(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088882
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】ブライン凍結機及びブライン凍結法
(51)【国際特許分類】
F25D 3/10 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
F25D3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201000
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】520477533
【氏名又は名称】株式会社トライアングル
(71)【出願人】
【識別番号】501376338
【氏名又は名称】株式会社エイディーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】小谷 幸敏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 愛
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 稔拓
(72)【発明者】
【氏名】三好 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】下田 一喜
【テーマコード(参考)】
3L044
【Fターム(参考)】
3L044AA04
3L044BA04
3L044CA04
3L044DB02
3L044FA01
3L044HA01
3L044JA01
3L044KA03
3L044KA04
(57)【要約】
【課題】本発明は、一般的な飲食店においても、簡単に凍結処理と、解凍処理の両方が実現できるブライン凍結機を提供すること、また、ブライン凍結法により魚を凍結する場合にパウチ機を必要としないことで、凍結対象物を簡単にブライン凍結することができるブライン凍結法を提供することを目的とする。
【解決手段】ブライン凍結機100は、凍結対象物であるフィレFをブライン液である第1浸漬液13に浸漬し、ブライン凍結させるための第1浸漬槽11と、凍結物を第2浸漬液14に浸漬させて解凍するための第2浸漬槽12と、からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結対象物を不凍液であるブライン液に浸漬し、前記凍結対象物をブライン凍結させるための第1浸漬槽と、
凍結物を浸漬液に浸漬させるための第2浸漬槽と、からなることを特徴とするブライン凍結機。
【請求項2】
前記第2浸漬槽は、前記凍結対象物の冷凍前の水分抜き兼冷却処理を行う槽であることを特徴とする請求項1に従属のブライン凍結機。
【請求項3】
第1浸漬槽には、前記ブライン液を直接撹拌する撹拌手段が設けられていることを特徴とする請求項1に従属する従属のブライン凍結機。
【請求項4】
凍結対象物を不凍液であるブライン液に浸漬し、前記凍結対象物をブライン凍結するブライン凍結法において、
前記凍結対象物を袋に入れる包装工程、
前記凍結対象物の入った前記袋の袋口を開口状態として前記ブライン液に浸漬する浸漬工程、
からなることを特徴とするブライン凍結法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブライン凍結機及びブライン凍結法に関し、詳しくは、凍結対象物をブライン凍結させるための第1浸漬槽と、凍結物を浸漬液に浸漬させるための第2浸漬槽とからなるブライン凍結機、及び、凍結対象物をブライン凍結するブライン凍結法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者の一人が発表者でもある鳥取県産業技術センターが発表している非特許文献1の『冷解凍熟成新鮮魚』のように、急速冷凍した後、短時間に解凍した刺身は、冷凍前の魚に比べて美味しくなることが知られている。
【0003】
つまり、魚は鮮度がよければ美味しいと一般的には認識されているかもしれないが、実際には、急速な凍結処理を行い、適切な解凍処理を行うことができれば魚は美味しくなる。
【0004】
そして、本発明者は、一般的な飲食店においても『冷解凍熟成新鮮魚』のような知識や技術が広く普及することを願っている。また、凍結して冷凍保存しても美味しいということであれば、例えば旬の時期の魚を冷凍保存しておくことで、旬の時期を過ぎた後でも手軽に美味しい魚を食べることもできるので、魚の消費という面でも非常に好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小谷幸敏・加藤愛・本多美恵・遠藤路子,「おいしさを指標にした新たな冷解凍熟成新鮮魚の開発」,鳥取県産業技術センター研究報告,地方独立行政法人鳥取県産業技術センター,平成29年3月,第19巻,p.21-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように『冷解凍熟成新鮮魚』のような知識や技術が広く飲食店にも普及するには、飲食店においても、凍結処理と、解凍処理の両方が簡単に行える必要がある。
【0008】
