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特開2022-88863船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088863
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20220608BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20220608BHJP
   B63H 25/30 20060101ALI20220608BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20220608BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
B63H25/04 G
B63B79/40
B63H25/04 Z
B63H25/30 C
B63H25/04 D
G05B11/36 G
G05B11/36 503C
G05B13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200968
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】白尾 真人
(72)【発明者】
【氏名】秋田 まり乃
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆史
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA01
5H004GB14
5H004HA07
5H004HB07
5H004KB01
5H004KC39
(57)【要約】
【課題】PID制御によって目標船首方位と実船首方位との偏差を適切に制御する。
【解決手段】船舶は、舵部を有するアクチュエータと、船舶の実船首方位を検出する船首方位検出部と、目標船首方位取得部と船首方位偏差算出部とPID制御部とゲイン設定部とを有する船首方位制御装置とを備え、船首方位偏差算出部は、目標船首方位と実船首方位との差である船首方位偏差を算出し、PID制御部は、船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御によりアクチュエータに対する指示値を算出し、ゲイン設定部は、PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行い、船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵部を有するアクチュエータと、
船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出部と、
目標船首方位取得部と船首方位偏差算出部とPID制御部とゲイン設定部とを有する船首方位制御装置とを備え、
前記船首方位偏差算出部は、前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と前記船首方位検出部によって検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出し、
前記PID制御部は、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出し、
前記ゲイン設定部は、前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行い、
前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、
船舶。
【請求項2】
舵部を有するアクチュエータと、
船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出部と、
目標船首方位取得部と船首方位偏差算出部とPID制御部とゲイン設定部とを有する船首方位制御装置とを備え、
前記船首方位偏差算出部は、前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と前記船首方位検出部によって検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出し、
前記PID制御部は、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出し、
前記ゲイン設定部は、前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行い、
前記PID制御部によって算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、
船舶。
【請求項3】
前記PID制御部は、前記アクチュエータに対する指示値を所定時間間隔で算出し、
前記PID制御部によって算出された指示値の変化量は、前記PID制御部によって今回算出された指示値と、前記PID制御部によって前回算出された指示値との差であり、
前記PID制御部によって算出された指示値の変化量の評価値は、前記PID制御部によって算出された指示値の変化量を、現在時刻から所定時間さかもどって積算した値に対応する値である、
請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御方法であって、
前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、
目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、
前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、
前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、
前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを備え、
前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、
船首方位制御方法。
【請求項5】
舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御方法であって、
前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、
目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、
