(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088835
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】固体潤滑転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20220608BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220608BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
F16C33/66 A
F16C19/06
F16C33/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200900
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】久保 理沙
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA24
3J701CA12
3J701CA32
3J701CA33
3J701EA53
3J701FA31
3J701GA57
3J701GA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】転動体と転動体の間に位置する固体潤滑剤が摩耗しても転動体の周方向の位置に偏りが発生せず、転動体の慣性力が固体潤滑剤に作用しにくい構成の固体潤滑転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪3と、外輪2と、複数の転動体4と、転動体4と転動体4の間に少なくとも1つの固体潤滑剤7を配置した固体潤滑転がり軸受において、転動体4を周方向に離間する保持器5を備え、この保持器5が、円環部5aと、円環部5aから軸方向に伸びて転動体を離間する櫛歯部5bからなり、固体潤滑剤7が、保持器5の櫛歯部5bの内径側または外径側に位置し、保持器5の櫛歯部5bの転動体4との当接面に、固体潤滑剤7の反対側に突出する突起8を設けた構成とした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、複数の転動体と、転動体と転動体の間に少なくとも1つの固体潤滑剤を配置した固体潤滑転がり軸受において、転動体を周方向に離間する保持器を備え、この保持器が、円環部と、円環部から軸方向に伸びて転動体を離間する櫛歯部からなり、固体潤滑剤が、保持器の櫛歯部の内径側または外径側に位置し、櫛歯部の転動体との当接面に、固体潤滑剤の反対側に突出する突起を設けたことを特徴とする固体潤滑転がり軸受。
【請求項2】
前記突起の軸方向の幅寸法W1が外輪又は内輪の軌道面の軸方向の幅寸法W2よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項3】
前記保持器の突起が保持器の外径側に位置し、この外径側に位置する突起の頂点を結んで形成される外径寸法が外輪内径寸法よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項4】
前記保持器の突起が保持器の内径側に位置し、この内径側に位置する突起の頂点を結んで形成される内径寸法が内輪外径寸法よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項5】
前記固体潤滑剤が、保持器同様の円環部と、円環部から軸方向に伸びる櫛歯部とからな櫛形を呈し、この固体潤滑剤の櫛歯部を、保持器の櫛歯部に対して内挿または外挿したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの項に記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項6】
前記保持器の円環部と固体潤滑剤の円環部が、転動体を軸方向に挟んで反対側に位置することを特徴とする請求項5に記載の固体潤滑転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転動体と転動体の間に配置された固体潤滑剤によって潤滑を行う固体潤滑転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
固体潤滑転がり軸受は、潤滑剤としてグリースや潤滑油を使用することができない高温雰囲気や真空雰囲気等で使用される。
