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特開2022-88370抗ウイルス剤としてのペプチドおよびこのための使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088370
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤としてのペプチドおよびこのための使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20220607BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20220607BHJP
   C07K 7/64 20060101ALI20220607BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20220607BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20220607BHJP
   C40B 40/10 20060101ALI20220607BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220607BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220607BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220607BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C07K7/06 ZNA
C07K7/64
C07K7/08
C12Q1/70
C40B40/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/00 H
A61K39/145
A61P31/16
A61P37/04
A61K45/00
A61K38/02
A61P43/00 121
A61K31/7088
A61K39/395 D
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】37
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029519
(22)【出願日】2022-02-28
(62)【分割の表示】P 2018526142の分割
【原出願日】2016-11-28
(31)【優先権主張番号】PI2015002751
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(31)【優先権主張番号】62/335,201
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/425,913
(32)【優先日】2016-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.トライトン
2.プルロニック
3.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518169820
【氏名又は名称】ヴィラマティクス エスディーエヌ ビーエイチディー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】モハメド イブラヒム,モハメド ラジク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】インフルエンザウイルス、特にヒトインフルエンザウイルスに対して広範なスペクトルの抗ウイルス活性を有する治療用ペプチドを提供する。
【解決手段】tksrfX/xn、tX/xsrfin、twX/xrfin、twfX/xfin、X/xwftfin、wwftfiX/x、wwftX/xiaおよびtksrfdnから選択される配列を含む、分離されたペプチドであって、X/xはD-アミノ酸またはL-アミノ酸である、ペプチドである。前記ペプチドは、動物および鳥類に感染する型とともにヒトインフルエンザウイルスの複数の型に対する抗インフルエンザ特性を有し、インフルエンザウイルス感染の治療または予防のための医薬組成物として有用である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
tksrfX/xn、tX/xsrfin、twX/xrfin、twfX/xfin、X/xwftfin、wwftfiX/x、wwftX/xiaおよびtksrfdnから選択される配列を含む、分離されたペプチドであって、X/xはD-アミノ酸またはL-アミノ酸である、ペプチド。
【請求項2】
配列xwftfinを含む、請求項1に記載のペプチドであって、xはtまたはwである、ペプチド。
【請求項3】
配列txsrfinを含む、請求項1に記載のペプチドであって、xはkまたはwである、ペプチド。
【請求項4】
配列twxrfinを含む、請求項1に記載のペプチドであって、xはsまたはfである、ペプチド。
【請求項5】
配列twfxfinを含む、請求項1に記載のペプチドであって、xはrまたはtである、ペプチド。
【請求項6】
配列wwftxiaを含む、請求項1に記載のペプチドであって、xはf、h、i、n、またはwである、ペプチド。
【請求項7】
配列tksrfxnを含む、請求項1に記載のペプチドであって、xはIまたはdである、ペプチド。
【請求項8】
配列wwftfixを含む、請求項1に記載のペプチドであって、xはnまたはaである、ペプチド。
【請求項9】
配列wwftfiaを含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項10】
配列twftfinを含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項11】
配列tksrfdnを含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項12】
配列tksrfxnを含み、xはi、l、またはyである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項13】
配列twfxfinを含み、ここでxはi、l、m、r、s、t、v、またはwである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項14】
配列twX/xrfinを含み、X/xはa、c、e、f、G、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項15】
配列txsrfinを含み、xはp、r、s、またはwである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項16】
配列xwftfinを含み、xはmまたはwである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項17】
X/xが、任意のタンパク質原性アミノ酸から選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項18】
X/xがa、c、d、e、f、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、yまたはGである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項19】
前記配列のN末端にシステイン残基およびC末端にシステイン残基をさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項20】
前記2つのシステイン残基が環を形成する、請求項19に記載のペプチド。
【請求項21】
N末端またはC末端に結合された溶解タグをさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項22】
N末端またはC末端に溶解タグとして結合されたRRKKまたはrrkkをさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項23】
前記ペプチドが、式RRKKctwarfinc、RRKKctwcrfinc、RRKKctwdrfinc、RRKKctwerfinc、RRKKctwfrfinc、RRKKctwGrfinc、RRKKctwhrfinc、RRKKctwirfinc、RRKKctwkrfinc、RRKKctwlrfinc、RRKKctwmrfinc、RRKKctwnrfinc、RRKKctwprfinc、RRKKctwqrfinc、RRKKctwrrfinc、RRKKctwsrfinc、RRKKctwtrfinc、RRKKctwvrfinc、RRKKctwwrfincまたはRRKKctwyrfinc、RRKKctwfafinc、RRKKctwfcfinc、RRKKctwfdfinc、RRKKctwfefinc、RRKKctwfffinc、RRKKctwfGfinc、RRKKctwfufinc、RRKKctwfifinc、RRKKctwfkfinc、RRKKctwflfinc、RRKKctwfmfinc、RRKKctwfnfinc、RRKKctwfpfinc、RRKKctwfqfinc、RRKKctwfrfinc、RRKKctwfsfinc、RRKKctwftfinc、RRKKctwfvfinc、RRKKctwfwfinc、またはRRKKctwfyfinc、またはRRKKcawftfinc、RRKKccwftfinc、RRKKcdwftfinc、RRKKcewftfinc、RRKKcfwftfinc、RRKKcGwftfinc、RRKKchwftfinc、RRKKciwftfinc、RRKKckwftfinc、RRKKclwftfinc、RRKKcmwftfinc、RRKKcnwftfinc、RRKKcpwftfinc、RRKKcqwftfinc、RRKKcrwftfinc、RRKKcswftfinc、RRKKctwftfinc、RRKKcvwftfinc、RRKKcwwftfinc、またはRRKKcywftfinc、またはRRKKcwwftfiac、RRKKcwwftficc、RRKKcwwftfidc、RRKKcwwftfiec、RRKKcwwftfifc、RRKKcwwftfiGc、RRKKcwwftfihc、RRKKcwwftfiic、RRKKcwwftfikc、RRKKcwwftfilc、RRKKcwwftfimc、RRKKcwwftfipc、RRKKcwwftfiqc、RRKKcwwftfirc、RRKKcwwftfisc、RRKKcwwftfitc、RRKKcwwftfivc、RRKKcwwftfiwc、またはRRKKcwwftfiyc、またはRRKKcwwftaiac、RRKKcwwftciac、RRKKcwwftdiac、RRKKcwwfteiac、RRKKcwwftGiac、RRKKcwwfthiac、RRKKcwwftiiac、RRKKcwwftkiac、RRKKcwwftliac、RRKKcwwftmiac、RRKKcwwftniac、RRKKcwwftpiac、RRKKcwwftqiac、RRKKcwwftriac、RRKKcwwftsiac、RRKKcwwfttiac、RRKKcwwftviac、RRKKcwwftwiacまたはRRKKcwwftyiacを有する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項24】
前記ペプチドが、少なくとも1種類のインフルエンザウイルスA亜型および/または少なくとも1種類のインフルエンザB亜型に対する抗ウイルス活性を有する、請求項1~23のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項25】
前記インフルエンザウイルスA亜型がH1N1、H3N2、H9N2、N3H8またはH5N1から選択される、請求項24に記載のペプチド。
【請求項26】
100μM未満のIC50を有する、請求項1~25のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドと、1種以上の担体、希釈剤もしくは賦形剤またはそれらの組み合わせと、を含む医薬組成物。
【請求項28】
インフルエンザウイルス感染の治療のための医薬品の製造における、請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドまたは請求項27に記載の医薬組成物の使用。
【請求項29】
ホスト動物におけるインフルエンザウイルス感染を治療するのに使用するための医薬組成物であって、請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドの治療上効果的な量を含む、医薬組成物。
【請求項30】
予防的、経鼻的、経肺的、経口的または非経口的な投与用に適合されている、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
インフルエンザに対する抗ウイルス活性を有するペプチドを検出するための方法であって、請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドの誘導体を作製することと、抗ウイルス活性についてスクリーニングすることと、を含む方法。
【請求項32】
請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドまたは請求項27に記載の医薬組成物と、インフルエンザウイルス感染を治療するための前記ペプチドまたは前記医薬組成物の使用のための取扱説明書と、を含むキット。
【請求項33】
請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドをコードする核酸を含む、ベクター。
【請求項34】
請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドをコードする核酸を含む、プラスミド。
【請求項35】
請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドを発現する、ホスト細胞。
【請求項36】
請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドまたは請求項27に記載の医薬組成物と、核酸、ペプチド、タンパク質、造影剤、抗体、毒素および小分子からなる群より選択される第二薬剤と、を含む組み合わせ。
【請求項37】
請求項1~26のいずれか1項に記載のペプチドを含む、組換えライブラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルス、特にヒトインフルエンザウイルスに対して広範なスペクトルの抗ウイルス活性を有する治療用ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、マイナス鎖で一本鎖の分節RNAゲノムを有するウイルスを含むオルソミキソウイルス科に属する。この科のもとには、インフルエンザA、B、C、ソゴトウイルスおよびイサウイルスという5種の異なる属がある。最初の3種の属では、インフルエンザAおよびCはヒト、ブタ、鳥類および他の哺乳動物に感染し、一方、インフルエンザBはほとんどヒトのみに感染する(Peter Palese,2007)。インフルエンザウイルスは、世界中で年間5百万例を超える重大な症例を引き起こすと推定される。インフルエンザ感染の徴候は、無症候性~致命的であり得る原発性ウイルス肺炎の範囲にわたる。臨床症状は一般的に、頭痛、寒気、乾性咳、高熱、重度の筋肉痛、倦怠および食欲不振を含む。小児における臨床症状は成人での症状と同様であるが、ただし、熱性痙攣を伴う高熱を示し得る(Peter F Wright,2007)。
