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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088660
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】化学的除神経から生じる副作用の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P21/00
A61P25/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063952
(22)【出願日】2022-04-07
(62)【分割の表示】P 2019512184の分割
【原出願日】2017-05-15
(31)【優先権主張番号】62/336,344
(32)【優先日】2016-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518401616
【氏名又は名称】デルノバ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DelNova,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】メアリー・ガードナー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非応答筋に局所投与することにより神経筋伝達を回復させる組成物を提供する。
【解決手段】先に神経毒に曝露されている非応答筋における神経伝達を回復させるための、抗コリンエステラーゼを含む組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先に神経毒に曝露されている非応答筋における神経伝達を回復させるための、抗コリン
エステラーゼを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年5月13日に出願された米国仮特許出願第62/336,344号の利益を主張するものであり、それらの全体を参照により本明細書に包含させる。
【背景技術】
【0002】
1.技術分野
本発明は一般に、有効用量の抗コリンエステラーゼを含む組成物を非応答筋に局所投与することにより神経筋伝達を回復させる方法に関する。本発明はまた、抗コリンエステラーゼを含む組成物を患者に局所投与することを含む、神経毒誘発性の筋麻痺または筋力低下を処置する方法に関する。
【0003】
2.技術背景
ボツリヌス毒素は、20を超える医学的または美容的適応症を処置するために使用されている。ボツリヌス毒素は神経インパルス「ブロッカー」である。それは神経末端に結合して、筋肉を活性化する化学伝達物質の放出を妨げる。これらの化学物質は、筋肉に収縮するように伝える脳からの「メッセージ」を運搬する。メッセージがブロックされたならば、筋肉は収縮しない。
【0004】
ボツリヌス毒素の局所投与は、筋弛緩を達成することを標的とし、筋不動または完全なブロックを達成することを標的としない。しかし、いくつかの場合において、ボツリヌス毒素の効果は局所注射部位を超えて観察され得て、毒素効果の拡散と称される。ボツリヌス毒素の副作用は、生命を脅かす可能性があり、いくつかの場合は一時的に外見が損なわれることがある。一時的ではあるが、外見が損なわれる副作用は眼瞼を上げる筋肉に浸入した神経毒によって生じる「眼瞼下垂(眼瞼下垂症)」または「無表情」、「アーチ状または垂れ下がった眉」、唇の腫れもしくは腫脹として知られる他の意図しない顔面筋副作用、およびいくつかの場合において医療処置に関連する痛みまたは筋力低下を含む。ボツリヌス毒素の効果の処置(例えば、救助)のために使用可能な、承認されている製品は現在ない。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、末梢性に(すなわち、局所的に)作用する抗コリンエステラーゼが神経毒救助剤として使用され得ることを見出した。
【0006】
ボツリヌス毒素は、シナプスからのアセチルコリン(ACh)の放出またはエキソサイトーシスをシナプス前性にブロックするように作用する(図1)。ボツリヌス毒素が筋肉に注射されると、神経毒が神経末端に取り込まれる。神経毒は、小胞が神経末端に結合するために重要なタンパク質であるSNAP-25を開裂させることにより、アセチルコリンを含むシナプス小胞の結合を妨げる。このように、シナプス間隙への神経伝達物質の放出が阻害され、筋収縮が起こらないことがある。
【0007】
研究により、ボツリヌス神経毒による神経伝達ブロック後に神経筋接合部の神経末端が発芽する能力が示されている。ボツリヌス毒素による運動神経末端の中毒後に起こる発芽は、エキソサイトーシスに必要な主要タンパク質とともに存在するため、機能的シナプスを形成する能力を有する。発芽が形成されるとAChが放出され、電気的活性が誘導される(de Paiva et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. 96(6): 3200-3205)。この伸長の誘発に関与する因子は完全に理解されていないが、元の神経活性が回復すると発芽が最終的に減衰することを示す証拠が存在する。シナプスACh濃度は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)により通常起こる分解を阻害することにより上昇し得る。AChEはAChの急速な分解を引き起こす強力な酵素である。アセチル化された酵素は急速に加水分解され、一方で遊離の酵素と酢酸が形成される。各活性部位で一秒あたり約10000分子のアセチルコリンが加水分解される(Colovic et al. (2013) Current Neuropharmacology 11(3):315-335)。
【0008】
