(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088270
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】遮音性金具及び吊り天井構造
(51)【国際特許分類】
E04B 9/00 20060101AFI20220607BHJP
E04B 9/18 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
E04B9/00 A
E04B9/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200626
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502306903
【氏名又は名称】八潮建材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良介
(72)【発明者】
【氏名】井上 諭
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昇
(72)【発明者】
【氏名】岩下 裕樹
(57)【要約】
【課題】汎用性に優れて様々な吊り天井構造に適用できるうえに遮音性が高い遮音性金具を提供する。
【解決手段】床スラブ11から吊り下げられた野縁受け部14及び野縁部15を有する吊り天井構造1のブレース8の端部に取り付けられる遮音性金具2である。
そして、野縁受け部14に固定される第1部材と、ブレースの下端に固定される第2部材と、第1部材と第2部材との間に介在される遮音性機能部とを備えている。
ここで、第1部材と第2部材は、一方が柱状に形成され、他方がその周囲を囲繞する筒状に形成されるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体から吊り下げられた天井下地を有する吊り天井構造の斜め部材の端部に取り付けられる遮音性金具であって、
前記天井下地又は前記構造体側に固定される第1部材と、
前記斜め部材の端部に固定される第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に介在される遮音性機能部とを備え、
前記第1部材と前記第2部材は、一方が柱状に形成され、他方がその周囲を囲繞する筒状に形成されるものであることを特徴とする遮音性金具。
【請求項2】
前記第1部材と前記第2部材は、一方が平板部の中央に柱状に形成されたシャフト部を備え、他方が前記シャフト部の周囲を囲繞する筒状に形成されたさや管部を備え、
前記シャフト部の外周面と前記さや管部の内周面との間に、前記遮音性機能部となる防振材が介在されるとともに、前記平板部と前記さや管部の端面との間は音響的な絶縁がされていることを特徴とする請求項1に記載の遮音性金具。
【請求項3】
前記さや管部には、複数の前記斜め部材の端部を接続させるための取付片が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の遮音性金具。
【請求項4】
構造体から吊り下げられた天井下地を有する吊り天井構造であって、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の遮音性金具と、
前記遮音性金具に一方の端部が固定された斜め部材とを備え、
前記斜め部材は、前記遮音性金具を介して前記構造体と前記天井下地とを連結していることを特徴とする吊り天井構造。
【請求項5】
前記天井下地は、防振ハンガーを備えた吊りボルトによって吊り下げられていることを特徴とする請求項4に記載の吊り天井構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物などの構造体から吊り下げられた天井下地を有する吊り天井構造の斜め部材の端部に取り付けられる遮音性金具、及びそれが取り付けられた吊り天井構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1-3に開示されているように、床スラブ又は梁などの建物の構造体から吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造を、野縁受け部と野縁部との交差部において補強する耐震補強金具が知られている。ここで、吊り天井構造の天井下地としては、野縁受け部と野縁部とによって形成される鋼製下地在来工法天井のほかに、システム天井と呼ばれる種々の形態が知られている。
【0003】
ところで、特許文献1-3に開示された吊り天井構造では、天井内に耐震用のブレースを配置している。詳細には、斜めに配置される4本のブレースの下端を、野縁受け部と野縁部との交差部に取り付けられる一つの耐震補強金具に接続している。
【0004】
