(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088398
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】RI標識されたヒト化抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20220607BHJP
A61K 31/28 20060101ALI20220607BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220607BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20220607BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220607BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220607BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220607BHJP
G01T 1/161 20060101ALN20220607BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
A61K31/28
A61K39/395 N
A61K47/22
A61K47/68
A61K51/10 100
A61K51/10 200
A61P35/00
C07K16/46
C12N15/13
G01T1/161 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032379
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2021538348の分割
【原出願日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2019191562
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】中田 徳仁
(72)【発明者】
【氏名】小橋 信弥
(72)【発明者】
【氏名】正山 祥生
(72)【発明者】
【氏名】的野 光洋
(72)【発明者】
【氏名】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】村上 貴之
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射性核種がキレートしたキレート剤とムチンサブタイプ5AC特異的ヒト化抗体との複合体、それを含む放射性医薬および該放射性医薬の使用方法を提供する。
【解決手段】α線またはポジトロンを放出する金属核種である放射性核種がキレートしたキレート剤と、特定のアミノ酸配列で構成されるムチンサブタイプ5ACに特異的に結合するヒト化抗体との複合体であり、MUC5ACに対する特異性と腫瘍への集積性に優れているので、MUC5ACが過剰発現している疾患、特にがんの治療及び/又は診断に極めて有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体であって、
前記放射性核種がα線またはポジトロンを放出する金属核種であり、
前記抗体が、ムチンサブタイプ5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、複合体。
【請求項2】
前記抗体が、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列(H01)、
(2)配列番号2で示されるアミノ酸配列(H02)、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列(H03)、又は
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列(H04)
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列(L01)、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列(L02)、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列(L03)、又は
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列(L04)
からなる軽鎖可変領域と、
を有するヒト化抗体である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記抗体が、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列(H01)からなる重鎖可変領域と、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列(L03)からなる軽鎖可変領域と、
を有するヒト化抗体である、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
α線を放出する前記金属核種が、アクチニウム-225であり、ポジトロンを放出する金属核種がZr-89である、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
前記抗体1分子に対し、前記キレート剤を1分子以上8分子以下備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
前記キレート剤が、リンカーを介して、前記抗体のFc領域を部位特異的に修飾している、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
前記リンカーが、下記式(i)で表される、13以上17以下のアミノ酸残基からなるペプチドを含み、架橋剤で修飾された前記ペプチドと前記抗体の架橋反応によって形成されている、請求項6に記載の複合体。
(Xa)-Xaa1-(Xb)-Xaa2-(Xc)-Xaa3-(Xd)・・・(i)
(式中、Xa、Xb、Xc及びXdは、それぞれ、連続するa個のX、連続するb個のX、連続するc個のX、及び連続するd個のXを表し、
Xは、側鎖にチオール基及びハロアセチル基のいずれも有しないアミノ酸残基であり、
a、b、c及びdはそれぞれ独立に1以上5以下の整数で、かつa+b+c+d≦14を満たし、
Xaa1及びXaa3は、それぞれ独立に、
側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、又は、
一方が、側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、他方が、側鎖にハロアセチル基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、Xaa1とXaa3とが連結しており、
Xaa2は、リシン残基、アルギニン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、前記架橋剤で修飾されている。)
【請求項8】
前記キレート剤が、下記式(A)で表される化合物又はその塩に由来する構造を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合体。
【化1】
(式(A)中、R
11、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、-(CH
2)
pCOOH、-(CH
2)
pC
5H
5N、-(CH
2)
pPO
3H
2、-(CH
2)
pCONH
2若しくは、-(CHCOOH)(CH
2)
pCOOHからなる基であり、R
12又はR
15の一方が、水素原子、カルボキシル基、又は、炭素数2若しくは3のカルボキシアルキル基であり、他方が、前記抗体と複合体化するための置換基であり、pが0以上3以下の整数であり、R
12が前記抗体と複合化するための置換基であるときR
15は水素原子であり、R
12が前記抗体と複合化するための置換基でないときR
15は前記抗体と複合化するための置換基である。)
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の複合体を有効成分として含有する、放射性医薬。
【請求項10】
前記放射性核種がα線を放出する金属核種であり、がんのRI内用療法に用いられる、請求項9に記載の放射性医薬。
【請求項11】
前記RI内用療法において、対象に対し1回あたり250kBq/kg以下の投与量で投与されるための、請求項10に記載の放射性医薬。
【請求項12】
前記投与量が、1回あたり80kBq/kg以下である、請求項11に記載の放射性医薬。
【請求項13】
前記放射性核種がポジトロンを放出する金属核種であり、がんの診断に用いられる、請求項9に記載の放射性医薬。
【請求項14】
放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体を含有する放射性医薬であって、
前記抗体が、ムチンサブタイプ5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、
請求項10~12いずれか一項に記載の放射性医薬を用いたRI内用療法におけるがんの診断用放射性医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種がキレートしたキレート剤とムチンサブタイプ5AC特異的ヒト化抗体との複合体、それを含む放射性医薬およびそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ムチンは動物の上皮細胞などから分泌される粘液の主成分であり分子量100万~1000万の糖を多量に含む糖タンパク質である。ムチンには上皮細胞などが産生する分泌型ムチンと、疎水性の膜貫通部位を持ち細胞膜に結合した状態で存在する膜結合型ムチンがある。ムチンのコアタンパクは総称してMUCと呼ばれており、コアタンパクをコードする遺伝子は少なくとも20種類あることがわかっている。その内の1種であるムチンサブタイプ5AC(MUC5AC)は分泌型ムチンに属する。
【0003】
MUC5ACは、正常組織では胃や気管において発現しているが、膵がんでの過剰発現が報告されており、その他にも甲状腺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、胆管がんでも過剰発現が報告されている。MUC5ACに対する抗体については、ヒト膵がん細胞株SW1990のxenograftより精製した膵がんムチン分画を抗原として作製したマウス抗体(非特許文献1)や、それを元に作製されたキメラ抗体(特許文献1、2、非特許文献2、3)、ヒト化抗体(特許文献3、4)の報告がある。
【0004】
抗体は、抗体が有する標的分子に対する特異性を利用して、標的分子の検出のための試薬、診断薬、又は、疾患の治療のための医薬品として用いられている。検出性能及び治療効果の更なる向上を目的として、放射性核種や薬剤が結合した抗体に関する検討が進められている。非特許文献1では、β線放出核種である131Iで標識されたマウス抗体を用いた膵がんモデルマウスの放射免疫治療が報告されている。非特許文献3では、γ線放出核種である111Inで標識されたキメラ抗体を用いた膵がん患者のSPECTイメージングについて報告されている。特許文献3及び4では、MUC5AC特異的ヒト化抗体についての記載があり、90Yや111In等で標識している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-203974号公報
【特許文献2】特開平11-5749号公報
【特許文献3】国際公開第2013/157102号
【特許文献4】国際公開第2013/157105号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Japanese Journal of Cancer Research, 87, 977-984, 1996
【非特許文献2】日本臨牀64巻, 増刊号1, 2006, 274-278
【非特許文献3】Japanese Journal of Cancer Research, 90, 1179-1186, 1999
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ムチンサブタイプ5AC(MUC5AC)に対する特異性と腫瘍への集積性に優れた、放射性核種で標識された抗MUC5ACヒト化抗体の提供を目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、金属核種である放射性核種がキレートしたキレート剤と、特定のアミノ酸配列で構成される抗MUC5ACヒト化抗体との複合体を製造することに成功し、該複合体がMUC5ACに対する特異性及び腫瘍への集積性に優れていることを見出し、その効果を確認して本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一態様は、放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体であって、放射性核種がα線またはポジトロンを放出する金属核種であり、抗体が、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、複合体を提供するものである。
【0010】
本発明によればMUC5ACに対する特異性と腫瘍への集積性に優れた、放射性核種で標識された抗MUC5ACヒト化抗体の提供及び該抗体の用途が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、
111In標識した各抗体を用いてSPECT-CTイメージングを実施した結果を示す図である。
111In標識した各抗体のSPECT画像を示す。
【
図2】
図2は、
111In標識した各抗体のSPECT画像より各時間点の腫瘍及び肝臓をVOI(volume of interest、三次元ROI)解析した結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、
111In標識した各抗体を投与して168時間後の体内分布及び排泄経路を確認した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
111In標識した各抗体のin vitro ARGによる結合能を比較した結果を示す画像である。
【
図5】
図5は、
111In標識した各抗体のin vitro ARGによる結合能を定量化し、比較した結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
225Ac標識一価抗体投与後担がんマウスにおける経時的な腫瘍体積の変化を示したグラフである。
【
図7】
図7は、
225Ac標識一価抗体投与後担がんマウスにおける経時的な体重の変化を、投与前を1.0とした場合の相対値で示したグラフである。
【
図8】
図8は、
225Ac標識一価抗体投与後担がんマウスにおける肝毒性及び腎毒性について確認した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
225Ac標識一価抗体投与後担がんマウスにおける血液毒性(白血球数、血小板数)について確認した結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、高用量の
225Ac標識一価抗体投与後担がんマウスにおける経時的な腫瘍体積の変化を示したグラフである。
【
図11】
図11は、高用量の
225Ac標識一価抗体投与後担がんマウスにおける経時的な体重の変化を、投与前を1.0とした場合の相対値で示したグラフである。
【
図12】
図12は、高用量の
225Ac標識抗体投与後担がんマウスにおける肝毒性及び腎毒性について確認した結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、高用量の
225Ac標識抗体投与後担がんマウスにおける血液毒性(白血球数、血小板数)について確認した結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、
225Ac標識一価抗体又は
225Ac標識二価抗体投与後担がんマウスにおける経時的な腫瘍体積の変化を示したグラフである。
【
図15】
図15は、
225Ac標識一価抗体又は
225Ac標識二価抗体投与後担がんマウスにおける経時的な体重の変化を、投与前を1.0とした場合の相対値で示したグラフである。
【
図16】
図16は、
225Ac標識一価抗体又は
225Ac標識二価抗体投与後担がんマウスにおける肝毒性について確認した結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、
225Ac標識一価抗体又は
225Ac標識二価抗体投与後担がんマウスにおける腎毒性について確認した結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、
225Ac標識一価抗体又は
225Ac標識二価抗体投与後担がんマウスにおける血液毒性(白血球数)について確認した結果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、
225Ac標識一価抗体又は
225Ac標識二価抗体投与後担がんマウスにおける血液毒性(血小板数)について確認した結果を示すグラフである。
【
図20】
図20は、
111In標識した一価抗体又は二価抗体を投与して20、68及び188時間後の体内分布における各臓器への単位重量あたりの放射能集積量(%ID/g)の結果を示すグラフである。
【
図21】
図21は、
111In標識した一価抗体又は二価抗体を投与して20、68及び188時間後の体内分布における腫瘍、血液、排泄尿、排泄糞及び排泄尿及び排泄糞の合計の放射能集積率の経時変化を示すグラフである。
【
図22A】
図22Aは、
89Zr標識した抗MUC5ACヒト化抗体のヒト(-■-、…■…)及びマウス(-●-、…●…)血漿中の安定性を評価した。各種
89Zr標識抗体をヒト及びマウス血漿と混合して37℃でインキュベートし、各経過時点での放射化学純度の経時変化を示すグラフである。上段は
89Zr標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製した
89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体の結果(インキュベート後、24時間、48時間、168時間及び378時間の時点)を、下段は
89Zr標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体の結果(インキュベート後、24時間、168時間及び336時間の時点)をそれぞれ示す。
【
図22B】
図22Bは、
225Ac標識した抗MUC5ACヒト化抗体のヒト(-■-、…■…)及びマウス(-●-、…●…)血漿中の安定性を評価した。各種
225Ac標識抗体をヒト及びマウス血漿と混合して37℃でインキュベートし、各経過時点での放射化学純度の経時変化を示すグラフである。上段は
225Ac標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製した
225Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体の結果(インキュベート後、21時間、115時間、140時間及び168時間の時点)を、下段は
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
225Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体の結果(インキュベート後、48時間、168時間及び336時間の時点)をそれぞれ示す。
【
図23】
図23は、
89Zr標識した各抗体のin vitro ARGによる結合能を比較した結果を示す画像である。
【
図24】
図24は、
225Ac標識した抗体のin vitro ARGによる結合能を比較した結果を示す画像である。
【
図25】
図25は、各
89Zr標識抗体投与後48時間のPET-CT撮像を実施した結果を示す画像である。
【
図26】
図26は、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO(-■-)及び
89Zr標識DOTAGA-DBCO(…●…)を用いて作製した
89Zr標識した各抗体のSPECT画像より各時間点(12、48、84、168及び252時間点)の腫瘍(上段図)、心臓(中段図)及び肝臓(下段図)をVOI(volume of interest、三次元ROI)解析した結果を示すグラフである。
【
図27】
図27は、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO(-●-)及び
89Zr標識DOTAGA-DBCO(…●…)を用いて作製した
89Zr標識した各抗体を投与後、各時間点(12、48、84、168及び252時間点)の腫瘍及び肝臓への集積から腫瘍肝臓比を算出した結果を示すグラフである。
【
図28A】
図28Aは、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO(-■-)及び
89Zr標識DOTAGA-DBCO(…●…)を用いて作製した
89Zr標識した各抗体を投与して20、68及び188時間後の体内分布における各臓器への単位重量あたりの放射能集積量(%ID/g)の結果を示すグラフである。上段は腫瘍の、下段は血液の結果をそれぞれ示す。
【
図28B】
図28Bは、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO(-■-)及び
89Zr標識DOTAGA-DBCO(…●…)を用いて作製した
89Zr標識した各抗体を投与して20、68及び188時間後の体内分布における各臓器への単位重量あたりの放射能集積量(%ID/g)の結果を示すグラフである。上段は肝臓の、下段は腎臓の結果をそれぞれ示す。
【
図28C】