【0003】
この種の固体潤滑転がり軸受として、従来、隣り合う転動体と転動体の間に、固体潤滑剤で形成されたセパレータを配置するものが特許文献1や特許文献2に記載されている。いずれの構成も隣り合う転動体の間に固体潤滑剤を介在させ、固体潤滑剤が転動体や軌道輪と摺動することで、潤滑剤が相手部品に移着または潤滑粉が生成されて軸受内部が潤滑されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6275433号公報
【特許文献2】特許第3550689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、これら従来の固体潤滑転がり軸受は、固体潤滑剤が転動体と転動体との間のセパレータとしての役割を有するため、固体潤滑剤が摩耗するにつれて、転動体の周方向の位置に偏りが生じ、軸受の回転振れ精度が悪化する恐れがある。
【0006】
また、転動体の慣性力が固体潤滑剤に作用する構成であるため、固体潤滑剤が過剰に摩耗して軸受の寿命が短くなるということがある。
【0007】
そこで、この発明は、転動体と転動体の間に位置する固体潤滑剤が摩耗しても転動体の周方向の位置に偏りが発生せず、転動体の慣性力が固体潤滑剤に作用しにくい構成の固体潤滑転がり軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明は、内輪と、外輪と、複数の転動体と、転動体と転動体の間に少なくとも1つの固体潤滑剤を配置した固体潤滑転がり軸受において、転動体を周方向に離間する保持器を備え、この保持器が、円環部と、円環部から軸方向に伸びて転動体を離間する櫛歯部からなり、固体潤滑剤が、保持器の櫛歯部の内径側または外径側に位置し、保持器の櫛歯部の転動体との当接面に、固体潤滑剤の反対側に突出する突起を設けた構成を採用したものである。
【0009】
かかる構成を採用することにより、転動体の周方向の位置は、保持器の櫛歯部間のポケットの位置によって決まる。このため、固体潤滑剤が摩耗しても転動体の偏りが発生せず、軸受の回転振れ精度が悪化しない。また、転動体と固体潤滑剤の干渉力は、転動体ではなく質量の小さい固体潤滑剤の慣性力によって発生するため、固体潤滑剤の摩耗速度が緩和される。
【0010】
また、保持器の櫛歯部の転動体との当接面に、固体潤滑剤の反対側に突出する突起を設けることで、当接面が摩耗しにくい構成とすることができると共に、固体潤滑剤の体積を大きくすることができ、長寿命化を図ることができる。
【0011】
ところで、固体潤滑剤の体積を大きくするには、保持器の体積を小さくする必要がある。特に、固体潤滑剤を保持器の櫛歯部の内側または外側に配置するこの発明においては、櫛歯部の薄肉化が必要となるが、薄肉化は当接面の早期摩耗の原因になり得る。このため、この発明においては、保持器の櫛歯部に突起を設けて転動体との当接面を拡大することにより、両者の接触面圧を緩和し、当接面の摩耗を抑制することができるようにしている。
【0012】
また、前記突起の幅寸法W1が軌道面の幅寸法W2よりも小さい構成とすることで、突起が軌道輪と干渉しにくく、回転が円滑な固体潤滑転がり軸受を提供することができる。すなわち、軌道面の凹形状に対応した位置に突起を設けることで、突起と軌道輪との間のクリアランスを大きく取ることができる。
【0013】
また、保持器の外径側突起の頂点を結んで形成される外径寸法が外輪内径寸法よりも大きい構成とすることで、固体潤滑剤の体積をより大きくすることができる。すなわち、突起を外輪軌道面の凹形状に内在させることで、保持器の櫛歯部の直径寸法を大きくすることができ、櫛歯部の内径側の空間を大きくすることができる。なお、保持器を外輪に内挿する際は、櫛歯部を内径側に弾性変形させながら突起を軌道面に内在させている。
【0014】
また、保持器の内径側に設けた突起の頂点を結んで形成される内径寸法を、内輪外径寸法よりも小さい構成とすることにより、固体潤滑剤の体積をより大きくすることができる。すなわち、突起を内輪軌道面の凹形状に内在させることで、保持器の櫛歯部の直径寸法を小さくすることができ、櫛歯部の外径側の空間を大きくすることができる。なお、保持器を内輪に内挿する際は、くし部を外径側に弾性変形させながら突起を軌道面に内在させている。
【0015】
