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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088285
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】照明システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 47/11 20200101AFI20220607BHJP
【FI】
H05B47/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200651
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳江 加弥人
(72)【発明者】
【氏名】中川 政一
(72)【発明者】
【氏名】富田 健司
【テーマコード(参考)】
3K273
【Fターム(参考)】
3K273PA03
3K273QA07
3K273QA11
3K273QA21
3K273QA29
3K273RA02
3K273RA04
3K273RA08
3K273SA04
3K273SA21
3K273SA38
3K273SA46
3K273TA03
3K273TA15
3K273TA28
3K273TA32
3K273TA78
(57)【要約】
【課題】執務空間を照明するにあたって、省エネルギーでありながらも室内にいる人には十分な明るさ感を感じさせる照明システムを提供する。
【解決手段】照明システムは、天井に設置された複数の照明器具10を備え、各照明器具10は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部11と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部12と、を有する。当該照明システムにて執務空間を照明したとき、執務空間の全体の輝度値区分の割合として、高輝度区分の割合が3.3%以上7.6%未満、中輝度区分の割合が31.2%以上43.3%未満、低輝度区分の割合は49.1%以上65.5%未満、となるように執務区間を照明する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
執務空間の全体の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が3.3%以上7.6%未満、
中輝度区分の割合が31.2%以上43.3%未満、
低輝度区分の割合は49.1%以上65.5%未満、となるように執務区間を照明する
ことを特徴とする照明システム。
ここで、
高輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値以上(1.0倍以上)の輝度値を持つ領域区分であり、
中輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍以上1.0倍未満の輝度値を持つ領域区分であり、
低輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍未満の輝度値をもつ領域区分である。
【請求項2】
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井部位の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が6.4%以上18.8%未満、
中輝度区分の割合が3.0%以上33.7%未満、
低輝度区分の割合は47.5%以上90.6%未満、となるように執務区間を照明する
ことを特徴とする照明システム。
ここで、
高輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値以上(1.0倍以上)の輝度値を持つ領域区分であり、
中輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍以上1.0倍未満の輝度値を持つ領域区分であり、
低輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍未満の輝度値をもつ領域区分である。
【請求項3】
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井部位の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が6.0%以上7.6%未満、
中輝度区分の割合が0.6%以上12.2%未満、
低輝度区分の割合は80.2%以上93.4%未満、となるように執務区間を照明する
ことを特徴とする照明システム。
ここで、
高輝度区分とは、天井部位の平均輝度値以上(1.0倍以上)の輝度値を持つ領域区分であり、
中輝度区分とは、天井部位の平均輝度値の0.5倍以上1.0倍未満の輝度値を持つ領域区分であり、