図28Cは、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO(-■-)及び
89Zr標識DOTAGA-DBCO(…●…)を用いて作製した
89Zr標識した各抗体を投与して20、68及び188時間後の体内分布における各臓器への単位重量あたりの放射能集積量(%ID/g)の結果を示すグラフである。上段は心臓の、下段は肺の結果をそれぞれ示す。
【
図28D】
図28Dは、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO(-■-)及び
89Zr標識DOTAGA-DBCO(…●…)を用いて作製した
89Zr標識した各抗体を投与して20、68及び188時間後の体内分布における各臓器への単位重量あたりの放射能集積量(%ID/g)の結果を示すグラフである。脾臓及び膵臓の結果をそれぞれ示す。
【
図29】
図29は、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO(-■-、-□-)及び
89Zr標識DOTAGA-DBCO(…●…、…〇…)を用いて作製した
89Zr標識した各抗体を投与して20、68及び188時間後の排泄糞(-□-、…〇…)及び排泄尿(-■-、…●…)の放射能集積率(%ID)の経時変化を示すグラフである。
【
図30】
図30は、
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
225Ac標識抗体を担がんマウスに投与放射能量5kBq/匹又は10kBq/匹で投与した後の経時的な腫瘍体積(A)及び体重(B)の変化を示したグラフである。
【
図31】
図31は、
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
225Ac標識抗体投与後担がんマウスにおける血液毒性(白血球数)について確認した結果を示すグラフである。
【
図32】
図32は、
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
225Ac標識抗体投与後担がんマウスにおける血液毒性(血小板数)について確認した結果を示すグラフである。
【
図33】
図33は、
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
225Ac標識抗体投与後担がんマウスにおける肝毒性(ALT、AST)について確認した結果を示すグラフである。
【
図34】
図34は、
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
225Ac標識抗体投与後担がんマウスにおける腎毒性(BUN)について確認した結果を示すグラフである。
【
図35】
図35は、[
89Zr]Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体を用い経時的にPET-CTイメージングを実施した結果を示す図である。
【
図36】
図36は、[
89Zr]Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体のPET画像より各時間点の腫瘍(-●-)、心臓(血液)(…■…)及び肝臓(…△…)をVOI(volume of interest、三次元ROI)解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
【0013】
(1)複合体1
本発明は、放射性核種がキレートしたキレート剤(以下、本発明のキレート剤とも称する)と、抗体との複合体であって、前記放射性核種はα線を放出する金属核種であり、前記抗体はMUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、複合体(以下、本発明の複合体とも称する)を提供する。
【0014】
(1-1)放射性核種
本発明の複合体に含まれる放射性核種は、α線を放出する金属核種である。該金属核種は、放射性金属の壊変過程でα線を放出する核種であればよく、詳細には、212Bi、213Bi、227Th又は225Ac等が好ましく用いられ、より好ましくは227Th又は225Acであり、更に好ましくは225Ac(アクチニウム-225)である。
本発明のα線を放出する金属核種は、サイクロトロンや線形加速器等の加速器を用いて公知の方法によって製造することができ、例えば225Acは、サイクロトロンを用いて226Raターゲットに陽子を照射することで、(p,2n)の核反応によって生成することができる。生成したα線を放出する金属核種は、ターゲットから分離精製することで精製することができ、例えば225Acは、225Acを含むターゲットを酸等で溶解し、溶解液にアルカリを添加することで225Acを含む塩を析出させ、当該塩を分離精製することで、精製した225Acを得ることができる。このようにして精製したα線放出核種に必要に応じて化学処理を加えてRI標識に適した化学形とすることで、RI標識に使用することができる。
【0015】
(1-2)抗体
本発明の複合体に含まれる抗体は、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体(以下、本発明で用いられるヒト化抗体とも称する)である。該抗体としては、MUC5ACに特異的に結合する能力を有するヒト化抗体であれば特に限定されず、安定な物性を有し且つ腫瘍集積性に優れていることが好ましい。該抗体はその抗原結合断片として用いられてもよく、かかる態様も本願発明に包含される。具体的には後述する特定の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、所望により適切な重鎖定常領域と軽鎖定常領域を有することができる。本明細書において「抗原結合断片」とは本発明で用いられるヒト化抗体の一部からなる抗体断片であって、且つMUC5ACとの結合能を有するものを意味する。MUC5ACとの結合能を有する限り、抗原結合断片を構成するポリペプチドに含まれるアミノ酸の数は特に限定されるものではない。
【0016】
下記に本発明で用いられるヒト化抗体の重鎖可変領域として好ましいアミノ酸配列を示す。重鎖可変領域1(H01)、重鎖可変領域2(H02)、重鎖可変領域3(H03)、及び重鎖可変領域4(H04)は、本明細書に添付した配列表の配列番号1~4に、それぞれ相当する。下線を付した部位はCDR部位である。
【0017】
【0018】
下記に本発明においてヒト化抗体の軽鎖可変領域として好ましいアミノ酸配列を示す。軽鎖可変領域1(L01)、軽鎖可変領域2(L02)、軽鎖可変領域3(L03)、及び軽鎖可変領域4(L04)は、本明細書に添付した配列表の配列番号5~8に、それぞれ相当する。下線を付した部位はCDR部位である。
【0019】
【0020】
言い換えれば、本発明において好ましいヒト化抗体の重鎖可変領域は配列番号1から配列番号4のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域は配列番号5から配列番号8のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなる。すなわち本発明で用いられるヒト化抗体は、上記で述べた4つの重鎖可変領域(H01~H04)と4つの軽鎖可変領域(L01~L04)との組み合わせからなる。
【0021】
本発明において好適なヒト化抗体は重鎖可変領域がH01、H03、H04であり、かつ軽鎖可変領域がL01~L04のいずれか1つであるヒト化抗体である。
【0022】
本発明において最も好適なヒト化抗体は重鎖可変領域がH01であり軽鎖可変領域がL03である抗体である。
【0023】
本発明においてヒト化抗体の重鎖可変領域は、配列番号1から配列番号4で示されるアミノ酸配列によって規定されるものに限定されず、機能を保持している変異体も含む。すなわち配列番号1から配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異した重鎖可変領域も、本発明の軽鎖可変領域と組み合わされたときにMUC5ACとの結合能を有する限り本発明で用いられるヒト化抗体の重鎖可変領域として用いることができる。
【0024】
本明細書においてアミノ酸配列の同一性とは、対象とする2つのタンパク質間のアミノ酸配列の同一性をいい、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて作成されたアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいて一致するアミノ酸残基の割合(%)によって表される。アミノ酸配列の同一性は、視覚的検査及び数学的計算により決定することができ、当業者に周知のホモロジー検索プログラム(例えば、BLAST、FASTA)や配列整列プログラム(例えば、ClustalW))、あるいは遺伝情報処理ソフトウェア(例えば、GENETYX[登録商標])などを用いて算出することができる。本明細書におけるアミノ酸配列の同一性は、具体的には、DDBJ(DNA DataBank of Japan)のウェブサイトで公開されている系統解析プログラムClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php?lang=ja)を用い、初期設定の条件(Version2.1、Alignment type:slow、DNA Weight Matrix: Gonnet、GAP OPEN: 10、GAP EXTENSION: 0.1)で求めることができる。
【0025】
加えて、本発明で用いられるヒト化抗体の重鎖可変領域として、配列番号1から配列番号4で示されるアミノ酸配列において、10個以下、好ましくは8個以下、更に好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が欠失、置換、または付加したアミノ酸配列からなる変異した重鎖可変領域も、本発明の軽鎖可変領域と組み合わされたときにMUC5ACとの結合能を有する限り、本発明で用いられるヒト化抗体の重鎖可変領域として用いることができる。
【0026】
本発明で用いられるヒト化抗体の軽鎖可変領域は、配列番号5から配列番号8で示されるアミノ酸配列に限定されず、機能を保持している変異体も含む。すなわち配列番号5から配列番号8で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異した軽鎖可変領域も、本発明の重鎖可変領域と組み合わされたときにMUC5ACとの結合能を有する限り本発明で用いられるヒト化抗体の軽鎖可変領域として用いられる。
【0027】
加えて、本発明で用いられるヒト化抗体の軽鎖可変領域として、配列番号5から配列番号8で示されるアミノ酸配列において10個以下、好ましくは8個以下、更に好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が欠失、置換、または付加したアミノ酸配列からなる変異した軽鎖可変領域も、本発明の重鎖可変領域と組み合わされたときにMUC5ACとの結合能を有する限り、本発明で用いられるヒト化抗体の軽鎖可変領域として用いられる。
【0028】
本発明で用いられるヒト化抗体は本技術分野で一般的に実施されている方法又はそれに準じた方法によって製造することができる。具体的には、以下の手順で行うことができる。
本発明で用いられるヒト化抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1から配列番号8に開示されているので、それらのアミノ酸配列情報に基づき得られた該抗体をコードする核酸を構築し、適当な発現ベクターに挿入する。発現ベクターは、本発明で用いられるヒト化抗体をコードする核酸に加えて、任意に、翻訳効率を上げるためのコザック配列、宿主に導入された際に本発明で用いられるヒト化抗体が培地中に分泌することを促進するシグナル配列、およびプロモーター配列などを含むことができる。本発明で使用することができるベクターは、本技術分野で一般的に使用されているものから選択することができるが、プラスミドベクターであるpcDNA3.4が好ましい。発現ベクターの宿主細胞への導入も特に限定されず、細胞内に遺伝子を導入する方法としては本技術分野で従来から使用されている方法、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、DEAE-デキストラン法の当業者に公知の方法を用いることができる。下記の実施例で行なっているように、リポフェクション法を用いた導入方法は特に好適である。なおこの目的に使用される宿主細胞も、本技術分野で従来から使用されているものを使用することができる。そのような宿主細胞の例として、CHO細胞、293細胞、大腸菌、ピキア酵母、Sf9細胞などを挙げることができる。なお現在は目的とするタンパク質を発現させるための発現システムのキットも市販されており、下記の実施例で使用しているExpiCHO System (サーモフィッシャーサイエンティフィック社)は、迅速かつ確実な目的タンパク質の発現のために、特に好ましい。
【0029】
本発明で用いられるヒト化抗体をコードする核酸を発現ベクターに挿入し、その核酸を含む発現ベクターにより宿主細胞にその核酸を導入し、核酸が導入された宿主細胞を培養し、その培養上清から、クロマトグラフィーなどの精製手段により、本発明で用いられるヒト化抗体を得ることができる。本方法においては宿主細胞を培養することによって培養上清に本発明で用いられるヒト化抗体を分泌させる。培養上清から、クロマトグラフィーなどの精製手段を用いて、本発明で用いられるヒト化抗体またはその抗原結合断片を得ることができる。クロマトグラフィーの手段として、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど本技術分野で知られた種々の手段を用いることができる。下記の実施例で使用しているプロテインAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーは、特に好ましい。
【0030】
また上記のヒト化抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。
【0031】
(1-3)キレート剤
本発明においてキレート剤は、放射性核種が配位する部位を構造中に有するものであれば特に限定されないが、好ましくは、放射性核種が配位する部位であるキレート部と抗体との複合化を可能とするための置換基とを有する。キレート部として、例えば、CB-TE2A(1,4,8,11-Tetraazabicyclo[6.6.2]hexadecane-4,11-diacetic acid)、CDTA(Cyclohexane-trans-1,2-diamine tetra-acetic acid)、CDTPA(4-cyano-4-[[(dodecylthio)thioxomethyl]thio]-Pentanoic acid)、DOTA(1,4,7,10-Tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid)、DOTMA((1R,4R,7R,10R)-α,α’,α”,α’”-tetramethyl-1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid)、DOTAM(1,4,7,10-tetrakis(carbamoylmethyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecane)、DOTA-GA(α-(2-Carboxyethyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid)、DOTP(((1,4,7,10-Tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetrayl)tetrakis(methylene))tetraphosphonic acid)、DOTMP(1,4,7,10-Tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetrakis(methylenephosphonic acid))、DOTA-4AMP(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetrakis(acetamidomethylenephosphonic acid)、D02P(Tetraazacyclododecane dimethanephosphonic acid)、Deferoxamine (DFO)、DTPA(Glycine, N,N-bis[2-[bis(carboxymethyl)amino]ethyl]-)、DTPA-BMA(5,8-Bis(carboxymethyl)-11-[2-(methylamino)-2-oxoethyl]-3-oxo-2,5,8,11-tetraazatridecan-13-oic acid)、EDTA(2,2′,2′′,2′′′-(ethane-1,2-diylbis(azanetriyl))tetraacetic acid)、NOTA(1,4,7-Triazacyclononane-1,4,7-triacetic acid)、NOTP(1,4,7-Triazacyclononane-1,4,7-triyltris(methylenephosphonic acid)、TETPA(1,4,8,11-tetraazacyclotetradecane-1,4,8,11-tetrapropionic acid)、TETA(1,4,8,11-Tetraazacyclotetradecane-N,N′,N′′,N′′′-tetraacetic acid)、TTHA(3,6,9,12-Tetrakis(carboxymethyl)-3,6,9,12-tetraazatetradecanedioic acid)、HEHA(1,2,7,10,13-hexaazacyclooctadecane-1,4,7,10,13,16-hexaacetic acid)、1,2-HOPO(N,N’,N”,N’”-tetra(1,2-dihydro-1-hydroxy-2-oxopyridine-6-carbonyl)-1,5,10,14-tetraazatetradecane)、PEPA(1,4,7,10,13-pentaazacyclopentadecane-N,N’,N”,N’”,N””-penta-acetic acid)、H4octapa(N,N’-bis(6-carboxy-2-pyridylmethyl)-ethylenediamine-N,N’-diacetic acid)、H2bispa2(6,6’-({9-hydroxy-1,5-bis(methoxycarbonyl)-2,4-di(pyridine-2-yl)-3,7-diazabicyclo[3.3.1]nonane-3,7-diyl}bis(-methylene))dipicolinic acid)、H2dedpa(1,2-[{6-(carboxy)-pyridin-2-yl}-methylamino]ethane)、H2macropa(6-(1,4,10,13-tetraoxa-7,16-diazacyclooctadecan-N,N’-methyl)picolinic acid)、H5decapa(N,N”-bis(6-carboxy-2-pyridylmethyl)-diethylenetriamine-N,N’,N”-triacetic acid)、H6phospa(N,N’-(methylenephosphonate)-N,N’-[6-(methoxycarbonyl)pyridin-2-yl]-methyl-1,2-diaminoethane)、HP-D03A(Hydroxypropyltetraazacyclododecanetriacetic acid)、porphyrin、といったものが挙げられるが、下記式(A)で表される化合物に由来する構造を有することが好ましい。
【0032】
【0033】
(式(A)中、R11、R13及びR14は、それぞれ独立して、-(CH2)pCOOH、-(CH2)pC5H5N、-(CH2)pPO3H2、-(CH2)pCONH2若しくは、-(CHCOOH)(CH2)pCOOHからなる基であり、であり、R12又はR15の一方が、水素原子、カルボキシル基、又は、炭素数2若しくは3のカルボキシアルキル基であり、他方が、前記抗体と複合化するための置換基であり、pが0以上3以下の整数であり、R12が前記抗体と複合化するための置換基であるときR15は水素原子であり、R12が前記抗体と複合化するための置換基でないときR15は前記抗体と複合化するための置換基である。)
【0034】
式(A)で表される具体的な構造としては、以下の式(A-1)~(A-12)で表される化合物に由来する構造が挙げられる。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
キレート部と、抗体と複合化を可能とするための置換基との連結部位は、アミド結合か、チオウレア結合であることが好ましいが、安定性の観点からはアミド結合がより好ましい。
【0039】
アミド結合は、例えば、上記式(A-10)や(A-11)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)基、又は、上記(A-12)の2,6-ジオキソテトラヒドロ-2H-ピラニル基と、第1級アミンとの反応により形成される。また、チオウレア結合は、上記式(A-2)、(A-3)で示す化合物のイソチオシアネート基と、第1級アミン又はマレイミド基との反応により形成される。
【0040】
本発明の複合体において、キレート剤は、抗体1分子に対し、少なくとも1分子以上備えていればよいが、1分子以上8分子以下備えることが好ましい。ただし、抗体そのものの活性(抗原認識作用、中和作用、補体活性化作用及び/又はオプソニン作用)を維持する観点から、抗体のFc領域(定常領域)に部位特異的にキレート剤が導入されることが好ましく、本発明において、キレート剤は、抗体1分子に対して1分子又は2分子備えていることがより好ましい。
【0041】
本発明の複合体において、キレート剤は、リンカーを介して抗体と接続されていてもよい。リンカーとしては、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のヘテロアルキル基、ポリエチレングリコール(PEG)基、ペプチド、糖鎖、ジスルフィド基及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
