(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088781
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】乳化食品
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220608BHJP
A23L 29/25 20160101ALI20220608BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20220608BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20220608BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23L29/25
A23L29/269
A23L29/238
A23D7/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200808
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓矩
【テーマコード(参考)】
4B026
4B041
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DL03
4B026DP01
4B026DX03
4B041LC03
4B041LC10
4B041LD01
4B041LH07
4B041LH09
4B041LH16
4B041LK18
4B041LP04
(57)【要約】
【課題】低粘度であっても優れた乳化特性を有する乳化食品を提供する。
【解決手段】乳化食品は、水、油脂、アラビアガム及びキサンタンガムを含有する。乳化食品は、グアーガム又はローカストビーンガムのうちの1種をさらに含有することが好ましく、グアーガム及びローカストビーンガムのいずれも含有することがより好ましい。上記組成では、より低い乳化剤濃度でさらに優れた乳化安定性を実現できる。乳化食品の液温25℃における粘度は、40mPa・s~1000mPa・sであることが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、油脂、アラビアガム及びキサンタンガムを含有することを特徴とする乳化食品。
【請求項2】
グアーガム及びローカストビーンガムの少なくとも一方をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の乳化食品。
【請求項3】
グアーガム及びローカストビーンガムを含有することを特徴とする請求項2に記載の乳化食品。
【請求項4】
前記乳化食品の液温25℃における粘度が40mPa・s~1000mPa・sであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化食品に関し、さらに詳しくは、長時間にわたり、乳化安定性を維持できる低粘度の乳化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレッシングをはじめとする多くの乳化食品が知られている。非特許文献1には、アラビアガムが水に容易に溶解して低粘度の溶液となり、優れた乳化特性を有することから、上記乳化食品用の乳化製剤として広く使用されていることが記載されている。しかしながら、アラビアガムは、そのままの状態では、単品で使用しても十分な乳化性能を発揮しないことが指摘されている。特許文献1には、60℃以上で加熱処理又は乾燥処理することによって得られた改質アラビアガムと、増粘安定剤、ポリペプチドおよび界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種を併用して使用することにより、より高い乳化安定性を有する乳化組成物が得られることが記載されている。そして、特許文献1には、増粘安定剤として、プルラン、デキストラン、カードラン、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、キサンタンガム(ザンサンガム)、熱処理キサンタンガム、マクロホモプシスガム、納豆菌ガム(納豆菌粘質物)、スクレロガム(スクレログルカン)、ラムザンガム、ウェランガム(ウェラン多糖類)を含む数多くの多糖類等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】井戸 隆雄、片山 豪 「アラビアガムの特性とその利用」応用糖質科学 第1巻 第3号(2011)p.244-246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、アラビアガムを用いた多くの乳化食品が製造されている。