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特開2022-88865α-レダクターゼ阻害剤、及び脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物、並びに頭皮中の5α-レダクターゼを阻害する方法及び育毛促進方法
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  • 特開-5α-レダクターゼ阻害剤、及び脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物、並びに頭皮中の5α-レダクターゼを阻害する方法及び育毛促進方法 図1
  • 特開-5α-レダクターゼ阻害剤、及び脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物、並びに頭皮中の5α-レダクターゼを阻害する方法及び育毛促進方法 図2
  • 特開-5α-レダクターゼ阻害剤、及び脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物、並びに頭皮中の5α-レダクターゼを阻害する方法及び育毛促進方法 図3
  • 特開-5α-レダクターゼ阻害剤、及び脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物、並びに頭皮中の5α-レダクターゼを阻害する方法及び育毛促進方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008886
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】5α-レダクターゼ阻害剤、及び脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物、並びに頭皮中の5α-レダクターゼを阻害する方法及び育毛促進方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/10 20150101AFI20220106BHJP
   A61K 8/9755 20170101ALI20220106BHJP
   A61K 8/9783 20170101ALI20220106BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61K 36/49 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K35/10
A61K8/9755
A61K8/9783
A61K36/18
A61P17/14
A61P43/00 111
A61Q7/00
A61K36/49
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164600
(22)【出願日】2021-10-06
(62)【分割の表示】P 2017141365の分割
【原出願日】2017-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】503361813
【氏名又は名称】学校法人 中村産業学園
(71)【出願人】
【識別番号】591058552
【氏名又は名称】西邦機工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520190849
【氏名又は名称】ふるさとの創成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501131379
【氏名又は名称】株式会社エヌ・エル・エー
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】佐野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆三
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】永田 香織
【テーマコード(参考)】
4C083
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083CC37
4C083DD27
4C083EE22
4C087AA01
4C087AA02
4C087BA07
4C087BC03
4C087CA02
4C087NA14
4C087ZA92
4C087ZC20
4C088AB01
4C088AB11
4C088AC01
4C088CA25
4C088MA16
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA92
(57)【要約】
