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  • 特開-軸受片及び水中軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088202
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】軸受片及び水中軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 27/06 20060101AFI20220607BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20220607BHJP
   F16C 17/14 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
F16C27/06 A
F16C33/20 Z
F16C17/14
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200508
(22)【出願日】2020-12-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594001801
【氏名又は名称】株式会社ミカサ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】納 雄太
(72)【発明者】
【氏名】小原 茂将
(72)【発明者】
【氏名】横山 真也
(72)【発明者】
【氏名】賀中 義雅
(72)【発明者】
【氏名】四方 正孝
【テーマコード(参考)】
3J011
3J012
【Fターム(参考)】
3J011AA03
3J011AA20
3J011BA13
3J011CA10
3J011DA01
3J011KA02
3J011MA12
3J011SA03
3J011SC04
3J012AB07
3J012BB01
3J012DB08
3J012DB13
3J012EB08
3J012FB01
3J012GB01
(57)【要約】
【課題】
発生する振動及び騒音を抑制することができる軸受片を提供する。
【解決手段】
本願の一態様に係る軸受片は、回転軸を軸支する水中軸受に設けられ、水中軸受の円筒状のブッシュの内周面に設けられる軸受片であって、ブッシュの内周面に固定される土台部と、回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、土台部と先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を軸支する水中軸受に設けられ、前記水中軸受の円筒状のブッシュの内周面に設けられる軸受片であって、
前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、
前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、
前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、
前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である、軸受片。
【請求項2】
前記中間部の硬度がA60以上A80以下であって、
前記先端部の半径方向の厚みと前記中間部の半径方向の厚みとを合計した厚みに対する前記中間部の半径方向の厚みの割合は、45%以上55%以下である、請求項1に記載の軸受片。
【請求項3】
回転軸を軸支する水中軸受であって、
円筒状のブッシュと、
前記ブッシュの内周面に周方向に並んで設けられ、前記ブッシュの軸方向に沿って延びる複数の軸受片と、を備え、
前記複数の軸受片は、
前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、
前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、
前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、
前記ブッシュの半径方向における前記複数の軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である、水中軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、軸受片及び水中軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等の推力を発生させるプロペラはプロペラ軸に取り付けられており、プロペラ軸は水中軸受によって水中で回転可能に支持されている。水中軸受は内周面に複数の軸受片が設けられており、これらの軸受片が水を介して回転するプロペラ軸を支持する。従来の軸受片は先端部がゴムで形成されていたが、近年の軸受片は多層構造を有しており、先端部がフッ素樹脂で形成され、中間部がエラストマー部材で形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような多層構造の軸受片は、中間部が弾性変形することで先端部がプロペラ軸の変位に追従し、プロペラ軸との接触による摩耗を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭50-101749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、多層構造の軸受片であっても、軸受片と回転軸(プロペラ軸)との接触により振動及び騒音が発生するため、抑制することが望ましい。
【0006】