非脱分極神経筋遮断薬(NMBD)は競合的アンタゴニストとして受容体に結合し、その結果AChの結合をブロックし、受容体を脱分極させるその能力を妨げる。非脱分極NMBDは受容体における立体配座変化に影響を与えない。ボツリヌス毒素は非脱分極性と考えられているが、NMBDと比較すると、それらは異なる作用機構を有している。AChE受容体部位における競合的ブロックは存在しない。それにもかかわらず、AChに結合することなく、ACh受容体は脱感作状態で捕捉される。
【0009】
AChは膜を超えて拡散し、運動終板で受容体に結合し、筋肉活動電位を誘発する。シナプス間隙におけるAChEはAChを破壊し、アセテートおよびコリンに分解する。コリンはその後再吸収され、新しいAChを合成する。コリンエステラーゼ阻害剤(抗コリンエステラーゼとしても知られる)はAChEを不活性化することにより間接的に作用する。特に、コリンエステラーゼ阻害剤はシナプス間隙においてAChEを分解するため、AChEは存在するAChの分子を攻撃できない。抗コリンエステラーゼ/コリンエステラーゼ阻害剤のシナプス間隙への送達はAChの寿命を延長し、それによりその濃度を増大させ、ACh受容体に結合することを可能にする。投与のタイミングはその麻酔における使用と同様に重要であり、「抗コリンエステラーゼによる神経筋ブロックの拮抗作用は、一連の4つの痙攣反応のうち2つが検出可能になるまで試みるべきではなく、そうでなければ効果がない」(Srivastava and Hunter (2009) British Journal of Anesthesia, 103(1):1115-29)。この指針は誘発された神経筋ブロックからの回復の証拠を待つ必要性を示している。回復が起こるためには、AChが存在することが必要である。ボツリヌス毒素中毒末端の場合、これは部分的ブロックの前条件付けを指し示すか、または神経筋ブロッカーの作用後の神経筋機能の自然回復がアセチルコリン濃度の増加を必要とすることを示す。
【0010】
本発明者は影響を受けた患者への抗コリンエステラーゼの標的化された、局所非経腸投与が、ボツリヌス毒素投与によって引き起こされるような筋肉化学的除神経を回復/軽減/処置することを見出した。抗コリンエステラーゼ(例えば、低用量使用することによる)の罹患した組織/筋肉への標的化投与は、意図しない効果を逆転させる。本明細書において説明される方法は、経口投与形態における最初の経路代謝から生じる副作用またはより高い静脈内薬量に由来する副作用のような、全身性副作用の可能性を最小限にする。さらに、標的化薬物送達の使用は、治療のために本来標的化された基本領域に影響を与えることなく、障害領域の回復を可能にする。
【0011】
従って、ある態様において、本発明は有効用量の抗コリンエステラーゼを含む組成物を
非応答筋に局所投与することにより神経筋伝達を回復させる方法を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は抗コリンエステラーゼを含む組成物を患者に局所投与することを含む、神経毒誘発性(例えばボツリヌス毒素誘発性)筋麻痺または筋力低下を処置する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付の図面は本発明の方法およびデバイスをさらに理解するために包含され、本明細書に包含され、そして本明細書の一部を構成する。図面は本発明の1以上の実施態様を示し、記載とともに本発明の原理および操作を説明する役割を果たす。
【0014】
図1】ボツリヌス毒素作用機構を示す。
図2】BOTOXのみで処置した(すなわち、抗コリンエステラーゼで処置していない)ラットの食餌摂取を示す。
図3】2日目、7日目、9日目、11日目および14日目に抗コリンエステラーゼで処置したラット、および抗コリンエステラーゼで処置していないラットにBOTOX注射した後の食餌摂取を示す。
図4】2日目、7日目、9日目、11日目および14日目に抗コリンエステラーゼで処置したラット、および抗コリンエステラーゼで処置していないラットにBOTOX注射した後の食餌摂取の線チャートを示す。
図5】抗コリンエステラーゼの漸増用量レジメンで処置したラットおよび抗コリンエステラーゼで処置していないラットにBOTOX注射した後の食餌摂取の線チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
開示された方法および材料を記載する前に、本明細書に記載の態様は特定の実施態様、装置または構成に限定されず、当然、変化し得ると理解される。本明細書で使用される用語は、特に本明細書で定義されない限り、特定の態様のみを記載することを目的とするものであり、限定することを意図しないこともまた、理解される。
【0016】
本明細書により、文脈から他の解釈が必要でない限り、「含む(comprise)」および「含む(include)」およびその変型(例えば、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」および「含む(including)」)は、記載された成分、特徴、要素もしくは段階または成分、特徴、要素もしくは段階の群を含むことを示すが、いずれかの他の整数もしくは段階または整数または段階の群を排除することを示さないこともまた、理解される。
【0017】
明細書および添付の特許請求の範囲に記載されるように、単数形「ある(a)」「ある(an)」および「その(the)」は、文脈で特に明確に示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0018】
本明細書において、範囲は「約」一方の特定の値から、および/または「約」もう一方の特定の値として表現され得る。このような範囲が表現されるとき、別の態様は一方の特定の値からおよび/または他方の特定の値までを含む。同様に、先行の「約」の使用により値が近似値として表現されるとき、その特定の値は別の態様を形成すると理解される。範囲の各々の終点は、他方の終点と関係して、および他方の終点と独立して両方において意味がある。
