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特開2022-88643多能性幹細胞製造システム、幹細胞の誘導方法、幹細胞の浮遊培養方法、幹細胞の浮遊培養器、人工多能性幹細胞の作製方法、及び動物細胞から特定の体細胞を作製する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088643
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】多能性幹細胞製造システム、幹細胞の誘導方法、幹細胞の浮遊培養方法、幹細胞の浮遊培養器、人工多能性幹細胞の作製方法、及び動物細胞から特定の体細胞を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220607BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20220607BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220607BHJP
   C12N 1/04 20060101ALN20220607BHJP
   C12N 15/88 20060101ALN20220607BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20220607BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220607BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20220607BHJP
   C12N 5/079 20100101ALN20220607BHJP
【FI】
C12M3/00 Z ZNA
C12N5/074
C12N5/10
C12N1/04
C12N15/88 Z
C12N5/0789
C12N15/12
C12N5/0735
C12N5/079
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022063287
(22)【出願日】2022-04-06
(62)【分割の表示】P 2018510722の分割
【原出願日】2016-08-30
(31)【優先権主張番号】62/356,199
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2015170797
(32)【優先日】2015-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.トライトン
(71)【出願人】
【識別番号】515238909
【氏名又は名称】田邊 剛士
(71)【出願人】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】ケリー ブランダン
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健太
(57)【要約】
【課題】幹細胞を製造可能な幹細胞製造システムを提供する。
【解決手段】 細胞を含む溶液が通過する導入前細胞送液路20と、導入前細胞送液路2
0内に多能性誘導因子を送る誘導因子送液機構21と、導入前細胞送液路20に接続され
、細胞に多能性誘導因子を導入して誘導因子導入細胞を作製する因子導入装置30と、誘
導因子導入細胞を培養して幹細胞からなる複数の細胞魂を作製する細胞塊作製装置40と
、複数の細胞塊のそれぞれを順次パッケージするパッケージ装置100と、を備える幹細
胞製造システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む溶液が通過する導入前細胞送液路と、
前記導入前細胞送液路内に多能性誘導因子を送る誘導因子送液機構と、
前記導入前細胞送液路に接続され、前記細胞に前記多能性誘導因子を導入して誘導因子
導入細胞を作製する因子導入装置と、
前記誘導因子導入細胞を培養して幹細胞からなる複数の細胞魂を作製する細胞塊作製装
置と、
前記複数の細胞塊のそれぞれを順次パッケージするパッケージ装置と、
前記導入前細胞送液路、前記誘導因子送液機構、前記因子導入装置、前記細胞塊作製装
置、及び前記パッケージ装置を格納する容器と、
を備える、幹細胞製造システム。
【請求項2】
血液から細胞を分離する分離装置を更に備え、
前記分離装置で分離された細胞を含む溶液が前記導入前細胞送液路を通過する、
請求項1に記載の幹細胞製造システム。
【請求項3】
前記細胞塊作製装置が、
前記因子導入装置で作製された誘導因子導入細胞を培養する初期化培養装置と、
前記初期化培養装置で樹立された幹細胞からなる細胞塊を複数の細胞塊に分割する第1
の分割機構と、
前記第1の分割機構で分割された複数の細胞塊を拡大培養する拡大培養装置と、
前記拡大培養装置で拡大培養された幹細胞からなる細胞塊を複数の細胞塊に分割する第
2の分割機構と、
前記複数の細胞魂を前記パッケージ装置に順次送る細胞魂搬送機構と、
を備える、請求項1又は2に記載の幹細胞製造システム。
【請求項4】
前記初期化培養装置が、前記誘導因子導入細胞に培養液を補給する第1の培養液補給装
置を備え、
前記拡大培養装置が、前記複数の細胞塊に培養液を補給する第2の培養液補給装置を備
える、
請求項3に記載の幹細胞製造システム。
【請求項5】
前記初期化培養装置で培養される細胞を撮影する初期化培養撮影装置と、
前記拡大培養装置で培養される細胞を撮影する拡大培養撮影装置と、
を更に備え、
前記初期化培養装置及び前記拡大培養装置で無色の培養液を使用する、請求項3又は4
に記載の幹細胞製造システム。
【請求項6】
前記導入前細胞送液路の内壁が、細胞非接着性である、請求項1から5のいずれか1項
に記載の幹細胞製造システム。
【請求項7】
前記導入前細胞送液路と、前記誘導因子送液機構と、が、基板上に設けられている、請
求項1から6のいずれか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項8】
前記パッケージ装置が、ペルチェ素子又は液体窒素を用いて前記細胞塊を凍結する、請
求項1から7のいずれか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項9】
前記容器内の気体を清浄にする空気清浄装置を更に備える、請求項1から8のいずれか
1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項10】
前記容器内の気体の温度を管理する温度管理装置を更に備える、請求項1から9のいず
れか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項11】
前記容器内の気体の二酸化炭素濃度を管理する二酸化炭素濃度管理装置を更に備える、
請求項1から10のいずれか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項12】
前記容器内を乾熱滅菌又はガス滅菌する滅菌装置を更に備える、請求項1から11のい
ずれか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項13】
前記誘導因子送液機構、前記因子導入装置、前記細胞塊作製装置、及び前記パッケージ
装置が、サーバーによって作業手順に基づいて制御され、前記サーバーが、前記誘導因子
送液機構、前記因子導入装置、前記細胞塊作製装置、及び前記パッケージ装置が前記作業
手順に基づいて稼働しているか否か監視し、稼働記録を作成する、請求項1から12のい
ずれか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項14】
前記パッケージ装置が、気化圧縮又は気化吸収により前記細胞塊を凍結する、請求項1
から7のいずれか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項15】
前記幹細胞に誘導因子を導入し、体細胞に分化させる装置をさらに備える、請求項1か
ら14のいずれか1項に記載の幹細胞製造システム。
【請求項16】
ゲル培地で浮遊培養されている体細胞を幹細胞へ誘導することを含む、幹細胞の誘導方
法。
【請求項17】
前記ゲル培地が攪拌されない、請求項16に記載の幹細胞の誘導方法。
【請求項18】
前記ゲル培地が、脱アシル化ジェランガムでゲル化されている、請求項16又は17に
記載の幹細胞の誘導法。
【請求項19】
前記ゲル培地が、成長因子を含まない、請求項16から18のいずれか1項に記載の幹
細胞の誘導法。
【請求項20】
前記ゲル培地が、成長因子を40重量%以下の濃度で含む、請求項16から18のいず
れか1項に記載の幹細胞の誘導法。
【請求項21】
前記ゲル培地が、bFGFを含まない、請求項16から18のいずれか1項に記載の幹
細胞の誘導法。
【請求項22】
前記ゲル培地が、ヒトES/iPS培地を含む、請求項16から21のいずれか1項に
記載の幹細胞の誘導法。
【請求項23】
成長因子を含まないゲル培地で幹細胞を浮遊培養することを含む、幹細胞の浮遊培養方
法。
【請求項24】
成長因子を40重量%以下の濃度で含むゲル培地で幹細胞を浮遊培養することを含む、
幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項25】
bFGFを含まないゲル培地で幹細胞を浮遊培養することを含む、幹細胞の浮遊培養方
法。
【請求項26】
bFGFを400μg/L以下の濃度で含むゲル培地で幹細胞を浮遊培養することを含
む、幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項27】
前記ゲル培地が攪拌されない、請求項23から26のいずれか1項に記載の幹細胞の浮
遊培養方法。
【請求項28】
前記ゲル培地が、脱アシル化ジェランガムでゲル化されている、請求項23から27の
いずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項29】
前記ゲル培地が、ROCK阻害剤を含む、請求項23から28のいずれか1項に記載の
幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項30】
前記ゲル培地における前記幹細胞の濃度が、0.1×105個/mL以上である、請求
項23から27のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項31】
前記浮遊培養することの前に、
前記幹細胞をシングルセルに分解することと、
シングルセルに分解された前記幹細胞を、前記ゲル培地に入れることと、
を更に含む、請求項23から28のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項32】
前記浮遊培養することにおいて、前記シングルセルがクローナリティを保ったままコロ
ニーを形成する、請求項31に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項33】
前記浮遊培養することの前に、
格子プレートを用いて幹細胞を懸滴型培養してコロニーを形成させることと、
形成されたコロニーを前記ゲル培地に入れることと、
を更に含む、請求項23から30のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項34】
前記幹細胞が未分化の状態を保ったまま増殖する、請求項23から33のいずれか1項
に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項35】
前記ゲル培地が、ヒトES/iPS培地を含む、請求項23から34のいずれか1項に
記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項36】
幹細胞とゲル培地が入れられる透析チューブと、
前記透析チューブが入れられ、前記透析チューブの周囲にゲル培地が入れられる容器と

を備える、幹細胞の浮遊培養器。
【請求項37】
前記透析チューブの分画分子量が0.1kDa以上である、請求項36に記載の幹細胞
の浮遊培養器。
【請求項38】
前記透析チューブがセルロースエステル、セルロースエステル類、再生セルロース、及
びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなる、請求項36又は37に
記載の幹細胞の浮遊培養器。
【請求項39】
透析チューブに幹細胞とゲル培地を入れることと、
容器に前記透析チューブを入れることと、
前記容器内の前記透析チューブの周囲にゲル培地を入れることと、
前記透析チューブ内のゲル培地で幹細胞を浮遊培養することと、
を含む、幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項40】
前記透析チューブの分画分子量が0.1kDa以上である、請求項39に記載の幹細胞
の浮遊培養方法。
【請求項41】
前記透析チューブがセルロースエステル、セルロースエステル類、再生セルロース、及
びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなる、請求項39又は40に
記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項42】
前記透析チューブの周囲のゲル培地にROCK阻害剤が添加されている、請求項39か
ら41のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項43】
前記ゲル培地が攪拌されない、請求項39から42のいずれか1項に記載の幹細胞の浮
遊培養方法。
【請求項44】
前記ゲル培地が、脱アシル化ジェランガムでゲル化されている、請求項39から43の
いずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項45】
前記ゲル培地が、成長因子を含まない、請求項39から44のいずれか1項に記載の幹
細胞の浮遊培養方法。
【請求項46】
前記ゲル培地が、成長因子を40重量%以下の濃度で含む、請求項39から44のいず
れか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項47】
前記ゲル培地が、bFGFを含まない、請求項39から44のいずれか1項に記載の幹
細胞の浮遊培養方法。
【請求項48】
前記ゲル培地における前記幹細胞の濃度が、0.1×105個/mL以上である、請求
項39から47のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項49】
前記浮遊培養することの前に、
前記幹細胞をシングルセルに分解することと、
シングルセルに分解された前記幹細胞を、前記ゲル培地に入れることと、
を更に含む、請求項39から48のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項50】
前記浮遊培養することにおいて、前記シングルセルがクローナリティを保ったままコロ
ニーを形成する、請求項49に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項51】
前記浮遊培養することの前に、
格子プレートを用いて幹細胞を懸滴型培養してコロニーを形成させることと、
形成されたコロニーを前記ゲル培地に入れることと、
を更に含む、請求項39から50のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項52】
前記幹細胞が未分化の状態を保ったまま増殖する、請求項39から51のいずれか1項
に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項53】
前記容器内の前記透析チューブの周囲のゲル培地を新鮮なゲル培地に交換することを更
に含む、請求項39から52のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項54】
前記容器内の前記透析チューブの周囲のゲル培地に新鮮なゲル培地を補充することを更
に含む、請求項39から53のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項55】
前記透析チューブ内のゲル培地を交換しない、請求項39から54のいずれか1項に記
載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項56】
前記ゲル培地が、ヒトES/iPS培地を含む、請求項39から55のいずれか1項に
記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項57】
透析チューブに体細胞とゲル培地を入れることと、
容器に前記透析チューブを入れることと、
前記容器内の前記透析チューブの周囲にゲル培地を入れることと、
前記透析チューブ内のゲル培地で前記浮遊している体細胞を幹細胞に誘導することと、
を含む、幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項58】
前記透析チューブの分画分子量が0.1kDa以上である、請求項57に記載の幹細胞
の浮遊誘導方法。
【請求項59】
前記透析チューブが、セルロースエステル、セルロースエステル類、再生セルロース、
及びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなる、請求項57又は58
に記載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項60】
前記ゲル培地が攪拌されない、請求項57から59のいずれか1項に記載の幹細胞の浮
遊誘導方法。
【請求項61】
前記ゲル培地が、脱アシル化ジェランガムでゲル化されている、請求項57から60の
いずれか1項に記載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項62】
前記ゲル培地が、成長因子を含まない、請求項57から61のいずれか1項に記載の幹
細胞の浮遊誘導方法。
【請求項63】
前記ゲル培地が、bFGFを含まない、請求項57から62のいずれか1項に記載の幹
細胞の浮遊誘導方法。
【請求項64】
前記浮遊培養することの前に、
前記体細胞をシングルセルに分解することと、
シングルセルに分解された前記体細胞を、前記ゲル培地に入れることと、
を更に含む、請求項57から63のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項65】
前記浮遊培養することにおいて、前記シングルセルがクローナリティを保ったままコロ
ニーを形成する、請求項64に記載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項66】
前記容器内の前記透析チューブの周囲のゲル培地を新鮮なゲル培地に交換することを更
に含む、請求項57から65のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項67】
前記容器内の前記透析チューブの周囲のゲル培地に新鮮なゲル培地を補充することを更
に含む、請求項57から66のいずれか1項に記載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項68】
前記透析チューブ内のゲル培地を交換しない、請求項57から67のいずれか1項に記
載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項69】
前記ゲル培地が、ヒトES/iPS培地を含む、請求項57から68のいずれか1項に
記載の幹細胞の浮遊誘導方法。
【請求項70】
体細胞を用意することと、
前記体細胞に初期化因子RNAをリポフェクション法により導入することと、を含む、
人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項71】
前記体細胞が血液細胞である、請求項70に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項72】
前記血液細胞が単核球細胞である、請求項71に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項73】
前記血液細胞が血液幹前駆細胞である、請求項71に記載の人工多能性幹細胞の作製方
法。
【請求項74】
前記血液細胞がCD34陽性である、請求項71から73のいずれか1項に記載の人工
多能性幹細胞の作製方法。
【請求項75】
前記血液細胞がCD34陽性であることを条件に分離された血液細胞である、請求項7
1から74のいずれか1項に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項76】
前記血液細胞がCD3陽性である、請求項71又は72に記載の人工多能性幹細胞の作
製方法。
【請求項77】
前記血液細胞がCD3陽性であることを条件に分離された血液細胞である、請求項71
、72、及び76のいずれか1項に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項78】
前記初期化因子RNAが、Oct3/4のmRNA、Sox2のmRNA、Klf4の
mRNA、及びc-MycのmRNAを含む、請求項70から77のいずれか1項に記載
の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項79】
前記初期化因子RNAが、GLIS1のmRNA、FOXH1のmRNA、L-MYC
のmRNA、及びp53-dnのmRNAからなる群から選択される少なくとも一つを更
に含む、請求項78に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項80】
前記初期化因子RNAが、LIN28AのmRNA又はLIN28BのmRNAを更に
含む、請求項78又は79に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項81】
前記初期化因子RNAのリポフェクションに、siRNAのリポフェクション試薬又は
mRNAのリポフェクション試薬を用いる、請求項70から80のいずれか1項に記載の
人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項82】
前記初期化因子RNAのリポフェクションに、Lipofectamine(登録商標
)RNAiMAXトランスフェクション試薬、Lipofectamine(登録商標)
MessengerMAXトランスフェクション試薬、Stemfect(登録商標)R
NAトランスフェクション試薬、及びReproRNA(登録商標)トランスフェクショ
ン試薬から選択される少なくとも一つを用いる、請求項70から81のいずれか1項に記
載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項83】
前記初期化因子RNAのリポフェクションの際の前記血液細胞数が1から1×108
ある、請求項71から77のいずれか1項に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項84】
前記初期化因子RNAのリポフェクションの際の前記初期化因子RNAの量が1回あた
り5ngから50μgである、請求項71から77、及び83のいずれか1項に記載の人
工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項85】
前記初期化因子RNAのリポフェクションの際のリポフェクション試薬の量が1回あた
り0.1μLから500μLである、請求項71から77、83、及び84のいずれか1
項に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項86】
前記初期化因子RNAのリポフェクションを1回あたり0.1時間以上24時間以下行
う、請求項71から77、及び83から85のいずれか1項に記載の人工多能性幹細胞の
作製方法。
【請求項87】
前記初期化因子RNAのリポフェクションを複数回行う、請求項71から77、及び8
3から86のいずれか1項に記載の人工多能性幹細胞の作製方法。
【請求項88】
前記初期化因子RNAのリポフェクションの際に用いられる培地がOpti-MEM(
登録商標)である、請求項70から87のいずれか1項に記載の人工多能性幹細胞の作製
方法。
【請求項89】
血液から、フィルターを用いて前記単核球細胞を分離することを更に含む、請求項72
に記載の方法。
【請求項90】
動物細胞を用意することと、
前記動物細胞に誘導因子RNAをリポフェクションにより導入し、体細胞に分化させる
ことと、
を含む、動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項91】
前記動物細胞が幹細胞である、請求項90に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製す
る方法。
【請求項92】
前記幹細胞が人工多能性幹細胞である、請求項91に記載の動物細胞から特定の体細胞
を作製する方法。
【請求項93】
前記幹細胞がiPS細胞である、請求項91又は92に記載の動物細胞から特定の体細
胞を作製する方法。
【請求項94】
前記幹細胞が胚性幹細胞である、請求項91に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製
する方法。
【請求項95】
前記動物細胞がヒト繊維芽細胞である、請求項90に記載の動物細胞から特定の体細胞
を作製する方法。
【請求項96】
前記動物細胞が血液細胞である、請求項90に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製
する方法。
【請求項97】
前記誘導因子RNAが、薬剤耐性遺伝子に対応するmRNAを含む、請求項90から9
6のいずれか1項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項98】
前記リポフェクションの後、前記薬剤耐性を示す細胞を選択することを含む、請求項9
7に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項99】
前記誘導因子RNAが、ピューロマイシン耐性遺伝子に対応するmRNAを含む、請求
項90から98のいずれか1項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項100】
前記リポフェクションの後、前記ピューロマイシン耐性を示す細胞を選択することを含
む、請求項99に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項101】
前記体細胞が神経系細胞である、請求項90から100のいずれか1項に記載の動物細
胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項102】
前記誘導因子RNAがNgn2のmRNAを含む、請求項90から101のいずれか1
項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項103】
前記誘導された神経系細胞がNgn2陽性である、請求項90から102のいずれか1
項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項104】
前記誘導された神経系細胞がβ-IIITubulin、MAP2、PsA-NCAM、
又はvGlut陽性である、請求項90から103のいずれか1項に記載の動物細胞から
特定の体細胞を作製する方法。
【請求項105】
前記誘導因子RNAのリポフェクションに、メッセンジャーマックス(登録商標)を用
いる、請求項90から104のいずれか1項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製す
る方法。
【請求項106】
前記誘導因子RNAのリポフェクションの際の前記細胞の数が1×104から1×108
である、請求項90から105のいずれか1項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製
する方法。
【請求項107】
前記誘導因子RNAのリポフェクションの際の前記誘導因子RNAの量が1回あたり2
00ngから5000ngである、請求項90から106のいずれか1項に記載の動物細
胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項108】
前記誘導因子RNAのリポフェクションの際のリポフェクション試薬の量が1回あたり
0.1μLから100μLである、請求項90から107のいずれか1項に記載の動物細
胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項109】
前記誘導因子RNAのリポフェクションの際に用いられる培地がOpti-MEM(登
録商標)である、請求項90から108のいずれか1項に記載の幹細胞を含む動物細胞か
ら動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項110】
前記誘導因子RNAのリポフェクションから10日以内に前記動物細胞が前記体細胞に
分化する、請求項90から109のいずれか1項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作
製する方法。
【請求項111】
前記動物細胞に前記誘導因子RNAをリポフェクションにより導入することを複数回繰
り返す、請求項90から110のいずれか1項に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製
する方法。
【請求項112】
前記動物細胞が、基底膜マトリックスでコートされた基板上で培養される、請求項90
から111に記載の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項113】
前記動物細胞が、B18R含有培地で培養される、請求項90から112に記載の動物
細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【請求項114】
前記動物細胞が、B18R非含有培地で培養される、請求項90から112に記載の動
物細胞から特定の体細胞を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞技術に関し、多能性幹細胞製造システム、幹細胞の誘導方法、幹細胞の浮
遊培養方法、幹細胞の浮遊培養器、人工多能性幹細胞の作製方法、及び動物細胞から特定
の体細胞を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウスの初期胚から樹立された幹細胞である。ES
細胞は、由来する生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を示す。ヒトES細胞
は、パーキンソン病、若年性糖尿病、及び白血病等、多くの疾患を治療するための細胞移
植療法に現在利用されている。しかし、ES細胞の移植に伴う欠点もある。特に、ES細
胞の移植は、不成功な臓器移植に引き続いて起こる免疫拒絶反応と同様に、拒絶反応を惹
起する。また、ヒト胚を破壊して樹立されるES細胞の利用は、倫理的見地に基づく多数
の批判や強い反対をもたらしている。
【0003】
このような背景の状況の下、京都大学の山中伸弥教授は、4種の遺伝子:Oct3/4
、Klf4、c-Myc、及びSox2を体細胞に導入することにより、誘導多能性幹細
胞(iPS細胞)を樹立することに成功した。これにより、彼は、2012年のノーベル
生理学・医学賞を受賞した(例えば、特許文献1参照。)。iPS細胞は、免疫拒絶反応
や倫理的問題のないことから、理想的な多能性細胞である。そのため、iPS細胞は細胞
