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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088821
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】ランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 17/00 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
B60C17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200878
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】乾 祐介
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA39
3D131BB10
3D131BC05
3D131BC32
3D131GA14
3D131GA15
3D131GA17
3D131HA35
3D131JA01
(57)【要約】
【課題】軽量化による転がり抵抗の低減とランフラット機能との両立が図られるランフラットタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード10と、一対のビード10の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20間に配置されたトレッド30と、一対のビード10間に架け渡されたカーカスプライ40と、サイドウォール20において、カーカスプライ40のタイヤ内腔側に配置された補強ゴム層60と、を備え、補強ゴム層60の内部に、金属製の補強材としての金属コード71を含む金属繊維層70が配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、
前記一対のビードの各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、
前記一対のサイドウォール間に配置されたトレッドと、
前記一対のビード間に架け渡されたカーカスプライと、
前記サイドウォールにおいて、前記カーカスプライのタイヤ内腔側に配置された補強ゴム層と、を備え、
前記補強ゴム層の内部に、金属製の補強材を含む補強部が配置されている、ランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記補強部は、前記補強材としての複数の金属コードと、前記複数の金属コードを被覆するゴムと、を含む金属繊維層で構成される、請求項1に記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記複数の金属コードは、タイヤ側面視においてタイヤ径方向に対して傾斜して延在するように配置されている、請求項1または2に記載のランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記補強部は、前記補強ゴム層の厚みの略中央に配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項5】
前記補強ゴム層のタイヤ径方向外側端から、前記補強部のタイヤ径方向外側端までの距離が10mm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項6】
前記補強ゴム層のタイヤ径方向内側端から、前記補強部のタイヤ径方向内側端までの距離が10mm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項7】
前記補強部のタイヤ径方向外側端はタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側に位置しており、
前記補強部のタイヤ径方向外側端からタイヤ最大幅位置までのタイヤ径方向距離が20mm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項8】
前記補強部のタイヤ径方向内側端はタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側に位置しており、
前記補強部のタイヤ径方向内側端からタイヤ最大幅位置までのタイヤ径方向距離が20mm以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項9】
前記ビードは、ビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に延出するビードフィラーと、を備え、
前記補強部のタイヤ径方向内側端は、前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側端よりもタイヤ径方向内側に位置しており、