【0003】
インフルエンザビリオンは高度な多形性であり、それらは卵型および長い糸状粒子を含む多くの形状で発生する。構造的に各インフルエンザビリオンは、赤血球凝集素(HA)(135Åトリマー)およびノイラミニダーゼ(NA)(60~100Åトリマー)タンパク質からなり、それらは脂質エンベロープの外面に顕著に突出し4~5:1の比で存在する。脂質エンベロープの内側はマトリックスタンパク質によって裏打ちされ、8つのセグメント(インフルエンザCでは7つのセグメント)からなり核タンパク質によってラセン状に包まれるマイナス鎖RNAのコアを被包している。HAおよびNAはウイルス感染において不可欠な役割を演じることが報告されている。HAは感染した細胞の膜上のシアル酸受容体への結合および膜融合によるウイルス侵入に関与し、一方、NAは細胞内ウイルス複製サイクル後に、子孫ビリオンの放出および拡散の際に必要とされる(Peter Palse,2007)。
【0004】
インフルエンザウイルスのRNAゲノムは変異でき、「抗原ドリフト」を生じる。さらに、2つの異なる亜型は、これらが同一ホストに共感染するとき、結合して新たな亜型を形成でき、「抗原シフト」も生じる。変異のこれらの2つの型は、形状、感染能力および病原性を含む表面タンパク質型に僅かなまたは完全な変化をもたらし得、このことはインフルエンザウイルスを最終的には汎流行性または流行性株にする(Peter F Wright,2007)。インフルエンザウイルスによって生じた4つを超える大きな汎流行が、前世紀の始め以来報告されており、それらは国際的な経済およびヒト生産性に大きな損失をもたらした(Kilbourne,2006)。最近、ブタ由来のインフルエンザウイルスA(H1N1)ウイルスが世界中に素早く広がり、人類にかなり厳しい死亡および罹患を引き起こした(Echevarria-Zunoら,2009)。高病原性の動物流行性H5N1ウイルスは、それが非常に高い死亡率で断続的なヒト感染を伴いトリ集団間でのみ広がることができると報告されているが、次の汎流行であり得ることが示唆されている(Webster and Govorkova, 2006)。最近、新しい再集合体鳥H7N9ウイルスが、中国においてヒトでの重篤で致死的な呼吸器疾患と関連することが認められた(Gaoら,2013)。
【0005】
従来は、鳥ウイルスのヒトへの伝染は重大な脅威と考えられなかった。鳥ウイルスは実験的に感染させたヒトで効率的に複製しないことが報告されている(Beare AS,1991)。この報告と矛盾することなく、ヒトにおける高病原性鳥インフルエンザウイルスの重大な発生について、1997年まで極わずかな隔離されたトリ-ヒト伝染例以外に報告はなく、これらはヒトからヒトに効率的に伝染する能力を欠いていた。しかし、H5N1ウイルスのヒトからヒトへの伝染の最近の証拠は、汎流行性の恐れがある候補として、ヒト適応性鳥ウイルスの可能性の増加を示唆する(Ungchusakら,2005、Yangら,2007)。
【0006】
しかし、インフルエンザウイルスの感染を制御するために世界中で数十年にわたって広範な努力がなされているにも関わらず、抗インフルエンザウイルス薬剤の2クラスのみが効果的な治療のために現在利用可能である。一つのクラスはインフルエンザAのM2イオンチャンネルタンパク質に拮抗剤として作用し(アマンタジンおよびその誘導体リマンタジン)(Kolocourisら,2007)、もう一方は、オセルタミビルを含み、インフルエンザAおよびBでノイラミニダーゼ阻害剤として作用し(ザナミビル、オセルタミビルリン酸塩、およびペラミビル)(Kimら,1997、von Itzsteinら,1993、Yunら,2008)NAタンパク質に結合してウイルス子孫をホスト細胞から脱出させず、他の細胞に感染できなくする。残念なことに、これらの抗ウイルス剤は望ましくない副作用を有する。さらに、ウイルス株のほとんどがM2イオンチャンネルブロッカーに対しおよびそれより弱い程度でノイラミニダーゼ阻害剤に対し耐性を築いており、このことは薬剤の効能の低下および毒性の増加をもたらす(McKimm-Breschkin,2000、Whitleyら,2013)。またオセルタミビルは病気を悪化させ時に死さえもたらし得ることも報告されている(Hamaら,2011)。ウイルスRNA転写(Perezら,2010)、ウイルス細胞付着(Jonesら,2006)、HAのタンパク質分解活性の防止(ZhirnovおよびKlenk,2011)、およびビリオン出芽の防止(Stiver,2003)を標的とする様々な方法が開発されているが、臨床使用のための抗ウイルス剤にうまく移行された化合物はこれまでない。従って、これに代わる作用方式を有する新規抗インフルエンザ治療剤を開発することが緊急に必要である。
【0007】
ここ数年、製薬会社は研究開発のコスト増加、毒性、効能不足、臨床的安全性および承認された新規分子実体数の低下によって継続的な経済的圧力に直面している。KolaおよびLandisは、これらの新規分子実体の約90%が薬剤開発中に失敗したと報告した(KolaおよびLandis,2004)。従って、医薬品研究開発の生産性を改善する代替方法を得ることが緊急に必要である。ペプチドベースの治療剤が最善の選択肢の一つであり得ると、本明細書において確信される。
【0008】
ペプチド治療剤は従来の小分子をベースとした薬剤を超える利点を提供し得る。第一に、それらはしばしばタンパク質分子の活性な単位を表しそのため実質的な非特異的結合相互作用を回避するため、それらは優れた効能、特異性および選択性を提供し得る(Hummel,Reineke,およびReimer,2006)。第二に、ペプチドの分解産物はアミノ酸であり、薬剤-薬剤相互作用の機会が著しく最小化され、かつ毒性と関連する問題が回避され得る(Loffet,2002)。タンパク質および抗体をベースとした治療剤よりもそれらのサイズは小さいため、ペプチドは容易に組織および器官中に侵入でき(Ladnerら,2004)、かつ一般的に免疫原性が低い(McGregor,2008)。さらに、それらの製造費用は他の生物学的薬剤よりも低い可能性がある。
【0009】
ファージディスプレイライブラリー(New England Biolabs,米国)からの9アミノ酸のペプチド(C-P1)は、インビトロおよび卵内で抗インフルエンザ活性を有することが報告されている。例えば、Rajikら“Identification and characterization of a novel antiviral peptide against avian influenza virus H9N2(鳥インフルエンザウイルスH9N2に対する新規抗ウイルスペプチドの特定および特徴付け),Virology Journal,(2009)6:74,doi:10.1186/1743-422X-6-74”、Rajikら“A novel peptide inhibits influenza virus replication by preventing the viral attachment to the host cells(新規ペプチドはヒト細胞へのウイルス付着を防止することによりインフルエンザウイルス複製を阻害する),International Journal of Biological Sciences,2009;5(6):543-548”、マレーシア特許出願第PI20082061号、PCT特許出願公開第WO2009/151313A1号、欧州特許第EP2300492B1号、日本特許出願公開第JP2011522561A号、および米国特許第8,883,480号を参照する。ペプチドC-P1は、報告によると、鳥インフルエンザAウイルスH9N2を中度の有効性で阻害する。しかし、ヒトに感染するインフルエンザウイルスに対するC-P1の活性に関する報告はない。作用の正確なメカニズムは報告されていない。C-P1の活性は実際の使用には不十分であり得ることが本明細書で認められており、従って、インフルエンザウイルス感染を予防および/または治療できる薬剤に関する医学的な必要性が満たされないままである。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、本明細書でP1-RI-CDと呼ばれる配列tksrfdn(SEQ ID NO:2)を含むペプチドは、インフルエンザウイルスに対して効力があることが発見された。また驚くべきことに、P1-RI-CD中の1つ以上のアミノ酸が代替のD-アミノ酸またはL-アミノ酸に置換されるP1-RI-CDの配列変異を含むペプチドも、インフルエンザウイルスに対して高い効力があることが発見された。本明細書で説明されるペプチド(Fluペプチド治療剤(FPT)とも呼ばれる)は、CP-1よりも何倍も優れている抗ウイルス活性を示し、ヒトインフルエンザウイルスに対する広範なスペクトル活性を示す。
【0011】
本発明の一つの例示的な実施形態では、抗ウイルス特性を有するペプチドが本明細書で説明される。別の実施形態では、抗インフルエンザ特性を有するペプチドが本明細書で説明される。別の例示的な実施形態では、デキストロ-アミノ酸またはデキストロ/レボ-アミノ酸の混合物を含むペプチドが本明細書で説明される。別の実施形態では、動物および鳥類に感染する型と共にヒトインフルエンザウイルスの複数の型に対する抗ウイルス特性を有し、かつインフルエンザウイルス感染の治療または予防のための医薬組成物で使用できるペプチドが、本明細書で説明される。
【0012】
FPTに関するさらなる詳細がマレーシア出願第PI2015002751号で開示されており、その開示のすべてが参考によって本明細書に組み込まれる。
【0013】
別の実施形態では、分離されたペプチドP1-RI-CDが本明細書で説明される。別の実施形態では、P1-RI-CDのアナログおよび誘導体が本明細書で説明される。別の実施形態では、P1-RI-CDあるいはP1-RI-CDのアナログまたは誘導体を含むペプチドが本明細書で説明される。別の実施形態では、配列NDFRSKTを含まないペプチドが本明細書で説明される。別の実施形態では、配列CNDFRSKTCを含まないペプチドが本明細書で説明される。
【0014】
本明細書で使用されるとき、用語「分離されたペプチド」は、生体外であり、および/またはバルク形態であるペプチドを一般的に意味する。分離されたペプチドは、他の化合物との混合物中、および/または溶液または懸濁液中であってよいと理解されるべきである。
【0015】
本明細書で説明されるペプチドの配列は、一般的には各アミノ酸について標準的な一文字略号を用いて示される。大文字での略号はアミノ酸のレボ型に相当し、小文字での略号はアミノ酸のデキストロ型に相当する。例えば、一文字略号「A」はL-アラニンを意味し、一文字略号「a」はD-アラニンを意味し、「R」はL-アルギニンを意味し、一方「r」はD-アラニンを意味する、などである。
【0016】
別の実施形態では、配列A1-A2-A3-A4-A5-A6-A7を含む分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A5はh、i、n、またはwであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、A5、A6、またはA7のいずれか1つまたは2つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される分離されたペプチドが本明細書で説明される。
【0017】
別の実施形態では、配列A1-A2-A3-A4-A5-A6-A7を含む分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A5はh、i、n、またはwであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、A5、A6、またはA7のいずれか1つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される分離されたペプチドが本明細書で説明される。
【0018】
別の実施形態では、配列A1-A2-A3-A4-f-A6-A7を含む分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、f、A6、またはA7のいずれか1つまたは2つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される分離されたペプチドが本明細書で説明される。
【0019】
別の実施形態では、配列A1-A2-A3-A4-f-A6-A7を含む分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、f、A6、またはA7のいずれか1つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される分離されたペプチドが本明細書で説明される。
【0020】
別の実施形態では、配列A1-A2-A3-A4-f-A6-A7を含む分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、A6、またはA7のいずれか1つまたは2つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される分離されたペプチドが本明細書で説明される。
【0021】
別の実施形態では、配列A1-A2-A3-A4-f-A6-A7を含む分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、A6、またはA7のいずれか1つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される分離されたペプチドが本明細書で説明される。
【0022】
別の実施形態では、tksrfX/xn、tX/xsrfin、twX/xrfin、twfX/xfin、X/xwftfin、wwftfiX/x、wwftX/xia、およびtksrfdnから選択される配列を含む分離された抗インフルエンザペプチドが本明細書で説明される。
【0023】
別の実施形態では、表1にシリアル番号2~9で示される、または表2~8のいずれかに示されるペプチドが本明細書で説明される。生物学的活性を保持する、これらの表中のペプチドの機能的変異体も本明細書で説明される発明の範囲内であると理解されるべきである。
【0024】
別の実施形態では、PSP III B1、B2、およびB4~B20、PSP IV A1、A2、A4、A5、およびA7~A20、PSP V A2~A5、A7~A11、A14~A16、およびA18~A20、PSP VI A1~A8、A10~A16、およびA18~A20、ならびにPSP VII A1、A7、A8、A10、A12、A13、A15、およびA19からなるペプチド群から選択される、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス特性を有するペプチドが本明細書で説明される。
【0025】
別の実施形態では、上記の、例えばPSP III B1、B2、およびB4~B20、PSP IV A1、A2、A4、A5、およびA7~A20、PSP V A2~A5、A7~A11、A14~A16、およびA18~A20、PSP VI A1~A8、A10~A16、およびA18~A20、ならびにPSP VII A1、A7、A8、A10、A12、A13、A15、およびA19からなる群から選択される1種類以上のペプチドを含む医薬組成物が本明細書で説明される。
【0026】
別の実施形態では、哺乳動物におけるインフルエンザウイルス感染を治療および/または予防するために本明細書で説明されるペプチドのいずれかを含む組成物が、本明細書で説明される。
【0027】