しかしながら、低粘度で十分な乳化特性を有する乳化食品、特に、長時間にわたり優れた乳化安定性を維持できる乳化食品は実現されていないのが現状である。また、アラビアガムを用いた従来の乳化剤では、アラビアガムの特性が乳化性能に大きな影響を及ぼすため、アラビアガムの品質管理には複雑な工程が必要とされてきた。さらに、優れた乳化特性を得るために、乳化食品中には、アラビアガムを含む乳化剤が多量に添加されてきた。
そこで、本発明では、乳化剤であるアラビアガムの特性や添加量に依存することなく、低粘度であっても優れた乳化特性を有する乳化食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、水及び油脂に、アラビアガム及びキサンタンガムを添加することにより、低粘度でも優れた乳化特性を有する乳化食品が得られることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明の乳化食品は、水、油脂、アラビアガム及びキサンタンガムを含有することを特徴とする。
本発明の乳化食品は、グアーガム及びローカストビーンガムの少なくとも一方をさらに含有することが好ましい。
本発明の乳化食品は、グアーガム及びローカストビーンガムのいずれも含有することがより好ましい。
さらに、本発明の乳化食品の液温25℃における粘度は40mPa・s~1000mPa・sであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、アラビアガムの特性に依存することなく、少量の乳化剤(高分子多糖類)の添加により、低粘度であっても優れた乳化特性を有する乳化食品を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の乳化食品は、水、油脂、アラビアガム及びキサンタンガムを含有する。上記成分を含む本発明の液体食品は、低粘度であっても優れた乳化安定性を有する。また、本発明では、アラビアガム及びキサンタンガムに加えて、グアーガム及び/又はローカストビーンガムをさらに添加することにより、より低粘度でもさらに優れた乳化安定性を有する乳化食品を実現することができる。
なお、本発明において乳化食品とは、水相原料と油相原料とが高分子多糖類により乳化され、所定時間乳化状態が維持される食品をいい、恒久的に乳化状態が維持されるものに限定されない。
以下に本発明の乳化食品について説明する。
【0009】
本発明の乳化食品は、(A)アラビアガム、(B)キサンタンガム、(C)油脂、及び(D)水を含有する。上記組成のうち、(A)アラビアガム、及び(B)キサンタンガムは、それぞれ別個に添加することもできるが、予め、(A)アラビアガム、及び(B)キサンタンガムを含有する乳化剤を調製して、乳化剤の形態で添加することもできる。
以下にそれぞれの成分について説明する。
【0010】
(A)アラビアガム
本発明の乳化食品は、高分子多糖類であるアラビアガムを含む。アラビアガムはマメ科アカシア属の植物の樹から浸出した樹液から得られる高分子多糖類である。アカシア属の種類は1000種類以上が知られているが、食品や医薬品用途に用いられているのは、Acacia senegal(セネガル種)とAcacia seyal(セヤル種)の2種から採取されるアラビアガムである。これらの化学構造は、ガラクトース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸の糖から構成され、少量のタンパク質を含んでいる。セネガル種のアラビアガムは優れた乳化特性を有することが知られているが、その化学構造は、主鎖がβ-1,3結合したガラクトース鎖で、数多くの分岐をもち、ガラクトース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸が主鎖のC6位に結合した構造と推定されている。
【0011】
本発明では、市販のアラビアガムを用いることもできる。市販品としては、GUM ARABIC 396A(Alland & Robert社製)等が挙げられる。なお、本発明では、市販のアラビアガムを加熱又は乾燥処理してから用いることもできるが、そのまま用いてもよい。
【0012】
(B)キサンタンガム
