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  • 特開-可変慣性質量ダンパー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088760
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】可変慣性質量ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20220608BHJP
   F16F 7/10 20060101ALI20220608BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20220608BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F7/10
F16H25/22 Z
E04H9/02 341A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200763
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】平元 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一生
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J062
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB11
2E139AC19
2E139BB02
2E139BB20
2E139BB36
2E139BB55
2E139BC18
3J048AA06
3J048AD06
3J048BF12
3J048BF14
3J048EA38
3J062AB22
3J062AC07
3J062CD04
3J062CD22
3J066AA26
3J066DB03
3J066DB04
(57)【要約】
【課題】慣性質量を広い範囲で連続的に変更できる可変慣性質量ダンパーで、小型化可能なものを提供する。
【解決手段】可変慣性質量ダンパー100は、ボールねじ軸111で円軌道運動する重錘120を含む回転質量部140を具備する。重錘保持手段130は、第1、第2の回転支持部131,132と、それらに枢支されるアーム部材133とを具備し、重錘120を、それの円軌道運動の半径を連続的に変更可能にボールねじ軸111に保持する。筒状の第1の回転支持部131は、ボールねじ軸111と一体回転し、第2の回転支持部132は、第1の回転支持部131の内側に相対回転不能かつそれの軸線に沿って相対移動可能である。駆動手段150で第2の回転支持部132を第1の回転支持部131に対して軸線方向に相対移動させることで、アーム部材133を起伏させ、重錘120の円軌道運動の半径を変更する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ軸とボールねじナットを有し、一方の構成部材の直線運動を他方の構成部材の回転運動に変換するボールねじ機構と、
前記他方の構成部材の回転運動に伴って円軌道運動することにより慣性質量を発生させる重錘を有する回転質量部とを具備し、
前記回転質量部は、円軌道運動する前記重錘の当該円軌道運動の半径を連続的に変更可能な状態で前記重錘を前記他方の構成部材に保持させる重錘保持手段を具備し、
前記重錘保持手段は、前記ボールねじ機構の前記他方の構成部材に相対回転不能に取付けられ中心軸線を前記ボールねじ軸の軸線に沿わせて配置された筒状の第1の回転支持部と、当該第1の回転支持部の内側に相対回転不能かつ当該第1の回転支持部の軸線に沿って相対移動可能に設けられた第2の回転支持部と、前記重錘を保持して前記第1及び第2の回転支持部に枢支され前記第1の回転支持部と前記第2の回転支持部との軸線方向の相対変位により前記重錘の円軌道運動の半径を変更するように起伏自在に設けられたアーム部材とを具備し、
前記第2の回転支持部を前記第1の回転支持部に対して軸線方向に移動させて前記アーム部材を起伏させ、前記重錘の円軌道運動の半径を変更する駆動手段をさらに具備することを特徴とする可変慣性質量ダンパー。
【請求項2】
前記第1の回転支持部は、前記アーム部材を起伏可能に半径方向に貫通させるスリットを具備し、
前記アーム部材は、基端部において前記第2の回転支持部に第1の枢ピンにより枢支されると共に、前記第1の回転支持部のスリット内に第2の枢ピンにより枢支され、先端部に前記重錘を保持することを特徴とする請求項1に記載の可変慣性質量ダンパー。
【請求項3】
前記駆動手段は、手動により操作される手動機構であることを特徴とする請求項1又は2に記載の可変慣性質量ダンパー。
【請求項4】
前記駆動手段は、外部からの制御により駆動されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の可変慣性質量ダンパー。
【請求項5】