前記補強部のタイヤ径方向内側端から前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側端までのタイヤ径方向距離が10mm以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サイドウォールに補強ゴム層を配置したサイド補強タイプのランフラットタイヤが知られている。このようなランフラットタイヤは、タイヤの内圧が低下した場合、補強ゴム層によりタイヤが完全に偏平化することが抑制され、ある程度の距離のランフラット走行(タイヤの内圧が低下した状態での走行)が可能となっている。
例えば特許文献1には、上記補強ゴム層に相当するサイド補強ゴム部のゴム組成物および組成比率を規定することにより、ランフラット走行時の耐久性の向上を図ったランフラットタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-35011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤのサイドを補強する補強ゴム層は、ランフラット走行を可能とする反面、タイヤの重量を増加させて転がり抵抗の増大を招来させる場合がある。そこで、軽量化されつつ、ランフラット機能が確保される補強構造が要求されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量化による転がり抵抗の低減とランフラット機能との両立が図られるランフラットタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のランフラットタイヤは、一対のビードと、前記一対のビードの各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、前記一対のサイドウォール間に配置されたトレッドと、前記一対のビード間に架け渡されたカーカスプライと、前記サイドウォールにおいて、前記カーカスプライのタイヤ内腔側に配置された補強ゴム層と、を備え、前記補強ゴム層の内部に、金属製の補強材を含む補強部が配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軽量化されつつサイド補強機能が確保され、転がり抵抗の低減とランフラット耐久性の向上の両立が図られるランフラットタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るランフラットタイヤのタイヤ幅方向の半断面を示す図である。
図2図1の一部拡大図である。
図3】実施形態のランフラットタイヤの一部側面図である。
図4】実施形態のランフラットタイヤのランフラット走行時の半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るランフラットタイヤであるタイヤ1のタイヤ幅方向の半断面を示す図である。図2図1の一部を拡大した図である。
【0010】
タイヤ1の基本的な構造は、タイヤ幅方向の断面において左右対称となっているため、図1においては、右半分の断面図を示す。図1中、符号S1は、タイヤ赤道面である。タイヤ赤道面S1は、タイヤ回転軸(タイヤ子午線)に直交する面で、かつタイヤ幅方向中心に位置する面である。
【0011】
なお、図1の断面図は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態のタイヤ幅方向断面図(タイヤ子午線断面図)である。なお、規定リムとは、タイヤサイズに対応してJATMAに定められた標準となるリムを指す。また、規定内圧とは、例えばタイヤが乗用車用である場合には180kPaである。
【0012】
ここで、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向であり、図1の断面図における紙面左右方向である。図1においては、タイヤ幅方向Xとして図示されている。
そして、タイヤ幅方向内側とは、タイヤ赤道面S1に近づく方向であり、図1においては、紙面左側である。タイヤ幅方向外側とは、タイヤ赤道面S1から離れる方向であり、図1においては、紙面右側である。
また、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向であり、図1における紙面上下方向である。図1においては、タイヤ径方向Yとして図示されている。
そして、タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸から離れる方向であり、図1においては、紙面上側である。タイヤ径方向内側とは、タイヤ回転軸に近づく方向であり、図1においては、紙面下側である。
なお、図2についても同様である。
【0013】
