(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088823
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】CNC装置の加工プログラム生成用プログラム及びCNC装置用の加工プログラム生成方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4097 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
G05B19/4097 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200881
(22)【出願日】2020-12-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】520466308
【氏名又は名称】アルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】平山 京幸
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB01
3C269BB03
3C269EF15
3C269EF39
3C269EF59
3C269EF71
(57)【要約】
【課題】 寸法公差を反映させた高精度な自動運転が可能となるCNC装置の加工プログラム生成用プログラム及びCNC装置用の加工プログラム生成方法を提供する。
【解決手段】 本発明のCNC装置の加工プログラム生成用プログラムは、コンピュータに、3Dモデル及び/又は2DモデルのCADデータを変換した中間ファイルに記録されている3Dモデル及び/又は2Dモデルの立体形状を認識する立体形状認識機能と、中間ファイルに記録されている3Dモデル又は2Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する加工方法決定機能を実現させることを特徴とする。本発明では3Dモデル又は2Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する。したがって、中間ファイルで寸法公差の情報が失われた場合でも、寸法公差を反映させた高精度なCNC装置の自動運転が可能となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
3Dモデル又は2DモデルのCADデータを変換した中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの立体形状を認識する立体形状認識機能と、
前記中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する加工方法決定機能を実現させることを特徴とするCNC装置の加工プログラム生成用プログラム。
【請求項2】
前記特徴部が穴である場合に、当該特徴部の指定寸法をミリ換算した場合に小数点以下1桁の場合は当該穴の加工方法をねじの下穴加工と判断し、小数点以下2桁又は3桁の場合は高精度の穴加工と判断することを特徴とする請求項1に記載のCNC装置の加工プログラム生成用プログラム。
【請求項3】
前記CADデータが格納されているファイルのファイル名又は前記中間ファイルのファイル名に幾何公差及び面粗度に関する情報が記載されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のCNC装置の加工プログラム生成用プログラム。
【請求項4】
更に、決定した前記加工方法に使用する工具を選定する工具選定機能と、
前記工具の移動経路である加工パスを算出する加工パス算出機能と、
CNC装置の制御指令のMコード及びGコードを算出するコード算出機能を実現させることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のCNC装置の加工プログラム生成用プログラム。
【請求項5】
3Dモデル又は2DモデルのCADデータを変換した中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの立体形状を認識する第1ステップと、
前記中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する第2ステップを備えることを特徴とするCNC装置用の加工プログラム生成方法。
【請求項6】
前記特徴部が穴である場合に、当該特徴部の指定寸法をミリ換算した場合に小数点以下1桁の場合は当該穴の加工方法をねじの下穴加工と判断し、小数点以下2桁又は3桁の場合は高精度の穴加工と判断することを特徴とする請求項5に記載のCNC装置用の加工プログラム生成方法。
【請求項7】
前記CADデータが格納されているファイルのファイル名又は前記中間ファイルのファイル名に幾何公差及び面粗度に関する情報が記載されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のCNC装置用の加工プログラム生成方法。
