1中に熱溶融性樹脂2および抗菌性薬剤3を包埋してなり、抗菌性薬剤の包埋量を調整することにより、前記抗菌性薬剤の揮発量をコントロールでき、前記抗菌性薬剤を適宜選択することによって、特定のカビや細菌を防除できる。
【0015】
多孔性粒子1は、表面に開口する多数の孔を有し、比表面積が0.1m2/g以上であり、熱溶融性樹脂2および抗菌性薬剤3が疎水性物質の場合は親水性であることが望ましい。親水性多孔性粒子の孔の中に疎水性物質が埋め込まれると、性質の異なる2相の界面にわずかな隙間が生じる。このため、このわずかな隙間を通って、抗菌性薬剤が徐々に外部に放出されるので、長期間に亘って徐放効果が得られる。
【0016】
さらに、多孔性粒子1は、融点が低いこと、室温で固体であること、熱溶融性樹脂2および抗菌性粒子3と化学反応しないといった特徴を備えていることが必要である。これらを満たす多孔性粒子としては、セルロース、セラミクス、ポリビニルアルコール等の樹脂からなる粒子が挙げられるが、化学的安定性が高い点からセルロースからなる粒子が好ましい。
【0017】
セルロースからなる多孔質粒子1は熱溶融性樹脂2と抗菌性薬剤3を包埋するための空隙を有し、粒子の体積に対する空隙率は80%~90%であることが好ましい。また良好な加工性および取り扱い性を確保するため、粒子径1mm~10mmであることが好ましい。必要に応じて着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤などの添加剤を含んでもよい。
【0018】
具体的には、レンゴー社製ビスコパールA、JNC社製セルフロー-C-5、旭化成社製セルフィア、セルオス等を挙げることができるがこの限りではない。
【0019】
熱溶融性樹脂2は抗菌性薬剤3の沸点より低温で溶融し、常温では固体であり、抗菌性薬剤と相溶する材料を適宜選択する。例えばワックス:ミツロウ、ラノリン、石油ワックス、カルナバロウ高級脂肪酸:パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等が好ましく用いられる。熱溶融性樹脂を用いることで、抗菌性薬剤単体より揮発スピードが抑えられる効果がある。スピードを遅く少しずつ抗菌性薬剤を揮発させたい場合は、
前述の10%以上40%未満の範囲内で熱溶融性樹脂の割合を多くすることが有効である。必要に応じて抗菌性薬剤と相溶させやすくするための乳化剤を添加しても構わない。
【0020】
抗菌性薬剤3には、Aspergillus(アスペルギルス)属、Penicillium(ペニシリウム)属、Cladosporium(クラドスポリウム)属などのカビおよびStaphylococcus(スタフィロコッカス)属、 HYPERLINK "https://en.wikipedia.org/wiki/Escherichia" \o "w:Escherichia" Escherichia(エスケリキア)属に抗菌効果があることを確認されている、シンナムアルデヒド、リナロール、カルバクロール、1-オクテン-3-オール、シトラールを用いる。これらはアロマテラピーに用いられる植物精油にも含まれる成分であることから空間中に揮発しても安全であり不快臭の心配もない。特にシンナムアルデヒドは少量でも抗菌効果に優れており、好ましく使用することができる。また上記の成分を2種以上混合して用いても構わない。
【0021】
抗菌性薬剤3は、多孔質粒子1、熱溶融性樹脂2、抗菌性薬剤3の合計重量に対し10%以上40%未満含まれることで十分な抗菌性を発現することができる。これより少ない場合は抗菌性が低下し、薬剤が揮発しきる時間が短く十分な使用期間を担保できない。また、40%以上含まれる場合は、匂いが強くなりすぎ、多孔質粒子1から抗菌性薬剤3が流出し、周囲を汚すなどの恐れがある。
【0022】
徐放性に関しては、抗菌性粒子4の重量に対して、25℃における抗菌性薬剤3の揮発量が、抗菌性粒子1gに換算して、20mg以上であることが好ましい。20mgより少ないと、抗菌対象に対して薬剤の放出量が十分に放出されず抗菌性が低下する。
