(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088518
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド及びそれを含む細胞標的化分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20220607BHJP
C07K 5/107 20060101ALI20220607BHJP
C07K 5/11 20060101ALI20220607BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220607BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220607BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220607BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220607BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220607BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220607BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220607BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220607BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20220607BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20220607BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20220607BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20220607BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20220607BHJP
C07K 14/31 20060101ALN20220607BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K5/107 ZNA
C07K5/11
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K47/64
A61K47/68
A61P35/00
A61P37/02
A61P31/00
C07K16/28
C07K14/705
C12N9/02
C12N9/88
C12N9/90
C12N5/071
C07K14/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052815
(22)【出願日】2022-03-29
(62)【分割の表示】P 2020120117の分割
【原出願日】2015-06-10
(31)【優先権主張番号】62/010,918
(32)【優先日】2014-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2015/012970
(32)【優先日】2015-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515238389
【氏名又は名称】モレキュラー テンプレーツ,インク.
【氏名又は名称原語表記】MOLECULAR TEMPLATES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】ポーマ エリック
(72)【発明者】
【氏名】ウィラート エリン
(72)【発明者】
【氏名】ヒギンス ジャック
(72)【発明者】
【氏名】キム ジェイソン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、強力な志賀毒素機能(例えば、細胞内経路決定及び細胞毒性)を示すことができる志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むプロテアーゼ切断耐性分子を提供する。本発明は、特異的細胞タイプ、例えば感染又は悪性細胞を標的にする、プロテアーゼ切断耐性、細胞標的化分子も提供する。
【解決手段】本発明の特定の分子は細胞毒性であり、本発明の特定の細胞標的化分子は、特異的細胞タイプの標的化殺滅、並びにがん、腫瘍、発育異常、免疫障害及び微生物感染を含む様々な疾患、障害及び状態の治療に使用することができる。本発明の特定の細胞標的化分子は、プロテアーゼ切断感受性、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む関連細胞標的化分子と比較してインビボ忍容性改善を示す。本発明の細胞標的化分子は、例えば抗原、細胞毒性薬剤及び検出促進剤などのさらなる物質を標的細胞の内部に送達することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端付近に破壊されたフューリン切断部位があり、志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端側に会合している分子部分があってもよい、天然に存在する志賀毒素のAサブユニットに由来する志賀毒素エフェクターポリペプチド及びそれを含む細胞標的化分子に関する。本明細書に記載する志賀毒素エフェクターポリペプチドは、細胞標的化分子、例えば治療薬及び/又は診断薬、の成分として有益である。例えば、特異的細胞タイプの標的化殺滅に使用するための細胞毒性、細胞標的化分子、例えば免疫毒素及びリガンド-毒素融合体、の成分として、本明細書に記載する志賀毒素エフェクターポリペプチドを使用してもよい。本発明の分子は、生物への投与後の非特異的毒性が低減したが、特異的標的化細胞毒性に対する明らかな影響はないものでありうる。加えて、本発明の分子は、生産、保存及び投与中の安定性が改善したものでありうる。本発明の特定の分子は、細胞標的化の媒介と触媒活性のための結合領域と、細胞毒性を生じさせるための志賀毒素エフェクターポリペプチドとを含む。本発明の分子は、例えば、がん、腫瘍、免疫障害及び微生物感染を含む様々な疾患、障害及び状態の診断、予後予測及び治療のための治療薬及び診断薬の成分として、使用される。
【背景技術】
【0002】
志賀毒素には、治療への応用に使用するために、この毒素の構造、特性及び生物活性の合理的改変による工学操作が施されてきた(例えば、特許:米国特許第7713915号明細書、欧州特許第1051482号明細書、欧州特許第1727827号明細書、欧州特許第1945660号明細書、並びに特許出願:米国特許出願公開第2009/0156417号明細書A1、欧州特許第2228383号明細書B1、欧州特許第2402367号明細書A1、米国特許出願公開第2013/0196928号明細書A1、国際公開第2014/164680号パンフレット、国際公開第2014/164693号パンフレット、国際公開第2015/113005号パンフレット、国際公開第2015/113007号パンフレット、国際公開第2015/120058号パンフレット、国際公開第2015/138435号パンフレット及び国際公開第2015/138452号パンフレットを参照されたい。これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている)。志賀毒素及びその成分は、例えば、インビボでの正確な標的化のために志賀毒素の高い細胞毒性と高親和性標的結合の組合せを活用する免疫毒素及びリガンド-毒素融合体などの、治療用分子の工学的作製に使用されうる。特に、志賀毒素の触媒性Aサブユニットは、短縮型の場合又は他のタンパク質ドメインに融合されている場合でも安定しており、酵素的に活性であり、細胞毒性である(Haddad J et al., J Bacteriol 175:4970-8(1993)、Backer M et al., J Control Release 74:349-55(2001)、Backer M, Backer J, BioconjugChem12: 1066-73 (2001)、LaPointe P et al., J Biol Chem280:23310-18 (2005)、Di R et al., Toxicon 57: 525-39(2011))。志賀毒素Aサブユニット
ポリペプチドを含む合成分子を設計する際に志賀毒素中毒の自然なメカニズムは重要な考慮事項でありうる。
【0003】
非常に多くの細菌毒素は、例えば毒素活性化及び/又は細胞内経路決定(subcellular routing)などの、最適な細胞毒性を、宿主細胞、細胞内プロテアーゼによる部位特異的
プロセッシングに依存している(例えば、Thomas G, Nat Rev Mol Cell Biol3:753-66 (2002)を参照されたい)。志賀毒素は、毒素活性化と細胞内経路決定の両方に部位特異的
切断を用いる。志賀毒素活性はタンパク質切断によって増加される(Brown J et al., FEBSLett 117: 84-8 (1980)、Reisbig R et al.,J Biol Chem 256: 8739-44 (1981)を参
照されたい)。志賀毒素は、中毒細胞の最も効率的な殺滅のために、中毒細胞内のエンド
プロテアーゼ・フューリンによるそれらのAサブユニットの細胞内切断を必要とする(Garred O et al.,ExpCell Res 218: 39-49 (1995)、Garred O et al., J Biol Chem 270:
10817-21 (1995)、Lea N et al., Microbiology 145:999-1004(1999)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysResCommun 357: 144-9 (2007))。このタンパク質分解プロセ
ッシングは、志賀毒素Aサブユニット由来成分を含む分子の設計において、最大の志賀毒素細胞毒性に必要な最も効率的な毒素活性化及び/又は細胞内経路決定をもたらす主な原因となるはずである(Garred O et al.,Exp Cell Res 218:39-49 (1995)、LeaN et al.,Microbiology 145: 999-1004 (1999)、Kurmanova A etal., Biochem BiophysRes Commun
357: 144-9 (2007)を参照されたい)。
【0004】
関連タンパク質毒素、特に志賀赤痢菌(S. dysenteriae)及び大腸菌(E. coli)から
単離された毒素、の志賀毒素ファミリーは、構造的及び機能的関連がある様々な自然に存在する毒素で構成されている(JohannesL, RomerW, Nat Rev Microbiol 8: 105-16 (2010))。志賀毒素ファミリーのメンバーは、同じ全体構造及び作用メカニズムを共有する
(Engedal, N et al., Microbial Biotech 4: 32-46 (2011))。志賀毒素ファミリーのメンバーは、宿主の感染中に細菌によって病原因子として用いられる(Johannes L, Romer W, Nat Rev Microbiol 8:105-16 (2010))。感染した宿主において、志賀毒素は、タン
パク質合成を強力に阻害できること及びアポトーシス細胞死を強力に誘発できることから細胞毒性である(JohannesL, Romer W, Nat Rev Microbiol 8: 105-16 (2010))。宿主
細胞に対する志賀毒素の強力な細胞毒性作用は、ヒト出血性大腸炎及び溶血性尿毒症症候群を引き起こすこともある(JohannesL, Romer W, Nat Rev Microbiol 8: 105-16 (2010))。
【0005】
志賀毒素ファミリーのメンバーは、志賀タンパク質サブユニットのA(B)5配置を特徴とする共通の多量体タンパク質構造を共有する(Johannes L, Romer W, Nat Rev Microbiol 8:105-16 (2010))。各志賀毒素は、2つのタンパク質サブユニット、A及びB、
で構成されており、これらのタンパク質サブユニットがA(B)5配置で会合してホロ毒素タンパク質複合体を形成する。志賀毒素Aサブユニットは、酵素ドメインを含有するおおよそ32~33キロダルトン(kDa)の単量体であり、志賀毒素Bサブユニットは、おおよそ7.6~7.7kDaのサブユニットであり、このサブユニットが4つの他の志賀毒素Bサブユニットと会合しておおよそ38.1~38.5kDaの志賀毒素Bサブユニット五量体を形成する。Bサブユニットの五量体は1つのAサブユニットと会合して、約70~72kDaである志賀ホロ毒素を形成する(O'Brien A, Holmes, R, Microbiol Rev 51:206-20 (1987))。全体としては、志賀毒素Aサブユニットは、ホロ毒素内のB
サブユニット五量体に伸びるヘリックスを有する単一球状タンパク質を形成する(FraserM et al., Acta Crystallogr Sect F Struct Biol CrystCommun 62: 627-30 (2006))
。
【0006】
志賀毒素による効率的な細胞殺滅には、保存された、表面に露出した、伸長ループ構造の志賀毒素Aサブユニットのエンドプロテアーゼ・フューリンによる細胞内切断が必要である(Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Garred O et al., JBiol Chem 270: 10817-21 (1995)、LeaN et al., Microbiology 145: 999-1004 (1999)、Kurmanova A etal., Biochem Biophys Res Commun 357: 144-9 (2007))。フューリンによっ
て切断された志賀毒素Aサブユニットのアミノ末端断片は、志賀毒素「A1断片」(又はStxn-A1、SLTn-A1、SLT-nA1)と呼ばれ、Aサブユニットのカルボキシ末端断片は、志賀毒素「A2断片」と呼ばれる。志賀毒素A1断片は、志賀毒素の触媒ドメインを含有するおおよそ27.5kDaのポリペプチドである(Fraser M et al.,Nat Struct Biol 1: 59-64(1994))。
【0007】
志賀毒素A2断片及びBサブユニットは小胞体内に残存するので、志賀毒素A1断片の
みが中毒細胞のサイトゾルに局在する(Tam P, LingwoodC, Microbiology 153:2700-10 (2007))。この保存された伸長ループ構造に対する志賀毒素Aサブユニットのタンパク質切断は、触媒A1断片の遊離及びそのA1断片のサイトゾルへの細胞内経路決定の一因となる(Johannes L, Romer W, Nat Rev Microbiol 8:105-16 (2010))。志賀毒素A2断
片は、触媒活性には過剰であるおおよそ4.5~4.7kDaのポリペプチドである(Haddad J et al.,J Bacteriol 175: 4970-8(1993)、Backer M et al., J Control Release
74: 349-55(2001)、Backer M, Backer J, BioconjugChem 12: 1066-73 (2001)、LaPointeP et al., J Biol Chem280: 23310-18 (2005)、Di R et al.,Toxicon 57: 525-39(2011))。
【0008】
フューリンは、調査されたすべてのヒト組織の多種多様な細胞タイプにおいて、及びほとんどの動物細胞において発現している、特殊セリンエンドプロテアーゼである(Shiryaev S et al.,J Biol Chem 282: 20847-53 (2007)を参照されたい)。フューリンは、最小、二塩基性、コンセンサスモチーフR-x-(R/K/x)-Rを中心とすることが多い、接近可能なモチーフを含むポリペプチドを切断する(Thomas G, Nat Rev Mol Cell Biol 3: 735-66 (2002)、Tian S, Biochem Insights 2: 9-20 (2009))。志賀毒素ファミリ
ーのメンバーのAサブユニットは、フューリンによって切断される保存されたS-R/Y-x-x-Rモチーフを有する、保存された、表面に露出した、伸長ループ構造(例えば、StxA及びSLT-1Aの242~261、並びにSLT-2の241~260)を含む(Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Garred O et al., JBiol Chem 270: 10817-21 (1995)、Kurmanova A etal., BiochemBiophys Res Commun 357:144-9 (2007)、Faqerquist C, Sultan O, J Biomed Biotechnol 2010:123460 (2010))。S
txAのアミノ酸残基242~261に位置する、表面に露出した、伸長ループ構造は、最小フューリン切断モチーフR-x-x-Rに隣接する特徴部を含む、StxAのフューリン誘導切断に必要とされる(Kurmanova A etal., Biochem Biophys Res Commun 357: 144-9(2007))。
【0009】
志賀毒素中毒中、Aサブユニットは、保存されたアルギニン残基(例えば、StxA及びSLT-1Aの251位のアルギニン残基、並びにStx2A及びSLT-2Aの250位のアルギニン残基)のカルボキシ結合がフューリンによってタンパク質切断される(Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Garred O et al., JBiol Chem 270: 10817-21 (1995)、Faqerquist C,Sultan O, J Biomed Biotechnol2010: 123460 (2010))。志賀毒素Aサブユニットのフューリン切断は、エンドソーム及び/又はゴルジ体領
域で起こる(Garred O et al., JBiol Chem 270: 10817-21 (1995)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysRes Commun 357: 144-9 (2007))。
【0010】
志賀毒素A1断片のA2断片からの解離は、該A1断片の触媒ドメインの活性化に必要である(Garred O et al., Exp Cell Res218:39-49 (1995)、Garred O et al., J Biol Chem 270: 10817-21 (1995)、Kurmanova A etal., Biochem Biophys Res Commun 357: 144-9(2007))。おそらく、AサブユニットのA2部分がA1部分の活性部位溝を塞いでおり、該A2部分のメチオニン-260が該A1部分の活性部位に突出し、その活性部位を遮断している可能性があるため、志賀毒素の触媒ドメインは、フューリン切断前に不活性である(Lea N et al., Microbiology 145: 999-1004 (1999)、Fraser M et al., Nat Struct Biol 1: 59-64 (1994)も参照されたい)。
【0011】
志賀ホロ毒素の志賀毒素A1断片のA2断片及び残部からの解離は、小胞体の内腔からサイトゾルへの該A1断片の移行に必要である(LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005)、Li S et al., PLoS One 7: e41119 (2012))。A1断片の遊離は、次
の一連の複雑なステップを誘発する疎水性ドメインを露出させる:1)小胞体関連分解(ERAD、endoplasmic-reticulum-associateddegradation)システムによるA1断片の
認識ステップ、2)アンフォールディングステップ、3)小胞体膜を横断する逆行輸送ステップ、及び4)サイトゾル内での触媒構成へのリフォールディングステップ(Li S et al., PLoS One 7: e41119 (2012))。
【0012】
第一に、フューリン切断及び志賀ホロ毒素の残部からの遊離後に露出される、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端が、ERADシステムによって認識される。ERADシステムは、ER内の末端ミスフォールドタンパク質を識別し、それらにポリユビキチンタグを付け、それらをプロテアソーム破壊のためにサイトゾルに排出する(Smith M et al., Science 334: 1086-90 (2011))。志賀毒素のA1断片は、おそらく、フューリン切断によっ
て作られたA1断片のカルボキシ末端に位置する、比較的疎水性のアミノ酸残基のパッチを含む、局所的にミスフォールドしたポリペプチド領域によってアンフォールドしたERAD基質を模倣することにより、ERAD経路を活用してサイトゾルに到達する(LaPointe P et al., J Biol Chem 280:23310-18 (2005)、Yu M, Haslam D, Infect Immun 73:2524-32(2005)、Li S et al., PLoSOne7: e41119 (2012))。フューリン切断によって
露出された志賀毒素A1断片のカルボキシ末端付近のアミノ酸残基の部分的にアンフォールドした疎水性パッチは、ERADシステムの小胞体シャペロンタンパク質によって認識されうる(LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005)、Yu M, Haslam D, Infect Immun 73:2524-32(2005)、Li S et al., PLoSOne7: e41119 (2012))。
【0013】
志賀毒素A1断片は、中毒真核細胞のサイトゾルに最初に侵入したとき、ポリユビキチン化され、アンフォールドされた結果として実質的に無秩序な高次構造であると考えられており、したがって、A1断片は、細胞毒性触媒活性を発揮するために、プロテアソーム分解と触媒活性高次構造へのリフォールディングの両方を回避しなければならない(Tam P, Lingwood C, Microbiology153:2700-10(2007)、Li S et al., PLoSOne7: e41119 (2012))。サイトゾルに入った時点で、活性志賀毒素A1断片は、該A1断片の強力な酵素活性によって、毎分おおよそ700リボソームの速度で次々に真核性リボソームを不可逆的に無能にすることができる(Brigotti M et al.,Toxicon 35:1431-1437 (1997)、TamP, LingwoodC, Microbiology 153: 2700-10 (2007))。閾数のリボソームが不活性化
された後、中毒宿主細胞は、アポトーシスによる細胞死の誘導に十分なタンパク質合成低減を経験すると予測される(Iordanov M et al., Mol Cell Biol 17:3373-81 (1997)、Smith W et al., Infect Immun 71: 1497-504 (2003)、Lee S etal., Cell Microbiol 10: 770-80(2008)、Tesh V, Future Microbiol 5: 431-53(2010))。
【0014】
志賀毒素AサブユニットのA1断片とA2断片間での細胞内フューリン切断は、最大志賀毒素細胞毒性のために重要である。実験により、最大志賀ホロ毒素細胞毒性には、1)志賀毒素AサブユニットのA1断片とA2断片の間に位置する最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R、2)最小フューリン切断部位を含む志賀毒素Aサブユニットの表面に露出した伸長ループ構造内の特定のアミノ酸残基、及び3)中毒脊椎動物細胞によるフューリンの細胞発現が必要であることが証明されている。
【0015】
フューリンを欠くヒト細胞は志賀毒素細胞毒性から保護されており、これらの同じフューリン欠失細胞をフューリンの強制発現によって志賀毒素感受性にすることができる(Garred O et al., JBiol Chem 270: 10817-21 (1995)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysRes Commun 357: 144-9 (2007))。
【0016】
フューリンは、特定のヒトがん細胞における最大志賀毒素細胞毒性に不可欠であることが証明された(Garred O et al., J Biol Chem270:10817-21 (1995)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysResCommun 357: 144-9 (2007))。破壊されたフューリン切断部
位及び/又は保存された、表面に露出した、伸長ループ構造の変異を有する志賀毒素は、細胞毒性低減を示す。志賀毒素Aサブユニットの表面に露出した伸長ループのS-R/Y
-x-x-Rフューリン切断モチーフをアミノ酸残基置換又は欠失で破壊すると、Aサブユニットの切断効率が低下し、脊椎動物細胞におけるリボソーム阻害効率が低下した(Burgess B, Roberts L, Mol Microbiol 10:171-9 (1993)、Garred O et al.,Exp Cell Res
218: 39-49 (1995)、Lea N et al.,Microbiology145: 999-1004 (1999)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysResCommun 357: 144-9 (2007))。SLT-1のAサブユニッ
ト内のフューリン切断モチーフの破壊は、そのリボソーム阻害活性を60倍低下させた(Lea N et al.,Microbiology 145: 999-1004 (1999))。加えて、最小フューリン切断
モチーフR-x-x-Rを破壊しない、フューリン切断モチーフの隣接領域の破壊も、Stxのリボソーム阻害活性を低減させた(Kurmanova A etal., Biochem Biophys Res Commun 357: 144-9 (2007))。
【0017】
フューリン切断耐性、志賀毒素変異体についても、フューリン欠失細胞についても、細胞を中毒させる前にインビトロで志賀ホロ毒素をフューリンで前処理することによって志賀毒素細胞毒性を増加させることができる。志賀毒素Aサブユニットを、インビトロでフューリンによって効率的に切断することができる(Garred O et al.,Exp Cell Res 218:
39-49 (1995))。フューリン欠失ヒト細胞への投与前のインビトロでのStxのフュー
リンでの前処理は、リボソーム阻害活性を30~50倍増加させる結果となった(GarredO et al., Exp Cell Res 218:39-49 (1995)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysRes Commun 357: 144-9 (2007))。同様に、インビトロでのフューリン切断耐性、変異型
、志賀毒素のトリプシンでの前処理は、中毒脊椎動物細胞において、未処理のフューリン切断耐性志賀毒素で中毒させた細胞と比較して、リボソーム阻害を増加させる結果となった(Kurmanova A etal., Biochem Biophys Res Commun 357: 144-9(2007))。
【0018】
A1断片のA2断片からの解離は、該A1断片の触媒ドメインの活性化に必要である可能性があった(Garred O et al., Exp Cell Res218:39-49 (1995)、Garred O et al., J
Biol Chem 270: 10817-21 (1995)、Kurmanova A etal., BiochemBiophys Res Commun
357: 144-9 (2007))。志賀毒素の触媒ドメインは、該触媒ドメインが立体的に遮断され
ているためフューリン切断前に不活性である可能性もあった(Lea N et al., Microbiology145: 999-1004 (1999)、Fraser M et al., Nat Struct Biol1: 59-64 (1994))。
【0019】
志賀毒素細胞毒性のモデルは、中毒細胞におけるフューリンによる志賀毒素Aサブユニットの細胞内タンパク質プロセッシングが、1)志賀ホロ毒素の残部からのA1断片の遊離に、2)A1断片のカルボキシ末端の疎水性ドメインを露出させることによる小胞体からのA1断片の流出に、及び3)A1断片の酵素的活性化に不可欠であるモデルである(Johannes L, Romer W, Nat Rev Microbiol 8:105-16 (2010)を参照されたい)。中毒細
胞の小胞体における志賀ホロ毒素のA2断片及び残りの成分からの志賀毒素A1断片の効率的遊離は、サイトゾルへの効率的な細胞内経路決定に、最大酵素活性に、効率的なリボソーム不活性化に、及び最適な細胞毒性、すなわち野生型志賀毒素に匹敵する細胞毒性、の実現に不可欠である。
【0020】
志賀毒素A1断片のすべての他の部分からの遊離は、1)中毒細胞の小胞体内の細胞因子による認識のためのA1断片のカルボキシ末端の露出にも、2)触媒活性の最大化にも必要でありうる。
【0021】
志賀毒素A1断片の遊離は、A1断片のカルボキシ末端を露出させるために必要である。StxAのA1断片のカルボキシ末端領域内の224~241辺りの疎水性領域は、小胞体の内腔からサイトゾルへのA1断片の逆行輸送に関与すると考えられている(Suhan M, Hovde C, Infect Immun 66:5252-9(1998)、LaPointe P et al., J Biol Chem 280:23310-18(2005))。この疎水性領域のいくつかのアミノ残基は、Stx1A及びStx
2A両方において志賀毒素Aサブユニットの切断後に表面露出度がより大きくなる(Di R
et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))。したがって、志賀毒素A1断片の遊離及びその
カルボキシ末端疎水性領域の露出は、小胞体からサイトゾルへのA1断片の輸送を誘発する可能性がある(Suhan M, HovdeC, Infect Immun 66: 5252-9(1998)、LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18(2005)、Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))
。加えて、A1断片のカルボキシ末端は、A1断片の効率的逆行輸送の一因となる、シャペロンタンパク質以外の、小胞体受容体によって認識され、結合されるリガンドとして機能しうる(LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005))。
【0022】
志賀毒素A1断片の細胞毒性を強化する構造変化は、A1断片のすべての他の部分からの遊離後に起こりうる。遊離志賀毒素A1断片は、例えば、志賀ホロ毒素構造に包埋されている特定の触媒領域を露出させることなどによって、最適な触媒活性を示す可能性がある(Tesh V et al.,Infect Immun 61: 3392-402(1993)、Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011)を参照されたい)。タンパク質切断及び還元条件への暴露後の志賀毒素触媒
活性化、又はタンパク質プロセッシング及び還元条件への暴露後の志賀毒素毒性の強化は、A1断片のA2断片からの分離の結果である可能性が最も高い(Tesh V et al.,Infect
Immun 61: 3392-402 (1993)を参照)。志賀ホロ毒素の残部からの解離後の志賀毒素A
1断片への構造変化は、例えば、ERAD機構によってアンフォールドされ、サイトゾルに移行された後に触媒活性がより高い新たなフォールド構造を形成する能力、プロテアーゼによる分解を回避するサイトゾルA1断片の能力、並びに触媒活性を強化する、より多くの解放触媒活性部位及び/又は結合溝を有する、構造を形成する能力などの、機能変化に関係しうる(Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))。
【0023】
例えば、Stx1Aの触媒残基N75及びY77は、志賀毒素A1断片の遊離後に溶媒露出がより大きくなることがあり、Stx1とStx2両方のA1断片のカルボキシ末端のアミノ酸残基位置約205~250の残基の多くは、A1断片遊離後に表面露出度の有意な変化を被ることがある(Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))。特に、Stx1Aの領域240~251及びStx2Aの領域239~250内のアミノ酸残基は、志賀毒素A1断片の遊離後に表面露出の劇的増加を示した(Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))。別の例は、Stx2Aの領域42~49及び246~250内のアミノ酸残基が、志賀毒素A1断片の遊離後により大きく溶媒露出されうるという例である(Smith M et al., Infect Immun 77:2730-40(2009)、Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))。したがって、志賀毒素A1断片のすべての他の部分からの遊離は、中毒細胞のサ
イトゾルへのA1断片の細胞内経路決定、中毒細胞のサイトゾルにおけるA1断片の酵素活性、及び中毒細胞のサイトゾルにおけるA1断片の残留性を改善させる構造及び機能変化のために、最大志賀毒素細胞毒性に必要でありうる。
【0024】
要約すると、最大の志賀毒素細胞毒性は、志賀毒素Aサブユニットの切断、A1断片のカルボキシ末端に近接している疎水性領域の小胞体内での露出、及びA1断片のホロ毒素の残部からの遊離を必要とすると考えられ、これらのすべてがA1断片に複数の構造及び機能変化をもたらす可能性がある。加えて、志賀毒素A1断片のサイトゾルへの最適な細胞内輸送は、同じ事象、すなわち、Aサブユニット切断、A1断片カルボキシ末端の露出、及びA1断片のすべての他の分子部分からの遊離を必要とすると考えられている。志賀毒素Aサブユニットのフューリン切断が起こらないとき、志賀毒素触媒ドメインの細胞内経路決定は発生しうるが、最適以下の、より低い効率のものであり、結果としてリボソーム阻害の有効性が低下することになる(Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、LeaN et al.,Microbiology 145: 999-1004 (1999)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysRes Commun 357: 144-9 (2007))。
【0025】
中毒脊椎動物細胞における志賀毒素Aサブユニットのフューリンによるタンパク質プロセッシングは最大細胞毒性に重大な意味を持つため、志賀毒素Aサブユニットに由来する
細胞毒性分子を設計する場合、最大の志賀毒素細胞毒性を保存するためにこの自然発生タンパク質プロセッシングを維持又は補償することが重要である。志賀毒素A1断片由来成分のネイティブ細胞内経路決定及び/又は細胞毒性を乱すカルボキシ末端部分に連結されたフューリン切断耐性、志賀毒素Aサブユニットを含む構造の、フューリン切断欠如を完全に補償する解決策は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第7713915号明細書
【特許文献2】欧州特許第1051482号明細書
【特許文献3】欧州特許第1727827号明細書
【特許文献4】欧州特許第1945660号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0156417号明細書A1
【特許文献6】欧州特許第2228383号明細書B1
【特許文献7】欧州特許第2402367号明細書A1
【特許文献8】米国特許出願公開第2013/0196928号明細書A1
【特許文献9】国際公開第2014/164680号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2014/164693号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2015/113005号パンフレット
【特許文献12】国際公開第2015/113007号パンフレット
【特許文献13】国際公開第2015/120058号パンフレット
【特許文献14】国際公開第2015/138435号パンフレット
【特許文献15】国際公開第2015/138452号パンフレット
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Haddad J et al., JBacteriol175: 4970-8 (1993)
【非特許文献2】Backer M et al., J Control Release 74:349-55(2001)
【非特許文献3】Backer M, Backer J, BioconjugChem12: 1066-73 (2001)
【非特許文献4】LaPointe P et al., J Biol Chem 280:23310-18(2005)
【非特許文献5】Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011)
【非特許文献6】Thomas G, Nat Rev Mol Cell Biol 3:753-66(2002)
【非特許文献7】Brown J et al., FEBS Lett 117: 84-8 (1980)
【非特許文献8】Reisbig R et al., J Biol Chem 256: 8739-44 (1981)
【非特許文献9】Garred O et al., Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)
【非特許文献10】Garred O et al., J Biol Chem 270: 10817-21 (1995)
【非特許文献11】Lea N et al., Microbiology 145:999-1004(1999)
【非特許文献12】Kurmanova A et al., Biochem BiophysRes Commun 357: 144-9 (2007)
【非特許文献13】Garred O et al., Exp Cell Res 218:39-49 (1995)
【非特許文献14】Engedal, N et al., Microbial Biotech 4: 32-46 (2011)
【非特許文献15】Romer W, Nat Rev Microbiol8: 105-16 (2010)
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【非特許文献17】Fraser M et al., Nat Struct Biol 1:59-64(1994)
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【非特許文献19】Shiryaev S et al., J Biol Chem 282: 20847-53 (2007)
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【非特許文献21】Li S et al., PLoSOne7: e41119 (2012)
【非特許文献22】Yu M, Haslam D, Infect Immun73: 2524-32(2005)
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【非特許文献24】Iordanov M et al., Mol Cell Biol 17: 3373-81 (1997)
【非特許文献25】Smith W et al., Infect Immun71: 1497-504(2003)
【非特許文献26】Lee S et al., Cell Microbiol10: 770-80(2008)
【非特許文献27】Tesh V, Future Microbiol 5: 431-53 (2010)
【非特許文献28】Burgess B, Roberts L, Mol Microbiol 10:171-9 (1993)
【非特許文献29】Suhan M, Hovde C, Infect Immun66: 5252-9 (1998)
【非特許文献30】Tesh V et al., Infect Immun 61: 3392-402(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
可能な限り細胞毒性である志賀毒素Aサブユニット由来成分を含む細胞毒性分子を有することは望ましいであろう。様々な医学的応用で特異的細胞タイプの殺滅に高い作用強度を維持する志賀毒素エフェクターポリペプチド成分を含む改善された細胞標的化分子を有することも望ましいであろう。しかし、志賀毒素Aサブユニット由来領域を含む細胞毒性分子であって、例えば細胞標的化、免疫グロブリン型結合領域などの、カルボキシ末端分子部分を含む場合の、生物への投与後の非特異的毒性が低減した、安定性が改善し、インビボ半減期が増加した、及び/又は毒性プロファイルが改善した細胞毒性分子を工学的に作製する方法が、当技術分野において依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、細胞標的化分子及び診断用組成物などの様々な組成物の成分として使用することができる、様々なプロテアーゼ切断耐性、志賀Aサブユニット毒素エフェクターポリペプチド及びそれらを含む細胞毒性分子を提供する。本発明は、細胞標的化を果たすために結合領域と機能的に会合しているプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む様々な細胞標的化分子も提供する。細胞標的化結合領域とプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドの会合は、強力な志賀毒素細胞毒性及び/又は細胞分裂停止の細胞タイプ特異的標的化と同時にインビボ忍容性改善の工学操作を可能にする。本発明の特定の細胞標的化分子は、所与の投薬量で非特異的毒性を生じさせる可能性が低減されたため、治療薬及び/又は診断薬のいずれかとしての脊椎動物への投与の有用性が改善した。
【0030】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、1)1つ又は2つ以上のポリペプチドを含み、少なくとも1つの細胞外標的生体分子に特異的に結合できる、免疫グロブリン型結合領域を含む結合領域と、2)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域、及び前記A1断片領域のカルボキシ末端の破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドとを含む。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合している。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、志賀毒素エフェクターポリペプチドに融合されている。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、単一の連続ポリペプチドを形成するように志賀毒素エフェクターポリペプチドに融合されている。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、結合領域は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に、直接的にであろうと、間接的にであろうと融合されている。特定の実施形態において、分子部分は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、ジスルフィド結合ではない少なくとも1つの共有結合によって結合領域に連結されている。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、免疫グロブリン型結合領域は、シングルドメイン抗体(sdAb,single-domain antibody)断片、ナノボディ、ラクダ科動物に由来する重鎖抗体ドメイン(VHH断片)、軟骨魚類に由来する重鎖抗体ドメイン、免疫グロブリン新規抗原受容体(IgNAR,immunoglobulin new antigen receptor)、VNAR断片、一本鎖可変
断片(scFv,single-chain variable fragment)、抗体可変断片(Fv,antibody variable fragment)、相補性決定領域3(CDR3,complementarydetermining region
3)断片、拘束FR3-CDR3-FR4(FR3-CDR3-FR4)ポリペプチド、
Fd断片、抗原結合断片(Fab,antigen-binding fragment)、フィブロネクチン由来第10フィブロネクチンIII型ドメイン(10Fn3,fibronection-derived 10th fibronectin type III domain)、テネイシンIII型ドメイン、アンキリン反復モチーフドメイ
ン、低密度リポタンパク質受容体由来Aドメイン(LDLR-A,low-density-lipoprotein-receptor-derivedA-domain)、リポカリン(アンチカリン)、Kunitzドメイン、プ
ロテインA由来Zドメイン、ガンマ-B結晶由来ドメイン、ユビキチン由来ドメイン、Sac7d由来ポリペプチド(アフィチン)、Fyn由来SH2ドメイン、ミニタンパク質、C型レクチン様ドメイン足場、改変抗体模倣物、及び結合機能性を保持する前述のもののいずれかの遺伝子操作された任意の対応物からなる群から選択される。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、結合領域は、CD20、CD22、CD40、CD79、CD25、CD30、HER2/neu/ErbB2、EGFR、EpCAM(例えば、EGP-2、EGP-40)、EphB2、前立腺特異的膜抗原、Cripto、エンドグリン、線維芽細胞活性化タンパク質、Lewis-Y、CD19、CD21
、CS1/SLAMF7、CD33、CD52、CD133、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、炭酸脱水酵素IX、葉酸結合タンパク質、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、ガングリオシドLewis-Y2、VEGFR、
アルファVベータ3、アルファ5ベータ1、ErbB1/EGFR、Erb3、c-MET、IGF1R、EphA3、TRAIL-R1、TRAIL-R2、RANKL、FAP、テネイシン、CD64、メソセリン、BRCA1、MART-1/メランA、gp100、チロシナーゼ、ヒトチロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1,human tyrosinase related protein 1)、ヒトチロシナーゼ関連タンパク質2、TRP-1、TRP-2、MAGE-1、MAGE-3、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、NY-ESO-1、CDK-4、ベータ-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE6、SART-1、PRAME、癌胎児抗原、前立腺特異的抗原、前立腺幹細胞抗原、ヒトアスパルチル(アスパラギニル)ベータ-ヒドロキシラーゼ、EphA2、HER3/ErbB-3、MUC1、MART-1/メランA、gp100、チロシナーゼ関連抗原、HPV-E7、エプスタイン・バーウイルス抗原、Bcr-Abl、アルファ-フェトプロテイン抗原、17-A1、膀胱腫瘍抗原、CD38、CD15、CD23、CD52、CD133、CD53、CD88、CD129、CD183、CD191、CD193、CD244、CD294、CD305、C3AR、FceRIa、ガレクチン-9、mrp-14、Siglec-8、Siglec-10、CD49d、CD13、CD44、CD54、CD63、CD69、CD123、TLR4、FceRIa、IgE、CD107a、CD203c、CD14、CD68、CD80、CD86、CD105、CD115、F4/80、ILT-3、ガレクチン-3、CD11a-c、GITRL、MHCクラスII、CD284-TLR4、CD107-Mac3、CD195-CCR5、HLA-DR、CD16/32、CD282-TLR2、CD11c、及び前述のもののいずれかの任意の免疫原性断片からなる群から選択される細胞外標的生体分子と結合できる。特定の実施形態について、結合領域の細胞外標的と物理的に結合している細胞への本発明の細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は、細胞を死滅させることができる。特定のさらなる実施形態について、細胞外標的生体分子の存在又はレベルに関して異なる細胞タイプの2つの異なる集団への本発明の細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は、細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞タイプを、細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合していない細胞タイプについて観測されたCD50の多くとも3分の1のCD50で、細胞死させることができる。特定の実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域のいずれの細胞外標的生体分子に物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細
胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域の有意な量のいずれの細胞外標的生体分子に物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、標的生体分子陽性細胞の第1の集団、及びメンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の標的生体分子を細胞表面で発現しない第2の細胞集団への本発明の細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、KDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)のメンバーのカルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフをさらに含む。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、KDEL(配列番号62)、HDEF(配列番号63)、HDEL(配列番号64)、RDEF(配列番号65)、RDEL(配列番号66)、WDEL(配列番号67)、YDEL(配列番号68)、HEEF(配列番号69)、HEEL(配列番号70)、KEEL(配列番号71)、REEL(配列番号72)、KAEL(配列番号73)、KCEL(配列番号74)、KFEL(配列番号75)、KGEL(配列番号76)、KHEL(配列番号77)、KLEL(配列番号78)、KNEL(配列番号79)、KQEL(配列番号80)、KREL(配列番号81)、KSEL(配列番号82)、KVEL(配列番号83)、KWEL(配列番号84)、KYEL(配列番号85)、KEDL(配列番号86)、KIEL(配列番号87)、DKEL(配列番号88)、FDEL(配列番号89)、KDEF(配列番号90)、KKEL(配列番号91)、HADL(配列番号92)、HAEL(配列番号93)、HIEL(配列番号94)、HNEL(配列番号95)、HTEL(配列番号96)、KTEL(配列番号97)、HVEL(配列番号98)、NDEL(配列番号99)、QDEL(配列番号100)、REDL(配列番号101)、RNEL(配列番号102)、RTDL(配列番号103)、RTEL(配列番号104)、SDEL(配列番号105)、TDEL(配列番号106)及びSKEL(配列番号107)からなる群から選択される、カルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフを含む。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀毒素ファミリーのメンバーの天然に存在するAサブユニットと比較して変異を含み、この変異は、志賀毒素エフェクターポリペプチドの酵素活性を低減又は除去するが、志賀毒素エフェクターポリペプチドの少なくとも一部のサイトゾルへの細胞内経路決定を野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドの細胞内経路決定レベルより下に低減させない。
【0031】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、1)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域、及びA1断片領域のカルボキシ末端の、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較して最小フューリン切断モチーフの1つ又は2つ以上の変異を含む破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドと、2)少なくとも1つの細胞外標的生体分子に特異的に結合でき、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合している、結合領域とを含む。本発明の細胞標的化分子のこれらの実施形態において、最小フューリン切断モチーフの変異は、R/Y-x-x-Rフューリン切断モチーフ内の少なくとも1つのアミノ酸残基のアミノ酸欠失、挿入及び/又は置換であ
る。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、ジスルフィド結合ではない少なくとも1つの共有結合によって結合領域に連結されている。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に、直接的にであろうと、間接的にであろうと融合されている。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、単一の連続ポリペプチドを形成するように志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に融合されている。特定の実施形態において、結合領域は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、免疫グロブリン型結合領域は、シングルドメイン抗体(sdAb)断片、ナノボディ、ラクダ科動物に由来する重鎖抗体ドメイン(VHH断片)、軟骨魚類に由来する重鎖抗体ドメイン、免疫グロブリン新規抗原受容体(IgNAR)、VNAR断片、一本鎖可変断片(scFv)、抗体可変断片(Fv)、相補性決定領域3(CDR3)断片、拘束FR3-CDR3-FR4(FR3-CDR3-FR4)ポリペプチド、Fd断片、抗原結合断片(Fab)、フィブロネクチン由来第10フィブロネクチンIII型ドメイン(10F
n3)、テネイシンIII型ドメイン、アンキリン反復モチーフドメイン、低密度リポタン
パク質受容体由来Aドメイン(LDLR-A)、リポカリン(アンチカリン)、Kunitzドメイン、プロテインA由来Zドメイン、ガンマ-B結晶由来ドメイン、ユビキチン由来ドメイン、Sac7d由来ポリペプチド(アフィチン)、Fyn由来SH2ドメイン、ミニタンパク質、C型レクチン様ドメイン足場、改変抗体模倣物、及び結合機能性を保持する前述のもののいずれかの遺伝子操作された任意の対応物からなる群から選択される。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、結合領域は、CD20、CD22、CD40、CD79、CD25、CD30、HER2/neu/ErbB2、EGFR、EpCAM(例えば、EGP-2、EGP-40)、EphB2、前立腺特異的膜抗原、Cripto、エンドグリン、線維芽細胞活性化タンパク質、Lewis-Y、CD19