別の実施形態では、本明細書で説明されるペプチドのいずれかを用いる、哺乳動物におけるインフルエンザウイルス感染を治療および/または予防するための方法、ならびに関連する使用が本明細書で説明される。
【0028】
別の実施形態では、医薬品としての使用、または医薬品の製造における使用のための、インフルエンザに対する抗ウイルス特性を有する本明細書で説明されるペプチドの利用が、本明細書で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】PSP III B5およびPSP IV A5のH1N1に対するインビトロでの効果を示す図である。H1N1 A1/Malaysia/302/1954の複製を阻害するPSP III B5およびPSP IV A5の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP III B5またはPSP IV A5の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図1B】PSP III B5およびPSP IV A5のH3N2に対するインビトロでの効果を示す図である。H3N2 A/HK/8/1968の複製を阻害するPSP III B5およびPSP IV A5の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP III B5またはPSP IV A5の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図1C】PSP III B5およびPSP IV A5の2009パンデミックウイルスに対するインビトロでの効果を示す図である。H1N1 A/NY/18/2009の複製を阻害するPSP III B5およびPSP IV A5の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP III B5またはPSP IV A5の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図1D】PSP III B5およびPSP IV A5のH9N2に対するインビトロでの効果を示す図である。H9N2 A/Iran/16/2000の複製を阻害するPSP III B5およびPSP IV A5の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP III B5またはPSP IV A5の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図1E】PSP III B5およびPSP IV A5のH3N8に対するインビトロでの効果を示す図である。H3N8 A/Miami/2/63の複製を阻害するPSP III B5およびPSP IV A5の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP III B5またはPSP IV A5の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図1F】PSP III B5およびPSP IV A5のH5N1に対するインビトロでの効果を示す図である。H5N1 A/Kampung pasir/5744/2004の複製を阻害するPSP III B5およびPSP IV A5の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP III B5またはPSP IV A5の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図2】オセルタミビル酸およびPSP IV A5のH1N1 PR8に対するインビトロでの効果を示す図である。H1N1 A/PR/8/1934の複製を阻害するオセルタミビル酸(比較例)およびPSP IV A5の能力の比較を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定して比較した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のオセルタミビル酸またはPSP IV A5の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図3】PSP V A19のH1N1 PR8に対するインビトロでの効果を示す図である。H1N1 A/PR/8/1934の複製を阻害するPSP V A19の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP V A19の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図4】PSP VI A1のH1N1 PR8に対するインビトロでの効果を示す図である。H1N1 A/PR/8/1934の複製を阻害するPSP VI A1の能力を、MDCK細胞のプラーク減少アッセイによって測定した。実験はDMSO(対照)あるいは増加する濃度のPSP VI A1の存在下で実施した。結果を三重測定の平均値として示す。
図5】PSP IV A17のH1N1 PR8に対するインビボでの効果を示す図である。マウスモデルにおけるFPTの抗ウイルス効能。インフルエンザ感染マウスを静脈内によって0mg/kg(対照)または3.5mg/kgのPSP IV A17ペプチドで処置し(1日に4回、5日間)、マウスを14日間にわたって罹患率および死亡率についてモニタリングした。観察期間の最後に、各群における生存したマウスの割合をプロットした。結果は少なくとも2回の異なる実験の代表的なものである
図6A】ヒト肝細胞における抗ウイルスペプチドの細胞毒性効果を示す図である。抗ウイルスペプチド(PSP III B3、PSP III B5、PSP III B16、PSP III B19、PSP III B20、およびPSP IV A5)の細胞毒性効果。毒性効果は、細胞培養条件下で証明された分化した肝細胞表現型を有する細胞であるヒト肝細胞HepaRG(登録商標)において異なる2濃度で試験した。データを三重測定の平均値±標準偏差として示す。この実験は例5で説明されるように実施した。
図6B】ヒト肝細胞における抗ウイルスペプチドの細胞毒性効果を示す図である。抗ウイルスペプチド(PSP IV A17、PSP V A19、PSP V A11、PSP VI A1、およびPSP VI A16)の細胞毒性効果。毒性効果は、細胞培養条件下で証明された分化した肝細胞表現型を有する細胞であるヒト肝細胞HepaRG(登録商標)において異なる2濃度で試験した。データを三重測定の平均値±標準偏差として示す。この実験は例5で説明されるように実施した。
図7A】抗ウイルスペプチドPSP V A19のMDCKおよびA549細胞における細胞毒性効果を示す図である。抗ウイルスペプチドPSP V A19の細胞毒性効果。上記ペプチドの毒性効果を例7で説明されるように、MDCKおよびA549細胞において多くの異なる濃度で試験した。データを三重測定の平均値±標準偏差として示す。
図7B】抗ウイルスペプチドPSP VI A1のMDCKおよびA549細胞における細胞毒性効果を示す図である。抗ウイルスペプチドPSP VI A1の細胞毒性効果。上記ペプチドの毒性効果を例7で説明されるように、MDCKおよびA549細胞において多くの異なる濃度で試験した。データを三重測定の平均値±標準偏差として示す。
図8】異なる抗ウイルスペプチドの30μM濃度での溶血活性を示す図である。トライトンX-100または異なる抗ウイルスペプチド(PSP III B5、PSP IV A17、PSP V A19、およびPSP VI A1)の溶血活性を、例8で説明されるように30μM濃度で試験した。
図9】ペプチド処置したH1N1 RP8ウイルスの電子顕微鏡による分析を示す図である。写真は0、1、または100μMのPSP V A19ペプチドのいずれかで処置したインフルエンザA H1N1/PR/8ウイルスの電子顕微鏡写真を16,000Xの拡大で示す。実験は例6で説明されるように実施し、A:ペプチド未処理、B:1μMペプチド処理、C:100μMペプチド処理だった。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は次に、後述の例示的な実施形態によってさらに説明される。次の節では本発明の異なる例示的な態様がより詳細に定められる。このように定められる各態様は、明確に反する指示がない限り、いずれかの他の一態様または複数態様と組み合わされ得る。特に、好ましいまたは効果的であるとして示されるいずれかの特性は、好ましいまたは効果的であるとして示されるいずれかの他の一特性または複数特性と組み合わされ得る。しかし、本発明は好ましいまたは効果的であるとして示されるこのような一特性または複数特性に限定されず、かつ好ましいまたは効果的であるとして示されるいずれの一特性または複数特性も要求されないと理解されるべきである。
【0031】
本発明の実施は、他に指示がない限り、従来技術の範囲内である化学、生化学、分子生物学、組換えDNA技術、細胞生物学、免疫学、およびバイオインフォマティックスの定法を使用する。このような技術は文献で十分説明される。
【0032】
本開示全体を通して、標準的な一文字略号はIUPAC/IUBガイドラインに従ってアミノ酸を意味するために使用される。本明細書で示される配列では、任意の配列の最も左の端のアミノ酸はアミノ末端を示し(任意にH-で示される)、一方、最も右のアミノ酸はカルボキシ末端を示す(任意に-OHで示される)。アキラルであるグリシン以外では、アミノ酸のレボ型は本明細書では大文字で示され、アミノ酸のデキストロ型は小文字で示される。
【0033】
本発明は、抗インフルエンザ活性を有するペプチドに関する。さらに、本発明は、1種類を超えるインフルエンザウイルス亜型に対する抗インフルエンザ活性を有するペプチドに関する。さらに、本発明は、本明細書で説明されるペプチドを含む医薬組成物、およびインフルエンザウイルス感染を予防および/または治療するために本明細書で説明されるペプチドを用いる方法に関する。
【0034】
本発明の例示的な実施形態は、次の項によって説明される。
配列tksrfdn(SEQ ID NO:2)の、またはこの配列を含む、分離されたペプチド。
P1-RI-CDの誘導体の配列の、またはこの配列を含む、分離されたペプチド。
配列A1-A2-A3-A4-A5-A6-A7の、またはこの配列を含む、分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A5はh、i、n、またはwであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、f、A6、またはA7のいずれか1つまたはいずれか2つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される。
配列A1-A2-A3-A4-A5-A6-A7の、またはこの配列を含む、分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A5はiまたはwであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、f、A6、またはA7のいずれか1つまたはいずれか2つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここでA1、A2、A3、A4、A5、A6、またはA7のいずれか1つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される。
配列A1-A2-A3-A4-f-A6-A7の、またはこの配列を含む、分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、f、A6、またはA7のいずれか1つまたはいずれか2つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される。
前項のペプチドであって、ここでA1、A2、A3、A4、f、A6、またはA7のいずれか1つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される。
配列A1-A2-A3-A4-f-A6-A7を含む分離されたペプチドであって、ここでA1はtまたはwであり、A2はkまたはwであり、A3はsまたはfであり、A4はrまたはtであり、A6はiまたはdであり、およびA7はnまたはaであり、かつここでA1、A2、A3、A4、A6、またはA7のいずれか1つまたはいずれか2つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される。
前項のペプチドであって、ここで、A1、A2、A3、A4、A6、またはA7のいずれか1つは任意に別のD-アミノ酸またはL-アミノ酸で置換される。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA1はtである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA1-A2はtkまたはtwである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA2-A3はksまたはwfである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA1-A2-A3はtksまたはtwfである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA3-A4はsrまたはftである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA2-A3-A4はksrまたはwftである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA4はrまたはtである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA5はh、i、n、またはwである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA5はiまたはwである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA1-A2はwwである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA6-A7はiaである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでfは置換されない。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA4はrまたはtであり、A6はiである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA6-A7はinである。
前項のいずれかのペプチドであって、ここでA7はnである。
tksrfxnを含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでxはi、l、またはyである。
twfxfinを含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでxはi、l、m、r、s、t、v、またはwである。
twX/xrfinを含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでX/xはa、c、e、f、G、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyである。
