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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088688
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20220608BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20220608BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220608BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/16
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019074149
(22)【出願日】2019-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000227342
【氏名又は名称】日東化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】松木 崇
(72)【発明者】
【氏名】和久 英典
(72)【発明者】
【氏名】安井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 基道
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038HA526
4J038NA01
4J038NA05
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】長期間太陽光に暴露された後においても長期間にわたり塗膜溶解が持続し、水棲汚損生物の付着が起こりやすい喫水部においても良好な防汚性能を発揮できる、環境安全性の高い防汚塗膜を形成するための組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、共重合体Aおよび成分Bを含有する防汚塗料組成物であって、前記共重合体Aは、単量体(a)と、前記単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体であり、前記単量体(a)は、一般式(1)で表され、前記成分Bは、焼成カオリンである、防汚塗料組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体Aおよび成分Bを含有する防汚塗料組成物であって、
前記共重合体Aは、単量体(a)と、前記単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体であり、
前記単量体(a)は、一般式(1)で表され、
前記成分Bは、焼成カオリンである、防汚塗料組成物。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、R~Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニル基を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボ、セルプラ、ムラサキイガイ、フサコケムシ、ホヤ、アオノリ、アオサ、スライム等の水棲汚損生物が、船舶(特に船底部分)や漁網類、漁網付属具等の漁業具や発電所導水管等の水中構造物に付着することにより、それら船舶等の機能が害される、外観が損なわれる等の問題がある。
【0003】
このような問題を防ぐために、船舶等に防汚塗料組成物を塗布して防汚塗膜を形成し、防汚塗膜から防汚薬剤を徐放させることによって、長期間に渡って防汚性能を発揮させる技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-17203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術を採用しても、海水中に常に没水されている塗膜部分は長期防汚性能を維持するものの、水中と水上との境界である喫水部においては、日照などの影響を受けやすいなど様々影響を受けることから、防汚性が十分に発揮されないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、長期間太陽光に暴露された後においても長期間にわたり塗膜溶解が持続し、水棲汚損生物の付着が起こりやすい喫水部においても良好な防汚性能を発揮できる、環境安全性の高い防汚塗膜を形成するための組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、共重合体Aおよび成分Bを含有する防汚塗料組成物であって、前記共重合体Aは、単量体(a)と、前記単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体であり、前記単量体(a)は、一般式(1)で表され、前記成分Bは、焼成カオリンである、防汚塗料組成物が提供される。
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、共重合体Aおよび成分Bを含む組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細を説明する。本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル、又はメタクリルを意味する。
【0010】
1.防汚塗料組成物
本発明の防汚塗料組成物は、共重合体Aおよび成分Bを含有する。
【0011】
1-1.共重合体A
共重合体Aは、単量体(a)と、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体である。共重合体Aは、単量体(a)および(b)に由来する単量体単位を含む。