【0019】
「有効量」とは、対象に投与したとき、本明細書に記載の状態の処置を達成するために十分な化合物の量をいう。「有効量」を構成する化合物の量は、化合物、障害およびその重症度および処置される対象の年齢により変化するが、当業者により規定通りに決定され得る。
【0020】
本明細書で使用される用語「筋麻痺」は、筋機能の完全な喪失を意味する。筋麻痺は罹患領域における感覚の喪失(感覚喪失)を伴うことがある。
【0021】
本明細書で使用される用語「筋力低下」は、筋機能の一部喪失および/または筋強度の喪失を意味する。
【0022】
本明細書で使用される用語「化学的除神経」または「化学除神経」は物質(例えば、化学化合物)により引き起こされる神経供給の喪失(すなわち、神経伝達のブロック)を意味する。
【0023】
本開示の観点から、本明細書に記載の方法および活性物質は、望まれる必要性を満たす
ために当業者により設定され得る。一般に、開示された原料、方法および装置は、罹患し
た患者に抗コリンエステラーゼの標的化された、局所非経腸投与を提供し、薬剤誘発性非
応答筋における神経筋伝達を回復させる。
【0024】
ボツリヌス神経毒は、広範な美容的および医学的手技で使用される。一時的ではあるが望ましくない副作用は隣接する筋肉構造への毒素の不用意な広がりに起因し、意図しない領域における麻痺または脱力を引き起こす。神経毒は神経接合部でAChの放出をブロックするように作用する。抗コリンエステラーゼは、内因性AChEを分解することにより間接的にAChを増大させるように作用する。受容体部位へのAChの結合は筋肉伝達維持に必要である。ブロックの深度は自然回復の加速における抗コリンエステラーゼの有効性を示す重要な因子である。筋肉の回復または再活性化を生じさせるために、AChが存在する必要がある。本明細書で使用される用語「ブロックの深度」とは、シナプス後受容体の占有レベルをいう。
【0025】
商業的使用におけるボツリヌス毒素により誘発される麻痺および拡散の性質により、部分的化学的除神経および/または自然回復が生じる。従って、ブロックの状態または深度は回復速度を決定する。本発明者は、末梢作用性抗コリンエステラーゼが回復時間を加速させる神経毒救助剤として使用され得ることを見出した。本発明者は、抗コリンエステラーゼの投与のタイミング、抗コリンエステラーゼの濃度および投与期間が救助処置の有効性における重要な要素であることを見出した。
【0026】
従って、ある態様において、本発明は抗コリンエステラーゼを含む組成物を患者に投与
することにより、神経筋伝達を回復させる方法を提供する。特定の実施態様において、非
応答筋は神経毒に先に曝露されている。特定の実施態様において非応答筋はボツリヌス毒
素に先に曝露されている。
【0027】
別の態様において、本発明は抗コリンエステラーゼを含む組成物を患者に局所投与することを含む、神経毒誘発性筋麻痺または筋力低下を処置する方法を提供する。特定の実施態様において、神経毒はボツリヌス毒素である。
【0028】
ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)および関連する種により産生される神経毒タンパク質である。ボツリヌス菌株はA~G型として命名される7種の異なる神経毒素を産生する。7つの型全ては同様の構造および分子量を有し、ジスルフィド結合により結合した重(H)鎖および軽(L)鎖から成り、それらは全て、アセチルコリンの放出のブロックにより神経伝達を妨げる。従って、ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型の1以上を含む。ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型、B型、E型およびF型の1以上を含む。ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型およびB型の1以上を含む。ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型ボツリヌス毒素である。
【0029】
A型ボツリヌス毒素は美容的手技における使用についてFDAにより使用が承認され、多様な商品名のもと入手可能であり、BOTOX(登録商標)(Allergan、Irvine、カリフォルニア州、アメリカ合衆国;本明細書における「BOTOX」)はその1つである。同様に、ボツリヌス毒素はまた、20以上の医学的症状を処置するために使用される。最も一般的な医学的状態は、片頭痛、多汗症、筋痙攣、尿失禁などを含む。注射部位からの毒素の拡散または毒素の過剰な使用は、このような手技において望ましくない副作用をもたらし得る。例えば、片頭痛の処置において、頸部痛はプラシーボ群の3%に対してボツリヌス毒素群の約9%の人々が経験する最も一般的な副作用である。
【0030】
本発明の方法は、抗コリンエステラーゼを含む組成物を必要とする。抗コリンエステラーゼ(すなわち、コリンエステラーゼ阻害剤)は、非可逆性である有機リン化合物および可逆性であるカルバメートの2つに分類される。前者は一般的により高い毒性、より長い作用時間を有し、しばしば中枢神経系(CNS)毒性と関連する。可逆性抗コリンエステラーゼは広範な適応症について医薬における適用が見出された。例えば、いくつかの可逆性抗コリンエステラーゼは血液脳関門を通過してCNSに到達できるため、アルツハイマー病の処置に使用される。
【0031】
いくつかの実施態様において、本発明の抗コリンエステラーゼは可逆性抗コリンエステラーゼである。いくつかの実施態様において、本発明の抗コリンエステラーゼはカルバメート、三級アンモニウムおよび四級アンモニウムから選択される1以上の基を有する可逆性抗コリンエステラーゼである。
【0032】
いくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼはフィゾスチグミン、ネオスチグミン、アムベノニウム、ピリドスチグミン、アムベノニウム、デメカリウム、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、タクリン、7-メトキシタクリン、エドロホニウム、ヒューペルジンA、ラドスキジルおよびいずれかの誘導体およびそれらの組み合わせから選択される。
【0033】
いくつかの実施態様において、本発明の抗コリンエステラーゼは:
【化1】
およびそれらの組合せの1以上から選択される。
【0034】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼはピリドスチグミン、ネオスチグミン、エドロホニウムまたはそれらの組み合わせである。
【0035】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼはピリドスチグミンである。ピリドスチグミンは脂質可溶性ではなく、それ自体は末梢作用性である。この性質は筋肉に関連する状態における使用を望ましくする。ピリドスチグミンはまた、徐脈および不整脈の発生がより少ないため、ネオスチグミンと比較してより安定である。
【0036】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼは式(I):
【化2】
〔式中、
YはCRまたはNであり、ここでXはハロゲンであり;
は水素、C-Cアルキル、-CO(OH)、-CO(C-Cアルコキシ)、-CO(NH)、-CONH(C-Cアルキル)および-CON(C-Cアルキル)から選択され;
は水素であるか、またはRおよびRは、一体となって場合により置換されていてよいヘテロ環を形成する原子であり;
はC-Cアルキル、C-Cアルコキシ、ヒドロキシC-Cアルキル、アミノC-Cアルキル、(C-Cアルキルアミノ)C-Cアルキル、(ジC-Cアルキルアミノ)C-Cアルキル、C-CアルコキシC-Cアルキル、-OH、-NH、-NH(C-Cアルキル)、-N(C-Cアルキル)および-N(C-Cアルキル)から選択され;そして
はC-Cアルキル、ヒドロキシC-Cアルキル、またはC-CアルコキシC-Cアルキルから選択される〕
の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0037】
いくつかの実施態様において、式(I)の化合物はYがCである。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物はYがNであるか、またはYがNBrまたはNClであるか、またはYがNBrである。
【0038】
いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、Rが水素、C-Cアルキル、-CO(NH)、-CONH(C-Cアルキル)および-CON(C-Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが水素、-CO(NH)、-CONH(C-Cアルキル)、および-CON(C-Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが水素である。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが-CO(NH)、-CONH(C-Cアルキル)、または-CON(C-Cアルキル)である。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが-CON(C-Cアルキル)である。
【0039】
いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、Rが水素である。いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、RとRが一体となり、結合して場合により置換されていてよいヘテロ環を形成する。いくつかの実施態様において、ヘテロ環は、場合によりハロゲン、C-Cアルキル、C-Cハロアルキル、C-Cアルコキシ、-OH、-NH、-NH(C-Cアルキル)、または-N(C-Cアルキル)の1以上で置換されていてよい。いくつかの実施態様において、ヘテロ環はオクタヒドロピロロ[2,3-b]ピロールまたはピロリジンであり、それぞれ場合によりハロゲン、C-Cアルキル、C-Cハロアルキル、C-Cアルコキシ、-OH、-NH、-NH(C-Cアルキル)または-N(C-Cアルキル)の1以上で置換されていてよい。いくつかの実施態様において、ヘテロ環は、場合によりハロゲン、C-Cアルキル、C-Cハロアルキル、C-Cアルコキシ、-OH、-NH、-NH(C-Cアルキル)または-N(C-Cアルキル)の1以上で置換されていてよいオクタヒドロピロロ[2,3-b]ピロールである。
【0040】
いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、RがC-Cアルコキシ、-OH、-NH、-NH(C-Cアルキル)、-N(C-Cアルキル)および-N(C-Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、RはC-Cアルコキシおよび-OHから選択される。いくつかの実施態様において、Rは-NH、-NH(C-Cアルキル)、-N(C-Cアルキル)および-N(C-Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、Rは-N(C-Cアルキル)である。いくつかの実施態様において、Rは-N(C-Cアルキル)Brまたは-N(C-Cアルキル)Clである。
【0041】