また、特許文献4に開示されているように、吊り天井を支える構造体に車両の通行や歩行等により生じた振動が、吊りボルトやブレースを介して天井板に伝わって音が発生することを防ぐために、防振部材が配置されることがある。この文献には、吊りボルトの途中に防振ハンガーを取り付けるとともに、ブレースの途中に防振部材が取り付けられた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4963484号公報
【特許文献2】特許第4845212号公報
【特許文献3】特許第6290167号公報
【特許文献4】特開2009-2435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら耐震補強天井においては耐震性能の確認は行われているが、付加機能として追加される遮音性能については、実験によって充分に性能の確認ができているとは言い難いのが実情である。
【0007】
そこで本発明は、汎用性に優れて様々な吊り天井構造に適用できるうえに遮音性が高い遮音性金具、及びそれが取り付けられた吊り天井構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の遮音性金具は、構造体から吊り下げられた天井下地を有する吊り天井構造の斜め部材の端部に取り付けられる遮音性金具であって、前記天井下地又は前記構造体側に固定される第1部材と、前記斜め部材の端部に固定される第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に介在される遮音性機能部とを備え、前記第1部材と前記第2部材は、一方が柱状に形成され、他方がその周囲を囲繞する筒状に形成されるものであることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記第1部材と前記第2部材は、一方が平板部の中央に柱状に形成されたシャフト部を備え、他方が前記シャフト部の周囲を囲繞する筒状に形成されたさや管部を備え、前記シャフト部の外周面と前記さや管部の内周面との間に、前記遮音性機能部となる防振材が介在されるとともに、前記平板部と前記さや管部の端面との間は音響的な絶縁がされている構成とすることができる。また、前記さや管部には、複数の前記斜め部材の端部を接続させるための取付片が設けられていることが好ましい。
【0010】
また、吊り天井構造の発明は、構造体から吊り下げられた天井下地を有する吊り天井構造であって、上記いずれかに記載の遮音性金具と、前記遮音性金具に一方の端部が固定された斜め部材とを備え、前記斜め部材は、前記遮音性金具を介して前記構造体と前記天井下地とを連結していることを特徴とする。ここで、前記天井下地は、防振ハンガーを備えた吊りボルトによって吊り下げられている構成であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の遮音性金具は、鋼製下地在来工法天井などの天井下地を有する吊り天井構造の斜め部材の端部に取り付けられる。すなわち、遮音性金具の第1部材が天井下地などに取り付けられ、もう一方となる第2部材が斜め部材の端部に取り付けられる。そして、第1部材と第2部材との間には遮音性機能部が設けられる。
【0012】
このように、斜め部材の端部と天井下地との間に介在させるのであれば、斜め部材の形態によらず取り付けられるので汎用性に優れていて、様々な吊り天井構造に適用して遮音性を高めることができる。
【0013】
また、このような遮音性金具は、平板部の中央に形成されたシャフト部の周囲をさや管部で覆い、シャフト部とさや管部との間に防振材を介在させることで、簡単に製作することができる。
【0014】
さらに、さや管部に複数の取付片が設けられていれば、ブレースなどの斜め部材が複数本、集約している箇所に遮音性金具を介在させることで、1つの金具で複数の斜め部材に遮音機能を付与することができる。
【0015】
そして、構造体から吊り下げられた吊り天井構造において、構造体と天井下地とを連結する斜め部材の端部に遮音性金具を取り付けることで、容易に遮音機能を確保することができるようになる。特に、天井下地が防振ハンガーを備えた吊りボルトによって吊り下げられている場合に、斜め部材が天井板などの重量を負担しないので、防振ハンガーの遮音性能を充分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態の吊り天井構造の構成を説明するための側面図である。
【
図2】吊り天井構造の構成を説明するための斜視図である。
【
図3】本実施の形態の遮音性金具の構成を説明するための分解斜視図である。
【
図4】遮音性金具の外部材の構成を示した説明図である。
【
図5】本実施の形態の遮音性金具の構成を説明するための斜視図である。
【
図6】補強金具の構成を説明するための分解斜視図である。
