(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088503
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】医薬有効成分のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220607BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220607BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220607BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220607BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220607BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220607BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220607BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20220607BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220607BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20220607BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220607BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220607BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
A61P3/10
A61P9/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P27/06
A61P35/02
A61P43/00 105
A61K31/167
A61P35/00
A61P1/18
A61K31/198
A61K31/44
A61K31/4709
A61K31/506
A61K31/519
A61K31/675
G01N33/68
G01N33/15 Z
G01N33/48 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】52
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049260
(22)【出願日】2022-03-25
(62)【分割の表示】P 2021575899の分割
【原出願日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2020063994
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020063995
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020063996
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020063997
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520114100
【氏名又は名称】スカイファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀樹
(57)【要約】
【課題】 本発明は有用な医薬化合物を選抜する新規のスクリーニング技術を提供することを課題とする。
【課題の解決手段】 上記課題を解決する本発明は、以下のA工程と、B工程及び/又はC工程と、D工程と、を備える、医薬の有効成分のスクリーニング方法である。
[A工程]動物(ヒトを除く)に特定の候補物質を投与する工程。
[B工程]前記A工程を経た前記動物における未分化細胞を観察する工程。
[C工程]前記A工程を経た前記動物における分化細胞を観察する工程。
[D工程]候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞の量を向上させる候補物質、又は前記分化細胞の量若しくは前記分化細胞により構成される組織の機能を向上させる候補物質を前記有効成分として選択する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のA工程と、B工程及び/又はC工程と、D工程と、を備える、医薬の有効成分のスクリーニング方法であって;
[A工程]動物(ヒトを除く)に候補物質を投与する工程。
[B工程]前記A工程を経た前記動物における未分化細胞を観察する工程。
[C工程]前記A工程を経た前記動物における分化細胞を観察する工程。
[D工程]候補物質を投与しない場合と比較して、
前記未分化細胞の量を向上させることが該B工程で観察された、及び/又は
前記分化細胞の量若しくは前記分化細胞により構成される組織の機能を向上させることが該C工程で観察された、
候補物質を前記有効成分として選択する工程。;
前記候補物質が、
c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御する物質、
c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御するとin silico法で推測される物質、
Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路から選ばれる1種又は2種以上のシグナル経路に作用する物質、
Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路から選ばれる1種又は2種以上のシグナル経路に作用するとin silico法で推測される物質、
以下の一般式(I)、一般式(II)又は一般式(III)に包含される化合物若しくはその塩又はこれらの水和物、
以下の化合物1~7の何れかの誘導体若しくはその塩又はこれらの水和物、
5-HT受容体阻害剤、AChR阻害剤、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、AhR活性化剤、Akt阻害剤、ALK阻害剤、ATPase阻害剤、オートファジー阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤、炭酸脱水酵素阻害剤、Cdc42阻害剤、CDK阻害剤、COX阻害剤、デヒドロゲナーゼ阻害剤、DHFR阻害剤、EGFR阻害剤、ERK阻害剤、エストロジェン/プロジェストジェン受容体阻害剤、γセクレターゼ阻害剤、グルタミン酸受容体リガンド(増強剤)、GSK-3阻害剤、HDAC活性化剤、HDAC阻害剤、Hedgehog/Smoothenedアゴニスト、IGF-IR阻害剤、インターロイキン受容体阻害剤、IRAK阻害剤、JAK/STAT阻害剤、MAO阻害剤、MEK阻害剤、マイトファジー阻害剤、NF-kB阻害剤、NF-kB-AMPK-チロシンキナーゼ経路阻害剤、Notch-1阻害剤、P450阻害剤、PAEF阻害剤、PDE阻害剤、PPAR阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、TGF-beta/Smad阻害剤、TNF受容体阻害剤、Wnt/β-catenin経路活性化剤から選ばれる1種又は2種以上、又は
5-HT受容体阻害剤、AChR阻害剤、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、AhR活性化剤、Akt阻害剤、ALK阻害剤、ATPase阻害剤、オートファジー阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤、炭酸脱水酵素阻害剤、Cdc42阻害剤、CDK阻害剤、COX阻害剤、デヒドロゲナーゼ阻害剤、DHFR阻害剤、EGFR阻害剤、ERK阻害剤、エストロジェン/プロジェストジェン受容体阻害剤、γセクレターゼ阻害剤、グルタミン酸受容体リガンド(増強剤)、GSK-3阻害剤、HDAC活性化剤、HDAC阻害剤、Hedgehog/Smoothenedアゴニスト、IGF-IR阻害剤、インターロイキン受容体阻害剤、IRAK阻害剤、JAK/STAT阻害剤、MAO阻害剤、MEK阻害剤、マイトファジー阻害剤、NF-kB阻害剤、NF-kB-AMPK-チロシンキナーゼ経路阻害剤、Notch-1阻害剤、P450阻害剤、PAEF阻害剤、PDE阻害剤、PPAR阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、TGF-beta/Smad阻害剤、TNF受容体阻害剤、Wnt/β-catenin経路活性化剤から選ばれる1種又は2種以上であるとin silico法により推測される物質、
である;
医薬の有効成分のスクリーニング方法
【化1-1】
(一般式(I)中、
環Aは、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、
3~8員である、
単環式又は縮合二環式の基であり;
Lは、置換基R
3で置換されていてもよい、C1~10の飽和又は不飽和の炭素鎖炭化水素鎖であるか、或いは、Lは存在せず、
前記置換基R
3は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、環状構造を有していてもよい、C1~10である、飽和又は不飽和の炭化水素基であり;
R
1は、
-C≡N、-COOH、-CHO、-COOCH
3、-NO
2、又はハロゲン原子であるか、或いは、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、
3~8員である、
単環式又は縮合二環式の基であり;
R
2は、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、
3~20員である、単環式又は縮合二環式の基である。)
【化2-1】
(一般式(II)中、
R
1は、
水素原子、
ハロゲン原子、又は
飽和若しくは不飽和であり、直鎖状若しくは分岐鎖状であり、環状構造を有していてもよい、ハロゲン原子で置換されていてもよい、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、C1~20の炭化水素基であり;
L
1は以下の何れかの構造であり
【化2-2】
;
L
2は、
飽和若しくは不飽和であり、
C1~3の炭化水素基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい硫酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいリン酸基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されていてもよい、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
C1~30の炭化水素鎖であり;
R
2は、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいカルボキシル基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいヒドロキサム酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルホ基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいボロン酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいカルバモイル基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルファモイル基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルホキシイミン基、シアノ基又はテトラゾリル基である。)
【化3-1】
(一般式(III)中、
環A、環B及び環Cは、それぞれ独立して、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3の炭化水素基、ハロゲン原子、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい硫酸基又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいリン酸基で置換されていてもよい、
3~8員である、
単環式の環であり;
R
1は、以下から選ばれる基であり、
【化3-2】
R
3~R
6は、それぞれ独立して、
水素原子、C1~3の炭化水素基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基であり、
R
7は、水素原子、C1~3の炭化水素基又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基であり、
nは1~4の整数を表し;
L
1、L
2は、それぞれ独立して、
C1~3のアルキレン基若しくはアルケニレン基、-N(H)-又は-O-であり、
これら2価の基のうち、-O-以外の基は、さらに、飽和若しくは不飽和であり、直鎖状若しくは分岐鎖状であり、環状構造を有していてもよい、ハロゲン原子で置換されていてもよい、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個のヘテロ原子を含んでいてもよい、C1~30の炭化水素基で置換されていてもよく;
R
2は、飽和若しくは不飽和であり、直鎖状若しくは分岐鎖状であり、環状構造を有していてもよい、ハロゲン原子で置換されていてもよい、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個のヘテロ原子を含んでいてもよい、C1~30の炭化水素基である。)
【化4】
【請求項2】
再生医薬及び/又は抗がん剤の有効成分のスクリーニング方法である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
緑内障の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である、請求項1~3の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
脊髄損傷の治療のための有効成分のスクリーニング方法である、請求項1~4の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
血液がんの治療のための有効成分のスクリーニング方法である、請求項1~5の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記特定の組織が、神経系、心臓又は膵臓である、請求項1~6の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記神経系が中枢神経系である、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記中枢神経系が脳、脊髄又は視神経である、請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記A工程で動物胚に候補物質を投与する、請求項1~9の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記動物が、ゼブラフィッシュの胚である、請求項1~10の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記A工程において、前記動物に前記候補物質を局所投与する、請求項1~11の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
緑内障の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である、請求項1~12の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記A工程が、候補物質を前記動物の網膜に投与する工程であり、
前記B工程が、網膜神経節細胞の前駆体細胞又はこれに分化する神経幹細胞を観察する工程であり、
前記C工程が、網膜神経節細胞を観察する工程である、
請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記動物が緑内障モデルである請求項13又は14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
脊髄損傷の治療のための有効成分のスクリーニング方法である、請求項1~12の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
前記A工程が、候補物質を前記動物の脊髄に投与する工程であり、
前記B工程が、脊髄における未分化細胞を観察する工程であり、
前記C工程が、脊髄における分化細胞を観察する工程である、
請求項16に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
前記動物が脊髄損傷モデルである請求項16又は17に記載のスクリーニング方法。
【請求項19】
前記候補物質が低分子化合物、タンパク質、ペプチド及び核酸から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1~18の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項20】
前記B工程及び前記C工程を備える、請求項1~19の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項21】
前記動物が脊椎動物である、請求項1~20の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項22】
前記動物が、哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類又は両生類である、請求項21に記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
前記動物が、ゼブラフィッシュ又はマウスである、請求項22に記載のスクリーニング方法。
【請求項24】
前記動物が、前記未分化細胞及び/又は前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であることを特徴とする、請求項1~23の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項25】
前記動物が、前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、
前記B工程において前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する、請求項1~24の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項26】
前記動物が、前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、
前記C工程において前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する、請求項1~25の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項27】
前記レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質、又は蛍光タンパク質と他のタンパク質のフュージョンタンパク質をコードする、請求項24~26の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項28】
前記蛍光タンパク質の蛍光を観察することで、前記レポーター遺伝子の発現を観察する、請求項27に記載のスクリーニング方法。
【請求項29】
前記B工程において未分化細胞マーカーを観察する、請求項1~28の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項30】
前記C工程において分化細胞マーカーを観察する、請求項1~29の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項31】
前記未分化細胞マーカー及び/又は前記分化細胞マーカーの観察手段が、免疫染色又はインサイチューハイブリダイゼーションである、請求項29又は30に記載のスクリーニング方法。
【請求項32】
前記動物が、前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、
前記B工程において前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察し、
前記C工程において分化細胞マーカーを観察する、請求項1~31の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項33】
前記動物が、前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、
前記B工程において未分化細胞マーカーを観察し、
前記C工程において前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する、請求項1~32の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項34】
前記動物が、前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子、及び前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、
前記B工程において前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察し、
前記C工程において前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する、請求項1~33の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項35】
前記A工程が、前記動物の胚における特定の組織に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、
前記C工程が、前記特定の組織の機能を観察することを含む、請求項1~35の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項36】
前記A工程が、前記動物の胚における特定の組織に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、
前記C工程が、前記特定の組織の運動機能又は前記特定の組織が分泌する物質の分泌量を観察することを含む、請求項1~35の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項37】
前記A工程が、前記動物の胚における心臓に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、
前記C工程が、心臓の運動機能を観察することを含む、請求項1~36の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項38】
前記A工程が、前記動物の胚における膵臓に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、
前記C工程が、β細胞によるインスリンの生産量又は分泌量を観察することを含む、請求項1~37の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項39】
前記動物が、前記神経系の疾患、障害、若しくは疾病のモデル動物である、請求項1~38の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項40】
前記in silico法が、SBDD法及び/又はLBDD法である、請求項1~39の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項41】
前記B工程及び前記C工程を備え、
前記D工程において、候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞の量を向上させることが前記B工程で観察され、かつ、前記分化細胞の量若しくは前記分化細胞により構成される組織の機能を向上させることが前記C工程で観察された候補物質を前記有効成分として選択する、請求項1~40の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項42】
請求項1~41の何れか一項に記載のスクリーニング方法による一次スクリーニングを行い、一次スクリーニングで有効成分として選択された候補物質を、以下のE工程、F工程及びG工程を備えるスクリーニング方法による二次スクリーニングに供する、疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法。
[E工程]疾患、障害、若しくは疾病のモデル動物(ヒトを除く)に候補物質を投与する工程。
[F工程]前記E工程を経た前記動物における疾患、障害、若しくは疾病の治療効果を判定する工程。
[G工程]治療効果を有すると前記F工程で判定された前記候補物質を前記有効成分として選択する工程。
【請求項43】
前記E工程において、緑内障モデル動物の網膜に候補物質を投与し、
前記F工程において、緑内障の治療効果を判定する、請求項42に記載のスクリーニング方法。
【請求項44】
前記F工程において、網膜神経節細胞の増加の有無を観察する、請求項43に記載のスクリーニング方法。
【請求項45】
前記F工程において、前記動物の行動観察により視力の回復の有無を判定することで、緑内障の治療効果を判定する、請求項43又は44に記載のスクリーニング方法。
【請求項46】
前記E工程において、脊髄損傷モデル動物における脊髄損傷部位に候補物質を投与し、
前記F工程において、脊髄損傷の治療効果を判定する、請求項42に記載のスクリーニング方法。
【請求項47】
前記F工程において、前記脊髄損傷部位における脊髄の再生効果を判定する、請求項46に記載のスクリーニング方法。
【請求項48】
前記F工程において、前記動物の行動観察により運動能力の回復の有無を判定することで、脊髄損傷の治療効果を判定する、請求項46又は47に記載のスクリーニング方法。
【請求項49】
前記E工程において、がんモデル動物の血管内に候補物質を注射し、
前記F工程において、がんの治療効果を判定する、請求項42に記載のスクリーニング方法。
【請求項50】
前記E工程において、白血病モデル動物に候補物質を投与し、
前記F工程において、血管内皮の肥厚化又は腫瘤化の有無を観察する、請求項49に記載のスクリーニング方法。
【請求項51】
前記E工程において、白血病モデル動物に候補物質を投与し、
前記F工程において、前記動物の生存率を観察する、請求項50又は51に記載のスクリーニング方法。
【請求項52】
前記一次スクリーニングのA工程においては正常動物に候補物質を投与する、請求項42~51の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬有効成分のスクリーニング方法、医薬の製造方法、医薬の設計方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
成体幹細胞(Adult stem cells)は、体のすべての組織に見られるまれな未分化細胞である。通常は静止した非分裂状態に保たれているが、これらの細胞は増殖および分化して、組織内の自然に死にかけている細胞に代替したり、損傷に応じて創傷を修復したりすることができる。成体幹細胞は、その増殖性と組織再生能力により、老化だけでなくさまざまな変性疾患を治療できる可能性を秘めている(非特許文献1)。
【0003】
例えば心臓には、心臓系統の全ての細胞に分化する能力を有する心臓幹細胞/心臓前駆細胞(Cardiac stem cell,CSC)が存在することが知られている(非特許文献2)。
【0004】
また、細胞を未分化状態に保つはたらきをもつ転写因子SOX9の局在を調査した結果、SOX9は、腸では幹細胞であるLgr5陽性細胞を含む陰窩(crypt)に発現し、膵臓では膵管とその終末管細胞である腺房中心(centroacinar)細胞、肝臓では胆管細胞に限局して発現していることが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
成熟した哺乳動物では、一般に神経細胞は分裂能を持っていない。そのため、いったん障害を受けると長期にわたって障害が続く。特に脳や脊髄といった中枢神経系では全く再生能がないというのが古くは定説であった。脊髄損傷など外因性の傷害による不随に対する治療方法がないことも、中枢神経における再生能が無いことが一つの原因であると言われていた。
一方で、末梢神経は再生能を有しており、一旦切断された後も軸索が再生し機能が回復する。しかしこの場合にも再生に要する期間は数ヶ月から1年以上と長期間を要する。このため、患者のQOL向上には多くの負担が強いられる。また、神経の再生に長期間を要するために、その間に神経細胞が死滅し機能回復に至らない場合も多い。
【0006】
近年の研究により成人の脳に成体神経幹細胞(adult neural stem cells)が存在し、これが神経新生を担っていることが判明している。成体神経幹細胞は、構造可塑性の特徴を持つ特異な細胞亜集団である。哺乳類では、神経新生は2つの発芽領域に存在する。生涯を通じてSVZとSGZの2つの発芽領域で神経新生が行われる。現在までに成体海馬の神経新生の進行中に多段階戦略で発現する様々なマーカーが発見されている。
SGZに存在する放射性グリア様神経幹細胞/前駆細胞は、通常、比較的休止状態をとるが、内部および外部刺激によって活性化することができる。これらの細胞は、対称的および非対称的に分裂することによって神経芽細胞のプールを構成している。このプール内の細胞の一部が未熟なニューロンに分化する(非特許文献4)。
【0007】
神経細胞の再生誘導はその医療的重要性から非常に広く深く研究されている。インビトロにおいて、体細胞を多能性細胞へと分化を巻き戻す技術(誘導性多能性幹細胞、iPS細胞)の開発を契機に(特許文献1)、神経幹細胞を増殖させる遺伝子や化合物の探索と同定が世界中で行われてきた(例えば特許文献2、特許文献3)。またこれと並行して、神経幹細胞や未分化な神経前駆体細胞を成熟した神経細胞へと分化誘導する遺伝子や化合物の探索と同定も行われている(特許文献4)。
【0008】
現在、患者より採取した体細胞を初期化することで幹細胞を取得し、これを自己複製により増幅した後、所望の細胞に分化誘導してから再び患者に移植して疾患を治療する方法が、臨床段階にある(例えば非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。
【0009】
また、中枢神経系が再生しにくいことの原因として、中枢神経系には神経の伸長を阻止する物質が存在していることが推測されている。この中枢神経系に存在する神経再生阻害物質を抗体などで抑制すると、中枢で一部の神経再生が起こり、機能の回復も見られることが期待されている。
最近、この中枢神経再生阻害因子としてNogoが発見されている(非特許文献8、非特許文献9)。しかし、Nogoを阻害することによって、再生する神経線維は一部であり、他の再生阻害物質が存在するのではないかと考えられている。
また、インビボで神経の再生阻害に働いている因子の一つとしてセマフォリンも推定されている(非特許文献10、非特許文献11)。
また、本発明者らにより、BRD7、IkarosがCRBNの下流因子であること、これらが中枢神経系の発生を阻害因子であること、及びBRD7とIkarosのアンタゴニストとCRBNの活性化因子が、中枢神経系の再生を促し得ることが報告されている(特許文献5)。
【0010】
その他、骨髄に由来し、すべての血液細胞に分化する能力を有する造血幹細胞;成熟した筋肉に見られ、基底膜と筋鞘の間に存在し、筋繊維に新たな細胞を供給する衛星細胞;新しい毛包を生じさせ、長期間にわたって毛包のすべての細胞系統を維持する毛包幹細胞;思春期と妊娠中に乳腺を成長させる細胞源となる乳腺幹細胞;骨髄間質に由来し、様々な組織に分化することができる間葉系幹細胞;血管内皮に分化し血管の再構築を担う内皮幹細胞;嗅粘膜から採取することができ、多くの異なる細胞に分化する能力を有する嗅粘膜幹細胞;神経細胞、シュワン細胞、筋線維芽細胞、軟骨細胞、およびメラノサイトに分化できる神経冠幹細胞など多種多様な成体幹細胞が成体の体内に存在することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2007/069666号公報
【特許文献2】WO2016/002854号公報
【特許文献3】特開2015-071565号公報
【特許文献4】特開2017-145215号公報
【特許文献5】WO2015/127351号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ann N Y Acad Sci. 2020 Feb; 1462(1):27-36.
【非特許文献2】Oxid Med Cell Longev. 2019; 2019: 5813147.
【非特許文献3】Nature Genetics, 43, 34-41 (2011)
【非特許文献4】Biomed Res Int.2015;2015:727542.
【非特許文献5】New England Journal of Medicine 2017; 376:1038-1046
【非特許文献6】日本白内障学会誌 2015年 27巻 1号 p.32-34
【非特許文献7】再生医療 : 日本再生医療学会雑誌 14(4)=62:2015.11 p.319-329
【非特許文献8】Nature 403,434,2000.
【非特許文献9】Nature 403,439,2000.
【非特許文献10】Cell 75,217, 1993.
【非特許文献11】Cell 75,1389, 1993.
【非特許文献12】Marine Biotechnology 8(3):295-303 2006
【非特許文献13】J Neurochem. 2001 Jan;76(1):173-81.
【非特許文献14】J Cancer Res 2011 Jun; 23(2): 140-146
【非特許文献15】PLOS ONE,October 2014 Volume9 Issue10 e109588
【非特許文献16】Endocrine Reviews. 28 (3): 339-63.
【非特許文献17】Development. 124 (10): 1887-97.
【非特許文献18】Neuron. 40 (6): 1105-18.
【非特許文献19】Semin Cell Dev Biol.2012 Jun;23(4):473-480.
【非特許文献20】炎症・再生VOL.22 NO.3 MAY 2002 195-200
【非特許文献21】Sci Signal. 2009 Jan 27;2(55):ra1.
【非特許文献22】Development 2016 143: 3050-3060
【非特許文献23】Development 2019 146: dev167643
【非特許文献24】Stem Cells Int. 2017; 2017: 1610691.
【非特許文献25】Cell Research volume 18, pages523-527(2008)
【非特許文献26】J Clin Invest. 2018;128(9):3872-3886.
【非特許文献27】Proc Natl Acad Sci USA.2005 Apr26;102(17):6068-73
【非特許文献28】Cancer Cell, 30, 792-805 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまで幹細胞の自己複製と分化誘導はそれぞれ異なる因子により誘起されるものと考えられてきた。このような技術常識が存していたため、幹細胞の自己複製を誘起する因子と、分化誘導を誘起する因子は、インビトロの試験系において別々にスクリーニングされてきた。具体的には、培養幹細胞を候補物質に曝露し、その増殖促進効果を指標として自己複製を誘起する因子をスクリーニングし、一方で、培養幹細胞を候補物質に曝露し、所望の成熟細胞への分化誘導効果を指標として分化誘導を誘起する因子をスクリーニングする。
しかし、このような2段階のインビトロスクリーニング試験系で選択される因子は、あくまでもインビトロで効果が確認されたものである。そのため、その用途としてはES細胞やiPS細胞などを使用した再生医療、すなわちインビトロでの幹細胞増幅プロセスと分化誘導プロセスへの応用を主眼においたものである。
従来技術においては、生体内で未分化細胞の自己複製と分化誘導を単剤にて誘起する物質が存在し、これをスクリーニングしようとする発想はなかった。
【0014】
このような状況に鑑み、本発明は有用な医薬化合物を選抜する新規のスクリーニング技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者の鋭意研究努力の結果、候補物質を投与した生体内における未分化細胞ないし分化細胞を観察することで、「再生医療」を生体内で、かつ、単剤にて実現できる化合物のスクリーニングが可能であることが見出された。そして、この生体を用いた方法でスクリーニングされた有効成分は、成体における組織再生効果を発揮することが実証された。さらに、同有効成分には、がん細胞を強制的に正常な細胞へと分化誘導できる能力があることも実証された。かかる発見により本発明は完成された。
【0016】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下のA工程と、B工程及び/又はC工程と、D工程と、を備える、疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。
[A工程]動物(ヒトを除く)に候補物質を投与する工程。
[B工程]前記A工程を経た前記動物における未分化細胞を観察する工程。
[C工程]前記A工程を経た前記動物における分化細胞を観察する工程。
[D工程]候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞の量を向上させる候補物質、又は前記分化細胞の量若しくは前記分化細胞により構成される組織の機能を向上させる候補物質を前記有効成分として選択する工程。
【0017】
本発明はスクリーニングツールとして動物生体を用いる。そして、候補物質が投与された動物における未分化細胞及び/又は分化細胞を観察する。この技術的特徴を備える本発明によれば、再生医療を生体内で、かつ、単剤で実現する有効成分を効率的にスクリーニングすることができる。また、本発明によればがん細胞を強制的に正常細胞に分化させる効果を有する有効成分をスクリーニングすることができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、再生医薬及び/又は抗がん剤の有効成分のスクリーニング方法である。本発明によれば、再生医薬又は抗がん剤の有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。本発明によれば、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、血液がんの治療のための有効成分のスクリーニング方法である。本発明によれば血液がん治療薬の有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が低分子化合物、タンパク質、ペプチド及び核酸から選ばれる1種又は2種以上である。本発明のスクリーニング方法に供することができる候補物質の種類は限定されない。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記B工程及び前記C工程を備える。候補物質の投与後の未分化細胞と分化細胞の両方を観察することで、より精度よく有効成分をスクリーニングすることができる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記動物が脊椎動物である。
本発明のより好ましい形態では、前記動物が、哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類又は両生類である。
本発明の好ましい形態では、前記動物が、ゼブラフィッシュ又はマウスである。
スクリーニングツールとしてこれらの動物を使用することで、人で薬理作用を発揮する有効成分をより効率よくスクリーニングすることができる。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記A工程で動物胚に候補物質を投与する。候補物質を投与した動物胚での未分化細胞及び/又は分化細胞の量乃至機能を観察することで、成体において有効な有効成分をスクリーニングすることができる。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、ゼブラフィッシュの胚である。ゼブラフィッシュ胚は、透明であることや、扱いやすいなどの理由からスクリーニングツールとして有用である。ゼブラフィッシュ胚を用いたスクリーニング系でスクリーニングされた有効成分は哺乳類においても薬効を示す。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記A工程において、前記動物に前記候補物質を局所投与する。局所投与することで、後続のB工程及び/又はC工程における細胞の観察箇所が定まるため好ましい。
【0027】
本発明の好ましい形態では、前記A工程において、前記動物の胚に前記候補物質を局所投与する。局所投与された部位の胚発生過程における未分化細胞及び/又は分化細胞の状態を観察することで、精度の高いスクリーニングを実現することができる。
【0028】
本発明の好ましい形態では、前記A工程において、前記動物の胚における特定の組織に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与する。特定組織の胚発生過程における未分化細胞及び/又は分化細胞の状態を観察することで、精度の高いスクリーニングを実現することができる。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記B工程において、前記特定の組織の未分化細胞を観察する。特定の組織の未分化細胞を観察することで、候補物質に起因する未分化細胞の自己複製能への影響を評価することができる。
【0030】
本発明の好ましい形態では、前記C工程において、前記特定の組織の分化細胞を観察する。特定の組織の分化細胞を観察することで、候補物質の分化誘導効果を評価することができる。
【0031】
本発明の好ましい形態では、前記A工程は、ゼブラフィッシュの胚における特定の組織に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、前記B工程は、前記特定の組織の未分化細胞を観察することを含み、前記C工程は、前記特定の組織の分化細胞を観察することを含む。
上述の通りゼブラフィッシュ胚は透明であり、扱いやすいため、効率のよいスクリーニングが実現できる。
【0032】
本発明の好ましい形態では、前記特定の組織が、神経系、心臓又は膵臓である。このように外胚葉、内胚葉、中胚葉の何れの胚葉系の組織へ投与してもよい。
【0033】
本発明の好ましい形態では、前記神経系が中枢神経系である。
中枢神経系に直接作用する形態で候補物質を投与する形態とすることで、再生が不可能又は著しく困難な中枢神経系の再生効果を奏する有効成分を効果的にスクリーニングすることができる。
【0034】
本発明の好ましい形態では、前記中枢神経系が脳、脊髄又は視神経である。
脳、脊髄又は視神経に直接作用する形態で候補物質を投与する形態とすることで、再生が不可能又は著しく困難な中枢神経系に属する脳、脊髄又は視神経の再生効果を奏する有効成分を効果的にスクリーニングすることができる。
【0035】
本発明の好ましい形態では、前記特定の組織と同一組織の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。このような形態とすることで、特定の組織の疾患等の治療薬の有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0036】
本発明の好ましい形態では、前記特定の組織と異なる組織の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。本発明のスクリーニング方法で選択された有効成分は、スクリーニング系で候補物質の投与先とされた組織とは別の組織においても薬効を示す。
【0037】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、前記未分化細胞及び/又は前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物である。レポーターを観察することで容易に未分化細胞及び/又は分化細胞を観察できるため好ましい。
【0038】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、前記B工程において前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
かかる形態とすることで未分化細胞を容易に観察することができる。
【0039】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、
前記C工程において前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