、CD21、CS1/SLAMF7、CD33、CD52、CD133、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、炭酸脱水酵素IX、葉酸結合タンパク質、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、ガングリオシドLewis-Y2、VEGFR、アルファVベータ3、アルファ5ベータ1、ErbB1/EGFR、Erb3、c-MET、IGF1R、EphA3、TRAIL-R1、TRAIL-R2、RANKL、FAP、テネイシン、CD64、メソセリン、BRCA1、MART-1/メランA、gp100、チロシナーゼ、ヒトチロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)、ヒトチロシナーゼ関連タンパク質2、TRP-1、TRP-2、MAGE-1、MAGE-3、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、NY-ESO-1、CDK-4、ベータ-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE6、SART-1、PRAME、癌胎児抗原、前立腺特異的抗原、前立腺幹細胞抗原、ヒトアスパルチル(アスパラギニル)ベータ-ヒドロキシラーゼ、EphA2、HER3/ErbB-3、MUC1、MART-1/メランA、gp100、チロシナーゼ関連抗原、HPV-E7、エプスタイン・バーウイルス抗原、Bcr-Abl、アルファ-フェトプロテイン抗原、17-A1、膀胱腫瘍抗原、CD38、CD15、CD23、CD52、CD133、CD53、CD88、CD129、CD183、CD191、CD193、CD244、CD294、CD305、C3AR、FceRIa、ガレクチン-9、mrp-14、Siglec-8、Siglec-10、CD49d、CD13、CD44、CD54、CD63、CD69、CD123、TLR4、FceRIa、IgE、CD107a、CD203c、CD14、CD68、CD80、CD86、CD105、CD115、F4/80、ILT-3、ガレクチン-3、CD11a-c、GITRL、MHCクラスII、CD284-TLR4、CD107-Mac3、CD195-CCR5、HLA-DR、CD16/32、CD282-TLR2、CD11c、及び前述のもののいずれかの任意の免疫原性断片からなる群から選択される細胞外標的生体分子と結合できる。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態について、結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞への細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は細胞を死滅
させることができる。特定のさらなる実施形態について、細胞外標的生体分子の存在又はレベルに関して異なる細胞タイプの2つの異なる集団への本発明の細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は、細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞タイプを、細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合していない細胞タイプについて観測されたCD50の多くとも3分の1のCD50で、細胞死させることができる。特定の実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域のいずれの細胞外標的生体分子にも物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域の有意な量のいずれの細胞外標的生体分子にも物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、標的生体分子陽性細胞の第1の集団、及びメンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の標的生体分子を細胞表面で発現しない第2の細胞集団への本発明の細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、配列番号4~36のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号4~36のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、KDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)のメンバーのカルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフをさらに含む。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、KDEL(配列番号62)、HDEF(配列番号63)、HDEL(配列番号64)、RDEF(配列番号65)、RDEL(配列番号66)、WDEL(配列番号67)、YDEL(配列番号68)、HEEF(配列番号69)、HEEL(配列番号70)、KEEL(配列番号71)、REEL(配列番号72)、KAEL(配列番号73)、KCEL(配列番号74)、KFEL(配列番号75)、KGEL(配列番号76)、KHEL(配列番号77)、KLEL(配列番号78)、KNEL(配列番号79)、KQEL(配列番号80)、KREL(配列番号81)、KSEL(配列番号82)、KVEL(配列番号83)、KWEL(配列番号84)、KYEL(配列番号85)、KEDL(配列番号86)、KIEL(配列番号87)、DKEL(配列番号88)、FDEL(配列番号89)、KDEF(配列番号90)、KKEL(配列番号91)、HADL(配列番号92)、HAEL(配列番号93)、HIEL(配列番号94)、HNEL(配列番号95)、HTEL(配列番号96)、KTEL(配列番号97)、HVEL(配列番号98)、NDEL(配列番号99)、QDEL(配列番号100)、REDL(配列番号101)、RNEL(配列番号102)、RTDL(配列番号103)、RTEL(配列番号104)、SDEL(配列番号105)、TDEL(配列番号106)及びSKEL(配列番号107)からなる群から選択される、カルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフを含む。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀毒素ファミリーのメンバーの天然に存在するAサブユニットと比較して変異を含み、この変異は、志賀毒素エフェクターポリペプチドの酵素活性を低減又は除去するが、志賀毒素エフェクターポリペプチドの少なくとも一部のサイトゾルへの細胞内経路決定を野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドの細胞内経路決定レベルより下に低減させない。
【0032】
特定の実施形態において、本発明の細胞毒性分子は、1)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域、及び2)前記A1断片領域のカルボキシ末端に破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含み、細胞毒性分子は、第1の細胞標的化分子の成分が、少なくとも1つの細胞外標的生体分子に特異的に結合できる結合領域と、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合している分子部分とを含む場合、志賀毒素エフェクターポリペプチドが野生型、志賀毒素A1ポリペプチドからなることを除いて細胞標的化分子からなる第2の細胞標的化分子の細胞毒性と同等の細胞毒性を示すことができる。これは、第2の細胞標的化分子が、本発明の第1の細胞標的化分子と、同じ志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むのではなく、同じ結合領域及び同じ分子部分を含むことを意味し、第2の細胞標的化分子は、カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域(例えば、配列番号1若しくは配列番号2のアミノ酸1~251、又は配列番号3のアミノ酸1~250)を含む野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含み、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドのA1断片領域のカルボキシ末端に野生型フューリン切断部位を含み、分子部分は、第1の細胞標的化分子の場合と同じ会合で野生型、志賀毒素A1ポリペプチドのカルボキシ末端と会合している。特定のさらなる実施形態において、分子部分は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に直接的に又は間接的に融合されている少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。特定の実施形態において、分子部分は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。特定の実施形態において、分子部分は、天然に存在する志賀毒素の志賀毒素A2断片に由来するペプチド及び/又はポリペプチドを含む。特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、ジスルフィド結合ではない少なくとも1つの共有結合によって分子部分に連結されている。特定のさらなる実施形態において、分子部分は、単一の連続ポリペプチドを形成するように志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に融合されているポリペプチドを含む。本発明の細胞毒性分子の特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較して少なくとも1つの変異を含み、この変異は、1)志賀様毒素1のAサブユニット(配列番号1)若しくは志賀毒素のAサブユニット(配列番号2)の248~251に又は2)志賀様毒素2のAサブユニット(配列番号3)の247~250に天然に位置する領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変するものである。本発明の細胞毒性分子の特定のさらなる実施形態において、変異は、正電荷を有さないアミノ酸残基でのアルギニン残基のアミノ残基酸置換である。本発明の細胞毒性分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。本発明の細胞毒性分子の特定のさらなる実施形態において、第1の細胞標的化分子は、第2の細胞標的化分子と比較してインビボ忍容性改善を示すことができる。本発明の細胞毒性分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀毒素ファミリーのメンバーの天然に存在するAサブユニットと比較して変異を含み、この変異は、志賀毒素エフェクターポリペプチドの酵素活性を低減又は除去するが、志賀毒素エフェクターポリペプチドの少なくとも一部のサイトゾルへの細胞内経路決定を野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドの細胞内経路決定レベルより下に低減させない。
【0033】
本発明の細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方をさらに含む、配列番号2で示されるポリペプチドからならない:R248H及びR251H。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方を含まない:R248H及びR251H。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方をさらに含む、配列番号1で示されるポリペプチドからならない:R248G及びR251G。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方を含まない:R248
G及びR251G。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてをさらに含む、配列番号1で示されるポリペプチドからならない:A246G、S247A、A253G及びS254A。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてを含まない:A246G、S247A、A253G及びS254A。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてをさらに含む、配列番号1で示されるポリペプチドからならない:A246G、S247A、R248G、R251G、A253G及びS254A。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてを含まない:A246G、S247A、R248G、R251G、A253G及びS254A。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、247~252に天然に位置する領域の欠失をさらに含む配列番号2で示されるポリペプチドからならない。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、247~252に天然に位置する領域の欠失を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含まない。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次の欠失の両方をさらに含む配列番号2で示されるポリペプチドからならない:245~247及び253~255。細胞毒性分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次の欠失の両方を含まない:245~247及び253~255。
【0034】
特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、1)少なくとも1つの細胞外標的生体分子に特異的に結合できる結合領域と、2)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域、及びA1断片領域のカルボキシ末端に破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドと、3)志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合している分子部分とを含み、細胞毒性、細胞標的化分子は、志賀毒素エフェクターポリペプチドが野生型、志賀毒素A1ポリペプチドからなることを除いて細胞標的化分子からなる第2の細胞標的化分子の細胞毒性と同等の細胞毒性を示すことができる。これは、第2の細胞標的化分子が、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子と、同じ志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むのではなく、同じ結合領域及び同じ分子部分を含むことを意味し、第2の細胞標的化分子は、カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域を含む野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチド、及び野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドのA1断片領域のカルボキシ末端の野生型フューリン切断部位を含み、分子部分は、第1の細胞標的化分子の場合と同じ会合で野生型志賀毒素A1ポリペプチドのカルボキシ末端と会合している。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、分子部分は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、分子部分は、結合領域を含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、分子部分は、天然に存在する志賀毒素の志賀毒素A2断片に由来するペプチド及び/又はポリペプチドを含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、結合領域は、免疫グロブリン型結合領域を含むポリペプチドを含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、免疫グロブリン型結合領域は、シングルドメイン抗体(sdAb)断片、ナノボディ、ラクダ科動物に由来する重鎖抗体ドメイン(VHH断片)、軟骨魚類に由来する重鎖抗体ドメイン、免疫グロブリン新規抗原受容体(IgNAR)、VNAR断片、一本鎖可変断片(scFv)、抗体可変断片(Fv)、相補性決定領域3(CDR3)断片、拘束FR3-CDR3-FR4(FR3-CDR3-FR4)ポリペプチド、Fd断片、抗原結合断片(Fab)、フィブロネクチン由来第10フィブロネクチンIII型ドメイン(10F
n3)、テネイシンIII型ドメイン、アンキリン反復モチーフドメイン、低密度リポタン
パク質受容体由来Aドメイン(LDLR-A)、リポカリン(アンチカリン)、Kunitzド
メイン、プロテインA由来Zドメイン、ガンマ-B結晶由来ドメイン、ユビキチン由来ドメイン、Sac7d由来ポリペプチド(アフィチン)、Fyn由来SH2ドメイン、ミニタンパク質、C型レクチン様ドメイン足場、改変抗体模倣物、及び結合機能性を保持する前述のもののいずれかの遺伝子操作された任意の対応物からなる群から選択される。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、ジスルフィド結合ではない少なくとも1つの共有結合によって分子部分に連結されている。特定のさらなる実施形態において、分子部分は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に融合されている少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、分子部分は、単一の連続ポリペプチドを形成するように志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に融合されているポリペプチドを含む。特定の実施形態について、細胞外標的生体分子の存在又はレベルに関して異なる細胞タイプの2つの異なる集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は、細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞タイプを、該細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合していない細胞タイプについて観測されたCD50の多くとも3分の1のCD50で、細胞死させることができる。特定のさらなる実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域のいずれの細胞外標的生体分子にも物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域の有意な量のいずれの細胞外標的生体分子にも物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、標的生体分子陽性細胞の第1の集団、及びメンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の標的生体分子を細胞表面で発現しない第2の細胞集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、結合領域は、CD20、CD22、CD40、CD79、CD25、CD30、HER2/neu/ErbB2、EGFR、EpCAM(例えば、EGP-2、EGP-40)、EphB2、前立腺特異的膜抗原、Cripto、エンドグリン、線維芽細胞活性化タンパク質、Lewis-Y、CD19、CD
21、CS1/SLAMF7、CD33、CD52、CD133、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、炭酸脱水酵素IX、葉酸結合タンパク質、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、ガングリオシドLewis-Y2、VEGF
R、アルファVベータ3、アルファ5ベータ1、ErbB1/EGFR、Erb3、c-MET、IGF1R、EphA3、TRAIL-R1、TRAIL-R2、RANKL、FAP、テネイシン、CD64、メソセリン、BRCA1、MART-1/メランA、gp100、チロシナーゼ、ヒトチロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)、ヒトチロシナーゼ関連タンパク質2、TRP-1、TRP-2、MAGE-1、MAGE-3、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、NY-ESO-1、CDK-4、ベータ-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE6、SART-1、PRAME、癌胎児抗原、前立腺特異的抗原、前立腺幹細胞抗原、ヒトアスパルチル(アスパラギニル)ベータ-ヒドロキシラーゼ、EphA2、HER3/ErbB-3、MUC1、MART-1/メランA、gp100、チロシナーゼ関連抗原、HPV-E7、エプスタイン・バーウイルス抗原、Bcr-Abl、アルファ-フェトプロテイン抗原、17-A1、膀胱腫瘍抗原、CD38、CD15、CD23、CD52、CD133、CD53、CD88、CD129、CD183、CD191、CD193、CD244、CD29
4、CD305、C3AR、FceRIa、ガレクチン-9、mrp-14、Siglec-8、Siglec-10、CD49d、CD13、CD44、CD54、CD63、CD69、CD123、TLR4、FceRIa、IgE、CD107a、CD203c、CD14、CD68、CD80、CD86、CD105、CD115、F4/80、ILT-3、ガレクチン-3、CD11a-c、GITRL、MHCクラスII、CD284-TLR4、CD107-Mac3、CD195-CCR5、HLA-DR、CD16/32、CD282-TLR2、CD11c、及び前述のもののいずれかの任意の免疫原性断片からなる群から選択される細胞外標的生体分子と結合できる。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、KDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)のメンバーのカルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフをさらに含む。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、KDEL(配列番号62)、HDEF(配列番号63)、HDEL(配列番号64)、RDEF(配列番号65)、RDEL(配列番号66)、WDEL(配列番号67)、YDEL(配列番号68)、HEEF(配列番号69)、HEEL(配列番号70)、KEEL(配列番号71)、REEL(配列番号72)、KAEL(配列番号73)、KCEL(配列番号74)、KFEL(配列番号75)、KGEL(配列番号76)、KHEL(配列番号77)、KLEL(配列番号78)、KNEL(配列番号79)、KQEL(配列番号80)、KREL(配列番号81)、KSEL(配列番号82)、KVEL(配列番号83)、KWEL(配列番号84)、KYEL(配列番号85)、KEDL(配列番号86)、KIEL(配列番号87)、DKEL(配列番号88)、FDEL(配列番号89)、KDEF(配列番号90)、KKEL(配列番号91)、HADL(配列番号92)、HAEL(配列番号93)、HIEL(配列番号94)、HNEL(配列番号95)、HTEL(配列番号96)、KTEL(配列番号97)、HVEL(配列番号98)、NDEL(配列番号99)、QDEL(配列番号100)、REDL(配列番号101)、RNEL(配列番号102)、RTDL(配列番号103)、RTEL(配列番号104)、SDEL(配列番号105)、TDEL(配列番号106)及びSKEL(配列番号107)からなる群から選択される、カルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフを含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、細胞標的化分子は、第2の細胞標的化分子と比較してインビボ忍容性改善を示すことができる。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀毒素ファミリーのメンバーの天然に存在するAサブユニットと比較して変異を含み、この変異は、志賀毒素エフェクターポリペプチドの酵素活性を低減又は除去するが、志賀毒素エフェクターポリペプチドの少なくとも一部のサイトゾルへの細胞内経路決定を野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドの細胞内経路決定レベルより下に低減させない。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、免疫細胞表面受容体の断片を含むカルボキシ末端、結合領域を含まない。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、ヒト免疫細胞表面共受容体の断片を含まない。本発明の細胞標的化分子の特定のさらなる実施形
態において、結合領域は、ヒトCD4の断片、I型膜貫通糖タンパク質を含まない。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、アミノ酸残基19~183に対応するヒトCD4の断片を含むカルボキシ末端、結合領域に融合されている、配列番号2のアミノ酸1~247、配列番号2のアミノ酸45~247、及び/又は配列番号2のアミノ酸75~247を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含まない。
【0035】
特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、1)少なくとも1つ
の細胞外標的生体分子に特異的に結合できる結合領域と、2)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域、及びA1断片領域のカルボキシ末端の破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドと、3)志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合している分子部分とを含み、細胞毒性、細胞標的化分子は、志賀毒素エフェクターポリペプチドが野生型志賀毒素A1ポリペプチドからなることを除いて細胞標的化分子からなる第2の細胞標的化分子のインビボ忍容性と比較してインビボ忍容性改善を示すことができる。これは、第2の細胞標的化分子が、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子と、同じ志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むのではなく、同じ結合領域及び同じ分子部分を含むことを意味し、第2の細胞標的化分子は、カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域を含む野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチド、及び野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドのA1断片領域のカルボキシ末端の野生型フューリン切断部位を含み、分子部分は、第1の細胞標的化分子の場合と同じ会合で野生型、志賀毒素A1ポリペプチドのカルボキシ末端と会合している。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは細胞毒性でなく、分子部分が毒性である。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、分子部分は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、分子部分は、結合領域を含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、ジスルフィド結合ではない少なくとも1つの共有結合によって分子部分に連結されている。特定のさらなる実施形態において、分子部分は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に融合されている少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、分子部分は、単一の連続ポリペプチドを形成するように志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に融合されているポリペプチドを含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、分子部分は、天然に存在する志賀毒素の志賀毒素A2断片に由来するペプチド及び/又はポリペプチドを含む。特定のさらなる実施形態において、細胞外標的生体分子の存在又はレベルに関して異なる細胞タイプの2つの異なる集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は、細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞タイプを、該細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合していない細胞タイプについて観測されたCD50の多くとも3分の1のCD50で、細胞死させることができる。特定の実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域のいずれの細胞外標的生体分子にも物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の細胞外標的生体分子に物理的に結合している第1の細胞集団、及びメンバーが結合領域の有意な量のいずれの細胞外標的生体分子にも物理的に結合していない第2の細胞集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。特定の実施形態について、標的生体分子陽性細胞の第1の集団、及びメンバーが細胞標的化分子の結合領域の有意な量の標的生体分子を細胞表面で発現しない第2の細胞集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、前記第2の細胞集団のメンバーと比較して前記第1の細胞集団のメンバーに対する細胞標的化分子の細胞毒性作用は少なくとも3倍大きい。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、結合領域は、免疫グロブリン型結合領域を含むポリペプチドを含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、免疫グロブリン型結合領域は、シングルドメイン抗体(sdAb)断片、ナノボディ、ラクダ科動物に由来する重鎖抗体ドメイン(V
HH断片)、軟骨魚類に由来する重鎖抗体ドメイン、免疫グロブリン新規抗原受容体(IgNAR)、VNAR断片、一本鎖可変断片(scFv)、抗体可変断片(Fv)、相補性決定領域3(CDR3)断片、拘束FR3-CDR3-FR4(FR3-CDR3-FR4)ポリペプチド、Fd断片、抗原結合断片(Fab)、フィブロネクチン由来第10フィブロネクチンIII型ドメイン(10Fn3)、テネイシンIII型ドメイン、アンキリン反復モチーフドメイン、低密度リポタンパク質受容体由来Aドメイン(LDLR-A)、リポカリン(アンチカリン)、Kunitzドメイン、プロテインA由来Zドメイン、ガンマ-B結晶由来ドメイン、ユビキチン由来ドメイン、Sac7d由来ポリペプチド(アフィチン)、Fyn由来SH2ドメイン、ミニタンパク質、C型レクチン様ドメイン足場、改変抗体模倣物、及び結合機能性を保持する前述のもののいずれかの遺伝子操作された任意の対応物からなる群から選択される。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号4~49のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、分子部分は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に直接的に又は間接的に融合されている少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、KDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)のメンバーのカルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフをさらに含む。特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、KDEL(配列番号62)、HDEF(配列番号63)、HDEL(配列番号64)、RDEF(配列番号65)、RDEL(配列番号66)、WDEL(配列番号67)、YDEL(配列番号68)、HEEF(配列番号69)、HEEL(配列番号70)、KEEL(配列番号71)、REEL(配列番号72)、KAEL(配列番号73)、KCEL(配列番号74)、KFEL(配列番号75)、KGEL(配列番号76)、KHEL(配列番号77)、KLEL(配列番号78)、KNEL(配列番号79)、KQEL(配列番号80)、KREL(配列番号81)、KSEL(配列番号82)、KVEL(配列番号83)、KWEL(配列番号84)、KYEL(配列番号85)、KEDL(配列番号86)、KIEL(配列番号87)、DKEL(配列番号88)、FDEL(配列番号89)、KDEF(配列番号90)、KKEL(配列番号91)、HADL(配列番号92)、HAEL(配列番号93)、HIEL(配列番号94)、HNEL(配列番号95)、HTEL(配列番号96)、KTEL(配列番号97)、HVEL(配列番号98)、NDEL(配列番号99)、QDEL(配列番号100)、REDL(配列番号101)、RNEL(配列番号102)、RTDL(配列番号103)、RTEL(配列番号104)、SDEL(配列番号105)、TDEL(配列番号106)及びSKEL(配列番号107)からなる群から選択される、カルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフを含む。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀毒素ファミリーのメンバーの天然に存在するAサブユニットと比較して変異を含み、この変異は、志賀毒素エフェクターポリペプチドの酵素活性を低減又は除去するが、志賀毒素エフェクターポリペプチドの少なくとも一部のサイトゾルへの細胞内経路決定を野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドの細胞内経路決定レベルより下に低減させない。
【0036】
特定の実施形態において、細胞毒性であろうと非細胞毒性であろうと本発明の細胞標的化分子は、天然に存在する志賀毒素Bサブユニットを含まない。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、ネイティブ志賀毒素Bサブユニットの機能性結合ドメインを含む、又はネイティブ志賀毒素Bサブユニットの機能性結合ドメインから本質的になる、いずれのポリペプチドも含まない。むしろ、本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態
において、志賀毒素Aサブユニット由来領域は、細胞標的化を果たすために異種結合領域と機能的に会合している。
【0037】
特定の実施形態において、細胞毒性であろうと非細胞毒性であろうと本発明の細胞標的化分子は、志賀毒素ファミリーのメンバーのいずれの志賀毒素A2断片も、その機能性断片も含まない。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、破壊されたフューリン切断モチーフのカルボキシ末端のネイティブ、野生型、志賀毒素A2断片からのアミノ酸配列を含まない。
【0038】
特定の実施形態において、本発明の細胞毒性分子は、志賀毒素ファミリーのメンバーのいずれの志賀毒素A2断片も、その機能性断片も含まない。特定の実施形態において、本発明の細胞毒性分子は、破壊されたフューリン切断モチーフのカルボキシ末端のネイティブ、野生型、志賀毒素A2断片からのアミノ酸配列を含まない。
【0039】
本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方をさらに含む、配列番号2で示されるポリペプチドからならない:R248H及びR251H。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方を含まない:R248H及びR251H。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方をさらに含む、配列番号1で示されるポリペプチドからならない:R248G及びR251G。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換の両方を含まない:R248G及びR251G。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてをさらに含む、配列番号1で示されるポリペプチドからならない:A246G、S247A、A253G及びS254A。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてを含まない:A246G、S247A、A253G及びS254A。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてをさらに含む、配列番号1で示されるポリペプチドからならない:A246G、S247A、R248G、R251G、A253G及びS254A。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次のアミノ酸残基置換のすべてを含まない:A246G、S247A、R248G、R251G、A253G及びS254A。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、247~252に天然に位置する領域の欠失をさらに含む、配列番号2で示されるポリペプチドからならない。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、247~252に天然に位置する領域の欠失を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含まない。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次の欠失の両方をさらに含む、配列番号2で示されるポリペプチドからならない:245~247及び253~255。細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、次の欠失の両方を含まない:245~247及び253~255。
【0040】
本発明は、本発明の分子と少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含む医薬組成物、並びにそのような医薬組成物の製造における及び本明細書の中でさらに説明するような本発明の方法におけるそのような分子又はそれを含む組成物の使用も提供する。本発明の特定の実施形態には、本発明の任意の細胞毒性分子と少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含む医薬組成物がある。
【0041】
本発明の分子のほかに、上述のいずれか、例えば本発明の分子のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド又は分子のタンパク質を含むポリペプチド、をコードできるポリヌクレオチドは、本発明の範囲内であり、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び本発明の発現ベクターを含む宿主細胞も本発明の範囲内である。発現ベクターを含む宿主細胞は、例えば、本発明の分子(例えば、ポリペプチド若しくはタンパク質)、又はポリペプチド成分若しくはその断片を、組換え発現によって産生する方法に使用することができる。
【0042】
本発明は、固体支持体上に固定化されている、本発明の任意の組成物を包含する。本発明の組成物のそのような配置は、例えば、本明細書に記載の分子のスクリーニング方法に用いることができる。
【0043】
本発明の組成物のほかに、本発明は、例えば本発明の組成物を使用する方法及び/又は本発明の組成物を生成する方法などの、様々な方法に関する。
【0044】
本発明の特定の実施形態には、1)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域、及びA1断片領域のカルボキシ末端に近接しているフューリン切断部位を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドと、2)志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合しており、少なくとも1つの細胞外標的生体分子に特異的に結合できる結合領域を含む異種分子部分とを含む分子のインビボ忍容性及び/又はインビトロ安定性を改善させる方法があり、この方法は、フューリン切断部位を含むフューリン切断モチーフを破壊するステップを含む。この方法の特定の実施形態において、破壊するステップは、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端のプロテアーゼ切断感受性を低減させる、変異、短縮化及び/又はアミノ酸官能基修飾を生じさせるステップを含む。この方法の特定の実施形態において、異種分子部分は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明は、A1断片領域のカルボキシ末端に近接している未破壊フューリン切断モチーフを含む親分子と比較してインビボ忍容性改善を示すことができる、この方法を使用して生成される任意の分子も包含する。
【0045】
本発明の特定の実施形態には、1)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片領域、及びA1断片領域のカルボキシ末端に近接しているフューリン切断部位を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドと、2)志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合しており、毒性である異種分子部分とを含む分子のインビボ忍容性及び/又はインビトロ安定性を改善させる方法がありこの方法は、フューリン切断部位を含むフューリン切断モチーフを破壊するステップを含む。この方法の特定の実施形態において、破壊するステップは、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端のプロテアーゼ切断感受性を低減させる、変異、短縮化及び/又はアミノ酸官能基修飾を生じさせるステップを含む。この方法の特定の実施形態において、異種分子部分は、A1断片領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明は、A1断片領域のカルボキシ末端に近接している未破壊フューリン切断モチーフを含む親分子と比較してインビボ忍容性改善を示すことができる、この方法を使用して生成される任意の分子も包含する。
【0046】
本発明の特定の実施形態の中には、細胞を殺滅する方法があり、この方法は、本発明の上記細胞標的化分子又は本発明の上記医薬組成物のいずれかと細胞を接触させるステップを含む。特定の実施形態において、細胞を接触させるステップは、インビトロで行われる。特定の実施形態において、細胞を接触させるステップは、インビボで行われる。細胞殺滅方法のさらなる実施形態において、方法は、タンパク質の結合領域の細胞外標的生体分子の細胞外の存在及び/発現レベルに関して異なる細胞の混合物を接触させたとき、細胞及び/又は細胞タイプを他の細胞及び/又は細胞タイプより優先的に選択的に殺滅できる。
【0047】
本発明は、患者の疾患、障害及び/又は状態を治療する方法であって、それを必要とする患者に治療有効量の本発明の分子又は医薬組成物を投与するステップを含む方法をさらに提供する。特定の実施形態において、本発明のこの方法を用いて治療される疾患、障害又は状態は、がん、腫瘍、発育異常、免疫障害及び微生物感染から選択される。この方法の特定の実施形態において、治療されるがんは、骨がん、乳がん、中枢/末梢神経系がん、胃腸がん、胚細胞がん、腺がん、頭頸部がん、血液がん、腎・尿路癌、肝がん、肺/胸膜がん、前立腺がん、肉腫、皮膚がん及び子宮がんからなる群から選択される。この方法の特定の実施形態において、治療される免疫障害は、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、喘息、クローン病、糖尿病、移植片拒絶、移植片対宿主病、橋本甲状腺炎、溶血性尿毒症症候群、HIV関連疾患、エリテマトーデス、多発性硬化症、多発動脈炎、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ様関節炎、強皮症、敗血症性ショック、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎及び血管炎からなる群から選択される疾患に関連した免疫障害である。
【0048】
本発明の特定の実施形態の中には、がん、免疫障害又は微生物感染の治療又は予防のための、本発明の分子(例えば、ポリペプチド若しくはタンパク質)を含む組成物、本発明の分子を含む化合物、又は本発明の組成物(例えば、医薬組成物)がある。本発明の特定の実施形態の中には、がん、腫瘍、免疫障害又は微生物感染の治療又は予防のための医薬品の製造における、本発明の化合物(例えばタンパク質)又は組成物の使用がある。
【0049】
本発明の分子の特定の実施形態を用いて、本発明の分子の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞に1つ又は2つ以上のさらなる外因性物質を送達することができる。加えて、本発明は、細胞の内部に外因性物質を送達する方法であって、細胞を本発明の分子、医薬組成物及び/又は診断用組成物とインビトロ又はインビボのいずれかで接触させるステップを含む方法を提供する。本発明は、外因性物質を、それを必要とする患者の細胞の内部に送達する方法であって、患者に本発明の分子を投与するステップを含み、標的細胞が本発明の分子の細胞外標的生体分子と物理的に結合している、方法をさらに提供する。
【0050】
疾患、障害及び/又は状態の診断、予後予測及び/又は特性評価のための本発明の任意の組成物(例えば、細胞標的化分子、医薬組成物、又は診断用組成物)の使用は、本発明の範囲内である。本発明の特定の実施形態の中には、がん、腫瘍又は免疫障害の治療又は予防における本発明の1つ又は2つ以上の組成物(例えば、医薬組成物)の使用がある。本発明の特定の実施形態の中には、がん、腫瘍又は免疫障害の治療又は予防のための医薬品の製造における本発明の1つ又は2つ以上の組成物(例えば、医薬組成物)の使用がある。
【0051】
本発明の特定の実施形態には、本発明の分子(例えば、分子、細胞標的化分子、ポリペプチド又はタンパク質)並びに、細胞タイプ、組織、器官、疾患、障害、状態及び/又は患者についての診断に有用な情報などの情報の収集のための検出促進剤とを含む、診断用組成物がある。
【0052】
本発明の特定の実施形態には、本発明の分子及び/又は診断用組成物を使用して細胞を検出する方法であって、細胞を前記分子及び/又は診断用組成物と接触させるステップと、前記分子及び/又は診断用組成物の存在を検出するステップとを含む方法がある。特定の実施形態において、細胞を接触させるステップは、インビトロで行われる。特定の実施形態において、細胞を接触させるステップは、又はインビボで行われる。特定の実施形態において、細胞を検出するステップは、インビトロで行われる。特定の実施形態において、細胞を検出するステップは、又はインビボで行われる。
【0053】
例えば、本発明の診断用組成物を使用して、検出促進剤を含む本発明の分子を含む組成物を哺乳動物対象に投与し、本発明の分子の存在をインビトロ又はインビボのいずれかで検出することにより、細胞をインビボで検出してもよい。収集される情報は、本発明の分子の結合領域の細胞外標的と物理的に結合している細胞の存在に関することもあり、又は疾患、障害若しくは状態の診断、予後予測、特性評価及び/若しくは治療に有用であることもある。本発明の特定の化合物(例えばポリペプチド及びタンパク質)、本発明の組成物(例えば医薬組成物)、及び本発明の方法を用いて、患者が、本発明の医薬組成物に応答する群に属するかどうかを判定してもよい。
【0054】
本発明の特定の実施形態には、本発明の組成物を備え、使用説明書、さらなる試薬及び/又は医薬品送達デバイスを備えていてもよいキットがある。
【0055】
本発明のこれら及び他の特徴、態様及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び付属の図に関連してよりよく理解されることになる。本発明の上述の要素を個々に組み合わせて又は自由に除去して本発明の他の実施形態を、以降にそのような組合せ又は除去に反対するいかなる記述もなければ、作製することができるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを各々が含む、本発明の特定の例示的分子の一般的配置を示す図である。本発明の特定の例示的分子は、そのカルボキシ末端に近接している分子部分と会合しているプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む。「N」及び「C」は、分子のポリペプチド成分のアミノ末端及びカルボキシ末端をそれぞれ示す。
【
図2】野生型フューリン切断部位を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むほぼ同一の、細胞毒性、細胞標的化分子と比較して、破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む、例示的、細胞毒性、細胞標的化分子(SLT-1A-FR::scFv-1)のフューリン切断耐性を示す図である。
図2は、精製された組換えヒトフューリン又は様々な陰性対照条件で処理したタンパク質試料の電気泳動後のクーマシー染色ポリアクリルアミドゲルを示す。ゲルのレーンには番号が振られており、図の説明文は、各細胞標的化分子試料の、試料をゲルに負荷する前の、前処理条件:摂氏度(℃)での温度、時間(「hrs」によって示されている)での前処理継続期間、及び何らかのフューリンを添加したかどうかを示し、何らかのフューリンを添加したかどうかは、試料細胞毒性タンパク質のマイクログラム(μg)当たりのフューリン活性単位(U)の量(「U/μgフューリン」と表示されている)、又はゼロU/μgフューリンについては「フューリンなし」を示すことによって示す。「L」マークの付いているレーンは、タンパク質分子量ラダーの泳動パターンを示し、各ラダータンパク質バンドの近似サイズがキロダルトン(kDa)で表示されている。図の説明文は、1)野生型フューリン切断部位(WT)又は2)破壊されたフューリン切断モチーフ(FR)のいずれかの、どの志賀毒素エフェクターポリペプチドが、各細胞標的化分子試料中に存在するかをレーンごとに示す。処理試料を30℃で25時間(hrs)、細胞標的化分子のマイクログラム当たり0.5フューリン活性単位(U/μgフューリン)に付した。
図2は、SLT-1A-FR::scFv-1が、30℃でSLT-1A-FR::scFv-1のマイクログラム当たり0.5フューリン活性単位に対して耐性であったことを示す。
【
図3】破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む、例示的、細胞毒性、細胞標的化分子(SLT-1A-FR::scFv-2)の複数の温度でのフューリン耐性を示す図である。
図3は、精製された組換えヒトフューリン又はフューリンなしのいずれかで処理したタンパク質試料の電気泳動後のクーマシー染色ポリアクリルアミドゲルを示す。ゲルのレーンには番号が振られており、図の説明文は、各細胞標的化分子試料の、試料をゲルに負荷する前の、前処理条件:摂氏度(℃)での温度、時間(「hrs」によって示されている)での前処理継続期間、及び何らかのフューリンを添加したかどうかを示し、何らかのフューリンを添加したかどうかは、試料細胞毒性タンパク質のマイクログラム当たりのフューリン活性単位の量(「U/μgフューリン」と表示されている)、又はゼロU/μgフューリンについては「フューリンなし」を示すことによって示す。「L」マークの付いているレーンは、タンパク質分子量ラダーの泳動パターンを示し、各ラダータンパク質バンドの近似サイズがキロダルトン(kDa)で表示されている。
図3は、SLT-1A-FR::scFv-2が、4℃~37℃の範囲の温度でSLT-1A-FR::scFv-2のマイクログラム当たり0.5フューリン活性単位に対して耐性であったことを示す。
【
図4】例示的、プロテアーゼ切断耐性、細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1が、野生型、フューリン切断単位を有する志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むほぼ同一の、細胞毒性、細胞標的化分子に匹敵する細胞標的化細胞毒性を示したことを示す図である。標的陽性細胞の生存率パーセントを、細胞に投与した細胞標的化分子濃度の対数(底=10)に対してプロットした。
【
図5】例示的、プロテアーゼ切断耐性、細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1が、野生型、フューリン切断単位を有する志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むほぼ同一の、細胞毒性、細胞標的化分子に匹敵する非標的化細胞毒性を示したことを示す図である。SLT-1A-FR::scFv-1は、標的化されていない、野生型、志賀毒素Aサブユニット構築物に匹敵する非標的化細胞毒性も示した。標的陰性細胞の生存率パーセントを、細胞に投与した細胞標的化分子濃度の対数(底=10)に対してプロットした。
【
図6】SLT-A1-WT::scFv-1と比較してSLT-A1-FR::scFv-1の反復用量を投与したマウスの生存改善を示す図である。
図6は、注射1回につき体重1キログラム当たり2.5ミリグラムのプロテアーゼ切断感受性SLT-1A-WT::scFv-1又は例示的、細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1を投与したマウスの合計3回の注射についてのカプラン・マイヤー生存プロットを示す。y軸は、投薬量群内のマウスの生存パーセントでの軸であり、x軸は、日数での軸である。マウスは、プロテアーゼ切断感受性SLT-1A-WT::scFv-1についての該マウスの忍容性と比較して、プロテアーゼ切断耐性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1に対する優れた忍容性を経時的に示した。
【
図7】例示的、細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2が、ヒトがんのマウス異種移植モデルにおいて標的陽性、ヒト腫瘍細胞の増殖を阻害したことを示す図である。
図7は、ヒト腫瘍細胞によるルシフェラーゼレポーターの発現に基づいて生物発光によって個々のマウスごとに経時的にアッセイしたときの腫瘍量を示す。個々のマウスは、グラフにプロットされた各々の記号、すなわち白三角、黒三角、白丸又は黒四角、によって表されている。Y軸は、腫瘍量を百万光子毎秒(光子/秒)で表す、個々のマウスの全生物発光シグナルであり、X軸は、注射1回につき体重1キログラム当たりSLT-1A-FR::scFv-2 0~2ミリグラムの範囲である、注射用量である。x軸の4つの用量群は、4つのマウス群に対応する。この実験は、受けた例示的、細胞毒性、細胞標的化分子の注射投薬量によって分けられた、マウス10匹の4群を含んだ:群#1-ゼロミリグラムのSLT-1A-FR::scFv-2を受けたマウス、群#2-体重1キログラム当たり0.05ミリグラムのSLT-1A-FR::scFv-2を受けたマウス、群#3-体重1キログラム当たり0.5ミリグラムのSLT-1A-FR::scFv-2を受けたマウス、及び群#4-体重1キログラム当たり2ミリグラムのSLT-1A-FR::scFv-2を受けたマウス。実験を少なくとも4週間行った。
図7は、例示的、細胞毒性、プロテアーゼ切断耐性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2によって示されたヒト腫瘍細胞増殖の投薬量依存性と時間依存性の両方を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