【
図7】補強金具の構成を説明するための斜視図である。
【
図8】交差部に補強金具が取り付けられた状態を説明するための斜視図である。
【
図9】補強金具に遮音性金具を取り付けた状態を説明するための平面図である。
【
図10】
図9のA-A矢視方向で見た断面図である。
【
図11】
図9のB-B矢視方向で見た断面図である。
【
図12】本実施の形態の吊り天井構造の状態を模式的に示した説明図である。
【
図13】本実施の形態の吊り天井構造の遮音性を確認するために行った実験で使用した4つの評価試験体をモデル化して示した説明図である。
【
図14】2つの評価試験体の実験結果を比較した説明図である。
【
図15】別の2つの評価試験体の実験結果を比較した説明図である。
【
図16】実施例1の吊り天井構造の構成を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1,2は、本実施の形態の吊り天井構造1の構成を説明するための図である。また、
図3-
図5は、本実施の形態の遮音性金具2の構成を説明するための図である。
【0018】
吊り天井構造1は、例えば体育館、集会場、災害応急対策の拠点となる公共施設、ビルなどの様々な建物に設けられる。本実施の形態の吊り天井構造1は、既存の吊り天井に対しても、新設される吊り天井に対しても適用することができる。
【0019】
図1に示すように、建物の構造体となる床スラブ11の下面や梁には、間隔を置いて複数の吊りボルト13が吊り下げられており、吊り部材となる吊りボルト13の下端のハンガー131に天井下地を構成する野縁受け部14が吊り下げられる。
【0020】
また、
図2に示すように、野縁受け部14の軸方向に間隔を置いて、略直交する方向に向けて天井下地を構成する野縁部15が取り付けられる。なお、本実施の形態では、野縁受け部14と野縁部15とによって形成される天井下地を例に説明するが、適用はこれに限定されるものではない。例えばTバーを格子状に組んだ天井下地を備えたシステム天井にも、本実施の形態の遮音性金具2を適用することができる。
【0021】
そして、野縁部15の下面には、石こうボードなどの天井板16が取り付けられる。ここで
図1に示すように、天井板16の端部16aが建物の壁面12から所定の間隔以上離隔されていれば、地震時の揺れで端部16aが壁面12に押し付けられて損傷するのを防ぐことができる。
【0022】
本実施の形態では、防振ハンガー7を備えた吊りボルト13によって吊り下げられた吊り天井に対して、遮音性を損なわないような形態でブレースなどの斜め部材を配置して耐震補強を行なう場合について説明する。要するに、防振ハンガー7を備えた吊りボルト13で吊ることによって遮音性が確保できていたとしても、その後に配置されるブレースに遮音性が備わっていなければ、そのブレースがサウンドブリッジになって、防振ハンガー7による遮音性が損なわれることになる。
【0023】
本実施の形態の吊り天井構造1は、
図2に示すように、天井下地の第1の構成部材となる野縁受け部14の軸方向に沿って側面視略V形に配置された一対の野縁受け方向の斜め部材としてのブレース8,8と、天井下地の第2の構成部材となる野縁部15の軸方向に沿って側面視略V形に配置された一対の野縁方向の斜め部材としてのブレース8,8とを備えている。
【0024】
ブレース8の上端は、取付金物81を介して吊りボルト13の上部に固定される。一方、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aには、後述する補強金具3が取り付けられる。そして、この補強金具3に取り付けられる遮音性金具2に対して、ブレース8の下端が取り付けられる。
【0025】
遮音性金具2は、
図3に示すように、第1部材又は第2部材となる内部材21と、第2部材又は第1部材となる外部材22と、内部材21と外部材22との間に介在される遮音性機能部となる防振材23とによって主に構成される。
【0026】
内部材21は、平板部211の中央に柱状に形成されたシャフト部212を備えている。
図4に、内部材21の平面図と、2方向の側面図を示した。内部材21は、正方形などの平面視長方形の平板部211と、平板部211の中央に上方に向けて突出させるシャフト部212とを備えている。
【0027】
平板部211の隅角部には、それぞれボルト孔215が穿孔される。このボルト孔215は、内部材21を後述する補強金具3に固定するための孔である。内部材21のシャフト部212は、例えば四角筒状の角形鋼管などによって形成することができる。また、角形鋼管の上端開口を上蓋部213で塞ぐことによって、シャフト部212の剛性を高めることができる。
【0028】
この内部材21のシャフト部212の周囲には、