移植療法への利用されることが期待されている。
【0004】
(幹細胞の誘導方法、幹細胞の浮遊培養方法、及び幹細胞の浮遊培養器の背景技術)
人工多能性幹(iPS)細胞とは、二つの特徴的な能力を有する細胞である。一つ目は
、身体の全ての体細胞を生み出せる能力である。二つ目は、半永久的な増殖能を有するこ
とである。iPS細胞はこの二つの能力を示すため、自己の体細胞からiPS細胞を作製
し、目的の体細胞へ変化させることで、拒絶反応のない移植治療に用いられることができ
る。そのためiPS細胞は、再生医療の分野にかなり有望である。
【0005】
(人工多能性幹細胞の作製方法の背景技術)
人工多能性幹(iPS)細胞とは、二つの特徴的な能力を有する細胞である。一つ目は
、身体の全ての体細胞を生み出せる能力である。二つ目は、半永久的な増殖能を有するこ
とである。iPS細胞はこの二つの能力を示すため、自己の体細胞からiPS細胞を作製
し、目的の体細胞へ変化させることで、拒絶反応のない移植治療に用いられることができ
る。そのためiPS細胞は、再生医療の分野にかなり有望である。
【0006】
iPS細胞の誕生から現在までに、いくつかのその作製方法が確立された。代表的なi
PS細胞の作製方法としては、レトロウイルス又はレンチウイルスを用いた方法、及びエ
ピソーマルベクターを用いた方法が挙げられる。
【0007】
レトロウイルス又はレンチウイルスを用いた方法について説明する。レトロウイルスや
レンチウイルスは、体細胞に感染をして、初期化因子をコードしている遺伝子を細胞内に
導入することができる。さらに、レトロウイルスやレンチウイルスは、体細胞のゲノムに
初期化因子を挿入することができ、初期化因子の細胞内での安定的な発現を誘導する。
【0008】
しかし、レトロウイルス又はレンチウイルスの使用に依存する方法には、問題点がある
。第一に、体細胞のゲノムへの初期化因子の挿入は、既存の遺伝子やプロモーターを傷つ
けるため、細胞の癌化を引き起こし得る。第二に、ゲノム上に挿入された初期化因子は、
iPS細胞を体細胞に変化させた後に再度活性化するおそれがある。そのため、iPS細
胞由来の移植用細胞には腫瘍発生のリスクを抱えている。実際、導入された初期化因子が
マウスの体細胞で再活性化され、細胞が癌化することが確認されている(例えば、非特許
文献1参照。)。
【0009】
さらに、レトロウイルス又はレンチウイルスを用いて作製されたiPS細胞は、残存ウ
イルスを保持し得る。このようなiPS細胞を患者に移植すると、残存しているウイルス
が患者に感染するおそれがあるため、移植に用いることができない。参考として、X連鎖
性複合免疫不全症(X-SCID)に対し、レトロウイルスベクターによりγc遺伝子を
造血幹細胞に導入する遺伝子治療を行ったところ、ベクターの挿入によるLMO2遺伝子
の活性化により、患者が白血病を発症したとの報告がある(例えば、非特許文献2、3参
照。)。
【0010】
したがって、レトロウイルス又はレンチウイルスを用いて作製されたiPS細胞は、臨
床治療に利用するには問題がある。
【0011】
次に、エピソーマルベクターを用いた方法について説明する。エピソーマルベクターを
用いたiPS細胞の作製方法は、レトロウイルス又はレンチウイルスを用いた遺伝子導入
方法の問題点を克服するために開発された(例えば、非特許文献4参照。)。エピソーマ
ルベクターはプラスミドの一種である。エピソーマルベクターは、細胞分裂と同時に複製
される。また、レトロウイルス又はレンチウイルスと異なり、体細胞の遺伝子に初期化因
子が挿入されない。この特性により、エピソーマルベクターは、標的となる体細胞のデオ
キシリボ核酸(DNA)に遺伝子が挿入されることがなく、長期にわたって細胞内で初期
化因子を発現させ、iPS細胞を作製することが出来る。
【0012】
しかし、エピソーマルベクターを用いた方法にも、問題がある。第一に、細胞への遺伝
子導入にエレクトロポレーションが必要であるが、エレクトロポレーションは細胞へのダ
メージが大きいため、1度のエレクトロポレーションでも多くの細胞が死んでしまう。第
二に、エレクトロポレーションは繰り返し実施することができない。第三に、エピソーマ
ルベクターを用いた方法による遺伝子導入効率は、レトロウイルス又はレンチウイルスを
用いた方法よりも低い。
【0013】
近年の研究では、エピソーマルベクターの転移が、標的iPS細胞の遺伝子に挿入され
たベクターDNAの断片化をもたらし得る。そのため、エピソーマルベクターを用いた場
合においても、得られたiPS細胞が、そのゲノムに挿入されたベクターの断片を含む可
能性が高い。そのようなiPS細胞を臨床応用に利用することには問題がある。
【0014】
これらの理由から、エピソーマルベクターを用いて作製されたiPS細胞も、臨床に利
用することは困難である。
【0015】
レトロウイルス又はレンチウイルスを用いた方法、及びエピソーマルベクターを用いた
方法には、両方とも、上述した問題があるため、RNAを用いたiPS細胞の作製方法が
提案された(例えば、非特許文献6参照。)。しかし、これまでのところ、成功したiP
S細胞の誘導は、胎児あるいは新生児の繊維芽細胞の使用によるものであり、RNAを用
いて成人由来の体細胞をiPS細胞に誘導することに成功したとの報告はない。したがっ
て、成人由来の体細胞からiPS細胞を作製できなければ、それらを医療に応用すること
は困難である。
【0016】
さらに、iPS細胞を作製するために必要な繊維芽細胞を集めるためには、1cm四方
の皮膚を採取する必要がある。これは、皮膚の提供者に非常に大きな負担を与える。採取
の後、繊維芽細胞株は、拡大培養により樹立されなければならない。これら線維芽細胞は
、拡大の過程とともに増殖するため、ゲノムにダメージが生じたり、染色体異常が生じた
りする可能性が高い。
【0017】
(動物細胞から特定の体細胞を作製する方法の背景技術)
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、身体のあらゆる体細胞に変化することができる。
そのため、様々な種類の体細胞や組織に変化することができるiPS細胞は、細胞移植治
療や創薬研究に利用されることが期待されている。また、例えば、2014年にはiPS
細胞から作製された網膜の細胞が移植治療に応用された。世界各国で、iPS細胞から脳
の細胞(及び様々な各種臓器の細胞)を作製し、引き続き、移植治療に用いるプロジェク
トが多数進んでいる。
【0018】
従来、iPS細胞を体細胞に変化させる方法は数多く開発されてきている。しかし、i
PS細胞を移植治療に利用するためには、iPS細胞の効率の良い分化誘導方法を確立す
ることが重要である。具体的には、iPS細胞を体細胞へと分化誘導するときに用いる装
置を確立し、分化誘導の効率及び精度を向上させることが必要である。この装置は、移植
治療に耐えうる機能を有する体細胞を作製できる必要がある。
【0019】
従来、iPS細胞やES細胞から体細胞へ分化誘導する方法は、自然発生の過程を模倣
する試みにおいて、細胞の運命を操作するために、成長因子、ホルモン、及び/又は低分
子の様々な組み合わせや濃度に依存している。しかし、in vivoで生じる自然発生
をin vitroで再現することは困難であり、かなり効率が悪い。さらに、iPS細
胞のヒト体細胞への分化誘導は、マウスと比較してヒトでは時間がかかる。例えば、ヒト
の成熟した神経系細胞を作製するためには少なくとも3ヶ月を要する。さらに、ES/i
PS細胞株によって分化誘導の効率が大きく異なり、誘導された体細胞の性質が不均一で
ある等の問題がある。この現象は、由来が同じ複数のESクローンで、同一の薬品で処理
されたものが、異なる表現型を生じたことから裏付けられている。これらのクローンの一
部は脾臓細胞に分化し、他は心臓の細胞に分化した。このことは、分化能力が、クローン
の間で異なることを示している(例えば、非特許文献6参照。)。また、素早く再凝集す
る無血清杯様体凝集浮遊培養法(SFEBq法)と呼ばれる方法を用いて、大量のiPS
細胞及びES細胞腫を神経系細胞に分化させる試みがなされたところ、iPS細胞及びE
S細胞は神経細胞分化を阻害する化学物質を含まない無血清培地で培養されたにも関わら
ず、いくつかのiPS細胞及びES細胞は、神経系細胞に変換することが困難であった(
例えば、非特許文献7参照。)。
【0020】
具体的には、ヒトES/iPS細胞からホルモンや化学物質を利用する方法を用いて分
化誘導された細胞は、初期の段階では胎児段階の体細胞であることが確認されている。ヒ
トの成熟した体細胞へのES/iPS細胞の分化誘導は極めて難しく、数か月にわたる長
期の培養が必要である。しかし、発生が完了した個体を対象とする創薬や移植医療におい
て、個体の年齢に一致する体細胞を作製することは非常に重要である。
【0021】
また、神経系細胞には、様々なサブタイプの細胞が存在する。ホルモンや化学物質を利
用して、ES/iPS細胞を特定の神経系のサブタイプに分化誘導する方法は、均一な細
胞集団を作製することができない。そのため、特定の神経系細胞サブタイプ特異的な創薬
スクリーニングができない。したがって、創薬スクリーニングの効率が低い。また、移植
医療においても、疾患治療に必要な特定の神経系細胞のサブタイプを移植のために濃縮す
ることができない。
【0022】
これに対し、ウイルスを用いて特定の体細胞の性質を生成する情報を含む遺伝子をES
/iPS細胞に直接を導入し、目的の体細胞を作製する方法が提案されている。この方法
は、ホルモンや化学物質の使用に依存する上述した方法に比べて、非常に短い時間(2週
間)で成熟した神経系細胞を特異的に作製可能である。また、特定の遺伝子をES/iP
S細胞に導入することにより、例えば興奮性神経を均一に得ることができる。そのため、
特定の神経系細胞サブタイプ特異的な創薬スクリーニングが可能であると考えられている
。同様に、移植医療においても、特定の神経系細胞のサブタイプを濃縮して疾患の治療の
ために移植できる。
【0023】
しかし、特定の遺伝子を発現させるためにウイルスを用いて幹細胞を体細胞に分化誘導
する方法においては、ES/iPS細胞のゲノム上に遺伝子が挿入され、内在性の遺伝子
の傷を付けてしまう。その結果、創薬スクリーニングは必ずしも正確ではなく、移植にお
いては癌化のリスクを内包しているという問題がある(例えば、非特許文献8、9参照。
)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特許第4183742号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Nature 448, 313-317
【非特許文献2】N Eng J Med, 346:1185-1193, 2002
【非特許文献3】Science 302: 415-419, 2003
【非特許文献4】Science 324: 797-801, 2009
【非特許文献5】Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2009;85(8):348-62.
【非特許文献6】Nature Biotechnol 26(3): 313-315, 2008.
【非特許文献7】PNAS, 111:12426-12431, 2014
【非特許文献8】N Eng J Med, 346:1185-1193, 2002
【非特許文献9】Science 302: 415-419, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
iPS細胞のような誘導幹細胞は、細胞に遺伝子等の誘導因子を導入することによって
樹立され。そして、これらは、拡大培養、凍結保存される。しかし、例えば臨床用iPS
細胞(例えば、GLP,GMPグレード)を作製し産業化するには、以下のような問題点
がある。
【0027】
1) コスト
臨床用iPS細胞は完全にクリーンで無菌の「クリーンルーム」で作製、保存される必
要がある。しかし、要求されるクリーン度のレベルを維持するのは非常に高額である。そ
のため、iPS細胞を作るのにコストがかかり、産業化への大きな障害となっている。
【0028】
2) 品質
幹細胞の樹立から保存までの一連の作業が複雑であり、多くの手作業を要する。また、
幹細胞の作製は、個人の技量に負っているところがある。その為、作製者や実験バッチに
よって、iPS細胞の品質のばらつきが生じうる。
【0029】
3) 時間
特定のドナー以外の個々人に由来するiPS細胞とのクロスコンタミネーションを防ぐ
ためには、一人の人間のみに由来するiPS細胞が、クリーンルーム内で、所定の期間作
成される。さらに、iPS細胞の樹立及び品質評価の両方には長時間を要する。iPS細
胞は1部屋で1回あたり一人の人間のためだけに作製されているため、多くの人間のため
にiPS細胞を作製するのに非常に長い年月を要する。
【0030】
4) 人材
上述したように、現状、iPS細胞の作製は手作業によるところが大きい。一方、少数
の技術者のみが、臨床用iPS細胞を作製するために必要な技能を有している。
【0031】
幹細胞の樹立から保存までの一連の作業が複雑であるという問題がある。これに対し、
本発明は、幹細胞を製造可能な幹細胞製造システムを提供することを目的の一つとする。
【0032】
(幹細胞の誘導方法、幹細胞の浮遊培養方法、及び幹細胞の浮遊培養器の課題)
iPS細胞を接着培養系で培養する場合、培養皿を必要とするため非常に大きなスペー
スが必要であり、培養効率が悪い。また、iPS細胞を誘導後、あるいは拡大培養すると
きに、iPS細胞を培養皿から剥離する必要がある。しかし、iPS細胞を培養皿から剥
離する工程は、iPS細胞へのダメージが大きい。また作業も煩雑で機械化に不向きであ
る。
【0033】
また、マウス由来のフィーダー細胞を用意し、培養皿上のフィーダー細胞の層上でiP
S細胞を作製及び拡大培養すると、iPS細胞に動物由来成分が混入する。そのため、フ
ィーダー細胞と共培養されたiPS細胞を臨床に利用することは不適切である。さらに、
フィーダー細胞無しで(フィーダーフリー条件で)iPS細胞を作製及び拡大培養すると
、非常に大きなストレスがiPS細胞にかかる。このストレスは、iPS細胞に核型異常
や染色体損傷を起こし得る。また、フィーダー細胞を用いない場合は、特殊なコーティン
グを培養皿にする必要があり、作業がより煩雑である。
【0034】
またさらに、iPS細胞を接着培養系で培養する場合、iPS細胞は二次元的にしか増
殖できないため、iPS細胞の成長効率が悪いという問題がある。
【0035】
これに対し、iPS細胞を三次元培養(浮遊培養)系で培養することが考えられる。し
かし、従来の浮遊培養系においては、iPS細胞が沈むことを阻止するため、培養液を撹
拌し続けなければならない。しかし、培養液を撹拌すると、iPS細胞同士がぶつかり、
ダメージを受ける。そのため、細胞死や核型異常を引き起こす問題がある。
【0036】
また、従来の浮遊培養系では、iPS細胞同士がランダムに凝集し、結合して、様々な
大きさの細胞塊(コロニー)が形成される。そのためコロニー間で均一なサイズ分布が保
てない。コロニーが大きすぎると、コロニーの中心部の細胞まで栄養や成長因子が行き渡
らず、これら奥深くの細胞の分化又は細胞死を生じさせる。その一方で、コロニーが小さ
すぎると、継代培養には適さない。
【0037】
iPS細胞は、単一の体細胞に由来する。そのため、それぞれのiPS細胞株によって
、わずかに性質が異なる場合がある。したがって、それぞれのコロニーを独立して培養し
て、別々のiPS細胞株として樹立する事が非常に重要である。これに関し、iPS細胞
を浮遊培養系で培養する場合、iPS細胞のコロニーがそれぞれ独立して成長し、互いに
分離している事を担保する必要がある。
【0038】
接着培養系では、単一の体細胞に由来するiPS細胞がそれぞれ独立したコロニーを形
成する。しかし、上述したように、従来の浮遊培養系では、iPS細胞同士がランダムに
凝集してコロニーを形成する。そのため、従来の浮遊培養システムで作製されたコロニー
におけるクローナリティが維持できない。そのため、従来の浮遊培養システムでiPS細
胞を誘導及び培養する試みで、個々の細胞由来のiPSコロニーを成功裏に作製した例は
ない。そのため、従来の浮遊培養を用いて、独立したiPS細胞株を樹立できる方法を確
立した例がない。
【0039】
そこで、本発明は、コロニーを分離し分けたままiPS細胞を培養することが可能な幹
細胞の誘導方法、幹細胞の浮遊培養方法、及び幹細胞の浮遊培養器を提供することを他の
目的とする。
【0040】
(人工多能性幹細胞の作製方法の課題)
また、本発明は、臨床に利用可能な幹細胞の作製方法を提供することを他の目的とする
【0041】
(動物細胞から特定の体細胞を作製する方法の課題)
本発明は、短時間で、遺伝子を傷つけることなく、動物細胞の他のタイプから特定のタ
イプの体細胞を効率的に作製する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0042】
本発明の態様によれば、(a)細胞を含む溶液が通過する導入前細胞送液路と、(b)
導入前細胞送液路内に多能性誘導因子を送る誘導因子送液機構と、(c)導入前細胞送液
路に接続され、細胞に多能性誘導因子を導入して誘導因子導入細胞を作製する因子導入装
置と、(d)誘導因子導入細胞を培養して幹細胞からなる複数の細胞魂を作製する細胞塊
作製装置と、(e)複数の細胞塊のそれぞれを順次パッケージするパッケージ装置と、(
f)導入前細胞送液路、誘導因子送液機構、因子導入装置、細胞塊作製装置、及びパッケ
ージ装置を格納する容器と、を備える、幹細胞製造システムが提供される。
【0043】
上記の幹細胞製造システムが、血液から細胞を分離する分離装置をさらに備え、分離装
置で分離された細胞を含む溶液が導入前細胞送液路を通過してもよい。
【0044】
上記の幹細胞製造システムにおいて、細胞塊作製装置が、因子導入装置で作製された誘
導因子導入細胞を培養する初期化培養装置と、初期化培養装置で樹立された幹細胞からな
る細胞塊を複数の細胞塊に分割する第1の分割機構と、第1の分割機構で分割された複数
の細胞塊を拡大培養する拡大培養装置と、拡大培養装置で拡大培養された幹細胞からなる
細胞塊を複数の細胞塊に分割する第2の分割機構と、複数の細胞魂をパッケージ装置に順
次送る細胞魂搬送機構と、を備えていてもよい。
【0045】
初期化培養装置が、誘導因子導入細胞に培養液を補給する第1の培養液補給装置を備え
、拡大培養装置が、複数の細胞塊に培養液を補給する第2の培養液補給装置を備えていて
もよい。
【0046】
上記の幹細胞製造システムが、初期化培養装置で培養される細胞を撮影する初期化培養
撮影装置と、拡大培養装置で培養される細胞を撮影する拡大培養撮影装置と、をさらに備
え、初期化培養装置及び拡大培養装置で無色の培養液を使用してもよい。
【0047】
上記の幹細胞製造システムにおいて、導入前細胞送液路の内壁が、細胞非接着性であっ
てもよい。
【0048】
上記の幹細胞製造システムにおいて、導入前細胞送液路と、誘導因子送液機構と、が、
基板上に設けられていてもよい。
【0049】
上記の幹細胞製造システムにおいて、パッケージ装置が、ペルチェ素子又は液体窒素を
用いて細胞塊を凍結してもよい。あるいは、パッケージ装置が、気化圧縮又は気化吸収等
の冷凍方法により、細胞塊を凍結してもよい。
【0050】
上記の幹細胞製造システムが、容器内の気体を清浄にする空気清浄装置をさらに備えて
いてもよい。
【0051】
上記の幹細胞製造システムが、容器内の気体の温度を管理する温度管理装置をさらに備
えていてもよい。
【0052】
上記の幹細胞製造システムが、容器内の気体の二酸化炭素濃度を管理する二酸化炭素濃
度管理装置をさらに備えていてもよい。
【0053】
上記の幹細胞製造システムが、容器内を乾熱滅菌又はガス滅菌する滅菌装置をさらに備
えていてもよい。
【0054】
上記の幹細胞製造システムにおいて、誘導因子送液機構、因子導入装置、細胞塊作製装
置、及びパッケージ装置が、サーバーによって作業手順に基づいて制御され、サーバーが
、誘導因子送液機構、因子導入装置、細胞塊作製装置、及びパッケージ装置が作業手順に
基づいて稼働しているか否か監視し、稼働記録を作成してもよい。
【0055】
上記の幹細胞製造システムが、幹細胞に誘導因子を導入し、体細胞に分化させる装置を
さらに備えていてもよい。
【0056】
本発明の態様によれば、ゲル培地で浮遊培養されている体細胞を幹細胞へ誘導すること
を含む、幹細胞の誘導方法が提供される。
【0057】
上記の幹細胞の誘導方法において、ゲル培地が攪拌されなくともよい。ゲル培地が、脱
アシル化ジェランガムでゲル化されていてもよい。
【0058】
上記の幹細胞の誘導方法において、ゲル培地が、成長因子を含まなくともよい。あるい
は、ゲル培地が、成長因子を40重量%以下の濃度で含んでいてもよい。
【0059】
上記の幹細胞の誘導方法において、ゲル培地が、bFGFを含まなくともよい。ゲル培
地が、ヒトES/iPS培地を含んでいてもよい。
【0060】
また、本発明の態様によれば、成長因子を含まないゲル培地で幹細胞を浮遊培養するこ
とを含む、幹細胞の浮遊培養方法が提供される。
【0061】
また、本発明の態様によれば、成長因子を40重量%以下の濃度で含むゲル培地で幹細
胞を浮遊培養することを含む、幹細胞の浮遊培養方法が提供される。
【0062】
また、本発明の態様によれば、bFGFを含まないゲル培地で幹細胞を浮遊培養するこ
とを含む、幹細胞の浮遊培養方法が提供される。
【0063】
また、本発明の態様によれば、bFGFを400μg/L以下の濃度で含むゲル培地で
幹細胞を浮遊培養することを含む、幹細胞の浮遊培養方法が提供される。
【0064】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、ゲル培地が攪拌されなくともよい。ゲル培地が
、脱アシル化ジェランガムでゲル化されていてもよい。ゲル培地が、ROCK阻害剤を含
んでいてもよい。ゲル培地における幹細胞の濃度が、0.1×105個/mL以上であっ
てもよい。
【0065】
上記の幹細胞の浮遊培養方法が、浮遊培養することの前に、幹細胞をシングルセルに分
解することと、シングルセルに分解された幹細胞を、ゲル培地に入れることと、を更に含
んでいてもよい。
【0066】
上記の幹細胞の浮遊培養方法における浮遊培養することにおいて、シングルセルがクロ
ーナリティを保ったままコロニーを形成してもよい。
【0067】
上記の幹細胞の浮遊培養方法が、浮遊培養することの前に、格子プレートを用いて幹細
胞を懸滴型培養してコロニーを形成させることと、形成されたコロニーをゲル培地に入れ
ることと、を更に含んでいてもよい。
【0068】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、幹細胞が未分化の状態を保ったまま増殖しても
よい。
【0069】
また、本発明の態様によれば、幹細胞とゲル培地が入れられる透析チューブと、透析チ
ューブが入れられ、透析チューブの周囲にゲル培地が入れられる容器と、を備える、幹細
胞の浮遊培養器が提供される。
【0070】
上記の幹細胞の浮遊培養器において、透析チューブの分画分子量が0.1kDa以上で
あってもよい。透析チューブがセルロースエステル、セルロースエステル類、再生セルロ
ース、及びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなっていてもよい。
【0071】
また、本発明の態様によれば、透析チューブに幹細胞とゲル培地を入れることと、容器
に透析チューブを入れることと、容器内の透析チューブの周囲にゲル培地を入れることと
、透析チューブ内のゲル培地で幹細胞を浮遊培養することと、を含む、幹細胞の浮遊培養
方法が提供される。なお、透析チューブに幹細胞とゲル培地を入れることと、容器に透析
チューブを入れることと、容器内の透析チューブの周囲にゲル培地を入れることと、の順
番は特に限定されない。例えば、容器に透析チューブを入れてから、透析チューブに幹細
胞とゲル培地を入れてもよい。
【0072】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、透析チューブの分画分子量が0.1kDa以上
であってもよい。透析チューブがセルロースエステル、セルロースエステル類、再生セル
ロース、及びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなっていてもよい
【0073】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、透析チューブの周囲のゲル培地にROCK阻害
剤が添加されていてもよい。ゲル培地が攪拌されなくともよい。ゲル培地が、脱アシル化
ジェランガムでゲル化されていてもよい。
【0074】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、ゲル培地が、成長因子を含まなくともよい。あ
るいは、ゲル培地が、成長因子を40重量%以下の濃度で含んでいてもよい。
【0075】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、ゲル培地が、bFGFを含まなくともよい。
【0076】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、ゲル培地における幹細胞の濃度が、0.1×1
5個/mL以上であってもよい。
【0077】
上記の幹細胞の浮遊培養方法が、浮遊培養することの前に、幹細胞をシングルセルに分
解することと、シングルセルに分解された幹細胞を、ゲル培地に入れることと、を更に含
んでいてもよい。
【0078】
上記の幹細胞の浮遊培養方法の浮遊培養することにおいて、シングルセルがクローナリ
ティを保ったままコロニーを形成してもよい。
【0079】
上記の幹細胞の浮遊培養方法が、浮遊培養することの前に、格子プレートを用いて幹細
胞を懸滴型培養してコロニーを形成させることと、形成されたコロニーをゲル培地に入れ
ることと、を更に含んでいてもよい。
【0080】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、幹細胞が未分化の状態を保ったまま増殖しても
よい。
【0081】
上記の幹細胞の浮遊培養方法が、容器内の透析チューブの周囲のゲル培地を新鮮なゲル
培地に交換することを更に含んでいてもよい。
【0082】
上記の幹細胞の浮遊培養方法が、容器内の透析チューブの周囲のゲル培地に新鮮なゲル
培地を補充することを更に含んでいてもよい。
【0083】
上記の幹細胞の浮遊培養方法において、透析チューブ内のゲル培地を交換しなくともよ
い。ゲル培地が、ヒトES/iPS培地を含んでいてもよい。
【0084】
また、本発明の態様によれば、透析チューブに体細胞とゲル培地を入れることと、容器
に透析チューブを入れることと、容器内の透析チューブの周囲にゲル培地を入れることと
、透析チューブ内のゲル培地で浮遊している体細胞を幹細胞に誘導することと、を含む、
幹細胞の浮遊誘導方法が提供される。なお、透析チューブに体細胞とゲル培地を入れるこ
とと、容器に透析チューブを入れることと、容器内の透析チューブの周囲にゲル培地を入
れることと、の順番は特に限定されない。例えば、容器に透析チューブを入れてから、透
析チューブに体細胞とゲル培地を入れてもよい。
【0085】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法において、透析チューブの分画分子量が0.1kDa以上
であってもよい。透析チューブが、セルロースエステル、セルロースエステル類、再生セ
ルロース、及びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなっていてもよ
い。
【0086】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法において、ゲル培地が攪拌されなくともよい。ゲル培地が
、脱アシル化ジェランガムでゲル化されていてもよい。
【0087】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法において、ゲル培地が、成長因子を含まなくともよい。
【0088】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法において、ゲル培地が、bFGFを含まなくともよい。
【0089】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法が、浮遊培養することの前に、体細胞をシングルセルに分
解することと、シングルセルに分解された体細胞を、ゲル培地に入れることと、を更に含
んでいてもよい。
【0090】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法の浮遊培養することにおいて、シングルセルがクローナリ
ティを保ったままコロニーを形成してもよい。
【0091】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法が、容器内の透析チューブの周囲のゲル培地を新鮮なゲル
培地に交換することを更に含んでいてもよい。
【0092】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法が、容器内の透析チューブの周囲のゲル培地に新鮮なゲル
培地を補充することを更に含んでいてもよい。
【0093】
上記の幹細胞の浮遊誘導方法において、透析チューブ内のゲル培地を交換しなくともよ
い。ゲル培地が、ヒトES/iPS培地を含んでいてもよい。
【0094】
また、本発明の態様によれば、体細胞を用意することと、体細胞に初期化因子RNAを
リポフェクション法により導入することと、を含む、人工多能性幹細胞の作製方法が提供
される。
【0095】
上記の人工多能性幹細胞の作製方法において、体細胞が血液細胞であってもよい。血液
細胞が単核球細胞であってもよい。血液細胞が血液幹前駆細胞であってもよい。血液細胞
がCD34陽性であってもよい。血液細胞がCD34陽性であることを条件に分離された
血液細胞であってもよい。血液細胞がCD3陽性であってもよい。血液細胞がCD3陽性
であることを条件に分離された血液細胞であってもよい。
【0096】
上記の人工多能性幹細胞の作製方法において、初期化因子RNAが、Oct3/4のm
RNA、Sox2のmRNA、Klf4のmRNA、及びc-MycのmRNAを含んで
いてもよい。初期化因子RNAが、GLIS1のmRNA、FOXH1のmRNA、L-
MYCのmRNA、及びp53-dnのmRNAからなる群から選択される少なくとも一
つを更に含んでいてもよい。初期化因子RNAが、LIN28AのmRNA又はLIN2
8BのmRNAを更に含んでいてもよい。
【0097】
上記の人工多能性幹細胞の作製方法において、初期化因子RNAのリポフェクションに
、siRNAのリポフェクション試薬又はmRNAのリポフェクション試薬を用いてもよ
い。
【0098】
上記の人工多能性幹細胞の作製方法において、初期化因子RNAのリポフェクションに
、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAXトランスフェクション試薬、
Lipofectamine(登録商標)MessengerMAXトランスフェクショ
ン試薬、Stemfect(登録商標)RNAトランスフェクション試薬、及びRepr
oRNA(登録商標)トランスフェクション試薬から選択される少なくとも一つを用いて
もよい。
【0099】
上記の人工多能性幹細胞の作製方法において、初期化因子RNAのリポフェクションの
際の血液細胞数が1から1×108であってもよい。初期化因子RNAのリポフェクショ
ンの際の初期化因子RNAの量が1回あたり5ngから50μgであってもよい。初期化
因子RNAのリポフェクションの際のリポフェクション試薬の量が1回あたり0.1μL
から500μLであってもよい。初期化因子RNAのリポフェクションを1回あたり0.