例証となる非限定的実施形態、及び付属の図への参照を用いて、以降、本発明をより詳
細に説明する。しかし、本発明は多くの異なる形態で実施されることがあり、本発明を、下に示す実施形態に限定されるとみなすべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が行き届いたものになるように、また本発明の範囲を当業者に知らせるために提供するものである。
【0058】
本発明をより容易に理解できるように、特定の用語を下で定義する。さらなる定義は、発明の詳細な説明の中で見つけることができる。
【0059】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いる場合、用語「1つの(a)」、「1
つの(an)」及び「その(the)」は、文脈による別段の明白な指図がない限り、単数及
び複数両方の指示対象を含む。
【0060】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いる場合、2つの種、A及びB、に言及するときの用語「及び/又は」は、A及びBの少なくとも一方を意味する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いる場合、2つより多くの種、例えばA、B及びC、に言及するときの用語「及び/又は」は、A、B若しくはCの少なくとも1つ、又はA、B若しくはCのいずれかの組合せ(この場合は各々の種に単数の可能性又は複数の可能性がある)の少なくとも1つを意味する。
【0061】
本明細書全体を通して、語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しく
は「含むこと(comprising)」などの語尾変化形は、述べられている整数(若しくは成分)又は整数(若しくは成分)群の包含を暗示するが、他のいかなる整数(若しくは成分)又は整数(若しくは成分)群の除外も暗示しないと解されるものとする。
【0062】
本明細書を通して、用語「含む(including)」は、「含むがこれらに限定されない(including but not limited to)」を意味するために用いる。「含む(including)」及び「含むがこれらに限定されない(including butnot limited to)」は、同義で用いる。
【0063】
用語「アミノ酸残基」又は「アミノ酸」は、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドに組み込まれているアミノ酸への言及を含む。用語「ポリペプチド」は、アミノ酸又はアミノ酸残基の任意の重合体を含む。用語「ポリペプチド配列」は、ポリペプチドを物理的に構成する一連のアミノ酸又はアミノ酸残基を指す。「タンパク質」は、1本又は2本以上のポリペプチド又はポリペプチド「鎖」を含む高分子である。「ペプチド」は、合計15~20アミノ酸残基より小さいサイズの小さいポリペプチドである。用語「アミノ酸配列」は、その長さに依存してペプチド又はポリペプチドを物理的に含む一連のアミノ酸又はアミノ酸残基を指す。別段の指示がない限り、本書において開示するポリペプチド及びタンパク質配列は、アミノ末端からカルボキシ末端へのそれらの順序を表すように左から右に記載している。
【0064】
用語「アミノ酸」、「アミノ酸残基」、「アミノ酸配列」又はポリペプチド配列は、天然に存在するアミノ酸(L及びD立体異性体)を含み、別段の制限がない限り、天然に存在するアミノ酸と同様に機能することができる公知の天然アミノ酸アナログ、例えば、セレノシステイン、ピロールリジン、N-ホルミルメチオニン、ガンマ-カルボキシグルタメート、ヒドロキシプロリン、ハイプシン、ピログルタミン酸及びセレノメチオニンも含む。本書において言及するアミノ酸は、表A中の以下のような簡略表記名によって記載している:
【0065】
【0066】
ポリペプチドに関しての句「保存的置換」は、ポリペプチド全体の機能及び構造を実質的に改変しない、ポリペプチドのアミノ酸組成の変化を指す(Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties (W. H.Freeman and Company, New York (2nd ed., 1992)を参照されたい)。
【0067】
本書において用いる場合、用語「発現された」、「発現すること」又は「~発現する」及びその文法上の異形は、ポリヌクレオチド又は核酸のポリペプチド又はタンパク質への翻訳を指す。発現されたポリペプチド又はタンパク質は、細胞内に残存し、細胞表面膜の成分になることもあり、又は細胞外空間に分泌されることもある。
【0068】
本明細書において用いる場合、少なくとも1つの細胞表面で有意な量の細胞外標的生体分子を発現する細胞は、「標的陽性細胞」又は「標的+細胞」であり、特定された細胞外標的生体分子に物理的に結合している細胞である。
【0069】
本書において用いる場合、記号「α」は、記号の後に続く生体分子と結合することができる免疫グロブリン型結合領域の簡略表記である。記号「α」は、記号の後に続く生体分子と結合するその能力に基づく免疫グロブリン型結合領域の機能的特徴を指すために用いている。
【0070】
請求項記載の本発明では、2つの分子成分に関して用語「会合している」又は「会合」は、単一分子を形成するように接合、結合(attached)、接続、連結又は別様に結合(coupled)された2つの成分の状態を指し、共有結合性及び/又は非共有結合性会合を含む
。
【0071】
本発明では、用語「連結された」は、単一の分子を形成するように1つ又は2つ以上の原子相互作用によって会合している2つ又は3つ以上の分子成分に当てはまり、原子相互作用は、少なくとも1つの共有結合を含む。
【0072】
本発明では、用語「融合された」は、ペプチド結合である少なくとも1つの共有結合によって会合している2つ又は3つ以上のタンパク質性成分に当てはまる。互いに融合された2つのタンパク質性成分の非限定的な例としては、例えば、結果として得られる分子が単一の連続ポリペプチドになるようにペプチド結合によってポリペプチドに融合されたアミノ酸、ペプチド又はポリペプチドが挙げられる。
【0073】
記号「::」は、互いに融合して連続するポリペプチドを形成する前又はした後のポリペプチド領域を意味する。
【0074】
本発明では、用語「エフェクター」は、因子の動員及び/又はアロステリック効果をもたらす、細胞毒性、生体シグナル伝達、酵素的触媒、細胞内経路決定及び/又は分子間結合などの、生物活性を提供することを意味する。
【0075】
本発明では、句「志賀毒素エフェクターポリペプチド」、「志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド」、「志賀毒素エフェクター領域」又は「志賀毒素エフェクターポリペプチド領域」は、少なくとも1種の志賀毒素機能を示すことができる、志賀毒素ファミリーのメンバーの志賀毒素Aサブユニットに由来するポリペプチドを指す。志賀毒素機能は、例えば、細胞侵入の促進、脂質膜の変形、クラスリン媒介エンドサイトーシスの誘発、それ自身の細胞内経路決定の指示、それ自身の逆行輸送の指示、細胞内分解の回避、リボソームの触媒不活性化、細胞毒性の遂行、及び細胞分裂停止作用の遂行を含む。
【0076】
本発明では、句「~に由来する」は、ポリペプチドが、タンパク質中で元来見つけられるアミノ酸配列であって、元の配列と比較して全機能及び構造が実質的に保存されるような付加、欠失、短縮化又は他の改変を今や含むこともあるアミノ酸配列を含むことを意味する。当業者は、由来するポリペプチド領域を得た親分子を、当技術分野において公知の技術、例えば、ポリペプチド配列アラインメントソフトウェアを使用して同定することができるであろう。
【0077】
本発明では、用語「志賀毒素A1断片領域」は、志賀毒素A1断片から本質的になる及び/又は志賀毒素の志賀毒素A1断片に由来するポリペプチド領域を指す。
【0078】
本発明では、用語「異種の」とは、志賀ホロ毒素とは異なる源のという意味であり、例えば、異種分子部分又はポリペプチドは、天然に存在する細菌種によって発現されるネイティブ志賀毒素の天然に存在するAサブユニットの一部として天然に見出されない、又はそのような天然に存在するAサブユニットに連結されていないものである。
【0079】
本発明では、本発明の分子成分間の会合に関して、用語「ジスルフィド結合」は、対称ジスルフィド結合及び非対称ジスルフィド結合を含む。
【0080】
本発明では句「志賀毒素A1断片のカルボキシ末端領域」は、天然に存在する志賀毒素A1断片に由来するポリペプチド領域であって、疎水性残基(例えば、StxA-A1及
びSLT-1A1のV236、並びにSLT-2A1のV235)で始まり、それに疎水性残基が続く領域であり、志賀毒素A1断片ポリペプチド間で保存されるフューリン切断部位で終わる、及びネイティブ志賀毒素AサブユニットではA1断片とA2断片の間の接合部で終わる領域を指す。本発明では、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端領域は、例えば、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端を含む又は志賀毒素A1断片のカルボキシ末端から本質的になるペプチド領域などの、志賀毒素A1断片ポリペプチドのカルボキシ末端に由来するペプチド領域を含む。志賀毒素A1断片のカルボキシ末端に由来するペプチド領域の非限定的な例としては、Stx1A(配列番号2)又はSLT-1A(配列番号1)の236位~239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250又は251位、及びSLT-2A(配列番号3)の235位~239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249又は250位に天然に位置するアミノ酸残基配列を含む。
【0081】
本発明では、会合している分子部分に関してA1断片ポリペプチドのカルボキシ末端に「近接している」という用語は、A1断片ポリペプチド領域内の最後の残基を規定するアミノ酸残基のアミノ酸残基12又は11以下の分子距離を指す。
【0082】
本発明では、句「A1断片由来領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする」は、例えばStx1A(配列番号2)若しくはSLT-1A(配列番号1)の236~251位又はSLT-2A(配列番号3)の235~250位のいずれか1つに天然に位置するアミノ酸残基に由来するアミノ酸残基などの、A1断片由来領域のカルボキシ末端のアミノ酸残基に共有結合で連結されている、4.5kDa又はそれより大きいサイズの任意の分子部分を含む。本発明では、句「A1断片由来領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする」は、例えばA1断片由来領域又は志賀毒素エフェクターポリペプチドの最後のアミノ酸のカルボキシ末端のアミノ酸残基などの、A1断片由来領域のカルボキシ末端のアミノ酸残基に共有結合で連結されている、4.5kDa又はそれより大きいサイズの任意の分子部分も含む。本発明では、句「A1断片由来領域のカルボキシ末端を立体的にカバーする」は、例えばERAD機構による認識などの、A1断片由来領域のカルボキシ末端の細胞認識を物理的に妨げる、4.5kDa又はそれより大きいサイズの任意の分子部分も含む。
【0083】
請求項記載の本発明では、句「A1断片領域のカルボキシ末端のフューリン切断モチーフ」は、志賀毒素Aサブユニット間で保存され、ネイティブ、志賀毒素AサブユニットではA1断片とA2断片間の接合部を架橋する、特異的、フューリン切断モチーフを指す。
【0084】
本発明では、句「A1断片領域のカルボキシ末端に近接しているフューリン切断部位」は、A1断片領域内の最後の残基を規定するアミノ酸残基の7アミノ酸残基以内に又はそれ未満にアミノ酸残基を有する任意の同定可能なフューリン切断部位を指す。
【0085】
本発明の目的に関して、志賀毒素のエフェクター機能は、志賀毒素のAサブユニットに由来するポリペプチドによって付与された生物活性である。志賀毒素のエフェクター機能の非限定的な例としては、細胞の内在化、細胞内の経路決定、触媒活性、及び細胞毒性が挙げられる。志賀毒素の触媒活性は、例えば、リボソーム不活性化、タンパク質合成阻害、N-グリコシダーゼ活性、ポリヌクレオチド:アデノシングリコシダーゼ活性、RNAアーゼ活性、及びDNAアーゼ活性が挙げられる。志賀毒素は、リボソーム不活性化タンパク質(RIP、ribosome inactivating protein)である。RIPは、核酸、ポリヌク
レオシド、ポリヌクレオチド、rRNA、ssDNA、dsDNA、mRNA(及びポリA)及びウイルス核酸を脱プリン化することができる(Barbieri L et al., Biochem J 286:1-4(1992)、Barbieri L et al., Nature 372: 624 (1994)、Ling J et al., FEBS Lett 345: 143-6 (1994)、BarbieriL et al., Biochem J 319: 507-13 (1996)、Roncuzzi
L, Gasperi-Campani A, FEBS Lett 392: 16-20 (1996)、Stirpe F et al.,FEBS Lett 382: 309-12 (1996)、BarbieriL et al., NucleicAcids Res 25: 518-22 (1997)、Wang P, TumerN, Nucleic Acids Res 27:1900-5 (1999)、Barbieri L etal.,Biochim Biophys Acta1480:258-66 (2000)、Barbieri L et al., J Biochem128: 883-9 (2000)、Brigotti
M et al., Toxicon 39: 341-8(2001)、Brigotti M et al., FASEB J 16: 365-72
(2002)、Bagga S et al., J Biol Chem 278: 4813-20 (2003)、PicardD et al., JBiol Chem 280: 20069-75 (2005))。いくつかのRIPは、抗ウイルス活性及びスーパーオ
キシドジスムターゼ活性を示す(Erice A et al., Antimicrob Agents Chemother 37:835-8 (1993)、Au T etal., FEBS Lett 471: 169-72 (2000)、Parikh B, Tumer N, Mini Rev Med Chem 4:523-43 (2004)、Sharma N et al., Plant Physiol 134: 171-81(2004)
)。志賀毒素の触媒活性は、インビトロとインビボの両方で観察されている。志賀毒素のエフェクター活性に関するアッセイは、例えば、タンパク質合成阻害活性、脱プリン活性、細胞成長の阻害、細胞毒性、スーパーコイルDNAの弛緩活性、及び/又はヌクレアーゼ活性などの様々な活性を測定することができる。
【0086】
本書において用いる場合、志賀毒素エフェクター機能の保持は、再現性のある適切な定量的アッセイによって測定して、野生型志賀毒素エフェクターポリペプチド対照に匹敵する志賀毒素機能活性レベルを指す。リボソーム阻害については、志賀毒素エフェクター機能は、10,000ピコモーラー(pM)又はそれ未満のIC50を示すことになる。標的陽性細胞殺滅アッセイにおける毒性については、志賀毒素エフェクター機能は、適切な細胞外標的生体分子の細胞タイプ及びその発現に依存して、1,000ナノモーラー(nM)又はそれ未満のCD50を示すことになる。
【0087】
本発明では、本発明の分子の志賀毒素エフェクター機能に関して、用語「妥当な活性」は、野生型、志賀毒素ポリペプチド配列のみを含むポリペプチドの志賀毒素エフェクター活性レベルに関して定義される最小活性レベル以上の、志賀毒素エフェクター生物活性の活性レベルを指す。細胞毒性の志賀毒素エフェクター機能について、妥当な活性レベルは、野生型、志賀毒素構築物及び述べられている場合には任意の他の分子構造を含む分子の500倍以内である活性レベルを含む。
【0088】
本明細書において用いる場合、「有意な」志賀毒素エフェクター機能の提示は、再現性のある適切な定量的アッセイによって測定して、完全長志賀毒素A1断片を含む野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドに匹敵する志賀毒素機能活性レベルを指す。インビトロリボソーム阻害について、有意な志賀毒素エフェクター機能は、リボソーム源(例えば、細菌、古細菌又は真核生物(藻類、真菌、植物若しくは動物))に依存して300pM以下のIC50を示すことになる。これは、触媒不活性SLT-1A 1-251二重変異体(Y77S/E167D)についての100,000pMの近似的IC50と比較して有意に大きい阻害である。実験室細胞培養での標的陽性細胞殺滅アッセイにおける毒性について、有意な志賀毒素エフェクター機能は、細胞株及びその適切な細胞外標的生体分子の発現に依存して、100、50又は30nM以下のCD50を示すことになる。これは、細胞標的化結合領域のないSLT-1A成分(細胞株に依存して100~10,000nMのCD50を有する)と比較して、適切な標的細胞株に対する有意に大きい細胞毒性である。
【0089】
志賀毒素エフェクターポリペプチドの細胞毒性が、野生型志賀毒素エフェクターと比較して低減されたとしても、実際には、弱毒化された志賀毒素エフェクターポリペプチドを使用する応用は、野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドを使用するもの以上に有効であることがあることに留意されたい。なぜなら、最高作用強度のバリアントは、作用強度が低減されたバリアントでは最小化又は低減される望ましくない作用を示す可能性があるからである。野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドは非常に強力であり、たった1
分子がサイトゾルに達することで、又はおそらく40分子が内在化されることで殺滅することができる(Tam P, Lingwood C, Microbiology 153:2700-10 (2007))。志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀毒素エフェクター機能、例えば細胞内経路決定又は細胞毒性などが野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドと比較してかなり低減されていたとしても、標的化細胞殺滅及び/又は特異的細胞タイプの特定の細胞内区画の検出を伴う実際の応用に十分な作用強度を依然として有しうる。
【0090】
いくつかの試料については、正確な曲線フィッティングに必要なデータ点を収集することができないため、IC50又はCD50のいずれかについての正確な値を得ることができないこともあるだろう。有意な志賀毒素エフェクター機能活性を判定するとき、不正確なIC50及び/又はCD50を考慮すべきでない。例えば実施例において説明するアッセイなどの例示的志賀毒素エフェクター機能アッセイからのデータの分析に関して説明するような曲線への正確なフィッティングに不十分なデータは、実際の志賀毒素エフェクター機能の代表とみなすべきではない。例えば、理論的には、50%より高いリボソーム阻害又は細胞死が所与の試料の濃度系列でそれぞれ起こらない場合、IC50もCD50も判定できない。
【0091】
志賀毒素エフェクター機能の活性を検出できないことは、細胞侵入、細胞内経路決定及び/又は酵素活性の欠如によるものではなく、不適切な発現、ポリペプチドフォールディング及び/又はポリペプチド安定性が原因であることもある。志賀毒素エフェクター機能についてのアッセイは、本発明の分子をさほど必要とせずに有意な量の志賀毒素エフェクター機能活性を測定することができるだろう。エフェクター機能が低い又はないことの根本原因を経験的に判定してタンパク質発現又は安定性と関係づける程度に、当業者は、当技術分野において公知のタンパク質化学及び分子工学技術を用いてそのような因子を補償することができることがあり、その結果、志賀毒素機能性エフェクター活性が回復され、測定されることもある。例として、不適切な細胞ベースの発現は、様々な発現制御配列(expression control sequences)を使用することによって補償されることがあり、不適切なポリペプチドフォールディング及び/又は安定性は、末端配列の安定化から恩恵を受けることがあり、又はタンパク質の三次元構造を安定させる非エフェクター領域の補償的変異から恩恵を受けることなどがある。個々の志賀毒素機能についての新たなアッセイが利用できるようになると、志賀毒素エフェクターポリペプチドを、それらの志賀毒素エフェクター機能の任意のレベルについて、例えば、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドの活性の特定の倍数以内であることについて分析することができる。有意義な活性差の例は、例えば、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドの1000倍若しくは100倍若しくはそれ未満の活性を有する志賀毒素エフェクターポリペプチド、又は機能的ノックダウン若しくはノックアウト志賀毒素エフェクターポリペプチドと比較して3倍~30倍大きい若しくは31倍以上大きい活性を有する志賀毒素エフェクターポリペプチドである。
【0092】
特定の志賀毒素エフェクター機能、例えば、細胞内経路決定活性は、容易に測定できない。現在、志賀毒素エフェクターポリペプチドが細胞毒性であることができないことが、不適切な細胞内経路決定に起因するかどうかを識別するための通例の定量的アッセイはないが、試験が利用できれば、志賀毒素エフェクターポリペプチドを、適切な野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドと比較して任意の有意な細胞内経路決定レベルについて分析することができるだろう。しかし、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチドが野生型志賀毒素Aサブユニット構築物と同等の細胞毒性を示す場合には、細胞内経路決定活性レベルは、野生型志賀毒素Aサブユニット構築物の細胞内経路決定活性レベルと同等であると推測される。
【0093】
細胞毒性分子の細胞毒性活性に関して、用語「選択的細胞毒性」は、標的細胞タイプの
細胞殺滅の優先性を明らかにするための、標的細胞タイプの半数細胞毒性濃度(CD50、half-maximalcytotoxic concentration)の非標的細胞タイプのCD50に対する比として表現することができる、標的細胞集団と非標的バイスタンダー細胞集団間の相対細胞毒性レベルを指す。
【0094】
免疫毒素及びリガンド-毒素融合体の細胞毒性分子としての有効性及び作用強度は、標的細胞表面でのそれらの標的抗原の密度(例えば、Decket T et al.,Blood 103: 2718-26
(2004)、Du X et al., Blood 111:338-43 (2008)、Baskar S et al., mAbs4: 349-61
(2012)を参照されたい)、エピトープ位置(Press O et al., J Immunol141:4410-7 (1988)、Godal A et al., In J Cancer 52: 631-5 (1992)、Yazdi P et al., Cancer Res 55:3763-71(1995))、表面結合細胞毒性分子の内在化速度(例えば、Du X et al.,Cancer Res 68: 6300-5 (2008)を参照されたい)、及び細胞内アイテナリー(intracellular
itinerary)(Tortorella L et al., PLoSOne7: e47320 (2012))による影響を受ける。
【0095】
所与の細胞外標的生体分子の細胞表面提示及び/又は密度は、本発明の特定の細胞標的化分子を最も適切に使用することができる応用に影響を及ぼすことがある。細胞間の所与の標的生体細胞の細胞表面提示及び/又は密度の差は、本発明の所与の細胞標的化分子の内在化及び/又は細胞毒性を量的にも、質的にも改変することがある。所与の標的生体分子の細胞表面提示及び/又は密度は、標的生体分子陽性細胞間で大きく異なることがあり、又は同じ細胞に関しても細胞周期若しくは細胞分化の様々な点で大きく異なることがある。特定の細胞又は細胞集団に関する所与の標的生体分子の全細胞表面提示は、当業者に公知の方法、例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS、fluorescence-activatedcell sorting)フローサイトメトリー法を用いて判定することができる。
【0096】
序論
本発明は、野生型、志賀毒素細胞毒性を示すことができる、破壊されたフューリン切断モチーフを有する志賀毒素Aサブユニットエフェクターを含むプロテアーゼ切断耐性分子を提供する。以前に、志賀毒素Aサブユニット融合構築物は細胞毒性であり、酵素活性毒素断片をサイトゾルに送達するように自身の細胞内経路決定を自ら指示できることが証明された(Backer M et al., J Control Release 74: 349-55 (2001)、Backer M, Backer J, Bioconjug Chem12:1066-73 (2001))が、フューリン切断部位の維持は、最大細胞毒
性の維持に重要であると考えられた。
【0097】
合成志賀毒素Aサブユニット構築物を設計する際、志賀毒素中毒の天然メカニズム、例えば、フューリンによる細胞内タンパク質分解によるA1断片の遊離及びそのA1断片のサイトゾルへの逆行輸送などを考慮すべきである。志賀毒素A1断片のカルボキシ末端側のすべての分子部分を取り除くことは、1)サイトゾルへの効率的経路決定を促進するために中毒細胞の小胞体内の細胞因子によって認識されるようにA1断片のカルボキシ末端を露出させるためにも、2)A1断片をカルボキシ末端部分の非存在下でサイトゾル内の構造にリフォールドするときの触媒活性を最大化するためにも必要でありうる。これらのメカニズムはすべて、野生型志賀毒素について観察される最大志賀毒素細胞毒性の一因となる可能性がある。
【0098】
中毒脊椎動物細胞における志賀ホロ毒素の志賀毒素Aサブユニットのフューリンによるタンパク質プロセッシングは効率的細胞毒性に重大な意味を持つため、高度に進化した強力な志賀毒素細胞毒性メカニズムの効率的なネイティブの細胞内経路決定及び触媒活性化を保存するためにこの自然発生タンパク質プロセッシングを維持又は補償しなければならない。1)サイトゾルへの効率的輸送のためにA1断片のカルボキシ末端又は天然A1断片に類似しているカルボキシ末端を小胞体内に到達可能にするためにも、2)安定した最適な触媒A1断片構造をサイトゾルに送達するためにも、志賀毒素A1断片のA2断片か
らの分離を維持、模倣又は別様に補償しなければならない。
【0099】
以前に、異種、カルボキシ末端部分を含み、フューリン切断事象を欠くが、効率及び作用強度の点で最大の野生型志賀毒素細胞毒性をなお示す志賀毒素Aサブユニット由来構造は証明されていない。特に、志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端が、例えば細胞標的化免疫グロブリン型結合領域などの、比較的大きい分子部分に共有結合で連結され、そのような比較的大きい分子部分によって立体的にカバーされているとき、最大の志賀毒素細胞毒性のためのタンパク質プロセッシングを不要にする志賀毒素Aサブユニット由来構造は公知でなかった。
【0100】
驚くべきことに、破壊されたフューリン切断モチーフを有する志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む本発明の例示的分子は、最大の野生型志賀毒素細胞毒性を提供すると同時にそれらのカルボキシ末端への比較的大きい(28kDaより大きい)分子部分の連結を可能にするために十分な志賀毒素エフェクター機能を示した(下記実施例を参照されたい)。下記実施例で詳細に説明するように、触媒ドメインを含む志賀毒素Aサブユニット由来ポリペプチドを各々が含む、本発明の例示的分子は、野生型、志賀毒素Aサブユニットポリペプチドなどのフューリン切断性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子に匹敵する志賀毒素細胞毒性の作用強度及び効率を示す。例えば、異所プロテアーゼ切断部位の付加などの、補償的特徴部の任意のさらなる工学的操作の必要がなかった。これらの観察が、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニット由来ペプチドを含む改善された細胞標的化分子であって、野生型、志賀毒素A1断片を含む細胞標的化分子と同等の細胞毒性を示す細胞標的化分子の設計につながった。
【0101】
本発明は、破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含むプロテアーゼ切断耐性分子を提供する。1)触媒活性、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は2)細胞毒性分子部分のいずれかを含む本発明の細胞毒性分子は、細胞を殺滅する応用に使用することができる。触媒活性、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む本発明の分子は、免疫毒素及びリガンド-毒素融合体の成分として、特異的細胞タイプの標的化殺滅に、並びにがん、免疫障害及び微生物感染を含む様々な疾患の治療に使用することができる。本発明の細胞標的化分子には、例えば、標的化細胞殺滅ために、特異的細胞タイプへの外因性物質の送達のために、診断情報を得るために、並びにがん、免疫障害及び微生物感染を含む様々な疾患、障害及び状態の治療のための治療薬として、様々に使用される。本発明の細胞毒性細胞標的化分子は、特異的細胞タイプの標的化殺滅並びにがん、免疫障害及び微生物感染を含む様々な疾患の治療を伴う応用にも有用である。本発明は、志賀毒素A1断片領域のカルボキシ末端側の分子部分を含む志賀毒素Aサブユニット由来分子、例えば免疫毒素又はリガンド-毒素融合体、を工学的に作製する特異的方法であって、志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端のフューリン切断モチーフを破壊するステップを含む方法も提供する。
【0102】
I.本発明の細胞毒性分子及び細胞標的化分子の一般構造
本発明は、志賀毒素A1断片由来領域と該志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端に破壊されたフューリン切断モチーフとを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを各々が含む、様々な細胞毒性及び細胞標的化分子を提供する。本発明の細胞毒性及び細胞標的化分子は、野生型、志賀毒素A1断片を含む関連分子と比較してフューリン切断耐性である。フューリン切断耐性であることに加えて、本発明の分子は、一般に、よりプロテアーゼ切断耐性が高く、したがって、例えば、インビボ毒性減少、安定性増加、保存半減期増加及び/又はインビボ半減期増加などの、望ましい特性を示すことができる。
【0103】
本発明の細胞毒性分子は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合
している分子部分も含む。分子部分の一例は、細胞表面生体分子と高い親和性で結合する1つ又は2つ以上のポリペプチドを含む細胞標的化、免疫グロブリン型、結合領域である。
【0104】
本発明の細胞標的化分子は、細胞の表面で発現される標的生体分子などの、細胞と物理的に会合している少なくとも1つの細胞外標的生体分子に特異的に結合できる結合領域も含む。本明細書に記載する志賀毒素エフェクターポリペプチドと細胞標的化結合領域の連結は、志賀毒素Aサブユニット由来ポリペプチド領域のフューリンによるタンパク質プロセッシングを欠くにもかかわらず強力な志賀毒素細胞毒性の細胞タイプ特異的標的化の工学的操作を可能にする。本発明の細胞標的化分子のこの一般構造は、同じ一般構造の変形形態を生じさせるために、任意の数の多様な細胞標的化結合領域が、様々なフューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドと会合していてもよい点でモジュラーである。
【0105】
本発明は、志賀毒素A1断片をA2断片に自然に連結するフューリンプロテアーゼ部位の破壊が、比較的大きい(28kDaより大きい)カルボキシ末端分子部分に連結されているときにはその細胞毒性を減少させないという予想外の発見に基づく。驚くべきことに、すべての他の大きい分子部分を取り除いてカルボキシ末端疎水性ドメインを露出させ、その結果、1)ERADシステムによるA1断片のカルボキシ末端の認識、2)A1断片のアンフォールディング、3)A1断片のユビキチン化、4)小胞体からサイトゾルへの触媒ドメインの逆行輸送、5)プロテアソームによる触媒ドメインの分解の回避、及び6)完全活性酵素構造を形成するためのポリペプチドを含む触媒ドメインのリフォールディングをもたらす志賀毒素Aサブユニットの天然メカニズムに干渉する可能性がある大きいカルボキシ末端部分の存在にもかかわらず、フューリン切断事象が起こらないときに、最大の野生型志賀毒素細胞毒性が可能である(Suhan M, Hovde C, Infect Immun 66: 5252-9(1998)、LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18(2005)、Yu M, Haslam D, Infect Immun73: 2524-32 (2005)、Falguieres T,Johannes L, Biol Cell 98: 125-34 (2006)、DiR et al., Toxicon 57: 525-39 (2011)、Li S, PLoS One 7: e41119 (2012)を参照されたい)。
【0106】
本明細書に記載する発見より前には、最適な細胞毒性を有することを目的とした志賀毒素Aサブユニット由来融合タンパク質の設計にあたって、フューリン切断事象は維持又は補償されなければならないと考えられた。志賀毒素Aサブユニット由来領域内のフューリン切断事象を維持することにより、志賀毒素AサブユニットA1断片様ポリペプチドを、そのカルボキシ末端と会合しており、そのA1断片のカルボキシ末端を立体的にカバーしている部分から遊離して、分子全体のリボソーム阻害活性を60倍又は61倍以上改善させることができる(Lea N et al., Microbiology 145: 999-1004 (1999)を参照されたい
)。すると、A1断片様ポリペプチドの遊離カルボキシ末端は、その疎水性ドメインを用いて小胞体の内腔からサイトゾルへの移行のためのシグナルを中毒細胞のERAD機構に伝達することができ、A1断片様ポリペプチドをアンフォールドすることができ、志賀毒素触媒ドメイン含有ポリペプチドをサイトゾルに効率的に移行することができ、触媒ドメインを、サイトゾル内で、野生型、志賀毒素について生じるものと同様の活性高次構造にリフォールドすることができる。加えて、A2断片様領域が融合タンパク質中に存在する場合には、A1断片は、任意のA2断片様領域からの解離後、より触媒活性化されることになる可能性がある。あるいは、融合タンパク質のカルボキシ末端に近接して「プレプロセッシング」形態で志賀毒素Aサブユニット由来ポリペプチドを、その分子のカルボキシ末端がフューリン切断志賀毒素A1断片を模倣するように提示することによって、フューリン切断事象欠如の補償を遂行してもよい。
【0107】
A.プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド
本発明のすべての細胞毒性分子及び細胞標的化分子は、各々、フューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む。これらのフューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、各々、志賀毒素ファミリーのメンバーのAサブユニットに由来し、1)カルボキシ末端を有する志賀毒素A1断片由来ポリペプチド、及び2)前記志賀毒素A1断片ポリペプチド領域のカルボキシ末端に破壊されたフューリン切断モチーフを含む。
【0108】
本発明では、句「フューリン切断耐性」は、ポリペプチド領域が、野生型、志賀毒素Aサブユニット内の志賀毒素A1断片のカルボキシ末端より、又は天然に存在するフューリン切断モチーフが未破壊である、すなわち、類似ポリペプチド領域内の天然に存在する志賀毒素Aサブユニットによって示されるような野生型の天然に存在する配列しか含まない構築物の志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端より、少ないフューリン切断を示すことを意味する。
【0109】
志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀毒素ファミリーのメンバーの志賀毒素Aサブユニットに由来するポリペプチドである。タンパク質毒素の志賀毒素ファミリーは、構造的に及び機能的に関連している様々な天然に存在する毒素、例えば、志賀毒素、志賀様毒素1及び志賀様毒素2で構成されている(Johannes L, Romer W, Nat Rev Microbiol 8:105-16 (2010))。志賀毒素ファミリーのメンバーは、同じ全体構造及び作用メカニズ
ムを共有する(Engedal, N et al., Microbial Biotech 4: 32-46 (2011))。例えば、Stx、SLT-1及びSLT-2は、無細胞系において区別できない酵素活性を提示する(Head S et al., J Biol Chem 266: 3617-21 (1991)、Tesh V et al.,Infect Immun 61:
3392-402 (1993)、Brigotti M et al.,Toxicon 35:1431-1437 (1997))。
【0110】
志賀毒素ファミリーは、志賀赤痢菌(S. dysenteriae)血清型1から単離された真性志賀毒素(Stx,Shiga toxin)、腸管出血性大腸菌(E. coli)の血清型から単離された志賀様毒素1(SLT1,Shiga-like toxin 1、又はStx1、又はSLT-1、又はSlt-I)バリアント、及び腸管出血性大腸菌の血清型から単離された志賀様毒素2(SLT2,Shiga-like toxin 2、又はStx2、又はSLT-2)バリアントを包含する。SLT1は、1残基しかStxと異ならず、両方ともベロ細胞毒素又はベロ毒素(VT,Verotoxin)と言われている(O'Brien,Curr Top Microbiol Immunol 180: 65-94 (1992)
)。SLT1及びSLT2バリアントは、アミノ酸配列レベルでは互いに約53~60%しか類似していないが、志賀毒素ファミリーのメンバーに共通の酵素活性メカニズム及び細胞毒性メカニズムを共有する(Johannes L, Romer W, Nat Rev Microbiol 8:105-16 (2010))。39種を超える様々な志賀毒素、例えば、被定義サブタイプStx1a、St
x1c、Stx1d及びStx2a~gが記載されている(Scheutz F et al., J Clin Microbiol 50: 2951-63(2012))。志賀毒素ファミリーのメンバーは、志賀毒素をコード
する遺伝子が遺伝子水平伝播によって細菌種間で伝播しうるので、本来、いずれの細菌種にも限定されない(StrauchE et al., Infect Immun69: 7588-95 (2001)、Bielaszewska
M et al., Appl Environ Micrbiol 73:3144-50 (2007)、Zhaxybayeva O,Doolittle W, Curr Biol 21: R242-6(2011))。種間伝播の一例として、志賀毒素は、患者から単離
されたアシネトバクター・ヘモリティカス(A. haemolyticus)の株において発見された
(Grotiuz G et al., J Clin Microbiol 44: 3838-41(2006))。志賀毒素をコードする
ポリヌクレオチドが新たな亜種又は種に侵入すると、志賀毒素アミノ酸配列は、志賀毒素ファミリーのメンバーに共通の細胞毒性メカニズムをなお維持しながら、遺伝的浮動及び/又は選択圧に起因してわずかな配列多様性を発生させることが可能であると推測される(例えば、Scheutz, J ClinMicrobiol 50: 2951-63 (2012)を参照されたい)。
【0111】
志賀毒素ファミリーのメンバーの志賀毒素Aサブユニットは、志賀毒素機能にとって重要なそれらのA1断片領域のカルボキシ末端に保存されたフューリン切断部位を含む。フ
ューリン切断部位モチーフ及びフューリン切断部位を当業者は同定することができ、及び/又は本明細書中の情報を使用することによって同定することができる。
【0112】
フューリンによって切断された基質内のコンセンサスモチーフはある程度の特異性で同定されている。SchechterI, Berger, A, Biochem BiophysRes Commun 32: 898-902 (1968)に記載されている命名法を用いてP14~P6’と名前を付けることができるアミノ
酸残基20個の領域を含むフューリン切断部位モチーフが記載されている(Tian S, Biochem Insights 2: 9-20 (2009)、TianS, Jianhua W, Int J Biol Sci 6:89-95 (2010)、Tian S etal.,Int J Mol Sci 12: 1060-5 (2011)、Tian S et al., SciRep 2: 261 (2012))。この命名法によると、切断部位は、P1と称するアミノ酸残基のカルボキシ結合に
あり、残基は、この基準P1残基からアミノ末端に向かって行く方向でP2、P3、P4などとナンバリングされる。P1基準残基からカルボキシ末端に向かって行く残基は、プライム表記P2’、P3’、P4’などでナンバリングされる。
【0113】
一般的なフューリン切断部位は、P4-P3-P2-P1に対応するコンセンサスモチーフR-x-x-Rによって記述されることが多く、この場合の「R」はアルギニン残基を表し(上記の表Aを参照されたい)、ダッシュ「-」はペプチド結合を表し、小文字「x」は任意のアミノ酸残基を表す(Schalken J et al.,J Clin Invest 80: 1545-9 (1987)、Bresnahan P et al., JCell Biol 111: 2851-9(1990)、Hatsuzawa K et al., J Biol
Chem 265: 22075-8 (1990)、WiseR et al., Proc Natl Acad Sci USA 87:9378-82 (1990)、Molloy S et al., J Biol Chem 267:16396-402 (1992))。しかし、他の残基及び位置がフューリン切断モチーフのさらなる定義に役立つこともある(Hosaka M et al., JBiol Chem 266: 12127-30 (1991)、OdaK et al., Biochem BiophysRes Commun 179: 1181-6 (1991)、Leduc Ret al., J Biol Chem 267: 14304-8 (1992)、Watanabe T etal., J Biol Chem 267: 8270-4(1992))。もう少し精密なフューリン切断部位モチーフは、P4
-P3-P2-P1に対応するコンセンサスモチーフR-x-[K/R]-R(この場合、前方のスラッシュ「/」は「又は」を意味し、同じ位置の代替アミノ酸残基を分けている)として報告されることが多く、これは、フューリンにはこのモチーフを含有する基質の切断に対して強い優先性があることが観察されたからである(Rockwell N et al., Chem Rev 102: 4525-48 (2002)、Remacle A et al., J Biol Chem 283: 20897-906 (2008)、Tian S, Biochem Insights 2: 9-20 (2009)、Tian S, Jianhua W, Int J Biol Sci 6: 89-95 (2010)、Tian S et al., Int J Mol Sci 12: 1060-5 (2011)、Tian S et al., Sci Rep 2: 261 (2012)を参照されたい)。
【0114】
これと一致して、多くのフューリン阻害剤は、モチーフR-x-x-Rを含むペプチドを含む(例えば、MisumiY et al., BiochemBiophysRes Commun 171:236-42 (1990)、Hallenberger S etal., Nature 360: 358-61 (1992)、Garten W et al., Biochimie 76: 217-25(1994)、Angliker H, J Med Chem 38: 4014-8(1995)、Van Rompaey L et al., Biochem J 326:507-514 (1997)、CameronA et al., J Biol Chem 275: 36741-9 (2000)、JeanF etal., Proc Natl Acad SciUSA 97: 2864-9 (2000)、Basak A, Lazure C, BiochemJ 373: 231-9(2003)、Kacprzak M et al., J Biol Chem 279: 36788-94 (2004)を参照さ
れたい)。フューリンの合成阻害剤の一例はR-V-K-Rである(例えば、Henrich S et al.,Nat Struct Biol 10: 520-6 (2003)を参照されたい)。一般に、正電荷を有する2つのアミノ酸が2つのアミノ酸残基によって隔てられている表面露出性二塩基性アミノ酸モチーフを含むポリペプチドは、モチーフ内の最後の塩基性アミノ酸のカルボキシ結合で切断が起こるフューリン切断感受性のものであると予測されうる(Rockwell N et al.,
Chem Rev 102: 4525-48 (2002)、Remacle A et al., J Biol Chem 283: 20897-906 (2008))。
【0115】
R-x-x-Rの最小フューリン切断部位に加えて、特定の位置の特定のアミノ酸残基
優先性を有する、より大きい、フューリン切断部位モチーフが記載されている。様々な公知のフューリン基質を比較することによって、20アミノ酸残基長のフューリン切断部位モチーフ内のアミノ酸残基について特定の物理化学的特性の特性評価がなされている。フューリン切断モチーフのP6~P2’領域によって、フューリンの酵素ドメインと物理的に相互作用するコアフューリン切断部位が描写される。2つの隣接領域P14~P7及びP3’~P6’は、多くの場合、疎水性であり、極性アミノ酸残基を多く含んでいて、それらの領域間に位置するコアフューリン切断部位の表面露出度を増加させる。
【0116】
一般に、P5~P1位のフューリン切断モチーフ領域は、正電荷及び/又は高い等電点を有するアミノ酸残基を含む傾向がある。特に、フューリンによるタンパク質分解位置を示すP1位は一般にはアルギニンによって占有されているが、正電荷を有する他のアミノ酸残基がこの位置に存在することもある。P2及びP3位は、フレキシブルなアミノ酸残基によって占有される傾向があり、特にP2は、アルギニン、リジンによって、又はときにはグリシンのような非常に小さいフレキシブルなアミノ酸残基によって、占有される傾向がある。P4位は、フューリン基質中の正電荷を有するアミノ酸残基によって占有される傾向がある。しかし、P4位が脂肪族アミノ酸残基によって占有される場合には、正電荷を有する官能基の欠如を、P5及び/又はP6位に位置する正電荷を有する残基によって補償することができる(Tian S, Jianhua W, Int J Biol Sci 6: 89-95 (2010))。P
1’及びP2’位は、脂肪族及び/又は疎水性アミノ酸残基によって占有されることが多く、P1’位は、セリンによって占有されることが最も多い(Tian S, Biochem Insights2: 9-20 (2009)、Tian S et al., Sci Rep 2: 261 (2012))。
【0117】
2つの疎水性隣接領域は、極性である、親水性である、及び/又はより小さいアミノ酸官能基を有する、アミノ酸残基によって占有される傾向があるが、特定の検証されているフューリン基質では、コアフューリン切断モチーフの隣接領域は、いかなるコンセンサス疎水性アミノ酸残基も含有しない(Tain S, Biochem Insights 2: 9-20 (2009)を参照さ
れたい)。一部のウイルスタンパク質のフューリン切断モチーフでは、P3’~P6’位は、例えばアラニン、グリシン及びプロリンなどの小さい疎水性官能基を有するアミノ酸残基によって占有される(Tian S, Biochem Insights 2: 9-20 (2009)、Tian S et al., Sci Rep 2: 261 (2012))。フューリンによるタンパク質分解には必要でないが、P5及
び/又はP6位の正電荷を有するアミノ酸残基の存在は、フューリン切断効率を増加させる可能性がある。志賀毒素Aサブユニットにおいて、志賀毒素A1断片とA2断片の接合部に位置する保存されたフューリン切断モチーフは、例えば、効率的フューリン切断と切断後のA1断片のカルボキシ末端における構造不定の疎水性パッチの露出とのバランスをとることなどの、最適化競合機能を有する可能性がある。
【0118】
本発明の細胞毒性分子及び細胞標的化分子は、各々、A1断片領域のカルボキシ末端に破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む。
【0119】
請求項記載の本発明では、用語「フューリン切断部位」は、志賀毒素Aサブユニットのプロテアーゼ感受性ループ内の最小フューリン切断コンセンサス部位R/Y-x-x-Rを指す。
【0120】
本発明では、用語「フューリン切断モチーフ」は、1)最小フューリン切断モチーフP4~P1と、2)コアフューリン切断モチーフP6~P2’と、3)2つの隣接ポリペプチド領域P14~P7及びP3’~P6’とを含む、本明細書に記載の20アミノ酸残基のコンセンサスポリペプチド配列(P14~P6’)から本質的になるポリペプチドを指す。
【0121】
本発明では、「破壊されたフューリン切断モチーフ」は、ネイティブ、志賀毒素Aサブ
ユニット内の志賀毒素A1断片領域とA2断片領域の間の接合部で見出されるフューリン切断モチーフである20アミノ酸残基領域に由来する1つ又は2つ以上のアミノ酸残基の改変であり、志賀毒素Aサブユニットのフューリン切断がA1及びA2断片を生じさせる結果となるような位置にある破壊されたフューリン切断モチーフは、適切なアッセイを用いてフューリン切断をモニターするのに十分な大きさのサイズのカルボキシ末端ポリペプチドに融合された野生型志賀毒素A1断片領域を含む基準分子と比較してフューリン切断の低減を示す。フューリン切断の低減を当業者は当技術分野において公知のアッセイを用いて判定してもよく、及び/又は本明細書に記載するアッセイを用いて判定してもよい。例えば、基準分子と比較した、ある分子のフューリン切断の低減は、同じ条件を用いて行われる、下記実施例で説明するインビトロフューリン切断アッセイを用い、次いで切断の結果として生じる任意の断片のバンド密度の定量を実施することによって判定してもよい。本発明の分子の特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、カルボキシ末端がポリペプチドに融合された野生型志賀毒素A1断片を含む基準分子、例えば、実施例で説明する基準分子SLT-1A-WT::scFv-1などと比較して、インビトロフューリン切断の30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%又はそれより大きい低減を示す。
【0122】
ネイティブ、志賀毒素Aサブユニット内の志賀毒素A1断片フューリン切断モチーフとA2断片フューリン切断モチーフ間の接合部で見出される20アミノ酸残基フューリン切断モチーフは、特定の志賀毒素に関して十分に特性評価されている。例えば、StxA(配列番号2)及びSLT-1A(配列番号1)ではこのフューリン切断モチーフがL238~F257に天然に位置し、SLT-2A(配列番号3)ではこのフューリン切断モチーフがV237~Q256に天然に位置する。本明細書に記載するアミノ酸相同性、実験及び/又はフューリン切断アッセイに基づいて、当業者は、他のネイティブ、志賀毒素Aサブユニット内のフューリン切断モチーフであって、中毒真核細胞によるこれらの志賀毒素Aサブユニットのフューリン切断後にA1及びA2断片が生成される結果となると予測されるモチーフを同定することができる。
【0123】
フューリン切断モチーフ内のアミノ酸残基の改変は、様々な変異はもちろん、例えば、アミノ酸残基の官能基への大きな分子の連結を含むグリコシル化などのような翻訳後修飾も含む。フューリン切断モチーフ内のアミノ酸残基の変異は、フューリン切断モチーフの欠失、挿入、反転、置換及び/又はカルボキシ末端短縮化を含む。破壊されてしまっているため、特定の破壊されたフューリン切断モチーフは、いずれかのフューリン切断モチーフに関係付けられると容易に認識できないこともあるが、志賀毒素A1断片領域のカルボキシ末端は、認識可能であるだろうし、破壊されていなければフューリン切断モチーフがある場所を定義することができるだろう。例えば、破壊されたフューリン切断モチーフは、フューリン切断モチーフの20未満のアミノ酸残基を含むことがあり、この20未満のアミノ酸残基が、志賀毒素Aサブユニット及び/又は志賀毒素A1断片と比較してカルボキシ末端短縮化を表す。
【0124】
フューリン切断部位又はフューリン切断モチーフに関して、本発明では、用語「破壊」、「破壊すること」又は「破壊された」は、天然に存在するフューリン切断部位からの、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較してかかる部位でのフューリン切断の低減をもたらす改変、例えば変異などを指す。フューリン切断モチーフは約20アミノ酸残基からなるため、理論的には、これらの20の位置の1カ所又は2カ所以上が関係する変異、欠失又は挿入はフューリン切断感受性の低減をもたらすことができる(Tian S et al., Sci Rep
2: 261 (2012))。破壊は、他のプロテアーゼに対する耐性を増加させることもあり、又は増加させないこともある。
【0125】
フューリン切断部位及びフューリン切断モチーフを破壊することができる変異のタイプ
の例は、アミノ酸残基欠失、挿入、反転及び/又は置換であり、置換は、非標準アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸での置換を含む。加えて、フューリン切断部位及びフューリン切断モチーフを、該部位又はモチーフ内の少なくとも1つのアミノ酸を隠蔽する共有結合で連結された化学構造の付加によるアミノ酸の修飾を含む変異によって破壊することができる。例えばPEG化(Zhang C et al., BioDrugs 26: 209-15 (2012)を参照されたい)及び小分子アアジュバント(Flower D, Expert Opin Drug Discov 7: 807-17 (2012))を参照されたい。
【0126】
最小フューリンコンセンサス部位R-x-x-R内の2つのアルギニン残基の一方又は両方のアラニンへの変異は、フューリン切断モチーフを破壊し、その部位でのフューリン切断を防止することになる(例えば、Duda A et al, J Virol 78: 13865-70 (2004)を参
照されたい)。同様に、当業者に公知の任意の非保存的アミノ酸残基に対する最小フューリン切断モチーフR-x-x-R内のアルギニン残基の一方又は両方でのアミノ酸残基置換は、該モチーフのフューリン切断感受性を低減させることになる。特に、例えばA、G、P、S、T、D、E、Q、N、C、I、L、M、V、F、W及びYなどの、正電荷を欠く任意の非塩基性アミノ酸残基に対するアルギニンでのアミノ酸残基置換は、破壊されたフューリン切断モチーフをもたらすことになる。さらに、フューリン切断モチーフ内の最小フューリン切断部位の又はコア、フューリン切断モチーフの欠失は、そのフューリン切断モチーフのフューリン切断感受性を低減させることになる。
【0127】
本発明の分子の特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、例えば、最小フューリン切断モチーフR/Y-x-x-Rの1及び4位のアミノ酸残基などの、コンセンサスアミノ酸残基P1及びP4の一方又は両方の存在、位置又は官能基に関しての破壊を含む。
【0128】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、2以外である介在アミノ酸残基数を単位とするコンセンサスアミノ酸残基P4とP1間の間隔の破壊、したがって、P4及び/又はP1いずれかの異なる位置への変化、並びにP4及び/又P1記号表示の削除を含む。
【0129】