低輝度区分とは、天井部位の平均輝度値の0.5倍未満の輝度値をもつ領域区分である。
【請求項4】
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井照明部から発せられる天井側光束と、床面照明部から発せられる床面側光束と、の比が、5:95以上18:82未満である
ことを特徴とする照明システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の照明システムにおいて、
さらに、
請求項1から請求項9のいずれかを実現するように設定された各照明器具の上下配光率パターンを記憶した記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された各照明器具の上下配光率パターンに基づいて前記各照明器具の点灯制御を行なうホストコンピュータと、を備える
ことを特徴とする照明システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の照明システムにおいて、
さらに、
執務空間に設置されたカメラと、
カメラ画像からほぼリアルタイムに輝度区分割合を求めるコンピュータと、を備え、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の輝度区分割合の範囲に入るように前記コンピュータが各照明器具の調光率を調整する
ことを特徴とする照明システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は照明システムに関する。具体的には、省エネと明るさ感とを両立することができる照明システムに関する。
【背景技術】
【0002】
執務空間の照明方式として、タスク・アンビエント照明方式が注目されるようになってきている。タスク・アンビエント照明方式は、室内全般を照らすアンビエント照明の照度を絞り、執務者の作業エリアにはタスク照明(例えばデスクライト)を設置して執務者の手元の明るさを確保するというものである。タスク・アンビエント照明方式は、従来型の全般照明方式に比べて、省エネルギーとし易い。その一方、タスク・アンビエント照明方式は、執務空間全体の印象として暗いイメージになりがちである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-020993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、明るさ感を用いた評価法に関する研究や議論が重ねられている。しかし、明るさ感は人が視野から感じる明るさの印象を意味しており、その理論は多岐にわたるため、現状では、評価方法の標準化には至っていない。
例えば、特許文献1には、NSB(natural scale space brightness)値という明るさ感指標値を導入することを提案している。NSB(natural scale space brightness)値は、「明るさに関する量の平均値」に「第一不均一度(粗い輝度の対比)」、「第二不均一度(細かい輝度の対比)」を加味した値として規定されている。
ここで、NSB値算出に必要である「明るさに関する量の平均値」、「第一不均一度」、「第二不均一度」の値は被験者実験で得られた結果を基に算出している。実験は様々な空間の明るさ感を評価するものであるが、評価尺度が13段階もあり、かなり細かく設定されている上、全体の回答値を平均した値を採用している。また、明るさを感じる度合いは人によって異なるため、13段階もある尺度では被験者の感じ方のレベルを揃えた回答を得ることは困難であると予想される。
また、例えば特許文献1では、明るさ感の評価を目的とするに留まり、省エネルギーに関する言及はない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に記載の照明システムは、
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
執務空間の全体の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が3.3%以上7.6%未満、
中輝度区分の割合が31.2%以上43.3%未満、
低輝度区分の割合は49.1%以上65.5%未満、となるように執務区間を照明する
ことを特徴とする。
【0006】
ここで、
高輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値以上(1.0倍以上)の輝度値を持つ領域区分であり、
中輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍以上1.0倍未満の輝度値を持つ領域区分であり、
低輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍未満の輝度値をもつ領域区分である。
【0007】
本発明の一実施形態では、
照明システムにて執務空間を照明したとき、