【請求項8】
更に、決定した前記加工方法に使用する工具を選定する第3ステップと、
前記工具の移動経路である加工パスを算出する第4ステップと、
CNC装置の制御指令のMコード及びGコードを算出する第5ステップを備えることを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載のCNC装置用の加工プログラム生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法公差を反映させた高精度な自動運転が可能となるCNC装置の加工プログラム生成用プログラム及びCNC装置用の加工プログラム生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いて製品を製造する際には、設計者はまず3D又は2DのCAD(Computer Aided Design)装置を用いて3D又は2Dモデルの形状データを含むCADデータを作成する。CADデータには寸法公差の情報も含まれる。次にCADデータをIGES、STEP等の規格化された中間ファイルに変換してCAM(Computer Aided Manufacturing)装置に送信し、CAM装置で工具の種類やパス等を含むCNC(Computerized Numerical Control)装置用の加工プログラムを作成する。そして、加工プログラムに基づいてCNC装置がワークを加工して製品を製造する。
例えば特許文献1には製品の3D-CADデータを入力するだけで自動的にワークを加工して製品を製造するマシニングセンタの自動運転装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術では以下の問題がある。
上述の通り、3D-CAD装置を用いる場合、3D-CADデータを中間ファイルに変換してCAM装置に送信しているが、中間ファイルに変換する際に3D-CADデータに含まれる寸法公差の情報が失われてしまう。したがって、設計者は3D-CADデータを一旦2次元の図面に変換して、この2次元図面に寸法公差を入力する。そして、設計者は2次元図面を参照しながらCAM装置に寸法公差を入力する。
このように現状の中間ファイルの規格であるIGESやSTEP等では、製品の特徴部の形状を3D-CADデータとしてCAM装置へ受け渡すことはできるが、寸法公差の情報をCAM装置へ受け渡すことができない。したがって、作業者が手作業により寸法公差をCAM装置に入力する必要があり、人件費がかかる、入力作業に時間が掛かり煩わしい、見積もり作成に時間がかかるという問題がある。
特許文献1の技術ではどのような方法で寸法公差を反映させてマシニングセンタを駆動させるのかが明らかではなく、寸法公差を考慮した高精度な加工を施すことが難しいという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題を考慮して、寸法公差を反映させた高精度な自動運転が可能となるCNC装置の加工プログラム生成用プログラム及びCNC装置用の加工プログラム生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のCNC装置の加工プログラム生成用プログラムは、コンピュータに、3Dモデル又は2DモデルのCADデータを変換した中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの立体形状を認識する立体形状認識機能と、前記中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する加工方法決定機能を実現させることを特徴とする。
また、前記特徴部が穴である場合に、当該特徴部の指定寸法をミリ換算した場合に小数点以下1桁の場合は当該穴の加工方法をねじの下穴加工と判断し、小数点以下2桁又は3桁の場合は高精度の穴加工と判断することを特徴とする。
また、前記CADデータが格納されているファイルのファイル名又は前記中間ファイルのファイル名に幾何公差及び面粗度に関する情報が記載されていることを特徴とする。
また、更に、決定した前記加工方法に使用する工具を選定する工具選定機能と、前記工具の移動経路である加工パスを算出する加工パス算出機能と、CNC装置の制御指令のMコード及びGコードを算出するコード算出機能を実現させることを特徴とする。
【0007】
本発明のCNC装置用の加工プログラム生成方法は、3Dモデル又は2DモデルのCADデータを変換した中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの立体形状を認識する第1ステップと、前記中間ファイルに記録されている前記3Dモデル又は前記2Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する第2ステップを備えることを特徴とする。
また、前記特徴部が穴である場合に、当該特徴部の指定寸法をミリ換算した場合に小数点以下1桁の場合は当該穴の加工方法をねじの下穴加工と判断し、小数点以下2桁又は3桁の場合は高精度の穴加工と判断することを特徴とする。