特定のフューリン切断モチーフ破壊は、配列表で提供するネイティブ志賀毒素Aサブユニットの特異的アミノ酸位置に参照することによって本書において示すが、天然に存在する志賀毒素Aサブユニットが、約22のアミノ酸のシグナル配列を含有する前駆形態(これらは、成熟志賀毒素Aサブユニットを産生するために除去されるものであり、当業者には認識可能である)を含みうることを特筆しておく。さらに、変異を含む特定のフューリン切断モチーフ破壊は、特異的アミノ酸(例えば、アルギニン残基についてはR)であって、ネイティブ志賀毒素Aサブユニット内の特異的位置(例えば、アミノ末端からの251位のアルギニン残基についてはR251)に天然に存在するアミノ酸、続いて、論じている特定の変異で残基が置換されたアミノ酸(例えば、R251Aは、アミノ末端からのアミノ酸残基251におけるアルギニンのアラニンでのアミノ酸置換を表す)への言及によって本明細書では示す。
【0130】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較して1つ又は2つ以上のアミノ酸残基置換を含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内に1つ又は2つ以上のアミノ酸残基置換、例えば、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R248及び/又は正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R251、並びにSLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、正電荷を有さない任意のアミノ酸残
基で置換されている天然位置のアミノ酸残基Y247及び/又は正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R250などを含む。さらなる特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、破壊されていない最小フューリン切断部位R/Y-x-x-Rを含むが、その代わり、例えば241~247及び/又は252~259に天然に位置するフューリン切断モチーフ隣接領域内の1つ又はそれ以上のアミノ酸残基のアミノ酸残基置換などの、破壊された隣接領域を含む。
【0131】
特定の実施形態おいて、破壊は、プロテアーゼモチーフ領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、挿入、反転及び/又は変異を含む。特定の実施形態において、プロテーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、志賀様毒素1のAサブユニット(配列番号1)若しくは志賀毒素のAサブユニット(配列番号2)の249~251、又は志賀様毒素2のAサブユニット(配列番号3)の247~250、又は保存された志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/若しくは非ネイティブ志賀毒素エフェクターポリペプチド配列内の同等の位置に天然に位置するアミノ酸配列の破壊を含むことがある。特定のさらなる実施形態において、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、プロテアーゼモチーフ領域内の少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含む破壊を含む。特定のさらなる実施形態において、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、プロテアーゼモチーフ領域内への少なくとも1つのアミノ酸の挿入を含む破壊を含む。特定のさらなる実施形態において、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、少なくとも1つの反転したアミノ酸がプロテアーゼモチーフ領域内にある、アミノ酸の反転を含む破壊を含む。特定のさらなる実施形態において、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、非標準アミノ酸又は側鎖が化学的に修飾されているアミノ酸へのアミノ酸置換などの変異を含む破壊を含む。単一アミノ酸置換の例を実施例において提供する。
【0132】
特定の実施形態において、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、プロテアーゼモチーフ領域内のアミノ酸残基置換を含む破壊を含み、置換は、配列番号3の247、配列番号1若しくは配列番号2の248、配列番号3の250、配列番号1若しくは配列番号2の251、又は保存された志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/若しくは非ネイティブ志賀毒素エフェクターポリペプチド配列内の同等の位置からなる群から選択される天然位置のアミノ酸で起こる。特定のさらなる実施形態において、置換は、任意の非保存的アミノ酸に対するものであり、置換は、配列番号3の247、配列番号1若しくは配列番号2の248、配列番号3の250、配列番号1若しくは配列番号2の251、又は保存された志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/若しくは非ネイティブ志賀毒素エフェクターポリペプチド配列内の同等の位置からなる群から選択される天然位置のアミノ酸残基で起こる。特定のさらなる実施形態において、変異は、R247A、R248A、R250A、R251A、又は保存された志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/若しくは非ネイティブ志賀毒素エフェクターポリペプチド配列内の同等の位置からなる群から選択されるアミノ酸置換を含む。
【0133】
本発明の分子の特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、フューリン切断モチーフ内の9、10、11又12以上のカルボキシ末端アミノ酸残基の欠失を含む。これらの実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、フューリン切断部位も最小フューリン切断モチーフも含まないことになる。言い換えると、特定の実施形態は、A1断片領域のカルボキシ末端のフューリン切断部位を欠く。
【0134】
特定の実施形態において、本発明の分子は、志賀毒素Aサブユニット間で保存される表面に露出したプロテアーゼ感受性ループの変異を含む破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む。例えば、StxA及びSLT-1Aではこのプロテアーゼ感受性ループが242位~261位に天然に位置し、SLT-2Aで
はこのループが241位~260位に天然に位置する。ポリペプチド配列相同性に基づいて、当業者は他の志賀毒素Aサブユニットにおいてこの保存されたプロテアーゼ感受性ループを同定することができる。特定のさらなる実施形態において、本発明の分子は、志賀毒素Aサブユニットのこのプロテアーゼ感受性ループの変異を含む破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含み、変異はループ内の特定のアミノ酸残基の表面露出度を低減させ、その結果、フューリン切断感受性が低減される。
【0135】
特定の実施形態において、本発明の分子は、最小切断部位コンセンサスモチーフ内のアルギニン残基の一方又は両方のA、G又はHでのアミノ酸残基置換を含む、破壊されたフューリン切断モチーフを含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、StxA(配列番号2)及びSLT-1A(配列番号3)の247~252に天然に位置する領域若しくはSLT-2A(配列番号3)の246~251に天然に位置する領域の欠失、又はStxA(配列番号2)及びSLT-1A(配列番号3)の244~246に天然に位置する領域若しくはSLT-2A(配列番号3)の243~245に天然に位置する領域の欠失、又はStxA(配列番号2)及びSLT-1A(配列番号3)の253~259に天然に位置する領域若しくはSLT-2A(配列番号3)の252~258に天然に位置する領域の欠失を含む。特定のさらなる実施形態は、可能な場合は上述の任意の変異の組合せを含む破壊されたフューリン切断モチーフを含む。
【0136】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してカルボキシ末端短縮化を含み、この短縮化は、フューリン切断モチーフ内の1つ又は2つ以上のアミノ酸残基の欠失をもたらす。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、最小切断部位Y/R-x-x-R内の1つ又は2つ以上のアミノ酸残基を欠失させるカルボキシ末端短縮化、例えば、StxA及びSLT-1A由来の志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、アミノ酸残基天然位置250、249、248、247、246、245、244、243、242、241、240又は239以下で終わる短縮化、及びSLT-2A由来の志賀毒素エフェクターポリペプチドについてはアミノ酸残基天然位置249、248、247、246、245、244、243、242、241又は240以下で終わる短縮化などを含む。
【0137】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、フューリン切断モチーフの部分的なカルボキシ末端短縮化である変異を含むが、本発明の特定の分子は、20アミノ酸残基フューリン切断モチーフ全体の完全カルボキシ末端短縮化である破壊されたフューリン切断モチーフを含まない。例えば、本発明の特定の、細胞毒性、細胞標的化分子は、StxA(配列番号2)又はSLT-1A(配列番号1)の天然位置240までのA1断片領域の部分的なカルボキシ末端短縮化を含むが、239又はそれ未満の位置でのカルボキシ末端短縮化を含まない、破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む。同様に、本発明の特定の、細胞毒性、細胞標的化分子は、SLT-2A(配列番号3)の天然位置239までのA1断片領域の部分的なカルボキシ末端短縮化を含むが、238又はそれ未満の位置でのカルボキシ末端短縮化を含まない、破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む。破壊されたフューリン切断モチーフを含む最大のカルボキシ末端短縮化変異の場合、フューリン切断モチーフのP14及びP13位はなお存在する。
【0138】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してフューリン切断モチーフ内のアミノ酸残基置換とカルボキシ末端短縮化の両方を含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較して最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内のアミノ酸残基置換とカルボキシ末端短縮化の両方を含み、例えば、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、アミノ酸残基天然位
置249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291又は292以上で終わり、適切な場合には、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換された天然位置のアミノ酸残基R248及び/又はR251を含む短縮化、並びにSLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、アミノ酸残基天然位置248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291又は292以上で終わり、適切な場合には、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換された天然位置のアミノ酸残基Y247及び/又はR250を含む短縮化などを含む。特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフを含む短縮型志賀毒素エフェクターポリペプチドは、最適な細胞毒性を維持するためにP9、P8及び/又はP7位のフューリン切断モチーフ、アミノ酸残基も含む。
【0139】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較して1つ又は2つ以上の内部アミノ酸残基欠失を含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内に1つ又は2つ以上のアミノ酸残基欠失を含む。例えば、天然位置のアミノ酸残基R248及び/又はR251の内部欠失を含み、例えば249、250、247、252などのような周囲の残基の欠失を併せ持つこともある、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチド、並びに天然位置のアミノ酸残基Y247及び/又はR250の内部欠失を含み、例えば248、249、246、251などのような周囲の残基の欠失を併せ持つこともある、SLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチド。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、例えば、R248~R251を欠くStxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチド並びにY247~R250を欠くSLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドのような、最小フューリン切断部位R/Y-x-x-Rを欠失させる連続する4つのアミノ酸残基の欠失を含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、例えば、SLT-1A又はStxAの244~247及び/又は252~255の欠失などの、コアフューリン切断モチーフに隣接するアミノ酸残基の1つ又は2つ以上のアミノ酸残基欠失を含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較して表面に露出したプロテアーゼ切断感受性ループ全体の内部欠失、例えば、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては天然位置のアミノ酸残基241~262の欠失、並びにSLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては天然位置のアミノ酸残基240~261の欠失などを含む。
【0140】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較してフューリン切断モチーフ内の内部アミノ酸残基欠失とカルボキシ末端短縮化の両方を含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較して最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内のアミノ酸残基置換とカルボキシ末端短縮化の両方を含む。例えば、破壊されたフューリン切断モチーフを有する志賀毒素エフェクターポリペプチドは、短縮型StxA若しくはSLT-1Aポリペプチドの天然位置のアミノ酸残基248~249及び/若しくは250~251の欠失を含むこともあり、又は短縮型SLT-2Aのアミノ酸残基247~248及び/若しくは249~250の欠失を含むこともある。特定のさらな
る実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較して最小フューリン切断部位R/Y-x-x-Rを欠失させる連続する4つのアミノ酸残基の欠失とカルボキシ末端短縮化を含み、例えば、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、アミノ酸残基天然位置252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291又は292以上で終わり、R248~R251を欠く短縮化、並びにSLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、アミノ酸残基天然位置251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291又は292以上で終わり、Y247~R250を欠く短縮化などを含む。
【0141】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してアミノ酸残基欠失とアミノ酸残基置換の両方を含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内の1つ又は2つ以上のアミノ酸残基欠失及び置換、例えば、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R248及び/又は正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R251、並びにSLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基Y247及び/又は正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R250などを含む。
【0142】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してアミノ酸残基欠失及びアミノ酸残基置換はもちろんカルボキシ末端短縮化も含む。特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内の1つ又は2つ以上のアミノ酸残基欠失及び置換、例えば、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R248及び/又は正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R251、並びにSLT-2A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基Y247及び/又は正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されている天然位置のアミノ酸残基R250などを含む。
【0143】
特定のさらなる実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較して最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内のアミノ酸置換とカルボキシ末端短縮化の両方を含み、例えば、StxA及びSLT-1A由来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、アミノ酸天然位置249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291又は292以上で終わり、適切な場合には、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換されたアミノ酸天然位置R248及び/又はR251を含む短縮化、並びにSLT-2A由
来志賀毒素エフェクターポリペプチドについては、アミノ酸天然位置248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291又は292以上で終わり、適切な場合には、正電荷を有さない任意のアミノ酸残基で置換された天然位置のアミノ酸残基Y247及び/又はR250を含む短縮化などを含む。
【0144】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較して1つ又は2つ以上のアミノ酸残基の挿入を含むが、挿入されたアミノ酸残基が新規フューリン切断部位を生成しないことを条件とする。特定の実施形態において、例えば、249若しくは250に、したがって、R248とR251の間に1つ若しくは2つ以上のアミノ酸残基の挿入を含むStxA及びSLT-1A由来ポリペプチド、又は248若しくは249に、したがって、Y247とR250の間に1つ若しくは2つ以上のアミノ酸残基の挿入を含むSLT-2A由来ポリペプチドのような、1つ又は2つ以上のアミノ酸残基の挿入は、最小フューリン切断部位R/Y-x-x-R内のアルギニン残基間の天然の間隔を破壊する。
【0145】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してアミノ酸残基挿入とカルボキシ末端短縮化の両方を含む。特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してアミノ酸残基挿入とアミノ酸残基置換の両方を含む。特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してアミノ酸残基挿入とアミノ酸残基欠失の両方を含む。
【0146】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型、志賀毒素Aサブユニットと比較してアミノ酸残基欠失、アミノ酸残基挿入及びアミノ酸残基置換を含む。
【0147】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフは、野生型志賀毒素Aサブユニットと比較してアミノ酸残基欠失、挿入、置換、及びカルボキシ末端短縮化を含む。
【0148】
特定の実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドには、アミノ酸、ペプチド及び/又はポリペプチドを含む分子部分と結合しているペプチドが直接融合しており、この融合構造は単一の連続ポリペプチドを含む。これらの融合実施形態において、破壊されたフューリン切断モチーフに続くアミノ酸配列は、融合接合部に新規フューリン切断部位を生成してはならない。
【0149】
志賀毒素Aサブユニットは、StxA及びSLT-1AのL238~F257及びSLT-2AのV237~Q256の領域に天然に位置する、高度に保存された表面露出ループ構造のフューリン切断モチーフに加えて、他のフューリン切断モチーフを有する可能性がある。例えば、StxA及びSLT-1Aは、天然位置のアミノ酸残基領域220~223の周囲にフューリン切断モチーフを含む。しかし、志賀毒素Aサブユニットのこの第2のフューリン部位がインビボで切断されるという証拠はない。対照的に、ヒトフューリンでのStx2ホロ毒素のインビトロ処理は、Arg250での切断のほかに、Aサブユニットのいずれの他のR-x-x-Rモチーフ(例えば、アミノ酸残基179~222に天然に位置するモチーフ)での切断も生じさせなかった。これは、志賀毒素Aサブユニット内の他の潜在的二塩基性部位がフューリンに到達できないことを示唆している(Faqerq
uist C,Sultan O, J Biomed Biotechnol 2010: 123460 (2010))。それに加えて他の切
断部位を破壊する、例えば、StxA1及びSLT-1AのL238~F257のフューリン切断モチーフを破壊する工学的操作を施してもよいが、SLT-1Aの220~223の領域に天然に位置するフューリン切断モチーフの破壊は、その細胞毒性活性を妥当な活性未満に低減させることがあり(例えば、Lea N et al., Microbiology 145: 999-1004(1999)を参照されたい)、220~223領域内のプロテアーゼ部位にプロテアーゼが
到達できなければプロテアーゼ耐性に関する恩恵はほとんど得られないであろう。
【0150】
B.志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端側に位置する分子部分
本発明の特定の分子は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合している分子部分も含む。本発明は、フューリン切断性、志賀毒素エフェクターポリペプチドと比較して志賀毒素エフェクター細胞毒性を喪失することなく、フューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端側に比較的大きい分子部分を結合させることを可能にする。用語「分子部分」は、天然に存在するものであろうと、合成のものであろうと、ポリペプチド、タンパク質、細胞毒性薬剤、ポリヌクレオシド、検出促進剤、小分子化学療法薬、多糖類、脂質及び他の生体分子を包含する。
【0151】
中毒細胞内の志賀毒素Aサブユニットのフューリンによるタンパク質分解は、次の少なくとも3つの事象をもたらす:志賀毒素A1断片のカルボキシ末端の露出、A1断片のすべての他の分子部分からの遊離、及び小胞体からサイトゾルへのA1断片の移行。志賀ホロ毒素の志賀毒素A1断片のA2断片及び残部からの解離は小胞体の内腔からサイトゾルへのA1断片の移行に必要であり、サイトゾル区画に到達する志賀ホロ毒素の唯一の成分がそのA1断片である(LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005)、Tam P, Lingwood C, Microbiology153:2700-10 (2007)、Li S et al., PLoSOne 7: e41119 (2012))。
【0152】
志賀毒素中毒中のフューリン切断に重要な意味をもつ1つの機能は、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端の露出であるようである。中毒細胞の小胞体内のA1断片のカルボキシ末端の露出は、最適な細胞内経路決定及び細胞毒性に必要であると考えられる。志賀毒素Aサブユニット由来構造が中毒細胞の小胞体内のA1断片のカルボキシ末端を露出させることができない場合には、その構造の細胞毒性作用は低減される(Burgess B, Roberts L, Mol Microbiol 10:171-9 (1993)、Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Lea N et al.,Microbiology 145: 999-1004(1999)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysResCommun 357: 144-9 (2007))。これは、A1断片のサイトゾルへの通常は効率
的な細胞内経路決定を乱す結果となる志賀毒素A1断片のカルボキシ末端を立体的にカバーする1つ又は2つ以上の分子部分の残留によって説明することができる。フューリンによるタンパク質分解プロセッシングを欠く志賀毒素Aサブユニット由来構造は、中毒細胞のサイトゾルに効率的に到達できない(Garred O et al., JBiol Chem 270: 10817-21
(1995)、Garred O et al., Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、LeaN et al., Microbiology 145:999-1004 (1999))。
【0153】
志賀毒素中毒中のフューリン切断に重要な意味をもつもう1つの機能は、志賀ホロ毒素の残部からの志賀毒素A1断片の遊離である。中毒細胞の小胞体内のA1断片の遊離は、最適な細胞内経路決定及び細胞毒性に必要であると考えられる。志賀毒素A1断片を、中毒細胞の小胞体内でフューリン切断できず、遊離できない場合には、細胞毒性作用は低減される(Burgess B, Roberts L, Mol Microbiol 10: 171-9 (1993)、Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Lea N et al.,Microbiology 145: 999-1004(1999)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysResCommun 357: 144-9 (2007))。この場合もやは
り、これは、A1断片のサイトゾルへの通常は効率的な細胞内経路決定を乱す結果となる志賀毒素A1断片のカルボキシ末端と会合している1つ又は2つ以上の分子部分の残留に
よって説明することができる。
【0154】
最大志賀毒素細胞毒性のためのモデルは、効率的サイトゾル経路決定、最適なプロテアソーム回避、最適な触媒構造形成及び最大の酵素活性化には、志賀毒素A1断片がそのカルボキシ末端と会合している及び/又はそのカルボキシ末端を立体的にカバーするすべての分子部分から遊離されることが不可欠であることを示唆している(Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Garred O et al., JBiol Chem 270: 10817-21 (1995)、LeaNet al., Microbiology 145: 999-1004 (1999)、LaPointe Pet al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005)、Yu M, HaslamD, Infect Immun 73: 2524-32(2005)、Kurmanova A etal., BiochemBiophys Res Commun 357:144-9 (2007)、Smith M etal.,Infect Immun 77: 2730-40 (2009)、Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011)、LiSet al., PLoS One 7: e41119 (2012))。例えば、志賀毒素A2断片は、野生型、志賀ホロ毒素のA1断片と融合しており、志賀毒素Bサブユニットの五量体は、そのA2断片のカルボキシ末端と結合している(Fraser M et al., Nat Struct Biol 1: 59-64 (1994))。同様に、最大の志賀毒素細胞毒性は、そのカルボキシ末端と会合しているすべての分子部分、例えば、A2断片(4.5~4.7kDa)と少なくとも同様の大きさの部分、及び志賀ホロ毒素の残部の質量(42.7~43.2kDa)の部分などからのA1断片の遊離を必要とする可能性がある。
【0155】
関連して、最大の志賀毒素細胞毒性は、A1断片のカルボキシ末端を立体的にカバーするすべてのカルボキシ末端部分からのA1断片の遊離を必要とする可能性がある。サイトゾルへの効率的移行のためにこの領域を露出させなければならないからである(Suhan M,Hovde C, Infect Immun 66:5252-9(1998)、LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18(2005)、Yu M, Haslam D, Infect Immun73: 2524-32(2005)、Li S et al., PLoSOne 7: e41119 (2012)を参照されたい)。
【0156】
加えて、最大の志賀毒素細胞毒性には、脂質二重層膜内のガングリオシドに結合する志賀毒素Bサブユニットのような、細胞膜成分に結合する細胞標的化結合ドメインを含む分子部分からA1断片を遊離させることが重要である可能性がある。小胞体膜標的と高親和性で結合している細胞標的化分子にA1断片が共有結合している場合には、志賀毒素A1断片は、効率的なA1断片遊離及び/又はサイトゾルへの移行に必要なメカニズム及び事象を乱すように小胞体の脂質膜に繋留されたままである可能性がある。
【0157】
本発明は、上記のモデルにおいて志賀毒素Aサブユニットのフューリン切断機能が、合成細胞標的化分子によって示される志賀細胞毒性の野生型レベルに必要でないことを実証する、例示的構造を提供する(下記の実施例を参照されたい)。一見したところ、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端を、サイトゾルへの効率的細胞内経路決定のために露出させる必要はないようであり、一見したところ、A1断片のすべての他の分子部分からの遊離は、最大の志賀毒素細胞毒性に必要でないようである。それ故、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域のカルボキシ末端側の細胞標的化分子とともに位置する分子部分の存在にもかかわらず、細胞毒性を犠牲にすることなく、細胞標的化分子内の志賀毒素Aサブユニットのフューリン切断モチーフを破壊することができる。
【0158】
本発明の特定の分子は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端と会合している分子部分を含む。特定のさらなる実施形態において、会合は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端を直接又は間接的に分子部分と連結させる共有結合を含む。特定のさらなる実施形態において、会合は、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端を分子部分の1つ又は2つ以上のアミノ酸残基と融合させるペプチド結合を含む。特定のさらなる実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び分子部分は、該志賀毒素エフェクターポリペプチドが該分子部分のアミノ末端側の連続ポリペプ
チド内に物理的に位置するように融合されて単一の連続ポリペプチドを形成する。
【0159】
分子部分のサイズは、様々でありうる。本発明の分子の分子部分は、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端を立体的にカバーするのに十分な大きさの部分、脂質膜結合標的に結合できる結合領域を含む任意のサイズの部分、本発明の志賀毒素A1断片のカルボキシ末端領域に近接している十分に構造化された第三級ポリペプチド構造を提供する任意のサイズの部分、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端より極性及び疎水性が高い任意のサイズの部分、並びにネイティブ志賀毒素Aサブユニットのサイズ(おおよそ28kDa)以上の任意の部分を含む。28kDa以上のサイズの分子部分を本明細書では「比較的大きい」と言う。
【0160】
特定の実施形態において、本発明の分子は、ペプチドを含む分子部分を含むことがある。特定の実施形態において、本発明の分子は、1.5kDa又はそれより大きい質量を有する分子部分を含むことがある。特定の実施形態において、本発明の分子は、少なくとも、4.5kDa、6kDa、9kDa、12kDa、15kDa、20kDa、25kDa、28kDa、30kDa、41kDa、50kDa、100kDa又はそれより大きい質量を有する分子部分を含むこともあるが、本明細書中で述べる適切な志賀毒素生物活性を保持することを条件とする。
【0161】
特定の実施形態において、分子部分は、約4.5kDaの質量又は別の同等の質量の志賀毒素A2断片を有する。このサイズの部分が中毒細胞内の細胞内経路決定及びリボソーム不活性化の効率を妨害することなく志賀毒素A1断片のカルボキシ末端に結合したままであることができることは、予想外であった。
【0162】
特定の実施形態において、分子部分は、約7.6kDaの質量又は別の同等の質量の志賀毒素Bサブユニットを有する。このサイズの部分が中毒細胞内の細胞内経路決定及びリボソーム不活性化の効率を妨害することなく志賀毒素A1断片のカルボキシ末端に結合したままであることができることは、予想外であった。
【0163】
特定の実施形態において、分子部分は、約6~10kDa又はそれより大きい質量を有し、例えば、改変アルマジロ反復ポリペプチド(ArmRP、Armadillo repeat polypeptide);改変、フィブロネクチン由来III型フィブロネクチンの第10(10Fn3)ド
メイン(モノボディ、AdNectins(商標)又はAdNexins(商標));改変、アンキリン反
復モチーフ含有ポリペプチド(DARPins(商標));改変低密度リポタンパク質受容体由
来Aドメイン(LDLR-A)(Avimers(商標));改変、プロテインA由来Zドメイ
ン(Affibodies(商標));改変、ガンマ-B結晶由来足場、又は改変、ユビキチン由来足場(アフィリン);及びSac7d由来ポリペプチド(Nanoffitins(登録商標)又は
アフィチン)などの、抗体模倣又は代替抗体形式を含む、結合領域を含む。
【0164】
特定の実施形態において、分子部分は、約11kDa以上の質量を有し、免疫グロブリンドメインを含む結合領域を含み、結合領域は、例えばVHH又はナノボディなどの、細胞外標的生体分子に高い親和性で特異的に結合する。特定のさらなる実施形態において、分子部分は、約24kDa以上の質量を有し、免疫グロブリンドメインを含む結合領域を含み、結合領域は、例えばscFvなどの、細胞外標的生体分子に高い親和性で特異的に結合する。
【0165】
特定の実施形態において、分子部分は、約12kDaの質量又は別の同等の質量の、志賀毒素A2断片とBサブユニットの複合体を有する。このサイズの部分が中毒細胞内の細胞内経路決定及びリボソーム不活性化の効率を妨害することなく志賀毒素A1断片のカルボキシ末端に結合したままであることができることは、予想外であった。
【0166】
特定の実施形態において、分子部分は、約28kDaの質量を有する。このサイズの部分が中毒細胞内での細胞内経路決定及びリボソーム活性化の効率を妨害することなく志賀毒素A1断片のカルボキシ末端に結合したままであることができることは予想外であったが、本明細書における実施例は、28kDa分子部分に融合している志賀毒素A1断片を含むフューリン切断耐性分子が、細胞内経路決定、リボソーム阻害又は細胞毒性の明白な破壊を示さなかったことを実証する。
【0167】
特定の実施形態において、比較的大きい分子部分は、約39kDaの質量又は別の同等の質量の志賀毒素Bサブユニット五量体を有する。このサイズの部分が中毒細胞内の細胞内経路決定及びリボソーム不活性化の効率を妨害することなく志賀毒素A1断片のカルボキシ末端に結合したままであることができることは、予想外であった。
【0168】
特定の実施形態において、比較的大きい分子部分は、約43.2kDaの質量又は別の同等の質量の、志賀毒素A2断片とBサブユニット五量体の複合体を有する。このサイズの部分が中毒細胞内の細胞内経路決定及びリボソーム不活性化の効率を妨害することなく志賀毒素A1断片のカルボキシ末端に結合したままであることができることは、予想外であった。
【0169】
特定の実施形態において、分子部分は分岐している。特定の実施形態において、分子部分は非タンパク質性である。特定の実施形態において、分子部分は、細胞毒性薬剤又は検出促進剤、例えば本明細書に記載する薬剤である。
【0170】
特定の実施形態において、分子部分は、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチドの志賀毒素A1断片ポリペプチドのカルボキシ末端を立体的にカバーする。本発明では、「立体的にカバーする」又は「立体的にカバーすること」は、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチドの志賀毒素A1断片ポリペプチドのカルボキシ末端領域に直接共有結合している部分を指す。特定の実施形態において、分子部分は、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチドの志賀毒素A1断片ポリペプチドのカルボキシ末端領域をカバーし、したがって、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチドの志賀毒素A1断片ポリペプチドのカルボキシ末端領域内の疎水性領域は小胞体に包埋されたままであり、表面に露出されず、その結果、カバーされているA1断片領域のカルボキシ末端が保持され、例えばERAD機構による認識などの、A1断片由来領域のカルボキシ末端の細胞認識が防止される。
【0171】
特定の実施形態において、分子部分は、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端領域より極性及び疎水性が高いポリペプチドを含み、したがって、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチドの志賀毒素A1断片ポリペプチドのカルボキシ末端領域内の疎水性領域は小胞体に包埋されたままであり、表面に露出されず、その結果、カバーされているA1断片領域のカルボキシ末端が保持され、例えばERAD機構による認識などの、A1断片由来領域のカルボキシ末端の細胞認識が防止される。
【0172】
特定の実施形態において、分子部分は、小胞体膜内の膜に結合している少なくとも1つの標的生体分子に特異的に結合できる結合領域を含む。
【0173】
特定の実施形態において、分子部分は、少なくとも1つの細胞外標的生体分子に特異的に結合できる結合領域を含む。
【0174】
C.本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子
本発明の分子はすべて、破壊されたフューリン切断モチーフ及び/又はフューリン切断
部位を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む。本発明の細胞標的化分子は、細胞標的化結合領域と会合している、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む。これは、細胞標的化分子が、そのフューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドが、志賀毒素A1断片を含む野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドで置換されている同じ細胞標的化分子と比較したとき、よりプロテアーゼ切断耐性が高いことを意味する。
【0175】
プロテアーゼ切断耐性分子は、脊椎動物への投与後、よりプロテアーゼ切断感受性が高いバリアントと比較してインビボ半減期増加を示しうる。さらに、毒性成分(例えば、毒性エフェクター領域)を含むプロテアーゼ切断耐性、細胞標的化分子は、毒性成分を破壊することによって放出する傾向がより大きい、よりプロテアーゼ感受性が高いバリアントと比較して、非特異的毒性低減を示しうる。
【0176】
本発明の細胞標的化分子は、単一のポリペプチド、互いに会合している複数のポリペプチド、分岐ポリペプチド成分、及び/又は1つ若しくは2つ以上の非ペプチド部分を含むことがある。
【0177】
本発明の細胞標的化分子の結合領域は、標的生体分子と特異的に結合できるペプチド又はポリペプチド領域を含む。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子の結合領域は、細胞外標的生体分子に選択的に及び特異的に結合できる1つ又は2つ以上のポリペプチドを含む。結合領域は、1つ又は2つ以上の様々なペプチド性又はポリペプチド部分、例えば、ランダムに生成されたペプチド配列、それらの天然に存在するリガンド又は誘導体、免疫グロブリン由来ドメイン、免疫グロブリンドメインの代替物として合成により改変足場などを含むことがある。
【0178】
リガンド、モノクローナル抗体、改変抗体誘導体、抗体の改変代替物などの、特異的細胞タイプへのポリペプチドの、それらの結合特性による標的化に有用である非常に多くの結合領域が、当技術分野において公知である。
【0179】
1つの特異的な、しかし非限定的な態様によると、本発明の分子の結合領域は、天然に存在するリガンド、又は細胞外標的生体分子、一般に細胞表面受容体、との結合機能性を保持するリガンドの誘導体を含む。例えば、当技術分野において公知の様々なサイトカイン、増殖因子及びホルモンを使用して、コグネートサイトカイン受容体、増殖因子受容体又はホルモン受容体を発現する特異的細胞タイプの細胞表面に細胞標的化分子を標的化することができる。リガンドの特定の非限定的な例としては、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、インターロイキン(例えば、IL-2、IL-6及びIL-23)、及びB細胞活性化因子(BAFF、B-cell activating factor)が挙げられる。
【0180】
特定の他の実施形態によると、結合領域は、細胞外標的生体分子に結合できる合成リガンドを含む(例えば、LiangS et al., J Mol Med 84: 764-73(2006)、Ahmed S et al.,
Anal Chem 82: 7533-41 (2010)、Kaur K et al., Methods MolBiol 1248: 239-47 (2015)を参照されたい)。
【0181】
1つの特異的な、しかし非限定的な態様によると、結合領域は、免疫グロブリン型結合領域を含むことがある。本書において用いる場合の用語「免疫グロブリン型結合領域」は、抗原又はエピトープなどの1つ又は2つ以上の標的生体分子に結合することができるポリペプチド領域を指す。結合領域は、標的と結合するそれらの能力によって定義されることもある。免疫グロブリン型結合領域は、一般に、抗体又は抗体様構造に由来するが、他の源からの代替足場がこの用語の範囲内で考えられる。
【0182】
免疫グロブリン(Ig)タンパク質は、Igドメインとして公知の構造ドメインを有する。Igドメインは、長さが約70~110アミノ酸残基の範囲であり、典型的に7~9本の逆平行ベータ鎖が、サンドイッチ様構造を形成する2つのベータシートになるように並んでいる、特徴的なIgフォールドを有する、Igフォールドは、前記サンドイッチの内面で疎水性アミノ酸相互作用及び前記サンドイッチ内のシステイン残基間の高度に保存されたジスルフィド結合によって安定化される。Igドメインは、可変的なもの(IgV又はIセット)であることもあり、定常的なもの(IgC又はCセット)であることもあり、又は中間のもの(IgI又はIセット)であることもある。一部のIgドメインは、抗体の、それらのエピトープへの結合の特異性にとって重要である、相補性決定領域(CDR,complementarity determining region又はcomplementarydetermining region)と
会合していることがある。Ig様ドメインは、非免疫グロブリンタンパク質においても見つけられ、それに基づいてタンパク質のIgスーパーファミリーのメンバーとして分類される。HUGO遺伝子命名法委員会(HGNC,HUGO Gene NomenclatureCommittee)は、I
g様ドメイン含有ファミリーのメンバーのリストを提供している。
【0183】
本明細書において用いる場合、「重鎖可変(VH)ドメイン」又は「軽鎖可変(VL)ドメイン」は、それぞれ、抗体VH又はVLドメイン(例えばヒトVH又はVLドメイン)はもちろん、対応するネイティブ抗体の少なくとも同等の抗原結合能力を保持するそれらの誘導体(例えば、ネイティブマウスVH又はVLドメインに由来するヒト化VH又はVLドメイン)も指す。VH又はVLドメインは、3つのCDR又はABRが割り込んでいる「フレームワーク」領域からなる。フレームワーク領域は、抗原のエピトープとの特異的結合のためにCDRを整列させるのに役立つ。VH及びVLドメイン両方が、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、次のフレームワーク(FR、framework)及びCD
R領域を含む:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3そしてFR4。ラクダ科動物VHH断片、軟骨魚類のIgNAR、VNAR断片、及びそれらの誘導体には、同じ基礎配置:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3そしてFR4、を含む単一の重鎖可変ドメインがある。
【0184】
免疫グロブリン型結合領域は、アミノ酸配列が、例えば分子工学によって又はライブラリースクリーニングによる選択によって、ネイティブ抗体のアミノ酸配列又は非免疫グロブリンタンパク質のIg様ドメインのアミノ酸配列から変更された、抗体又はその抗原結合断片のポリペプチド配列である。免疫グロブリン型結合領域の産生における組換えDNA技術及びインビトロライブラリースクリーニングの妥当性のため、抗体を再設計して、より小さいサイズ、細胞侵入又は他の治療上の改善などの所望の特性を得ることができる。可能なバリエーションは多く、1つだけのアミノ酸の変化から、例えば可変領域の、完全再設計まで様々でありうる。典型的に、抗原結合特性を改善させるように、可変領域の安定性を改善させるように、又は免疫原性応答の可能性を低下させるように、可変領域に変更を加えることになる。
【0185】
非常に多くの免疫グロブリン型結合領域が、例えば本発明の細胞標的化分子などの、本発明の分子の成分として考えられる。免疫グロブリン結合領域は、一般に、1つ又は2つ以上のCDRを含む。特定の実施形態において、免疫グロブリン型結合領域は、細胞外標的生体分子に結合することができる抗体パラトープなどの、免疫グロブリン結合領域に由来する。特定の他の実施形態において、免疫グロブリン型結合領域は、いずれの免疫グロブリンドメインにも由来しないが、細胞外標的生体分子との高親和性結合をもたらすことによって免疫グロブリン結合領域のように機能する、改変ポリペプチドを含む。この改変ポリペプチドは、本書に記載の免疫グロブリンからの相補性決定領域を含む、又はそのような相補鎖決定領域から本質的になる、ポリペプチド足場を含んでいてもよい。
【0186】
特異的細胞タイプへのポリペプチドの、それらの高親和性結合特性による標的化に有用
である、非常に多くの結合領域が、先行技術にもある。特定の実施形態において、本発明の結合領域は、シングルドメイン抗体(sdAb)ドメイン、ナノボディ、ラクダ化動物に由来する重鎖抗体ドメイン(VHH断片)、二価ナノボディ、軟骨魚類に由来する重鎖抗体ドメイン、免疫グロブリン新規抗原受容体(IgNAR)、VNAR断片、一本鎖可変(scFv)断片、多量体化scFv断片(ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、二重特異性タンデムscFv断片、ジスルフィド安定化抗体可変(Fv)断片、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなるジスルフィド安定化抗体結合(Fab)断片、二価F(ab’)2断片、重鎖及びCH1ドメインからなるFd断片、一本鎖Fv-CH3ミニボディ、二重特異性ミニボディ、二量体CH2ドメイン断片(CH2D)、Fc抗原結合ドメイン(Fcab)、単離された相補性決定領域3(CDR3)断片、拘束フレームワーク領域3,CDR3,フレームワーク領域4(FR3-CDR3-FR4)ポリペプチド、小モジュラー免疫医薬(SMIP)ドメイン、並びにそのパラトープ及び結合機能を保持する前述のものの任意の遺伝子操作された対応物を含む群から選択される(総論については、Weiner L, Cell 148: 1081-4 (2012)、Ahmad Z etal., Clin Dev Immunol 2012: 980250 (2012)を参照)。
【0187】
特定の他の実施形態に従って、結合領域は、免疫グロブリンドメインの改変代替足場であって、標的生体分子の高親和性及び特異的結合などの類似の機能特性を示し、より大きい安定性又は免疫原性の低減などの特性改善の工学的操作を可能にする、代替足場を含む。本発明のタンパク質の特定の実施形態について、結合領域は、改変アルマジロ反復ポリペプチド(ArmRP);改変、第10フィブロネクチンIII型(10Fn3)ドメイン
(モノボディ、AdNectins(商標)、又はAdNexins(商標));改変、テネイシン由来、
テネイシンIII型ドメイン(Centryns(商標));改変、アンキリン反復モチーフ含有ポ
リペプチド(DARPins(商標));改変、低密度リポタンパク質受容体由来、Aドメイン
(LDLR-A)(Avimers(商標));リポカリン(アンチカリン);改変、プロテア
ーゼ阻害剤由来、Kunitzドメイン;改変、プロテインA由来、Zドメイン(Affibodies(商標));改変、ガンマ-B結晶由来足場又は改変、ユビキチン由来足場(アフィリン);Sac7d由来ポリペプチド(Nanoffitins(登録商標)又はアフィチン);改変、F
yn由来、SH2ドメイン(Fynomers(登録商標));並びに抗体模倣物、及びその結合機能性を保持する前述のものの任意の遺伝子操作された対応物を含む群から選択される(Worn A, Pluckthun A, J Mol Biol305:989-1010 (2001)、Xu L et al., Chem Biol 9: 933-42(2002)、Wikman M et al.,Protein EngDes Sel 17:455-62 (2004)、Binz H et
al., Nat Biotechnol 23: 1257-68 (2005)、Holliger P, HudsonP, Nat Biotechnol 23:1126-36 (2005)、Gill D, DamleN, CurrOpin Biotech 17: 653-8 (2006)、Koide A, Koide S, Methods Mol Biol 352: 95-109 (2007)、Byla P et al., JBiol Chem 285: 12096 (2010)、ZollerF et al., Molecules16: 2467-85 (2011)、Alfarano P et al., Protein
Sci 21: 1298-314 (2012)、Madhurantakam C etal., Protein Sci 21: 1015-28 (2012)
、Varadamsetty G et al., J Mol Biol 424: 68-87 (2012))。
【0188】
本発明の特定の実施形態の中で、免疫グロブリン型結合領域は、ナノボディ又はシングルドメイン免疫グロブリン由来領域VHHに由来する。一般に、ナノボディは、ラクダ科動物及び軟骨魚類(軟骨魚綱)において見出されるような天然に存在する単一、単量体性可変ドメイン抗体(sdAb)の断片で構成されている。ナノボディは、これらの天然に存在する抗体から、その単一の単量体性可変ドメインを短縮化して、例えばIgNAR、VHH及びVNAR構築物などの、より小さい、より安定性の高い分子を生じさせることによって、工学的に作製される。それらの小さいサイズのため、ナノボディは、抗体全体に到達できない抗原と結合することができる。
【0189】
上記結合領域のいずれを本発明の細胞標的化分子の成分として使用してもよいが、ただし、その結合領域成分が、細胞外標的生体分子に対して、1リットル当たり10-5~1
0-12モル、好ましくは200ナノモル(nM)未満の解離定数を有することを条件とする。
【0190】
細胞特異的標的化は、本発明の分子を細胞標的化単体、例えばリポソーム、ポリマー、ナノ単体、マイクロスフェア、ナノスフェア、デンドリマー、高分子ミセル、ケイ素又は炭素材料(例えば、ナノチューブ、ナノロッド及びナノホーンなど)、磁性ナノ粒子、マイクロエマルジョン及び他のナノ構造などに結合させることによって果たすことができる(Sinha R et al., Molecular Cancer Therapeutics 5: 1909-17 (2006)、L Brinton et al., Journal of the National Cancer Institute100:1643-8 (2008)、Tanaka T et al., Biomed Micro Devices11:49-63 (2009))。共有結合及び/又はカプセル化によって結合を果たしてもよい。
【0191】
細胞外標的生体分子
本発明の分子の結合領域は、細胞外標的生体分子と特異的に結合することができる、好ましくは、がん細胞、腫瘍細胞、形質細胞、感染細胞、又は細胞内病原体を内部に持つ宿主細胞などの、目的の細胞タイプの表面に物理的に結合している、ポリペプチド領域を含む。
【0192】
用語「標的生体分子」は、結合領域によって結合してタンパク質を生物体内の特定の細胞タイプ又は位置に標的化することができる生体分子、一般にはタンパク質、又はグリコシル化などの翻訳後修飾によって修飾されたタンパク質を指す。細胞外標的生体分子は、未修飾ポリペプチド、生化学的官能基の付加によって修飾されたポリペプチド、及び糖脂質を含む、様々なエピトープを含みうる(例えば、米国特許第5,091,178号明細書、欧州特許第2431743号明細書を参照されたい)。細胞外標的生体分子は、本発明のタンパク質に内因的に内在化される、又は本発明の分子との相互作用によって容易に内在化させられることが望ましい。
【0193】
本発明では、標的生体分子の修飾に関して用語「細胞外」は、その構造の少なくとも一部分が細胞外環境に曝露された生体分子を指す。細胞外標的生体分子は、細胞膜成分、膜貫通タンパク質、細胞膜に係留されている生体分子、細胞表面に結合している生体分子及び分泌された生体分子を含む。
【0194】
本発明に関して、標的生体分子を記述するために使用するときの句「物理的に結合している」は、標的生体分子又はその一部分を細胞の外部と結合させる、共有結合性及び/又は非共有結合性両方の分子間相互作用、例えば、単一の相互作用各々のエネルギーがおおよそ約1~5キロカロリーである、標的生体分子と細胞との複数の非共有結合性相互作用(例えば、静電結合、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水力など)を意味する。全ての不可欠膜タンパク質は、細胞膜と物理的に結合している状態で見出すことができる。例えば、細胞外標的生体分子は、膜貫通領域、脂質アンカー、糖脂質アンカーを含むことがあり、及び/又は前述のもののいずれか1つを含む因子と(例えば、非特異的疎水性相互作用及び/又は脂質結合相互作用によって)非共有結合的に会合していることもある。