タイヤ1は、例えば乗用車用のランフラットタイヤである。図1に示されるように、タイヤ1は、タイヤ幅方向両側に設けられた一対のビード10と、一対のビード10の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20間に配置されたトレッド30と、一対のビード10間に配置されたカーカスプライ40と、カーカスプライ40のタイヤ内腔側に配置されたインナーライナー50と、を備えている。
【0014】
ビード10は、ビードコア11と、ビードコア11のタイヤ径方向外側に延びるビードフィラー12と、チェーハー13と、リムプロテクタ15と、を有している。
【0015】
ビードコア11は、ゴムが被覆された金属製のビードワイヤを複数回巻いて形成した環状の部材であり、空気が充填されたタイヤ1を、リムに固定する役目を果たす部材である。
ビードフィラー12は、タイヤ径方向外側に延びるにしたがって先細り形状となっているゴム部材である。ビードフィラー12は、ビード10の周辺部分の剛性を高め、高い操縦性および安定性を確保するために設けられている部材である。ビードフィラー12は、例えば周囲のゴム部材よりも硬度の高いゴムにより構成される。
【0016】
チェーハー13は、ビードコア11周りに設けられたカーカスプライ40のタイヤ径方向内側に設けられている。
リムプロテクタ15は、リムストリップゴム14を含んでいる。リムストリップゴム14は、チェーハー13およびカーカスプライ40のタイヤ幅方向外側に配置されている。リムストリップゴム14の外表面には、タイヤ周方向に沿った頂部14aが形成されている。リムストリップゴム14は、タイヤ1が装着されるリムと接触する。リムプロテクタ15は、タイヤ周方向に環状に連続している。リムプロテクタ15は、外傷からリム(不図示)を保護する機能を有する。
【0017】
サイドウォール20は、カーカスプライ40のタイヤ幅方向外側に配置されたサイドウォールゴム21と、補強ゴム層60と、を含んでいる。
サイドウォールゴム21は、タイヤ1の外壁面を構成する。サイドウォールゴム21は、タイヤ1がクッション作用をする際に最もたわむ部分であり、通常、耐疲労性を有する柔軟なゴムが採用される。
補強ゴム層60については後述する。
【0018】
トレッド30は、無端状のベルト31およびキャッププライ32と、トレッドゴム33と、を備えている。
【0019】
ベルト31は、カーカスプライ40のタイヤ径方向外側に配置されている。キャッププライ32は、ベルト31のタイヤ径方向外側に配置されている。
ベルト31は、トレッド30を補強する部材である。本実施形態のベルト31は、内側のベルト311と外側のベルト312とを備えた2層構造である。内側のベルト311および外側のベルト312は、いずれも複数のスチールコード等のコードがゴムで覆われた構造を有している。
【0020】
本実施形態の2層構造のベルト31は、内側のベルト311が外側のベルト312よりも幅広であり、したがってベルト31のタイヤ幅方向外側端31Aは、内側のベルト311のタイヤ幅方向外側端で構成される。ベルト31を設けることにより、タイヤ1の剛性が確保され、路面に対するトレッド30の接地性が向上する。
なお、ベルト31は2層構造に限らず、1層、あるいは3層以上の構造を有していてもよい。
【0021】
キャッププライ32は、ベルト31とともにトレッド30を補強する部材である。キャッププライ32は、例えばポリアミド繊維等の絶縁性を有する複数の有機繊維コードがゴムで覆われた構造を有している。
本実施形態においては、キャッププライ32のタイヤ幅方向外側端32Aは、ベルト31のタイヤ幅方向外側端31Aよりもタイヤ幅方向外側に延出している。キャッププライ32を設けることにより、耐久性の向上、走行時のロードノイズの低減を図ることができる。
【0022】
内側のベルト311および外側のベルト312のタイヤ幅方向外側の両端部と、キャッププライ32のタイヤ幅方向外側の両端部との間には、無端状のゴム製パッド35が配置されている。
【0023】
トレッドゴム33は、キャッププライ32のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム33は、走行時に路面と接地する接地面331を構成する部材である。トレッドゴム33の接地面331には、例えば複数の溝で構成されるトレッドパターン34が設けられている。トレッドパターン34は、タイヤ幅方向に並ぶ複数の主溝341を有している。複数の主溝341のそれぞれは、タイヤ周方向に沿って延びている。
【0024】
カーカスプライ40は、タイヤ1の骨格となるプライを構成している。カーカスプライ40は、一対のビード10間を、一対のサイドウォール20およびトレッド30を通過する態様で、タイヤ1内に埋設されている。
カーカスプライ40は、タイヤ1の骨格となる複数のカーカスコードを含んでいる。複数のカーカスコードは、例えばタイヤ幅方向に延びており、タイヤ周方向に並んで配列されている。カーカスコードは、ポリエステルやポリアミド等の絶縁性の有機繊維コード等により構成されている。複数のカーカスコードがゴムにより被覆されて、カーカスプライ40が構成されている。