【0012】
<単量体(a)>
単量体(a)は、(メタ)アクリル酸トリオルガノシリル単量体であり、一般式(1)で表される。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、R~Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニル基を示す)
【0013】
~Rの炭素数3~8の分岐アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、1-メチルペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、テキシル基、シクロヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、1-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルブチル基、2-エチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロヘキシルメチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。R2~R4として好ましいものは、イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、及び2-エチルヘキシル基である。特に好ましいものは、イソプロピル基、及び2-エチルヘキシル基である。
【0014】
単量体(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル、(メタ)アクリル酸トリイソブチルシリル、(メタ)アクリル酸トリs-ブチルシリル、(メタ)アクリル酸トリイソペンチルシリル、(メタ)アクリル酸トリフェニルシリル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルフェニルシリル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルイソブチルシリル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルs-ブチルシリル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルイソペンチルシリル、(メタ)アクリル酸イソプロピルジイソブチルシリル、(メタ)アクリル酸イソプロピルジs-ブチルシリル、(メタ)アクリル酸t-ブチルジイソプチルシリル、(メタ)アクリル酸t-ブチルジイソペンチルシリル、(メタ)アクリル酸t-ブチルジフェニルシリル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルテキシルシリル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルシクロヘキシルシリル、(メタ)アクリル酸トリシクロヘキシルシリル、(メタ)アクリル酸トリ1,1-ジメチルペンチルシリル、(メタ)アクリル酸トリ2,2-ジメチルプロピルシリル、(メタ)アクリル酸トリシクロヘキシルメチルシリル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルシクロヘキシルメチルシリル、(メタ)アクリル酸トリ2-エチルヘキシルシリル、(メタ)アクリル酸トリ2-プロピルペンチルシリル等が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル、(メタ)アクリル酸トリs-ブチルシリル、(メタ)アクリル酸t-ブチルジフェニルシリル、(メタ)アクリル酸トリ2-エチルヘキシルシリル等が挙げられる。これらの単量体(a)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
<単量体(b)>
単量体(b)は、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ビニル化合物、芳香族化合物、二塩基酸のジアルキルエステル化合物等が挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロピレングリコールモノメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、
メタクリル酸2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]エチル、こはく酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル、N,N'-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-(アセトアセチルオキシ)エチル、メタクリル酸2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル、N-ビニル-2-ピロリドン、アクリル酸2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エチル、
4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、N-イソポロピルアクリルアミド、アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エチル、N,N'-ジエチルアクリルアミド、アクリル酸3-メトキシブチル、等のアクリル酸エステル類、
等が挙げられる。
【0017】
ビニル化合物としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルブチレート、ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン等の官能基を有するビニル化合物が挙げられる。
