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特開2022-88181セルロース繊維の湿潤シート及び成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088181
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】セルロース繊維の湿潤シート及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20220607BHJP
   D21J 1/00 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
D21H11/18
D21J1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200476
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】591008199
【氏名又は名称】ビューテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512133502
【氏名又は名称】ヤマセイ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田知人
(72)【発明者】
【氏名】宇野 正志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和男
(72)【発明者】
【氏名】三好 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴章
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF46
4L055BF00
4L055CB13
4L055CE71
4L055CF01
4L055EA08
4L055EA09
4L055EA13
4L055EA16
4L055EA25
4L055FA13
4L055FA18
(57)【要約】
【課題】成形体を製造する上で破断し難く、形状が安定しており、加工する上での取り扱いが容易な湿潤シート及び、当該湿潤シートから製造される成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題は、パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を有し、含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上である、ことを特徴とする湿潤シート、及び、湿潤シートを加熱及び加圧して成形体を得る加熱加圧工程を備え、前記湿潤シートは、パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を有し、含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上となるものである、ことを特徴とする成形体の製造方法、によって解決される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を有し、
含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上、10mm以下である、
ことを特徴とする湿潤シート。
【請求項2】
前記セルロース微細繊維が、セルロースナノファイバーと当該セルロースナノファイバーよりも平均繊維径が大であるミクロフィブリル化セルロースのうちの少なくとも一方からなる、
請求項1に記載の湿潤シート。
【請求項3】
以下に示す式1から求まる厚み変化率が0.4以下である、
請求項1又は請求項2に記載の湿潤シート。
[式1]
厚み変化率=((厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)-(厚み方向に100kPaの圧力を5秒間加えた後の湿潤シートの厚み))÷(厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)
【請求項4】
前記セルロース微細繊維の固形分濃度が10質量%以上である、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の湿潤シート。
【請求項5】
湿潤シートを加熱及び加圧して成形体を得る加熱加圧工程を備え、
前記湿潤シートは、パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を有し、含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上、10mm以下となるものである、
ことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項6】
パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を混合してスラリーを調成する調成工程と、
対向する2枚の網状シートで前記スラリーを挟んで加圧して脱水し、当該スラリーを湿潤シートに形成する形成工程と、
前記湿潤シートを加熱及び加圧して成形体を得る加熱加圧工程を備え、
前記湿潤シートは、含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上、10mm以下となるものである、
ことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項7】
前記セルロース微細繊維が、セルロースナノファイバーと当該セルロースナノファイバーよりも平均繊維径が大であるミクロフィブリル化セルロースのうちの少なくとも一方からなる、
請求項5又は請求項6に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
以下に示す式1から求まる厚み変化率が0.4以下である、
請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
[式1]
厚み変化率=((厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)-(厚み方向に100kPaの圧力を5秒間加えた後の湿潤シートの厚み))÷(厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)
【請求項9】
前記セルロース微細繊維の固形分濃度が10質量%以上である、
請求項5~請求項8のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
前記脱水工程は、実質加熱しないで行う工程である、
請求項5~請求項9のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維の湿潤シート及び成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノレベルまで微細化し、物質単体が持つ性状とは異なる、新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。セルロース系原料についてもナノテクノロジーが応用され、パルプから化学処理、粉砕処理等を行ってナノレベルに解繊して得られるセルロース微細繊維は、強度、弾性等に優れ各種用途への活用が期待される。特に、セルロース微細繊維をスラリー化して、乾燥・成形処理して製造される成形体は、高強度性を有し、かつ再利用可能な有機性の資源であるので、汎用性に富む材料として有用である。例えば、特許文献1は、「蒸気透過手段を使用してなる型にセルロースナノファイバー(CNF)含有スラリーを充填し、CNF含有スラリーに荷重を加えて濃縮することを特徴とするCNFの成形方法」を提案している。同文献は、「乾燥条件の調整が容易で収縮やひび割れが無く安定的に高度な3次元構造のCNF成形物を高い生産性で得ることができるCNFの成形方法及びその成形方法によって得られるCNF成形体を提供することを目的とする」ものであるとしている。
【0003】
しかしながら、同文献による方法で、3次元形状の成形体を製造する場合、スラリーを乾燥させる場合において厚みの異なる部位があると、均一に荷重が掛からないから当該部位で乾燥性に差が生じて破断する結果を招く。また、スラリーは形状が不安定であり、取り扱いが容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-94683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決する主たる課題は、成形体を製造する上で破断し難く、形状が安定しており、加工する上での取り扱いが容易な湿潤シート及び、当該湿潤シートから製造される成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
スラリーは水分を多量に含むため、形状が定まりにくい。このスラリーを乾燥させる場合、特許文献1では、多孔質体にスラリーを乗せ、スラリーの上部を別の多孔質体で覆い、この2つの多孔質体でスラリーに圧力を加えて押しつぶした状態で、乾燥させる手法を採っている。この手法では、スラリーに対して、重力方向に圧力を掛ける場合は、厚み差が少ない成形体が成形されるが、重力方向以外の方向に圧力をかける場合は、自重によりスラリーに濃度の偏りが発生するので、厚み差が少なくない成形体が成形される。また、濃度の偏りのあるスラリーを乾燥させると、収縮率の差により、破断が発生する。