1時間以上24時間以下行ってもよい。初期化因子RNAのリポフェクションを複数回行
ってもよい。
【0100】
上記の人工多能性幹細胞の作製方法において、初期化因子RNAのリポフェクションの
際に用いられる培地がOpti-MEM(登録商標)であってもよい。
【0101】
上記の人工多能性幹細胞の作製方法が、血液から、フィルターを用いて単核球細胞を分
離することを更に含んでいてもよい。
【0102】
また、本発明の態様によれば、動物細胞を用意することと、動物細胞に誘導因子RNA
をリポフェクションにより導入し、体細胞に分化させることと、を含む、動物細胞から特
定の体細胞を作製する方法が提供される。
【0103】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、動物細胞が幹細胞であって
もよい。幹細胞が人工多能性幹細胞であってもよい。幹細胞がiPS細胞であってもよい
。幹細胞が胚性幹細胞であってもよい。
【0104】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、動物細胞がヒト繊維芽細胞
であってもよい。あるいは、動物細胞が血液細胞であってもよい。
【0105】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、誘導因子RNAが、薬剤耐
性遺伝子に対応するmRNAを含んでいてもよい。
【0106】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法が、リポフェクションの後、薬剤耐性
を示す細胞を選択することを含んでいてもよい。
【0107】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、誘導因子RNAが、ピュー
ロマイシン耐性遺伝子に対応するmRNAを含んでいてもよい。
【0108】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法が、リポフェクションの後、ピューロ
マイシン耐性を示す細胞を選択することを含んでいてもよい。
【0109】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、体細胞が神経系細胞であっ
てもよい。誘導因子RNAがNgn2のmRNAを含んでいてもよい。誘導された神経系
細胞がNgn2陽性であってもよい。誘導された神経系細胞がβ-IIITubulin、
MAP2、PsA-NCAM、又はvGlut陽性であってもよい。
【0110】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、誘導因子RNAのリポフェ
クションに、メッセンジャーマックス(登録商標)を用いてもよい。
【0111】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、誘導因子RNAのリポフェ
クションの際の細胞の数が1×104から1×108であってもよい。誘導因子RNAのリ
ポフェクションの際の誘導因子RNAの量が1回あたり200ngから5000ngであ
ってもよい。誘導因子RNAのリポフェクションの際のリポフェクション試薬の量が1回
あたり0.1μLから100μLであってもよい。
【0112】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、誘導因子RNAのリポフェ
クションの際に用いられる培地がOpti-MEM(登録商標)であってもよい。
【0113】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、誘導因子RNAのリポフェ
クションから10日以内に動物細胞が体細胞に分化してもよい。
【0114】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、動物細胞に誘導因子RNA
をリポフェクションにより導入することを複数回繰り返してもよい。
【0115】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、動物細胞が、基底膜マトリ
ックスでコートされた基板上で培養されてもよい。
【0116】
上記の動物細胞から特定の体細胞を作製する方法において、動物細胞が、B18R含有
培地で培養されてもよい。あるいは、動物細胞が、B18R非含有培地で培養されてもよ
い。
【発明の効果】
【0117】
本発明によれば、幹細胞を製造可能な幹細胞製造システムを提供可能である。
【0118】
(幹細胞の誘導方法、幹細胞の浮遊培養方法、及び幹細胞の浮遊培養器の効果)
本発明によれば、コロニーを分離したままiPS細胞を培養することが可能な幹細胞の
誘導方法、幹細胞の浮遊培養方法、及び幹細胞の浮遊培養器を提供可能である。
【0119】
(人工多能性幹細胞の作製方法の効果)
本発明によれば、臨床に利用可能な人工多能性幹細胞の作製方法を提供可能である。
【0120】
(動物細胞から特定の体細胞を作製する方法の効果)
本発明によれば、動物細胞の遺伝子を傷つけることなく、短期間で効率よく特定の体細
胞を作製可能な、動物細胞から特定の体細胞を作製する方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
図1】本発明の実施の形態に係る幹細胞製造システムの模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係る幹細胞製造システムの導入細胞送液路の一例の模式的断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る幹細胞製造システムの導入細胞送液路の一例の模式的断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る幹細胞製造システムで用いられる培養バッグの模式図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係る幹細胞の浮遊培養器を示す模式図である。
図6】実施例1に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図7】実施例1に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図8】実施例1に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図9】実施例1に係るiPS細胞のコロニーの分化の状態を示すグラフである。
図10】実施例2に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図11】実施例3に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図12】実施例3に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図13】実施例4に係るiPS細胞の写真である。
図14】実施例4に係るiPS細胞のコロニー数を示すグラフある。
図15】実施例4に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図16】実施例5に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図17】実施例5に係るiPS細胞の密度ごとのコロニー形成率を示すグラフである。
図18】実施例5に係る培地の量ごとのコロニー形成率を示すグラフである。
図19】実施例6に係るiPS細胞の写真である。
図20】実施例6に係るiPS細胞のコロニー数を示すグラフ。
図21】実施例7に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図22】実施例7に係る培養条件ごとのiPS細胞のコロニー数を示したグラフである。
図23】実施例7に係る培地ごとのiPS細胞のコロニーの写真である。
図24】実施例7に係るiPS細胞のコロニーの分化の状態を示すグラフである。
図25】実施例8に係るiPS細胞の写真である。
図26】実施例8に係る培地の量ごとのコロニー形成率を示すグラフである。
図27】実施例9に係るゲル培地の写真である。
図28】実施例9に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図29】実施例10に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図30】実施例11に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図31】実施例12に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図32】実施例12に係るiPS細胞のコロニーの大きさを示すグラフである。
図33】実施例12に係るiPS細胞のコロニーの写真である。
図34】実施例12に係るiPS細胞のコロニーの分化の状態を示すグラフである。
図35】実施例13に係る蛍光顕微鏡写真である。
図36】実施例13に係る蛍光活性化フローサイトメーターによる分析結果を示すグラフである。
図37】実施例14に係る細胞の写真である。
図38】実施例14に係る細胞の写真である。
図39】実施例14に係るトランスフェクション効率と生存率の割合を示したグラフである。
図40】実施例15に係る細胞の写真である。
図41】実施例15に係る細胞の蛍光顕微鏡下の観察により撮られた写真である。
図42】実施例15に係るTUJ-1陽性細胞の割合を示したグラフである。
図43】実施例15に係る細胞の写真である。
図44】実施例16に係るトランスフェクションの方法の模式図である。
図45】実施例16に係る細胞の写真である。
図46】実施例16に係る細胞の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0122】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部
分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって
、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相
互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0123】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る幹細胞製造システムは、図1に示すように、血液から
細胞を分離する分離装置10と、分離装置10で分離された細胞を含む溶液が通過する導
入前細胞送液路20と、導入前細胞送液路20内に多能性誘導因子を送る誘導因子送液機
構21と、導入前細胞送液路20に接続され、細胞に多能性誘導因子を導入して誘導因子
導入細胞を作製する因子導入装置30と、誘導因子導入細胞を培養して幹細胞からなる複
数の細胞魂を作製する細胞塊作製装置40と、複数の細胞塊のそれぞれを順次パッケージ
するパッケージ装置100と、を備える。
【0124】
幹細胞製造システムは、さらに、分離装置10、導入前細胞送液路20、誘導因子送液
機構21、因子導入装置30、細胞塊作製装置40、及びパッケージ装置100を格納す
る容器200を備える。
【0125】
幹細胞製造システムは、さらに、容器200内の気体を清浄にする空気清浄装置、容器
200内の気体の温度を管理する温度管理装置、及び容器200内の気体の二酸化炭素(
CO2)濃度を管理する二酸化炭素濃度管理装置を備えていてもよい。空気清浄装置は、
容器200内の気体の清浄度を監視する清浄度センサを備えていてもよい。空気清浄装置
は、例えば、HEPA(High Efficiency Particulate A
ir)フィルター等を用いて、容器200内の空気を清浄化する。空気清浄装置は、例え
ば、容器200内の空気を、ISO基準 14644-1でISO1からISO6の清浄
度に維持する。温度管理装置は、容器200内の気体の温度を監視する温度センサを備え
ていてもよい。CO2濃度管理装置は、容器200内の気体のCO2濃度を監視するCO2
濃度センサを備えていてもよい。
【0126】
容器200には、例えば扉等が設けられているが、扉が閉じられた状態では、内部が完
全に閉鎖され、内部の空気の清浄度、温度、及びCO2濃度を一定に保つことが可能であ
る。容器200は、外部から内部の装置の状態を観察できるよう、透明であることが好ま
しい。また、容器200は、ゴム手袋等のグローブを備える、グローブボックスであって
もよい。
【0127】
分離装置10は、例えばヒトの血液が入ったバイアルを受け取る。分離装置10は、例
えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヘパリン、及び生物学的製剤基準血液保存
液A液(ACD-A液、テルモ株式会社)等の抗凝固剤を保存する抗凝固剤タンクを備え
ている。分離装置10は、ポンプ等を用いて、抗凝固剤タンクから、ヒトの血液に、抗凝
固剤を添加する。
【0128】
また、分離装置10は、例えば、Ficoll-Paque PREMIUM(登録商
標、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)等の単核細胞分離用試薬を保存する分離用試薬
タンクを備えている。分離装置10は、ポンプ等を用いて、分離用試薬タンクから、例え
ば15mLチューブ2本に、単核細胞分離用試薬を5mLずつ分注する。なお、チューブ
の代わりに、樹脂バッグを用いてもよい。
【0129】
さらに、分離装置10は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の緩衝液を保存する緩衝
液タンクを備えている。分離装置10は、ポンプ等を用いて、緩衝液タンクから、例えば
ヒトの血液5mLに、緩衝液5mLを加えて希釈する。またさらに、分離装置10は、ポ
ンプ等を用いて、希釈されヒトの血液を、チューブ中の単核細胞分離用試薬上に、5mL
ずつ加える。
【0130】
分離装置10は、温度設定可能な遠心機をさらに備える。遠心機の温度は、例えば18
℃に設定される。分離装置10は、移動装置等を用いて、単核細胞分離用試薬及びヒトの
血液等が入れられたチューブを、遠心機のホルダーに入れる。遠心機は、チューブ中の溶
液を、例えば400×gで30分間遠心する。チューブの代わりに、樹脂バッグを遠心さ
せてもよい。
【0131】
遠心後、分離装置10は、チューブ中の溶液の単核球で白く濁った中間層をポンプ等で
回収する。分離装置10は、ポンプ等を用いて、回収した単核球の懸濁液を、導入前細胞
送液路20に送り出す。あるいは、さらに、分離装置10は、回収した単核球溶液2mL
に対し、例えばPBS12mLを加えて、チューブを遠心機のホルダーに入れる。遠心機
は、チューブ中の溶液を、例えば200×gで10分間遠心する。
【0132】
遠心後、分離装置10は、ポンプ等を用いて、チューブ中の溶液の上清を吸引して除去
し、X-VIVO 10(登録商標、ロンザジャパン株式会社)等の単核球培地3mLを
チューブ中の単核球溶液に加えて懸濁する。分離装置10は、ポンプ等を用いて、単核球
懸濁液を、導入前細胞送液路20に送り出す。なお、分離装置10は、透析膜を使用して
、血液から単核球を分離してもよい。また、皮膚等から予め分離された繊維芽細胞等の体
細胞を使用する場合は、分離装置10は無くともよい。
【0133】
また、分離装置10は、遠心分離以外の方法で、誘導に適した細胞を分離してもよい。
例えば、分離すべき細胞がT細胞であればCD3,CD4,CD8のいずれかが陽性であ
る細胞をパニングにより分離すればよい。分離すべき細胞が血管内皮前駆細胞であればC
D34が陽性である細胞をパニングにより分離すればよい。分離すべき細胞がB細胞であ
れば、CD10,CD19,CD20のいずれかが陽性である細胞をパニングにより分離
すればよい。また、パニングに限らず、磁気細胞分離方法やフローサイトメトリー等、他
の方法により分離してもよい。あるいは、分離装置10は、後述する実施の形態で説明す
る方法により、誘導に適した細胞を分離してもよい。例えば、第5の実施の形態で説明す
るように、細胞表面マーカーに基づいて、磁気分離装置を用いて、誘導に適した細胞を分
離してもよい。あるいは、フィルターを用いて、誘導に適した細胞を分離してもよい。ま
た、誘導される細胞は、血液細胞に限定されず、繊維芽細胞等であってもよい。
【0134】
誘導因子送液機構21は、誘導因子導入試薬溶液等を保存する誘導因子導入試薬タンク
を備える。遺伝子導入試薬溶液等の誘導因子導入試薬溶液は、例えば、Human T
Cell Nucleofector(登録商標、ロンザジャパン株式会社)溶液等のエ
レクトロポレーション溶液、サプリメント溶液、及びプラスミドセットを含む。プラスミ
ドセットは、例えば、pCXLE-hOCT3/4-shp53-Fを0.83μg、p
CXLE-hSKを0.83μg、pCE-hULを0.83μg、及びpCXWB-E
BNA1を0.5μg含む。あるいは、誘導因子導入試薬溶液は、後述する第4及び第5
の実施の形態で説明する試薬等を含んでいてもよい。例えば、第5の実施の形態で説明す
るように、細胞に初期化因子をコードしているRNAをリポフェクション法により導入し
てもよい。誘導因子送液機構21は、マイクロポンプ等を用いて、誘導因子導入試薬溶液
中に単核球懸濁液が懸濁されるように、誘導因子導入試薬溶液を、導入前細胞送液路20
に送り出す。
【0135】
導入前細胞送液路20の内壁には、細胞が接着しないよう、poly-HEMA(po
ly 2-hydroxyethyl methacrylate)をコーティングして
、細胞非接着性であってもよい。あるいは、導入前細胞送液路20の材料に、細胞が接着
しにくい材料を用いてもよい。また、導入前細胞送液路20の材料に、温度伝導率が良く
、CO2透過性の材料を用いることにより、導入前細胞送液路20内の条件が、容器20
0内の管理された温度及びCO2濃度と同等になる。さらに、導入前細胞送液路20には
、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。
【0136】
導入前細胞送液路20に接続された因子導入装置30は、例えばエレクトロポレーター
であり、誘導因子導入試薬溶液と単核球懸濁液の混合液を受け取り、単核球に対してプラ
スミドのエレクトロポレーションを実施する。因子導入装置30は、エレクトロポレーシ
ョンを実施後、プラスミドをエレクトロポレーションされた単核球を含む溶液に、単核球
培地を加える。因子導入装置30は、ポンプ等を用いて、プラスミドをエレクトロポレー
ションされた単核球(以下、「誘導因子導入細胞」という。)を含む溶液を、導入細胞送
液路31に送り出す。なお、因子導入装置30は、エレクトロポレーターに限定されない
。因子導入装置30は、後述する第4及び第5の実施の形態で説明する方法により、細胞
に誘導因子を導入してもよい。また、培地は、ゲル培地であってもよい。この場合、ゲル
培地は、例えば、basic fibroblast growth factor(b
FGF)等の成長因子を含まなくともよい。あるいは、ゲル培地は、bFGF等の成長因
子を、400μg/L以下、40μg/L以下、あるいは10μg/L以下の低濃度で含
んでいてもよい。また、ゲル培地は、tgf-βを含まないか、tgf-βを600ng
/L以下、300ng/L以下、あるいは100ng/L以下の低濃度で含んでいてもよ
い。
【0137】
導入細胞送液路31の内壁には、細胞が接着しないよう、poly-HEMAをコーテ
ィングして、非接着性にしてもよい。あるいは、導入細胞送液路31の材料に、細胞が接
着しにくい材料を用いてもよい。また、導入細胞送液路31の材料に、温度伝導率が良く
、CO2透過性の材料を用いることにより、導入細胞送液路31内の条件が、容器200
内の管理された温度及びCO2濃度と同等になる。さらに、導入細胞送液路31には、コ
ンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。また、エレクト
ロポレーションの後は、多くの細胞が死に、死んだ細胞の細胞塊ができることがある。そ
のため、導入細胞送液路31に、死細胞塊を除去するフィルターを設けてもよい。あるい
は、図2に示すように、導入細胞送液路31内部に、内径を断続的に変化させる一又は複
数の襞を設けてもよい。またあるいは、図3に示すように、導入細胞送液路31の内径を
断続的に変化させてもよい。
【0138】
導入細胞送液路31に接続された細胞塊作製装置40は、因子導入装置30で作製され
た誘導因子導入細胞を培養する初期化培養装置50と、初期化培養装置50で樹立された
幹細胞からなる細胞塊を複数の細胞塊に分割する第1の分割機構60と、第1の分割機構
60で分割された複数の細胞塊を拡大培養する拡大培養装置70と、拡大培養装置70で
拡大培養された幹細胞からなる細胞塊を複数の細胞塊に分割する第2の分割機構80と、
複数の細胞魂をパッケージ装置100に順次送る細胞魂搬送機構90と、を備える。
【0139】
初期化培養装置50は、内部にウェルプレートを格納可能である。また、初期化培養装
置50は、ピペッティングマシンを備える。初期化培養装置50は、導入細胞送液路31
から誘導因子導入細胞を含む溶液を受け取り、ピペッティングマシンで、溶液をウェルに
分配する。初期化培養装置50は、ウェルに誘導因子導入細胞を分配後、例えば3、5、
7日目に、StemFit(登録商標、味の素株式会社)等の幹細胞培地を加える。培地
にサプリメントとして塩基性の線維芽細胞成長因子(basic FGF)を添加しても
よい。なお、StemBeads FGF2(フナコシ)のような、FGF-2(bas
ic FGF,bFGF,FGF-b)を培地に供給し続ける徐放性ビーズを培地に添加
してもよい。また、FGFは不安定な場合があるので、ヘパリン模倣ポリマーをFGFに
共役させ、FGFを安定化させてもよい。さらに、初期化培養装置50は、ウェルに誘導
因子導入細胞を分配後、例えば9日目に、培地交換を行い、以降、iPS細胞の細胞塊(
コロニー)が1mmを越える程度まで、2日おきに培地交換を行う。
【0140】
細胞塊が形成されると、初期化培養装置50は、ピペッティングマシンで細胞塊を回収
し、回収した細胞塊にTrypLE Select(登録商標、ライフテクノロジーズ社
)等のトリプシン代替組み替え酵素を添加する。さらに、初期化培養装置50は、回収し
た細胞塊が入っている容器をインキュベータに入れて、37℃、CO25%で10分間、
細胞塊と、トリプシン代替組み替え酵素と、を反応させる。あるいは、初期化培養装置5
0は、ピペッティングマシンによるピペッティングにより、細胞塊を砕く。またあるいは
、初期化培養装置50は、フィルターが設けられたパイプや、図2又は図3に示した導入
細胞送液路31と同様に、内径を断続的に変化させるパイプに細胞塊を通して、細胞塊を
砕いてもよい。その後、初期化培養装置50は、砕かれた細胞塊が入れられた溶液に、S
temFit(登録商標、味の素株式会社)等の多能性幹細胞用培地を加える。
【0141】
なお、初期化培養装置50における培養は、ウェルプレートではなく、CO2透過性の
バッグの中で行ってもよい。また、培養は接着培養であってもよいし、浮遊培養であって
もよい。浮遊培養である場合は、攪拌培養を行ってもよい。また、培地が寒天状であって
もよい。寒天状の培地としては、ゲランガム(gellan gum)ポリマーが挙げら
れる。寒天状の培地を用いると、細胞が沈んだり、接着したりすることがないため、浮遊
培養の形態でありながら、攪拌する必要がなく、一細胞由来の単一細胞塊を作製する事が
出来るさらに、初期化培養装置50における培養は、ハンギングドロップ培養であっても
よい。
【0142】
初期化培養装置50は、ウェルプレートやCO2透過性のバッグに培養液を補給する第
1の培養液補給装置を備えていてもよい。第1の培養液補給装置は、ウェルプレートやC
2透過性のバッグ内の培養液を回収し、フィルターや透析膜を用いて培養液をろ過して
、浄化された培養液を再利用してもよい。この場合、再利用される培養液に成長因子等を
添加してもよい。また、初期化培養装置50は、培養液の温度を管理する温度管理装置、
及び培養液近傍の湿度を管理する湿度管理装置等をさらに備えていてもよい。
【0143】
初期化培養装置50において、例えば、細胞を、図4に示すような透析膜等の培養液透
過性のバッグ301に入れ、培養液透過性のバッグ301を、培養液非透過性のCO2
過性のバッグ302に入れて、バッグ301、302に培養液を入れてもよい。初期化培
養装置50は、新鮮な培養液が入ったバッグ302を複数用意しておき、所定の期間ごと
に、細胞が入ったバッグ301を入れるバッグ302を、新鮮な培養液が入っているバッ
グ302に交換してもよい。なお、初期化培養装置50における培養方法は、上記の方法
に限定されず、後述する第2及び第3の実施の形態で説明する方法により、培養してもよ
い。例えば、第2の実施の形態で説明するように、ゲル培地を用いてもよい。この場合、
ゲル培地は、例えば、basic fibroblast growth factor
(bFGF)等の成長因子を含まなくともよい。あるいは、ゲル培地は、bFGF等の成
長因子を、400μg/L以下、40μg/L以下、あるいは10μg/L以下の低濃度
で含んでいてもよい。また、ゲル培地は、tgf-βを含まないか、tgf-βを600
ng/L以下、300ng/L以下、あるいは100ng/L以下の低濃度で含んでいて
もよい。また、第3の実施の形態で説明するように、幹細胞とゲル培地が入れられる透析
チューブと、透析チューブが入れられ、透析チューブの周囲にゲル培地が入れられる容器
と、を備える浮遊培養器を用いてもよい。
【0144】
幹細胞製造システムは、初期化培養装置50における培養を撮影する初期化培養撮影装
置をさらに備えていてもよい。ここで、初期化培養装置50で使用される培養液に無色の
培養液を用いると、有色の培養液を用いた場合に生じうる乱反射や自家蛍光を抑制するこ
とが可能となる。また、誘導された細胞と、誘導されなかった細胞とでは、細胞の形状及
び大きさ等が異なるため、幹細胞製造システムは、初期化培養装置50における細胞を撮
影することにより、誘導された細胞の割合を算出する誘導状態監視装置を、さらに備えて
いてもよい。あるいは、誘導状態監視装置は、抗体免疫染色法又はRNA抽出法により、
誘導された細胞の割合を特定してもよい。さらに、幹細胞製造システムは、磁気細胞分離
方法やフローサイトメトリー等により、誘導されていない細胞を取り除く、未誘導細胞除
去装置を備えていてもよい。
【0145】
初期化培養装置50には、第1細胞塊送液路51が接続されている。初期化培養装置5
0は、トリプシン代替組み替え酵素と細胞塊の含有液を、ポンプ等を用いて、第1細胞塊
送液路51に送り出す。なお、物理的に細胞塊を砕ける場合は、トリプシン代替組み替え
酵素はなくともよい。また、第1細胞塊送液路51は、所定の大きさ未満の誘導された細
胞のみを通す内径を有し、所定の大きさ以上の誘導されていない細胞を除去する分岐流路
に接続されていてもよい。
【0146】
第1細胞塊送液路51の内壁には、細胞が接着しないよう、poly-HEMAをコー
ティングして、細胞非接着性であってもよい。あるいは、第1細胞塊送液路51の材料に
、細胞が接着しにくい材料を用いてもよい。また、第1細胞塊送液路51の材料に、温度
伝導率が良く、CO2透過性の材料を用いることにより、第1細胞塊送液路51内の条件
が、容器200内の管理された温度及びCO2濃度と同等になる。さらに、第1細胞塊送
液路51には、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい
【0147】
第1細胞塊送液路51は、第1の分割機構60に接続されている。第1の分割機構60
は、例えば、メッシュを備える。溶液に含まれる細胞塊は、水圧によってメッシュを通過
する際、メッシュの各孔の大きさの複数の細胞塊に分割される。例えば、メッシュの各孔
の大きさが均一であれば、分割後の複数の細胞塊の大きさも、ほぼ均一となる。あるいは
、第1の分割機構60は、ノズルを備えていてもよい。例えば、略円錐状のノズルの内部
を階段状に微細加工することにより、溶液に含まれる細胞塊がノズルを通過する際に、複
数の細胞塊に分割される。第1の分割機構60には、拡大培養装置70が接続されている
。第1の分割機構60で分割された細胞塊を含む溶液は、拡大培養装置70に送られる。
【0148】