txsrfinを含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでxはp、r、s、またはwである。
xwftfinを含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでxはmまたはwである。
wwftxiaを含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでxはh、i、n、またはwである。
wwftxiaを含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでxはiまたはwである。
tksrfX/xn、tX/xsrfin、twX/xrfin、twfX/xfin、X/xwftfin、wwftfiX/x、wwftX/xia、およびtksrfdnから選択される配列またはNDFRSKTを含まないその誘導体を含む前項のいずれかのペプチドであって、ここでX/xはグリシンあるいはいずれかのD-アミノ酸またはL-アミノ酸である。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはヒトに感染する1種類のインフルエンザウイルスA亜型に対する抗ウイルス活性を有する。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはヒトに感染する1種類を超えるインフルエンザウイルスA亜型に対する抗ウイルス活性を有する。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはヒトに感染する1種類のインフルエンザウイルスB亜型に対する抗ウイルス活性を有する。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはヒトに感染する1種類を超えるインフルエンザウイルスB亜型に対する抗ウイルス活性を有する。
N末端およびC末端にシステイン残基をさらに含む、前項のいずれか1つのペプチド。
可溶性タグをさらに含む、前項のいずれか1つのペプチド。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで溶解タグはRRKKまたはrrkkである。
ctksrfX/xnc、rrkkctX/xsrfinc、RRKKctwX/xrfinc、RRKKctwfX/xfinc、RRKKcX/xwftfinc、RRKKcwwftfiX/xc、RRKKcwwftX/xiac、およびctksrfdncから選択される前項のいずれか1つのペプチド。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここでX/xはいずれかのタンパク質原性アミノ酸から選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここでxはa、c、d、e、f、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、yまたはGから選択される。
100μM未満のIC50を有する、前項のいずれか1つのペプチド。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドは式RRKKctwX/xrfincを有し、かつRRKKctwarfinc、RRKKctwcrfinc、RRKKctwdrfinc、RRKKctwerfinc、RRKKctwfrfinc、RRKKctwGrfinc、RRKKctwhrfinc、RRKKctwirfinc、RRKKctwkrfinc、RRKKctwlrfinc、RRKKctwmrfinc、RRKKctwnrfinc、RRKKctwprfinc、RRKKctwqrfinc、RRKKctwrrfinc、RRKKctwsrfinc、RRKKctwtrfinc、RRKKctwvrfinc、RRKKctwwrfincまたはRRKKctwyrfincから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドは式RRKKctwfX/xfincを有し、かつRRKKctwfafinc、RRKKctwfcfinc、RRKKctwfdfinc、RRKKctwfefinc、RRKKctwfffinc、RRKKctwfGfinc、RRKKctwfhfinc、RRKKctwfifinc、RRKKctwfkfinc、RRKKctwflfinc、RRKKctwfmfinc、RRKKctwfnfinc、RRKKctwfpfinc、RRKKctwfqfinc、RRKKctwfrfinc、RRKKctwfsfinc、RRKKctwftfinc、RRKKctwfvfinc、RRKKctwfwfinc、およびRRKKctwfyfincから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドは式RRKKcX/xwftfincを有し、かつRRKKcawftfinc、RRKKccwftfinc、RRKKcdwftfinc、RRKKcewftfinc、RRKKcfwftfinc、RRKKcGwftfinc、RRKKchwftfinc、RRKKciwftfinc、RRKKckwftfinc、RRKKclwftfinc、RRKKcmwftfinc、RRKKcnwftfinc、RRKKcpwftfinc、RRKKcqwftfinc、RRKKcrwftfinc、RRKKcswftfinc、RRKKctwftfinc、RRKKcvwftfinc、RRKKcwwftfincおよびRRKKcywftfincから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドは式RRKKcwwftfiX/xcを有し、かつRRKKcwwftfiac、RRKKcwwftficc、RRKKcwwftfidc、RRKKcwwftfiec、RRKKcwwftfifc、RRKKcwwftfiGc、RRKKcwwftfihc、RRKKcwwftfiic、RRKKcwwftfikc、RRKKcwwftfilc、RRKKcwwftfimc、RRKKcwwftfipc、RRKKcwwftfiqc、RRKKcwwftfirc、RRKKcwwftfisc、RRKKcwwftfitc、RRKKcwwftfivc、RRKKcwwftfiwc、RRKKcwwftfiycから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはctksrfanc、ctksrfcnc、ctksrfdnc、ctksrfenc、ctksrffnc、ctksrfGnc、ctksrfhnc、ctksrfinc、ctksrfknc、ctksrflnc、ctksrfmnc、ctksrfnnc、ctksrfpnc、ctksrfqnc、ctksrfrnc、ctksrfsnc、ctksrftnc、ctksrfvnc、ctksrfwncおよびctksrfyncから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはrrkkctasrfinc、rrkkctcsrfinc、rrkkctdsrfinc、rrkkctesrfinc、rrkkctfsrfinc、rrkkctGsrfinc、rrkkcthsrfinc、rrkkctisrfinc、rrkkctksrfinc、rrkkctlsrfinc、rrkkctmsrfinc、rrkkctnsrfinc、rrkkctpsrfinc、rrkkctqsrfinc、rrkkctrsrfinc、rrkkctssrfinc、rrkkcttsrfinc、rrkkctvsrfinc、rrkkctwsrfincおよびrrkkctysrfincから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはRRKKcwwftaiac、RRKKcwwftciac、RRKKcwwftdiac、RRKKcwwfteiac、RRKKcwwftGiac、RRKKcwwfthiac、RRKKcwwftiiac、RRKKcwwftkiac、RRKKcwwftliac、RRKKcwwftmiac、RRKKcwwftniac、RRKKcwwftpiac、RRKKcwwftqiac、RRKKcwwftriac、RRKKcwwftsiac、RRKKcwwftviac、RRKKcwwftwiac、およびRRKKcwwftyiacから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここで当該ペプチドはRRKKctwfrfinc、RRKKctwfffinc、RRKKctwftfinc、RRKKcwwftfincおよびRRKKcwwftfiacから選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここでインフルエンザ亜型はH2N2、H7N3、H7N7、H7N9、H6N1、H10N8、H1N1、H3N2、H9N2、H3N8またはH5N1から選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここでインフルエンザ亜型はH1N1、H3N2、H9N2、H3N8またはH5N1から選択される。
前項のいずれか1つのペプチドであって、ここでインフルエンザ亜型または株はヤマガタ系統および/またはビクトリア系統から選択される。
医薬品としての使用のための前項のいずれか1つのペプチド。
前項のいずれか1つのペプチドを含む医薬組成物。
インフルエンザウイルス感染の治療における使用のために適応される、前項のいずれか1つのペプチドまたはその医薬組成物。
インフルエンザウイルス感染の治療のための医薬品の製造における、前項のいずれか1つのペプチドまたはその医薬組成物の使用。
ホスト動物におけるインフルエンザウイルス感染を治療するための方法であって、ここで当該方法は前項のいずれか1つのペプチドまたはその医薬組成物の治療上効果的な量をホスト動物に投与することを含む。
前項のいずれか1つの方法であって、ここで当該ペプチドまたは医薬組成物は鼻腔、肺、気管支内、経口または非経口経路によって投与される。
前項のいずれか1つの方法であって、ここで当該ペプチドまたは医薬組成物は予防的に投与される。
前項のいずれか1つの方法であって、ここで当該インフルエンザウイルスはインフルエンザA亜型またはインフルエンザB亜型である。
前項のいずれか1つの方法であって、ここで当該インフルエンザウイルスはインフルエンザウイルスAであり、亜型はH1N1、H3N2、H9N2、H3N8またはH5N1から選択される。
前項のいずれか1つのペプチドの誘導体を作製することおよび抗ウイルス活性についてスクリーニングすることを含む、インフルエンザに対する抗ウイルス活性を有するペプチドを検出するための方法。
前項のいずれか1つのペプチドまたはその医薬組成物、およびインフルエンザウイルス感染を治療するためのペプチドまたは医薬組成物の使用のための取扱説明書を含むキット。
前項のいずれか1つのペプチドをコードする核酸を含むベクター。
前項のいずれか1つのペプチドをコードする核酸を含むプラスミド。
前項のいずれか1つのペプチドを発現するホスト細胞。
前項のいずれか1つのペプチドと、核酸、ペプチド、タンパク質、造影剤、抗体、毒素および小分子から選択される第二薬剤とを含む組み合わせ。
前項のいずれか1つのペプチドを含む組換えライブラリー。
【0035】
配列tksrfdn(SEQ ID NO:2)を含む新規抗インフルエンザペプチドが本明細書で説明される。また、P1-RI-CDをベースとし、環化のためにN末端および/またはC末端にD-システインおよび/またはL-システインを含む新規抗インフルエンザペプチドも本明細書で説明される。
【0036】
本明細書で説明されるペプチド(P1-RI-CD)などのペプチドは、C-P1よりも強い抗インフルエンザ活性を示す。P1-RI-CDはC-P1のレトロインベルソアナログであり、ここで各アミノ酸は非天然D-アミノ酸であり、配列はC-P1の逆である。さらに、本明細書で説明されるペプチドは、ヒトに感染する種々のインフルエンザウイルスA亜型に対する広範なスペクトルの抗ウイルス活性を示す。
【0037】
理論に拘束されることなく、インフルエンザウイルスに対するFPTの作用メカニズムは、FPTがおそらく他のウイルス標的とともに、インフルエンザウイルスの完全なマトリックスタンパク質(M1)を結合し変化させることによりそれらの作用を及ぼすことに由来すると本明細書において考えられる。そのため、本明細書で説明されるペプチドは、限定されないが、HIVなど、レンチウイルスなどのレトロウイルス科、パラミクソウイルスなどのパラミクソウイルス科、フラビウイルス、C型肝炎ウイルス、ダニ媒介脳炎、黄熱病、およびデング熱ウイルスなどのフラビウイルス科、ならびにエボラおよびマールバーグウイルスなどのフィロウイルス科のウイルスを含む、いずれかのマトリックスを結合し阻害することが予測される。
【0038】
理論に拘束されることなく、本明細書で開示されるペプチドは、下層のマトリックスタンパク質へ接近するためにインフルエンザウイルスの脂質エンベロープを破壊する膜透過モチーフを含みそれはそれらの抗ウイルス活性において重大な役割を演じ得ると、本明細書において考えられる。従って、本発明のペプチドはいずれかの脂質エンベロープ含有ウイルス、限定されないが、風疹ウイルスを含むトガウイルス科、HIVなどのレンチウイルスを含むレトロウイルス科、ハンターウイルスおよびアレナウイルスなどのブンヤウイルス科、ヘルペスウイルスおよびサイトメガロウイルスなどのヘルペスウイルス科、B型肝炎ウイルスなどのヘパドナウイルス科(Hepnaviridae)、パラミクソウイルスなどのパラミクソウイルス科、フラビウイルス、C型肝炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎、黄熱病およびデング熱ウイルスなどのフラビウイルス科、エボラおよびマールバーグウイルスなどのフィロウイルス科、ならびにSARSウイルスおよびトロウイルスを含むコロナウイルスなどのコロナウイルス科のウイルスを結合し阻害することが予想される。
【0039】
ポジショナルスキャニング法を適用することによって誘導体を設計するためのベースとしてP1-RI-CDを使用し、P1-RI-CDの配列内の元のアミノ酸を自然由来のアミノ酸の1つなどの代替アミノ酸、または代替のD-アミノ酸によって同時に1つ以上を置換し、それらの活性をインビトロで確認した。PSPライブラリーからの高活性ペプチドを、同法を用いるその後の改変のために選択した。例示的なライブラリーであるPSPII、III、IV、V、VI、およびVIIを表1に示す。
【0040】
ポジショナルスキャニングは、ナノモルIC50値を有するさらなる抗ウイルスペプチドを生じた(表10)。これらのペプチドの活性はC-P1ペプチドと比べて向上されている。例えば、PSP VI Aファミリーにおけるペプチドは、試験した鳥インフルエンザウイルスに対して極めて高い能力(C-P1よりも30000倍超優れている)を有する。特に、C-P1は鳥インフルエンザウイルスに対してのみ活性を示したが、本発明のペプチドはヒトに感染するウイルスを含む幅広い種類のインフルエンザウイルスに対して活性である。
【0041】
P1-RI-CDの誘導体は、1つ以上のアミノ酸が欠失されるまたは表1に示されるような種々のアミノ酸で置換されるペプチドを含む。誘導体はまた、少なくとも80%、85%、90%または95%配列同一性を有するペプチドも含む。誘導体は好ましくは7個のアミノ酸を含む、これらから基本的になる、またはこれらからなる。別の実施形態では、誘導体は7個のアミノ酸のコアペプチドを含み、かつ様々な特性、溶解性を改善する、または本明細書で説明されるように環化を可能にする追加のアミノ酸をさらに含む。コアペプチドは活性ペプチドであり、抗ウイルス活性を付与するペプチドである。誘導体は機能的であり、すなわち、それらは生物学的に活性であり、インフルエンザウイルスに対して、好ましくはヒトに感染する1種類を超えるインフルエンザウイルスA亜型に対して抗ウイルス活性を示す。