また、前記CADデータが格納されているファイルのファイル名又は前記中間ファイルのファイル名に幾何公差及び面粗度に関する情報が記載されていることを特徴とする。
また、更に、決定した前記加工方法に使用する工具を選定する第3ステップと、前記工具の移動経路である加工パスを算出する第4ステップと、CNC装置の制御指令のMコード及びGコードを算出する第5ステップを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では3Dモデル又は2Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する。したがって、中間ファイルで寸法公差の情報が失われた場合でも、寸法公差を反映させた高精度なCNC装置の自動運転が可能となる。
また、機械部品製造分野や金型部品製造分野で加工プログラミングの自動化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】CADデータがCNC装置に出力されるまでの流れを概略的に示す図
【
図2】CNC装置用の加工方法の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のCNC装置の加工プログラム生成用プログラム(以下、単に「加工プログラム生成用プログラム」と表記する場合がある。)及びCNC装置用の加工プログラム生成方法の実施の形態について説明する。
【0011】
図1は3D-CAD装置10で作成した3DモデルのCADデータが中間ファイルに変換され、本発明の加工プログラム生成用プログラムによってCNC装置20の制御指令であるMコード及びGコード(CNC装置の加工プログラム)に変換されてCNC装置20に出力されるまでの流れを概略的に示している。
具体的には設計者はまず一般的な3D-CAD装置10を用いて製品の3Dモデルを作成する。3DモデルのCADデータには特徴部(例えば穴、立ち上がり部、平面等)のXYZ座標や指定寸法の他に寸法公差、面粗度、幾何公差、はめあい公差等が含まれている。次に3D-CADデータを一般的な中間ファイル(例えばStandard Triangulated Language:STL形式)に変換する。一般的な3D-CAD装置10は3D-CADデータをSTL形式等の中間ファイルとして出力する機能を備えている。3D-CADデータに含まれていたデータのうち、寸法公差、面粗度、幾何公差、はめあい公差等は中間ファイルへの変換時に失われてしまう。
【0012】
次に、中間ファイルをコンピュータ30に読み込ませる。3D-CAD装置10とコンピュータとはインターネット等の情報通信回線40を介して接続されており、情報通信回線40を通じて3D-CAD装置10から中間ファイルがコンピュータに送信される。或いは3D-CAD装置10とコンピュータ30とを情報通信回線40で接続せずに、持ち運び自在な情報記憶媒体(例えばUSBメモリ)に中間ファイルを記憶させ、この情報記憶媒体をコンピュータ30に接続して中間ファイルをコンピュータ30に移動させることにしてもよい。
【0013】
コンピュータ30は制御部31及び記憶部32を備えており、制御部31が記憶部32に格納されている各種プログラム及び各種情報を読み出して適宜実行することによりコンピュータ30を統括制御する。中間ファイルは記憶部32に格納される。
図2のフローチャートに示す通り、制御部31は記憶部32に記憶されている加工プログラム生成用プログラムに基づいて、中間ファイルに記録されているデータのうち特徴部のXYZ座標に基づいて3Dモデルの立体形状を認識する(立体形状認識機能)(ステップS101)。
【0014】
次に制御部31は3Dモデルの特徴部の指定寸法の小数点以下の桁数に基づいて当該特徴部の加工方法を決定する(加工方法決定機能)。
図3に示すように例えば特徴部が穴である場合に、指定寸法(ミリ)が小数点以下1桁(例えば5.0)の場合には(ステップS102においてYes)、制御部は当該穴がさほど高精度を要求されないねじの下穴であると判断し(ステップS103)、加工方法としてねじの下穴加工を行うことを決定する。ここで、記憶部32がねじの規格を記憶しており、指定した寸法が小数点以下1桁であって例えば5.3の場合は制御部31が規格と照らし合わせてM6の並目ねじ、5.5の場合はM6の細目ねじであると判断することにしてもよい。
一方、指定寸法(ミリ)が小数点以下1桁ではなく(ステップS102においてNo)、小数点以下2桁(例えば5.30)又は3桁(例えば5.000)の場合には(ステップS104においてYes)、制御部31は当該穴が高精度を要求される穴であると判断し(ステップS105)、加工方法として高精度の穴加工を行うことを決定する。このときに指定寸法が一定値以下(例えば20ミリ以下)であればリーマを使用する高精度加工にして、指定寸法が20ミリを超える場合にはエンドミルを使用する高精度加工を選択することにしてもよい。また、小数点以下が記されていない場合には(ステップS104においてNo)、精度が要求されないキリ穴と判断する(ステップS106)。