【課題】新規の5α-レダクターゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】フルボ酸を有効成分として含有する5α-レダクターゼ阻害剤。フルボ酸による5α-レダクターゼ阻害作用により、脱毛症の予防や治療、育毛促進等の用途への適用が期待できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製フルボ酸を有効成分として含有する5α-レダクターゼ阻害剤。
【請求項2】
精製フルボ酸を含有し、5α-レダクターゼ阻害作用に基づく、脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物。
【請求項3】
精製フルボ酸を含有する組成物を、頭皮投与させることにより、頭皮中の5α-レダクターゼを阻害させる方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)。
【請求項4】
精製フルボ酸を含有する組成物を、頭皮投与させることを特徴とする育毛促進方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の5α-レダクターゼ阻害剤、及びその応用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
男性においては、男性ホルモンが関与する男性型脱毛症がよく知られている。また、女性の脱毛症においても男性ホルモンが関与する女性男性型脱毛症が知られている。女性は加齢とともに女性ホルモンが低下し、更年期に女性ホルモンの分泌が減少し、相対的に男性ホルモンが過剰になるために発症しやすくなると考えられている。
【0003】
5α-レダクターゼは、テストステロンから活性型のジヒドロテストロンへと変換する酵素である。男性ホルモンであるテストステロンは、毛包、皮脂腺等に存在する5α-レダクターゼによりジヒドロテストステロン(DHT)に転換され、生成したジヒドロテストステロンによって、毛母細胞の分化を阻害して脱毛を促進させる。そのため、5α-レダクターゼの活性を阻害することにより、脱毛症の緩和等の効能効果が期待できる。
【0004】
これまでに、様々な5α-レダクターゼ阻害剤が報告されており、その有効成分として、雪霊芝抽出物(特許文献1)、ポリウムオシド(特許文献2)、キツネノマゴ科クロサンドラ属植物抽出物(特許文献3)、コメバツガザクラ抽出物(特許文献4)、非発酵型ルイボス茶由来アスパラチン(特許文献5)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第566344号公報
【特許文献2】特開2012-67014号公報
【特許文献3】特許第5632619号公報
【特許文献4】特許第5971833号公報
【特許文献5】特開2009-249371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来例の有効成分の中には、5α-レダクターゼ阻害作用が十分でないこともあり、さらなる開発が行われていた。
かかる状況下、本発明の目的は、新規の5α-レダクターゼ阻害剤及びその応用用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フルボ酸にテストステロン5α-レダクターゼ阻害作用を見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 精製フルボ酸を有効成分として含有する5α-レダクターゼ阻害剤。
<2> 精製フルボ酸を含有し、5α-レダクターゼ阻害作用に基づく脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物。
<3> 精製フルボ酸を含有する組成物を、頭皮投与させることにより、頭皮中の5α-レダクターゼを阻害させる方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)。
<4> 精製フルボ酸を含有する組成物を、頭皮投与させる育毛促進方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フルボ酸を有効成分とすることによって、5α-レダクターゼの活性を阻害することができる5α-レダクターゼ阻害剤が提供される。
また、フルボ酸を有効成分とすることによって、5α-レダクターゼ阻害作用に基づいて、脱毛症の予防治療作用及び育毛促進作用に優れる組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例の試料(フルボ酸A)及び市販のフルボ酸のIRスペクトルである。
図2】実施例の試料(フルボ酸A)及び市販のフルボ酸のUVスペクトルである。
図3】実施例の試料(フルボ酸A)のH-NMRスペクトルである。