【0018】
芳香族化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0019】
二塩基酸のジアルキルエステル化合物としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、これら単量体(b)を単独又は二種以上で用いることができる。特に、単量体(b)としては、塗膜物性の観点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に耐クラック性の観点から、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等がより好ましい。
【0021】
共重合体A中の単量体(a)は、5~75質量%が好ましく、30~60質量%が更に好ましい。
【0022】
単量体(a)の含有量は、具体的には例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
前記範囲内の共重合体Aを本発明の塗料組成物として使用した場合、特に塗膜溶解性が良好となる。
【0024】
共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は5000~300000であることが望ましい。分子量が5000未満であれば、防汚塗料の塗膜が脆弱となり、剥離やクラックを起こし易く、また、300000を超えると、重合体溶液の粘度が上昇し、取扱いが困難となるからである。このMwは、具体的には例えば、5000、10000、20000、30000、40000、50000、60000、70000、80000、90000、100000、200000、300000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0025】
Mwの測定方法としては、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)が挙げられる。
【0026】
共重合体Aは、単量体(a)と単量体(b)とのランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、又はブロック共重合体のいずれの共重合体であってもよい。
【0027】
共重合体Aは、例えば、重合開始剤の存在下、単量体(a)及び単量体(b)を重合させることにより得ることができる。
【0028】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2'-アゾビスイソブチレート、ジメチル2,2'-アゾビスイソブチレート、2,2'-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイト、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイト、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカルボネート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイト等の過酸化物等が挙げられる。これら重合開始剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。前記重合開始剤としては、特に、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビスイソブチレート及び1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイトが好ましい。重合開始剤の使用量を適宜設定することにより、共共重合体Aの分子量を調整することができる。
【0029】
重合方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合、非水分散重合等が挙げられる。この中でも特に、簡便に、且つ、精度良く、共重合体Aを得ることができる点で、溶液重合、又は非水分散重合が好ましい。
【0030】
前記重合反応においては、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。
その中でも、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート、トルエン、キシレンが好ましい。これら溶媒については、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
重合反応における反応温度は、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常50~160℃であり、好ましくは60~150℃である。
【0032】
重合反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0033】
1-2.成分B
成分Bは、焼成カオリンである。
【0034】
前記焼成カオリンは、熱的な方法によって天然に産出する含水カオリン(理論的な組成[AlSi(OH)]をもつ含水アルミノケイ酸塩のカオリナイト)から脱ヒドロキシル化された形に変換されたカオリンをいう。焼成は、その他の特性の中でカオリン構造を結晶形から非晶質形に変化させる。焼成は、例えば500℃~1200℃の範囲の温度、例えば800℃~1200℃の範囲の温度で、いずれかの既知の方法で、きめの粗いまたは細かな含水カオリンを加熱処理することによって実行される。
【0035】
前記焼成カオリンとしては、市販品として、例えば、Translink445(東新化成株式会社製)、SatintoneW、Satintone5、Satintone5HB(BASF Corporation製)等が挙げられる。
【0036】