執務空間の全体の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が4.0%以上6.5%未満、
中輝度区分の割合が33.0%以上42.0%未満、
低輝度区分の割合は51.5%以上63.0%未満、となるように執務区間を照明する
ことが好ましい。
【0008】
また、本発明の一実施形態では、
照明システムにて執務空間を照明したとき、
執務空間の全体の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が4.5%以上6.0%未満、
中輝度区分の割合が36.0%以上41.0%未満、
低輝度区分の割合は53.0%以上59.5%未満、となるように執務区間を照明する
ことが好ましい。
【0009】
本発明の請求項2に記載の照明システムは、
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井部位の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が6.4%以上18.8%未満、
中輝度区分の割合が3.0%以上33.7%未満、
低輝度区分の割合は47.5%以上90.6%未満、となるように執務区間を照明する
ことを特徴とする。
【0010】
ここで、
高輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値以上(1.0倍以上)の輝度値を持つ領域区分であり、
中輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍以上1.0倍未満の輝度値を持つ領域区分であり、
低輝度区分とは、執務空間内において、平均輝度値の0.5倍未満の輝度値をもつ領域区分である。
【0011】
本発明の一実施形態では、
照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井部位の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が9.2%以上15.4%未満、
中輝度区分の割合が13.8%以上58.3%未満、
低輝度区分の割合は26.3%以上77.0%未満、となるように執務区間を照明する
ことが好ましい。
【0012】
本発明の請求項3に記載の照明システムは、
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井部位の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が6.0%以上7.6%未満、
中輝度区分の割合が0.6%以上12.2%未満、
低輝度区分の割合は80.2%以上93.4%未満、となるように執務区間を照明する
ことを特徴とする。
【0013】
ここで、
高輝度区分とは、天井部位の平均輝度値以上(1.0倍以上)の輝度値を持つ領域区分であり、
中輝度区分とは、天井部位の平均輝度値の0.5倍以上1.0倍未満の輝度値を持つ領域区分であり、
低輝度区分とは、天井部位の平均輝度値の0.5倍未満の輝度値をもつ領域区分である。
【0014】
本発明の一実施形態では、
照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井部位の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が6.0%以上7.0%未満、
中輝度区分の割合が3.95%以上9.8%未満、
低輝度区分の割合は83.2%以上90.1%未満、となるように執務区間を照明する
ことが好ましい。
【0015】
本発明の請求項4に記載の照明システムは、
天井、壁面、床面を有する執務空間を照明する照明システムであって、
当該照明システムは、
天井に設置された複数の照明器具を備え、
前記各照明器具は、天井側に向けて照明光を発する天井照明部と、床面側に向けて照明光を発する床面照明部と、の少なくとも一方を有し、かつ、前記天井照明部と前記床面照明部とは発する光束をそれぞれが独立して調光できるようになっており、
当該照明システムにて執務空間を照明したとき、
天井照明部から発せられる天井側光束と、床面照明部から発せられる床面側光束と、の比が、5:95以上18:82未満である
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施形態では、
天井照明部から発せられる天井側光束と、床面照明部から発せられる床面側光束と、の比が、9.5:90.5以上14:86未満である
ことが好ましい。
【0017】
本発明の請求項5に記載の照明システムは、
さらに、
各照明器具の上下配光率パターンを記憶した記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された各照明器具の上下配光率パターンに基づいて前記各照明器具の点灯制御を行なうホストコンピュータと、を備える
ことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項6に記載の照明システムは、