図4】実施例の試料(フルボ酸A)のVis-UVスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0012】
<1.5α-レダクターゼ阻害剤>
本発明の5α-レダクターゼ阻害剤は、フルボ酸を有効成分とし、5α-レダクターゼの活性を阻害することができる。
【0013】
本発明に係るフルボ酸(fulvic acid)は、いわゆる腐植物質に含まれる物質であり、酸によって沈殿しない無定形高分子有機酸を意味する。本明細書において「腐植物質」とは、植物の葉や茎などの有機物が多種多様な微生物によって分解し、二次的に生成された有機成分で、糖、タンパク質、脂質などに分類されない有機物の総称をいう。
フルボ酸は、化学構造がただ一つ決まった分子ではなく、その分子内にカルボキシル基、フェノール性水酸基を多く含んだ多価有機酸である。なお、腐植物質には、フルボ酸と共にフミン酸(humic acid)が含まれる。日本腐植学会によると「腐植物質の定義はあくまで疑念的定義」であるが、土壌や堆積物からの腐植物質は、一般には酸及び塩基に対する溶解性に基づいて、フミン酸は一般に塩基性水溶液に可溶であり、フルボ酸は一般に酸性及び塩基性水溶液に可溶であると定義されている。
本発明においては、「フルボ酸」を、「腐植物質(木材分解物を含む)から分離精製することができる物質であって、酸性及び塩基性水溶液に可溶な無定形高分子有機酸」と定義するものとする。
【0014】
本発明の5α-レダクターゼ阻害剤が含有するフルボ酸は、ヒト、特にヒトの頭皮に適用が許容されるものであれば特に限定されず、例えば、地上の土壌、海底の土壌等に由来するフルボ酸;河川、湖沼等の水系に由来するもの等の天然由来のフルボ酸、有機廃棄物由来のフルボ酸等の人工的に製造されたフルボ酸のいずれも使用することができる。これらのフルボ酸は1種又は2種以上を使用することもできる。
【0015】
本発明に係るフルボ酸として、木材分解物由来のフルボ酸が好適に用いられる。本発明において、「木材分解物由来のフルボ酸」とは、実質的に原材料に木材を使用し、木材を微生物や酸液等によって分解して得られる木材分解物から分離抽出されたフルボ酸を意味する。抽出源となる木材分解物は、天然由来のものも使用できるが、通常、人工的に木材を微生物や酸液等によって分解して得られる木材分解物が用いられる。
【0016】
原料木材としては、広葉樹が好適である。但し、原料木材には本発明の目的を損なわない範囲で広葉樹以外の原料(針葉樹、非木材系リグニン等)が含まれていてもよい。
木材分解物由来のフルボ酸として、後述する実施例の方法で得られるクヌギを原料木材として、特定の白色腐朽菌による分解作用により得られる木材分解物から分離精製したフルボ酸が挙げられる。また、市販の木材分解物由来のフルボ酸も好適に使用できる。
【0017】
本発明に係るフルボ酸は、5α-レダクターゼ阻害作用を有している限り、フルボ酸のみならず、フルボ酸の塩、エステル又は誘導体を包含するものとする。本発明に係るフルボ酸として、フルボ酸(特には精製フルボ酸)、フルボ酸の塩が好適に使用できる。
【0018】
また、本発明に係るフルボ酸として、5α-レダクターゼ阻害作用を有している限り、フルボ酸以外にもフミン酸、アミノ酸、ビタミン、酵素、ミネラル、その他微量元素を含んでいるものも使用できるが、精製フルボ酸を使用することもできる。
本発明において「精製フルボ酸」とは、フルボ酸を含む混合物からフルボ酸以外の成分を除去し、分離精製して得られるフルボ酸を意味する。分離精製処理は目的とするフルボ酸が得られる限り任意であり、フルボ酸及び他の成分を含む溶液をイオン交換樹脂に通すことなどにより行うことができる。特にIHSS法(国際腐植学会指定の操作方法及び確認方法)に準じる方法が好ましい。なお、当該分離精製方法の具体例は実施例にて説明する。
【0019】
また、本発明に係るフルボ酸として、5α-レダクターゼ阻害作用を有している限り、各種市販されているものをそのまま又は適宜濃縮、希釈して使用することができる。このような市販品としては、株式会社T&Gから販売されている腐植前駆物質溶液「リードアップ」、株式会社ミヤモンテJAPANから販売されている「キレートバランス」及び「美しさの源気麗-留」、株式会社日本フルボ酸総合研究所から販売されている「濃密生成フルボ酸製品」(フルボ酸植物活性化剤「みどりの神様」)、コヨウ株式会社製のフルボ酸等が挙げられる。
このような市販品には、精製の都合上、不純物としてフミン酸等を含有している場合があるが、その場合は分離精製して使用することもできる。
また、日本腐食物質学会の頒布する愛知県段戸森林土壌由来のフルボ酸(標準フルボ酸)も使用することができる。
【0020】
本発明の5α-レダクターゼ阻害剤において、フルボ酸の含有量は、有意な5α-レダクターゼ阻害作用が得られる範囲で適宜決定すればよい。例えば、フルボ酸の量として、0.0001~100質量%である。
【0021】