前記焼成カオリンの白色度は75%以上のものが好ましく、80%以上のものが更に好ましい。白色度はISO2469で定められた測定方法で測定される。
【0037】
前記焼成カオリンの平均粒径は、0.1~5.0μmが好ましく、0.4~2.0μmが更に好ましい。平均粒径は、例えばMicromeritics(Atlanta,Ga)製のSedigraph(登録商標)5100粒径分析装置を使用して、水性媒体中の完全に分散された状態での粒子物質の沈降法による既知の方法で測定される。この平均粒子径は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、3.0、4.0、5.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0038】
本発明の組成物中における成分Bの含有量は特に制限されないが、固形分換算で、通常1~40質量%であり、好ましくは5~20質量%である。成分Bを前記範囲内で使用した場合、特に耐候性試験後の浸漬試験における防汚性能が著しく良好となる。成分Bの含有量は、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0039】
1-3.防汚薬剤C
防汚薬剤としては、例えば無機薬剤及び有機薬剤が挙げられる。
【0040】
無機薬剤としては、例えば、亜酸化銅、チオシアン酸銅(一般名:ロダン銅)、銅粉等が挙げられる。この中でも特に、亜酸化銅とロダン銅が好ましく、亜酸化銅はグリセリン、ショ糖、ステアリン酸、ラウリン酸、リシチン、鉱物油などで表面処理されているものが、貯蔵時の長期安定性の点でより好ましい。
【0041】
有機薬剤としては、例えば、2-メルカプトピリジン-N-オキシド銅(一般名:カッパーピリチオン)、2-メルカプトピリジン-N-オキシド亜鉛(一般名:ジンクピリチオン)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート(一般名:ジネブ)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン(一般名:シーナイン211)、3,4-ジクロロフェニル-N-N-ジメチルウレア(一般名:ジウロン)、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン(一般名:イルガロール1051)、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(一般名:Econea28) 、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(一般名:メデトミジン)等が挙げられる。
【0042】
これらの防汚薬剤のうち、耐候性試験後の浸漬試験における防汚性能の観点から特に2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(一般名:Econea28)が好ましい。これらの防汚薬剤は1種又は2種以上併用して使用できる。
【0043】
本発明の組成物中における防汚薬剤Cの含有量は特に制限されないが、固形分換算で、通常0.1~60質量%であり、好ましくは1~50質量%である。防汚薬剤Cの含有量は、具体的には例えば、0.1、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0044】
1-4.他の添加剤
さらに本発明の防汚塗料用樹脂には、必要に応じて、共重合体A以外の樹脂成分、溶出調整剤、可塑剤、顔料、染料、消泡剤、脱水剤、揺変剤、有機溶剤等を添加して防汚塗料とすることができる。
【0045】
他の樹脂成分としては、例えば、重合体Pなどが挙げられる。
重合体Pは、前記単量体(b)を重合することにより得られる重合体である。単量体(b)は、単量体(a)以外の任意のエチレン性不飽和単量体である。重合体Pの重合に用いる単量体(b)は、共重合体Aの重合に用いる単量体(b)と同一の組成であっても異なる組成であってもよい。
本発明においては、単量体(b)を単独又は二種以上で用いることができ、特に、共重合体Aとの相溶性の観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ベンジルが好ましい。
重合方法、開始剤、溶媒、温度、その他の条件、Mwの測定方法等は、共重合体Aで既記の手法が適用できる。
本発明の組成物中における重合体Pの含有量は特に制限されないが、共重合体Aとの含有割合が、固形分換算で、質量比(重合体P/共重合体A)は、通常0.1~9.0であり、好ましくは0.1~4.0である。
【0046】
前記溶出調整剤としては、例えば、ロジン、ロジン誘導体、ナフテン酸、シクロアルケニルカルボン酸、ビシクロアルケニルカルボン酸、バーサチック酸、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸、及びこれらの金属塩等の、モノカルボン酸及びその塩、又は前記脂環式炭化水素樹脂が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
前記ロジン誘導体としては、水添ロジン、不均化ロジン、マレイン化ロジン、ホルミル化ロジン、重合ロジン等を例示できる。
前記脂環式炭化水素樹脂としては、市販品として、例えば、クイントン1500、1525L、1700(商品名、日本ゼオン社製)等が挙げられる。
この中でもロジン、ロジン誘導体、ナフテン酸、バーサチック酸、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸、又はこれらの金属塩が好ましく、ロジン、ロジン誘導体が更に好ましい。
ロジン、ロジン誘導体を使用することにより、前記(A)、(B)および(C)成分を含む防汚塗料組成物の奏する塗膜の耐剥離性の向上性、および塗膜溶解性(特に初期段階における)の向上性が顕著となる。