かかる形態とすることで、分化細胞を容易に観察することができる。
【0040】
本発明の好ましい形態では、前記レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質、又は蛍光タンパク質と他のタンパク質のフュージョンタンパク質をコードする。
蛍光タンパク質の蛍光を観察することで、レポーター遺伝子の発現を容易に観察することができる。
【0041】
本発明の好ましい形態では、前記蛍光タンパク質の蛍光を観察することで、前記レポーター遺伝子の発現を観察する。
【0042】
本発明の好ましい形態では、前記B工程において未分化細胞マーカーを観察する。
かかる形態とすることで、未分化細胞を容易に観察することができる。
【0043】
本発明の好ましい形態では、前記C工程において分化細胞マーカーを観察する。
かかる形態とすることで、分化細胞を容易に観察することができる。
【0044】
本発明の好ましい形態では、前記未分化細胞マーカー及び/又は前記分化細胞マーカーの観察手段が、免疫染色又はインサイチューハイブリダイゼーションである。
これらの観察手段を採ることで容易にマーカーを観察することができる。
【0045】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、前記B工程において前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察し、前記C工程において分化細胞マーカーを観察する。
未分化細胞と分化細胞を別手段で観察することができる。
【0046】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、前記B工程において未分化細胞マーカーを観察し、前記C工程において前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
未分化細胞と分化細胞を別手段で観察することができる。
【0047】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子、及び分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物であり、前記B工程において前記未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察し、前記C工程において前記分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
【0048】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、5-HT受容体阻害剤、AChR阻害剤、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、AhR活性化剤、Akt阻害剤、ALK阻害剤、ATPase阻害剤、オートファジー阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤、炭酸脱水酵素阻害剤、Cdc42阻害剤、CDK阻害剤、COX阻害剤、デヒドロゲナーゼ阻害剤、DHFR阻害剤、EGFR阻害剤、ERK阻害剤、エストロジェン/プロジェストジェン受容体阻害剤、γセクレターゼ阻害剤、グルタミン酸受容体リガンド(増強剤)、GSK-3 阻害剤、HDAC活性化剤、HDAC阻害剤、Hedgehog/Smoothenedアゴニスト、IGF-IR阻害剤、インターロイキン受容体阻害剤、IRAK阻害剤、JAK/STAT阻害剤、MAO阻害剤、MEK阻害剤、マイトファジー阻害剤、NF-kB阻害剤、NF-kB-AMPK-チロシンキナーゼ経路阻害剤、Notch-1阻害剤、P450阻害剤、PAEF阻害剤、PDE阻害剤、PPAR阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、TGF-beta/Smad阻害剤、TNF受容体阻害剤、Wnt/β-catenin経路活性化剤から選ばれる1種又は2種以上を含む。
このような一次作用を有する物質を候補物質とすることで、効率よく有効成分をスクリーニングすることができる。
【0049】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、5-HT受容体阻害剤、AChR阻害剤、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、AhR活性化剤、Akt阻害剤、ALK阻害剤、ATPase阻害剤、オートファジー阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤、炭酸脱水酵素阻害剤、Cdc42阻害剤、CDK阻害剤、COX阻害剤、デヒドロゲナーゼ阻害剤、DHFR阻害剤、EGFR阻害剤、ERK阻害剤、エストロジェン/プロジェストジェン受容体阻害剤、γセクレターゼ阻害剤、グルタミン酸受容体リガンド(増強剤)、GSK-3 阻害剤、HDAC活性化剤、HDAC阻害剤、Hedgehog/Smoothenedアゴニスト、IGF-IR阻害剤、インターロイキン受容体阻害剤、IRAK阻害剤、JAK/STAT阻害剤、MAO阻害剤、MEK阻害剤、マイトファジー阻害剤、NF-kB阻害剤、NF-kB-AMPK-チロシンキナーゼ経路阻害剤、Notch-1阻害剤、P450阻害剤、PAEF阻害剤、PDE阻害剤、PPAR阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、TGF-beta/Smad阻害剤、TNF受容体阻害剤、Wnt/β-catenin経路活性化剤から選ばれる1種又は2種以上であるとin silico法により推測される物質を含む。
上述した一次作用を発揮する化合物は多数知られており、また、化合物の一次作用点であるタンパク質の三次元構造やファーマコフォアなどの知見も蓄積されている。そのため、コンピュータの演算処理によって、上述した一次作用を発揮するであろうと予測される化合物を容易に探索することができる。このような予測がされた化合物を候補物質として本発明のスクリーニング方法に供することで、より効率的なスクリーニングを実現することができる。
【0050】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御する物質である。
これらのタンパク質は自己複製能と多能性の維持を惹起するものとして知られている。これらの発現を正に制御する物質を候補物質とすることで、効率よく有効成分をスクリーニングすることができる。
【0051】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御するとin silico法で推測される物質である。
上述した4タンパク質の発現を正に制御する化合物は主にin vitroで探索され数多くのものが発見され、その一次作用点を含めて知見が蓄積している。そのため、コンピュータの演算処理によって、上述した発現制御作用ないし一次作用を発揮するであろうと予測される化合物を容易に探索することができる。このような予測がされた化合物を候補物質として本発明のスクリーニング方法に供することで、より効率的なスクリーニングを実現することができる。
【0052】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路から選ばれる1種又は2種以上のシグナル経路に作用する物質である。
これらシグナル経路に作用する物質は、生体内において未分化細胞及び分化細胞の増加作用を発揮する可能性が高い。したがって、これら物質を候補物質とすることでスクリーニング効率を向上させることができる。
【0053】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路から選ばれる1種又は2種以上のシグナル経路に作用するとin silico法で推測される物質である。
これらシグナル経路のアンタゴニスト及びアゴニストは多数知られており、その一次作用点を含めて膨大な知見が蓄積している。そのため、コンピュータの演算処理によって、上述した作用を発揮するであろうと予測される化合物を容易に探索することができる。このような予測がされた化合物を候補物質として本発明のスクリーニング方法に供することで、より効率的なスクリーニングを実現することができる。
【0054】
本発明の好ましい形態では、前記in silico法が、SDBB法及び/又はLBDD法である。SDBB法及びLDBB法を実現するソフトウェアは有料又は無償で提供されており、実施は容易である。
【0055】
本発明の好ましい形態では、前記A工程が、前記動物の胚における特定の組織に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、前記C工程が、前記特定の組織の機能を観察することを含む。
機能の向上効果を観察することで、精度の高いスクリーニングを行うことができる。
【0056】
前記A工程が、前記動物の胚における特定の組織に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、
前記C工程が、前記特定の組織の運動機能又は前記特定の組織が分泌する物質の分泌量を観察することを含む。
【0057】
本発明の好ましい形態では、前記A工程が、前記動物の胚における心臓に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、前記C工程が、心臓の運動機能を観察することを含む。
このような形態の本発明によれば、心臓疾患の治療に有効な有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0058】
本発明の好ましい形態では、前記A工程が、前記動物の胚における膵臓に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与することを含み、前記C工程が、β細胞によるインスリンの生産量又は分泌量を観察することを含む。
このような形態の本発明によれば、糖尿病のような膵臓疾患の治療に有効な有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0059】
本発明の好ましい形態では、前記動物が、前記神経系の疾患、障害、若しくは疾病のモデル動物である。
疾患等のモデル動物を用いることで、当該疾患に効果を奏する有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0060】
本発明の好ましい形態では、緑内障の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。
【0061】
本発明の好ましい形態では、前記A工程が、候補物質を前記動物の網膜に投与する工程であり、前記B工程が、網膜神経節細胞の前駆体細胞又はこれに分化する神経幹細胞を観察する工程であり、前記C工程が、網膜神経節細胞を観察する工程である。
このような形態とすることにより、緑内障の治療又は予防効果のある有効成分を精度よくスクリーニングすることができる。
【0062】
本発明の好ましい形態では、前記動物が緑内障モデルである。
緑内障モデルをスクリーニングツールとして使用することで、緑内障の治療又は予防効果のある有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0063】
本発明の好ましい形態では、脊髄損傷の治療のための有効成分のスクリーニング方法である。
【0064】
本発明の好ましい形態では、前記A工程が、候補物質を前記動物の脊髄に投与する工程であり、前記B工程が、脊髄における未分化細胞を観察する工程であり、前記C工程が、脊髄における分化細胞を観察する工程である。
このような形態とすることにより、精髄損傷の治療効果のある有効成分を精度よくスクリーニングすることができる。
【0065】
本発明の好ましい形態では、前記動物が脊髄損傷モデルである。
脊髄損傷モデルをスクリーニングツールとして使用することで、効率的に脊髄損傷の治療効果のある有効成分をスクリーニングすることができる。
【0066】
また、本発明は、以下のE工程、F工程及びG工程を備える、疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法にも関する。
[E工程]疾患、障害、若しくは疾病のモデル動物(ヒトを除く)に候補物質を投与する工程。
[F工程]前記E工程を経た前記動物における前記神経系の疾患、障害、若しくは疾病の治療効果を判定する工程。
[G工程]治療効果を有する候補物質を前記有効成分として選択する工程。
疾患等のモデル動物における治療効果を直接観察することで、当該疾患等に治療効果のある有効成分を精度よくスクリーニングすることができる。
【0067】
本発明の好ましい形態では、再生医薬及び/又は抗がん剤の有効成分のスクリーニング方法である。
【0068】
神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。
【0069】
本発明の好ましい形態では、前記E工程において、緑内障モデル動物の網膜に候補物質を投与し、前記F工程において、緑内障の治療効果を判定する。
このような形態とすることにより、緑内障に治療効果のある有効成分を効率的にスクリーニングすることができる。
【0070】
本発明の好ましい形態では、前記F工程において、網膜神経節細胞の増加の有無を観察する。このような形態とすることにより、緑内障において損傷又は機能減退のある網膜神経節細胞を再生することにより、緑内障の治療効果をもたらす有効成分を効率的にスクリーニングすることができる。
【0071】
本発明の好ましい形態では、前記F工程において、前記動物の行動観察により視力の回復の有無を判定することで、緑内障の治療効果を判定する。
本発明の好ましい形態では、緑内障の治療効果のある有効成分を効率的にスクリーニングすることができる。
【0072】
本発明の好ましい形態では、前記E工程において、脊髄損傷モデル動物における脊髄損傷部位に候補物質を投与し、
前記F工程において、脊髄損傷の治療効果を判定する。
このような形態とすることにより、脊髄損傷の治療効果を奏する有効成分を効率的にスクリーニングすることができる。
【0073】
本発明の好ましい形態では、前記F工程において、前記脊髄損傷部位における脊髄の再生効果を判定する。
このような形態とすることにより、脊髄損傷の治療効果のある有効成分をより効率的にスクリーニングすることができる。
【0074】
本発明の好ましい形態では、前記F工程において、前記動物の行動観察により運動能力の回復の有無を判定することで、脊髄損傷の治療効果を判定する。
このような形態とすることにより、脊髄損傷に付随する運動障害の治療効果を奏する有効成分を効率的にスクリーニングすることができる。
【0075】
本発明の好ましい形態では、前記E工程において、がんモデル動物の血管内に候補物質を注射し、前記F工程において、がんの治療効果を判定する。
このような形態とすることにより抗がん剤を効率よくスクリーニングすることができる。
【0076】
本発明の好ましい形態では、前記E工程において、白血病モデル動物に候補物質を投与し、前記F工程において、血管内皮の肥厚化又は腫瘤化の有無を観察する。
このような形態とすることによって、がん細胞を正常な血管内皮細胞に強制的に分化することで抗がん作用を発揮する有効成分をスクリーニングすることができる。
【0077】
本発明の好ましい形態では、前記E工程において、白血病モデル動物に候補物質を投与し、前記F工程において、前記動物の生存率を観察する。
このような形態とすることで抗がん剤の有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0078】
本発明は、上述したA工程、B工程及び/又はC工程、D工程を備えるスクリーニング方法による一次スクリーニングを行い、一次スクリーニングで有効成分として選択された候補物質を、上述したE工程、F工程及びG工程を備えるスクリーニング方法による二次スクリーニングに供する、疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法にも関する。
このように一次スクリーニングと二次スクリーニングを行うことにより、より精度よく疾患等の治療効果のある有効成分をスクリーニングすることができる。
【0079】
本発明の好ましい形態では、一次スクリーニングのA工程においては正常動物に候補物質を投与する。
このように、一次スクリーニングでは正常動物を用い、二次スクリーニングでは疾患モデル動物を用いる形態とすることにより、効率的かつ高精度のスクリーニングを実現することができる。
【0080】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、以下の一般式(I)、一般式(II)又は一般式(III)に包含される化合物若しくはその塩又はこれらの水和物である。
【0081】
【0082】
一般式(I)中、
環Aは、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、
3~8員である、
単環式又は縮合二環式の基であり;
Lは、置換基R3で置換されていてもよい、C1~10の飽和又は不飽和の炭化水素鎖であるか、或いは、Lは存在せず、
前記置換基R3は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、環状構造を有していてもよい、C1~10である、飽和又は不飽和の炭化水素基であり;
R1は、
-C≡N、-COOH、-CHO、-COOCH3、-NO2、又はハロゲン原子であるか、或いは、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、
3~8員である、
単環式又は縮合二環式の基であり;
R2は、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、
3~20員である、単環式又は縮合二環式の基である。)
【0083】
【0084】
一般式(II)中、
R
1は、
水素原子、
ハロゲン原子、又は
飽和若しくは不飽和であり、直鎖状若しくは分岐鎖状であり、環状構造を有していてもよい、ハロゲン原子で置換されていてもよい、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、C1~20の炭化水素基であり;
L
1は以下の何れかの構造であり
【化2-2】
;
L
2は、
飽和若しくは不飽和であり、
C1~3の炭化水素基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい硫酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいリン酸基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されていてもよい、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
C1~30の炭化水素鎖であり;
R
2は、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいカルボキシル基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいヒドロキサム酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルホ基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいボロン酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいカルバモイル基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルファモイル基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルホキシイミン基、シアノ基又はテトラゾリル基である。
【0085】
【0086】
一般式(III)中、
環A、環B及び環Cは、それぞれ独立して、
酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3の炭化水素基、ハロゲン原子、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい硫酸基又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいリン酸基で置換されていてもよい、
3~8員である、
単環式の環であり;
R
1は、以下から選ばれる基であり、
【化3-2】
R
3~R
6は、それぞれ独立して、
水素原子、C1~3の炭化水素基、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基であり、
R
7は、水素原子、C1~3の炭化水素基又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基であり、
nは1~4の整数を表し;
L
1、L
2は、それぞれ独立して、
C1~3のアルキレン基若しくはアルケニレン基、-N(H)-又は-O-であり、
これら2価の基のうち、-O-以外の基は、さらに、飽和若しくは不飽和であり、直鎖状若しくは分岐鎖状であり、環状構造を有していてもよい、ハロゲン原子で置換されていてもよい、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個のヘテロ原子を含んでいてもよい、C1~30の炭化水素基で置換されていてもよく;
R
2は、飽和若しくは不飽和であり、直鎖状若しくは分岐鎖状であり、環状構造を有していてもよい、ハロゲン原子で置換されていてもよい、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個のヘテロ原子を含んでいてもよい、C1~30の炭化水素基である。
【0087】
このように一般式(I)~一般式(III)に包含される化合物をスクリーニングの候補物質とすることで、高い確率で神経系の疾患等に効果のある有効成分をスクリーニングすることができる。
【0088】
本発明の好ましい形態では、前記候補物質が、以下の化合物1~7の何れかの誘導体若しくはその塩又はこれらの水和物である。
【0089】
【0090】
上記7化合物は、上述したスクリーニング方法で有効成分として選択された化合物である。これら化合物をベースとして構造を置換、付加、削除等した誘導体をスクリーニングの候補物質とすることで、高い確率で有効成分をスクリーニングすることができる。
【0091】
また、本発明は、上述したスクリーニング方法により有効成分として選択された物質と医薬添加剤を混合して製剤化する製剤化工程を備える、医薬組成物の製造方法にも関する。
本発明の製造方法によれば有効な医薬組成物を製造することができる。
【0092】
本発明の好ましい形態では、前記スクリーニング方法が、上述した一般式(I)~(III)に包含される化合物を候補物質とするスクリーニング方法又は上述した7化合物の誘導体を候補物質とするスクリーニング方法である。
【0093】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、再生医薬及び/又は抗がん剤である。
本発明によれば再生医薬及び/又は抗がん剤を製造することができる。
【0094】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防のために用いられるものである。
【0095】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、緑内障の治療又は予防のために用いられるものである。
【0096】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、脊髄損傷の治療のために用いられるものである。
【0097】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、血液がんの治療のために用いられるものである。
【0098】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、白血病の治療のために用いられるものである。
【0099】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が液剤であり、
前記製剤化工程は、前記有効成分と水性媒体とを混合することを含む。
【0100】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が注射剤である。
また本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が点眼薬である。
【0101】
前記医薬組成物が凍結乾燥製剤であり、前記製剤化工程は、前記有効成分を溶媒に溶解し、これを凍結乾燥することを含む。
【0102】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が軟膏であり、前記製剤化工程は、前記有効成分と基材を混合することを含む。
【0103】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が眼軟膏である。
【0104】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物は鼻腔投与用製剤である。
【0105】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が経口投与用製剤である。
【0106】
また、本発明は上述のスクリーニング方法により有効成分として選択された物質と組み合わせる医薬添加剤を選択する工程を備える、医薬組成物の設計方法にも関する。
本発明によれば、有効な医薬組成物を設計することができる。
【0107】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、再生医薬及び/又は抗がん剤である。
かかる形態の本発明によれば、再生医薬及び/又は抗がん剤を設計することができる。
【0108】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物が、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防のために用いられるものである。
本発明によれば、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防のための医薬組成物を設計することができる。
【0109】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物の適応症を選択する工程を含む。選択した適応症に応じた医薬添加剤の選択ができる。
本発明の好ましい形態では、前記適応症が、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状、或いはがんである。
【0110】
本発明の好ましい形態では、前記医薬組成物の剤型を選択する工程を備える。選択した剤型に応じた医薬添加剤の選択ができる。
本発明の好ましい形態では、前記剤型として液剤を選択し、前記有効成分と混合すべき水性媒体を選択することを含む。
本発明の好ましい形態では、前記剤型として注射剤を選択する。
本発明の好ましい形態では、前記剤型として点眼薬を選択する。
本発明の好ましい形態では、前記剤型として凍結乾燥製剤を選択する。
【0111】
本発明の好ましい形態では、前記剤型として軟膏を選択し、前記有効成分と混合する基材を選択することを含む。
本発明の好ましい形態では、前記剤型として眼軟膏を選択する。
【0112】
本発明の好ましい形態では、前記剤型として鼻腔投与用製剤を選択する。
本発明の好ましい形態では、前記剤型として経口投与用製剤を選択する。
【0113】
また本発明は、上述の方法により医薬組成物を設計し、上述のスクリーニング方法により有効成分として選択された物質を準備し、上述の製造方法によって医薬組成物を製造し、臨床試験において前記医薬組成物が投与された人から取得されたデータセットを統計処理することを含む方法にも関する。
【発明の効果】
【0114】
本発明のスクリーニング方法によれば、医薬の有効成分、より詳しくは、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防に効果のある有効成分、或いは抗がん剤をスクリーニングすることができる。
本発明の製造方法によれば、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防に効果のある医薬組成物、或いは抗がん剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【
図1】本発明のスクリーニング方法の工程を模式的に表した図である。
【
図2】A工程、B工程及びD工程を備える形態を模式的に表した図である。
【
図3】A工程、C工程及びD工程を備える形態を模式的に表した図である。
【
図4】A工程、B工程、C工程及びD工程を備える形態を模式的に表した図である。
【
図5】A工程、B工程、C工程及びD工程を備える形態を整理した図である。(a)A工程、B工程、C工程及びD工程をこの順序で実施する形態を表す。(b)A工程、C工程、B工程及びD工程をこの順序で実施する形態を表す。(c)A工程に次いでB工程とC工程を同時に行い、その後、D工程を行う形態を表す。
【
図6】試験例1における化合物1及び2の結果を表す写真である。中脳神経幹細胞を示すGFPの蛍光を観察した蛍光像と明視野像を重ねた写真である。上段はゼブラフィッシュ胚の頭部平面視の写真であり、下段は頭部側面視の写真である。
【
図7】試験例1における化合物3~5の結果を表す写真である。中脳神経幹細胞を示すGFPの蛍光を観察した蛍光像と明視野像を重ねた写真である。上段はゼブラフィッシュ胚の頭部平面視の写真であり、下段は頭部側面視の写真である。
【
図8】試験例1における化合物6及び7の結果を表す写真である。中脳神経幹細胞を示すGFPの蛍光を観察した蛍光像と明視野像を重ねた写真である。上段はゼブラフィッシュ胚の頭部平面視の写真であり、下段は頭部側面視の写真である。
【
図9】試験例1におけるコントロール、化合物2及び7におけるsox2の発現量を示す定量PCRの結果を表す図である。
【
図10】コントロール及び化合物2、並びに試験例1で神経未分化細胞の増加及び神経系分化細胞の増加が観察されなかった比較化合物を投与した場合におけるsox1α、sox2、sox3及びher6の発現量を示す定量PCRの結果を表す図である。
【
図11】試験例2における化合物1及び2の結果を表す写真である。上段が明視野像である。下段は神経の細胞体クラスター(終脳・間脳)とそれらをつなぐ軸索束を示す蛍光を観察した蛍光像である。
【
図12】試験例2における化合物3~5の結果を表す写真である。経の細胞体クラスター(終脳・間脳)とそれらをつなぐ軸索束を示す蛍光を観察した蛍光像と明視野像を重ねた写真である。
【
図13】試験例2における化合物6及び7の結果を表す写真である。上段が明視野像である。下段は神経の細胞体クラスター(終脳・間脳)とそれらをつなぐ軸索束を示す蛍光を観察した蛍光像である。
【
図14】試験例5における化合物7の結果を表す写真である。上段が処置前、下段が処置後の染色像である。黒塗り矢印の示す部分(緑色の蛍光が観察されている部分)が網膜神経節細胞である。
【
図15】試験例6における化合物2の結果を表す写真である。右に染色像を示し、左にプルキンエ細胞の個数をカウントした結果を表す棒グラフを示す。
【
図16】試験例6における化合物5の結果を表す写真である。右に染色像を示し、左にプルキンエ細胞の個数をカウントした結果を表す棒グラフを示す。
【
図17】試験例6における化合物7の結果を表す写真である。右に染色像を示し、左にプルキンエ細胞の個数をカウントした結果を表す棒グラフを示す。
【
図18】試験例7において化合物5を注入したゼブラフィッシュの中脳神経細胞の蛍光を示す写真である。
【
図19】試験例8において化合物2、5、7を注入したゼブラフィッシュにおける心筋細胞の染色写真である。
【
図20】試験例8において化合物7を注入したゼブラフィッシュにおける血球の一回拍出量をカウントした結果を示す。
【
図21】試験例8において化合物7を注入したゼブラフィッシュの心臓の拍動を撮影した動画のキャプチャー画像を示す。
【
図22】試験例9における膵臓β細胞GFP発現トランスジェニックゼブラフィッシュ胚を撮影した蛍光写真。
【
図23】試験例9において被験化合物を注入したゼブラフィッシュのin situハイブリダイゼーションによるインスリンの染色写真。化合物2、5、6及び7を注入した結果を示す。
【
図24】試験例9における抗インシュリン抗体による免疫染色写真。化合物2及び6をそれぞれ100nM又は5nMの濃度で注入した結果を示す。各条件について3回分の試験結果を示す。
【
図25】
図24の結果を定量した棒グラフ。縦軸は平均蛍光強度である。
【
図26】試験例10において化合物7又はE3リンガー(コントロール)を注入したT細胞型急性リンパ性白血病モデルゼブラフィッシュの血管内皮細胞を蛍光観察した結果を表す図である。下図は低倍率写真、上図は下図の四角で囲んだ部分を拡大した写真である。矢頭は形態的に血球状であるが血管内皮と融合しつつある細胞を示す。点線丸は肥厚化し、または同様に血管内皮と融合した血球細胞を示す。
【
図27】試験例10におけるコントロールと薬剤注入個体の生存率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0116】
以下、本発明の実施の形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明の範囲は以下に説明する実施の形態に限定されない。
【0117】
[1]第1のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、本発明者の鋭意研究努力の結果見出された事実、すなわち、生体内において未分化細胞の自己複製と分化誘導を単剤にて実現する化合物が複数あるという事実に基づいて完成されたものである。
本発明のスクリーニング方法は、本発明者の発見に基づき、動物をスクリーニングツールとして用い、かつ、未分化細胞及び/又は分化細胞の増殖若しくは機能促進効果を指標として、医薬の有効成分をスクリーニングする。
【0118】
ここでいう「医薬の有効成分」とは、規制当局(日本における厚生労働省、米国におけるアメリカ食品医薬品局など)から製造販売許可を得るべき「医薬品」の有効成分に限定されず、有用な生理活性を有する成分を広く包含する概念である。例えば、本願明細書の「医薬の有効成分」には、西洋医学的アプローチによる医薬品の有効成分だけではなく、東洋医学的アプローチによる漢方などの医薬品、健康食品、サプリメントなどの有効成分が広く含まれる。
【0119】
本発明の一つの実施形態では、本発明は再生医薬及び/又は抗がん剤の有効成分のスクリーニング方法である。ここでいう再生医薬とは、幹細胞や前駆細胞などに作用してその増殖・分化を促進することで障害の生じた組織や臓器の機能を再生する医薬品のことをいう。また、抗がん剤は、がん細胞の増殖抑制や細胞死を惹起する医薬に限られない。がん細胞に作用して、これを無害な正常細胞に分化させる作用を有する医薬も、抗がん剤に含まれる。
【0120】
本発明の一つの実施形態は、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。
以下、「疾患、障害、若しくは疾病」のことを「疾患等」ともいう。
【0121】
神経系の疾患等としては、パーキンソン病;アルツハイマー病;クロイツフェルト・ヤコブ病;プリオン病;大脳皮質基底核変性症;筋萎縮性側索硬化症;多発性硬化症;進行性運動衰弱;免疫性神経障害;脳損傷、脊髄損傷、視神経損傷、嗅神経損傷などの中枢神経系の損傷;パーキンソニズムを伴うアルツハイマー病;運動緩慢;無動;細かい運動制御及び手指の器用さを損なう運動障害;発声不全;単調な発話;硬直;ジストニア;パーキンソン病と関連する炎症;顔、顎、舌、姿勢の振戦;パーキンソン病様歩行;すり足歩行;小刻み歩行;加速歩行;気分、認知、感覚、睡眠の障害;認知症;鬱病;薬物誘発性パーキンソニズム;血管性パーキンソニズム;多系統萎縮症;進行性核上麻痺;一次性タウ病変を有する障害;皮質基底核神経節変性症;認知症を伴うパーキンソニズム;多動性障害;舞踏病;ハンチントン病;ジストニア;ウィルソン病;トゥレット症候群;本態性振戦;ミオクローヌス;遅発性運動障害;統合失調症;双極性障害及び自閉症スペクトラム障害などが挙げられる。
心臓の疾患等としては、狭心症、心筋梗塞、弁膜症、心筋症、心房中隔欠損症、心臓腫瘍、心不全、不整脈などが挙げられる。
膵臓の疾患等としては、1型糖尿病、2型糖尿病、急性膵炎、慢性膵炎、膵癌、粘液産生腫瘍などが挙げられる。
【0122】
本発明の一つの実施形態では、血液がんの治療のための有効成分のスクリーニング方法である。血液がんとしては、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病などの白血病;古典的ホジキンリンパ腫、-結節性リンパ球優位性ホジキンリンパ腫などのホジキンリンパ腫、B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、T細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、皮膚のリンパ腫(菌状息肉症、セザリー症候群)などの悪性リンパ腫;症候性多発性骨髄腫、良性単クローン性高ガンマグロブリン血症、無症候性骨髄腫、非分泌型骨髄腫、骨の孤立性形質細胞腫などの多発性骨髄腫が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法により選択された有効成分は、がん細胞を強制的に正常細胞(血管内皮細胞)に分化させることで無害化する作用を発揮する。このような新しい作用機序で抗がん作用を発揮する有効成分をスクリーニングできる点で、本発明は有効である。
【0123】
本発明は、以下のA工程と、B工程及び/又はC工程と、D工程と、を備えることを特徴とする(
図1)。
[A工程]動物(ヒトを除く)に候補物質を投与する工程。
[B工程]前記A工程を経た前記動物における未分化細胞を観察する工程。
[C工程]前記A工程を経た前記動物における分化細胞を観察する工程。
[D工程]候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞の量を向上させる候補物質、又は前記分化細胞の量若しくは前記分化細胞により構成される組織の機能を向上させる候補物質を前記有効成分として選択する工程。
【0124】
本発明においては、B工程とC工程の何れかを実施すれば足りる。
したがって、A工程、B工程及びD工程を備える実施の形態とてもよいし(
図2)、A工程、C工程及びD工程を備える実施の形態としてもよい(
図3)。
【0125】
図2に示す実施の形態では、D工程において、候補物質を投与しない場合と比較して、未分化細胞の量を向上させる候補物質を前記有効成分として選択する(
図2)。
一方、
図3に示す実施の形態では、D工程において、候補物質を投与しない場合と比較して、分化細胞の量を向上させる候補物質、又は分化細胞により構成される組織の機能を向上させる候補物質を前記有効成分として選択する(
図3)。
【0126】
また、もちろんのことB工程とC工程を両方実行する実施の形態としてもよい(
図4)。
この場合には、D工程において、候補物質を投与しない場合と比較して、神経未分化細胞及び神経系分化細胞の量を向上させる候補物質を前記有効成分として選択する(
図4)。
【0127】
B工程とC工程を両方とも実行する実施の形態とする場合には、かかる2工程は順不同である。
つまり、A工程、B工程、C工程、D工程の順序で実行してもよいし(
図5(a))、A工程、C工程、B工程、D工程の順序で実行してもよい(
図5(b))。
また、B工程とC工程を同時に実行する実施の形態としてもよい(
図5(c))。
【0128】
以下、それぞれの工程について詳述する。
【0129】
[1-1]A工程
[1-1-1]動物
A工程においては動物に候補物質を投与する。スクリーニングツールとしてヒトを用いることは倫理的に問題があるため、ヒト以外の動物に候補物質を投与する。
A工程において候補物質を投与する動物はヒト以外であれば特に限定されず、扁平動物、触手冠動物、担輪動物、線形動物、鰓曳動物、汎節足動物、棘皮動物、半索動物、頭索動物、尾索動物、脊椎動物、珍無腸動物など何れに分類される動物であってもよい。
中でも脳と脊髄からなる中枢神経系を有する脊椎動物をスクリーニングツールとして使用する実施の形態が好ましい。
【0130】
脊椎動物としては、哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類及び両生類の何れであってもよい。
中でもモデル生物として汎用される動物を使用することが好ましい。具体的には、哺乳類としてはマウス、モルモット、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコが挙げられる。魚類としては、ゼブラフィッシュ、メダカ、トラフグが挙げられる。鳥類としてはニワトリ、ウズラが挙げられる。爬虫類としてはヤモリ、両生類としては、カエル、イモリが挙げられる。
【0131】
簡易迅速にヒトに適用可能な有効成分をスクリーニングする観点では、多産であり生活環が短く、かつ透明~半透明の体を持ち体内で発現した蛍光タンパク質の蛍光を観察可能なゼブラフィッシュを用いることが好ましい。
また、ヒトへの適用性がより高い有効成分を簡易にスクリーニングする観点では、多産であり生活環が短い哺乳類動物であるマウスを用いることが好ましい。
【0132】
ゼブラフィッシュ(成体と胚を含む)をスクリーニングツールとして使用する場合、マルチウェルプレートを使用することが好ましい。それぞれのウェルに、互いに異なる候補物質が投与されたゼブラフィッシュを配置する。このようにマルチウェルプレート上で複数の候補物質が投与されたゼブラフィッシュを育成することで、後続のB工程及び/又はC工程が容易に実施可能となる。つまりハイスループットスクリーニングが可能となる。
【0133】
蛍光タンパク質のレポーター遺伝子が遺伝的に組み込まれたトランスジェニック系統のゼブラフィッシュ胚を用い、これをマルチウェルプレート上で育成する実施形態とすることが特に好ましい。このような実施形態とすることで、B工程及び/又はC工程において蛍光プレートリーダーによる未分化細胞及び/又は分化細胞の一括観察が可能となる。
【0134】
マルチウェルプレートのウェル数は特に制限されないが、好ましくは6ウェル以上、より好ましくは12ウェル以上、さらに好ましくは24ウェル以上、さらに好ましくは48ウェル以上、さらに好ましくは96ウェル以上である。
【0135】
A工程で使用する動物の成長の程度は特に限定されない。細胞分裂や分化発生が盛んな胚を用いることが好ましい。以下、動物の胚をスクリーニングツールとして用いる実施の形態について説明を加える。
【0136】
[1-1-1-1]胚を用いたスクリーニング
使用する胚の動物種は特に限定されないが、胎生の動物の胚は母親の胎内に存在し扱いが難しいことから、卵生の動物の胚を用いることが好ましい。具体的には、魚類、爬虫類、両生類、鳥類の胚を用いることが好ましい。卵殻が透明であり、柔らかい卵に内包された胚をスクリーニングツールとして用いることが好ましい。透明であり、扱いやすく大量に用意できるというメリットがあることから、魚類の胚を用いることが好ましく、ゼブラフィッシュの胚を用いることが特に好ましい。
【0137】
胚への候補物質の投与方法は特に限定されない。一つの実施形態では、候補物質を溶解ないし分散させた液に胚を浸漬し、胚全体を候補物質に曝露させる。
より好ましい実施形態では、胚の一部分に候補物質を局所的に投与する。この場合、動物の胚における特定の組織に発生する領域又はその近傍に候補物質を局所投与する。
なお、「近傍」とは候補物質が体液による拡散ないし分散によって目的の領域に到達し得る程度の範囲のことをいう。
【0138】
動物胚への局所投与は、マイクロマニピュレーターを用いて常法により行うことができる。また、イオン化等により負の荷電をもった分子の局所投与には本発明者が開発したインビボリポフェクション法を採用することが効果的な場合がある(非特許文献12)。
【0139】
上述の「特定の組織」は特に限定されない。外胚葉、内胚葉、中胚葉の何れに由来する組織であっても構わない。
皮膚表皮、毛髪、爪、皮膚腺(乳腺、汗腺を含む)、感覚器(口腔、咽頭、鼻、直腸の末端部の上皮を含む)、唾液腺、水晶体、脳、脊髄など、外胚葉系の何れの組織に発生する領域又はその近傍に候補物質を投与してもよい。
食道から大腸までの消化管(口腔・咽頭や直腸の末端部を除く)、肺、甲状腺、膵臓、肝臓、消化管に開口する分泌腺の細胞、腹膜、胸膜、喉頭、耳管や気管、気管支、尿路(膀胱、尿道の大部分、尿管の一部)など、内胚葉系の何れの組織に発生する領域又はその近傍に候補物質を投与してもよい。
体腔およびそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓、血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管や脾臓、腎臓および尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)など、内胚葉系の何れの組織に発生する領域又はその近傍に候補物質を投与してもよい。
【0140】
なお、特定の組織に発生する領域又はその近傍に候補物質を投与する実施形態において選択される有効成分は、当該特定の組織にのみ有効な成分というわけではない。本実施形態のスクリーニング方法で選択される有効成分は、当該特定の組織と異なる組織にも有効な成分である。つまり、本発明のスクリーニング方法で選択される有効成分は、適用範囲の制限の無い再生医薬及び/又は抗がん剤として利用できる。そのため、本発明は以下のような実施形態をとり得る。
本発明の一つの実施形態では、候補物質を局所注入する特定の組織と同一組織の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。
本発明の一つの実施形態では、候補物質を局所注入する特定の組織と異なる組織の疾患、障害、若しくは疾病又はこれらの症状の治療又は予防のための有効成分のスクリーニング方法である。