図3に示すように、四角筒状の防振材23が装着される。防振材23は、防振ゴムなどによって形成される。この防振材23は、四角筒状に形成されていなくてもよく、例えばシャフト部212の4つの側面にそれぞれ貼り付けられる長方形のシート状に形成されていてもよい。
【0029】
内部材21のシャフト部212及び防振材23の周囲を囲繞する筒状に形成される外部材22は、四角筒状のさや管部221と、ブレース8の下端を取り付けるための複数の取付片222とによって主に構成される。
【0030】
取付片222は、さや管部221の隅角部からそれぞれ延伸されて、4つの取付片222の延伸方向は、さや管部221の中心で直交することになる。また、取付片222には、固定用のボルトなどを挿入する取付孔222aが穿孔される。
【0031】
図5に、内部材21に対して防振材23及び外部材22を装着した状態の遮音性金具2の斜視図を示した。吊り天井構造1の常時の状態では、外部材22のさや管部221の下端面と内部材21の平板部211の上面との間には、隙間が発生しており、音響的な絶縁が図れている。
【0032】
さや管部221の大きさは、シャフト部212との間に介在させる防振材23の厚さに応じて設定される。シャフト部212の外周面とさや管部221の内周面との間に防振材23を介在させることで、ブレース8と補強金具3との間で微振動などが伝達されるのを抑えることができる。要するに、ブレース8と補強金具3との間で音響的な絶縁が図れればよいので、シャフト部212とさや管部221との間は単なる隙間であっても良い。
【0033】
以下では、遮音性金具2を野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aに取り付けるための補強金具3の詳細について例示する。遮音性金具2は、補強金具3を介して野縁受け部14に取り付けられる構成に限定されるものではなく、天井下地の構成部材に応じて適宜、補強金具を変形させることで、あらゆる吊り天井に対応させることができる。また、いずれの形態の吊り天井であっても、補強金具3を介在させることで、交差部17Aの接合強度を高めることができる。
【0034】
補強金具3は、
図6-
図8に示すように、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aに取り付けられる。そして、この補強金具3には、ブレース8の下端が遮音性金具2を介して接続される。
【0035】
吊りボルト13のハンガー131が引っ掛けられる野縁受け部14は、
図6に示すように、例えば略水平面の上端面を形成する上フランジ141と、それに略平行な下フランジ142と、上フランジ141と下フランジ142との側縁間を繋ぐ略鉛直面のウェブ143とによって、断面視略コ字形に形成されている。
【0036】
一方、野縁受け部14に固定される野縁部15は、底部153と、その両側から立ち上がる側壁部152,152と、側壁部152,152のそれぞれの上縁から内側に2度屈曲させたリップ部151,151とによって形成される。すなわち野縁部15には、リップ部151,151を有する断面視略U字形の鋼材が使用できる。また、リップ部151は、上面と垂下面とによって横向きの断面視略L字形に形成される。
【0037】
そして補強金具3は、
図6-
図8に示すように、上方に配置される野縁受け部14に固定される第1金具4と、第1金具4に跨らせて野縁部15に固定される第2金具5とによって主に構成される。
【0038】
第1金具4は、中央に設けられて野縁受け部14に跨らせる折曲げ部41と、野縁部15が嵌合可能となるように下部に形成された切欠き部42と、第1金具4を野縁受け部14に固定する接合手段としてのビス材43とによって主に構成される。
【0039】
折曲げ部41は、
図6に示すように、野縁受け部14を上方から覆うように、断面視略門形に形成される。要するに折曲げ部41は、野縁受け部14の上フランジ141及びウェブ143の両側方を覆う形状に形成される。
【0040】
そして、折曲げ部41の下部には、野縁部15の上部が嵌合可能となる形状に切り欠かれた切欠き部42が設けられる。要するに切欠き部42によって、野縁部15の上方及び両側方が囲まれることになる。
【0041】
このように形成された折曲げ部41を野縁受け部14の上フランジ141に載せるとともに、切欠き部42をその下方の野縁部15に嵌めることで、側壁部152,152の上端に第1金具4を載せる。
【0042】
また、折曲げ部41を挟んだ両側では、野縁受け部14のウェブ143と第1金具4とにビス材43,43を連続して貫通させて、両者を接合させる。この結果、第1金具4は野縁受け部14に固定される。
【0043】