【0007】
発明者等は、鋭意研究を重ね、破断が発生し難い成形体を成形するには、成形体の原料をシート状とするのが好ましいとする考えに至った。シート状であれば、スラリーのような濃度の偏りが発生し難く、圧力を掛ける向きがどの方向であっても、収縮率の差がほぼないので、破断が発生し難い成形体を成形することができる。以上の点を考慮して、上記課題を解決した発明の態様が、次に示すものである。
(第1の態様)
パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を有し、
含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上、10mm以下である、
ことを特徴とする湿潤シート。
【0008】
セルロース微細繊維のみからなる湿潤シートからは、十分な脱水性を備えた成形体を得ることができない場合がある。しかしながら、パルプとセルロース微細繊維を有する湿潤シートであれば、成形された成形体が十分な脱水性を有したものとなる。また、当該湿潤シートは、有形であり、含水率が60質量%以上、かつ厚みが上記範囲なので、変形が容易であり、安定した形状に加工できる。さらに、湿潤シートは、パルプやセルロース微細繊維が、スラリーのように湿潤シート内で自由に移動することがなく、固定されたものとなっている。また、湿潤シートは、成形体を製造する際に、スラリーの流動に起因する破断が発生し難く、嵩張り具合が相対的に大きくないので加工する上での取り扱いが容易なものとなっている。
【0009】
(第2の態様)
前記セルロース微細繊維が、セルロースナノファイバーと当該セルロースナノファイバーよりも平均繊維径が大であるミクロフィブリル化セルロースのうちの少なくとも一方からなる、
第1の態様の湿潤シート。
【0010】
湿潤シートに用いるセルロース微細繊維は、セルロースナノファイバーであってもいいし、ミクロフィブリル化セルロースであってもよし、セルロースナノファイバーとミクロフィブリル化セルロースが混合されたものであってもよい。また、湿潤シートは、パルプのみでは保水性が不十分であるが、優れた保水性を有するセルロースナノファイバーとミクロフィブリル化セルロースのうちの少なくとも一方が含まれているため、保水性が備わったものとなっている。
【0011】
(第3の態様)
以下に示す式1から求まる厚み変化率が0.4以下である、
第1又は第2の態様の湿潤シート。
[式1]
厚み変化率=((厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)-(厚み方向に100kPaの圧力を5秒間加えた後の湿潤シートの厚み))÷(厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)
【0012】
第1の態様に加え、厚み変化率が0.4以下であるので、本態様の湿潤シートが厚み方向に変形し難く、成形体を製造する上で、厚み方向の変形に伴う破断が発生し難い、という効果が奏される。また、当該湿潤シートは、厚み方向の変形が生じ難いので、加圧及び加熱した際にも、部分的な凹凸ができにくく、均質な成形体を製造することができる。
【0013】
(第4の態様)
前記セルロース微細繊維の固形分濃度が10質量%以上である、
第1~第3の態様のいずれかの態様の湿潤シート。
【0014】
セルロース微細繊維が含まれた成形体は、強度が相対的に大きなものとなる。本態様の湿潤シートはセルロース微細繊維が上記濃度含まれているので、当該湿潤シートから十分な強度の成形体を製造できる。
【0015】
(第5の態様)
湿潤シートを加熱及び加圧して成形体を得る加熱加圧工程を備え、
前記湿潤シートは、パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を有し、含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上、10mm以下となるものである、
ことを特徴とする成形体の製造方法。
【0016】
パルプやセルロース微細繊維は、湿潤シートを形成する材料であり、スラリーを形成する材料のように自由に移動するものではない。スラリーであれば、加工する際に、自重でスラリー全体の形状が変形するが、本態様は、湿潤シートなので湿潤シートを形成するパルプやセルロース微細繊維が、湿潤シート内で固定され、濃度に偏りが発生し難いので、加工する際に破断が発生し難く、均質な成形体を製造できる。
【0017】
(第6の態様)
パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を混合してスラリーを調成する調成工程と、
対向する2枚の網状シートで前記スラリーを挟んで加圧して脱水し、当該スラリーを湿潤シートに形成する形成工程と、
前記湿潤シートを加熱及び加圧して成形体を得る加熱加圧工程を備え、
前記湿潤シートは、含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上、10mm以下となるものである、
ことを特徴とする成形体の製造方法。
【0018】
本態様では、加工工程でスラリーをシート状に加工して湿潤シートが得られる。湿潤シートは、シート状であり、自重で形状が変化し難く、また、パルプやセルロース微細繊維の一部を零したり、欠損させたりして原料をロスすることは稀であり、また、取り扱いが容易である。
【0019】
(第7の態様)
前記セルロース微細繊維が、セルロースナノファイバーと当該セルロースナノファイバーよりも平均繊維径が大であるミクロフィブリル化セルロースのうちの少なくとも一方からなる、
第5又は第6の態様の成形体の製造方法。
【0020】
第2の態様と同様の効果を奏する。
【0021】
(第8の態様)
以下に示す式1から求まる厚み変化率が0.4以下である、
第5~第7の態様のいずれかの態様の成形体の製造方法。
[式1]
厚み変化率=((厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)-(厚み方向に100kPaの圧力を5秒間加えた後の湿潤シートの厚み))÷(厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)
【0022】
第3の態様と同様の効果を奏する。
【0023】
(第9の態様)
前記セルロース微細繊維の固形分濃度が10質量%以上である、
第5~第8の態様のいずれかの態様の成形体の製造方法。
【0024】
第4の態様と同様の効果を奏する。
【0025】
(第10の態様)
前記脱水工程は、実質加熱しないで行う工程である、
第5~第9の態様のいずれかの態様の成形体の製造方法。
【0026】
加熱して水分を気化させると、湿潤シート内で局所的に含水率が変化し、湿潤シート全体として含水率にムラが発生する場合がある。実質加熱しないことで、水分の蒸発に伴う気化が起こり難くなるので、セルロース微細繊維の濃度の偏りを防止できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、成形体を製造する上で破断し難く、形状が安定しており、加工する上での取り扱いが容易な湿潤シート及び、当該湿潤シートから製造される成形体の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】湿潤シートの製造方法の説明図である。
図2】湿潤シート及び成形体の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0030】
本形態の湿潤シートは、パルプと、平均繊維径が10000nm以下のセルロース微細繊維を有し、含水率が60質量%以上であり、厚みが0.5mm以上、10mm以下となるものである。セルロース微細繊維は、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」をいう場合がある。)と当該セルロースナノファイバーよりも平均繊維径が大であるミクロフィブリル化セルロース(以下、「MFC」をいう場合がある。)のうちの少なくとも一方からなる。以下、パルプ、セルロースナノファイバー、ミクロフィブリル化セルロース、湿潤シートについて説明する。
【0031】
(パルプ)
パルプは、湿潤シートに備わり、湿潤シートの脱水性を向上させる役割を有する。湿潤シートに含まれるパルプの量を調節することで、湿潤シートの含水率を所望の範囲内にすることができる。また、湿潤シートにおけるパルプとセルロース微細繊維の含有割合を調節することで、成形体としたときの強度を所望の範囲内にすることができる。
【0032】
本形態に用いるパルプは、後述するセルロースナノファイバーの原料パルプの中から、1種又は2種以上を選択して用いることができる。その中でも特に、パルプとしては、リグニンを含有するパルプを使用するのが好ましく、機械パルプを使用するのがより好ましく、BTMPを使用するのが特に好ましい。これらのパルプを使用すると、セルロース繊維スラリーの脱水性がより向上する。また、本形態に用いるパルプをセルロース微細繊維に用いるパルプと同じものとすると好ましい。このように出発原料を同じにすると、両者は親和性に富み、スラリーを加圧して湿潤シートを得る工程でセルロース微細繊維の流出を抑制でき、脱水が容易になされ当該工程に費やす時間が短くて済む。