【0042】
本明細書で使用される用語「ペプチド」は、アミノ酸残基を含むポリマーを指す。例示的な実施形態では、ペプチドは2~約100個の残基または2~約50個の残基を含む。他の実施形態では、ペプチドは約7~20個の残基、例えば7~10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個の残基を含む。特定の実施形態では、ペプチドに含まれるアミノ酸残基はすべて「D型」アミノ酸残基であるが、様々な実施形態では、「L」アミノ酸がペプチドに組み込まれ得ると認識される。そのため、いくつかの実施形態では、本発明のペプチドはD型およびL型アミノ酸の混合物である。例えば、ペプチドは7個のD-アミノ酸のコアを含み、ここで1つ以上のアミノ酸はL型であり得る。
【0043】
ペプチドはまた、1つ以上のアミノ酸残基が、相当する天然由来アミノ酸の人工的な化学的アナログ、またはD-アミノ酸アナログであるアミノ酸ポリマー、ならびに天然由来のアミノ酸ポリマーを含む。さらに、本用語はペプチド結合または他の「修飾された結合」(例えば、ペプチド結合がα-エステル、β-エステル、チオアミド、ホスホンアミド、カルバマート、ヒドロキシレートなどによって置換される)によって結合されるアミノ酸にも適用される。
【0044】
特定の実施形態では、本発明のペプチドは7個の残基を有する活性コアペプチドを含む。その上、ペプチドは、ペプチドに環状ペプチドを形成させ得る1つ以上の残基および/または本明細書で説明されるペプチドの溶解性を増加する1つ以上の残基を含むが限定されない、さらなる残基を含んでよい。
【0045】
本明細書で説明されるペプチドは、天然由来、または非天然由来であってよい。それらは、a)化学的合成によって産生、b)組換えDNA技術によって産生、c)大型分子の生化学的または酵素的な断片化によって産生、d)a~dの前述の方法のいずれかの組み合わせによって産生、e)ペプチドを産生するためのいずれか他の手段によって産生できる。別の実施形態では、ペプチドは天然由来ではない。別の実施形態では、ペプチドは天然由来でない修飾を含む。このような修飾の例は本明細書で説明される。
【表1】
【0046】
別の実施形態では、tksrfX/xn、tX/xsrfin、twX/xrfin、twfX/xfin、X/xwftfin、wwftfiX/x、wwftX/xia、およびtksrfdn(SEQ ID NO:2)から選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。別の実施形態では、tksrfX/xn、tX/xsrfin、twX/xrfin、twfX/xfin、X/xwftfin、wwftfiX/x、およびwwftX/xiaから選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。
【0047】
別の実施形態では、ctksrfX/xnc、ctX/xsrfinc、ctwX/xrfinc、ctwfX/xfinc、cX/xwftfinc、cwwftfiX/xc、cwwftX/xiac、およびctksrfdncから選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。別の実施形態では、ctksrfX/xnc、ctX/xsrfinc、ctwX/xrfinc、ctwfX/xfinc、cX/xwftfinc、cwwftfiX/xc、およびcwwftX/xiacから選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。
【0048】
別の実施形態では、RRKKctksrfX/xnc、RRKKctX/xsrfinc、RRKKctwX/xrfinc、RRKKctwfX/xfinc、RRKKcX/xwftfinc、RRKKcwwftfiX/xc、RRKKcwwftX/xiac、およびRRKKctksrfdncから選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。別の実施形態では、RRKKctksrfX/xnc、RRKKctX/xsrfinc、RRKKctwX/xrfinc、RRKKctwfX/xfinc、RRKKcX/xwftfinc、RRKKcwwftfiX/xc、およびRRKKcwwftX/xiacから選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。
【0049】
別の実施形態では、rrkkctksrfX/xnc、rrkkctX/xsrfinc、rrkkctwX/xrfinc、rrkkctwfX/xfinc、rrkkcX/xwftfinc、rrkkcwwftfiX/xc、rrkkcwwftX/xiac、およびrrkkctksrfdncから選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。別の実施形態では、rrkkctksrfX/xnc、rrkkctX/xsrfinc、rrkkctwX/xrfinc、rrkkctwfX/xfinc、rrkkcX/xwftfinc、rrkkcwwftfiX/xc、およびrrkkcwwftX/xiacから選択される配列を含む、これから基本的になる、またはこれからなる抗インフルエンザペプチドが説明される。
【0050】
上記実施形態のいずれかにおいて、D-システインはL-システインであってよいと理解されるべきである。
【0051】
本明細書で説明される配列中で、アミノ酸指定「X/x」は置換がなされる位置を示し、それは任意のL-アミノ酸またはD-アミノ酸、あるいは任意のアミノ酸アナログを含み得る。文字「X/x」は任意のタンパク質原性アミノ酸を意味し、20種の天然由来アミノ酸のいずれか1つである。アキラルであるGを除き、XはL型のアミノ酸、xはD型のアミノ酸を意味する。別の実施形態では、X/xはD型のアミノ酸であるxであり、あるいはL型のアミノ酸であるXである。別の実施形態では、xはD型であるアミノ酸a、c、d、e、f、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyから選択される。別の実施形態では、XはL型であるアミノ酸A、C、D、E、F、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、またはYから選択される。別の実施形態では、Xはグリシンである。
【0052】
別の実施形態では、ペプチドは100μM未満、または50μM未満、または10μM未満、または5μM未満、または1μM未満、または0.1μM未満のIC50を有する。別の実施形態では、ペプチドは少なくとも1種類のインフルエンザウイルスおよび/または少なくとも1種類のインフルエンザウイルス亜型、好ましくは少なくとも2種類のインフルエンザウイルスおよび/または少なくとも2種類のインフルエンザウイルス亜型の、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%のまたはそれを超える阻害を示す。好ましくは、阻害は少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれを超える、あるいは少なくとも75%、80%、90%、95%またはそれを超える。
【0053】
別の実施形態では、ペプチドはMDCK細胞のプラーク減少アッセイにおいて、例えば、0.01~100μMのペプチドを用いて測定されるとき、好ましくは2、3、4種類またはそれより多いインフルエンザウイルスA亜型に対する抗ウイルス活性を有する。別の実施形態では、ペプチドは少なくとも2種類のインフルエンザウイルスA亜型の少なくとも75%、80%、90%または95%阻害を示す。
【0054】
別の実施形態では、本発明のペプチドは1つ以上の溶解タグを含む。一つの例示的な実施形態では、溶解タグは荷電アミノ酸からなる短いペプチドであり、それは、疎水性ペプチドのN末端またはC末端に共有結合されたとき、結合されたペプチドの溶解性を増加させる。例えば、溶解タグは、親水性の性質を有するD、E、H、K、N、Q、R、S、T、ヒドロキシ-プロリンおよびピロ-グルタミン酸から選択される1種類以上のアミノ酸を含み得る。これらはレボ型またはデキストロ型のいずれかであってよい。任意の組み合わせまたは反復で、N末端またはC末端のどちらかで、これらのアミノ酸のいずれか、特にE/D/R/Kを加えることによって、ペプチドの溶解性を増加できる。溶解性はまた、ジペプチドEE、トリペプチドSGSの付加、および/または高グリコシル化およびペグ化、あるいは溶解性を増加するために従来技術で知られている他の方法によって増加できる。
【0055】
例えば、溶解タグはペプチドのN末端および/またはC末端に結合された溶解タグRRKK(レボ型RRKKまたはデキストロ型rrkkのいずれか)を含む、またはこれからなり得る。
【0056】
本発明のペプチドは線状または環状型であり得る。別の実施形態では、本発明のペプチドは環状型である。ペプチドは、例えば、システイン残基間の(あるいは、より一般的にはポリペプチドに存在する(例えば、末端領域で)少なくとも2個のシステイン残基の2個の間の)ジスルフィド結合の形成によって環化できる。各システイン残基は独立してD-システインまたはL-システインであることが理解されるべきである。例えば、少なくとも2個のシステイン残基を加えることができ、その1つまたは両方は、任意に、ペプチドのC末端またはN末端である。このため、抗ウイルスペプチドならびにそれらの誘導体は、それらの末端システイン残基によるジスルフィド結合によって環化され得る。本明細書で示されるように、ペプチドの線状型(すなわち、いずれの環化も伴わない)は抗ウイルス特性を示す。ペプチドが3つ以上のシステイン残基を含む場合、これらの残基の1つ以上を修飾して、その残基がジスリフィド結合の形成に加わることを防ぎ得ることも理解されるべきである。好都合なことに、これはシステインのチオール基をアセトアミドメチルで保護することによって達成されてシステインアナログであるアセトアミドメチル-システイン(Cys(Acm))を形成し得る。本発明のペプチドの状況では、これはSEQ ID NO:18、38、59、79、98、および117の内部システイン残基によってなされ得る。修飾は合成の際に実施でき(すなわち、修飾された残基が合成に使用される)、あるいは合成後に実施し得る。
【0057】
線状前駆体から環状ポリペプチドを調製するための方法が報告されており、本ペプチドで実施できる。例えば、方法は化学的交差結合、化学的分子内結合法および酵素的分子内結合法を含み、それらは線状合成ペプチドを水性条件下で効率的に環化させ得る。
【0058】
別の実施形態では、環状型で溶解タグを含むペプチド、例えばRRKK(レボ型またはデオキシ型のいずれか)が本明細書で説明される。
【0059】
別の実施形態では、ペプチドはctksrfX/xnc、rrkkctX/xsrfinc、RRKKctwX/xrfinc、RRKKctwfX/xfinc、RRKKcX/wftfinc、RRKKcwwftfiX/xc、RRKKcwwftX/xiac、またはctksrfdncから選択される。
【0060】
別の実施形態では、本発明のペプチドは一般式twX/xrfin(式V)を有し、ここでX/xはa、c、d、e、f、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyである。ペプチドは環化のためにN末端またはC末端にシステイン残基、および/または溶解タグを含み得る。別の実施形態では、ペプチドはRRKKctwarfinc、RRKKctwcrfinc、RRKKctwdrfinc、RRKKctwerfinc、RRKKctwfrfinc、RRKKctwGrfinc、RRKKctwhrfinc、RRKKctwirfinc、RRKKctwkrfinc、RRKKctwlrfinc、RRKKctwmrfinc、RRKKctwnrfinc、RRKKctwprfinc、RRKKctwqrfinc、RRKKctwrrfinc、RRKKctwsrfinc、RRKKctwtrfinc、RRKKctwvrfinc、RRKKctwwrfincまたはRRKKctwyrfincから選択される。異なるインフルエンザウイルスに対するこれらのペプチドの活性を表2に示す。また、上記で示されるペプチドも本発明の範囲内であり、ここで溶解タグはD型(rrkk)である。また、いずれの環化も有さないこれらのペプチドの機能的誘導体も本発明の範囲内である。
【表2】
【0061】
別の実施形態では、本発明のペプチドは一般式twfX/xfin(式VI)を有し、ここでX/xはa、c、d、e、f、G、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyである。ペプチドは環化のためにN末端またはC末端にシステイン残基、および/または溶解タグを含み得る。別の実施形態では、ペプチドはRRKKctwfafinc、RRKKctwfcfinc、RRKKctwfdfinc、RRKKctwfefinc、RRKKctwfffinc、RRKKctwfGfinc、RRKKctwfhfinc、RRKKctwfifinc、RRKKctwfkfinc、RRKKctwflfinc、RRKKctwfmfinc、RRKKctwfnfinc、RRKKctwfpfinc、RRKKctwfqfinc、RRKKctwfrfinc、RRKKctwfsfinc、RRKKctwftfinc、RRKKctwfvfinc、RRKKctwfwfinc、およびRRKKctwfyfincから選択される。異なるインフルエンザウイルスに対するこれらのペプチドの活性を表3に示す。また、上記で示されるペプチドも本発明の範囲内であり、ここで溶解タグはD型(rrkk)である。また、いずれの環化も有さないこれらのペプチドの機能的誘導体も本発明の範囲内である。
【表3】
【0062】
別の実施形態では、本発明のペプチドは一般式X/xwftfin(式VII)を有し、ここでX/xはa、c、d、e、f、G、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyである。ペプチドは環化のためにN末端またはC末端にシステイン残基、および/または溶解タグを含み得る。別の実施形態では、ペプチドはRRKKcawftfinc、RRKKccwftfinc、RRKKcdwftfinc、RRKKcewftfinc、RRKKcfwftfinc、RRKKcGwftfinc、RRKKchwftfinc、RRKKciwftfinc、RRKKckwftfinc、RRKKclwftfinc、RRKKcmwftfinc、RRKKcnwftfinc、RRKKcpwftfinc、RRKKcqwftfinc、RRKKcrwftfinc、RRKKcswftfinc、RRKKctwftfinc、RRKKcvwftfinc、RRKKcwwftfincおよびRRKKcywftfincから選択される。異なるインフルエンザウイルスに対するこれらのペプチドの活性を表4に示す。また、上記で示されるペプチドも本発明の範囲内であり、ここで溶解タグはD型(rrkk)である。また、いずれの環化も有さないこれらのペプチドの機能的誘導体も本発明の範囲内である。
【表4】
【0063】