本発明の乳化食品は、高分子多糖類であるキサンタンガムを含む。キサンタンガムは、トウモロコシ等を原料とするデンプンを微生物(Xanthomonas campestris)が菌体外に産出することにより得られる水溶性の天然多糖類である。一次構造は、D-グルコースがβ-1,4結合した主鎖及び該主鎖のアンヒドログルコースに結合するD-マンノース、D-グルクロン酸からなる側鎖を有する。なお、側鎖は、主鎖のD-グルコース残基1つおきに、D-マンノース2分子とD-グルクロン酸が結合している。また、側鎖の末端にあるD-マンノースは、ピルビン酸塩になっている場合があり、主鎖に結合したD-マンノースのC-6位はアセチル化されている場合がある。上記多糖類の分子量は、200万ないし5000万程度のものが知られている。本発明においては、キサンタンガムの分子量は特に限定されない。
【0013】
本発明では、市販のキサンタンガムを用いることもできる。市販品としては、ネオソフトXR(太陽化学株式会社製)、SATIAXANE CX90(Cargill社製)、サンエース(登録商標)、サンエース(登録商標)S、サンエース(登録商標)E-S、サンエース(登録商標)C、ビストップ(登録商標)D-3000-DF-C(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)等が挙げられる。
【0014】
本発明では、アラビアガム及びキサンタンガムに加えて、高分子多糖類であるグアーガム及び/又はローカストビーンガムを添加することにより、より低粘度でもさらに優れた乳化安定性を有する乳化食品を実現することができる。以下に、グアーガムとローカストビーンガムについて説明する。
【0015】
グアーガム
本発明の乳化食品は、グアーガム(学名 Cyamopsis tetragonoloba)を含有することが好ましい。グアーガムは、ガラクトマンナンの1種であり、パキスタンやインドで栽培されている一年生豆科植物の種子から得られる多糖類である。
ガラクトマンナンは、主鎖がマンノース、側鎖がガラクトースで構成される水溶性高分子であり、ガラクトースの側鎖がついた部分と側鎖がついていないスムース領域を有する。キサンタンガムとガラクトマンナンを混合すると、キサンタンガムとガラクトマンナンのスムース領域が水素結合して、架橋することにより、粘度上昇やゲル化が生じることが知られている。
グアーガムは、主鎖のマンノースと側鎖のガラクトースの比率が2:1である。アラビアガム及びキサンタンガムに加えて、グアーガムを添加することにより、乳化剤の添加量を低減しても低粘度でより優れた乳化安定性を有する乳化食品を得ることができる。これは、キサンタンガムとグアーガムとの相互作用により形成される網目(架橋)構造によると考えられる。
本発明では、市販のグアーガムを用いることもできる。市販品としては、PROCOL U(Habgen Guargums Limited社製)、VIDOGUM GHK 175(ユニテックフーズ株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
ローカストビーンガム
本発明の乳化食品には、上記アラビアガム及びキサンタンガムに加えて、ローカストビーンガムを添加することが好ましい。ローカストビーンガムを添加することにより、低粘度であってもさらに乳化安定性が向上する。
本発明の乳化食品には、アラビアガム、キサンタンガム、グアーガム及びローカストビーンガムを添加することがさらに好ましい。4成分系の乳化剤を用いることにより、より低粘度でもさらに乳化安定性に優れる乳化食品が実現される。
ローカストビーンガムは、グアーガムと同様、ガラクトマンナンの1種であり、主鎖のマンノースと側鎖のガラクトースの比率が4:1である。ローカストビーンガムは、カロブガム(Carob gum)とも呼ばれており、地中海沿岸地域(北アフリカ、中近東、南ヨーロッパ)及びカナリア諸島に広く生息するマメ科の常緑樹であるカロブ(学名 Ceratonia siliqua L.)の種子の胚乳を分離粉砕した多糖類である。
本発明では、市販のローカストビーンガムを用いることもできる。市販品としては、SESALPINIA L.B.G LN-1/200(Tate & Lyle社製)、VISCOGUM BJ(Cargill社製)等が挙げられる。
【0017】
既存の乳化食品では、高粘度では良好な乳化安定性を示しても、粘度が低下すると、均一な状態を維持できず、水分と油脂の分離が生じる。これに対して、本発明の乳化食品は、低粘度であっても優れた乳化特性、特に乳化安定性を有することを特徴とする。本発明の上述の効果は、乳化食品の水相中において、アラビアガムの乳化作用により安定な油滴が形成され、キサンタンガムの増粘作用により水相中に上記油滴が均一に分散されることに起因するものと考えられる。