【0015】
本発明では設計者が3D-CADデータの作成において特徴部(例えば穴)の寸法を指定する際に、当該穴がねじの下穴の場合は小数点以下1桁の数値を予め指定しておく必要がある。また、3D-CADデータの作成において設計者は当該穴が高精度を要求される穴の場合は小数点以下2桁又は3桁の数値を予め指定しておく必要がある。はめあい公差の場合は3D-CADデータの作成において設計者は公差レンジの中央の値を指定寸法にする。例えばΦ6でH7の場合は公差が0.000~+0.012ミリなので指定寸法を6.006ミリにする。
【0016】
次に、制御部31は決定した加工方法に使用する工具を選定する(工具選定機能)(ステップS107)。
図4は工具の番号、種類(スクエア、ボール、ラジアス、タップ、ドリル、リーマ)、径、刃長、メーカー名、型式、最適な使用条件(回転数、送り速度等)等が規定されたリストである。このリストは記憶部32に格納されている。例えば特徴部位の指定寸法が5.000(小数点以下3桁)の穴であって、決定した加工方法が高精度の穴加工の場合には、制御部31はリストの中から最適な工具としてリーマを選定する。特徴部位が複数ある場合には制御部31は各特徴部位の加工方法を決定し、使用する工具を選定する。
次に、制御部31はワーク及び3DモデルのXYZ座標、工具の外径等を考慮して工具の移動経路である加工パスを算出する(加工パス算出機能)(ステップS108)。加工パスを算出するための演算処理方法は周知技術であるため説明を省略する。工具毎の加工パスをコンピュータ30の表示画面に色分けしてアニメーション表示してもよい。
【0017】
次に、制御部31はCNC装置の制御指令であるMコード及びGコードを算出する(コード算出機能)(ステップS109)。制御部31は算出したMコード及びGコードをCNC装置の加工プログラムとして、コンピュータ30と情報通信回線40で接続されたCNC装置20に出力して終了する。コンピュータ30とCNC装置20とを情報通信回線40で接続せずに、コンピュータ30から持ち運び自在な情報記憶媒体にMコード及びGコードを記憶させ、この情報記憶媒体をCNC装置20に接続してMコード及びGコードをCNC装置20に移動させることにしてもよい。
【0018】
なお、本実施の形態では3D-CAD装置10を用いて作成した3D-CADデータを使用するものとしたが、これに限らず2D-CAD装置11を用いて作成した2D-CADデータを使用してもよい。具体的には、設計者が製品の2Dモデルを作成し、この2D-CADデータを一般的な中間ファイル(例えばDrawing Exchange Format(DXF)形式)に変換する。2D-CADデータに含まれていたデータのうち、面粗度、寸法公差、幾何公差、はめあい公差等は中間ファイルへの変換時に失われている。
次に、中間ファイルをコンピュータ30に読み込ませ、ステップS101において制御部31が加工プログラム生成用プログラムに基づいて、中間ファイルに記録されているデータのうち特徴部のXYZ座標に基づいて3Dの立体形状をモデリングする。2Dのデータに基づいて3Dの立体形状をモデリングする技術は既に一部実用化されているため説明を省略する。このように本発明では3D-CADデータだけでなく2D-CADデータも使用することができる。
【0019】
また、面粗度及び幾何公差については、3D又は2DのCADデータファイル又は中間ファイルのファイル名で指定することにすればよい。例えば
図5に示すように、ファイル名の最初から順に(1)任意の図番、(2)材質、(3)フライス加工と旋盤加工の区別(フライス加工の場合は"F"、旋盤加工の場合は"L")、(4)研磨加工の有無(研磨加工有りの場合は"G”)、(5)特殊加工の有無(特殊加工有りの場合は"S")、(6)CNC装置の種類(メーカー名、型式等)、(7)面粗度(例えばRz1.6の場合は"Rz1.6")、(8)幾何公差(例えば幾何公差0.03の場合は"GPS0.03")と入力することにすればよい。制御部31はファイル名を読み込む際に要求される面粗度及び幾何公差を認識し、適切な工具を選定し、加工パスを算出する。また、制御部31はファイル名に例えば研磨加工有り"G"と指定されていた場合には「加工不能」と判断することにしてもよい。
本実施の形態では1台のコンピュータ30に対して1台の3D-CAD10が接続されるものとしたが、複数台の3D-CAD10を接続してもよく、この場合、コンピュータ30が情報処理サーバとして機能することになる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、寸法公差を反映させた高精度な自動運転が可能となるCNC装置の加工プログラム生成用プログラム及びCNC装置用の加工プログラム生成方法であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0021】
10 3D-CAD装置
11 2D-CAD装置
20 CNC装置
30 コンピュータ
31 制御部
32 記憶部
40 情報通信回線