さらに、
執務空間に設置されたカメラと、
カメラ画像からほぼリアルタイムに輝度区分割合を求めるコンピュータと、を備え、
上記に記載の輝度区分割合の範囲に入るように前記コンピュータが各照明器具の調光率を調整する
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実験のために用意した実験空間を例示する図である。
図2】実験のために用意した実験空間を例示する図である。
図3】照明器具の外観図である。
図4】照明器具の仕様を示す図である。
図5】実験に用意した配光パターンを示す図である。
図6】配光パターンの組み合わせを例示した図である。
図7】配光パターン4の画像データに画像処理を施した結果を示す図である。
図8】配光パターン7の画像データに画像処理を施した結果を示す図である。
図9】配光パターン11の画像データに画像処理を施した結果を示す図である。
図10】配光パターン12の画像データに画像処理を施した結果を示す図である。
図11】各配光パターンごとに輝度値区分の割合を求めた結果を示す図である。
図12】各配光パターンごとに輝度値区分の割合を求めた結果を示す図である。
図13】基準配光パターン同士を対比した結果を示す図である。
図14】テスト配光パターンと基準配光パターンとを対比した結果を示す図である。
図15】輝度の対比(横軸)を「背景輝度」としてテスト配光パターンと基準配光パターンとの対比の結果を示す図である。
図16図14において背景輝度比が1.0倍付近を拡大した図である。
図17】配光パターンを上方調光率ごとにまとめて、輝度値区分の割合を算出し直した結果を示す図である。
図18】好適な輝度値区分の割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、執務空間を照明するにあたって、省エネルギーでありながらも室内にいる人には十分な明るさ感を感じさせる照明システムを提供するものであり、そのための照明の配光(輝度値区分の好適割合)を提案するものである。
本発明に係る照明の配光(輝度値区分の好適割合)を求めるにいたった明るさ感の実験について説明する。
(実験方法)
図1図2は、本実験のために用意した実験空間を示す図である。実験空間は、通常の執務空間と同じように、天井、壁、床があり、天井の高さは一般的な執務空間と同程度である(2.6m)。昼光の影響を除くため、窓面には目隠しを設けている。
【0021】
複数の照明器具を天井に配置した。
この照明器具は、アンビエント照明を提供するためのものである。
照明器具10を図3に示す。
照明器具10は、天井照明部11と、床面照明部12と、を備えている。
天井照明部11は、照明器具10の上方側、すなわち、天井に向けて光(照明光)を発するように設けられている。床面照明部12は、照明器具10の下方側、すなわち、床面に向けて光(照明光)を発するように設けられている。
天井照明部11と床面照明部12とは、それぞれ独立に調光が可能であり、すなわち、本照明器具10は、天井に向けての照明光と床面に向けての照明光との配光(配光率)を調整することができる。本実験で使用した照明器具10においては、天井照明部11と床面照明部12とは、照射面が反対に向いていることの他は同じ仕様である。図4は、照明器具10の仕様を示す図である。
【0022】
ここでは、実験空間の縦横はそれぞれ12mで、天井に30個の照明器具10を配置した。
【0023】
被験者には、部屋の端の方に置いた椅子に着席してもらう。また、被験者の席とは反対側の部屋の端にマークとしてリング(ここでは赤色のリング)20を設置した。そして、被験者には、前記リング20の方向に視線を固定してもらった状態で、なるべく部屋の全体を見渡してもらうようにした。
【0024】
また、部屋の端にカメラを設置し、前記リング20を含めて部屋の全体を撮像できるようにした。カメラの撮像データから輝度を取り出して、演算処理等を行なうのであるが、この点は後述する。
【0025】
実験の手順を説明する。
被験者に着席してもらい、一ケースごとに、第1の配光パターンで部屋を照明したときと、第2の配光パターンで部屋を照明したときと、で明るさ感を評価してもらう。
第1の配光パターンで部屋を3秒照明し、次に、第2の配光パターンで部屋を3秒照明する。
これを2回繰り返す。
そして、被験者に、後者(第2の配光パターン)が前者(第1の配光パターン)と比べてどうだったかを回答してもらう。つまり、後者(第2の配光パターン)が前者(第1の配光パターン)と比べて、「明るい」、「明るくない」、「全く同じ」、の3択で答えてもらう。
回答の集計において、「明るい」を+1pt、「明るくない」を-1pt、「全く同じ」を0ptとした。
【0026】
被験者として、20代から60代の48名に実験に参加してもらった。
【0027】
用意した配光パターンを図5に示す。
図5では、14の配光パターンを示している。
図5のテーブル中で2列目に「基準」と付しているのは、基準配光パターンのことである。