【0025】
カーカスプライ40は、一方のビードコア11から他方のビードコア11に延び、トレッド30とビード10との間に延在するプライ本体部401と、プライ本体部401からビードコア11で折り返される一対の屈曲部402と、屈曲部402のそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対の折り返し部403と、を有する。プライ本体部401、屈曲部402および折り返し部403は、連続している。
【0026】
プライ本体部401は、タイヤ径方向内側においてビードコア11およびビードフィラー12のタイヤ幅方向内側に配置されている。折り返し部403は、タイヤ径方向内側においてビードコア11およびビードフィラー12のタイヤ幅方向外側に配置されている。ビードコア11およびビードフィラー12以外の部分において、折り返し部403はプライ本体部401に重ね合わされている。屈曲部402は、カーカスプライ40においてタイヤ径方向の最も内側の部分を構成している。
【0027】
なお、本実施形態のカーカスプライ40は、第1カーカスプライ410および第2カーカスプライ420が重ねられた2層のカーカスプライによって構成されているが、カーカスプライ40は1層であってもよいし、3層以上であってもよい。
【0028】
本実施形態のように、ビードフィラー12と、後述する補強ゴム層60との間には、少なくとも2層以上のプライにより構成されるカーカスプライ40が挟まれていることが好ましい。これにより、リム装着部付近で局所的な変形が生じることをより効果的に抑制し、ランフラット耐久性をさらに向上させることができる。
【0029】
上述したビード10のチェーハー13は、屈曲部402を含むカーカスプライ40のタイヤ径方向内側の端部を取り囲むように設けられている。また、リムストリップゴム14は、チェーハー13およびカーカスプライ40の折り返し部403の、タイヤ幅方向外側に配置されている。リムストリップゴム14のタイヤ径方向外側の端部は、上述したサイドウォールゴム21で覆われている。
【0030】
インナーライナー50は、一対のビード10間のタイヤ内面を覆っており、タイヤ1の内壁面を構成する。インナーライナー50は、トレッド30においてはカーカスプライ40のプライ本体部401の内面を覆い、トレッド30から一対のサイドウォール20にわたる領域では、補強ゴム層60の内面を覆い、一対のサイドウォール20から一対のビード10にわたる領域では、補強ゴム層60およびチェーハー13の内面を覆っている。
インナーライナー50は、耐空気透過性ゴムにより構成されており、タイヤ内腔内の空気が外部に漏れるのを防ぐ。
【0031】
サイドウォール20を構成する補強ゴム層60は、カーカスプライ40とインナーライナー50との間に挟まれた状態に配置されている。
【0032】
補強ゴム層60は、タイヤ幅方向断面視(タイヤ子午線断面視)において略三日月形状のサイド補強ゴムである。補強ゴム層60は、タイヤ1の全周にわたって環状に設けられている。補強ゴム層60は、タイヤ1の内圧が低下した場合であっても、タイヤ1が完全に偏平化することを妨げる機能を有する。
【0033】
ここで、図1に示されるように、トレッド30とサイドウォール20との移行領域のカーカスプライ40のタイヤ外表面側においては、サイドウォールゴム21がトレッド30に向かって延び、トレッドゴム33がサイドウォール20に向かって延びており、サイドウォールゴム21の外表面側をトレッドゴム33が覆っている。
【0034】
また、ビード10とサイドウォール20との移行領域のカーカスプライ40のタイヤ外表面側においては、サイドウォールゴム21がビード10に向かって延び、リムストリップゴム14がサイドウォール20に向かって延びており、リムストリップゴム14の外表面側をサイドウォールゴム21が覆っている。
【0035】
また、ビード10のカーカスプライ40のタイヤ内腔側においては、補強ゴム層60のタイヤ径方向内側端60Bをチェーハー13のタイヤ径方向外側端が覆っている。
インナーライナー50は、さらにこれらのゴム部材のタイヤ内腔側を覆っている。
【0036】
ここで、ビードフィラー12および補強ゴム層60に採用するゴムとしては、少なくともサイドウォールゴム21およびインナーライナー50よりも硬度が高いゴムを用いる。
ゴムの硬度は、JIS K6253に準拠して、23℃雰囲気において、タイプAデュロメータで測定される値(デュロメータ硬さ)である。
【0037】
例えば、サイドウォールゴム21の硬度を基準としたとき、ビードフィラー12の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1.2倍~2.3倍程度の硬度のゴムを用いることがより好ましい。また、補強ゴム層60の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1.1倍~1.9倍程度の硬度のゴムを用いることがより好ましい。