前記他方の構成部材を回転運動可能に保持し、前記一方の構成部材を直線運動可能に保持すると共に、前記回転質量部を覆うケース部材を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の可変慣性質量ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変慣性質量ダンパー、更に詳しくは、直線運動を回転運動に変換して重錘部を円軌道運動させ、慣性質量を発生する可変慣性質量ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物や機器における振動の伝達を抑制する装置として、直線運動をフライホイールの回転運動に変換する機構を備え、この回転するフライホイールの慣性モーメントを制振に利用する慣性質量ダンパーがある。このような慣性質量ダンパーの慣性質量を連続的に変更できるものとして特許文献1に開示されたものがある。
この装置は、ボールねじナットの直線運動をボールねじ軸の回転運動に変換するボールねじ機構と、ボールねじ軸の回転運動に伴って円軌道運動する錘部とを具備する。錘部は、第1及び第2の回転支持部とアーム部材を備える錘部保持手段により、それの円軌道運動の半径を連続的に変更可能な状態でボールねじ軸に保持される。錘部の円軌道運動の半径の変更により、慣性質量を連続的に変更できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-151287公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の慣性質量ダンパーにおいては、回転支持部が左右に分かれ、アーム部材が錘部の両端に存在しており、一つの錘部について2本のアーム部材の除外できない慣性質量値が加わることになる。このため、慣性質量の下限値が大きくなりがちで、可変慣性質量の可変範囲を大きくとりにくい。また、2つのアーム部材間の角度を水平にすると不安定状態となるため、所定の角度を持たせる必要上、錘部の回転円軌道の半径を一定以下に小さくすることができず、これも慣性質量下限値を小さくし難い要因となる。さらに、長さ方向2本のアーム部材の存在により、装置の全長を短くしにくい等の問題点がある。
したがって、本発明は、コンパクトな全長でありながら、広い慣性質量の可変範囲を持つ可変慣性質量ダンパーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明の可変慣性質量ダンパー100は、例えば一方の構成部材であるボールねじナット112の直線運動を他方の構成部材であるボールねじ軸111の回転運動に変換するボールねじ機構110と、他方の構成部材111の回転運動に伴って円軌道運動することにより慣性質量を発生させる重錘120を有する回転質量部140とを具備する。回転質量部140は、重錘保持手段130により、重錘120を、それの円軌道運動の半径を連続的に変更可能な状態で他方の構成部材111に保持する。重錘保持手段130は、第1の回転支持部131と、第2の回転支持部132と、アーム部材133とを具備する。第1の回転支持部131は、筒状で、ボールねじ機構110の他方の構成部材111に相対回転不能に取付けられ、中心軸線をボールねじ軸の軸線Oに沿わせて配置される。第2の回転支持部132は、第1の回転支持部131の内側に相対回転不能かつ第1の回転支持部131の軸線に沿って相対移動可能に設けられる。アーム部材133は、重錘120を保持して第1及び第2の回転支持部131,132に枢支され、第1の回転支持部131と第2の回転支持部132との軸線方向の相対変位により重錘120の円軌道運動の半径を変更するように起伏自在に設けられる。駆動手段150により、第2の回転支持部132を第1の回転支持部131に対して軸線方向に移動させることで、アーム部材133を起伏させ、重錘120の円軌道運動の半径を変更できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、1本のアーム部材133で各重錘120が支持されるため、左右2本のアーム部材で1つの重錘を支持する場合に比して慣性質量を小さく設計できるし、アーム部材133の角度を水平(ボールねじ軸の軸線と平行)に配置して重錘120の回転軌道半径を小さくできるので、これも慣性質量の下限値を小さくする設計の可能性に貢献する。装置の軸線方向左右2本のアーム部材で1つの重錘を支持する従来の構造に比して、装置の全長を短く構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る可変慣性質量ダンパーの断面図である。
図2図1の可変慣性質量ダンパーの慣性質量最小設定時の断面図である。
図3図1の可変慣性質量ダンパーの慣性質量最大設定時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示すように、可変慣性質量ダンパー100は、ボールねじ機構110と、重錘120と重錘保持手段130とを含む回転質量部140と、駆動手段150と、ケース部材160と、接続部材170とから構成される。
【0009】
ボールねじ機構110は、ボールねじ軸111とボールねじナット112とを備え、一方の構成部材であるボールねじナット112の直線運動を他方の構成部材であるボールねじ軸111の回転運動に変換する。なお、ボールねじ軸111を直線運動させ、ボールねじナット112を回転駆動させる構成とすることもできる。
【0010】
重錘120は、ボールねじ軸111の軸線Oを対称軸として2個配置され、ボールねじ軸111の回転により所定半径「R」で回転軌道運動する。なお、重錘120は、軸線Oの周囲に等角度間隔で配置されれば、3個以上設けてもよい。
【0011】
重錘保持手段130は、重錘120をボールねじ軸111に、回転半径が変更可能な状態で保持する。