前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、
前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、
前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを備え、
前記PID制御ステップにおいて算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、
船首方位制御方法。
【請求項6】
舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御装置であって、
目標船首方位取得部と、
前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出部と、
前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御部と、
前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定部とを備え、
前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、
船首方位制御装置。
【請求項7】
舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御装置であって、
目標船首方位取得部と、
前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出部と、
前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御部と、
前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定部とを備え、
前記PID制御部によって算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、
船首方位制御装置。
【請求項8】
舵部を有するアクチュエータを備える船舶に搭載されたコンピュータに、
前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、
目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、
前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、
前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、
前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを実行させるためのプログラムであって、
前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、
プログラム。
【請求項9】
舵部を有するアクチュエータを備える船舶に搭載されたコンピュータに、
前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、
目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、
前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、
前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、
前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを実行させるためのプログラムであって、
前記PID制御ステップにおいて算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、
前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動操舵装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術では、PID(比例、積分、微分)制御が自動操舵装置に適用されている。特許文献1には、比例動作、比例ゲイン、積分動作、積分ゲイン、微分動作および微分ゲインについて記載されている。また、特許文献1には、天候の急変等による周囲の環境の変化などによって出力(船舶の実船首方位)が急変する場合に、目標船首方位と実船首方位との偏差の微分に比例して入力値(舵角指示値)を変化させる微分動作を行う(つまり、微分ゲインをゼロよりも大きくする)旨が記載されている。
【0003】
特許文献2には、手動操舵と自動操舵とを切り替え可能な船舶の自動操舵装置について記載されている。特許文献2に記載された技術では、自動操舵装置が常に動作している状態にならないような制御が行われる。
【0004】
特許文献3には、船首方位誤差信号(目標船首方位と実船首方位との偏差)が所定閾値以下であるときに舵指令信号を発生する船首方位保持手段、および、船首方位誤差信号が所定閾値を超えたときに舵指令信号を発生する船首方位変更手段について記載されている。また、特許文献3には、自動操舵装置、比例利得調節回路、積分回路および微分回路について記載されている。特許文献3に記載された技術では、船首方位誤差信号が微分され、微分された信号は、オーバシュートを防止するように比例信号と組み合わされる。
【0005】
「7・11 自動操舵装置(ヘッディング・コントロールシステム)」平成15年度通信講習用船舶電気装備技術講座(レーダー、AIS・VDR・GPS編)船舶の電気装備に関する技術指導等、日本船舶電装協会、日本財団図書館
https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00139/contents/0050.htm
上記のサイトに記載されているように、従来の自動操舵装置では、微分舵(目標船首方位と実船首方位との偏差の微分値に微分ゲインを乗算したもの)は、船舶の動きを抑制するブレーキとして用いられていた。つまり、従来の自動操舵装置では、船舶の動きを抑制するブレーキを効かせる必要がある時に、微分ゲインがゼロより大きい値に設定され、船舶の動きを抑制するブレーキを効かせる必要がない時には、微分ゲインが基本的にゼロに設定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-230484号公報
【特許文献2】特許第5400506号公報
