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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088237
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】認知機能検査システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220607BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20220607BHJP
   G16H 10/20 20180101ALI20220607BHJP
【FI】
A61B10/00 H
G16H50/20
G16H10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200559
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】山田 正仁
(72)【発明者】
【氏名】篠原 もえ子
(72)【発明者】
【氏名】駒井 清暢
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 和夫
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】被検査者へのストレス負荷が小さく、より短時間に高い精度で軽度認知障害及び認知症の検出ができる認知機能検査システムの提供を目的とする。
【解決手段】検査項目に回答する回答時間と前記検査項目を正しく判断した正答数又は正答率とを取得する検査手段と、
前記正答数又は正答率を前記回答時間で割ったスコアを算出する算出手段と、
前記スコアと軽度認知障害及び認知症を検出するためのカットオフ値とを照合する照合手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査項目に回答する回答時間と前記検査項目を正しく判断した正答数又は正答率とを取得する検査手段と、
前記正答数又は正答率を前記回答時間で割ったスコアを算出する算出手段と、
前記スコアと軽度認知障害及び認知症を検出するためのカットオフ値とを照合する照合手段とを備えることを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項2】
前記検査項目が、見当識、記憶、理解及び注意の各認知領域のいずれかに含まれる複数の設問からなることを特徴とする請求項1に記載の認知機能検査システム。
【請求項3】
前記検査項目が、見当識及び記憶の各認知領域にそれぞれ少なくとも1つ以上が含まれる複数の設問からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の認知機能検査システム。
【請求項4】
前記回答は、タッチパネル上において、被検査者がいずれかの選択肢のタッチにより行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の認知機能検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知障害及び認知症の検出を目的とした認知機能検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会において、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment,MCI)や認知症(Dementia)の早期発見は重要な課題である。
【0003】
軽度認知障害や認知症の診断方法として、長谷川式認知症スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)等の問診テストに基づく診断が行なわれている。
例えば、MMSEは、軽度認知障害や認知症で特に障害をうけやすいとされる認知領域に関する設問を含んだ問診テストであり、国際的にも普及している診断方法であるが、医療従事者や介護従事者による問診は被検査者へのストレスが大きく、評価項目が11項目からなるために、問診に時間がかかりやすい(約10分間)。
【0004】
これに対し、医療従事者等による問診によらない診断方法として、コンピュータや携帯電話等のネットワークを通した診断システムが提案されている。
例えば、特許文献1に、論理的な即時記憶能力、視空間認知能力、単語の即時記憶能力、見当識と記憶力と計算力と言語的能力と図形的能力とを含む認知機能、注意機能、遂行機能、情報処理能力、抑制機能、単語の遅延再生能力、論理的な遅延再認能力等の検査項目を有する診断システムを開示する。
しかし、同公報に開示する診断システムは数多くの検査項目と複雑な検査内容を有しており、被検査者に長時間の検査時間を要求するもので、被検査者へのストレス負荷が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-8329号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森 悦郎他:「神経疾患患者における日本語版Mini-Mental Stateテストの有用性」、神経心理学、第1号、1895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、被検査者へのストレス負荷が小さく、より短時間に高い精度で軽度認知障害及び認知症の検出ができる認知機能検査システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る認知機能検査システムは、検査項目に回答する回答時間と前記検査項目を正しく判断した正答数又は正答率とを取得する検査手段と、前記正答数又は正答率を前記回答時間で割ったスコアを算出する算出手段と、前記スコアと軽度認知障害及び認知症を検出するためのカットオフ値とを照合する照合手段とを備えることを特徴とする。