基準配光パターンといっているのは、通常の部屋の照明と同じで、床面照明部12だけで照明するときの配光パターンである。(つまり、基準配光パターンでは、天井照明部(上方光束)11の調光率は0%である。)
ここでは、配光パターン1、2、6が基準配光パターンに相当する。
【0028】
図5のテーブル中で2列目に「テスト」と付しているのは、テスト配光パターンのことである。テスト配光パターンといっているのは、床面照明部12だけでなく、天井照明部11も用いた配光パターンである。
【0029】
配光パターンの選定は、照明シミュレーションソフト(ここでは「DIALux evo」(登録商標)、「REALAPS」(登録商標))による事前のシミュレーションによって行なった。
選定条件は(1)照明学会・オフィス照明設計技術指針(事務室)の照度基準である天井面照度100(lx)、壁面照度200(lx)を満足すること、(2)机上面照度(0.8m)500(lx)(上方光束0%)の空間と同等以上の明るさ感が得られ、消費電力量が同程度あるいは低いこと、とした。
【0030】
実験は、計78ケース(ケースNo.1~No.78)で行なった。
そのうち、後半の39ケース(ケースNo.40~No.78)は、前半の39ケース(ケースNo.1~No.39)の順番を逆にして行なった。
例えば、前半39ケースのなかで配光パターンNo.2を第1の配光パターン(前者)とし、配光パターンNo.7を第2の配光パターン(後者)としたとする。
このとき、後半39ケースのなかでは、配光パターンNo.7を第1の配光パターン(前者)とし、配光パターンNo.2を第2の配光パターン(後者)とする。
【0031】
実験結果を集計すると、図6のように、配光パターンの組み合わせ条件(組み合わせNo)ごとにスコアが得られる。(図6中には、今後の説明にも登場する主要な結果を選んで載せている。)
【0032】
被験者実験を行なうことと同時に各配光パターンで部屋を照明したときの画像をカメラで撮像しておく。そして、画像データ中のピクセルの輝度値を取り出して、画像解析するとともに、輝度値区分による割合を算出しておく。
図7から図10は、画像データを画像解析して画像処理を施した結果の一例である。
図7は配光パターン4、
図8は配光パターン7、
図9は配光パターン11、
図10は配光パターン12、の画像データに画像処理を施した結果である。
【0033】
画像解析は次のように行なう。
まず、全体に対する輝度値区分の割合を次のように求める。
画像データ全体の平均輝度値を求める。
そして、画像データ中で平均輝度値以上(1.0倍以上)の輝度値を持つピクセルを高輝度ピクセルとし、高輝度ピクセルを白色にする。
画像データ中で平均輝度値の0.5倍以上1.0倍未満の輝度値をもつピクセルを中輝度ピクセルとし、中輝度ピクセルを灰色にする。
画像データ中で平均輝度値の0.5倍未満の輝度値をもつピクセルを低輝度ピクセルとし、低輝度ピクセルを黒色にする。
図7図10は上記のルールで各ピクセルを色づけ(画像処理)した結果である。
各配光パターンごとに全体に対する輝度値区分の割合を求めた結果を図11図12の表中に示している。
【0034】
画像解析として、部位ごとの輝度値区分割合も求めておく。
画像データ中の領域を各部位に分類する。
ここでは、部位とは、天井領域、壁領域、床領域(あるいは、天井・壁以外の領域)とする。
例えば、画像データから天井領域だけを切り出し、天井領域だけの天井部平均輝度値を求める。そして、天井領域のピクセルの輝度値を見て、天井部平均輝度値の1.0倍以上、0.5倍以上1.0倍未満、0.5倍未満で区分し、天井部位でみたときの、高輝度ピクセル、中輝度ピクセル、低輝度ピクセルに分類していく。部位ごとの輝度値区分割合の算出結果を図11、12の表中に示している。
【0035】
(実験結果の考察)
実験で得られた各配光パターンのスコアを分析することで、省エネルギーでありながらも十分な明るさ感を提供できる配光パターンを見いだしていく。
まず、図13は、基準配光パターン同士の対比である。すなわち、配光パターン1、2、6の組み合わせで明るさ感を被験者に比較してもらった結果である。
(繰り返すと、基準配光パターンといっているのは、通常の部屋の照明と同じで、床面照明部12だけで照明するときの配光パターンである。つまり、基準配光パターンでは、天井照明部(上方光束)11の調光率は0%である。)
【0036】
横軸は、対比する配光パターン同士の全体平均輝度値の比である。
輝度比=(第2の配光パターン(後者)の全体平均輝度値)/(第1の配光パターン(前者)の全体平均輝度値)
縦軸は、スコアである。すなわち、対比した組み合わせのうちの第2の配光パターン(後者)のスコア結果である。
【0037】
図13を見ると、全体平均輝度比が高くなれば、明るさ感のスコアも高くなる。
このこと自体は当然のことであるが、本実験の明るさ感のスコアが妥当であると考えてよい証左でもある。全体的に右肩上がりであるグラフ上の点に対して回帰直線を求めると、その傾きは、173.48となった。
【0038】