拡大培養装置70は、内部にウェルプレートを格納可能である。また、拡大培養装置7
0は、ピペッティングマシンを備える。拡大培養装置70は、第1の分割機構60から複
数の細胞塊を含む溶液を受け取り、ピペッティングマシンで、溶液をウェルに分配する。
拡大培養装置70は、ウェルに細胞塊を分配後、37℃、CO25%で細胞塊を例えば8
日前後培養する。また、拡大培養装置70は、適宜培地交換を行う。
【0149】
その後、拡大培養装置70は、細胞塊にTrypLE Select(登録商標、ライ
フテクノロジーズ社)等のトリプシン代替組み替え酵素を添加する。さらに、拡大培養装
置70は、細胞塊が入っている容器をインキュベータに入れて、37℃、CO25%で1
分間、細胞塊と、トリプシン代替組み替え酵素と、を反応させる。その後、拡大培養装置
70は、細胞塊が入れられた溶液に、維持培養培地等の培地を加える。さらに、拡大培養
装置70は、自動セルスクレーパー等で容器から細胞塊を剥がし、細胞塊を含む溶液を拡
大培養送液路71を介して第1の分割機構60に送る。
【0150】
なお、拡大培養装置70における培養は、ウェルプレートではなく、CO2透過性のバ
ッグの中で行ってもよい。また、培養は接着培養であってもよいし、浮遊培養であっても
よいし、ハンギングドロップ培養であってもよい。浮遊培養である場合は、攪拌培養を行
ってもよい。また、培地が寒天状であってもよい。寒天状の培地としては、ゲランガム(
gellan gum)ポリマーが挙げられる。寒天状の培地を用いると、細胞が沈んだ
り、接着したりすることがないため、浮遊培養の形態でありながら、攪拌する必要がない
【0151】
拡大培養装置70は、ウェルプレートやCO2透過性のバッグに培養液を補給する第2
の培養液補給装置を備えていてもよい。第2の培養液補給装置は、ウェルプレートやCO
2透過性のバッグ内の培養液を回収し、フィルターや透析膜を用いて培養液をろ過して、
浄化された培養液を再利用してもよい。また、この場合、再利用される培養液に成長因子
等を添加してもよい。また、拡大培養装置70は、培養液の温度を管理する温度管理装置
、及び培養液近傍の湿度を管理する湿度管理装置等をさらに備えていてもよい。
【0152】
拡大培養装置70においても、例えば、細胞を、図4に示すような透析膜等の培養液透
過性のバッグ301に入れ、培養液透過性のバッグ301を、培養液非透過性のCO2
過性のバッグ302に入れて、バッグ301、302に培養液を入れてもよい。拡大培養
装置70は、新鮮な培養液が入ったバッグ302を複数用意しておき、所定の期間ごとに
、細胞が入ったバッグ301を入れるバッグ302を、新鮮な培養液が入っているバッグ
302に交換してもよい。なお、拡大培養装置70における培養方法は、上記の方法に限
定されず、後述する第2及び第3の実施の形態で説明する方法により、培養してもよい。
【0153】
幹細胞製造システムは、拡大培養装置70における培養を撮影する拡大培養撮影装置を
さらに備えていてもよい。ここで、拡大培養装置70で使用される培養液に無色の培養液
を用いると、有色の培養液を用いた場合に生じうる乱反射や自家蛍光を抑制することが可
能となる。また、誘導された細胞と、誘導されなかった細胞とでは、細胞の形状及び大き
さ等が異なるため、幹細胞製造システムは、拡大培養装置70における細胞を撮影するこ
とにより、誘導された細胞の割合を算出する誘導状態監視装置を、さらに備えていてもよ
い。あるいは、誘導状態監視装置は、抗体免疫染色法又はRNA抽出法により、誘導され
た細胞の割合を特定してもよい。さらに、幹細胞製造システムは、磁気細胞分離方法やフ
ローサイトメトリー等により、誘導されていない細胞を取り除く、未誘導細胞除去装置を
備えていてもよい。
【0154】
第1の分割機構60で分割された細胞塊は、再び拡大培養装置70内で培養される。必
要な細胞の量が得られるまで、第1の分割機構60における細胞塊の分割と、拡大培養装
置70内での細胞塊の培養が繰り返される。
【0155】
拡大培養装置70には、第2細胞塊送液路72が接続されている。拡大培養装置70は
、拡大培養され、容器から剥離された細胞塊の含有液を、ポンプ等を用いて、第2細胞塊
送液路72に送り出す。第2細胞塊送液路72は、所定の大きさ未満の誘導された細胞の
みを通す内径を有し、所定の大きさ以上の誘導されていない細胞を除去する分岐流路に接
続されていてもよい。
【0156】
第2細胞塊送液路72の内壁には、細胞が接着しないよう、poly-HEMAをコー
ティングして、細胞非接着性であってもよい。あるいは、第2細胞塊送液路72の材料に
、細胞が接着しにくい材料を用いてもよい。また、第2細胞塊送液路72の材料に、温度
伝導率が良く、CO2透過性の材料を用いることにより、第2細胞塊送液路72内の条件
が、容器200内の管理された温度及びCO2濃度と同等になる。さらに、第2細胞塊送
液路72には、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい
【0157】
第2細胞塊送液路72は、第2の分割機構80に接続されている。第2の分割機構80
は、例えば、メッシュを備える。溶液に含まれる細胞塊は、水圧によってメッシュを通過
する際、メッシュの各孔の大きさの複数の細胞塊に分割される。例えば、メッシュの各孔
の大きさが均一であれば、分割後の複数の細胞塊の大きさも、ほぼ均一となる。あるいは
、第2の分割機構80は、ノズルを備えていてもよい。例えば、略円錐状のノズルの内部
を階段状に微細加工することにより、溶液に含まれる細胞塊がノズルを通過する際に、複
数の細胞塊に分割される。
【0158】
第2の分割機構80に、複数の細胞魂をパッケージ装置100に順次送る細胞魂搬送機
構90が接続されている。細胞魂搬送機構90と、パッケージ装置100と、の間には、
パッケージ前細胞流路91が接続されている。細胞魂搬送機構90は、ポンプ等を用いて
、第2の分割機構80で分割された細胞塊のそれぞれを、パッケージ前細胞流路91を介
して、パッケージ装置100に順次送る。
【0159】
パッケージ前細胞流路91には、細胞が接着しないよう、poly-HEMAをコーテ
ィングしてもよい。あるいは、パッケージ前細胞流路91の材料に、細胞が接着しにくい
材料を用いてもよい。また、パッケージ前細胞流路91の材料に、温度伝導率が良く、C
2透過性の材料を用いることにより、パッケージ前細胞流路91内の条件が、容器20
0内の管理された温度及びCO2濃度と同等になる。パッケージ前細胞流路91には、コ
ンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。
【0160】
パッケージ前細胞流路91には、凍結保存液送液機構110が接続されている。凍結保
存液送液機構110は、細胞凍結保存液をパッケージ前細胞流路91に送り込む。これに
より、パッケージ前細胞流路91内で、細胞塊が細胞凍結保存液で懸濁される。
【0161】
パッケージ装置100は、パッケージ前細胞流路91を介して送られてきた複数の細胞
塊のそれぞれを順次凍結する。例えば、パッケージ装置100は、細胞塊を受け取るたび
に細胞塊をクライオチューブに入れ、細胞塊溶液を例えば-80℃以下で瞬間的に凍結す
る。体積あたりの表面積が小さいクライオチューブを用いると、凍結に時間がかかる傾向
にあるため、体積あたりの表面積が大きいクライオチューブを用いることが好ましい。体
積あたりの表面積が大きいクライオチューブを用いることにより、解凍後の細胞の生存率
を高くすることが可能となる。クライオチューブの形状としては、キャピラリー状及び球
状が挙げられるが、これらに限定されない。また、必要とされる解凍後の細胞の生存率に
よっては、必ずしも瞬間凍結をしなくともよい。
【0162】
凍結には、例えば、ガラス化(Vitrification)法を用いる。この場合、
細胞凍結保存液としては、DAP213(コスモバイオ株式会社)及びFreezing
Medium(リプロセル株式会社)が使用可能である。凍結は、ガラス化法以外の通
常の方法で行ってもよい。この場合、細胞凍結保存液としては、CryoDefend-
Stem Cell(R&Dシステム社)や、STEM-CELLBANKER(登録商
標、日本全薬工業株式会社)等が使用可能である。凍結は、液体窒素によって行ってもよ
いし、ペルチェ素子によっておこなってもよい。ペルチェ素子を用いると、温度変化を管
理したり、温度のムラを抑制したりすることが可能となる。パッケージ装置100は、ク
ライオチューブを、容器200の外に搬出する。凍結細胞が臨床用途である場合は、クラ
イオチューブは完全閉鎖系であることが好ましい。ただし、パッケージ装置100は、幹
細胞を凍結することなく、クライオチューブ内にパッケージしてもよい。
【0163】
幹細胞製造システムは、パッケージ装置100におけるパッケージ工程を撮影するパッ
ケージ工程撮影装置をさらに備えていてもよい。
【0164】
幹細胞製造システムは、容器200内を滅菌する滅菌装置をさらに備えていてもよい。
滅菌装置は、乾熱滅菌装置であってもよい。この場合、分離装置10、導入前細胞送液路
20、誘導因子送液機構21、因子導入装置30、細胞塊作製装置40、及びパッケージ
装置100等の電気を使用する装置の配線は、耐熱性を有する配線であることが好ましい
。あるいは、滅菌装置は、オゾンガス、過酸化水素ガス、又はホルマリンガス等の滅菌ガ
スを容器200内に放出して、容器200内を滅菌してもよい。
【0165】
幹細胞製造システムは、分離装置10、導入前細胞送液路20、誘導因子送液機構21
、因子導入装置30、細胞塊作製装置40、及びパッケージ装置100等の動作記録、並
びに撮影装置が撮影した画像を、有線又は無線により、外部のサーバーに送信してもよい
。また、外部のサーバーにおいて、ニューラルネットワークにより、例えば、誘導因子導
入条件、培養条件、及び凍結条件等の条件と、幹細胞の不完全な初期化、幹細胞の分化及
び増殖の失敗、及び染色体異常等の結果と、の関連を分析し、結果を導く条件を抽出した
り、結果を予測したりしてもよい。さらに、外部サーバーは、標準作業手順(SOP)に
基づいて、幹細胞製造システムの分離装置10、誘導因子送液機構21、因子導入装置3
0、細胞塊作製装置40、及びパッケージ装置100等を制御し、SOPに基づいて各装
置が稼働しているか否かを監視し、各装置の稼働記録を自動的に生成してもよい。
【0166】
以上説明した幹細胞製造システムによれば、全自動で、iPS細胞等の幹細胞の誘導、
樹立、拡大培養、及び凍結保存を一括して行うことが可能となる。
【0167】
(その他の実施の形態)
なお、例えば、因子導入装置30は、エレクトロポレーションではなく、RNAトラン
スフェクションにより細胞を誘導してもよい。あるいは、レトロウイルス、レンチウイル
ス、及びセンダイウイルス等のウイルスベクターや、プラスミドにより、細胞を誘導して
もよい。また、導入前細胞送液路20、導入細胞送液路31、細胞塊送液路51、拡大培
養送液路71、細胞塊送液路72、及びパッケージ前細胞流路91はマイクロフルイディ
クス技術により基板上に設けられていてもよい。また、誘導された幹細胞に誘導因子リボ
核酸(RNA)をリポフェクションにより導入し、体細胞に分化させる装置が、幹細胞製
造システムに接続されていてもよい。誘導された幹細胞に誘導因子リボ核酸(RNA)を
リポフェクションにより導入し、体細胞に分化させる方法は、例えば、後述する第6の実
施の形態に記載の方法を用いることができる。体細胞は、例えば神経系細胞である。
【0168】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る幹細胞の浮遊培養方法は、ゲル培地で幹細胞を浮遊培
養することを含む。幹細胞は、例えば、人工多能性幹(iPS)細胞、及び胚性幹細胞(
ES細胞)である。ゲル培地は、撹拌されない。また、ゲル培地は、フィーダー細胞を含
まない。幹細胞は、未分化の状態を保ったまま、ゲル培地中で増殖する。
【0169】
例えば、幹細胞は、浮遊培養される前に、シングルセルに分解され、シングルセルに分
解された幹細胞が、ゲル培地に入れられる。シングルセルは、クローナリティを保ったま
ま増殖し、ゲル培地中でコロニーを形成する。
【0170】
ゲル培地は、例えば、幹細胞用培地に脱アシル化ジェランガムを終濃度が0.5重量%
から0.001重量%、0.1重量%から0.005重量%、あるいは0.05重量%か
ら0.01重量%となるよう添加することにより調製される。
【0171】
ゲル培地は、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサン
タンガム、カラギーナン、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン
硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、
ラムナン硫酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物
を含んでいてもよい。また、ゲル培地は、メチルセルロースを含んでいてもよい。メチル
セルロースを含むことにより、細胞同士の凝集がより抑制される。
【0172】
あるいは、ゲル培地は、poly(glycerol monomethacrylate) (PGMA)、poly(2-hydroxypr
opyl methacrylate) (PHPMA)、Poly (N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)、amine termin
ated、carboxylic acid terminated、maleimide terminated、N-hydroxysuccinimide (NH
S) ester terminated、triethoxysilane terminated、Poly (N-isopropylacrylamide-co-
acrylamide)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylic acid)、Poly (N-isopropylacry
lamide-co-butylacrylate)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid)、Poly
(N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid-co-octadecyl acrylate)、及びN-Isopro
pylacrylamideから選択される少なくとも1種の温度感受性ゲルを含んでいてもよい。
【0173】
幹細胞用培地としては、例えば、Primate ES Cell Medium(R
eproCELL)等のヒトES/iPS培地を使用可能である。
【0174】
ただし、幹細胞用培地は、これに限定されず、種々の幹細胞培地が使用可能である。例
えばPrimate ES Cell Medium、Reprostem、Repro
FF、ReproFF2、ReproXF(Reprocell)、mTeSR1、Te
SR2、TeSRE8、ReproTeSR(STEMCELL Technologi
es)、PluriSTEM(登録商標)Human ES/iPS Medium(M
erck)、NutriStem (登録商標)XF/FF Culture Medi
um for Human iPS and ES Cells、Pluriton r
eprogramming medium(Stemgent)、PluriSTEM(
登録商標)、Stemfit AK02N、Stemfit AK03(Ajinomo
to)、ESC-Sure(登録商標)serum and feeder free
medium for hESC/iPS(Applied StemCell)、及び
L7(登録商標)hPSC Culture System (LONZA)等を利用し
てもよい。
【0175】
ゲル培地には、例えば、ROCK阻害剤を終濃度が1000μmol/L以上0.1μ
mol/L以下、100μmol/L以上1μmol/L以下、あるいは5μmol/L
以上20μmol/L以下となるよう、毎日添加する。ROCK阻害剤をゲル培地に添加
することにより、幹細胞によるコロニー形成が促進される。
【0176】
ゲル培地は、例えば、basic fibroblast growth facto
r(bFGF)等の成長因子を含まない。あるいは、ゲル培地は、bFGF等の成長因子
を、400μg/L以下、40μg/L以下、あるいは10μg/L以下の低濃度で含む
。ゲル培地がbFGF等の成長因子を高濃度で含む場合と比較して、ゲル培地がbFGF
等の成長因子を含まないか、あるいはbFGF等の成長因子を低濃度で含む方が、幹細胞
によるコロニー形成が促進される傾向にある。
【0177】
また、ゲル培地は、tgf-βを含まないか、tgf-βを600ng/L以下、30
0ng/L以下、あるいは100ng/L以下の低濃度で含む。
【0178】
ゲル培地における幹細胞の濃度は、例えば、2×105個/mL以上、2.25×105
個/mL以上、あるいは2.5×105個/mL以上である。ゲル培地における幹細胞の
濃度が2×10個/mLより低いと、コロニー形成率が低下する傾向にある。
【0179】
本発明の第2の実施の形態に係る幹細胞の浮遊培養方法によれば、シングルセルから幹
細胞のコロニーを形成することが可能である。また、培地を撹拌する必要がないため、浮
遊培養法であるにも関わらず、幹細胞同士が衝突することがない。そのため、コロニーに
おいてクローナリティを維持することが可能である。したがって、例えば、幹細胞がiP
S細胞である場合、1つの体細胞由来のiPS細胞のクローナリティを担保することが可
能である。また、幹細胞同士が衝突することがないため、幹細胞のコロニーの大きさを均
質に保つことが可能である。さらに、浮遊培養法は、接着培養法と比較して、少ないスペ
ースで多数のコロニーを培養することが可能である。なお、浮遊培養することにおいて、
幹細胞の細胞塊(クランプ)を維持培養してもよい。
【0180】
また、ES/iPS細胞の発見がなされて以来、bFGF、及びTgf-β等の成長因
子は、ES/iPS細胞の培養に必須であると考えられてきた。しかし、bFGF等の成
長因子は、37℃程度の培養条件下では、急速に分解されるため、毎日bFGF及びTg
f-β含有培養液を交換、或はbFGF及びTgf-β等を添加する必要がある。さらに
、培養に用いられるbFGFは、通常、リコンビナントタンパク質であるが、クリニカル
グレードのリコンビナントタンパク質は、非常に厳格なルールに従って作製する必要があ
る。
【0181】
また、例えばbFGFの濃度が10ng/mLのような低濃度である場合、マウス由来
の線維芽細胞をフィーダー細胞として用いる必要があると考えられてきた。しかし、マウ
スのような動物由来のフィーダー細胞と共培養された幹細胞を、移植再生医療に用いるこ
とはできず、幹細胞の臨床利用が進まない原因となっていた。
【0182】
フィーダー細胞を用いないフィーダーフリー用の幹細胞培養液も開発されてきているが
、フィーダーフリー培養液は、フィーダー細胞を用いる場合の培養液と比較して、通常、
25倍近いbFGFを含有しており、100ng/mLのような非常に高濃度なbFGF
を含有している。しかし、高濃度のbFGFを含有するフィーダーフリー培養液を用いて
、ES/iPS細胞を核型異常なく培養することは難しく、多くのiPS細胞が死滅する
。また、高濃度のbFGFを含有するフィーダーフリー培養液で培養されたES/iPS
細胞は、特定の体細胞に分化しにくくなる傾向にある。そのため、フィーダーフリー培養
液は、幹細胞から移植に必要な体細胞を作製する効率を落とす一つの原因となっている。
【0183】
これに対し、本発明の第2の実施の形態に係る幹細胞の浮遊培養方法によれば、フィー
ダー細胞を用いずに、幹細胞を未分化の状態を保ったまま培養し、増殖させることが可能
である。また、本発明の第2の実施の形態に係る幹細胞の浮遊培養方法によれば、フィー
ダー細胞を用いないにも関わらず、bFGF等の成長因子を用いずに、あるいは低濃度の
bFGF等の成長因子を用いて、幹細胞を未分化の状態を保ったまま培養し、増殖させる
ことが可能である。
【0184】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る幹細胞の浮遊培養器は、図5に示すように、幹細胞と
ゲル培地が入れられる透析チューブと、透析チューブが入れられ、透析チューブの周囲に
ゲル培地が入れられる容器と、を備える。
【0185】
透析チューブは、例えば、ROCK阻害剤を透過させる。透析チューブの分画分子量は
、0.1kDa以上、10kDa以上、あるいは50kDa以上である。透析チューブは
、例えば、セルロースエステル、エチルセルロース、セルロースエステル類、再生セルロ
ース、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニ
ルアルコール共重合体、ポリエステル系ポリマーアロイ、ポリカーボネート、ポリアミド
、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、銅アン
モニウムレーヨン、鹸化セルロース、ヘモファン膜、フォスファチジルコリン膜、及びビ
タミンEコーティング膜等からなる。容器としては、遠心チューブのような円錐チューブ
が使用可能である。容器は、例えば、ポリプロピレンからなる。
【0186】
透析チューブ内に入れられる幹細胞は、第2の実施の形態と同様である。また、透析チ
ューブ内に入れられるゲル培地も、第2の実施の形態と同様である。ただし、透析チュー
ブ内に入れられるゲル培地は、ROCK阻害剤を含んでいなくてもよい。容器内の透析チ
ューブの周囲に入れられるゲル培地は、第2の実施の形態と同様である。容器内の透析チ
ューブの周囲に入れられるゲル培地は、ROCK阻害剤を含む。
【0187】
透析チューブ内で幹細胞を浮遊培養する間、容器内の透析チューブの周囲のゲル培地は
、新鮮なゲル培地に交換、あるいは補充される。ただし、透析チューブ内のゲル培地は交
換しなくともよい。
【0188】
従来の浮遊培養系においては、細胞を吸い出すことなく、培地を交換することが困難で
ある場合がある。しかし、培地を新鮮な培地に交換しないと、老廃物が蓄積する場合があ
る。また、培地を新鮮な培地に交換あるいは補充しないと、培地中の培地成分が不足する
場合がある。
【0189】
これに対し、本発明の第3の実施の形態に係る幹細胞の浮遊培養器を用いれば、幹細胞
は透析チューブの中にあるため、透析チューブの周囲の培地を新鮮な培地に交換しても、
幹細胞を吸い取るおそれがない。また、透析チューブの周囲の培地を新鮮な培地に交換し
ても、透析チューブ内の培地の量はほぼ変わらないため、透析チューブ内の幹細胞の密度
に変化が生じない。また、透析チューブ内の高濃度の老廃物は、透析チューブの外に移動
する。透析チューブ内の培地の培地成分の濃度が低下すると、透析チューブの外の培地か
ら培地成分が透析チューブ内に移動する。そのため、幹細胞の周囲の培地を新鮮に保つこ
とが可能である。
【0190】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態に係る幹細胞の誘導方法は、ゲル培地で浮遊培養されている
体細胞を幹細胞へ誘導することを含む。体細胞は、例えば、繊維芽細胞である。幹細胞は
、例えば、iPS細胞である。ゲル培地は、撹拌されない。また、ゲル培地は、フィーダ
ー細胞を含まない。
【0191】
ゲル培地は、例えば、幹細胞用培地に脱アシル化ジェランガムを終濃度が0.5重量%
から0.001重量%、0.1重量%から0.005重量%、あるいは0.05重量%か
ら0.01重量%となるよう添加することにより調製される。
【0192】
ゲル培地は、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサン
タンガム、カラギーナン、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン
硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、
ラムナン硫酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物
を含んでいてもよい。また、ゲル培地は、メチルセルロースを含んでいてもよい。メチル
セルロースを含むことにより、細胞同士の凝集がより抑制される。
【0193】
あるいは、ゲル培地は、poly(glycerol monomethacrylate) (PGMA)、poly(2-hydroxypr
opyl methacrylate) (PHPMA)、Poly (N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)、amine termin
ated、carboxylic acid terminated、maleimide terminated、N-hydroxysuccinimide (NH
S) ester terminated、triethoxysilane terminated、Poly (N-isopropylacrylamide-co-
acrylamide)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylic acid)、Poly (N-isopropylacry
lamide-co-butylacrylate)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid)、Poly
(N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid-co-octadecyl acrylate)、及びN-Isopro
pylacrylamideから選択される少なくとも1種の温度感受性ゲルを含んでいてもよい。
【0194】
幹細胞用培地としては、例えば、Primate ES Cell Medium(R
eproCELL)等のヒトES/iPS培地を使用可能である。
【0195】
ただし、幹細胞用培地は、これに限定されず、種々の幹細胞培地が使用可能である。例
えばPrimate ES Cell Medium、Reprostem、Repro
FF、ReproFF2、ReproXF(Reprocell)、mTeSR1、Te
SR2、TeSRE8、ReproTeSR(STEMCELL Technologi
es)、PluriSTEM(登録商標)Human ES/iPS Medium(M
erck)、NutriStem (登録商標)XF/FF Culture Medi
um for Human iPS and ES Cells、Pluriton r
eprogramming medium(Stemgent)、PluriSTEM(
登録商標)、Stemfit AK02N、Stemfit AK03(Ajinomo
to)、ESC-Sure(登録商標)serum and feeder free
medium for hESC/iPS(Applied StemCell)、及び
L7(登録商標)hPSC Culture System (LONZA)等を利用し
てもよい。ゲル培地は、例えば、チューブに入れられる。
【0196】
ゲル培地は、例えば、basic fibroblast growth facto
r(bFGF)等の成長因子を含まなくともよい。あるいは、ゲル培地は、bFGF等の
成長因子を、400μg/L以下、40μg/L以下、あるいは10μg/L以下の低濃
度で含んでいてもよい。
【0197】
また、ゲル培地は、tgf-βを含まないか、tgf-βを600ng/L以下、30
0ng/L以下、あるいは100ng/L以下の低濃度で含んでもよい。
【0198】
(実施例1)
500mLのPrimate ES Cell Medium(ReproCELL)、
及び0.2mLの濃度が10μg/mLのbFGF(Gibco PHG0266)を混
合し、bFGF含有ヒトiPS培地を調製した。
【0199】
また、bFGF含有ヒトiPS培地に脱アシル化ジェランガム(日産化学)を濃度が0
.02重量%となるよう添加し、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を調製した。さらに、
5mLの濃度が2.5重量%のトリプシン、5mLの濃度が1mg/mLのコラゲネース
IV、0.5mLの濃度が0.1mol/LのCaCl2、10mLのKnockOut