別の実施形態では、本発明のペプチドは一般式wwftfiX/x(式VIII)を有し、ここでX/xはa、c、d、e、f、G、h、i、k、l、m、p、q、r、s、t、v、w、またはyである。ペプチドは環化のためにN末端またはC末端にシステイン残基、および/または溶解タグを含み得る。別の実施形態では、ペプチドはRRKKcwwftfiac、RRKKcwwftficc、RRKKcwwftfidc、RRKKcwwftfiec、RRKKcwwftfifc、RRKKcwwftfiGc、RRKKcwwftfihc、RRKKcwwftfiic、RRKKcwwftfikc、RRKKcwwftfilc、RRKKcwwftfimc、RRKKcwwftfipc、RRKKcwwftfiqc、RRKKcwwftfirc、RRKKcwwftfisc、RRKKcwwftfitc、RRKKcwwftfivc、RRKKcwwftfiwc、RRKKcwwftfiycから選択される。異なるインフルエンザウイルスに対するこれらのペプチドの活性を表5に示す。また、上記で示されるペプチドも本発明の範囲内であり、ここで溶解タグはD型(rrkk)である。また、いずれの環化も有さないこれらのペプチドの機能的誘導体も本発明の範囲内である。
【表5】
【0064】
別の実施形態では、本発明のペプチドは一般式tksrfX/xn(式I)を有し、ここでX/xはa、c、d、e、f、G、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyである。ペプチドは環化のためにN末端またはC末端にシステイン残基、および/または溶解タグを含み得る。別の実施形態では、ペプチドはctksrfanc、ctksrfcnc、ctksrfdnc、ctksrfenc、ctksrffnc、ctksrfGnc、ctksrfhnc、ctksrfinc、ctksrfknc、ctksrflnc、ctksrfmnc、ctksrfnnc、ctksrfpnc、ctksrfqnc、ctksrfrnc、ctksrfsnc、ctksrftnc、ctksrfvnc、ctksrfwncおよびctksrfyncから選択される。異なるインフルエンザウイルスに対するこれらのペプチドの活性を表6に示す。また、上記で示されるペプチドも本発明の範囲内であり、ここで溶解タグはL型(RRKK)またはD型(rrkk)である。また、いずれの環化も有さないこれらのペプチドの機能的誘導体も本発明の範囲内である。
【表6】
【0065】
別の実施形態では、本発明のペプチドは一般式tX/xsrfin(式II)を有し、ここでX/x はa、c、d、e、f、G、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、t、v、w、またはyである。ペプチドは環化のためにN末端またはC末端にシステイン残基、および/または溶解タグを含み得る。別の実施形態では、ペプチドはrrkkctasrfinc、rrkkctcsrfinc、rrkkctdsrfinc、rrkkctesrfinc、rrkkctfsrfinc、rrkkctGsrfinc、rrkkcthsrfinc、rrkkctisrfinc、rrkkctksrfinc、rrkkctlsrfinc、rrkkctmsrfinc、rrkkctnsrfinc、rrkkctpsrfinc、rrkkctqsrfinc、rrkkctrsrfinc、rrkkctssrfinc、rrkkcttsrfinc、rrkkctvsrfinc、rrkkctwsrfincおよびrrkkctysrfincから選択される。異なるインフルエンザウイルスに対するこれらのペプチドの活性を表7に示す。また、上記で示されるペプチドも本発明の範囲内であり、ここで溶解タグはL型(RRKK)である。また、いずれの環化も有さないこれらのペプチドの機能的誘導体も本発明の範囲内である。
【表7】
【0066】
別の実施形態では、本発明のペプチドは一般式wwftX/xia(式IX)を有し、ここでX/xはa、c、d、e、G、h、i、k、l、m、n、p、q、r、s、v、w、またはyである。ペプチドは環化のためにN末端またはC末端にシステイン残基、および/または溶解タグを含み得る。別の実施形態では、ペプチドはRRKKcwwftaiac、RRKKcwwftciac、RRKKcwwftdiac、RRKKcwwfteiac、RRKKcwwftGiac、RRKKcwwfthiac、RRKKcwwftiiac、RRKKcwwftkiac、RRKKcwwftliac、RRKKcwwftmiac、RRKKcwwftniac、RRKKcwwftpiac、RRKKcwwftqiac、RRKKcwwftriac、RRKKcwwftsiac、RRKKcwwftviac、RRKKcwwftwiac、およびRRKKcwwftyiacから選択される。異なるインフルエンザウイルスに対するこれらのペプチドの活性を表8に示す。また、上記で示されるペプチドも本発明の範囲内であり、ここで溶解タグはD型(rrkk)である。また、いずれの環化も有さないこれらのペプチドの機能的誘導体も本発明の範囲内である。
【表8】
【0067】
別の実施形態では、本明細書で説明されるペプチドは、ヒトに感染する少なくとも1種類、好ましくは1種類を超えるインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性を有する。別の実施形態では、本明細書で説明されるペプチドは、好ましくはヒトに感染する、インフルエンザウイルスの1種類を超える亜型に対する抗ウイルス活性を有する。一つの例では、インフルエンザウイルスはインフルエンザAまたはインフルエンザBウイルスである。インフルエンザAおよび/またはBウイルス亜型は、表9に示される亜型の1種類以上から選択される。
【表9】
【0068】
本発明はインフルエンザAウイルスに限定されず、インフルエンザウイルスはA型、B型、またはC型ウイルスのいずれかであり得ることが理解されるべきである。ウイルスはヒトまたは動物由来、例えばトリ由来であり得る。好ましいウイルスはA型インフルエンザウイルス、特にヒト由来のウイルスまたはヒト感染性ウイルスである。
【0069】
このため、C-P1とは対照的に、本発明のペプチドは広範なスペクトルの抗ウイルス活性を示し、それらは1種類を超えて、好ましくは2、3、4、5種類またはそれを超えるインフルエンザウイルスA亜型に対して有効である。
【0070】
さらに、本明細書で説明されるペプチドは、C-P1よりもインフルエンザウイルスに対して活性である。本発明の最も活性なペプチドは、鳥インフルエンザウイルスに対してC-P1よりも30000倍超の高い効果を有する。
【表10】
【0071】
特徴付けされたペプチドおよびその生物学的に活性な変異体は、多くの方法で修飾することができる。例えば、追加アミノ酸残基、他の置換基、および保護基を含む物質を、アミノ末端、カルボキシ末端、または両方に加えることができる。例えば、前述のように、ペプチドを、ジスルフィド結合形成に関与できるシステイン残基または他のイオウ含有残基あるいは物質を含むように修飾できる。
【0072】
本発明のペプチドはまた、溶解性、安定性、反応性を増加する、または他の特性を改善するために、1つ以上の修飾アミノ酸を任意の位置および/またはN末端および/またはC末端で含み得る。これらの修飾は、限定されないが、アミノ末端へのアセチル、カルボベンジル、ダンシル、t-ブチルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメトキシカルボニル基または親水性基、および/またはカルボキシ末端へのt-ブチルオキシカルボニル、またはアミド基、またはパラ-ニトロベンジルエステル基、または親水性基などの化学基の付加を含む。これらはまたN-メチル化などの修飾されたアミド結合を含み得る。
【0073】
別の実施形態では、本明細書で説明されるペプチドのいずれかは、1つ以上の置換基を含む。例えば、ペプチドは置換基をアミノ末端、カルボキシ末端で、および/または反応性アミノ酸残基側鎖上に含んでよい。置換基は、アシル基あるいは置換または非置換アミン基であり得る(例えば、N末端での置換基はアシル基であってよく、かつC末端は置換または非置換アミン基(例えば、同一または異なり得る1、2、または3個の置換基を有するアミノ基)によってアミド化され得る)。アミン基は、低級アルキル(例えば、1~4個の炭素を有するアルキル)、アルケニル、アルキニル、またはハロアルキル基であってよい。アシル基は、低級アシル基(例えば、最大4個の炭素原子を有するアシル基)、特にアセチル基であってよい。置換基は非タンパク質ポリマー、例えば、ポリエーテル、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリアルキレングリコール(例えば、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリブチレングリコール(PBG)、またはPPG-PEGブロック/ランダムポリマー)であってよい。
【0074】
非タンパク質ポリマーは、サイズおよび形状が異なってよい。例えば、前述の非タンパク質ポリマーのいずれか(例えば、PEG)は、線状、分枝、または櫛形であってよい。サイズに関して、分子量は変化し得る。例えば、PEGは約300Da、約1000Da、約2000Da、約3000Da、約4000Da、約5000Da、約6000Da、約7000Da、約8000Da、約9000Da、約10000Da、約11000Da、約12000Da、約13000Da、約14000Da、約15000Da、約20000Da、約30000Da、約40000Da、または約50000Daなどの分子量を有してよい。例えば、PEGは300~2000Da、300~3000Da、1000~2000Daおよび1000~3000Daの範囲の分子量であってよい。非タンパク質ポリマー(例えば、PEG)は、官能基化学のいくつかによってペプチドに結合され得る(例えば、カルボキシル化-mPEG、p-ニトロフェニル-PEG、アルデヒド-PEG、アミノ-PEG、チオール-PEG、マレイミド-PEG、アミノキシ-PEG、ヒドラジン-PEG、トシル-PEG、ヨードアセトアミド-PEG、スクシンイミジルスクシナート-PEG、スクシンイミジルグルタレート-PEG、スクシンイミジルカルボキシペンチル-PEG、p-ニトロフェニルカルボナート-PEG、またはエタンチオール-PEG)。非タンパク質ポリマー(例えば、PEG)は、限定されないが、アミノ末端アミノ酸、カルボキシ末端アミノ酸、遊離アミン、および遊離スルフヒドリル基を含む化学基のいくつかによってペプチドに結合され得る。
【0075】
非タンパク質ポリマー(例えば、PEG)は、官能化され得る(例えば、単官能性活性化線状PEG、ホモ二官能性活性化線状PEG、ヘテロ二官能性線状PEG、多アーム活性化PEG(例えば、2アーム、4アーム、8アームなど)、分枝活性化PEG、および櫛形活性化PEG)。
【0076】
本発明の抗ウイルスペプチドはまた、検出、分離、精製などの目的のためにそれらの末端アミノ酸に反応性タグを含み得る。これらのタグは、ビオチン、ヒスチジン、GSTなどを含み得る(しかし限定されない)。適切なタグは従来技術で知られている。
【0077】
本発明のペプチドはまた、脂質(リン脂質)またはポリエチレングリコールと結合されて、溶解性、タンパク質分解安定性あるいは他の特性および/または活性を増強/変化させ得る。
【0078】
本明細書で使用されるとき、本発明の抗ウイルスペプチドは、ペプチドのコア構造を模倣できる化合物である模倣誘導体またはペプチド模倣誘導体を含み得る。同様に、抗ウイルスペプチドは等価体または生物学的等価体などの1つ以上のアミノ酸置換を含み得ることが理解されるべきである。
【0079】
別の実施形態では、本明細書の抗ウイルスペプチドは多量体型であり得る。多量体は二量体、三量体または四量体、好ましくは二量体であってよい。多量体を形成する単量体抗ウイルスペプチドは、同一または異なるペプチドから構成され得る。好ましい実施形態では、多量体を形成するペプチドは共有結合される。
【0080】
別の実施形態では、本発明の抗ウイルスペプチドは、異なる物理的形態で提供され得る。物理的形態は、従来技術で良く知られている結晶、無定形などであり得る。
【0081】
本特許出願で提供される様々な例は、置換されたアミノ酸を有するFPTが、表2~8で説明される様々な配列で示される抗ウイルス活性を保持することを実証する。このような誘導体は本発明の範囲内である。別の実施形態では、本発明の抗ウイルスペプチドのアミノ酸は、保存的置換によって置換され得る。保存的置換は、一次配列を変えるが機能を変化させ得ない代替アミノ酸による置換を指す。保存的アミノ酸置換の例は、バリン、イソロイシン、およびロイシン;リジンおよびアルギニン;アスパラギンおよびグルタミン;セリンおよびトレオニン;グリシンおよびアラニン;フェニルアラニンおよびチロシン;ならびにアスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。示されたグループ内のアミノ酸は同一群からの別のアミノ酸によって保存的に置換され得る。
【0082】
別の実施形態では、本発明の抗ウイルスペプチドのアミノ酸は、非天然または不自然アミノ酸およびそれらの誘導体によって置換され得、限定されないが、β-アミノ酸(β3およびβ2)、ホモ-アミノ酸、プロリンおよびピルビン酸誘導体、3-置換アラニン誘導体、グリシン誘導体、環-置換フェニルアラニンおよびチロシン誘導体、N-メチルアミノ酸ならびに従来技術で良く知られている他のものを含む。
【0083】
本発明のペプチドまたはその誘導体は、後述の例で説明される方法を用いてそれらの抗ウイルス活性について試験され得る。
【0084】
開示されるペプチドおよびそれらの誘導体は、液相または固相合成あるいは従来技術で良く知られている任意の他の方法などの、ペプチド合成で使用されるいずれかの一般的な方法によって合成できる。
【0085】
本発明のペプチドは、ヒト、動物亜型および鳥(高病原性H5N1など)を含むインフルエンザAウイルスに対する広範なスペクトルの抗ウイルス活性を示す。これらのウイルスの感染から生じる病気は、従って本発明のペプチドによって治療でき、本発明のペプチドはこのような治療のために医薬品として許容可能な組成物に製剤化できる。
【0086】
このため、本発明の別の態様により、前述の本発明の1種類以上のペプチドは、医薬組成物に製剤化され得る。この組成物は、本発明の少なくとも1種類のペプチドを1種類以上の医薬品として許容可能な担体とともに含み得、所望されるとき、希釈剤、担体などの賦形剤、および安定化剤、保存剤、溶解剤、緩衝剤などの添加剤を含む。医薬品として許容可能な担体は、本発明のペプチドがそれとともに投与され得、かつ本発明で説明される活性抗ウイルスペプチドの有効性を阻害または低下しない1種類以上の非毒性成分を含む化合物である。
【0087】
医薬品として許容可能な担体または賦形剤は微粒子であってよく、そのため組成物は、例えば、錠剤または粉末剤形である。担体は液体であってよく、組成物は、例えば経口シロップまたは注射可能な液体である。さらに、担体は気体状であってよく、例えば、吸入投与で有用なエアゾール組成物を提供する。
【0088】
このような医薬担体は、水およびオイルなどの液体であってよく、ピーナッツオイル、ダイズオイル、ミネラルオイル、ゴマオイルなどの、石油、動物、植物または合成由来のオイルを含む。担体は食塩水、アカシアガム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイド状シリカ、尿素などであってよい。さらに、補助剤、安定化剤、増粘剤、潤滑剤、および色素を使用できる。別の実施形態では、動物に投与されるとき、本発明のペプチドまたは組成物および医薬品として許容可能な担体は、無菌である。本発明のペプチドが静脈内投与されるとき、水が好ましい担体である。食塩水溶液ならびに水性デキストロースおよびグリセロール溶液もまた液体担体として、特に注射用溶液のために使用できる。適切な医薬担体はまた、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、マルト、コメ、コムギ、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリル、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどの賦形剤を含む。本組成物は、所望される場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝化剤を含んでもよい。