さらに、リムストリップゴム14の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1倍~1.6倍程度の硬度のゴムを用いることがより好ましい。
このような硬度とすることで、タイヤとしての柔軟性とビード10付近の剛性のバランスを保ち、かつランフラット耐久性を確保することができる。
【0038】
本実施形態のタイヤ1は、補強ゴム層60の内部に、補強部としての金属繊維層70が埋め込まれて配置されている。これにより、補強ゴム層60の剛性を効果的に向上させることができ、ランフラット走行時においてもタイヤの圧縮歪みが十分に抑制され、優れたランフラット耐久性が実現される。
【0039】
図1に示すように、金属繊維層70は、タイヤ幅方向断面視において、補強ゴム層60の断面形状に略沿った湾曲形状を有する帯状の層である。金属繊維層70は、タイヤ1の全周にわたって環状に設けられている。金属繊維層70は、タイヤ幅方向断面視において、補強ゴム層60における湾曲方向長さの例えば50~70%程度の湾曲方向長さを有しており、補強ゴム層60の内部においてはタイヤ径方向内側寄りに配置されている。金属繊維層70は、補強ゴム層60の内部において、補強ゴム層60の厚みの略中央に配置されている。
【0040】
図3に示されるように、本実施形態の金属繊維層70は、補強材としての複数の金属コード71と、複数の金属コード71を被覆して一体化するゴム72とを含んで構成される。図3は、タイヤ1の補強ゴム層60の内部に埋設されている金属繊維層70を、タイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側に向かって見た場合、すなわち側面視した場合の仮想的な図である。
【0041】
図3に示すように、複数の金属コード71は、タイヤ径方向Yに対して傾斜して延び、傾斜状態でタイヤ周方向Cに間隔をあけて配列されている。タイヤ1の径方向Yと金属コード71の延在方向とのなす角度θは、例えば10°以上40°以下であることが好ましい。複数の金属コード71は、タイヤ径方向に対して傾斜して延び、傾斜状態でタイヤ周方向に間隔をあけて配置されていることから、タイヤ周方向に並ぶ複数の金属コード71間の間隔は、タイヤ径方向外側に向かうにしたがって広がっていく態様となっている。
【0042】
金属コード71を構成する金属としては、高強度でありながら柔軟性を有し、かつ、耐疲労性の高い金属コード材料が好ましく、例えばスチールコードがより好ましく用いられる。スチールコードの場合には、例えばφ0.1~φ0.5mm程度の高炭素鋼からなる素線を数本から数十本撚り合わせ、必要に応じてゴムとの接着性を高めるメッキが施されたものなどが用いられる。本実施形態の金属コード71は、その外径(コード径)が例えば0.5~1.2mm以下のものが好ましく用いられる。
【0043】
なお、本実施形態においては、カーカスプライ40を構成するカーカスコードは、タイヤ1の中心から放射状(ラジアル方向)に配置されており、補強ゴム層60が配置されているサイドウォール20においてはタイヤ径方向に延在している。よって、本実施形態においては、カーカスプライ40のカーカスコードの延在方向と、金属繊維層70の金属コード71の延在方向とのなす角度は、10°以上40°以下となっている。このように、カーカスプライ40のカーカスコードと金属繊維層70の金属コード71の径方向に対する延在方向を異ならせることで、カーカスプライ40と金属繊維層70とが重なる部分の剛性を高めることができる。
【0044】
例えば、補強ゴム層60の製造工程の途中において、厚み方向に2分割した生ゴム状態の補強ゴム層60の分割体を用意し、それら分割体の間に金属繊維層70を挟んだ後、加硫処理を行うなどして補強ゴム層60の加工を行うことにより、内部に金属繊維層70が埋設された補強ゴム層60を得ることができる。
【0045】
図2により、上述したように、金属繊維層70は、タイヤ幅方向断面視において、補強ゴム層60における湾曲方向長さの例えば50~70%程度の湾曲方向長さを有しており、補強ゴム層60の内部においてはタイヤ径方向内側寄りに配置されている。本実施形態におけるタイヤ1の内部に配置された補強ゴム層60と金属繊維層70の位置関係の好ましい態様は、以下のとおりである。
【0046】
補強ゴム層60のタイヤ径方向外側端60Aから、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aまでの距離L1は、10mm以上であることが好ましい。ここでいう距離L1は、補強ゴム層60のタイヤ径方向外側端60Aから、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aまでの最短距離である。