ある実施態様において、本発明の方法は組成物の標的化送達を必要とする。作用部位への標的化薬物送達は、薬物の有効性を強化し得る。罹患した組織に対して局所活性薬物濃度を増大させることにより、身体の他の領域への曝露を最小限にしながら、薬物毒性を低減できる。局所送達は肝臓初回通過代謝および消化管副作用を回避する。さらに、総薬物量が顕著に低く、それにより非特異的全身性副作用から患者曝露を減少させることができる。これは抗コリンエステラーゼクラスの薬物の幅広い使用およびその美容関連分野ならびに他の生命を脅かさない状態における使用を可能にし得る。ある実施態様において、組成物は影響を受けた筋肉に直接的に投与される。
【0042】
標的化薬物送達は、ボツリヌス毒素の投与において使用される方法と同様の、従来の技術を用いた非経腸注射の方法により、または受動的または能動的経皮送達の方法により達成され得る。受動的経皮送達とは、駆動力または穿孔なしに皮膚バリアを通して活性薬物を投与するために使用される局所または他の従来の皮膚パッチもしくはゲルをいう。本発明のある実施態様において、組成物は非経腸的に(例えば、筋肉内注射により)投与される。非経腸送達(例えば、筋肉内注射)は非応答筋領域(すなわち、筋麻痺または筋力低下のような副作用が見られる)に対するものであり得るか、筋肉の特徴の詳細な知識を有する医療専門家により推奨される筋構造におけるものであり得る。
【0043】
本発明のある実施態様において、組成物は経皮的に投与される。ある実施態様において、組成物は経皮パッチまたは経皮ゲルで投与される。経皮薬物送達は皮膚表面領域を介して薬物が下層の組織に入ることを可能にする。手技の最も高い頻度が顔面領域に関することを考慮すると、いずれかのパッチまたは局所製剤は、患者が通常の日常活動を再開することを可能にするために、限られた時間、その場所に留まるべきである。薬物が皮下空間および標的組織または筋肉に入ると、パッチを除去し、あらゆる障害物を除去することが好ましい。従来のパッチ技術は非浸透性であり、通常は注射に要求されるような医療専門家による投与を必要としない。当業者は、性能(薬物取り込み/皮膚を通しての移動)は主に、分子サイズ、親油性、薬物極性および溶解度のような薬物特性によることを認識する。当業者は、薬物移動を改善するために必要であれば、適切な界面活性剤および/または浸透強化剤を選択できる。より迅速な作用の開始が必要ならば、活性化経皮技術を適用し得る(例えば、マイクロ針または送達速度を向上させるための他の皮膚貫通手段)。活性化方法は例えば、イオン泳動、エレクトロポレーション、機械的摂動ならびに超音波および無針注射のような他のエネルギー関連技術を含む。
【0044】
標的化送達のさらなる方法は、限定されないが、筋肉内、皮内、皮下または局所送達を含む。
【0045】
標的送達の局所化された性質を考慮すると、有効用量の抗コリンエステラーゼが低用量で、すなわち、前記抗コリンエステラーゼの経口または静脈内使用について投与するとき(他の治療適応症について通常投与するとき)の臨床的用量の抗コリンエステラーゼより低い量で投与される。経口用量の静脈内用量への変換についての一般的指針は、経口用量の1/30を患者に与えることである。標的化投与は組織に直接的に注射するため、静脈内投与と比較して、用量は0.1mg程度と低量であるか、または筋弛緩の回復に必要な用量の1/10までであり得る。有効用量は筋肉または神経機能障害を評価するために常に使用される既知の生理学的技術を用いることで容易に理解され得る。筋電図(EMG)は細胞が電気的に活性化されたときの筋細胞により生じる電位を測定する。針電極は、迅速な電気パルスを神経に放出し、筋肉または神経が収縮するのにかかる時間を測定する。収縮の速度は伝導速度として報告される。伝導速度は、回復剤の注射前後で測定され得る。予想される伝導速度における増加は、用量応答の有効性の尺度となる。
【0046】
特定の実施態様において、低用量は前記抗コリンエステラーゼの経口または静脈内使用について投与するとき(他の治療指標についての通常投与)の臨床的用量の抗コリンエステラーゼの約4/5~約1/50である。いくつかの実施態様において、低用量は経口または静脈内臨床用量の約1/5~約1/50、または経口もしくは静脈内臨床用量の約1/5~約1/20、または約1/5~約1/10、または約1/10~約1/50、または約1/10~約1/50、または約1/10である。
【0047】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼは約0.05~0.5mg/kgの用量で、または約0.15~0.25mg/kgの用量で、または約0.2mg/kgの用量で投与される。ボツリヌス毒素注射について提供される用量指針について当分野で知られるように、特定の抗コリンエステラーゼの用量は関与する筋肉の大きさ、数および位置に基づいて、応答の指標として針筋電図ガイダンスまたは神経刺激のような方法を用いて個々に調整され得る。例えば、手掌多汗症の処置において、手掌の大きさ(例えば、cm)に応じて用量を調整する。当業者は、用量は他の因子の間で、抗コリンエステラーゼの活性、抗コリンエステラーゼのバイオアベイラビリティ、その代謝速度および他の薬物動態性質、投与方法ならびに多様な他の因子によって、より高いかまたはより低いことがあることを認識する。当業者はまた、抗コリンエステラーゼが望ましくない副作用を引き起こすように全身循環に浸透または拡散しないように投与されるべきであることを認識する。
【0048】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼは神経毒(例えば、ボツリヌス毒素)の直後に投与され得る。例えば、抗コリンエステラーゼは神経毒の少なくとも1分、または少なくとも2分、または少なくとも5分、または少なくとも10分、または少なくとも30分後に投与され得る。本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼ神経毒(例えば、ボツリヌス毒素)の後しばらくして投与され得る。例えば、抗コリンエステラーゼは神経毒の少なくとも1時間、または少なくとも6時間、または少なくとも24時間、または少なくとも2日、または少なくとも3日、または少なくとも4日、または少なくとも5日、または少なくとも6日、または少なくとも7日後に投与される。