【0033】
上記パルプは未叩解パルプであってもよいし、叩解パルプであってもよい。未叩解パルプを用いると、脱水効率を高めることができる。叩解パルプを用いると、セルロース微細繊維がパルプに絡まりやすくなり、セルロースナノファイバーやミクロフィブリル化セルロースの流出を抑制することができ、かつ、水素結合点が相対的に多いので、得られる成形体の高強度化等を図ることができる。
【0034】
パルプの叩解の程度は、フリーネスで測定でき、パルプのフリーネスは、例えば、200~800ml、好ましくは350~780ml、より好ましくは400~750mlとするとよい。パルプのフリーネスが800mlを上回ると、湿潤シートは、脱水性が向上するが、成形体等に加工する際に、破断し易くなり、また、繊維が剛直になってパルプとセルロース微細繊維とが一体化せず、密度が向上しないおそれがある。
【0035】
他方、パルプのフリーネスが200mlを下回ると、湿潤シートの脱水性が十分に向上しないおそれがあり、また、パルプ繊維自体の剛直性が低下し、湿潤シートがシート形状を維持できなくなるおそれがある。
【0036】
パルプのフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
【0037】
パルプは、どの種類のパルプを選定するか、また解繊等の程度によりパルプの平均繊維径を調整することができる。
【0038】
パルプの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、好ましくは10超~100μm、より好ましくは10超~80μm、特に好ましくは10超~60μmにするとよい。パルプの平均繊維径が当該範囲内であれば、パルプの含有率を後述の範囲内とすることで、湿潤シートの脱水性がより向上する。
【0039】
パルプの平均繊維径は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定することができる。繊維分析計「FS5」は、希釈したセルロース繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析により高い精度でセルロース繊維の長さ、幅を測定できる。
【0040】
パルプ、及びセルロース微細繊維の平均繊維径を前述の範囲とした場合において、湿潤シート中におけるパルプの含有率(固形分濃度)は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~12質量%、特に好ましくは1.0~8質量%である。当該含有率が0.1質量%を下回ると、湿潤シートの脱水に時間がかかり、生産性の低下をもたらすおそれがある。また、当該含有率(固形分濃度)が20質量%を上回ると、湿潤シートから成形体等を製造する場合において、セルロース微細繊維等の含有率が相対的に減るため、当該成形体等の強度が担保されないおそれがある。
【0041】
(セルロースナノファイバー)
次に、湿潤シートに含まれるセルロースナノファイバーについて以下に詳述する。セルロースナノファイバーは、セルロース繊維の水素結合点を多数有し、水や有機溶剤等の媒体に混ぜると、分散して、三次元ネットワーク構造を形成する性質があるとされている。この三次元ネットワーク構造は、セルロースナノファイバーが相互に三次元ネットワーク構造の骨格となって形成され、表現が難しいが例えば、ジャングルジムのような立体格子状(ただし、立体格子は、規則的な配列であっても、不規則な配列であってもよい)の形態となると推測される。このセルロースナノファイバーで形成された立体格子の内部は、空隙となる。
【0042】
セルロースナノファイバーは、例えば、植物由来の原料パルプを解繊(微細化)することで得ることができる。セルロースナノファイバーの原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、茶古紙、封筒古紙、雑誌古紙、チラシ古紙、段ボール古紙、上白古紙、模造古紙、更上古紙、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物の状態等であってもよい。
【0043】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0044】
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0045】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0046】
湿潤シート、成形体の製造には、高い強度を備えた方がよいとの観点からは、化学パルプを使用するのが好ましく、LKP及びNKPを使用するのがより好ましい。
【0047】
セルロースナノファイバーの原料パルプとミクロフィブリル化セルロースの原料パルプは、それぞれ異なるものを使用してもよいが、同一の原料パルプにすると、原料コストを低減でき好ましい。
【0048】
セルロースナノファイバーは、解繊するに先立って、前処理を施してもよい。例えば、前処理として、原料パルプを機械的に予備叩解したり、原料パルプを化学的に変性処理してもよい。予備叩解の手法は特に限定されず、公知の手法を用いることができる。
【0049】
化学的手法による原料パルプの前処理としては、例えば、酸(例えば、硫酸等)による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤(例えば、オゾン等)による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)、TEMPO触媒による酸化(酸化処理)、リン酸エステル化やカルバメート化等によるアニオン化(アニオン処理)、カチオン化(カチオン処理)等を例示することができる。
【0050】
アルカリ処理をすると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、容易に解繊してセルロース繊維の分散が促進される。
【0051】
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を例示できる。製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0052】
酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、セルロースナノファイバーの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、セルロースナノファイバーの保水度が低いと脱水し易くなり、湿潤シートの脱水性が向上する。
【0053】
原料パルプを酵素処理や酸処理、酸化処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、微細化処理のエネルギーを低減することができ、セルロース微細繊維の均一性や分散性を向上することができる。セルロース繊維の分散性は、例えば、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造する場合等において、当該成形体等の均質性に資する。ただし、前処理を行うと、セルロースナノファイバーの平均繊維径が小さくなり、結果、セルロースナノファイバーのアスペクト比を低下させるため、過度の前処理は避けるのが好ましい。
【0054】
アニオン化により、アニオン性官能基が導入されて変性されたセルロースナノファイバーとしては、リンオキソ酸によりエステル化されたセルロースナノファイバーやカルバメート化されたセルロースナノファイバー、ピラノース環の水酸基が直接カルボキシル基に酸化されたセルロースナノファイバー等を例示できる。
【0055】
アニオン性官能基が導入されて変性されたセルロースナノファイバーは、 相対的に高い分散性を有する。これは、アニオン性官能基により電荷の偏りが局所的に発生し、このアニオン性官能基が分散液中の水や有機溶剤と水素結合を容易に形成することによるものと推測される。
【0056】
アニオン化の一例である、リンオキソ酸によるエステル化をセルロース繊維に施すと、繊維原料を微細化でき、製造されるセルロースナノファイバーは、アスペクト比が大きく強度に優れ、光透過度及び粘度が高いものとなる。リンオキソ酸によるエステル化は、例えば、特開2019-199671号公報に掲げる手法で行うことができる。
【0057】
リンオキソ酸によるエステル化の反応は、セルロース繊維に、リンオキソ酸類及びリンオキソ酸金属塩類の少なくともいずれか一方を含む添加物からなるpH3.0未満の溶液を添加し、加熱することで進行する。
【0058】
添加物としては、例えば、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸二水素リチウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等を使用することができる。これらの添加物は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、リンオキソ酸類の一部又は全部としては、ホスホン酸類を使用するのが好ましい。ホスホン酸類を使用すると、セルロース繊維の黄変化が防止されるので、成形体の色に影響が及び難く好ましい。
【0059】