上述のようなフルボ酸の5α-レダクターゼ阻害作用から、医薬部外品としての様々な用途が期待される。特に、男性型脱毛症、女性男性型脱毛症、育毛、薄毛及び脱毛の予防、毛生促進、発毛促毛、養毛等の効果が期待できる。
【0022】
本発明の5α-レダクターゼ阻害剤は、5α-レダクターゼの活性を阻害できるため、テストステロン5α-レダクターゼの活性過多、テストステロン分泌過多に起因する各種症状の予防又は治療にも有用である。このような症状としては、例えば、脂漏症、座瘡、前立腺肥大症等、が挙げられる。
【0023】
本発明の5α-レダクターゼ阻害剤には、フルボ酸の他、食品、化粧品及び医薬品業界で通常使用される配合剤、例えば、賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料、美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0024】
<2.脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物>
本発明の脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物(以下、「本発明の組成物」と称す。)は、フルボ酸を有効成分とし、5α-レダクターゼ阻害作用に基づいて、脱毛症の予防又は治療作用、及び/又は育毛促進作用を奏することを特徴とする。
なお、本発明の組成物に用いるフルボ酸は、本発明の5α-レダクターゼ阻害剤において説明したものと同一であるため、説明を省略する。
【0025】
本発明の組成物は、脱毛症の予防、脱毛症の治療及び育毛促進の少なくともいずれかの作用を有し、特にすべての作用を有することが好ましい。
本明細書において、「脱毛症の予防」には、脱毛症の抑制及び遅延が含まれる。また、「脱毛症の治療」には、脱毛症の改善及び寛解、並びに脱毛症の進展の抑制が含まれる。本発明の対象となる脱毛症としては、5α-レダクターゼの酵素触媒作用が機序となる脱毛症であれば制限はなく、典型的には男性型脱毛症、女性男性型脱毛症が挙げられる。また、本明細書において、「育毛促進」には、毛髪の成長速度の向上及び発毛の促進が含まれる。
【0026】
本発明の組成物は、特に男性型脱毛症、女性男性型脱毛症、育毛促進、薄毛及び脱毛の予防、毛生促進、発毛促毛、養毛等の効果が期待できる。
【0027】
本発明の組成物において、上記フルボ酸の配合量は、使用目的、性別、症状等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、フルボ酸の量として、0.0001~10質量%である。
【0028】
本発明の組成物は、フルボ酸と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを混合することにより調製できる。フルボ酸の他、食品、化粧品及び医薬品業界で通常使用される配合剤、例えば、賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料、美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0029】
本発明の組成物は、溶液、分散液、乳液、軟膏、クリーム、ゲル、エアゾール、パック等の皮膚外用剤の形態で使用されることが好ましく、頭皮外用剤の形態で使用されることが特に好ましい。
【0030】
本発明の組成物の形態は任意であり、溶液、分散液、乳液、軟膏、クリーム、ゲル、エアゾール、パック等の皮膚外用組成物、特には頭皮外用組成物の形態で使用されることが好ましい。具体的には、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアローション、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアスプレー、ヘアエアゾール、ポマード、粉末、ジェル等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0031】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の毛髪用成分を含んでいてもよい。このような成分として、毛根及び毛包細胞活性成分、毛包細胞血流増強成分、殺菌成分、ふけ防止剤、角質軟化剤、清凉剤、保湿剤などが挙げられる。
【0032】
本発明の組成物は、頭皮投与させることにより、頭皮中の5α-レダクターゼを阻害させる方法に用いることができる。また、本発明の組成物は、頭皮投与させる、脱毛症の予防治療方法や育毛促進方法に用いることができる。経皮投与の方法としては噴霧、塗布、湿布等の方法が挙げられ、特に制限されない。当該方法における本発明の組成物の使用量は、含有されるフルボ酸の量、使用目的、性別、症状等を考慮して適宜決定すればよい。
【0033】
