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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088748
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】水素化ニトリルゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20220608BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20220608BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220608BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L91/06
C08K3/013
B60R13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200748
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】古舘 亜季
【テーマコード(参考)】
3D023
4J002
【Fターム(参考)】
3D023BA08
3D023BB18
3D023BB27
3D023BD12
3D023BD31
3D023BE04
3D023BE31
4J002AC111
4J002AE032
4J002DA026
4J002DA036
4J002DE236
4J002DE266
4J002DF026
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002FD016
4J002FD070
4J002FD140
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】耐熱性および耐オゾン性を向上すべく水素化ニトリルゴムを用いた上で、得られるシール材が金属との接着性にすぐれ、さらにはグリースを用いることなく摩擦係数の低減を達成せしめる、ステアリングダストシール用オイルシール材として好適に用いられる、用いられる水素化ニトリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】水素化ニトリルゴム100重量部に対して、融点140℃以下の炭化水素系あるいは脂肪酸アミド系ワックスを5~10重量部配合せしめた水素化ニトリルゴム組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリルゴム100重量部に対して、融点140℃以下の炭化水素系あるいは脂肪酸アミド系ワックスを5~10重量部配合せしめた水素化ニトリルゴム組成物。
【請求項2】
さらに無機充填剤が40~150重量部配合された請求項1記載の水素化ニトリルゴム組成物。
【請求項3】
ステアリングダストシール用オイルシール材として用いられる請求項1または2記載の水素化ニトリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項3記載の水素化ニトリルゴム組成物の架橋成形品であるステアリングダストシール用オイルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ニトリルゴム組成物に関する。さらに詳しくは、ダストや雨水等の異物の侵入を防ぐステアリングシャフトに用いられるオイルシール用水素化ニトリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のステアリング装置において、ステアリングシャフトは車室とエンジンルームとを隔てるダッシュパネルに開口されるコラムホールに挿通されており、ステアリングシャフトとコラムホールとの間の間隙がステアリングシールによって密封されている(特許文献1)。かかるステアリングダストシールによって、ダスト、雨水等の異物が、車室内に侵入することが防がれている。
【0003】
従来は、かかるステアリングダスト用オイルシールの材料として、ニトリルゴムを用い、成形品の摩擦係数を低減すべくグリースが用いられていた。
【0004】
しかしながら近年、ステアリングダスト用オイルシールは車両等のコンパクト化の流れから、耐熱性および金属との接着性の向上、さらには低トルク化の要求もみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2016/076186
【特許文献2】特開2007-83732号公報
【特許文献3】特開2007-83733号公報
【特許文献4】WO2019/102864
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐熱性および耐オゾン性を向上すべく水素化ニトリルゴムを用いた上で、得られるシール材が金属との接着性にすぐれ、さらにはグリースを用いることなく摩擦係数の低減を達成せしめる、水素化ニトリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、水素化ニトリルゴム100重量部に対して、融点140℃以下の炭化水素系あるいは脂肪酸アミド系ワックスを5~10重量部配合せしめた水素化ニトリルゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る水素化ニトリルゴム(HNBR)組成物は、ワックスとして融点が140℃以下である炭化水素系あるいは脂肪酸アミド系の特定のワックスを用い、これをHNBR 100重量部に対して5~10重量部配合せしめることにより、加硫物の金属との接着性およびグリース不存在下での摩擦係数をバランスよく向上せしめ、特に1.5mm/秒といった低速域における摩擦係数低減に効果があることから、鳴きやスティックスリップ対策になるといったすぐれた効果を奏する。
【0009】
なお、融点140℃以下の炭化水素系あるいは脂肪酸アミド系ワックスした水素化ニトリルゴム組成物は開示されているものの(特許文献2~4等)、いずれもその配合量は水素化ニトリルゴム組成物100重量部に対して2~3重量部程度であり、5~10重量部配合せしめることにより、耐熱性に加えて、グリースを用いることなく架橋物の摩擦係数の低減しうるといった技術的思想は、これまで開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
水素化ニトリルゴム(HNBR)は、アクリロニトリルブタジエンゴム中の炭素-炭素二重結合のみを選択的に水素化することにより得られるゴムであり、ニトリルゴムと比較して耐熱老化性、耐候性、耐化学薬品性が大幅に改良されているといった特徴がある。また、HNBRとして、好ましくは中高ニトリル~高ニトリル、さらに好ましくは中高ニトリルのものが用いられる。本発明では、市販品、例えば日本ゼオン製品Zetpol 2010、Zetpol 4310、アランセオ製品Therban 3629等をそのまま用いることができる。これらのHNBRに対しては、特定のワックスが添加されて、本発明に係るHNBR組成物が調製される。