本願は、発生する振動及び騒音を抑制することができる軸受片及び水中軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の一態様に係る軸受片は、回転軸を軸支する水中軸受に設けられ、前記水中軸受の円筒状のブッシュの内周面に設けられる軸受片であって、前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である。
【0008】
この構成では、ブッシュの半径方向における軸受片のばね定数は、450kN/mm以下であって、従来(例えば、従来は約750kN/mm)よりも小さい。このように構成することにより、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制することができる。一方、ブッシュの半径方向における軸受片のばね定数は、200kN/mm以上であるため、軸受片は変形しすぎることなく回転軸をしっかりと支持することができる。
【0009】
本願の一態様に係る水中軸受は、回転軸を軸支する水中軸受であって、円筒状のブッシュと、前記ブッシュの内周面に周方向に並んで設けられ、前記ブッシュの軸方向に沿って延びる複数の軸受片と、を備え、前記複数の軸受片は、前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、前記ブッシュの半径方向における前記複数の軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である。
【0010】
この構成によれば、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制することができるとともに、回転軸をしっかりと支持することができる。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成によれば、発生する振動及び騒音を抑制することができる軸受片及び水中軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、水中軸受の軸方向の断面図である。
図2図2は、水中軸受の軸方向に垂直な断面図である。
図3図3は、図2に示す軸受片の拡大図である。
図4図4(a)は実施形態に係る水中軸受から発生する振動の程度を示した図であり、図4(b)は従来の水中軸受から発生する振動の程度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(水中軸受の全体構成)
以下、実施形態に係る水中軸受100について説明する。はじめに、水中軸受100の全体構成について説明する。図1は、水中軸受100の軸方向における断面図である。図2は、水中軸受100の軸方向に垂直な方向における断面図である。
【0014】
水中軸受100は、水中で回転軸を軸支する軸受である。本実施形態では、回転軸はプロペラ軸101であり、水中軸受100はプロペラ軸101を回転可能に支持する。水中軸受100が支持するプロペラ軸101は先端にプロペラが設けられており、エンジン又はモータによって回転駆動される。プロペラ軸101が回転することにより、船舶や水中航走体は推力を得ることができる。
【0015】
図2に示すように、本実施形態に係る水中軸受100は、ブッシュ10と、複数の軸受片20とを備えている。
【0016】
ブッシュ10は、円筒状の形状を有しており、内部にはプロペラ軸101が挿入される。なお、ブッシュ10は船体等に固定されており回転しない。ブッシュ10の内周面11には、複数の取付溝12が形成されている。各取付溝12は、ブッシュ10の周方向(以下、単に「周方向」と称する)に並んで形成されており、ブッシュ10の軸方向(以下、単に「軸方向」と称する)に沿って延びている。取付溝12は軸方向からみて台形の形状を有しており、ブッシュ10の軸心に近い開口側部分の周方向寸法は、ブッシュ10の軸心から遠い底側部分の周方向寸法よりも小さい。本実施形態のブッシュ10は金属で形成されているが、金属以外の材料で形成されていてもよい。
【0017】
軸受片20は、ブッシュ10の内周面11に設けられており、ブッシュ10の半径方向(以下、単に「半径方向」と称する)内方に向かって突出している。本実施形態では、軸受片20がブッシュ10の内周面11に形成された取付溝12に挿入されている。また、軸受片20は、周方向に所定の間隔をおいて並んでいるとともに、軸方向に沿って延びている。なお、本実施形態の軸受片20は、ブッシュ10から取り外すことで新品の軸受片20又は異なる構造の軸受片に交換できる。ただし、軸受片20はブッシュ10と一体に形成されていてもよい。
【0018】
(軸受片の詳細構成)
次に、軸受片20の詳細構成について説明する。図3は、図2で示す軸受片20の拡大図である。図3に示すように、本実施形態の各軸受片20は多層構造であり、土台部21と、先端部22と、中間部23と、を有している。
【0019】
土台部21は、ブッシュ10の内周面11に固定される部分である。土台部21は、ブッシュ10の取付溝12に対応する形状を有している。本実施形態では、土台部21は、軸方向から見て台形状の形状を有しており、半径方向外側の部分のみが取付溝12に挿入されている。土台部21は、取付溝12の軸方向端部から挿入することができる。本実施形態の土台部21は金属で形成されているが、金属以外の材料で形成されていてもよい。
【0020】
先端部22は、プロペラ軸101に面する部分である。先端部22と回転するプロペラ軸101との間には水の膜が形成され、先端部22はこの水の膜を介してプロペラ軸101を支持する。ただし、プロペラ軸101の回転速度が小さい場合などには先端部22とプロペラ軸101が一時的に接触する場合があり、また、プロペラ軸101が大きく傾斜するような場合には先端部22がプロペラ軸101と部分的に接触する場合がある。このとき、先端部22は摩耗する。そこで、本実施形態の先端部22は、摩耗しにくいフッ素樹脂で形成されている。
【0021】