好ましくは、キレート剤は、リンカーを介して、抗体を部位特異的に、より好ましくはFc領域に修飾している。この場合、リンカーは、下記式(i)で表される、13以上17以下のアミノ酸残基からなるペプチド(以下、「抗体修飾ペプチド」ともいう。)を含み、かつ架橋剤で修飾された抗体修飾ペプチドと抗体との架橋反応によって形成されているものを用いることができる。なお、式(i)において、アミノ酸配列の紙面左側がN末端側を示し、アミノ酸配列の紙面右側がC末端側を示すものとして説明する。キレート剤がリンカーとして抗体修飾ペプチドを介して抗体と接続される場合、キレート剤と抗体修飾ペプチドが連結する位置は特に限定しないが、例えば抗体修飾ペプチドのN末端又はC末端、好ましくはN末端に直接又は間接的に連結することができる。また、抗体修飾ペプチドのC末端はその安定性の向上等のためにアミド化等の修飾を受けていてもよい。
【0042】
(Xa)-Xaa1-(Xb)-Xaa2-(Xc)-Xaa3-(Xd)・・・(i)
式(i)中、Xa、Xb、Xc及びXdは、それぞれ、連続するa個のX、連続するb個のX、連続するc個のX、及び連続するd個のXを表し、
Xは、側鎖にチオール基及びハロアセチル基のいずれも有しないアミノ酸残基であり、
a、b、c及びdはそれぞれ独立に1以上5以下の整数で、かつa+b+c+d≦14を満たし
Xaa1及びXaa3は、それぞれ独立に、
側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、又は、
一方が、側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、他方が、側鎖にハロアセチル基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、Xaa1とXaa3とが連結しており、
Xaa2は、リシン残基、アルギニン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、架橋剤で修飾されている。
【0043】
上記式(i)におけるXに含まれ得るアミノ酸残基としては、例えば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、セリン、スレオニン、チロシン、メチオニン等のアミノ酸に由来するものが挙げられ、Xは、同一の種類のアミノ酸からなるアミノ酸残基であってもよく、それぞれ異なる種類のアミノ酸からなるアミノ酸残基であってもよい。
【0044】
式(i)中のa、b、c及びdは、上述した範囲の数であれば特に制限はないが、ペプチドと抗体との結合安定性の観点から、a+b+c+d≦14を条件として、aは好ましくは1以上3以下の整数、bは好ましくは1以上3以下の整数、cは好ましくは3以上5以下の整数、及びdは好ましくは1以上3以下の整数である。
【0045】
Xaa1及びXaa3は、側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基であり、該アミノ酸はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。側鎖にチオール基を有するアミノ酸としては、例えばシステイン、ホモシステインが挙げられる。このようなアミノ酸残基は、ジスルフィド結合によって結合しているか、又は以下の式(4)に示すリンカーを介して、スルフィド基が結合されていることが好ましい。式(4)中、波線部分はスルフィド基との結合部分を示す。
【0046】
【0047】
Xaa1及びXaa3は、上述した組み合わせに代えて、Xaa1及びXaa3のうち一方が側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基であり、他方が側鎖にハロアセチル基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基であってもよい。これらは、チオエーテル結合を介して結合している。ハロアセチル基は、その末端がヨウ素等のハロゲンで置換されており、他方の側鎖におけるチオール基との反応によってハロゲンが脱離して、チオエーテル結合が形成される。
【0048】
式(i)で表される抗体修飾ペプチドの具体的なアミノ酸配列は、例えば国際公開2016/186206号パンフレット、国際公開2017/217347号パンフレット及び国際公開2018/230257号パンフレットに記載のペプチドが挙げられ、これらを用いることもできる。
【0049】
これらのうち、抗体修飾ペプチドのアミノ酸配列として、以下の配列(1)~(14)のいずれか一つを有していることが好ましく、以下の配列(1)、(2)、(13)又は(14)を有していることが更に好ましい。以下のアミノ酸配列(1)~(14)において、(Xaa2)はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸を示し、(Xaa1)及び(Xaa3)はともにホモシステイン残基を示す。また、以下のアミノ酸配列(1)~(14)中、(Xaa1)、(Xaa2)及び(Xaa3)以外のアミノ酸は一文字略号にて表記する。
【0050】
(1)DCAYH(Xaa2)GELVWCT (配列番号9)
(2)GPDCAYH(Xaa2)GELVWCTFH (配列番号10)
(3)RCAYH(Xaa2)GELVWCS (配列番号11)
(4)GPRCAYH(Xaa2)GELVWCSFH (配列番号12)
(5)SPDCAYH(Xaa2)GELVWCTFH (配列番号13)
(6)GDDCAYH(Xaa2)GELVWCTFH (配列番号14)
(7)GPSCAYH(Xaa2)GELVWCTFH (配列番号15)
(8)GPDCAYH(Xaa2)GELVWCSFH (配列番号16)
(9)GPDCAYH(Xaa2)GELVWCTHH (配列番号17)
(10)GPDCAYH(Xaa2)GELVWCTFY (配列番号18)
(11)SPDCAYH(Xaa2)GELVWCTFY (配列番号19)
(12)SDDCAYH(Xaa2)GELVWCTFY (配列番号20)
(13)RGNCAYH(Xaa2)GQLVWCTYH (配列番号21)
(14)G(Xaa1)DCAYH(Xaa2)GELVWCT(Xaa3)H (配列番号22)
【0051】
(1-4)複合体の製造方法
本発明の複合体の製造方法は、キレート剤と抗体とをコンジュゲーションするコンジュゲーション工程と、放射性核種とキレート剤との錯体を形成する錯体形成工程との2つの工程から製造することができる。コンジュゲーション工程は、錯体形成工程の前であってもよいし錯体形成工程の後であってもよい。
【0052】
コンジュゲーション工程においては、種々の抗体の化学修飾法が用いられる。具体的には、(a)~(f)の方法が挙げられる。
(a)アミンカップリング法(N-ヒドロキシスクシミジル(NHS)基で活性化されたカルボキシル基をもつキレート剤またはキレートを用いて抗体のリシン残基のアミノ基を修飾する方法)
(b)抗体のヒンジ部位にあるポリペプチド鎖間のジスルフィド結合(SS結合)を部分的に還元することによって生じるスルフヒドリル(SH)基に対して、SH基に反応性を有するマレイミド基を持つキレート剤またはリンカーで修飾する方法
(c)遺伝子工学によるアミノ酸変異によって、抗体に新たに導入されたシステインに対してマレイミド基をもつキレート剤またはリンカーを修飾する方法
(d)遺伝子工学によるアミノ酸変異によって、抗体に新たに導入されたアジド化リシンのアジド基に、クリック反応を利用して、アルキン(例えばDibensylciclooctene: DBCO)をもつキレート剤またはリンカーを修飾する方法
(e)トランスグルタミナーゼを利用して、抗体の特定の位置に導入されたグルタミンに、リシンの側鎖を有するキレート剤またはリンカーを修飾する方法
(f)前述した(i)で示す抗体修飾ペプチドを有するキレート剤またはリンカーを、抗体のFc領域を部位特異的に修飾する方法
【0053】
錯体形成工程では、キレート剤に放射性核種をキレート(錯体形成)させる。ここで使用する放射性核種は、錯体形成効率を高める観点から、電離可能な態様で用いることが好ましく、イオンの態様で用いることが更に好ましい。錯体形成工程は、放射性核種との錯体形成が可能であれば、キレート剤への放射性核種の添加順序は問わない。例えば、水を主体とする溶媒に、放射性金属イオンが溶解した溶液を放射性核種として用いることができる。
錯体形成後、ろ過フィルター、メンブランフィルター、種々の充填剤を充填したカラム、クロマトグラフィー等を用いて、得られた錯体を精製してもよい。
【0054】
本発明の複合体の製造方法は、錯体形成工程の後にコンジュゲーション工程が実行されることが好ましい。
より好ましい態様において、錯体形成工程(A)では、放射性核種とクリック反応可能な第1の原子団を抗体と複合化を可能とするための置換基として有するキレート剤との間で錯体を形成する。次いで、コンジュゲーション工程(B)では、前述した(i)で示す抗体修飾ペプチドと、クリック反応可能な第2の原子団とを有する抗体修飾リンカーを用いて、Fc領域を部位特異的に修飾されたペプチド修飾抗体と、工程(A)で得られた錯体形成されたキレート剤との間でクリック反応を実行し、本発明の複合体を得る。
以下工程(A)及び(B)について、詳述する。
【0055】
クリック反応可能な第1原子団と第2原子団の組み合わせとしては、クリック反応の種類に応じて適切なものが選択され、例えば、アルキンとアジドとの組み合わせ、1,2,4,5-テトラジンとアルケンとの組み合わせ等が挙げられる。これらの原子団は、第1原子団が上記原子団の組み合わせのうち一つを有し、第2原子団が上記原子団の組み合わせのうち第1原子団と異なる一つとなる原子団を有していればよい。キレート剤及び抗体の安定性と、これらの結合効率の向上とを両立する観点から、キレートリンカーがアルキンであり且つ抗体修飾リンカーがアジドであるか、又はキレートリンカーが1,2,4,5-テトラジンであり且つ抗体修飾リンカーがアルケンであることが好ましい。このような原子団の組み合わせによるクリック反応の具体例として、ヒュスゲン環化付加反応、あるいは逆電子要請型ディールスアルダー反応等が挙げられる。
【0056】
クリック反応可能な原子団の組み合わせの具体例としては、以下の式に示すように、第1原子団のアルキンとしてジベンジルシクロオクチン(DBCO)を含む原子団(式(1a))と、第2原子団のアジドとしてアジド基を含む原子団(式(2a))との組み合わせ、あるいは、第1原子団が1,2,4,5-テトラジンを含む原子団(式(1b))と、第2原子団のアルケンとしてtrans-シクロオクテン(TCO)を含む原子団(式(2b))との組み合わせが挙げられる。好ましくは式(1a)と式(2a)との組合せである。
【0057】
【0058】
(式中、R1は、キレート剤との連結部位を示し、R2は、抗体における抗体修飾ペプチドとの連結部位を示す。)
【0059】
【0060】
(式中、R3及びR4のうち一方がキレート剤又は抗体における抗体修飾ペプチドのいずれか一方との連結部位を示し、他方が水素原子、メチル基、フェニル基又はピリジル基を示し、R5は、R3又はR4に応じてキレート剤又は抗体における抗体修飾ペプチドのいずれか一方との連結部位を示す。)
【0061】
第1原子団のアルキンとして、上記式(1a)で表されるジベンジルシクロオクチン(DBCO)を含む原子団を用いる場合は、市販されている種々のDBCO試薬が挙げられる。具体的には、例えば、DBCO-C6-Acid、Dibenzylcyclooctyne-Amine、Dibenzylcyclooctyne Maleimide、DBCO-PEG acid、DBCO-PEG-NHS ester、DBCO-PEG-Alcohol、DBCO-PEG-amine、DBCO-PEG-NH-Boc、Carboxyrhodamine-PEG-DBCO、Sulforhodamine-PEG-DBCO、TAMRA-PEG-DBCO、DBCO-PEG-Biotin、DBCO-PEG-DBCO、DBCO-PEG-Maleimide、TCO-PEG-DBCO、DBCO-mPEGなどが選択できるが、好ましくはDibenzylcyclooctyne Maleimideを用いる。
【0062】
工程(A)では、より好ましくは、以下の式(ii)で表される構造を有するキレート剤を用いる。
A-B-C ・・・(ii)
式(ii)中、Aは、以下の式(iia)で表されるキレート部である。
【0063】
【0064】
式(iia)中、Ra、Rb及びRcは、独立して、-(CH2)pCOOH、-(CH2)pC5H5N、-(CH2)pPO3H2、-(CH2)pCONH2若しくは、-(CHCOOH)(CH2)pCOOHからなる基であり、pは0以上3以下の整数であり、Rd又はReのいずれか一方が、Bとの結合部位(*)であり、他方が水素原子であるか、-(CH2)pCOOH、-(CH2)pC5H5N、-(CH2)pPO3H2、-(CH2)pCONH2若しくは、-(CHCOOH)(CH2)pCOOHからなる基であり、pは0以上3以下の整数である。
式(ii)中、Bは以下の式(iib)で表される。
【0065】
【0066】
式(iib)中、La及びLbは、独立して、少なくともアミド結合又はチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、tは0以上30以下の整数であり、sは0又は1であり、*はAとの結合部位であり、**はCとの結合部位である。
式(ii)中、Cは、以下の式(iic)で表されるアルキン誘導体又は式(iid)で表されるテトラジン誘導体のいずれかである。
【0067】
【0068】
式(iic)中、XはCHRk―**又はN-**であり、YはCHRk又はC=Oであり、Rkは独立して水素原子であるか、炭素数1以上5以下のアルキル基であって、XがCHRk―**で、YがCHRkである場合は、Rk部分が一緒になってシクロアルキル基を形成してもよく、Rf、Rg、Rh及びRiは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基であり、RfとRgが一緒になって、若しくはRhとRiが一緒になって炭化水素環を形成してもよく、**はBとの結合部位を示し、式(iid)中、**はBとの結合部位を示し、Rjは水素原子、メチル基、フェニル基又はピリジル基を示す)
【0069】
工程(A)で使用されるキレート剤として、上記式(iia)中、Ra乃至Rdが、-(CH2)pCOOHであり、pが1であり、ReがBとの結合部位であるDOTA誘導体;又はRa乃至Rcが、-(CH2)pCOOHであり、pが1であり、RdがBとの結合部位(*)であり、Reが水素原子であるDO3A誘導体若しくはDOTAGA誘導体のいずれかがより好ましい。
【0070】
式(ii)中、Aが上記DOTA誘導体である場合、Bは、Laがチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、sが0又は1であり、sが1である場合は、tが0以上30以下の整数であり、Lbがアミド結合若しくはチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、Cは、式(iic)で表されるアルキン誘導体であり、式(iic)中、XがN―**であり、YがCHRkであり、Rkが水素原子であり、RfとRgが一緒になってベンゼン環を形成しており、RhとRiが一緒になってベンゼン環を形成しており、**はBとの結合部位である、DOTA-PEGt-DBCO誘導体;又はBは、Laがチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、sが0又は1であり、sが1である場合は、tが0以上30以下の整数であり、Lbがアミド結合若しくはチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、Cは、式(iid)で表されるテトラジン誘導体である、DOTA-PEGt-Tz誘導体が更により好ましい。
【0071】
式(ii)中、Aが上記DO3A誘導体である場合、上記DO3A誘導体である場合、Bは、Laがアミド結合若しくはチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、sが0又は1であり、sが1である場合は、tが0以上30以下の整数であり、Lbがアミド結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、Cは、式(iic)で表されるアルキン誘導体であり、式(iic)中、XがN―**であり、YがCHRkであり、Rkが水素原子であり、RfとRgが一緒になってベンゼン環を形成しており、RhとRiが一緒になってベンゼン環を形成しており、**はBとの結合部位である、DO3A-PEGt-DBCO誘導体が更により好ましい。
【0072】
式(ii)中、Aが上記DOTAGA誘導体である場合、Bは、Laがアミド結合若しくはチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、sが0又は1であり、sが1である場合は、tが0以上30以下の整数であり、Lbがアミド結合を含む若しくはチオウレア結合を含む炭素数1以上50以下の結合リンカーであり、Cは、式(iic)で表されるアルキン誘導体であり、式(iic)中、XがN―**であり、YがCHRkであり、Rkが水素原子であり、RfとRgが一緒になってベンゼン環を形成しており、RhとRiが一緒になってベンゼン環を形成しており、**はBとの結合部位である、DOTAGA-PEGt-DBCO誘導体が更により好ましい。
【0073】
キレート剤と放射性核種とのモル比率は、キレート部/放射性核種として、下限が、10/1以上が好ましく、100/1以上がより好ましく、500/1以上がさらに好ましく、上限が、10000/1以下が好ましく、8000/1以下がより好ましく、7000/1以下がさらに好ましく、例えば、100/1以上7000/1以下の範囲が好ましく、より好ましくは500/1以上7000/1以下の範囲である。
【0074】
錯体形成反応は、溶媒下に行うことが好ましい。溶媒としては、例えば水、生理食塩水、又は酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液(Tris緩衝液)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸緩衝液(HEPES緩衝液)、若しくはテトラメチルアンモニウム酢酸緩衝液等の緩衝液等を用いることができる。
【0075】
溶媒の液量は特に限定されないが、製造工程における実用性の観点から、工程(A)の開始時において、下限は、0.01mL以上、好ましくは0.1mL以上、より好ましくは1.0mL以上、さらに好ましくは10mL以上、よりさらに好ましくは100mL以上であり、上限は、好ましくは1000以下、より好ましくは100mL以下、さらに好ましくは10mL以下、よりさらに好ましくは1.0mL以下であり、例えば、0.01mL以上100mL以下の範囲である。
【0076】
錯体形成反応の反応液中のキレート剤の濃度は、目的とするキレート剤の収率の観点から、それぞれ独立して、工程(A)の開始時において、下限は、好ましくは0.001μmol/L以上、より好ましくは0.01μmol/L以上、さらに好ましくは0.1μmol/L以上、より好ましくは1μmol/L以上であり、上限は、好ましくは1000μmol/L以下、より好ましくは100μmol/L以下、さらに好ましくは10μmol/L以下であり、例えば、1μmol/L以上100μmol/L以下の範囲が挙げられる。
【0077】
錯体形成反応の温度としては、例えば室温(25℃)であってもよく、加熱条件下であってもよいが、キレート剤の分解抑制と錯体の形成効率向上とを両立する観点から、下限は、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35℃以上、よりさらに好ましくは37℃以上、特に好ましくは45℃以上であり、上限は、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下、よりさらに好ましくは90℃以下であり、例えば、30℃以上100℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは35℃以上90℃以下の範囲である。
【0078】
反応時間は、上述の反応温度であることを条件として、下限は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは20分以上、よりさらに好ましくは30分以上、特に好ましくは45分以上であり、上限は、好ましくは180分以下、より好ましくは150分以下、さらに好ましくは120分以下、よりさらに好ましくは90分以下、特に好ましくは60分以下であり、例えば、10分以上150分以下の範囲が好ましく、より好ましくは10分以上60分以下の範囲である。
【0079】
工程(B)で使用される抗体は、前述した(i)で示す抗体修飾ペプチドと、クリック反応可能な第2の原子団とを有する抗体修飾リンカーを用いて、上記「(1-2)抗体」の項で詳述したヒト化抗体のFc領域(定常領域)が部位特異的に修飾されたペプチド修飾抗体である。
【0080】
抗体修飾ペプチドは、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸を問わないアミノ酸を組み合わせて用いて、例えば液相合成法、固相合成法、自動ペプチド合成法、遺伝子組み換え法及びファージディスプレイ法等のペプチド合成法に供することよって製造することができる。ペプチドの合成にあたり、必要に応じて、用いられるアミノ酸の官能基の保護を行ってもよい。これらは、例えば、国際公開2017/217347号パンフレット及び国際公開2018/230257号パンフレットに記載の方法に準じて行うことができる。
【0081】
抗体修飾リンカーは、抗体修飾ペプチドと、以下の式(S1)で表されるリンカーとが結合したものであってもよい。
*-((L1)m-Z)k-L2-AG2 ・・・(S1)
(式中、*は、ペプチドのN末端又はC末端との結合部位を示し、
L1は、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー部であり、