【0141】
例えば、胚における神経系に発生する領域又はその近傍に候補物質を局所投与し、神経未分化細胞/神経系分化細胞の増加が観察された場合には、その候補物質は神経系の疾患等にのみ有効な成分として捉えるべきではない。この場合、その候補物質は、神経系以外の組織・臓器の再生医薬としても有効な成分であると理解される。また、この候補物質は、抗がん剤としても有効な成分であると理解される。これは後述する試験例の結果から裏付けられる。
【0142】
以下、神経系、心臓、膵臓に発生する領域又はその近傍に候補物質を投与する実施形態について、それぞれ詳述する。
【0143】
[1-1-1-1-1]神経系に発生する領域又はその近傍への局所投与
本発明の一つの実施形態では、前記動物の胚における神経系に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与する。以下、簡単に胚発生期における神経系の発生過程を説明した後に、当該実施形態について説明する。
【0144】
ウニ、ショウジョウバエ、魚類、カエル、マウス、ヒト等ほとんど全ての動物は、胎生初期に原腸形成と呼ばれる過程を経る。原腸形成期において、多能性細胞が胚の中心に向かって陥入する(原腸陥入)。こうして移動した細胞は、後に、分化の進んだ胚細胞である中胚葉及び内胚葉の層を形成する。中胚葉は血管及び筋骨格系を形成し、内胚葉は消化管とそれに関連する内臓とを形成することになる。一方、外胚葉領域は骨形成タンパク質4(BMP4)の活性により表皮として分化することが運命決定される。しかしながら、原腸形成期に形成体由来のBMP阻害分子が作用した外胚葉領域は、将来の神経組織として運命決定され、この領域から神経板が形成される。
【0145】
神経版には将来の脳の地図が描かれている。大脳、間脳、中脳、小脳といった脳の各領域をどの場所につくるのか、その地図に従って細胞の振る舞いは決まり、脳が形成されてゆく。この領域依存的な運命決定機構を「領域化」あるいは「パターン形成」と呼ぶ。この現象には、局所的オーガナイザー由来の分子によって誘導される特異的な転写因子の発現、転写因子同士の発現抑制機構、および転写因子によって誘導される細胞表面分子の機能に依存した細胞選別機構が関わっている。
【0146】
神経板の正中部は陥凹して神経溝となり、その両側は羊膜腔側に隆起して、やがてその突端で融合し神経管を形成する。神経管形成は胚の頸部域から始まり、前後両方へ進む。前方部の閉鎖は頭部側端からも始まる。この過程でまだ閉じておらず羊膜腔に通じている部分を頭側神経孔と呼ぶが、この神経孔が徐々に小さくなる。この時期、神経管前方は後方に比べて膨大してふくらみとして観察される。このふくらみは脳胞(一次脳胞)と呼ばれ、3つの膨隆部をもつことからこの発生段階を三脳胞期(一次脳胞期)ともいう。膨隆は前方より前脳胞、中脳胞、菱脳胞(もしくは後脳胞)からなる。膨隆の壁は神経組織を分化させ、内腔は脳室となる。
その後、前脳胞が終脳胞と間脳胞に、菱脳胞が後脳胞と髄脳胞に区別され二次脳胞を形成する。終脳胞は左右に膨出し内腔は側脳室となる。間脳胞内腔、後脳胞内腔はそれぞれ第三脳室、第四脳室になる。中脳胞内腔は大きく形態変化をみせることなく中脳水道となる。終脳の背側は大脳皮質となり、腹側からは大脳基底核などが分化する。間脳胞域からは視床上部、視床、視床下部が分化する。後脳胞域の背側は小脳が生じ、腹側は橋を形成する。髄脳域は延髄となり、神経管の後方より形成される脊髄につながる。
なお、形態形成の初期段階において、前脳の側面から一対の空洞が発達し始める。この空洞は神経管の前方端が閉じる前に、眼の原基である眼胞を形成し始め、神経管の閉鎖の終了の後には眼胞ができあがる。
【0147】
以上のことを踏まえ、「動物の胚における神経系に発生する領域」の一つの形態として、原腸陥入期における神経板形成予定領域が挙げられる。すなわち、A工程において、原腸陥入期における神経板形成予定領域又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0148】
また「動物の胚における神経系に発生する領域」の一つの形態として、神経板が挙げられる。すなわち、A工程において、神経板又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0149】
また「動物の胚における神経系に発生する領域」の一つの形態として、神経管が挙げられる。すなわち、A工程において、神経管又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
この場合、神経孔を有する状態、すなわち完全に閉じていない神経管に局所投与してもよいし、完全に閉じた神経管に局所投与してもよい。
【0150】
また、神経管に局所投与する形態にあっては、神経管前方の脳予定領域に局所投与してもよいし、神経管後方の脊髄予定領域に局所投与してもよい。
【0151】
また「動物の胚における神経系に発生する領域」の一つの形態として、一次脳胞が挙げられる。すなわち、A工程において、一次脳胞又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
局所投与する一次脳胞は、前脳胞、中脳胞、菱脳胞の何れであってもよい。また、一次脳胞の内腔(脳室)に局所投与してもよい。
【0152】
また「動物の胚における神経系に発生する領域」の一つの形態として、二次脳胞が挙げられる。すなわち、A工程において、二次脳胞又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
局所投与する二次脳胞は、終脳胞、間脳胞、後脳胞、髄脳胞の何れであってもよい。また、二次脳胞の内腔である側脳室、第三脳室、第四脳室又は中脳水道に局所投与してもよい。
【0153】
また「動物の胚における神経系に発生する領域」の一つの形態として、眼胞が挙げられる。すなわち、A工程において、眼胞又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0154】
[1-1-1-1-2]心臓に発生する領域又はその近傍への局所投与
本発明の一つの実施形態では、前記動物の胚における心臓に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与する。以下、簡単に胚発生期における心臓の発生過程を説明した後に、当該実施形態について説明する。
【0155】
心臓発生は、まず原始結節における左右軸の決定に始まり、その情報が左右の側板中胚葉に伝達される。頭側部分の心原基(予定心臓領域、cardiogenic region)では、未熟な中胚葉細胞が、心筋特異的な転写因子を発現する心筋前駆細胞(cardiac progenitor cells)へと分化する。心筋前駆細胞はさらに分化を進めながら次第に胚の中央に移動して心筋細胞(cardiac myocytes)となり、正中で1本の原始心臓管(primitive heart tube)を形成する。原始心臓管は蠕動様に収縮し、次第に律動的な収縮を開始するとともに、胚の右方へ屈曲ルーピング(cardiac looping)して心臓の外形を形成する。原始心臓管では、尾側から頭側に向かって、静脈洞(sinus venosus)、原始心房(atrium)、原始心室(ventricle)、心球(bulbus cordis)、動脈幹(truncus arteriosus)の順に各コンポーネントがセグメント状に決定される。これらの前後方向のセグメントは、心ループの形成に伴って、特に心室部分では左右の位置関係に変換する。同時に心臓管の伸長に伴って心室が下方に垂れさがり、心房心室の上下関係が入れ替わる。一方、原始心臓管の内部では、房室管部分において上下左右の4つの心内膜床(endocardial cushion)が発達し、2つの房室弁と心室心房中隔の一部が形成される。また流出路では、2つ(初期は4つ)の円錐動脈幹隆起(conotruncal swelling)が発達し、肺動脈と大動脈をらせん状に分割する。さらに心房中隔および心室中隔が発達完成する。
【0156】
これまでの研究でMESP1という転写因子を発現する中胚葉細胞の一部が心筋に分化することが明らかになっている。しかし、MESP1を発現した細胞は心筋細胞だけではなく、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞、また胎盤を構成する胚体外中胚葉などを含む心臓以外の細胞へも分化することがわかっている。このMESP1を発現した中胚葉細胞の中で、その後にNKX2.5という転写因子を発現する細胞集団から心筋細胞は発生してくるということが判明している。の細胞集団は、ほぼ将来の心臓に寄与するため、これらNKX2.5陽性の中胚葉成分が心臓前駆細胞であると考えられている。
さらに心臓発生に重要な役割を果たす転写因子として,TBX5、GAT Aファミリー、ISLET-1、HAND1/2、MEF2Cなど多くの転写因子が相互に作用しながら心筋細胞分化に関わっていることが明らかになってきている。
【0157】
以上のことを踏まえ、「動物の胚における心臓に発生する領域」の一つの形態として、発生初期に形成される心原基が挙げられる。すなわち、A工程において、心原基又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0158】
また、「動物の胚における心臓に発生する領域」の一つの形態として、心筋前駆細胞に分化する未熟な中胚葉細胞が局在する領域、又は心筋前駆細胞が局在する領域が挙げられる。すなわち、A工程において、心筋前駆細胞に分化する未熟な中胚葉細胞が局在する領域、若しくは心筋前駆細胞が局在する領域又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0159】
また、「動物の胚における心臓に発生する領域」の一つの形態として、原始心臓管が挙げられる。すなわち、A工程において、原始心臓管又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0160】
また、「動物の胚における心臓に発生する領域」の一つの形態として、原始心臓管が挙げられる。すなわち、A工程において、原始心臓管又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0161】
[1-1-1-1-3]膵臓に発生する領域又はその近傍への局所投与
本発明の一つの実施形態では、前記動物の胚における膵臓に発生する領域又はその近傍に前記候補物質を局所投与する。以下、簡単に胚発生期における膵臓の発生過程を説明した後に、当該実施形態について説明する。
【0162】
膵臓は役割の全く異なる2種類の組織から構成されている。1つは消化酵素を産生・分泌し導管を通じて消化管に放出する外分泌組織で、もう1つはホルモンを産生・分泌し循環血中に放出する内分泌組織である。それぞれの組織には複数の種類の細胞が存在するが、発生上、すべて共通の前駆細胞から分化することが知られている。
【0163】
発生初期に出現する一層のシート状の細胞である内胚葉から管状の原始腸管が形成される。膵臓を構成するすべての細胞はPdx1陽性細胞に由来する。より詳しくは、膵臓を構成するすべての細胞は、原始腸管の後方前腸(原始腸管前腸)に存在する内胚葉上皮細胞から形成される膵芽(膵原基)に由来する。膵芽(膵原基)は後方前腸の背側から、やや遅れて腹側から隆起して現れる。膵芽細胞は増殖し、高度に分枝した膵上皮を形成する。膵上皮はその後、内分泌細胞(α細胞、β細胞、δ細胞、PP細胞など)、膵管細胞、外分泌細胞(腺房細胞)へと分化してゆく。後方前腸の背側及び腹側から隆起して現れた膵芽は旋回、融合し、やがて1つの膵臓となる。
【0164】
以上のことを踏まえて、「動物の胚における膵臓に発生する領域」の一つの形態として、膵芽(膵原基)が挙げられる。すなわち、A工程において、膵芽又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0165】
また、「動物の胚における膵臓に発生する領域」の一つの形態として、膵上皮が挙げられる。すなわち、A工程において、膵上皮又はその近傍に候補物質を局所投与する実施の形態としてもよい。
【0166】
[1-1-1-2]成体等を用いたスクリーニング
本発明の一つの実施形態では、発生過程を一通り終えた動物胚の発生後期から新生期、及び当該動物の若齢個体から成体をスクリーニングツールとして用いる。
この場合には、A工程において、該動物に候補物質を投与する。投与の形態としては、注射等による局所投与、経口投与、経皮投与、経腸投与などが挙げられる。好ましい実施形態では、該動物に候補物質を局所投与する。
【0167】
候補物質を局所投与する場合、その投与部位は特に限定されない。好ましくは、神経系心臓、膵臓に局所投与する実施形態が挙げられる。以下、神経系への局所投与について特に説明を加える。
【0168】
神経系としては、中枢神経系と末梢神経系の何れであってもよい。なお、中枢神経系はいったん障害を受けるとほとんど再生せず、障害が維持されてしまう。このような従来の常識では再生しないものと考えられてきた中枢神経系の再生医薬をスクリーニングする目的にあっては、A工程において、中枢神経系に候補物質を局所投与することが好ましい。
【0169】
A工程において候補物質を局所投与する中枢神経系としては、脳、脊髄、視神経、嗅神経の何れであってもよい。好ましくは、脳、脊髄若しくは視神経、又はその近傍に候補物質を局所投与する。
【0170】
なお、脳に局所投与する場合には、より具体的には脳室内に局所投与する形態が好ましい。脳への局所投与は注射による投与の形態とすることが好ましい。手動で注射してもよいが、注入ポンプを用いて投与量を制御したうえで注射することが好ましい。また、注射する動物が小さい場合には、マイクロマニピュレーターを用いてもよい。
【0171】
脊髄への局所投与は注射による投与の形態とすることが好ましい。手動で注射してもよいが、注入ポンプを用いて投与量を制御したうえで注射することが好ましい。また、注射する動物が小さい場合には、マイクロマニピュレーターを用いてもよい。
【0172】
視神経に局所投与する場合には、より好ましくは網膜神経節細胞又はその近傍に局所投与する形態が好ましい。眼球への注射によって網膜神経節細胞又はその近傍に投与してもよいが、眼球への滴下又は塗布により候補物質を投与する形態が好ましい。候補物質を投与する動物が陸生の動物(より具体的には哺乳類、より具体的にはマウス)である場合には、点眼により投与することが好ましい。
【0173】
[1-1-1-3]疾患モデル
本発明の一つの実施形態では、疾患等に罹患していない正常動物に候補物質を投与する。正常動物は後述する疾患モデルと比較して容易に、かつ安価に大量に入手可能であるため、大量の候補物質群をスクリーニングする場合に有利である。
【0174】
また、本発明の一つの実施形態では、疾患等のモデル動物であってもよい。疾患モデル動物としては、遺伝学的なモデルであっても、薬剤誘導型のモデルであっても、または物理的に組織・器官・細胞に損傷を与えた傷害モデルであってもよい。
疾患モデル動物を用いることで、当該疾患への適用で効果を発揮する有効成分を効率的にスクリーニングすることができる。
【0175】
中枢神経系疾患のモデル動物としては、学習性無力モデル(マウス)、嗅球摘出うつモデル(ラット)などの鬱モデル動物;Tg2576マウス、APP & PS1 ダブルトランスジェニック(PSAPP)マウス、メタンフェタミン/クロルジアゼポキシド誘発自発運動亢進モデル(マウス)、コリン作動性神経核破壊モデル(マウス)、薬物誘発記憶障害モデル(マウス)、脳局所破壊モデル(ラット)などの認知症モデル動物;新生児期phencyclidine(PCP)投与マウス、NR1ノックダウンマウス、Gタンパク質共役型受容体(SREB2)ノックアウトマウス、SREB2過剰発現マウス、薬剤誘発カタレプシー(ラット)などの統合失調症モデル動物;1-methyl-4-phenyl-1、2、3、6-tetrahydropyridine(MPTP)誘発パーキンソン病モデル(マウス)などのパーキンソン病モデル動物;痙攣モデル(マウス)、扁桃核あるいは海馬キンドリングモデル(ラット)などの癲癇モデル;脊髄挫滅による脊髄損傷モデル(ラット、マウス、ゼブラフィッシュ)、坐骨神経挫滅あるいは切断による神経傷害モデル(ラット、マウス)などの神経傷害モデル;中大脳動脈閉塞による脳梗塞モデル(マウス)などが挙げられる。
【0176】
また視神経の疾患モデル動物としては、Vav遺伝子欠損モデル(マウス)、GLAST欠損正常眼圧緑内障モデル(マウス)、上強膜静脈の焼灼による高眼圧モデル(ラット)などの緑内障モデル動物などが挙げられる。
【0177】
脊髄損傷のモデル動物は、正常な動物の脊髄に物理的圧力を加えたり、脊髄を刺突したりすることで容易に作成することができる。
【0178】
[1-1-2]候補物質
A工程において動物に投与する候補物質には制限が無い。候補物質は、低分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸の何れであってもよい。
【0179】
本発明の一つの実施形態では、候補物質は低分子化合物である。なお、本明細書において「低分子化合物」とは分子量2000以下の化合物を指し、より好ましくは分子量1500以下の化合物であり、より好ましくは分子量1000以下の化合物である。
【0180】
本発明の一つの実施形態では、候補物質はタンパク質である。タンパク質の種類は特に限定されない。細胞から抽出したタンパク質であってもよいし、遺伝子工学的手法で作製したタンパク質であってもよい。また、複数のタンパク質を融合させた融合タンパク質であってもよいし、非天然アミノ酸を構成要素として含むタンパク質であってもよい。
【0181】
一つの実施形態では、候補物質が抗体である。抗体はポリクローナ抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。この実施形態によれば抗体医薬をスクリーニングすることができる。
【0182】
本発明の一つの実施形態では、候補物質がペプチドである。ペプチドを構成するアミノ酸数は特に制限されず、例えば2~100アミノ酸により構成されるペプチドを挙げることができる。
ペプチドは細胞から抽出したものであってもよいし、遺伝子工学的手法又は化学合成によって調製したものであってもよい。また、ペプチドを構成するアミノ酸として非天然アミノ酸が含まれていてもよい。
【0183】
本発明の一つの実施形態では、候補物質は核酸である。核酸としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、又はこれらのキメラ核酸の何れであってもよい。
本発明の一つの実施形態では、候補物質はタンパク質やRNAを発現する発現ベクターである。
本発明の一つの実施形態では、候補物質は細胞内での特定のタンパク質の発現をRNA干渉によって抑制するノックダウンベクターである。
【0184】
本発明の一つの実施形態では、候補物質はペプチド核酸(PNA)である。
【0185】
また一つの実施形態では、候補物質は核酸を含まない。また一つの実施形態では候補物質はタンパク質を含まない。また、一つの実施形態では候補物質はペプチド核酸を含まない。
【0186】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、下記A群から選ばれる1種又は2種以上を含む。
[A群]
5-HT受容体阻害剤、AChR阻害剤、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、AhR活性化剤、Akt阻害剤、ALK阻害剤、ATPase阻害剤、オートファジー阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤、炭酸脱水酵素阻害剤、Cdc42阻害剤、CDK阻害剤、COX阻害剤、デヒドロゲナーゼ阻害剤、DHFR阻害剤、EGFR阻害剤、ERK阻害剤、エストロジェン/プロジェストジェン受容体阻害剤、γセクレターゼ阻害剤、グルタミン酸受容体リガンド(増強剤)、GSK-3 阻害剤、HDAC活性化剤、HDAC阻害剤、Hedgehog/Smoothenedアゴニスト、IGF-IR阻害剤、インターロイキン受容体阻害剤、IRAK阻害剤、JAK/STAT阻害剤、MAO阻害剤、MEK阻害剤、マイトファジー阻害剤、NF-kB阻害剤、NF-kB-AMPK-チロシンキナーゼ経路阻害剤、Notch-1阻害剤、P450阻害剤、PAEF阻害剤、PDE阻害剤、PPAR阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、TGF-beta/Smad阻害剤、TNF受容体阻害剤、Wnt/β-catenin経路活性化剤
【0187】
本明細書の試験例に示すように、本発明のスクリーニング方法によって有効成分として選択された化合物は、上述した一次作用を有する。本明細書の試験例において有効であるとして選択された化合物と一次作用が共通する化合物であれば、本発明のスクリーニング方法によって有効な化合物であるとして選択される確率が高い。したがって、上述の一次作用を有する化合物を候補物質として、A工程に供することが高効率スクリーニングを実現するうえで好ましい。
【0188】
候補物質としては、上述の一次作用を有する既知の化合物を使用してもよい。化合物の一次作用点(ターゲット)は各種データベースに整理され、検索可能な状態で登録されているのでこれを利用することが好ましい。このような化合物データベースとしては、PubChem(http://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/)、ChemBank(http://chembank.broadinstitute.org/welcome.htm)、myPresto(http://presto.protein.osaka-u.ac.jp/myPresto4/)、LigandBox(http://ligandbox.protein.osaka-u.ac.jp/ligandbox/)、ZINC(http://zinc.docking.org/)、ChEBI(http://www.ebi.ac.uk/chebi/)、ChEMBL(https://www.ebi.ac.uk/chembl/)、CTD Comparative Toxicogenomics Database(http://ctd.mdibl.org/)、ChemSpider(http://www.chemspider.com/)、ChemCupid(http://www.namiki-s.co.jp/chemcupid/)、日化辞(http://nikkajiweb.jst.go.jp/nikkaji_web/pages/top.html)、KEGG LIGAND(http://www.genome.jp/kegg/ligand.html)、DrugBank(http://www.drugbank.ca/)、SuperDrug(http://bioinformatics.charite.de/superdrug2/)、SuperTarget(http://bioinf-apache.charite.de/supertarget/)、SuperNatural(http://bioinformatics.charite.de/supernatural2/)、PharmGKB(http://www.pharmgkb.org/)、Het-PDB Navi、STITCH(http://hetpdbnavi.nagahama-i-bio.ac.jp/)、GLIDA(http://pharminfo.pharm.kyoto-u.ac.jp/services/glida/)、HIC-Up(http://xray.bmc.uu.se/hicup/)、Dundee Prodrg2(http://davapc1.bioch.dundee.ac.uk/prodrg/)などが挙げられる。
【0189】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、上記A群から選ばれる1種又は2種以上であるとin silico法により推測される物質を含む。
培養細胞又は実験動物を使用したスクリーニングは、コストと手間がかかるため、利用可能な化合物ライブラリーの全てを候補物質として供することが現実的ではない。そのため、現代の創薬においてはコンピュータを使用したin silicoスクリーニングが広く使用されている。本発明においても上記一次作用を有する化合物であるとin silicoで推測される化合物を候補物質とすることが好ましい。
【0190】
in silico法による推測について詳述する。in silico創薬を行うためには、なんらかの理論を用いて現実世界の生体内、細胞内、あるいは試験管内で医薬品に対して起こる現象をモデル化(モデリング)する必要がある。利用するモデリング理論の種類で分けると、インフォマティクス的な手法とシミュレーション的な手法に大別することができる。
【0191】
インフォマティクス的手法は、主に医薬品(リガンド)側の構造活性相関情報を用いるために、LBDD法(Ligand-Based Drug Discovery)とも呼ばれ、類似性指標や統計理論に基づいた機械学習によってモデル化する。機械学習は人工知能の要素技術でもある。
【0192】
シミュレーション的手法は、タンパク質の構造情報を用いて計算機上でタンパク質と医薬品の相互作用を古典分子力場、量子力学、分子動力学などの理論に基づいてシミュレーションする手法であり、タンパク質の構造に基づくことから、SBDD(Structure-Based DrugDiscovery)と呼ばれる。
なお、タンパク質の三次元構造の情報は例えばPDBj(https://pdbj.org/)、RCSB DB(https://www.rcsb.org/)、BMRB(https://bmrb.io/)、PDBe(https://www.ebi.ac.uk/pdbe/)などのデータベースに登録されているため、これを利用することができる。また、新たにNMRやX線結晶構造解析などを実施して三次元構造を解析してもよい。また、アミノ酸配列からタンパク質の三次元構造を予測し、これをSBDD法に利用してもよい。
【0193】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、上記A群から選ばれる1種又は2種以上であるとLBDD法によって推測される物質を含む。つまり、上記A群の一次作用を有することが既に知られている複数の化合物(リガンド)を基礎とする構造活性相関情報を参照して、同一の一次作用を有することが予測される構造を有する化合物を候補物質とする。構造活性相関情報は、各種の類似性指標(分子量、官能基の構造、電子密度、疎水性、親水性、骨格など)や統計理論に基づいた機械学習によってモデル化することができる。
LBDD法による創薬は広く実施されており、本発明の実施に際しても無料又は有料で提供されている各種のソフトウェアを利用することができる。
【0194】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、上記A群から選ばれる1種又は2種以上であるとSBDD法によって推測される物質を含む。つまり、A群の一次作用のターゲットとなるタンパク質の立体構造座標を用意し、コンピュータを利用して、その立体構造情報を利用してポケットを解析し、そこに結合すると推測される化合物を候補物質として選定する。現在、極めて高性能なスーパーコンピュータが利用可能であるため、これを利用してSBDD法を実施することが好ましい。
【0195】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、上記A群から選ばれる1種又は2種以上であるとLBDD法及びSBDD法によって推測される物質を含む。
LBDD法(インフォマティクス的手法)とSBDD法(シミュレーション的手法)は、相互補完的な関係にある。インフォマティクス的な設計では、計算時間が短く、利用するモデリング研究者の熟練度にあまり依存せずにヒット率等の精度が安定しているという利点がある。その半面、利用した既知の薬剤と同じ結合サイト、結合モードの化合物しかヒットしないという欠点がある。
シミュレーションを利用すると、物理法則に則った精密な結合自由エネルギーを予測でき、タンパク質のすべての可能な結合サイトを対象に創薬を展開できる利点があり、インフォマティクスの欠点を補う潜在性がある。しかし、シミュレーションでは、レベルにもよるが計算時間が非常に長いという欠点と、計算の設定が不適切な場合には完全な失敗に終わるリスクがある。
以上の理由から、LBDD法及びSBDD法を併用して候補物質を選定する実施形態が好ましい。
【0196】
Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2といった転写因子を体細胞に導入することで、体細胞から誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を得ることができる。これら4因子は幹細胞の自己複製能及び多分化特性の維持に極めて重要な役割を果たしている。これら4因子の発現を向上させることができる化合物は再生医薬として利用できる可能性が高いといえる。実際に後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によって選択された有効成分にはこれら転写因子の発現を向上させる作用が確認されている。
【0197】
以上のことから、本発明は、前記候補物質が、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御する物質であることが好ましい。このような実施形態とすることで、効率的なスクリーニングが可能となる。
本実施形態においては、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御することが既知である物質を候補物質とすることができる。このような発現制御作用を有する物質は化合物データベースを参照することで選定することができる。
本発明においては、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御することがin vitroにおいて既知である物質を候補物質とすることができる。
【0198】
本発明の一つの実施形態では、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御するとin silico法により推測される物質を候補物質とする。
上述の通り、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御する化合物は多数知られており、その一次作用点の情報を含めて化合物データベースに蓄積されている。また、その一次作用点となるタンパク質の三次元構造もタンパク質データベースに多数登録されている。これらの情報を基にSBDD法やLBDD法などのin silico法を適用すれば、上記発現制御作用を発揮するものと推測される物質を容易に探索することができる。
【0199】
本発明の一つの実施形態では、前記候補物質が、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御する因子のアゴニストである。
当該因子は既知のタンパク質の機能などを整理して格納しているタンパク質データベースなどを参照することで容易に把握可能である。そして、当該因子のアゴニストについては、上述した化合物データベースを参照することで容易に把握することができる。
このようなアゴニストを候補物質とすることで、再生医薬の有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0200】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を負に制御する因子のアンタゴニストである。
当該因子は既知のタンパク質の機能などを整理して格納しているタンパク質データベースなどを参照することで容易に把握可能である。そして、当該因子のアンタゴニストについては、上述した化合物データベースを参照することで容易に把握することができる。
このようなアンタゴニストを候補物質とすることで、再生医薬の有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0201】
なお、既知のタンパク質の機能などを整理して格納しているタンパク質データベースは一般に利用可能に提供されている。このようなデータベースには、公開されている学術論文等から、タンパク質同士の相互作用情報をテキストマイニングによって自動的に抽出した情報、または手動で記録された情報が格納されている。また、膨大なマイクロアレイデータが収集され、発現状況に関連性があるタンパク質同士を紐づける情報が格納されている。このようなデータベースとしては、例えばASEdb(http://nic.ucsf.edu/asedb/)、Bacteriome.org(http://www.compsysbio.org/bacteriome/)、BioGRID(http://www.thebiogrid.org/)、DACSIS(http://cib.cf.ocha.ac.jp/DACSIS/)、DIP(http://dip.doe-mbi.ucla.edu/dip/)、DroID(http://www.droidb.org/)、HCPIN(http://nesg.org:9090/HCPIN/index.jsp)、HPID(http://wilab.inha.ac.kr/hpid/)、HPRD(http://www.hprd.org/)、HUGE ppi(http://www.kazusa.or.jp/huge/ppi/)、IntAct(http://www.ebi.ac.uk/intact/)、Pathguide(http://www.pathguide.org/)、POINT(http://point.bioinformatics.tw/Welcome.do)、ProNIT(http://gibk26.bio.kyutech.ac.jp/jouhou/pronit/pronit.html)、Protein-Protein Interaction Panel(http://genome.gsc.riken.go.jp/ppi/)、STRING(http://string.embl.de/)などが挙げられる。
【0202】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御する因子のアゴニストであるとコンピュータにより推測される物質である。
本実施形態は、タンパク質の相互作用情報を格納する上述したデータベースと、上述したLBDD法やSBDD法によるin silico法の組合せによって実施することができる。つまり、タンパク質の相互作用情報を格納する上述したデータベースを参照することでc-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を正に制御する因子を特定する。次いでin silico法によって当該因子のアゴニストであるとして推測される化合物を候補物質として選定する。
このような候補物質は、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上を正に制御することで、再生医薬としての潜在的可能性を有する。したがって、本実施形態のスクリーニング方法によれば、有効成分を効率よく選択することができる。
【0203】
本発明の一つの実施形態では、候補物質が、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を負に制御する因子のアンタゴニストであるとコンピュータにより推測される物質である。
本実施形態は、タンパク質の相互作用情報を格納する上述したデータベースと、上述したLBDD法やSBDD法によるin silico法の組合せによって実施することができる。つまり、タンパク質の相互作用情報を格納する上述したデータベースを参照することでc-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上の発現を負に制御する因子を特定する。次いでin silico法によって当該因子のアンタゴニストであるとして推測される化合物を候補物質として選定する。
このような候補物質は、c-Myc、Sox2、Klf4及びOct4から選ばれる1種又は2種以上を正に制御することで、再生医薬としての潜在的可能性を有する。したがって、本実施形態のスクリーニング方法によれば、有効成分を効率よく選択することができる。
【0204】
また、本発明の一つの実施形態では、候補物質は、生体への毒性が低いとコンピュータによって推測される物質である。
現代の創薬ではin silico法によって化合物の安全性評価を行うことが広く行われている。本実施形態では、in silico法による安全性評価を経た物質を候補物質とするため、スクリーニングの結果選定された有効成分を医薬として提供できる可能性を高めることができる。
【0205】
Notchシグナル伝達は、多細胞生物において進化的によく保存された経路であり、発生過程において細胞の運命を決定し、成体組織の恒常性を維持する。Notch経路は細胞接触型のシグナル伝達を媒介する。この伝達経路内では、シグナルを送信する細胞と受信する細胞の両方が、リガンドと受容体のクロストークにより影響を受け、それによって神経系、心臓系、免疫系および内分泌系の発生における一連の細胞運命決定機構が制御される。Notch受容体は、1回膜貫通型のタンパク質で、機能的な細胞外ドメイン(NECD)、膜貫通ドメイン(TM)、および細胞内ドメイン(NICD)からなる。Notch受容体には1から4の4つのクラスが存在する。Notch受容体は、シグナル受信細胞の小胞体やゴルジ体で、切断(S1切断)や糖鎖修飾などのプロセシングを受け、Ca2+によって安定化されたヘテロ二量体を生じるが、これは膜内に挿入されたTM-NICDと非共有結合性に結合したNECDから構成される。プロセシングを受けたNotch受容体は、エンドソームによって細胞膜へ輸送され、Deltexによる制御およびNUMBによる阻害を受けることで、リガンドへの結合が可能となる。
【0206】
Delta-likeのメンバー(DLL1、DLL3、DLL4)やJaggedファミリー(JAG1、JAG2)が、Notchシグナル伝達受容体のリガンドとして機能する。リガンドが結合すると、NECDはTACE(TNF-α ADAM金属プロテアーゼ変換酵素)によってTM-NICDドメインから切断される(S2切断)。NECDはリガンドに結合したまま、シグナル送信細胞内で、Mibによるユビキチン化依存的なエンドサイトーシス/リサイクリングを受ける。シグナル受信細胞内では、γ-セクレターゼがTMからNICDを放出する(S3切断)。これによってNICDは核内へ移行し、そこでCSL(CBF1/Su(H)/Lag-1)転写因子複合体と結合し、Notchの標準的な標的遺伝子であるMyc、p21、HESファミリーなどの活性化を誘導する。
【0207】
Notchシグナルの阻害は、がん幹細胞の自己複製(Self-renewal)と幹性(Stemness)維持を阻害することが報告されている(非特許文献13、非特許文献14)。また、Notchシグナル経路は、心臓の発達中にさまざまな役割を果たすが、in vitroで心筋形成を促進または損なうという一見すると矛盾した証拠もある(非特許文献15)。
【0208】
Notchシグナルは、発達中の脳で神経前駆細胞(NPC)を維持するために不可欠であるといわれ、Notchシグナル経路の活性化はNPCを増殖状態に維持するが、経路の重要な構成要素における機能喪失型変異は、早熟なニューロンの分化とNPCの枯渇を引き起こす(非特許文献16)。Notchシグナルのモジュレーター、例えば、Numbタンパク質はNotch効果に拮抗することができ、細胞周期の停止とNPCの分化をもたらす(非特許文献17、非特許文献18)。このように、Notchシグナル経路はNPCの自己複製と細胞運命を制御する。
【0209】
また、Notchシグナルの過剰活性化変異により、T細胞急性リンパ性白血病、Notchシグナルの活性低下型変異により、皮膚がんの一種の基底細胞がんとなることが知られている。このように、Notchシグナルはその作用する組織によって、がん遺伝子ともがん抑制遺伝子ともして働きうる両面性を持っている(非特許文献19)。
上述の通り、Notchシグナルの活性化はNPCの増殖を促進し、分化を抑制することが知られている。また、血液細胞においても、Notchシグナルの活性化が造血幹細胞の自己複製と未分化能の維持に重要であることが知られている。しかし、Notchシグナルの活性化が表皮細胞の分化を誘導することも知られている(非特許文献20)。つまり、Notchシグナルは細胞の置かれている状況に応じて、未分化細胞の自己複製や未分化能の維持を誘導したり、逆に分化を誘導したりするという両面性を有している。
Notchシグナルは、遺伝子の発現と当該遺伝子の抑制因子の発現の両方を活性化することも報告されている。この報告は、Notchシグナルの活性化後の応答能に一過性を持たせている可能性を示唆している。さらに、Notchシグナル伝達経路の標的が、正の調節因子と負の調節因子の両方で構成されていることから、細胞はどちらの転帰に対しても準備が整うといえる。これがNotchシグナルの示す両面性(未分化細胞の自己複製・未分化能の維持と分化誘導)の要因であると考えられる(非特許文献21)。
【0210】
このようにNotchシグナル経路は未分化細胞の維持と分化を制御する重要な機能を有する。特に重要であるのが、Notchシグナルは細胞の置かれている状況に応じて、未分化細胞の自己複製・未分化能の維持と分化誘導という一見すると相反する作用を有するということである。単剤にて未分化細胞の自己増幅と分化誘導の両方を引き起こす本発明のスクリーニング方法で見出された有効成分の作用は、Notchシグナルの有する両面性に起因していることが強く推察される。実際に後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によって、Notchシグナル伝達経路の阻害剤(Notch-1阻害剤、γセクレターゼ阻害剤)が有効成分として複数スクリーニングされている。このことからNotchシグナル伝達経路をターゲットとすることで、より効率的な有効成分のスクリーニングを実現できる可能性が極めて高い。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、Notchシグナル経路に作用する物質、又は推測される物質を候補物質とする。
【0211】
本発明の一つの実施形態では、Notchシグナル経路の阻害剤である物質、又阻害剤であると推測される物質を候補物質とする。
このような阻害剤としては、DLL1、DLL3、DLL4、JAG1、JAG2から選ばれる1種又は2種以上のNotchリガンドの発現抑制剤、DLL1、DLL3、DLL4、JAG1、JAG2から選ばれる1種又は2種以上のNotchリガンド阻害剤、Notch-1、Notch-2、Notch-3及びNotch-4から選ばれる1種又は2種以上のNotch受容体の阻害剤、S1切断の阻害剤(Furin(PACE)阻害剤)、S2切断の阻害剤(TACE阻害剤)、S3切断の阻害剤(γ-セクレターゼ阻害剤)、また、NICDの核内における転写因子複合体の形成阻害剤などが挙げられる。
これら阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってNotchシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってNotchシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握できる。
後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によって、Notchシグナル経路の阻害剤が有効成分としてスクリーニングされている。
【0212】
本発明の一つの実施形態では、Notchシグナル経路のアゴニストである物質、又アゴニストであると推測される物質を候補物質とする。このようなアゴニストとしては、DLL1、DLL3、DLL4、JAG1、JAG2から選ばれる1種又は2種以上のNotchリガンドの発現向上剤、Notch-1、Notch-2、Notch-3及びNotch-4から選ばれる1種又は2種以上のNotch受容体の作動剤などが挙げられる。
これらアゴニストは公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってNotchシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってNotchシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握できる。
【0213】
ところで、mTORは、グルコースやアミノ酸などの栄養源を感知し、細胞の増殖や代謝、生存における調節因子の役割を果たすセリン/スレオニン・キナーゼである。抗生物質ラパマイシンの標的分子として発見されたこの酵素は近年、mTOR、Raptor、mLST8(GβL)からなるmTORC1と、mTOR、Rictor、mLST8(GβL)、Sin1からなるmTORC2という、二種類の複合体を形成し、独立したネットワークを持っていることが明らかとなっている。
【0214】
複合体mTORC1は、前述の栄養源の他、成長因子、ホルモン、ストレスなどによって活性化され、4EBP1やp70S6Kといったタンパク質合成や細胞増殖に関わる分子をリン酸化し、mRNAの翻訳、オートファジーの抑制、リボゾームの生合成などに関与する。
一方複合体mTORC2は、栄養源の調節は受けず、成長因子による刺激を受けたPI3Kによって活性化され、AktやSGK、PKCをリン酸化し、アポトーシスの抑制、細胞の成長、細胞骨格の制御などに関与する。
【0215】
このうちPI3K/AKT/mTORシグナル経路は大部分のがんにおいて活性化しているため、抗がん剤のターゲットとして深く研究されている。PI3Kは、ホスファチジルイノシチド(PtdIns)のイノシトール環の3′-水酸基をリン酸化するユニークな細胞内脂質キナーゼファミリーで、3つのクラスに分類される。最も研究されているのはクラスIのPI3Kであり、膜に結合したホスファチジルイノシトール-(4,5)-二リン酸(PIP2)からホスファチジルイノシトール-(3,4,5)-三リン酸(PIP3)への変換を促す。PIP3はセカンドメッセンジャーとして機能し、PI3K依存性キナーゼ-1(PDK1)など、PHドメインを有するキナーゼのリクルートと活性化を促進する。PIP3のシグナル伝達は、PI3Kの活性に対抗するPTENによって制御されている。プロテインキナーゼB(PKB)としても知られるセリン/スレオニンキナーゼAKTは、PHドメインを持ち、PDK1とともに細胞膜にリクルートされる。AKTの完全な活性化には、PDK1とmTORC2によるアミノ酸残基T308とS473のリン酸化が不可欠である。