急速な凍結処理の方法としては、従来からブライン凍結が知れている。ブライン凍結とは不凍液であるブライン液の中に魚を漬けて凍結させるものであり、凝固熱で温度の低下が緩くなる最大氷結晶生成温度帯を素早く過ぎるように、-20℃~-40℃の低温で急速冷凍するものである。
【0009】
従来、一般的な飲食店においては、魚を凍結する場合には、店内の冷凍庫を利用するか、或いは、専門の加工業者から適切に凍結処理された冷凍魚を購入するしかなかった。
【0010】
しかし、店内の冷凍庫を利用したのでは、急速な凍結処理を行うことができないため、理想とする『冷解凍熟成新鮮魚』を実現することはできない。また、例えば、特許文献1のようなブライン凍結機も知られているが、これは冷凍加工業者が使用するような装置であり、当然ながら飲食店に簡単に設置できるような装置ではない。
【0011】
また、ブライン凍結法により魚を凍結する場合、通常パウチ加工が必要となるため、別途パウチ機(真空包装機)が必要となってしまう。なお、パウチ加工は、魚がブライン液に直接触れることを防止する目的、酸欠状態にして菌の増殖を防止する目的、断熱の役割を果たしてしまう空気を抜く目的等のために必要となる。
【0012】
また、専門の冷凍加工業者から適切に凍結処理された冷凍魚を入手したとしても、適切な解凍処理ができなければ、理想とする『冷解凍熟成新鮮魚』を実現することはできない。とくに、一般的な飲食店において冷凍魚の解凍は、冷凍魚の周りを吸水性のある紙で包み、冷蔵庫の中に長時間放置するという、所謂緩慢解凍が行われている。しかし、緩慢解凍では、解凍中に魚の旨味が出てしまうというような問題がある。また、別の解凍方法もいろいろあるかもしれないが、何れも専門的な知識や技術が必要となっている。
本発明は、例えば、一般的な飲食店においても、
簡単に凍結処理と、解凍処理の両方が実現できるブライン凍結機を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、ブライン凍結法により魚を凍結する場合にパウチ機を必要としないことで、凍結対象物を簡単にブライン凍結することができるブライン凍結法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の一つの態様に係るブライン凍結機は、凍結対象物を不凍液であるブライン液に浸漬し、前記凍結対象物をブライン凍結させるための第1浸漬槽と、凍結物を浸漬液に浸漬させるための第2浸漬槽と、からなることを特徴とする。
【0015】
これにより、第1浸漬槽では凍結対象物をブライン凍結させ、第2浸漬槽では既に凍結している凍結物に対して浸漬液を用いた解凍処理を行うことができる。したがって、一般的な飲食店においても、簡単に凍結処理と解凍処理の両方を実現することができる。
そして、簡単に凍結処理と解凍処理の両方を実現できることで、本発明者が望む『冷解凍熟成新鮮魚』のような知識や技術が広く普及することにもなる。
【0016】
また、本発明のブライン凍結機においては、前記第2浸漬槽は、前記凍結対象物の冷凍前の水分抜き兼冷却処理を行う槽であることを特徴とする。
冷凍前の水抜きや冷却処理は、第1浸漬槽で行うブライン凍結による凍結処理の前に行われる前処理のことであり、この前処理を行うことで、第1浸漬槽におけるブライン凍結を効率的に行うことができる。また、前処理の際に凍結対象物から凍結前の余分な水分が抜けた状態となるため、美味しさが増した状態(旨味が濃くなった状態)で凍結処理を行うことができる。また、第2浸漬槽を使うことから浸漬液の圧力によって、余分な水分を多く、早く抜くことができる。
【0017】
また、本発明のブライン凍結機においては、前記第1浸漬槽には、前記ブライン液を直接撹拌する撹拌手段が設けられていることを特徴とする。
ブライン液として、粘性が非常に高いもの(具体的には、プロピレングリコール)を用いる場合、ブライン液内での温度分布を均一にしておくために、ポンプを用いた液循環では高性能のポンプが必要となりブライン凍結機の高額化と熱発生を招くことになる。一方、直接撹拌する撹拌手段であれば高額化を抑えることができる。なお、第2浸漬槽も同様の撹拌手段が備わっていてもよい。また、この直接撹拌する撹拌手段の具体例としては、モータと、槽内に設置されモータにより回転する撹拌羽根である。
【0018】
本発明のブライン凍結法は、凍結対象物を不凍液であるブライン液に浸漬し、前記凍結対象物をブライン凍結するブライン凍結法において、前記凍結対象物を袋に入れる包装工程、前記凍結対象物の入った前記袋の袋口を開口状態として前記ブライン液に浸漬する浸漬工程、からなることを特徴とする。
【0019】
袋の袋口を開口状態で浸漬することで、ブライン液の液圧によって袋内の空気を除去することができ、これにより凍結対象物を減圧包装した状態でブライン凍結を行うことができる。このため、わざわざパウチ機を準備する必要がないため、真空に近い状態を簡単に実現できるので、簡単に凍結処理を行うことでき、また、パウチ機の設備費と設置場所を削減することができる。
【0020】
なお、本発明者が実際に凍結対象物(具体的には、約75~90gで厚さ25~27mmのアジ)を真空包装した場合と、本工程により減圧包装した場合とで、ブライン凍結を行ったところ、凍結対象物の中心部の最大氷結晶生成帯の通過時間は、真空包装で4分52秒、本工程による減圧包装で4分55秒と、ほとんど違いはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Aは本発明の実施形態のブライン凍結機の主要な構成を示す斜視図であり、Bはブライン凍結機の平面図である。