【特許文献3】特公昭63-47679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1には、実船首方位が急変する場合に微分ゲインをゼロよりも大きくする(詳細には、微分ゲインをゼロから増加させる)旨が記載されている。
ところが、本発明者等は、鋭意研究において、実船首方位が急変する場合ではなく、目標船首方位と実船首方位との偏差が所定の閾値以上である場合(詳細には、目標船首方位角が実船首方位角よりも所定の閾値以上大きい状態と実船首方位角が目標船首方位角よりも所定の閾値以上大きい状態とが交互に繰り返される場合)に、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算することによって、目標船首方位と実船首方位との偏差を所定の閾値未満に抑制できることを見い出したのである。
つまり、目標船首方位と実船首方位との偏差が所定の閾値以上である場合に微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量が加算されない特許文献1に記載された技術では、PID制御によって目標船首方位と実船首方位との偏差を適切に制御することができない。
【0008】
上述したように、特許文献2には、自動操舵装置が常に動作している状態にならないようにする技術について記載されている。
ところで、特許文献2には、PID制御について記載されていない。そのため、特許文献2に記載された技術では、PID制御によって目標船首方位と実船首方位との偏差を適切に制御することができない。
【0009】
上述したように、特許文献3には、船首方位誤差信号(目標船首方位と実船首方位との偏差)を微分することによって得られる信号が、偏差のオーバシュートを防止するために用いられる技術について記載されている。
ところで、特許文献3には、偏差のオーバシュートを防止するために微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算するのか、あるいは、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算するのかについて記載されていない。そのため、特許文献3に記載された技術では、PID制御によって目標船首方位と実船首方位との偏差を適切に制御することができない。
【0010】
上述したように、従来の自動操舵装置では、船舶の動きを抑制するブレーキを効かせる必要がない時、微分ゲインは基本的にゼロに設定されていた。
ところが、本発明者等は、上述したように、目標船首方位と実船首方位との偏差が所定の閾値以上である場合(すなわち、目標船首方位と実船首方位との偏差を小さくするために船舶を動かす必要がある時、すなわち、船舶の動きを抑制するブレーキを効かせる必要がない時)に、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算することによって、目標船首方位と実船首方位との偏差を所定の閾値未満に抑制できることを見い出したのである。
つまり、目標船首方位と実船首方位との偏差が所定の閾値以上である場合(すなわち、船舶の動きを抑制するブレーキを効かせる必要がない時)に微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量が加算されない従来の自動操舵装置では、PID制御によって目標船首方位と実船首方位との偏差を適切に制御することができない。
【0011】
また、本発明者等は、鋭意研究において、船舶が受ける外乱などの影響によって、PID制御により算出される例えば舵角指示値などのような指示値が大きく変化してしまう場合があることを見い出した。
PID制御により算出される指示値が大きく変化すると、船舶の実船首方位を目標船首方位に一致させて安定的に保持することが困難になるおそれがある。したがって、PID制御により算出される指示値が大きく変化してしまうことは避ける必要がある。
本発明者等は、鋭意研究において、指示値の変化量の評価値が所定の閾値以上である場合(すなわち、指示値の変化量を抑制する必要がある時)に微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算することによって、指示値の変化量を抑制できることを見い出したのである。
つまり、指示値の変化量の評価値が所定の閾値以上である場合(すなわち、指示値の変化量を抑制する必要がある時)に微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量が減算されない従来の自動操舵装置では、PID制御によって指示値の変化量を適切に制御することができない。
【0012】
上述した問題点に鑑み、本発明は、PID制御によって目標船首方位と実船首方位との偏差を適切に制御することができる船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラムを提供することを目的とする。
また、本発明は、PID制御によって指示値の変化量を適切に制御することができる船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータと、船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出部と、目標船首方位取得部と船首方位偏差算出部とPID制御部とゲイン設定部とを有する船首方位制御装置とを備え、前記船首方位偏差算出部は、前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と前記船首方位検出部によって検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出し、前記PID制御部は、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出し、前記ゲイン設定部は、前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行い、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、船舶である。
【0014】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータと、船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出部と、目標船首方位取得部と船首方位偏差算出部とPID制御部とゲイン設定部とを有する船首方位制御装置とを備え、前記船首方位偏差算出部は、前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と前記船首方位検出部によって検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出し、前記PID制御部は、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出し、前記ゲイン設定部は、前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行い、前記PID制御部によって算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、船舶である。