一般的に、検査項目が多いほど検査精度は高くなるが、それに伴い検査時間が長くなる。
本発明においては、検査項目に回答する回答時間を測定し、回答時間と正答数又は正答率を用いたスコアを算出することで、少ない検査項目であっても高い精度の認知機能検査が可能になり、検査時間の短縮につながる。
ここでカットオフ値とは、軽度認知障害者あるいは認知症者と、軽度認知障害者でも認知症者でもない者〔以下、本明細書においては、正常認知機能者(Normal cognition,NC)という。〕を判別するための基準値をいう。
【0009】
本発明において、検査項目は軽度認知障害や認知症で特に障害をうけやすい認知領域に含まれる設問からなることが好ましく、検査項目が、見当識、記憶、理解及び注意の各認知領域のいずれかに含まれる複数の設問からなってもよい。
本発明においては、検査項目が、見当識及び記憶の各認知領域にそれぞれ少なくとも1つ以上が含まれる複数の設問からなることが好ましい。
【0010】
本発明において、回答は、タッチパネル上において、被検査者がいずれかの選択肢のタッチにより行ってもよい。
また、タッチパネル上に検査項目を表示する際に、音声をもって質問してもよい。
被検査者は、タッチパネル上の表記及び音声で質問された内容に応じてタッチパネルに触れるだけで検査項目が順次進行するため、パソコン等の操作が不慣れな高齢者にもやさしく、ストレスの軽減につながる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る認知機能検査システムは、少ない検査項目であっても高い精度の認知機能検査が可能である。
そのため、検査時間を従来よりも短くでき、被検査者へのストレス負荷を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】検査項目(1)、(2)の例を示す。
図2】検査項目(3)~(8)の例を示す。
図3】実施例1のスコア分布を示す。
図4】実施例2のスコア分布を示す。
図5】実施例1の検査方法にかかる検査時間のヒストグラムを示す。
図6】実施例2の検査方法にかかる検査時間のヒストグラムを示す。
図7】軽度認知障害検出におけるAUCを示す。
図8】認知症検出におけるAUCを示す。
図9】実施例1について、正常認知機能に対する軽度認知障害、認知症の検出カットオフ値とその感度、特異度を示し、(a)はOCVを、(b)は感度≧0.9を、(c)は特異度≧0.9をカットオフ値とした場合を示す。
図10】実施例2について、カットオフ値とその感度、特異度を示す。
図11】実施例1のスコアとMMSEの値との相関図を示す。
図12】実施例2のスコアとMMSEの値との相関図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る認知機能検査システムの実施例を以下、図に基づいて説明する。
【0014】
認知機能検査システムにおける検査項目の例を、図1、2に示す。
検査項目は、例えばパソコンに接続されたタッチパネル式のディスプレイ画面等に表示され、被検査者は、画面表示と音声ガイダンスにより順次出される質問に答えることになる。
第1の検査項目は、図1(1)に示すように「見当職」の認知領域に属し、日付の認識に関する検査を行うのが目的である。
素点は5点であり、日付[「元号(日本)」、「年」、「月」、「日」、「曜日」]のマスを被検査者が全て正しく触れた場合の正答数は5点となる。
第2の検査項目は、図1(2)に示すように「記憶」の認知領域に属し、図形に関する記憶の検査を行うのが目的である。
色と形の組み合わせが異なる複数の図形から先に覚えた1種の図形をタッチする項目と、3種の図形を覚えた後に表示される複数の図形の中から先に覚えた図形をタッチする項目とからなり、素点は4点である。
第3の検査項目は、図2(3)に示すように「理解」の認知領域に属し、被検査者が画面上の異なる位置に表示される丸いターゲットに触れることで、了解の検査を行うのが目的であり、ターゲットは10回現われ、素点は10点である。
第4の検査項目は、図2(4)に示すように「注意」の認知領域に属し、数字順序の検査を行うのが目的で、素点は9点であり、被検査者は数字の小さい順に数字を選択する。
第5の検査項目は、図2(5)に示すように「記憶」の認知領域に属し、仮名文字に関する記憶の検査を行うのが目的である。
素点は4点で、被検査者は先に覚えた仮名文字をタッチする。
第6の検査項目は、図2(6)に示すように「記憶」の認知領域に属し、数字に関する記憶の検査を行うのが目的である。
素点は3点であり、被検査者が先に覚えた数字を表示順に触れるとその数字が画面上の回答欄に表示される。
第7の検査項目は、図2(7)に示すように「理解」の認知領域に属し、算術の検査を行うのが目的であり、素点は1点である。