このように第1金具4を野縁受け部14に固定するための接合手段を、双方を貫通させるビス材43とすることで、ビス材43のせん断抵抗による強固な接合とすることができる。要するに、野縁受け部14のウェブ143に第1金具4を貫通させたビス材43が直接、ねじ込まれていれば、野縁受け部14と第1金具4との間にずれが生じない強固な接合とすることができる。そしてこの状態であれば、仮に野縁受け部14と野縁部15とが接合されていないとしても、野縁部15の軸方向以外の方向への第1金具4の移動は制限されることになる。
【0044】
さらに、第1金具4の野縁受け部14の軸方向の両側縁には、野縁部15の軸方向と略平行となる方向に向けてリブ44,44が張り出される。このリブ44,44によって、鋼板などの板材を折り曲げ加工することで製作される第1金具4の剛性を高めることができる。
【0045】
このようにして野縁受け部14に取り付けられた第1金具4の上方から第2金具5を跨らせる。この第2金具5は、野縁部15の片方のリップ部151を挟んで対向させる一対の板部(51,52)を有している。
【0046】
一対の板部(51,52)は、いずれも野縁受け部14を跨ぐことができるように、中央に溝部511,521が設けられた鋼板等によって形成される。ここで、リップ部151側(野縁部15の内側)に配置される板部をリップ部側板部51とし、野縁部15の外側に配置される板部を止め板部52とする。
【0047】
一対の板部(51,52)には、それぞれの上縁から反対方向に、野縁受け部14の上端面となる上フランジ141に接しながら延伸されて平面を形成するステージ部53A,53Bが設けられる。ここで、リップ部側板部51に設けられる平面をステージ部53Aとし、止め板部52に設けられる平面をステージ部53Bとする。
【0048】
ステージ部53Aには、野縁受け部14を跨がせるためにリップ部側板部51の中央に設けられる溝部511に連続する凹部532Aが形成される。一方、ステージ部53Bには、野縁受け部14を跨がせるために止め板部52の中央に設けられる溝部521に連続する凹部532Bが形成される。
【0049】
一対のステージ部53A,53Bのそれぞれに設けられる凹部532A,532Bは、
図7に示すように連続した長方形の空間を形成する。この凹部532A,532Bによって形成される空間には、第1金具4の折曲げ部41の上面が収容される。要するに、ステージ部53A,53Bと折曲げ部41の上面とによって、略面一の長方形の広い平面が野縁受け部14上に形成されることになる。
【0050】
この一対のステージ部53A,53Bによって上フランジ141から張り出すように形成される広い長方形の平面には、例えば隅角部付近に、上下方向に貫通する取付孔531が穿孔される。本実施の形態では、それぞれの隅角部に4つの取付孔531が設けられた例を説明する。
【0051】
また、リップ部側板部51の下部には、
図6,
図7に示すように側面視略レ字形の引掛け部512が設けられる。この引掛け部512は、リップ部151に下方から引っ掛けられる位置に設けられる。
【0052】
引掛け部512は、リップ部側板部51の下部の一部に対して、長方形の上辺及び両側辺に切り込みを入れてリップ部151側に倒し込むことによって形成される(
図10参照)。
【0053】
図6-
図8に示すように、引掛け部512の上方には挿通孔513が穿孔されており、リップ部151を挟んでボルト部54が貫通される。このボルト部54は、リップ部側板部51から止め板部52の挿通孔523に向けて貫通されて、止め板部52側に突出される先端にはナットが装着される。
【0054】
これに対してボルト部54の頭部側には、
図8に示すように長方形(略正方形)の鋼板等によって形成される座金部55が配置される。すなわちボルト部54を締め付けることによってリップ部側板部51と止め板部52との間に導入される締結力は、座金部55とリップ部側板部51とが接触する面を通して伝達される。
【0055】
ここで、この座金部55の回転を制限させるために、
図10に示すようなリブ部514を、リップ部側板部51の側縁から張り出させることもできる。この場合、リップ部側板部51の野縁部15の軸方向の両側縁には、野縁受け部14の軸方向と略平行となる方向に向けてリブ部514,514が張り出されることになる。このリブ部514,514によって、鋼板などの板材を折り曲げ加工することで製作されるリップ部側板部51の剛性を高めることができる。
【0056】
さらに、
図8に示すように、止め板部52の野縁部15の軸方向の両側縁にも、野縁受け部14の軸方向と略平行となる方向に向けてリブ部522,522を張り出させて剛性を高めることができる。
【0057】
ボルト部54によって板部(51,52)間に締結力が導入されると、リップ部151が圧潰して第2金具5が野縁部15に固定される。すなわち、ボルト部54の締結力が座金部55を介してリップ部側板部51に伝達されると、それに接するリップ部151が変形して押しつぶされる。
【0058】