活性化されたAKTは、多くの標的タンパク質、特にグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)、結節性硬化症2(TSC2)、カスパーゼ9、PRAS40(AKT1S1)をリン酸化し、細胞の増殖、分化、アポトーシス、血管新生、代謝を促進する比較的広いスペクトルの下流効果を発揮する。
【0216】
PI3K/AKT/mTORシグナル経路の構成要素が欠けると胚性致死となるケースが多いことから、発生におけるこの経路の研究は困難であった。しかし、ES細胞およびiPS細胞の登場により、この問題はある程度緩和されている。その結果として、PI3K/AKT/mTORシグナル経路は胚発生に重要であり、iPS細胞の自己複製に不可欠であることが明らかとなっている。ヒトES細胞とマウスES細胞では、培養や増殖に必要なシグナルの種類が大きく異なるにもかかわらず、キナーゼ阻害剤や遺伝学的アプローチを用いた研究から、どちらのタイプのES細胞も未分化な性質を維持するためにPI3K/AKTシグナルの活性化が必要であることが明らかになっている。一般的なPI3K阻害剤またはp110β特異的阻害剤でマウスES細胞を処理すると、その多能性が損なわれ、PI3K遺伝子の欠損でもマウスES細胞の多能性が失われる。同様に、ヒトES細胞でPI3Kを阻害すると、多能性マーカーのダウンレギュレーションと系統特異的な遺伝子のアップレギュレーションが同時に起こり、これらは共に多能性の喪失を強く示唆している。これを裏付けるように、マウスES細胞とヒトES細胞の両方でPtenをノックアウトすると、これらの細胞の増殖と生存が促進される(非特許文献22)。
また、広く研究で使用されているES細胞の培養においてはLIFを添加するが、LIF受容体がPI3K/AKTシグナル経路を活性化することが知られている。LIFは古くはIL-6ファミリーの一つとして同定されたサイトカインであるが、ES細胞の培養においては分化抑制剤(全能性の維持)として利用されている。
【0217】
このように、PI3K/AKT/mTORシグナル経路は幹細胞の自己複製と多能性の維持および分化制御における重要な役割を担っている。したがって、本発明のスクリーニング方法はPI3K/AKT/mTORシグナル経路をターゲットとした実施形態としてもよい。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、PI3K/AKT/mTORシグナル経路に作用する物質、又は推測される物質を候補物質とする。
【0218】
本発明の一つの実施形態では、PI3K/AKT/mTORシグナル経路の阻害剤である物質、又阻害剤であると推測される物質を候補物質とする。
このような阻害剤としては、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、mTOR阻害剤、mTORRC1阻害剤、mTORC2阻害剤、mTORC1/2阻害剤、PI3K/mTOR阻害剤などが挙げられる。これら阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってPI3K/AKT/mTORシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってPI3K/AKT/mTORシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握できる。
後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によってPI3K/AKT/mTORシグナル経路の阻害剤が有効成分としてスクリーニングされている。
【0219】
本発明の一つの実施形態では、PI3K/AKT/mTORシグナル経路のアゴニストである物質、又アゴニストであると推測される物質を候補物質とする。このようなアゴニストとしては、PTEN阻害剤やPI3K活性化剤などが挙げられる。
これら阻害剤や活性化剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤及び活性化剤に基づきインフォマティクス的手法によってPI3K/AKT/mTORシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってPI3K/AKT/mTORシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握できる。
【0220】
JAK/STATシグナル経路は細胞外からの化学シグナルを、細胞核に伝え、DNAの転写と発現を起こす情報伝達系である。免疫、細胞増殖、分化、アポトーシス、発癌などに関与する。JAK/STATシグナルカスケードは主に、細胞表面にあるインターフェロン、インターロイキン、成長因子などのサイトカインの受容体、JAKおよびSTATという3つの要素で構成される。
その機構は、まずリガンド(インターフェロン、インターロイキン、成長因子など)が結合すると受容体がJAKを活性化させ、そのキナーゼ活性を発現させる。活性化JAKは、受容体のチロシン残基をリン酸化させ、受容体のSH2ドメインを持つタンパク質の結合部位を作る。SH2ドメインを持つSTATは、JAKによってリン酸化されたチロシン部位へ結合し、STAT自体がJAKによってリン酸化を受ける。チロシン残基にリン酸化を受けた活性型STATは、ヘテロまたはホモダイマーを形成し、細胞核の中へ移動し、標的遺伝子の転写を引き起こす。なお、STATはチロシンリン酸化を直接、受容体のチロシンキナーゼ(上皮細胞成長因子受容体など)からも受け得るし、非受容体の細胞質内のチロシンキナーゼ(c-srcなど)からも受け得る。
【0221】
このJAK/STATシグナル経路は負の制御を多段階で受ける。タンパク質チロシン脱リン酸化酵素によりサイトカイン受容体や活性化されたSTATは、脱リン酸化され不活化される。また、サイトカインシグナル抑制物質(SOCS)がJAKと結合し、JAKのSTATの結合およびリン酸化を抑制したり、サイトカイン受容体のリン酸化チロシンに競争阻害したりすることが知られている。STATは活性化STAT阻害タンパク質(PIAS)により、核内で負の制御を受ける。例えば、PIAS1、PIAS3は、DNAに結合し阻害することで、STAT1、STAT3による転写活性化を抑制する。
【0222】
最近の研究では、ショウジョウバエにおいて生殖細胞系および成体幹細胞の重要な恒常性プロセス、ならびに性腺、腸、付属肢を含むいくつかの組織の再生プロセスも調節することが示されている(非特許文献23)。また、哺乳類の網膜においてJAK/STATおよびMAPKシグナル経路によるミュラーグリアの幹細胞特性の調節が報告されている(非特許文献24)。
また、広く研究で使用されているES細胞の培養においては分化抑制剤としてLIFを添加するが、LIF受容体がJAK/STATシグナル経路を活性化することが知られている。
【0223】
このように、JAK/STATシグナル経路は幹細胞の制御における重要な役割を担っている。また、後述の試験例に記載のように、本発明のスクリーニング方法によってJAK/STAT阻害剤が複数スクリーニングされている。
したがって、本発明のスクリーニング方法はJAK/STATシグナル経路をターゲットとした実施形態としてもよい。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、JAK/STATシグナル経路に作用する物質、又は推測される物質を候補物質とする。
【0224】
本発明の一つの実施形態では、JAK/STATシグナル経路の阻害剤である物質、又阻害剤であると推測される物質を候補物質とする。
このような阻害剤としては、JAK阻害剤、STAT阻害剤などが挙げられる。これら阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってJAK/STATシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってJAK/STATシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握できる。
後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によってJAT/STATシグナル経路の阻害剤が有効成分としてスクリーニングされている。
【0225】
本発明の一つの実施形態では、JAK/STATシグナル経路のアゴニストである物質、又アゴニストであると推測される物質を候補物質とする。このようなアゴニストとしては、PIAS阻害剤、SOCS阻害剤、PTP阻害剤などが挙げられる。
これら阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってJAK/STATシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってJAK/STATシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握できる。
【0226】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル経路の構成要素は、酵母からヒトにいたる真核生物における増殖、細胞分裂、代謝、運動性、自然免疫、細胞ストレス反応、アポトーシス、および生存機能を含む極めて重要な細胞機能を制御、微調整するための細胞外刺激を伝達し、調節する。MAPKシグナル経路には、4種類の主要な分岐経路、および十数種類のMAPK酵素の存在が知られており、少なくとも7種類の異なるグループに分類される。
MAPKカスケードは、二重特異性セリン/スレオニンプロテインキナーゼ(MAPK、MAPK活性化因子(MEK、MKK、またはMAPKキナーゼ)、ならびにMEK活性化因子(MEKキナーゼ[MEKK]またはMAPKキナーゼキナーゼ)を介する3種類のプロテインキナーゼによる連続的な活性化を特徴とする。古典的MAPK経路の活性化は細胞膜において開始され、そこで低分子量GTPアーゼおよびさまざまなプロテインキナーゼによってMAPKKKがリン酸化されることで活性化される。続いて、MAPKKKによってMAPKKが直接リン酸化され、活性化されたMAPKKはMAPKをリン酸化する。活性化されたMAPKは、多数の細胞質内基質と相互作用してリン酸化を行い、最終的に状況特異的な遺伝子発現を誘導する転写因子を調節する。
【0227】
増殖因子により活性化される経路では、MAPKKKとしてA-Raf、B-RAF、Mos及びTpi-2、MAPKKとしてMEK1/2、MAPKとしてERK1/2が知られ、その下流因子としてElk-1、Ets-2、RSK、MNK、MSK、cPLA2などが知られている。
ストレス、サイトカイン、増殖因子などにより活性化される経路では、MAPKKKとしてMLK3、TAK1、MEKK4及びASK1、MAPKKとしてMKK3/6、MAPKとしてp38α/β/γ/5が知られ、その下流因子としてはCHOP、ATF2、MNK、MSK、MEF2、Elk-1が知られている。
ストレス、サイトカイン、増殖因子により活性化される経路では、MAPKKKとしてMEKK1/4、DLK、MLK1-4、LZK、TAK1、ASK1及びZAK、MAPKKとしてMKK4/7、MAPKとしてJKK1,2,3が知られ、その下流因子としてJUN、ATF2、RNPK、p53、NFAT4、Shcなどが知られている。
ストレス、増殖因子により活性化される経路では、MAPKKKとしてMEKK2/3、MAPKKとしてMEK5、MAPKとしてERK5が知られ、その下流因子としてMEF2が知られている。
【0228】
また、広く研究で使用されているES細胞の培養においては分化抑制剤としてLIFを添加するが、LIF受容体がMAPKシグナル経路(RAS-RAF―MEK-ERK経路)を活性化することが知られている。このシグナル経路が自己複製と全能性の維持に必須であることが知られている。
【0229】
このように、MAPKシグナル経路は幹細胞の制御における重要な役割を担っている。また、後述の試験例に記載のように、本発明のスクリーニング方法によってMAPKシグナル経路阻害剤が複数スクリーニングされている。
したがって、本発明のスクリーニング方法はMAPKシグナル経路をターゲットとした実施形態としてもよい。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、MAPKシグナル経路に作用する物質、又は推測される物質を候補物質とする。
【0230】
本発明の一つの実施形態では、MAPKシグナル経路の阻害剤である物質、又阻害剤であると推測される物質を候補物質とする。
このような阻害剤としては、A-Raf阻害剤、B-RAF阻害剤、Mos阻害剤、Tpi-2阻害剤、MEK1/2阻害剤、ERK1/2阻害剤、Elk-1阻害剤、Ets-2阻害剤、RSK阻害剤、MNK阻害剤、MSK阻害剤、cPLA2阻害剤、MLK3阻害剤、TAK1阻害剤、MEKK4阻害剤、ASK1阻害剤、MKK3/6阻害剤、p38α/β/γ/5阻害剤、CHOP阻害剤、ATF2阻害剤、MNK阻害剤、MSK阻害剤、MEF2阻害剤、Elk-1阻害剤、MEKK1/4阻害剤、DLK阻害剤、MLK1-4阻害剤、LZK阻害剤、TAK1阻害剤、ASK1阻害剤、ZAK阻害剤、MKK4/7阻害剤、JKK1,2,3阻害剤、JUN阻害剤、FOS阻害剤、ATF2阻害剤、RNPK阻害剤、p53阻害剤、NFAT4阻害剤、Shc阻害剤、MEKK2/3阻害剤、MEK5阻害剤、ERK5阻害剤、MEF2阻害剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これら阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってMAPKシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってMAPKシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握できる。
後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によってMAPKシグナル経路の阻害剤が有効成分としてスクリーニングされている。
【0231】
本発明の一つの実施形態では、MAPKシグナル経路のアゴニストである物質、又アゴニストであると推測される物質を候補物質とする。このようなアゴニストとしては、インターロイキン受容体活性化剤などが挙げられる。
これら活性化剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってMAPKシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってMAPKシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握できる。
【0232】
Transforming growth factor-β(TGF-β)、Nodal、Activin、BMP等は、TGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインで、細胞の様々な機能を調節する。TGF-βスーパーファミリーによって制御される生命現象は、細胞の増殖抑制、分化、細胞死、血管新生、免疫、細胞外マトリックス産生、老化等、多岐にわたる。細胞外で機能するTGF-βスーパーファミリーの刺激を受けた細胞は、細胞膜上でその刺激を転写因子SMADのリン酸化へと変換する。TGF-βスーパーファミリーは、TGF-β/Nodal/Activinからなるグループと、BMPからなるグループへと大まかに分けられるが、TGF-β/Nodal/Activinの刺激は、SMAD2およびSMAD3(SMAD2/3)のリン酸化へと、BMPの刺激は、SMAD1、SMAD5およびSMAD8(SMAD1/5/8)のリン酸化へと変換される。これらのSMAD(SMAD1/2/3/5/8)は、R-SMAD(receptor-regulated SMAD)と呼ばれる。TGF-βスーパーファミリーの刺激依存的にリン酸化されたR-SMADは、Co-SMAD(common-mediator SMAD)と呼ばれるSMAD4とヘテロ3量体を形成し、核内へと移行し、様々な遺伝子発現の調節(活性化や抑制)をすることが知られている。またR-SMADやCo-SMADとは別に、TGF-βスーパーファミリーの機能を負に制御するI-SMAD(inhibitory SMAD, SMAD6 SMAD7)も存在する。
【0233】
幹細胞の分野では、BMP-4は血清由来の重要な因子で、LIFとともにマウスのES細胞を未分化な状態で維持し、この作用には、細胞内の特定の情報伝達経路(Smad経路)の活性化が必要であると理解されてきた。しかし、ヒトのES細胞を含めた他の幹細胞の知見が集積するにつれて、BMPは幹細胞の分化を促進する場合も多いことも指摘されている。
【0234】
このように、TGFβ/SMADシグナル経路は幹細胞の制御における重要な役割を担っている。また、後述の試験例に記載のように、本発明のスクリーニング方法によってTGFβ/SMAD阻害剤が複数スクリーニングされている。
したがって、本発明のスクリーニング方法はTGFβ/SMADシグナル経路をターゲットとした実施形態としてもよい。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、TGFβ/SMADシグナル経路に作用する物質、又は推測される物質を候補物質とする。
【0235】
本発明の一つの実施形態では、TGFβ/SMADシグナル経路の阻害剤である物質、又阻害剤であると推測される物質を候補物質とする。
このような阻害剤としては、Tβ受容体阻害剤、Nodal受容体阻害剤、Activin受容体阻害剤、BMP受容体阻害剤、SMAD阻害剤などが挙げられる。これら阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってTGFβ/SMADシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってTGFβ/SMADシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握できる。
後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によってTGFβ/SMADシグナル経路の阻害剤が有効成分としてスクリーニングされている。
【0236】
本発明の一つの実施形態では、TGFβ/SMADシグナル経路のアゴニストである物質、又アゴニストであると推測される物質を候補物質とする。このようなアゴニストとしては、Tβ受容体作動剤、Nodal受容体作動剤、Activin受容体作動剤、BMP受容体作動剤、SMAD活性化剤などが挙げられる。
これらアゴニストは公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記アゴニストに基づきインフォマティクス的手法によってTGFβ/SMADシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記アゴニストのターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってTGFβ/SMADシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握できる。
【0237】
ヒトではこれまで19種類のWNT遺伝子が同定されている。そのうちの一部の遺伝子は選択的スプライシングを受け、遺伝子産物であるWntタンパク質は、複数のアイソフォームを有する。Wntタンパク質は主に7回膜貫通型受容体タンパク質であるFrizzled受容体に結合し、細胞内にシグナルを伝達する。Frizzled受容体は10種類ほどのタンパク質・ファミリーからなるが、それらタンパク質の発現は細胞種によって異なり、細胞種とシグナル伝達の特異性に寄与している。
β-Cateninの細胞内における量は、Wntシグナルがオフの状態では低いレベルで維持されている。この状態でβ-Cateninは、Adenomatous Polyposis Coli(APC)などで構成される分解複合体に取り込まれ、セリン/スレオニン・キナーゼであるCasein kinase 1(CK1)やGlycogen synthase 3b(GSK3β)によりリン酸化され、その後、β-Transducin repeat containing protein(bTrCP)によりユビキチン化され、プロテオソームにより分解される。
【0238】
一方、Wntシグナルが活性化された状況ではDishevelledが、GSK3βを分解複合体から離脱させるGBP/Frat-1をリクルートし、β-Cateninを保護するように働く。このときFrodoとβ-Arrestinは、Dishevelledと共役的に働く。一方、Dapperは、Dishevelledのアンタゴニストとして働く。また低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質ファミリーであるLRP5/LRP6は、β-Cateninを介するWntシグナル伝達標準経路の共役受容体として働く。
【0239】
β-Cateninを介する標準経路(Canonical cascade)では、Wntシグナルが活性化されるとβ-Cateninは安定化し、核内へ移行する。核内ではTCFやLymphoid Enhancer D1、PPARd、Twinなどのターゲット遺伝子の転写を活性化する。一方、Wntシグナルがオフの状態では、TCF/LEFはGrouchoなどの転写制御因子と結合し、不活性されている。Grouchoの転写制御活性は、遺伝子を転写制御するヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deactylases; HDAC)により媒介される。
【0240】
ICATやDuplinはβ-cateninと結合し、β-cateninとTCF/LEFとの相互作用を阻害することで、標準経路を負に制御する。さらにβ-cateninは細胞接着にも関与しており、E-CadherinやN-CadherinなどのタイプIクラシックカドヘリンの細胞内ドメインに結合し、さらにα-cateninと複合体を形成します。このCadherin/Catenin複合体は、他の分子を介してActin細胞骨格と相互作用すると考えられている。
【0241】
Non-canonical cascadeの一つであるPCP(Planar Cell Polarity)経路のシグナル伝達では、Actin細胞骨格や非対称的な細胞骨格形成を制御して、細胞の極性を調節する。Frizzled受容体にWntが結合すると、Dishevelledが小分子GTPaseであるRhoやRacを活性化する。Rhoを介するシグナル伝達では、Daam-1がDishevelledおよびRhoと複合体を形成し、RhoキナーゼROCKを活性化する。一方、Racを介するシグナル伝達では、Daam-1とは相互作用せず、Junキナーゼ(JNK)を活性化する。
【0242】
もう一つのNon-canonical cascadeであるWnt/Calcium経路では、WntがFrizzled受容体へ結合すると、細胞質内にカルシウムが放出される。これにはFrizzledの共役受容体であるKnypekやRor2が関与する。またこの経路の細胞内セカンドメッセンジャーとして、ヘテロ三量体Gタンパク質、Phospholipase C(PLC)、Protein Kinase C(PKC)などが知られている。Wnt/Calcium経路は、細胞間接着や原腸胚形成時の細胞動態に重要であるとの報告がある。
【0243】
Wntシグナリングのアンタゴニストは、secreted Frizzled Related Protein(sFRP)クラスとDickkopf(Dkk)クラスの二つに分類される。sFRPクラスには、sFRPファミリーであるsFRP1-5、Wnt Inhibitory Factor-1(WIF-1)、Cerberusが含まれる。これらのアンタゴニストはWntに直接結合し、Wntの受容体への結合を抑制する。一方、Dkkクラスに含まれるDkk1-4は、LRP5/LRP6の細胞外ドメインに結合し、Wntシグナルを抑制する。KremenはLRP5/LRP6に結合しているDkkと結合し、Dkk-LRP複合体をエンドサイトーシスにより細胞内部に取り込むことで、細胞表面上におけるLRPの露出を消失させる。その結果、Wntは受容体と結合できず、シグナル伝達が抑制される。従って理論的には、sFRPクラスのアンタゴニストはWntシグナル伝達のうち、β-cateninを介する標準経路とNon-canonical経路の両者を阻害し、Dkkクラスのアンタゴニストは標準経路のみを選択的に阻害する。
単離されたWntタンパク質は、神経幹細胞、乳腺幹細胞、胚性幹細胞など、さまざまな幹細胞で活性を示す。一般に、Wntタンパク質は幹細胞の未分化状態を維持するように作用する(非特許文献25)。
【0244】
このように、Wntシグナル経路は幹細胞の制御における重要な役割を担っている。また、後述の試験例に記載のように、本発明のスクリーニング方法によってWnt/β-cateninが複数スクリーニングされている。
したがって、本発明のスクリーニング方法はWntシグナル経路をターゲットとした実施形態としてもよい。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、Wntシグナル経路に作用する物質、又は推測される物質を候補物質とする。
【0245】
本発明の一つの実施形態では、Wntシグナル経路の阻害剤である物質、又阻害剤であると推測される物質を候補物質とする。
このような阻害剤としては、Wnt阻害剤やFrizzled受容体阻害剤が挙げられる。上記阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってWntシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってWntシグナル経路の阻害剤であると推測される化合物を容易に把握できる。
後述の試験例で示すように、本発明のスクリーニング方法によってWntシグナル経路の阻害剤が有効成分としてスクリーニングされている。
【0246】
本発明の一つの実施形態では、Wntシグナル経路のアゴニストである物質、又アゴニストであると推測される物質を候補物質とする。このようなアゴニストとしては、GSK-3阻害剤、CK1阻害剤、bTrCP阻害剤、Pan-Proteasome阻害剤などが挙げられる。これら阻害剤は公知のものが多数存在するが、化合物データベースを照会すれば把握可能である。また、公知の上記阻害剤に基づきインフォマティクス的手法によってWntシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握することができる。また、上記阻害剤のターゲットとなるタンパク質の構造に基づき、シミュレーション的手法によってWntシグナル経路のアゴニストであると推測される化合物を容易に把握できる。
【0247】
なお、Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路は一般的には幹細胞の自己複製や全能性の維持を促進すると言われる。しかし、後述する試験例で示すように、生体内で未分化細胞と分化細胞の両方の増加を誘起する化合物群には、これらシグナル経路の阻害剤と活性化剤が含まれている。このことから、これらの経路に作用する物質であれば、これが阻害剤であれ活性化剤であれ、生体内で未分化細胞と分化細胞の両方の増加を誘起する可能性が高いものといえる。
したがって、本発明の好ましい実施形態では、Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路から選ばれる1種又は2種以上のシグナル経路に作用(阻害と活性化を含む)する物質をスクリーニングの候補物質とする。
【0248】
同様の理由から、本発明の好ましい実施形態では、Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路から選ばれる1種又は2種以上のシグナル経路に作用(阻害と活性化を含む)するとin silico法により推測される物質をスクリーニングの候補物質とする。
【0249】
また、一つの実施形態では、後述する一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)に包含される化合物若しくはその塩又はその水和物を候補物質として動物に投与する。
なお、塩としては薬理学的に許容される塩であることが好ましい。塩としては、例えば、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性または塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0250】
無機酸塩の好ましい例としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が挙げられ、有機酸塩の好ましい例としては、例えば酢酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0251】
無機塩基塩の好ましい例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩等が挙げられ、有機塩基塩の好ましい例としては、例えばジエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、メグルミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩等が挙げられる。
【0252】
酸性アミノ酸塩の好ましい例としては、例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等が挙げられ、塩基性アミノ酸塩の好ましい例としては、例えばアルギニン塩、リジン塩、オルニチン塩等が挙げられる。
【0253】
以下、一般式(I)~(III)について詳述する。
【0254】
[1-1-2-1]一般式(I)
本発明の一つの実施形態では、以下の一般式(I)に包含される化合物若しくはその塩又はその水和物を候補物質として動物に投与する。
【0255】
【0256】
一般式(I)において、環Aは単環式の環であっても、縮合二環式の環であってもよい。
環Aが単環式の環である場合には、環Aは好ましくは3~8員、より好ましくは4~6員、より好ましくは5~6員、より好ましくは5員の環である。
環Aが縮合二環式の環である場合には、環Aは好ましくは4~8員、より好ましくは5~8員、より好ましくは5~7員、より好ましくは5~6員の環である。
好ましい実施の形態では、環Aは単環式の環である。
【0257】
環Aは飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和である場合には、環Aに含まれる二重結合の数は、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。
好ましくは、環Aは不飽和である。より好ましくは、環Aは芳香環である。
【0258】
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよい。
環Aに含まれるヘテロ原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは2~3個、より好ましくは2個である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、より好ましくは窒素原子が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは2~3個、より好ましくは2個が選ばれる。
環Aは、好ましくはヘテロ原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む単環式芳香族複素環である。
【0259】
環Aとして、具体的には、アジリジン、アジリン、オキシラン、オキシレン、ホスフィラン、ホスフィレン、チイラン、チイレン、ジアジリジン、ジアジリン、オキサジリジン、ジオキシラン、アゼチジン、アゼト、オキセタン、オキセト、チエタン、チエット、ジアゼチジン、ジアゼト、ジオキセタン、ジオキセト、ジチエタン、ジチエト、ピロリジン、ピロール、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ジオキソラン、ジチオラン、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピペリジン、ピリジン、ピリジニウム カチオン、テトラヒドロピラン、ピラン、ピリリウム カチオン、チアン、チオピラン、チオピリリウム カチオン、ピペラジン、ジアジン、モルフォリン、オキサジン、チオモルフォリン、チアジン、ジオキサン、ジオキシン、ジチアン、ジチイン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアジン、トリオキサン、トリチアン、テトラジン、ペンタジン、アゼパン、アゼピン、オキセパン、オキセピン、チエパン、チエピン、ジアゼパン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、オキソカン、オキソシン、チオカン、チオシン、アゾナン、アゾニン、オキソナン、オキソニン、チオナン、チオニンなどが挙げられる。
【0260】
環Aのより好ましい態様としては、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オサキジン、チアジン、ジオキシン、ジチイン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0261】
環Aのより好ましい態様としては、ピロール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0262】
環Aのより好ましい態様としては、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジンが挙げられる。
さらに好ましくは、環Aは、ピラゾールである。
【0263】
環Aがピラゾールである場合、R
2は、ピラゾール環の好ましくは第3位~第5位の何れか、より好ましくは第4位に結合している。
また、-L-R
1からなる基は、ピラゾール環の好ましくは第1位、第3位又は第5位、より好ましくは第1位又は第3位に結合している。
なお、ピラゾール環の番号は以下に示す例による。
【化1-2】
【0264】
環Aは、さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
ここでいうC1~3のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルエチル基などが挙げられる。
また、ここでいうハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
好ましくは、環Aの水素原子のうち、1~3個が、より好ましくは1~2個が、より好ましくは1個が、置換されていてもよい。
【0265】
一般式(I)中、Lは、置換基R3で置換されていてもよい、C1~10の飽和又は不飽和の炭化水素鎖である。
【0266】
該炭化水素鎖は、好ましくはC1~9、より好ましくはC1~8、より好ましくはC1~7、より好ましくはC1~6、より好ましくはC1~5、より好ましくはC1~4、より好ましくはC1~3、より好ましくはC1~2である。
【0267】
該炭化水素鎖としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH=CH-、-CH2CH2CH2-、-CH=CHCH2-、-CH2CH=CH-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH=CHCH2CH2-、-CH2CH=CHCH2-、-CH2CH2CH=CH-、-CH=CHCH=CH-などが具体的に挙げられる。
【0268】
該炭化水素鎖は置換基R3で置換されていてもよい。
置換基R3は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、環状構造を有していてもよい、C1~10である、飽和又は不飽和の炭化水素基である。
ここでいうハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
置換基R3は、好ましくはC1~10、より好ましくはC2~9、より好ましくはC3~8、より好ましくはC4~6である。
【0269】
置換基R3は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
また、置換基R3は環状構造を有していてもよい。この場合、当該環は、好ましくは3~10員、より好ましくは4~8員、より好ましくは4~7員、より好ましくは4~6員、より好ましくは5~6員、より好ましくは5員の環である。
【0270】
また、一般式(I)において、Lは存在せずともよい。
【0271】
一般式(I)中、R1は、以下に定義するR1-1又はR1-2である。
R1-1:-C≡N、-COOH、-CHO、-COOCH3、-NO2、又はハロゲン原子
R1-2:酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、
飽和又は不飽和である、
さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、
3~8員である、
単環式又は縮合二環式の基。
【0272】
R1-1は、より好ましくは-C≡N又は-NO2である。
【0273】
R1-2は、単環式の環であっても、縮合二環式の環であってもよい。
R1-2が単環式の環である場合には、R1-2は好ましくは3~8員、より好ましくは4~6員、より好ましくは5~6員、より好ましくは6員の環である。
R1-2が縮合二環式の環である場合には、R1-2は好ましくは4~8員、より好ましくは5~8員、より好ましくは5~7員、より好ましくは5~6員の環である。
好ましい実施の形態では、R1-2は単環式の環である。
【0274】
R1-2は飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和である場合には、R1-2に含まれる二重結合の数は、好ましくは1~3個、より好ましくは2~3個である。
好ましくは、R1-2は不飽和である。より好ましくは、R1-2は芳香環である。
【0275】
R1-2はヘテロ原子を含んでいてもよい。
R1-2に含まれるヘテロ原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、より好ましくは窒素原子が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個が選ばれる。
R1-2は、好ましくはヘテロ原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む単環式芳香族複素環である。
【0276】
R1-2として、具体的には、アジリジン、アジリン、オキシラン、オキシレン、ホスフィラン、ホスフィレン、チイラン、チイレン、ジアジリジン、ジアジリン、オキサジリジン、ジオキシラン、アゼチジン、アゼト、オキセタン、オキセト、チエタン、チエット、ジアゼチジン、ジアゼト、ジオキセタン、ジオキセト、ジチエタン、ジチエト、ピロリジン、ピロール、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ジオキソラン、ジチオラン、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピペリジン、ピリジン、ピリジニウム カチオン、テトラヒドロピラン、ピラン、ピリリウム カチオン、チアン、チオピラン、チオピリリウム カチオン、ピペラジン、ジアジン、モルフォリン、オキサジン、チオモルフォリン、チアジン、ジオキサン、ジオキシン、ジチアン、ジチイン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアジン、トリオキサン、トリチアン、テトラジン、ペンタジン、アゼパン、アゼピン、オキセパン、オキセピン、チエパン、チエピン、ジアゼパン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、オキソカン、オキソシン、チオカン、チオシン、アゾナン、アゾニン、オキソナン、オキソニン、チオナン、チオニンなどが挙げられる。
【0277】
R1-2のより好ましい態様としては、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オサキジン、チアジン、ジオキシン、ジチイン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0278】
R1-2のより好ましい態様としては、ピロール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0279】
R1-2のより好ましい態様としては、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジンが挙げられる。
さらに好ましくは、R1-2は、ピリジンである。
【0280】
R1-2は、さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
ここでいうC1~3のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルエチル基などが挙げられる。
また、ここでいうハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
好ましくは、R1-2の水素原子のうち、1~3個が、より好ましくは1~2個が、より好ましくは1個が、置換されていてもよい。
【0281】
好ましい実施の形態では、R1がR1-1の場合にはLが存在していることが好ましい。
また、R1がR1-2の場合には、Lは存在していないか、または前記R3により置換されていないことが好ましい。
【0282】
一般式(I)中、R2は、好ましくは3~20員、より好ましくは4~18員、より好ましくは6~16員、より好ましくは6~14員、より好ましくは6~12員、より好ましくは8~12員の環である。
【0283】
R2は、単環式であっても、縮合二環式であってもよい。
R2が単環式の環である場合には、R2は、好ましくは3~12員、より好ましくは4~10員、より好ましくは5~8員、より好ましくは5~6員の環である。
R2が縮合二環式の環である場合には、R2は、好ましくは5~20員、より好ましくは6~18員、より好ましくは8~16員、より好ましくは8~12員、より好ましくは8~10員、より好ましくは9~10員の環である。
【0284】
R2が縮合二環式の環である場合には、R2は、4員環と4員環、4員環と5員環、4員環と6員環、5員環と5員環、5員環と6員環、又は、6員環と6員環の縮合環であることが好ましい。
【0285】
R2は飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和である場合には、二重結合の数は、好ましくは1~6個、より好ましくは2~6個、より好ましくは3~6個、より好ましくは4~5個である。
R2は、好ましくは芳香環であり、より好ましくは縮合二環式芳香環である。
【0286】
R2はヘテロ原子を含んでいてもよい。
R2に含まれるヘテロ原子の数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、より好ましくは窒素原子が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して1~6個、より好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個が選ばれる。
R2は、好ましくはヘテロ原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む縮合二環式芳香族複素環である。
【0287】
R2は以下の構造の何れかであることが好ましい。
【0288】
【0289】
上記式中のXは、炭素原子か窒素原子を表す。Xで表された原子のうち、窒素原子の総数は1~6個、より好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個であり、その余が炭素原子である。
【0290】
[1-1-2-2]一般式(II)
[1]本件化合物
本発明の一つの実施形態では、以下の一般式(II)に包含される化合物若しくはその塩又はその水和物を候補物質として動物に投与する。
【0291】
【0292】
一般式(II)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、又はC1~20の炭化水素基である。
ここで、ハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
以下、R1が炭化水素基の形態である場合について、より詳細に説明する。
【0293】
ここで、R1は、好ましくはC1~18であり、より好ましくはC1~16であり、より好ましくはC1~14であり、より好ましくはC1~12であり、より好ましくはC1~10である。
【0294】
R1は、飽和であっても不飽和であってもよい。また、R1は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R1は、ヘテロ原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選択されることが好ましい。より好ましくは、R1は窒素原子を含む。R1は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個のヘテロ原子を含んでいてもよい.