先端部22の周方向(図3の紙面左右方向)寸法は、土台部21の周方向寸法よりも小さい。そして、周方向に隣り合う軸受片20の先端部22は互いに周方向に離間している。これにより、先端部22が変位する場合には、隣り合う先端部22が互いに影響を及ぼすことなく独立して変位することができる。
【0022】
中間部23は、土台部21と先端部22との間に位置する部分である。中間部23は、先端部22に近い先端側部分24と、土台部21に近い基端側部分25とを有している。先端側部分24の周方向寸法は先端部22の先端側部分24と接する部分の周方向寸法と同じであり、基端側部分25の周方向寸法は土台部21の基端側部分25と接する部分の周方向寸法と同じである。つまり、先端側部分24の周方向寸法は基端側部分25の周方向寸法よりも小さく、中間部23は軸方向から見て段状に形成されている。
【0023】
また、中間部23はゴムで形成されている。このゴムには、天然ゴム及び合成ゴムが含まれる。中間部23はゴムで形成されているため弾性変形することから、軸受片20全体の形状も変化する。さらに、本実施形態の軸受片20は、従来の多層構造の軸受片に比べてばね定数が小さくなるように形成されている。具体的には、本実施形態の軸受片20の半径方向におけるばね定数は450kN/mm以下である。半径方向における軸受片20のばね定数を450kN/mm以下とすることにより、軸受片20とプロペラ軸101の片当りが軽減され、従来の水中軸受で発生していた振動及び騒音を抑制することができる。
【0024】
ここで、図4(a)は軸受片のばね定数が750kN/mmのときにおける水中軸受(つまり、従来の水中軸受)から発生する振動の程度を示した図であり、図4(b)は軸受片のばね定数が340kN/mmのときにおける水中軸受(つまり、本実施形態に係る水中軸受)から発生する振動の程度を示した図である。いずれの図も縦軸が振動加速度を示しており、横軸が時間(プロペラ軸が2回転する間の時間)を示している。また、図4(a)及び図4(b)は縦軸(振動加速度)の範囲は同じであり、横軸(時間)の範囲も同じである。図4(a)及び図4(b)を対比してわかるように、軸受片のばね定数が750kN/mmのときよりも、軸受片のばね定数が340kN/mmのときの方が、水中軸受から発生する振動が小さくなっている。これは、軸受片のばね定数が大きいと、プロペラ軸と水中軸受の局所面圧が増加し、水中軸受の水膜切れにより、振動及び騒音が発生するからである。
【0025】
また、本実施形態において、半径方向における軸受片20のばね定数は200kN/mm以上である。このように、半径方向における軸受片20のばね定数を200kN/mm以上とすることにより、軸受片20は変形しすぎることなくプロペラ軸101をしっかりと支持することができる。
【0026】
さらに、本実施形態では中間部23(つまり、中間部23を形成するゴム)の硬度は、例えばA60以上A80以下である。また、先端部22の半径方向の厚みと中間部23の半径方向の厚みを合計した厚みTに対する中間部23の半径方向の厚みtの割合は、45%以上55%以下である。このように中間部23の硬度及び厚みを設定することにより、半径方向における軸受片20のばね定数を200kN/mm以上450kN/mm以下とすることができる。
【0027】
(まとめ)
上記のとおり、本実施形態に係る軸受片は、回転軸を軸支する水中軸受に設けられ、前記水中軸受の円筒状のブッシュの内周面に設けられる軸受片であって、前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である。
【0028】
本願の発明者らが研究を重ねたところ、軸受片のばね定数を従来のものよりも小さくすると発生する振動及び騒音が大幅に低減することが判明した。一方で、軸受片のばね定数を小さくしすぎると、使用時に軸受片が変形して回転軸を支持できなくなるおそれがある。
【0029】
上記の構成では、ブッシュの半径方向における軸受片のばね定数は、450kN/mm以下であって、従来よりも小さい。このように構成することにより、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制することができる。一方、ブッシュの半径方向における軸受片のばね定数は、200kN/mm以上であるため、軸受片は変形しすぎることなく回転軸をしっかりと支持することができる。
【0030】
また、本実施形態に係る軸受片では、前記中間部の硬度がA60以上A80以下であって、前記先端部の半径方向の厚みと前記中間部の半径方向の厚みとを合計した厚みに対する前記中間部の半径方向の厚みの割合は、45%以上55%以下である。
【0031】
この構成によれば、半径方向における軸受片のばね定数を200kN/mm以上450kN/mm以下とすることができる。
【0032】
また、本実施形態に係る水中軸受は、回転軸を軸支する水中軸受であって、円筒状のブッシュと、前記ブッシュの内周面に周方向に並んで設けられ、前記ブッシュの軸方向に沿って延びる複数の軸受片と、を備え、前記複数の軸受片は、前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、前記ブッシュの半径方向における前記複数の軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である。
【0033】
この構成によれば、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制することができるとともに、回転軸をしっかりと支持することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 ブッシュ
11 内周面
12 取付溝
20 軸受片
21 土台部
22 先端部
23 中間部
24 先端側部分
25 基端側部分
100 水中軸受
101 プロペラ軸
図1
図2
図3
図4