第8の検査項目は、図2(8)に示すように「注意」の認知領域に属し、数字ひろいの検査を行うのが目的であり、素点は4点である。
【0015】
本明細書において、上記第1~第8の検査項目による認知機能検査システムを実施例1とし、上記第1、第2の検査項目による認知機能検査システムを実施例2とする。
実施例1は、検査項目が8項目、素点の合計が40点であり、実施例2は、検査項目が2項目、素点の合計が9点である。
実施例1、実施例2ともに、被検査者が回答するまでの回答時間、正答の有無、正答数、正答率のデータがパソコンに取り込まれる。
スコアは、全ての検査項目に対する正答数の合計又は正答率を、被検査者が全てを回答するまでにかかった回答時間(回答の正誤にかかわらず、全ての検査項目の回答に要した時間)で割り、さらに1000を掛けることで算出される。
例えば、実施例1の検査システムにおいて、8項目の検査項目に対する正答数の合計が36点、8項目全てを回答するまでにかかった時間が300秒であった場合は、スコアが120となる。
また、実施例2の検査システムにおいて、2項目の検査項目に対する正答数の合計が6点、2項目全ての回答時間が120秒であった場合は、スコアが50となる。
【0016】
正常認知機能者(NC)367名、軽度認知障害と診断された者(MCI)137名、認知症と診断された者(Dementia)337名のうち、図3に実施例1におけるスコア(score)について、図4に実施例2におけるスコアについて、年代別(50~59歳の群、60~69歳の群及び70~85歳の群)で層別に示す。
図3,4に示すスコアは、全ての検査項目に対する正答数の合計を、全ての回答時間で割り、1000を掛けた値であり、P値はKruskal-Wallis検定又はカイ二乗検定で算出された値である。
なお、50~59歳の群は137名(NC102名、MCI9名、Dementia26名)、60~69歳の群は276名(NC165名、MCI34名、Dementia77名)、70~85歳の群は428名(NC100名、MCI94名、Dementia234名)であった。
図5,6に、各実施例の検査方法にかかる検査時間のヒストグラムを示す。
実施例1の検査方法にて全検査時間は平均で約5分間であり、実施例2の検査方法においては平均で約2分間であった。
【0017】
実施例1、実施例2による軽度認知障害検出及び認知症検出の精度を、AUC(ROC曲線下面積)を用いて評価した。
図7に軽度認知障害検出、図8に認知症検出についてそれぞれ示す。
AUCはスコアの感度と特異度により求めた。
ここで感度とは、「真陽性の数」÷(「真陽性の数」+「偽陰性の数」)により求まる値であり、特異度とは、「真陰性の数」÷(「真陰性の数」+「偽陽性の数」)により求まる値である。
比較例1及び比較例2は、それぞれ実施例1、実施例2のスコア(「スコア」=「正答数の合計」÷「全ての回答時間」×1000)を算出するのに用いた際の「正答数の合計」を比較スコア(「比較スコア」=「正答数の合計」)とした。
なお、参考例1はMMSEのAUCである。
図7,8の結果から、実施例1のAUCは、軽度認知障害検出のすべての年代で0.72以上であり、認知症検出のすべての年代で0.84以上であった。
また、実施例2のAUCは、認知症検出の60~69歳の群で比較例2と同等の結果であったが、そのほかの軽度認知障害検出及び認知症検出のすべての年代で比較例2よりも大きく、軽度認知障害検出のすべての年代で0.73以上、認知症検出のすべての年代で0.87以上であった。
特に軽度認知障害検出において、実施例2のAUCは50~59歳の群、70~85歳の群でそれぞれ0.814、0.794と、MMSEのAUCよりも大きかった。
【0018】
図9、10に各実施例について、正常認知機能に対する軽度認知障害、認知症の検出カットオフ値とその感度、特異度を示す。
カットオフ値の決め方には様々なものがあり、例えば、図9,10に示すような3種類のカットオフ値を設定することができる。
図9(a),10(a)のカットオフ値(optimal cutoff value、OCV)は、感度と特異度の和が最大となる点(Youden’s index)である。
例えば、被検査者の年齢が50~59歳であれば、実施例1のスコアが134.75より大きければ陰性、134.75以下かつ129.12より大きければ軽度認知障害、129.12以下であれば認知症と判別できる。
図9(b)、10(b)のカットオフ値(感度≧0.9)は、感度が0.9以上でスコアの低い点である。
例えば、50~59歳の被検査者において、実施例1のスコアが138.78で認知症に対する感度が0.92であれば感度が0.9以上であるため、50~59歳の群における認知症の検出カットオフ値(感度≧0.9)は138.78とした。
図9(c)、10(c)のカットオフ値(特異度≧0.9)は、特異度が0.9以上でスコアの高い点をカットオフ値とした。
軽度認知障害、認知症の判別検査には年齢を考慮するのが有効であり、軽度認知障害、認知症の恐れがあるか否かを1次スクリーニングとして広く検出するにはカットオフ値を高く設定することが好ましく、正常な人が軽度認知障害及び認知症と誤判定される割合を抑えるにはカットオフ値を低く設定することが好ましい。
参考として図11、12に、各実施例のスコアとMMSEとの相関図を示す。
これにより、本発明に係る検査システムは、判別精度が高いことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12