【0023】
抗菌性粒子4を製造する方法としては、熱溶融性樹脂2と抗菌性薬剤3を加熱しながら混錬し、そこへ多孔質粒子1を加えさらに混錬する。多孔質粒子のため、混錬するだけで樹脂と薬剤が吸収される。一般的には、混ざり合っただけでは樹脂や薬剤でべたべたした半固形のような状態になってしまうが、この場合、一粒ずつ独立したビーズの形状を保っているため、多孔性粒子1の空隙に、熱溶融性樹脂2と抗菌性薬剤3が包埋していると考えられる。このようにして製造した抗菌性粒子4は、多孔質粒子1の空隙から徐々に抗菌性薬剤が揮発することで長時間抗菌性を維持することができる。
【0024】
得られた抗菌性粒子4は、抗菌性薬剤3が通過可能な材料からなる容器包装に封入することで、さまざまな場所に設置することができる。例えば不織布や紙箱、籠状のプラスチックケースなどに抗菌性粒子を封入し、押し入れやタンス、下駄箱などに設置可能である。
【実施例0025】
[実施例1]
多孔質粒子1、熱溶融性樹脂2、抗菌性薬剤3の合計重量に対する抗菌性薬剤3の重量(以下薬剤含有量とする)が20%となるよう熱溶融性樹脂2としてステアリン酸52g、抗菌性薬剤3としてシンナムアルデヒド38gを70℃で加熱しながらステアリン酸が溶融するまで混錬した。次に多孔質粒子1としてレンゴー製ビスコパールA(粒子径2mmタイプ)100gを投入し、ビスコパールがステアリン酸およびシンナムアルデヒドを吸収しべたつきがなくなるまで混錬し、抗菌性粒子4を得た。
【0026】
(抗菌性評価)
50mmシャーレ中のポテトデキストロース寒天培地にAspergillus niger(クロコウジカビ)の胞子液(106.2cfu/ml)50μlを摂取し、シャーレの蓋側に上記で得た抗菌性粒子0.1gを静置して25℃15時間培養を行った。対照として抗菌性粒子なしで培養するシャーレも用意した。培養後、薄片に切り出した培地をスライドガラスに
乗せ、光学顕微鏡で観察した。
【0027】
[実施例2]
抗菌性薬剤3としてリナロール38gを使用した以外は実施例1と同様にして、抗菌性粒子を得た。
【0028】
[実施例3]
抗菌性薬剤3としてカルバクロール38gを使用した以外は実施例1と同様にして、抗菌性粒子を得た。
【0029】
[実施例4]
抗菌性薬剤3として1-オクテン-3-オール38gを使用した以外は実施例1と同様にして、抗菌性粒子を得た。
【0030】
[実施例5]
抗菌性薬剤3としてシトラール38gを使用した以外は実施例1と同様にして、抗菌性粒子を得た。
【0031】
[実施例6]
薬剤含有量3が30%となるよう熱溶融性樹脂2としてステアリン酸40g、抗菌性薬剤としてシンナムアルデヒド60gを使用した以外は実施例1と同様にして、抗菌性粒子を得た。
【0032】
[比較例1]
薬剤含有量3が45%となるよう熱溶融性樹脂2としてステアリン酸10g、抗菌性薬剤としてシンナムアルデヒド90gを使用した以外は実施例1と同様にして、抗菌性粒子を得た。
【0033】
[比較例2]
薬剤含有量が5%となるよう熱溶融性樹脂2としてステアリン酸52g、抗菌性薬剤としてシンナムアルデヒド8gを使用した以外は実施例1と同様にして、抗菌性粒子を得た。
【0034】
実施例1~6、比較例1~2の胞子発芽数を対照の胞子発芽数で除した「胞子発芽率%」、実施例1~6、比較例1~2の菌糸長を対照の菌糸長で除した「菌糸成長率%」を表1に示す。
【0035】
【0036】
実施例1~6、比較例1~2の抗菌性粒子を0.02g測り取りガスクロマトグラフィーで25℃における抗菌性薬剤の揮発量を測定し、抗菌性粒子1g当たりの揮発量に換算したものを表2に示す。
【0037】
【0038】
表1の結果によれば、いずれの実施例においても胞子発芽率、菌糸成長率が比較例2よりも抑えられており、良好な抗菌性を有しているといえる。また、表2の結果によれば、抗菌性粒子1g当たりの抗菌性薬剤の揮発量が、20mg以上であることから良好な徐放性を有しているといえる。