そして、導入された締結力と変形したリップ部151とによって圧着された第2金具5は、野縁部15の軸方向への移動が制限されることになる。また、門形に成形されて第1金具4及び野縁受け部14に跨るリップ部側板部51及び止め板部52によっても、第2金具5の野縁部15の軸方向への移動は制限される。
【0059】
さらに、図示していないが、野縁受け部14に固定される第1金具4と、第1金具4に跨らせて野縁部15に固定される第2金具5とは、一体化手段によって接合させることが好ましい。
【0060】
例えば、リップ部側板部51から略直交するように接合片を突出させて第1金具4の折曲げ部41の外側面に沿って配置し、第1金具4と第2金具5とを接合させる一体化手段としてのビス材をねじ込ませる。特に、第1金具4と第2金具5との一体化手段を複数本のビス材とすることで、1本のビス材で一体化させた場合に比べて接合強度が増加して両者の一体性をさらに高めることができる。
【0061】
このようにして野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aは、剛性の高い補強金具3によって固定することができる。この補強金具3を取り付けるだけでも、交差部17Aの接合強度が高められて補強される。
【0062】
また、ブレース8からの力が伝達される補強金具3のステージ部53A,53Bは、野縁受け部14の上フランジ141に接しているので、上から荷重が作用しても、野縁受け部14の反力によって支持することができる。
【0063】
一方、
図2に示すように、補強金具3が取り付けられた交差部17A以外の交差部には、補強クリップ6やクリップ61が取り付けられる。補強クリップ6は、補強金具3が取り付けられていない野縁受け部14と野縁部15との交差部に取り付けられる通常のクリップ61よりも、強固に野縁受け部14と野縁部15とを連結させることができる。
【0064】
以上のようにして交差部17Aに取り付けられた補強金具3のステージ部53A,53Bには、遮音性金具2が取り付けられる。
図9-
図11は、補強金具3に遮音性金具2を取り付けた状態を説明するための平面図及び断面図である。
【0065】
遮音性金具2の下部を構成する内部材21の平板部211の隅角部には、ステージ部53A,53Bの取付孔531と重なる位置に、それぞれボルト孔215が穿孔されている(
図5参照)。このボルト孔215と取付孔531(
図8参照)にボルト24を通してナット241で締結することで、内部材21を補強金具3に固定することができる。なお、ステージ部53A,53Bの取付孔531に雌ねじ溝が刻まれている場合は、ナットを使用せずに上からねじ込んだボルト24によって内部材21を固定することができる。
【0066】
内部材21のシャフト部212を囲繞するように装着される外部材22の取付片222は、外部材22のさや管部221のそれぞれの隅角部から、野縁受け部14と野縁部15の軸方向にそれぞれ延伸される。
【0067】
そして、
図10及び
図11に示すように、それぞれの軸方向に延びた取付片222に対して、アーム材82がボルト821によって斜めに取り付けられる。このアーム材82には、ブレース8の下端が接合される。
【0068】
アーム材82は、ブレース8の下端を取り付けるための断面視略L字形に形成されている。このように2方向にそれぞれ側面視略V形に配置された4本のブレース8の下端は、1箇所の遮音性金具2に集約して取り付けることができる。
【0069】
そして、遮音性金具2を介在させることで、床スラブ11などの構造体側で発生した振動や音が、ブレース8を介して天井板16下方の空間に伝達されるのを防ぐことができる。反対に、天井板16の下方空間で発生した音が、ブレース8を介して上階などに伝達されるのも防ぐことができる。
【0070】
また、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aに取り付けられる補強金具3に遮音性金具2を設けることで、設置箇所が集約されるので、使用する部品数が少なくなり施工性に優れている。すなわち、4本のブレース8のそれぞれに防振部材を介在させる場合と比べて、交差部17Aの1箇所に遮音性金具2を設置するだけでよいため、部品数を大幅に削減することができ合理的である。
【0071】
続いて、
図12に示した吊り天井構造1の施工手順に関する模式図を参照しながら、遮音性金具2の状態について説明する。弾性の軸力材である吊りボルト13によって吊り下げられる吊り天井構造1は、吊りボルト13やブレース8を軸剛性によって設定されるモデルとして表すことができる。
【0072】
図12の左側に図示した状態は、天井下地となる野縁受け部14に支持される野縁部(図示省略)に天井板16が貼り付けられる前の状態をモデル化している。ここで、吊りボルト13の全体の軸剛性は、軸剛性k
3の低い防振ハンガー7を挟んだ軸剛性2k
1の吊り材の直列接合として設定され、ブレース8の軸剛性の鉛直成分はk