【0049】
ボツリヌス毒素に起因する望ましくない副作用に対処するために使用され、かつ特定のモニタリングの非存在下での抗コリンエステラーゼの適用について、薬物が適切なウィンドウの間利用可能であることが重要である。ある実施態様において、薬物はAChが存在する時、利用可能である。従って、完全ブロックが存在すると、応答が遅れる。Achが存在する時を決定するために、患者を例えば、筋電図(EMG)または他の試験によりモニタリングしてよい。徐放性組成物の使用により、適切な処置ウィンドウが利用可能になり得る。本発明の組成物の数回投与の使用により、適切な処置ウィンドウが利用可能になり得る。ある実施態様において、本発明の組成物は1回(すなわち、単回用量で)投与され得る。ある実施態様において、本発明の組成物は2回、または3回、または4回またはそれ以上投与される。
【0050】
抗コリンエステラーゼは神経毒の影響が医師または患者に明らかになった後に投与される。いくつかの場合、神経毒の完全な作用に達するまで7日かかることがある。抗コリンエステラーゼは、望ましくない副作用の出現後いつでも使用され得る。
【0051】
本発明のある実施態様において、組成物は徐放性組成物である。アセチルコリンが利用可能になるため徐放性製剤は薬物が作用することを確実にする。徐放性組成物は本発明の組成物の複数回注射についての必要性を避けるはずである。それはまた,限られた患者曝露およびより少ない望ましくない副作用で最大限の効果を提供する一方で、治療費を削減する。特定の実施態様において、徐放性製剤は、数日間にわたり(例えば、1日、または2日、または3日、または4日、または5日、または6日、または7日、または10日、または14日、または21日、または30日、または1日~14日の期間、または1日~7日の期間、または3日~7日の期間、または1日~5日の期間、または5日~7日の期間)、または数時間にわたり(例えば、最大約3時間、または最大約6時間、または最大約12時間、または最大約24時間、または約3時間~約24時間、または約3時間~約18時間、または約3時間~約12時間、または約3時間~約6時間、または約6時間~約24時間、または約6時間約18時間、または約6時間~約12時間、または約12時間~約24時間、または約18時間~約24時間)抗コリンエステラーゼを放出する。
【0052】
適当な徐放性製剤は当業者に既知であり、本発明の組成物は望ましい薬物負荷、望ましい薬物送達プロファイルおよび/または望ましい放出/薬物動態速度により、多様な方法で製剤される。
【0053】
本発明の徐放性組成物は、全体を参照により本明細書に包含させるRheeら("Sustained-Release Injectable Drug Delivery," (2010) Pharmaceutical Technology, Vol. 2010 Supplement, Issue 6, pp. 1-7 source URL: http://www.pharmtech.com/ sustained-release-injectable-drug-delivery)に開示されるいずれかの製剤であり得る。
【0054】
本発明の徐放性組成物は全体の参照により本明細書に包含させる米国特許公開第2012/0316108号に開示される方法により製造され得る。これらの製剤は、リン脂質(20%~80%)、好ましくはより微細な針を有するシリンジを使用することが可能な低い範囲のリン脂質の使用を必要とする単層ゲル製剤である。製剤は注射可能な医薬製剤における使用が確立された非経腸製剤または油に使用されるような、卵または大豆由来の医薬グレードのレシチンを含み得る。主な分散剤はリン脂質ゲルを製剤する第1工程におけるエマルジョンまたは懸濁液を含み得るか、または油が使用されるならば、分散剤はエマルジョンを示し得る。従って、ある実施態様において、本発明の組成物は、20~80重量%のリン脂質および0.1%~65重量%の水をさらに含む単層ゲル組成物である。ある実施態様において、本発明の組成物(例えば、単層ゲル組成物)約30ゲージ~約33ゲージを有する針を通して押し出すことができる。徐放性単層ゲル製剤は、(a)1以上のリン脂質および過剰の水を含む第一分散剤を形成すること;(b)第一分散剤をホモジナイズして直径約200nm未満の平均粒子径を有するナノ分散剤を形成すること;(c)ナノ分散剤を0.2mまたは0.45ミクロンフィルターを通過させること;および(d)過剰の水を除去してゲルを得ることを含む方法により製造され得る。いくつかの実施態様において、製剤が注射可能な薬物についての標準的な実務により加熱滅菌されるならば、工程cは除外してよい。
【0055】
抗コリンエステラーゼを含む組成物はさらに、適切な担体、賦形剤または希釈剤を含む。担体、賦形剤または希釈剤の正確な性質は組成物について要求される性能に依存し、動物使用について適当なまたは許容される範囲からヒト使用について適当なまたは許容される範囲であり得る。
【0056】
抗コリンエステラーゼを含む組成物は従来の混合、溶解、造粒、糖衣製造、粉末化、エマルジョン化、カプセル化、封入または凍結乾燥プロセスの方法により製造され得る。組成物は化合物を薬学的に使用できる製剤に加工することを容易にする1以上の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤を用いて、従来の方法により製剤され得る。
【0057】
抗コリンエステラーゼは、先に記載のように医薬組成物に、それ自体で、または水和物、溶媒和物、N-オキシドまたは薬学的に許容される塩の形態で製剤され得る。一般的に、このような塩は対応する遊離の酸および塩基より水溶液に可溶性であるが、遊離の酸および塩基より低い溶解度を有する塩もまた、形成され得る。
【0058】