mは、1以上50以下の整数であり、
Zは、(L1)mとL2とを結合する第2リンカー部であり、
kは、0又は1であり、
L2は、第2のPEGリンカー部であり、
AG2は第2原子団である。)
【0082】
前記式(S1)において、Zの構造は、(L1)mとL2とを互いに結合するリンカー構造であれば特に限定されないが、例えば1以上5以下のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含むことができる。この場合、Zに含まれるアミノ酸配列は、システイン残基を含むことが好ましく、システイン残基のチオール基とマレイミド基との結合により形成されたチオエーテル基を介してL2と結合していることがより好ましい。
【0083】
本発明において、L2を構成するPEGリンカー部は、以下の式(P2)に示す構造を有していることが好ましい。式(P2)中、nは整数であり、好ましくは1以上50以下、より好ましくは1以上20以下、さらに好ましくは2以上10以下、一層好ましくは2以上6以下である。
【0084】
【0085】
PEGリンカー部の構造の一端は、市販されているPEG化試薬に由来する構造又はPEG化する際に通常用いられる試薬に由来する構造によって修飾されていてもよく、特に限定されないが、例えばジグリコール酸又はその誘導体、マレイミド又はその誘導体に由来する構造が例示される。
【0086】
抗体修飾リンカーへの前記第2原子団への導入方法は、上述の方法によって所望のアミノ酸配列を有する抗体修飾ペプチドを得た後、該ペプチドを、溶解補助剤及び還元剤、並びに必要に応じて酸を加えた溶液に溶解し、該溶液に第2原子団として、アジド基又はtrans-シクロオクテン(TCO)を含む原子団の有機溶媒溶液を添加し、室温で攪拌することにより導入する方法が挙げられる。
【0087】
第2原子団としてアジド基を含む原子団を導入する場合には、市販のアジド基導入試薬を用いて、常法に従い、ペプチドのN末端又はC末端に直接アジド基を導入するか、又は上述したリンカー構造を介してアジド基を含む原子団を導入することができる。用いられるアジド基導入試薬としては例えば、シリルアジド、リン酸アジド、アルキルアンモニウムアジド、無機アジド、スルホニルアジド、又はPEGアジド等が挙げられる。
【0088】
また、第2原子団としてTCOを含む原子団を導入する場合には、TCOを含む市販のクリックケミストリー用試薬を用いて、常法に従い、ペプチドのN末端又はC末端に直接TCOを導入するか、又は上述したリンカー構造を介してTCOを含む原子団を導入することができる。
【0089】
抗体修飾ペプチドと抗体とを結合させて、ペプチド修飾抗体を得る方法は、例えば架橋剤を用いて行うことができる。架橋剤とは、抗体修飾ペプチドと、抗体とを共有結合により連結させるための化学物質であり、その例として、ジスクシンイミジルグルタレート(DSG)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)等のスクシンイミジル基を好ましくは2以上含む架橋剤、アジプイミド酸ジメチル等のイミド酸部分を好ましくは2以上含む化合物又はその塩からなる架橋剤、並びに3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル、ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸等のジスルフィド結合を有する化合物又はその塩からなるもの等が挙げられる。このような架橋剤を用いることによって、抗体修飾ペプチドにおけるXaa2のアミノ酸残基と、抗体との間で架橋反応を起こすことができる。抗体における架橋反応は、例えば抗体として本発明のヒト化抗体を用いた場合、Xaa2のアミノ酸残基と、本発明のヒト化抗体におけるEuナンバリングに従うLys252残基との間に部位特異的に生じる。これらのLys残基は、本発明のヒト化抗体におけるFc領域に存在する。
【0090】
抗体修飾ペプチドと抗体との結合方法は、例えば、上述した抗体修飾ペプチドと、抗体と、架橋剤と、必要に応じて触媒とを、適切な緩衝液中に10℃以上30℃以下環境下で分散させて行うことができる。反応時間は10分以上2時間程度とするとができる。ペプチドと抗体との反応時におけるモル比率は、抗体/ペプチドとして、下限は、好ましくは1/5以上、より好ましくは1/3以上、さらに好ましくは1/1.5以上であり、上限は、好ましくは20/1以下、より好ましくは10/1以下、さらに好ましくは5/1以下、よりさらに好ましくは1/1以下、特に好ましくは1/1.7以下であり、例えば1/5以上20/1以下の範囲が好ましく、より好ましくは1/1.5以上1/1.7以下である。
【0091】
以上の工程を経て得られるペプチド修飾抗体は、抗体1分子に対して抗体修飾ペプチド1分子が結合した抗体(以下、「一価抗体」という)と、抗体1分子に対して抗体修飾ペプチド2分子が結合した抗体(以下、「二価抗体」という)とを任意の割合で含有する混合物であるが、これをそのままで以後の工程に供してもよく、ろ過フィルター、メンブランフィルター、種々の充填剤を充填したカラム、各種クロマトグラフィー等の方法で、未修飾抗体と、一価抗体と、二価抗体とを分離精製したあとでいずれかの価数の抗体のみを以後の工程に供してもよい。精製の結果、未修飾抗体と他の価数の抗体との分離ができない場合には、これらを含有する混合物として以降の工程に供してもよい。
未修飾抗体と、一価抗体と、二価抗体とを分離精製する場合は、上記のいずれの精製方法で分離精製してもよいが、種々の充填剤を充填したカラムを用いることが好ましく、抗体等のタンパク質の分離精製に適した充填剤を充填したカラムを用いることがより好ましい。
【0092】
抗体等のタンパク質の分離精製に適した充填剤としては、抗体と特異的に結合する、イムノグロブリン結合性タンパク質が水不溶性の基材からなる担体に固定化されたものであれば特に限定されない。イムノグロブリン結合性タンパク質としては、例えば、プロテインA、プロテインG、プロテインLなどがあげられる。これらのイムノグロブリン結合性タンパク質は、遺伝子操作した組換え型であってもよく、組換え型のイムノグロブリン結合性タンパク質としては、遺伝子改変型プロテインA、遺伝子改変型プロテインG、又は、プロテインAのドメインとプロテインGのドメインとの融合型が挙げられる。本発明において、少なくとも一価抗体と二価抗体との分離精製に適した充填剤としてはプロテインAがより好ましく、遺伝子改変型プロテインAがさらに好ましい。ここで、プロテインAおよびプロテインGとは、抗体分子であるIgGと特異的に結合をすることができるタンパク質分子であり、分離された微生物由来の違いにより、プロテインA(黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus)あるいはプロテインG(レンサ球菌:Streptococcus属)と分類されるものである。遺伝子改変型プロテインAとは、プロテインAのIgG結合ドメイン(E、D、A、B及びCドメイン)のうちいずれかのドメインのアミノ酸残基に対して少なくとも1つのアミノ酸変異を導入したプロテインAであり、本発明においては、少なくとも1つのアミノ酸変異を導入したドメインを多量体化させた遺伝子改変型プロテインAが好ましく、プロテインAの少なくとも1つのアミノ酸変異を導入したA、B又はCドメインの多量体化させたものがより好ましく、2量体以上5量体以下に多量体化させたものがさらにより好ましい。アミノ酸変異は、遺伝子の転写翻訳工程におけるアミノ酸配列又はアミノ酸をコードする塩基配列の置換、欠失、挿入等のいずれの変異に由来するものであってもよい。特に限定されない一例として国際公開2003/080655号パンフレット、国際公開2011/118699号パンフレットに記載される遺伝子改変型プロテインA等が挙げられる。
【0093】
イムノグロブリン結合性タンパク質が固定化される水不溶性の基材としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機-有機、有機-無機などの複合担体などが挙げられる。
【0094】
上述の遺伝子改変型プロテインAを充填剤として充填したカラムとしては、例えば、株式会社カネカのKanCap(登録商標)シリーズ(KANEKA KanCapA prepacked column)、GEヘルスケア社のHiTrap(登録商標)シリーズ(HiTrap Mabselect、HiTrap Mabselect SuRe、HiTrap Mabselect Xtra)、GEヘルスケア社のHiScreenシリーズ(HiScreen Mabselect SuRe)、又は東ソー株式会社のTOYOPEARL(登録商標)シリーズ(TOYOPEARL AF-rProtein A-650F)などとして、市販されている。
【0095】
工程(B)におけるクリック反応に用いるペプチド修飾抗体を分離精製する場合を例に、以下説明する。
ペプチド修飾抗体は、抗体修飾ペプチドを備えるリンカー(抗体修飾リンカー)によって抗体のFc領域を部位特異的に修飾して修飾抗体を得る抗体修飾工程と、上述のイムノグロブリン結合性タンパク質が固定化された担体を用いて修飾抗体を精製する抗体精製工程とを経て、工程(B)におけるクリック反応に供される。また、抗体精製工程は、担体に保持される修飾抗体を担体に保持させる保持工程と、担体に保持されない修飾抗体を洗浄する洗浄工程、保持工程で担体に保持された修飾抗体を溶出する溶出工程とを更に含む。
より具体的には、抗体修飾工程において、抗体修飾リンカーが修飾されない未修飾抗体と、一価抗体と、二価抗体と、を含む混合物として修飾抗体を取得し、抗体精製工程において、未修飾抗体、一価抗体および二価抗体のイムノグロブリン結合性タンパク質に対するそれぞれの相互作用の違いを利用して、未修飾抗体および一価抗体を相対的に多く含む第一の抗体組成物と、二価抗体を相対的に多く含む第二の抗体組成物とをそれぞれ溶出する。すなわち、抗体精製工程のうち、保持工程および洗浄工程では、イムノグロブリン結合性タンパク質との相互作用の程度が低いペプチド修飾抗体(二価抗体)を相対的に多く含む第二の抗体組成物が溶出され、抗体精製工程のうち溶出工程では、イムノグロブリン結合性タンパク質との相互作用の程度が高いペプチド修飾抗体(未修飾抗体及び一価抗体)を相対的に多く含む第一の抗体組成物が溶出される。ここで、「未修飾抗体及び一価抗体を相対的に多く含む」とは、第一の抗体組成物に含まれる未修飾抗体及び一価抗体の合計量が、該抗体組成物に含まれる二価抗体よりも多いことを意味し、好ましくは該抗体組成物に含まれる未修飾抗体及び修飾抗体の全量(100%)に対して、未修飾抗体及び一価抗体の合計量が55%以上、63%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であることを意味し、「二価抗体を相対的に多く含む」とは、第二の抗体組成物に含まれる二価抗体の量が該抗体組成物に含まれる一価抗体より多いことを意味し、好ましくは該抗体組成物に含まれる未修飾抗体及び修飾抗体の全量(100%)に対して、二価抗体の量が55%以上、63%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であることを意味する。
【0096】
保持工程では、抗体修飾工程で得られた未修飾抗体、一価抗体および二価抗体の混合物を含有する溶液をカラムに添加して、担体に保持される未修飾抗体および一価抗体をカラムに保持させ、担体に保持されない二価抗体を通過させる。ここで、保持工程で通過した溶液は第二の抗体組成物の一部を構成する。未修飾抗体および一価抗体をカラムに保持しやすくするため、また、これらの凝集若しくは変性を防ぐために、ペプチド修飾抗体の混合溶液を適切な希釈溶媒で希釈してカラムに添加することが好ましい。希釈溶媒としては、ペプチド修飾抗体が溶解し、溶媒中で凝集又は変性しにくい溶媒であれば特に限定されず、水、生理食塩水、又は酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(Tris)緩衝液、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]-エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液等の緩衝液等を用いることができ、上述したいずれかの緩衝液を用いることが好ましく、酢酸ナトリウム緩衝液を用いることがより好ましい。希釈溶媒に緩衝液を用いる場合は、緩衝剤の濃度は、下限として10mmol/L以上、好ましくは15mmol/L以上、より好ましくは20mmol/L以上、上限として1000mmol/L以下、好ましくは500mmol/L以下、より好ましくは100mmol/L以下である。また、二価抗体や抗体修飾ペプチドのカラム担体への非特異的結合の低減の観点から、溶出溶媒は塩化ナトリウム、塩化カリウム等の添加剤を含有してもよい。溶出溶媒が含有する添加剤の濃度は特に限定されないが、例えば0.15mol/Lを用いることができる。
【0097】
洗浄工程では、洗浄溶媒を用いてカラム内に残存している修飾抗体をカラムから溶出する。上述の保持工程でカラムを通過した溶液と、洗浄工程でカラムから溶出した溶液は、二価抗体を相対的に多く含むので、これらを合わせて第二の抗体組成物として用いることができる。
洗浄溶媒としては、ペプチド修飾抗体が溶解し、溶媒中で凝集又は変性しにくく、適切なpH緩衝能を持つ緩衝液であれば特に限定されず、酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(Tris)緩衝液、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]-エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液等の緩衝液等を用いることができ、上述したいずれかの緩衝液を用いることが好ましく、酢酸ナトリウム緩衝液を用いることがより好ましい。洗浄溶媒に用いる緩衝剤の濃度は、下限として、20mmol/L以上、好ましくは30mmol/L以上、上限としては200mmol/L以下、好ましくは70mmol/L以下である。また、洗浄溶媒のpHは、下限として4.0以上、好ましくは4.5以上、より好ましくは4.8以上、上限として7.4以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.2以下である。さらに、二価抗体や抗体修飾ペプチドのカラム担体への非特異的結合の低減の観点から、溶出溶媒は塩化ナトリウム、塩化カリウム等の添加剤を含有してもよい。溶出溶媒が含有する添加剤の濃度は特に限定されないが、例えば0.15mol/Lを用いることができる。
【0098】
溶出工程では、担体に保持された修飾抗体を溶出溶媒を用いてカラムから溶出する。すなわち未修飾抗体および一価抗体を相対的に多く含む第一の抗体組成物を溶出溶媒を用いてカラムから溶出する。
溶出溶媒としては、酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液等を用いることができる。また、抗体修飾リンカー、未修飾抗体及び修飾抗体カラム担体への非特異的結合の低減の観点から、溶出溶媒は塩化ナトリウム、塩化カリウム等の添加剤を含有してもよい。溶出溶媒が含有する添加剤の濃度は特に限定されないが、例えば0.15mol/Lを用いることができる。
溶出溶媒が緩衝剤を含む場合は、緩衝剤の濃度は、下限として、20mmol/L以上、好ましくは30mmol/L以上、上限としては200mmol/L以下、好ましくは70mmol/L以下である。また、溶出溶媒のpHは、未修飾抗体および一価抗体と、イムノグロブリン結合性タンパク質との相互作用を弱めるため、また、抗体の変性および凝集を防ぐ観点から、下限としてpH3.0以上、上限としてpH4.2以下が好ましい。
【0099】
抗体精製工程で取得した第一の抗体組成物又は第二の抗体組成物は、そのまま以降の工程(B)におけるクリック反応に用いてもよく、含有するペプチド修飾抗体のタンパク質濃度を調節してから工程(B)におけるクリック反応に用いてもよい。
【0100】
工程(B)におけるクリック反応は、キレート剤が有するクリック反応可能な第1原子団と、ペプチド修飾抗体が有するクリック反応可能な第2原子団との間で実行されるものである。かかるクリック反応によりキレート剤と抗体とを連結する結合基(抗体との複合化を可能とする置換基)が形成される。
【0101】
ペプチド修飾抗体と工程(A)で得られた錯体とがクリック反応可能であれば、これらの添加順序は問わず、例えば、溶媒を収容した反応容器に、該錯体及び該ペプチド修飾抗体の一方を添加し、次いで他方を添加して反応させてもよく、該キレート剤及び該抗体の一方を溶媒に分散した分散液に他方を添加して反応させてもよい。あるいは、溶媒を収容した反応容器に、これらを同時に添加して反応させてもよい。
【0102】
工程(B)のクリック反応に用いられる溶媒としては、水を含む溶媒を用いることができ、例えば、水、生理食塩水、又は酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、Tris緩衝液、HEPES緩衝液、若しくはテトラメチルアンモニウム酢酸緩衝液等の緩衝液等を用いることができる。緩衝液を用いる場合、錯体及び抗体の安定性と、これらの結合効率とを両立する観点から、25℃におけるpHを好ましくは4.0以上10.0以下、更に好ましくは5.5以上8.5以下とする。
【0103】
反応液量は、特に限定されないが、製造工程における実用性の観点から、工程(B)の開始時において、下限は、0.001mL以上が好ましく、0.01mL以上がより好ましく、0.1mL以上がさらに好ましく、1mL以上がよりさらに好ましく、上限は、1000mL以下が好ましく、100mL以下がより好ましく、10mL以下がさらに好ましく、1mL以下がよりさらに好ましく、例えば0.001mL以上1000mL以下の範囲が好ましく、0.1mL以上10mL以下の範囲がより好ましい。
【0104】
また、キレート剤及び抗体の反応液中の濃度は、それぞれ独立して、工程(B)の開始時において、下限として、0.001μmol/L以上が好ましく、0.01μmol/L以上がより好ましく、0.1μmol/L以上がさらに好ましく、1.0μmol/L以上がよりさらに好ましく、上限として、1000μmol/L以下が好ましく、100μmol/L以下がより好ましく、例えば、0.1μmol/L以上1000μmol/L以下の範囲が好ましく、1μmol/L以上100μmol/L以下の範囲であることが、目的とする複合体の収量の観点からより好ましい。
【0105】
抗体の意図しない変性を防ぎつつ、反応効率を高める観点から、工程(B)におけるクリック反応は、反応温度の上限は、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。また、反応温度の下限は、反応が進行する温度であれば特に制限はないが、15℃以上が好ましい。クリック反応の反応時間は、上述の反応温度であることを条件として、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上であり、24時間以下が好ましく、より好ましくは20時間以下であり、例えば、5分以上24時間以下の範囲が好ましく、より好ましくは10分以上20時間以下の範囲である。
【0106】
得られた複合体は、これをそのままで用いてもよく、あるいは、ろ過フィルター、メンブランフィルター、種々の充填剤を充填したカラム、クロマトグラフィー等を用いて精製してもよい。
【0107】
工程(A)及び(B)によって製造される複合体は、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体の特定の部位(例えば抗体のFc領域のリジン残基)がキレート剤により特異的に修飾されたものである。この複合体は、該抗体1分子に対し、前記キレート剤を1分子又は2分子備える。キレート剤は、リンカーを介して、本発明の抗体のFc領域を部位特異的に修飾している。該リンカーは、キレート剤に接続するキレートリンカー、該リンカーに接続する第1原子団、第1原子団とクリック反応し得る第2原子団、第2原子団に接続する抗体修飾リンカー(上記式(i)で表される抗体修飾ペプチドを含む)で構成される。従って、該リンカーは、第1原子団と第2原子団とに由来する化学構造を有する。このような化学構造としては、下記式(10a)又は(10b)で表されるトリアゾール骨格含有構造又は下記式(10c)で表されるピリダジン骨格含有構造が考えられる。式(10a)と式(10b)は異性体の関係にあるため任意の割合で含まれていてもよい。
【0108】
【0109】
式(10a)及び式(10b)中、R1Aはキレートリンカーとの結合部位を示し、R2Aは抗体修飾リンカーとの結合部位を示す。式(10c)中、R3A及びR4Aのうち一方は水素原子、メチル基、フェニル基又はピリジル基を示し、他方はキレートリンカーとの結合部位を示し、R5Aは抗体修飾リンカーとの結合部位を示す。
【0110】
(1-5)放射性医薬
上述の(1-4)に示す方法で製造した複合体は、これをそのままで、又はこれを精製したあとで、該複合体を有効成分として含む放射性医薬を調製することもできる。放射性医薬とは、本発明の複合体、即ち放射性核種(α線を放出する金属核種)で標識された抗MUC5ACヒト化抗体又はその誘導体を含み、対象の生体内への投与に適した形態となっている組成物を指す。放射性医薬は、例えば上述の方法で製造された本発明の複合体を、水を主体とし、且つ生体と略等張の溶媒に溶解させて製造することができる。この場合、放射性医薬は水溶液の形態であることが好ましく、必要に応じて、薬学的に許容される他の成分を含んでいてもよい。放射性医薬は、その有効量が、経口的に、又は静脈内、皮下、腹腔内若しくは筋肉内等の非経口的に生体に投与され、疾患の治療、疾患の診断、あるいは病巣の検出等に用いられる。
ここで投与対象としてはヒト、またはマウス、ラット、サル、モルモット、チンパンジ-、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシもしくはウマなどの動物であるが、特に限定されるものではない。好ましくはヒトである。
好ましい対象疾患としてがんが挙げられる。本発明で治療、診断されるがんは、膵がん、甲状腺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、または子宮内膜がんを挙げることができ、特に膵がんへの適用が好ましい。