2vに設定される。ここで、左図の拡大図に示すように、ブレース8と天井下地との接続は、遮音性金具2の介在を前提としている。
【0073】
そして、通常の施工手順において、このような状態で床スラブ11から吊り下げられた天井下地に対して天井板16が貼り付けられて重量Wが加わると、天井下地はδだけ沈下することになる。この際の吊りボルト13の抵抗をr1とし、防振ハンガー7の抵抗をr3とし、1本のブレース8の抵抗の鉛直成分をr2v/2とする。
【0074】
こうした天井板16の貼り付け後の遮音性金具2の状態は、
図12の右側の拡大図に示したように、内部材21に対して外部材22は離隔しており、内部材21と外部材22との間に介在し得るのは、防振材23のみの状態になる。すなわち、内部材21と外部材22との間は、音響的な絶縁が図れた状態になり、ブレース8と野縁受け部14との間に遮音性金具2を介在させることで、遮音性が確保できると言える。
【0075】
次に、本実施の形態の吊り天井構造1の遮音性を確認するために行った実験について説明する。
試験は、床衝撃音実験室(箱型残響室)において実施した。床衝撃音実験室は、厚さ200mmの場所打ちコンクリートスラブによって仕切られた上下2層の実験室であり、試験体はその下階(スラブ下方空間)に設置される。
【0076】
天井の防振性能は、上階スラブ(床スラブ11に相当)をインパクトハンマで加振した際に生じる振動加速度の減衰性能によって評価する。具体的には、床スラブ11の下面と天井板16の上面の鉛直方向の振動加速度を同時に計測し、両者の伝達関数を実験的に求めることによって評価する。
【0077】
防振性能は、両者間の伝達関数及び1/3オクターブ振動加速度レベルの相対値とする。
図13に、実験を行った4つの評価試験体をモデル化して示した。
図13(a)は、本実施の形態の吊り天井構造1を示しており、ブレース8の下端には遮音性金具2が取り付けられるとともに、吊りボルト13にも防振ハンガー7が備えられている(評価試験体a:本実施の形態)。
【0078】
図13(b),(c),(d)は、比較のための評価試験体であり、
図13(b)は防振ハンガー7を備えた吊りボルト13のみによって吊り下げられた吊り天井(評価試験体b:一般防振天井)を表している。また、
図13(c)は、通常の吊りボルト13とブレース8が配置された一般的な耐震吊り天井(評価試験体c:一般耐震天井)、
図13(d)は、防振ハンガー7を備えた吊りボルト13と通常のブレース8が配置された吊り天井(評価試験体d:通常ブレース防振天井)を表している。
【0079】
図14は、評価試験体a(本実施の形態)と評価試験体d(通常ブレース防振天井)の実験結果を比較した説明図である。一方、
図15は、評価試験体b(一般防振天井)と評価試験体c(一般耐震天井)の実験結果を比較した説明図である。
【0080】
評価試験体a(本実施の形態:
図14)と評価試験体b(一般防振天井:
図15)の実験結果は、共振のピークを10Hz程度に有する点で共通している。また、評価試験体aと評価試験体bの実験結果は、加速度レベル差が正値となり、遮音性が確保されている帯域が共通している。すなわち、評価試験体aは、一般防振天井並みの遮音性能を有していると言える。
【0081】
他方、評価試験体c(一般耐震天井:
図15)の実験結果では、特に高周波領域(例えば31.5Hz以上の領域)で加速度レベル差が負値となり、ほぼ全域で遮音ができていない。また、評価試験体d(通常ブレース防振天井:
図14)の実験結果では、高周波領域の一部で遮音性が損なわれている。この帯域で、通常に配置されたブレース8がサウンドブリッジとなり、防振ハンガー7の効果を損なっていたと推察される。また、本実施の形態の遮音性金具2以外の方法で接続を行った場合は、ブレース8が天井板16の荷重を少なからず負担することになるので、防振ハンガーの重量負担が減少した分、遮音性能が低減することになる。
【0082】
次に、本実施の形態の遮音性金具2及び吊り天井構造1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の遮音性金具2は、天井下地を形成する野縁受け部14及び野縁部15を有する吊り天井構造1のブレース8の端部に取り付けられる。すなわち、遮音性金具2の内部材21が野縁受け部14に取り付けられ、もう一方となる外部材22がブレース8の下端に取り付けられる。そして、内部材21と外部材22との間には遮音性機能部となる防振材23及び離隔、あるいは単なる離隔が設けられる。
【0083】
このように、ブレース8の端部と野縁受け部14(天井下地)との間に遮音性金具2を介在させるのであれば、例えば補強金具3とは別の金具を使用してブレース8をシステム天井の天井下地に配置するような様々な吊り天井に対しても適用することができ、汎用性に優れている。