【0295】
また、R1は、環状構造を有していてもよい。当該環状構造は、好ましくは3~8員環であり、より好ましくは4~7員環であり、より好ましくは5~6員環である。
【0296】
R1は以下のR1-1又はR1-2の形態であることが好ましい。
R1-1:飽和若しくは不飽和であり、直鎖状若しくは分岐鎖状である、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C1~20の炭化水素基。
R1-2:酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、ハロゲン原子若しくはC1~3の炭化水素基で置換されていてもよい、飽和又は不飽和である、3~8員の環。
【0297】
R1-1は、より好ましくはC1~18であり、より好ましくはC1~16であり、より好ましくはC1~14であり、より好ましくはC1~12であり、より好ましくはC1~10であり、より好ましくはC1~8であり、より好ましくはC1~6であり、より好ましくはC1~4であり、より好ましくはC1~3であり、より好ましくはC1~2である。
【0298】
また、R1-1は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子で置換されていてもよい。
ハロゲン原子による置換数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、より好ましくは1とすることができる。
【0299】
R1-2は、好ましくは単環式の環又は縮合二環式の環であり、より好ましくは単環式の環である。
R1-2が、単環式の環である場合には、R1-2は好ましくは3~8員、より好ましくは4~6員、より好ましくは5~6員、より好ましくは6員の環である。
R1-2が縮合二環式の環である場合には、R1-2は好ましくは4~8員、より好ましくは5~8員、より好ましくは5~7員、より好ましくは5~6員の環である。
【0300】
R1-2は飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和である場合には、環に含まれる二重結合の数は、好ましくは1~3個、より好ましくは2~3個、より好ましくは3個である。
好ましくは、R1-2は不飽和である。より好ましくは、R1-2は芳香環である。
【0301】
R1-2はヘテロ原子を含んでいてもよい。
R1-2に含まれるヘテロ原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、より好ましくは窒素原子が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個が選ばれる。
R1-2は、一つの実施形態では、好ましくはヘテロ原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む単環式芳香族複素環である。
また、別の実施形態では、R1-2は、ヘテロ原子を含まない芳香環であり、より好ましくはヘテロ原子を含まない単環式芳香環である。
【0302】
R1-2として、具体的には、シクロプロパン、シクロプロペン、シクロブタン、シクロブテン、シクロブタジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、シクロペンタン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、アジリジン、アジリン、オキシラン、オキシレン、ホスフィラン、ホスフィレン、チイラン、チイレン、ジアジリジン、ジアジリン、オキサジリジン、ジオキシラン、アゼチジン、アゼト、オキセタン、オキセト、チエタン、チエット、ジアゼチジン、ジアゼト、ジオキセタン、ジオキセト、ジチエタン、ジチエト、ピロリジン、ピロール、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ジオキソラン、ジチオラン、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピペリジン、ピリジン、ピリジニウム カチオン、テトラヒドロピラン、ピラン、ピリリウム カチオン、チアン、チオピラン、チオピリリウム カチオン、ピペラジン、ジアジン、モルフォリン、オキサジン、チオモルフォリン、チアジン、ジオキサン、ジオキシン、ジチアン、ジチイン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアジン、トリオキサン、トリチアン、テトラジン、ペンタジン、アゼパン、アゼピン、オキセパン、オキセピン、チエパン、チエピン、ジアゼパン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、オキソカン、オキソシン、チオカン、チオシン、アゾナン、アゾニン、オキソナン、オキソニン、チオナン、チオニンなどが挙げられる。
【0303】
R1-2のより好ましい態様としては、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、シクロペンタン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オサキジン、チアジン、ジオキシン、ジチイン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0304】
R1-2のより好ましい態様としては、ベンゼン、ピロール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0305】
R1-2のより好ましい態様としては、ベンゼン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジンが挙げられる。
さらに好ましくは、R1-2は、ベンゼン又はピリジンである。
【0306】
R1-2は、さらにC1~3のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
ここでいうC1~3のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルエチル基などが挙げられる。
また、ここでいうハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
好ましくは、R1-2が構成する環の水素原子のうち、1~3個が、より好ましくは1~2個が、より好ましくは1個が、置換されていてもよい。
【0307】
一般式(II)中、L
1は、以下の何れかの2価の基である。
【化2-2】
【0308】
より好ましくは、L
1は、以下に列挙する何れかの2価の基である。これらは互いに生物学的等価値体の関係にある。
【化2-3】
【0309】
より好ましくは、L
1は、以下に列挙する何れかの2価の基である。
【化2-4】
【0310】
より好ましくは、L1は、以下の2価の基である。
【化2-5】
【0311】
一般式(II)中、L2は、C1~30の炭化水素基である。L2は、より好ましくはC1~28、より好ましくはC1~26、より好ましくはC1~24、より好ましくはC1~22、より好ましくはC1~20、より好ましくはC1~18、より好ましくはC1~16、より好ましくはC1~14、より好ましくはC1~12、より好ましくはC1~10、より好ましくはC1~8である。
【0312】
L2は、直鎖状である。また、L2は、飽和又は不飽和であってもよい。
また、L2は、以下に列挙する1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
・C1~3の炭化水素基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい硫酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいリン酸基
・ハロゲン原子
【0313】
より具体的には、L2は、以下に列挙する1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
・メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基
・水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はイソプロポキシ基
・アミノ基、或いは、アミノ基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルアミノ基
・硫酸基、メチル硫酸基、エチル硫酸基、プロピル硫酸基又はイソプロピル硫酸基
・リン酸基、或いは、リン酸基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルリン酸基
【0314】
より好ましくは、L2は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、水酸基、アミノ基、硫酸基、リン酸基から選ばれる1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
より好ましくは、L2は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、水酸基、アミノ基、硫酸基、リン酸基から選ばれる1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
より好ましくは、L2は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、水酸基、アミノ基から選ばれる1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
より好ましくは、L2は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミノ基から選ばれる1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
より好ましくは、L2は、アミノ基で置換されていてもよい。
L2の置換数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、より好ましくは1である。
【0315】
一般式(II)中、R2は、以下に列挙する何れかの基である。
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいカルボキシル基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいヒドロキサム酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルホ基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいボロン酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいカルバモイル基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルファモイル基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいスルホキシイミン基
・シアノ基
・テトラゾリル基
【0316】
より好ましくは、R2は以下に列挙する何れかの基である。
・カルボキシル基、或いは、カルボキシ基の水素原子が、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換された基
・水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はイソプロポキシ基
・ヒドロキサム酸基、或いは、ヒドロキサム酸基の水素原子が、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換された基
・スルホ基、或いは、スルホ基の水素原子が、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換された基
・ボロン酸基、或いはボロン酸基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換された基
・カルバモイル基、或いは、カルバモイル基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換された基
・スルファモイル基、或いは、スルファモイル基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換された基
・スルホキシイミン基、或いは、スルホキシイミン基の水素原子が、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換された基
・シアノ基
・テトラゾリル基
【0317】
一つの実施形態では、R2はカルボキシル基、水酸基、ヒドロキサム酸基、スルホ基、ボロン酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホキシイミン基、シアノ基又はテトラゾリル基である。
より好ましくは、R2はカルボキシル基又はドロキサム酸基である。
【0318】
一つの実施形態では、R2は、C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいカルボキシル基、又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいヒドロキサム酸基である。
【0319】
[1-1-2-3]一般式(III)
本発明の一つの実施形態では、以下の一般式(III)に包含される化合物若しくはその塩又はその水和物を候補物質として動物に投与する。
【0320】
【0321】
一般式(III)において、環A、環B及び環Cは、3~8員の環であり、より好ましくは4~6員の環であり、より好ましくは5~6員の環であり、より好ましくは6員の環である。
【0322】
環A、環B及び環Cは、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和である場合には、環に含まれる二重結合の数は、好ましくは1~3個、より好ましくは2~3個、より好ましくは3個である。
好ましくは、環A、環B及び環Cのうち少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは全てが不飽和である。より好ましくは、環A、環B及び環Cは芳香環である。
【0323】
環A、環B及び環Cは、以下に列挙する1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
・ハロゲン原子
・C1~3の炭化水素基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい硫酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいリン酸基
【0324】
より具体的には、環A、環B及び環Cは、以下に列挙する1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
・フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子
・メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基
・水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はイソプロポキシ基
・アミノ基、或いは、アミノ基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルアミノ基
・硫酸基、メチル硫酸基、エチル硫酸基、プロピル硫酸基又はイソプロピル硫酸基
・リン酸基、或いは、リン酸基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルリン酸基
【0325】
環A、環B及び環Cはヘテロ原子を含んでいてもよい。
環A、環B及び環Cに含まれるヘテロ原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは2個である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、より好ましくは窒素原子が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個が選ばれる。
【0326】
一つの実施形態では、環A、環B及び環Cのうち何れかは、好ましくはヘテロ原子を含む芳香族複素環であり、より好ましくは窒素原子を含む芳香族複素環である。
また、別の実施形態では、環A、環B及び環Cのうち何れかは、ヘテロ原子を含まない芳香環である。
【0327】
一つの実施形態では、環A、環B及び環Cの全てが芳香環であり、このうち環Bがヘテロ原子を含む芳香族複素環であり、環A及び環Cが、ヘテロ原子を含まない芳香環である。
【0328】
一つの実施形態では、環Aは、さらにC1~3の炭化水素基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン又はベンゼンである。
【0329】
一つの実施形態では、環Bは、1~3個の窒素原子を含む、飽和又は不飽和である、さらにC1~3の炭化水素基又はハロゲン原子で置換されていてもよい、6員の単環式複素環である。
【0330】
一つの実施形態では、環Cは、さらにC1~3の炭化水素基、ハロゲン原子又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基で置換されていてもよい、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン又はベンゼンである。
【0331】
環A、環B及び環Cの具体例としては、シクロプロパン、シクロプロペン、シクロブタン、シクロブテン、シクロブタジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、シクロペンタン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、アジリジン、アジリン、オキシラン、オキシレン、ホスフィラン、ホスフィレン、チイラン、チイレン、ジアジリジン、ジアジリン、オキサジリジン、ジオキシラン、アゼチジン、アゼト、オキセタン、オキセト、チエタン、チエット、ジアゼチジン、ジアゼト、ジオキセタン、ジオキセト、ジチエタン、ジチエト、ピロリジン、ピロール、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ジオキソラン、ジチオラン、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピペリジン、ピリジン、ピリジニウム カチオン、テトラヒドロピラン、ピラン、ピリリウム カチオン、チアン、チオピラン、チオピリリウム カチオン、ピペラジン、ジアジン、モルフォリン、オキサジン、チオモルフォリン、チアジン、ジオキサン、ジオキシン、ジチアン、ジチイン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアジン、トリオキサン、トリチアン、テトラジン、ペンタジン、アゼパン、アゼピン、オキセパン、オキセピン、チエパン、チエピン、ジアゼパン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、オキソカン、オキソシン、チオカン、チオシン、アゾナン、アゾニン、オキソナン、オキソニン、チオナン、チオニンなどが挙げられる。
【0332】
環A、環B及び環Cのより好ましい態様としては、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、シクロペンタン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オサキジン、チアジン、ジオキシン、ジチイン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0333】
環A、環B及び環Cのより好ましい態様としては、ベンゼン、ピロール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジン、テトラジンが挙げられる。
【0334】
環A、環B及び環Cのより好ましい態様としては、ベンゼン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ジアジン、トリアジンが挙げられる。ジアジンとしては、ピリミジンが好ましい。
さらに好ましくは、環A、環B及び環Cは、ベンゼン又はピリミジンである。さらに好ましくは環A及び環Cがベンゼンであり、環Bがピリミジンである。
【0335】
一つの実施形態では、環Aは、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン又はベンゼンである。より好ましくは、環Aはベンゼンである。
この場合、環Aの第1位と第2位の炭素原子にそれぞれR1及びL1が結合している形態とすることが好ましい。
【0336】
一つの実施形態では、環Bは、1~3個の窒素原子を含む、飽和又は不飽和である、ハロゲン原子で置換されている、6員の単環式複素環である。より好ましくは、環Bはハロゲン原子で置換されているピリミジンである。より好ましくは、環Bは塩素原子で置換されているピリミジンである。
この場合、環Bの第4位の炭素原子にL1、第2位にL2、第5位に塩素原子がそれぞれ結合している形態とすることが好ましい。
【0337】
一つの実施形態では、環Cは、C1~3のアルコキシ基で置換されている、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン又はベンゼンである。より好ましくは、環Cは、メトキシ基で置換されている、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン又はベンゼンである。より好ましくは、環Cは、メトキシ基で置換されているベンゼンである。
この場合、環Cの第1位にL2、第4位にR2、第2位にメトキシ基がそれぞれ結合している形態とすることが好ましい。
【0338】
一般式(III)中、R
1は、以下から選ばれる基である。
【化3-2】
【0339】
R
1は、より好ましくは、以下から選ばれる基である。
【化3-3】
【0340】
ここで、R3~R6は、それぞれ独立して、以下の何れかの基である。
・水素原子
・C1~3の炭化水素基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基
【0341】
より好ましくは、R3~R6は、それぞれ独立して、以下の何れかの基である。
・水素原子
・メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基
・水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はイソプロポキシ基
・アミノ基、或いは、アミノ基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルアミノ基
【0342】
より好ましくは、R3~R6は、それぞれ独立して、以下の何れかの基である。
・メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基
・アミノ基、或いは、アミノ基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルアミノ基
【0343】
より好ましくは、R3~R6は、それぞれ独立して、メチル基又はモノメチルアミノ基である。
【0344】
R7は、水素原子、C1~3の炭化水素基又はC1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基である。
R7は、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、モノプロピルアミノ基又はモノイソプロピルアミノ基である。
R7は、より好ましくは、メチル基又はモノメチルアミノ基である。
【0345】
nは、1~4の整数、より好ましくは1~3の整数、より好ましくは1~2の整数、より好ましくは1を表す。
【0346】
一般式(III)中、L1、L2は、それぞれ独立してC1~3のアルキレン基若しくはアルケニレン基、-N(H)-又は-O-である。
より好ましくは、L1、L2は、それぞれ独立してC1~2のアルキレン基若しくはアルケニレン基、-N(H)-又は-O-である。
より好ましくは、L1、L2は、それぞれ独立してC1~2のアルキレン基若しくはアルケニレン基又は-N(H)-である。
【0347】
上述した2価の基のうち-O-以外の基、すなわち、C1~3のアルキレン基若しくはアルケニレン基と-N(H)-は、さらにC1~30の炭化水素基により置換されていてもよい。当該C1~30の炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよい。また、当該C1~30の炭化水素基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。また、当該C1~30の炭化水素基は、環状構造を有していてもよく、ハロゲン原子で置換されていてもよい。さらには、当該C1~30の炭化水素基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0348】
一般式(III)中、R2は、C1~30、より好ましくはC2~28、より好ましくはC2~26、より好ましくはC2~24、より好ましくはC2~22、より好ましくはC2~20の炭化水素基である。
【0349】
R2は、飽和であっても不飽和であってもよい。また、R2は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0350】
R2は、環状構造を有していてもよい。R2の構造中に含まれる環構造の数は、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。当該環構造は3~8員環とすることができ、好ましくは4~7員環とすることができ、より好ましくは5~6員環とすることができる。
【0351】
R2は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく挙げられる。置換するハロゲン原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。
【0352】
R2は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子としては窒素原子が好ましく例示できる。
【0353】
R
2は以下に示す構造であることが好ましい。
【化3-4】
【0354】
環Dは、3~8員の環であり、より好ましくは4~6員の環であり、より好ましくは5~6員の環であり、より好ましくは6員の環である。
【0355】
環Dは、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和である場合には、環に含まれる二重結合の数は、好ましくは1~3個、より好ましくは2~3個、より好ましくは3個である。好ましくは、環Dは飽和である。
【0356】
環Dは、以下に列挙する1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
・ハロゲン原子
・C1~3の炭化水素基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい水酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよい硫酸基
・C1~3の炭化水素基で置換されていてもよいリン酸基
【0357】
より具体的には、環Dは、以下に列挙する1種又は2種以上の置換基で置換されていてもよい。
・フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子
・メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基
・水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はイソプロポキシ基
・アミノ基、或いは、アミノ基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルアミノ基
・硫酸基、メチル硫酸基、エチル硫酸基、プロピル硫酸基又はイソプロピル硫酸基
・リン酸基、或いは、リン酸基の1つ又は2つの水素原子が、それぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基で置換されたアルキルリン酸基
【0358】
環Dはヘテロ原子を含んでいてもよい。
環Dに含まれるヘテロ原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは2個である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、より好ましくは窒素原子が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個が選ばれる。
【0359】
環Dの具体例としては、シクロプロパン、シクロプロペン、シクロブタン、シクロブテン、シクロブタジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、シクロペンタン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、アジリジン、アジリン、オキシラン、オキシレン、ホスフィラン、ホスフィレン、チイラン、チイレン、ジアジリジン、ジアジリン、オキサジリジン、ジオキシラン、アゼチジン、アゼト、オキセタン、オキセト、チエタン、チエット、ジアゼチジン、ジアゼト、ジオキセタン、ジオキセト、ジチエタン、ジチエト、ピロリジン、ピロール、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ジオキソラン、ジチオラン、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピペリジン、ピリジン、ピリジニウム カチオン、テトラヒドロピラン、ピラン、ピリリウム カチオン、チアン、チオピラン、チオピリリウム カチオン、ピペラジン、ジアジン、モルフォリン、オキサジン、チオモルフォリン、チアジン、ジオキサン、ジオキシン、ジチアン、ジチイン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアジン、トリオキサン、トリチアン、テトラジン、ペンタジン、アゼパン、アゼピン、オキセパン、オキセピン、チエパン、チエピン、ジアゼパン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、オキソカン、オキソシン、チオカン、チオシン、アゾナン、アゾニン、オキソナン、オキソニン、チオナン、チオニンなどが挙げられる。
【0360】
環Dは、好ましくはC1~3の炭化水素基で置換されているピペラジンであり、より好ましくはメチル基で置換されているピペラジンである。
【0361】
L3は、C1~20の2価の炭化水素基であり、より好ましくはC1~18、より好ましくはC1~16、より好ましくはC1~14、より好ましくはC1~12、より好ましくはC1~10、より好ましくはC1~8の2価の炭化水素基である。
【0362】
L3は、飽和であっても不飽和であってもよい。また、L3は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0363】
L3は、環状構造を有していてもよい。L3の構造中に含まれる環構造の数は、好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。当該環構造は3~8員環とすることができ、好ましくは4~7員環とすることができ、より好ましくは5~6員環とすることができ、より好ましくは6員環とすることができる。
【0364】
L3は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく挙げられる。置換するハロゲン原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。
【0365】
L3は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して選択される1~6個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子としては窒素原子が好ましく例示できる。
【0366】
L3は、以下に構造を示す2価の基であることが好ましい。
【0367】
【0368】
ここで、m、lはそれぞれ独立して1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1~2の整数を表す。より好ましくはm及びlは1である。
【0369】
環Eは、3~8員の環であり、より好ましくは4~6員の環であり、より好ましくは5~6員の環であり、より好ましくは6員の環である。
【0370】
環Eは、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和である場合には、環に含まれる二重結合の数は、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。好ましくは、環Eは飽和の環である。
【0371】
環Eは複素環であってもよい。この場合、環Eに含まれるヘテロ原子の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、より好ましくは窒素原子が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から独立して1~4個、より好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、より好ましくは1個が選ばれる。
【0372】
環Eの具体例としては、シクロプロパン、シクロプロペン、シクロブタン、シクロブテン、シクロブタジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、シクロペンタン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、アジリジン、アジリン、オキシラン、オキシレン、ホスフィラン、ホスフィレン、チイラン、チイレン、ジアジリジン、ジアジリン、オキサジリジン、ジオキシラン、アゼチジン、アゼト、オキセタン、オキセト、チエタン、チエット、ジアゼチジン、ジアゼト、ジオキセタン、ジオキセト、ジチエタン、ジチエト、ピロリジン、ピロール、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ジオキソラン、ジチオラン、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、テトラゾール、オキサテトラゾール、チアテトラゾール、ペンタゾール、ピペリジン、ピリジン、ピリジニウム カチオン、テトラヒドロピラン、ピラン、ピリリウム カチオン、チアン、チオピラン、チオピリリウム カチオン、ピペラジン、ジアジン、モルフォリン、オキサジン、チオモルフォリン、チアジン、ジオキサン、ジオキシン、ジチアン、ジチイン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアジン、トリオキサン、トリチアン、テトラジン、ペンタジン、アゼパン、アゼピン、オキセパン、オキセピン、チエパン、チエピン、ジアゼパン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、オキソカン、オキソシン、チオカン、チオシン、アゾナン、アゾニン、オキソナン、オキソニン、チオナン、チオニンなどが挙げられる。
【0373】
好ましくは、環Eはシクロヘキサン又はピペリジンであり、より好ましくはピペリジンである。
【0374】
また、一つの実施形態では、L3は存在しない。
【0375】
[1-1-2-4]特定化合物の誘導体
本発明の一つの実施形態では、以下の化合物1~7の誘導体若しくはその塩又はこれらの水和物を候補物質として動物に投与する。
化合物1:3-シクロペンチル-3-[4-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1H-ピラゾール-1-イル]プロパンニトリル
化合物2:4-[3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]キノリン
化合物3:2-アミノ-5-(エチルアミノ)-5-オキソペンタン酸
化合物4:N1-ヒドロキシ-N8-フェニルオクタンジアミノ
化合物5:4-[(5-ブロモピリジン-2-イル)アミノ]-4-オキソ酪酸
化合物6:5-クロロ-2-N-{4-[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]-2-メトキシフェニル}-4-N-[2-(ジメチルホスホリル)フェニル]ピリミジン-2,4-ジアミン
化合物7:2-[[5-クロロ-2-[2-メトキシ-4-(4-メチルピペラジン-1-イル)アニリノ]ピリミジン-4-イル]アミノ]-N-メチルベンゼンスルホンアミド
これら7化合物の構造を以下に示す。
【0376】
【0377】
これら7化合物は、後述する実施例において、神経系の疾患等に対する治療又は予防効果が確認されたものである。したがって、これら7化合物の構造について任意の基を付加したり、一部の構造を任意の構造に置換したり、一部の構造を削除した誘導体であれば、当該7化合物と同様に神経系の疾患等に対する治療又は予防効果を有している可能性が高い。
したがって、これら7化合物の誘導体を候補物質とすることで、神経系の疾患等に対する治療又は予防効果を奏する有効成分を効率よくスクリーニングすることができる。
【0378】
なお、これら7化合物の誘導体を候補物質とする場合においては、以下のA´工程と、B工程及び/又はC工程と、D´工程と、を備える実施の形態としてもよい。
[A´工程]動物(ヒトを除く)に、前記7化合物の何れかをリード化合物として選択し、当該リード化合物の誘導体を候補物質として投与する工程。
[B工程]前記A工程を経た前記動物における神経未分化細胞を観察する工程。
[C工程]前記A工程を経た前記動物における神経系分化細胞を観察する工程。
[D´工程]前記リード化合物を投与した場合よりも、神経未分化細胞及び/又は神経系分化細胞の増殖作用がある場合に、前記候補物質を前記有効成分として選択する工程。
このような実施の形態とすることによって、前記7化合物をリード化合物として、その最適化を行うことができる。
【0379】
[1-2]B工程
B工程は、A工程を経た前記動物における未分化細胞を観察する工程である。
なお、本明細書において、「未分化細胞」には幹細胞と前駆体細胞の両方が含まれる。
【0380】
未分化細胞を観察する手段は特に限定されない。未分化細胞のマーカーを観察する手段と、未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子を観察する手段が好適に例示できる。以下、それぞれの手段の詳細を説明する。
【0381】
まず未分化細胞のマーカーを観察する手段を説明する。細胞はその発生過程ごとに異なる形態的・機能的な特徴を有する。このように発生過程においてその特徴に変化が生じるのは、それぞれの発生過程において様々な遺伝子の発現が時間的・空間的に制御されていることに由来する。具体的には、最も未分化な幹細胞においては分化を抑制し、全能性を維持したまま自己複製を行うために必要な遺伝子が多く発現している。分化が進むと全能性を維持する遺伝子の発現は抑制される一方、ある特定の形態をとり、ある特定の機能を発揮するために必要な遺伝子が多く発現することになる。
発生学においては、この発生過程を追跡するための手法として、ある発生段階に特異的に発現する“マーカー遺伝子”の発現を観察することが広く行われている。
本発明の好ましい実施の形態では、B工程において未分化細胞に特異的に発現するマーカーを観察する。以下、マーカー遺伝子の種類を概説する。
【0382】
神経幹細胞(神経上皮細胞)のマーカーとしては、Nestin、SOX2、Notch1、HES1、HES3、Occludin、E-cadherin、SOX10などが挙げられる。
また、ゼブラフィッシュをスクリーニングツールとして使用する場合には、神経幹細胞マーカーとしてHer-5が好ましく例示できる(Development 133(21):4293-303・December 2006)。
【0383】
シュワン前駆細胞のマーカーとしては、SOX10、GAP43、BLBP、MPZ、Dhh、P75NTRなどが好ましく例示できる。
【0384】
放射状グリア細胞のマーカーとしては、Vimentin、PAX6、HES1、HES5、GFAP、EAAT1/GLAST、BLBP、TN-C、N-cadherin、Nestin、SOX2などが挙げられる。
【0385】
オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーとしては、PDGFRA、NG2が挙げられる。
【0386】
中間前駆細胞のマーカーとしては、TBR2、MASH1が挙げられる。
【0387】
網膜幹細胞又は網膜前駆細胞のマーカーとしては、Pax6、Sox2、Nestin、vimentin、musashi、Chx10(Vsx2)が挙げられる、
【0388】
心臓未分化細胞のマーカーとしては、Mesp1やNkx2.5などが挙げられる。
【0389】
膵未分化細胞のマーカーとしては、Pdx1やPtflaなどが挙げられる。
【0390】
なお、上述したマーカーのうち幾つかは分化細胞においても発現している。本発明は、このように未分化細胞と分化細胞の両方において発現する遺伝子をマーカーとして用いる実施の形態としてもよい。この場合には、B工程とC工程を同時に行う形態(
図5(c))に該当する。
【0391】
これらマーカーを観察する手段として、それぞれの遺伝子産物であるタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色が好ましく例示できる。免疫染色の具体的な方法は特に限定されず、常法により行うことができる。
【0392】
また、それぞれの遺伝子の転写産物であるmRNAと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸分子(プローブ)とのハイブリダイゼーションを利用するインサイチューハイブリダイゼーションによりマーカーを観察してもよい。インサイチューハイブリダイゼーションの具体的な方法は特に限定されず、常法により行うことができる。
【0393】
次に未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を用いる方法について説明する。
レポーター遺伝子とは、細胞内でのある遺伝子の発現を可視化するための外来遺伝子のことをいう。発現を可視化したい遺伝子の発現制御領域下に蛍光タンパクなどをコードした塩基配列を挿入することにより、その遺伝子の発現と同調して細胞が蛍光を発するように設計する。
本発明の一つの実施の形態においては、未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物をスクリーニングツールとして使用する。この場合、B工程において未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
【0394】
このようなトランスジェニック動物は、従来用いられている既知の遺伝子編集技術により作製することができる。
未分化細胞において特異的に正に発現制御するプロモーターが公知である場合には、当該プロモーターの下流にレポーター遺伝子配列をつないだ塩基配列をゲノムに挿入することで、特定の細胞において特異的に発現するトランスジェニック動物を作製することができる。
また、上述のように未分化細胞のマーカー遺伝子は既知であるので、当該マーカー遺伝子の遺伝子座へレポーター遺伝子を導入することで、トランスジェニック動物を作製することができる。これにより、前記マーカー遺伝子の発現と同調してレポーター遺伝子が発現する。
【0395】
レポーター遺伝子としては、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、GFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2 Red、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、KeimaRed、mRasberry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGRなどの蛍光タンパク質や、LacZのような呈色反応を触媒するタンパク質などをコードする遺伝子が例示できる。
【0396】
レポーター遺伝子導入の具体的設計方法は限定されないが、マーカー遺伝子のオープンリーディングフレームの任意の位置、より好ましくは当該マーカー遺伝子の産物であるタンパク質の機能やトポロジーを破壊しない任意の位置にレポーター遺伝子のcDNA配列を導入し、マーカー遺伝子とレポーター遺伝子の融合タンパク質が発現するように設計されたトランスジェニック動物を用いることが好ましい。
【0397】
このような未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック系統は種々樹立されており、利用可能な何れの系統を使用してもよい。以下に神経未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック系統について幾つか例を示すが、本発明の実施の形態はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0398】
・Her5-GFPトランスジェニックゼブラフィッシュ系統(Development. 2003 Sep;130(18):4307-23.)