セルロース繊維は、グルコースを一構成単位として、グルコースが複数重合した構造を形成している。重合された一つのセルロース繊維において、リンオキソ酸のエステル基は、ある特定のグルコースで置換され、別のグルコースでは置換されていなくてもよい。また、ある特定のグルコースにおいて複数個所に、リンオキソ酸のエステル基が置換されて導入されていてもよい。
【0060】
カチオン処理によりカチオン性官能基が導入されたセルロースナノファイバーとしては、アンモニウム(例えば四級アンモニウム)、ホスホニウム、スルホニウム等のカチオンを有する基が導入されたセルロースナノファイバーを例示できるが、この限りではない。
【0061】
カチオンを有する基の導入手法は、例えば、セルロース繊維に反応物と触媒を溶媒下で反応させる手法を挙げることができる。反応温度が10℃以上、90℃以下、反応時間10分以上、10時間以下であれば導入が促進される。反応物としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト又はこれらのハロヒドリン型等を例示できる。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を例示できる。溶媒としては、水やアルコールを用いることができ、アルコールとしては、炭素数4以下のアルコールを例示できる。
【0062】
反応物は、好ましくはセルロース繊維100質量%に対して5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であればよい。触媒は、好ましくはセルロース繊維100質量%に対して0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であればよい。
【0063】
セルロース繊維に対するカチオン性置換基の導入量は、反応物や触媒の有無、溶媒の種類により調整可能である。セルロース繊維のグルコース(例えばグルコピラノース環)を一構成単位とすると、一構成単位あたり、カチオン性置換基が0.01~0.4個導入されているとよい。この範囲を下回ると、カチオン性官能基を導入したことによる効果、すなわち容易な繊維の解繊効果が乏しい。この範囲を上回ると、セルロースナノファイバーの過度な膨潤、溶解が生じるおそれがある。
【0064】
セルロース繊維の解繊は、以下に示す解繊装置・方法により行うことができる。当該解繊は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことができる。ただし、セルロース繊維の解繊は、水流、特に高圧水流で微細化する装置・方法を使用して行うのが好ましい。この装置・方法によると、得られるセルロースナノファイバーの寸法均一性、分散均一性が非常に高いものとなる。これに対し、例えば、回転する砥石間で磨砕するグラインダーを使用すると、セルロース繊維を均一に微細化するのが難しく、場合によっては、一部に解れない繊維塊が残ってしまうおそれがある。
【0065】
セルロース繊維の解繊に使用するグラインダーとしては、例えば、増幸産業株式会社のマスコロイダー等が存在する。また、高圧水流で微細化する装置としては、例えば、株式会社スギノマシンのスターバースト(登録商標)や、吉田機械興業株式会社のナノヴェイタ\Nanovater(登録商標)等が存在する。また、セルロース繊維の解繊に使用する高速回転式ホモジナイザーとしては、エムテクニック社製のクレアミックス-11S等が存在する。
【0066】
本発明者等は、回転する砥石間で磨砕する方法と、高圧水流で微細化する方法とで、それぞれセルロース繊維を解繊し、得られた各繊維を顕微鏡観察した場合に、高圧水流で微細化する方法で得られた繊維の方が、繊維幅が均一であることを知見している。
【0067】
高圧水流による解繊は、セルロース繊維の分散液を増圧機で、例えば30MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、特に好ましくは220MPa以上に加圧し(高圧条件)、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が、例えば30MPa以上、好ましくは80MPa以上、より好ましくは90MPa以上となるように減圧する(減圧条件)方式で行うと好適である。この圧力差で生じるへき開現象によって、パルプ繊維が解繊される。高圧条件の圧力が低い場合や、高圧条件から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊効率が下がり、所望の繊維幅とするために繰り返し解繊(ノズルから噴出)する必要が生じる。
【0068】
高圧水流によって解繊する装置としては、高圧ホモジナイザーを使用するのが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でセルロース繊維のスラリーを噴出する能力を有するホモジナイザーをいう。セルロース繊維を高圧ホモジナイザーで処理すると、セルロース繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、セルロース繊維の解繊が効果的に生じる。したがって、解繊の処理回数を減らすことができ、セルロースナノファイバーの製造効率を高めることができる。
【0069】
高圧ホモジナイザーとしては、セルロース繊維のスラリーを一直線上で対向衝突させるものを使用するのが好ましい。具体的には、例えば、対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー/MICROFLUIDIZER(登録商標)、湿式ジェットミル)である。この装置においては、加圧されたセルロース繊維のスラリーが合流部で対向衝突するように2本の上流側流路が形成されている。また、セルロース繊維のスラリーは合流部で衝突し、衝突したセルロース繊維のスラリーは下流側流路から流出する。上流側流路に対して下流側流路は垂直に設けられており、上流側流路と下流側流路とでT字型の流路が形成されている。このような対向衝突型の高圧ホモジナイザーを用いると高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーが衝突エネルギーに最大限に変換されるため、より効率的にセルロース繊維を解繊することができる。
【0070】
解繊して得られたセルロースナノファイバーは、ミクロフィブリル化セルロースやパルプと混合するのに先立って水系媒体中に分散して分散液としておくことができる。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましい(水分散液)。ただし、水系媒体は、一部が水と相溶性を有する他の液体であってもよい。他の液体としては、例えば、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0071】
原料パルプの解繊は、得られるセルロースナノファイバーの物性等が、以下に示すような所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【0072】
<平均繊維径>
セルロースナノファイバーの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、下限が10nm以上、好ましくは15nm以上、より好ましくは20nm以上である。セルロースナノファイバーの平均繊維径の上限は100nm以下、好ましくは90nm以下、より好ましくは80nm以下である。セルロースナノファイバーの平均繊維径が下限である10nm未満だと湿潤シートの脱水性が低下するおそれがある。セルロースナノファイバーの平均繊維径を上限である100nm以下とすると、セルロース繊維の微細化が十分になされており、湿潤シートが緻密な構造となり、物性に優れたものとなる。
【0073】
湿潤シートに含まれるセルロース微細繊維は、セルロースナノファイバーのみでもよいし、ミクロフィブリル化セルロースのみでもよいし、セルロースナノファイバーとミクロフィブリル化セルロースの両方であってもよい。セルロース微細繊維の脱水性は、ミクロフィブリル化セルロースのほうが、セルロースナノファイバーよりも優れている。セルロースナノファイバーとミクロフィブリル化セルロースの配合割合を調整することで、所望の脱水性が備わる湿潤シートとすることができる。湿潤シートの脱水性を相対的に高いものとしたいときは、ミクロフィブリル化セルロースの配合割合を上げるとよく(この場合、セルロースナノファイバーの配合割合を0としてもよい。)、当該脱水性を相対的に低いものとしたいときは、ミクロフィブリル化セルロースの配合割合を下げるとよい(この場合、ミクロフィブリル化セルロースの配合割合を0としてもよい。)。
【0074】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0075】
セルロースナノファイバーの平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
【0076】
<平均繊維長>
セルロースナノファイバーの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、例えば0.3~2000μm、好ましくは0.4~200μm、より好ましくは0.5~20μmである。平均繊維長が0.3μm未満であると、濾水性や乾燥性が低下し、またセルロースナノファイバー相互の三次元ネットワーク構造が形成されにくくなり、補強効果が低下するおそれがある。平均繊維長が2000μmを上回ると、セルロース繊維相互の絡み合いが多くなり、均質な三次元ネットワーク構造が形成され難い。