【0084】
また、本実施の形態の遮音性金具2及び吊り天井構造1の遮音性については、上述したように実験によって性能が確認できており、様々な吊り天井構造の遮音性を容易に高めることができると言える。
【0085】
また、このような遮音性金具2は、平板部211の中央に形成されたシャフト部212の周囲をさや管部221で覆い、シャフト部212とさや管部221との間に防振材23を介在させることで、簡単に製作することができる。
【0086】
さらに、さや管部221に複数の取付片222が設けられているので、例えば4方向からブレース8が集約している箇所に遮音性金具2を介在させることで、1つの金具で4本のブレース8に遮音機能を付与することができる。
【0087】
そして、床スラブ11などの構造体から吊り下げられた吊り天井構造1において、床スラブ11と野縁受け部14とを連結するブレース8の端部に遮音性金具2を取り付けることで、容易に遮音機能を確保することができるようになる。
【0088】
特に、天井下地が防振ハンガー7を備えた吊りボルト13によって吊り下げられている場合に、本実施の形態の遮音性金具2のようにシャフト部212とさや管部221との間に防振材23を介在させる構成であれば、ブレース8が天井板16の重量を負担することがない。吊りボルト13の防振ハンガー7は、天井板16の重量が作用している状態で充分な遮音性能が発揮できるように設計されているので、ブレース8が天井板16の重量の一部でも負担しない遮音性金具2を使用するのであれば、防振ハンガー7の遮音性能を充分に発揮させることができる。
【0089】
また、交差部17Aに補強金具3を介して遮音性金具2を取り付けることで、ブレース8が補強金具3を介して交差部17Aに接続されて耐震性が高くなるうえに、ブレース8の振動が天井板16に伝達されるまでに遮音性金具2が介在されるので、遮音機能を確保することができる。
【0090】
すなわち、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aに補強金具3を取り付け、補強金具3に遮音性金具2を介して4本のブレース8をそれぞれ繋ぐだけで、効率的に耐震性と遮音性を高めることができる。そして、充分な耐震性と遮音性が確保できることも、実験によって確認できている。
【実施例0091】
以下、前記した実施の形態の遮音性金具2の別の使用形態について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0092】
前記実施の形態では、ブレース8の下端に遮音性金具2を取り付ける場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図16に模式的に示した吊り天井構造1Aのような使い方もできる。すなわちこの実施例1の吊り天井構造1Aでは、ブレース8の上端を構造体側となる吊りボルト13の上部に固定する際に、遮音性金具2を介在させている。この配置であれば、吊りボルト13を遮音性金具2のシャフト部212として転用することもできる。
【0093】
このように振動や音を伝達させるブレース8の端部の一方に遮音性金具2を介在させるだけで、上階と下階との間の遮音性を確保することができるようになる。また、遮音性金具2を端部に取り付けることができるブレースは、V字状に配置されるものだけでなく、1本の斜め部材となるブレースやX字状に配置されるブレースであってもよい。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【0094】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0095】
例えば、前記実施の形態では、内部材21を第1部材とし、外部材22を第2部材とする場合について説明したが、これに限定されるものではなく、内部材21をブレース8等に固定する第2部材とし、外部材22を床スラブ11等に固定する第1部材とすることもできる。
【0096】
また、前記実施の形態では、さや管部221の隅角部にブレース8の端部を接続するための取付片222を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、さや管部の側面に取付片の側縁を固定することもできる。
【0097】
さらに、前記実施の形態では、直方体のシャフト部212の周囲を四角筒状のさや管部221で囲繞する構成について説明したが、これに限定されるものではなく、円柱状や多角柱状のシャフト部の周囲を円筒状や多角筒状のさや管部で囲繞する構成であってもよい。
【0098】
また、前記実施の形態では、シャフト部212の外周面とさや管部221の内周面との間に防振材23を介在させる構成について説明したが、これに限定されるものではなく、シャフト部の外周面とさや管部の内周面との間は単なる空隙であっても良い。