【0195】
本発明のタンパク質の結合領域は、例えば、それらの標的生体分子の細胞特異的発現、及び/又は特異的細胞タイプに対するそれらの標的生体分子の物理的局在などの、非常に多くの基準に基づいて設計又は選択されうる。例えば、本発明の特定の細胞標的化分子は、1つの細胞タイプのみによって排他的に発現される細胞方面標的を細胞表面と結合させることができる結合ドメインを含む。このことによって、細胞外標的生体分子を発現しない「バイスタンダー」細胞タイプを超える高い優先性(少なくとも3倍の細胞毒性効果)での特異的細胞タイプの標的化細胞殺滅が可能になる。あるいは、結合領域の標的生体分
子の発現は、該細胞外標的生体分子が、標的にされることにならないほど少ない量で発現される、又は標的にされることにならない少量で細胞タイプと物理的に結合される場合には、1つの細胞タイプに対して非排他的でありうる。このことによって、有意な量の細胞外標的生体分子を発現しない又は有意な量の細胞外標的生体分子と物理的に結合していない「バイスタンダー」細胞タイプを超える高い優先性(少なくとも3倍の細胞毒性効果)での特異的細胞タイプの標的化細胞殺滅も可能になる。本発明の細胞毒性、細胞標的化分子を使用して、細胞の態様な条件、例えば、エクスビボ条件、インビトロ培養される条件、又はインビボ条件下で、標的細胞(多細胞生物体内のそれらの天然位置にある生体内原位置の細胞を含む)を殺滅することができる。
【0196】
本発明のタンパク質の結合領域の細胞外標的生体分子は、がん細胞、免疫細胞、及び細胞内病原体、例えばウイルス、細菌、真菌、プリオン又は原生動物に感染した細胞上にバイオマーカーを不釣り合いなほど多く又は排他的に含みうる。
【0197】
本発明の細胞標的化分子の一般構造は、様々な細胞外標的生体分子の多様な標的化をもたらし、かくして細胞毒性、細胞分裂停止、及び/又は様々な多様な細胞タイプへの外因性物質送達の標的化をもたらすために、様々な多様な結合領域が同じプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドとともに使用されうる点で、モジュラーである。細胞毒性でないプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、細胞、特定の細胞内区画、への外因性物質の送達に、及び/又はサイトゾルへの効率的細胞内経路決定をもたらすのに、なお有用でありうる。本発明の細胞標的化分子は、KDELなどの、カルボキシ末端小胞体保持/回収シグナルモチーフをさらに含むことがあってもよい。
【0198】
D.KDELファミリーのメンバーの小胞体保持/回収シグナルモチーフ
本発明では、句「小胞体保持/回収シグナルモチーフ」、KDEL型シグナルモチーフ(配列番号62)、又はシグナルモチーフは、真核生物細胞内でKDEL受容体(配列番号62として開示される「KDEL」)による小胞体へのタンパク質の細胞内局在を促進するように機能することができるKDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)の任意のメンバーを指す。
【0199】
カルボキシ末端リジン-アスパラギン-グルタメート-ロイシン(KDEL(配列番号62))配列は、真核生物細胞内の可溶性タンパク質のカノニカル小胞体保持及び回収シグナルモチーフであり、KDEL受容体(配列番号62として開示される「KDEL」)によって認識される(Capitani M, Sallese M, FEBS Lett 583: 3863-71 (2009)を参照されたい)。シグナルモチーフのKDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)は、多くのKDEL様モチーフ(配列番号62として開示される「KDEL」)、例えば、HDEL(配列番号64)、RDEL(配列番号66)、WDEL(配列番号67)、YDEL(配列番号68)、HEEL(配列番号70)、KEEL(配列番号71)、REEL(配列番号72)、KFEL(配列番号75)、KIEL(配列番号87)、DKEL(配列番号88)、KKEL(配列番号91)、HNEL(配列番号95)、HTEL(配列番号96)、KTEL(配列番号97)及びHVEL(配列番号98)を含み、これらの全てが、系統発生学上の複数の界にわたって生物の小胞体の内腔の常在物であることが公知であるタンパク質のカルボキシ末端において見出される(Munro S,
Pelham H, Cell 48: 899-907 (1987)、Raykhel I et al.,J Cell Biol 179: 1193-204 (2007))。KDELシグナルモチーフファミリー(配列番号62として開示される「KD
EL」)は、合成構築物を使用して証明された少なくとも46のポリペプチドバリアントを含む(Raykhel, J CellBiol179: 1193-204 (2007))。さらなるKDEL(配列番号62)シグナルモチーフは、ALEDEL(配列番号109)、HAEDEL(配列番号110)、HLEDEL(配列番号111)、KLEDEL(配列番号112)、IRSDEL(配列番号113)、ERSTEL(配列番号114)、及びRPSTEL(配列番
号115)を含む(Alanen H et al., JMol Biol 409: 291-7 (2011))。KDELシグナルモチーフ(配列番号62)を表す一般化コンセンサスモチーフは、[KRHQSA]-[DENQ]-E-L(配列番号116)と記載されている(Hulo N et al.,Nucleic Acids Res 34: D227-30 (2006))。
【0200】
KDELファミリーシグナルモチーフ(配列番号62として開示される「KDEL」)を含有するタンパク質は、Golgi複合体全体にわたって分布しているKDEL受容体(配
列番号62として開示される「KDEL」)によって結合され、小胞体の内腔への放出のために微小管依存性メカニズムによって小胞体に輸送される(Griffiths G et al., J Cell Biol 127: 1557-74 (1994)、Miesenbock G,Rothman J, J Cell Biol 129: 309-19 (1995))。KDEL受容体(配列番号62として開示される「KDEL」)は、Golgi複合体と小胞体間で動的に循環する(Jackson M et al., EMBOJ. 9: 3153-62 (1990)、Schutze M et al., EMBO J. 13: 1696-1705 (1994))。
【0201】
本発明では、KDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)のメンバーは、真核生物細胞内でKDEL受容体(配列番号62として開示される「KDEL」)による小胞体へのタンパク質の細胞内局在を促進するように機能することができる合成シグナルモチーフを含む。言い換えると、KDELファミリー(配列番号62として開示される「KDEL」)の一部のメンバーは、自然界に存在しないことがあり、しかし自然界で観察される必要もなく、当技術分野において公知の方法を用いて構築され、実験により検証されており、又は構築され、実験により検証されうる。例えば、Raykhel I et al.,J Cell Biol 179: 1193-204(2007)を参照されたい。
【0202】
本発明の分子の特定の実施形態の成分として、KDEL型シグナルモチーフは、分子内に、ポリペプチド又はタンパク質成分のカルボキシ末端上に存在するように物理的に位置する、配向される、又は配置される。
【0203】
本発明の細胞標的化分子では、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び細胞標的化結合領域について互いの関係に関しても全タンパク質のN末端及びC末端との関係に関しても特定の順序又は配向は定められていない(例えば
図1を参照されたい)。本発明の細胞標的化分子において、結合領域、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域、及び存在する場合には任意の分子部分は、互いに直接連結されていることもあり、及び/又は当技術分野において周知の1つ若しくは2つ以上のリンカーによって互いに安定的に連結されていることもある。
【0204】
E.本発明の分子の成分を結合する連結
本発明の個々の分子部分及びポリペプチド及び/又はタンパク質成分、例えば、結合領域及び(細胞毒性であることもあり、並びに/又は触媒活性及び/若しくは細胞毒性を改変、低減若しくは除去する1つ若しくは2つ以上の変異を内部に持つこともある)志賀毒素エフェクターポリペプチド領域を当技術分野において周知の及び/又は本書に記載する1つ又は2つ以上のリンカーによって互いに適切に連結させることができる。結合領域の個々のポリペプチド小成分、例えば、CDR、ABR、VHH領域、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、IgNAR領域、及び/又はVNAR領域を、当技術分野において周知の及び/又は本書に記載する1つ又は2つ以上のリンカーによって互いに適切に連結させることができる(例えば、Weisser N, Hall J, Biotechnol Adv27:502-20 (2009)、Chen X et al., Adv Drug Deliv Rev 65: 1357-69 (2013)を参照されたい)。本発明のタンパク質及びポリペプチド成分、例えば、多鎖結合領域は、当技術分野において周知の1つ又は2つ以上のリンカーによって互いに本発明の他のポリペプチド成分及び/又は分子部分と安定的に連結させることができる。本発明のペプチド成分、例えば、KDELファミリー小胞体保持/回収シグナルモチーフ(配列番号62として開示される「KD
EL」)は、当技術分野において周知の1つ又は2つ以上のリンカー、例えばタンパク質性リンカー、によって本発明の別の成分に安定的に連結させることができる。
【0205】
好適なリンカーは、一般に、いずれのリンカーも他の成分も用いずに個々に生産されたポリペプチド成分と非常に類似した三次元構造での、本発明の各ポリペプチド成分のフォールディングを可能にするものである。好適なリンカーは、単一のアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、及び上述のもののいずれかを欠くリンカー、例えば、分岐状であるか環状であるかにかかわらず様々な非タンパク質性炭素鎖などを含む(例えば、Alley S et al., Bioconjug Chem 19:759-65(2008) Ducry L, Stump B, BioconjugChem 21: 5-13 (2010)、Chen X et al., Adv Drug Deliv Rev 65: 1357-69 (2013))。
【0206】
好適なリンカーは、タンパク質性であることがあり、1つ又は2つ以上のアミノ酸、ペプチド及び/又はポリペプチドを含むことがある。タンパク質性リンカーは、組換え融合タンパク質及び化学的に連結されたコンジュゲートの両方に好適である。タンパク質性リンカーは、例えば約5~約30、又は約6~約25アミノ酸残基などの、約2~約50アミノ酸残基を概して有する。選択されるリンカーの長さは、例えば、所望の特性、又はリンカーを選択している特性などの、様々な因子に依存することとなる(例えば、Chen X et al., Adv Drug Deliv Rev65:1357-69 (2013)を参照されたい)。
【0207】
好適なリンカーは、例えば化学的リンカーなどの、非タンパク質性のものであることもある(例えば、Dosio F et al., Toxins 3:848-83(2011)、Feld J et al., Oncotarget4: 397-412 (2013)を参照されたい)。当技術分野において公知の様々な非タンパク質性リンカー、例えば、免疫グロブリンポリペプチドを異種ポリペプチドに結合させるために一般に使用されるリンカーを使用して、志賀毒素エフェクターポリペプチドを20キロダルトンより大きい分子部分に連結させてもよい。例えば、本発明の分子のポリペプチド成分を、それらのアミノ酸残基及び炭水化物部分の官能性側鎖、例えば、カルボキシ、アミン、スルフヒドリル、カルボン酸、カルボニル、ヒドロキシル及び/又は環式環基などを使用して連結させてもよい。例えば、ジスルフィド結合及びチオエーテル結合を用いて、2つ又は3つ以上のポリペプチドを連結させてもよい(例えば、Fitzgerald D et al., Bioconjugate Chem 1: 264-8 (1990)、Pasqualucci L etal., Haematologica 80: 546-56 (1995)を参照されたい)。加えて、非天然アミノ酸残基を他の官能性側鎖、例えばケトン基と併用してもよい(例えば、Axup J et al.,Proc Natl Acad Sci USA 109:16101-6 (2012)、Sun S et al., Chembiochem Jul 18 (2014)、Tian F etal., Proc Natl Acad Sci USA 111:1766-71 (2014)を参照されたい)。非タンパク質性化学的リンカーの例は、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)-アミノベンゾエート、S-(N-スクシンイミジル)チオアセテート(SATA,S-(N-succinimidyl)thioacetate)、N-スクシンイミジル-オキシカルボニル-cu-メチル-a-(2-ピリジルジチオ)トルエン(SMPT,N-succinimidyl-oxycarbonyl-cu-methyl-a-(2-pyridyldithio)toluene)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタノアート(SPP,N-succinimidyl 4-(2-pyridyldithio)-pentanoate)、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC又はMCC,succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohexanecarboxylate)、スルホスクシンイミジル(4-ヨードアセチル)-アミノベンゾエート、4-スクシンイミジル-オキシカルボニル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-(α-メチル-α-(ピリジルジチオール)-トルアミド)ヘキサノエート、N-スクシンイミジル-3-(-2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP,N-succinimidyl-3-(-2-pyridyldithio)-proprionate)、スクシンイミジル6(3(-(-2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6(3(-(-2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド)ヘキサノエート、マレイミドカプロイル(MC,maleimidocaproyl)、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-P-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB,maleimidocaproyl-valine-citrulline-p-aminobenzyloxycarbonyl)、3-マレイ
ミド安息香酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS,3-maleimidobenzoic acid N-hydroxysuccinimideester)、アルファ-アルキル誘導体、スルホNHS-ATMBA(スルホスクシンイミジルN-[3-(アセチルチオ)-3-メチルブチリル-ベータ-アラニン])、スルホジクロロフェノール、2-イミノチオラン、3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオニルヒドラジド、エルマン試薬、ジクロロトリアジン酸、及びS-(2-チオピリジル)-L-システインを含むが、これらに限定されない(例えば、ThorpeP et al., Eur J Biochem147:197-206 (1985)、Thorpe P et al., Cancer Re
s 47: 5924-31 (1987)、Thorpe P et al., Cancer Res48:6396-403 (1988)、Grossbard M et al., Blood 79: 576-85 (1992)、Lui C etal., Proc Natl Acad Sci USA 93:8618-23 (1996)、Doronina S et al.,Nat Biotechnol21: 778-84 (2003)、Feld J et al., Oncotarget4: 397-412(2013)を参照されたい)。
【0208】
タンパク質性であるか非タンパク性であるかにかかわらず、好適なリンカーは、例えば、プロテアーゼ感受性、環境酸化還元電位感受性、pH感受性、酸切断性、光切断性及び/又は熱感受性リンカーを含みうる(例えば、Dosio F et al.,Toxins 3: 848-83 (2011)、Chen Xet al., Adv Drug Deliv Rev 65: 1357-69 (2013)、Feld Jet al., Oncotarget
4: 397-412 (2013)を参照されたい)。
【0209】
タンパク質性リンカーを本発明の組換え融合タンパク質への組み込みに選択してもよい。例えば、本発明の成分ポリペプチド又はそれらの小成分を、1つ又は2つ以上のアミノ酸、ペプチド及び/又はポリペプチドを含む1つ又は2つ以上のリンカーによって連結させてもよい。本発明の組換え融合タンパク質のためのリンカーは、約2~50アミノ酸残基、好ましくは約5~30アミノ酸残基を概して含む(Argos P, J Mol Biol 211: 943-58 (1990)、WilliamsonM, BiochemJ 297: 240-60 (1994)、George R, HeringaJ, Protein Eng 15: 871-9 (2002)、Kreitman R, AAPS J8: E532-51 (2006))。一般に、タンパ
ク質性リンカーは、例えばトレオニン、プロリン、グルタミン、グリシン及びアラニンなどの、極性、非荷電及び/又は荷電残基を有するアミノ酸残基の大部分を含む(例えば、Huston J et al.Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988)、Pastan I et al., AnnuRevMed 58: 221-37 (2007)、Li J et al., Cell Immunol118:85-99 (1989)、Cumber A et al.BioconjChem3: 397-401 (1992)、Friedman P et al., Cancer Res53:334-9 (1993)、Whitlow M et al., Protein Engineering6:989-95 (1993)、Siegall C et al., J Immunol 152: 2377-84 (1994)、Newtonet al.Biochemistry35: 545-53 (1996)、Ladurner et al.J Mol Biol 273: 330-7 (1997)、Kreitman R et al.,Leuk Lymphoma 52: 82-6 (2011)、米国特許第4,894,443号明細書を参照されたい)。タンパク質性リンカーの非限定的な例は、アラニン-セリン-グリシン-グリシン-プロリン-グルタメート(ASGGPE)(配列番号117)、バリン-メチオニン(VM)、アラニン-メチオニン(AM)、AM(G2-4S)xAM(配列番号118)(この場合、Gはグリシンであり、Sはセリンであり、xは1~10の整数である)を含む。
【0210】
タンパク質性リンカーを所望の特性に基づいて選択することができる。当業者は、特異的特徴を念頭に置いて、例えば、融合分子のフォールディング、安定性、発現、可溶性、薬物動態特性、薬力学的特性、及び/又は融合構築物に関連して同じドメイン単独での活性と比較した融合ドメインの活性のうちの1つ又は2つ以上を最適化するように、タンパク質性を選択することができる。例えば、タンパク質性リンカーは、可動性、剛性及び/又は切断性に基づいて選択されることもある(例えば、Chen X et al., Adv Drug Deliv Rev 65:1357-69 (2013)を参照されたい)。当業者は、リンカーを選択する際にデータベ
ース及びリンカー設計ソフトウェアツールを利用することができる。特定のリンカーが、発現を最適化するために選択されることもある(例えば、Turner D et al., J Immunl Methods205:43-54 (1997)を参照されたい)。ホモ多量体を形成するために同一のポリペ
プチド若しくはタンパク質間の又はヘテロ多量体を形成するために異なるポリペプチド若しくはタンパク質間の分子間相互負作用を促進するために、特定のリンカーが選択されることもある。例えば、本発明の分子のポリペプチド成分間の所望の非共有結合性相互作用、例えば、二量体及び他のより高次の多量体の形成に関連した相互作用などを可能にする、タンパク質性リンカーを選択されることもある(例えば、米国特許第4,946,778号明細書を参照されたい)。
【0211】
可動性タンパク質性リンカーは、多くの場合、12アミノ酸残基長より長く、小さい非極性アミノ酸残基、極性アミノ酸残基及び/又は親水性アミノ酸残基、例えばグリシン、セリン及びトレオニンなどに富んでいる(例えば、Bird R et al., Science 242: 423-6 (1988)、FriedmanP et al., Cancer Res 53:334-9 (1993)、Siegall C et al., J Immunol 152:2377-84 (1994)を参照されたい)。可動性タンパク質性リンカーは、成分間の空
間的離隔を増すように選択されることもあり、及び/又は成分間の分子間相互作用を可能にするように選択されることもある。例えば、様々な「GS」リンカーが当業者に公知であり、複数のグリシン及び/又は1つ若しくは2つ以上のセリンで構成され、例えば(GxS)n(配列番号119)、(SxG)n(配列番号120)、(GGGGS)n(配列番号121)及び(G)n(配列番号122)(この場合、xは1~6であり、nは1~30である)などの反復単位で構成されることもある(例えば、国際公開第96/06641号パンフレットを参照されたい)。可動性タンパク質性リンカーの非限定的な例は、GKSSGSGSESKS(配列番号123)、GSTSGSGKSSEGKG(配列番号124)、GSTSGSGKSSEGSGSTKG(配列番号125)、GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号126)、EGKSSGSGSESKEF(配列番号127)、SRSSG(配列番号128)、及びSGSSC(配列番号129)を含む。
【0212】
剛性タンパク質性リンカーは、多くの場合、堅いアルファヘリックス構造であり、プロリン残基及び/又は1つ若しくは2つ以上の戦略的に配置されたプロリンに富んでいる(例えば、Chen X et al., Adv Drug Deliv Rev 65:1357-69(2013)を参照されたい)。剛
性リンカーは、成分間の分子間相互作用を防止するために選択されることがある。
【0213】
好適なリンカーは、成分のインビボ分離、例えば、切断及び/又は環境特異的不安定性に起因する成分のインビボ分離などを可能にするように、選択されうる(例えば、Dosio F et al.,Toxins 3: 848-83 (2011)、Chen Xet al., Adv Drug Deliv Rev 65: 1357-69 (2013)を参照されたい)。インビボ切断性タンパク質性リンカーは、タンパク質プロセッシングによって結合解除することができる、及び/又は環境を、多くの場合、生物体内の若しくは特定の細胞タイプの内部の特異的部位の環境を、削減することができる(例えば、Doronina S et al.,Bioconjug Chem 17: 144-24 (2006)、EricksonH et al., Cancer Res 66: 4426-33 (2006)を参照されたい)。インビボ切断性タンパク質性リンカーは、1つ又は2つ以上のシステイン対によって形成されるプロテアーゼ感受性モチーフ及び/又はジスルフィド結合を含むことが多い(例えば、Pietersz G et al.,Cancer Res 48: 4469-76 (1998)、TheJ et al., J ImmunolMethods 110: 101-9 (1998)を参照されたい;Chen X et al., AdvDrug DelivRev 65: 1357-69 (2013)を参照されたい)。インビボ切断性タンパク質性リンカーは、生物体内の特定の位置、若しくは細胞内の区画、のみに存在する及び/又は特定の生理若しくは病的条件下でのみ活性になるプロテアーゼ(例えば、異常に高レベルのプロテアーゼ、特定の疾患部位で過剰発現されるプロテアーゼ、及び病原性微生物によって特異的に発現されるプロテアーゼなど)に対して感受性であるように設計することができる。例えば、細胞内のみに存在するプロテアーゼ、特異的細胞タイプ内にのみ存在するプロテアーゼ、及びがん若しくは炎症のような病的条件下でのみ存在するプロテアーゼ、例えば、R-x-x-Rモチーフ及びAMGRSGGGCAGNRVGSSLSCGGLNLQAM(配列番号116)などによって切断されるタンパク質性リン
カーは、当技術分野において公知である。
【0214】
本発明の分子の特定の実施形態では、標的細胞内に存在するプロテアーゼによる切断をもたらすために1つ又は2つ以上のプロテアーゼ感受性部位を含むリンカーを使用することがある。本発明の分子の特定の実施形態では、脊椎動物生物への投与後の望ましくない毒性を低減させるために切断性でないリンカーを使用することもある(例えば、Polson et al., Cancer Res 69: 2358- (2009)を参照されたい)。
【0215】
好適なリンカーは、タンパク質性であるか非タンパク性であるかにかかわらず、例えば、プロテアーゼ感受性、環境酸化還元電位感受性、pH感受性、酸切断性、光切断性及び/又は熱感受性リンカーを含みうる(例えば、Chen X et al., Adv Drug Deliv Rev65:1357-69 (2013)を参照されたい)。
【0216】
好適な切断性リンカーは、例えば、Zarling D et al., J Immunol 124: 913-20 (1980)、JungS, MoroiM, Biochem Biophys Acta761: 152-62 (1983)、Bouizar Z et al., EurJ Biochem 155: 141-7 (1986)、ParkL etal., J Biol Chem 261: 205-10 (1986)、Browning J, Ribolini A, J Immunol 143:1859-67 (1989)、Joshi S, Burrows R, J Biol Chem 265:14518-25 (1990)により示されるリンカーなどの、当技術分野において公知である切断性基を含むリンカーを含みうる。
【0217】
好適なリンカーは、pH感受性リンカーを含みうる。例えば、特定の好適なリンカーは、標的細胞の細胞内区画内部での解離をもたらすためにより低いpH環境でのそれらの不安定性について選択されることがある。例えば、1つ又は2つ以上のトリチル基、誘導体化トリチル基、ビスマレイミドエトキシプロパン基、アジピン酸ジヒドラジド基及び/又は酸不安定性基を含むリンカーは、特異的pH範囲を有する環境で本発明の成分、例えばポリペプチド成分、の放出をもたらすことができる(例えば、Welhoner H et al.,J Biol
Chem 266: 4309-14 (1991)、 FattomAet al., Infect Immun 60: 584-9 (1992)を参
照されたい)。例えば腫瘍組織のpHが健常組織の場合より低いなどの、組織間の生理的pH差に対応するpH範囲で切断する特定のリンカーを選択してもよい(例えば、米国特許第5,612,474号明細書を参照されたい)。
【0218】
光切断性リンカーは、可視領域の光などの、特定の波長領域の電磁放射線への曝露に基づいて切断されるリンカーである。(例えば、Goldmacher V etal., Bioconj Chem 3: 104-7(1992)を参照されたい)。光切断性リンカーを使用して、本発明の分子の成分、例
えばポリペプチド成分、を特定の波長の光への曝露に基づいて放出させることができる。光切断性リンカーの非限定的な例は、システインの光切断性保護基のようなニトロベンジル基、ニトロベンジルオキシカルボニルクロリド架橋剤、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド共重合体、グリシン共重合体、フルオレセイン共重合体及びメチルローダミン共重合体を含む(Hazum E et al., Pept Proc Eur PeptSymp, 16th, Brunfeldt K,ed.,105-110 (1981)、Senter et al., Photochem Photobiol42: 231-7(1985)、Yen et al., MakromolChem190: 69-82 (1989)、Goldmacher V et al., Bioconj Chem 3: 104-7 (1992))
。光切断性リンカーは、ファイバーオプティクスを使用して光に曝露することができる疾患、障害及び状態を治療するために設計された本発明の分子を形成するための連結成分に、特に使用されうる。
【0219】
本発明の分子の特定の実施形態において、細胞標的化分子、例えば、結合領域は、共有結合性連結及び非共有結合性連結の両方を含む当業者に公知の手段を任意の数用いて、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域に連結される(例えば、Chen X et al., Adv Drug Deliv Rev65:1357-69 (2013)、Behrens C, Liu B, MAbs6: 46-53 (2014)を参照されたい)。
【0220】
本発明の分子の特定の実施形態において、分子は、重鎖可変(VH)ドメインと軽鎖可変(VL)ドメインを接続するリンカーを有するscFvである細胞標的化結合領域を含む。例えば15残基(Gly4Ser)3ペプチド(配列番号130)などの、この目的に好適な非常に多くのリンカーが当技術分野において公知である。非共有結合性多価構造の形成に使用することができる好適なscFvリンカーは、GGS、GGGS(Gly3Ser又はG3S)(配列番号131)、GGGGS(Gly4Ser又はG4S)(配列番号132)、GGGGSGGG(配列番号133)、GGSGGGG(配列番号134)、GSTSGGGSGGGSGGGGSS(配列番号135)及びGSTSGSGKPGSSEGSTKG(配列番号136)を含む(Pluckthun A, PackP, Immunotechnology 3: 83-105(1997)、Atwell J et al., Protein Eng 12: 597-604(1999)、Wu A et al., Protein Eng14: 1025-33(2001)、Yazaki P et al., J Immunol Methods253: 195-208(2001)、Carmichael J et al., J Mol Biol326: 341-51(2003)、Arndt M et al., FEBS Lett 578:257-61 (2004)、Bie C et al.,World J Hepatol 2: 185-91 (2010))。
【0221】
本発明の分子の成分の連結は、そのような連結を果たすために当技術分野において現在公知のいずれの方法によるものであってもよいが、ただし、本書に記載するようなアッセイを含む適切なアッセイによって測定して、その結合が、分子の細胞内在化、及び/又は志賀毒素エフェクターポリペプチド領域の所望の毒素エフェクター機能を妨げないことを条件とする。
【0222】
本発明の細胞標的化分子では、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域及び結合領域について、特に相反する指示がない限り、互いの関係に関しても全分子との関係に関しても特定の順序又は配向は定められていない(例えば
図1を参照されたい)。本発明の細胞標的化分子の成分をいずれの順序で配置してもよいが、ただし、結合領域及び志賀毒素エフェクターポリペプチドの所望の活性が除去されないことを条件とする。所望の活性は、分子に、例えば、標的発現細胞に結合する能力、細胞内在化を誘導する能力、細胞分裂停止を生じさせる能力、細胞毒性を生じさせる能力、及び/又は外因性物質を細胞内部に送達する能力を持たせることを含む。
【0223】
本発明の分子の上記実施形態のいくつかにおいて、志賀毒素エフェクターポリペプチド、分子部分、及び任意選択の、小胞体保持/回収シグナルモチーフは、互いに直接連結されていることもあり、並びに/又は1つ若しくは2つ以上の介在ポリペプチド配列によって、例えば、当技術分野において周知の及び/若しくは本明細書に記載する1つ若しくは2つ以上のリンカーによって好適に互いに連結されていることもある。本発明の細胞標的化分子の上記実施形態において、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域、結合領域、及び特定の実施形態に存在する他の成分(例えば、分子部分及び/又は小胞体保持/回収シグナル)は、互いに直接連結されることもあり、並びに/又は1つ若しくは2つ以上の介在ポリペプチド配列によって、例えば、当技術分野において周知の及び/若しくは本明細書に記載する1つ若しくは2つ以上のリンカーで、好適に互いに連結されていることもある。
【0224】
II.本発明の分子の成分の特異的構造変化の例
特定の実施形態において、本発明の分子の志賀毒素エフェクターポリペプチド領域は、短縮型志賀毒素Aサブユニットを含む又は短縮型志賀毒素Aサブユニットから本質的になることがある。志賀様毒素Aサブユニット短縮形は、触媒活性であり、インビトロでリボソームを酵素的に不活性化でき、細胞内で発現されたとき細胞毒性である(LaPointe, J Biol Chem 280: 23310-18 (2005)、DiR et al.,Toxicon 57: 525-39 (2011))。Slt
-1Aの残基1~240で構成されているカルボキシ末端短縮型志賀毒素Aサブユニット断片は、真核細胞のサイトゾルへのカルボキシ末端短縮型志賀毒素Aサブユニット構築物
の有効な逆行輸送には240位のロイシン残基が必要であるので、真核細胞の小胞体において発現されたとき完全細胞毒性を示すことが証明された(LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005))。同様に、Stx2Aの残基1~239で構成されている
カルボキシ末端短縮型志賀毒素Aサブユニット断片は、真核細胞の小胞体において発現されたとき完全細胞毒性を示すことが証明された(Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))。
【0225】
特定の実施形態の中で、本発明の分子の志賀毒素エフェクターポリペプチド領域は、SLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸75~240を含む、又はSLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸75~240から本質的になる、或いはSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸75~239を含む、又はSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸75~239から本質的になる。さらなる実施形態は、SLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~240を含む又はSLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~240から本質的になる或いはSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~239を含む又はSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~239から本質的になる志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む分子である。さらなる実施形態は、SLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~240を含む若しくはSLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~240から本質的になる志賀毒素エフェクターポリペプチドはもちろん、250位のカルボキシ末端側ではなく240位のカルボキシ末端側の1つ若しくは2つ以上のアミノ酸も含む分子であり、同様に、さらなる実施形態は、SLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~239を含む又はSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~239から本質的になる志賀毒素エフェクターポリペプチドはもちろん、249位のカルボキシ末端側ではなく239位のカルボキシ末端側の1つ又は2つ以上のアミノ酸も含む分子である。
【0226】
特定の実施形態の中で、本発明の分子の志賀毒素エフェクターポリペプチド領域は、志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端のフューリン切断モチーフ内の少なくとも1つのアミノ酸残基が破壊されている、SLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~251を含む、又はSLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~251から本質的になる、或いはSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~250を含む、若しくはSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~250から本質的になる。さらなる実施形態は、志賀毒素A1断片由来領域のカルボキシ末端のフューリン切断モチーフ内の少なくとも1つのアミノ酸残基が破壊されている、SLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~261を含む又はSLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)のアミノ酸1~261から本質的になる或いはSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~260を含む又はSLT-2A(配列番号3)のアミノ酸1~260から本質的になるプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクター領域を含む分子である。
【0227】
本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態の中で、細胞標的化分子は、抗原の発現ががん細胞に限定される、がん細胞の細胞表面の表面抗原との特異的及び高親和性結合のために選択される免疫グロブリン型ポリペプチドに由来する結合領域を含む(Glokler J et al.,Molecules 15: 2478-90 (2010)、LiuY et al., Lab Chip 9:1033-6 (2009)を参照
されたい)。他の実施形態に従って、結合領域は、抗原が非がん細胞と比較してがん細胞によって過発現される又は優先的に発現されるがん細胞の細胞表面の表面抗原との特異的及び高親和性結合のために選択される。いくつかの代表的標的生体分子は、がん及び/又は特異的免疫細胞タイプと会合する以下の列挙する標的を含むが、これらに限定されない。
【0228】
がん細胞と会合しているエピトープを認識する多くの免疫グロブリン型結合領域、例えば、CD4、CD20(Bリンパ球抗原タンパク質CD20)、CD22、CD25(インターロイキン-2受容体IL2R)、CD30(TNFRSF8)、CD38(サイクリックADPリボースヒドロラーゼ)、CD40、CD44(ヒアルロナン受容体)、CD71(トランスフェリン受容体)、CD73、CD79、エンドグリン(END又はCD105)、CD200、基底細胞接着分子(B-CAM,basal cell adhesion molecule、又はCD239)、CD248(エンドシアリン又はTEM1)、癌胎児抗原(CEA,carcinoembryonic antigen)タンパク質、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(CSP4,chondroitin sulfate proteoglycan 4、MCSP、又はNG2)、上皮増殖因子受容体(EGFR,epidermal growth factor receptor/ErbB1)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2/Neu/ErbB2/CD340)、エフリンB型受容体2(EphB2,Ephrin type-B receptor 2)、上皮細胞接着分子(EpCAM,epithelialcell adhesion molecule)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP,fibroblastactivation protein/セプラーゼ)、プロテアーゼ活性化受容体(例えば、PAR1)、ポリオウイルス受容体様4(PVRL4,polio virus receptor-like 4)、B3黒色腫抗原、
B4黒色腫抗原、前立腺特異的膜抗原(PSMA,prostate-specific membraneantigen
)タンパク質、及び腫瘍関連カルシウムシグナル伝達因子(TACSTD,tumor-associatedcalcium signal transducer)を標的にする結合領域が、先行技術に存在する(例え
ば、LuiB et al., Cancer Res 64: 704-10 (2004)、BagleyR et al.,Int J Oncol 34:
619-27 (2009)、Beck A et al., Nat Rev Immunol 10:345-52(2010)、Andersen J et al., J Biol Chem 287:22927-37(2012)、Nolan-StevauxO etal., PLoS One 7: e50920(2012)、Rust S et al., Mol Cancer 12: 11 (2013)を参照されたい)。標的生体分子
のこのリストは、非限定的であることを意図したものである。志賀毒素エフェクター領域と結合させて本発明の分子を産生するための結合領域を設計又は選択するために、がん細胞又は他の所望の細胞タイプに関連したいずれの所望の標的生体分子を使用してもよいことは、当業者には理解されるであろう。
【0229】
がん細胞と強く会合し、それらに結合することが公知の免疫グロブリン型結合領域を有する他の標的生体分子の例としては、CD19(Bリンパ球抗原タンパク質CD19)、CD21(補体受容体-2又は補体3d受容体)、CS1(SLAMファミリーメンバー7又はSLAMF7)、CD26(ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4,dipeptidyl peptidase-4)又はアデノシンデアミナーゼ複合体形成タンパク質2)、CD33(シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン-3)、CD52(CAMPATH-1抗原)、CD56、CD133(プロミニン-1)、基底細胞接着分子(BCAM又はLutheran式血液型糖タンパク質)、膀胱腫瘍抗原(BTA,bladder tumorantigen)、がん-精巣抗原NY-ESO-1、がん-精巣抗原LAGEタンパク質、細胞表面A33抗原タンパク質(gpA33)、肝細胞増殖因子受容体(HGFR,hepatocyte growth factor receptor、又はc-Met)、エプスタイン・バーウイルス抗原タンパク質、黒色腫関連抗原1
タンパク質(MAGE-1)、黒色腫関連抗原3(MAGE-3)、GAGE/PAGEタンパク質(黒色腫関連がん/精巣抗原)、BAGEタンパク質(B黒色腫抗原)、ムチン(例えば、MUC1及びがん抗原125(CA-125,cancer antigen 125))、優先的に発現される黒色腫抗原(PRAME)タンパク質、T細胞によって認識される黒色腫抗原1(MART-1,melanoma antigen recognized by T-cell 1/MelanA)
タンパク質、前立腺特異的抗原(PSA,prostate specific antigen)タンパク質、前
立腺幹細胞抗原(PSCA,prostate stem cell antigen)タンパク質、終末糖化産物受容体(RAGE,Receptor for Advanced Glycation Endroduct)、腫瘍関連糖タンパク
質72(TAG-72,tumor-associated glycoprotein 72)、及びウィルムス腫瘍抗原が挙げられる。
【0230】
がん細胞と強く会合する他の標的生体分子の例は、炭酸脱水酵素IX(CA9/CAIX
,carbonic anhydrase IX)、葉酸結合タンパク質(FBP,folatebindingprotein、
及び葉酸受容体)、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR,vascular endothelial growth factor receptor)、インテグリンアルファ-Vベータ-3(αvβ3)、インテグリンアルファ-V
ベータ-5(αvβ5)、インテグリンアルファ-5ベータ-1(α5β1)、受容体型チロシンプロテインキナーゼerB-3、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R,insulin-like growth factor 1 receptor)、エフリンA型受容体3(EphA3,ephrin type-A receptor 3)、腫瘍壊死因子受容体10A(TRAIL-R1/DR4)、腫
瘍壊死因子受容体10B(TRAIL-R2)、核因子カッパB活性化受容体(RANK)、テネイシンC、クローディンタンパク質(CLDN3、CLDN4)、メソセリン(MSLN)、及びCD64(FcγRI)である(Hough C et al., Cancer Res 60: 6281-7 (2000)、Thepen T et al.,Nat Biotechnol 18: 48-51(2000)、Pastan I et al.,Nat
Rev Cancer 6: 559-65 (2006)、Pastan, Annu Rev Med 58: 221-37 (2007)、Fitzgerald
D et al., Cancer Res 71: 6300-9 (2011)、Scott A et al.,Cancer Immun 12: 14-22(2012)を参照されたい)。標的生体分子のこのリストは、非限定的であることを意図した
ものである。
【0231】
加えて、メラニン細胞タンパク質PMEL(gp100)、ヒトチロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1又はTRP1)、チロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2)、リゾホスファチジルグリセロールアシルトランスフェラーゼ1(LPGAT1,lysophosphatidlglycerolacyltransferase 1/IAA0205)、SARTタン
パク質、ADP-リボシルトランスフェラーゼ(ART1、ART4)、ヒトアスパルチル(アスパラギニル)ベータ-ヒドロキシラーゼ(HAAH)、エフリンA型受容体(EphA2)、受容体型チロシンプロテインキナーゼerbB-3、チロシナーゼ関連抗原(TAA,tyrosinase associated antigen)、破断点クラスター領域-c-ablがん
遺伝子(BCR-ABL)タンパク質、ADAMメタロプロテイナーゼ(例えばADAM-9、ADAM-10、ADAM-12、ADAM-15、ADAM-17)、アルファ-フェトプロテイン抗原17-A1タンパク質、骨髄間質抗原(BST1、BST2)、CD2、CD3(T細胞共受容体)、CD7、CD15、CD23(FCイプシロンRII)、CD53、CD88(補体成分5a受容体1)、CD129(インターロイキン9受容体)、CD183(ケモカイン受容体CXCR3)、CD191(CCR1)、CD193(CCR3)、CD244(ナチュラルキラー細胞受容体2B4)、CD294(GPR44)、CD305(白血球関連免疫グロブリン様受容体1)、補体成分3a受容体(C3aR,complement component 3a receptor)、FceRIa、ガレクチン-9、骨髄関連タンパク質-14(mrp-14,myeloid-related protein-14)、Siglec(シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン)、CD49d、CD13、CD54(細胞間接着分子1)、CD63(テトラスパニン)、CD69、CD123(インターロイキン-3受容体)、CD284(Toll様受容体4)、FceRIa、リソソーム膜タンパク質(LAMP,lysosome-associated membrane protein、例えばCD107)、CD203c、CD14、CD15(Lewis X又はステージ特異的胎児抗原1)、スカベンジャー受容体(例えばCD64及びCD68)、CD80、CD86、CD115(コロニー刺激因子1受容体)、F4/80、免疫グロブリン様転写物ILT-3、インテグリン(例えば、CD11a-c)、CD195(ケモカイン受容体CCR5)、CD282(toll様受容体2)、シンデカン(例えばSDC1又はCD138)、及びCD225(インターフェロン誘導膜貫通タンパク質1)などの、考えられる標的生体分子の他の例が非常に多くある(標的生体分子についてはScott A et al., Cancer Immun 12: 14 (2012)、Cheever M et al., Clin Cancer Res 15: 5323-37 (2009)を参照されたく、それらに記載されている標的分子が非限定的な例であることに留意されたい)。プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクター領域と結合させて本発明の分子を産生するための結合領域を設計又は選択するために、いずれの所望の標的生体分子を使用してもよいことは、当業者に
は理解されるであろう。
【0232】
特定の実施形態において、結合領域は、免疫系の細胞タイプの細胞表面との特異的及び高親和性結合のために選択される免疫グロブリン型ポリペプチドを含む、又はそのような免疫グロブリン型ポリペプチドから本質的になる。例えば、CD1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD9、CD10、CD11、CD12、CD13、CD14、CD15、CD16、CD17、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD26、CD27、CD28、CD29、CD30、CD31、CD33、CD34、CD35、CD36、CD37、CD38、CD40、CD41、CD56、CD61、CD62、CD66、CD95、CD117、CD123、CD235、CD146、CD326、インターロイキン-2受容体(IL-2R)、核因子カッパB活性化受容体(RANKL)、SLAM結合タンパク質(SAP)及びTNFSF18(腫瘍壊死因子リガンド18又はGITRL)と結合する免疫グロブリン型結合ドメインは公知である。
【0233】
特定の実施形態について、細胞標的化分子は、配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドを含む、又は、配列番号50~61のいずれか1つで示されるポリペプチドから本質的になる。これらのプロテアーゼ切断耐性、CD20結合、細胞毒性、細胞標的化分子実施形態を用いて、骨がん、白血病、リンパ腫、黒色腫、骨髄腫、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、喘息、クローン病、糖尿病、移植片拒絶、移植片対宿主病、橋本甲状腺炎、溶血性尿毒症症候群、HIV関連疾患、エリテマトーデス、多発性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発動脈炎、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ様関節炎、強皮症、敗血症性ショック、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎及び/又は血管炎を処置及び/又は診断することができる。
【0234】
特定の実施形態において、結合領域は、細胞外受容体の標的化のために選択されるリガンドを含む、又はそのようなリガンドから本質的になる。一部の代表的リガンドとしては、下記の骨形成タンパク質及びアクチビン膜結合阻害剤BAMBI(TGFBRとしても公知)、CD137L(4-1BBとしても公知)、デコイ受容体3(DcR3,decoy receptor 3)(TR6及びTNFRSF6Bとしても公知)、MHCクラスIポリペプチド関連配列(例えば、MICA、MICB)、NKG2Dリガンド(例えば、ULBP1、ULBP2、ULBP3及びULBP4-6)、及び腫瘍壊死因子TWEAK(TNFSF12及びAPO3Lとしても公知)が挙げられるが、これらに限定されない。より多くの非限定的例示的リガンドについては、実施例の表5を参照されたい。
【0235】
本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態の中で、結合領域は、米国特許出願公開第2011/0059090号明細書に記載されているような、ラクダ科動物抗体(VHH)タンパク質5F7のシングルドメイン可変領域に由来するものなどの、HER2に対して特異的に高親和性結合を示すシングルドメイン免疫グロブリン由来領域VHHである。
【0236】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、配列番号50のアミノ酸270~513、配列番号51の261~512、配列番号52の270~514、若しくは配列番号53の279~522を含む、又は配列番号50のアミノ酸270~513、配列番号51の261~512、配列番号52の270~514、若しくは配列番号53の279~522から本質的になる、免疫グロブリン型結合領域を含み、これらのすべてがヒトCD20に対して特異的に高親和性結合を示す。
【0237】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、配列番号54のアミノ酸267~384、配列番号58の269~512、若しくは配列番号61の269~403を含む、又は配列番号54のアミノ酸267~384、配列番号58の269~512、若し
くは配列番号61の269~403から本質的になる、免疫グロブリン型結合領域を含み、これらのすべてがヒトHER2に対して特異的に高親和性結合を示す。
【0238】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、ヒト、インターロイキン-2受容体(IL-2受容体)に対して特異的に高親和性結合を示す、配列番号56のアミノ酸269~401を含む又は配列番号56のアミノ酸269~401から本質的になるポリペプチドリガンドを含む。
【0239】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、ヒトCD38に対して特異的に高親和性結合を示す、配列番号57のアミノ酸269~508を含む又は配列番号57のアミノ酸269~508から本質的になる免疫グロブリン型結合領域を含む。
【0240】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、ヒトCD19に対して特異的に高親和性結合を示す、配列番号59のアミノ酸269~516を含む又は配列番号59のアミノ酸269~516から本質的になる免疫グロブリン型結合領域を含む。