本発明の乳化食品中のアラビアガム及びキサンタンガムの含有量の和は、乳化食品の総質量の0.1%~1%であることが好ましく、0.2%~0.5%であることがより好ましく、0.2%~0.3%であることがさらに好ましい。上記範囲では、水相中においてアラビアガムとキサンタンガムの上記相互作用がより効果的に働くため、さらに優れた乳化特性を実現することができる。
アラビアガムとキサンタンガムに加えて、グアーガム及び/又はローカストビーンガムを添加する場合には、それらの含有量の総和が上記範囲となるよう調製することが好ましい。
本発明では、より少ない乳化剤を用いて低粘度の乳化食品の乳化特性を向上させることができる。
なお、本発明の乳化食品には、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、その他の高分子多糖類を含有することもできる。その他の高分子多糖類としては、トラガントガム、カラギーナン、ジュランガム、プルラン、ペクチン、タマリンドシードガム、カルボキシメチルセルロース、フコダイン、アルギン酸、カラヤガム、サイリウムシードガム、タラガム等が挙げられる。
【0018】
本発明の乳化食品中のアラビアガムとキサンタンガムの比率は、両者の相互作用により優れた乳化特性が得られる範囲に調整されることが好ましい。具体的には、アラビアガム:キサンタンガムの質量比は、5:95~75:25の範囲とすることが好ましく、20:80~70:30の範囲とすることがより好ましい。アラビアガムとキサンタンガムの質量比を上記範囲とすることにより、両者の相互作用による水相中でのより安定な構造をもつ油滴の形成と、油滴の均一分散と安定化という本発明の効果がより顕著となり、さらに優れた均一分散性及び乳化安定性が得られる。
また、グアーガム及び/又はローカストビーンガムを添加する場合には、グアーガム及びローカストビーンガムの含有量は、キサンタンガムの含有量を100として、20質量%~70質量%であることが好ましい。
【0019】
なお、予め、アラビアガムとキサンタンガム、さらには、グアーガム及び/又はローカストビーンガムを含有する乳化剤を調製して添加することもできる。
上記方法で添加する場合も、乳化食品中の上記成分の含有量の和は、乳化食品の総質量の0.1%~1%とすることが好ましく、0.2%~0.5%とすることがより好ましい。上記成分の総量を上記範囲にすることにより、低粘度であっても優れた均一分散性及び乳化安定性を実現することができる。
また、乳化剤として添加する場合も、上記成分の比率は上述したそれぞれを別個に添加するときと同様とすることが好ましい。
【0020】
乳化剤を調製する際、本来の特性に影響を及ぼさない範囲で、他の添加物を添加することができる。他の添加物としては、pH調整剤等が挙げられる。
【0021】
乳化剤は、(A)アラビアガム及び(B)キサンタンガム、さらには、グアーガム及び/又はローカストビーンガムの組成比等を調整して混合することにより得られる。得られた乳化剤を用いることにより、低粘度の食品でも簡単に均一乳化できるとともに長時間にわたり乳化状態を維持することができる。混合方法は、特に限定されず、一般的な粉末の混合方法が適用される。具体的には、パドルミキサー、タンブラー混合、W型混合、V型混合、ドラム型混合、リボン混合、円錐スクリュー混合、ボールミル等が挙げられる。
また、乳化剤は造粒により製造することもできる。乳化剤を粒子レベルで均一に混合することにより、食感等のより優れた特性を付与することができる。
本発明が適用される具体的な食品としては、たれ、ソース、ドレッシング類、飲料、スープ、クリーム類等が挙げられる。
【0022】
(C)油脂
本発明の乳化食品は油脂量によらず優れた乳化特性を有する。本発明の乳化食品の油脂の含有量は、特に限定されないが、総質量の10%~70%であることが好ましい。
【0023】