・Nestin-GFPトランスジェニックゼブラフィッシュ系統(Developmental Dynamics 2009 Feb;238(2):475-86.)
・Gfap-GFPトランスジェニックゼブラフィッシュ系統(Developmental Dynamics 2009 Feb;238(2):475-86.)
・Nestin-GFPトランスジェニックマウス系統(The Journal of comparative neurogy,Volume469, Issue39 February 2004,Pages 311-324)
【0399】
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質である場合、トランスジェニック動物に当該蛍光タンパク質の励起波長の光を照射することで発せられる蛍光を観察する。
蛍光は蛍光顕微鏡により観察することができる。蛍光部の輝度と面積に基づき、動物の体内での未分化細胞の増殖を定量することができる。
【0400】
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質である場合、スクリーニングツールであるトランスジェニック動物が生きた状態で経時的かつ動態的に未分化細胞を可視化することができるので好ましい。
かかる効果を最大限に引き上げるため、トランスジェニック動物は、体色が薄いか透明~半透明である動物であることが好ましい。このような動物としてはゼブラフィッシュが挙げられる。
【0401】
ゼブラフィッシュ胚を用いる場合、メラニン色素の生成を抑制するため、A工程においてメラニン産生抑制剤(例えばフェニルチオ尿素)を培養液に添加することが好ましい。
【0402】
[1-3]C工程
C工程は、A工程を経た前記動物における分化細胞を観察する工程である。より具体的には、分化細胞の量的パラメータや質的パラメータを観察する。量的パラメータとは、細胞数、組織の大きさ・範囲などが挙げられる。質的パラメータとしては、その分化細胞により構成される組織の機能や形状などが挙げられる。組織の機能を観察する場合には、その観察する組織の種類に応じて観察すべき機能を選定する。例えば、心臓を観察する場合には拍出量などを観察することで、心機能を評価することができる。また、膵臓を観察する場合には、膵臓の分泌物であるインスリンの量などを観察することで、膵臓の機能を評価することができる。
【0403】
なお、本明細書において「分化細胞」とは自己複製能が無い細胞を意味する。
「神経系分化細胞」という場合には、各種の神経細胞とグリア細胞が含まれる。また、本明細書において未熟神経細胞は分裂性神経前駆細胞と非分裂性神経前駆細胞に分けられ、前者は神経未分化細胞、後者は神経系分化細胞に含まれる。
【0404】
分化細胞を観察する手段は特に限定されない。分化細胞のマーカーを観察する手段と、分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子を観察する手段が好適に例示できる。以下、それぞれの手段の詳細を説明する。
【0405】
本発明の好ましい実施の形態では、C工程において分化細胞に特異的に発現するマーカーを観察する。以下、マーカー遺伝子の種類を概説する。
【0406】
未熟神経細胞のうち、非分裂性神経前駆細胞に分類されるものは、同じく未成熟な神経系の細胞である神経幹細胞や放射状グリア細胞とは異なり、これ以上細胞分裂は起こさない。神経系を移動して目的地に達した後、神経突起を伸展させてシナプス結合し、最終的に神経回路網の一員となる細胞である。
非分裂性神経前駆細胞に分類される未熟神経細胞のマーカーとしては、Doublecortin、NeuroD1、TBR1、Beta III tubulin、Stathmin 1などが挙げられる。
【0407】
アセチル化チューブリンは、安定化された微小管のマーカーである。そして、神経細胞において伸長している軸索の細胞体に近い方に存在する微小管は、安定で寿命が長いアセチル化チューブリンにより構成されている。
したがって、軸索の伸長している成熟した神経細胞のマーカーとしてアセチル化チューブリンは有用である。
【0408】
また、成熟神経細胞のマーカーとしては、NeuN、MAP2、Beta III tubulin、160kD Neurofilament、200kD Neurofilament、NSE、PSD93、PSD95などが挙げられる。
【0409】
より具体的にグルタミン酸作動性神経細胞のマーカーとしては、vGluT1、vGluT2、Glutaminase、Glutamine synthetase、NMDAR1、NMDAR2Bなどが挙げられる。
【0410】
GABA作動性神経細胞のマーカーとしては、GABA transporter 1、GABAB Receptor 1、GABAB Receptor 2、GAD65、GAD67、ABATなどが挙げられる。
【0411】
ドーパミン作動性神経細胞のマーカーとしては、Tyrosine Hydroxylase、Dopamine Transporter、FOXA2、GIRK2、LMX1B、Nurr1などが挙げられる。
【0412】
セロトニン作動性神経細胞のマーカーとしては、Tryptophan Hydroxylase、Serotonin Transporter、Pet1などが挙げられる。
【0413】
コリン作動性神経細胞のマーカーとしては、Acetylcholinesterase、ChAT、VAChTなどが挙げられる。
【0414】
また、グリア細胞のマーカーとしては具体的に以下のものがある。
髄鞘形成シュワン細胞のマーカーとしては、SOX10、S100、EGR2、MBP、MPZなどが挙げられる。
【0415】
非髄鞘形成シュワン細胞のマーカーとしては、SOX10、S100、GAP43、NCAM、P75NTRなどが挙げられる。
【0416】
オリゴデンドロサイトのマーカーとしては、Olig1、Olig2、Olig3、OSP、MBP、MOG、SOX10などが挙げられる。
【0417】
アストロサイトのマーカーとしては、GFAP、EAAT1/GLAST、EAAT2/GLT-1、Glutamine synthetase、S100 beta、ALDH1L1などが挙げられる。
【0418】
網膜神経節細胞のマーカーとしては、Thy-1、Sdk1、Sdk2などが挙げられる。
【0419】
また、心筋細胞のマーカーとしては、GATA-4、α-Sarcomeric Actin、α-Sarcomeric Actinin、Slow Myosin Heavy Chain、Troponin T-C、MYL-2などが挙げられる。
【0420】
成熟膵β細胞マーカーとしては、インスリン、C-ペプチド、MAFA、NKX6.1、PDX1、Fltpなどが挙げられる。
【0421】
なお、上述したマーカーのうち幾つかは未分化細胞においても発現している。本発明は、このように未分化細胞と分化細胞の両方において発現する遺伝子をマーカーとして用いる実施の形態としてもよい。この場合には、B工程とC工程を同時に行う形態(
図5(c))に該当する。
【0422】
これらマーカーを観察する手段として、免疫染色やインサイチューハイブリダイゼーションが好適に例示できる。これらの観察手段による分化細胞の観察は、常法により行うことができる。
【0423】
本発明の一つの実施の形態においては、分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物をスクリーニングツールとして使用する。この場合、C工程において分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
【0424】
このようなトランスジェニック動物は、上のB工程の説明項目で述べたのと同様に、従来用いられている既知の遺伝子編集技術により作製することができる。レポーター遺伝子の種類に関しても上のB工程の説明項目で述べたのと同様である。
【0425】
分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック系統は種々樹立されており、利用可能な何れの系統を使用してもよい。神経系分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック系統を以下に幾つか例を示すが、本発明の実施の形態はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0426】
・Huc-GFPトランスジェニックゼブラフィッシュ系統(Developmental Biology 227, 279-293 (2000))
・Ggaf-GFPトランスジェニックゼブラフィッシュ系統(Developmental Dynamics 2009 Feb;238(2):475-86.)
【0427】
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質である場合、トランスジェニック動物に当該蛍光タンパク質の励起波長の光を照射することで発せられる蛍光を観察する。
蛍光は蛍光顕微鏡により観察することができる。蛍光の輝度に基づき、動物の体内での分化細胞の増殖を定量することができる。
【0428】
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質である場合、スクリーニングツールであるトランスジェニック動物が生きた状態で経時的かつ動態的に分化細胞を可視化することができるので好ましい。
かかる効果を最大限に引き上げるため、トランスジェニック動物は、体色が薄いか透明~半透明である動物であることが好ましい。このような動物としてはゼブラフィッシュが挙げられる。
【0429】
ゼブラフィッシュ胚を用いる場合、メラニン色素の生成を抑制するため、A工程においてメラニン産生抑制剤(例えばフェニルチオ尿素)を培養液に添加することが好ましい。
【0430】
[1-4]B工程及びC工程の両工程を実施する形態
本項目ではB工程とC工程の2つの工程を両方とも行う実施の形態(
図4)について説明をさらに加える。
図5を参照して説明をしたように、B工程とC工程の順序は特に限定されず、かつ、これらの工程は同時に行われてもよい。
また、B工程とC工程は同一の動物個体に対して行う形態としてもよいし、別の動物個体に対して行う形態としてもよい。後者の場合、B工程とC工程のそれぞれに供する動物個体に対する実験条件は可能な限りそろえて行う。
【0431】
本発明の好ましい形態では、B工程とC工程は同一の動物個体に対して行う。以下、B工程とC工程を同一の動物個体に対して行う実施の形態について説明を加える。
【0432】
本発明の一つの形態では、B工程において未分化細胞マーカーを観察し、C工程においても分化細胞マーカーを観察する。
かかる形態においては、A工程を経た動物を染色のために固定し、未分化細胞マーカーと分化細胞マーカーに対する抗体/プローブにより、多重染色する実施の形態とすることが好ましい。多重染色することにより、未分化細胞と分化細胞を同時に観察することができる。
多重染色を行う場合には、常法に従って、未分化細胞マーカーと分化細胞マーカーに対する抗体/プローブの標識が混同しないように設計する。蛍光標識の場合には、励起波長と蛍光波長が互いに異なる標識を用いる。
【0433】
本発明の一つの形態では、未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を用いる。そして、B工程においてレポーター遺伝子の発現を観察し、C工程において分化細胞マーカーを観察する。
この場合には、動物が生きた状態で観察ができるB工程(蛍光観察など)を先に行い、その後、C工程(免疫染色など)を行う実施の形態とすることが好ましい。
かかる形態とすることにより、未分化細胞の自己複製を経時的に追跡観察し、未分化細胞が増殖した結果としての分化細胞の増殖の効果を評価することができる。
【0434】
本発明の一つの形態では、分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を用いる。そして、B工程において未分化細胞マーカーを観察し、C工程において分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
この場合には、動物が生きた状態で観察ができるC工程(蛍光観察など)を先に行い、その後、B工程(免疫染色など)を行う実施の形態とすることが好ましい。
かかる形態とすることにより、分化細胞の増殖を経時的に追跡観察し、分化細胞の増殖の原因としての未分化細胞の自己複製の効果を評価することができる。
【0435】
本発明の別の形態では、スクリーニングツールとして使用する動物が、未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子、及び分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子が両方とも導入されたトランスジェニック動物である。そして、B工程において未分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察し、C工程において分化細胞で特異的に発現するレポーター遺伝子の発現を観察する。
【0436】
このように未分化細胞のレポーター遺伝子と分化細胞のレポーター遺伝子の2つが導入されたトランスジェニック動物を使用することで、B工程とC工程の両工程を動物が生きた状態で経時的に、かつ動的に実行することができる。また、B工程とC工程を同時に行うことができるため、動物への負担も少ない。
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である場合、未分化細胞のレポーター遺伝子と分化細胞のレポーター遺伝子は、互いに異なる励起波長と蛍光波長を有する蛍光タンパク質をコードする遺伝子であることが好ましい。
【0437】
[1-5]D工程
D工程は、B工程及び/又はC工程の観察結果を評価して有効成分を選択する工程である。詳しくは、D工程は、候補物質を投与しない場合と比較して、未分化細胞及び/又は分化細胞の量的及び/又は質的な向上をもたらす候補物質を有効成分として選択する工程である。
【0438】
B工程を実施する場合には、D工程において、候補物質を投与しない場合と比較して、未分化細胞の量を向上させる候補物質を有効成分として選択する。
C工程を実施する場合には、D工程において、候補物質を投与しない場合と比較して、分化細胞の量を向上させる候補物質を有効成分として選択する。また、候補物質を投与しない場合と比較して、分化細胞により構成される組織の機能を向上させる候補物質を有効成分として選択する。
【0439】
未分化細胞及び/又は分化細胞の増殖を促進する効果の評価は、B工程とC工程の具体的実施形態にあわせて適宜なしうる。
例えば、B工程及び/又はC工程で免疫染色又はインサイチューハイブリダイゼーションを行う場合には、染色像における蛍光又は呈色の強度及びその範囲を指標とすることで、前記細胞の増殖効果を評価することができる。すなわち、染色像における蛍光又は呈色の強度及びその範囲が強い又は広い場合には、候補物質には未分化細胞及び/又は分化細胞の増殖を促進する効果があったものと判別できる。
【0440】
未分化細胞及び/又は分化細胞の増殖効果は、候補物質を投与しないこと以外は条件を揃えて実施した対照実験の結果を比較対象として評価することが好ましい。
対照実験はA工程~D工程と同時に行ってもよいし、一度実施した対照実験の結果を記録し、これを参照して評価する形態としてもよい。
【0441】
[1-6]二段階スクリーニング
上述のとおり本発明はA工程と、B工程及び/又はC工程と、D工程と、を備える。A工程~D工程を2回以上行う実施形態としてもよい。すなわち、一次スクリーニングとしてのA工程~D工程を実施して選択された有効成分を候補物質として、さらに二次スクリーニングとしてのA工程~D工程に供してもよい。この場合、一次スクリーニングと二次スクリーニングの条件を変更することが好ましい。
例えば一次スクリーニングは胚を使用し、二次スクリーニングは成体を使用する実施形態としてもよい。
また、一次スクリーニングで使用する動物よりも高度な動物を二次スクリーニングで使用する形態としてもよい。具体的には、一次スクリーニングで魚類を使用し、二次スクリーニングで哺乳類を使用する実施形態が挙げられる。
【0442】
本発明の一つの実施形態では、A工程として以下のA1工程及びA2工程を含み、B工程として以下のB1工程及びB2工程を含み、C工程として以下のC1工程及びC2工程を含み、D工程として以下のD1工程及びD2工程を含む。B1工程とC1工程は何れか一方又は両方を実施してもよく、B2工程とC2工程はいずれか一方又は両方を実施してもよい。
[A1工程]動物の胚に候補物質を投与する工程。
[B1工程]前記A1工程を経た前記動物の胚における未分化細胞を観察する工程。
[C1工程]前記A1工程を経た前記動物の胚における分化細胞を観察する工程。
[D1工程]前記B1工程及び/又は前記C1工程の結果、候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞及び/又は前記分化細胞の量を向上させる候補物質を有効成分として選択する工程。
[A2工程]動物の成体に、前記D1工程で選択された有効成分を投与する工程。
[B2工程]前記A2工程を経た前記動物の成体における未分化細胞を観察する工程。
[C2工程]前記A2工程を経た前記動物の成体における分化細胞を観察する工程。
[D2工程]前記B2工程及び/又は前記C2工程の結果、候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞及び/又は前記分化細胞の量を向上させる候補物質を有効成分として選択する工程。
【0443】
A1~D1工程は胚を使った一次スクリーニングであり、後半のA2~D2工程は動物の成体を使った二次スクリーニングである。このように二段階のスクリーニングを行うことによって、より精度よく有効成分をスクリーニングすることができる。
【0444】
好ましくは、A1~D1工程は魚類胚を使った一次スクリーニングであり、後半のA2~D2工程は哺乳類の成体を使った二次スクリーニングである。一次スクリーニングにおいては魚類胚を使用することで簡便に大量に一次スクリーニングを行うことが可能となる。そして二次スクリーニングで哺乳類の成体を使用することで人において有効となる可能性の高い有効成分を選択することができる。
【0445】
好ましくは、A1~D1工程はゼブラフィッシュ胚を使った一次スクリーニングであり、後半のA2~D2工程はマウスの成体を使った二次スクリーニングである。一次スクリーニングにおいてはゼブラフィッシュ胚を使用することで簡便に大量に一次スクリーニングを行うことが可能となる。そして二次スクリーニングでマウスの成体を使用することで人において有効となる可能性の高い有効成分を選択することができる。
【0446】
本発明の一つの実施形態では、A工程として以下のA1工程及びA2工程を含み、B工程として以下のB1工程及びB2工程を含み、C工程として以下のC1工程及びC2工程を含み、D工程として以下のD1工程及びD2工程を含む。B1工程とC1工程は何れか一方又は両方を実施してもよく、B2工程とC2工程はいずれか一方又は両方を実施してもよい。
[A1工程]魚類の胚に候補物質を投与する工程。
[B1工程]前記A1工程を経た前記動物の胚における未分化細胞を観察する工程。
[C1工程]前記A1工程を経た前記動物の胚における分化細胞を観察する工程。
[D1工程]前記B1工程及び/又は前記C1工程の結果、候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞及び/又は前記分化細胞の量を向上させる候補物質を有効成分として選択する工程。
[A2工程]哺乳類に、前記D1工程で選択された有効成分を投与する工程。
[B2工程]前記A2工程を経た前記哺乳類における未分化細胞を観察する工程。
[C2工程]前記A2工程を経た前記哺乳類における分化細胞を観察する工程。
[D2工程]前記B2工程及び/又は前記C2工程の結果、候補物質を投与しない場合と比較して、前記未分化細胞及び/又は前記分化細胞の量を向上させる候補物質を有効成分として選択する工程。
【0447】
A1~D1工程は魚類胚を使った一次スクリーニングであり、後半のA2~D2工程は哺乳類を使った二次スクリーニングである。このように二段階のスクリーニングを行うことによって、より精度よく有効成分をスクリーニングすることができる。A2工程においては、哺乳類の成体と胚の何れを使用する実施形態としてもよい。
一次スクリーニングにおいては魚類胚を使用することで簡便に大量に一次スクリーニングを行うことが可能となる。そして二次スクリーニングで哺乳類を使用することで人において有効となる可能性の高い有効成分を選択することができる。
【0448】
[2]第2のスクリーニング方法
次いで第2のスクリーニング方法の実施形態を説明する。
第2のスクリーニング方法は、以下のE工程~G工程を備える。
[E工程]疾患、障害、若しくは疾病のモデル動物(ヒトを除く)に候補物質を投与する工程。
[F工程]E工程を経た前記動物における疾患、障害、若しくは疾病の治療効果を判定する工程。
[G工程]治療効果を有する候補物質を前記有効成分として選択する工程。
【0449】
[2-1]E工程
第2のスクリーニング方法においては、疾患等のモデル動物を用いることを特徴とする(E工程)。好ましくは、神経系、心臓又は膵臓の疾患等のモデル動物を用いる。また、がんのモデル動物を用いることも好ましい。
E工程の具体的な実施形態については、上述したA工程の説明が妥当し、特に疾患等のモデル動物に関する説明がそのまま妥当する。
【0450】
なお、がんのモデル動物としては、特に限定されず、遺伝子工学的手法によって癌抑制遺伝子を欠損させたものだけでなく、免疫不全動物に腫瘍細胞又は腫瘍組織を移植して作製したモデル動物を使用することができる。様々な種類のがんモデル動物が有料又は無料で利用可能であり、目的に応じてこれらを制限なく使用することができる。
【0451】
血液がん、特に白血病のモデル動物については、例えば、T細胞性急性リンパ性白血病モデルマウス(p53null,Ezh2コンディショナルKO)(非特許文献26)、コンディショナルmyc誘導性のT細胞急性リンパ芽球性白血病を有するCre/lox制御性トランスジェニックゼブラフィッシュモデル(非特許文献27)などが挙げられる。
【0452】
糖尿病のモデル動物としては、NOD/ShiJclなどの1型糖尿病モデルマウス、KK/TaJcl、KK-Ay/TaJcl、BKS.Cg-m+/+Leprdb/Jcl、GK/Jcl、SDT/Jcl、SDT fatty/Jclなどの2型糖尿病モデルマウスが挙げられる。また、ストレプトゾトチン(STZ)で誘発したラット、マウス、ゼブラフィッシュの1型糖尿病モデルなどのような薬剤誘導型糖尿病モデル動物を使用してもよい。
【0453】
心筋障害のモデル動物としては、心毒性、特に左室機能障害をきたすドキソルビシン(DOX)によって心筋障害を誘導したマウス、ラット、ゼブラフィッシュなどが挙げられる。
【0454】
E工程においては、疾患に罹患することにより、損傷又は機能減退している部位又はその近傍に候補物質を局所投与する形態とすることが好ましい。その他、候補物質を経口投与、経皮投与、経腸投与などの形態で投与しても構わない。投与形態は疾患の種類によって適宜設計することができる。
【0455】
緑内障モデルに投与する場合には、網膜に候補物質を滴下又は塗布することが好ましい。
脊髄損傷モデルに投与する場合には、脊髄損傷部位に候補物質を投与することが好ましい。
血液がんモデル、糖尿病モデル、心筋障害モデルに投与する場合には、血管に候補物質を注射投与することが好ましい。
【0456】
[2-2]F工程
F工程においては、E工程を経た動物における疾患、障害、若しくは疾病の治療効果を判定する。
治療効果の判定の方法には、疾患モデル動物の外観・行動の観察、解剖学的・病理学的診断などが含まれ、疾患モデル動物が罹患している疾患等の性質に合わせて適宜設計することができる。
【0457】
疾患モデルの外観・行動の観察の具定例としては以下のものを挙げることができる。
例えば鬱病モデルにおける治療効果は、強制水泳試験(マウス,ラット)や尾懸垂試験(マウス)により判定することができる。
不安症モデルにおける治療効果は、Vogel型コンフリクト試験(ラット)、社会的相互作用試験(ラット)により判定することができる。
脊髄損傷モデルにおける治療効果は、脊髄損傷により失われていた運動機能の回復の有無を指標として判定することができる。
緑内障モデルにおける治療効果は、水からの逃避反応を指標とする2肢選択型の視覚弁別課題(Prusky,West,&Douglas(2000))、餌を報酬とした欲求性事態での弁別課題(Gianfranceschi,Fiorentini,&Maffei(1999))、視運動反応を利用した試験(Douglas,Alam,Silver,Mcgill,Tschetter,&Prusky,2005)などにより判定することができる。
糖尿病モデルにおける治療効果は、インスリン分泌量の測定、血糖値の測定などの指標に基づき判定することができる。
心筋障害モデルにおける治療効果は、障害により減弱した心筋機能の回復、すなわち心機能の回復を拍出量などの指標に基づき判定することができる。
【0458】
がんの治療効果は、腫瘍の縮小効果や血中に漏出した腫瘍マーカーなどを指標として判定することができる。
また、上述した第1のスクリーニング方法によって選択された有効成分は、がん細胞を正常細胞に強制的に分化させることで抗がん作用を発揮する。したがって、がん細胞の正常細胞への分化が観察されるか否かを指標として、治療効果を判定することができる。
【0459】
上述した第1のスクリーニング方法で選択された有効成分は、白血病などの血液がんに適用すると、がん細胞の血管内皮細胞への強制的な分化を促す。これによって、有害ながん細胞を無害化する。したがって、特に血液がん、例えば白血病の治療効果は、血管内皮の肥厚化又は腫瘤化の有無を観察する。また、血行性転位やリンパ行性転位などの液性の転位を示すがんについても、血管内皮又はリンパ管内皮の肥厚化又は腫瘤化の有無を観察する。
【0460】
解剖学的・病理学的診断の具体例としては以下のものを例示することができる。
緑内障モデルにおける治療効果は、損傷していた網膜神経節細胞の増加の有無を観察することにより判定することができる。網膜神経節細胞の増加の有無の観察手法の具体的実施態様については、上の第1のスクリーニング方法の項目の中の説明がそのまま妥当する。
脊髄損傷モデルにおける治療効果は、挫滅した脊髄を顕微鏡やMRIなどで観察し、その再生効果を指標として判定することができる。
【0461】
治療効果の判定をより精度よく行うため、対照実験を行うことが好ましい。対照実験は、候補物質を投与しないこと以外の条件を揃えて実施することが好ましい。対照実験はE工程及びF工程と同時並行して実施してもよいが、一度取得した対照実験の結果を記録しておき、これを参照してF工程で治療効果の判定を行ってもよい。
【0462】
[2-3]G工程
G工程は、F工程で治療効果を有するものと判定された候補物質を有効成分として選択する工程である。
【0463】
[3]2段階スクリーニング方法
本発明は、第1のスクリーニング方法により一次スクリーニングを行い、一次スクリーニングにおいて有効成分として選択された候補物質を第2のスクリーニング方法に供する、2段階のスクリーニング方法にも関する。
第1のスクリーニング方法及び第2のスクリーニング方法の実施の形態は上述した通りである。
【0464】
好ましくは第1のスクリーニング方法のA工程においては、疾患モデル動物を使用せず、正常動物を用いる。つまり、第1のスクリーニング方法では、安価に大量に取得できる正常動物を用いて低コストで大量の候補物質に対して一次スクリーニングを実行する。そして一次スクリーニングにより候補物質の数が絞られた後に、疾患モデルを用いた二次スクリーニングを実行する。このように2段階のスクリーニングを行うことで、効率的・経済的に神経系の疾患等に効果のある有効成分をスクリーニングすることができる。
【0465】
本発明の一つの実施形態では、第1のスクリーニングにおいてはスクリーニングツールとして胚を用いる。
本発明の一つの実施形態では、第1のスクリーニングにおいてはスクリーニングツールとして魚類の胚、より好ましくはゼブラフィッシュの胚を用い、第2のスクリーニングにおいてはスクリーニングツールとして哺乳類、より好ましくはマウス又はラットを用いる。
【0466】
本発明の一つの実施形態では、第1のスクリーニングの結果、有効成分として選択された候補物質を第2のスクリーニング方法に供する形態としてもよい。この場合、他機関によって実施された第1のスクリーニングの結果に基づき、第2のスクリーニング方法を実行する形態としてもよい。すなわち、本発明の実施者は第2のスクリーニング方法のみを実行する形態としてもよい。
【0467】
[4]製造方法
本発明は、上述したスクリーニング方法により有効成分として選択された物質と医薬添加剤を混合して製剤化する製剤化工程を備える、医薬組成物の製造方法にも関する。
【0468】
本発明の製造方法の実施者は、自ら上述したスクリーニング方法を実施してもよい。また、他者が上述したスクリーニング方法を実施した結果に基づき製造方法の発明を実施する形態としてもよい。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、上述したスクリーニング方法により有効成分をスクリーニングするスクリーニング工程を備える。スクリーニング工程の実施態様は上述した通りである。
また、本発明の一つの実施形態では、上述したスクリーニング方法により有効成分であると既に判定されている物質を用いて、製造方法の発明を実施する。
【0469】
以下、スクリーニングにおいて有効成分として選択された物質と医薬添加剤を混合して製剤化する製剤化工程について詳細に説明を加える。
【0470】
医薬組成物は、治療又は予防したい疾患等によって、その剤形及び組成を適宜設計することができる。
医薬組成物は、上述した有効成分と任意の医薬添加剤とを含む。医薬組成物を固形製剤の形態とする場合には、顆粒剤、ドライシロップ剤、細粒剤、錠剤、散剤、カプセル剤、丸剤の剤形を適宜選択することができる。これら剤形の製剤化手法は常法による。
【0471】
医薬組成物を固形製剤の形態とする場合には安定化剤を含有してもよい。安定化剤としては、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムギ酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸およびフマル酸、ミグリオール(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、クエン酸トリエチルおよびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリアセチン(グリセリルトリアセタート)、グリセリン脂肪酸エステル、アシルグリセロール、モノグリセリド誘導体およびポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0472】
医薬組成物を固形製剤の形態とする場合には賦形剤を含有してもよい。賦形剤としては、イソマルト、エリスリトール、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、ラクチトール、オリゴ糖アルコール、キシロース、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)、ショ糖(シュクロース)、フルクトース、トレハロース、異性化糖、水飴、精製白糖、白糖、精製白糖球状顆粒、無水乳糖、白糖・デンプン球状顆粒、オリゴ糖、デキストリン、でんぷん等のような多糖類、半消化体デンプン、ブドウ糖水和物、結晶セルロース、微結晶セルロース、プルラン、β-シクロデキストリン、アミノエチルスルホン酸、アメ粉、塩化ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリシン、グルコン酸カルシウム、L-グルタミン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、デキストラン40、デキストリン、乳酸カルシウム、ポビドン、マクロゴール(ポリエチレングリコール)1500、マクロゴール1540、マクロゴール4000、マクロゴール6000、無水クエン酸、DL-リンゴ酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、L-アスパラギン酸、アルギン酸、カルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素、クロスポビドン、グリセロリン酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、小麦粉、コムギデンプン、コムギ胚芽粉、小麦胚芽油、米粉、コメデンプン、酢酸フタル酸セルロース、酸化チタン、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、第三リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、天然ケイ酸アルミニウム、トウモロコシデンプン、トウモロコシデンプン造粒物、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、無水リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム造粒物、リン酸二水素カルシウム等が挙げられる。
【0473】
医薬組成物を固形製剤の形態とし、当該固形製剤を水中に懸濁させ、その懸濁液を服用させる形態とすることもできる。この場合、懸濁化剤として、カルメロース、カルメロースナトリウム、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、メチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、フマル酸・ステアリン酸・ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート・ヒドロキシプロピルメチルセルロース混合物等のセルロース系高分子、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、2-メチル-5-ビニルピリジンメチルアクリレート・メタクリル酸コポリマー、乾燥メタクリル酸コポリマー、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー等のアクリル系高分子、ポリビニルピロリドン、クロスポビドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・メチルメタクリレート・アクリル酸共重合体およびポリビニルアルコールコポリマー等のビニル系高分子、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、乾燥水酸化アルミニウムゲル、キサンタンガム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ポリリン酸ナトリウム、マクロゴール4000、マクロゴール6000等があるが、好ましくは、カルメロース、カルメロースナトリウム、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドンであり、より好ましくはヒプロメロースなどを使用することができる。
【0474】
医薬組成物を固形製剤の形態とする場合、滑沢性を向上させるために、滑沢剤を配合してもよい。滑沢剤としては、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルクなどが挙げられる。
【0475】
医薬組成物を固形製剤にする場合において、苦味等、味の悪い薬物に添加して味を矯正するために、矯味剤を配合してもよい。矯味剤としては、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アスパルテーム、スクラロース、グリシン、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、希塩酸、クエン酸およびその塩、無水クエン酸、L-グルタミン酸およびその塩、コハク酸およびその塩、酢酸、酒石酸およびその塩、炭酸水素ナトリウム、フマル酸およびその塩、リンゴ酸およびその塩、氷酢酸、イノシン酸二ナトリウム、ハチミツ、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、カンゾウ末等が挙げられる。
【0476】
医薬組成物を固形製剤とする場合、結合剤を含有してもよい。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、アラビアゴム、アラビアゴム末、ゼラチン、カンテン、デキストリン、プルラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース等が挙げられる。
【0477】
医薬組成物を固形製剤とする場合は、崩壊剤を含有してもよい。崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0478】
医薬組成物を固形製剤とする場合、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、酸化鉄、タール色素および天然色素等が挙げられる。酸化鉄としては、三二酸化鉄、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄等が挙げられる。
【0479】
医薬組成物を固形製剤とする場合には、さらに必要であれば、香料や甘味剤を添加してもよい。
香料として、具体的には、オレンジエッセンス、オレンジ油、カラメル、カンフル、ケイヒ油、スペアミント油、ストロベリーエッセンス、チョコレートエッセンス、チェリーフレーバー、トウヒ油、パインオイル、ハッカ油、バニラフレーバー、ストロベリーフレーバー、ビターエッセンス、フルーツフレーバー、ペパーミントエッセンス、ミックスフレーバー、ミントフレーバー、メントール、レモンパウダー、レモン油、ローズ油等が挙げられる。
甘味剤として、具体的には、アスパルテーム、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、カンゾウ、キシリトール、グリセリン、サッカリン、スクラロース、D-ソルビトール、アセスルファムカリウム、ステビア、タウマチン、アドパンテーム等が挙げられる。
【0480】
また、医薬組成物は、非経口投与剤の剤形とすることができる。例えば、静脈内注射、脳内注射、髄腔内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤、点眼薬、眼軟膏液剤や軟膏などの流動性のある剤形とすることができる。このような流動性のある剤形は、有効成分を患部に直接投与する形態とする場合に有利である。
液剤としては注射剤又は点眼薬の形態とすることが好ましい。また、軟膏としては眼軟膏の形態とすることが好ましい。
【0481】
医薬組成物を注射剤とする場合には、水性媒体としては、水(すなわち、注射用水)の他、水混和性溶媒を水に混合したものが挙げられる。そのような水混和性溶媒としては、例えば、アルコール類(例えば、脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)またはアリールアルコール)、ポリオール類、エステル類、ハロゲン化アルキル類、エーテル類、シアニド類/ニトリル類、ケトン類、アルデヒド類、アミン類、アミド類、ホルムアミド類、スルフィド類、スルホキシド類およびカルボン酸類が挙げられる。
【0482】
医薬組成物を注射剤とする場合には、pH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、注射剤に通常用いられるpH調整剤を用いることができる。具体的には、酸性側に傾ける場合には、酢酸、乳酸、リン酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、塩酸、グルコン酸、硫酸などの酸性物質を用いることができ、塩基性側に傾ける場合には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど塩基性物質を使用することができる。
【0483】
医薬組成物を注射剤とする場合には、等張化剤を添加することができる。等張化剤としては、例えば、グルコース、マルトース、α-トレハロース、ソルビトール、マンニトール等の糖類や糖アルコール類、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウムなどの電解質などを例示することができる。
【0484】
医薬組成物を注射剤とする場合には、緩衝材を添加することができる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤(例えば、酢酸ナトリウム水和物)、リン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤などを例示することができる。
【0485】
医薬組成物を注射剤とする場合には、注射剤に通常用いられる配合成分を添加することができる。そのような配合成分としては、例えば、希釈剤、無痛化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0486】
医薬組成物は、水性媒体を添加することにより注射剤を調製可能な凍結乾燥注射剤の形態としてもよい。凍結乾燥形態の注射剤用医薬組成物は、上記で説明した水性溶液形態の注射剤用医薬組成物を、常法により、凍結乾燥することにより製造することができる。
【0487】
医薬組成物は、より具体的には脳内投与用注射剤や脳室内投与用注射剤、脊髄投与用注射剤の形態とすることが好ましい。
【0488】
医薬組成物は点眼薬の形態とすることができる。点眼薬の形態とする場合、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、リブロース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、マルトース、トレハロース、スクロース、セロビオース、ラクトース、プルラン、ラクツロース、ラフィノース、マルチトールなどの糖類を添加してもよい。
【0489】
医薬組成物を点眼薬の形態とする場合、エチレンジアミンのポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー付加物(例えば、ポロキサミン)、モノラウリル酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20) 、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン (ポリソルベート80) などのPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE(60)硬化ヒマシ油などのPOE硬化ヒマシ油、POE(9) ラウリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類、POE(20)POP(4) セチルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類、POE(10)ノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類などの非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型、イミダゾリン型などの両性界面活性剤;POE(10)ラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテルリン酸及びその塩、ラウロイルメチルアラニンナトリウムなどのN-アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、N-ココイルメチルタウリンナトリウムなどのN-アシルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、POE(3) ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩などの陰イオン界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキル4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)、アルキルピリジニウム塩(塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウムなど)などの陽イオン界面活性剤などを添加してもよい。
【0490】
医薬組成物を点眼薬とする場合、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤を添加しても良い。具体的には、ソルビン酸またはその塩(ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸トリクロカルバンなど)、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなど)、アクリノール、塩化メチルロザニリン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、アルキルポリアミノエチルグリシン、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロブタノール、イソプロパノール、エタノール、フェノキシエタノール、リン酸ジルコニウムの銀などの担持体、チメロサール、デヒドロ酢酸、クロルキシレノール、クロロフェン、レゾルシン、チモール、ヒノキチオール、スルファミン、リゾチーム、ラクトフェリン、トリクロサン、8-ヒドロキシキノリン、ウンデシレン酸、カプリル酸、プロピオン酸、安息香酸、プロピオン酸、ハロカルバン、チアベンダゾール、ポリミキシンB、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、ポリリジン、過酸化水素、塩化ポリドロニウム、Glokill(商品名例えばGlokill PQ、ローディア社製)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン-(ジメチルイミニオ)エトレンジクロリド、ポリエチレンポリアミン・ジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物(商品名例えばBusan1157、バックマン社製)などが挙げられる。
【0491】
医薬組成物を点眼薬の形態とする場合、pH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸など)、有機酸(乳酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、プロピオン酸、酢酸、アスパラギン酸、イプシロン-アミノカプロン酸、グルタミン酸、アミノエチルスルホン酸など)、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム、無機塩基(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、有機塩基(モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、リジンなど)、ホウ砂などが挙げられる。
【0492】
医薬組成物を点眼薬とする場合、等張化剤を添加してもよい。等張剤としては、ブトウ糖、マンニトール、ソルビトールなどの糖類や、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、チオ硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの無機塩類が挙げられる。
【0493】
医薬組成物を眼軟膏とする場合には、任意の軟膏基剤を用いて調製することができる。軟膏基剤としては、特に限定されるものではないが、一般に疎水性基剤としての油脂類、ロウ、炭化水素化合物等を用いることができる。具体的には、黄色ワセリン、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、プラスチベース、シリコーン等の鉱物性基剤、ミツロウ、動植物性油脂等の動植物性基剤等が挙げられる。
【0494】
また、鼻腔内には、投与された物質が血液を経由せずに、鼻腔粘膜層を介して、脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)あるいは脳に直接移行するルートがあることが知られている(Illum L.,Eur.J.Pharm.Sci.,11,1-18(2000).、Frey W.H.,Drug Deliv.Technol.,2,46-49(2002).、Lochhead J.J.,Thorne G.,Adv.Drug Deliv.Rev.,64,614-628(2012).、Djupesland P.G.,Messina J.C.,Mahmoud R.A.,Ther.Deliv.,5,709-733(2014).)