【0077】
平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0078】
セルロースナノファイバーの平均繊維長の測定方法は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0079】
<アスペクト比>
湿潤シートから成形体等を製造する場合において、当該成形体等の延性をある程度保持しつつ強度を向上させることが好ましい。この観点より、セルロースナノファイバーのアスペクト比は、下限が3以上、好ましくは6以上、より好ましくは10以上であり、上限が、150000以下、好ましくは120000以下、より好ましくは100000以下であるとよい。セルロースナノファイバーのアスペクト比が3未満だと、セルロースナノファイバーは、繊維状としての性質が期待されない。セルロースナノファイバーのアスペクト比が150000を超えると、調成されたセルロース繊維スラリーの粘性が高く、湿潤シートの製造が困難になるおそれがある。
【0080】
なお、アスペクト比とは、セルロースナノファイバーの平均繊維長を同セルロースナノファイバーの平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど繊維中において引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多い分、成形体等の延性が低下するものと考えられる。
【0081】
<擬似粒度分布曲線>
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、セルロースナノファイバーは、繊維長及び繊維径の均一性が高く、緻密な立体構造を形成しやすく、製造される成形体が物性の優れたものとなる。また、セルロース繊維スラリーの乾燥性、脱水性に優れる。
【0082】
セルロースナノファイバーが擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する場合、特にセルロースナノファイバーの繊維長及び/又は繊維径のばらつき(分散)が小さいほど、三次元ネットワーク構造が容易に形成され、好ましい。セルロースナノファイバーが擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する場合に、同ピークの半値全幅が、例えば250μm以下、好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μmである。同ピークの半値全幅が、250μmを上回ると、十分なセルロース繊維の微細化がされていない可能性があり、成形体が緻密な三次元ネットワーク構造を有していない場合があり、物性の低下を招くおそれがある。同ピークの半値全幅を250μm以下にするには、例えば、微細化処理の回数を増加する等の手法を挙げることができる。
【0083】
セルロースナノファイバーのピーク値は、例えば下限が1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上とするとよい。同ピーク値が1μmを下回る場合は、繊維が過度に解繊されている可能性があり、湿潤シートや成形体等の濾水性や乾燥性に優れないものとなる。
【0084】
セルロースナノファイバーのピーク値は、例えば上限が100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下とするとよい。同ピーク値が100μmを上回る場合は、繊維の解繊が不十分である可能性があり、繊維径や繊維長の均一性が劣る場合がある。
【0085】
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、ISO-13320(2009)に準拠して測定した値である。測定の一例としては、まず、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用してセルロースナノファイバーの水分散液の体積基準粒度分布を調べる。次に、この分布からセルロースナノファイバーの中位径を測定する。この中位径をピーク値とする。
【0086】
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値、及び擬似粒度分布の中位径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0087】
<パルプ粘度>
解繊したセルロースナノファイバーのパルプ粘度は、1cP以上であるのが好ましく、2cP以上であるのがより好ましい。パルプ粘度が1cP未満だと、セルロースナノファイバーの凝集を十分に抑制することができないおそれがある。
【0088】
<B型粘度>
解繊したセルロースナノファイバーは、水に混ぜて水分散液の状態にしておくことができる。このセルロースナノファイバー水分散液は粘度を有し、この粘度はB型粘度で評価できる。B型粘度については、特定の原料から同一の製造工程で得られたセルロースナノファイバーの分散液であっても、セルロースナノファイバーの濃度により粘度が異なり、高濃度ほど高粘度となる。セルロースナノファイバーの水分散液(固形分濃度1%(w/w))のB型粘度は、好ましくは10~4000cP、より好ましくは80~3000cP、特に好ましくは100~2000cPである。B型粘度が10cPを下回る同水分散液は、セルロースナノファイバーの分散性が乏しく、ミクロフィブリル化セルロースやパルプと混ぜ合わせても十分に混じり合わないおそれがある。B型粘度が4000cPを上回る同水分散液は、この水分散液とミクロフィブリル化セルロースやパルプと混ぜ合わせて得られたスラリーや湿潤シートの脱水性が乏しいものとなる。
【0089】
セルロースナノファイバーの分散液のB型粘度(固形分濃度1%(w/w))は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。B型粘度は分散液を攪拌したときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。B型粘度の測定温度は、25℃である。
【0090】
<結晶化度>
セルロースナノファイバーの結晶化度は、50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましく、60%以上であるのが特に好ましい。結晶化度が50%未満であると、成形体の強度、耐熱性が不十分であるおそれがある。
【0091】
他方、セルロースナノファイバーの結晶化度は、100%以下であるのが好ましく、90%以下であるのがより好ましく、85%以下であるのが特に好ましい。セルロースナノファイバーの結晶化度が上記範囲であれば、セルロース繊維のスラリーから湿潤シート、成形体等を作製する過程において強度が担保される。
【0092】
セルロースナノファイバーの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0093】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、セルロースナノファイバーは、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度はセルロースナノファイバー全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0094】
<保水度>
セルロースナノファイバーの保水度は、例えば、90~600%、好ましくは200~500%、より好ましくは240~460%である。セルロースナノファイバーの保水度が90%を下回ると、分散性が悪化し、セルロースナノファイバーとミクロフィブリル化セルロース、パルプが相互に混じり合わないおそれがある。同保水度が600%を上回ると、調成したスラリーが濾水性や乾燥性に乏しいものとなる。
【0095】
セルロースナノファイバーの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0096】
セルロースナノファイバーの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0097】
湿潤シートにおけるセルロースナノファイバーの含有率(固形分濃度)は、例えば、0~39.6質量%、好ましくは10~38質量%、より好ましくは12~36質量%である。当該含有率の範囲であればセルロースナノファイバーが湿潤シートに適度に分散したものとなり好ましい。また、湿潤シートから成形体等を製造した場合でも、セルロースナノファイバーが成形体等に適度に分散したものとなるので好ましい。当該含有率が39.6質量%を超えると、濾水性や乾燥性が良いものとならない。
【0098】
(ミクロフィブリル化セルロース)
次に、湿潤シートに含まれるミクロフィブリル化セルロースについて以下に詳述する。ミクロフィブリル化セルロースは、セルロース繊維の水素結合点を多数有し、脱水性を備え、水や有機溶剤等の媒体に混ぜると分散する。ミクロフィブリル化セルロースは、原料パルプを解繊して製造することができ、セルロースナノファイバーよりも平均繊維径が大である繊維である。
【0099】