望むならば、本発明の組成物は即時使用型、単回使用送達製剤(注射による投与のためにデザインされた製剤を含む)で提示され得る。これは相互汚染および廃棄物の問題を回避する。処置中心の活性により、救助製品の使用頻度は、バイアルのような複数回使用無菌容器系を必要としないことがある。有用な注射可能な製剤は、水性または油性ビークルにおける化合物の無菌懸濁液、溶液またはエマルジョンを含む。組成物はまた、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤のような製剤化物質を含む。注射のための製剤は単位用量形態、例えばアンプルまたは複数用量容器の形態で存在し得て、添加された防腐剤を含み得る。あるいは、注射可能な製剤は、限定されないが、無菌非ピロゲン水、緩衝液、デキストロース溶液などを含む使用前に適切なビークルで再構成するための粉末形態で提供され得る。この目的で、抗コリンエステラーゼは使用前に凍結乾燥のようないずれかの当分野で既知の技術により乾燥され、再構成され得る。
【0059】
注射可能な製剤は、ある範囲の方法(商業的な使用または開発中)を用いて分散され得る。これらは、限定されないが、オイルベースの注射剤、注射可能な薬物懸濁液、注射可能なマイクロスフェアまたはイン・サイチュ系、賦形剤および長時間溶解する薬物デポーのためのポリマーを含む。技術選択は以下の主な因子;マトリックス内の薬物充填、要求される薬物送達プロファイル、放出/薬物動態の速度(治療ウィンドウ)による。オイルベースの注射可能な溶液および注射可能な薬物懸濁液は、数日から数週の間、放出を制御し、一方ポリマーベースのマイクロスフェアおよびイン・サイチュゲルまたは薬物デポーは数ヶ月持続すると報告されている。所望の最終製剤は患者に注射されるか、または別の方法で投与されることを必要とするバルク体積を制限する。
【0060】
本発明の組成物は、必要ならば、キットで存在し得る。キットには投与のための指示書が添付され得る。
【0061】
本発明の組成物は、必要ならば、化合物を含む1以上の投与形態を含み得る小包または分配装置で存在し得る。小包は、例えばブリスターパックのように、金属または可塑性ホイルを含む。パックまたは分配装置には、投与のための指示書が添付され得る。
【実施例0062】
動物モデルおよび方法
ボツリヌス毒素注射後の自然回復の加速における抗コリンエステラーゼの有効性を示すために、Moonらにより説明されるラットモデル(Maxillofacial Plastic and Reconstructive Surgery (2015) 37:46)を採用した。この場合、ボツリヌス毒素をラットの咬筋に注射し、食餌摂取におけるその後の変化をモニタリングした。試験の目的は、ボツリヌス神経毒を用いてラットの顎筋における麻痺を引き起こすことであった。これは食餌摂取に否定的な影響を与えると考えられ、その後の回復プロセスを加速させる抗コリンエステラーゼの同等な注射の能力を試験した。
【0063】
試験物質は注射について承認された製品であった。ボツリヌス毒素、BOTOX(登録商標)(Allergan、Irvine、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を、注射用食塩水を用いて所望の量再構成した。試験に使用されるBOTOXの用量は、100μl中5単位であった。ピリドスチグミンについて、Regonol(登録商標)(Sandoz Inc.、Princeton、ニュージャージー州、アメリカ合衆国)を、注射準備済溶液(5mg/ml)で使用した。
【0064】
375~400gの典型的な体重のSprague DawleyラットをBOTOX対照または抗コリンエステラーゼであるピリドスチグミンを用いた処置に供した。ラットの各群(一般的に3~5)の体重および食餌摂取を、ベースライン測定として約1週間モニタリングする。その後、各々の咬筋にBOTOXを注射する。ラットの体重および食餌摂取を合計2~4週間かけて追跡する。
【0065】
顎筋の麻痺の誘発は食餌摂取の減少および潜在的な体重減少をもたらし、経時的にBOTOXの効果が減少するため、その後回復をもたらすと考えられる。BOTOX投与後、いくつかのラット群に、咬筋へ回復剤を注射する。処置群は用量、用量レジメンおよび回復剤投与の頻度が異なる。各動物を、注射および1日の計量前にイソフルランを用いて短く麻酔する。ラットにペレット化した齧歯類餌を給餌した。これは粉砕した餌を使用した点でMoonの試験と異なる。ペレット化した餌は筋萎縮および咀嚼能力のより代表的な測定であると考えられた。
【0066】
BOTOX(100μl中5単位)をラットの咬筋に注射した。注射方法および用量送達を標準化するために、実験の開始時に同体積の食塩水を注射した。いずれにしても、BOTOXの側あたり5単位未満の低用量(0.1~2.5単位)を試験した。これらの低用量はベースラインと比較して食餌摂取に影響を与えず、従って、本試験モデルは用量応答を示さないことを示す。動物モデルにおける制限は回復結果に対する抑制効果に寄与すると考えられる。
【0067】
筋麻痺および多大な影響を受けた食餌摂取の期間中の動物における脱水の可能性を限定するために、ラットに無菌乳酸リンガー溶液を尾静脈注射した。
【0068】
ボツリヌス毒素対照
図2に示すように、BOTOXのみ(すなわち、抗コリンエステラーゼ未処置)のラットは、37日後でも100%の回復に達しない。これは、神経毒が患者において90日を超えて継続し得るという点で、製造者による添付文書における報告期間と一致する。しかしながら、わずか10日でほぼ完全に自然回復したMoonらにより示された結果と一致しない。結果の差異についての理由は使用される神経毒の異なる生物学的効力によるものであると考えられる。BOTOXは材料と方法では特に言及されていない。種々のA型ボツリヌス毒素の製造者間の効力は同等ではなく、これは文献および種々の製造者の添付文書の下で明確に特定されている。
【0069】
結果:投与のタイミング