【0015】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御方法であって、前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを備え、前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、船首方位制御方法である。
【0016】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御方法であって、前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを備え、前記PID制御ステップにおいて算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、船首方位制御方法である。
【0017】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御装置であって、目標船首方位取得部と、前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出部と、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御部と、前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定部とを備え、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、船首方位制御装置である。
【0018】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータを備える船舶の船首方位制御装置であって、目標船首方位取得部と、前記目標船首方位取得部によって取得された目標船首方位と実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出部と、前記船首方位偏差算出部によって算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御部と、前記PID制御に用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定部とを備え、前記PID制御部によって算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、前記ゲイン設定部は、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、船首方位制御装置である。
【0019】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータを備える船舶に搭載されたコンピュータに、前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを実行させるためのプログラムであって、前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差が第1閾値以上である場合に、前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する、プログラムである。
【0020】
本発明の一態様は、舵部を有するアクチュエータを備える船舶に搭載されたコンピュータに、前記船舶の船首の実際の方位である実船首方位を検出する船首方位検出ステップと、目標船首方位を取得する目標船首方位取得ステップと、前記目標船首方位取得ステップにおいて取得された目標船首方位と前記船首方位検出ステップにおいて検出された実船首方位との差である船首方位偏差を算出する船首方位偏差算出ステップと、前記船首方位偏差算出ステップにおいて算出された船首方位偏差から、PID制御により前記アクチュエータに対する指示値を算出するPID制御ステップと、前記PID制御ステップにおいて用いられる比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインのうちの少なくとも微分ゲインの設定を行うゲイン設定ステップとを実行させるためのプログラムであって、前記PID制御ステップにおいて算出された指示値の変化量の評価値が第2閾値以上である場合に、前記ゲイン設定ステップでは、微分ゲインの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する、プログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PID制御によって目標船首方位と実船首方位との偏差を適切に制御することができる船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラムを提供することができる。
また、本発明によれば、PID制御によって指示値の変化量を適切に制御することができる船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態の船舶の一例を概略的に示す図である。
図2】第1実施形態の船舶におけるデータの流れなどの一例を示す図である。
図3】本発明者等の研究結果の一部を示す図である。
図4】本発明者等の研究結果の他の一部を示す図である。
図5】第1の実施形態の船舶において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図6図5に示すステップS18において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、本発明の船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラムの第1実施形態について説明する。
【0024】
図1は第1実施形態の船舶1の一例を概略的に示す図である。図2は第1実施形態の船舶1におけるデータの流れなどの一例を示す図である。