したがって、有効成分を脳に到達させるため、医薬組成物を鼻腔投与製剤の形態とすることができる。鼻腔投与製剤としては、点鼻薬、液体鼻スプレー、粉末鼻スプレー、鼻腔粘膜注射剤、ゲル状製剤、軟膏などの剤形が挙げられる。
【0495】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合体などの非イオン性界面活性剤、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、アルキルスルホベタイン、イミダゾリンなどの両性界面活性剤、飽和高級脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などの陰イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0496】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、増粘剤を添加してもよい。増粘剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロース、クロスカルメロース、メチルセルロースなどのセルロース類、部分α化澱粉などの加工澱粉、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、クロスポピドン、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸およびこの塩、アラビアゴム、グアーガム、ローカストビーンガム、プルラン、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0497】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、油性成分を添加してもよい。油性成分としては、パルミトオレイルアルコール、オレイルアルコール、エイコソニルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコールなどの不飽和脂肪族アルコール類、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、ウンデシレン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リンデル酸、ラウロレイン酸、ツズ酸、ペテロセリン酸、バセニン酸、ゴンドイン酸などの不飽和脂肪酸類、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸オレイルなどの不飽和脂肪酸エステル類、オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチルなどの飽和脂肪酸エステル類、オレイルアルコール、エライジルアルコール、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサンなどのシリコン油類、ミツロウなどのロウ類、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類、コレステロールなどのステロール類、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸類、アボガド油、パーム油、牛脂、ホホバ油などが挙げられる。
【0498】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、等張化剤を添加してもよい。等張化剤としては、たとえば、ソルビトール、グルコース、マンニトールなどの糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの無機塩などが挙げられる。
【0499】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、pH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、たとえば、酢酸、ギ酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リン酸、塩酸、硝酸、硫酸およびこれらの塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アルギニン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、アンモニア水、炭酸グアニジン、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0500】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、緩衝材を添加してもよい。緩衝剤としては、たとえば、ホウ酸およびこの塩、リン酸塩、酢酸塩、アミノ酸塩などが挙げられる。
【0501】
本発明の医薬組成物を点鼻薬とする場合、キレート剤を添加してもよい。キレート剤としては、たとえば、エデト酸、シュウ酸、クエン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、グルコン酸およびこれらの塩などが挙げられる。
【0502】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、香料・清涼化剤を添加してもよい。香料・清涼化剤としては、たとえば、ハッカ油、ハッカハク油、ケイヒ油、チョウジ油、ウイキョウ油、ヒマシ油、テレピン油、ユーカリ油、オレンジ油、ラベンダー油、レモン油、ローズ油、レモングラス油、ダイウイキョウ油、チミアン油、ヘノポジ油、ヤマジン油、トウカ油、ベルガモット油、シトロネラ油、樟脳油、ローズマリー、セージなどの香料、l-メントール、カンフル、チモール、N-エチル-p-メンタン-カルボキシアミド、p-メンタン-3,8-ジオール、l-イソプレゴール、l-メンチルグリセリルエーテルなどの清涼化剤が挙げられる。
【0503】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、たとえば、アスコルビン酸、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドログアヤレチン酸、トコフェロール、酢酸トコフェロールなどが挙げられる。
【0504】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、防腐剤を添加してもよい。防腐剤としては、チモール、イソプロピルメチルフェノール、安息香酸およびこの塩、安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。
【0505】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、吸収促進剤を添加してもよい。吸収促進剤としては、ジイソプロピルアジペート、レシチン、スクワラン、スクワレン、l-メントール、ポリエチレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、ハッカ油、ユーカリ油、d-リモネン、dl-リモネンなどが挙げられる。
【0506】
医薬組成物を点鼻薬とする場合、懸濁化剤を添加してもよい。懸濁化剤としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーなどの合成高分子化合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合体などの非イオン性界面活性剤、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、アルキルスルホベタイン、イミダゾリンなどの両性界面活性剤、飽和高級脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などの陰イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0507】
医薬組成物を液剤の剤形とし、これを噴霧器に充填し、液体鼻スプレー製剤としてもよい。この場合、本発明の医薬組成物を充填する噴霧器は特に限定されず、例えばアレルギー性鼻炎の治療のための液体鼻スプレー製剤に採用されている噴霧器を使用することができる。また、噴霧器に充填する液剤の具体的な形態としては、上述の点鼻薬の説明が妥当する。
【0508】
また、医薬組成物を粉末形態とし、これを噴霧器に充填し、粉末鼻スプレー製剤としてもよい。この場合、本発明の医薬組成物を充填する噴霧器は特に限定されず、例えばアレルギー性鼻炎の治療のための粉末鼻スプレー製剤に採用されている噴霧器を使用することができる。また、噴霧器に充填する医薬組成物の粉末は、凍結乾燥法や噴霧乾燥法などを採用して製造することができる。
医薬組成物を粉末鼻スプレー製剤とする場合には、任意の賦形剤を添加してもよい。賦形剤としては、例えば、グルコース、ショ糖、ラクトース、及びフルクトース;デンプン又はデンプン誘導体;デキストリン、シクロデキストリン、及びそれらの誘導体などのオリゴ糖;ポリビニルピロリドン、アルギン酸、チロース、ケイ酸、セルロース、セルロース誘導体(例えばセルロースエーテル);マンニトール、ソルビトール、アラビノース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、マルトース、デキストランなどの糖アルコール;炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ラクトース、ラクチトール、デキストレーツ(dextrates)、デキストロース、マルトデキストリンなどを挙げることができる。
【0509】
医薬組成物を鼻腔投与用製剤である鼻腔粘膜注射剤の形態とする場合、その具体的な態様については、上述した注射剤の具体的な態様についての説明が妥当する。
医薬組成物を鼻腔投与用製剤である軟膏の形態とする場合、その具体的な態様については、上述した眼軟膏の具体的な態様についての説明が妥当する。
本発明の医薬組成物をゲル状製剤とする場合、増粘剤を添加することによりゲル状とすることができる。その他の具体的な態様については、上述した点鼻薬の具体的な態様についての説明が妥当する。
【0510】
[5]設計方法
本発明は、上述したスクリーニング方法により有効成分として選択された物質と組み合わせる医薬添加剤を選択する工程を備える、医薬組成物の設計方法にも関する。
【0511】
本発明の設計方法の実施者は、自ら上述したスクリーニング方法を実施してもよい。また、他者が上述したスクリーニング方法を実施した結果に基づき設計方法の発明を実施する形態としてもよい。
すなわち、本発明の一つの実施形態では、上述したスクリーニング方法により有効成分をスクリーニングするスクリーニング工程を備える。スクリーニング工程の実施態様は上述した通りである。
また、本発明の一つの実施形態では、上述したスクリーニング方法により有効成分であると既に判定されている物質を用いて、設計方法の発明を実施する。
【0512】
本発明によれば、再生医薬及び/又は抗がん剤を設計することができる。
本発明の好ましい形態では、医薬組成物の適応症を選択する工程を含む。適応症としては、神経系、心臓又は膵臓の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状、或いはがんが挙げられる。これら適応症の具体的内容は上で詳述した通りである。
【0513】
本発明の好ましい形態では、医薬組成物の剤型を選択する工程を備える。本発明の好ましい形態では、剤型として液剤を選択し、有効成分と混合すべき水性媒体を選択する。本発明においては、剤型として注射剤を選択することができる。本発明においては、剤型として点眼薬を選択することができる。本発明においては、剤型として凍結乾燥製剤を選択することができる。本発明では、剤型として軟膏を選択し、有効成分と混合する基材を選択する形態とすることができる。軟膏として眼軟膏を選択することもできる。本発明では、剤型として鼻腔投与用製剤を選択する形態とすることができる。本発明では、剤型として経口投与用製剤を選択することができる。
【0514】
なお、スクリーニングにおいて有効成分として選択された物質と組み合わせる医薬添加剤や、医薬組成物の剤形などについては、上述の本発明の製造方法における説明をそのまま適用することができる。
【0515】
[6]臨床試験に関する方法
本発明は、上述の方法により医薬組成物を設計し、上述のスクリーニング方法により有効成分として選択された物質を準備し、上述の製造方法によって医薬組成物を製造し、臨床試験において前記医薬組成物が投与された人から取得されたデータセットを統計処理することを含む方法にも関する。
上述のスクリーニング方法でスクリーニングされた有効成分を含む医薬品が、規制当局からの承認を受けて製品化されるために、本発明の方法の実施は必須である。
【0516】
本発明の一つの実施形態では、臨床試験において前記医薬組成物が投与された人(試験群)と、対照薬が投与された人(対照群)と、から取得されたデータセットを比較して統計処理する。
これによって試験群と対照群のそれぞれから取得されたデータセットを統計処理し、両群間に統計上の有意差の有無を判断する。
【0517】
本発明の一つの実施形態では、前記医薬組成物が投与された健常者から取得されたデータセットを統計処理することを含む方法にも関する。この実施形態は日本の薬事実務上は「第1相臨床試験」と呼ばれる臨床試験を行う場合に関する。
取得されるデータセットとしては、医薬の投与量、投与回数、投与時間、投与期間、投与後の有効成分の血中濃度又はその時間的推移、尿中の有効成分又はその代謝物の濃度などのデータセットが挙げられる。
【0518】
本発明の一つの実施形態では、前記医薬組成物が投与された、前記医薬組成物の適応症の患者から取得されたデータセットを統計処理することを含む方法にも関する。この実施形態は日本の薬事実務上は「第2相臨床試験」又は「第3相臨床試験」に関連する。
取得されるデータセットしては、医薬の投与量、投与回数、投与時間、投与期間、投与後の有効成分の血中濃度又はその時間的推移、尿中の有効成分又はその代謝物の濃度、或いは安全性、副作用、適応症に対する有効性に関する生理的データが挙げられる。
【0519】
統計処理はコンピュータにより実施することが好ましい。また、統計処理の具体的な方法は臨床試験の試験計画に基づき適宜選択することができる。
【0520】
[7]医薬組成物
本発明は、上述したスクリーニング方法でスクリーニングされた有効成分を含む医薬組成物、上述した製造方法により製造された医薬組成物、また、上述した設計方法により設計された医薬組成物にも関する。
本発明の医薬組成物について以下、詳述する。
【0521】
本発明の医薬組成物の対象となる動物は、特に制限されないが、脊椎動物が好ましい。具体的には、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の何れの種に対しても適用可能である。より具体的には、本発明の対象は、例えば、ヒト、または、ヒトを除く非ヒト動物があげられる。非ヒト動物は、例えば、ゼブラフィッシュ等の魚類、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ウマ、ネコ、ヤギ、サル、およびモルモット等の非ヒト哺乳動物等があげられる。
【0522】
本発明の医薬組成物は、未分化細胞の自己複製を促進する作用がある。したがって、本発明の医薬組成物は、未分化細胞を自己複製する用途に用いることができる。
本発明の医薬組成物は、成体幹細胞を自己複製する用途に用いる。本発明の医薬組成物は、神経系、心臓、膵臓から選ばれる1種又は2種以上の組織の成体幹細胞の自己複製の用途に用いる。
【0523】
また、本発明の医薬組成物は、未分化細胞を種々の細胞に分化誘導する作用を有する。したがって、本発明の医薬組成物は、未分化細胞の分化誘導のために用いることができる。
また、本発明の医薬組成物は、成体幹細胞を分化誘導する用途に用いることができる。
また、本発明の医薬組成物は、神経系、心臓、膵臓から選ばれる1種又は2種以上の組織の成体幹細胞を分化誘導する用途に用いることができる。
【0524】
本発明の医薬組成物は、「未分化細胞の自己複製」と「未分化細胞の分化誘導」の2つの用途の何れか又は両方に用いられる。
本発明の好ましい実施の形態では、「未分化細胞の自己複製」と「未分化細胞の分化誘導」の両方の用途に用いられる。
【0525】
従来の再生医療のプロセスにおいては、自己複製工程と分化誘導工程は、体外(シャーレ上ないし試験管内)で実行される。
本発明の医薬組成物は、この2工程を生体内で達成し得る。すなわち、本発明は、生体内における未分化細胞の自己複製と分化誘導のために用いることができる。
【0526】
本発明の一つの実施形態では、再生医薬及び/又は抗がん剤である。
本発明の一つの実施形態では、未分化細胞の自己複製と未分化細胞の分化誘導による再生医薬である。
本発明の一つの実施形態では、がん細胞の正常細胞への分化誘導のために用いる医薬組成物である。より好ましい実施形態では、がん細胞の正常細胞への分化誘導によるがん治療用の医薬組成物である。
【0527】
本発明の医薬組成物によれば、神経未分化細胞の自己複製を促進し、これに続いて増幅した神経未分化細胞の分化を促進することができる。すなわち、本発明によれば、これまで再生が不可能又は非常に困難なものとされてきた神経系の再生ないし増強を実現することができるのである。
【0528】
本発明の医薬組成物は、上述の通り、神経系を構成する各種細胞への分化誘導を行うことができる。すなわち、本発明の医薬組成物は、神経未分化細胞を神経細胞及びグリア細胞に分化誘導することができる。
【0529】
本発明の医薬組成物は、神経未分化細胞の分化誘導によって、グルタミン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞、ドーパミン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞などの成熟神経細胞の増殖のために用いることができる。
また、本発明の医薬組成物は、網膜神経節細胞、プルキンエ細胞の増殖のために用いることができる。
【0530】
本発明の医薬組成物は、神経未分化細胞の分化誘導によって、アストロサイト(星状膠細胞)、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞・乏突起膠細胞・稀突起膠細胞)、上衣細胞、シュワン細胞(鞘細胞)、衛星細胞などのグリア細胞の増殖のために用いることができる。
【0531】
本発明の医薬組成物は、中枢神経系と末梢神経系の何れに対して使用しても構わない。何れの神経系に対しても、本発明の医薬組成物は、神経未分化細胞の自己複製及び/又は分化誘導の作用を発揮する。
中枢神経系はいったん損傷を受けると再生しない/極めて再生し難いものである。したがって、本発明の医薬組成物は、中枢神経系の神経未分化細胞の自己複製及び/又は分化誘導のために用いること好ましい。
【0532】
本発明を好適に使用することができる中枢神経系としては、脳、脊髄、視神経、嗅神経の何れもが挙げられる。特に脳、脊髄、視神経の障害は患者のQOLを著しく下げる重篤な疾患につながるため、本発明の医薬組成物を脳、脊髄、視神経の神経未分化細胞の自己複製及び/又は分化誘導のために用いること好ましい。
【0533】
上述のとおり、本発明の医薬組成物は、神経未分化細胞の自己複製及び/又は分化誘導の効果を発揮する。これにより、本発明は再生が不可能または極めて困難であるといわれている神経系の再生を実現することができる。
この作用により、本発明は、神経系の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状に対して適用することにより、これらの治療又は予防の効果を発揮する。
すなわち、本発明の医薬組成物は、神経系の疾患、障害、若しくは疾病、又はこれらの症状の治療又は予防のために用いることが好ましい。
【0534】
本発明は、中枢神経系及び末梢神経系の何れの神経系の疾患等に対しても有効である。
中枢神経系の疾患等としては、脳、脊髄、視神経及び/又は嗅神経の疾患等が挙げられる。
末梢神経系の疾患等としては、体性神経系及び自律神経系の疾患等が挙げられる。
【0535】
中枢神経系の疾患等としては、パーキンソン病;アルツハイマー病;クロイツフェルト・ヤコブ病;大脳皮質基底核変性症;筋萎縮性側索硬化症;多発性硬化症;進行性運動衰弱;免疫性神経障害;脳損傷、脊髄損傷、視神経損傷、嗅神経損傷などの中枢神経系の損傷;パーキンソニズムを伴うアルツハイマー病;運動緩慢;無動;細かい運動制御及び手指の器用さを損なう運動障害;発声不全;単調な発話;硬直;ジストニア;パーキンソン病と関連する炎症;顔、顎、舌、姿勢の振戦;パーキンソン病様歩行;すり足歩行;小刻み歩行;加速歩行;気分、認知、感覚、睡眠の障害;認知症;鬱病;薬物誘発性パーキンソニズム;血管性パーキンソニズム;多系統萎縮症;進行性核上麻痺;一次性タウ病変を有する障害;皮質基底核神経節変性症;認知症を伴うパーキンソニズム;多動性障害;舞踏病;ハンチントン病;ジストニア;ウィルソン病;トゥレット症候群;本態性振戦;ミオクローヌス;遅発性運動障害; 統合失調症;双極性障害及び自閉症スペクトラム障害などが挙げられる。
【0536】
末梢神経系の疾患等としては、「手や足の力が入らない」、「物をよく落とす」、「歩行やかけ足がうまくできない」、「立ち上がりがうまくできない」、「足先が垂れてつまずきやすい」などの症状が現れる運動障害;手や足が「ピリピリとしびれる」、「ジンジンと痛む」、「感覚がなくなる」などの症状が現れる感覚障害;「手や足の皮膚が冷たい」、「下半身に汗をかかない」などの症状が現れる自律神経障害などが挙げられる。
【0537】
本発明の医薬組成物は、神経未分化細胞の自己複製及び/又は分化誘導を促進することによって神経系の再生を惹起する作用を有する。したがって、本発明の医薬組成物は、神経系の損傷又は機能減退に起因する疾患等に有効である。
【0538】
また、本発明の医薬組成物は、神経細胞又はグリア細胞の損傷又は機能減退に起因する疾患等に有効である。
また、本発明の医薬組成物は、細胞体、髄鞘、軸索、神経筋接合部の損傷又は機能減退に起因する疾患等に有効である。
本発明の医薬組成物は、グルタミン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞、ドーパミン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞などの成熟神経細胞の損傷又は機能減退に起因する疾患等に有効である。
また、本発明の医薬組成物は、網膜神経節細胞、プルキンエ細胞の損傷又は機能減退に起因する疾患等に有効である。
本発明の医薬組成物は、アストロサイト(星状膠細胞)、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞・乏突起膠細胞・稀突起膠細胞)、上衣細胞、シュワン細胞(鞘細胞)、衛星細胞などのグリア細胞の損傷又は機能減退に起因する疾患等に有効である。
なお、ここでいう「機能減退」には、細胞それ自体の機能が減退している状態の他、細胞の数が減少することにより、組織全体の機能減退が見られる場合も含まれる。
【0539】
以下、本発明の適応症のうち緑内障と脊髄損傷についてより詳細に説明する。
【0540】
本発明の医薬組成物は、緑内障の治療又は予防に有効である。本発明は、高眼圧緑内障と正常眼圧緑内障の何れにも効果的である。
【0541】
高眼圧緑内障は、高眼圧に起因して次第に網膜の視神経が萎縮や膨潤して損傷し、網膜に存する一種の神経細胞である網膜視神経節細胞がアポトーシスにより死滅し、その後、視神経乳頭部の陥没が引き起こされ、徐々に視野が狭まり、最終的には視力を失ってしまうという疾患である。
正常眼圧緑内障は、臨床的に、(1)眼圧が10~21mmHgという正常値範囲内、(2)視神経乳頭辺縁部狭細化および陥没、(3)網膜視神経線維層欠損、(4)篩板(篩骨眼窩板)部位での視神経変形・後方偏位、(5)視神経節細胞とグリア細胞の減少という5つのカテゴリーの全ての臨床所見が、総合的に認められるもので、特異的な視神経病変をきたす疾患である。
本発明の医薬組成物は、高眼圧緑内障及び正常眼圧緑内障の何れにおいても見られる損傷ないし減少した視神経(網膜視神経節細胞、グリア細胞)を再生することにより、治療効果を発揮する。
【0542】
脊髄は自発的に再生しない。そのため、いったん脊髄に損傷を受けると、これを根治することは不可能であった。
本発明の医薬組成物は、神経系の再生効果を奏する。したがって、本発明の医薬組成物は脊髄損傷の治療に非常に好適である。本発明の医薬組成物によれば、脊髄の損傷部位における神経の再生がもたらされ、脊髄損傷に付随する運動障害等を改善ないし根治することができる。
【0543】
本発明の医薬組成物を適用可能な脊髄損傷は、交通事故、スポーツ事故、転倒等の事故による外傷に起因するものの他、脊髄腫瘍やヘルニア等の疾病に起因するものも含まれる。
【0544】
本発明の医薬組成物は、生体内における神経未分化細胞の存在部位又はその近傍に投与して用いることが好ましい。このような投与形態とすることにより、本発明の医薬組成物の効果により神経未分化細胞の自己複製と、分化誘導が効率的に引き起こされる。
なお、近傍」とは医薬組成物に含まれる有効成分が体液による拡散ないし分散によって神経未分化細胞の存在位置に到達し得る程度の範囲のことをいう。
【0545】
本発明の医薬組成物は、生体内における中枢神経系の神経未分化細胞の存在部位又はその近傍に投与して用いることが好ましい。このような投与形態とすることにより、本発明の医薬組成物の効果により中枢神経系の神経未分化細胞の自己複製と、分化誘導が効率的に引き起こされる。
【0546】
本発明の医薬組成物は、脳、脊髄又は眼球に投与して用いることが好ましい。このような投与形態とすることにより、脳、脊髄又は視神経の再生又は新生を実現することができる。
【0547】
なお、成体の脳におけるニューロン新生を担う幹細胞は、成体神経幹細胞と呼ばれており、側脳室周囲の脳室下帯と海馬の歯状回顆粒細胞下帯の少なくとも2か所に存在することが知られている。
したがって、本発明の医薬組成物は、成体神経幹細胞の存在する側脳室及び/又は海馬に投与して用いる実施の形態としてもよい。
より具体的には、本発明の医薬組成物は、側脳室周囲の脳室下帯及び/又は海馬の歯状回顆粒細胞下帯に投与して用いる実施の形態としてもよい。
【0548】
本発明の医薬組成物は、神経系の損傷部位又は機能減退部位に投与して用いることが好ましい。これにより、当該損傷部位又は機能減退部位における神経系の再生を効率的に行うことができ、疾患等を効率的に治療することができる。
【0549】
また、本発明の医薬組成物は、神経細胞又はグリア細胞の損傷又は機能減退が見られる部位に投与して用いることが好ましい。これにより、当該部位におけるニューロ又はグリア細胞の再生を効率的に行うことができ、疾患等を効率的に治療することができる。
【0550】
また、本発明の医薬組成物は、細胞体、髄鞘、軸索又は神経筋接合部の損傷又は機能減退が見られる部位に投与して用いることが好ましい。これにより、損傷又は機能減退している細胞体、髄鞘、軸索又は神経筋接合部の再生を効率的に行うことができ、疾患等を効率的に治療することができる。
【0551】
本発明の医薬組成物は、グルタミン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞、ドーパミン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞などの成熟神経細胞の損傷又は機能減退が見られる部位に投与して用いることが好ましい。これにより、損傷又は機能減退している成熟神経細胞の再生を効率的に行うことができ、疾患等を効率的に治療することができる。
【0552】
また、本発明の医薬組成物は、網膜神経節細胞、プルキンエ細胞の損傷又は機能減退が見られる部位に投与して用いることが好ましい。これにより、損傷又は機能減退している網膜神経節細胞やプルキンエ細胞の再生を効率的に行うことができ、疾患等を効率的に治療することができる。
【0553】
本発明の医薬組成物は、アストロサイト(星状膠細胞)、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞・乏突起膠細胞・稀突起膠細胞)、上衣細胞、シュワン細胞(鞘細胞)、衛星細胞などのグリア細胞の損傷又は機能減退が見られる部位に投与して用いることが好ましい。これにより、損傷又は機能減退しているグリア細胞の再生を効率的に行うことができ、疾患等を効率的に治療することができる。
【0554】
また、本発明の医薬組成物は、心筋細胞の障害・機能減退を原因とする疾患等の治療に用いることができる。本発明の医薬組成物は、心臓内に存在する心臓幹細胞/心臓前駆細胞に作用して、その自己複製と分化誘導を惹起することで、障害を受け、又は機能減退した心筋細胞を再生することができる。
本発明の医薬組成物は、狭心症、心筋梗塞、弁膜症、心筋症、心房中隔欠損症、心臓腫瘍、心不全、不整脈などの心臓の疾患等の治療に用いることができる。
本発明の医薬組成物は、心臓の疾患等の治療に用いる場合、心臓への局所投与や経口投与、血管への注射、静脈注射などの投与形態とすることができる。
【0555】
また、本発明の医薬組成物は、膵細胞の障害・機能減退を原因とする疾患等の治療に用いることができる。膵細胞としては、インスリンを分泌するβ細胞などが挙げられる。本発明の医薬組成物は、膵導管内に存在する膵臓幹細胞/膵臓前駆細胞に作用して、その自己複製と分化誘導を惹起することで、障害を受け、又は機能減退した膵細胞を再生することができる。
本発明の医薬組成物は、1型糖尿病、2型糖尿病、急性膵炎、慢性膵炎、膵癌、粘液産生腫瘍などの膵臓の疾患等の治療に用いることができる。
本発明の医薬組成物は、心臓の疾患等の治療に用いる場合、膵臓への局所投与や経口投与、血管への注射、静脈注射などの投与形態とすることができる。
【0556】
本発明の医薬組成物は、血液がんの治療のために用いることができる。血液がんとしては、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病などの白血病;古典的ホジキンリンパ腫、-結節性リンパ球優位性ホジキンリンパ腫などのホジキンリンパ腫、B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、T細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、皮膚のリンパ腫(菌状息肉症、セザリー症候群)などの悪性リンパ腫;症候性多発性骨髄腫、良性単クローン性高ガンマグロブリン血症、無症候性骨髄腫、非分泌型骨髄腫、骨の孤立性形質細胞腫などの多発性骨髄腫が挙げられる。
本発明の医薬組成物は、血中に存在するがん細胞を血管内皮細胞に分化誘導する用途に用いることができる。
本発明の一つの実施形態では、血中に存在するがん細胞を血管内皮細胞に分化誘導することによる血液がんの治療のために用いることができる。
【0557】
投与量は、有効成分の重量として、一回につき体重1kgあたり、好ましくは0.0001mg以上、より好ましくは0.001mg以上、より好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上とすることができる。また、一回に体重1kgあたり、好ましくは10000mg以下、より好ましくは1000mg以下、より好ましくは100mg以下とすることができる。
【0558】
また、投与量は、有効成分の重量として、患者あたり、好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、より好ましくは10mg以上とすることができる。また、患者あたり、好ましくは100000mg以下、より好ましくは10000mg以下、より好ましくは1000mg以下、より好ましくは100mg以下とすることができる。
【0559】
また、投与スケジュールは、病状の観察および血液検査値の動向を観察しながら、例えば3回/日~1回/月、例えば1回/日~1回/週の間で調整することができる。
【0560】
以下、脳神経系の疾患等の治療又は予防、緑内障の治療又は予防、並びに脊髄損傷の治療における、本発明の医薬組成物の用法をより具体的に説明する。
【0561】
脳神経系の疾患等の治療又は予防を行う場合には、本発明の医薬組成物を脳内注射、より具体的には脳室内注射により、投与して用いることが好ましい。
この場合、本発明の医薬組成物を含む注射液が充填されたシリンジと注入ポンプを備える注入デバイスと、該注入デバイスと延長ラインで接続された脳室アクセスデバイスとを含む脳内投与システムを用いることが好ましい。頭蓋を穿孔することで脳室アクセスデバイスを脳内に挿入し、シリンジを脳内の投与標的箇所まで刺す。そして、注入ポンプを起動させ、注射液を、好ましくは0.1mL/時間~10mL/時間、より好ましくは1mL/時間~5mL/時間の速度で注入する。