【0047】
前記可塑剤としては、例えば、燐酸エステテル類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エポキシ化大豆油、アルキルビニルエーテル重合体、ポリアルキレングリコール類、t-ノニルペンタスルフィド、ワセリン、ポリブテン、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、シリコーンオイル、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
【0048】
前記脱水剤としては、例えば、硫酸カルシウム、合成ゼオライト系吸着剤、オルソエステル類、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のシリケート類やイソシアネート類、カルボジイミド類、カルボジイミダゾール類等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
2.防汚塗料組成物の製造方法
本発明の防汚塗料組成物は、例えば、前記共重合体A及び成分B、他の添加剤等を含有する混合液を、分散機を用いて混合分散することにより製造できる。また、前記共重合体A及び防汚薬剤、他の添加剤等を含有する混合液を、分散機を用いて混合分散した後に、成分Bを添加して製造することもできる。
前記混合液としては、共重合体A及び成分B等の各種材料を溶媒に溶解または分散させたものであることが好ましい。
前記分散機としては、例えば、微粉砕機として使用できるものを好適に用いることができる。例えば、市販のホモミキサー、サンドミル、ビーズミル、ディスパー等を使用することができる。また、撹拌機を備えた容器に混合分散用のガラスビーズ等を加えたものを用い、前記混合液を混合分散してもよい。
【0050】
3.防汚処理方法、防汚塗膜、および塗装物
本発明の防汚処理方法は、上記防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する。本発明の防汚処理方法によれば、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
被塗膜形成物としては、例えば、船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等が挙げられる。
防汚塗膜の厚みは、被塗膜形成物の種類、船舶の航行速度、海水温度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が船舶の船底の場合、防汚塗膜の厚みは通常50~700μm、好ましくは100~600μmである。
【実施例0051】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
各製造例、実施例及び比較例中の%は質量%を示す。重量平均分子量(Mw)は、GPCにより求めた値(ポリスチレン換算値)である。GPCの条件は下記の通りである。
装置・・・ 東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム・・・ TSKgel SuperHZM-M 2本
流量・・・ 0.35mL/min
検出器・・・ RI
カラム恒温槽温度・・・ 40℃
溶離液・・・ THF
加熱残分は、JIS K 5601-1-2:1999(ISO 3251:1993)「塗料成分試験方法-加熱残分」に準拠して測定した値である。
【0052】
<製造例1(共重合体溶液A1の製造)>
温度計、冷却器、攪拌装置及び滴下ロートを備えた四ツ口フラスコに、キシレン60g(初期溶媒)を仕込み、窒素ガスを導入し、攪拌しながら88℃を保持した。そこへ、メタクリル酸トリイソプロピルシリル30g、アクリル酸テトラヒドロフルフリル3g、アクリル酸2-メトキシエチル9g、メタクリル酸2-メトキシエチル25g、メクリル酸メチル28g、アクリル酸n-ブチル3g、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイト0.8g(初期添加)の混合液を88℃で保持しながら3時間かけて滴下した。その後、88℃で1時間攪拌を行った後、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイト0.1g(後添加)を1時間毎に3回添加し、さらに同温度で2時間攪拌を行った後、キシレン40g(希釈溶媒)添加し室温に冷却し、共重合体Aを含む共重合体溶液A1を得た。共重合体溶液A1の加熱残分およびMwを表1に示す。
【0053】
<製造例2~9(共重合体溶液A2~A7、重合体溶液P1~P2の製造)>
表1に示す単量体、重合開始剤及び溶媒を用いて、各反応温度条件下、製造例1と同様の操作で重合反応を行うことにより、共重合体Aを含む共重合体溶液A2~A7、およびその他の重合体Pを含む重合体溶液P1~P2を得た。加熱残分およびMwを表1に示す。表中の数値は質量%である。
【0054】
【表1】

【0055】
表中の成分の詳細は、以下の通りである。
ナフテゾール160:JXTGエネルギー社製、ナフテン系溶剤
【0056】
<製造例10(ロジン亜鉛塩溶液の製造)>
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えたフラスコに、中国産ガムロジン(WW)240gとキシレン360gをフラスコに入れ、更に、前記ロジン中の樹脂酸が全て亜鉛塩を形成するように酸化亜鉛120gを加え、70~80℃で3時間、減圧下で還流脱水した。その後、冷却しろ過を行うことにより、ロジン亜鉛塩のキシレン溶液(濃褐色透明液体、固形分50%)を得た。得られた溶液の加熱残分は、50.2%であった。
【0057】
<製造例11(水添ロジン亜鉛塩溶液の製造)>