【0241】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、ヒトCD74に対して特異的に高親和性結合を示す、配列番号60のアミノ酸269~518を含む又は配列番号60のアミノ酸269~518から本質的になる免疫グロブリン型結合領域を含む。
【0242】
機能性細胞外標的生体分子結合部位を含有する、及びよりいっそう好ましくは(例えばKDによって示されるような)高い親和性で標的生体分子に結合できる、本発明の分子の断片、バリアント及び/又は誘導体を使用することは、本発明の範囲内である。例えば、本発明は、ヒトタンパク質:CD20、HER2、IL-2受容体、CD38、CD19及びCD74と結合することができるポリペプチド配列を提供するが、本発明の細胞標的化分子の製造において及び本発明の方法において、標的生体分子、好ましくは、細胞表面で発現される標的生体分子と1リットル当たり10-5~10-12モル、好ましくは200nM未満の解離定数で結合する任意の結合領域を代用してもよい。
【0243】
III.本発明の分子の一般構造
本発明は、治療及び/又は診断応用に有用である、様々なプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド及びそれらを含む分子を提供する。本発明の志賀毒素由来の細胞標的化分子を、最適な細胞毒性を有するように、すなわち、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子と同等の、しかし、プロテアーゼ感受性、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む特定の細胞標的化分子(例えば、カルボキシ末端の細胞標的化結合領域を含む細胞標的化分子)より改善した細胞毒性を有するように、設計することができる。本明細書において提供するプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニット由来分子は、例えば、標的化細胞殺滅に、特異的細胞タイプへの外因性物質の送達に、診断情報を得るために、並びにがん、免疫障害及び微生物感染を含む様々な疾患、障害及び状態の治療のための治療薬として使用される。
【0244】
細胞標的化結合領域をプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドと連結することにより、例えば分子安定性が増加した及びインビボ忍容性が改善した細胞標的化分子などの、特性が改善した治療薬及び診断薬の工学的作製が可能になる。志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド内の志賀毒素A1断片領域のカルボキシ末端のフューリン切断モチーフの破壊は、該モチーフでのフューリン切断を低減させ、フューリン以外の他のプロテアーゼ、例えば、脊椎動物の血管系によく見られるトリプシン及び細胞外プロテアーゼなどによる切断を低減させる可能性がある。志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド内の志賀毒素A1断片領域のカルボキシ末端のフューリン切断モチーフの破壊によって、志賀毒素細胞毒性の細胞特異的標的化は作用強度の点でフューリン
切断感受性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的分子と同等であるが、プロテアーゼ切断感受性、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む特定の細胞標的化分子と比較して脊椎動物への投与後の毒性プロファイルが改善した細胞標的化分子の工学的作製が可能になる。本発明の特定の分子は、脊椎動物への投与後、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子と比較して有害作用(例えば、非特異的毒性)低減を示し、生産、保存及び投与中の安定性改善を示す可能性もある。
【0245】
A.効率的な細胞内経路決定及び強力な細胞毒性を維持しつつ志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドのプロテアーゼ切断感受性を低減させること
以前は、志賀毒素A1断片触媒領域を含む細胞毒性志賀毒素Aサブユニット構築物は、効率的で強力な細胞毒性を保存するために、中毒細胞内でフューリンによって自然に起こるタンパク質プロセッシングを維持又は何らかの形で補償しなければならないと考えられていた。意外にも、野生型、志賀毒素対照構築物のレベルで強力な志賀毒素細胞毒性が、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端での標的細胞媒介フューリン切断事象が起こらないときに、カルボキシ末端の比較的大きい(28kDaより大きい)部分の存在にもかかわらず実現された(下記実施例を参照されたい)ため、フューリン切断事象が強力な細胞毒性に必要でないことを発見した。中毒細胞内でのフューリン切断事象の欠如は、志賀毒素A1断片の効率的遊離を干渉し、それ故、志賀毒素A1断片領域に比較的大きい分子部分が継続的に連結することになると予想された。しかし、この予想に反して、比較的大きいカルボキシ末端部分を含み、例えば改変代替プロテアーゼ部位などの明白な補償的特徴部がない、フューリン切断欠如志賀毒素Aサブユニット構築物で強力な志賀毒素細胞毒性が実現された。
【0246】
これらの結果は驚きである。なぜなら、最適な志賀毒素中毒プロセスは、志賀毒素A1断片のすべての他の大きい分子部分からの遊離と、遊離されたA1断片を小胞体からサイトゾル(ここで該A1断片は、中毒細胞のリボソームを触媒的に不活性化する酵素活性構造を形成することができる)に効率的に逆行輸送するための、該A1断片のカルボキシ末端の露出とを必要とすると考えられたからである。特に、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端をカバーする分子部分の残留及び/又は非効率的放出は、ERADシステムによって認識されるA1断片の疎水性カルボキシ末端ドメインの露出を含む、サイトゾルに効率的に到達する志賀毒素A1断片の天然メカニズムに干渉すると予想された(Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011)、LiSet al., PLoS One 7: e41119 (2012)を参照されたい)
。例えば、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端をカバーする分子部分の残留は、小胞体内のERAD機構への志賀毒素A1断片のカルボキシ末端の到達性、及びそのA1断片が酵素活性構造を形成するサイトゾルへの効率的到達を妨害すると予想された。意外にも、これは間違っていることが判明する。なぜなら、志賀毒素A1断片のカルボキシ末端での標的細胞媒介フューリン切断事象が起こらないときに、大きい、カルボキシ末端細胞標的化部分の存在にもかかわらず、効率的で強力な志賀毒素細胞毒性が実現されたからである(下記実施例を参照されたい)。
【0247】
或いは、中毒細胞媒介フューリン切断事象の欠如を、仮説上、補償することができる。可能性のある補償的アプローチの非限定的な例としては、1)構築物の1つのカルボキシ末端を志賀毒素A1断片様ポリペプチド領域のカルボキシ末端で終結させるアプローチ、2)志賀毒素Aサブユニットポリペプチドのその志賀毒素A1断片様ポリペプチドのカルボキシ末端付近に既にニックがあるような志賀毒素由来構築物を産生するアプローチ、3)ネイティブ、志賀毒素、フューリン切断事象の欠如を機能的に置換することができる異種及び/又は異所性プロテアーゼ部位を工学的に作製するアプローチ、並びに4)2つ及び3つのアプローチの併用アプローチが挙げられる。第1のアプローチでは、志賀毒素A1断片様ポリペプチドのカルボキシ末端は、いずれのカルボキシ末端部分によってもカバーされず、したがって、志賀毒素A1断片様ポリペプチドのカルボキシ末端は、小胞体内
のERAD機構による認識のために永続的に露出される。最後の3つのアプローチでは、小胞体内で志賀毒素A1断片様ポリペプチドのカルボキシ末端がERAD機構による認識のために露出されるように、志賀毒素A1断片様ポリペプチドを、分子が中毒細胞の小胞体に達するときまでにその構築物の1つ又は2つ以上の他の成分から細胞内で解離するように設計することができる。
【0248】
補償的特徴部の一例は、標的細胞と接触する前にA1断片様領域のカルボキシ末端付近のポリペプチド領域にニックを作るようにプロテアーゼで前処理されている志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む細胞毒性分子である。別の例は、標的細胞の細胞内プロテアーゼによって切断される異所性異種プロテアーゼ部位を含むように改変された志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む細胞毒性分子である。
【0249】
中毒細胞媒介フューリン切断事象の欠如を補償する志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを設計するためのこれらの提案アプローチは、仮説上のものである。4つのすべての提案アプローチは、野生型、志賀毒素Aサブユニットを含む分子、又はA1断片領域のカルボキシ末端に天然に存在するフューリン切断部位を含む野生型配列のみを含む志賀毒素Aサブユニット構築物を含む分子と比較して、細胞毒性の効率及び作用強度を有意に改変することができるだろう。加えて、標的細胞エンドプロテアーゼに依存するバリアントである、第3のアプローチの特定のバリアントだけは、志賀毒素エフェクターポリペプチドと比較してカルボキシ末端位置における部分の融合が可能になる可能性がある。しかし、現在、フューリン切断と同等の完全に補償的な細胞毒性をもたらすことができる、フューリン以外の標的細胞エンドプロテアーゼに依存する補償的アプローチは公知でなく、カルパインのような代替細胞プロテアーゼは、志賀毒素細胞毒性を促進する効率が劣ることが証明されている(Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Garred
O et al., J Biol Chem 270: 10817-21 (1995)、Kurmanova, Biochem Biophys Res Commun 357:144-9 (2007)を参照されたい)。
【0250】
破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む本発明の分子はすべて、フューリンによる切断に対する感受性低減を示す。最小フューリン切断R/Y-x-x-Rモチーフは複数のプロテアーゼによって、例えば、非常に無差別なプロテアーゼ(例えばトリプシン)によって共有されるので、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチドの特定の破壊されたフューリン切断モチーフは、フューリンだけに加えて複数のプロテアーゼによる切断に対する感受性低減を示すと予想される(例えば、Kurmanova A et al.、Biochem Biophys Res Commun 357:144-9(2007)を参照されたい)。
例えば、ペプチダーゼのプロタンパク質転換酵素クラスは、ヒトでは少なくとも7メンバー、PC1、PC2、PC3、PC4、PACE4、PC5、PC6及びPC7を含み(Fugere M, Day R,Trends Pharmacol Sci 26:294-301 (2005))、これらの多くがそれら
の基質を、例えば1つ又は2つ以上のアルギニン残基などの、単一の又は対の塩基性残基において切断することは公知である(Seidah N, Ann N Y Acad Sci 1220: 149-61 (2011)を参照されたい)。
【0251】
本発明の特定の細胞標的化分子は、中毒細胞内部でフューリン切断によって放出されることができない、志賀毒素エフェクターポリペプチドのカルボキシ末端に融合された分子部分の存在にもかかわらず、プロテアーゼ切断感受性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子と同様に効率的に及び強力に細胞毒性である。
【0252】
B.標的化志賀毒素細胞毒性による細胞殺滅
本発明は、フューリン切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む、様々な、細胞毒性、細胞標的化分子を提供する。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、特定の細胞型の細胞表面に関連する細胞外標的生体分子と結合し、
細胞に侵入することが可能である。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態は、標的化された細胞型内に内在化されたら、標的細胞のサイトゾルに細胞毒性の志賀毒素エフェクターポリペプチドフラグメントの経路を定めることが可能である。本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態は、標的化された細胞型のサイトゾル中に入れば、リボソームを酵素的に不活性化し、最終的に細胞を殺滅することが可能である。このシステムは、この強力な細胞毒性を様々な、多様な細胞タイプに標的化すると同時に、低減されたプロテアーゼ切断感受性の改善をもたらすために、任意の数の多様な細胞標的化結合領域、例えば免疫グロブリン型ポリペプチドなどを使用することができる点でモジュラーである。細胞死、例えばその細胞毒性、をもたらす本発明の分子の能力を、当技術分野において周知の多数のアッセイのいずれか1つ又は2つ以上を用いて測定してもよい。
【0253】
本発明のプロテアーゼ切断耐性、細胞毒性、細胞標的化分子の特定の実施形態において、本発明の細胞毒性分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に組み合わされた細胞を接触させると(標的+細胞)、細胞標的化分子は、細胞の死を引き起こすことが可能である。細胞殺滅は、エクスビボで操作された標的細胞、インビトロで培養された標的細胞、インビトロで培養された組織サンプル中の標的細胞、又はインビボの標的細胞などの標的細胞の様々な条件下で本発明の細胞標的化分子を使用して達成され得る。
【0254】
本発明の細胞毒性、細胞標的化分子による標的化細胞殺滅のために標的生体分子の発現がネイティブである必要はない。標的生体分子の細胞表面発現は、感染、病原体の存在、及び/又は細胞内微生物病原体の存在の結果であることもある。標的生体分子の発現は、例えば、ウイルス発現ベクターでの感染後の強制又は誘導発現(例えば、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス及びレトロウイルス系を参照されたい)などによる、人工的なものであることもある。標的生体分子の誘導発現の一例は、全トランス型レチノイン酸及び様々な合成レチノイドのようなレチノイド、又は任意のレチノイン酸受容体(RAR,retinoic acid receptor)アゴニストに曝露された細胞のCD38発現のアップレギュレーションである(Drach J et al.,Cancer Res 54: 1746-52 (1994)、Uruno A et al., J Leukoc Biol 90: 235-47 (2011))。別の例では、CD20、HER2及びEGFR発現が細
胞の電離放射線への曝露によって誘導されることがある(Wattenberg M et al., Br J Cancer 110: 1472-80 (2014))。
【0255】
本発明では、野生型、志賀毒素A1断片ポリペプチドを含む第2の細胞標的化分子の細胞毒性と比較して「同等の」志賀毒素エフェクター細胞毒性の提示は、完全長志賀毒素A1断片を含む野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドと比較可能な再現性のある適切な定量的アッセイによって測定して、10パーセント又はそれ未満以内の細胞毒性レベルを指す。研究室細胞培養での標的陽性細胞殺滅アッセイにおける細胞毒性については、通常、「同等の」細胞毒性は、基準細胞毒性、細胞標的分子(本明細書では「第2の細胞標的化分子」と呼ぶ)のCD50値の10パーセント以内のCD50値であり、この基準分子は、目的の分子と同一の結合領域及び該当する場合には目的の分子と同一の分子部分を含み、基準分子の結合領域、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び該当する場合には分子部分がすべて、目的の分子内でのこれらの成分の会合の仕方と全く同じに、互いに会合している。
【0256】
さらに、単独での又は細胞標的化分子の成分としての本発明の分子が、野生型、志賀毒素A1断片ポリペプチドを含む基準細胞標的化分子と同等の細胞毒性を示す場合には、本発明のその分子の志賀毒素エフェクターポリペプチド領域は、その基準分子の細胞内経路決定活性レベルと同等の活性レベルでの細胞内経路決定の志賀毒素エフェクター活性、すなわち、野生型と同等の細胞内経路決定活性を示す。
【0257】
C.細胞タイプ間の選択的細胞毒性
高親和性結合領域を使用してプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドの送達を特異的細胞タイプに標的化することによって、強力な志賀毒素細胞殺滅活性を、特異的に標的化された細胞タイプの優先的殺滅に限定することができる。本発明の特定の細胞標的化分子は、特異的細胞タイプの集団の除去に有用である。例えば、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、1つ又は2つ以上の細胞表面で高レベルの特定の標的生体分子を発現する悪性細胞を除去することによる特定の腫瘍、がん及び/又は発育異常の治療に有用である。
【0258】
特定の実施形態において、細胞型の混合物に本発明の細胞標的化分子を投与するとき、細胞標的化分子は、細胞外標的生体分子と物理的に組み合わされていない細胞型と比較して、細胞外標的生体分子と物理的に組み合わされた細胞を選択的に殺滅することが可能である。志賀毒素ファミリーのメンバーは真核細胞の殺滅に適しているので、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを使用して設計した分子は、強力な細胞毒性活性を示すことができる。高親和性結合領域を使用して酵素活性志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドの送達を特異的細胞タイプに標的化することによって、この強力な細胞殺滅活性を、生物体内の標的になることが望まれる細胞タイプのみの殺滅に、選択された結合領域の標的生体分子とのそれらの物理的会合によって限定することができる。
【0259】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、2又は3以上の異なる細胞型の混合物内で特異的な細胞型の死を選択的又は優先的に引き起こすことが可能である。これは、高い優先性で、例えば標的生体分子を発現しない「バイスタンダー」細胞型に対して3倍の細胞毒性作用で、細胞毒性活性を特異的な細胞型に標的化することを可能にする。その代わりに、標的生体分子が十分低い量で発現されるか及び/又は標的化されるべきではない細胞型と少量で物理的に組み合わされる場合、結合領域の標的生体分子の発現は、1つの細胞型に限られない場合がある。これは、高い優先性で、例えば有意な量の標的生体分子を発現しないか、又は有意な量の標的生体分子と物理的に組み合わされない「バイスタンダー」細胞型に対して3倍の細胞毒性作用で、細胞殺滅を特異的な細胞型に標的化することを可能にする。
【0260】
細胞表面の細胞外標的生体分子のレベルは、例えばFACS法などの、当業者に公知の様々な方法を使用して判定することができる。本明細書において用いる場合、細胞表面で発現される細胞外標的生体分子の有意な量は、細胞タイプに依存してFACS分析により10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000又は70,000平均蛍光強度(MFI,mean fluorescence intensity)より大きい
。
【0261】
特定のさらなる実施形態について、細胞外標的生体分子の存在及び/又はポリペプチド配列が異なる細胞タイプの2集団への本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子を発現する標的細胞集団に対して、その半数細胞毒性濃度(CD50)によって定義して、例えば、メンバーが細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子を発現しない細胞集団への同じ細胞標的化分子のCD50用量の多くとも3分の1の用量で、細胞死をもたらすことができる。
【0262】
特定の実施形態において、細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞タイプの集団に対する本発明の細胞標的化分子の細胞毒性活性は、本発明のその細胞標的化分子が特異的に結合しているいずれの細胞外標的生体分子とも物理的に結合していない細胞タイプの集団に対する細胞毒性活性より少なくとも3倍高い。本発明によれば、選択的な細胞毒性は、(a)結合領域の標的生体分子と物理的に組み合わされた特異的な細胞型の細胞集団に対する細胞毒性の、(b)結合領域の標的生体分子と物理的に組み合わされていない
細胞型の細胞集団に対する細胞毒性に対する比率(a/b)に関して定量化されてもよい。特定の実施形態において、細胞毒性の比率は、結合領域の標的生体分子と物理的に組み合わされた細胞集団又は細胞型について、結合領域の標的生体分子と物理的に組み合わされていない細胞集団又は細胞型と比較して、少なくとも3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、40倍、50倍、75倍、100倍、250倍、500倍、750倍、又は1000倍高い選択的な細胞毒性であることを示す。例えば、細胞外標的生体分子の存在及び/又はポリペプチド配列に関して異なる細胞の2つの異なる集団への本発明の特定の細胞毒性タンパク質の投与、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、細胞毒性タンパク質の結合領域が結合している細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞タイプを、例えば、細胞毒性、細胞標的化分子の結合領域が細胞外標的生体分子と物理的に結合していない細胞タイプ又はその細胞標的化分子の結合領域によって結合特異性を破壊する配列変化若しくは変異を含む形態のその細胞外標的生体分子のみと物理的に結合している細胞タイプについて観測されたCD50の多くとも3分の1のCD50で、細胞死させることができる。
【0263】
本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態について、細胞タイプの2つの異なる集団への細胞標的化分子の投与によって、細胞標的化分子は、メンバーが細胞表面で該細胞標的分子の結合領域の標的生体分子を発現する第1の細胞集団に対して、その半数細胞毒性濃度(CD50)によって定義して、メンバーが該細胞標的化分子の結合領域のいずれの標的生体分子も発現しない、該細胞標的化分子の結合領域の有意な量のいずれの標的生体分子も発現しない、又は該細胞標的化分子の結合領域の有意な量のいずれの標的生体分子も露出していない第2の細胞集団への同じ細胞標的化分子のCD50用量の多くとも3分の1の用量で、細胞死をもたらすことができる。
【0264】
この優先的な細胞殺滅機能は、様々な条件下で、非標的化バイスタンダー細胞の存在下で、例えばエクスビボで操作された細胞型の混合物、インビトロで細胞型の混合物と共に培養された組織、又はインビボの複数の細胞型の存在下で(例えばインサイチュで、又は多細胞生物内におけるその天然位置で)本発明の特定の細胞毒性、細胞標的化分子によって、標的化された細胞を殺滅することを可能にする。
【0265】
D.インビボ忍容性及び安定性改善
特定の実施形態において、本発明の分子(例えば本発明の細胞標的化分子)は、フューリン切断感受性アナログと比較して安定性増加及び/又はインビボ忍容性改善を示す。安定性増加をインビトロ及び/又はインビボで示すことができる。
【0266】
治療用又は診断用分子の経時的安定性は重要な特徴であり、どの応用に分子を実際に利用できるのかに影響を及ぼしうる。分子の安定性は、インビトロ及びインビボ安定性、例えば、ある温度及び濃度範囲にわたっての投与後及び保存中の生物体内での安定性などを含む。特定の免疫毒素又はリガンド-毒素融合体について、毒素と他の成分間の結合の安定性は、生物の体内での非標的毒素の経時的放出に起因する非特異的毒性の量に影響を及ぼしうる。
【0267】
本発明の特定の細胞標的化分子は、治療薬及び/又は診断薬として有用であり、よりプロテアーゼ切断感受性の高いバリアントと比較してインビボ忍容性改善として顕在化される、インビボでの非特異的毒性の低減を示す。インビボ忍容性を当業者は当技術分野において公知の及び/又は本明細書に記載する技法を使用して判定することができる。死亡率を用いるインビボ忍容性の評価に加えて、罹患の徴候、例えば、体重、身体的外見、測定可能な臨床徴候、いわれのない行動、及び外的刺激に対する応答の態様などを、インビボ忍容性の評価に使用してもよい(例えば、Morton D, Griffiths P, Vet Rec 116: 431-43(1985)、Montgomery C, Cancer Bull 42: 230-7 (1990)、Ullman-Cullere M, Foltz C, L
ab Anim Sc 49: 319-23 (1999)、Clingerman K,Summers L, J Am AssocLab AnimSci 51: 31-6 (2012)を参照されたい)。安楽死が罹患及び/又は瀕死の徴候に応じて用いら
れることもあり、したがって、安楽死によって死亡率時点が生ずることもある。例えば、2~3日で15~20%の体重増加を、齧歯動物における罹患の徴候として、及び安楽死の正当化の理由として用いることができる(例えば、Institute of Laboratory AnimalResearch 2011.Guide for the care and use of laboratory animals, 8th ed.,Washington,DC, U.S.: National Academies Press (2011)を参照されたい)。
【0268】
請求項記載の本発明では、用語「インビボ忍容性改善」は、同じ条件、例えば、同じ種、同じ用量及び累積投薬量、同じ投薬スケジュール、並びに観察及び/又は測定時点について同じ期間のもとで、同じアッセイを使用して比較したとき、基準分子と比較して、哺乳類生物に対して改善した分子の20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれより大きい、好ましくは50%又はそれより大きい減少などの、その分子の投与を受けた後の生物体全体の健康又は生存に対する該分子の毒性及び/又は全身性有害作用の再現可能な、統計学的に有意な減少を指す。毒性又は全身性有害作用の減少を、特定の期間にわたって死亡率及び/又は罹患率の減少によって測定することができる。
【0269】
実施例に示すように、毒性の減少は、インビボ忍容性が改善された分子を受けている哺乳動物についての所与の時点での100%生存を、基準分子を受けている哺乳動物についての同じ時点での100%死亡率と比較して示すこともできよう。死亡率は、上で述べたように人道的理由での死又は安楽死に起因することもある。一般に、投薬スケジュールは、2、3、4又は5週間以上にわたって週に2~3用量であり、各用量は、体重1kg当たり分子約0.001~40mgである。
【0270】
本発明の例示的細胞標的化分子について観察されるインビボ忍容性改善改善は、フューリン切断感受性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む関連分子の用量と比較して遙かに高い用量のこれらの細胞標的化分子を哺乳動物に安全に投与することができることを示唆している。プロテアーゼ切断耐性は志賀毒素エフェクター成分と細胞標的化部分成分の間の連結の保護及び保存に役立つので、本発明の特定の細胞標的化分子は、よりプロテアーゼ切断感受性の高いバリアントと比較して非特異的毒性低減を示す可能性がある。
【0271】
加えて、本発明の特定の分子は、よりプロテアーゼ切断感受性の高いバリアントと比較して、インビトロ及び/又はインビボ両方で半減期増加を示す。分子の安定性は、目的の分子のその成分の会合に関する半減期を判定することによってアッセイすることができる。本発明の分子の特定の実施形態は、特に、志賀毒素エフェクター成分と1つ又は2つ以上の他の成分の継続的会合に関して、フューリン切断感受性バリアントと比較して長い半減期を有するであろう。例えば、本発明の特定の分子の実施形態は、志賀毒素エフェクター成分と別の成分、例えば細胞標的化部分、の継続的会合に関して、フューリン切断感受性部位がこれら2成分間に存するフューリン切断感受性バリアントと比較して長い半減期を有するであろう。
【0272】
E.標的細胞の内部へのさらなる外因性物質の送達
直接細胞殺滅に加えて、本発明の特定の分子は、標的細胞の内部へのさらなる外因性物質の送達に使用されることがあってもよい。さらなる外因性物質の送達を、例えば、細胞毒性、細胞分裂停止、免疫系刺激、免疫細胞標的化、情報収集、及び/又は診断機能のために使用してもよい。本発明の細胞毒性分子の非毒性バリアント、又は細胞毒性であってもよいバリアントを使用して、細胞標的化分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞の内部にさらなる外因性物質を送達してもよく、及び/又は細胞の内部を標識してもよい。標的生体分子を発現する様々なタイプの細胞及び/又は細胞集団が
、外因性物質を受け取るために、本発明の細胞標的化分子によって少なくとも1つの細胞表面に標的化されることもある。本発明の細胞標的化分子の機能性成分は、腫瘍細胞及び/又はそれらの細胞内区画の非侵襲性インビボイメージングなどの多様な応用をもたらすために、様々な志賀毒素エフェクターポリペプチド及びさらなる外因性物質が様々な結合領域と連結されていることがある点で、モジュラーである。
【0273】
本発明の細胞標的化分子(それらの非毒性形態を含む)は、該細胞標的化分子の結合領域によって認識される細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞に侵入できるので、本発明の細胞標的化分子の特定の実施形態を使用して、標的細胞タイプの内部にさらなる外因性物質を送達してもよい。ある意味、本発明の分子全体が、細胞に侵入することになる外因性物質であり、したがって、その「さらなる」外因性物質は、コア細胞標的化分子自体以外であるが、コア細胞標的化分子自体に結合している異種物質である。非細胞毒性である、本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドは、該プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドが、それが存在する細胞のサイトゾルへの細胞内経路決定を効率的に指示する限り、外因性物質を標的細胞に送達するための細胞標的化分子の成分としてなお有用でありうる。
【0274】
75、77、114、167、170、176及び203(又は関連志賀毒素Aサブユニットの対応する位置、例えばSLT-2Aの204位)に天然に位置する触媒的に重要なアミノ酸残基のみが異なる本発明の細胞毒性分子及び細胞標的化分子のバリアンド及び誘導体は、異なる位置のすべてに野生型アミノ酸残基を有する親分子と比較して同じ細胞内経路決定活性レベルを有するであろう。
【0275】
「追加の外因性物質」は、本明細書で使用される場合、一般的にネイティブの標的細胞中に存在しないことが多い1又は2以上の分子を指し、ここで本発明の分子は、このような材料を細胞内部に特異的に輸送するのに使用することができる。さらなる外因性物質の非限定的な例は、細胞毒性薬剤、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、検出促進剤、及び小分子化学療法薬である。
【0276】
さらなる外因性物質の送達のための本発明の分子の特定の実施形態において、さらなる外因性物質は、例えば小分子化学療法薬、細胞毒性抗体、アルキル化剤、代謝拮抗物質、トポイソメラーゼ阻害剤及び/又はチューブリン阻害剤などの、細胞毒性薬剤である。細胞毒性薬剤の非限定的な例としては、アジリジン、シスプラチン、テトラジン、プロカルバジン、ヘキサメチルメラミン、ビンカアルカロイド、タキサン、カンプトテシン、エトポシド、ドキソルビシン、ミトキサントロン、テニポシド、ノボビオシン、アクラルビシン、アントラサイクリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ドラスタチン、メイタンシン、ドセタキセル、アドリアマイシン、カリチアマイシン、オーリスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、カルボプラチン、5-フルオロウラシル(5-FU,5-fluorouracil)、カペシタビン、マイトマイシンC、パクリタキセル、1,3-ビス(2-クロロエチル)-1-ニトロソ尿素(BCNU,1,3-Bis(2-chloroethyl)-1-nitrosourea)、リファンピシン、シスプラチン、メトトレキサート及びゲムシタビンが挙げられる。
【0277】
特定の実施形態において、追加の外因性物質は、酵素を含むタンパク質又はポリペプチドを含む。特定の他の実施形態において、追加の外因性物質は、核酸であり、例えば低分子阻害RNA(siRNA,small inhibiting RNA)又はマイクロRNA(miRNA,microRNA)として機能するリボ核酸などである。特定の実施形態において、追加の外因性物質は、抗原であり、例えば、細菌タンパク質、ウイルスタンパク質、がんにおいて変異したタンパク質、がんにおいて異常に発現されたタンパク質、又はT細胞相補性決定領域に由来する抗原などである。例えば、外因性物質としては、抗原、例えば細菌感染した抗
原提示細胞に特徴的な抗原、及び外因性抗原として機能することが可能なT細胞相補性決定領域が挙げられる。外因性物質のさらなる例としては、酵素などの抗原性ペプチドよりも大きいポリペプチド及びタンパク質が挙げられる。ポリペプチド又はタンパク質を含む外因性物質は、熟練した作業者にとって公知か又は未知かにかかわらず1又は2以上の抗原を含んでいてもよい。
【0278】
特定の実施形態において、本発明の分子の分子部分は、さらなる外因性物質を含む、又はさらなる外因性物質から本質的になる。
【0279】
F.診断機能についての情報収集
本発明の特定の細胞標的化分子は、上述の特異的細胞、細胞タイプ、細胞集団及び/又は特異的細胞内区画のインビトロ及び/又はインビボ検出に使用される。特定の実施形態において、本明細書に記載する細胞標的化分子は、診断と治療の両方に、又は診断単独に使用される。同じ細胞標的化分子を診断と治療の両方に使用する場合、本明細書に記載する例示的置換を含む、1つ又は2つ以上のアミノ酸置換による志賀毒素エフェクターポリペプチドの触媒不活性化によって、診断のための検出促進剤を含む細胞標的化分子のバリアントを非毒性にしてもよい。検出促進剤にコンジュゲートされる本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の非毒性形態は、診断機能に、例えば同じ又は関連する結合領域を含む治療レジメンと共に使用されるコンパニオン診断に使用されてもよい。
【0280】
当業界において公知の検出促進剤を様々な本発明の細胞標的化分子にコンジュゲートする能力は、がん、腫瘍、免疫及び感染細胞の検出に有用な組成物を提供する。これらの本発明の細胞標的化分子の診断の実施形態は、当業界において公知の様々なイメージング技術及びアッセイを介した情報収集に使用される可能性がある。例えば、本発明の細胞標的化分子の診断の実施形態は、患者又は生検サンプルにおける個々のがん細胞、免疫細胞、又は感染細胞の細胞内のオルガネラ(例えばエンドサイトーシス、ゴルジ、小胞体、及びサイトゾル区画)のイメージングを介した情報収集に使用される可能性がある。
【0281】
様々な種類の情報は、診断での使用のためか又は他の使用のためかにかかわらず、本発明の細胞標的化分子の診断の実施形態を使用して収集することができる。この情報は、例えば、新生細胞のタイプを診断すること、患者の疾患の治療感受性を決定すること、経時的に抗新生物療法の進行をアッセイすること、経時的に免疫調節療法の進行をアッセイすること、経時的に抗菌療法の進行をアッセイすること、移植材料中の感染細胞の存在を評価すること、移植材料中の不要な細胞型の存在を評価すること、及び/又は腫瘤の外科的切除後に残留した腫瘍細胞の存在を評価することにおいて有用であり得る。
【0282】
例えば、本発明の細胞標的化分子の診断用バリアントを使用して収集された情報を使用して患者の部分集団を確認できる可能性があり、そうなれば、個々の患者を、そのような診断の実施形態を使用して解明されたそれらの固有の特徴に基づき部分集団にさらに類別することができる。例えば、具体的な医薬品又は療法の有効性が、患者の部分集団を定義するのに使用される基準の1つのタイプとなる可能性がある。例えば、本発明の特定の細胞毒性、細胞標的化分子の非毒性の診断用バリアントは、どの患者が、同じ本発明の分子の細胞毒性バリアントに対して陽性に応答すると予測される患者のクラス又は部分集団に属するのかを識別するのに使用することができる。したがって、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子の非毒性バリアントを含む本発明の細胞標的化分子を使用した患者の同定、患者の層別化、及び診断のための関連方法は、本発明の範囲内であるとみなされる。
【0283】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、ゴルジ装置、エンドソーム及び小胞体からなる群から選択される標的細胞の細胞内区画にフューリン及び/又はフューリン型プロテアーゼが存在するようにフューリン及び/又はフューリン型プロテアーゼを発
現する標的細胞が関わる方法(例えば、細胞殺滅方法、さらなる外因性物質を送達する方法、及び/又は特異的細胞タイプの特異的細胞内区画を検出する方法)に使用される。特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、フューリン発現細胞の殺滅に使用される。特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子は、フューリン欠失細胞の殺滅に使用され、脊椎動物に投与されたときインビボ忍容性改善を示す。
【0284】
IV.本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び分子のポリペプチド配列の変化
本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド成分及び分子(例えば、本発明の細胞毒性分子及び細胞標的化分子並びに前述のもののいずれかをコードするポリヌクレオチド)を、例えば、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は細胞標的化分子の全構造及び機能、例えば、1つ若しくは2つ以上の志賀毒素エフェクター機能、細胞標的化機能、標的生体分子結合、標的化細胞毒性活性、インビボ忍容性改善、安定性増加、及び/又は標的細胞に外因性物質を送達する能力などを維持することによって、それらの生物活性を減少させることなく、変化させることができることは、当業者には理解されるであろう。
【0285】
例えば、いくつかの改変が、発現、精製、並びに/又は薬物動態学的特性及び/若しくは免疫原性を容易にする可能性がある。このような改変は熟練した作業者に周知であり、例えば、開始部位を提供するためのアミノ末端に付加されたメチオニン、都合よく配置された制限部位若しくは終止コドンを作製するためのいずれかの末端に配置された追加のアミノ酸、並びに便利な検出及び/若しくは精製のために提供されるいずれかの末端に融合した生化学的な親和性タグが挙げられる。
【0286】
また、エピトープタグ又は他の部分に関する配列などの、アミノ及び/又はカルボキシ末端における追加のアミノ酸残基の包含も本明細書において検討される。追加のアミノ酸残基は、例えば、クローニングの容易化、発現、翻訳後修飾、合成、精製、検出、及び/又は投与などの様々な目的に使用することができる。エピトープタグ及び部分の非限定的な例は、キチン結合タンパク質ドメイン、エンテロペプチダーゼ切断部位、Xa因子切断部位、FIAsHタグ、FLAGタグ、緑色蛍光タンパク質(GFP,green fluorescent protein)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ部分、HAタグ、マルトース結合
タンパク質ドメイン、mycタグ、ポリヒスチジンタグ、ReAsHタグ、strep-タグ、strep-タグII、TEVプロテアーゼ部位、チオレドキシンドメイン、トロンビン切断部位、及びV5エピトープタグである。
【0287】
上記実施形態のいくつかにおいて、本発明の分子のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド成分のポリペプチド配列は、1つ又は2つ以上の保存的アミノ酸置換によって変えられるが、志賀毒素エフェクターポリペプチドが破壊されたフューリン切断モチーフを保持することを条件とし、並びに志賀毒素エフェクターポリペプチドが、単独で及び/又は細胞標的化分子の成分として、細胞内経路決定、触媒活性及び/又は細胞毒性のうちの1つ又は2つ以上から選択される1つ又は2つ以上の志賀毒素エフェクター機能を示すことを条件とする。上記実施形態のいくつかにおいて、本発明の細胞標的化分子のポリペプチド配列は、ポリペプチド領域に導入される1つ又は2つ以上の保存的アミノ酸置換によって変えられ、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域は、破壊されたフューリン切断モチーフを保持し、及びこれは、結合領域が細胞外標的生体分子結合特異性を保持することを条件とする。
【0288】
用語「保存的置換」は、本明細書で使用される場合、1又は2以上のアミノ酸が別の生物学的に類似するアミノ酸残基で置き換えられることを示す。その例としては、類似の特
徴を有するアミノ酸残基、例えば小さいアミノ酸、酸性アミノ酸、極性アミノ酸、塩基性アミノ酸、疎水性アミノ酸及び芳香族アミノ酸の置換が挙げられる(例えば、下記の表Bを参照)。内因性の哺乳動物ペプチド及びタンパク質に通常存在しない残基での保存的置換の例は、アルギニン又はリシン残基の、例えばオルニチン、カナバニン、アミノエチルシステイン、又は別の塩基性アミノ酸での保存的置換である。ペプチド及びタンパク質において表現型ではサイレントな置換に関するさらなる情報については、例えば、Bowie J et al.,Science 247: 1306-10 (1990)を参照されたい。
【0289】
下記の表Bにおける保存的置換のスキームでは、例示的なアミノ酸の保存的置換は、物理化学的な特性によって、I:中性、親水性;II:酸及びアミド;III:塩基性;IV:疎
水性;V:芳香族、嵩高なアミノ酸、VI:親水性で非荷電性、VII:脂肪族で非荷電性、VIII:非極性で非荷電性、IX:シクロアルケニル結合、X:疎水性、XI:極性、XII:小さい、XIII:ターン許容性、及びXIV:フレキシブルにグループ分けされる。例えば、保存
的アミノ酸置換としては、以下:1)Sは、Cで置換されていてもよい;2)M又はLは、Fで置換されていてもよい;3)Yは、Mで置換されていてもよい;4)Q又はEは、Kで置換されていてもよい;5)N又はQは、Hで置換されていてもよい;及び6)Hは、Nで置換されていてもよいことが挙げられる。
【0290】
【0291】
特定の実施形態において、本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は分子は、本明細書に記載するポリペプチド配列と比較して最大で20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1つのアミノ酸置換を有する本発明のポリペプチド領域の機能性断片又はバリアントを含むことができるが、1)志賀毒素エフェクターポリペプチドが、破壊されたフューリン切断モチーフを保持することを条件とし、志賀毒素エフェクターポリペプチドが単独で及び/又は細胞標的化分子の成分として、細胞内経路決定、触媒活性及び/又は細胞毒性に関する志賀毒素エフェクター機能の妥当なレベルを示すことを条件とし、並びに2)細胞標的化分子が、細胞外標的生体分子結合特異性を保持する結合領域を含むことを条件とする。細胞毒性の変更、細胞分裂停止作
用の変更、免疫原性の変更及び/又は血清半減期の変更などの所望の特性を達成するための、例えば細胞標的化結合領域又は志賀毒素エフェクターポリペプチド内の、1つ若しくは2つ以上のアミノ酸の改変又は1つ若しくは2つ以上のアミノ酸の欠失若しくは挿入による本発明の分子のポリペプチドの変更の結果としての、本発明の分子及び/又は本発明の細胞標的化分子のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド成分のバリアントは、本発明の範囲内である。本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は分子は、さらに、シグナル配列を伴うこともあり、又は伴わないこともある。
【0292】
特定の実施形態において、本発明の分子のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド成分は、本明細書に記載するポリペプチドのアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれより高いアミノ酸配列同一性を共有するが、志賀毒素エフェクターポリペプチドが、破壊されたフューリン切断モチーフを保持することを条件とし、並びに志賀毒素エフェクターポリペプチドが、単独で及び/又は細胞標的化分子の成分として、測定可能な生物活性、例えば、細胞内経路決定、細胞毒性、酵素的触媒、及び/又はリボソームの触媒不活性化などを保持することを条件とする。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子は、本明細書に記載するポリペプチドのアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれより高いアミノ酸配列同一性を共有するが、その志賀毒素エフェクターポリペプチド領域が破壊されたフューリン切断モチーフを保持することを条件とし、並びに細胞標的化分子が、測定可能な生物活性、例えば、細胞内経路決定、細胞毒性、細胞外標的生体分子結合、細胞内在化、酵素的触媒、及び/又はリボソームの触媒不活性化などを保持することを条件とする。
【0293】
特定の実施形態では、本発明の分子のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド成分を、その酵素活性及び/又は細胞毒性を変更するように改変してもよいが、それが、破壊されたフューリン切断モチーフを保持することを条件とし、並びにそれが、単独で及び/又は細胞標的化分子の成分として、細胞内経路決定、触媒活性及び/又は細胞毒性のうちの1つ又は2つ以上から選択される志賀毒素エフェクター機能を示すことを条件とする。この変更は、志賀毒素エフェクターポリペプチドの細胞毒性の変更、又は改変された志賀毒素エフェクターポリペプチドがその成分である細胞毒性分子の細胞毒性の変更をもたらすこともあり、又はもたらさないこともある。可能な改変は、短縮化、欠失、反転、挿入、再配列及び置換からなる群から選択される志賀毒素エフェクターポリペプチドの変異を含むが、破壊されたフューリン切断モチーフが保持されること、並びに志賀毒素エフェクターポリペプチドが、単独で及び/又は細胞標的化分子の成分として、細胞内経路決定、触媒活性及び/又は細胞毒性のうちの1つ又は2つ以上から選択される志賀毒素エフェクター機能を保持することを条件とする。
【0294】
本発明の分子は、志賀毒素エフェクター機能(例えば、サイトゾルへの細胞内経路決定)を保持するプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域を各々が含むが、特定の実施形態では、非細胞毒性機能、例えば、細胞分裂停止の遂行、外因性物質の送達及び/又は細胞タイプの検出のために、細胞毒性親分子から酵素活性にとって重要な1つ又は2つ以上の残基を変異させることによって細胞毒性が減少又は除去された分子へと工学的に操作されることもある。
【0295】
志賀毒素ファミリーのメンバーのAサブユニットの触媒及び/又は細胞毒性活性は、変異又は短縮化によって減少又は除去されることがある。志賀毒素のAサブユニットにおける酵素活性及び/又は細胞毒性にとって最も重要な残基は、なかでも以下の残基位置:アスパラギン-75、チロシン-77、グルタミン酸-167、アルギニン-170、及びアルギニン-176にマッピングされた(Di R et al., Toxicon 57: 525-39 (2011))。
特に、グルタミン酸-E167からリシン、及びアルギニン-176からリシンの変異を含有するStx2Aの二重ミュータントコンストラクトは完全に不活性化され、それに対して、Stx1及びStx2における多くの単一の変異は細胞毒性の10分の1の低下を示した。チロシン-77、グルタミン酸-167、アルギニン-170、チロシン-114、及びトリプトファン-203と名付けられた位置は、Stx、Stx1、及びStx2の触媒活性にとって重要であることが示されている(Hovde C et al.,Proc Natl Acad Sci USA 85: 2568-72 (1988)、Deresiewicz R et al., Biochemistry 31:3272-80 (1992)、Deresiewicz R et al., Mol Gen Genet 241:467-73 (1993)、Ohmura M et al., MicrobPathog 15: 169-76 (1993)、CaoC etal., Microbiol Immunol38: 441-7 (1994)、Suhan, Infect Immun66: 5252-9 (1998))。無細胞リボソーム不活性化アッセイにおいて、グルタミン酸-167とアルギニン-170の両方を変異させると、Slt-I A1の酵素活性が消去された(LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005))。小
胞体でSlt-I A1のデノボ発現を使用する別のアプローチにおいて、グルタミン酸-167とアルギニン-170の両方を変異させると、Slt-I A1フラグメントの細胞毒性がその発現レベルで消去された(LaPointe P et al., J Biol Chem 280: 23310-18 (2005))。
【0296】
SLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)に由来する、又はSLT-1A(配列番号1)若しくはStxA(配列番号2)に由来する成分を含む、本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は細胞標的化分子の特定の実施形態において、志賀毒素エフェクターは、例えば次の置換:75位でのアスパラギン、77位でのチロシン、114位のチロシン、167位のグルタメート、170位のアルギニン、176位のアルギニン及び/又は203位のトリプトファンの置換のうちの1つ又は2つ以上などの、野生型志賀毒素配列からの改変を含む。そのような置換の例は、例えば、破壊されたフューリン切断モチーフが破壊されたままであること、並びに志賀毒素エフェクターポリペプチドが、単独で及び/又細胞標的化分子の成分として、細胞内経路決定、触媒活性及び/又は細胞毒性のうちの1つ又は2つ以上から選択される志賀毒エフェクター機能を保持することを条件として75位のアスパラギンのアラニンへの、77位のチロシンのセリンへの、114位のチロシンのアラニンへの置換、167位のグルタメートのアスパルテートへの置換、170位のアルギニンのアラニンへの置換、176位のアルギニンのリジンへの置換、及び/又は203位のトリプトファンのアラニンへの置換は、先行技術に基づいて当業者に公知であるであろう。志賀毒素の酵素活性及び/又は細胞毒性を強化するか又は低下させるかのいずれかの他の変異は本発明の範囲内であり、周知の技術及び本明細書で開示されたアッセイを使用して決定され得る。
【0297】
本発明の分子の特定の実施形態では、破壊されたフューリン切断モチーフが破壊されたままであることを条件に、1つ又は2つ以上のアミノ酸残基を変異、挿入又は欠失させて、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域の酵素活性を増加させることができる。例えば、Stx1Aの残基位置アラニン-231をグルタメートに変異させることによって、そのインビトロ酵素活性は増加された(Suhan M, Hovde C, InfectImmun 66: 5252-9(1998))が、フューリン切断感受性は回復されないであろう。
【0298】
本発明の分子は、1又は2以上の追加の薬剤にコンジュゲートされていてもよく、このような薬剤としては、本明細書で説明されるような薬剤を含む当業界において公知の治療剤及び/又は診断剤を挙げることができる。
【0299】
V.プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及びそれらを含む分子の産生、製造及び精製
本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド成分及び細胞標的化分子は、当業者に周知の生物化学工学技術を使用して産生することができる。例えば、
本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチド及び細胞標的化分子は、標準的な合成方法、組換え発現系の使用、又は他のあらゆる好適な方法によって製造され得る。したがって、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチド及び細胞標的化分子は、多数の方法で合成することが可能であり、このような方法としては、例えば、(1)標準的な固相又は液相の手法を使用して、段階的に又はフラグメントのアセンブリのいずれかによってタンパク質のポリペプチド又はポリペプチド成分を合成するステップと、最終的なポリペプチド又はタンパク質生成物を単離し精製するステップとを含む方法;(2)宿主細胞中の本発明の分子(例えば、ポリペプチド又はタンパク質)のポリペプチド又はポリペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを発現させるステップと、宿主細胞又は宿主細胞培養から発現生成物を回収するステップとを含む方法;又は(3)インビトロで本発明の分子(例えば、細胞標的化ポリペプチド又はタンパク質)をコードするポリヌクレオチドを無細胞発現させるステップと、発現生成物を回収するステップとを含む方法;又は(1)、(2)又は(3)の方法のあらゆる組合せによって、ペプチド成分のフラグメントを得て、その後フラグメントを合体させ(例えばライゲートして)ペプチド成分を得て、ペプチド成分を回収する方法が挙げられる。例えば、ポリペプチド及び/又はペプチド成分を、例えばN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド及びN-エチル-5-フェニル-イソオキサゾリウム-3’-スルホネート(ウッドワード試薬K)などのカップリング試薬を使用して互いにライゲートしてもよい。
【0300】
本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド又は分子(例えば、細胞標的化分子)のポリペプチド若しくはポリペプチド成分を、固相又は液相ペプチド合成の手段によって合成することが好ましい場合がある。本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチド及び細胞標的化分子は、好適には、標準的な合成方法によって製造されてもよい。したがって、ペプチドは、例えば、標準的な固相又は液相手法で、段階的に又はフラグメントのアセンブリのいずれかによってペプチドを合成するステップと、最終的なペプチド生成物を単離し精製するステップとを含む方法によって合成されてもよい。これに関して、国際公開第1998/11125号パンフレット、又はとりわけFields G et al., Principles and Practice of Solid-Phase PeptideSynthesis (SyntheticPeptides,
Grant G, ed., OxfordUniversity Press, U.K., 2nd ed.,2002)及びそこに記載された合成の実施例を参照してもよい。
【0301】