【0012】
駆動手段150は、重錘保持手段130を変形させることにより、重錘120の回転軌道の半径「R」を変更する。
【0013】
ケース部材160は、ボールねじ軸111を低摩擦状態で回転運動可能に保持し、ボールねじナット112を相対回転不能且つ直線運動可能に保持する。ケース部材160は、回転質量部140を覆う大径円筒状ケーシング部161と、その一端側の小径円筒状の支持部162と、他端側において駆動手段150を覆う円筒状の小ケーシング部163と、その外側の接続部164とを具備する。接続部164は、可変慣性質量ダンパー100を他の構造部材等に接続できる。
【0014】
一端側の接続部材170は、支持部162内に、軸線Oに沿って出入り自在、回転不能に挿入され、内方端にボールねじナット112が固着される。接続部材170は、ボールねじナット112をケース部材160に対して直線運動可能に保持すると共に、可変慣性質量ダンパー100を他の構造部材等に接続できるように構成される。
【0015】
ボールねじ機構110は、公知の機構である。ボールねじ軸111はケース部材160にベアリング180で支持される。接続部材170と共にボールねじナット112を直線運動させると、ボールねじ軸111は回転運動する。
【0016】
回転質量部140を構成する重錘保持手段130と重錘120について説明する。重錘保持手段130は、ボールねじ軸111に接続された第1の回転支持部131と、第2の回転支持部132とを備える。重錘120は、アーム部材133の先端部に取付けられる。アーム部材133は、基端側の屈曲部133aにおいて「く」字状に屈曲した屈折棒状で、第1の回転支持部131と第2の回転支持部132との間に枢支される。
【0017】
第1の回転支持部131は、一端側が、ケース部材160の支持部162内においてベアリング181を介して回転自在に支持され、ボールねじ軸111に一体回転可能に接続される。第1の回転支持部131の他端側の円筒状部131aは、ケーシング部161内に延び、ケーシング部161の端壁161aにベアリング182を介して回転自在に支持される。円筒状部131aの一端側の対向位置には軸線方向に延びるスリット131bが形成される。
【0018】
第2の回転支持部132は、第1の回転支持部131の円筒状部131a内に、これと一体回転し、且つ軸線方向には移動自在に設けられ、スリット131bに対応する位置に軸線方向のスリット132aを具備する。
【0019】
アーム部材133は、基端側においてスリット132a、131bを貫通し、第1の回転支持部131の外方に延びている。アーム部材133は、基端において第2の回転支持部132のスリット132a内で枢ピン132bに枢支され、また、屈曲部133aにおいて、第1の回転支持部131のスリット131b内で枢ピン131cに枢支される。これにより、第2の回転支持部132を第1の回転支持部131の一端側に移動させると、アーム部材133が倒伏して重錘120が軸線Oに接近し、図2に示すように、重錘120が第1の回転支持部131の外周直近位置に到るまで無段階に回転軌道半径「R」を変更できる。また、第2の回転支持部132を第1の回転支持部131の他端側に移動させることで、アーム部材133を軸線Oに対して略90°の位置まで無段階で起立させ、この間重錘120の回転軌道半径「R」を無段階で拡大できる。
【0020】
駆動手段150は、小ケーシング部163内からケーシング部161の端壁161aを自由に貫通して第2の回転支持部132内を軸線Oに沿って延びる駆動軸151を具備する。駆動軸151は、第2の回転支持部132を軸線Oに沿って第1の回転支持部131内で移動させる。駆動軸151と第2の回転支持部132との間には、第2の回転支持部132の回転を駆動軸151に伝達せず、軸方向に沿った力だけを伝達する伝達機構からなる接続部134が配置される。駆動手段150としては、油圧シリンダ、電動ねじ機構、手動の駆動機構等、適宜選択できる。また、駆動手段150は、駆動軸151の変位を時々刻々計測できるセンサを有し、その情報を信号として付帯する専用のコントローラに送るものとし、自らの変位をフィードバック制御によってある目標変位信号に極力従うように制御するものとすることができる。また、具体的には、この目標変位信号は、可変慣性質量ダンパーが設置される振動抑制対象の構造系の状態を検知するセンサの情報を利用しつつ、何らかの制御則による最適化結果として自動的に決定される、高い振動抑制効果が得られるような慣性質量値を実現する場合に対応するような信号とすることができる。
【0021】
以上の実施形態では、1つの重錘120について1本のアーム部材133で支持し、軸線Oに可及的に近い位置で安定的に重錘120を支持できるため、慣性質量の下限値を可及的に小さく設定でき、可変慣性質量の可変範囲を大きくとることができる。また、可変慣性質量の最小設定状態(図2)で、1本のアーム部材133が軸線Oと略平行に延びるだけなので、装置の軸線方向の全長を相対的に短く設計することができる。
【符号の説明】
【0022】
100 可変慣性質量ダンパー
110 ボールねじ機構
111 ボールねじ軸
112 ボールねじナット
120 重錘
130 重錘保持手段
131 第1の回転支持部
132 第2の回転支持部
133 アーム部材
140 回転質量部
150 駆動手段
160 ケース部材
170 接続部材
図1
図2
図3