補強ゴム層60のタイヤ径方向内側端60Bから、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bまでの距離L2は、10mm以上であることが好ましい。ここでいう距離L2は、補強ゴム層60のタイヤ径方向内側端60Bから、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bまでの最短距離である。
【0047】
金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aは、タイヤ最大幅位置1Aよりもタイヤ径方向外側に位置している。そして、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aからタイヤ最大幅位置1Aまでのタイヤ径方向距離L3は、20mm以上であることが好ましい。
金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bは、タイヤ最大幅位置1Aよりもタイヤ径方向内側に位置している。そして、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bからタイヤ最大幅位置1Aまでのタイヤ径方向距離は、20mm以上であることが好ましい。
【0048】
金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bは、ビードフィラー12のタイヤ径方向外側端12Aよりもタイヤ径方向内側に位置している。そして、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bからビードフィラー12のタイヤ径方向外側端12Aまでのタイヤ径方向距離L5は、10mm以上であることが好ましい。
【0049】
本実施形態のタイヤ1によれば、以下の効果を奏する。
【0050】
(1)本実施形態に係るタイヤ1は、一対のビード10と、一対のビード10の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20間に配置されたトレッド30と、一対のビード10間に架け渡されたカーカスプライ40と、サイドウォール20において、カーカスプライ40のタイヤ内腔側に配置された補強ゴム層60と、を備え、補強ゴム層60の内部に、金属製の補強材としての金属コード71を含む金属繊維層70が配置されている。
【0051】
金属製の補強材としての金属コード71を含むため、補強ゴム層60はゴムのみの補強材である場合に比べて、サイドウォール20の補強機能を同じくするのであれば薄くすることができる。したがって、軽量化されつつサイド補強機能が確保される。軽量化に伴い、転がり抵抗の低減が図られる。すなわち本実施形態によれば、軽量化されつつサイド補強機能が確保され、転がり抵抗の低減とランフラット耐久性の向上の両立が図られる。
【0052】
図4は、路面H上を走行している車両のタイヤ1の内圧がほぼゼロとなったランフラット走行時におけるタイヤ1の変形状況を示している。なお、図4においては、路面H側、すなわち紙面下側が、タイヤ径方向外側である。このランフラット走行時において、金属繊維層70によって補強された補強ゴム層60が、サイドウォール20の圧縮歪を抑制しており、これによりランフラット走行が可能となっている。
【0053】
(2)本実施形態に係るタイヤ1において、金属繊維層70は、複数の金属コード71と、複数の金属コード71を被覆するゴム72と、を含んで構成される。
【0054】
これにより、補強ゴム層60の補強部を薄く構成することができるため、補強ゴム層60自体も薄く構成することができ、軽量化に伴う転がり抵抗の低減がより効果的になされる。
【0055】
(3)本実施形態に係るタイヤ1において、複数の金属コード71は、タイヤ側面視においてタイヤ径方向に対して傾斜して延在するように配置されている。
【0056】
これにより、ランフラット走行時において、タイヤ1の偏平化(座屈)に対する金属繊維層70による抵抗力、すなわち剛性が高くなる。このため、タイヤ1の圧縮歪みを十分に抑制してランフラット耐久性を向上させることができる。
【0057】
(4)本実施形態に係るタイヤ1において、金属繊維層70は、補強ゴム層60の厚みの略中央に配置されている。
【0058】
これにより、仮に金属繊維層70が変形したとしても、金属繊維層70が補強ゴム層60から露出しにくく、補強ゴム層60を補強する金属繊維層70の機能が保持される。
【0059】
(5)本実施形態に係るタイヤ1においては、補強ゴム層60のタイヤ径方向外側端60Aから、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aまでの距離が10mm以上である形態を含む。
【0060】
これにより、補強ゴム層60のタイヤ径方向外側端60Aから、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aまでの距離が十分に確保され、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aが、薄くなっている補強ゴム層60のタイヤ径方向外側端60A付近において露出することが抑えられる。