本発明の乳化食品に用いられる油脂は、特に限定されず、公知の植物性油脂及び動物性油脂等を使用することができる。具体的には、例えば、大豆油、コーン油、ゴマ油、菜種油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、かぼちゃ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、並びにドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)等を含む魚油等が挙げられる。上記油脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明では、アラビアガムによって、水相中に分散した油滴の表面に保護膜が形成される。さらに、保護膜が形成された油滴はキサンタンガムにより構築された網目構造に取り込まれ、水相中に均一で安定した状態で分散すると考えられる。このため、乳化剤添加量が少なく低粘度の乳化食品であっても、容易に乳化可能で、かつその乳化状態が安定的に維持されるものと考えられる。
【0025】
(D)水
本発明の乳化食品は、水を含有する。本発明の乳化食品では、上述のように、アラビアガムによって、水相中に分散した油滴の表面に保護膜が形成される。そして、保護膜が形成された油滴はキサンタンガムにより構築された網目構造に取り込まれ、水相中に均一に分散すると考えられる。アラビアガム及びキサンタンガムは水溶性であるため、水に分散しやすく、油滴と水とが均一に混じり合い、上記アラビアガムにより油滴表面に形成された保護層とキサンタンガムにより構築された網目構造との相互作用により、水相中に油滴が均一に分散した状態が安定に維持されると考えられる。本発明の乳化食品中の水分含有量は、上記構造を形成できれば特に限定されないが、乳化食品の総質量の30%~90%であることが好ましい。
【0026】
本発明の乳化食品の水相成分として、水の他に、食酢、調味料、糖類、香辛料、着色料、着香料、食塩等を添加することができる。これらの成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
乳化食品の製造方法
本発明の乳化食品の製造方法は、上記成分を均一に乳化分散できる方法であれば、特に限定されず、既存の方法により調製することができる。例えば、水に全ての成分を添加して、混合することにより調製することもできる。
上記混合工程は、室温又は加熱条件下で行うことができる。また、混合には、ホモミキサー、コロイドミル等の乳化装置を用いることができる。
本発明の乳化食品の液温25℃における粘度は40mPa・s~1000mPa・sの範囲であることが好ましい。
本発明では、従来困難とされてきた低粘度の乳化液であっても優れた乳化安定性を実現することができる。
【実施例0028】
以下に、実施例により本発明の実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」及び「部」は質量%及び質量部を示す。
【0029】
<乳化剤の構成成分>
(A)アラビアガム
(a)アラビアガム:GUM ARABIC 396A(Alland & Robert社製)
(B)キサンタンガム
(b)キサンタンガム:ネオソフトXR(太陽化学株式会社製)
(B’)その他の高分子多糖類
(b’1)グアーガム:PROCOL U(Habgen Guargums Limited社製)
(b’2)ローカストビーンガム:CESALPINIA L.B.G LN-1/200(Tate & Lyle社製)
<乳化組成物の構成成分>
(C)油脂
(c)大豆油:食用大豆油(株式会社J-オイルミルズ製)
(D)水:イオン交換水
【0030】
(乳化組成物の調製及び評価)
イオン交換水、大豆油及び表1に記載の乳化剤(高分子多糖類)を容器に入れ、常温で1分間ホモミキサーを用いて撹拌して乳化組成物を得た。なお、イオン交換水と大豆油の質量比は、60:40(水:油脂)として、イオン交換水と大豆油100に対して、乳化剤の添加量が0.05質量%~1質量%の範囲で表1に記載の粘度となるよう調整した。実施例1及び比較例3~6においては、2種類の成分の配合比は、1:1(質量比)とした。
以下の基準で、1分間撹拌し、3分間室温で静置後の粘度と乳化状態(A)及び撹拌してから3日間室温で静置後の粘度と乳化状態(B)を評価した結果を表1に示す。なお、粘度測定は、乳化組成物の温度を25℃に維持した状態で、B型粘度計を用いて測定した。
◎:均一に分散している(乳化している)
〇:分離はしていないが、均一に分散していない部分がある
×:均一に分散していない、もしくは分離している
また、同様の方法により、表2及び表3に示す質量比で各種乳化剤、大豆油、及び水を用いて乳化組成物を得た。それぞれの乳化組成物の粘度と乳化状態を評価した結果を表2及び表3に示す。
【0031】
表1(A)に示すように、アラビアガム単独の比較例1では、添加量を増やしても乳化組成物の粘度は上昇せず、100mPa・s程度であることがわかった。また、得られた100mPa・s程度の乳化組成物は、分離はしていないが、均一に分散していない部分があることが確認された。