【0111】
本発明で治療、診断されるがんの例としては、胆管がんも挙げることができる。
【0112】
また、MUC5ACは、CA19-9の抗原キャリアであることが複数報告されている(PLоS ONE(December2011, Volume6, Issue12, e29180, p1-10))。したがって、本発明で治療されるがんとしては、CA19-9を過剰発現する、胆道がん、子宮体がん、肺がん、または食道がんも挙げることができ、効率良く治療することができる。
【0113】
ここでの「有効量」とは、投与対象における治療上有効な効果を得ることができる量である。対象に投与するべき有効量は、対象の種類、対象の体重、投与する剤形(錠剤、注射剤など)および経路(経口投与、非経口投与など)、および疾患(例、がん)の重篤度などにより異なる。医師や獣医師はそれらの因子を考慮して、適切な有効量を決定することができる。
【0114】
放射性核種として治療効果を有するものを選択することにより、本発明の複合体は、放射性核種内用療法(RI内用療法)に用いることができる。RI内用療法は、放射性医薬を静注や経口で投与し、がん原発巣や転移巣のような病巣部位にこの放射性薬剤を集積させ、放射性薬剤から放出される放射線により、病巣部位のがん細胞を破壊するというものである。従って、本発明の複合体はがんのRI内用療法に好ましく用いることができる。この場合、当該医薬の投与量、用量は、有効成分の有効性、投与の形態・経路、疾患(特にがん)の進行ステージ、患者の体型・体重・年齢、併用する他の疾患の治療薬の種類や量に応じ、適宜選択されるが、通常1回あたり250kBq/kg以下で投与され得る。1回あたり80kBq/kg以下の用量でも効果を発揮し得る。
【0115】
また、本発明の他の態様として、前述した複合体において、放射性核種のみ、α線放出核種からポジトロンやγ線を放出する放射性核種(68Ga、64Cu、86Y、89Zr、111In)に置き換えた複合体を有効成分とする放射性医薬を用意し、これを上述したがんのRI内用療法におけるがんの診断に用いてもよい。本発明のがんの診断用放射性医薬は、がんのRI内用療法を行う前の診断に用いてもよいし、がんのRI内用療法を行った後の診断に用いてもよい。がんのRI内用療法を行う前の診断に用いられることによって、α線を放出する金属核種を備えた本発明の複合体を用いたがんのRI内用療法を実行するかどうかの治療選択の判断に用いることができる。また、がんのRI内用療法を行った後の診断に用いられることによって、α線を放出する金属核種を備えた本発明の複合体を用いたがんのRI内用療法の効果があるかどうかの判定や投与量の増減などの治療計画の適正化に用いることができる。
【0116】
(2)複合体2
別の一実施態様として、本発明は、放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体であって、上記放射性核種がポジトロンを放出する金属核種であり、上記抗体がMUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、複合体を提供する。
【0117】
キレート剤における放射性核種がポジトロンを放出する金属核種であること以外は、上記「(1)複合体1」と同様の定義が適用される。
ポジトロンを放出する金属核種は、放射性金属の壊変過程でプラスの電荷を持つ電子(ポジトロン)を放出する核種であればよく、詳細には、68Ga、64Cu、86Y及び89Zr等が好ましく用いられ、より好ましくは89Zr(ジルコニウム-89)である。ポジトロン放出核種で標識された抗体はPET(Positron Emission Tomography)検査に好適に用いることができる。
また、放射性核種としてポジトロン放出核種を用いた複合体2は、放射性核種としてα線放出核種を利用した上記複合体1を用いたRI内用療法のための、がんの診断用放射性医薬としても用いることができる。この場合、当該医薬の投与量は、PET検査における疾患(特にがん)の病巣の描出に必要十分な量であれば特に限定されないが、疾患(特にがん)の進行ステージ、患者の体型・体重・年齢、併用する他の疾患の治療薬の種類や量に応じ、適宜選択されることが好ましい。
【0118】
以上述べた本発明の実施の形態によれば、MUC5ACに対する特異性と腫瘍への集積性に優れた、放射性核種、特にα線放出核種で標識された抗MUC5AC抗体、特にヒト化抗体が提供される。
また、本発明の実施の形態によれば、セラノスティックスを達成するための、がん診断用および/またはがん治療用のRI標識抗MUC5AC抗体が提供される。
【0119】
本発明の上記の実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
[1]放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体であって、前記放射性核種がα線を放出する金属核種であり、前記抗体が、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、複合体。
[2]前記抗体が、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列(H01)、
(2)配列番号2で示されるアミノ酸配列(H02)、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列(H03)、又は
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列(H04)
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列(L01)、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列(L02)、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列(L03)、又は
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列(L04)
からなる軽鎖可変領域と、
を有するヒト化抗体である、上記[1]に記載の複合体。
[3]前記抗体が、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列(H01)からなる重鎖可変領域と、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列(L03)からなる軽鎖可変領域と、
を有するヒト化抗体である、上記[2]に記載の複合体。
[4]α線を放出する前記金属核種が、アクチニウム-225である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の複合体。
[5]前記抗体1分子に対し、前記キレート剤を1分子以上8分子以下備える、上記[1]~[4]のいずれかに記載の複合体。
[6]前記キレート剤が、リンカーを介して、前記抗体のFc領域を部位特異的に修飾している、上記[1]~[5]のいずれかに記載の複合体。
[7]前記リンカーが、下記式(i)で表される、13以上17以下のアミノ酸残基からなる抗体修飾ペプチドを含む、上記[6]に記載の複合体。
(Xa)-Xaa1-(Xb)-Xaa2-(Xc)-Xaa3-(Xd)・・・(i)
(式中、Xa、Xb、Xc及びXdは、それぞれ、連続するa個のX、連続するb個のX、連続するc個のX、及び連続するd個のXを表し、
Xは、側鎖にチオール基及びハロアセチル基のいずれも有しないアミノ酸残基であり、
a、b、c及びdはそれぞれ独立に1以上5以下の整数で、かつa+b+c+d≦14を満たし、
Xaa1及びXaa3は、それぞれ独立に、
側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、かつ、ジスルフィド結合を介して結合しているか若しくはスルフィド基がリンカーを介して結合しており、又は、
一方が、側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、他方が、側鎖にハロアセチル基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、かつ、チオエーテル結合を介して結合しており、
Xaa2は、リシン残基、アルギニン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸である。)
[8]前記抗体修飾ペプチドが、前記式(i)中、Xaa2がリシン残基である、上記[7]に記載の複合体。
[9]前記抗体修飾ペプチドが、配列番号10(ただし、Xaa2はリシン残基である)で表されるアミノ酸配列からなる抗体修飾ペプチドを含む、上記[7]又は[8]に記載の複合体。
[10]前記キレート剤が、下記式(A)で表される化合物又はその塩に由来する構造を有する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の複合体。
【0120】
【0121】
(式(A)中、R11、R13及びR14は、それぞれ独立して、-(CH2)pCOOH、-(CH2)pC5H5N、-(CH2)pPO3H2、-(CH2)pCONH2若しくは、-(CHCOOH)(CH2)pCOOHからなる基であり、R12又はR15の一方が、水素原子、カルボキシル基、又は、炭素数2若しくは3のカルボキシアルキル基であり、他方が、前記抗体と複合化するための置換基であり、pが0以上3以下の整数であり、R12が前記抗体と複合化するための置換基であるときR15は水素原子であり、R12が前記抗体と複合化するための置換基でないときR15は前記抗体と複合化するための置換基である。)
[11]前記キレート剤が、リンカーを介して、前記抗体のFc領域を部位特異的に修飾しており、前記リンカーが、クリック反応で形成された結合基を有する、上記[6]~[10]のいずれかに記載の複合体。
[12]前記リンカーが、前記キレート剤と前記クリック反応で形成された結合基とを接続するキレートリンカーと、前記抗体と前記クリック反応で形成された結合基とを接続する抗体修飾リンカーとを有し、前記クリック反応で形成された前記結合基が、下記式(10a)で表されるトリアゾール骨格含有構造、又は、ピリダジン骨格含有構造を備える、上記[11]に記載の複合体。
【0122】
【0123】
(式中、R1Aは前記キレートリンカーとの結合部位を示し、R2Aは前記抗体修飾リンカーとの結合部位を示す。)
[13]上記[1]~[12]のいずれかに記載の複合体を有効成分として含有する、放射性医薬。
[14]がんのRI内用療法に用いられる、上記[13]に記載の放射性医薬。
[15]前記RI内用療法において、対象に対し1回あたり250kBq/kg以下の投与量で投与されるための、上記[14]に記載の放射性医薬。
[16]前記投与量が、1回あたり80kBq/kg以下である、上記[15]に記載の放射性医薬。
[17]放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体を含有する放射性医薬であって、前記抗体が、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、
上記[14]~[16]のいずれかに記載の放射性医薬を用いたRI内用療法におけるがんの診断用放射性医薬。
[18]放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体であって、
前記放射性核種がポジトロンを放出する金属核種であり、
前記抗体が、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体である、複合体。
[19]前記抗体が、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列(H01)、
(2)配列番号2で示されるアミノ酸配列(H02)、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列(H03)、又は
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列(H04)
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列(L01)、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列(L02)、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列(L03)、又は
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列(L04)
からなる軽鎖可変領域と、
を有するヒト化抗体である、上記[18]に記載の複合体。
[20]前記抗体が、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列(H01)からなる重鎖可変領域と、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列(L03)からなる軽鎖可変領域と、
を有するヒト化抗体である、上記[19]に記載の複合体。
[21]ポジトロンを放出する前記金属核種が、ジルコニウム-89である、上記[18]~[20]のいずれかに記載の複合体。
[22]前記抗体1分子に対し、前記キレート剤を1~8分子備える、上記[18]~[21]のいずれかに記載の複合体。
[23]前記キレート剤が、リンカーを介して、前記抗体のFc領域を部位特異的に修飾している、上記[18]~[21]のいずれかに記載の複合体。
[24]前記リンカーが、下記式(i)で表される、13~17アミノ酸残基からなる抗体修飾ペプチドを含む、上記[23]に記載の複合体。
(Xa)-Xaa1-(Xb)-Xaa2-(Xc)-Xaa3-(Xd)・・・(i)
(式中、Xa、Xb、Xc及びXdは、それぞれ、連続するa個のX、連続するb個のX、連続するc個のX、及び連続するd個のXを表し、
Xは、側鎖にチオール基及びハロアセチル基のいずれも有しないアミノ酸残基であり、
a、b、c及びdはそれぞれ独立に1以上5以下の整数で、かつa+b+c+d≦14を満たし、
Xaa1及びXaa3は、それぞれ独立に、
側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、かつ、ジスルフィド結合を介して結合しているか若しくはスルフィド基がリンカーを介して結合しており、又は、
一方が、側鎖にチオール基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、他方が、側鎖にハロアセチル基を有するアミノ酸に由来するアミノ酸残基を表し、かつ、チオエーテル結合を介して結合しており、
Xaa2は、リシン残基、アルギニン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸である。)
[25]前記抗体修飾ペプチドが、前記式(i)中、Xaa2がリシン残基である、上記[24]に記載の複合体。
[26]前記抗体修飾ペプチドが、配列番号10(ただし、Xaa2はリシン残基である)で表されるアミノ酸配列からなる抗体修飾ペプチドを含む、上記[24]又は[25]に記載の複合体。
[27]前記キレート剤が、下記式(A)で表される化合物に由来する構造を有する、上記[18]~[26]いずれかに記載の複合体。
【0124】
【0125】
(式(A)中、R11、R13及びR14は、それぞれ独立して、-(CH2)pCOOH、-(CH2)pC5H5N、-(CH2)pPO3H2、-(CH2)pCONH2若しくは、-(CHCOOH)(CH2)pCOOHからなる基であり、R12又はR15の一方が、水素原子、カルボキシル基、又は、炭素数2若しくは3のカルボキシアルキル基であり、他方が、前記抗体と複合化するための置換基であり、pが0以上3以下の整数であり、R12が前記抗体と複合化するための置換基であるときR15は水素原子であり、R12が前記抗体と複合化するための置換基でないときR15は前記抗体と複合化するための置換基である。)
[28]上記[18]~[27]のいずれかに記載の複合体を有効成分として含有する、
放射性医薬。
[29]放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗MUC5AC抗体とを複合化して、前記キレート剤と前記抗MUC5AC抗体との複合体を生成する複合化工程を含む、上記[1]~[12]及び[18]~[27]のいずれに記載の複合体の製造方法。
[30]前記キレート剤は、キレートリンカーに接続しており、前記抗MUC5AC抗体は、抗体修飾ペプチドを備える抗体修飾リンカーによりFc領域が特異的に修飾されており、前記複合化工程においてクリック反応を実行することにより、前記キレートリンカーと前記抗体修飾リンカーとを接続する、上記[29]に記載の複合体の製造方法。
[31]抗体修飾ペプチドを備える抗体修飾リンカーにより抗体のFc領域が特異的に修飾された修飾抗体であって、前記抗体が、抗MUC5AC抗体であり、前記抗体修飾リンカーが、放射性核種がキレートしたキレート剤が備えるキレートリンカーに対してクリック反応により接続するための原子団を有する、修飾抗体。
[32]抗体修飾ペプチドを備える抗体修飾リンカーにより抗体のFc領域が特異的に修飾された修飾抗体の製造方法であって、
前記抗体のFc領域を、抗体修飾ペプチドを備えるリンカーで部位特異的に修飾して修飾抗体を得る抗体修飾工程と、
イムノグロブリン結合性タンパク質が固定化された担体を用いて前記抗体を精製する抗体精製工程と、
を含み、
前記抗体が、抗MUC5AC抗体である、修飾抗体の製造方法。
[33]前記イムノグロブリン結合性タンパク質が、プロテインA又は遺伝子改変型プロテインAである、上記[32]に記載の修飾抗体の製造方法。
[34]前記担体が充填されたカラムを用いて前記抗体精製工程を実行する、上記[32]又は[33]に記載の修飾抗体の製造方法。
[35]前記抗体精製工程は、前記修飾抗体を前記担体に保持させる保持工程と、
前記担体に保持された前記修飾抗体を溶出する溶出工程と、を含む、上記[32]~[34]のいずれかに記載の修飾抗体の製造方法。
[36]前記抗体修飾工程において、前記抗体修飾リンカーが修飾されていない未修飾抗体と、前記抗体1分子に対して前記抗体修飾リンカー1分子が修飾された一価抗体と、前記抗体1分子に対して前記抗体修飾リンカー2分子が修飾された二価抗体とを含む混合物として前記修飾抗体を取得し、
前記抗体精製工程において、前記未修飾抗体、前記一価抗体および前記二価抗体の前記イムノグロブリン結合性タンパク質に対するそれぞれの相互作用の違いを利用して、未修飾抗体及び一価抗体を相対的に多く含む第一の抗体組成物と二価抗体を相対的に多く含む第二の抗体組成物とをそれぞれ取得する工程を含む、上記[35]に記載の修飾抗体の製造方法。
[37]上記[32]~[36]のいずれかに記載の修飾抗体の製造方法を実行して修飾抗体を得る修飾抗体製造工程と、前記修飾抗体と放射性核種がキレートしたキレート剤とを複合化して、前記キレート剤と前記修飾抗体との複合体を生成する複合化工程を含む、複合体の製造方法。
[38]前記修飾抗体製造工程において、前記抗体1分子に対して前記抗体修飾リンカー2分子が修飾された二価抗体よりも、前記抗体修飾リンカーが修飾されていない未修飾抗体及び前記抗体1分子に対して前記抗体修飾リンカー1分子が修飾された一価抗体の合計の割合が多い第一の抗体組成物を取得し、
前記複合化工程において、前記キレート剤と、前記一価抗体との複合体を形成する、上記[37]に記載の複合体の製造方法。
[39]前記修飾抗体製造工程において、前記抗体修飾リンカーが修飾されていない未修飾抗体及び前記抗体1分子に対して前記抗体修飾リンカー1分子が修飾された一価抗体の合計よりも前記抗体1分子に対して前記抗体修飾リンカー2分子が修飾された二価抗体の割合が多い第二の抗体組成物を取得し、
前記複合化工程において、前記キレート剤と、前記二価抗体との複合体を形成する、上記[37]に記載の複合体の製造方法。
[40]前記キレート剤は、キレートリンカーに接続しており、前記複合化工程においてクリック反応を実行することにより、前記キレートリンカーと前記抗体修飾リンカーとを接続する、上記[37]~[39]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[41]放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗体との複合体を製造するためのキットであって、(1)放射性核種をキレートできるキレート剤および(2)抗MUC5AC抗体を含み、前記複合体が上記[1]~[12]及び[18]~[27]のいずれかに記載の複合体である、キット。
[42]さらに(1)クリック反応可能な第1原子団および(2)クリック反応可能な第2原子団を含む、[41]に記載のキット。
[43]さらにキレート剤にキレートできる放射性核種を含む、[41]に記載のキット。
【0126】
上記[14]の放射性医薬によれば、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体と、α線を放出する金属核種とを備えた複合体を有効成分として含有するので、がんのRI内用療法に用いることで、MUC5ACを発現する腫瘍に対して特異的に集積し、正常細胞には影響を与えず腫瘍細胞特異的にα線を照射することができ、より高い安全性と治療効果が得られる。
上記[28]の放射性医薬によれば、MUC5ACに特異的に結合するヒト化抗体と、ポジトロンを放出する金属核種とを備えた複合体を有効成分として含有するので、PET検査に適しており、また、上記[14]のRI内用療法に用いられる放射性医薬と同様の集積性を示すことで、MUC5ACを発現するがんのRI内用療法のための診断用放射性医薬として、効率的に用いることができる。
上記[29]の複合体の製造方法によれば、放射性核種がキレートしたキレート剤と、抗MUC5AC抗体とを複合化させる複合化工程を含むので、抗体にとってより過酷な条件であるキレート工程に抗MUC5AC抗体を付することなく、抗体の変性を防ぎ、効率的に該複合体を得ることができる。