【0061】
(6)本実施形態に係るタイヤ1においては、補強ゴム層60のタイヤ径方向内側端60Bから、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bまでの距離が10mm以上である形態を含む。
【0062】
これにより、補強ゴム層60のタイヤ径方向内側端60Bから、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bまでの距離が十分に確保され、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bが、薄くなっている補強ゴム層60のタイヤ径方向内側端60B付近において露出することが抑えられる。
【0063】
(7)本実施形態に係るタイヤ1においては、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aはタイヤ最大幅位置1Aよりもタイヤ径方向外側に位置しており、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aからタイヤ最大幅位置1Aまでのタイヤ径方向距離が20mm以上である形態を含む。
【0064】
これにより、最も圧縮歪が生じる領域であるタイヤ最大幅位置1A付近を金属繊維層70が十分にカバーするため、通常走行時およびランフラット走行時においてタイヤ1の圧縮歪みが十分に抑制される。
【0065】
(8)本実施形態に係るタイヤ1においては、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bはタイヤ最大幅位置1Aよりもタイヤ径方向内側に位置しており、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bからタイヤ最大幅位置1Aまでのタイヤ径方向距離が20mm以上である形態を含む。
【0066】
これにより、通常走行時に最も圧縮歪が生じる領域であるタイヤ最大幅位置1A付近を金属繊維層70が十分にカバーするため、通常走行時およびランフラット走行時においてタイヤ1の圧縮歪みが十分に抑制される。
【0067】
金属繊維層70の、タイヤ径方向外側端70Aまたはタイヤ径方向内側端60Bが、タイヤ最大幅位置1Aと同じレベルに位置すると、タイヤ径方向外側端70Aまたはタイヤ径方向内側端60Bが起点となって応力が集中し、圧縮歪を増大させるおそれがある。しかし本実施形態のように、金属繊維層70のタイヤ径方向外側端70Aがタイヤ最大幅位置1Aよりもタイヤ径方向外側に20mm以上の位置に配置され、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bがタイヤ最大幅位置1Aよりもタイヤ径方向内側に20mm以上の位置に配置されることにより、金属繊維層70による補強効果が十分に発揮され、タイヤ1の圧縮歪みが十分に抑制される。
【0068】
(9)本実施形態に係るタイヤ1においては、ビード10は、ビードコア11と、ビードコア11のタイヤ径方向外側に延出するビードフィラー12と、を備え、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bは、ビードフィラー12のタイヤ径方向外側端12Aよりもタイヤ径方向内側に位置しており、金属繊維層70のタイヤ径方向内側端70Bからビードフィラー12のタイヤ径方向外側端12Aまでのタイヤ径方向距離が10mm以上である形態を含む。
【0069】
これにより、金属繊維層70のタイヤ径方向内側の端部がビードフィラー12に重なるため、ビード10の剛性が向上する。
【0070】
なお、本発明のタイヤは、乗用車、ライトトラック、トラック、バス等の各種タイヤとして採用することができる。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態の金属繊維層70においては、金属製の補強材として複数の金属コード71を採用しているが、補強材は、金属製の部材であって補強効果を発揮できるものであれば、その態様は限定されない。
本発明の補強部は、金属製の補強材を含むものであれば、その構造は限定されず、補強材単体であってもよく、補強材と他の材料を合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 タイヤ(ランフラットタイヤ)
1A タイヤ最大幅位置
10 ビード
11 ビードコア
12 ビードフィラー
20 サイドウォール
30 トレッド
40 カーカスプライ
60 補強ゴム層
60A 補強ゴム層のタイヤ径方向外側端
60B 補強ゴム層のタイヤ径方向内側端
70 金属繊維層(補強部)
70A 金属繊維層のタイヤ径方向外側端
70B 金属繊維層のタイヤ径方向内側端
71 金属コード(補強材)
図1
図2
図3
図4