【0089】
別の実施形態では、担体および賦形剤の具体的な非限定例は、限定されないが、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、あるいはこれらの組み合わせを含む。製剤化賦形剤は、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ヒドロキシルセルロース、アカシア、ポリエチレングリコール、マンニトール、塩化ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムを含み得る。
【0090】
経口投与用の固体組成物として、組成物は粉末、顆粒、圧縮錠剤、ピル、カプセル、チューインガム、ウェハーなどの剤形に製剤化できる。このような固体組成物は、1種類以上の不活性増量剤を一般的に含む。さらに、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、微細結晶セルロース、またはゼラチンなどの結合剤;デンプン、ラクトースまたはデキストリンなどの賦形剤;アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤;スクロースまたはサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料などの香味剤;ならびに着色剤の1種類以上が存在してよい。
【0091】
局所投与剤形では、様々なクリーム、軟膏、ゲル、ローションなどのいずれかが使用され得る。
【0092】
経口投与が意図されるとき、組成物は好ましくは固体または液体剤形であり、半固体、半液体、懸濁液およびゲル剤形が、固体または液体のいずれかとして本明細書で考慮される剤形に含まれる。
【0093】
組成物は液体の剤形であってよく、例えば、エリキシル、シロップ、溶液、エマルションまたは懸濁液が挙げられる。液体は経口投与のために、または注射による送達のために有用であり得る。経口投与が意図されるとき、組成物は甘味剤、保存剤、色素/着色剤および香味増強剤の1種類以上を含み得る。注射による投与のための組成物では、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定剤および等張剤の1種類以上も含まれてよい。安定化剤、保存剤および溶解剤の添加または無添加に関わらず、少なくとも1種類の緩衝化成分を含む水が好ましい。組成物がカプセル剤形であるとき(例えば、ゼラチンカプセル)、前述のタイプの材料に加えて、ポリエチレングリコール、シクロデキストリンまたは脂肪オイルなどの液体担体を含んでよい。
【0094】
ほとんどの医薬品剤形では、非有効成分が調製物の重量または容量で大きな部分を構成する。医薬品製剤では、期間中に本発明のペプチドの送達をもたらすように投与量が製剤化されるように、様々な計量放出、遅延放出または持続放出製剤のいずれか、および添加剤が使用され得ることも考慮される。
【0095】
経口、非経口、デポー、口腔内などを含むが限定されない、投与または送達方法の任意の適切な経路が本明細書で説明されるペプチドで使用され得ることが理解されるべきである。
【0096】
特定の実施形態では、ペプチドは非共有結合担体とともに製剤化される。非共有結合担体は従来技術の当業者に良く知られている。
【0097】
特定の実施形態では、ペプチドは脂質などの担体と複合体化される、あるいはリポソーム、生体分解性または非生体分解性マイクロ粒子、マイクロカプセル、マイクロスフェアおよびナノ粒子中に製剤化される。リポソーム、マイクロ粒子、マイクロカプセル、マイクロスフェアおよびナノ粒子を製造する方法、ならびに化合物をこれらに複合体化または被包する方法は、従来技術の当業者に良く知られている。
【0098】
特定の実施形態では、本明細書で説明される抗ウイルスペプチドは、ナノエマルション中に製剤化される。ナノエマルションは、限定されないが、水中油(O/W)エマルション、および油中水エマルション(W/O)を含む。ナノエマルションは約20~約1000nmの平均液滴直径を有するエマルションとして定められる。通常、平均液滴サイズは約20または50~約500nmである。
【0099】
例示的な水中油(O/W)および/または油中水(W/O)ナノエマルションは、限定されないが、
1)界面活性剤ミセル-主に疎水性ペプチドに適する、小分子界面活性剤またはデタージェント(例えば、SDS/PBS/2-プロパノール)からなるミセル、
2)ポリマーミセル-主に疎水性ペプチドに適する、ポリマー、コポリマー、またはブロックコポリマー界面活性剤(例えば、プルロニックL64/PBS/2-プロパノール)からなるミセル、
3)混合ミセル-主に疎水性ペプチドに適する、その中に1種類を超える界面活性剤が存在する、またはその中で液相(一般的にアルコールまたは脂肪酸化合物)の1つがミセル(例えば、オクタン酸/PBS/EtOH)の形成に関与するミセル、
4)一体的ペプチドミセル-両親媒性ペプチドに適する、その中でペプチドが補助界面活性剤として働き、ミセル(例えば、両親媒性ペプチド/PBS/ミネラルオイル)の一体的な部分を形成している混合ミセル、
5)ピッカリング(固相)エマルション-両親媒性ペプチドに適する、その中でペプチドが固体ナノ粒子(例えば、ポリスチレンナノ粒子/PBS/無油相)の外側と結合されるエマルション、
を含む。
【0100】
別の実施形態では、本発明は医薬品としての使用のための本発明のペプチドまたは組成物に関する。
【0101】
別の実施形態では、本発明はインフルエンザウイルス感染の治療における使用のための本発明のペプチドまたは組成物に関する。別の実施形態では、本使用は1種類を超えるインフルエンザウイルスの感染の治療においてである。別の実施形態では、インフルエンザウイルスはインフルエンザウイルスAであり、本使用は1種類を超えるインフルエンザウイルスA亜型の感染の治療においてである。
【0102】
別の実施形態では、本発明はインフルエンザウイルス感染治療のための医薬品の製造における本発明の分離された抗ウイルスペプチドまたは組成物の使用に関する。別の実施形態では、本使用は1種類を超えるインフルエンザウイルスの感染の治療においてである。別の実施形態では、インフルエンザウイルスはインフルエンザウイルスAであり、本使用は1種類を超えるインフルエンザウイルスA亜型の感染の治療においてである。
【0103】
別の実施形態では、本発明はインフルエンザウイルス感染を治療するための方法に関し、本発明の抗ウイルスペプチドまたは組成物の治療上効果的な量を投与することを含む。別の実施形態では、本方法は1種類を超えるインフルエンザウイルスの感染を治療するためである。別の実施形態では、インフルエンザウイルスはインフルエンザウイルスAであり、本方法は1種類を超えるインフルエンザウイルスA亜型の感染の治療のためである。
【0104】
また、インフルエンザウイルスによるウイルス感染の予防における前述の使用または方法も本発明の範囲内である。
【0105】
本発明のペプチドおよび組成物の投与は、限定されないが、経口、局所、非経口、舌下、直腸、膣、眼、肺(吸入)および鼻腔内を含む。非経口投与は、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内の注射または注入技術を含む。好ましくは、組成物は非経口、肺または経口によって投与される。本発明の医薬組成物は、本発明のペプチドが動物、好ましくはヒトへの組成物の投与で生体利用が可能であるように製剤化できる。組成物は1回以上の投与量単位の剤形にでき、例えば、錠剤は単回投与単位であってよく、エアゾール剤形で本発明のペプチドを含む容器は複数の投与量単位を保持できる。
【0106】
非経口投与は、限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、脳内、脳室内、髄腔内、膣内または経皮を含む。投与の好ましい方式は、担当医師の判断にゆだねられ、疾患の部位に部分的に依存する。
【0107】
本発明の液体組成物は、それらが溶液、懸濁液または他の剤形のいずれであれ以下の:注射用水、食塩溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、合成モノまたはジグリセリドなどの不揮発性オイル、ポリエチレングリコール、グリセリン、または他の溶媒などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗細菌剤;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの浸透圧調節剤の1種類以上を含んでもよい。非経口組成物は、ガラス、プラスチックまたは他の材質からなるアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回用量バイアル中に封入できる。生理食塩水は好ましい補助剤である。
【0108】
本ペプチドまたは組成物は、治療上効果的な量で投与される。用語「治療上効果的な量」または「医薬品として効果的な量」は、所望の結果をもたらすのに必要である1種類以上の化合物の量および/または投与量、および/または投与量計画を指し、例えば、ウイルスの増殖を低下または阻止するのに十分な量、またはウイルス疾患症状の重篤度を低下するまたは進行を遅延するのに十分な量(例えば、治療上効果的な量)、ウイルス感染によって生じる疾患のリスクを低下するまたは発症を遅延する、および/または最終的な重篤度を低下するのに十分な量(例えば、予防上効果的な量)である。
【0109】
化合物の正しい投与量は、特定の製剤、適用方式、ならびに治療される特定の部位、ホストおよび疾患に従って変動する。年齢、体重、性別、食事療法、投与期間、排出速度、ホストの状態、薬剤併用、反応感受性および疾患の重篤度などの他の要因も考慮される。投与は最大耐容投与量内で連続的または間欠的に実施できる。
【0110】
一般的に、この量は組成物の重量で少なくとも約0.01%の本発明のペプチドである。経口投与が意図されるとき、この量は組成物の重量で約0.1~約80%の範囲で変動し得る。好ましい経口組成物は、重量で約4~約50%の本発明のペプチドを含み得る。
【0111】
本発明の好ましい組成物は、非経口投与量単位が重量で約0.01~約2%の本発明のペプチドを含むように調製される。
【0112】
静脈内投与では、本組成物は一般的には約0.1~約250mg/日、好ましくは約0.1~約50mg/日を含んでよい。
【0113】
本ペプチドは治療的または予防的に投与され得る。適切な治療は、1日に1~4回で与えられ、好ましくは1~7日、またはそれを超えて継続される。本明細書で使用される用語「治療」、「治療している」、または「治療する」は、疾患の徴候または病状あるいは症状に所望の効果を生じる活動、特に本明細書で説明されるペプチドを使用して達成できるものを指し、限定されないが、治療される疾患または症状の1つ以上の測定可能なマーカーにおける最小限の変化または改善さえ含み得る。治療はまた、本用語が適用される疾患または症状のいずれか、あるいはこのような疾患または症状の徴候の1つ以上の、発症を遅延する、進行を妨害または逆転する、重篤度を低下する、あるいは緩和または予防することも指す。「治療」、「治療している」、または「治療する」は、疾患または症状、あるいはその関連する徴候の完全な根絶または治癒を必ずしも示さない。別の実施形態では、治療は治療される疾患の少なくとも1つの徴候の改善を含む。改善は部分的または完全であり得る。この治療を受ける被験体は、それを必要とするいずれかの被験体である。臨床的改善の例示的なマーカーは、従来技術の当業者に明らかであろう。
【0114】
本発明のペプチドまたは組成物は、任意の都合の良い経路によって投与でき、例えば、注入またはボーラス注入によって、上皮または皮膚粘膜の裏層を通した吸収によって投与できる。
【0115】
肺投与も用いることができ、例えば、吸入器または噴霧器、およびエアゾール化剤を有する製剤の使用によって、あるいはフルオロカーボンまたは合成肺界面活性剤での灌流を介してである。特定の実施形態では、本発明のペプチドまたは組成物は、従来の結合剤およびトリグリセリドなどの担体と共に、坐薬として製剤化できる。
【0116】
前述の説明のように、投与経路に応じて、本発明の抗ウイルスペプチドは、錠剤、カプセル、カプレット、懸濁液、粉末、凍結乾燥調製物、坐薬、点眼剤、皮膚パッチ、口腔溶解性製剤、スプレー、エアゾールなどを含むが限定されない、従来技術で知られているいずれかの手段によって製剤化され得、かつ緩衝剤、結合剤、賦形剤、安定化剤、抗酸化剤および従来技術で知られている他の薬剤とともに混合され製剤化され得る。
【0117】
投与はまた、別の活性化合物、例えば、別の抗ウイルス化合物と併用され得る。1種類を超える本発明のペプチドも投与され得る。
【0118】
本明細書で説明されるペプチドはまた、医薬品として許容可能な塩としても提供され得る。「医薬品として許容可能な塩」は、無機塩基(例えば、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属、カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属、またはアルミニウム、ならびにアンモニア)、有機塩基(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミン)、無機酸(例えば、塩酸、ヒドロホウ酸、硝酸、硫酸、およびリン酸)、または有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)との塩を含む。本明細書で引用される例は非限定的である。
【0119】
本発明はまた、本発明のペプチドまたは組成物および使用のための取扱説明書ならびに任意に補助剤を含むキットに関する。
【0120】
本発明はまた、インフルエンザに対する抗ウイルス活性を有するペプチドを検出するためのスクリーニング方法に関し、本発明で説明される分離された抗ウイルスペプチドの誘導体を作製すること、当該ウイルスにペプチドを暴露することおよび抗ウイルス活性についてスクリーニングすることを含む。
【0121】
本発明はまた、本発明の抗ウイルスペプチドをコードする、DNAまたはRNA分子を含む分離された核酸分子に関する。別の実施形態では、分離された核酸は天然由来ではない。
【0122】
本発明はまた、本発明の抗ウイルスペプチドをコードする核酸を含むベクターに関する。ベクターは発現ベクターであり得、特に真核細胞における発現用である。このようなベクターは、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、コスミドベクター、または人工染色体(例えば、酵母人工染色体)ベクターであってよい。
【0123】
本明細書で説明されるベクターは、従来技術で知られている様々な方法のいずれか一つによって細胞または組織中に導入できる。このような方法は、例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(分子クローニング:実験室マニュアル),Cold Spring Harbor,4th edition(June15,2012)に記載されている。
【0124】
本発明はまた、本発明の抗インフルエンザペプチドを含むホスト細胞に関する。
【0125】