上記[30]の複合体の製造方法によれば、複合化工程においてクリック反応を含むので、緩衝溶液中、常温という極めて温和な条件下において複合化することができ、抗MUC5AC抗体を変性させることなく効率的に該複合体が得ることができる。
上記[31]の修飾抗体によれば、抗体修飾リンカーにより抗MUC5AC抗体のFc領域が特異的に修飾されているので、抗MUC5AC抗体の抗原結合能を損なうことなく、該修飾抗体を放射性核種がキレートしたキレート剤が備えるキレートリンカーに対してクリック反応に用いることができる。
上記[32]の修飾抗体の製造方法によれば、抗MUC5AC抗体のFc領域を、抗体修飾ペプチドを備えるリンカーで部位特異的に修飾して修飾抗体を得る抗体修飾工程と、イムノグロブリン結合性タンパク質が固定化された担体を用いて前記抗体を精製する抗体精製工程とを備えるので、より該修飾抗体の純度を高めることができる。
上記[38]又は[39]の複合体の製造方法によれば、一価抗体又は二価抗体のいずれか一方の割合が他方の割合より多い抗体組成物を用いて複合化工程を行うので、目的に応じて抗MUC5AC抗体に結合するキレート剤の数を調節することができ、所望の価数の複合体をより純度高く得ることができる。
上記[41]のキットによれば、放射性核種をキレートできるキレート剤と抗体との複合体に、必要なタイミングで放射性核種と反応させて、[1]~[12]及び[18]~[27]のいずれかに記載の複合体を用時調製することができ、放射性核種の半減期及び抗体活性の両方を損なうことなく効率的な治療または診断が可能となる。
上記[42]のキットによれば、放射性核種をキレートできるキレート剤とクリック反応原子団を含む複合体と、抗体とクリック反応原子団を含む複合体を別々に備えるので、必要なタイミングで放射性核種をキレート剤にキレートし、これらをクリック反応させて、[1]~[12]及び[18]~[27]のいずれかに記載の複合体を用時調製することができ、放射性核種の半減期及び抗体活性の両方を損なうことなく効率的な治療または診断が可能となる。
【0127】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0128】
製造例1:抗MUC5ACヒト化抗体の作製
シグナル配列を付加した各種可変領域のアミノ酸配列、および各種定常領域のアミノ酸配列を、CHO細胞における発現に適したコドンユーセージになるように考慮しながら塩基配列に変換した。シグナル配列の開始コドン部位にコザック配列を付加し、定常領域のC末端側には停止コドンを付加した。さらにコザック配列の上流と停止コドンの下流に制限酵素サイトを付加し、哺乳類細胞発現用プラスミド(pcDNA3.4)の発現用遺伝子導入サイトに導入できるようにした。このように設計した各DNA断片は、化学合成により作製した。目的のH鎖と目的のL鎖となるような可変領域を含むDNA断片と、定常領域を含むDNA断片とを融合PCRを用い連結した。
【0129】
作製した各種抗体遺伝子を制限処理したのち精製した。同様に哺乳類細胞一過性発現用プラスミド(pcDNA3.4)も同じ制限酵素で処理したのち精製した。両断片を適切な混合比で混合しライゲーションを行った。ライゲーション反応液を大腸菌DH5αコンピテントセルと混合しトランスフォーメーションを行った。生じたトランスフォーマントから、コロニーPCR、シングルコロニーアイソレーション、小スケール培養液からのプラスミド抽出、インサート部分の塩基配列決定を行い、設計した抗体遺伝子全長が設計した通りの配列で意図した方向に正しく挿入されているプラスミド(大腸菌クローン)を選抜した。選抜した大腸菌クローンについて大スケール培養を実施し、エンドトキシン除去工程を含むプラスミド抽出・精製を行った。精製したプラスミドは260nmの吸光度を測定し濃度を算出した。
【0130】
ExpiCHO System (サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を使用し、CHO細胞による一過性発現を実施した。作製した各H鎖発現用プラスミドと各L鎖発現用プラスミドより、H鎖1種、L鎖1種を目的の組み合わせになるように選び、リポフェクション法にてトランスフェクションを行い、培養、フィードを行った。トランスフェクションから7日~13日後、培養液を回収した。遠心分離およびフィルター濾過した培養上清をProteinAカラムに添加して通常のアフィニティカラムクロマトグラフィー(吸着後洗浄、酸性緩衝液による溶出、溶出液の中和)によって抗体を精製した。精製した抗体は280nmの吸光度を測定し濃度を算出した。
【0131】
上記で述べた方法を用いて下記の抗MUC5ACヒト化抗体を作製した。以下に重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせに対して付した抗体の番号を示す。
抗体1:H01L03
抗体2:H01L04
抗体3:H02L04
抗体4:H04L04
ここでH01、H02及びH04はそれぞれ、配列番号1、配列番号2及び配列番号4に示す重鎖可変領域であり、L03及びL04はそれぞれ、配列番号7及び配列番号8に示す軽鎖可変領域である。以下の実施例で使用された抗体は、重鎖定常領域1(配列番号25)と軽鎖定常領域1(配列番号26)、及び上記の抗体1から抗体4の重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせからなる。
【0132】
製造例2:ペプチドリンカーによる部位特異的抗体修飾
(1)抗体修飾工程
抗体修飾ペプチドを国際公開2017/217347号パンフレットに記載の方法で製造して、下記式(P3)で表される17個のアミノ酸残基を含むペプチドを得た。このペプチドのアミノ酸配列は、配列番号10のXaa2がリシン残基である配列と同一であり、リシン残基の側鎖末端アミノ基がR1で示される構造で修飾されていた。また、2つのシステイン残基で互いにジスルフィド結合を形成しており、ペプチドのN末端はジグリコール酸及び8つのPEGを有するリンカー構造を介して、第2原子団であるアジド基を含む原子団として、エチルアジドが結合しているものであった。
【0133】
【0134】
(式(P3)中、Glyはグリシンを、Proはプロリンを、Aspはアスパラギン酸を、Cysはシステインを、Alaはアラニンを、Tyrはチロシンを、Hisはヒスチジンを、Gluはグルタミン酸を、Leuはロイシンを、Valはバリンを、Trpはトリプトファンを、Pheはフェニルアラニンを示す)
【0135】
このペプチドと、製造例1で作製した抗MUC5ACヒト化抗体(抗体1)とを酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に混合した混合液を、室温で30分間反応させて、ペプチド修飾抗体を含む溶液を得た。このペプチド修飾抗体は、上記のペプチドによって抗体のFc領域が部位特異的に修飾されたものである。
【0136】
(2)ペプチド修飾抗体分離工程
このペプチド修飾抗体を,1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で希釈して,ProteinAカラム(GEヘルスケア社製,HiTrap MabSelect SuRe)に添加し、0.15mol/L塩化ナトリウム含有0.05mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)を流し、ペプチド2分子が修飾されたペプチド修飾抗体(以下、「二価抗体」ともいう。)を回収し、回収した画分に含まれる二価抗体の濃度が15mg/mLになるように濃度を調整した。その後、ProteinAカラムに0.15mol/L塩化ナトリウム含有0.05mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)を流し、ペプチド1分子が修飾されたペプチド修飾抗体(以下、「一価抗体」ともいう。)を回収し、回収した画分に含まれる一価抗体の濃度が15mg/mLになるように濃度を調整した。
【0137】
実施例1:
225
Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体(
225
Ac標識一価抗体)の作製1
(1)キレート剤合成工程
本実施例に用いられるキレート部(Iris Biotech GmbH社製)の構造を、以下の式(L1-3)に示す。このキレート部を溶媒として0.1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解させて、キレート部を1.7mmol/L含む溶液とした。この溶液0.005mLと、放射性金属源として225Acイオン含有溶液(0.2mol/L塩酸水溶液、放射能濃度300MBq/mL、Oak Ridge National Laboratory製より調製、液量:0.005mL)1.5MBq(検定日時放射能量から減衰計算した計算値)とを混合した反応液を、加熱条件下で反応させて、225Ac錯体溶液を得た。キレート部と放射性金属イオンとのモル比率は、キレート部:225Acイオン=約2000:1であり、反応液の加熱温度は70℃、加熱時間は90分間とした。
【0138】
【0139】
得られた225Ac錯体の放射化学的純度を、次の方法で測定した。すなわち、225Ac錯体溶液の一部を薄層クロマトグラフィー(Agilent社製、型番:SGI0001、展開溶媒:アセトニトリル/水混合液(体積比1:1))で展開し、その後、ラジオγ-TLCアナライザー(raytest製、MODEL GITA Star)で測定した。検出された全放射能(カウント)に対する、原点付近に検出されたピークの放射能(カウント)の百分率を225Ac錯体の放射化学的純度(%)とした。その結果、225Ac錯体の放射化学的純度は86%であった。得られた225Ac錯体溶液は、そのまま次の標識工程に用いた。
【0140】
(2)標識工程
製造例2で得られた一価抗体の溶出液、および、上述の(1)の工程で得られた225Ac錯体の溶液をそれぞれ0.02mol/L(20mM)アスコルビン酸含有0.09mol/L酢酸ナトリウム緩衝液に添加し、37℃で120分間クリック反応させて、225Ac標識一価抗体を得た。225Ac錯体量及びペプチド修飾抗体量はそれぞれ44μmol及び46μmolであり、第1原子団(DBCO)と第2原子団(アジド)とのモル比はそれぞれ約1:1であった。
更に、37℃で2時間反応させて得られた225Ac標識一価抗体の溶液を限外ろ過フィルター(Merck社製、型番:UFC505096)を用いて精製し、以降の実験に供した。精製後の225Ac標識一価抗体(検定日時放射能量から減衰計算した放射能量0.303MBq)の放射化学的純度は、93%であり、放射化学的収率は、39%であった。ここで、放射化学的純度は、薄層クロマトグラフィーで分析した場合の薄層板の全放射能カウントに対する225Ac標識一価抗体に相当するピークの放射能カウントの割合(%)であり、放射化学的収率は、γ線スペクトロメーター(Ge半導体検出器:GMX10P4-70(ORTEC社製)、マルチチャンネルアナライザ:M7-000(セイコー・イージーアンドジー社製)、データ処理:Spectrum Navigator:DS-P300(セイコー・イージーアンドジー社製)及びGamma Studio:DS-P600(セイコー・イージーアンドジー社製))で測定した標識工程開始時の放射能カウントから計算した放射能量に対する225Ac標識一価抗体の放射能カウントから計算した放射能量の割合(%)である。
【0141】
実施例2:
225
Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体(
225
Ac標識一価抗体)の作製2
(1)キレート剤合成工程
本実施例に用いられるキレート部の構造を、以下の式(L1-4)に示す。式(L1-4)に示されるDOTA-Bn-DBCOは、Wang H, Wang R, Cai K, He H, Liu Y, Yen J et al. Selective in vivo metabolic cell-labeling-mediated cancer targeting. Nat Chem Biol. Apr; 13(4): 415-424. (2017)に記載の方法に準じて製造した。このキレート部を溶媒として0.1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解させて、キレート部を1.7mmol/L含む溶液とした。この溶液0.0025mLと、放射性金属源として225Acイオン含有溶液(0.2mol/L塩酸水溶液、放射能濃度432MBq/mL、Oak Ridge National Laboratory製、液量:0.0025mL)1.08MBq(検定日時放射能量から減衰計算した計算値)及び0.1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)0.0375mLとを混合した反応液を、加熱条件下で反応させて、225Ac錯体溶液を得た。キレート部と放射性金属イオンとのモル比率は、キレート部:225Acイオン=約2000:1であり、反応液の加熱温度は70℃、加熱時間は90分間とした。
【0142】
【0143】
得られた225Ac錯体の放射化学的純度を、次の方法で測定した。すなわち、225Ac錯体溶液の一部を薄層クロマトグラフィー(Agilent社製、型番:SGI0001、展開溶媒:アセトニトリル/水混合液(体積比1:1))で展開し、その後、ラジオγ-TLCアナライザー(raytest製、MODEL GITA Star)で測定した。検出された全放射能(カウント)に対する、原線付近に検出されたピークの放射能(カウント)の百分率を225Ac錯体の放射化学的純度(%)とした。その結果、225Ac錯体の放射化学的純度は98%であった。得られた225Ac錯体溶液は、そのまま次の標識工程に用いた。
【0144】
(2)標識工程
製造例2で得られた一価抗体の溶出液、および、上述の(1)の工程で得られた225Ac錯体の溶液を37℃で120分間クリック反応させて、225Ac標識一価抗体を得た。225Ac錯体量及びペプチド修飾抗体量はそれぞれ44μmol及び46μmolであり、第1原子団(DBCO)と第2原子団(アジド)とのモル比はそれぞれ約1:1であった。
更に、37℃で120分間反応させて得られた225Ac標識一価抗体の溶液に20mmol/Lアスコルビン酸含有90mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を加え限外ろ過フィルター(Merck社製、型番:UFC505096)を用いて精製し、以降の実験に供した。精製後の225Ac標識一価抗体(検定日時放射能量から減衰計算した放射能量:0.231MBq)の放射化学的純度は、86%であり、放射化学的収率は、21%であった。ここで、放射化学的純度は、薄層クロマトグラフィーで分析した場合の薄層板の全放射能カウントに対する225Ac標識一価抗体に相当するピークの放射能カウントの割合(%)であり、放射化学的収率は、γ線スペクトロメーター(Ge半導体検出器:GMX10P4-70(ORTEC社製)、マルチチャンネルアナライザ:M7-000(セイコー・イージーアンドジー社製)、データ処理:Spectrum Navigator:DS-P300(セイコー・イージーアンドジー社製)及びGamma Studio:DS-P600(セイコー・イージーアンドジー社製))で測定した標識工程開始時の放射能カウントから計算した放射能量に対する225Ac標識抗体の放射能カウントから計算した放射能量の割合(%)である。
【0145】
実施例3:
225
Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体(
225
Ac標識二価抗体)の作製
実施例2において、一価抗体の溶出液に代えて、製造例2で得た二価抗体の溶出液を用いた以外は、同様にして、225Ac標識二価抗体を得た。得られた225Ac標識二価抗体(検定日時放射能量から減衰計算した放射能量:0.168MBq)の放射化学的純度は、99%であり、放射化学的収率は、20%であった。
【0146】
実施例4:In-111(
111
In)標識抗体を用いたヒト化抗体のスクリーニング
実施例4-1:
111
In標識抗体の調製
腫瘍集積能が高く、且つ最大耐用量の高い抗MUC5AC抗体を見出すために、各種抗体を111In標識し、担がんマウスに投与してSPECT-CT撮像を行い、得られた画像より腫瘍及び肝臓の累積放射能量及び吸収線量を算出し、比較を行った。
抗体は、製造例1で作製した抗MUC5ACヒト化抗体4種類と特許文献1で開示された抗MUC5ACキメラ抗体1種類を用い、111In標識した。
特許文献1に開示されているキメラ抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列(それぞれ配列番号23及び24)は以下の通りである。
111In標識は、下記式で示される構造を有する標識前駆体と各種抗体との複合体に対して行った。
【0147】
【0148】
【0149】
上記標識前駆体は、キレート部としてDOTAが、抗体修飾ペプチド(配列番号10のXaa2がリシン残基である配列と同一の配列を有する17個のアミノ酸残基を含むペプチド)のN末端に8つのポリエチレングリコールを介して連結し、かつ、当該構造中のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を介して、各種抗体におけるEUナンバリングで252番目のリシン残基に連結している構造を有しているものであった。
この標識前駆体を450μg、溶媒として100mmol/Lの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸緩衝液(pH5.5)に溶解させた。この溶液と、放射性金属源として111Inイオン含有溶液(塩化インジウム(111In)注射液、日本メジフィジックス株式会社製)を放射能量として10MBqとを混合し、45℃で120分間標識反応を行った。
【0150】
各種111In標識抗体の放射化学的収率、放射化学的純度、動物に投与した放射能量を表1に示す。ここでいう放射化学的収率とは、使用した111Inの放射能量に対する111In標識抗体の放射能量のことを指す。放射能測定はラジオアイソトープ・ドーズ・キャリブレーター(CAPINTEC社製、型番:CRC-15R)を用いた。放射化学的純度は、ろ紙クロマトグラフィーで分析した場合のろ紙の全放射能カウントに対する111In標識抗体に相当するピークの放射能カウントの割合(%)のことを指す。ろ紙クロマトグラフィーは、ろ紙:ADVANTEC社製、型番:No.590、展開溶媒:0.01% EDTA、50mM クエン酸-クエン酸ナトリウム水溶液)で展開し、放射能カウントの検出は、ラジオγ-TLCアナライザー(raytest製、MODEL GITA Star)を用いた。
【0151】
【0152】
実施例4-2:担がんマウスを用いた体内分布
【0153】
(担がんマウスの作製方法)
ヒト膵臓がん細胞株SW1990を0.7×107個を、Balb/cヌードマウス(雄性)の脇腹から背部にかけて皮下投与した。
SW1990を移植14日後の、腫瘍の大きさがおよそ150-300mm3となった時点で、実施例4-1で調製した各種111In標識抗体をマウス尾静脈より投与した。また、腫瘍の体積は以下の計算式より算出した。
腫瘍の体積=(腫瘍の短径2×腫瘍の長径)/2
【0154】
【0155】
(評価方法)
SPECT-CTイメージング(小動物用SPECT-CT装置:FX-3000、Trifoil社製)は下表の条件で実施した。撮像した時間点は投与後1、6、24、48、72、168時間後である。画像再構成はSPECTをOSEM法,CTをFBP法で実施した。各時間点の腫瘍及び肝臓のVOI(volume of interest、3次元ROI)解析を実施した。臓器体積当たりのカウント数を%ID/gに補正し、物理的半減期を111Inから225Acに換算して、物理学的半減期の差を補正し、さらに生物学的半減期を加味したtime activity curveを得た。このtime activity curveの積分値より累積放射能量を算出し、球体モデル(OLINDA/EXM ver2.0)で吸収線量を算出し、これを各抗体で比較検討した。ただし、H01L03については投与後168時間でtime activity curveの減少を認めないため、生物学的半減期は考慮せず、物理的半減期のみを加味した。
【0156】
【0157】
【0158】
(結果)
SPECT-CT撮像を実施した結果を
図1に示す。各時間点の腫瘍及び肝臓のVOI解析を実施した結果を
図2に示す。投与後168時間後のSPECT-CT撮像終了後の体内分布・排泄経路を確認した結果を示すグラフを
図3に示す。
腫瘍への集積は、ヒト化抗体(H01L03)を用いた場合が最も高く、一方でキメラ抗体を用いた場合が最も低かった。肝臓への集積は、キメラ抗体を用いた場合が最も高く、ヒト化抗体を用いた場合はいずれもキメラ抗体と比較して低かった。ヒト化抗体(H01L03)を用いた場合の排泄が最も遅く、血液滞留性が高かった。いずれの抗体を用いた場合でも、正常臓器の中では肝臓及び脾臓への集積が高く、次いで肺及び腎臓への集積が高かった。
【0159】
肝臓のしきい線量を30Gyと設定した場合の最大耐用量は、ヒト化抗体(H01L03)を用いた場合には3.90MBqと高い値であったが、一方でキメラ抗体を用いた場合には0.43MBqと低い値であった。最大耐用量(MBq)は、しきい線量(Gy)/吸収線量(Gy/MBq)で算出した。
【0160】
実施例4-3:in vitro オートラジオグラフィー
実施例4-1で調製した各種
111In標識抗体を用い、in vitro オートラジオグラフィー(ARG)による各種抗体のMUC5ACに対する結合性及び特異性を評価した画像結果を
図4に示す。また、切片全体に関心領域(ROI)を設定して算出したROI中の放射能密度(Bq/mm
2)の数値のグラフを
図5に示す。
MUC5AC高発現腫瘍(SW1990移植腫瘍組織)又はMUC5AC低発現腫瘍(MIAPaCa2移植腫瘍組織)を液体窒素中で凍結した凍結ブロックから、クリオスタット(Leica社製)を用いて、厚み10μmの切片を作製し、in vitro ARGに使用した。
使用時まで-80℃で保存した切片を、室温に戻し、30分間以上乾燥させた後、リン酸緩衝生理食塩水に30分間浸漬し、次いで、1体積%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝生理食塩水に30分浸漬することで、切片の親水化を行った。