図1および図2に示す例では、第1実施形態の船舶1が、例えば特許第5196649号公報の図1に記載された水上オートバイ(PWC(パーソナルウォータークラフト))などのような船舶である。船舶1は、操作部11と、アクチュエータ12と、船首方位検出部13と、船首方位制御装置14とを備えている。
操作部11は、例えば操舵部11Aと、スロットル操作部11Bと、目標船首方位設定部11Cとを備えている。操舵部11Aは、後述する舵部12Aを作動させる操船者の入力操作を受け付ける。スロットル操作部11Bは、後述する推力発生部12Bを作動させる操船者の入力操作を受け付ける。目標船首方位設定部11Cは、船舶1の船首1A(図2参照)の目標の方位である目標船首方位を設定する。目標船首方位設定部11Cは、操船者の入力操作(例えばスイッチ(図示せず)をONする操作など)に応じて船舶1の目標船首方位を設定する。
アクチュエータ12は、舵部12Aと、推力発生部12Bとを備えている。舵部12Aは、船舶1に回頭モーメントを発生させる機能を有する。推力発生部12Bは、船舶1の推進力を発生する機能を有する。
船首方位検出部13は、船舶1の船首1Aの実際の方位である実船首方位を検出する。船首方位検出部13は、例えば方位センサを備えている。方位センサは、例えば地磁気を利用することによって、船舶1の実船首方位を算出する。
他の例では、方位センサが、高速回転するジャイロスコープに指北装置と制振装置とを付加し、常に北を示すようにした装置(ジャイロコンパス)であってもよい。
更に他の例では、方位センサが、複数のGPS(Global Positioning System)アンテナを備え、複数のGPSアンテナの相対的な位置関係から船首方位を算出するGPSコンパスであってもよい。
【0025】
図1および図2に示す例では、船首方位制御装置14が、目標船首方位取得部14Aと、実船首方位取得部14Bと、船首方位偏差算出部14Cと、PID制御部14Dと、ゲイン設定部14Eとを備えている。
目標船首方位取得部14Aは、例えば、図2に示すように、目標船首方位設定部11Cが操船者の入力操作に応じて船舶1の目標船首方位を設定するタイミングで船首方位検出部13によって検出された実船首方位を、目標船首方位として取得する。
他の例では、目標船首方位取得部14Aが、例えば操船者によって数値入力された船首方位角などを、目標船首方位として取得してもよい。
【0026】
図1および図2に示す例では、実船首方位取得部14Bが、船首方位検出部13によって検出された例えば現在時刻の実船首方位を、船首方位制御装置14による制御に用いられる実船首方位として取得する。
船首方位偏差算出部14Cは、目標船首方位取得部14Aによって取得された目標船首方位と船首方位検出部13によって検出された実船首方位(詳細には、実船首方位取得部14Bによって取得された実船首方位)との差である船首方位偏差を算出する。
PID制御部14Dは、船首方位偏差算出部14Cによって算出された船首方位偏差から、PID制御によりアクチュエータ12に対する指示値STRを算出する。詳細には、PID制御部14Dは指示値STRを所定時間間隔で算出する。具体的には、PID制御部14Dが、例えば下記の式に基づいて指示値STRを算出する。下記の式において、Kpは比例ゲインを示しており、Kiは積分ゲインを示しており、Kdは微分ゲインを示している。
【0027】
STR=Kp×船首方位偏差+Ki×船首方位偏差の積分値+Kd×船首方位偏差の微分値
【0028】
図1および図2に示す例では、ゲイン設定部14Eが、船首方位偏差算出部14Cによって算出された船首方位偏差と、PID制御部14Dによって算出された指示値STRとに基づいて、PID制御に用いられる比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの設定を行う。
他の例では、ゲイン設定部14Eが微分ゲインKdの設定のみを行い、比例ゲインKpおよび積分ゲインKiが、例えば操船者などによって設定されたり、固定値に設定されたりしてもよい。
【0029】
図1および図2に示す例では、ゲイン設定部14Eが、変化量算出部14E1と、評価値算出部14E2とを備えている。上述したように、PID制御部14Dは指示値STRを所定時間間隔で算出する。
変化量算出部14E1は、例えば時刻tにPID制御部14Dによって算出された指示値STRと、時刻tよりも所定時間だけ前の時刻(つまり、時刻(t-1))にPID制御部14Dによって算出された指示値STRt-1との差である指示値STRの変化量|STR-STRt-1|を算出する。つまり、PID制御部14Dの変化量算出部14E1によって算出される指示値STRの変化量|STR-STRt-1|は、PID制御部14Dによって今回算出される指示値STRと、PID制御部14Dによって前回算出された指示値STRt-1との差である。
評価値算出部14E2は、変化量算出部14E1によって算出された指示値STRの変化量|STR-STRt-1|の評価値Eを算出する。詳細には、評価値算出部14E2は、下記の式に基づいて指示値STRの変化量の評価値Eを算出する。
【0030】
【数1】
【0031】
すなわち、上記の式によって表される指示値STRの変化量の評価値Eは、PID制御部14Dによって算出された指示値STRの変化量|STRt-k-STRt-k-1|を、現在時刻(k=0)から、予め設定された時間(k=n)さかもどって積算した値に対応する値である。
【0032】
図3は本発明者等の研究結果の一部を示す図である。換言すれば、図3は第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14の船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差の時間波形、PID制御部14Dによって算出される指示値STRの時間波形などの一例を示す図である。詳細には、図3(A)は図3の横軸で示す期間中における比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdを「P」、「I」および「D」で示している。図3(B)はPID制御部14Dによって算出される指示値STRの時間波形などを示している。図3(C)は船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差の時間波形などを示している。
図3に示す例では、時刻t11以降に第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御が行われ、時刻t11以前においては上述した従来の自動操舵装置による自動操舵と同様の制御が行われている。