血清代替(登録商標、Invitrogen 10828-028)、及び30mLの精
製水を混合して、一般にCTK溶液と呼ばれる剥離液を調製した。
【0200】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュ(Thermosc
ientific 12-556-004)にCTK溶液を300μL添加し、CO2
ンキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベータからディッシュを取
り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アスピレータを用いてCTK
溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、6ウェルディッシュにPBS(Sant
a Cruz Biotech sc-362183)を500μL添加し、iPS細胞
を洗浄後、6ウェルディッシュからPBSを取り除き、0.3mLの剥離液(Accut
ase、登録商標)を6ウェルディッシュに添加し、CO2インキュベータに入れ、5分
間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF含有iPS培地を6ウェルディッ
シュに添加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0201】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブ
に添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取り
除き、1mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブに添加し、血球計
算版を用いて細胞数を計算した。細胞計算後、5×105個ずつiPS細胞を15mLフ
ァルコンチューブ(登録商標、Corning 352096)又は非接着ディッシュに
播種し、以後攪拌することなく浮遊培養した。
【0202】
15mLチューブにおいては、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を2mL用いた。非接
着ディッシュにおいては、ジェランガムを含有していないbFGF含有ヒトiPS培地を
2mL用いた。各培地にはROCK阻害剤(Selleck S1049)が10μmo
l/Lとなるよう添加した。その後、15mLチューブ及び非接着ディッシュに、毎日5
00μLのbFGF含有ヒトiPSゲル培地 を添加し、非接着ディッシュに、毎日50
0μLのbFGF含有ヒトiPS培地を添加した。また、15mLチューブ及び非接着デ
ィッシュに、毎日、終濃度が10μmol/LとなるようROCK阻害剤を添加し、7日
間、浮遊培養を続けた。
【0203】
その結果を図6に示す。図6(b)に示すように、非接着ディッシュでジェランガムを
含有していないbFGF含有ヒトiPS培地を用いてiPS細胞を培養した場合、iPS
細胞のコロニー同士の凝集が顕著に認められた。これに対し、図6(a)に示すように、
15mLチューブ中でbFGF含有ヒトiPSゲル培地を用いてiPS細胞を培養した場
合、目立った凝集は認められなかった。図7(a)は、15mLチューブにおいて、bF
GF含有ヒトiPSゲル培地を用いてiPS細胞を培養したときの1日目の写真であり、
図7(b)は、15mLチューブにおいて、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を用いてi
PS細胞を培養したときの9日目の写真である。図7(a)及び図7(b)の写真から、
異なる株のiPS細胞同士が凝集せずに、コロニーを形成したことが確認された。
【0204】
図8(a)は、ゲル培地中で7日間浮遊培養したiPS細胞のコロニーをフィーダー細
胞上に再播種する直前時の写真である。図8(b)は、その3日後にコロニーの形態を確
認した時の写真である。その結果、図9に示すように、95%以上のコロニーが未分化で
あることが確認された。よって、iPS細胞をゲル培地中で、未分化の状態を維持したま
ま培養することができることが示された。
【0205】
(実施例2)
実施例1と同じbFGF含有ヒトiPS培地、及びbFGF含有ヒトiPSゲル培地を
調製した。フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶
液を300μL添加し、CO2インキュベータ中で3分間インキュベートした。3分後、
インキュベータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみがはがれていることを確
認し、アスピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、ディ
ッシュにPBSを500μL添加し、iPS細胞を洗浄後、ディッシュからPBSを取り
除き、0.3mLのAccumaxをディッシュに添加し、ディッシュをCO2インキュ
ベータに入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF含有iPS培
地をディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0206】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mL遠心チューブに
添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取り除
き、1mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mL遠心チューブに添加し、血球計算版
を用いて細胞数を計算した。細胞計算後、5×105個ずつiPS細胞を、15mLチュ
ーブに播種し、以後攪拌することなく浮遊培養した。
【0207】
15mLチューブにおいては、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を2mL用いた。各培
地にはROCK阻害剤が10μmol/Lとなるよう添加した。その後、15mLチュー
ブに、毎日500μLのbFGF含有ヒトiPSゲル培地を添加した。なお、500μL
のゲル培地は、0.5μLのROCK阻害剤を含んでいた。また、コントロールとして、
ROCK阻害剤を添加していない以外は同じ条件で、iPS細胞を、7日間、浮遊培養し
た。
【0208】
図10(a)に示すように、bFGF含有ヒトiPS培地にROCK阻害剤を添加しな
かった場合、iPS細胞はコロニーを形成しなかった。これに対し、図10(b)に示す
ように、bFGF含有ヒトiPS培地にROCK阻害剤を添加した場合、iPS細胞はコ
ロニーを形成した。この結果から、シングルセルからiPS細胞を浮遊培養する場合、R
OCK阻害剤が有効であることが示された。
【0209】
(実施例3)
実施例1と同様に、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を用意した。また、bFGFを含
まない以外はbFGF含有ヒトiPS培地と同じであるbFGF非含有ヒトiPS培地を
用意した。さらに、bFGFを含まない以外はbFGF含有ヒトiPSゲル培地と同じで
あるbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を用意した。またさらに、市販の血清フリー及び
ゼノフリーのフィーダーフリーリプログラミング用培地に脱アシル化ゲランガム(日産化
学)を濃度が0.02重量%となるよう添加し、比較用ゲル培地を調製した。
【0210】
ここで、比較用ゲル培地と比較して、bFGF含有ヒトiPSゲル培地は、bFGFを
、25分の1程度の濃度しか含まない。
【0211】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を30
0μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベ
ータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アス
ピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、PBSで一度洗
浄し、1mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を添加し、スクレーバーでiPS細胞を掻
き集め、シングルセルにならないよう15mLの遠心チューブ中で10回程度懸濁した。
その後、2mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を添加し、1mLずつ3等分し、遠心機
を用いて270gで遠心した。
【0212】
遠心後、15mLの遠心チューブから上清を取り除き、2mLの比較用ゲル培地、bF
GF含有ヒトiPSゲル培地、及びbFGF非含有ヒトiPSゲル培地をそれぞれ15m
Lの遠心チューブに添加した。翌日から、遠心チューブのそれぞれに500μLの最初と
同じゲル培地を毎日添加し、7日間浮遊培養をした。
【0213】
図11(a)は、市販のフィーダーフリー培地から調製した比較用ゲル培地で7日間浮
遊培養したiPS細胞のコロニーの代表例を示しており、図11(b)は、bFGF含有
ヒトiPSゲル培地で7日間浮遊培養したiPS細胞のコロニーの代表例を示しており、
図11(c)は、bFGF非含有ヒトiPSゲル培地で7日間浮遊培養したiPS細胞の
コロニーの代表例を示している。
【0214】
bFGF非含有ヒトiPSゲル培地、及び比較用ゲル培地と比べて25分の1程度の濃
度しかbFGFを含まないbFGF含有ヒトiPSゲル培地でも、iPS細胞は培養でき
ていた。
【0215】
7日間浮遊培養したiPS細胞のコロニーが未分化であるか否かを確かめるために、i
PS細胞をフィーダー細胞上に再播種し、コロニーの形態を観察した。図12の上段の写
真は、ゲル培地中のコロニーを示す。図12の中段の写真は、7日間浮遊培養したiPS
細胞をフィーダー細胞上に再播種して2日後のコロニーを示す。いずれの場合も、未分化
なコロニーが90%以上であることが確認された。これらの結果から、bFGFを含まな
いゲル培地、あるいは比較用ゲル培地と比べてbFGF濃度が25倍以上低いゲル培地を
使用しても、iPS細胞を未分化状態を維持させたまま浮遊培養できることが示された。
【0216】
図12の下段の写真は、7日間浮遊培養したiPS細胞をフィーダー細胞上に再播種し
て7日後のコロニーを示す。iPS細胞をゲル培地で浮遊培養した後、フィーダー細胞上
で長期間(7日間)培養しても、分化しないことが示された。
【0217】
(実施例4)
実施例3と同じbFGF非含有ヒトiPS培地、bFGF含有ヒトiPSゲル培地、及
びbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を用意した。また、市販の血清フリーのフィーダー
フリー培地に脱アシル化ゲランガム(日産化学)を濃度が0.02重量%となるよう添加
し、比較用ゲル培地を調製した。いずれのゲル培地にも、濃度が10μmol/Lとなる
よう、ROCK阻害剤を添加した。
【0218】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を30
0μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベ
ータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アス
ピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、6ウェルディッ
シュにPBSを500μL添加し、iPS細胞を洗浄後、6ウェルディッシュからPBS
を取り除き、0.3mLのAccumaxを6ウェルディッシュに添加し、6ウェルディ
ッシュをCO2インキュベータに入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mL
のbFGF含有iPS培地を6ウェルディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルに
なるまで懸濁した。
【0219】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チュー
ブに添加し、遠心機を用いて270gで遠心した。遠心後、上清を取り除き、1mLのb
FGF非含有ヒトiPS培地を遠心チューブに添加し、血球計算版を用いて細胞数を計算
した。
【0220】
その後、1本の遠心チューブあたり、5×105個のiPS細胞を入れ、2mLのbF
GF含有ヒトiPSゲル培地、bFGF非含有ヒトiPSゲル培地、及び比較用ゲル培地
をそれぞれ遠心チューブに添加した。翌日から、遠心チューブのそれぞれに500μLの
最初と同じゲル培地を毎日添加し、7日間浮遊培養をした。
【0221】
その結果、図13(c)に示すように、比較用ゲル培地では、シングルセル由来のiP
S細胞を培養できなかった。これに対し、図13(a)及び図13(b)に示すように、
bFGF含有ヒトiPSゲル培地、及びbFGF非含有ヒトiPSゲル培地では、シング
ルセル由来のiPS細胞を培養できた。なお、bFGF含有ヒトiPSゲル培地における
bFGF濃度は4μg/mLであり、比較用ゲル培地におけるbFGF濃度は、100μ
g/mLである。
【0222】
また、コロニー数を定量したところ、図14に示すように、bFGF非含有ヒトiPS
ゲル培地で浮遊培養したほうが、bFGF含有ヒトiPSゲル培地で浮遊培養した場合よ
りも、2倍以上のiPS細胞のコロニーが形成されていた。よって、ゲル培地においては
、bFGFの濃度が低いか、bFGFが含まれないことが好ましいことが示された。
【0223】
また、iPS細胞をシングルセルにし、bFGF含有ヒトiPS培地、又はbFGF非
含有ヒトiPS培地に脱アシル化ゲランガムが0.02重量%なるよう添加した培地に、
ロックインヒビターが10μmol/Lとなるよう添加した培地を用いて7日間培養した
。その際、5×105個の細胞を1.5mLの各ゲル培地に懸濁し、毎日各ゲル培地にロ
ックインヒビターが10μmol/L添加してある培地を1.5mL加えていった。
【0224】
7日間培養したiPS細胞に、10倍量のPBSを添加し、遠心機を用いて270gで
遠心後、上清を廃棄し、アキュマックスを0.3mL添加し、CO2インキュベータに入
れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF含有ヒトiPS培地を添
加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。懸濁後、1.5mLのヒトiPS
培地(bFGF含有培地で培養していた細胞にはbFGF含有培地、bFGF非含有培地
で培養していた細胞にはbFGF非含有培地)を添加し、遠心機を用いてさらに7日間、
前7日間と同様に培養した。培養後、一部をフィーダー細胞上にまきなおし、さらに三日
後、NANOG及びOCT3/4に対する抗体で染色し、観察を行った。結果を図15
示す。合計で14日間ゲル培地で培養したiPS細胞は、未分化マーカーであるNANO
G及びOCT3/4陽性であった。この結果から、ゲル培地において長期にわたる培養を
行ったときに、bFGFを含まない培地であっても、未分化を維持したまま培養が行える
ことが示された。
【0225】
(実施例5)
実施例3と同じbFGF非含有ヒトiPS培地、及びbFGF非含有ヒトiPSゲル培
地を用意した。ゲル培地には、濃度が10μmol/Lとなるよう、ROCK阻害剤を添
加した。
【0226】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を30
0μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベ
ータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アス
ピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、6ウェルディッ
シュにPBSを500μL添加し、細胞を洗浄後、PBSを取り除き、0.3mLのAc
cutaseを6ウェルディッシュに添加し、6ウェルディッシュをCO2インキュベー
タに入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF非含有ヒトiPS
培地を6ウェルディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0227】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を遠心チューブに添加し
、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取り除き、1
mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を遠心チューブに添加し、血球計算版を用いて細胞
数を計算した。
【0228】
その後、1本の遠心チューブあたり、1×105個、2.5×105個、あるいは5×1
5個のiPS細胞を入れ、2mLのbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を添加した。翌
日から、遠心チューブのそれぞれに500μLのゲル培地を毎日添加し、7日間浮遊培養
をした。
【0229】
各播種細胞数におけるコロニーの写真を図16に示す。また、播種したiPS細胞に対
してコロニーを形成したiPS細胞数の割合を定量化した結果を図17に示す。1×10
5個又は2.5×105個のiPS細胞を播種した場合と比較して、5×105個のiPS
細胞を播種した場合、10倍以上のiPS細胞のコロニーが形成された。したがって、i
PS細胞の播種濃度が低いと、iPS細胞のコロニーが形成されないことが示された。
【0230】
また、1本の遠心チューブあたり1×105個のiPS細胞を入れ、遠心チューブに、
200μL、400μL、1000μL、及び2000μLのbFGF非含有ヒトiPS
ゲル培地をそれぞれ添加した。翌日から、遠心チューブに、100μL、200μL、5
00μL、及び1000μLのゲル培地をそれぞれ毎日添加し、7日間浮遊培養をした。
【0231】
播種したiPS細胞に対してコロニーを形成したiPS細胞数の割合を定量化した結果
図18に示す。ゲル培地の量が増えるほど、換言すれば、iPS細胞の播種濃度が低く
なるほど、iPS細胞のコロニーが形成されないことが示された。
【0232】
(実施例6)
実施例3と同じbFGF非含有ヒトiPS培地、及びbFGF非含有ヒトiPSゲル培
地を用意した。
【0233】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を30
0μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベ
ータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アス
ピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、6ウェルディッ
シュにPBSを500μL添加し、細胞を洗浄後、PBSを取り除き、0.3mLのAc
cumaxを6ウェルディッシュに添加し、6ウェルディッシュをCO2インキュベータ
に入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF非含有ヒトiPS培
地を6ウェルディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0234】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チュー
ブに添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取
り除き、1mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブに添加し、血
球計算版を用いて細胞数を計算した。
【0235】
その後、5×105個のiPS細胞を含有する2mLのbFGF非含有ヒトiPSゲル
培地を分画分子量が100kDaの透析チューブを備える透析モジュール(Spectr
um G235035)に入れた。透析チューブ内には、ROCK阻害剤を入れなかった
。さらに、図5に示すように、透析モジュールを50mL遠心チューブに入れ、遠心チュ
ーブ内の透析チューブの周囲に20mLのbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を入れた。
さらに、透析チューブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地に終濃度が10μmo
l/LとなるようROCK阻害剤を添加した。一部の遠心チューブには、コントロールと
してROCK阻害剤を添加しなかった。その後、2日に1回、透析チューブの周囲のbF
GF非含有ヒトiPSゲル培地を10mL交換し、7日間浮遊培養を続けた。なお、交換
の際に新たに入れられるbFGF非含有ヒトiPSゲル培地は10μmol/Lの濃度で
ROCK阻害剤を含んでいた。
【0236】
図19(a)に示すように、透析チューブの周囲にROCK阻害剤を添加していないb
FGF非含有ヒトiPSゲル培地を入れて培養した場合と比較して、図19(b)に示す
ように、透析チューブの周囲にROCK阻害剤を添加したbFGF非含有ヒトiPSゲル
培地を入れて培養した場合、図20に示すようにiPS細胞はコロニーを優位に形成して
いた。
【0237】
これらの結果から、ROCK阻害剤等の低分子が透析チューブの膜を透過することが示
された。また、透析チューブ中の培地成分の濃度を維持したまま、iPS細胞を培養でき
ることが示された。
【0238】
(実施例7)
実施例3と同じbFGF非含有ヒトiPS培地、及びbFGF非含有ヒトiPSゲル培
地を用意した。
【0239】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を30
0μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベ
ータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アス
ピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、6ウェルディッ
シュにPBSを500μL添加し、細胞を洗浄後、6ウェルディッシュからPBSを取り
除き、0.3mLのAccumaxを6ウェルディッシュに添加し、6ウェルディッシュ
をCO2インキュベータに入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbF
GF非含有ヒトiPS培地を6ウェルディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルに
なるまで懸濁した。
【0240】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チュー
ブに添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取
り除き、1mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を遠心チューブに添加し、血球計算版を
用いて細胞数を計算した。
【0241】
その後、5×105個のiPS細胞を含有する2mLのbFGF非含有ヒトiPSゲル
培地を透析モジュールの透析チューブに入れた。さらに、透析モジュールを50mL遠心
チューブ(Corning 352070)に入れ、遠心チューブ内の透析チューブの周
囲に20mLのbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を入れた。さらに、透析チューブの周
囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地に10μmol/LのROCK阻害剤を添加した
。その後、2日に1回、透析チューブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を新鮮
なゲル培地に10mL交換し、7日間浮遊培養を続けた。なお、交換の際に新たに入れら
れるbFGF非含有ヒトiPSゲル培地は10μmol/Lの濃度でROCK阻害剤を含
んでいた。また、一部の遠心チューブにおいては、コントロールとして、透析チューブの
周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を交換することなく、7日間浮遊培養を続けた
【0242】
図21(b)に示すように、透析チューブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地
を新鮮なゲル培地に交換しなかった場合と比較して、図21(a)に示すように、透析チ
ューブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を交換した場合、図22に示すように
、iPS細胞が形成する個々のコロニーが大きいことが示された。これらの結果から、透
析チューブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地の交換が、iPS細胞の増殖能を
促進することが示された。
【0243】
さらに、7日間浮遊培養したiPS細胞のコロニーをフィーダー細胞上に再播種し、コ
ロニーの形態からiPS細胞の未分化性維持を確認した。図23及び図24に示すように
、透析チューブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を交換した場合も、交換しな
かった場合も、80%以上のコロニーが未分化の状態を維持していた。
【0244】
(実施例8)
実施例3と同じbFGF非含有ヒトiPS培地、及びbFGF非含有ヒトiPSゲル培
地を用意した。
【0245】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を30
0μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベ
ータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アス
ピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、6ウェルディッ
シュにPBSを500μL添加し、細胞を洗浄後、PBSを取り除き、0.3mLのAc
cumaxを6ウェルディッシュに添加し、6ウェルディッシュをCO2インキュベータ
に入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF非含有ヒトiPS培
地を6ウェルディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0246】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チュー
ブに添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取
り除き、1mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を遠心チューブに添加し、血球計算版を
用いて細胞数を計算した。
【0247】
その後、5×105個のiPS細胞を含有する2mLのbFGF非含有ヒトiPSゲル
培地を透析モジュールの透析チューブに入れた。さらに、透析モジュールを50mL遠心
チューブに入れ、遠心チューブ内の透析チューブの周囲に20mLのbFGF非含有ヒト
iPSゲル培地を入れた。さらに、透析チューブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル
培地に10μmol/LのROCK阻害剤を添加した。その後、2日に1回、透析チュー
ブの周囲のbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を新鮮なゲル培地に10mL交換し、7日