次の図14は、テスト配光パターンと基準配光パターンとの対比の結果である。
図14をみると、やはり、全体平均輝度比が高くなれば、明るさ感のスコアも高くなる。
このこと自体は当然であるが、図13の結果と対比してみると、テスト配光パターンの方が明るさ感のスコアが高くなりやすいことが見て取れる。
図14のグラフ上の点に対して回帰直線を求めると、その傾きは、357.69となる。これは、図13のときの基準配光パターン同士の比較の場合に比べて、回帰直線の傾きはおよそ2倍になっているということである。
【0039】
図14中で、スコアが0付近の点(図14中の矢印A)に注目する。
スコアが0付近ということは、被験者からみて対比する配光パターン同士では明るさ感に差は無いと感じられているということである。
図14中で、スコアが0付近の点(図14中の矢印A)の輝度比をみてみると、1.0倍よりも小さい値である。すなわち、テスト配光パターンの方が、計算で求められる輝度は低いが、被験者からみれば明るさ感に差はない、ということである、
【0040】
また、図14中で、輝度比が1.0倍付近(図14中の矢印B)に注目する。
輝度比が1.0倍付近ということは、対比する配光パターン同士では、計算で求められる輝度はほぼ同じで、すなわち、消費エネルギー(例えば消費電力)はほぼ同じと考えてよい。
図14中で、輝度比が1.0倍付近(図14中の矢印B)の点のスコアを見てみると、45から50付近であり、計算で求められる輝度はほぼ同じであるが、被験者から見ればテスト配光パターンの方が断然明るく感じられるということである。このことは、テスト配光パターンによれば、省エネと明るさ感の両立が十分可能であるということが示唆されるということである。
【0041】
そこで、次に、テスト配光パターンのなかでも好ましいパターンはどれか、という検討にはいる。
図15は、図14と同じくテスト配光パターンと基準配光パターンとの対比の結果であるが、輝度の対比(横軸)をとるのに「背景輝度」を用いている。
ここでいう「背景輝度」というのは、画像データから照明器具10の発光部分を取り除いて(マスクして)、照明器具10の発光部分以外の領域の平均輝度のこととする。
照明器具10の発光部分そのものは、空間の明るさ感に影響を与えない存在であることから、アンビエント照明の実力の評価としては、発光部分を除いた輝度同士を対比することが妥当と考えられるからである。
図15においては、プロットされた点はかなりバラついているが、全体的に右肩上がりの傾向は保っている。
【0042】
図15において背景輝度比が1.0倍付近の点に注目してみる。
図16は、図15において背景輝度比が1.0倍付近を拡大した図である。
図16において、背景輝度比が1.0倍付近にある点を見ると、スコアがプラスのものとマイナスのものとが混在している。
いま、図16において、背景輝度比が1.0倍付近にある点の組み合わせ表が図6である。(図6において最右列は、対比する2つの配光パターンでどちらかより省エネかを示している。)
図16において、明らかにスコアがプラスになっているものに注目すると、それは、配光パターン7である。配光パターン7によれば、基準配光パターンと比べて、計算上の背景輝度値がほぼ同じであったとしても、被験者の明るさ感のスコアは高いという傾向がはっきりとある。
【0043】
組み合わせNo.30(テスト配光パターン7と基準配光パターン6)とでは、テスト配光パターン7の消費電力の方が大きい(計算上の輝度も大きい)のであるから、テスト配光パターン7の組み合わせNo.30(テスト配光パターン7と基準配光パターン6)でテスト配光パターン7のスコアが高くなるのは当然ではある。
ただし、組み合わせNo.17(テスト配光パターン7と基準配光パターン2)とでは、テスト配光パターン7の消費電力の方が低いにも関わらず、テスト配光パターン7はスコアが+14であり、テスト配光パターン7は省エネと明るさ感を両立させるヒントを与えていると言える。
【0044】
いま、図5からテスト配光パターン7の配光を読み取ると、上方配光調光率が5%で、下方調光率が34%で、消費電力は274Wである。参考までにテスト配光パターン7のときの机上面照度は350(lx)である。
基準配光パターン2というのは、上方配光調光率が0%で、下方調光率が43%で、消費電力は302Wである。
参考までに基準配光パターン2のときの机上面照度は400(lx)である。すなわち、テスト配光パターン7の配光によれば、この程度の範囲で消費電力を下げても(30台当たりで30Wの省エネをしたとしても)明るさ感は十分に保つ、もしくは、より明るくできる、ということである。
【0045】
テスト配光パターン7の配光に近いのはテスト配光パターン3である。
テスト配光パターン3にも注目してみる。
図16において、組み合わせNo.1(テスト配光パターン3と基準配光パターン1)に注目してみる。
組み合わせNo.1(テスト配光パターン3と基準配光パターン1)の場合、背景輝度比は0.88倍で、スコアは-18である。