時刻t11以前においては、つまり、上述した従来の自動操舵装置による自動操舵と同様の制御が行われる場合(微分ゲインKdが例えばゼロに固定される場合)には、波、風、潮流などの外乱、波、風、潮流などの強さが絶えず変化すること等が原因で、船首方位偏差(図3(C)参照)が閾値TH1(図3(C)参照)より大きくなってしまう。詳細には、目標船首方位角が実船首方位角より閾値TH1以上大きい状態(例えば実船首方位が目標船首方位よりも左側を向いた状態)と実船首方位角が目標船首方位角より閾値TH1以上大きい状態(例えば実船首方位が目標船首方位よりも右側を向いた状態)とが交互に繰り返されてしまう。また、従来の自動操舵装置による自動操舵と同様の制御では、指示値として、比例ゲインKpと船首方位偏差(図3(C)参照)との積が算出されるため、指示値の時間波形(図3(B)参照)も、船首方位偏差の時間波形(図3(C)参照)と同様に、増減を繰り返してしまう。
【0033】
時刻t11以降においては、第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御が行われる。
詳細には、時刻t11~時刻t12の期間中、船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差(図3(C)参照)が閾値TH1未満であるため、ゲイン設定部14Eは、微分ゲインKdの現在値に微分ゲイン増加補正量(例えば「0.01」)を加算することなく、微分ゲインKdの値を「3」に維持する(図3(A)参照)。その結果、船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差(図3(C)参照)は、目標船首方位角が実船首方位角より閾値TH1以上大きい状態(例えば実船首方位が目標船首方位よりも左側を向いた状態)から、実船首方位角が目標船首方位角より閾値TH1以上大きい状態(例えば実船首方位が目標船首方位よりも右側を向いた状態)に遷移しようとする。
【0034】
次いで、時刻t12~時刻t13の期間中、船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差(図3(C)参照)が閾値TH1以上になる。詳細には、実船首方位角が目標船首方位角より閾値TH1以上大きい状態(例えば実船首方位が目標船首方位よりも右側を向いた状態)になる。
そこで、第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御では、ゲイン設定部14Eは、微分ゲインKdの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算する処理を例えば所定時間間隔で実行する。その結果、微分ゲインKdの値が「3」から「8」まで増加する。
従って、第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御では、時刻t13以降の期間中に、船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差(図3(C)参照)を閾値TH1未満にすることができる。
詳細には、時刻t13以降の期間中、船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差(図3(C)参照)が閾値TH1未満であるため、ゲイン設定部14Eは、微分ゲインKdの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算することなく、微分ゲインKdの値が「8」に維持される(図3(A)参照)。
【0035】
図3に示すように、第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御を行うことによって船首方位偏差(図3(C)参照)を適切に制御できることを、本発明者等の研究において確認することができた。
つまり、本発明者等は、船首方位偏差(図3(C)参照)が閾値TH1以上である場合に、微分ゲインKd(図3(A)参照)の現在値に微分ゲイン増加補正量を加算することによって、船首方位偏差を閾値TH1未満に抑制できることを見い出した。
【0036】
図4は本発明者等の研究結果の他の一部を示す図である。換言すれば、図4は第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14の船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差の時間波形、PID制御部14Dによって算出される指示値STRの時間波形などの他の例を示す図である。詳細には、図4(A)は図4の横軸で示す期間中における比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdを「P」、「I」および「D」で示している。図4(B)はPID制御部14Dによって算出される指示値STRの時間波形などを示している。図4(C)は船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差の時間波形などを示している。
【0037】
図4に示す例では、時刻t21以前の期間中、第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御が行われ、ゲイン設定部14Eが、微分ゲインKdを「16」より大きい値まで増加させることによって、船首方位偏差算出部14Cによって算出される船首方位偏差(図4(C)参照)が閾値TH1未満になった。
【0038】
本発明者等は、船舶1が受ける外乱などの影響により、時刻t21~時刻t22の期間中のように、PID制御部14Dによって算出される指示値STR(図4(B)参照)が大きく変化してしまう場合があることを、鋭意研究において確認した。
更に、本発明者等は、微分ゲインKd(図4(A)参照)の現在値から微分ゲイン減少補正量(例えば「0.1」)を減算する処理を、時刻t21~時刻t22の期間中のように実行することにより、PID制御部14Dによって算出される指示値STR(図4(B)参照)が大きく変化することを抑制できることを、鋭意研究において見い出した。
【0039】
そこで、第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御では、PID制御部14Dによって算出された指示値STR(図4(B)参照)の変化量の評価値Eが閾値TH2以上である場合、ゲイン設定部14Eは、微分ゲインKdの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する処理を実行する。
【0040】