ミクロフィブリル化セルロースは、例えば、植物由来の原料パルプを解繊(微細化)することで得ることができる。ミクロフィブリル化セルロースの原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、茶古紙、封筒古紙、雑誌古紙、チラシ古紙、段ボール古紙、上白古紙、模造古紙、更上古紙、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物の状態等であってもよい。
【0100】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0101】
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0102】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0103】
湿潤シート、成形体の製造には、高い強度を備えた方がよいとの観点からは、化学パルプを使用するのが好ましく、LKP及びNKPを使用するのがより好ましい。
【0104】
原料パルプからミクロフィブリル化セルロースに解繊する手法には、前述したセルロースナノファイバーに解繊する手法を適用できる。しかしながら、ミクロフィブリル化セルロースへの解繊は、セルロースナノファイバーへの解繊ほど、平均繊維径を小さいものとするものではない。
【0105】
解繊して得られたミクロフィブリル化セルロースは、セルロースナノファイバーやパルプと混合するのに先立って水系媒体中に分散して分散液としておくことができる。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましい(水溶液)。ただし、水系媒体は、一部が水と相溶性を有する他の液体であってもよい。他の液体としては、例えば、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0106】
原料パルプの解繊は、得られるミクロフィブリル化セルロースの物性等が、以下に示すような所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。ミクロフィブリル化セルロースの各種物性の測定方法は、特にこれに反する記載のない限り、セルロースナノファイバーやパルプの場合と同様である。
【0107】
<平均繊維径>
ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、100nm超、好ましくは200nm以上、より好ましくは300nm以上である。ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維径の上限は10000nm以下、好ましくは5000nm以下、より好ましくは3000nm以下である。ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維径が100nm以下だと湿潤シートの脱水性が低下するおそれがあるし、セルロースナノファイバーとの区別がつき難くなるので避けるべきである。ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維径が上限である10000nmを超えると、セルロース繊維の微細化が不十分であるおそれがある。
【0108】
ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0109】
ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のミクロフィブリル化セルロースの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
【0110】
<平均繊維長>
ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、例えば10~1000μm、好ましくは30~700μm、より好ましくは50~500μmである。平均繊維長が30μm未満であると、濾水性や乾燥性が低下し、製造された湿潤シートや成形体等の補強効果が低下するおそれがある。平均繊維長が1000μmを上回ると、セルロース繊維相互の絡み合いが多くなり、分散性が低下する。
【0111】
平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0112】
ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維長の測定方法は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0113】
<アスペクト比>
湿潤シートから成形体等を製造する場合において、当該成形体等の延性をある程度保持しつつ強度を向上させることが好ましい。この観点より、ミクロフィブリル化セルロースのアスペクト比は、下限が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、上限が、10000以下、好ましくは7000以下、より好ましくは5000以下であるとよい。ミクロフィブリル化セルロースのアスペクト比が3未満だと、ミクロフィブリル化セルロースは、繊維状としての性質が期待されない。ミクロフィブリル化セルロースのアスペクト比が10000を超えると、調成されたセルロース繊維スラリーの粘性が高く、湿潤シートの製造が困難になるおそれがある。
【0114】
なお、アスペクト比とは、ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維長を同ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど繊維中において引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多い分、成形体等の延性が低下するものと考えられる。
【0115】
<擬似粒度分布曲線>
ミクロフィブリル化セルロースの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、ミクロフィブリル化セルロースは、繊維長及び繊維径の均一性が高く、緻密な立体構造を形成しやすく、製造される成形体が物性の優れたものとなる。また、セルロース繊維スラリーの乾燥性、脱水性に優れる。
【0116】
ミクロフィブリル化セルロースが擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する場合、特にミクロフィブリル化セルロースの繊維長及び/又は繊維径のばらつき(分散)が小さいほど、三次元ネットワーク構造が容易に形成され、好ましい。ミクロフィブリル化セルロースが擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する場合に、同ピークの半値全幅が、例えば250μm以下、好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μmである。同ピークの半値全幅が、250μmを上回ると、十分なセルロース繊維の微細化がされていない可能性があり、成形体が緻密な三次元ネットワーク構造を有していない場合があり、物性の低下を招くおそれがある。同ピークの半値全幅を150μm以下にするには、例えば、微細化処理の回数を増加する等の手法を挙げることができる。
【0117】
ミクロフィブリル化セルロースのピーク値は、例えば下限が1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上とするとよい。同ピーク値が1μmを下回る場合は、繊維が過度に解繊されている可能性があり、湿潤シートや成形体等の濾水性や乾燥性に優れないものとなる。
【0118】
ミクロフィブリル化セルロースのピーク値は、例えば上限が110μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下とするとよい。同ピーク値が110μmを上回る場合は、繊維の解繊が不十分である可能性があり、繊維径や繊維長の均一性が劣る場合がある。
【0119】
ミクロフィブリル化セルロースの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、ISO-13320(2009)に準拠して測定した値である。測定の一例としては、まず、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用してミクロフィブリル化セルロースの水分散液の体積基準粒度分布を調べる。次に、この分布からミクロフィブリル化セルロースの中位径を測定する。この中位径をピーク値とする。
【0120】
ミクロフィブリル化セルロースの擬似粒度分布曲線におけるピーク値、及び擬似粒度分布の中位径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0121】
<パルプ粘度>
解繊したミクロフィブリル化セルロースのパルプ粘度は、1cP以上であるのが好ましく、2cP以上であるのがより好ましい。パルプ粘度が1cP未満だと、ミクロフィブリル化セルロースの凝集を十分に抑制することができないおそれがある。
【0122】
<結晶化度>
ミクロフィブリル化セルロースの結晶化度は、45%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましく、60%以上であるのが特に好ましい。結晶化度が45%未満であると、成形体の強度、耐熱性が不十分であるおそれがある。