確かに、組み合わせNo.1(テスト配光パターン3と基準配光パターン1)の場合、テスト配光パターン3のスコアはマイナス18であるが、テスト配光パターン3と基準配光パターン1とで消費電力を比べると、テスト配光パターン3は健闘していると評価してよい。すなわち、テスト配光パターン3と基準配光パターン1とでは、消費電力において(30台当たりで)約80Wの省エネになっているにも関わらず、被験者からみてテスト配光パターン3はある程度明るいと感じられる、ということである。
【0046】
ここで、上方調光率を大きくしていけば、それだけ明るさ感が向上していくかというと、そうではないことが図16から読み取れる。図16において、組み合わせNo.2,9,21を見ると、スコアが低い。すなわち、テスト配光パターン4、11、12は、上方調光率を10%,10%、20%としたものであるが、明るさ感が高まっているとは言えない。
【0047】
図17は、配光パターンを上方調光率ごとにまとめて、輝度値区分の割合を算出し直したものである。(言い換えると、図11、12のデータを上方調光率ごとにまとめて編集したものである。)
上方調光率を5%とするテスト配光パターン3、7が望ましい配光パターンであって、上方調光率を10%とするテスト配光パターン4,11は望ましい範囲からはやや外れていると考えられる。
上方調光率の調整で上下配光を変えたとき、輝度値区分の割合をみてみると、壁や床の輝度値区分の割合は上方調光率に違いがあってもそれほど大きくバランスが違ってくるわけではない。
一方、全体の輝度値区分割合と天井の輝度値区分割合は上方調光率の調整によって変化が生じている。
【0048】
したがって、本発明者らは、省エネと明るさ感とを両立させる照明システムとして、執務空間が図18の輝度値区分の割合で照明されるようにすることを提案するものである。
執務空間の全体の輝度値区分の割合として、
高輝度区分の割合が3.3~7.6%、
中輝度区分の割合が31.2~43.3%、
そして、残余の部分(領域)が低輝度区分(つまり低輝度区分の割合は49.1~65.5%)、となるように執務区間を照明する。
【0049】
また、執務空間の天井部位に着目して、次のような輝度値区分の割合になるように執務空間が照明されるようにしてもよい。
すなわち、執務空間の天井部位の輝度値区分の割合として、全体の輝度値の平均値(全体の平均輝度値)を基準としたとき、
天井部位における高輝度区分の割合が6.4~18.8%、
天井部位における中輝度区分の割合が3.0~33.7%、
そして、天井部位における残余の部分(領域)が低輝度区分(つまり低輝度区分の割合は47.5~90.6%)、となるように執務区間を照明する。
【0050】
あるいは、執務空間の天井部位の輝度値区分の割合として、天井部位の輝度値の平均値(天井部位の平均輝度値)を基準としたとき、
天井部位における高輝度区分の割合が6.0%~7.6%、
天井部位における中輝度区分の割合が0.6%~12.2%、
そして、天井部位における残余の部分(領域)が低輝度区分(つまり低輝度区分の割合は80.2~93.4%)、となるように執務区間を照明する。
【0051】
照明システムとしては、ビル(建物)の設計者が本発明に沿った照明ができるように照明器具10の配置と各照明器具10の上下配光率(調光率)を何パターンか設定しておき、これら設定パターンを記憶装置に格納しておくとよい。
照明システムの各照明器具10が所定のホストコンピュータに繋がっていて、コンピュータが前記設定パターンを読み出して、各照明器具10の調光を調整するようにしてもよいだろう。
【0052】
あるいは、執務空間の適切な位置にカメラを設置しておき、コンピュータがカメラ画像からほぼリアルタイムに輝度区分割合を求められるようにしておいてもよい。
ユーザが執務空間の明るさを調整するのに手動でつまみやレバーを操作できるようにしてもよく、この際に、執務空間が全体的に明るくなったり暗くなったりする際でも、自動的に本発明の輝度区分割合の範囲に入るようにコンピュータが各照明器具10の調光率(上下配光)を調整するようにしておくとよい。
ただし、窓から昼光が入ってくるとあまり意味がなくなるので、この方式による調光率の設定は、夜間か、あるいは、窓をブラインドした状態で行なうとよいだろう。
調整で求められた各照明器具10の調光率の設定パターンは記憶装置に記憶しておいて、読み出せるようにしておくとよい。
【0053】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、執務空間の天井に設置するすべての照明器具が天井照明部と床面照明部との両方を併せ持っている必要はない。
天井照明部だけをもつ天井照明用の照明器具と、床面照明部だけをもつ床面照明用の照明器具と、が別々にあってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図11
図12
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図16
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図18