間浮遊培養を続けた。なお、交換の際に新たに入れられるbFGF非含有ヒトiPSゲル
培地は10μmol/Lの濃度でROCK阻害剤を含んでいた。
【0248】
また、第1のコントロールとして、5×105個のiPS細胞を含有する2mLのbF
GF非含有ヒトiPSゲル培地を透析モジュールの透析チューブに入れた。さらに、透析
チューブを50mL遠心チューブに入れ、遠心チューブ内の透析チューブの周囲に20m
Lのジェランガム及びbFGF非含有ヒトiPS培地を入れた。さらに、透析チューブの
周囲のbFGF及びジェランガム非含有ヒトiPS培地に10μmol/LのROCK阻
害剤を添加した。その後、2日に1回、透析チューブの周囲のbFGF及びジェランガム
非含有ヒトiPS培地を新鮮な培地に10mL交換し、7日間浮遊培養を続けた。
【0249】
さらに、第2のコントロールとして、透析チューブを用いることなく、5×105個の
iPS細胞を含有する2mLのbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を50mL遠心チュー
ブに入れた。その後、毎日1回、50mL遠心チューブに500μLのbFGF非含有ヒ
トiPSゲル培地を追加し、7日間浮遊培養を続けた。
【0250】
その結果、図25及び図26に示すように、透析チューブを用いなかった場合と比較し
て、透析チューブを用いた場合のほうが、iPS細胞のコロニー数が増えていた。さらに
、透析チューブの周囲にbFGF及びジェランガム非含有ヒトiPS培地を用いた場合と
比較して、透析チューブの周囲にbFGF非含有ヒトiPSゲル培地を用いたほうが、i
PS細胞のコロニー数が増えていた。
【0251】
(実施例9:ポリマー培地におけるiPS細胞の誘導)
500mLのPrimate ES Cell Medium(ReproCELL)
及び0.2mLの濃度が10μg/mLのbFGF(Gibco PHG0266)を混
合し、bFGF含有ヒトiPS培地を調製した。また、500mLのPrimate E
S Cell Medium(Reprocell)にbFGF(Gibco PHG02
66)を混合しなかったbFGF非含有ヒトiPS培地を調製した。さらに、市販の血清
フリーのフィーダーフリー培地を用意した。
【0252】
また、bFGF非含有ヒトiPS培地、bFGF含有ヒトiPS培地、市販の血清フリ
ーのフィーダーフリー培地に脱アシル化ジェランガム(日産化学)を濃度が0.02重量
%となるよう添加し、bFGF非含有ヒトiPSゲル培地、bFGF含有ヒトiPSゲル
培地、比較用ゲル培地を調製した。
【0253】
レトロウイルスを用いてOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCをヒト繊維芽
細胞に導入し、7日間浮遊培養後、1×105個の細胞をbFGF非含有ヒトiPSゲル
培地に懸濁し、bFGF非含有ヒトiPSゲル培地、bFGF含有ヒトiPSゲル培地、
比較用ゲル培地中で培養した。その結果、iPS細胞が作製された。その図を図27に示
す。そこで、bFGF非含有ヒトiPSゲル培地中で作製されたiPS細胞をフィーダー
上にまきなおし、二日後にコロニーの形態を確認したところ、図28(a)に示すように
、未分化なiPS細胞コロニーであった。さらにOCT3/4及びNANOGの抗体で染
色をしたところ、図28(b)及び図28(c)に示すように、陽性であった。このこと
から、iPS細胞をポリマー培地中で誘導できることが示された。
【0254】
(実施例10:ポリマー培地で誘導されたiPS細胞のクローナリティ)
ポリマー培地で誘導されたiPS細胞を培養している6cmディッシュにCTK溶液を
300μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキ
ュベータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみがはがれていることを確認し、
アスピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、ディッシュ
にPBSを500μL添加し、iPS細胞を洗浄後、PBSを取り除き、0.3mLの剥
離液(Accumax)をディッシュに添加し、CO2インキュベータに入れ、5分間イ
ンキュベートした。その後、0.7mLのbFGF非含有iPS培地をディッシュに添加
し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0255】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF非含有iPS培地を遠心チューブに添加し、遠
心機を用いて270gで遠心した。遠心後、上清を取り除き、1mLのbFGF非含有i
PS培地を添加し、血球計算版を用いて細胞数を計算した。細胞計算後、2.5×105
個ずつiPS細胞をCell explorer live cell labelin
g kit Red及びcell exploler live cell label
ing kit Green(AAT bioquest)を用いて染色した。染色後、
各染色した細胞を混合し、5×105個ずつiPS細胞を非接着ディッシュ又は15mL
チューブに播種し、以後攪拌することなく浮遊培養した。15mLチューブにおいては、
bFGF非含有ヒトiPSゲル培地を2mL用いた。非接着ディッシュにおいては、ゲル
化していないbFGF非含有ヒトiPS培地を2mL用いた。各培地にはROCK阻害剤
(Selleck S1049)を濃度が10μmol/Lとなるよう添加した。その後
、15mLチューブ及び非接着ディッシュに、毎日500μLのbFGF非含有ヒトiP
S培地を添加した。なお、交換の際に新たに入れられるbFGF非含有ヒトiPSゲル培
地は10μmol/Lの濃度でROCK阻害剤を含んでいた。また、15mLチューブ及
び非接着ディッシュに、毎日、終濃度が10μmol/LとなるようROCK阻害剤を添
加し、7日間、浮遊培養を続けた。
【0256】
その結果、図29(a)に示すように、非接着ディッシュにおいてジェランガムを含ま
ない培地を用いてiPS細胞を培養した場合、異なる染色をされたiPS細胞コロニー同
士の凝集が顕著に認められた。定量したところ、40%以上の細胞が凝集していた。これ
に対し、15mLチューブ中において、bFGF非含有ヒトiPSゲル培地を用いてiP
S細胞を培養した場合、図29(b)に示すように、凝集は認められなかった。
【0257】
(実施例11)
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブ
に添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取り
除き、1mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブに添加し、血球計
算版を用いて細胞数を計算した。細胞計算後、5×105個ずつiPS細胞を15mLフ
ァルコンチューブ(登録商標、Corning 352096)又は非接着ディッシュに
播種し、以後攪拌することなく浮遊培養した。
【0258】
培地は、bFGF含有ヒトiPSゲル培地またはジェランガムを含有しないbFGF含
有ヒトiPS培地を2mL用いて、チューブまたは非接着ディッシュで5日から7日間培
養した。各培地にはROCK阻害剤(Selleck S1049)が10μmol/L
となるよう添加した。その後、15mLチューブ及び非接着ディッシュに、毎日500μ
Lのジェランガムを含むbFGF含有ヒトiPS培地または、ジェランガムを含まないb
FGF含有ヒトiPS培地を添加した。また、15mLチューブ及び非接着ディッシュに
、毎日、終濃度が10μmol/LとなるようROCK阻害剤を添加し、5日から7日間
、浮遊培養を続けた。
【0259】
図30(a)は、iPS細胞をチューブで、ジェランガムを含まないbFGF含有ヒト
iPS培地で培養した写真である。この場合、iPS細胞が沈殿して培養は不可能であっ
た。図30(b)は、iPS細胞をチューブで、ジェランガムを含むbFGF含有ヒトi
PS培地で培養した写真である。この場合、iPS細胞の沈殿や凝集は起きなかった。図
30(c)は、iPS細胞をディッシュで、ジェランガムを含まないbFGF含有ヒトi
PS培地で培養した写真である。この場合、iPS細胞が凝集して培養は不可能であった
図30(d)は、iPS細胞をディッシュで、ジェランガムを含むbFGF含有ヒトi
PS培地で培養した写真である。この場合、iPS細胞が凝集して培養は不可能であった
【0260】
(実施例12)
実施例3と同じbFGF非含有ヒトiPS培地、及びbFGF非含有ヒトiPSゲル培
地を用意した。また、市販の血清フリーのフィーダーフリー培地を用意した。
【0261】
さらに、上部開口の直径が0.8mmで、下部開口の直径が0.5mmである貫通孔が
格子状に複数設けられた格子プレート(Spheroid Generator MPs
500及びMPc500、クラレ)を用意した。
【0262】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を30
0μL添加し、CO2インキュベータ中で3分インキュベートした。3分後、インキュベ
ータからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アス
ピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、ディッシュにP
BSを500μL添加し、細胞を洗浄後、PBSを取り除き、0.3mLのAccuma
xをディッシュに添加し、ディッシュをCO2インキュベータに入れ、5分間インキュベ
ートした。その後、0.7mLのbFGF非含有ヒトiPS培地をディッシュに添加し、
iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0263】
その後、4mLのbFGF非含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブに添加し、
遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取り除き、1m
LのbFGF非含有ヒトiPS培地を遠心チューブに添加し、血球計算版を用いて細胞数
を計算した。
【0264】
その後、2.5×105個ずつiPS細胞を格子プレートにまき、2日間、格子プレー
トの各貫通孔を用いて懸滴型(ハンギングドロップ型)の培養して、図31(a)に示す
ような均一な大きさのコロニーを形成させた。次に、均一な大きさのコロニーを2mLの
bFGF非含有ヒトiPSゲル培地に入れ、コロニーを含むbFGF非含有ヒトiPSゲ
ル培地を透析モジュールの透析チューブに入れた。さらに、透析モジュールを50mL遠
心チューブに入れ、遠心チューブ内の透析チューブの周囲に20mLのジェランガムを含
まない市販の血清フリーのフィーダーフリー培地を入れた。その後、2日に1回、透析チ
ューブの周囲のジェランガムを含まない市販の血清フリーのフィーダーフリー培地を新鮮
な培地に10mL交換し、7日間浮遊培養を続けた。なお、交換の際に入れられる培地は
、10μmol/Lの濃度でROCK阻害剤を含んでいた。
【0265】
7日間の浮遊培養の後、図31(b)及び図32に示すように、iPS細胞のコロニー
が大きくなっていることが観察された。これらの結果から、コロニーにおいてiPS細胞
が増殖していることが示された。
【0266】
さらに、浮遊培養したiPS細胞コロニーをフィーダー細胞上に再播種し、3日後、コ
ロニーの形態からiPS細胞の未分化性維持を確認した。その結果、図33及び図34
示すように全てのコロニーが未分化であった。したがって、格子プレートでiPS細胞の
コロニーを均一な大きさにし、その後、iPS細胞の未分化の状態を維持したままポリマ
ー培地中で培養できることが示された。
【0267】
(第5の実施の形態)
本発明の実施の形態に係る人工多能性幹(iPS)細胞の作製方法は、体細胞を用意す
ることと、体細胞に初期化因子をコードしているRNAをリポフェクション法により導入
することと、を含む。
【0268】
体細胞は、例えば血液細胞である。血液細胞は、血液から分離される。血液は、例えば
末梢血及び臍帯血であるが、これらに限定されない。血液は、成年から採取されてもよい
し、未成年から採取されてもよい。採血の際には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)
、ヘパリン、及び生物学的製剤基準血液保存液A液(ACD-A)液等の抗凝固剤を用い
る。
【0269】
血液細胞は、例えば、単核球細胞(Monocyte)、好中球、好酸球、好塩基球、
及びリンパ球等の有核細胞であり、赤血球、顆粒球、及び血小板を含まない。血液細胞は
、例えば血管内皮前駆細胞、血液幹・前駆細胞、T細胞、又はB細胞であってもよい。T
細胞は、例えばαβT細胞である。
【0270】
単核球細胞は、血液細胞の分離用媒体、及び遠心分離装置等を用いて、血液から分離さ
れる。血液細胞の分離用媒体としてFicoll(GEヘルスケア)を使用する場合の、
単核球細胞の分離方法は、以下のとおりである。
【0271】
低温では単核球細胞の分離精度が悪くなる傾向にあるため、遠心機を4℃から42℃好
ましくは18℃に設定する。成年又は未成年のヒトから10μLから50mLの血液を採
血し、血液が固まらないように血液にEDTAを含むキレート剤を加えて優しく混ぜる。
また、ヒトリンパ球分離用の媒体(Ficoll-Paque PREMIUM、GEヘ
ルスケアジャパン)を5mLずつ2本の15mLチューブに分注する。5mLの血液に対
して5mLのPBSを加えて希釈し、チューブ中のヒトリンパ球分離用の媒体の上に5m
Lずつ重層する。この時、界面を乱さないように、希釈血液をチューブの管壁を伝わらせ
てゆっくりと媒体上に加える。
【0272】
チューブ中の溶液を、10×gから1000×g、好ましくは400×gで、4℃から
42℃好ましくは18℃で5分から2時間、好ましくは30分間遠心する。遠心後、チュ
ーブ中に白く濁った中間層が現れる。この白く濁った中間層は、単核球細胞を含んでいる
。チューブ中の白く濁った中間層をピペットマンでゆっくりと回収し、新しい15mLチ
ューブに移す。この際、下層は吸い取らないようにする。白く濁った中間層は、1本のチ
ューブより1mL程度回収できる。2本分の中間層をまとめて1本のチューブに移す。
【0273】
回収した単核球細胞に対し、1mLから48mL、好ましくは12mLのPBSを加え
て、溶液をさらに10×gから1000×g、好ましくは200×g、4℃から42℃、
好ましくは18℃で1分から60分、好ましくは10分間遠心する。その後、アスピレー
タを用いて溶液の上清を吸引して除去し、1mLから12mL、好ましくは3mLの既知
組成無血清造血細胞培地(X-VIVO(登録商標)10、ロンザ)を加えて懸濁し、単
核球細胞懸濁液を得る。そのうち10μLの単核球細胞懸濁液をトリパンブルーで染色し
て血球計算盤でカウントする。
【0274】
採血管としてバキュテイナ(登録商標、BD)を使用する場合の、単核球細胞の分離方
法は、以下のとおりである。
【0275】
低温では単核球細胞の分離精度が悪くなる傾向にあるため、遠心機を4℃から42℃、
好ましくは18℃に設定する。成年又は未成年のヒトから、採血管(バキュテイナ(登録
商標)、BD)を用いて8mL採血し、転倒混和して抗凝固剤と混和する。その後、バラ
ンスを調整し、溶液を4℃から42℃、好ましくは18℃、100×gから3000×g
、好ましくは1500×gから1800×gでスイングロータで1分から60分、好まし
くは20分間遠心する。遠心後、血漿層である上層を取り除き、ピペッティングして単核
球層とゲルに張り付いている血球を懸濁して懸濁液を得る。得られた懸濁液を、別の15
mLチューブに移す。
【0276】
15mLチューブの懸濁液に1mLから14mL、好ましくは12mLのPBSを加え
て、懸濁液を4℃から42℃、好ましくは18℃、100×gから3000×g、好まし
くは200×gで1分から60分、好ましくは5分間遠心する。遠心後、上清をアスピレ
ータで除去する。また、溶血剤(PharmLyse(登録商標)、10倍濃度、BD)
を滅菌水で1倍濃度に希釈する。15mLチューブ中のペレットをタッピングでほぐし、
1mLから14mL、好ましくは1mLの溶血剤を加える。その後、室温で遮光し、1分
間から60分間、好ましくは1分間溶液を静置する。
【0277】
次に、15mLチューブに1mLから14mL、好ましくは12mLのPBSを加えて
、4℃から42℃、好ましくは室温で、100×gから3000×g、好ましくは200
×gで1分から60分、好ましくは5分間遠心する。遠心後、上清をアスピレータで除去
し、1mLから15mL、好ましくは3mLの既知組成無血清造血細胞培地(X-VIV
O(登録商標)10、ロンザ)を加えて懸濁し、単核球細胞懸濁液を得る。そのうち10
μLの単核球細胞懸濁液をトリパンブルーで染色して血球計算盤でカウントする。
【0278】
血液から単核球細胞を分離する方法は、上記の方法に限られず、例えば、透析膜を使用
して、血液から単核球を分離してもよい。また、全血単核球濃縮用ピュアセルセレクトシ
ステム(登録商標、PALL)、血球細胞除去用浄化器(セルソーバE、登録商標、旭化
成)、及び血小板製剤用白血球除去フィルター(セパセルPL、登録商標、PLX-5B
-SCD、旭化成)等も使用可能である。
【0279】
また、単核球細胞としては、Cellular Technology Limite
d社から販売されているCTL-UP1や、Sanguine Biosciences
社のPBMC-001等を使用してもよい。
【0280】
あるいは、血液細胞としては、セルバンカー1、ステムセルバンカー GMPグレード
、及びステムセルバンカー DMSOフリー GMPグレード(ゼノアック)等の細胞凍
結保存液を用いて凍結保存された血液細胞を解凍して用いてもよい。
【0281】
単核球細胞を解凍する際には、まず、15mLチューブに1mLから15mL、好まし
くは8mLの既知組成無血清造血細胞培地(X-VIVO(登録商標)10、ロンザ)を
入れておき、凍結した単核球細胞の入ったチューブを4℃から42℃、好ましくは37℃
の温浴槽にいれて、単核球細胞を溶かし始める。その後、少し氷が残っている状態で、単
核球細胞の入ったチューブを温浴槽から引きあげ、単核球細胞を既知組成無血清造血細胞
培地の入ったチューブに移す。そのうち10μLの単核球細胞懸濁液をトリパンブルーで
染色して血球計算盤でカウントする。
【0282】
血液細胞は、細胞表面マーカーに基づいて分離されてもよい。血液幹・前駆細胞は、C
D34が陽性である。T細胞は、CD3、CD4、CD8のいずれかが陽性である。B細
胞は、CD10、CD19、CD20のいずれかが陽性である。血液幹・前駆細胞、T細
胞、又はB細胞は、例えば、自動磁気細胞分離装置を用いて、血液細胞から分離される。
あるいは、予め分離された単核球細胞を用意してもよい。ただし、細胞表面マーカーに基
づいて分離されていない血液細胞に、初期化因子RNAを導入してもよい。
【0283】
CD34陽性細胞は、幹・前駆細胞であり、リプログラミングされやすい傾向にある。
また、CD3陽性細胞であるT細胞を用いてiPS細胞を作製すると、T細胞由来のiP
S細胞はTCRリコンビネーションの型を保持しているので、T細胞に効率的に分化誘導
できる傾向にある。
【0284】
CD34陽性細胞の分離方法は、以下のとおりである。
【0285】
10mLの無血清培地(StemSpan H3000、STEMCELLTechn
ologies)に、10μLのIL-6(100μg/mL)、10μLのSCF(3
00μg/mL)、10μLのTPO(300μg/mL)、10μLのFlt3リガン
ド(300μg/mL)、及び10μLのIL-3(10μg/mL)を加えて血球培地
(血液幹・前駆細胞培地)を調製する。
【0286】
6ウェルプレートの1ウェルに1mLから6mL、好ましくは2mLの血球培地を入れ
る。また、培地の蒸発を防ぐために、他の5ウェルのそれぞれに1mLから6mL、2m
LのPBSを入れる。その後、6ウェルプレートを4℃から42℃、好ましくは37℃の
インキュベータに入れて温める。
【0287】
20mLのPBSに対し、10μLから1mL、好ましくは80μLのEDTA(50
0mmol/L)及び10μLから1mL、好ましくは200μLのFBSを加えたカラ
ムバッファを用意する。1×104から1×109個、好ましくは2×107個の単核球細
胞を含有する単核球細胞懸濁液を15mLチューブに分注し、単核球細胞懸濁液を、4℃
から42℃、好ましくは4℃、100×gから3000×g、好ましくは300×gで1
0分間遠心する。遠心後、上清を除き、単核球細胞を100μLから1mL、好ましくは
300μLのカラムバッファで懸濁する。
【0288】
15mLチューブ中の単核球細胞懸濁液に、10μLから1mL、好ましくは100μ
LのFcRブロッキング試薬(Miltenyi Biotec)及び10μLから1m
L、好ましくは100μLのCD34マイクロビーズキット(Miltenyi Bio
tec)を加える。FcRブロッキング試薬は、マイクロビーズ標識の特異性を高めるた
めに用いられる。その後、単核球細胞懸濁液を混和して、4℃から42℃、好ましくは4
℃で1分から2時間、好ましくは30分間静置する。
【0289】
次に、15mLチューブ中の単核球細胞懸濁液に1mLから15mL、好ましくは10
mLのカラムバッファを加えて希釈し、4℃から42℃、好ましくは4℃、100×gか
ら1000×g、好ましくは300×gで1分から2時間、好ましくは10分間遠心する
。遠心後、15mLチューブ中の上清をアスピレータで除き、10μLから10mL、好
ましくは500μLのカラムバッファを加えて再懸濁する。
【0290】
自動磁気細胞分離装置用のカラム(MSカラム、Miltenyi Biotec)を
自動磁気細胞分離装置(MiniMACS Separation Unit、Milt
enyi Biotec)に取り付け、カラムに10μLから10mL、好ましくは50
0μLのカラムバッファを入れて洗浄する。次に、単核球細胞をカラムに入れる。さらに
、カラムに10μLから10mL、好ましくは500μLのカラムバッファを入れて、カ
ラムを1回から10回、好ましくは3回洗浄する。その後、カラムを自動磁気細胞分離装
置から外し、15mLチューブに入れる。次に、カラムに10μLから10mL、好まし
くは1000μLのカラムバッファを入れ、速やかにシリンジを押してCD34陽性細胞
を15mLチューブに流出させる。
【0291】
10μLのCD34陽性細胞懸濁液をトリパンブルーで染めて、細胞数を血球計算版で
カウントする。また、15mLチューブ中のCD34陽性細胞懸濁液を、4℃から42℃
、好ましくは4℃、100×gから1000×g、好ましくは300×gで1分から2時
間、好ましくは10分間遠心する。遠心後、上清をアスピレータで除く。さらに、温めて
おいた血球培地でCD34陽性細胞を再懸濁し、CD34陽性細胞を培養プレートにまく
。その後、4℃から42℃、好ましくは37℃、1%から20%、好ましくは5%CO2
でCD34陽性細胞を6日間培養する。この間、培地交換はしなくてもよい。
【0292】
CD34以外のマーカーで細胞を単離する方法は、CD34陽性細胞を単離する方法と
同様である。
【0293】
初期化因子RNAを導入される血液細胞は、例えばT細胞培地又は血液幹・前駆細胞培
地で培養される。T細胞由来のiPS細胞を作製する場合は、T細胞培地を用い、CD3
4陽性細胞からiPS細胞を作製する場合は、血液幹・前駆細胞培地を用いる。培養条件
は、例えば、CO2濃度が5%、酸素濃度が25%以下、及び温度が37℃以下である。
【0294】
初期化因子RNAを導入される血液細胞は、Matrigel(Corning)、C
ELLstart(登録商標、ThermoFisher)、あるいはLaminin5
11 (nippi)等の基底膜マトリックスを用いて、フィーダーフリーで培養する。
【0295】
培養液としては、Primate ES Cell Medium、Reproste
m、ReproFF、ReproFF2、ReproXF(ReproCELL)、mT
eSR1、TeSR2、TeSRE8、ReproTeSR(STEMCELL Tec
hnologies)、PluriSTEM(登録商標)Human ES/iPS M
edium(Merck)、NutriStem (登録商標)XF/FF Cultu
re Medium for Human iPS and ES Cells、Plu
riton reprogramming medium(Stemgent)、Plu
riSTEM(登録商標)、Stemfit AK02N、Stemfit AK03(
Ajinomoto)、ESC-Sure(登録商標)serum and feede
r free medium for hESC/iPS(Applied StemC
ell)、及びL7(登録商標)hPSC Culture System (LONZ
A)等を利用してもよい。
【0296】
浮遊培養で行なう場合は、血液細胞をスピナーフラスコに入れて攪拌培養する。あるい
は、血液細胞を0.001%から10%のジェランガム溶液、脱アシル化ジェランガム、
ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、フコ
イダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫
酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、及びラムナン硫酸、並びにそれ
らの塩からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物、又は温度感受性ゲルに
入れて培養してもよい。また、ゲル培地は、メチルセルロースを含んでいてもよい。メチ
ルセルロースを含むことにより、細胞同士の凝集がより抑制される。
【0297】
温度感受性ゲルは、poly(glycerol monomethacrylate) (PGMA)、poly(2-hydroxypropyl
methacrylate) (PHPMA)、ポリイソプロピルアクリルアミド、Poly (N-isopropylacryla
mide) (PNIPAM)、amine terminated、carboxylic acid terminated、maleimide terminat
ed、N-hydroxysuccinimide (NHS) ester terminated、triethoxysilane terminated、Pol
y (N-isopropylacrylamide-co-acrylamide)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylic
acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-butylacrylate)、Poly (N-isopropylacrylamid
e-co-methacrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid-co-octad
ecyl acrylate)、及びN-Isopropylacrylamideから選択される少なくとも1種を含んでい
てもよい。
【0298】
培地は、カドヘリン、ラミニン、フィブロネクチン、及びビトロネクチンからなる群か
ら選択される少なくとも1種の物質を含んでいてもよい。
【0299】
血液細胞には、初期化因子RNAが導入される。初期化因子RNAは、例えば、Oct
3/4のmRNA、Sox2のmRNA、Klf4のmRNA、及びc-MycのmRN
Aを含む。また、初期化因子RNAは、LIN28A、LIN28B、GLIS1、FO
XH1、p53-dominant negative、p53-P275S、L-MY
C、NANOG、DPPA2、DPPA4、DPPA5、ZIC3、BCL-2、E-R
AS、TPT1、SALL2、NAC1、DAX1、TERT、ZNF206、FOXD
3、REX1、UTF1、KLF2、KLF5、ESRRB、miR-291-3p、m
iR-294、miR-295、NR5A1、NR5A2、TBX3、MBD3sh、T
H2A、及びTH2Bからなる群から選択される少なくとも一つの因子のmRNAをさら