【0123】
他方、ミクロフィブリル化セルロースの結晶化度は、90%以下であるのが好ましく、88%以下であるのがより好ましく、86%以下であるのが特に好ましい。ミクロフィブリル化セルロースの結晶化度が上記範囲であれば、セルロース繊維のスラリーから湿潤シート、成形体等を製造する過程において強度が担保される。
【0124】
ミクロフィブリル化セルロースの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0125】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、ミクロフィブリル化セルロースは、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度はミクロフィブリル化セルロース全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0126】
<保水度>
ミクロフィブリル化セルロースの保水度は、例えば、10~500%、好ましくは50~450%、より好ましくは90~400%である。ミクロフィブリル化セルロースの保水度が10%を下回ると、分散性が悪化し、ミクロフィブリル化セルロースとミクロフィブリル化セルロース、パルプが相互に混じり合わないおそれがある。同保水度が500%を上回ると、調成したスラリーが濾水性や乾燥性に乏しいものとなる。
【0127】
ミクロフィブリル化セルロースの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0128】
ミクロフィブリル化セルロースの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0129】
ミクロフィブリル化セルロースのフィブリル化率は、0.5%以上であるのが好ましく、1.0%以上であるのがより好ましく、1.5%以上であるのが特に好ましい。また、同フィブリル化率は、10%以下であるのが好ましく、9%以下であるのがより好ましく、8%以下であるのが特に好ましい。フィブリル化率が10%を超えると、水との接触面積が広くなり過ぎるため、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が0.5%未満では、フィブリル同士の水素結合が少なく、強硬な三次元ネットワーク構造を形成することができなくなるおそれがある。
【0130】
ミクロフィブリル化セルロースのフリーネスは、200ml以下が好ましく、150ml以下がより好ましく、100ml以下が特に好ましい。ミクロフィブリル化セルロースのフリーネスが200mlを超えると、ミクロフィブリル化セルロースは、平均繊維径の上限である10μmを超え、強度に関する効果が十分に得られないおそれがある。
【0131】
ミクロフィブリル化セルロースのフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
【0132】
<配合率>
湿潤シートにおけるミクロフィブリル化セルロースの含有率(固形分濃度)は、例えば、0~39.6質量%、好ましくは10~38質量%、より好ましくは12~36質量%である。当該含有率の範囲であればミクロフィブリル化セルロースが湿潤シートに適度に分散したものとなり好ましい。また、湿潤シートから成形体等を製造した場合でも、ミクロフィブリル化セルロースが成形体等に適度に分散したものとなるので好ましい。当該含有率が39.6質量%を超えると、濾水性や乾燥性が良いものとならない。
【0133】
(湿潤シート)
湿潤シートは、セルロースナノファイバーとミクロフィブリル化セルロースの少なくともいずれか一方と、パルプが混合されたセルロース繊維スラリーから製造される。湿潤シートの製造方法は後述する。
【0134】
特願2017-190529号公報等に開示される従来のCNF成形体は、平面シート状である。このCNF成形体から所望の3次元形状の成形体に変形加工するには、次記の問題点があった。乾燥した状態では3次元形状の成形体への変形加工が困難であるので、水にCNF成形体を含浸させて軟化し、軟化状態下で当該CNF成形体を変形させる手法を行っていた。この手法では、変形させたCNF成形体を再度乾燥する工程が加わることになり、生産性の悪化や製造コストの増加を招く。
【0135】
これに対して、本態様の湿潤シートは、有形でありながら、変形が容易であり、所望の形状を一時的に維持することができ、様々な3次元形状の成形体の材料として有用である。湿潤シートの各種物性を以下に示す。
【0136】
湿潤シートの含水率は、60質量%以上、より好ましくは63質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上であるとよい。含水率が60質量%を下回ると、湿潤シートの柔軟性が低下し、製造する成形体を所望の形状に成形し難くなる。含水率の上限は、特に限定されないが、90質量%以下であれば、製造する際に成形体に発生しがちな厚みのムラが抑制され、均質な強度を備えた成形体となり好ましい。
【0137】
湿潤シートの含水率はJIS P 8203(2010)により測定することができる。
【0138】
湿潤シートの厚みは、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上、さらに好ましくは1mm以上であるとよく、また、好ましくは、10mm以下、より好ましくは9mm以下、さらに好ましくは8mm以下であるとよい。湿潤シートの厚みが0.5mmを下回ると、湿潤シートが破れ易いものとなる。湿潤シートの厚みが10mmを上回ると、加圧及び加熱して製造された成形体が厚みのムラを有したものになり易い。
【0139】
また、湿潤シートは、厚みが0.5mm以上、10mm以下であり、かつ含水率が60質量%以上であることが望ましく、厚みが0.5mm以上、10mm以下であっても、含水率が60質量%を下回ると、湿潤シートをたわませたり、折り曲げたりし難くなるので、成形体を三次元形状に形成しにくくなる。
【0140】
湿潤シートの厚みはJIS P 8118(2014)により測定することができる。
【0141】
厚み変化率は、湿潤シートにおける厚み方向への圧縮のし易さの程度を示すものであり、値が低いほど圧縮されにくく湿潤シートを加熱、加圧して成形体としたとき、厚みのムラが少なく、破断し難いものといえる。湿潤シートは、厚み変化率が高いほど、圧縮され易く、加熱、加圧したときに変形し易いので成形された成形体に破断が見られやすいものとなる。
【0142】
厚み変化率は、次記式(1)に基づき算出できる。
[式(1)]
厚み変化率=((厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)-(厚み方向に100kPaの圧力を5秒間加えた後の湿潤シートの厚み))÷(厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えた後の湿潤シートの厚み)
【0143】
厚み変化率は、適宜調節可能であるが、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.3以下であると、厚みのムラが少なくなり、破断し難くなる。
【0144】
厚み変化率の測定は、次記のとおりに行うことができる。湿潤シートの両面全体を、フィルムで覆い、厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加え、湿潤シートの厚みを測定する。さらに、厚み方向に100kPaの圧力を4秒間加え、湿潤シートの厚みを測定する。測定は、大気圧下、室温(5~30℃、特に25℃、1atm)の条件で行うことができる。
【0145】
<配合比>
湿潤シートに含まれるパルプとセルロース微細繊維の配合比は、例えば、1:99~50:50、好ましくは5:95~30:70、より好ましくは10:90~20:80とするとよい。また、セルロースナノファイバーとミクロフィブリル化セルロースの配合比は、例えば、100:0~0:100、好ましくは80:20~20:80、より好ましくは70:30~30:70とするとよい。
【0146】
<保水性>
湿潤シートは、当該湿潤シートを水系媒体中に分散させ、濃度1.5%の分散液としたときの保水性が、好ましくは250~4000g/m2、より好ましくは500~3000g/m2である。保水性が250g/m2を下回ると湿潤性に乏しく、4000g/m2を超えると湿潤シートは形状を保てなくなるおそれがある。
【0147】
<密度>
湿潤シートは、湿潤シートを1~50MPa、100~150℃の条件で、脱水・乾燥して高密度化し、成形体としたときの密度が、好ましくは0.8~1.5g/m3、より好ましくは0.9~1.4g/m3、特に好ましくは1.0~1.3g/m3である。当該密度が0.8g/m3を下回ると、成形体を成形する過程で破断し易くなり、1.5g/m3を上回ると加工する上での取り扱いが困難になるおそれがある。
【0148】
湿潤シートは、セルロース微細繊維が固形分濃度で0質量%を超える量含まれているものとすることができるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは11質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上含まれていると、成形体としたときの強度がより高まったものとなる。また、湿潤シートに含まれるセルロース微細繊維の上限は、特に限定されないが、パルプも含ませる関係上、固形分濃度で例えば、好ましくは39.6質量%以下、より好ましくは38質量%以下であるとよい。