先に説明したように、自然回復/逆転の加速は神経接合部のアセチルコリンの存在に依存する。抗コリンエステラーゼはアセチルコリンをその塩基単位、コリンおよび酢酸に分解し、酵素コリンエステラーゼの活性を阻害するように作用する。アセチルコリンは通常、シナプスに取り込まれ、コリンの再処理により再生成する。
【0070】
実施された実験は、抗コリンエステラーゼの早期投与は有効ではないことを示した。適切なタイミング、すなわちBOTOX対照と比較して強化された回復応答が引き起こされるタイミングが我々の動物モデルにおいて約6日後(すなわち、ボツリヌス毒素の注射後6日)に生じる。AChEによる応答の欠如のため、およびいかなる理論にも縛られないが、アセチルコリンはこの時点まで利用可能でないと考えられる。神経毒の用量が、完全不動ではなく、筋弛緩を維持するのに十分低いならば、より即時の応答が見られると考えられる。例えば、より速い応答時間はボツリヌス毒素副作用の場合であると考えられる。副作用は毒素効果の拡散または標的領域への注射技術の不足の結果である。ヒト使用において副作用は回復するのに数週間から数ヶ月かかることが報告されている。また、BOTOX Cosmeticの添付文書には、用量は部分的化学的除神経を達成するために設計されることが記載されている。ヒトにおけるボツリヌス毒素の処置に起因する副作用の場合、応答時間は即時であり得る。
【0071】
結果:自然回復の相乗作用
図3に示すように、2日、7日、9日、11日および14日にラットにRegonol(登録商標)(ピリドスチグミンブロマイド)を注射した。Regonol(登録商標)の用量は特定の日にラットの咬筋の側あたり0.5mg、100μl注射した。食餌摂取の平均相対的増加は、6日間の期間経過後の注射後に収集されたデータに基づいて26.3%であった。
【0072】
図4に示すように、Regonol(登録商標)で処置した動物は約26日までに食餌摂取の完全な回復を示したが、対照動物は37日でも未だに回復しなかった。また注目すべきは、14日の最終処置を超えて回復が継続したことである。
【0073】
結果:終板の被毒
抗コリンエステラーゼの投与から観察され得るムスカリン副作用の中には、悪心、嘔吐および下痢が存在する。Sprague Dawleyラットにおけるピリドスチグミンについての毒性試験において、ピリドスチグミン誘発性の毒性の徴候は眼漏、鼻汁、活動性低下、衰弱、運動失調、下痢、猫背、痩せた外見および死亡を含んだ(Battelle, Preclinical Toxicology of New Drugs, Report 8740-86-2, April 4, 1986, J. G Gage Principle Investigator)。結果として、本実施例におけるラットを病的影響の徴候についてモニタリングした。開示の方法により処置したラットは副作用を示さなかった。
【0074】
終板末端の被毒に影響を与えることなく、有効用量の抗コリンエステラーゼに達することが重要である。筋肉組織への筋肉内注射についての用量は報告されていない。先に記載したように、投与時のブロックの深度が回復の有効性に影響を与える。麻酔の終了時に神経筋ブロックを回復させるコリンエステラーゼ阻害剤の静脈内使用と並行して、自然回復の開始前に投与する利点はない。さらに、コリンエステラーゼ阻害剤は高い用量で上限に達する。本願の動物モデルにおいて、より多くの抗コリンエステラーゼを与えると改善された応答が誘導されることが示された。特定の理論に縛られないが、内因性酵素は過剰のアセチルコリンを取り除くために利用できないため、高用量では運動終板でのアセチルコリン濃度がより高くなり得ると考えられます。蓄積は終板の中毒をもたらし、絶え間ない脱分極状態をもたらす。これは脱分極ブロックの独自の形態として働く。
【0075】
好ましい抗コリンエステラーゼは限定された作用期間を有するため、回復は内因性コリンエステラーゼ酵素レベルが再確立されるに連れて、徐々に起こる。
【0076】
図5は、高用量投与レジメンで治療された動物が食餌摂取の回復に遅れを経験したことを示している。応答におけるこの遅れは、終板末端の一時的な中毒によるものであると考えられる。6日後に自然回復し始めるBOTOXのみの対照と比較して、BOTOX不動化の10日以上後までは、回復は起こらない。この実験における上昇した投薬は、3日目から開始して14日目まで0.25mg/日の1日2回の注射の用量として定義された。
【0077】
結論
ヒト対象において、部分化学的除神経の状態の救助または回復は、より迅速な応答を示すと予想される。先に説明したように、天然に存在するアセチルコリンは神経伝達を確立するための前駆体である。副作用の発生はオフターゲット効果をもたらす毒素の拡散の結果生じることが知られている。これは、完全な筋不動または筋麻痺と比較して、オフターゲットの筋弛緩(部分化学的除神経)に起因する可能性が最も高い。神経毒誘発性麻痺に対する用量応答プロファイルに対して低い感受性を示す齧歯類食餌摂取モデルに基づいて、当業者はヒトモデルにおける結果がより顕著であると予想する。これはヒトにおける神経毒の美容および医療使用の両方における実際の状態が、特に副作用の兆候における完全な不動状態に達すると予想されないからである。これは完全な除神経とは対照的に部分的除神経の存在を与える。また、ヒトモデルは咀嚼を必要としない。齧歯類食餌摂取モデルにおいて、咀嚼は複雑なプロセスであり、運動機能の駆動における多くの因子により影響を受け得る。結果として、部分化学的除神経の状態は達成できない。アセチルコリンは神経発芽の開始まで利用できないため、この制限は応答の遅れをもたらす。
【0078】
本明細書に記載の実施例および実施態様は説明する目的のみに係るものであり、その多様な修飾または変更は当業者に提示され、本願の概念および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に包含されると理解される。本明細書において引用される全ての公開、特許、特許出願は、すべての目的のために参照により本明細書に包含させる。
図1
図2
図3
図4
図5