に含んでいてもよい。これらのmRNAは、TriLinkから入手可能である。
【0300】
mRNAは、プソイドウリジン(Ψ)、5-メチルウリジン(5meU)、N1-メチ
ルシュードウリジン(me1Ψ)、5-メトキシウリジン(5moU)、5-ヒドロキシ
メチルウリジン(5hmU)、5-フォーミルウリジン(5fU)、5-カルボキシメチ
ルエステルウリジン(5camU)、チエノグアノシン(thG)、N4-メチルシチジ
ン(me4C)、5-メチルシチジン(m5C)、5-メトキシチジン(5moC)、5
-ヒドロキシメチルシチジン(5hmC)、5-ヒドロキシシチジン(5hoC)、5-
フォルムシチジン(5fC)、5-カルボキシシチジン(5caC)、N6-メチル-2
-アミノアデノシン(m6DAP)、ジアミノプリン(DAP)、5-メチルウリジン(
m5U)、2’-O-メチルウリジン(Umまたはm2’-OU)、2-チオウリジン(
s2U)、及びN6-メチルアデノシン(m6A)からなる群から選択される少なくとも
1つで修飾されていてもよい。
【0301】
mRNAは、ポリアデニル化されていてもよい。
【0302】
mRNAは、インビトロで転写される(IVT)RNAのポリアデニル化によって調製
されてもよい。mRNAは、ポリ(A)末端をコードするDNAテンプレートを用いるこ
とによって、IVTの間にポリアデニル化されてもよい。mRNAがキャッピングされて
もよい。細胞における発現の効率性を最大化するために、大部分のmRNA分子がキャッ
プを含有することが好ましい。mRNAは5’cap[m7G(5’)ppp(5’)G
]構造を有していてもよい。当該配列はmRNAを安定化させ、mRNA転写を促進させ
る。5’triphosphateをもつmRNAからは、脱リン酸化処理により5’t
riphosphateを取り除いてもよい。mRNAはAnti-Reverse C
ap Analog(ARCA)として[3’O-Me-m7G(5’)ppp(5’)
G]を有していてもよい。ARCAは転写開始点より前に挿入される配列であり、転写さ
れるmRNAの効率は二倍となる。mRNAはPolyAテールを有していてもよい。
【0303】
また、mRNAは、自己増殖能を持つリプリケイティブRNAであってもよい。リプリ
ケイティブRNAとは、自己増殖能を持つRNAであり、通常のRNAと異なり、RNA
の複製に必要なタンパク質を発現させる能力を併せ持っている。リプリケイティブRNA
はアルファウイルスであるベネズエラ馬脳炎(VEE)ウイルス由来である。リプリケイ
ティブRNAを細胞にリポフェクションすると、リプログラミング因子を作り続けるRN
Aを細胞に発現させることができるため、毎日RNAを添加する必要を省くことが可能と
なる。
【0304】
リプリケイティブRNAの配列は、アルファウイルスレプリコンRNA、東部ウマ脳炎
ウイルス(EEE)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)、エバーグレーズ(Eve
rglades)ウイルス、ムカンボ(Mucambo)ウイルス、ピクスナ(Pixu
na)ウイルス、及び西部ウマ脳炎ウイルス(WEE)からなる群から選択されるアルフ
ァウイルスから得られる配列を含んでいてよい。
【0305】
また、リプリケイティブRNAは、シンドビス(Sindbis)ウイルス、セムリキ
森林(Semliki Forest)ウイルス、ミデルブルグ(Middelburg
)ウイルス、チクングニア(Chikungunya)ウイルス、オニョンニョン(O’
nyong-nyong)ウイルス、ロスリバー(Ross River)ウイルス、バ
ーマフォレスト(Barmah Forest)ウイルス、ゲタ(Getah)ウイルス
、サギヤマ(Sagiyama)ウイルス、ベバル(Bebaru)ウイルス、マヤロ(
Mayaro)ウイルス、ウナ(Una)ウイルス、アウラ(Aura)ウイルス、ワタ
ロア(Whataroa)ウイルス、ババンキ(Babanki)ウイルス、Kyzyl
agachウイルス、ハイランドJ(Highlands J)ウイルス、フォートモー
ガン(Fort Morgan)ウイルス、ヌドゥム(Ndumu)ウイルス、及びバギ
ークリーク(Buggy Creek)ウイルスからなる群から選択されるアルファウイ
ルスから得られる配列を含んでいてよい。
【0306】
リプリケイティブRNAは、5’から3’に向かって、(VEE RNAレプリカーゼ
)-(プロモーター)-(RF1)-(自己切断型ペプチド)-(RF2)-(自己切断
型ペプチド)-(RF3)-(IRESもしくはコアプロモーター)-(RF4)-(I
RESもしくは任意のプロモーター)-(任意に選択可能なマーカー)-(VEE 3’
UTR及びポリAテール)-(任意に選択可能なマーカー)-プロモーターを含んでおり
、上記のRF1-4は、多能性細胞への体細胞の脱分化を誘導する因子であって、上記の
RF2-3、RF3-4、RF4は任意であり、上記のRF1-4は、Oct-4、Kl
f4、Sox-2、c-Myc、LIN28A、LIN28B、GLIS1、FOXH1
、p53-dominant negative、p53-P275S、L-MYC、N
ANOG、DPPA2、DPPA4、DPPA5、ZIC3、BCL-2、E-RAS、
TPT1、SALL2、NAC1、DAX1、TERT、ZNF206、FOXD3、R
EX1、UTF1、KLF2、KLF5、ESRRB、miR-291-3p、miR-
294、miR-295、NR5A1、NR5A2、TBX3、MBD3sh、TH2A
、及びTH2Bからなる群から選択されてもよい。
【0307】
初期化因子RNAは、例えばリポフェクション法により血液細胞に導入される。リポフ
ェクション法とは、陰性荷電物質である核酸と、陽性荷電脂質と、の複合体を、電気的な
相互作用により形成し、複合体をエンドサイトーシスや膜融合により細胞内に取り込ませ
る方法である。リポフェクション法は、細胞へのダメージが少なく、導入効率に優れてお
り、操作が簡便であり、時間がかからない等の利点を有する。
【0308】
初期化因子RNAのリポフェクションには、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)
或いはリポフェクション試薬が用いられる。RNAのリポフェクション試薬としては、s
iRNAのリポフェクション試薬及びmRNAのリポフェクション試薬が使用可能である
。より具体的には、RNAのリポフェクション試薬としては、Lipofectamin
e(登録商標)RNAiMAX(Thermo Fisher Scientific)
、Lipofectamine(登録商標)MessengerMAX(Thermo
Fisher Scientific)、Lipofectamine(登録商標)20
00、Lipofectamine(登録商標)3000、NeonTransfect
ion System(Thermo Fisher scientific)、Ste
mfect RNA transfection reagent(STEMGENT)
、NextFect(登録商標)RNA Transfection Reagent(
BiooScientific)、Amaxa(登録商品)Human T cell
Nucleofector(登録商品)kit(Lonza社、VAPA-1002)、
Amaxa(登録商品)Human CD34 cell Nucleofector(
登録商品)kit(Lonza社、VAPA-1003)、及びReproRNA(登録
商標)トランスフェクション試薬(STEMCELL Technologies)等が
使用可能である。
【0309】
初期化因子RNAのリポフェクションの際の血液細胞数は、例えば、1個から1×10
8個、1×104個から5×106個、あるいは5×105個から5×106個である。1m
Lの培養液あたり、リポフェクションの際の初期化因子RNAの量は、例えば、1回あた
り5ngから50μg、50ngから10μg、あるいは600ngから3μgである。
また、リポフェクションの際のリポフェクション試薬の量は、例えば、1回あたり0.1
μLから500μL、1μLから100μL、あるいは1μLから40μLである。初期
化因子のリポフェクションは、1回あたり0.1時間以上24時間以下、2時間以上21
時間以下、12時間30分以上18時間30分以下、あるいは18時間行う。例えば、1
2ウェルプレートを用い、細胞数が4×105個である場合、6μLのRNAiMAX又
は3μLのMessengerMAXを用いる。
【0310】
初期化のリポフェクションは、例えば、2日に1回、あるいは1日に1回、5日間以上
9日間以内、6日間以上8日間以内、あるいは7日間繰り返して行う。ただし、mRNA
がリプリケイティブRNAである場合、リポフェクションは1回でもよい。初期化因子R
NAのリポフェクションの際に用いられる培地は、例えばOpti-MEM(登録商標、
Gibco)等の低血清培地である。
【0311】
血液細胞が人工多能性幹細胞に誘導(リプログラミング)されたか否かは、例えば、サ
イトフローメータで、未分化であることを示す細胞表面マーカーであるTRA-1-60
、TRA-1-81、SSEA-1、及びSSEA5から選択される少なくとも一つの表
面マーカーが陽性であるか否かを分析することにより行う。TRA-1-60は、iPS
/ES細胞に特異的な抗原であり、体細胞では検出されない。iPS細胞はTRA-1-
60陽性画分からのみできることから、TRA-1-60陽性細胞はiPS細胞の種と考
えられる。
【0312】
以上説明した本発明の実施の形態に係る人工多能性幹細胞の作製方法においては、初期
化因子を発現させることができるRNAを血液細胞等の体細胞に導入して、初期化因子を
発現させ、人工多能性幹細胞を作製している。そのため、体細胞のDNAに初期化因子が
取り込まれることなく、人工多能性幹細胞を作製することが可能である。
【0313】
従来の人工多能性幹細胞の作製方法においては、体細胞DNAへ初期化因子を挿入して
いるため、ゲノムに傷がつき、細胞の癌化の原因となっている。これに対し、本発明の実
施の形態に係る人工多能性幹細胞の作製方法においては、初期化因子をコードしているR
NAを用いているため、ゲノムへ遺伝子が挿入することなく、人工多能性幹細胞を作製す
ることが可能であり、これに伴う癌化の可能性がない。そのため、本発明の実施の形態に
係る作製方法で作製された人工多能性幹細胞は、臨床利用可能な細胞の適正製造基準を満
たし得る。
【0314】
また、従来のレトロウイルス又はレンチウイルスを用いる人工多能性幹細胞の作製方法
においては、作製された人工多能性幹細胞にウイルスが残存する。これに対し、本発明の
実施の形態に係る人工多能性幹細胞の作製方法においては、初期化因子RNAをリポフェ
クションにより導入するため、ウイルスを必要としない。そのため、作製される人工多能
性幹細胞にウイルスが残存しない。この点においても、本発明の実施の形態に係る作製方
法で作製された人工多能性幹細胞は、臨床利用可能な細胞の適正製造基準を満たし得る。
【0315】
さらに、従来のエレクトロポレーションを用いる人工多能性幹細胞の作製方法は、細胞
へのダメージが大きく、多数の細胞を誘導前に破壊する。これに対し、本発明の実施の形
態に係る人工多能性幹細胞の作製方法が用いるリポフェクションは、細胞へのダメージが
少なく、多数の細胞を誘導前に破壊することがない。また、リポフェクションは、高価な
機器を必要とせず、工程が簡便である。
【0316】
また、繊維芽細胞から人工多能性幹細胞を作製する場合、高侵襲なバイオプシーを行っ
て皮膚の細胞を採取する必要がある。これに対し、本発明の実施の形態に係る人工多能性
幹細胞の作製方法においては、血液細胞は低侵襲な採血によって採取することが可能であ
る。また、一般に、採血からは、人工多能性幹細胞の作製に必要な十分な数の血液細胞が
得られる。そのため、繊維芽細胞のように、血液細胞を人工多能性幹細胞に誘導する前に
増殖させる必要がない。さらに、増殖培養時に生じうるDNAに傷が入るリスクも、血液
細胞では生じない。またさらに、血液細胞は、皮膚細胞と異なり、外気に触れずに採取す
ることが可能である。そのため、採血の段階からクリーンな閉鎖系の中で、血液細胞を人
工多能性幹細胞に誘導することが可能である。この点においても、血液細胞は、臨床利用
に適している。
【0317】
(実施例13)
(準備)
ヒト血液細胞は健康な成人男性から入手した。また、修飾化mRNA(TriLink
社)、非接着ディッシュ、15mLチューブ、50mLチューブ、フィコール、サイトフ
ローメータ(BD)、CD34に対する抗体(Miltenyi Biotec)、CD
3に対する抗体(Miltenyi Biotec)、MACS(登録商標)バッファ(
Miltenyi Biotec)、T細胞培地、低血清培地(Opti-MEM(登録
商標)、Gibco)、siRNA導入試薬(Lipofectamine(登録商標)
RNAiMAX、ThermoFisherScience)、及びTRA-1-60に
対する抗体(BD)を用意した。
【0318】
T細胞(CD3陽性細胞)培地は、以下A培地とB培地の混合液であった。A培地は、
15mLのX vivo-10(Lonza社、04-743Q)及びIL-2(10μ
g/mL)の混合液であった。B培地は1.5mLチューブにX vivo-10及びD
ynabeadsCD3/CD28(Life Technologies社, 111
-31D)50μLを混合し、5秒間ボルテックス後、スピンダウンし、DynaMag
-2(Thermo fisher Science)に静置し、一分静置後、上清を取
り除いたものであった。
【0319】
また、10mLの無血清培地(StemSpan H3000、STEMCELLTe
chnologies)に、10μLのIL-6(100μg/mL)、10μLのSC
F(300μg/mL)、10μLのTPO(300μg/mL)、10μLのFlt3
リガンド(300μg/mL)、及び10μLのIL-3(10μg/mL)を加えて血
球培地(血液幹・前駆細胞培地)を調製した。
【0320】
また、それぞれ濃度が100ng/μLのOCT3/4のmRNA含有液、SOX2の
mRNA含有液、KLF4のmRNA含有液、c-MYCのmRNA含有液、LIN28
AのmRNA含有液、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)のmRNA含有液を用意した。
次に、385μLのOCT3/4のmRNA含有液、119μLのSOX2のmRNA含
有液、156μLのKLF4のmRNA含有液、148μLのc-MYCのmRNA含有
液、83μLのLIN28AのmRNA含有液、及び110μLのGFPのmRNA含有
液を混合し、初期化因子混合液を得た。得られた初期化因子混合液を50μLずつ容量1
.5mLのRNase-Freeのチューブ(エッペンドルフチューブ(登録商標)、エ
ッペンドルフ)に分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0321】
(単核球細胞の調製)
遠心機を18℃に設定した。5mLから50mLの血液を採血し、血液にEDTAを加
えて優しく混ぜた。また、ヒトリンパ球分離用の媒体(Ficoll-Paque PR
EMIUM、GEヘルスケアジャパン)を5mLずつ2本の15mLチューブに分注した
。5mLのPBSを血液に加えて希釈し、チューブ中のヒトリンパ球分離用の媒体の上に
5mLずつ重層した。この時、界面を乱さないように、希釈血液をチューブの管壁を伝わ
らせてゆっくりと媒体上に加えた。
【0322】
チューブ中の溶液を、400×g、18℃で30分間遠心した。この際、加速、減速と
もゆっくり行った。遠心後、チューブ中に白く濁った中間層が現れた。この白く濁った中
間層は、単核球細胞を含んでいる。チューブ中の白く濁った中間層をピペットマンでゆっ
くりと回収し、新しい15mLチューブに移した。この際、下層は吸い取らないようにし
た。白く濁った中間層は、1本のチューブより1mL程度回収できた。2本分の中間層を
まとめて1本のチューブに移した。
【0323】
回収した単核球細胞に対し、12mLのPBSを加えて、溶液をさらに200×g、1
8℃で10分間遠心した。その後、アスピレータを用いて溶液の上清を吸引して除去し、
3mLの既知組成無血清造血細胞培地(X-VIVO(登録商標)10、ロンザ)を加え
て懸濁し、単核球細胞懸濁液を得た。そのうち10μLの単核球細胞懸濁液をトリパンブ
ルーで染色して血球計算盤でカウントした。
【0324】
(CD34又はCD3陽性細胞の分離)
1×107個の単核球細胞と、CD34抗体又はCD3抗体と、を、4℃の溶液100
μL中で15分反応させた。反応後、溶液に5mLのMACS(登録商標)バッファ(M
iltenyi Biotec)を加え、270gで遠心した。遠心後、上清を除去し、
1mLのMACSバッファを添加した。その後、自動磁気細胞分離装置(autoMAC
S、Miltenyi Biotec)の分離プログラムを利用して、単核球細胞のうち
、CD34陽性細胞又はCD3陽性細胞を分離した。
【0325】
(分離した細胞の培養)
分離した5×106個の単核球細胞を1mLのT細胞培地、又は血液幹・前駆細胞培地
に懸濁し、12ウェルプレートに播種し、培養した。培養条件は、CO2濃度が5%、酸
素濃度が19%、及び温度が37℃であった。
【0326】
(初期化因子のリポフェクション)
100μLの低血清培地(Opti-MEM(登録商標)、Gibco)と25μLの
初期化因子混合液を混合し、第1の混合液とした。また、112.5μLの低血清培地(
Opti-MEM(登録商標)、Gibco)と12.5μLのsiRNA導入試薬(L
ipofectamine(登録商標)RNAiMAX、ThermoFisherSc
ience)を混合し、第2の混合液とした。その後、第1の混合液と、第2の混合液と
、を混合し、15分室温で静置してリポフェクション反応液とした。
【0327】
得られたリポフェクション反応液のうち60μLを単核球細胞を培養している12ウェ
ルプレートに穏やかに添加し、引き続き、37℃で18時間、単核球細胞をフィーダーフ
リーで培養した。培養条件は、CO2濃度が5%、酸素濃度が19%、及び温度が37℃
であった。リポフェクション反応液を添加した時の単核球細胞の密度は3×106であっ
た。18時間後、単核球細胞を15mLチューブに回収し、300gで遠心し、上清を除
去した。その後、1.25mLのCD34用血球培地を15mLチューブに添加して、単
核球細胞懸濁液を同じ12ウェルプレートに戻し、一晩37度で単核球細胞をフィーダー
フリーで培養した。培養条件は、CO2濃度が5%、及び酸素濃度が19%であった。上
記工程を2日に1回、7日間繰り返した。
【0328】
(GFPの発現の確認)
リポフェクションを開始してから7日目に、リポフェクションを合計4回した細胞の密
度は、3×106であった。細胞の一部を12ウェルプレートから取り出し、蛍光顕微鏡
でGFPの発現を確認したところ、図35に示すように、GFPの発現が確認された。こ
れにより、単核球細胞にmRNAがトランスフェクションし、トランスフェクトされたm
RNAからタンパク質が合成されていることが確認された。
【0329】
(TRA-1-60の発現の確認)
リポフェクションを開始してから7日目に、細胞の一部を12ウェルプレートから取り
出し、取り出した細胞を初期化され始めた細胞で特異的に発現する表面抗原であるTRA
-1-60対する抗体であって、Allophycocyanin(APC)蛍光色素で
標識された抗体で染色した。その後、蛍光活性化セルソータ(FACS(登録商標)、B
D)で、TRA-1-60陽性細胞の割合を確認することによって、細胞においてリプロ
グラミングが開始され、iPS細胞遺伝子が発現し、iPS細胞ができてくる事を確認し
た。
【0330】
図36に示すように、自家蛍光の強度をx軸に、蛍光標識抗TRA-1-60抗体の蛍
光強度をy軸にとったドットプロットを作成した。遺伝子を導入しなかったネガティブコ
ントロールでは、TRA-1-60陽性細胞は検出されなかった。これに対し、実験1,
2及び3において、TRA-1-60陽性細胞が検出された。なお、実験1では、マーカ
ーによる分離をしていない単核球全体から誘導した結果であり、実験2は、CD3陽性で
分離した細胞から誘導した結果であり、実験3は、CD34陽性で分離した細胞から誘導
した結果である。したがって、初期化因子RNAのリポフェクションを用いて、血液由来
の細胞に初期化因子を導入し、iPS細胞を誘導できることが示された。
【0331】
(第6の実施の形態)
本発明の実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する方法は、動物細胞を用意する
ことと、動物細胞に誘導因子リボ核酸(RNA)をリポフェクションにより導入し、体細
胞に分化させることと、を含む。
【0332】
動物細胞は、幹細胞を含む。幹細胞としては、人工多能性幹細胞(iPS細胞)及び胚
性幹細胞(ES細胞)の両方が使用可能である。動物細胞は、ヒト繊維芽細胞又はヒト血
液細胞であってもよい。
【0333】
幹細胞を培養する培養液には、Primate ES Cell Medium、mT
eSR1、TeSR2、及びTeSRE8(STEMCELL Technologie
s)等を利用してもよい。
【0334】
また、幹細胞を培養する培地はゲルを含んでいてもよい。ゲルは、脱アシル化ジェラン
ガム、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム
、カラギーナン、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘ
パリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、及びラム
ナン硫酸、並びに及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合
物を含んでいてもよい。また、ゲル培地は、メチルセルロースを含んでいてもよい。メチ
ルセルロースを含むことにより、細胞同士の凝集がより抑制される。
【0335】
ゲルは、温度感受性ゲルであってもよい。温度感受性ゲルは、poly(glycerol monometh
acrylate) (PGMA)、poly(2-hydroxypropyl methacrylate) (PHPMA)、Poly (N-isopropyl
acrylamide) (PNIPAM)、amine terminated、carboxylic acid terminated、maleimide te
rminated、N-hydroxysuccinimide (NHS) ester terminated、triethoxysilane terminate
d、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylamide)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-ac
rylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-butylacrylate)、Poly (N-isopropylacr
ylamide-co-methacrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid-co
-octadecyl acrylate)、及びN-Isopropylacrylamideから選択される少なくとも1種であ
ってもよい。
【0336】
幹細胞を培養する培地は、カドヘリン、ラミニン、フィブロネクチン、及びビトロネク
チンからなる群から選択される少なくとも1種の物質を含んでいてもよい。
【0337】
動物細胞から作製される体細胞は、例えば、神経系細胞であるが、これに限定されない
、例えば、心筋、肝細胞、網膜、角膜細胞、及び血液細胞等の体細胞も作製可能である。
神経系細胞を作製する場合、動物細胞に導入される誘導因子RNAは、例えば、neur
ogenin2(Ngn2)のmRNAを含む。Ngn2(neurogenin2)は
、神経系細胞分化に必要なスイッチタンパク質である。誘導因子RNAは、薬剤耐性遺伝
子に対応するmRNAを含んでいてもよい。薬剤とは、例えばピューロマイシン、ネオマ
イシン、ブラストサイジン、G418、ハイグロマイシン、及びゼオシン等の抗生物質で
ある。誘導因子RNAが導入された細胞は、薬剤耐性を示す。
【0338】
誘導因子RNAに含まれるmRNAは、プソイドウリジン(Ψ)、5-メチルウリジン
(5meU)、N1-メチルシュードウリジン(me1Ψ)、5-メトキシウリジン(5
moU)、5-ヒドロキシメチルウリジン(5hmU)、5-フォーミルウリジン(5f
U)、5-カルボキシメチルエステルウリジン(5camU)、チエノグアノシン(th
G)、N4-メチルシチジン(me4C)、5-メチルシチジン(m5C)、5-メトキ
シチジン(5moC)、5-ヒドロキシメチルシチジン(5hmC)、5-ヒドロキシシ
チジン(5hoC)、5-フォルムシチジン(5fC)、5-カルボキシシチジン(5c
aC)、N6-メチル-2-アミノアデノシン(m6DAP)、ジアミノプリン(DAP
)、5-メチルウリジン(m5U)、2’-O-メチルウリジン(Um又はm2’-OU
)、2-チオウリジン(s2U)、及びN6-メチルアデノシン(m6A)からなる群か
ら選択される少なくとも1つで修飾されていてもよい。
【0339】
mRNAは、ポリアデニル化されていてもよい。mRNAは、インビトロで転写される
(IVT)RNAのポリアデニル化によって調製されてもよい。mRNAは、ポリ(A)
末端をコードするDNAテンプレートを用いることによって、IVTの間にポリアデニル
化されてもよい。mRNAがキャッピングされてもよい。細胞における発現の効率性を最
大化するために、大部分のmRNA分子がキャップを含有してもよい。
【0340】
mRNAは5’cap[m7G(5’)ppp(5’)G]構造を有していてもよい。
当該配列はmRNAを安定化させ、転写を促進させる配列である。5’triphosp
hateをもつmRNAからは、脱リン酸化処理により5’triphosphateを
取り除いてもよい。mRNAはAnti-Reverse Cap Analog(AR
CA)として[3’O-Me-m7G(5’)ppp(5’)G]を有していてもよい。
ARCAは転写開始点より前に挿入される配列であり、転写されるmRNAの効率は二倍
となる。mRNAはPolyAテールを有していてもよい。
【0341】
誘導因子RNAは、例えば、Ngn2-T2A-Puro mRNA(TriLink
、配列番号1に記載のDNAに対応するRNA)を含む。Ngn2-T2A-Puro
mRNA(Trilink)をトランスフェクトされた細胞は、neurogenin2
(Ngn2)を産生し、かつ、ピューロマイシン耐性を示す。mRNAは、Anti-R
everse Cap Analog(ARCA)でキャップされ、ポリアデニル化され
ており、5-メチルシチジン及びプソイドウリジンで置換されていてもよい。5-メチル
シチジン及びプソイドウリジンは、抗体によるmRNAの認識力を低下させる。また、配
列番号2に記載のDNAに対応するRNAを用いてもよい。配列番号2に記載のDNAは
、配列番号1のDNAからxba1制限部位を除去したDNAである。
【0342】
誘導因子RNAは、リポフェクション法により動物細胞に導入される。リポフェクショ
ン法とは、陰性荷電物質である核酸と、陽性荷電脂質と、の複合体を、電気的な相互作用
により形成し、複合体をエンドサイトーシスや膜融合により細胞内に取り込ませる方法で
ある。リポフェクション法は、細胞へのダメージが少なく、導入効率に優れており、操作
が簡便であり、時間がかからない等の利点を有する。
【0343】
誘導因子RNAのリポフェクションには、リポフェクション試薬として、例えば、リポ
フェクタミン メッセンジャーマックス(登録商標)が用いられる。さらに、リポフェク
ション試薬としては、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX(The
rmo Fisher Scientific)、Lipofectamine(登録商
標)2000、Lipofectamine(登録商標)3000、NeonTrans
fection System(Thermo Fisher scientific)
、Stemfect RNA transfection reagent(STEMG