また、固体潤滑剤を保持器同様の櫛形に形成し、固体潤滑剤の櫛歯部を保持器の櫛歯部に内挿または外挿することで、固体潤滑剤の長寿命化、ひいては、固体潤滑転がり軸受の長寿命化を図ることができる。すなわち、固体潤滑剤を円環部で繋いで一体化することで、固体潤滑剤の挙動が安定するほか、遠心力による外輪や保持器への張り付きを抑制することができ、固体潤滑剤の摩耗を抑制することができる。
【0016】
また、保持器の円環部と固体潤滑剤の円環部が転動体を軸方向に挟んで反対側に位置する構成とすることで、固体潤滑剤の構成をさらに強化することができる。すなわち、保持器と潤滑剤の円環部を同一側に配置する構成に比べ、固体潤滑剤の円環部を太く構成することができ、固体潤滑剤の円環部が破断しにくい構成になる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、固体潤滑剤が摩耗しても転動体の偏りが発生せず、回転振れ精度が悪化しない固体潤滑転がり軸受を提供することができる。また、転動体と固体潤滑剤の干渉力を抑制し、固体潤滑剤の過剰摩耗を抑制することができる。さらに、保持器の摩耗を抑制しつつ、体積の大きい固体潤滑剤を内在させることができ、回転が円滑で長寿命な固体潤滑転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明を密封形深溝玉軸受に適用した実施形態を示す展開斜視図である。
【
図2】
図1の実施形態で使用する保持器の斜視図である。
【
図3】
図1を組み立てた軸受の径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明を密封形深溝玉軸受に適用した実施形態の展開斜視図である。
【0021】
同軸受1は、内周面に外側軌道面2aを有する外輪2と、外周面に内側軌道面3aを有する内輪3と、複数の転動体4と、隣り合う転動体4と転動体4の間に位置する固体潤滑剤7と、転動体4を周方向に離間する保持器5とを備え、外輪2の両側に密封板6が固定されている。
【0022】
保持器5は、
図2に示すように、円環部5aと、この円環部5aから軸方向に延び、転動体4を周方向に離間する6本の櫛歯部5bとからなる櫛形である。
【0023】
固体潤滑剤7は、保持器5と同様の櫛形であり、円環部7aと、この円環部7aから軸方向に延び、転動体4を周方向に離間する6本の櫛歯部7bとからなる。
【0024】
保持器5と固体潤滑剤7とは、互いの円環部5a、7aが、転動体4を軸方向に挟むように軸方向の反対側に位置し、
図1~
図4に示す実施形態では、固体潤滑剤7の櫛歯部7bを、保持器5の櫛歯部5bの内径側に内挿している。
【0025】
図3及び
図4において、固体潤滑剤7の櫛歯部7bは、薄墨で示している。
【0026】
図1~
図4に示す実施形態では、前述のように、固体潤滑剤7の櫛歯部7bを、保持器5の櫛歯部5bの内径側に内挿させたが、固体潤滑剤7の櫛歯部7bを、保持器5の櫛歯部5bの外径側に外挿させてもよい。
【0027】
このように、保持器5が円環部5aと円環部5aから軸方向に伸びて転動体4を離間する櫛歯部5bからなり、固体潤滑剤7も保持器5と同様の櫛型とし、固体潤滑剤7の櫛歯部7bが、保持器5の櫛歯部5bの内径側または外径側に位置する構成を採用したことにより、転動体4の周方向の位置は保持器5の櫛歯部5b間のポケットの位置によって決まる。このため、固体潤滑剤7が摩耗しても転動体4の偏りが発生せず、軸受1の回転振れ精度が悪化しない構成となる。また、転動体4と固体潤滑剤7の干渉力は、転動体4ではなく質量の小さい固体潤滑剤7の慣性力によって発生するため、固体潤滑剤7の摩耗速度が緩和される。
【0028】
前記保持器5の櫛歯部5bは、転動体4との当接面において、固体潤滑剤7の反対側、すなわち、
図1~
図4に示す実施形態のように、固体潤滑剤7の櫛歯部7bを、保持器5の櫛歯部5bの内径側に内挿させる場合には、保持器5の外径側に突出する突起8を、固体潤滑剤7の櫛歯部7bに設け、保持器5の櫛歯部5bの外径側に外挿させる場合には、保持器5の内径側に突出する突起8を設けることにより、転動体4との当接面を拡大させている。
【0029】
このように、保持器5の櫛歯部5bと転動体4との当接面に、固体潤滑剤7の反対側に突出する突起8を設けることで、当接面が摩耗しにくい構成となる。固体潤滑転がり軸受は、固体潤滑剤7の体積を大きくすることで長寿命化を図ることができるが、固体潤滑剤7の体積を大きくするには、保持器5の体積を小さくする必要がある。特に、この発明のように、固体潤滑剤7を保持器5の櫛歯部5bの内側または外側に配置する場合においては、櫛歯部5bの薄肉化が必要となるが、薄肉化は当接面の早期摩耗の原因になるため、この発明では、前記突起8を設けて転動体4との当接面を拡大することにより、両者の接触面圧を緩和し、当接面の摩耗を抑制している。