【0011】
ワックスとしては、融点(マイクロワックスおよびペトロラタム融点試験機により測定)140℃以下の炭化水素系あるいは脂肪酸アミド系ワックスが用いられ、これは市販品、例えば精工化学製品サンタイトR、三菱ケミカル製品スリパックスO等をそのまま用いることができる。ここで、融点がこれより高いワックスを用いると摩擦係数の低減を達成することが難しくなる。
【0012】
また、かかるワックスは、HNBR 100重量部に対して、5~10重量部の割合で用いられる。ワックスがこれより多い割合で用いられると、金属との接着性が悪化してしまうようになり、一方これより少ない割合で用いられると摩擦係数の低減を達成することが難しくなる。
【0013】
水素化ニトリルゴム組成物中には、必須成分であるワックス以外に、無機充填剤、架橋剤、架橋促進剤、受酸剤、老化防止剤等ゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0014】
無機充填剤としては、ウォラストナイト、ホワイトカーボン(シリカ)、塩基性炭酸マグネシウム、活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、超微粉珪酸マグネシウム、ハードクレー、カーボンブラック、硫酸バリウム、タルク、グラファイト、マイカ、カオリン等が、単独または組み合わせて用いられる。これらの無機充填剤の添加は、高温浸せき時の接着剤層の剥がれ防止に有効である。この内、好ましくはウォラストナイト、グラファイトが用いられ、これらは市販品、イメリス社製品NYAD400、日電カーボン製品グラファイトA-0等をそのまま用いることができる。
【0015】
これらの無機充填剤は、HNBR 100重量部当り40~150重量部、好ましくは60~120重量部の割合で用いられる。無機充填剤の使用割合がこれより少ないと、高温高面圧での使用においてゴムの流れが多くなるようになり、一方これよりも多い割合で用いられると、空気加熱時にゴムの剥がれが生じやすくなる。
【0016】
水素化ニトリルゴム組成物中には、以上の必須成分以外に、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート等の多官能性不飽和化合物、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の受酸剤、ジオクチルセバケート等の可塑剤等が適宜配合され、それの調製は、例えば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサ、ニーダ、高せん断型ミキサ等の混練機を用いて、架橋剤および架橋助剤以外の各成分を混練りした後、さらに架橋剤および架橋助剤などを添加して混練することにより行われる。
【0017】
架橋剤としては、有機過酸化物が用いられ、具体的には1,1-ジ第3ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ第3ブチルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。これらの有機過酸化物は、水素化ニトリルゴム100重量部当り約1~20重量部、好ましくは約2~16重量部の割合で用いられる。
【0018】
架橋促進剤としては、トリアリルイソイアヌレート、トリアリルシアヌレート等が水素化ニトリルゴム100重量部当り0.5~6重量部、好ましくは2~4重量部の割合で用いられる。架橋促進剤がこれより多い場合には、未加硫ゴムの保管安定性が損なわれるようになる。
【0019】
調製された組成物は、例えば約150~200℃、約3~30分間のプレス架橋などによって加硫成形される。
【実施例0020】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0021】
実施例1
水素化ニトリルゴム(アランセオ社製品Therban 3629) 100重量部
ウォラストナイト(イメリス社製品NYAD400) 30 〃
グラファイト(日電カーボン製品グラファイトA-0) 30 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラックMBZ) 0.5 〃
ワックス(精工化学製品サンタイトR; 5 〃
炭化水素系ワックス、融点75℃)
架橋剤(日油製品PERCUMYL D) 3 〃
架橋助剤(日本化成製品タイクM-60) 2 〃
以上の各成分をニーダおよびオープンロールを用いて混練を行い、得られた水素化ニトリルゴム組成物を用いて金属板上に塗布し、180℃、10分間の加熱架橋を行った。
【0022】
得られたゴム積層金属板を用い、ゴム表面の摩擦係数の評価および金属とゴムとの接着性についての測定が下記の通り行われたところ、摩擦係数評価は○、ゴム残率は○(100%)であった。
摩擦係数:架橋7日後のテストピースについて、ピンオンディスク試験を加重1N、
1.5mm/秒の条件下で行い、0.9以下を◎、1.5以下を○、1.5より大きい
場合を×と評価
ゴム残率:180℃×10分間の架橋をした製品をペンチで金属とゴム層とを剥離する
ことによって算出
70%より大であれば○、70%以下であれば×と評価
【0023】
実施例2
実施例1において、ワックスとして不飽和脂肪酸ビスアミド(三菱ケミカル製品スリパックス0;融点119℃)を同量(5重量部)用いたところ、摩擦係数評価は○、ゴム残率は○(100%)であった。
【0024】
実施例3
実施例1において、ワックス量を10重量部に変更して用いたところ、摩擦係数評価は○、ゴム残率は○(95%)であった。
【0025】
実施例4
実施例2において、ワックス量を10重量部に変更して用いたところ、摩擦係数評価は○、ゴム残率は○(95%)であった。
【0026】
比較例1
実施例1において、ワックスが用いられなかったところ、摩擦係数評価は×、ゴム残率は○(100%)であった。
【0027】
比較例2
実施例1において、ワックス量を3重量部に変更して用いたところ、摩擦係数評価は×、ゴム残率は○(100%)であった。
【0028】
比較例3
実施例1において、ワックス量を13重量部に変更して用いたところ、摩擦係数評価は◎、ゴム残率は×(70%)であった。
【0029】
比較例4
実施例2において、ワックス量を3重量部に変更して用いたところ、摩擦係数評価は×、ゴム残率は○(100%)であった。
【0030】
比較例5
実施例2において、ワックス量を13重量部に変更して用いたところ、摩擦係数評価は◎、ゴム残率は×(70%)であった。
【0031】
比較例6
実施例1において、ワックスとして飽和脂肪酸ビスアミド(三菱ケミカル製品ビスアマイドLA;融点142℃)を同量(5重量部)用いたところ、摩擦係数評価は×、ゴム残率は○(100%)であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る水素化ニトリルゴム組成物を用いた架橋ゴムは、良好な耐熱性と、グリースを用いることなく摩擦係数が低減されており、ステアリングダストシール用オイルシールとして有効に用いられる。