脳内注射は、好ましくは1回/日~1回/1カ月、より好ましくは1回/3日~1回/3週間のペースで行うことができる。
【0562】
また、鼻腔内には、投与された物質が血液を経由せずに、鼻腔粘膜層を介して、脳脊髄液あるいは脳に直接移行するルートがあることが知られている。
したがって、本発明の医薬の有効成分を脳に到達させるため、鼻腔内投与する形態が好ましく例示できる。
この場合、本発明の医薬は、粉末鼻スプレー、液体鼻スプレーの形態として、鼻腔内に噴霧することで投与することができる。
また、本発明の医薬は、点鼻薬の形態として、鼻腔内に滴下することで投与することができる。
また、本発明の医薬は、ゲル状製剤、軟膏の剤形として、チューブまたはカテーテルを介して、鼻腔内に投与することができる。
また、本発明の医薬は、注射剤の剤形として、鼻腔粘膜への粘膜下注入によって、鼻腔内に投与することができる。
投与ペースは、好ましくは1回/日~1回/週、より好ましくは2回/日~1回/3日とすることができる。
【0563】
緑内障の治療又は予防を行う場合には、本発明の医薬組成物を点眼薬又は眼軟膏の剤形として、眼球に滴下又は塗布することが好ましい。
投与ペースは、好ましくは1回/日~1回/週、より好ましくは2回/日~1回/3日とすることができる。
【0564】
脊髄損傷の治療を行う場合には、本発明の医薬組成物を注射剤の剤形として、脊髄損傷部位に直接注射することが好ましい。
注射は、手動により断続的に行うことも可能であるが、ミニポンプとこれに接続したカテーテル等を駆使して持続的に損傷部に投与することが好ましい。
投与は、損傷後、可能な限り速やかに開始することが好ましく、投与は損傷から少なくとも1週間、さらに好ましくは少なくとも2週間続けることが好ましい。
【0565】
心臓の疾患等の治療を行う場合には、本発明の医薬組成物を注射剤の剤形として、心臓に直接投与する形態としてもよい。また、本発明の医薬組成物を注射剤の剤形として、静脈注射する形態としてもよい。また、本発明の医薬組成物を経口投与剤の剤形として、経口投与する形態としてもよい。
【0566】
膵臓の疾患等の治療を行う場合には、本発明の医薬組成物を注射剤の剤形として、膵臓に直接投与する形態としてもよい。また、本発明の医薬組成物を注射剤の剤形として、静脈注射する形態としてもよい。また、本発明の医薬組成物を経口投与剤の剤形として、経口投与する形態としてもよい。
【0567】
本発明の医薬組成物を血液がんの治療剤とする場合、注射剤の剤形として、静脈注射する形態としてもよい。また、本発明の医薬組成物を経口投与剤の剤形として、経口投与する形態としてもよい。
【0568】
また、本発明は、一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)に包含される化合物若しくはその塩又はその水和物を有効成分とする医薬組成物にも関する。その具体的態様は上述した通りであるので、ここでは説明を省略する。
本発明の一つの実施形態では、本発明の有効成分は、上述した化合物1~7から選ばれる化合物若しくはその塩又はこれらの水和物である。その具体的態様は上述した通りであるので、ここでは説明を省略する。
【実施例0569】
[試験例1]神経幹細胞の増殖試験
<使用動物>
中脳の神経幹細胞にて緑色蛍光タンパク質(GFP)が特異的に発現するトランスジェニック系統ゼブラフィッシュの胚
【0570】
<被験化合物>
化合物1:(3R)-シクロペンチル-3-[4-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1H-ピラゾール-1-イル]プロパンニトリル リン酸塩
化合物2:4-[3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]キノリン
化合物3:2-アミノ-5-(エチルアミノ)-5-オキソペンタン酸
化合物4:N1-ヒドロキシ-N8-フェニルオクタンジアミノ
化合物5:4-[(5-ブロモピリジン-2-イル)アミノ]-4-オキソ酪酸
化合物6:5-クロロ-2-N-{4-[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]-2-メトキシフェニル}-4-N-[2-(ジメチルホスホリル)フェニル]ピリミジン-2,4-ジアミン
化合物7:2-[[5-クロロ-2-[2-メトキシ-4-(4-メチルピペラジン-1-イル)アニリノ]ピリミジン-4-イル]アミノ]-N-メチルベンゼンスルホンアミド
(後述の実験において化合物1~7は別個に使用している。)
【0571】
<実験手法>
被験化合物をE3リンガー(ゼブラフィッシュ生理食塩水)に溶解した溶液(100μM)を調製した。この溶液を受精後24時間胚の脳室に顕微鏡下で注入し、28.5℃で受精後72時間まで培養した。
なお、蛍光顕微鏡による観察の邪魔になるメラニン色素の合成を阻害するため培養液には0.2mMのフェニルチオ尿素(PTU)を添加している。
また、顕微注入時において胚は0.02% MS-222(トリカイン)/E3リンガーにて麻酔後、コフィン(プラスチック製の板に保定用のV字型の溝を刻んだもの)上で頭部背側を上に保定し、ガラスキャピラリーを松果体近傍に刺入した。そして、窒素ガス圧(15picosiemens)を15~45ミリ秒加え脳室内に注入した。
この際、注入液のトレーサーとして0.025%(最終濃度)フェノールレッドを混入した。
注入する量は前脳室と間脳及び中脳室が均一な薄い赤色になるまでパルス状にガス圧を加えて調節した。
対照実験(コントロール)として、E3リンガーのみ同量脳室内に投与した。
受精後72時間まで培養した固体をスライドグラス上にて3%メチルセルロース/E3リンガー/0.02%トリカイン溶液中で保定後、488nm励起光にてGFPを発光させてCCDカメラで撮像した(
図6~8)。
サンプル数はそれぞれの被験化合物を用いた実験において80である(N=80)。
【0572】
また、それぞれの処置を施したゼブラフィッシュ個体の脳を剖出し滅菌蒸留水で洗浄後500μlのSepasol-RNA I Super G(Nacalai Tesque)中でピペッティングまたは18G~24G針の1mlシリンジ吸引排出により破砕した。当量のフェノール・クロロフォルム処理にて1回、クロロフォルム処理にて1回除タンパク質操作を行い、上清をRNA精製カラム(RNeasy Plus Mini Kit, Qiagen)でRNAを精製した。エリュートはランダムヘキサマーとオリゴ-dTの混合プライマーを用いて37℃15分、98℃5分で逆転写し(ReverTra Ace qPCR Kit, TOYOBO)、神経幹細胞のマーカーであるsox1α、sox2、sox3及びher6の発現量の定量PCRを行った。定量PCRはSYBER Green Realtime PCR Master Mix (TOYOBO)で行った。PCR反応はABI PRISM 7700またはロシュ・ダイアグノティックス社のLightCyclerを用いた。同一のサンプル1つにつき3wellで定量を行った(n=3)。得られたデータはノーマライザー(βアクチン・GAPDH・18S等)を用いてΔΔCt法で比較定量した。定量反応が信頼できるものであることを確認するため、増幅産物はアガロース電気泳動でバンドとなることを確認した。
【0573】
<結果>
図6~8に示すように、被験化合物を注入したゼブラフィッシュ胚においては、中脳神経幹細胞を示すGFPの蛍光が観察された範囲が、コントロールに比べて顕著に大きかった。
この結果は、被験化合物である化合物1~7は、神経幹細胞の自己複製を顕著に促進する作用を有することを示している。
【0574】
また、全てのサンプルにおいて腫瘍の発生は確認されなかった。この結果は、再生医療のリスクの一つである癌化を引き起こすことなく、神経細胞の自己複製を促進できることを示している。
【0575】
また、定量PCRの結果、神経未分化細胞の増殖が見られたゼブラフィッシュ個体の脳においては、神経幹細胞のマーカーであるsox1α、sox2、sox3及びher6の発現量の著しい発現上昇が観察された。
図9及び
図10に化合物2及び7を投与した個体における定量PCRの結果を示す。
【0576】
[試験例2]神経系分化細胞の増殖試験
<実験手法>
試験例1において被験化合物を脳室内投与された個体を40時間胚まで培養し4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液(PBS)で常温90分固定後、分化した神経細胞のマーカーである抗アセチル化チューブリン抗体(モノクローナル、x1/3000希釈)とAlexa 488抗マウスIgG二次抗体で免疫蛍光標識し、488nmの励起光で観察した(
図11~
図13)。
サンプル数はそれぞれの被験化合物を用いた実験において10である(N=10)。
【0577】
<結果>
図11~
図13において緑色の蛍光が観察される部分は、分化した神経細胞、より具体的には、神経の細胞体クラスター(終脳・間脳)とそれらをつなぐ軸索束である。
図11~
図13に示すように、被験化合物を注入したゼブラフィッシュ胚においては、分化した神経の細胞体クラスターを示す傾向の範囲及び強度が、コントロールに比べて顕著に大きかった。
また、全てのサンプルにおいて腫瘍の発生は認められなかった。
【0578】
試験例1及び2の結果を併せて考察すると、被験化合物である化合物1~7は、神経未分化細胞の自己複製を促進し、これにより増殖した神経未分化細胞に対して分化誘導を惹起し、神経系分化細胞を増殖させる作用を有するものといえる。
【0579】
再生医療における常識では、未分化細胞の自己複製と分化誘導はそれぞれ別々の因子により惹起する必要があると考えられていた。
しかし、試験例1及び2の結果は、未分化細胞の自己複製と分化誘導の2つのプロセスを単剤にて達成することができる(しかも癌化を引き起こさない)という驚くべき事実を証明している。
【0580】
[試験例3]ゼブラフィッシュ胚を使用したスクリーニング
構造が全く異なる化合物ライブラリーを用意し、試験例1及び試験例2に従いスクリーニングを行った。その結果、37化合物において神経未分化細胞及び神経分化細胞の増加が観察された。表1に神経未分化細胞及び神経系分化細胞の増加が確認された化合物の一次作用をまとめる。
【0581】
【0582】
表1に示すように、スクリーニングによって有効成分であると判断された化合物は、幹細胞の自己複製や全能性維持または分化・発生誘導に関わるシグナル伝達経路(Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路)に作用するものに集中している。これらのシグナル経路は幹細胞の自己複製と分化誘導の制御に関連しているものである。
【0583】
興味深いのは、これまでのin vitro試験における報告では、幹細胞の自己複製・全能性の維持ないし促進作用を有するとされる化合物と、分化・発生を促進する作用を有するとされる化合物が、それぞれ単剤で神経未分化細胞と神経分化細胞の増加をもたらしているという点である。
この結果はin vitroにおける試験は、幹細胞の特性制御における一面しか明らかにしていないということを示している。すなわち、in vitroの試験系は、「幹細胞の自己複製・多能性の維持」と「分化誘導」の何れかの作用を片面的にしか観察できないということを示している。
一方、本発明の生体を用いたin vivoスクリーニング系は、細胞間・組織間の複雑な情報伝達を反映した、極めて有効な結果を提示できる。
【0584】
[試験例4]ゼブラフィッシュ成魚の脊髄損傷個体への化合物の再生誘導効果
<使用動物>生後一カ月齢のゼブラフィッシュ
【0585】
<被験化合物>
化合物1~7(後述の実験において化合物1~7は別個に使用している。)
【0586】
<実験手法>
生後1ヶ月齢のゼブラフィッシュ個体を0.02%トリカインで麻酔後、ガラスキャピラリーの刺入で脊髄を損傷した。損傷後1日飼育し、100μMの被験化合物を0.1%-0.3%アガロース/E3リンガーに溶解したものを損傷部位に注入した。この際、トレーサーとして0.025%(最終濃度)フェノールレッドを混入した。可視光にて実体顕微鏡で観察し、フェノールレッドが脊髄損傷部周辺に貯留したことを確認し、3日間飼育した。
対照実験(コントロール)として、被験化合物を含まない0.1%-0.3%アガロース/E3リンガーを注入する実験も行った。
【0587】
一群は生体のまま0.02%トリカインで弱麻酔し、低温溶解型アガロース1%/E3リンガー/0.02%トリカイン内に保定後、2.0mLチャンバーにて還流状態でMRI撮像した。撮像後、脱麻酔処置(E3リンガーを口から強制還流、自発呼吸の再開を確認)し、28.5℃にて飼育を継続し、1ヶ月後に4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液(PBS)で常温2日間固定後、再度MRI撮像を行った。
【0588】
別の一群は脊髄損傷後ただちに4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液(PBS)で常温2日間固定後、MRI撮像した。
【0589】
脊髄損傷処置を施した個体は、飼育期間中は人工飼料を1日3回強制的に経口投与して栄養補給した。
【0590】
<結果>
脊髄損傷後、脊髄に導入された損傷を確認するため、ただちにMRIによって撮影をし、した。その結果、上記実験手法によりゼブラフィッシュ個体に脊髄損傷を与えていることが確認できた。
脊髄損傷部位に化合物を注入してから3日後と1か月後において撮影したMRI画像を比較した。その結果、コントロールのゼブラフィッシュ個体では脊髄の損傷が治癒せずにそのまま残存していることが確認できた。一方、被験化合物を注入したゼブラフィッシュ個体においては、脊髄の損傷が見られなかった。つまり、損傷部位における脊髄の再生が観察された。
また、コントロールのゼブラフィッシュにおいては脊髄損傷後、遊泳能力を喪失したままであった。一方、被験化合物を注入したゼブラフィッシュにおいては、脊髄損傷により喪失していた遊泳能力の明らかな回復が観察された。
この結果は、被験化合物である化合物1~7には脊髄損傷の治療効果があることを示している。
【0591】
試験例1~3の結果を併せて考察すると、化合物1~7は、神経未分化細胞の自己複製を促進し、これにより増殖した神経未分化細胞に対して分化誘導を惹起することで、損傷した神経系を再生する作用を有するものといえる。
【0592】
[試験例5]点眼によるマウス網膜神経細胞の再生誘導効果
<使用動物>
高眼圧型緑内障モデルマウス(網膜神経節細胞にて特異的に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するトランスジェニック系統)
【0593】
<被験化合物>
化合物1~7(後述の実験において化合物1~7は別個に使用している。)
【0594】
<実験手法>
高眼圧型緑内障モデルマウスの成体に、被験化合物100μMを1%メチルセルロース/生理食塩水に溶解した溶液を1回あたり500μl、1日3回両眼に点眼投与した。点眼10日~1ヶ月後に殺処理し、網膜組織切片を作成し488nm励起光で蛍光顕微鏡にて網膜神経節細胞を観察し、CCDカメラで撮像した。
対照実験(コントロール)として、被験化合物を含まない1%メチルセルロース/生理食塩水を点眼する実験も行った。
【0595】
<結果>
被験化合物である化合物1~7を点眼した高眼圧型緑内障モデルマウスにおいては、コントロールに比べて顕著に網膜神経節細胞の増幅が観察された(
図14に化合物7の結果を示す)。また、被験化合物を点眼した高眼圧型緑内障モデルマウスにおいては、その行動からして明らかに視力が回復していることが確認できた。
この結果は、被験化合物である化合物1~7には、緑内障の治療効果又は予防効果があることを示している。
【0596】
試験例1~5の結果を併せて考察すると、化合物1~7は、神経未分化細胞の自己複製を促進し、これにより増殖した神経未分化細胞に対して分化誘導を惹起することで、損傷した神経系を再生する作用を有するものといえる。
【0597】
[試験例6]脳室内投与による成体マウスのプルキンエ細胞の増加
<使用動物>
E11.5マウス胎児
【0598】
<被験化合物>
化合物1~7(後述の実験において化合物1~7は別個に使用している。)
【0599】
<実験手法>
被験化合物100μMを生理食塩水に溶解して調製した溶液をE11.5のマウス胎児脳室内に注入した。成体へと成長したマウス個体の脳を固定し、小脳プルキンエ細胞層のスライス切片をプルキンエ細胞の細胞体及び神経突起のマーカーである抗d-Calbindin抗体で免疫染色した。染色後、プルキンエ細胞の数をカウントし、その平均値を算出した。
対照実験(コントロール)として、被験化合物を含まない生理食塩水を用いて同様の実験を行った。
サンプル数は化合物1~7、コントロールのそれぞれについて10である(N=10)。
【0600】
<結果>
胎児時に被験化合物を注入した成体マウスの小脳プルキンエ細胞層におけるプルキンエ細胞の数は、コントロールに比べて、顕著に多かった(
図15、
図16、
図17にそれぞれ化合物2、5、7の結果を示す)。
この結果は、被験化合物である化合物1~7によれば、脳神経系の再生及び増強が可能であることを示している。すなわち、化合物1~7は、脳神経系の疾患等に対する治療効果を奏するものといえる。
【0601】
[試験例7]脳室内投与による成体ゼブラフィッシュの神経幹細胞の増加
<使用動物>
中脳神経幹細胞で特異的に緑色蛍光タンパク質が発現するレポーター遺伝子トランスジェニック系統のゼブラフィッシュ
【0602】
<被験化合物>
化合物1~7(後述の実験において化合物1~7は別個に使用している。)
【0603】
被験化合物(100μM)をE3リンガー(ゼブラフィッシュ生理食塩水)に溶解した溶液(0.1%DMSO)を調製した。中脳神経幹細胞を緑色蛍光タンパク質で標識した1ヶ月齢若齢成魚個体の脳室にこの溶液を顕微鏡下で注入し、28.5℃で1週間培養した。
対照実験(コントロール)として、E3リンガー(0.1% DMSOプラス0.025%フェノールレッド)のみ同量脳室内に投与した。
【0604】
上述の方法とは別に、被験化合物をリポソームに封入し脳室帯にリポフェクションを行った(Marine Biotechnology 8(3):295-303 2006)。具体的には、被験化合物(0.1% DMSO)10μlを10μl OPTI-MEM1培地(Invitrogen)、5μl 0.8%フェノールレッドと混合(チューブA)した。同時に3μlのLipofectamine 2000(Invitrogen)と7μlのOPTI-MEM1培地を混合した溶液(チューブB)を別途用意し、チューブBを常温5分静置する。その後チューブAとチューブBを同量混合し常温で20分間パッケージ反応させた後、上述した方法と同じ方法で個体に注入した。
このリポフェクション法では注入した被験化合物の効果がさらに局在化し細胞内への透過姓も上昇する。
対照実験(コントロール)として、被験化合物の代わりにE3のみで反応させた溶液を用いた。
【0605】
なお、上記2つの方法における顕微注入時において、個体は0.02% MS-222(トリカイン)/E3リンガーにて麻酔後、コフィン(プラスチック製の板に保定用のV字型の溝を刻んだもの)上で頭部背側を上に保定し、ガラスキャピラリーを松果体近傍に刺入した。そして、窒素ガス圧(15picosiemens)を15~45ミリ秒加え脳室内に注入した。この際、注入液のトレーサーとして0.025%(最終濃度)フェノールレッドを混入した。注入する量は前脳室と間脳及び中脳室が均一な薄い赤色になるまでパルス状にガス圧を加えて調節した。
【0606】
培養後、緑色蛍光タンパク質の蛍光を蛍光顕微鏡で観察することで、被験化合物を局所投与したゼブラフィッシュの神経幹細胞の量を評価した。具体的には、注入後7日間培養した固体をスライドグラス上にて3%メチルセルロース/E3リンガー/0.02%トリカイン溶液中で保定後、488nm励起光にてGFPを発光させてCCDカメラで撮像した。また輝度解析ソフトで蛍光発現部を中心に吻端を上に幅100μm高さ50μmの長方形内の緑色蛍光タンパク質の平均蛍光輝度を測定した。
多くの場合、これらの操作中に個体の自発呼吸は消失し仮死状態になるので200μL用のチップをつけたマイクロピペットでE3を手操作で口より反復して流入させ自発呼吸が戻るまで蘇生作業を続けた。
なお、蛍光顕微鏡による観察の邪魔になるメラニン色素の合成を阻害するため培養液には0.2mMのフェニルチオ尿素(PTU)を添加している。
【0607】
<結果>
蛍光観察の結果、何れの注入方法を採用した場合であっても、被験化合物を注入した成体ゼブラフィッシュの脳における中脳神経幹細胞の存在を示す蛍光は、コントロールに比べて強く検出された。
図18にE3リンガーに化合物5を希釈して投与した場合における結果を示す。
この結果は、被験化合物である化合物1~7によれば、成体における脳神経系の再生及び増強が可能であることを示唆している。すなわち、本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされた有効成分は、脳神経系の疾患等に対する治療効果を奏するものといえる。
【0608】
[試験例8]心筋の増強
<使用動物>
ゼブラフィッシュ胚
【0609】
<被験化合物>
化合物1~7(後述の実験において化合物1~7は別個に使用している。)
【0610】
<実験方法>
受精後10時間のゼブラフィッシュ胚をコフィン(プラスチック製の板に保定用のV字型の溝を刻んだもの)上で頭部背側を上に保定し、頭部と耳胞の中間の正中線(予定心臓原基)にガラスキャピラリーを刺入した。窒素ガス圧(15picosiemens)を15~45ミリ秒加え神経管直下の間隙内に注入した。被験化合物濃度は100μM/E3で注入液のトレーサーとして0.025%(最終濃度)フェノールレッドを混入した。注入はフットペダルにてパルス状に行い、フェノールレッドが刺入点から長径200μmの楕円形に分布するまで継続した。注入後胚は28.5℃で14時間、E3中において培養され、コリオンをピンセットで除去したのち4%パラホルムアルデヒド/PBSで常温1時間固定し定法に従いin situ ハイブリダイゼーションを心筋マーカーのnkx2.5のDIGプローブ共存下で65℃終夜行い、洗浄後抗DIG抗体によるアルカリフォスファターゼ呈色反応にて心筋細胞を染色した。染色後胚はPBSにて洗浄後75%グリセリン/PBSに包埋し定位後落射光で顕微鏡撮影した。被験個体数はそれぞれの化合物でn=80で統一した。
【0611】
また、上述の方法で被験化合物を注入したゼブラフィッシュ胚を受精後48時間まで28.5℃で培養し、3%メチルセルロース/E3に包埋して動画を撮影した。タイムラプスで一回の拍動で拍出される血球数をn=15でカウントしリンガー注入個体と比較した。
【0612】
<結果>
in situハイブリダイゼーションの結果、被験化合物を注入したゼブラフィッシュ個体においては、コントロールに比して心筋細胞の量の増加が見られた。
図19に化合物2、5、7を注入した個体の顕微鏡写真を示す。
また、被験化合物を注入したゼブラフィッシュ個体においては、コントロールの固体に比して、一回の拍動で拍出される血球数の顕著な増加が見られた。
図20に化合物7を注入した個体における血球の一回拍出量をカウントした結果を示す。
また、被験化合物を注入した個体の心臓の拍動を撮影した動画から血球の一回拍出量が顕著に向上していることが確認できた。
図21に化合物7を注入した個体の心臓の拍動を撮影した動画のキャプチャー画像を示す。
【0613】
試験例8の結果は、本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされた有効成分は心筋の増強効果があることを示している。すなわち、同有効成分によれば心筋細胞の障害、機能低下による心臓の疾患等を治療できる効果があることが証明された。
【0614】
[試験例9]
<使用動物>
膵臓β細胞GFP発現トランスジェニックゼブラフィッシュ
【0615】
<被験化合物>
化合物1~7
【0616】
<実験方法1>蛍光観察
受精後10時間の膵臓β細胞GFP発現トランスジェニックゼブラフィッシュ胚をコフィン上で頭部背側を上に保定し、背側から吻端ー耳胞の約2倍の距離尾側の正中線神経管直下にある間隙(予定膵臓原基)にガラスキャピラリーを刺入した。窒素ガス圧(15picosiemens)を15~45ミリ秒加え被験化合物を注入した。被験化合物の濃度は100nM/E3で注入液のトレーサーとして0.025%(最終濃度)フェノールレッドを混入した。注入はフットペダルにてパルス状に行い、フェノールレッドが刺入点から長径200μmの楕円形に分布するまで継続した。処理後胚は48時間まで28.5℃で培養し、0.02% MS-222(トリカイン)/E3リンガーにて麻酔後、488nm励起光で膵臓β細胞特異的なGFPを観察した(
図22)。
【0617】
<実験方法2>in situハイブリダイゼーション
受精後10時間の膵臓β細胞GFP発現トランスジェニックゼブラフィッシュ胚にてコフィン上で被験化合物(100nM)を注入した。注入後、胚を28.5℃で14時間、E3中にて培養した。コリオンをピンセットで除去したのち4%パラホルムアルデヒド/PBSで常温1時間固定し定法に従いin situハイブリダイゼーションをインシュリン(ins)のDIGプローブ共存下で65℃終夜行い、洗浄後抗DIG抗体によるアルカリフォスファターゼ呈色反応にてβ細胞を染色した。染色後、胚はPBSにて洗浄後75%グリセリン/PBSに包埋し定位した後、落射光で顕微鏡撮影した。被験個体数はそれぞれの被験化合物でn=100で統一した(
図23)。
【0618】
<実験方法3>抗インシュリン抗体による免疫染色
受精後10時間の膵臓β細胞GFP発現トランスジェニックゼブラフィッシュ胚にコフィン上で被験化合物(100nMまたは5nM)を注入した。注入後、胚を0.2mMのフェニルチオ尿素(PTU)存在下で28.5℃にて20時間E3中で培養した。コリオンをピンセットで除去したのち4%パラホルムアルデヒド/PBSで常温1時間固定し、定法に従い抗インシュリン抗体で免疫組織科学的に反応後Alexa fluor 488抗マウスIgG二次抗体で反応させた。反応後胚はPBSにて洗浄し75%グリセリン/PBSに包埋し定位後488nm励起光で顕微鏡撮影した(
図24)。被験個体数はそれぞれの化合物でn=10で統一した。インシュリン量は蛍光点を中心に半径100μmの円内の平均蛍光強度を測定して定量化した(
図25)。
【0619】
<結果>
コントロールの個体に比して被検化合物1~7を注入した個体におけるβ細胞は増加していることが確認された。
図22に化合物7の結果を示す。
また、コントロールの個体に比して被検化合物1~7を注入した個体におけるβ細胞によるインスリンの生産量も有意に増加していることが確認できた。
図23に化合物2、5,6及び7を注入した場合のin situハイブリダイゼーションによるインスリンの染色写真を示す。また、
図24及び
図25に化合物2及び6を注入した場合の抗インシュリン抗体による免疫染色写真とその平均蛍光強度を表す棒グラフを示す。
この結果は、被験化合物である化合物1~7が、膵幹細胞及びβ細胞のような分化した膵細胞の増加効果を有することを示している。すなわち、本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされた有効成分は、膵臓の疾患等に対する治療効果を奏するものといえる。
【0620】
[試験例10]抗がん作用の検証
<使用動物>
血管内皮細胞で特異的にGFPを発現する、T細胞型急性リンパ性白血病モデル
【0621】
<被験化合物>
化合物7
【0622】
<実験方法>
T細胞型急性リンパ性白血病モデル個体の受精後24時間の胚の体腹側主血管に、E3リンガーに化合物を添加して100μMに調整した液剤を顕微鏡下注入した。コントロールとしてE3リンガーを同様に顕微鏡下で注入した。顕微注入時において胚はスライドグラス上で3%メチルセルロース/E3リンガー/0.02%トリカイン溶液中で体側部を上に保定後、ガラスキャピラリーを体壁と卵黄の境界を頭部~尾部方向に走る腹部主血管に刺入した。そして、窒素ガス圧(15picosiemens)を30~45ミリ秒加え血管内に注入した。この際、注入液のトレーサーとして0.025%(最終濃度)フェノールレッドを混入した。注入する量は血流によって全身の太い血管が均一な薄い赤色になるまでパルス状にガス圧を加えて調節した。注入した薬剤は1日以内に腎臓に貯留しフェノールレッドが局在することから、受精後36時間・48時間にも同様の条件で化合物7又はコントロールのE3リンガーを追加注入した。受精後56時間で個体を再度麻酔し、488nm励起光で血管内皮細胞を蛍光観察した。
また、薬剤注入個体とコントロール個体の生存率をカウントした。生存率の検証試験は3回行った。1回目/2回目/3回目のそれぞれの試験個体数は、コントロールでは173/231/153個体、薬剤処理では221/187/204個体であった。
【0623】
<結果>
化合物7を注入した個体ではコントロール個体と比較して体の血管の至るところで内皮の肥厚化・腫瘤化が認められた(
図26)。また、28日目の生存率はコントロールでは22.4%±4.56、化合物7を注入した個体では55.9%±6.07であった。つまり、化合物7を注入した個体は、コントロールの個体に比して生存率の顕著な上昇が観察された(
図27)。
これらの結果は、化合物7は血中のがん細胞を正常な血管内皮細胞に強制的に分化させることによって抗がん作用を発揮していることを示している。
【0624】
[考察]
試験例1~8に示す通り、生体内において未分化細胞の自己複製と分化誘導を単剤にて実現する化合物が複数あることが初めて見出された。換言すると、動物に候補物質を投与し、未分化細胞及び/又は分化細胞を観察し、これら細胞の増殖効果を指標とすれば、様々な組織の疾患等に効果のある再生医薬の有効成分をスクリーニングできることが明らかとなった。
【0625】
ところで試験例1及び2に示すように、本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされた有効成分は、未分化細胞の自己複製と分化誘導の2つのプロセスを単剤にて達成し、しかも驚くべきことに癌化を引き起こさない。また、
図6~8、11~19、21に示すように、前記有効成分を注入した個体において形態異常などは見られず、正常な発生・分化が起こっていることが理解できる。これは有効成分の投与によって自己複製が促進された未分化細胞が、自己複製を無制限に続けるのではなく、その周囲環境に存在する組織や細胞の影響を受けることで適切なタイミングで分化促進の方向にスイッチを切り替えていることを示唆している。
【0626】
これを前提に試験例9の結果を考察する。急性白血病は、正常造血細胞の分化過程において、ある段階での分化停止と増殖能獲得が生じて発症する造血器腫瘍性疾患である。急性白血病は、正常造血幹細胞システムを模倣するかのように、自己複製能と白血病芽球への分化能を有する白血病幹細胞を含む白血病細胞集団を構成する。未熟性を維持する白血病幹細胞は治療抵抗性を示し、再発の根源となっている。白血病の発症、維持、増殖には白血病幹細胞と血管内皮細胞が接着し、それにより形成される微小環境(ニッチ)の影響を受けることが重要であることが知られている(非特許文献28)。
上述のとおり本発明でスクリーニングされた有効成分は、生体内の周囲環境の下で、がん化を引き起こすことなく、未分化細胞の自己複製と分化誘導をバランスよく正常に促進する作用を有する。有効成分が有する当該作用が白血病幹細胞に対して働いたときのアウトプットが、試験例9の結果であるといえる。すなわち、試験例9におけるがん細胞の血管内皮細胞への強制的な分化は、血管内皮細胞との接着により形成された微小環境の影響下で、化合物7が白血病幹細胞に作用し、正常な血管内皮細胞への分化を促進した結果であるといえる。言い換えると、本発明でスクリーニングされた有効成分は、異常な増殖能をもつ白血病幹細胞と正常な血管内皮細胞が物理的接触を介して行う微小環境下での情報伝達(リン酸化・メチル化・アセチル化等)に働きかけ、白血病幹細胞が血管内皮細胞側への分化に細胞運命の切り替えを行うよう促す効果を持つといえる。
以上のことから、生体に投与したときに未分化細胞と分化細胞の増殖作用を発揮する化合物は、すなわち微小環境の影響下におけるがん細胞の正常細胞への強制的な分化を促進する作用を発揮する化合物であるといえる。換言すると、動物に候補物質を投与し、未分化細胞及び/又は分化細胞を観察し、これら細胞の増殖効果を指標とすれば、がん細胞を正常細胞に強制的に分化誘導する作用を有する抗がん剤の有効成分をスクリーニングできることが、本試験例によって明らかとなった。