本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び細胞標的化分子は、当業界において周知の組換え技術を使用して調製(産生及び精製)されてもよい。一般的に、コード化ポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞を培養すること、及び細胞培養からポリペプチドを回収することによってポリペプチドを調製するための方法は、例えばSambrook J et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, U.S., 1989)、Dieffenbach C et al., PCR Primer: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor LaboratoryPress, N.Y.,U.S., 1995)で説明されている。本発明の志賀毒素エフェクターポリペプ
チド及び/又は分子(例えば、細胞標的化タンパク質)を産生するために、あらゆる好適な宿主細胞を使用することができる。宿主細胞は、本発明の分子のポリペプチドの発現を駆動させる1又は2以上の発現ベクターで安定して若しくは一時的にトランスフェクションされた、形質転換された、形質導入された、又は感染した細胞であり得る。加えて、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は分子(例えば、細胞標的化タンパク質)は、変化した細胞毒性、変化した細胞増殖抑制作用、変化した免疫原性、及び/又は変化した血清中半減期などの所望の特性を達成するために、1又は2以上のアミノ酸の変更又は1又は2以上のアミノ酸の欠失若しくは挿入をもたらす本発明の分子(例えば、細胞標的化タンパク質)をコードするポリヌクレオチドの改変によって産生されてもよい。
【0302】
本発明の分子(例えば、志賀毒素エフェクターポリペプチド又は細胞標的化タンパク質
)を産生するために選ばれる可能性がある多種多様の発現系がある。例えば、本発明のタンパク質の発現のための宿主生物としては、原核生物、例えば大腸菌(E. coli)及び枯
草菌(B. subtilis)、真核細胞、例えば酵母及び糸状菌(S.セレビジエ(S. cerevisiae)、P.パストリス(P. pastoris)、黒麹菌(A. awamori)、及びK.ラクティス(K. lactis)など)、藻類(コナミドリムシ(C. reinhardtii)など)、昆虫細胞株、哺乳動物細胞(CHO細胞など)、植物細胞株、並びに真核生物、例えばトランスジェニック植物(シロイスナズナ(A. thaliana)及びベンサミアナタバコ(N. benthamiana)など
)が挙げられる。
【0303】
したがって、本発明は、上で述べた方法に従って、並びに(i)本発明の分子若しくはそのポリペプチド成分の一部若しくはすべてをコードするポリヌクレオチド、(ii)好適な宿主細胞又は無細胞発現系に導入されたとき本発明の分子若しくはそのポリペプチド成分の一部若しくはすべてをコードできる本発明の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び/又は(iii)本発明のポリヌクレオチド若しくは発現ベクターを
含む宿主細胞を使用して、本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/若しくは分子(例えば、ポリペプチド又はタンパク質)を産生する方法も提供する。
【0304】
組換え技術を使用して宿主細胞又は無細胞系中でポリペプチド又はタンパク質が発現される場合、高純度を有するか又は実質的に均一な調製物を得るために、宿主細胞の要素などの他の成分から所望のポリペプチド又はタンパク質を分離(又は精製)することが有利である。精製は、当業界において周知の方法、例えば遠心分離技術、抽出技術、クロマトグラフ及び画分化技術(例えばゲルろ過によるサイズ分離、イオン交換カラム、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、シリカでのクロマトグラフィー又はカチオン交換樹脂、例えばDEAEなどによる電荷分離、クロマトフォーカシング、及び汚染物質を除去するためのプロテインAセファロースクロマトグラフィー)、並びに沈殿技術(例えばエタノール沈殿又は硫酸アンモニウム沈殿)によって達成することができる。任意の数の生化学精製技術を用いて、本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は分子(例えば、志賀毒素エフェクターポリペプチド、細胞標的化タンパク質、又は他の細胞標的化分子)の純度を増すことができる。特定の実施形態では、本発明の細胞標的化分子をホモ多量体(すなわち、本発明の2つ若しくは3つ以上の同一のタンパク質若しくは細胞標的化分子のタンパク質複合体)の形態で精製してもよく、又はヘテロ多量体(すなわち、本発明の2つ若しくは3つ以上の非同一タンパク質若しくは細胞標的化分子のタンパク質複合体)の形態で精製してもよい。
【0305】
下の実施例に、本発明の分子(例えば、細胞標的化分子)を産生する方法の非限定的な例の記載はもちろん、本発明の例示的分子(例えば、一本鎖、融合ポリペプチド)の産生の特異的な、しかし非限定的な態様の記載もある。
【0306】
VI.本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む医薬組成物及び診断用組成物
本発明は、以下のさらなる詳細で説明される状態、疾患、障害、又は症状(例えばがん、悪性腫瘍、非悪性腫瘍、成長異常、免疫障害、及び微生物感染)の治療又は防止のための医薬組成物において、単独で、又は1又は2以上の追加の治療剤と組み合わせて使用するための分子及び細胞標的化分子を提供する。本発明はさらに、本発明に従って、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、賦形剤、又は媒体と共に、本発明の分子、例えば、本発明の細胞標的化分子など、又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、本発明の分子又は細胞標的化分子のホモ多量体及び/又はヘテロ多量体の形態を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、以下のさらなる詳細で説明される疾患、状態、障害、又は症状を
治療、緩和又は予防する方法において有用である。このような疾患、状態、障害、又は症状はそれぞれ、本発明に係る医薬組成物の使用に対して別の実施形態であると想定される。本発明は、さらに、以下でより詳細に説明されるように、少なくとも1つの本発明に係る治療方法で使用するための医薬組成物を提供する。
【0307】
用語「患者」及び「対象」は、本明細書で使用される場合、同義的に使用され、あらゆる生物、一般的に脊椎動物、例えば少なくとも1つの疾患、障害、又は状態の症状、症候、及び/又は徴候を示すヒト及び動物を指す。これらの用語は、哺乳動物、例えば霊長類の非限定的な例、家畜動物(例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、コンパニオンアニマル(例えばネコ、イヌなど)及び実験動物(例えばマウス、ウサギ、ラットなど)を包含する。
【0308】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、又は「治療」及びそれらの文法上の変化形は、有益な又は所望の臨床結果を得るためのアプローチを指す。この用語は、状態、障害若しくは疾患の発病又は進行速度を遅延させること、それに関連する症状を低減又は軽減すること、状態の完全又は部分退縮をもたらすこと、又は上記いずれかのいくつかの組合せを指す場合もある。本発明の目的に関して、有益な又は所望の臨床結果としては、これらに限定されないが、検出可能か又は検出不可能かにかかわらず、症状の低減又は軽減、疾患の程度の減少、疾患の状況の安定化(例えば悪化しないこと)、疾患進行の遅延又は減速、病状の緩和又は一時的緩和、及び寛解(部分又は完全にかかわらず)が挙げられる。「治療する」、「治療すること」、又は「治療」はまた、治療を受けない場合に予測される生存時間と比べて生存を長くすることを意味する場合もある。したがって治療が必要な対象(例えばヒト)は、すでに問題の疾患又は障害に罹っている対象であり得る。用語「治療する」、「治療すること」、又は「治療」は、治療しない場合と比較して病理学的状況又は症状の重症度の増加を阻害又は低減することを包含し、関連する疾患、障害、又は状態の完全な停止を暗に示すことを必ずしも意味するわけではない。腫瘍及び/又はがんに関して、治療は、全体的な腫瘍負荷量及び/又は個々の腫瘍サイズの低減を包含する。
【0309】
本明細書で使用される場合、用語「予防する」、「予防すること」、「予防」及びそれらの文法上の変化形は、状態、疾患、若しくは障害の発症を予防する、又はその病状を変更するためのアプローチを指す。したがって、「予防」は、防止的又は予防的措置を指す場合もある。本発明の目的に関して、有益な又は所望の臨床結果としては、これらに限定されないが、検出可能か又は検出不可能かにかかわらず、疾患の症状、進行又は発症の予防又は減速が挙げられる。したがって予防が必要な対象(例えばヒト)は、まだ問題の疾患又は障害に罹っていない対象であり得る。用語「予防」は、治療しない場合と比較して疾患の発病を減速させることを包含し、関連する疾患、障害又は状態の永続的な予防を暗に示すことを必ずしも意味するわけではない。したがって状態を「予防すること」又は状態の「予防」は、特定の状況において、状態を発症する危険を低下させること、又は状態に関連する症状の発症を予防若しくは遅延することを指す場合がある。
【0310】
「有効量」又は「治療有効量」は、本明細書で使用される場合、標的の状態を予防若しくは治療すること、又は状態に関連する症状を有利に軽減することなどの対象における少なくとも1つの望ましい治療効果を生じる組成物(例えば治療用組成物又は薬剤)の量又は用量である。最も望ましい治療有効量は、それを必要とする所与の対象について当業者によって選択された特定の治療の望ましい効能を生じると予想される量である。この量は、これらに限定されないが、治療分子又は組成物の特徴(活性、薬物動態学、薬力学、及び生物学的利用率など)、対象の生理学的状態(年齢、性別、疾患のタイプ、疾患の段階、全般的な身体状態、所与の投薬量に対する反応性、及び薬物療法のタイプなど)、製剤中の薬学的に許容される1種又は複数の担体の性質、及び投与経路などの熟練した作業者
によって理解されている様々な要因に応じて異なると予想される。臨床及び薬理学分野における熟練者は、慣例的な実験を介して、すなわち物質の組成物の投与に対する対象の応答をモニターし、それに応じて投薬量を調整することによって治療有効量を決定することが可能であると予想される(例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy (Gennaro A, ed., Mack Publishing Co., Easton, PA, U.S., 19th ed.,1995)を参照
)。
【0311】
本発明の診断用組成物は、本発明の分子及び1又は2以上の検出促進剤を含む。同位体、色素、比色法用の薬剤、コントラスト増強剤、蛍光剤、生物発光剤、及び磁気性の薬剤などの様々な検出促進剤が当業界において公知である。これらの薬剤は、本発明の分子にあらゆる位置で取り込まれていてもよい。薬剤の取り込みは、細胞毒性分子のアミノ酸残基を介して、又はリンカー及び/又はキレート化剤を介した連結などの当業界において公知のいくつかのタイプの連結を介していてもよい。薬剤の取り込みは、スクリーニング、アッセイ、診断手順、及び/又はイメージング技術において診断用組成物の存在の検出が可能になるような方法でなされる。
【0312】
本発明の診断用組成物を生産又は製造する場合、本発明の分子(例えば、細胞標的化分子)は、1又は2以上の検出促進剤に直接的又は間接的に連結されてもよい。情報収集方法のために、例えば生物の疾患、障害、又は状態に対する診断及び/又は予後の適用のために、本発明の分子に機能するように連結できる、熟練した作業者に公知の極めて多くの検出促進剤がある(例えばCai W et al., J Nucl Med 48: 304-10 (2007)、Nayak T, Brechbiel M, BioconjugChem20: 825-41 (2009)、Paudyal P et al., Oncol Rep 22: 115-9
(2009)、Qiao J et al., PLoSONE 6: e18103 (2011)、Sano K et al., Breast Cancer
Res 14: R61 (2012)を参照)。例えば、検出促進剤としては、画像を強調する造影剤、
例えば蛍光色素(例えばAlexa680、インドシアニングリーン、及びCy5.5)、同位体及び放射性核種、例えば11C、13N、15O、18F、32P、51Mn、52mMn、52Fe、55Co、62Cu、64Cu,67Cu、67Ga、68Ga、72As、73Se、75Br、76Br、82mRb、83Sr、86Y、90Y、89Zr、94mTc、94Tc、99mTc、110In、111In、120I、123I、124I、125I、131I、154Gd、155Gd、156Gd、157Gd、158Gd、177Lu、186Re、188Re、及び223R;常磁性イオン、例えばクロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)又はエルビウム(III);金属、例えばランタン(III)、金(III)、鉛(II)、及びビスマス(III);超音波コントラスト増強剤、例えばリポソーム;放射線不透物質、例えばバリウム、ガリウム、及びタリウム化合物が挙げられる。検出促進剤は、中間官能基、例えば2-ベンジルDTPA、PAMAM、NOTA、DOTA、TETA、それらの類似体、及び前述のもののいずれかの機能的な均等物のようなキレート化剤を使用することによって直接的又は間接的に取り込まれていてもよい(Leyton J et al., Clin Cancer Res 14: 7488-96 (2008)を参照)。
【0313】
タンパク質に、特に免疫グロブリン及び免疫グロブリンに由来するドメインに様々な検出促進剤を取り込む、取り付ける、及び/又はコンジュゲートするための、熟練した作業者に公知の極めて多くの標準的な技術がある(Wu A, Methods 65: 139-47 (2014))。同
様に、医療分野で一般的に使用される非侵襲的なインビボでのイメージング技術などの熟練した作業者に公知の極めて多くのイメージングアプローチがあり、例えば、コンピューター断層撮影イメージング(CTスキャニング)、光学的イメージング(直接の、蛍光による、及び生物発光によるイメージングなど)、磁気共鳴映像法(MRI,magnetic res
onance imaging)、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET,positron emission tomography)、単光子放射型コンピューター断層撮影法(SPECT,single-photon emission computed tomography)、超音波、及びX線コンピューター断層撮影イメージングである(総論については、Kaur S et al., Cancer Lett 315: 97-111 (2012)を参照)
。
【0314】
プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む医薬組成物及び/又は診断用組成物の生産又は製造
例えば本発明の細胞標的化分子などの、本発明の分子のいずれかについての薬学的に許容される塩又は溶媒和物も同様に本発明の範囲内である。
【0315】
本発明の内容における用語「溶媒和物」は、溶質(この場合、本発明の分子又は本発明に係るそれらの薬学的に許容される塩)と溶媒との間で形成された規定の化学量論の複合体を指す。それに関して、溶媒は、例えば、水、エタノール、又は別の薬学的に許容される、典型的には小分子の有機種、例えば、これらに限定されないが、酢酸又は乳酸などであり得る。問題の溶媒が水である場合、このような溶媒和物は通常、水和物と称される。
【0316】
本発明の分子又はそれらの塩は、典型的には薬学的に許容される担体中に治療有効量の本発明の分子又はそれらの塩を含む、貯蔵又は投与のために調製された医薬組成物として製剤化されてもよい。用語「薬学的に許容される担体」は、あらゆる標準的な医薬用担体を包含する。治療用途のための薬学的に許容される担体は薬学分野において周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack PublishingCo. (A. Gennaro, ed.,1985)で説明される。「薬学的に許容される担体」としては、本明細書で使用され
る場合、ありとあらゆる生理学的に許容できる、すなわち適合する溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが挙げられる。薬学的に許容される担体又は希釈剤としては、経口、直腸、経鼻又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、及び経皮など)投与に好適な製剤で使用されるものが挙げられる。例示的な薬学的に許容される担体としては、滅菌水溶液又は分散液、及び滅菌注射用溶液又は分散液を即時調製するための滅菌粉末が挙げられる。本発明の医薬組成物で採用される可能性がある好適な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油、並びに注射可能な有機エステル、例えばエチルオレエートが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散液のケースで求められる粒度の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。特定の実施形態において、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は表皮投与(例えば注射又は点滴による)に好適である。選択された投与経路に応じて、細胞標的化分子又は他の医薬成分は、特定の投与経路によって患者に投与されたときに活性分子が遭遇する可能性がある低いpH及び他の天然の不活性化条件の作用から分子を保護することを意図した材料でコーティングされていてもよい。
【0317】
本発明の医薬組成物の製剤は、単位剤形で便利なように提供されてもよいし、薬学分野において周知の方法のいずれかによって調製されてもよい。このような形態において、組成物は、適切な量の活性成分を含有する単位用量に分割される。単位剤形は、パッケージ化された調製物、別々の量の調製物を含有するパッケージ、例えば、バイアル又はアンプル中にパケット化された錠剤、カプセル、及び粉末であってもよい。また単位剤形は、カプセル剤、カシェ剤、又は錠剤そのものであってもよいし、又は適切な数のこれらのパッケージ化された形態のいずれかであってもよい。単位剤形は、単回用量の注射可能な形態で、例えばペンの形態で提供されてもよい。組成物は、あらゆる好適な経路及び投与手段に合わせて製剤化されてもよい。皮下又は経皮投与様式は、本明細書に記載する本発明の医薬組成物及び治療用分子に特に好適でありうる。
【0318】
本発明の医薬組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などのアジュバントを含有していてもよい。微生物の存在の防止は、滅菌手順と、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの包含との両方によって確実にすることができる。組成物への等張剤、例えば糖、塩化ナトリウムなども望ましい場合がある。加えて、注射可能な医薬の形態の持続吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延させる物質の包含によって達成することができる。
【0319】
また本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される抗酸化剤を包含していてもよい。例示的な薬学的に許容される抗酸化剤は、水溶性抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;油溶性抗酸化剤、例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA,butylated hydroxyanisole)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT,butylated hydroxytoluene)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなど;及び金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA,ethylenediamine tetraacetic acid)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などである。
【0320】
別の態様において、本発明は、本発明の異なる分子、又は前述のもののいずれかのエステル、塩若しくはアミドの1つ又は組合せと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0321】
治療用組成物は、典型的には滅菌されており、製造及び貯蔵条件下で安定である。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、又は高い薬物濃度に好適な他の秩序ある構造として製剤化されてもよい。担体は、例えば、水、アルコール、例えばエタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール)、又はあらゆる好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、当業界において周知の調合の化学に従って、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液のケースで求められる粒度の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。特定の実施形態において、等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、又は塩化ナトリウムが組成物において望ましい可能性がある。注射用組成物の持続吸収は、組成物中に、例えばモノステアリン酸塩及びゼラチンなどの吸収を遅延させる物質を包含させることによって達成することができる。
【0322】
皮内又は皮下適用に使用される溶液又は懸濁液は、典型的には、滅菌希釈剤、例えば注射用水、食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は重亜硫酸ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩;及び張度調節剤、例えば塩化ナトリウム又はデキストロースなどの1又は2以上を包含する。pHは、酸又は塩基、例えば塩酸若しくは水酸化ナトリウム、又はクエン酸塩、リン酸塩、酢酸塩を含む緩衝剤などで調整することができる。このような調製物は、ガラス又はプラスチックで製作された、アンプル、使い捨てのシリンジ又は複数回用量用のバイアル中に封入されていてもよい。
【0323】
滅菌注射用溶液は、必要に応じて上述した成分の1つ又は組合せを含む適切な溶媒中に本発明の分子を必要な量で取り込み、続いて滅菌精密ろ過することによって調製されてもよい。分散液は、分散媒及び上述したものなどの他の成分を含有する滅菌媒体に活性分子を取り込むことによって調製されてもよい。滅菌注射用溶液を調製するための滅菌粉末のケースにおいて、調製方法は、それらの滅菌ろ過溶液から任意の追加の望ましい成分に加
えて活性成分の粉末を生じる真空乾燥及びフリーズドライ(凍結乾燥)である。
【0324】
本発明の分子の治療有効量が、例えば静脈内、皮膚又は皮下注射によって投与するために設計される場合、結合剤は、パイロジェンフリーの非経口的に許容できる水溶液の形態であると予想される。適切なpH、等張性、安定性などを検討して非経口的に許容できるタンパク質溶液を調製するための方法は、当業界における能力の範囲内である。静脈内、皮膚、又は皮下注射にとって好ましい医薬組成物は、結合剤に加えて、等張の媒体、例えば塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロース及び塩化ナトリウム注射液、乳酸加リンゲル注射液、又は当業界で公知の他の媒体を含有すると予想される。また本発明の医薬組成物は、安定剤、保存剤、緩衝液、抗酸化剤、又は当業者に周知の他の添加剤を含有していてもよい。
【0325】
本明細書の他の箇所に記載するように、本発明の分子又はその組成物(例えば、医薬組成物若しくは診断用組成物)を、インプラント、経皮パッチ及びマイクロカプセル化された送達系を含む放出制御製剤などの、分子の急速な放出を防ぐことになる担体を用いて調製してもよい。生分解性の生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸を使用することができる。このような製剤を調製するための多くの方法は特許化されているか、又は一般的に当業者に公知である(例えばSustained and Controlled Release Drug Delivery Systems (Robinson J, ed., Marcel Dekker, Inc., NY, U.S., 1978)を参照)。
【0326】
特定の実施形態では、望ましいインビボ分布を確実にするように本発明の組成物(例えば、医薬組成物又は診断用組成物)を製剤化することができる。例えば、血液脳関門は、多くの大きい及び/又は親水性の化合物を排除する。特定のインビボにおける配置に本発明の治療分子又は組成物を標的化するために、それを例えばリポソーム中に製剤化してもよく、ここでリポソームは、特定の細胞又は臓器に選択的に輸送されることにより標的化された薬物送達を強化する1又は2以上の部分を含んでいてもよい。例示的な標的化部分は、葉酸塩又はビオチン;マンノシド;抗体;界面活性プロテインA受容体;p120カテニンなどを包含する。
【0327】
医薬組成物は、インプラント又は微粒子系として使用するように設計された非経口製剤を包含する。インプラントの例は、エマルジョン、イオン交換樹脂、及び可溶性塩溶液などの高分子又は疎水性成分で構成されるデポ製剤である。微粒子系の例は、マイクロスフェア、微粒子、ナノカプセル、ナノスフェア、及びナノ粒子である(例えばHonda M et al., Int J Nanomedicine 8: 495-503 (2013)、Sharma A et al., Biomed Res Int 2013: 960821 (2013)、Ramishetti S,Huang L, Ther Deliv 3:1429-45 (2012)を参照)。放出制御製剤は、イオンに対する感受性を有するポリマー、例えばリポソーム、ポロキサマー407、及びヒドロキシアパタイトなどを使用して調製されてもよい。
【0328】
当技術分野において公知の技術を使用して本発明の医薬組成物を生産してもよく、したがって、生産される組成物は、エマルジョン、リポソーム、ニオソーム、高分子ナノ粒子、及び/又は固体脂質ナノ粒子(SLN,solid lipid nanoparticle)を含む(例えば、Lakshmi Petal., Venereal Leprol 73: 157-161 (2007)、A Revolution in Dosage Form
Design and Development, Recent Advancesin Novel DrugCarrier Systems (Sezer A, ed., InTech,2012)を参照されたい)。
【0329】
一般に、リポソームを含む医薬組成物は、水性媒体に分散されたリポソームを含む(例えば、Li S et al.,J Control Release 126: 77-84 (2008)、Li S et al., Mol Ther 16:
163-9 (2008); Chen Y et al., J Invest Dermatol130: 2790-8 (2010)、Chen Y et al., J Biol Chem285:22639-50 (2010)を参照されたい)。リポソーム及びナノ粒子は、
それらの生産中に免疫グロブリンドメイン、受容体及び/又はリガンドを組み込むことによって細胞標的化することができる(例えば、Khan D et al., Chemical Biology and Drug Design 71: 3-7 (2008)、Rezler E et al.,Journal of the American Chemical Society 129: 4961-72(2007)、Khan D, Journal of Cancer Science and Therapy 2:58-62 (2010)、van der Meel Ret al., J Control Release159: 281-9 (2012)、Sada S et al.,
Curr Cancer CrugTargets 15:71-86 (2015)を参照されたい)。
【0330】
一般に、SLNは、パラフィンろう及び生分解性グリセリドなどの脂質を含む(例えば、Attama A et al., Int J Pharm 304:4-10(2005)を参照されたい)。当業者に公知の
方法を使用して、例えば、ナノ粒子の形態の脂質-治療薬コンジュゲートを使用することなどによって、本発明の分子をSLNに負荷することができる(例えば、Muller R et al., Eur J Pharm Biopharm 41:62-9 (1995)、Friedrich Iet al., Int J Pharm 305: 167-75(2005)、Schubert MA etal., Eur J Pharm Sci 27: 226-36(2006)、Attama A et al., Eur J Pharm Biopharm 64:294-306(2006)、Attama A, Muller-Goymann C, Int J Pharm322:67-78 (2006)、Attama A et al., Int J Pharm 355: 307-13 (2008)、Attama
A et al., J Drug Deliv Sci Technol 18: 181-8 (2008)、Attama A et al.,Current Eye
Res 34: 698-705 (2009)、米国特許第8,663,692号明細書を参照されたい)
。特に、SLNに、細胞標的化、結合領域に連結された志賀毒素由来ポリペプチドを含む疎水性化合物を組み込むことができる(例えば、Muller R et al., Eur J Pharm Biopharm 41:62-9 (1995)を参照されたい)。HPMA共重合体を含むSLNを、細胞内在化後
に細胞内区画を標的にするように設計することができる(例えば、Jensen K et al., JControl Release 87: 89-105 (2003)を参照されたい)。
【0331】
VII.本発明のポリヌクレオチド、発現ベクター及び宿主細胞
本発明の分子のほかにも、本発明のポリペプチド及びタンパク質、又はそれらの機能的な部分をコードするポリヌクレオチドも、本発明の範囲内にある。用語「ポリヌクレオチド」は、用語「核酸」と同等であり、その両方が、デオキシリボ核酸(DNA,deoxyribonucleic acid)のポリマー、リボ核酸(RNA,ribonucleicacid)のポリマー、ヌク
レオチド類似体を使用して生成されたこれらのDNA又はRNAの類似体、並びにそれらの誘導体、フラグメント及びホモログを包含する。本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖、二本鎖、又は三本鎖であり得る。開示されるポリヌクレオチドは、例えば、RNAコドンの第三の位置で許容されるが異なるRNAコドンとして同じアミノ酸をコードすることが公知のゆらぎを考慮に入れて、例示的な細胞標的化分子をコードすることが可能な全てのポリヌクレオチドを包含するように具体的に開示されている(Stothard P,Biotechniques 28: 1102-4 (2000)を参照)。
【0332】
1つの態様において、本発明は、本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/若しくは分子(例えばポリペプチド若しくはタンパク質)又はその断片若しくは誘導体をコードする、ポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドは、例えば、タンパク質のアミノ酸配列の1つを含むポリペプチドに対して、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%又はそれよりより高い同一性を有するポリペプチドをコードする核酸配列を包含し得る。また本発明は、本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又は分子のポリペプチド、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体をコードするポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列、又はあらゆるこのような配列のアンチセンス若しくは相補物を含むポリヌクレオチドも包含する。
【0333】
本発明のポリヌクレオチド(又は、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/若しくはタンパク質)の誘導体又は類似体は、とりわけ、例えば、同じサ
イズのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列に対して、又は当業界において公知のコンピューター相同性プログラムによってアライメントが行われる並べられた配列と比較した場合に、少なくとも約45%、50%、70%、80%、95%、98%、又は99%もの同一性で(好ましい同一性は80~99%である)、本発明のポリヌクレオチド、プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド、又はタンパク質に実質的に相同な領域を有するポリヌクレオチド(又はポリペプチド)分子を包含する。例示的なプログラムは、Smith T, Waterman M, Adv. Appl. Math. 2: 482-9(1981)のアルゴリズムを使
用するデフォルト設定を使用した、GAPプログラム(Wisconsin Sequence AnalysisPackage、UNIX用バージョン8、GeneticsComputer Group、University Research Park、Madison、WI、U.S.)である。また、ストリンジェントな条件下で本発明のタンパク質をコードする配列の相補物にハイブリダイズすることが可能なポリヌクレオチドも包含される(例えばAusubel F et al., Current Protocols in Molecular Biology (JohnWiley & Sons, New York,NY, U.S., 1993)、及び以下を参照)。ストリンジェントな条件は当業者公知であり、CurrentProtocolsin Molecular Biology (John Wiley & Sons,NY, U.S., Ch. Sec. 6.3.1-6.3.6 (1989))で見出すことができる。
【0334】
本発明はさらに、本発明の範囲内のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又はタンパク質をコードすることが可能なポリヌクレオチドは、発現ベクターを生産するための当業界において周知の材料及び方法を使用して、細菌プラスミド、ウイルスベクター及びファージベクターなどの公知のベクターに挿入されてもよい。このような発現ベクターは、いずれかの選択された宿主細胞又は無細胞発現系(例えばpTxb1及びpIVEX2.3)内での検討される本発明の志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又はタンパク質の産生を維持するのに必要なポリヌクレオチドを包含すると予想される。特定のタイプの宿主細胞又は無細胞発現系と共に使用するための発現ベクターを含む具体的なポリヌクレオチドは当業者周知であり、それらを慣例的な実験を使用して決定してもよいし、又は購入してもよい。
【0335】
用語「発現ベクター」は、本明細書で使用される場合、1又は2以上の発現単位を含む直鎖状又は環状のポリヌクレオチドを指す。用語「発現単位」は、所望のポリペプチドをコードし、宿主細胞中で核酸セグメントの発現をもたらすことが可能なポリヌクレオチドセグメントを示す。発現単位は、典型的には、転写プロモーター、所望のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム、及び転写ターミネーターを含み、全て機能できるように配置される。発現ベクターは、1又は2以上の発現単位を含有する。したがって、本発明の内容において、単一のポリペプチド鎖を含む、脱免疫化された志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又はタンパク質(例えば、志賀毒素エフェクターポリペプチドが遺伝子組換えされたscFv)をコードする発現ベクターは、少なくとも単一のポリペプチド鎖のための発現単位を包含し、それに対して例えば2又は3以上のポリペプチド鎖(例えばVLドメインを含む1つの鎖及び破壊されたフューリン切断モチーフを含む志賀毒素エフェクターポリペプチドに連結されたVHドメインを含む第二の鎖)を含むタンパク質は、そのタンパク質の2つのポリペプチド鎖それぞれにつき1つずつの少なくとも2つの発現単位を包含する。本発明の多重鎖のタンパク質を発現させるために、各ポリペプチド鎖のための発現単位が、異なる発現ベクターに別々に含有されていてもよい(例えば発現は、各ポリペプチド鎖のための発現ベクターが導入された単一の宿主細胞で達成され得る)。
【0336】
ポリペプチド及びタンパク質の一過性の又は安定な発現を指示することが可能な発現ベクターは当業界において周知である。発現ベクターは、一般的に、これらに限定されないが、以下:それぞれ当業界において周知の、異種シグナル配列又はペプチド、複製起点、1又は2以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列の
1又は2以上を包含する。任意の調節制御配列、統合配列、及び採用される可能性がある有用なマーカーは、当業界において公知である。
【0337】
用語「宿主細胞」は、発現ベクターの複製又は発現を維持することができる細胞を指す。宿主細胞は、原核細胞、例えば大腸菌又は真核細胞(例えば酵母、昆虫、両生類、鳥類、又は哺乳動物細胞)であり得る。本発明のポリヌクレオチドを含むか又は本発明の分子(例えば、ポリペプチド又はタンパク質)を産生することが可能な宿主細胞株の作出及び単離は、当業界において公知の標準的な技術を使用して達成することができる。
【0338】
本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド及び/又はタンパク質は、宿主細胞でのより最適な発現などの所望の特性を達成するのにより好適にすることができる、1又は2以上のアミノ酸の変更又は1又は2以上のアミノ酸の欠失若しくは挿入によってポリペプチド及び/又はタンパク質をコードするポリヌクレオチドを改変することによって生産される、本明細書で説明されるポリペプチド及びタンパク質のバリアント又は誘導体であってもよい。
【0339】
VIII.固体基材に固定化された本発明の分子
本発明の特定の実施形態は、固体基材上に固定化された、本発明の分子(例えば、プロテアーゼ切断耐性、細胞毒性分子若しくは細胞標的化分子)又はその任意のエフェクター断片を含む。本明細書において企図される固体基材には、マイクロビーズ、ナノ粒子、ポリマー、マトリックス材料、マイクロアレイ、マイクロタイタープレート、又は当技術分野において公知の任意の固体表面が含まれるが、これらに限定されない(例えば、米国特許第7,771,955号明細書を参照されたい)。これらの実施形態に従って、当業者に公知の技術を使用して、本発明の分子を例えばビーズ、粒子又はプレートなどの固体基材に共有結合で連結させてもよく、又は非共有結合で連結させてもよい。本発明の固定化分子を、当技術分野において公知の技術を使用するスクリーニング応用に使用してもよい(例えば、Bradbury A et al., Nat Biotechnol29:245-54 (2011)、Sutton C, Br J Pharmacol166: 457-75 (2012)、Diamante L et al., Protein EngDes Sel 26: 713-24 (2013)、HoulihanG et al., J Immunol Methods 405: 47-56 (2014)を参照されたい)。
【0340】
本発明の分子を固定化することができる固体基材の非限定的な例としては、マイクロビーズ、ナノ粒子、ポリマー、ナノポリマー、ナノチューブ、磁性ビーズ、常磁性ビーズ、超常磁性ビーズ、ストレプトアビジン被覆ビーズ、逆相磁性ビーズ、カルボキシ末端を有するビーズ、ヒドラジン末端を有するビーズ、シリカ(ナトリウムシリカ)ビーズ及びイミノ二酢酸(IDA,iminodiacetic acid)修飾ビーズ、アルデヒド修飾ビーズ、エポキシ活性化ビーズ、ジアミノジプロピルアミン(DADPA,diaminodipropylamine)修飾ビーズ(第一級アミン表面基を有するビーズ)、生分解性ポリマービーズ、ポリスチレン基材、アミノ-ポリスチレン粒子、カルボキシル-ポリスチレン粒子、エポキシ-ポリスチレン粒子、ジメチルアミノ-ポリスチレン粒子、ヒドロキシ-ポリスチレン粒子、着色粒子、フローサイトメトリー粒子、スルホネート-ポリスチレン粒子、ニトロセルロース表面、強化ニトロセルロース膜、ナイロン膜、ガラス表面、活性化ガラス表面、活性化石英表面、ポリフッ化ビニリデン(PVDF,polyvinylidene difluoride)膜、ポリアク
リルアミド系基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリメチルメタクリレート基材、ポリ(ジメチルシロキサン)基材、及び共有結合を形成できる光活性種(例えばニトレン、カルベン及びケチルラジカル)を含有するフォトポリマーが挙げられる。本発明の分子を固定化することができる固体基材の他の例、例えば、細胞表面、ファージ及びウイルス粒子などは、分子ディスプレイシステムで一般に使用される。
【0341】
IX.送達デバイス及びキット
特定の実施形態において、本発明は、1又は2以上の本発明の物質の組成物、例えば対
象に送達するための医薬組成物を含むデバイスに関する。したがって、1又は2以上の本発明の物質の組成物を含む送達デバイスを使用して、静脈内、皮下、筋肉内又は腹膜内注射;経口投与;経皮投与;肺内又は経粘膜投与;インプラント、浸透圧ポンプ、カートリッジ又はマイクロポンプによる投与;又は当業者によって認識される他の手段による投与などの様々な送達方法によって本発明の物質の組成物を患者に投与することができる。
【0342】
また、少なくとも1つの本発明の物質の組成物を含み、包装及び使用説明書を含んでいてもよいキットも本発明の範囲内である。キットは、薬物の投与及び/又は診断の情報収集に有用であり得る。本発明のキットは、少なくとも1つの追加の試薬(例えば、標準、マーカーなど)を含んでいてもよい。キットは、典型的には、キット内容物の意図した使用を表示するラベルを包含する。キットは、サンプル又は対象中で細胞型(例えば腫瘍細胞)を検出するための、又は患者が、本明細書で説明されるような本発明の分子、組成物又は関連する方法を利用する治療方策に応答するグループに属するかどうかを診断するための試薬及び他のツールをさらに含んでいてもよい。
【0343】
X.本発明の分子-本発明のプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド、細胞標的化分子、医薬組成物及び診断用組成物を含む-を使用する方法
一般的に、本発明の目的は、特定のがん、腫瘍、成長異常、免疫障害、又は本明細書で述べられるさらなる病的状態などの疾患、障害、及び状態の予防及び/又は治療において使用することができる薬理活性薬剤、加えてそれを含む組成物を提供することである。したがって、本発明は、本発明の分子(プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド、細胞標的化分子、医薬組成物、及び診断用組成物を含む)を細胞の標的化殺滅のために、さらなる外因性物質を標的細胞に送達するために、標的細胞内部を標識するために、診断情報を収集するために、並びに本明細書に記載の疾患、障害及び状態を治療するために使用する方法を提供する。
【0344】
特に、本発明の目的は、現在のところ当業界において公知の薬剤、組成物、及び/又は方法と比較して一定の利点を有するこのような薬理活性薬剤、組成物、及び/又は方法を提供することである。したがって、本発明は、指定ポリペプチド配列を特徴とするポリペプチド又はタンパク質からなる本発明の分子及びそれらの医薬組成物を使用する方法を提供する。例えば、配列番号4~61のポリペプチド配列のいずれかが、以下の方法で使用される細胞標的化分子の成分として具体的に利用される可能性がある。
【0345】
本発明は、細胞を殺滅する方法であって、細胞を、インビトロ又はインビボのいずれかで本発明の分子又は医薬組成物と接触させるステップを含む方法を提供する。本発明の分子及び医薬組成物を使用して、1つ又は複数の細胞を特許請求された物質の組成物の1つと接触させたときに特異的な細胞型を殺滅することができる。特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子、又は医薬組成物を使用して、がん細胞、感染細胞、及び/又は血液学的な細胞を含む混合物などの異なる細胞型の混合物中の特異的な細胞型を殺滅することができる。特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子、又は医薬組成物を使用して、異なる細胞型の混合物中のがん細胞を殺滅することができる。特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子、又は医薬組成物を使用して、移植前の組織などの異なる細胞型の混合物中の特異的な細胞型を殺滅することができる。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子又は医薬組成物を使用して、治療目的の投与前の組織材料などの細胞型の混合物中の特異的な細胞型を殺滅することができる。特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子又は医薬組成物を使用して、ウイルス又は微生物に感染した細胞を選択的に殺滅するか、又はそれとは別に細胞表面生体分子などの特定の細胞外標的生体分子を発現する細胞を選択的に殺滅することができる。本発明の分子及び医薬組成物は、例えば、インビトロ又はインビボのいずれかで組織から不要な細胞型を減少させることにおける使用、移植片対宿主病を治療するために免疫応
答をモジュレートすることにおける使用、抗ウイルス剤としての使用、抗寄生虫剤としての使用、及び移植組織から不要な細胞型を取り除くことにおける使用などの様々な適用を有する。
【0346】
特定の実施形態において、本発明の細胞毒性、細胞標的化分子、又は医薬組成物は、単独で、又は他の化合物又は医薬組成物と組み合わせて、インビトロで、又は対象において、例えば治療が必要な患者においてインビボで細胞集団に投与されると、有力な細胞殺滅活性を示すことができる。がん細胞型に対して高親和性の結合領域を使用して酵素的に活性な志賀毒素領域の送達を標的化することによって、生物内の、例えば特定のがん細胞、新生細胞、悪性細胞、非悪性腫瘍細胞、又は感染細胞内の特定の細胞型を特異的且つ選択的に殺滅することに、この有力な細胞殺滅活性を限定することができる。
【0347】
本発明は、それを必要とする患者において細胞を殺滅する方法であって、患者に、少なくとも1つの本発明の細胞毒性分子又はそれらの医薬組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0348】
細胞毒性、細胞標的化分子、又はそれらの医薬組成物の特定の実施形態を使用して、がん及び/又は腫瘍細胞と物理的に組み合わされていることが見出された細胞外生体分子を標的化することによって、患者におけるがん及び/又は腫瘍細胞を殺滅することができる。用語「がん細胞」又は「癌細胞」は、異常に速い速度の及び/又は制御不能な様式で成長し分裂する様々な新生細胞を指し、当業者には明らかであると予想される。用語「腫瘍細胞」は、悪性細胞と非悪性細胞(例えば、非がん性、良性腫瘍細胞、非がん性「がん」幹細胞、腫瘍幹細胞、前悪性がん始原細胞、腫瘍始原細胞、又は腫瘍原性細胞、これらのすべては、悪性腫瘍細胞及び/又はがん細胞になる娘細胞を生じさせることができるが、自然に転移できない(例えば、Martinez-Climent J et al., Haematologica 95: 293-302
(2010)を参照されたい)の両方を含む。一般的に、がん及び/又は腫瘍は、治療及び/
又は予防を受けることが可能な疾患、障害、又は状態と定義することができる。新生細胞は、以下:制御不能な成長、分化の欠如、局所的な組織浸潤、血管新生、及び転移の1又は2以上を伴うことが多い。本発明の方法及び組成物の恩恵を受けることができるがん細胞及び/又は腫瘍細胞からなるがん及び腫瘍(悪性又は非悪性いずれか)は、当業者には明白であるだろう。
【0349】
ゆっくり分裂しており、化学療法及び放射線のようながん治療に耐性である、がん幹細胞を殺滅するために本発明を使用してもよい。例えば、急性骨髄性白血病(AML,acute myeloid leukemia)を、本発明でAML幹細胞及び/又は休止状態のAML前駆細胞を殺滅することによって治療してもよい(例えば、Shlush L et al.,Blood 120: 603-12 (2012)を参照されたい)。がん幹細胞は、本発明の治療用分子を標的化するために使用す
ることができる細胞表面標的、例えば、CD44及びCD200を発現することが多い(例えば、KawasakiBet al., Biochem Biophys ResCommun 364:778-82 (2007)、Reim F et
al., CancerRes69: 8058-66 (2009)を参照されたい)。
【0350】
本発明の細胞毒性分子又はそれらの医薬組成物の特定の実施形態を使用して、免疫細胞と物理的に組み合わされていることが見出された細胞外生体分子を標的化することによって、患者における免疫細胞(健康か又は悪性かどうかにかかわらず)を殺滅することができる。
【0351】
本発明の細胞毒性分子又はそれらの医薬組成物の特定の実施形態を使用して、感染細胞と物理的に組み合わされていることが見出された細胞外生体分子を標的化することによって、患者における感染細胞を殺滅することができる。
【0352】
患者から取り出された単離された細胞集団からB細胞及び/又はT細胞をエクスビボで減少させることを目的として本発明の細胞毒性分子又はその医薬組成物を利用することは、本発明の範囲内である。1つの非限定的な例では、臓器移植拒絶反応を予防する方法に細胞毒性分子を使用することができ、この場合、ドナー臓器を移植前に本発明の細胞毒性分子又はその医薬組成物で潅流して、その臓器から望ましくないドナーB細胞及び/又はT細胞をパージする。
【0353】
悪性、腫瘍性又は別様に望ましくないB細胞及び/又はT細胞の患者細胞集団(例えば骨髄)をパージしてその患者にB細胞及び/又はT細胞を減少させた材料を再注入することを目的として本発明の細胞毒性分子又はその医薬組成物を利用することも本発明の範囲内である。
【0354】
骨髄及び又は幹細胞移植を受ける患者において移植片対宿主病に対する予防としてドナー細胞集団からB細胞、NK細胞及び/又はT細胞を減少させることと忍容性の誘導とを目的として本発明の細胞毒性分子又はその医薬組成物を利用することも本発明の範囲内である(例えば、Sarantopoulos S et al., Biol Blood Marrow Transplant 21: 16-23(2015)を参照されたい)。
【0355】
本発明の細胞毒性の分子又はそれらの医薬組成物の特定の実施形態を使用して、感染細胞と物理的に組み合わされていることが見出された細胞外生体分子を標的化することによって、患者における感染細胞を殺滅することができる。
【0356】
加えて、本発明は、患者における疾患、障害又は状態を治療する方法であって、それを必要とする患者に、本発明の細胞毒性分子又はそれらの医薬組成物の少なくとも1つの治療有効量を投与するステップを含む方法を提供する。本方法を使用して治療が可能な検討される疾患、障害、及び状態としては、がん、悪性腫瘍、非悪性腫瘍、成長異常、免疫障害、及び微生物感染が挙げられる。本発明の分子又は組成物の「治療上有効な投薬量」の投与は、疾患の症状の重症度の減少、疾患の症状がない期間の頻度及び持続時間の増加、又は疾患の苦しみによる損傷若しくは能力障害の予防をもたらすことができる。
【0357】
本発明の分子又は組成物の治療有効量は、投与経路、治療される哺乳動物のタイプ、及び検討される具体的な患者の身体的特性によって決まると予想される。この量を決定するためのこれらの要因及びそれらの関係は、医療分野における熟練した技術者に周知である。この量及び投与方法は、最適な効能を達成するように調整されてもよく、体重、食事、並行して行われる薬物療法のような要因、及び医療分野における当業者に周知の他の要因によって決めてもよい。ヒトでの使用にとって最も適切な投薬量及び用量レジメンは、本発明により得られた結果から導くことができ、適切に設計された臨床試験で確認してもよい。有効な投薬量及び治療プロトコールは、実験動物において低用量で開始して、次いで作用をモニターしながら投薬量を増加させ、同様に投薬レジメンを系統的に変更するという従来の手段によって決定してもよい。所与の対象ごとの最適な投薬量を決定する際に、臨床医により極めて多くの要因を検討に入れることができる。このような検討は当業者公知である。
【0358】
許容できる投与経路は、これらに限定されないが、エアロゾル、経腸、経鼻、眼、経口、非経口、直腸、経膣、又は経皮(例えばクリーム、ゲル又は軟膏の局所投与、又は経皮パッチ手段による)などの当業界において公知のあらゆる投与経路を指す場合がある。「非経口投与」は、典型的には、作用が意図される部位での注射又はそのような部位と連通する注射に関連し、眼窩下、点滴、動脈内、嚢内、心臓内、皮内、筋肉内、腹膜内、肺内、脊髄内、胸骨内、髄腔内、子宮内、静脈内、クモ膜下、被膜下、皮下、経粘膜、又は経気管投与などが挙げられる。
【0359】
本発明の医薬組成物の投与のために、投薬量範囲は、一般的には、対象の体重に対して、約0.0001~100ミリグラム(mg)/キログラム(kg)(mg/kg)及びそれより多く、通常は0.01~5mg/kgであると予想される。例示的な投薬量は、体重1kg当たり0.25mg、体重1kg当たり1mg、体重1kg当たり3mg、体重1kg当たり5mg若しくは体重1kg当たり10mg、又は1~10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な治療計画は、1日1回若しくは2回の投与、又は週1回若しくは2回の投与、2週毎に1回、3週毎に1回、4週毎に1回、月1回、2若しくは3ヶ月毎に1回、又は3~6ヶ月毎に1回である。投薬量は、特定の患者ごとに治療的有用性を最大化するために必要に応じて、熟練した健康管理の専門家によって選択及び再調整が可能である。
【0360】
本発明の医薬組成物は、典型的には、同じ患者に複数の機会で投与されると予想される。1回の投薬間の間隔は、例えば2~5日、1週間、1ヶ月、2若しくは3ヶ月、6ヶ月、又は1年であり得る。また投与間の間隔は、対象又は患者における血中濃度又は他のマーカーの調節に基づいて不規則であってもよい。本発明の分子又は組成物のための投薬レジメンは、体重1kg当たり1mg又は体重1kg当たり3mgの静脈内投与を包含し、ここで本分子又は組成物は、2~4週間毎に6回の投薬、次いで3ヶ月毎に体重1kg当たり3mg又は体重1kg当たり1mgで投与される。
【0361】
本発明の医薬組成物は、当業界において公知の様々な方法の1又は2以上を使用する1又は2以上の投与経路を介して投与してもよい。熟練した作業者は認識しているものと予想されるように、投与の経路及び/又は様式は、所望の結果に応じて様々であると予想される。本発明の分子、医薬組成物、及び診断用組成物のための投与経路としては、例えば、静脈内、筋肉内、皮内、腹膜内、皮下、脊髄、又は他の非経口投与経路、例えば注射又は点滴による投与経路が挙げられる。他の実施形態において、本発明の細胞標的化分子又は医薬組成物は、非経口経路、例えば、局所、表皮又は粘膜の投与経路、例えば、鼻腔内、口腔、経膣、直腸、舌下、若しくは局所での投与経路などによって投与され得る。
【0362】
本発明の治療用分子及び医薬組成物は、当業界において公知の様々な医療用デバイスの1又は2以上を用いて投与されてもよい。例えば、一実施形態において、本発明の医薬組成物は、無針皮下注射デバイスを用いて投与されてもよい。本発明において有用な周知のインプラント及びモジュールの例は、当業界において、例えば、制御された速度で送達するための埋め込み型マイクロ点滴ポンプ;経皮投与するためのデバイス;正確な点滴速度で送達するための点滴ポンプ;連続的に薬物送達するための流量可変の埋め込み型点滴デバイス;及び浸透性薬物の送達系などが挙げられる。これらの及び他のこのようなインプラント、送達系、及びモジュールは、当業者公知である。