親水化した凍結切片を、各種
111In標識抗体を5kBq/mL含有1体積%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝生理食塩水にそれぞれ30分間浸漬した。次いで、1体積%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水の順に各溶液に5分間ずつ浸漬して切片の洗浄を行った。洗浄後の切片を風乾し、イメージングプレート(BAS-SR2040、富士フイルム社製)で約15時間露光させ、フルオロイメージアナライザ(Typhoon FLA 7000 IP、GEヘルスケア社製)を用いてオートラジオグラムを得た。得られたオートラジオグラムを、フルオロイメージアナライザ付属の解析ソフトウェア「Image Quant TL」を用いて、切片全体に関心領域(ROI)を設定し、ROI中の放射能密度(Bq/mm
2)を算出した。
111In標識した全てのヒト化抗体においてMUC5ACに対しての結合性及び特異性を保持していることを確認した(
図5、MUC5AC高発現腫瘍のデータ参照)。キメラ抗体と比較して、各種ヒト化抗体は非特異的な結合が少ないことを確認した(
図5、MUC5AC低・未発現腫瘍のデータ参照)。
実施例4-2、4-3の結果より、ヒト化抗体は、キメラ抗体と比較してMUC5ACに対する特異性が高く、また腫瘍への高い集積性と肝臓等の正常臓器への低い集積性を有することから、RI標識抗体に関するより優れたデリバリー技術を提供するものであることが明らかとなった。
【0161】
本実施例の結果を下表にまとめる。表中、SPECTの吸収線量において、腫瘍体積は150mm3を想定して算出した。また、肝臓の吸収線量は、本実施例で使用したマウス肝臓重量の平均値(1.15±0.14g、n=19)を基に算出した。体内分布の数値はn=4の平均±標準偏差で表した(ただし、H02L04は、n=3)。
【0162】
【0163】
実施例5:担がんマウスを用いた
225
Ac標識一価抗体の評価
実施例1に準じて製造した225Ac標識一価抗体(H01L03)を用いた。担がんマウスは、225Ac標識一価抗体の投与放射能量によって3群に分け、2.5kBq投与群、5kBq投与群、10kBq投与群とし、製造例1で製造したヒト化抗体(H01L03)を投与した群(抗体対照群)と比較した。各群6匹とし、投与後4週間、一般状態の観察、体重および腫瘍体積の測定を実施した。評価に用いた担がんマウスは、実施例4-2と同様の手順で作製し、SW1990を移植10日後の、腫瘍の大きさがおよそ200mm3となった時点で、実験に供した。各群の動物情報について下記にまとめる。
【0164】
【0165】
経時的な腫瘍体積の変化を
図6に、投与前の腫瘍体積を1.0とした場合の観察期間最終日の腫瘍体積の相対比を下記表に示す。
225Ac標識一価抗体は用量依存的な腫瘍成長抑制効果を示し、全ての用量で統計学的有意に腫瘍成長を抑制した。
【0166】
【0167】
観察期間最終日に剖検を実施し、腫瘍の採取・重量測定を実施した。腫瘍重量を比較した結果を下記表に示す。225Ac標識一価抗体では用量依存的に腫瘍重量が低く、225Ac標識一価抗体を投与した全ての群において抗体対照群と比較して腫瘍重量が統計学的に有意に低いことを認めた。
【0168】
【0169】
経時的な体重の変化の相対値について
図7に示す。全ての群において投与前と比較して10%以上の体重減少を認めなかった。従って
225Ac標識一価抗体投与による全身状態への影響がない若しくは十分に低い可能性が示された。
【0170】
観察期間最終日に剖検を実施し、肝臓、腎臓及び脾臓の採取・重量測定を実施した。各臓器重量を比較した結果を下記表に示す。225Ac標識一価抗体を2.5kBq投与した群で肝臓の重量が抗体対照群と比較して統計学的有意に低いことを確認したが、用量依存性を認めなかったため偶発的な結果と考えられた。腎臓及び脾臓、他の用量での肝臓では抗体対照群と比較して統計学的有意差を認めなかったことより、肝臓、腎臓及び脾臓への影響がない、若しくは十分に低い可能性が示された。
【0171】
【0172】
観察期間終了時に採取した血液サンプルを用いて腎毒性(Creatinine Assay Kit(Cayman Chemical Company社製)を用いて血漿中クレアチニンを測定)、肝毒性(ALT activity Kit(Bio Vision社製)を用いて血漿中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)を測定)及び血液毒性(自動血球計測装置(型式:thinka CB-1010、アークレイ社製)を用いて白血球数及び血小板数を測定)の評価を副次的に実施した。各測定値に対して、Stat PreClinica(タクミインフォメーションテクノロジー社製)を用いて、測定値の等分散性を確認し、等分散性がある場合はパラメトリック検定のDunnett法による解析を、等分散性がない場合には、ノンパラメトリック検定のSteel法による解析を行った。
【0173】
肝毒性及び腎毒性についての結果を
図8に示す。
225Ac標識一価抗体の全投与群において、抗体対照群に対して有意水準5%で統計学的有意差を認めなかった。血液毒性についての結果を
図9に示す。採血した各時間点での
225Ac標識一価抗体の各用量群において、抗体対照群に対して有意水準5%で統計学的有意差を認めなかった。
【0174】
本実施例により、225Ac標識一価抗体による腫瘍成長抑制効果が確認された。抑制効果は用量依存的であり、全ての用量(2.5、5、10kBq)において有意水準5%で統計学的に有意な抑制効果を示した。また、225Ac標識一価抗体の投与前と比較して10%以上の体重減少は認めなかったことに加え、225Ac標識一価抗体による肝毒性及び腎毒性、血液毒性の可能性が低いことが示唆された。これらの結果より、225Ac標識一価抗体は、非常に高い抗腫瘍効果を有しながら安全性が高く、非常に有用ながん治療薬であることが明らかとなった。
【0175】
実施例6:担がんマウスを用いた
225
Ac標識一価抗体の高用量評価
投与放射能量を25kBq/匹(実施例5の最低用量の10倍)にした以外は実施例5と同様にして、225Ac標識一価抗体を評価した(225Ac標識一価抗体投与群)。また、20mMアスコルビン酸含有0.1M酢酸緩衝液中に製造例1で製造した抗体(H01L03)のみを溶解させた溶液を投与する群(抗体対照群)を設けた。本実施例で用いた抗体は実施例5と同様に作製した。評価に用いた担がんマウスは実施例4-2と同様に作製した。各群5匹とし、投与後4週間、一般状態の観察、体重および腫瘍体積の測定を実施した。各群の動物情報について下記にまとめる。
【0176】
【0177】
経時的な腫瘍体積の変化を確認した結果を
図10に示す。
225Ac標識一価抗体投与群では統計学的に有意に腫瘍成長を抑制し、高用量の
225Ac標識一価抗体の投与による腫瘍成長抑制効果を確認した。
【0178】
観察期間最終日に剖検を実施し、腫瘍の採取・重量測定を実施した。腫瘍重量を比較した結果を下記表に示す。225Ac標識一価抗体投与群では抗体対照群と比較して腫瘍重量が統計学的に有意に低いことを認めた。
【0179】
【0180】
経時的な体重変化を確認した結果を
図11に示す。
225Ac標識一価抗体投与群では、投与早期に体重減少が認められたが、相対比として0.9を下回らなかった。
【0181】
観察期間最終日に剖検を実施し、肝臓、腎臓及び脾臓の採取・重量測定を実施した。臓器重量を比較した結果を下記表に示す。225Ac標識一価抗体投与群では抗体対照群と比較して脾臓の重量のみが統計学的に有意に低いことを認めた。
【0182】
【0183】
肝毒性及び腎毒性についての結果を
図12に示す。抗体対照群に対して統計学的有意差を認めなかったため、本用量では肝障害及び腎障害を誘発しないことが示唆された。血液毒性についての結果を
図13に示す。抗体対照群に対して統計学的有意差を認めなかったため、本用量では血液毒性を誘発しないことが示唆された。
【0184】
これらの結果からも、225Ac標識一価抗体は非常に高い抗腫瘍効果を有しながら安全性が高く、非常に有用ながん治療薬であることが示唆された。
【0185】
マウス投与量からヒト投与量を換算する方法としては、下記計算式を用いる方法がある。
Animal dose in mg/kg x (animal weight in kg/human weight in kg) x 0.33
本式に従った場合、本実施例でマウスに対し25kBq/20gを投与したことは、89.0kBq/kg(ヒト)で投与したことに相当する。
【0186】
実施例7:担がんマウスを用いた
225
Ac標識一価抗体及び
225
Ac標識二価抗体の評価
担がんマウスを用いて225Ac標識一価抗体及び225Ac標識二価抗体のそれぞれの抗体の性能を評価した。実施例2に準じて製造した225Ac標識一価抗体を、実施例4-2と同様に作製した担がんマウスに投与放射能量5kBq/匹又は10kBq/匹で投与した(225Ac標識一価抗体投与群)。また、実施例3に準じて製造した225Ac標識二価抗体を、実施例4-2と同様に作製した担がんマウスに投与放射能量5kBq/匹又は10kBq/匹で投与した(225Ac標識二価抗体投与群)。また、実施例5、6と同様に抗体対照群を設けた。各群6匹とし、投与後4週間、一般状態の観察、体重および腫瘍体積の測定を実施した。各群の動物情報について下記にまとめる。
【0187】
【0188】
経時的な腫瘍体積の変化を確認した結果を
図14に示す。観察期間最終日の腫瘍体積と、投与前の腫瘍体積を1.0とした場合の相対比を下記表に示す。
225Ac標識一価抗体投与群では統計学的に有意に腫瘍成長を抑制し、用量依存的な腫瘍成長抑制効果を確認した。
225Ac標識二価抗体投与群では腫瘍成長を抑制する傾向を示した。
【0189】
【0190】
観察期間最終日にイソフルラン麻酔下での放血による安楽死を実施し、腫瘍の採取・重量測定を実施した。腫瘍重量を比較した結果を下記表に示す。225Ac標識一価抗体投与群では抗体対照群と比較して腫瘍重量が統計学的に有意に低いことを認め、用量依存的な腫瘍成長抑制効果を確認した。225Ac標識二価抗体投与群でも抗体対照群と比較して腫瘍重量が低いことを認めたが、統計学的有意差は認めなかった。
【0191】
【0192】
経時的な体重変化を確認した結果を
図15に示す。相対比の平均値として0.9を下回らなかった。また、各個体の相対比として0.8を下回らなかった。
【0193】
観察期間最終日にイソフルラン麻酔下での放血による安楽死を実施し、剖検を実施した。剖検の結果、異常所見は認めなかった。また、肝臓、腎臓及び脾臓の採取・重量測定を実施した。正常臓器重量を比較した結果を下表に示す。いずれの225Ac標識抗体投与群において抗体対照群と比較して臓器重量の統計学的有意な減少は認めなかった。
【0194】
【0195】
225Ac標識一価抗体及び
225Ac標識二価抗体の肝毒性についての結果を
図16に示す。腎毒性についての結果を
図17に示す。抗体対照群に対して統計学的有意な値の上昇を認めなかったため、本用量では肝障害及び腎障害を誘発しないことが示唆された。血液毒性について投与後1週間と投与後4週間の白血球数の結果を
図18に示す。また、投与後1週間と投与後4週間の血小板数の結果を
図19に示す。白血球数に関して,投与後1週間では抗体対照群に対して1価抗体投与群(5kBq及び10kBq)及び2価抗体投与群(10kBq)で統計学的有意差を認めたが、投与後4週間で回復していた。投与後4週間で抗体対照群に対して統計学的有意差を認めた2価抗体投与群(5kBq)群に関しては、用量依存的な事象ではなかった。血小板数に関しては、1個体を除いて、いずれの時間点においても正常範囲の下限値である500×10
9cells/Lを下回らなかった。これらより、本用量では血液毒性を誘発しないことが示唆された。
【0196】
実施例8:In-111(
111
In)標識一価抗体及び
111
In標識二価抗体を用いた体内動態の比較
実施例8-1:各
111
In標識抗体の調製
一価抗体と二価抗体の体内動態を比較するために、一価抗体と二価抗体を111In標識し、担がんマウスに投与して,投与20、68、188時間後に体内分布実験を実施し、一価抗体と二価抗体の体内動態の比較を行った。
【0197】
(1)キレーターを導入した各抗体の作製
抗体は、製造例1及び製造例2と同様に作製し、ヒト化抗体H01L03のペプチド修飾抗体の一価抗体及び二価抗体を得た。
キレート部(構造式:L1-4)を34nmol含む0.1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)と、一価抗体又は二価抗体をそれぞれ34nmol含む0.1mol/Lアルギニン含有0.1mol/Lヒスチジン緩衝液(pH6.0)とを、37℃で120分間反応させ、キレーター導入抗体を得た。
これを脱塩カラム(型番:PD-10、GEヘルスケア社製)に通液し、キレーター導入抗体が含まれるフラクションを回収した。回収したフラクションはさらに限外ろ過フィルター(Merck社製、型番:UFC505096)を用いて精製した。精製した一価抗体の濃度は7.13mg/mLであり、二価抗体の濃度は5.07mg/mLであった。
【0198】
(2)各抗体の111In標識
放射性金属源として111Inイオン含有溶液(塩化インジウム(111In)注射液、日本メジフィジックス株式会社製)を放射能量として91~92MBqを用い、各キレーター導入抗体を0.05mL加え、よく混和した。pH試験紙(Merck社製)によりpHが4であることを確認した。これを45度で120分間反応させた。
反応液は限外ろ過フィルター(Merck社製、型番:UFC505096)を用いて精製し、加えて20mmol/Lアスコルビン酸含有90mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液で溶媒置換した。
【0199】
各111In標識抗体の放射化学的収率は一価抗体で55%であり、二価抗体で59%であった。放射化学的純度は一価抗体で97%であり、二価抗体で98%であった。動物に投与した放射能量を表17に示す。ここでいう放射化学的収率とは、使用した111Inの放射能量に対する111In標識抗体の放射能量のことを指す。放射能測定はラジオアイソトープ・ドーズ・キャリブレーター(CAPINTEC社製、型番:CRC-15R)を用いた。放射化学的純度は、薄層クロマトグラフィーで分析した場合の薄層板の全放射能カウントに対する111In標識抗体に相当するピークの放射能カウントの割合(%)のことを指す。薄層クロマトグラフィー(薄層板:Agilent社製、型番:SGI0001は、展開溶媒:100mmol/L EDTA溶液(pH5.0)/アセトニトリル混液(体積比1:1)で展開し、放射能カウントの検出は、ラジオγ-TLCアナライザー(raytest社製、MODEL GITA Star)を用いた。
【0200】
【0201】
実施例8-2:担がんマウスを用いた体内分布
ヒト膵臓がん細胞株SW1990を0.5×107個を、Balb/cヌードマウス(雄性)の脇腹から背部にかけて皮下投与した。腫瘍体積がおよそ300mm3前後となった時点で、実施例8-1で調製した111In標識した一価抗体と二価抗体を尾静脈より投与した。
【0202】
(評価方法)
担がんマウスは各111In標識抗体を投与後に代謝ケージ内で飼養し、各時間点(投与20、68、188時間後)までに排泄された糞及び尿を回収した。各時間点において担がんマウスをイソフルラン麻酔下での放血による安楽死を実施した。腫瘍、血液、正常臓器(残全身を含む)を採取し、重量を測定した。重量測定した臓器に加え、排泄糞及び排泄尿の放射能量を測定した(γ線ウェルシンチレーション測定装置:JDC-1712、日立アロカメディカル社製)。各臓器(排泄糞及び排泄尿を含む)の放射能量(カウント)より投与量に対する放射能集積率(%ID)を算出し、臓器重量当たりの放射能集積率として放射能集積量(%ID/g)を算出した。
【0203】
(結果)
各臓器の放射能集積量の経時変化を示した結果を
図20に示す。排泄糞及び排泄尿の放射能集積率、これらを合計した放射能集積率の経時変化を示した結果を
図21に示す。
血液の放射能集積量は二価抗体と比較して、一価抗体のほうがいずれの時間点でも高い値を示した。これより、一価抗体のほうが二価抗体と比較して血液滞留性が高いことを確認した。腫瘍の放射能集積量は二価抗体と比較して、一価抗体のほうがいずれの時間点でも高い値を示した。正常臓器への放射能集積の傾向として、一価抗体では脾臓、肝臓、肺、腎臓の順に高いことを確認した。二価抗体では肝臓及び脾臓の順に顕著に高い値を示し、精巣、心臓、腎臓、大腿骨の順に高いことを確認した。各正常臓器の放射能集積は経時的に減少することを確認した。排泄量は一価抗体と比較して、二価抗体のほうがいずれの時間点でも高い値を示し、排泄速度は二価抗体のほうが速いことを確認した。一価抗体では、糞及び尿排泄量が同程度であった。一方で二価抗体では尿排泄が糞排泄より高く、主に腎尿路系で排泄されることを確認した。
【0204】
実施例9:
225
Ac標識DOTAGA-DBCOを用いた
225
Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体の製造
(1.キレート剤合成工程)
本実施例に用いられるキレート部(DOTAGA-DBCO)の構造を、以下の式(L1-5)に示す。式(L1-5)に示されるDOTAGA-DBCOは、Bernhard et al. DOTAGA-Anhydride: A Valuable Building Block for the Preparation of DOTA-Like Chelating Agents Chem. Eur. J. 2012, 18, 7834-7841に記載の方法に準じて製造した。このキレート部を、溶媒として0.1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に分散させて、キレート部を1.7mmol/L含む分散液とした。この分散液0.004mLと、放射性金属源として225Acイオン含有溶液(0.2mol/L塩酸水溶液、放射能濃度1225MBq/mL、Oak Ridge NationalLaboratory製より調製、液量0.004mL)4.9MBq(検定日時放射能から減衰計算した計算値)と0.1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)0.06mLを混合した反応液を、加熱条件下で反応させて、225Ac錯体溶液を得た。キレート部と放射性金属イオンとのモル比率は、キレート部:225Acイオン=約670:1であり、反応液の加熱温度は70℃、加熱時間は30分間とした。
【0205】
【0206】
得られた225Ac錯体の放射化学的純度を、実施例1と同様に測定した結果、225Ac錯体の放射化学的純度は85%であった。得られた225Ac錯体溶液は、そのまま標識工程に用いた。
【0207】
(2.標識工程)
上述の(1.キレート剤合成工程)を経て得られた225Ac錯体の溶液と、室温で60分反応させた以外は製造例2と同様にして製造したペプチド修飾抗体(一価抗体;H01L03)を含む溶液とを未精製のままそれぞれ混合し、37℃で2時間クリック反応させて、225Ac錯体標識抗体を得た。キレート部又は225Ac標識錯体を含むキレート部及びペプチド修飾抗体(一価抗体)の量はそれぞれ68nmol及び80nmolであり、第1原子団(DBCO)と第2原子団(アジド)とのモル比はそれぞれ約1:1.2であった。
更に、37℃で2時間反応させて得られた225Ac錯体標識抗体の溶液を限外ろ過フィルター(Merck社製、型番:UFC505096)を用いて精製した。精製後の225Ac標識一価抗体の放射化学的純度は96%であり、放射化学的収率は、68%であった。225Ac標識一価抗体の放射化学的純度及び放射化学的収率の測定方法は、実施例1と同様に行った。
【0208】
実施例10:
89
Zr標識DOTAGA-DBCOを用いた
89
Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体の製造(HPLC精製)
(1-1.キレート剤合成工程)
本実施例では上記式(L1-5)で示すキレート部と同一のキレート部を用いた。このキレート部を、DMSO溶液に分散させて、キレート部を2.0mmol/L含む分散液とした。この分散液0.150mLと、放射性金属源として89Zrイオン含有溶液(0.1mol/L塩酸水溶液、放射能濃度1335MBq/mL、日本メジフィジックス株式会社製より調製、液量0.100mL)134MBqと300mmol/Lゲンチジン酸含有780mmol/L酢酸緩衝液0.050mLを混合した反応液を、加熱条件下で反応させて、89Zr錯体溶液を得た。キレート部と放射性金属イオンとのモル比率は、キレート部:89Zrイオン=約3333:1であり、反応液の加熱温度は70℃、加熱時間は60分間とした。
【0209】
得られた89Zr錯体の放射化学的純度を、次の方法で測定した。すなわち、89Zr錯体溶液の一部を薄層クロマトグラフィー(Agilent社製、型番:SGI0001、展開溶媒:アセトニトリル/水混合液(体積比1:1))で展開し、その後、ラジオγ-TLCアナライザー(raytest製、MODEL GITA Star PS)で測定した。検出された全放射能(カウント)に対する、原点付近に検出されたピークの放射能(カウント)の百分率を89Zr錯体の放射化学的純度(%)とした。その結果、89Zr錯体の放射化学的純度は98%であった。
【0210】
(1-2.89Zr錯体精製工程)
上述の(1-1.キレート剤合成工程)で得られた89Zr錯体溶液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分取し、未反応のDOTAGA-DBCOを除去した。得られた分取液を約30μLまで溶媒留去し、標識工程に用いた。89Zr錯体標識抗体の未反応物除去工程における放射化学的収率(HPLC回収率)の測定方法は以下のとおりとした。すなわち、本工程開始時に仕込み放射能量に対して、分取液の放射能の百分率を未反応物除去工程におけるHPLC回収率(%)とした。
HPLC条件は以下のとおりで、保持時間27分付近の画分を分取した。
<HPLC条件>