なお、本発明の組成物を頭皮投与させることによる頭皮中の5α-レダクターゼを阻害させる方法、及び本発明の組成物を頭皮投与させることによる育毛促進方法については、ヒトの医療行為以外に行うことができる。このようなヒトの医療行為に該当しない行為として、例えば、床屋、美容室、ヘアケアサロン等で行われる本発明の組成物のヒトの頭皮への使用が挙げられる。
【実施例0034】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例においては、以下の2種類のフルボ酸を使用して、5α-レダクターゼの阻害活性の評価を行った。
フルボ酸A:クヌギ分解物由来のフルボ酸(製造方法は後述)
フルボ酸B:株式会社日本フルボ酸総合研究所製 フルボ酸
【0036】
1.フルボ酸Aの製造及びその同定
以下、フルボ酸Aの製造方法、及びその同定方法を説明する。
フルボ酸Aの製造方法に使用した原料木材、白色腐朽菌は以下の通りである。
(1)原料木材
原料木材として、クヌギチップを使用した。大分県の森林樹木伐採現場にて発生したものを使用しており、解体などで発生する建築廃材及び産業廃棄物由来の木材を含まない。また、伐採後一切の化学処理を施してはいない。
(2)白色腐朽菌
供試菌として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターの受託番号NITE P-02428(識別のための表示BMC-110012)で特定される白色腐朽菌(以下、「白色腐朽菌(NITE P-02428)」と記載する。)を使用した。
【0037】
<工程(1)>
クヌギ木材(幹の部分)を10mm程度のチップに粉砕し、得られたチップを更に解繊機(西邦機工株式会社、製品名:ラブマシーン)で処理し、粉末状(100μm程度)に解繊した。
得られた粉末状クヌギと脱脂米糠(添加栄養物)と水とを、5:0.8:4(重量比)で撹拌・混合した後に混合物(クヌギ木粉培地)を、菌床袋(容積3.6L)へ1.7kgずつ詰め、金枠に入れて形を整えた。詰め込み時の含水率は57.9重量%であった。
次いで、常法に従いオートクレーブ(121℃、60分)で殺菌処理、放冷後、常法に従い接種菌(白色腐朽菌(NITE P-02428))を接種した。なお、接種菌である白色腐朽菌(NITE P-02428)は、300mL三角フラスコにクヌギ木粉培地を適宜入れ前培養したものを使用した。菌床袋のクヌギ木粉培地への接種菌の接種は、15mmφの鉄棒で菌床袋の培地をプレスし、二箇所の穴を開け接種孔を形成して行い、接種量は、粉末状クヌギ1kgに対して、10gとした。
【0038】
工程(1)で得られた木材分解物を使用して、以下の手順でフルボ酸を分離精製した。
【0039】
<工程(2)>
工程(1)で得られた木材分解物(30日分解)1kgと水2Lとを容器に入れミキサーで、所定の時間(3時間以上)撹拌して木材分解物に含まれる成分を水に抽出し、木材分解物を含有する液状組成物を得た。
【0040】
<工程(3)>
工程(2)で得られた木材分解物を含有する液状組成物を、遠心分離機にて固液分離を行い、液体部分をデカンテーションして得た液体を減圧乾燥器にて減圧乾燥し、腐植酸物質を含有する乾燥粉末を得た。収率は約5%(原料1kgから約50g生成)であった。
【0041】
<工程(4)>
工程(3)で得られた乾燥粉末を、以下の工程によって分離精製し、フルボ酸を得た。なお、この分離精製方法は、IHSS法(国際腐植学会指定の操作方法及び確認方法)に相当する。
まず、工程(3)で得られた乾燥粉末を、0.1M-NaOH水溶液に入れ、1日放置後に沈殿物を生成させのちに、沈殿物と水溶液を分離した。次いで、水溶液に濃塩酸を加えてpH1になるように調整した。再び沈殿物が生成するので、更に沈殿物と水溶液に分離した。
得られた水溶液はXRD樹脂を約150mL充填したカラムに通し、XRD樹脂にフルボ酸を吸着させた。フルボ酸を吸着させた後のカラムに1M塩酸300mL、続いて0.1M塩酸300mLを通過させて洗浄し、不純物を除去した。
次いで、カラムに0.1M-NaOH水溶液、約450mLを通過させて、XRD樹脂に吸着していたフルボ酸を遊離させて、フルボ酸を含む遊離液を回収した。なお、0.1M-NaOH水溶液の通液は、カラムからでる通過液の色が薄くなるまで行った。
【0042】
得られた遊離液は、IRC樹脂を約300mL充填したカラムに通し、NaOH水溶液を除去した。また、カラムを残存したフルボ酸を回収するために、カラムを蒸留水300mLで洗浄し、洗浄液と遊離したフルボ酸溶液と合わせた。
得られたフルボ酸溶液は減圧乾燥で水を留去し、目的とする乾燥粉末(フルボ酸A)を得た。収率は約0.6重量%(1kgから約6g生成)であった。
【0043】
分離精製後の乾燥粉末(以下、「実施例の試料」と称す)をとして、FT-IR、UV、1H-NMR、元素分析(C・H・Nコーダ)により解析し、市販品のフルボ酸(コヨウ株式会社製)と比較検討した。