これに対して、キサンタンガム単独の比較例2並びに2種類の高分子多糖類を添加した実施例1及び比較例3~6では、高分子多糖類の添加量を制御することにより、乳化組成物の粘度を調整できることがわかった。実施例1及び比較例2~6のいずれの乳化組成物でも粘度が400mPa・s以上では均一に乳化していることが確認された。
しかしながら、キサンタンガム単独の比較例2及びキサンタンガムとグアーガムを添加した比較例6では、乳化組成物の粘度が300mPa・s以下で均一に分散していない部分が確認され、100mPa・sでは分離が認められた。また、アラビアガムとローカストビーンガムを添加した比較例3では、200mPa・s以下で均一に分散していない部分が認められ、アラビアガムとグアーガムを添加した比較例4及びキサンタンガムとローカストビーンガムを添加した比較例5では、100mPa・s以下で均一に分散していない部分が確認された。
一方、アラビアガムとキサンタンガムを添加した本発明の実施例1の乳化組成物においては、粘度が100mPa・sでも均一に分散しており、本発明の効果が確認された。
【0032】
また、表1(B)には、各乳化組成物を1分間撹拌してから3日間静置した後の粘度と乳化状態の評価結果を示す。アラビアガムとローカストビーンガムを添加した比較例3及びアラビアガムとグアーガムを添加した比較例4では、400mPa・s以下の全ての粘度で分離が認められた。また、キサンタンガム単独の比較例2、キサンタンガムとローカストビーンガムを添加した比較例5及びキサンタンガムとグアーガムを添加した比較例6では、400mPa・sにおいても均一に分散していない部分が認められた。そして、比較例2及び比較例6では、300mPa・s以下で、乳化組成物の分離が確認された。
これに対して、本発明の実施例1では、乳化組成物の粘度が300mPa・s~400mPa・sの範囲において、3日間静置後も均一に分散していることが確認された。また、乳化組成物の粘度が200mPa・sの低粘度においても、乳化組成物の分離は認められなかった。
以上の結果より、アラビアガムとキサンタンガムを含有する乳化組成物では低粘度でも優れた乳化安定性を有するという本発明の効果が確認された。これは、アラビアガムにより保護膜が形成された油滴が、キサンタンガムにより構築された網目構造に取り込まれ、アラビアガムとキサンタンガムとの優れた相互作用により、上記油滴が水相中で均一に安定した状態で維持されたためと考えられる。
なお、本実施例では、撹拌にホモミキサー(高速撹拌機)を使用していることから、比較的大きな油滴が形成され、不安定な状態であることが推測される。そのような状態でも均一な乳化状態を長時間維持可能であることからも本発明の優位性は明らかである。ここで、例えば、高圧ホモジナイザー等より微細で均一な油滴を形成できる分散方法を採用した場合、本発明の乳化組成物の乳化安定性はさらに向上すると予想される。
【0033】
【0034】
表2には、アラビアガムとキサンタンガムの添加量及び配合比を変えて得られた乳化組成物を1分間撹拌し、3分間静置した後の粘度と乳化状態を示す。実施例2~4では、イオン交換水と大豆油の総量100質量%に対して、0.01%のアラビアガムを添加した。また、実施例5~8、実施例9~12及び実施例13では、それぞれ0.05%、0.1%及び0.2%のアラビアガムを添加した。
実施例2~4より、アラビアガムの添加量を0.01%に固定して、キサンタンガムの添加量を0.03%、0.05%及び0.2%に増加することにより、粘度が上昇し、乳化安定性も向上することが確認された。また、実施例2より、乳化組成物の粘度が40mPa・sと100mPa・s以下の低粘度であっても分離は認められず、従来技術に比べて、乳化特性が良好であることがわかった。
実施例5~8及び実施例9~12でも同様の傾向が認められた。ここで、実施例9では、乳化組成物の粘度が40mPa・sと低粘度でも均一な分散状態が得られ、特に優れた効果が認められた。
本発明では、乳化食品中のアラビアガムとキサンタンガムの総量を0.3質量%以下の少量としても、乳化組成物の粘度を40mPa・s~600mPa・sの範囲で調整でき、乳化組成物の粘度が100mPa・s以下であっても優れた乳化特性が得られることが確認された。
【0035】
【0036】
表3に、アラビアガム、キサンタンガム、さらには、ローカストビーンガム及び/又はグアーガムを添加して調製した実施例14~19並びにアラビアガム又はキサンタンガムのいずれかを添加しないで調製した比較例7~13の乳化組成物を1分間撹拌し、3分間静置した後の粘度と乳化状態及び撹拌してから3日間静置した後の粘度と乳化状態を評価した結果を示す。