図4に示す例では、時刻t21に、PID制御部14Dによって算出された指示値STR(図4(B)参照)の変化量の評価値Eが閾値TH2以上である。そのため、ゲイン設定部14Eは、PID制御部14Dによって算出された指示値STR(図4(B)参照)の変化量の評価値Eが閾値TH2未満である状態(時刻t22の状態)になるまで、微分ゲインKd(図4(A)参照)の現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する処理を繰り返し実行することによって、微分ゲインKdを「16」より大きい値から「8」まで減少させる。
その結果、図4に示す例では、時刻t22以降の期間中に、指示値STR(図4(B)参照)が大きく変化することを抑制することができる。
【0041】
図4に示すように、第1実施形態の船舶1の船首方位制御装置14による制御を行うことによって、指示値STR(図4(B)参照)が大きく変化することを抑制できることを、本発明者等の研究において確認することができた。
つまり、本発明者等は、微分ゲインKd(図4(A)参照)の現在値から微分ゲイン減少補正量を減算する処理を実行することにより、PID制御部14Dによって算出される指示値STR(図4(B)参照)が大きく変化することを抑制できることを見い出した。
【0042】
図5は第1の実施形態の船舶1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図5に示す例では、ステップS11において、目標船首方位設定部11Cが、船舶1の目標船首方位を設定する。
また、ステップS12では、船首方位検出部13が、ステップS11において目標船首方位が設定されたタイミングで、船舶1の実船首方位を検出する。
次いで、ステップS13では、目標船首方位取得部14Aが、ステップS12において検出された実船首方位を船舶1の目標船首方位として取得する。
【0043】
また、ステップS14では、船首方位検出部13が、船舶1の実船首方位を検出する。
次いで、ステップS15では、実船首方位取得部14Bが、ステップS14において検出された船舶1の実船首方位を、船首方位制御装置14による制御に用いられる船舶1の実船首方位として取得する。
【0044】
次いで、ステップS16では、船首方位偏差算出部14Cが、ステップS13において取得された目標船首方位とステップS14において検出された実船首方位(詳細には、ステップS15において取得された実船首方位)との差である船首方位偏差を算出する。
次いで、ステップS17では、PID制御部14Dが、PID制御を実行する。詳細には、PID制御部14Dが、ステップS16において算出された船首方位偏差から、アクチュエータ12に対する指示値STRを算出する。
また、ステップS18では、ゲイン設定部14Eが、ステップS16において算出された船首方位偏差と、ステップS17において算出された指示値STRとに基づいて、PID制御に用いられる比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの設定を行う。
【0045】
図6図5に示すステップS18において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図6に示す例では、ステップS18Aにおいて、ゲイン設定部14Eは、ステップS16において算出された船首方位偏差が閾値TH1以上であるか否かを判定する。船首方位偏差が閾値TH1以上である場合にはステップS18Bに進み、船首方位偏差が閾値TH1未満である場合にはステップS18Cに進む。
【0046】
ステップS18Bでは、ゲイン設定部14Eが、微分ゲインKdの現在値に微分ゲイン増加補正量を加算し、ステップS18Cに進む。
【0047】
ステップS18Cでは、評価値算出部14E2が、ステップS17において算出された指示値STRの変化量の評価値Eを算出する。また、ステップS18Cにおいて、ゲイン設定部14Eは、指示値STRの変化量の評価値Eが閾値TH2以上であるか否かを判定する。指示値STRの変化量の評価値Eが閾値TH2以上である場合にはステップS18Dに進み、指示値STRの変化量の評価値Eが閾値TH2未満である場合にはステップS18Eに進む。
【0048】
ステップS18Dでは、ゲイン設定部14Eが、微分ゲインKdの現在値から微分ゲイン減少補正量を減算し、ステップS18Eに進む。
【0049】
ステップS18Eでは、ゲイン設定部14Eが、図6に示すルーチンを終了するか否かを判定する。NOの場合にはステップS18Aに戻り、YESの場合には図6に示すルーチンを終了する。
【0050】
<第2実施形態>
以下、本発明の船舶、船首方位制御方法、船首方位制御装置およびプログラムの第2実施形態について説明する。
第2実施形態の船舶1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の船舶1と同様に構成されている。従って、第2実施形態の船舶1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の船舶1と同様の効果を奏することができる。
【0051】
上述したように、第1実施形態の船舶1は、PWCなどのような船舶である。
一方、第2実施形態の船舶1は、PWC以外の船舶である。詳細には、第2実施形態の船舶1の第1例では、第2実施形態の船舶1が、例えば特許第3118475号公報に記載された小型船舶などのような小型船舶である。
第2実施形態の船舶1の第2例では、第2実施形態の船舶1が、例えば特許第6198192号公報、特開2007-22284号公報などに記載された船外機を装備した船舶などのような船外機付き船舶である。
第2実施形態の船舶1の第3例では、第2実施形態の船舶が、船内外機または船内エンジンを備える船舶である。
第2実施形態の船舶1の第4例では、第2実施形態の船舶が、サイドスラスタを備える大型船舶である。
【0052】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0053】
なお、上述した実施形態における船舶1が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0054】
1…船舶、1A…船首、11…操作部、11A…操舵部、11B…スロットル操作部、11C…目標船首方位設定部、12…アクチュエータ、12A…舵部、12B…推力発生部、13…船首方位検出部、14…船首方位制御装置、14A…目標船首方位取得部、14B…実船首方位取得部、14C…船首方位偏差算出部、14D…PID制御部、14E…ゲイン設定部、14E1…変化量算出部、14E2…評価値算出部、Kp…比例ゲイン、Ki…積分ゲイン、Kd…微分ゲイン、STR…指示値
図1
図2
図3
図4
図5
図6