使用した装置は以下の通りである。
IR:日本分光(株)、FT/IR-5000型
UV:日本分光(株)、Ubest V-560型
NMR:ブルカーバイオスピン(株)、S-NMR 600
元素分析:(株)パーキンエルマージャパン、CHNS/O アナライザー 2400II
【0044】
図1に実施例と市販品のフルボ酸のIRスペクトルを示す。3400cm-1に水酸基(OH)、2980cm-1にメチレン基(-CH2-)及び1700cm-1にカルボキシル基(COOH)の波長に特徴的なピークが見られた。文献(環境中の腐植物質-その特徴と研究法-、ISBN-10: 4782705778)からも同様なピークが確認されており、フルボ酸特有の水酸基やカルボキシル基を多く有する構造であると考えられる。
図2に実施例と市販品のUVスペクトルを示す。どちらも同様な吸収曲線を示したが、実施例の方が270nm付近の吸収が大きかった。この付近の吸収帯は芳香環に由来するものと考えられ、実施例の試料は芳香環を市販のものより比較的多く含む構造であると考えられる。
【0045】
図3に実施例の試料の1H-NMRを測定した結果を示した。0.8ppmに弱いシグナルの末端メチル基、1.1~1.3ppmにβ位のメチル基及びメチレンのシグナルにそれぞれ帰属され、3.5~4.0ppmにメトキシル基、アルコール性水酸基を含む置換脂肪族水素のシグナルに帰属された。
図4にKononovaにより提唱されているE4/E6比の結果を示した。E4/E6比は465nmと665nmの吸光度の比率であり、フルボ酸の特性付けに用いられている。文献(環境中の腐植物質-その特徴と研究法-、ISBN-10: 4782705778)によるとフルボ酸のE4/E6比は6.0~8.5の間で変動すると定義されている。実施例の試料のE4/E6比は7.8となった。
また、元素分析を行ったところ、各試料のC,H,Nの含有量は市販品(C:29.16%、H:4.71%、N:4.99%)、実施例(C:38.65%、H:4.63%、N:2.93%)となった。文献(環境中の腐植物質-その特徴と研究法-、ISBN-10: 4782705778)と比較したところ、窒素含量が多いことが確認された。また、平均分子量は約100000であった。これらの結果から、実施例の試料(分離精製後の乾燥粉末)がフルボ酸であることが確認された。
【0046】
2.5α-レダクターゼの阻害活性の評価
以下の方法で、フルボ酸A(上記方法で得たフルボ酸)及びフルボ酸B(株式会社日本フルボ酸総合研究所製)についての5α-レダクターゼの阻害活性を評価した。なお、フルボ酸Bは、広葉樹由来の木材分解物(樹木エキス)から分離精製したフルボ酸である。
また、酵素源(5α-レダクターゼ)としては、ラット肝ホモジネート(S-9)を用いた。
【0047】
(1)測定溶液の調整
(標準溶液の調整)
テストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)をそれぞれ約1mg精秤し、エタノールで1mLとなるように溶解し、等量混合したものを標準溶液とした。
【0048】
(テストステロン溶液の調整)
テストステロン約4.2mgを精秤し、プロピレングリコールで1mLとして、テストステロン溶液を得た。
【0049】
(Tris-HCl緩衝液の調整>
2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol 30.3mgを精秤し、精製水に溶解した後 1M HClでpH7.13に調整し、精製水で50mLにメスアップして、Tris-HCl緩衝液を得た。
【0050】
(NADPH溶液の調整)
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)約10mgを精秤し、Tris-HCl緩衝液緩衝液に溶解し、10mLにメスアップして、NADPH溶液を得た(用時調製)。
【0051】
(被験試料溶液の調整>
評価対象のフルボ酸(フルボ酸A又はフルボ酸B)0.5mg/mLを精秤し、精製水に溶解して、被験試料溶液を得た。
フルボ酸Aの濃度は0.05重量%、フルボ酸Bの濃度は0.05重量%である。
【0052】
(ラット肝ホモジネート(S-9)溶液の調整)
-80℃で凍結したラット肝ホモジネート(S-9)を氷中にて溶解し、ラット肝ホモジネート溶液(S-9溶液)を得た。
S-9の濃度は、(S9フラクション:プロテイン濃度 19.8mg/mLS9(55.4mg/g liver))である。
【0053】
(2)5α-レダクターゼ阻害試験
試験例1:テストステロン+水を同時に反応(S-9無添加の場合:テストステロン基準)
ふた付きV底試験管15mLにテストステロン溶液20μLとNADPH溶液825μLを加えて混合し、水浴中37℃で保温した。これに被験試料溶液(0.05重量%フルボ酸A溶液)80μLを加え再び混合し、水浴中37℃にて60分間反応させた。