アラビアガムとキサンタンガムを添加した実施例14では、3分間静置後の乳化組成物の粘度は250mPa・sで均一に分散していることが確認された。その後、3日間静置したのち、不均一な部分が認められたが、分離は生じなかった。
実施例14の組成アラビアガムの添加量を0.2%から0.05%に減少し、グアーガムを添加した実施例15の乳化組成物でも同様の傾向が認められた。また、実施例15のグアーガムに変えてローカストビーンガムを添加した実施例16では、1分間撹拌し、3分間静置後の状態は、実施例14及び15と同様であったが、3日間静置後の粘度の上昇が実施例14及び15より抑えられ、部分的な不均一も認められず、均一な乳化状態が維持されることがわかった。このことからアラビアガムとキサンタンガムにさらにグアーガムを添加することにより、より少ない乳化剤添加量で優れた乳化特性が得られることがわかった。また、アラビアガムとキサンタンガムにローカストビーンガムを添加することにより、さらに乳化安定性を向上させることができることが確認された。
グアーガムとローカストビーンガムを添加した実施例17では、1分間撹拌し、3分間静置後の粘度及び乳化状態は実施例14~16とほぼ同様の傾向を示したが、3日間静置後にも均一な乳化状態が維持され、粘度も変化しないことが確認された。
実施例18では、キサンタンガムの添加量を実施例17より減少して、粘度がさらに低い乳化組成物を調製した。実施例18では、3分間静置後の粘度は220mPa・sで、均一な乳化組成物が得られた。3日間静置の粘度は200mPa・sで分離は認められなかった。
比較例7は、キサンタンガム単独で添加量を調整して、粘度を270mPa・sとした乳化組成物である。実施例14~18と同等以上の粘度であるにも関わらず、比較例7では、1分間撹拌し、3分間静置後に不均一な部分が確認され、3日間静置後には、組成物が分離することが確認された。
このことからも本発明の乳化組成物が低粘度であっても優れた均一分散性及び乳化安定性を有することは明らかである。
【0037】
また、実施例19では、アラビアガム、キサンタンガム、グアーガム及びローカストビーンガムの4成分系の添加量と配合比を調整して、撹拌後の粘度が、100mPa・sである乳化組成物を得た。得られた乳化組成物は、100mPa・sと低粘度であるにも関わらず全体が均一な状態であり、3日間静置後も分離は生じなかった。
これに対して、アラビアガムを添加せず、キサンタンガムとローカストビーンガムを添加した比較例8、キサンタンガムとグアーガムを添加した比較例9及びキサンタンガム、ローカストビーンガム及びグアーガムを添加した比較例10では、1分間撹拌し、3分間静置後の粘度は、それぞれ100mPa・s、150mPa・s及び120mPa・sと実施例19と同等又はそれ以上であるにも関わらず、不均一な部分が確認された。また、比較例8、9及び10とも3日間静置後は分離が生じた。
また、比較例11、12及び13では、実施例14のキサンタンガムに変えて、ローカストビーンガム、グアーガム及びローカストビーンガムとグアーガムを添加して乳化組成物を調製した。それぞれの粘度は、160mPa・s、180mPa・s及び170mPa・sであり、1分間撹拌し、3分間静置後には、均一な組成物が得られたが、3日間静置後には、分離が生じた。
【0038】
以上の結果より、アラビアガム及びキサンタンガムを添加した本発明の乳化組成物は、低粘度であっても優れた乳化特性を有することが明らかとなった。アラビアガムとキサンタンガムにグアーガム又はローカストビーンガムを添加することにより、より少量の添加で優れた乳化特性を実現でき、特にローカストビーンガムを添加することにより、乳化安定性がさらに向上することが確認された。そして、ローカストビーンガム及びグアーガムを合わせて加えることにより、より低粘度の組成物においてさらに優れた乳化安定性が実現できることがわかった。
なお、上述のとおり、上記実施例では、ホモミキサー(高速撹拌機)を用いた撹拌を行っていることから、比較的大きな油滴が形成され、不安定な状態であると推測される。そして、このような状態においても、本発明の乳化組成物では、従来技術に比べて、顕著な乳化安定性を示すことが認められた。本発明の乳化組成物の乳化安定性は、高圧ホモジナイザー等、より微細で均一な油滴を形成できる分散方法を採用することによりさらに向上するものと考えられる。
【0039】