ENT)、NextFect(登録商標)RNA Transfection Reag
ent(BiooScientific)、Amaxa(登録商品)Human T c
ell Nucleofector(登録商品)kit(Lonza社、VAPA-10
02)、Amaxa(登録商品)Human CD34 cell Nucleofec
tor(登録商品)kit(Lonza社、VAPA-1003)、及びReproRN
A(登録商標)トランスフェクション試薬(STEMCELL Technologie
s)等を利用してもよい。
【0344】
誘導因子RNAのリポフェクションの際の細胞の数は、例えば、12ウェルプレートを
利用する場合、1ウェルあたり1×104個から1×108個、5×104個から1×106
個、あるいは1×105個から5×105個である。なお、1ウェルの底面積は4cm2
ある。誘導因子RNAのリポフェクションの際の誘導因子RNAの量は、1回あたり20
0ngから5000ng、400ngから2000ng、あるいは500ngから100
0ngである。誘導因子RNAのリポフェクションの際のリポフェクション試薬の量は、
0.1μLから100μL、1μLから50μL、あるいは1.5μLから10μLであ
る。
【0345】
誘導因子RNAのリポフェクションの際に用いられる培地は、例えばOpti-MEM
(登録商標、Gibco)等の低血清培地である。誘導因子RNAのリポフェクションの
際、及びその前後に用いられる培地は、B18Rタンパク質を含んでいてもよい。B18
Rタンパク質は、細胞の先天性抗ウイルス反応を緩和する。B18Rタンパク質は、細胞
へのRNAの挿入時に伴う免疫反応に伴う細胞死を抑制するために使用されることがある
。ただし、実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する方法は、短期間で動物細胞を
体細胞に分化させるため、培地はB18Rタンパク質を含まなくともよく、あるいは、B
18Rタンパク質を0.01%から1%のような薄い濃度で含有してもよい。
【0346】
誘導因子RNAのリポフェクションから10日以内、9日以内、8日以内、あるいは7
日以内に動物細胞が体細胞に分化する。作製される体細胞が神経系細胞である場合、神経
系細胞に分化したか否かは、Ngn2、β-IIITubulin、MAP2、PsA-N
CAM、又はvGluが陽性であるか否かによって確認される。Ngn2は、神経系細胞
分化に必要なスイッチタンパク質である。β-IIITubulin、MAP2、PsA-
NCAM、及びvGluは、神経系細胞を標識するマーカーであり、神経細胞突起中の微
小管の構成タンパク質である。
【0347】
誘導因子RNAが、薬剤耐性遺伝子に対応するmRNAを含んでいた場合、リポフェク
ションの後、薬剤耐性を示す細胞を選択してもよい。例えば、誘導因子RNAが、ピュー
ロマイシン耐性遺伝子に対応するmRNAを含んでいた場合、リポフェクションの後の細
胞をピューロマイシンに曝すことにより、誘導因子RNAが導入された細胞以外を死滅さ
せ、誘導因子RNAが導入された細胞を選別することが可能である。誘導因子RNAが、
薬剤耐性遺伝子に対応するmRNAとして、ネオマイシン、ブラストサイジン、G418
、ハイグロマイシン、及びゼオシン等から選択されるいずれかを含んでいてもよい。
【0348】
以上説明した本発明の実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する方法によれば、
iPS/ES細胞等を含む動物細胞に特定の遺伝子をコードするRNAを発現させること
で、iPS/ES細胞等を含む動物細胞の遺伝子に傷をつけることなく、神経系細胞等の
体細胞を効率よく作製することが可能である。
【0349】
ホルモンや化学物質を利用してiPS/ES細胞等から体細胞を作製する方法では、体
細胞が作製されるまで非常に長い時間が必要である。これに対し、本発明の実施の形態に
係る動物細胞から体細胞を作製する方法によれば、非常に短い時間で体細胞を作製するこ
とが可能である。
【0350】
また、ホルモンや化学物質を利用してiPS/ES細胞等を含む動物細胞から体細胞を
作製する方法においては、iPS/ES細胞等を含む動物細胞のうちの一部のみが目的の
体細胞になる。これに対し、本発明の実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する方
法によれば、RNAを導入する細胞の90%以上が目的の体細胞となる。
【0351】
さらに、ホルモンや化学物質を利用してiPS/ES細胞等から体細胞を作製する方法
においては、同じプロトコールに従っても、目的の体細胞になるクローンと、ならないク
ローンがあり、クローン間にばらつきが生じる。これに対し、本発明の実施の形態に係る
動物細胞から体細胞を作製する方法によれば、複数のクローンで高い分化誘導効率を得る
ことが可能である。
【0352】
また、ES/iPS細胞などの未分化な細胞集団からサイトカイン等を用いて分化誘導
を行って移植用細胞を作製する場合、移植用細胞の中に未分化細胞が残存する可能性があ
る。この残存未分化細胞は移植位置で独自に細胞分裂、増殖をし、テラトーマ等を形成す
る危険性がある。これに対し、本発明の実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する
方法によれば、薬剤耐性遺伝子も同時に発現させることができるため、誘導因子RNAが
導入された細胞の薬剤選択が可能である。そのため未分化細胞の混入やテラトーマ形成な
どの危険性を回避することが可能であり、移植医療に適している。
【0353】
さらに、本発明の実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する方法において、リポ
フェクション法を用いる場合、ウイルスを利用しない。そのため、幹細胞の遺伝子に傷が
つかず、作製される体細胞に癌化のリスクがないため、臨床への利用が可能である。
【0354】
また、ウイルスを使用して幹細胞から体細胞を作製する方法では、ウイルスベクターを
作製及び増殖させるには大腸菌が必要である。しかし、ヒト以外の生物を利用して作製し
た物質が導入されて作製された細胞は、臨床応用に適していない。これに対し、本発明の
実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する方法において、リポフェクション法を利
用してRNAをiPS/ES細胞等を含む動物細胞に導入する場合がある。RNAは化学
物資であり人工的に合成できるため、大腸菌等の生物を利用せず作製することが可能であ
り、臨床応用に適している。
【0355】
またさらに、例えば血液の細胞からiPS細胞を完全閉鎖系のクリーンな環境下で作製
し、引き続き、iPS細胞から体細胞を完全閉鎖系のクリーンな環境下で作製すれば、よ
り清潔で安全な体細胞を作製することが可能である。
【0356】
加えて、本発明の実施の形態に係る動物細胞から体細胞を作製する方法によれば、短期
間で体細胞を作製することが可能であるため、mRNAの挿入時に伴う免疫反応に伴う細
胞死を抑制するB18R等を使用しなくてもよく、また、使用する場合も、非常に薄い濃
度にすることが可能である。
【0357】
(実施例14)
可溶化基底膜調製品(Matrigel、Corning)でコートされた12ウェル
ディッシュを用意し、各ウェルに10umol/Lの濃度でROCK(Rho-asso
ciated coiled-coil forming kinase/Rho結合キ
ナーゼ)阻害剤(Selleck)を含むフィーダーフリー培地(mTeSR(登録商標
)1、STEMCELL Technologies)を入れた。ROCK阻害剤は、細
胞死を抑制する。
【0358】
iPS細胞を組織・培養細胞の剥離/分離/分散溶液(Accutase、Innov
ative Cell Technologies)で分散させ、12ウェルディッシュ
にまいた。トランスフェクトされる細胞は、1ウェルあたり、4×105個の密度でまか
れた。なお、1ウェルの底面積は4cm2であった。トランスフェクトされないコントロ
ール細胞は、1ウェルあたり、2×105個の密度でまかれた。その後、細胞を、フィー
ダーフリー培地中で24時間培養した。この際、温度は37℃、CO2濃度は5%、酸素
濃度は25%以下であった。
【0359】
1.25mLのゼノフリー培地(Pluriton、STEMGENT)と、0.5μ
LのPluriton Supplement(STEMGENT)と、2μLの濃度が
100ng/μLのB18R組み換えタンパク質含有液(eBioscience)と、
を混合し、トランスフェクション培地を用意した。トランスフェクションの前に各ウェル
のフィーダーフリー培地をトランスフェクション培地に交換し、37℃で2時間、細胞を
培養した。
【0360】
緑色蛍光タンパク質(GFP)mRNA(TriLink)と、を用意した。mRNA
は、Anti-Reverse Cap Analog(ARCA)でキャップされ、ポ
リアデニル化されており、5-メチルシチジン及びプソイドウリジンで置換されていた。
【0361】
さらに、1.5mLのマイクロ遠心分離チューブAと、1.5mLのマイクロ遠心分離
チューブBと、をそれぞれウェルの数だけ用意した。
【0362】
チューブAに、62.5μLの低血清培地(Opti-MEM(登録商標)、Gibc
o)を入れ、そこに1.875μLのmRNA導入用試薬(Lipofectamine
MessengerMax(登録商標)、Invitrogen)を加え、よく混ぜて
第1の反応液とした。その後、室温で10分間、第1の反応液が混合するよう、チューブ
Aを軽くたたいた。
【0363】
チューブBに、62.5μLの低血清培地(Opti-MEM(登録商標)、Gibc
o)を入れ、500ngのGFP mRNA (Trilink)を加え、よく混ぜて第
2の反応液とした。
【0364】
第2の反応液をチューブA内の第1の反応液に加えて混合反応液とし、その後、室温で
5分間、リポソームが形成されるよう、チューブAを軽くたたいた。次に、混合反応液を
それぞれのウェルに加え、37℃で一晩静置した。これにより、それぞれのウェルに、5
00ngのGFP mRNAが加えられた。
【0365】
その翌日に蛍光顕微鏡を用いて細胞を観察したところ、図37及び図38に示すように
、メッセンジャーマックスを利用してトランスフェクションした細胞が最も強く発色して
いた。さらに、図39に示すように、生存率もメッセンジャーマックスを利用したものが
一番高かった。このことから、メッセンジャーマックスがmRNAを導入するうえで一番
適していることを明らかにした。さらに、リポフェクション試薬とRNAを用いてiPS
細胞にmRNAを導入し、タンパク質を発現させることが可能である事が示された。
【0366】
(実施例15)
可溶化基底膜調製品(Matrigel、Corning)でコートされた12ウェル
ディッシュを用意し、各ウェルに10μmol/Lの濃度でROCK(Rho-asso
ciated coiled-coil forming kinase/Rho結合キ
ナーゼ)阻害剤(Selleck)を含むフィーダーフリー培地(mTeSR(登録商標
)1、STEMCELL Technologies)を入れた。ROCK阻害剤は、細
胞死を抑制する。
【0367】
iPS細胞を組織・培養細胞の剥離/分離/分散溶液(Accutase、Innov
ative Cell Technologies)で分散させ、12ウェルディッシュ
にまいた。トランスフェクトされる細胞は、1ウェルあたり、4×105個の密度でまか
れた。トランスフェクトされないコントロール細胞は、1ウェルあたり、2×105個の
密度でまかれた。その後、細胞を、フィーダーフリー培地中で24時間培養した。
【0368】
1.25mLのゼノフリー培地(Pluriton、STEMGENT)と、0.5μ
LのPluriton Supplement(STEMGENT)と、2μLの濃度が
100ng/μLのB18R組み換えタンパク質含有液(eBioscience)と、
を混合し、トランスフェクション培地を用意した。トランスフェクションの前に各ウェル
のフィーダーフリー培地をトランスフェクション培地に交換し、37℃で2時間、細胞を
培養した。
【0369】
Ngn2-T2A-Puro mRNA(Trilink)と、緑色蛍光タンパク質(
GFP) mRNA(Trilink)と、を用意した。mRNAは、Anti-Rev
erse Cap Analog(ARCA)でキャップされ、ポリアデニル化されてお
り、5-メチルシチジン及びプソイドウリジンで置換されていた。また、mRNAは、シ
リカ膜で精製されており、mRNA導入用試薬(Lipofectamine Mess
engerMax(登録商標)、Invitrogen)とともに、pH6の1mmol
/Lのクエン酸ナトリウムを溶媒とする溶液によってされる。さらに、1.5mLのマイ
クロ遠心分離チューブAと、1.5mLのマイクロ遠心分離チューブBと、を、それぞれ
ウェルの数だけ用意した。
【0370】
チューブAに、62.5μLの低血清培地(Opti-MEM(登録商標)、Gibc
o)を入れ、そこに1.875μLのmRNA導入用試薬(Lipofectamine
MessengerMax(登録商標)、Invitrogen)を加え、よく混ぜて
第1の反応液とした。その後、室温で10分間、第1の反応液が混合するよう、チューブ
Aを軽くたたいた。
【0371】
チューブBに、62.5μLの低血清培地(Opti-MEM(登録商標)、Gibc
o)を入れ、そこに500ngのNgn2-T2A-Puro mRNA(Trilin
k)と1500ngのGFP mRNA(Trilink)を加え、よく混ぜて第2の反
応液とした。
【0372】
第2の反応液をチューブA内の第1の反応液に加えて混合反応液とし、その後、室温で
5分間、リポソームが形成されるよう、チューブAを軽くたたいた。次に、混合反応液を
それぞれのウェルに加え、37℃で一晩静置した。これにより、それぞれのウェルに、5
00ngのNgn2mRNAと、100ngのGFPmRNAが加えられた。
【0373】
mRNA導入後、一日目に観察したところ、図40に示すように、メッセンジャーマッ
クスを利用してトランスフェクションした細胞が最も強く発色していた。
【0374】
その後の2日間、1日ごとに、培地を、10μmol/Lの濃度でROCK阻害剤(S
elleck)と、1mg/Lの濃度で抗生物質(ピューロマイシン)を含む、神経分化
培地(N2/DMEM/F12/NEAA、Invitrogen)で完全に交換し、m
RNAがトランスフェクトされた細胞をセレクションした。3日目に、培地を、200n
g/mLの濃度でB18R組み換えタンパク質含有液(eBioscience)を含む
神経分化培地(N2/DMEM/F12/NEAA、Invitrogen)で置き換え
た。その後、7日目までに、同じ培地で半量ずつ培地交換した。
【0375】
7日目にウェルから培地を除き、1mLのPBSで洗った。その後、4%PFAを入れ
15min4℃で反応させ、固定した。その後PBSで2回洗浄後、5%CCS,0.1
%トライトン in PBS培地で一次抗体を希釈し、500μL添加した。一次抗体と
しては、ウサギ抗ヒトTuj1抗体(BioLegend 845501)及びマウス抗
ラット及びヒトNgn2抗体(R and D Systems)を利用し、ウサギ抗ヒ
トTuj1抗体(BioLegend 845501)をバッファで1/1000希釈、
又はマウス抗ラット及びヒトNgn2抗体(R and D Systems)をバッフ
ァで1/75希釈し、さらにDAPIをバッファで1/10000希釈したものを各ウェ
ルに添加し、室温で一時間反応させた。Tuj1抗体は、β-IIITubulinに対す
る抗体である。
【0376】
室温で一時間反応後、各ウェルに1mLのPBSを添加し、ウェルによくなじませた後
、PBSを廃棄した。再度、PBSを添加、廃棄し、透過バッファ中に、1/1000希
釈のロバ抗マウスIgG(H+L)二次抗体Alexa Fluor(登録商標)555
複合体(Thermofisher)を1/1000希釈のロバ抗ウサギIgG(H+L
)二次抗体Alexa Fluor(登録商標)647複合体(Thermofishe
r)を含む、二次抗体含有透過バッファを500μLずつ添加し、室温で30分間反応さ
せた。
【0377】
室温で30分反応後、細胞をPBSで2回洗浄し、蛍光顕微鏡で観察し、蛍光を発して
いる細胞をカウントした。
【0378】
図41は、Ngn2-T2A-Puro mRNAをリポフェクションを用いて導入し
、その後、ピューロマイシンを添加し2日間培養後、さらにピューロマイシンを添加せず
5日間培養して、Tuj1で染色して蛍光顕微鏡で観察した写真である。図42は上記の
手順によって各トランスフェクション試薬を利用して、Ngn2-T2A-Puro m
RNAをトランスフェクションし、7日目にTUJ-1陽性細胞の割合を示したものであ
る。RNAiMAX, StemfectにくらべてMessengerMAXは4倍以
上、iPS細胞を神経系細胞へ変化させる能力が高いことが示された。
図43は、Ngn2-T2A-Puro mRNAを3回のリポフェクションを用いて
導入し、その後、ピューロマイシンを添加し6日間培養後、さらにピューロマイシンを添
加せず16日間培養して、MAP2(Sigma Cat#M4403)及びvGlut
(Synaptic Systems Cat#135 302)で染色して、蛍光顕微
鏡で観察した細胞の写真である。
【0379】
(実施例16)
可溶化基底膜調製品(Matrigel、Corning)でコートされた12ウェル
ディッシュを用意し、各ウェルに10μmol/Lの濃度でROCK(Rho-asso
ciated coiled-coil forming kinase/Rho結合キ
ナーゼ)阻害剤(Selleck)を含むフィーダーフリー培地(mTeSR(登録商標
)1、STEMCELL Technologies)を入れた。
【0380】
iPS細胞を組織・培養細胞の剥離/分離/分散溶液(Accutase、Innov
ative Cell Technologies)で分散させ、12ウェルディッシュ
にまいた。トランスフェクトされる細胞は、1ウェルあたり、4×105個の密度でまか
れた。トランスフェクトされないコントロール細胞は、1ウェルあたり、1×105個の
密度でまかれた。その後、細胞を、フィーダーフリー培地中で24時間培養した。この際
、温度は37℃、CO2濃度は5%、酸素濃度は25%以下あった。
【0381】
1.25mLのゼノフリー培地(Pluriton、STEMGENT)と、0.5μ
LのPluriton Supplement(STEMGENT)と、2μLの濃度が
100ng/μLのB18R組み換えタンパク質含有液(eBioscience)と、
を混合し、B18R含有トランスフェクション培地を用意した。また、1.25mLのゼ
ノフリー培地(Pluriton、STEMGENT)と、0.5μLのPlurito
n Supplement(STEMGENT)と、を混合し、B18R非含有トランス
フェクション培地を用意した。
【0382】
トランスフェクションの前に各ウェルのフィーダーフリー培地をB18R含有トランス
フェクション培地又はB18R非含有トランスフェクション培地に交換し、37℃で2時
間、細胞を培養した。
【0383】
Ngn2-T2A-Puro mRNA(Trilink)と、GFP mRNA (
Trilink)と、を用意した。mRNAは、Anti-Reverse Cap A
nalog(ARCA)でキャップされ、ポリアデニル化されており、5-メチルシチジ
ン及びプソイドウリジンで置換されていた。
【0384】
さらに、1.5mLのマイクロ遠心分離チューブAと、1.5mLのマイクロ遠心分離
チューブBと、を、それぞれウェルの数だけ用意した。
【0385】
チューブAに、62.5μLの低血清培地(Opti-MEM(登録商標)、Gibc
o)を入れ、そこに1.875μLのmRNA導入用試薬(Lipofectamine
MessengerMax(登録商標)、Invitrogen)を加え、よく混ぜて
第1の反応液とした。その後、室温で10分間、第1の反応液が混合するよう、チューブ
Aを軽くたたいた。
【0386】
チューブBに、62.5μLの低血清培地(Opti-MEM(登録商標)、Gibc
o)を入れ、そこに500ngのNgn2-T2A-Puro mRNA(Trilin
k)と100ngのGFP mRNA (Trilink) を加え、よく混ぜて第2の
反応液とした。
【0387】
第2の反応液をチューブA内の第1の反応液に加えて混合反応液とし、その後、室温で
5分間、リポソームが形成されるよう、チューブAを軽くたたいた。次に、混合反応液を
それぞれのウェルに加え、37℃で一晩静置した。これにより、それぞれのウェルに、5
00ngのNgn2 mRNAと、100ngのGFP mRNAが加えられた。また、
図44に示すように、1回トランスフェクションを行ったサンプル、2回トランスフェク
ションを行ったサンプル、及び3回トランスフェクションを行ったサンプルを用意した。
【0388】
その後の2日間、1日ごとに、培地を、10μmol/Lの濃度でROCK阻害剤(S
elleck)と、1mg/Lの濃度で抗生物質(ピューロマイシン)を含む、神経分化
培地(N2/DMEM/F12/NEAA、Invitrogen)で完全に交換し、m
RNAがトランスフェクトされた細胞をセレクションした。3日目に、培地を、200n
g/mLの濃度でB18R組み換えタンパク質含有液(eBioscience)を含む
神経分化培地(N2/DMEM/F12/NEAA、Invitrogen)で置き換え
た。その後、7日目までに、同じ培地で半量ずつ培地交換した。
【0389】
7日目にウェルから培地を除き、1mLのPBSで洗った。その後、4%PFAを入れ
15min4℃で反応させ、固定した。その後PBSで2回洗浄後、PBS中に5%のC
CS及び0.1%のTritonXを含む透過バッファで希釈した一次抗体を各ウェルに
50μLずつ添加し、室温で1時間反応させた。一次抗体は、マウス抗ヒトTuj1抗体
(BioLegend 845501)を1:1000で、マウス抗ヒトNgn2抗体(
R and D Systems, MAB3314-SP)を1:150となるよう透
過バッファで希釈したものであり、さらにDAPIが1:10,000になるよう添加し
た。
【0390】
一時間後、各ウェルに1mLのPBSを添加し、ウェルによくなじませた後、PBSを
廃棄した。再度、PBSを添加、廃棄し、透過バッファ中にロバ抗マウスIgG(H+L
)二次抗体Alexa Fluor(登録商標)555複合体(Thermofishe
r、A-21428)を1:1000で、ロバ抗ウサギIgG(H+L)二次抗体Ale
xa Fluor(登録商標)647複合体(Thermofisher、A31573
)を1:1000で含む、二次抗体含有透過バッファを500μL添加し、室温で30分
反応させた。
【0391】
細胞をPBSで2回洗浄し、蛍光顕微鏡で観察し、蛍光を発している細胞をカウントし
た。その結果、図45に示すように、mRNAを一回だけトランスフェクションしたもの
は、9日目にはGFPはほとんど発現していなかった。その一方で、mRNAを3回トラ
ンスフェクションしたものは、9日目においてもGFPが発現していた。このことから、
mRNAは細胞内で分解され、タンパク質の発現は一過性であることが明らかとなった。
図46は、mRNAを3回トランスフェクトし、7日目においてGFPを発現していた細
胞の拡大画像である。
【0392】
以上示したように、iPS細胞を播種後、RNAをトランスフェクションして数日で神
経系細胞に誘導できることが示された。また、短期間で神経系細胞に誘導できることから
、細胞へのRNAの挿入時に伴う免疫反応に伴う細胞死を抑制するために通常使用される
B18Rタンパク質を培地に含めなくともよいことが示された。
【符号の説明】
【0393】
10 分離装置
20 導入前細胞送液路
21 誘導因子送液機構
30 因子導入装置
31 導入細胞送液路
40 細胞塊作製装置
50 初期化培養装置
51 細胞塊送液路
60 分割機構
70 拡大培養装置
71 拡大培養送液路
72 細胞塊送液路
80 分割機構
90 細胞魂搬送機構
91 パッケージ前細胞流路
100 パッケージ装置
110 凍結保存液送液機構
200 容器
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【配列表】
2022088643000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
bFGFを400μg/L以下の濃度で含むゲル培地で幹細胞を浮遊培養することを含む、幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項2】
前記ゲル培地が攪拌されない、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項3】
前記ゲル培地が、脱アシル化ジェランガムでゲル化されている、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項4】
前記ゲル培地が、ROCK阻害剤を含む、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項5】
前記ゲル培地における前記幹細胞の濃度が、0.1×105個/mL以上である、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項6】
前記浮遊培養することの前に、
前記幹細胞をシングルセルに分解することと、
シングルセルに分解された前記幹細胞を、前記ゲル培地に入れることと、
を更に含む、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項7】
前記浮遊培養することにおいて、前記シングルセルがクローナリティを保ったままコロニーを形成する、請求項6に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項8】
前記浮遊培養することの前に、
格子プレートを用いて幹細胞を懸滴型培養してコロニーを形成させることと、
形成されたコロニーを前記ゲル培地に入れることと、
を更に含む、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項9】
前記幹細胞が未分化の状態を保ったまま増殖する、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項10】
前記ゲル培地が、ヒトES/iPS培地を含む、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項11】
透析膜に前記幹細胞と前記ゲル培地を入れることと、
容器に前記透析膜を入れることと、
前記容器内の前記透析膜の周囲にゲル培地を入れることと、
前記透析膜内の前記ゲル培地で前記幹細胞を浮遊培養することと、
を含む、請求項1に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項12】
前記透析膜の分画分子量が0.1kDa以上である、請求項11に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項13】
前記透析膜がセルロースエステル、セルロースエステル類、再生セルロース、及びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなる、請求項11に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項14】
前記ゲル培地が攪拌されない、請求項11に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項15】
前記容器内の前記透析膜の周囲のゲル培地を新鮮なゲル培地に交換することを更に含む、請求項11に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項16】
前記容器内の前記透析膜の周囲のゲル培地に新鮮なゲル培地を補充することを更に含む、請求項11に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【請求項17】
前記透析膜内のゲル培地を交換しない、請求項11に記載の幹細胞の浮遊培養方法。
【外国語明細書】