【0363】
本発明の分子、細胞標的化分子、又は医薬組成物は、単独で、又は1又は2以上の他の治療剤又は診断剤と組み合わせて投与されてもよい。組合せ療法は、治療しようとする特定の患者、疾患又は状態に基づき選択された少なくとも1つの他の治療剤と組み合わされた、本発明の細胞毒性分子又はそれらの医薬組成物を包含していてもよい。他のこのような薬剤の例としては、とりわけ、細胞毒性の抗がん剤若しくは化学療法剤、抗炎症剤若しくは増殖抑制剤、抗微生物剤若しくは抗ウイルス剤、成長因子、サイトカイン、鎮痛薬、治療活性を有する小分子若しくはポリペプチド、単鎖抗体、古典的な抗体若しくはそれらのフラグメント、又は1又は2以上のシグナル伝達経路をモジュレートする核酸分子、及び治療的又は予防的処置レジメンを補足するか又は別の方法でそのようなレジメンにおいて有益な可能性がある類似のモジュレートする治療剤が挙げられる。
【0364】
本発明の細胞標的化分子又は医薬組成物を用いた患者の治療は、好ましくは、標的化さ
れた細胞の細胞死及び/又は標的化された細胞の成長の阻害をもたらす。そのようなものとして、本発明の細胞毒性分子、及びそれらを含む医薬組成物は、標的細胞の殺滅又は減少が有益であり得る様々な病理学的障害、例えば、とりわけ、がん、腫瘍、成長異常、免疫障害、及び感染細胞を治療するための方法において有用であると予想される。本発明は、細胞増殖を抑制し、新形成、過剰に活性なB細胞、及び過剰に活性なT細胞などの細胞の障害を治療するための方法を提供する。
【0365】
特定の実施形態において、本発明の分子及び医薬組成物は、がん、腫瘍(悪性及び良性)、成長異常、免疫障害、及び微生物感染を治療又は予防するのに使用することができる。さらなる態様において、上記のエクスビボの方法を上記のインビボの方法と組み合わせて、骨髄移植のレシピエントにおける拒絶を治療又は予防する方法、及び免疫寛容を達成するための方法を提供することができる。
【0366】
特定の実施形態において、本発明は、ヒトなどの哺乳動物の対象において悪性腫瘍又は新生物及び他の血液細胞に関連するがんを治療するための方法であって、それを必要とする対象に本発明の細胞毒性分子又は医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む方法を提供する。
【0367】
本発明の分子及び医薬組成物は、例えば、不要なB細胞及び/又はT細胞を除去することにおける使用、免疫応答をモジュレートして移植片対宿主病を治療することにおける使用、抗ウイルス剤としての使用、抗菌剤としての使用、及び移植組織から不要な細胞型を取り除くことにおける使用などの様々な適用を有する。本発明の分子及び医薬組成物は、一般的に抗新生物剤であり、すなわちそれらは、がん又は腫瘍細胞の成長を阻害すること及び/又はそれらの死を引き起こすことによって、新生物又は悪性細胞の発生、成熟、又は蔓延の治療及び/又は予防が可能であることを意味する。
【0368】
特定の実施形態において、本発明の細胞標的化分子又は医薬組成物は、B細胞、形質細胞、T細胞又は抗体が媒介する疾患又は障害、例えば白血病、リンパ腫、骨髄腫、ヒト免疫不全ウイルス関連の疾患、アミロイド症、溶血尿毒症症候群、結節性多発性動脈炎、多発性動脈炎、敗血症性ショック、クローン病、リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎、乾癬、喘息、シェーグレン症候群、移植片対宿主病、移植片拒絶反応、糖尿病、血管炎、強皮症、及び全身性エリテマトーデスなどを治療するのに使用される。
【0369】
別の態様において、本発明の分子及び医薬組成物の特定の実施形態は、抗菌剤であり、すなわちそれらは、例えばウイルス、細菌、菌類、プリオン、又は原生動物によって引き起こされる微生物学的な病原性感染の獲得、発達、又は結果の治療及び/又は予防が可能であることを意味する。
【0370】
B細胞によって及び/又はT細胞によって媒介される疾患若しくは状態の予防又は治療であって、患者のB細胞及び/又はT細胞の殺滅を目的として本発明の細胞毒性分子又はその医薬組成物を患者に投与することを含む予防又は治療を提供することは、本発明の範囲内である。この使用法は、移植される材料の源、例えばヒト又はヒト以外の源であるかどうかに関係なく、骨髄移植、幹細胞移植、組織移植、又は臓器移植のために患者を準備又は調整することに適合する。
【0371】
本発明の細胞毒性、細胞標的化分子、又は医薬組成物を使用して宿主B細胞及び/又はT細胞の標的化された細胞を殺滅することによって、宿主対移植片病の予防又は治療のために骨髄のレシピエントを提供することは、本発明の範囲内である。
【0372】
本発明の分子、細胞標的化分子及び医薬組成物を、がんを治療する方法に利用してもよく、方法は、それを必要とする患者に治療有効量の本発明の分子、細胞標的化分子及び医薬組成物を投与することを含む。本発明の方法の特定の実施形態において、治療されるがんは、骨がん(例えば多発性骨髄腫又はユーイング肉腫)、乳がん、中枢/末梢神経系のがん(例えば脳がん、神経線維腫症、又は膠芽腫)、消化器がん(例えば胃がん又は結腸直腸がん)、生殖細胞がん(例えば卵巣がん及び睾丸がん)、腺がん(例えば膵臓がん、副甲状腺がん、褐色細胞腫、唾液腺がん、又は甲状腺がん)、頭頸部がん(例えば鼻咽頭がん、口腔がん、又は咽頭がん)、血液がん(例えば白血病、リンパ腫、又は骨髄腫)、腎臓から尿道のがん(例えば腎臓がん及び膀胱がん)、肝臓がん、肺/胸膜がん(例えば中皮腫、小細胞肺癌、又は非小細胞肺癌)、前立腺がん、肉腫(例えば血管肉腫、線維肉腫、カポジ肉腫、又は滑膜肉腫)、皮膚がん(例えば基底細胞癌、扁平上皮癌、又は黒色腫)、及び子宮がんからなる群より選択される。
【0373】
本発明の分子及び医薬組成物は、本発明の細胞毒性分子又は医薬組成物の治療有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む免疫障害の治療方法に利用することができる。本発明の方法の特定の実施形態において、免疫障害は、アミロイド症、強直性脊椎炎、喘息、クローン病、糖尿病、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、橋本甲状腺炎、溶血尿毒症症候群、HIV関連の疾患、紅斑性狼瘡、多発性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発性動脈炎、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ様関節炎、強皮症、敗血症性ショック、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、及び血管炎からなる群より選択される疾患に関連する炎症に関する。
【0374】
本発明の特定の実施形態は、がん、腫瘍、成長異常、免疫障害、及び/又は微生物感染を治療又は予防するための医薬組成物又は医薬品の成分として、本発明の分子を使用することである。例えば、患者の皮膚上に現れる免疫障害は、炎症を低下させようとする努力において、このような医薬品で治療され得る。別の例において、皮膚の腫瘍は、腫瘍サイズを低下させるか又は腫瘍を完全になくそうとする努力において、このような医薬品で治療され得る。
【0375】
本発明の特定の細胞毒性分子、医薬組成物及び診断用組成物を分子脳外科応用、例えば、免疫損傷及びニューロントレーシング(Wiley R, Lappi D, Adv Drug Deliv Rev 55: 1043-54 (2003)を参照されたい)に使用してもよい。例えば、標的化ドメインは、様々な
リガンド、例えば神経回路に特異的なGタンパク質共役受容体などのニューロン表面の受容体と結合することによって特異的な神経細胞型を標的化する神経伝達物質及び神経ペプチドから選択又は誘導されてもよい。同様に、標的化ドメインは、ニューロン表面の受容体と結合する抗体から選択又は誘導されてもよい。志賀毒素エフェクターポリペプチドがそれら自身の逆行性軸索輸送をロバストに指示できることから、本発明の特定の細胞毒性分子を使用して、細胞体から遠位の細胞毒性分子注射部位で細胞外標的を発現するニューロンを殺滅することができる(Llewellyn-Smith I et al., J NeurosciMethods 103: 83-90 (2000)を参照)。本発明のこれらの神経細胞型特異的な標的化細胞毒性分子は、例え
ば感覚のメカニズムを解明するための神経科学の調査(例えばMishra S, Hoon M, Science 340: 968-71(2013)を参照)、及びパーキンソン及びアルツハイマーなどの神経変性疾患のモデル系を作製すること(例えばHamlinA et al., PLoS One e53472 (2013)を参照
)において用途を有する。
【0376】
本発明の特定の実施形態の中には、例えば腫瘍性細胞及び/又は免疫細胞タイプなどの細胞タイプの内部を標識又は検出するために本発明の細胞標的化分子、医薬組成物及び/又は診断用組成物を使用する方法がある。特異的細胞タイプに進入し、細胞内逆行輸送によって細胞内の経路を指定する本発明の特定の分子の能力に基づいて、特異的細胞タイプの内部区画を検出のために標識してもよい。これは、生物、例えば患者、体内の生体内原
位置の細胞に対してインビボで行うことができ、又は生物から取り出した細胞及び組織、例えば生検材料に対してインビボで行うことができる。
【0377】
本発明の特定の実施形態の中には、疾患、状態及び/又は障害に関する情報収集を目的として細胞タイプの存在を検出ために本発明の分子(例えば細胞毒性分子若しくは細胞標的化分子)、ポリペプチド、タンパク質、医薬組成物及び/又は診断用組成物を使用する方法がある。本方法は、細胞を診断に十分な量の細胞毒性分子と接触させて、アッセイ又は診断技術によって細胞毒性分子を検出するステップを含む。成句「診断に十分な量」は、利用される特定のアッセイ又は診断技術によって情報収集目的で十分な検出及び正確な測定がもたらされる量を指す。一般的に、インビボでの診断での使用における生物全体にとって診断に十分な量は、対象1kg当たり0.1mg~100mgの非累積用量の、検出促進剤が連結された細胞標的化分子と予想される。典型的には、これらの情報収集方法で使用される本発明の分子(例えば、細胞標的化分子)の量は、なお診断に十分な量であるという条件で、可能な限り低いと予想される。例えば、生物におけるインビボ検出のために対象に投与される本発明の細胞毒性分子、細胞標的化分子、医薬組成物又は診断用組成物の量は、実行可能にできる限り低いであろう。
【0378】
検出促進剤と併用される本発明の特定の分子の細胞タイプ特異的標的化は、本発明の分子の結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞の検出及びイメージング方法をもたらす。本発明の分子及び/又は診断用組成物を使用する細胞のイメージングを、当技術分野において公知の任意の好適な技術によって、インビトロで行ってもよく、又はインビボで行ってもよい。診断の情報は、生物の全身イメージングなどの当業界において公知の様々な方法を使用して、又は生物から採取したエクスビボのサンプルを使用して収集してもよい。本明細書において使用される用語「サンプル」は、これらに限定されないが、流体、例えば血液、尿、血清、リンパ液、唾液、肛門の分泌物、膣の分泌物、及び精液、並びに生検手順により得られた組織などのあらゆるものを指す。例えば、様々な検出促進剤は、磁気共鳴映像法(MRI)、光学的方法(例えば直接の、蛍光による、及び生物発光によるイメージング)、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)、単光子放射型コンピューター断層撮影法(SPECT)、超音波、X線コンピューター断層撮影、及び上述のものの組合せなどの技術による、非侵襲的なインビボでの腫瘍イメージングために利用することができる(総論については、Kaur S et al., Cancer Lett 315: 97-111 (2012)を参照)。
【0379】
本発明の特定の実施形態は、がん、腫瘍、及び/又は免疫細胞型の内部を標識又は検出するための診断用組成物として、本発明の分子又は医薬組成物を使用する方法である(例えば、Koyama Y et al., Clin Cancer Res 13: 2936-45 (2007)、Ogawa M et al., Cancer Res 69: 1268-72 (2009)、Yang L et al., Small 5: 235-43 (2009)を参照)。本発明
の特定の分子、細胞標的化分子、及び医薬組成物の、逆行性細胞内輸送を介して細胞内の特異的な細胞型及び経路に侵入する能力に基づいて、特異的な細胞型の内部区画が、検出のために標識される。この方法は、患者体内で(生体内原位置の細胞に対して、例えば疾患遺伝子座に対して、を含む)インビボで行ってもよく、及び/又は生物から取り出された細胞、例えば、生検材料に対してインビトロで行ってもよい。
【0380】
本発明の診断用組成物は、疾患、障害、又は状態を本発明の関連医薬組成物によって潜在的に治療可能であると特徴付けるのに使用することができる。本発明の特定の物質の組成物は、患者が、本明細書で説明されるような本発明の分子、組成物又は関連方法を利用する治療方策に応答するグループに属するのかどうか、又は本発明の送達デバイスの使用に十分な適正があるのかどうかを決定するのに使用することができる。
【0381】
本発明の診断用組成物は、疾患、例えばがんが検出された後、その疾患をより十分に特
徴付けるために、例えば遠隔転移、不均質性、及びがん進行のステージをモニターするために使用することができる。疾患、障害又は感染の表現型の評価は、治療の決定をする間の予後及び予測を助けることができる。疾患の再発において、本発明の特定の方法は、局所的な問題か又は全身性の問題かを識別するのに使用することができる。
【0382】
本発明の診断用組成物は、治療剤のタイプ、例えば小分子薬物、生物学的薬物、又は細胞ベースの療法に関係なく、治療剤に対する応答を評価するのに使用することができる。例えば、本発明の診断の特定の実施形態は、腫瘍サイズの変化、数及び分布などの抗原陽性細胞集団の変化を測定すること、及び/又はすでに患者に施された療法によって標的化された抗原とは異なるマーカーをモニターすることに使用することができる(Smith-Jones P et al., Nat. Biotechnol 22:701-6 (2004)、Evans M et al., Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A. 108: 9578-82 (2011)を参照)。
【0383】
細胞型の存在を検出するのに使用される方法の特定の実施形態は、例えば骨がん(例えば多発性骨髄腫又はユーイング肉腫)、乳がん、中枢/末梢神経系のがん(例えば脳がん、神経線維腫症、又は膠芽腫)、消化器がん(例えば胃がん又は結腸直腸がん)、生殖細胞がん(例えば卵巣がん及び睾丸がん)、腺がん(例えば膵臓がん、副甲状腺がん、褐色細胞腫、唾液腺がん、又は甲状腺がん)、頭頸部がん(例えば鼻咽頭がん、口腔がん、又は咽頭がん)、血液がん(例えば白血病、リンパ腫、又は骨髄腫)、腎臓から尿道のがん(例えば腎臓がん及び膀胱がん)、肝臓がん、肺/胸膜がん(例えば中皮腫、小細胞肺癌、又は非小細胞肺癌)、前立腺がん、肉腫(例えば血管肉腫、線維肉腫、カポジ肉腫、又は滑膜肉腫)、皮膚がん(例えば基底細胞癌、扁平上皮癌、又は黒色腫)、子宮がん、AIDS、アミロイド症、強直性脊椎炎、喘息、自閉症、心臓発生、クローン病、糖尿病、エリテマトーデス、胃炎、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、グレーブス病、橋本甲状腺炎、溶血尿毒症症候群、HIV関連の疾患、紅斑性狼瘡、リンパ増殖性障害、多発性硬化症、重症筋無力症、神経炎症、結節性多発性動脈炎、多発性動脈炎、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ様関節炎、強皮症、敗血症性ショック、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、血管炎、細胞増殖、炎症、白血球活性化、白血球接着、白血球走化性、白血球成熟、白血球遊走、ニューロンの分化、急性リンパ芽球性白血病(ALL,acute lymphoblastic leukemia)、T急性リンパ性白血病/リンパ腫(ALL)、急性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病(AML,acute myeloid leukemia)、B細胞慢性リンパ球性白血病(B-CLL,B-cellchronic lymphocytic leukemia)、B細胞前リンパ
球性リンパ腫、バーキットリンパ腫(BL,Burkitt's lymphoma)、慢性リンパ球性白血病(CLL,chronic lymphocytic leukemia)、慢性骨髄性白血病(CML-BP,chronic myelogenous leukemia)、慢性骨髄性白血病(CML,chronicmyeloidleukemia)
、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、ヘアリーセル白血病(HCL,hairy cellleukemia)、ホジキンリンパ腫(HL,Hodgkin'sLymphoma)、血管内大細胞
型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、リンパ形質細胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、多発性骨髄腫(MM,multiple myeloma)、ナチュラルキラー細胞白血病、節性辺縁帯B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL,Non-Hodgkin's lymphoma)、プラズマ細胞性白血病、形質細胞腫、原発性滲出液リンパ腫、前リンパ球性白血病、前骨髄球性白血病、小リンパ球性リンパ腫、脾性辺縁帯リンパ腫、T細胞リンパ腫(TCL,T-cell lymphoma)、重鎖病、単クローン性免疫グロブリン血症、単クロー
ン性免疫グロブリン沈着症、骨髄異形成症候群(MDS,myelodusplastic syndrome)、くすぶり型多発性骨髄腫、及びワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症などの疾患、障害、及び状態に関する情報を収集するのに使用することができる。
【0384】
特定の実施形態において、本発明の分子又はそれらの医薬組成物は、診断と治療の両方、又は診断単独に使用される。
【0385】
志賀毒素ファミリーのメンバーのAサブユニットに由来するプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド領域と、特異的細胞タイプと物理的に結合している細胞外標的生体分子に結合できる結合領域とを各々が含む、選択的細胞毒性、細胞標的化分子についての以下の非限定的実施例によって、本発明をさらに例証する。
[実施例]
【0386】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態を証明する。しかしながら、これらの実施例は例示目的のためのものに過ぎず、本発明の条件及び範囲に関して全体的に明確であると意図されるものではなく、解釈されるべきでもないと理解される。実施例は、そうでなければ詳細に説明される場合を除いて、当業者には周知であり、日常的である標準的な技術を用いて実行された。
【0387】
志賀毒素A1断片のカルボキシ末端の保存されたフューリン切断モチーフの破壊が、カルボキシ末端に比較的大きいサイズ、すなわち、28キロダルトン(kDa)より大きいサイズの分子部分が共有結合で連結されているそのA1断片にもかかわらず、細胞標的化、志賀毒素Aサブユニット由来構築物の細胞毒性を減少させなかったという予想外の発見を下記実施例によって説明する。これは驚きであった。なぜなら、志賀毒素中毒プロセスは、志賀毒素A1断片の、すべての他の大きい分子部分、例えば、志賀毒素A2断片、及び志賀毒素Bサブユニットのパートナーなどからの、遊離を必要とすると考えられたからである。これは驚きであった。なぜなら、志賀毒素中毒プロセスは、触媒性志賀毒素A1断片のその標的化サブユニットからの遊離を必要とすると考えられたからである。これは驚きであった。なぜなら、最適な志賀毒素中毒プロセスは、遊離されたA1断片を、小胞体から、宿主細胞リボソームが触媒不活性化されるサイトゾルに効率的に逆行輸送するために、ERADシステムによって認識される疎水性カルボキシ末端ドメインを提示するための志賀毒素A1断片のすべての他の大きい分子部分からの遊離を必要とすると考えられたからである。
【0388】
下記実施例で実証するように、細胞に標的化するためのフューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域を含む例示的細胞標的化分子の細胞毒性は、フューリン切断感受性、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域を含む細胞標的化分子の細胞毒性と同等であった。同様に、フューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む例示的細胞標的化分子の、それらの結合領域の細胞外標的生体分子と物理的に結合している細胞を選択的に殺滅する、選択的細胞毒性は、フューリン切断感受性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子の細胞毒性と同等であった。本発明の例示的、細胞毒性、細胞標的化分子は、効率的に、1)標的細胞に侵入し、2)それらのフューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドをサイトゾルに経路決定し、3)リボソームを不活性化し、4)標的細胞を殺滅した。加えて、哺乳動物への投与後、例示的細胞標的化分子は、フューリン切断感受性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子と比較してインビボ毒性改善を示した。
【0389】
下記実施例は、例示的、細胞毒性、細胞標的化分子の志賀毒素Aサブユニット由来ポリペプチドにおける保存されたフューリン切断事象の破壊が、細胞標的化のための比較的大きい、カルボキシ末端の、免疫グロブリン型結合領域の存在にもかかわらず、これらの細胞標的化分子の細胞毒性を損なわせなかったことを示す。これらの比較的大きいカルボキシ末端部分は、志賀毒素A1断片エフェクターポリペプチド領域のカルボキシ末端をカバーしており、志賀毒素A1断片エフェクターポリペプチドを小胞体膜内の標的生体分子に繋留するように有害に機能することがあり、又は中毒細胞のサイトゾルへのA1断片エフェクターポリペプチドの効率的細胞内経路決定に重要な意味をもつ分子メカニズムに別様に干渉することがあった。実施例は、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド内のプロテアーゼ切断感受性、表面露出ループのフューリン切断を破壊する変異が、イン
ビボ忍容性が改善された上に、同時に、野生型、志賀毒素A1断片領域を含む細胞標的化分子と同様に強力で効率的な志賀毒素細胞毒性を保持する、細胞標的化分子の工学的作製を可能ならしめたことも示す。
【実施例0390】
フューリン耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む細胞毒性、細胞標的化分子(SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2)
フューリン耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを、各々が細胞標的化、免疫グロブリン型、結合領域をさらに含む細胞標的化分子の成分として生成し、試験した。志賀毒素エフェクターポリペプチドを工学的に操作してプロテアーゼ耐性にするために、SLT-1Aのアミノ酸1~251を含む、志賀様毒素1のAサブユニット(SLT-1A,A subunit of Shiga-like Toxin 1)に由来する志賀毒素エフェクターポリ
ペプチドに、2つのアミノ酸残基置換、R248A及びR251A、を導入した。このフューリン切断耐性R248A及びR251A二重変異構築物を、本明細書では(SLT-1Aフューリン耐性(SLT-1A furin resistant)にちなんで)「SLT-1A-FR」と呼ぶ。本明細書では「SLT-1A-FR-2」と呼ぶ、第2のフューリン切断耐性変異型構築物は、単一残基置換R248Aで生じさせた。本明細書では「SLT-1A-FR-3」と呼ぶ、第3のフューリン切断耐性変異型構築物は、単一残基置換R251Aを含む。フューリンコンセンサスモチーフ領域240~256のコアにある最小、フューリンプロテアーゼ、切断部位R-x-x-Rの変異は、フューリン並びに他のプロテアーゼ、例えばプロタンパク質転換酵素及び無差別なプロテアーゼなど、によるタンパク質分解に対するこの領域の感受性を破壊すると予想された。フューリン切断部位のR248A/R251A破壊を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドSLT-1A-FRを使用して、例示的細胞標的化分子を生成した。
【0391】
破壊されたフューリン切断部位を含む触媒性志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド領域と細胞標的化結合領域とを各々が含むように、例示的細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2を構築した。SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2における志賀毒素エフェクターポリペプチドを、比較的に大きい、カルボキシ末端結合領域に融合させた。SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2を細菌系で産生し、カラムクロマトグラフィーによって精製した。結合領域scFv-1及びscFv-2は、各々が特定のヒトがん細胞の表面に物理的に結合している特定の細胞表面、標的生体分子とはもちろん、特定のヒトがん細胞とも高親和性で結合する、一本鎖可変断片であった。
【0392】
SLT-1A-FRを含む例示的細胞標的化分子のフューリンによるタンパク質分解感受性の試験
フューリン切断を破壊するためにプロテアーゼ切断感受性領域240~256を変異させた後の志賀毒素エフェクターポリペプチドのフューリン切断感受性を、カルボキシ末端、細胞標的化結合領域を含む融合タンパク質の分子環境で試験した。SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2を切断するフューリンの能力を評価するために、リン酸緩衝食塩水(PBS,phosphate buffered saline)中の精製
タンパク質試料を、フューリン切断緩衝液(100ミリモル(mM)HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、pH7、1mM CaCl
2)中の1マイクログラム(μg)の試料タンパク質当たり0.5フューリン活性単位(U)のフューリン(New England Biolabs社、Ipswich、MA、U.S.)とともに、25~30時間(hrs)、摂氏30又は37度(℃)でインキュベートした。対照試料は、フューリンなしで、4、30又は37℃で、同じ緩衝液中でインキュベートした。変性条件下
でドデシル硫酸ナトリウム(SDS,sodium dodecyl sulfate)、ポリアクリルアミドゲルを用いて様々なタンパク質試料を電気泳動させ、クーマシーで染色した(
図2及び3)。
【0393】
図2及び3は、レーンに番号を付けたゲルの写真を示し、どのタンパク質試料:野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチド(SLT-1A-WT)を含む細胞標的化タンパク質、又はフューリン切断部位が破壊された志賀毒素エフェクターポリペプチド(SLT-1A-FR若しくはSLT-1A-FR-2)を含む細胞標的化タンパク質のいずれか、をどのレーンに負荷したかを示す図の説明文を含む。「L」と記されたレーンは、番号が付いているレーンのタンパク質のサイズの推定を可能にする分子量内部基準として使用するための個々のラダータンパク質バンドの近似的サイズ(kDa)とともに、タンパク質分子量ラダーの泳動パターンを示す。図の説明文は、タンパク質試料の前処理条件を、摂氏度(℃)での温度、継続時間、及びマイクログラム当たりのフューリン活性単位の量(「U/μg」と表示)又はゼロ単位については「フューリンなし」を示すことによって何らかのフューリンを添加したかどうかに関して示す。
【0394】
図2及び3は、SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2がヒトフューリンによる切断に対して耐性であったことを示す。このアッセイで試験した細胞標的化タンパク質は、両方ともサイズ約55~57kDaであり、ともにサイズ約28~29kDaであるカルボキシ末端リンカー及び結合領域に連結された約28kDaの志賀毒素エフェクターポリペプチド(サイズはSLT-1A-WTとSLT-1A-FR両方について同一)を含んだ。フューリン切断がSLT-1Aの表面に露出された伸長ループ242~251で起こった場合には、予想される結果は、各々約28kDのほぼ同じ分子量を有する2つのタンパク質バンドであった。フューリン切断が、SLT-1A-WT::scFv-1又はSLT-1A-WT::scFv-2におけるWT足場の251位のアルギニンのカルボキシペプチド結合でまさに起こった場合には、結果として得られる2つのタンパク質バンドは、SLT-1A(WT又はFRいずれか)についての27.5kDaの分子量と、SLT-1A-FR::scFv-1についての28.8kDa又はSLT-1A-FR::scFv-2についての27.6kDaの第2のバンドとを有するはずであった。
【0395】
図2は、SLT-1A-FR::scFv-1がこのアッセイにおいて試験した条件下でヒトフューリンによってインビトロでタンパク質分解されなかったことを示す。予想通り、野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む対照タンパク質SLT-1A-WT::scFv-1はヒトフューリンによって切断された(
図2)が、SLT-1A-FR::scFv-1は耐性であった(
図2のレーン3と6を比較されたい)。
【0396】
SLT-1A-FR::scFv-2もこのアッセイにおいていくつかの異なる温度でフューリン切断に対して耐性であった(
図3)。
図3は、SLT-1A-FR::scFv-2がこのアッセイにおいて試験した条件下で、例えば、4°~37℃の範囲の温度で、ヒトフューリンによってインビトロでタンパク質分解されなかったことを示す。
【0397】
加えて、細胞標的化融合タンパク質SLT-1A-FR-2::scFv-2は、このアッセイにおいて4℃でフューリン切断に対して耐性であった。
【0398】
このインビトロフューリン切断アッセイを使用して、志賀毒素エフェクターポリペプチド領域内の248~251を除いて、例えばSLT-1A成分における220~223の領域に天然に位置するフューリン切断部位などのいずれのフューリン切断部位でも細胞標的化融合タンパク質のフューリンによるタンパク質分解は観察されなかった。
【0399】
したがって、フューリンコンセンサスモチーフ領域のコアにある最小、フューリンプロテアーゼ、切断部位R-x-x-Rの変異は、インビトロでのヒトフューリンによるタンパク質分解に対するこの領域の感受性を破壊した。
【0400】
SLT-1A-FRを含む細胞標的化分子のリボソーム阻害活性の試験
本発明の分子はすべて、少なくとも1つの志賀毒素Aサブユニットに由来する触媒ドメインを含む。インビトロリボソーム阻害アッセイを使用して、フューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドSLT-1A-FRの酵素活性を試験した。SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2を使用して、カルボキシ末端、細胞標的化結合領域の分子環境で、SLT-1A-FRのリボソーム不活性化活性を試験した。
【0401】
TNT(登録商標)Quick CoupledTranscription/Translationキット(L1170 Promega社
、Madison、WI、U.S.)を使用する無細胞、インビトロ、タンパク質翻訳アッセイを用い
てSLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2のリボソーム不活性化能力を判定した。このキットには、Luciferase T7 Control DNA(L4821 Promega社、Madison、WI、U.S.)及びTNT(登録商標)Quick Master Mixが含まれる。リボソーム活性反応は製造業者の説明書に従って調製した。試験した細胞標的化分子(SLT-1A-WT又はSLT-1A-FRのいずれかを含むタンパク質)の10倍系列希釈物を適切な緩衝液で調製し、各希釈度について一連の同じTNT反応混合物成分を生成した。希釈系列中の各試料は、Luciferase T7 Control DNAと共に各TNT反応混合物と合わせた。被験試料を30℃で1.5時間インキュベートした。インキュベーション後、Luciferase Assay試薬(Catalog # E1483、 Promega社.、Madison、WI、U.S.)を全ての被験試料
に添加し、ルシフェラーゼタンパク質翻訳量を製造業者の説明書に従って発光により測定した。
【0402】
翻訳阻害のレベルを、相対発光単位に対する総タンパク質の対数変換された濃度の非線形回帰分析により決定した。統計ソフトウェア(GraphPad Prism社、San Diego、CA、U.S.)を用いて、見出し用量応答阻害の下でlog(阻害剤)対応答(3つのパラメータ)
のPrismソフトウェア関数[Y=最低値+((最高値-最低値)/(1+10^(X-L
ogIC50)))]を用いて最大半量阻害濃度(IC50)値を各試料について計算した。
【0403】
1回又は2回以上の実験からのフューリン切断耐性志賀毒素エフェクターポリペプチド(SLT-1A-FR)領域及び野生型(WT)対照タンパク質を含む各タンパク質についてのIC50を計算した。それを表1に示す。フューリン切断耐性SLT-1A-FRを含む構築物は、野生型SLT-1 A1断片(SLT-1A1-WT)などの野生型対照に匹敵する強力なリボソーム阻害を示した(表1)。SLT-1A-FR::scFv-1とSLT-1A-FR::scFv-2の両方が、野生型、志賀毒素A1断片に匹敵するリボソーム不活性化活性をインビトロで示した。
【0404】
【0405】
例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2の細胞毒性の試験
プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドSLT-1A-FRを含む例示的細胞標的化分子の細胞毒性を、当業者に公知の細胞殺滅アッセイを使用して判定した。特異的細胞毒性は、標的発現細胞に対する例示的細胞標的化分子の細胞毒性を非標的化、野生型、志賀毒素エフェクター対照(SLT-1A-WT)の細胞毒性と比較することによって判定した。選択的細胞毒性は、標的発現細胞に対する細胞毒性を、細胞標的化分子の結合領域の標的生体分子を発現しない細胞に対する細胞毒性と比較することによって、判定した。scFv-1又はscFv-2の細胞外標的生体分子の有意な量を少なくとも1つの細胞表面で発現した細胞、すなわち、結合領域標的生体細胞陽性であった細胞を選択した(細胞株A、B、C及びDは、scFv-1の標的について陽性であり、細胞株E、F及びGは、scFv-2の標的について陽性であった)。いずれの細胞表面でもscFv-1の有意な量の細胞外標的生体分子を発現しなかった、及び/又はいずれの細胞表面でもscFv-2の有意な量の細胞外標的生体分子を発現しなかった細胞、すなわち、結合領域scFv-1及びscFv-2の一方又は両方のいずれの標的についても標的生体分子陰性であった細胞を選択した。
【0406】
野生型SLT-1A(SLT-1A-WT)又はフューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド(SLT-1A-FR)のいずれかを含むほぼ同一の細胞標的化タンパク質の細胞毒性を直接比較して、フューリン切断耐性をもたらす2つの点変異に起因する細胞毒性のあらゆる差を特定した。比較的大きい部分によってカルボキシ末端がカバーされているSLT-1A-FRを含む細胞標的化分子の細胞毒性は、特にエンドプロテアーゼフューリンによる、タンパク質切断によってカルボキシ末端部分から遊離されうるSLT-1A-WTを含む細胞標的化分子と比較して低減されると予想された(Lea N et al., Microbiology 145: 999-1004 (1999)を参照されたい)。
【0407】
例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2についての細胞毒性、特異的細胞毒性及び相対細胞毒性を、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子と比較した。
【0408】
特定のヒト腫瘍細胞(細胞株A~Gの細胞を含む)を384ウェルプレートの20マイクロリットル(μL)細胞培養培地に播種した(接着細胞についてはウェル当たり2×103細胞をタンパク質添加の前日に播種した、又は浮遊細胞についてはウェル当たり7.
5×103細胞をタンパク質添加と同じ日に播種した)。試験すべき細胞標的化分子の10倍系列希釈物を適切な緩衝液で調製し、5μLの希釈物又は緩衝液対照を細胞に添加した。細胞培養培地のみを含む対照ウェルをベースライン補正に使用した。細胞試料を細胞標的化分子又は緩衝液のみとともに3日間、37℃で、5パーセント(%)二酸化炭素(CO2)雰囲気で、インキュベートした。特定の実験では、細胞試料を細胞標的化分子又は緩衝液のみとともに1時間又は2時間インキュベートした。次いで、内在化していない細胞標的化分子を、緩衝液洗浄を用いて洗浄除去した。全細胞生存又は生存率を、製造業者の説明書に従って、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Catalog#G7573、 Promega社.、Madison、WI、U.S.)を用いる発光読み出しを用いて決定
した。
【0409】
実験ウェルの生存率を、以下の式:(試験RLU-平均培地RLU)/(平均細胞RLU-平均培地RLU)*100を用いて計算した。Logポリペプチド濃度対生存率を、Prism(GraphPad Prism社、San Diego、CA、U.S.)中にプロットし、log(阻害剤)対応答(3つのパラメーター)分析を用いて、被検タンパク質に関する最大半量細胞毒性濃度(CD50)値を決定した。プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチド又は野生型対照、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む各細胞標的化タンパク質についてのCD50を計算した。
【0410】
標的を発現する複数のヒト腫瘍細胞株に対するSLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2の細胞毒性を、ナノモル(nM)の細胞標的化タンパク質濃度での半数細胞毒性値(CD
50)として表2に示す。驚くべきことに、志賀毒素A1断片を他のすべての部分、例えば、細胞標的化、結合領域及び4.5kDa A2断片などから効率的に遊離できないときは常にそうなると予想された、SLT-1AFRを含む細胞標的化タンパク質についての細胞毒性の顕著な低減(Garred O et al.,Exp
Cell Res 218: 39-49 (1995)、Garred O et al., J Biol Chem 270: 10817-21 (1995)、LeaN et al.,Microbiology 145: 999-1004 (1999)、Kurmanova A et al., Biochem BiophysRes Commun 357: 144-9 (2007)を参照されたい)ではなく、SLT-1A-WTを
含む細胞標的化タンパク質とSLT-1A-FRを含む細胞標的化タンパク質の両方が同様の細胞毒性を示した(
図4~5、表2)。
【0411】
【0412】
SLT-1A-FRを含む細胞標的化タンパク質についてのCD
50値は、SLT-1A-WTを含む細胞標的化タンパク質についてのCD
50値に匹敵した(表2)。SLT-1A-WTを含む細胞標的化タンパク質とSLT-1A-FRを含む細胞標的化タンパク質は両方とも、標的発現細胞を強力に殺滅したが、同じ投薬量で、同等の百分率の標的陰性細胞を殺滅しなかった(試験した最高濃度で細胞生存率の大幅な減少がなければ正確な曲線を生成できなかったので、標的陰性細胞のCD
50値はこれらのデータの役に立たなかった)。表2に要約した結果は、細胞標的化分子の成分としてのSLT-1A-FR及びSLT-1A-WTの同等の細胞毒性を示す。SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2両方が、フューリン切断感受性、野生型、志賀毒素A1断片領域を含む関連細胞標的化分子と同様に細胞毒性であった。プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドSLT-1A-FRを含むタンパク質の特異的細胞毒性の一例を図示する:細胞毒性は、標的を発現するヒト腫瘍細胞に指向された(
図4)が、標的陰性のヒト腫瘍細胞には指向されなかった(
図5)。
【0413】
実験動物を使用する例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2のインビボ忍容性の試験
例示的、細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2(これらの各々が、フューリン切断耐性、志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチド領域を含む)の様々な投薬量に対する忍容性を試験した。マウスを使用して、例示的細胞標的化分子の様々な投薬量で明らかな有害作用が忍容される程度を判定した。インビボ有効性研究のための開始用量の情報を得るために最大耐用量の測定を目的として、マウス用量設定を用いて治療忍容性を判定した。忍容性研究は、表3に記載する4つの独立した研究で、Charles River Laboratories(Charles RiverLaboratories International社、Morrisville、NC、U.S.)において行った。研究ごとに、
重症複合免疫不全(SCID,severe combined immune deficiency)の雌C.B-17
SCIDマウスを、同様の平均体重を有する群に分けた。試験薬又はビヒクル対照を注射1回につき体重1キログラム当たり0.25~5.00ミリグラム(mg/kg/inj)の範囲の用量でマウスに投与し、1又は2週間、週に3回、注射を投与した。研究を通して体重及び臨床徴候をモニターした。実験動物を使用するインビボ忍容性研究の結果を表3に要約する。表3は、群当たりのマウスの数、投与した試料、注射用量、マウス1匹当たりのkg当たりのmg(mg/kg/マウス)での累積投薬量、観察された治療関連死の数(死亡数)、及び群ごとの平均死亡日を示す。
【0414】
【0415】
研究#1では、細胞標的化分子SLT-1A-WT::scFv-1をビヒクル対照とともに試験した。マウスに、第1、3及び5研究日に、ビヒクル対照、1.25又は2.
50mg/kg/injのSLT-1A-WT::scFv-1を投与した。研究1において、SLT-1A-WT::scFv-1で治療したすべてのマウスには、3回目の投与の2日後に開始する治療関連死があった。研究#1では、1.25mg/kg/injのSLT-1A-WT::scFv-1を投与した群からのマウスは、第7、8、9及び10研究日に(1日にマウス1匹)死亡し、2.50mg/kg/injのSLT-1A-WT::scFv-1を投与した群からのマウスは、第7日(マウス3匹)及び第8日(マウス1匹)に死亡した。ビヒクル対照を投与した群のマウスはすべて、研究終了まで生存した。
【0416】
研究#2では、マウスに研究#1の場合と同様に、しかし5.00mg/kg/injのより高い最大用量で、SLT-1A-WT::scFv-1を投与した。研究#2において、研究#1の場合と同様にSLT-1A-WT::scFv-1を投与したマウスについては同様の結果が起こったが、研究#2において、2群のより高い用量群のマウスだけは、これらの群のマウスに対する治療関連死のために2回注射を受けた。
図6は、カプラン・マイヤープロットを使用してSLT-1A-WT::scFv-1を投与したマウス(研究#1)と比較したときの2.50mg/kg/injのSLT-1A-FR::scFv-1を投与した群からのマウス(研究#2)の生存の比較を示す。
【0417】
研究3では、マウスに、ビヒクル対照又は例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1を、研究#1の投薬レジメンと同様であるが、より低い0.25mg/kg/inj用量で投与した。マウスに、第1、3及び5研究日に、0.25、1.25又は2.50mg/kg/injのSLT-1A-FR::scFv-1を投与した。SLT-1A-FR::scFv-1を投与したすべてのマウスは、研究#3の終了まで生存した。体重の用量依存性減少が観察されたが、研究#3ではSLT-1A-FR::scFv-1についての最大耐用量は観察されなかった。最高被験投与群(2.50mg/kg/injのSLT-1A-FR::scFv-1の投与を受けた)は、わずか13.1%体重減少の最低点を有した。これらの結果は、SLT-1A-FR::scFv-1がインビボで0.25~2.50mg/kg/injの範囲の反復用量で十分に忍容されたことを実証する。これらの結果は、SLT-1A-FR::scFv-1が試験した条件下でSLT-1A-WT::scFv-1よりよく忍容されたことも実証する。
【0418】
研究4では、マウスに、ビヒクル対照又は例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2を0.25、1.00又は2.00mg/kg/注射で2週間、週3回(合計6用量)投与した。SLT-1A-FR::scFv-2を投与したすべてのマウスは、研究#4の終了まで生存し、研究過程で有害な臨床的観察は認められなかった。研究#4を第32日まで延長し、SLT-1A-FR::scFv-2を投与したマウスを含むすべての群について出発体重の80%より高い平均体重が観察された。これらの結果は、SLT-1A-FR::scFv-2がインビボで0.25~2.00mg/kg/injの範囲の反復用量で十分に忍容されたことを実証する。
【0419】
プロテアーゼ感受性、野生型、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子についての忍容性の結果(研究#1及び#2)と比較して、フューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む例示的細胞標的化分子は、0.25~2.50mg/kg/injの範囲の反復用量を伴う投薬で忍容性改善を示した(研究#3及び#4)。
【0420】
本発明のこれら2つの例示的細胞標的化分子について観察されたインビボ忍容性改善は、フューリン切断感受性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む親分子と比較して遙かに高い用量の本発明の細胞標的化分子を哺乳動物に安全に投与することができることを示唆している。
【0421】
野生型志賀毒素エフェクターポリペプチドを含むほぼ同一の細胞標的化分子と同等の細胞毒性を保持するにもかかわらず、フューリン切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドを含む例示的細胞標的化分子は、哺乳動物において忍容性の改善、すなわち、有害作用の低減に起因する毒性プロファイルの改善を示した。この毒性プロファイルの改善は、分子のプロテアーゼ耐性の全般的改善に関連した非特異的毒性の低減に起因する可能性がある。これらの結果は、フューリン切断モチーフの破壊が細胞標的化分子全体の安定性増加をもたらす可能性があることも示唆している。加えて、分子の耐タンパク質分解性は、その薬物動態プロファイル、生物への投与を改善させる可能性がある。
【0422】
動物モデルを使用するインビボでの例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2の標的化細胞毒性及び有効性の試験
ヒト腫瘍の播種性異種移植モデルを使用して、ヒト腫瘍担持マウスにおいて例示的、細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2のインビボ有効性を判定した。ルシフェラーゼを構成的に発現し、scFv-2の標的の細胞表面発現を提示するヒト腫瘍細胞を、この異種移植モデルに使用した。
【0423】
第0研究日に、重症複合免疫不全(SCID)のCB.17 SCIDマウスに200マイクロリットル(μL)PBS中の2.5x106hTum-Luc腫瘍細胞(Molecular Imaging社、Ann Arbor、MI、U.S.)を静脈内負荷した。確認生物発光画像(BLI,bioluminescent image)を細胞注射の5分後に撮影し、マウスを、各10匹(N=10マウス)の4群に分けた。腫瘍細胞負荷後、第0日(移植の1時間後)、第2日、第4日、第7日、第9日及び第11日に、4群のマウスは、腹腔内投与によってビヒクル対照(0mg/kg/inj)、又0.05、0.50若しくは2.00mg/kg/injの用量のSLT-1A-FR::scFv-2、いずれかを受けた。第14、18及び21日にCaliper IVIS 50光学イメージングシステム(Perkin Elmer社、Waltham、MA、U.S.)を使用して生物発光を測定した。
【0424】
例示的、細胞毒性、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2は、すべての投薬量レベルでマウスのヒト腫瘍量を低減させた。この研究の結果を
図7及び表4で報告する。この研究において、サンプルサイズ(n)は、4群すべてについて1群にマウス10匹であった。
図7は、ヒト腫瘍細胞のルシフェラーゼレポーター発現に基づく生物発光によって個々のマウスごとに経時的にアッセイしたときの腫瘍量を示す。個々のマウスを、グラフにプロットし各々の記号、すなわち白三角、黒三角、白丸又は黒四角、によって表す。Y軸は、腫瘍量を百万光子毎秒(光子/秒)で表す、個々のマウスの全生物発光シグナルであり、X軸は、注射1回につき体重1キログラム当たりSLT-1A-FR::scFv-2 0~2ミリグラムの範囲である、注射用量である。表4は、異なる時点(第14、18、21及び28研究日)での各群のマウス間の平均BLI及び平均値の標準誤差(SEM,standard error of the mean)を報告するものである。
【0425】
【0426】
これらの結果は、SLT-1A-FR::scFv-2が、ヒト腫瘍細胞を負荷したSCIDマウスのヒト腫瘍量を有意に低減させることができたことを示す。例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2を投与したマウスからなるすべての群は、ビヒクル対照と比較して有意に少ない全生物発光を示した(
図7及び表4)。この作用は、0.05~2.00mg/kg/injの範囲の投薬量のSLT-1A-FR::scFv-2を投与したマウスにおいて観察された(
図7及び表4)。0.05mg/kg/injのSLT-1A-FR::scFv-2を投与したマウスは、BLIによって測定して多少腫瘍増殖を示したが、0.50又は2.00mg/kg/injいずれかのSLT-1A-FR::scFv-2を投与したマウスは腫瘍増殖を提示しなった(表4、
図7)ので、観察された腫瘍阻害作用は用量依存性であった。
【0427】
これらの結果は、例示的細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2が、1)インビボで腫瘍増殖を阻害する点で有効であり、これが、2)フューリン切断感受性SLT-1A-WTを含む細胞標的化分子と同等の細胞毒性、及び3)SLT-1A-WTを含むほぼ同一の細胞標的化分子と比較してより高い用量で忍容性改善を示す点に加えて有効であったことを明示する。
【0428】
要約
最小フューリン切断モチーフR/Y-x-x-Rの変異を含む例示的、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2は、ヒトフューリンによってタンパク質分解されなかったが、野生型、志賀毒素Aサブユニット領域を含む細胞標的化タンパク質に匹敵する特異的細胞毒性を示した。例示的、細胞標的化分子SLT-1A-FR::scFv-2は、哺乳類モデルにおいてヒト腫瘍増殖を有効に阻害した。加えて、SLT-1A-FR::scFv-1及びSLT-1A-FR::scFv-2両方は、野生型、志賀毒素Aサブユニット領域を含む親分子と比較して忍容性改善を示した。
【0429】
フューリン切断を破壊する変異(R248A及び/又はR251A)を含む志賀毒素エフェクターポリペプチドを各々が含む、SLT-1A-FR::scFv-1、SLT-1A-FR::scFv-2及びSLT-1A-FR-2::scFv-2の特性は、志賀毒素Aサブユニット内の保存された表面露出ループ内のフューリン切断モチーフの他の破壊が、同じ特性、例えば、野生型、志賀毒素Aサブユニット領域を含む分子と同等の細胞毒性、及びインビボ毒性プロファイル改善などをもたらすことができることを示唆して
いる。
【0430】
志賀毒素Aサブユニットエフェクターポリペプチドを含む細胞標的化分子におけるR248A及びR251Aと同様の変異は、同様の構造及び機能をもたらすことができる。例えば、志賀毒素Aサブユニット内の保存された、フューリン切断、コンセンサスモチーフS-R/Y-x-x-Rを乱すいずれの変異もフューリン切断耐性をもたらす結果となるが、細胞毒性を乱さないであろう。特に、例えばA、G、P、S、T、D、E、Q、N、C、I、L、M、V、F、W及びYなどの、正電荷を欠く任意の非塩基性アミノ酸残基に対するアルギニンでのアミノ酸残基置換を用いて、本発明の分子の志賀毒素エフェクターポリペプチドの破壊されたフューリン切断モチーフを生成することができる。同様に、最小フューリン切断モチーフR/Y-x-x-Rを乱す、志賀毒素Aサブユニットの短縮化及びフューリン切断モチーフ内の内部欠失を用いて、同様の構造及び機能を有する志賀毒素エフェクターポリペプチドを生成することができる。
【0431】
要約すると、フューリン切断耐性、志賀毒素Aサブユニット由来ポリペプチドと28kDaより大きいカルボキシ末端近接モチーフとを使用して、細胞毒性の低減なく、細胞毒性分子を生成することができる。これは驚くべき発見である。なぜなら、志賀毒素は、最適な細胞毒性のために適切な細胞内区画内のこのフューリン切断部位でのタンパク質プロセッシングを必要とするからである(例えば、Garred O et al.,Exp Cell Res 218: 39-49 (1995)、Garred O et al., J Biol Chem 270: 10817-21 (1995)、LeaN et al., Microbiology 145: 999-1004 (1999)、Kurmanova A etal., Biochem Biophys Res Commun 357: 144-9 (2007)を参照されたい)。
プロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクター領域とCD20に特異的なカルボキシ末端結合領域とを含む細胞毒性、細胞標的化分子(αCD20と連結されたSLT-1A-FR)
本実施例における志賀毒素エフェクターポリペプチド領域は、志賀様毒素1のAサブユニット(SLT-1A)に由来するプロテアーゼ切断耐性、志賀毒素エフェクターポリペプチドである。免疫グロブリン型結合領域αCD20抗原は、ヒトCD20を認識する免疫グロブリン型ドメインに由来し(例えば、Haisma H et al.,Blood 92: 184-90 (1999)
、GengS et al., Cell Mol Immunol 3: 439-43 (2006)、Olafesn T et al.,ProteinEng
Des Sel 23:243-9 (2010)を参照されたい)、CD20の細胞外部分に結合することができる免疫グロブリン型結合領域を含む。CD20は、B細胞リンパ腫細胞、有毛細胞白血病細胞、B細胞慢性リンパ球性白血病細胞、及びメラノーマ細胞などの複数のがん細胞型で発現する。さらに、CD20はいくつかの自己免疫疾患、障害、及び過活動B細胞を含む状態を治療するための治療学への魅力的な標的である。
細胞毒性分子SLT-1A-FR::αCD20のリボソーム不活性化能力を、前記の実施例において上記のように、無細胞のインビトロでのタンパク質翻訳において決定する。無細胞タンパク質合成に対する本実施例の細胞毒性分子の阻害効果は有意である。この無細胞アッセイにおけるタンパク質合成に対するSLT-1A-FR::αCD20のIC50は約0.1~100pMである。