【0149】
(湿潤シートの製造方法)
次に、湿潤シート及び成形体の製造方法を説明する。製造方法は、スラリーを調成する調成工程10、湿潤シートを形成する形成工程20、湿潤シートを加熱しつつ加圧する加熱加圧工程30からなる。これら工程を順次説明する。
【0150】
(調成工程)
スラリーの調成工程10では、図2に示すようにパルプPと、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバーC及び/又はミクロフィブリル化セルロースM)を、水系媒体Wに混ぜて調成してスラリーSを得る一例である。
【0151】
スラリーに含まれるセルロース繊維(すなわち、パルプP及びセルロース微細繊維の合計量)の固形分濃度は、好ましくは1.0~10.0質量%、より好ましくは1.2~7.0質量%、特に好ましくは1.4~5.0質量%である。セルロース繊維の固形分濃度が1.0質量%を下回ると、流動性が高く、後の形成工程20においてセルロース繊維が流出してしまうおそれが高くなる。
【0152】
他方、スラリーに含まれるセルロース繊維(すなわち、パルプP及びセルロース微細繊維の合計量)の固形分濃度が10.0質量%を上回ると、流動性が著しく低下し、加工性が悪化するため、例えば、湿潤シートを製造する工程において厚みのムラが発生し易くなり、均質な湿潤シートを得ることが困難になるおそれがある。
【0153】
水等の媒体(水系媒体)Wは、全量が水であるのが好ましい。ただし、水系媒体Wは、一部が水と相溶性を有する他の液体であってもよい。他の液体としては、例えば、炭素数3以下の低級アルコール類や、炭素数5以下のケトン類等を使用することができる。
【0154】
セルロース繊維のスラリーは、パルプの含有率を適宜調節することで、保水性が250~4000g/m2となるようにするのが好ましく、500~3000g/m2となるようにするのがより好ましい。保水性は、大きいほどスラリーの脱水がしやすくなるが、保水性が4000g/m2を上回ると分散性が低下し、製造される成形体が均質なものとなり難い。保水性が250g/m2を下回ると脱水工程で十分な脱水がされない又は脱水に長時間を要し生産性の悪化を招く。
【0155】
セルロース繊維のスラリーの保水性は、TAPPI T 701 pm-01(2001)に準拠して測定した値である。測定手順は、(1)保水性測定用の濾紙(あらかじめ乾燥重量を測定しておく)の上にPCTEフィルターを置いた。(2)前述の(1)を専用の治具で挟み込み、測定試料(スラリー)を投入した。(3)後述の測定条件で測定(処理)した。(4)濾紙からPCTEフィルターを外し、濾紙の重量を測定した。(5)以下の式(2)で保水性を計算した。測定条件は、セルロース繊維のスラリー(濃度1.5質量%、温度30℃)を保水性測定装置AA-GWR(Kaltec Scientific社製)に投入し、エア圧力1.5kgf/cm2、測定時間30秒であった。
[式(2)]
保水性(g/m2)=(脱水後の濾紙重量-濾紙乾燥重量)×1250
【0156】
(形成工程)
調整されたセルロース繊維のスラリーは形成工程20で、対向する2枚の網状シートで前記スラリーを挟んで加圧して脱水し、当該スラリーを湿潤シートに形成する。形成工程20では、図1を参照しつつ説明すると、台の上に置かれた筒状の型枠13の内部に網状シート12を下から順に積層し、その上にスラリー11を充填する。充填されたスラリー11に上から網状シート14を被せる。なお、型枠13は多孔質部材であると、脱水が促進され、湿潤シートの形成工程20に費やす時間を短縮できる。
【0157】
スラリー11自らの自重や比較的弱い加圧力で、スラリーが脱水する。この後、スラリーに対する圧力19を段階的又は連続的に高めるとよい。この工程において、スラリー11中の水分は、網状シート12,14を介して、流出していく。この工程で加える当初の圧力19は非常に弱いため、スラリー11は高粘度に保たれ、セルロース微細繊維の流出を抑えることができる。一方、脱水が進んでスラリー11の濃度が上昇すると、流動性が低下するため、より強い圧力9をスラリー11に加えても、セルロース微細繊維は流出し難い。
【0158】
この形成工程20では、初期の段階で、2.5kPa以下の圧力19を加えることが好ましい。初期の段階で2.5kPaを超える圧力を加えると、スラリー11からセルロース微細繊維が流出し易くなる。なお、目開きのより細かい網状シートを用いれば、初期の段階に2.5kPaを超える圧力を加えてもセルロース微細繊維の流出を抑制できるが、この場合、全体的な脱水効率が低下するおそれがある。この初期の段階での圧力は実質的に大気圧であってよい。また、網状シート14の自重のみによる圧力であってもよい。
【0159】
初期の段階の加圧である程度脱水したら、圧力19を高めていくとよい。圧力19を徐々に高め、最終的には、50kPa以上、好ましくは100kPa以上、より好ましくは200kPaの加圧とするのが良い。
【0160】
10分以上、50kPa以上の圧力で、当該スラリー11を加圧後、型枠13を取り除き、湿潤シートを得ることができる。
【0161】
(加熱加圧工程)
加熱加圧工程30では、1~50MPa、100~150℃の条件で、脱水・乾燥、高密度化して、成形体Xとする。
【0162】
以上のようにして得られた成形体Xは、密度が、好ましくは0.8~1.5g/m3、より好ましくは0.9~1.4g/m3、特に好ましくは1.0~1.3g/m3である。成形体Xの密度が0.8g/m3を下回ると、水素結合点の減少を原因として強度が十分であるとされるおそれがある。
【0163】
成形体Xの密度は、JIS-P-8118:1998に準拠して測定した値である。
【0164】
セルロース繊維のスラリーSには、必要により、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、分散剤、消泡剤、スライムコントロール剤、防腐剤等の添加剤を添加することができる。
【0165】
本形態の湿潤シートは、3次元形状の成形体の材料として用いることができる。
【実施例0166】
次に、本発明の実施例について説明する。
(1)まず、セルロース繊維として原料パルプ(LBKP、水分率97質量%)、セルロースナノファイバー(LBKP、水分率97質量%)を混合し、LBKPセルロースナノファイバーの固形分濃度が3質量%のセルロース繊維のスラリーを調成した。LBKPセルロースナノファイバーは、原料パルプ(水分率97質量%)をリファイナーで予備叩解し、高圧ホモジナイザーで解繊して得た。このLBKPセルロースナノファイバーは、固形分基準で濃度3質量%の水分散液であった。得られたLBKPセルロースナノファイバーは、平均繊維径30nm、結晶化度75%であった。このLBKPセルロースナノファイバー水分散液とパルプと攪拌機にて混合した混合物を遠心分離機(HITACHI、冷却遠心分離機CR22N)で8500rpm、10分間、遠心分離して濃縮混合物を得た。この濃縮混合物はLBKPセルロースナノファイバーの固形分濃度が5質量%であった。この濃縮混合物に、LBKPセルロースナノファイバー水分散液、希釈水を加えたものを、自転公転ミキサー(あわとり練太郎)にて2000rpm、3分間、撹拌・脱泡して固形分濃度が5質量%のスラリーを得た。
(2)300メッシュの金網(下部金網)上に、上記(1)のスラリーを塗工して、そのスラリーの上方から、別の300メッシュの金網(上部金網)をそのスラリーに被せて、金網とスラリーと金網とで構成された積層物とした。
(3)上部金網と下部金網とで挟まれた当該スラリーを加圧して、湿潤シートを得た。ここで、積層物を下部金網が下、上部金網が上になるように支持台に乗せた。上部金網に5kgの重しを10秒間乗せて得た湿潤シートを試験例1、上部金網に5kgの重しを5分間乗せて得た湿潤シートを試験例2、上部金網を下部金網方向に0.41MPaで5分間圧力を加えて得た湿潤シートを試験例3とした。湿潤シート(試験例1~3)は、それぞれ長さ10cm、幅10cm、厚み0.2cmの試験片とした。
(4)湿潤シート(試験例1~3)の試験片それぞれについて、湿潤シートの両面全体を、厚み0.04mmの樹脂フィルムで覆い、被覆物とした。この被覆物を支持台に乗せて、この被覆物に対して、厚み方向に100kPaの圧力を1秒間加えて厚みを測定した。加えて、同様に厚み方向に100kPaの圧力を4秒間加えて厚みを測定し、厚み変化率を求めた。
(5)また、試験例1~3について、LBKPセルロースナノファイバーの固形分濃度(質量%)を測定した。
【0167】
上記、結果を表1に示す。
【0168】
【表1】
【0169】
(その他)
上記に示すJISやTAPPIその他の試験、測定方法は特段断りがない場合は、室温、特に25℃、大気圧中、特に1atmで行っている。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明は、セルロース繊維の成形体及びその製造方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0171】
10 調成工程
20 湿潤シートの形成工程
30 加熱加圧工程
S スラリー
P パルプ
W 水等の媒体
X 成形体
図1
図2