反応終了後、塩化メチレンを正確に1mL添加し激しく振とうして基質のテストステロンとその反応生成物を抽出し、反応を止めた。
その後、1600Gで10分間遠心分離して塩化メチレン層を分離して、その内300μLを取り出し気化させ、メタノールで溶解した後、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)による測定を行った。GC-MSは(株)島津製作所 GCMS QP2010 Ultraを使用した。なお、GC-MSの測定条件は、以下の表1及び表2の通りである。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
試験例2:テストステロン+水+S-9を同時に反応
ふた付きV底試験管15mLにテストステロン溶液20μLとNADPH溶液825μLを加えて混合し、水浴中37℃で保温した。これに被験試料溶液(水)80μLとS-9溶液75μLを加え再び混合し、水浴中37℃にて60分間反応させた。
反応終了後、塩化メチレンを正確に1mL添加し激しく振とうして基質のテストステロンとその反応生成物を抽出し、反応を止めた。
その後、1600Gで10分間遠心分離して塩化メチレン層を分離して、その内300μLを取り出し気化させ、メタノールで溶解した後、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)による測定を行った。
【0057】
試験例3:テストステロン+フルボ酸A+S-9を同時に反応
ふた付きV底試験管15mLにテストステロン溶液20μLとNADPH溶液825μLを加えて混合し、水浴中37℃で保温した。これに被験試料溶液(0.05重量%フルボ酸A溶液)80μLとS-9溶液75μLを加え再び混合し、水浴中37℃にて60分間反応させた。
反応終了後、塩化メチレンを正確に1mL添加し激しく振とうして基質のテストステロンとその反応生成物を抽出し、反応を止めた。
その後、1600Gで10分間遠心分離して塩化メチレン層を分離して、その内300μLを取り出し気化させ、メタノールで溶解した後、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)による測定を行った。
【0058】
試験例4:テストステロン+フルボ酸B+S-9を同時に反応
ふた付きV底試験管15mLにテストステロン溶液20μLとNADPH溶液825μLを加えて混合し、水浴中37℃で保温した。これに被験試料溶液(0.05重量%フルボ酸B溶液)80μLとS-9溶液75μLを加え再び混合し、水浴中37℃にて60分間反応させた。
反応終了後、塩化メチレンを正確に1mL添加し激しく振とうして基質のテストステロンとその反応生成物を抽出し、反応を止めた。
その後、1600Gで10分間遠心分離して塩化メチレン層を分離して、その内300μLを取り出し気化させ、メタノールで溶解した後、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)による測定を行った。
【0059】
5α-レダクターゼ阻害活性(阻害率(%))は、テストステロン量の初期量(初期テストステロン量)(基準量)に対する、5α-レダクターゼによってジヒドロテストステロン又は3アルファ-アンドロスタンジオールに変換又は分解されずに残存したテストステロン量(残存テストステロン量)として以下の式で求められる。なお、5α-レダクターゼ(S-9)を含まない試験例1のピーク面積は初期テストステロン量、試験例2~4のピーク面積は、残存テストステロン量に相当する。

阻害率(%)=(残存テストステロン量)/(初期テストステロン量)×100
【0060】
結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3に示したようにテストステロンのS-9による酵素阻害率は試験例1を初期としたテストステロンの量(334μg)を基準値とした。試験例2では被検試料を水として行った場合はS-9酵素がテストステロンに対して活性がみられ、そのほとんどがテストステロンからジヒドロテストステロン又は3アルファ-アンドロスタンジオールに変換又は分解したため、初期のテストステロン量は82.7%減少した。また、試験例3でフルボ酸Bを被検試料として添加した場合は66.3%の阻害率を示し、阻害効果が認められた。一方、試験例4ではフルボ酸Aを被検試料として添加した場合であり、その阻害率は85.2%となり、さらに阻害効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、優れた5α-レダクターゼ阻害を有する5α-レダクターゼ阻害剤及び脱毛症の予防治療用又は育毛促進用組成物が提供されるので、産業的に有望である。
図1
図2
図3
図4