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えたフラスコに、ハイペールCH(水添ロジン)240gとキシレン360gをフラスコに入れ、更に、前記ロジン中の樹脂酸が全て亜鉛塩を形成するように酸化亜鉛120gを加え、70~80℃で3時間、減圧下で還流脱水した。その後、濃縮、冷却しろ過を行うことにより、水添ロジン亜鉛塩のキシレン溶液(濃褐色液体、固形分50%)を得た。得られた溶液の加熱残分は、50.3%であった。
【0058】
<実施例及び比較例(塗料組成物の製造)>
表2~表4に示す成分を当該表に示す割合(質量%)で配合し、直径1.5~2.5mmのガラスビーズと混合分散することにより塗料組成物を製造した。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表中の成分B、防汚薬剤C、その他の添加剤の詳細は、以下の通りである。
<成分B>
焼成カオリン:Translink445(東新化成株式会社製:白色度90,平均粒径1.4μm)
【0063】
<防汚薬剤>
亜酸化銅:商品名「NC-301」(日進ケムコ株式会社製)
チオシアン酸銅(I):商品名「チオシアン酸銅(I)」(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)
カッパーピリチオン:商品名「カッパーオマジン」(LONZA株式会社製)
ジンクピリチオン:商品名「ジンクオマジン」(LONZA株式会社製)
ジネブ:商品名「ジネブ」(SIGMA-ALDRICH製)
SeaNine211:4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン(R&H社製、有効成分30%キシレン溶液)
メデトミジン:商品名「Selektope」(アイテック製)
Econea028:2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(ヤンセンPMP製)
トリルフルアニド : 商品名「Preventol A 5-S (Lanxess社製)
ジウロン:商品名「ジウロン」(東京化成工業社製)
ピリジントリフェニルボラン:PK(北興化学工業社製)
イルガロール1051:商品名「イルガロール1051」N-シクロプロピル-N'-tert-ブチル-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(BASF社製)
【0064】
<その他の添加剤>
ガムロジン溶液:中国産ガムロジン(WW)の固形分50%キシレン溶液
ロジン亜鉛塩溶液:製造例10で製造したものを使用
水添ロジン溶液:商品名「ハイペールCH」(荒川化学工業株式会社製)の固形分50%キシレン溶液
水添ロジン亜鉛塩溶液:製造例11で製造したものを使用
塩素化パラフィン:商品名「トヨパラックスA40S」(東ソー株式会社製)
パラフィン鉱油:商品名「ピュアセイフティー68」(コスモ石油ルブリカンツ社製)
トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル):商品名「トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)」(東京化成工業株式会社製)
エポキシ化大豆油:商品名「サンソサイザーE-2000H」(新日本理化株式会社製)
タルク:商品名「タルクMS」(日本タルク株式会社製)
酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛2種」(正同化学工業株式会社製)
ベンガラ:商品名「ベンガラキンギョク」(森下弁柄工業株式会社製)
エチルシリケート28:テトラエトキシシラン:商品名「エチルシリケート28」(コルコート株式会社製)
酸化チタン:商品名「FR-41」(古河機械金属株式会社製)
含水カオリン:商品名「ASP-G92」(東新化成株式会社製)
ゼオライト:商品名「モレキュラーシーブ4A」(ユニオン昭和社製)
硫酸カルシウム:商品名「活性無水硫酸カルシウム」(ナカライテクス社製、試薬)
硫酸バリウム:商品名「TS-2」(竹原化学工業社製)
脂肪酸アマイド:商品名「ディスパロンA603-20X」(楠本化成株式会社製)
酸化ポリエチレン:商品名「ディスパロン4200-20」(楠本化成株式会社製)
【0065】
実施例・比較例の塗料組成物について、以下に示す試験を行った。
<試験例1(耐候性試験)>
塗料組成物を硬質塩ビ版(100×200×2mm)の両面に乾燥塗膜として厚みが約200μmとなるように塗布した。得られた塗布物を室温(25℃)で3日乾燥させることにより、厚みが約200μmの乾燥塗膜を有する試験板を作成した。この試験板を屋外で南向きに地上から45°の角度で太陽放射を暴露し、3ヶ月後、6ヶ月後の塗膜状態を評価した。評価は以下の方法で行った。
〇:まったく異常がない。
×:塗膜にクラックが見られる。
【0066】
<試験例2(耐候性試験後の浸漬試験)>
上記の耐候性試験を6ヶ月行った後の試験板を、三重県尾鷲市の海面下1.5mに浸漬して付着物による試験板の汚損を6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後、24ヶ月後に観察した。
評価は塗膜表面の状態を目視観察することにより行い、以下の基準で判断した。
◎:貝類や藻類などの汚損生物付着がなく、かつ、スライムも殆どなし。
〇:貝類や藻類などの汚損生物の付着がなく、かつ、スライムが薄く(塗膜面が見える程度)付着しているものの刷毛で軽く拭いて取れるレベル。
△:貝類や藻類などの汚損生物の付着はないが、塗膜面が見えない程度スライムが厚く付着しており、刷毛で強く拭いても取れないレベル。
×:貝類や藻類などの汚損生物が付着しているレベル。
【0067】
<試験結果>
試験例1および2の結果より、共重合体Aおよび成分B含む組成物を用いて形成した塗膜は、長期間太陽光に暴露された後においても長期間にわたり塗膜溶解が持続し、良好な防汚性能を発揮できることが分かった。