検出器 :紫外吸光光度計(測定波長:220nm、254nm)/シンチレーション検出器
カラム :XBridge C18 3.5μm、4.6 x 100mm、Waters製
流量:毎分0.5mL
面積測定範囲:試料注入後45分間
移動相A:10mmol/Lヒスチジン緩衝液pH6.5
移動相B:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル
移動相C:アセトニトリル/水混液(1:1)
移動相の送液:移動相A,移動相B及び移動相C混合比を次のように変えて濃度勾配制御した。
【0211】
【0212】
(2.標識工程)
上述の各工程を経て得られた89Zr錯体の溶液と、製造例2と同様にして製造したペプチド修飾抗体(一価抗体;H01L03)を含む溶液とを混合し、37℃で1.5時間クリック反応させて、89Zr錯体標識抗体を得た。89Zr標識錯体を含むキレート部及びペプチド修飾抗体(一価抗体)の量はそれぞれ73pmol及び50nmolであり、第1原子団(DBCO)と第2原子団(アジド)とのモル比はそれぞれ約1:685であった。
更に、37℃で1.5時間反応させて得られた89Zr錯体標識抗体の溶液を限外ろ過フィルター(Merck社製、型番:UFC505096)を用いて精製した。精製後の89Zr錯体標識抗体の放射化学的純度は95%であり、放射化学的収率は50%であった。89Zr錯体標識抗体の放射化学的純度及び放射化学的収率の測定方法は以下のとおりとした。すなわち、薄層クロマトグラフィー(Agilent社製、型番:SGI0001、展開溶媒はアセトニトリル:0.1mmol/L EDTA溶液の混液(体積比1:1))をラジオγ-TLCアナライザー(raytest製、MODEL GITA Star PS)で測定し、検出された全放射能(カウント)に対する、原点付近に検出されたピークの放射能(カウント)の百分率を放射化学的純度(%)とした。また、標識工程開始時に加えた全放射能に対して、限外ろ過精製後に回収した放射能の百分率を放射化学的収率(%)とした。
【0213】
実施例11:各
89
Zr及び
225
Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体のヒト及びマウス血漿中の安定性評価
89Zr標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体は実施例10に準じて製造した。89Zr標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製した89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体はキレート部として上述の式(L1-4)に示されるキレート部を用いた以外は、実施例10に準じて製造した。
225Ac標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製した225Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体は実施例2に準じて製造した。225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した225Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体は実施例9に準じて製造した。
なお、いずれも溶媒として0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を使用した。
【0214】
各種89Zr標識抗体及び225Ac標識抗体をヒト及びマウス血漿と混合し、37℃でインキュベートした際の各経過時点での安定性について、セルロースアセテート膜電気泳動により評価した。加えて、89Zr標識抗体及び225Ac標識抗体以外の血漿中の分解物を評価するために、89Zrもしくは225Acの各キレーターからの離脱、及び各リンカー部位の切断を想定しそれぞれの単体を別途各血漿に混合して、セルロースアセテート膜電気泳動を実施した。インキュベートした各時間点より採集した各血漿サンプルを用いて、セルロースアセテート膜電気泳動を実施し、泳動終了後にセルロースアセテート膜をイメージングプレートに露光した。露光したイメージングプレートをスキャナータイプ画像解析装置(GEヘルスケア社製、型番:Typhoon-7000)で読み取り、イメージング解析ソフトウェア(GEヘルスケア社製、ソフトウェア名:ImageQuant)で各種89Zr標識抗体及び225Ac標識抗体の放射化学的純度を定量評価した。評価サンプルの組成を表19に示した。検出された全放射能(カウント)に対する、各標識抗体に相当するピークの放射能(カウント)の百分率を放射化学的純度(%)とした。
【0215】
【0216】
【0217】
RI標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製したRI標識抗MUC5ACヒト化抗体に関して、安定性評価のインキュベート時間直後にサンプリングして薄層クロマトグラフィーで測定した血漿サンプルの放射化学的純度はマウス血漿中で94%、ヒト血漿中で95%であった。最終的には378時間インキュベートした時点の放射化学的純度はいずれも70%以上であった。結果のグラフは
図22A上段に示した。
本評価に供した
225Ac標識抗体の放射化学的純度は77%であり、安定性評価のインキュベート時間直後にサンプリングして薄層クロマトグラフィーで測定した血漿サンプルの放射化学的純度と解離を認めた(マウス:90%、ヒト:80%)。これは何らかの固形成分が原線に固着しており、求めた放射化学的純度は実際の値よりも低かったことが考えられた.最終的には168時間インキュベートした時点の放射化学的純度はいずれも60%以上であった。結果のグラフは
図22B上段に示した。
【0218】
RI標識DOTAGA-DBCOを用いて作製したRI標識抗MUC5ACヒト化抗体に関して、本評価に供した
89Zr標識抗体の放射化学的純度は94%であり、安定性評価のインキュベート時間直後に測定した血漿サンプルの放射化学的純度と概ね同値(マウス:99%、ヒト:99%)であった。最終的には336時間インキュベートした時点の放射化学的純度はいずれも85%以上であった。結果のグラフは
図22A下段に示した。
本評価に供した
225Ac標識抗体の放射化学的純度は100%であり、安定性評価のインキュベート時間直後に測定した血漿サンプルの放射化学的純度と概ね同値(マウス:97%、ヒト:100%)であった。最終的には336時間インキュベートした時点の放射化学的純度はいずれも80%以上であった。結果のグラフは
図22B下段に示した。
【0219】
実施例12:RI標識抗MUC5ACヒト化抗体のMUC5ACに対する結合性及び特異性
225Ac又は
89Zr標識DOTAGA-DBCOを用いて作製したRI標識抗MUC5ACヒト化抗体は実施例9及び実施例10に準じて製造した。また、
89Zr標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製したRI標識抗MUC5ACヒト化抗体は実施例11に準じて製造した。これらのRI標識抗MUC5ACヒト化抗体を用いてin vitro ARGによるMUC5ACに対する各RI標識抗体の結合性及び特異性を評価した。具体的な操作は、被験物質として上記のRI標識抗MUC5ACヒト化抗体を用いた以外は、実施例4-3に準じて行った。
89Zr標識抗体の結果の画像を
図23に、
225Ac標識抗体の結果を
図24にそれぞれ示す。また、
89Zr標識抗体を用いた場合は、MUC5AC陽性腫瘍切片及び陰性腫瘍切片の各切片全体にROIを設定し、算出したROI中の数値を用いて,MUC5AC陽性腫瘍と陰性腫瘍への結合比を算出した。
225Ac標識抗体を用いた場合は、MUC5AC陽性腫瘍切片及び陰性腫瘍切片の腫瘍組織内に小さなROIを複数設定し、その平均値で、MUC5AC陽性腫瘍と陰性腫瘍への結合比を算出した。その結果、
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製したRI標識抗MUC5ACヒト化抗体は6.5倍の結合比を示した。
89Zr標識DOTAGA-DBCOを用いて作製したRI標識抗MUC5ACヒト化抗体は138倍の結合比を示した。
89Zr標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製したRI標識抗MUC5ACヒト化抗体は151倍の結合比を示した。
89Zr又は
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
89Zr又は
225Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体及び
89Zr標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製した
89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体はいずれもMUC5ACに対しての結合性及び特異性を保持していることを確認した。
【0220】
実施例13:
89
Zr標識DOTA-Bn-DBCO及びDOTAGA-DBCOを用いて作製した
89
Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体のPET-CTイメージング
89Zr標識DOTA-Bn-DBCO及びDOTAGA-DBCOを用いて89Zr標識抗体を実施例10に準じて製造し、各々を担がんマウスに投与し、PET-CTイメージングを用いた評価を実施した。
ヒト膵臓がん由来でMUC5AC高発現腫瘍細胞株であるSW1990を0.7×107個を、Balb/cヌードマウス(雄性)の脇腹から背部にかけて皮下投与した。移植後の腫瘍体積がおよそ150-300mm3となった時点で、各種89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体をマウス尾静脈より投与した。なお、腫瘍の体積は以下の計算式より算出した。
腫瘍の体積=(腫瘍の短径2×腫瘍の長径)/2
投与した各種89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体の放射化学的純度及び動物情報を表21に示した。
【0221】
【0222】
PET-CTイメージング(小動物用PET-CT装置:Si78、Bruker社製)は下表の条件で実施した。PET及びCTを撮像した時間点は投与後12、48、84、168、252時間である。画像再構成はPETをMLEM法,CTをFBP法で実施した。各時間点の腫瘍及び心臓(血液)、肝臓のSUV(standardized uptake value)のVOI解析を実施し、time activity curveよりSUVの推移を比較した。
【0223】
【0224】
【0225】
各
89Zr標識抗体投与後48時間のPET-CT撮像を実施した結果を
図25に示す。各時間点の腫瘍及び心臓(血液)、肝臓のVOI解析を実施した結果を
図26に示す。加えて、各時間点の腫瘍肝臓比の結果を
図27に示す。
腫瘍への集積の最大値は、いずれもSUVとして2.8以上であり、投与後84時間の腫瘍肝臓比の最大値は
89Zr標識DOTA-Bn-DBCOを用いて作製した
89Zr標識抗体で3.6であり、
89Zr標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
89Zr標識抗体で3.4であった。各値において統計学的有意差は認めなかった。
各種
89Zr標識抗体の心臓(血液)への集積は、経時的に減少することを確認し、投与後252時間でほぼ血液中から消失していることを確認した。加えて、各種
89Zr標識抗体間の各時間点での心臓(血液)への集積に関して統計学的有意差は認めなかった。同様に、各種
89Zr標識抗体の肝臓及び筋肉への集積も経時的に減少することを確認し、各種
89Zr標識抗体間の各時間点での各組織への集積に関して統計学的有意差は認めなかった。
【0226】
実施例14:
89
Zr標識DOTA-Bn-DBCO及びDOTAGA-DBCOを用いて作製した
89
Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体の体内分布実験
より詳細な体内動態を確認するために、89Zr標識DOTA-Bn-DBCO及びDOTAGA-DBCOを用いて作製した89Zr標識抗体を担がんマウスに投与し、投与20、68、188時間後に体内分布実験を実施した。なお、各種89Zr標識抗体は実施例13と同様に実施例10に準じて、製造した。
【0227】
体内分布実験は実施例4-2と同様の方法で作製した担がんマウスに各種89Zr標識抗体を尾静脈より投与した。なお、投与した各種89Zr標識抗MUC5ACヒト化抗体の放射化学的純度及び動物情報を表24に示した。投与放射能量としていずれの群に対して約5MBqを投与した。
【0228】
【0229】
担がんマウスは各種
89Zr標識抗体を投与後に代謝ケージ内で飼養し、各時間点(投与20、68、188時間後)までに排泄された糞及び尿を回収した。各時間点において担がんマウスをイソフルラン麻酔下での放血による安楽死を実施した。腫瘍、血液、正常臓器(残全身を含む)を採取し、重量を測定した。重量測定した臓器に加え、排泄糞及び排泄尿の放射能量を測定した(γ線ウェルシンチレーション測定装置:JDC-1712、日立アロカメディカル社製)。各臓器(排泄糞及び排泄尿を含む)の放射能量(カウント)より投与量に対する放射能集積率(%ID)を算出し、臓器重量当たりの放射能集積率として放射能集積量(%ID/g)を算出した。腫瘍組織及び各臓器の放射能集積量の経時変化を示した結果を
図28A~Dに示す。排泄糞及び排泄尿の放射能集積量(カウント)より投与量に対する放射能集積率(%ID)を算出し、経時変化を示した結果を
図29に示す。
【0230】
腫瘍の放射能集積量に関して、89Zr標識DOTA-Bn-DBCO及を用いて作製した89Zr標識抗体では投与後188時間が最も高く、89Zr標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した89Zr標識抗体では投与後68時間が最も高かった。その際の放射能集積量は20%ID/g以上を示した。血液の放射能集積の経時変化は各種89Zr標識抗体で同様に減少する傾向を示し,血液クリアランスは同程度と判断できる。排泄に関して、投与後188時間で糞及び尿中の放射能集積率は65%ID以上であった。正常組織への放射能集積に関して、いずれも投与後20時間が最も高く、20時間後以降では放射能集積が減少する傾向を認めた。投与後20時間の放射能集積が高い正常組織は肝臓、肺、脾臓の順であった。
【0231】
実施例15:
225
Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した
225
Ac標識抗MUC5ACヒト化抗体の薬効評価
225Ac標識DOTAGA-DBCOを用いて作製した225Ac標識抗体を担がんマウスに投与し、腫瘍成長抑制効果を確認する検討を実施した。なお、225Ac標識抗体は実施例9に準じて、製造した。担がんマウスは実施例4-2と同様の方法で作製した。
225Ac標識抗体を担がんマウスに投与放射能量5kBq/匹又は10kBq/匹で投与し、225Ac標識抗体の性能を評価した。また、0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)中に抗MUC5ACヒト化抗体のみを溶解させた溶液を投与する群(抗体対照群)を設けた。各群6匹とし、投与後4週間、一般状態の観察、体重および腫瘍体積の測定を実施した。結果を表25に示した。
【0232】
【0233】
経時的な腫瘍体積の変化を確認した結果を
図30の(A)に示す。
225Ac標識抗体投与群のいずれの投与放射能量で抗体対照群と比較して統計学的に有意に腫瘍成長を抑制し、
225Ac標識抗体の投与による腫瘍成長抑制効果を確認した。
【0234】
観察期間最終日に剖検を実施し、腫瘍の採取・重量測定を実施した。腫瘍重量を比較した結果を表26に示す。各種225Ac標識抗体投与群では抗体対照群と比較して腫瘍重量が統計学的に有意に低いことを認めた。
【0235】
【0236】
経時的な体重変化を確認した結果を
図30の(B)に示す。各種
225Ac標識抗体投与群の10kBq投与した群で観察期間早期に体重減少を認めたが、相対比として0.9を下回らなかった。観察期間後期では体重が投与前程度まで回復した。
【0237】
観察期間最終日に剖検を実施し、肝臓、腎臓及び脾臓の採取・重量測定を実施した。いずれの225Ac標識抗体投与群において,組織重量が抗体対照群と比較して統計学的に有意な減少を認めなかった。
【0238】
【0239】
肝毒性及び腎毒性についての結果をそれぞれ
図33及び34に示す。抗体対照群に対して統計学的有意差を認めなかったため、本用量では肝障害及び腎障害を誘発しないことが示唆された。血液毒性についての結果を
図31及び32に示す。抗体対照群に対して統計学的有意差を認めなかったため、本用量では血液毒性を誘発しないことが示唆された。
【0240】
実施例16:
89
Zrランダム標識抗MUC5ACヒト化抗体([
89
Zr]Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体)の作製
製造例2と同様にして製造したペプチド修飾抗体(一価抗体;H01L03)0.1mg(0.7nmol)及び1-(4-isothiocyanatophenyl)-3-[6,17-dihydroxy-7,10,18,21-tetraoxo-27-(N-acetylhydroxylamino)- 6,11,17, 22- tetraazaheptaeicosine] thiourea(p-SCN-Bn-DFO、Macrocyclics社)0.26mg(0.35μmol)を0.1M 炭酸水素ナトリウム緩衝液中で混和し、室温下で120分間反応させた。反応終了後、限外濾過により精製、溶媒を100mmolアルギニン含有50mmolヒスチジン緩衝液(pH6.1)(以下、RH緩衝液)に置換することで、抗MUC5ACヒト化抗体のアミノ基にランダムにDFOが結合した抗MUC5ACヒト化抗体(以下、「Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体」)を作製した。NanoDrop2000(ThermoFisher社)によるタンパク濃度測定の結果、Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体溶液のタンパク濃度は1.12mg/mLであった.得られたRandom-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体溶液89.6μL(0.1mg、0.67μmol)を、89ZrCl3溶液10μL(11.8MBq)とRH緩衝液301.6μLで混合することで錯体形成反応を進行させ、錯体形成後、限外濾過によって精製を行うことで、[89Zr]Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体を得た。実施例10と同様に放射化学的純度を算出した結果、放射化学的純度は97.3%であった。また、反応開始時の放射能を元に放射化学的収率を算出した結果、43.0%であった。
【0241】
実施例17:[
89
Zr]Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体のPET-CTイメージング
実施例16で得られた[89Zr]Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体を1.27MBq/22.5μg protein/100μL/mouseの濃度になるようにRH緩衝液で希釈・調整し、実施例4-2と同様に作製した担がんマウスに投与(n=3)し、投与後19、42、86、158時間点において、PET-CTイメージングを用いた評価を実施した。本評価に供した動物の腫瘍体積を実施例4-2と同様に算出した結果、腫瘍体積の平均値は60.0±20.0mm3であった。PET撮像条件及び画像再構成方法は実施例13に準じた。各時間点の腫瘍及び心臓(血液)、肝臓のSUVのVOI解析を実施し、time activity curveよりSUVの推移を比較した。
【0242】
PET-CT撮像を実施した結果を
図35に示す。各時間点の腫瘍、心臓及び肝臓のVOI解析を実施した結果を
図36に示す。VOI解析の結果から,腫瘍には経時的な集積が認められ、いずれの時間点においても、SUVの平均値は2.7以上でありSUVの最大平均値は158時間点における5.1であった。腫瘍以外の臓器(心臓(血液)、肝臓)におけるSUVは経時的に減少することを確認した。投与後158時間点におけるSUVの腫瘍肝臓比は3.7であった。
【0243】
実施例18:[
89
Zr]Random-DFO-抗MUC5ACヒト化抗体の体内分布実験
実施例17において158時間点におけるPET-CT撮像終了後、イソフルラン麻酔下で放血による安楽死を実施した。腫瘍、血液、正常臓器(残全身を含む)を採取し、重量を測定した。さらに、γ線ウェルシンチレーション測定装置(JDC-1712,日立アロカメディカル社)を用いて,各臓器の放射能量を測定した。各臓器(排泄糞及び排泄尿を含む)の放射能量(カウント)より投与量に対する放射能集積率(%ID)を算出し、臓器重量当たりの放射能集積率として放射能集積量(%ID/g)を算出した。
【0244】
PET-CT撮像終了後の体内分布評価の結果を表28に示す。投与後158時間点における腫瘍の放射能分布率は5.1±2.3%IDであり、単位重量当たりの放射能分布率は49.5±5.2%IDであった。肝臓への高い放射能分布が確認され、肝臓における放射能分布率は5.1%ID、単位重量当たりの放射能分布率は10.4%ID/gであった。腫瘍を除く放射能分布率の高い正常臓器は、順に肝臓、腎臓、肺であった。
【0245】
【0246】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
本発明のRI標識された抗MUC5ACヒト化抗体は特異性と腫瘍への集積性に優れているので、MUC5ACが過剰発現している疾患、特にがんの治療及び/又は診断に極めて有用である。