【0030】
図3は、
図1の軸受1の径方向断面図であり、突起8の幅寸法W1は、外側軌道面2aの幅寸法W2よりも小さい構成になっている。かかる構成にすることにより、突起8が軌道輪と干渉しにくく、回転が円滑な固体潤滑転がり軸受を提供することができる。すなわち、外側軌道面2aの凹形状に対応した位置に突起8を設けることで、突起8と軌道輪との間のクリアランスを大きく取ることができる。
【0031】
図4は、
図1の軸受1の軸方向断面図であり、保持器5の外径側に設けた突起8の頂点を結んで形成される外形寸法D1を、外輪2の内径寸法D2よりも大きい構成としている。これにより、固体潤滑剤7の体積をより大きくすることができる。すなわち、突起8を外側軌道面2aの凹形状に内在させることで、保持器5の櫛歯部5bの直径寸法を大きくすることができ、櫛歯部5bの内径側の空間を大きくすることができる。なお、保持器5を外輪2に内挿する際は、櫛歯部5bを内径側に弾性変形させながら突起8を外側軌道面2aに内在させるようにする。
【0032】
また、固体潤滑剤7の櫛歯部7bを、保持器5の櫛歯部5bの外径側に外挿させた実施形態においては、保持器5の内径側に設けられる突起8の頂点を結んで形成される内径寸法が内輪3の外径寸法よりも小さい構成とすることで、固体潤滑剤7の体積をより大きくすることができる。すなわち、突起8を内側軌道面3aの凹形状に内在させることで、保持器5の櫛歯部5bの直径寸法を小さくすることができ、櫛歯部5bの外径側の空間を大きくすることができる。なお、保持器5を内輪3に内挿する際は、櫛歯部5bを外径側に弾性変形させながら突起8を軌道面に内在させるようにする。
【0033】
また、固体潤滑剤7を保持器5と同様の櫛形で形成し、固体潤滑剤7の櫛歯部7bを保持器5の櫛歯部5bに内挿または外挿することで、固体潤滑剤7の長寿命化、ひいては、固体潤滑転がり軸受の長寿命化を図ることができる。すなわち、固体潤滑剤7を円環部7aで繋いで一体化することで、固体潤滑剤7の挙動が安定するほか、遠心力による外輪2や保持器5への張り付きを抑制することができ、固体潤滑剤7の摩耗を抑制することができる。
【0034】
また、保持器5の円環部5aと固体潤滑剤7の円環部7aが転動体4を軸方向に挟んで反対側に位置する構成とすることで、固体潤滑剤7の構成をさらに強化することができる。すなわち、保持器5と固体潤滑剤7の円環部5a、7aを同一側に配する構成に比べ、固体潤滑剤7の円環部7aを太く構成することができ、円環部7aが破断しにくい構成となる。
【0035】
前記密封板6は、その外径端が外輪2の内周面に形成された周溝に圧入固定され、その内径端が内輪3の外周面に近接して非接触シールを形成している。なお、高温環境で使用されない軸受等では、密封板6として、その内径端を内輪3の外周面に摺接させる接触シールタイプを使用することもできる。
【0036】
前記外輪2及び内輪3は、鋼材料、例えばSUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼で形成される。転動体4は、ステンレス鋼、軸受鋼あるいはセラミックスで形成され、セラミックスとしては、例えば窒化ケイ素を使用することができる。
【0037】
保持器5と密封板6は、例えば耐食性に優れるSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼で形成するのが好ましい。
【0038】
また、保持器5としては、冷間圧延鋼板製のもの、あるいは円筒部材を旋削加工したもみ抜き保持器のほか、塩浴軟窒化処理やリン酸塩被膜処理などの表面処理を施したものも採用することができる。
【0039】
固体潤滑剤7は、二硫化モリブデン系、二硫化タングステン系あるいはグラファイト系の固体潤滑剤材料からなる。
【0040】
なお、この発明は玉軸受に限定されるものではなく、ころ軸受にも適用することができる。また、構成部品の材質や形状も上記に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
1 :密封形深溝玉軸受
2 :外輪
2a :外側軌道面
3 :内輪
3a :内側軌道面
4 :転動体
5 :保持器
5a :円環部
5b :櫛歯部
6 :密封板
7 :固体潤滑剤
7a :円環部
7b :櫛歯部
8 :突起