ホスト細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であってよいが、真核細胞が好ましい。例示的な真核細胞は哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)を含む。他の適切なホスト細胞は従来技術で知られている。
【0126】
このため、本発明では、細胞はインビトロまたは生体外でトランスフェクションでき、発現されたペプチドは従来技術で知られている方法によってこれらから分離できる。細胞はまた、被験体に投与でき、またはこれに代えて細胞は直接的にインビボで改変できる。
【0127】
本発明はまた、本発明の抗インフルエンザペプチドと、例えば核酸、ペプチド、タンパク質、造影剤、抗体、毒素および小分子から選択される、選ばれた第二薬剤とを含む組み合わせに関する。
【0128】
本発明はまた、本発明のペプチドを含む組換えライブラリー、例えばファージライブラリに関する。
【0129】
前述の開示は、本発明の範囲内に包含される主題の全般的な説明を提供し、本発明を作製して用いる方法ならびにこの最善の方式を含むが、次の例は従来技術の当業者が本発明を実行してこれらのすべての記載された説明をもたらすことがさらに可能なように提供される。しかし、従来技術の当業者は、これらの例の詳細が本発明での限定として読み取られるべきではなく、発明の範囲は本開示に添付される請求およびこの均等物から理解されるべきであることを認識するであろう。本発明の様々なさらなる態様および実施形態が本開示の観点において従来技術の当業者に明らかであろう。これらの例の詳細は限定的なものとして扱われるべきではない。
【0130】
本明細書で引用される各文書は、その全体が参考によって本明細書に組み込まれる。
【0131】
本明細書で使用される「および/または」は、2つの特定の特性または成分のそれぞれが他を伴う、または伴わない特定の開示として捉えられるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、まさにそれぞれが個別として本明細書で提示されるかのように、(i)A、(ii)B、および(iii)AとBのそれぞれの特定的な開示として捉えられるべきである。
【0132】
文脈に他の指示がない限り、前述で示される特性の説明および定義は、本発明のいずれかの特定の態様または実施形態に限定されず、説明されるすべての態様および実施形態に同等に適用される。
【0133】

次の非限定例は、本発明をさらに説明するために示される。
【0134】
例1.材料および方法
細胞培養およびウイルス:A/PR/8/1934(H1N1)、A1/Mal/302/1954(H1N1)、A/ニワトリ/Iran/16/2000(H9N2)およびA/ウマ/2/Maiami/63(H3N8)を、8日齢の特定病原体フリー孵化鶏卵において35℃または37℃で48時間増殖させる。A/NY/18/2009(2009パンデミックH1N1)、A/HK/8/1968(H3N2)およびA/Kampung Pasir/5744/2004(H5N1)をMDCK細胞中で増殖させる。増殖および精製方法はYusoffら(Yusoffら,1996)を適応および変更する。簡単に説明すると、ウイルスを孵化鶏卵中またはMDCK細胞中のいずれかで増殖させる。孵化鶏卵に基づく増殖の場合、ウイルスを8または9日齢の特定病原体フリー孵化鶏卵に注入する。37℃で48時間インキュベーション後、尿膜腔液を収集し遠心分離(4℃で12,096g×gを30分間)によって澄明化する。ウイルスを30~60%スクロース勾配超遠心分離(4℃で285,000×gを3.5時間)により澄明化上清から精製し、後述の試験で使用する。細胞培養に基づく増殖の場合、ウイルスを一昼夜増殖したMDCK細胞に1.0m.o.iで感染させ、50~70%CPEが生じるまで37℃、5%COでインキュベーションする。上清を前述のように収集して処理する。
【0135】
ペプチド合成:ペプチドを、固相法を用いるMimotopes(オーストラリア)またはPolypeptides Inc(米国)によって合成する。例示的なペプチドの配列を表1~8に示す。最初に、ペプチドをライブラリーとして少量で合成し、顕著な抗ウイルス活性を有するライブラリーからの特定ペプチドを大スケールで合成して、ウイルスの様々な亜型に対するIC50値を測定する。ペプチドをHPLCによって精製し(純度95%超)、配列をマススペクトロメーター分析によって確認する。配列「RRKK」(または「rrkk」)をすべてのペプチドのN末端に任意に加えて溶解性を増加させる。すべてのペプチドは配列に応じて、デキストロ-アミノ酸またはレボ-アミノ酸を用いて合成される。
【0136】
プラーク減少アッセイ:プラーク減少アッセイを実施して、選択されたペプチドの抗ウイルス活性を測定する。様々な濃度でペプチドおよびインフルエンザウイルス(約80~120PFU)を前混合し、4℃または氷上で90分間インキュベーションする。6ウェルプレートに播種したMDCK細胞の密集単層(細胞600,000個/ウェル)を、1×PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)を用いて2回洗浄し、ペプチド-ウイルス混合物を加えて5%CO中にて37℃または33℃で1時間吸収させる。未結合ウイルスをPBSによる洗浄で除去し、各ウェルに2μg/mLトシルスルホニルフェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)処理トリプシン(シグマ、セントルイス、ミズーリ州)添加した1×DMEM中の2mLの0.6%低融点アガロースを重層する。プレートを5%CO中にて、37℃または35℃で41~68時間または透明プラークが出現するまでインキュベーションする。プラークを0.1%クリスタルバイオレット染料(メルク、ドイツ)を用いて染色し計数する。
【0137】
アラニンスキャニング:精製したウイルスをブラッドフォードアッセイ(Thermo Scientific、米国)によって定量する。15μg/ウェルの精製ウイルスを、96ウェルELISAマイクロプレート(エッペンドルフ、米国)に4℃で一昼夜コーティングする。コーティングしたウェルを1×PBST(Tween-20を加えたリン酸緩衝化生理食塩水)で2回洗浄し、1×PBS中の5mg/mLのBSAによって室温で1時間ブロッキングする。コーティングしたウェルを1%BSA(ウシ血清アルブミン)/1×PBST中の150μMビオチン共役体化ペプチドと室温で2時間インキュベーションする。1×PBSTを用いる3回の洗浄後、ビオチン共役体化ペプチドを抗ビオチン第一ウサギ抗体(Cell Signaling、1:250、マサチューセッツ州)およびHRP共役体化抗ウサギ第二抗体(Abcam、1:5000、マサチューセッツ州)を用いて検出する。吸光度を415nmでバイオラドiMarkマイクロプレートリーダーによって読み取る。
【0138】
赤血球凝集アッセイ:ニワトリ赤血球(cRBC)の赤血球凝集を、Jonesら、Journal of Virology,80(24):11960-11967(2006)で説明されるようにV底96ウェルマイクロタイタープレートで実施する。
【0139】
ブラッドフォードアッセイ:タンパク質定量を、製造業者の取扱説明書に従ってクーマシー(ブラッドフォード)タンパク質アッセイキット(Thermo Scientific、米国)によって実施する。
【0140】
検査施設:H5N1ウイルスを用いるすべての作業は、マレーシアのマレーシアプトラ大学で当局によりそのような使用に関して承認された、バイオセイフティーレベル3+認定封じ込め実験室で実施する。研究者は適切な防護装置および着衣を装着するように要求される。
【0141】
IC50算出:すべての実験は三重測定で実施され、データは少なくとも3回の独立した測定の結果を示す。IC50値はGraphpad Prism(登録商標)ソフトウェアによって分析される用量-反応曲線に基づいて計算する。
【0142】
細胞毒性アッセイ:MDCK細胞またはA549細胞(細胞約5000個/ウェル)を96ウェルプレートで一昼夜増殖させる。培地を連続希釈したペプチドによって交換し、再度24/48時間インキュベーションする。培養培地を除去し、CellTiter96(登録商標)AQueous One Solution[3-(4,5-ジメチルチオゾール-2-イル)-3,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド](Promega、ウィスコンシン州、米国)を20μL加えて37℃で2時間インキュベーションする。光学密度をマイクロプレートリーダー(iMARK、バイオラド、米国)で490nmにて測定する。
【0143】
溶血アッセイ:新たに得たヒト赤血球を、PBS(pH7.4)緩衝液を用いて、500×g、10分間の遠心分離によって3回洗浄する。ペプチドをV底マイクロタイタープレート中で洗浄RBCとともに1時間インキュベーションする。1%トライトンX-100を陽性コントロールとして使用する。インキュベーション後に、プレートを500×gで5分間遠心分離して、上清を新たな透明底96ウェルプレートに移し、吸光度をiMarkマイクロプレートリーダー(バイオラド、米国)によって545nmで測定する。
【0144】
例2
FPTのインビトロでの抗ウイルス活性:この例では、インフルエンザウイルスの様々な亜型に対するC-P1ペプチドの誘導体の抗ウイルス活性を試験する。C-P1のレトロインベルソ型、すなわちP1-RI-CDをペプチドプロテアーゼ耐性にするために合成する。P1-RI-CDにアラニンスキャニングを実施して、ペプチドの抗ウイルス活性に必須でない1つ以上のアミノ酸を特定する。P1-RI-CDから、前述のアラニンスキャニングによって抗ウイルス活性における非必須アミノ酸の1つとして早期に特定される単一位置で置換されたアミノ酸を有する、一連のペプチドを合成する。P1-RI-CDの上記位置で特定された非必須アミノ酸を、1つずつ、残りの19種のタンパク質原性アミノ酸で置換し、それらの活性をプラーク減少アッセイによって評価する。表1~8は評価されたペプチドの配列を示す。PSP II Aライブラリーから開始し、アルギニンおよびリジンアミノ酸を含むテトラペプチド溶解タグをデキストロ型またはレボ型でいずれかのアミノ末端に加える。プラーク減少アッセイを材料および方法のセクションで前述されたように実施する。簡単に説明すると、ウイルスをPBS単独(モック)または様々な濃度のFPTと共に4℃で1時間処理し、MDCK細胞の密集単層に吸収のために1時間加える。吸収後、単層をアガロースで覆い、プラークが出現するまでさらにインキュベーションする。24~72時間後(種々のウイルス亜型のプラーク形成能力に依存する)にプラークの数を数え、Prismソフトウェアを用いてIC50値を計算する。図1A~1Fおよび図2~4に示すように、FPTはインフルエンザウイルスの様々な亜型の増殖を用量依存的に阻害した。
【0145】
例3
FPTのインビボでの抗ウイルス活性:この例では、FPTの1つ、すなわちPSP IV A-17の抗ウイルス活性を、6週齢BALB/c雌マウス中のマウスに適応したインフルエンザA H1N1ウイルスに対して評価する。
【0146】
最初に、マウスをケタミンキシラジン溶液によって麻酔にかけ、異なるPFUの上記ウイルスを投与し、臨床症状を数日間観察して最適な負荷用量を選択する。最適な負荷用量が選択されたら、マウスに最適用量のウイルス(H1N1 A/PR/8-MC/1934)を鼻腔内で負荷し、続いて3.5mg/kg/日のPSP IV A17ペプチドを7日間、静脈内投与する。最初の用量は感染の1時間前に投与し、その後の用量を24時間毎に投与する。予後診断および疾患進行を、体重、逆立った毛、弓なりな姿勢、体の震え、麻痺およびほとんどない動きに基づいて測定する。マウスを感染の日から連続21日間毎日モニタリングする。マウスの死亡を、20%を超える体重喪失および重度の逆立った毛によって決定する。図5で認められるように、PSP IV A17はインフルエンザ処理されたマウスの罹患を完全に阻害した。
【0147】
例4
赤血球凝集活性に対する抗ウイルスペプチドの効果:この例では、抗ウイルスペプチドを、インフルエンザウイルスの赤血球凝集を阻害するその能力について試験して、ペプチドがウイルスのHAタンパク質に結合することによってウイルス複製を阻害するかどうか推測する。実験を例1で説明されるように実施する。簡単に説明すると、10μMのペプチドを4HAU/50μLのRP/8ウイルスと混合し、HA活性をニワトリ赤血球細胞で測定する。赤血球凝集活性の阻害はペプチド処理で認められなかった。
【0148】
例5
ヒト肝細胞に対するFPTの細胞毒性効果:細胞培養条件下で証明された分化した肝細胞表現型を有する細胞であるヒト肝細胞HepaRG(登録商標)に対する抗ウイルスペプチドの細胞毒性効果を、AvantiCell Science Ltd、英国によって分析する。簡単に説明すると、試験材料の細胞毒性を、24時間負荷の間のサイトゾル内容物、特にサイトゾルデヒドロゲナーゼの放出として測定する。培地中への細胞内容物放出を、高感度蛍光ベースアッセイによって測定する。アッセイの性能を陰性コントロール(試験材料溶媒)および既知の細胞毒性剤での陽性コントロールの使用によってモニタリングした。負荷期間の最後で、アッセイ読み取りを標準的な方法論によって得、結果を、完全に溶解されたデタージェント処理コントロール(100%溶解)により得られた測定と試験測定を比較することによって、細胞溶解割合(溶解%)として計算する。
【0149】
例6
電子顕微鏡分析:PSP IV A12ペプチド処理または未処理のウイルスH1N1(A/PR/8/1934)をカーボンコーティンググリッド(Formvar carbon films on Copper;Agar Scientific,英国)に結合させ、3%酢酸ウラニルでネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡(LEO 912 Advance Biology Filter)を用いて分析する。
【0150】
例7
MDCK細胞またはA549細胞に対する抗ウイルスペプチドの細胞毒性効果:例1で説明されたように評価される抗ウイルスペプチドの細胞毒性効果を、図7Aおよび7Bに示す。簡単に説明すると、MDCK細胞/A549細胞を、0μM(モック)または増加する濃度(すなわち、0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、30μMおよび100μM)のPSP V A19およびPSP VI A1細胞のいずれかで処理し、細胞死を、製造業者の説明に従いCellTiter96(登録商標)AQueous One Solution細胞増殖アッセイキット(Promega、米国)による細胞毒性アッセイによって、感染後48時間まで測定する。結果をモック処理細胞に対し基準化する。結果で示されるように、PSP V A19およびPSP VI A1は、MDCK細胞/A549細胞に対して30μMを超えるCE50(細胞毒性効果50)値を有し、有意な毒性を示さなかった。
【0151】
例8
FPTの溶血活性:例1で説明されるように評価した抗ウイルスペプチドの溶血効果を図8に示す。簡単に説明すると、異なる濃度のペプチドをヒト赤血球とともにインキュベーションし、溶血を、バイオラドiMarkマイクロプレートリーダーを用いて545nmで、上清中の放出されたヘモグロビンの吸光度によってインキュベーションの1時間後に測定する。
【0152】
参考
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図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
【配列表】
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