【
図2】Aは実施形態の袋入れを示す斜視図であり、Bは
図1BのIIB~IIB断面における袋内の状態を示す断面図である。
【
図3】実施形態のブライン凍結方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0023】
[実施形態]
図1、
図2を用いて実施形態のブライン凍結機100の要部の構成を説明する。ブライン凍結機100は、凍結対象物をブライン凍結させるための第1浸漬槽11と、凍結物を浸漬液に浸漬させるための第2浸漬槽12と、からなる。より詳しくは、ブライン凍結機100は、凍結槽として用いる第1浸漬槽11と解凍槽として用いる第2浸漬槽12が一体になった凍結機本体1と、第1浸漬槽11に入れられる第1浸漬液13と、第2浸漬槽12に入れられる第2浸漬液14と、第1浸漬液13と第2浸漬液14を攪拌するそれぞれの攪拌手段15と、温度調節や電源ON/OFF等の操作を行う操作手段16と、を備えている。
【0024】
また、ブライン凍結機100は、付属品として、内袋2と、外袋3と、内袋2と外袋3を保持する袋保持具4と、第1錘51と第2錘52の錘5と、を備えている。
【0025】
なお、
図1A、
図1Bのブライン凍結機100の図は、第1浸漬槽11及び第2浸漬槽12にまだ内袋2と外袋3が入っていない状態である。
図2Aは、内袋2に凍結対象物である生食用の魚のフィレFが、外袋3にこの内袋2と共に第1錘51と第2錘52が入れられている状態を示す斜視図である。
図2Bは第1浸漬槽11に浸漬されたフィレF入りの内袋2と外袋3を示す断面図である。
【0026】
図1に示す凍結機本体1の寸法は、768.8mm(幅)×508.8mm(奥行)×911.5mm(高さ)となっており、ブライン凍結機100は、飲食店の厨房に設置し易いサイズとなっている。また、第1浸漬槽11と第2浸漬槽12の挿入口111、121の寸法は、200mm(幅)×300mm(奥行)となっており、一般的な飲食店で扱うには十分なフィレFの大きさが出し入れし易いサイズになっている。
【0027】
第1浸漬槽11は、図示していない冷却機構により第1浸漬液13を0℃~-30℃の範囲で温度調整できる凍結用の槽である。ここに入れられる第1浸漬液13は、具体的にはプロピレングリコール水溶液(60%)である。なお、この凍結用の第1浸漬液13は不凍液であり、ブライン液と呼ばれる。
【0028】
ところで、一般的にはブライン液としてエチルアルコールが使用されるが、エチルアルコールは引火性が高いことから、飲食店の厨房での使用に適していない。また、引火性のないブライン液としては、30%塩化カルシウム溶液等の高濃度無機塩溶液があるが、高濃度無機塩溶液は金属類の腐食性が高く、装置に使用できる機材に大きな制限がかかり、装置全体が高額になるばかりではなく、装置寿命が短いという欠点がある。また、皮膚に触れると炎症を起こすといった危険性も生じる。そこで、本実施形態ではプロピレングリコール水溶液を使用している。ブライン液として使用されるプロピレングリコール水溶液(50~70%)であれば、引火のおそれは低く、また、金属腐食性が無く、無色無臭のやや粘調な液体の二価アルコールであり、食品に使用されるほど毒性が非常に低い。
【0029】
第2浸漬槽12は、第2浸漬液14を10℃~0℃の範囲で温度調整できる解凍用の槽である。第2浸漬槽12は、凍結対象物ではなく、既に凍結している凍結物(解凍対象物)の解凍に用いられる。なお、この凍結物(解凍対象物)は、第1浸漬槽11で凍結された物に限定するわけではなく、別手段によって凍結された物でも構わない。
【0030】
この第2浸漬槽12に入れられる第2浸漬液14は、0℃以下での使用はないので、具体的には水である。なお、第2浸漬槽12は、第1浸漬槽11と同様に図示していない冷却機構を備えているが、水温が低い場合に備え加熱機構を更に備える構成を採用することもできる。また、適切な水温の水を別に準備することで、冷却機構を備えない構成を採用することもできる。
【0031】
また、この第2浸漬槽12は、上記の解凍用の槽としての利用だけでなく、第1浸漬槽11で行う凍結の前に、凍結対象物であるフィレFの水抜き処理や予備冷却処理を行う前処理用の槽としても使用される。なお、この前処理の詳細については後述する。
【0032】
攪拌手段15は、モータによって回転する撹拌羽根(
図2B)を備え、第1浸漬槽11の第1浸漬液13と第2浸漬槽12の第2浸漬液14を羽根によって直接攪拌する。撹拌手段15は、槽内の浸漬液の温度を均一にし、また、凍結対象物(及び解凍対象物)の熱交換性を高めるたに、浸漬液を撹拌するためのものである。そして、攪拌手段15による攪拌で、凝固熱のために温度の低下が遅い最大氷結晶生成温度帯(0℃~-5℃)を素早く過ぎることができるので、凍結対象物の組織破壊を抑えることができる。
【0033】
なお、撹拌手段15の具体例としてモータと羽根の構成を説明したが、本実施形態のように第1浸漬槽11の第1浸漬液13としてプロピレングリコールを用いる場合には、この構成が好ましい。撹拌手段15としては、例えばポンプを用いて浸漬液を循環させる構成もあるが、プロピレングリコールは低温では粘性が高くなることから、この構成では高性能なポンプが必要となりコストアップのおそれがある。また、撹拌手段15は、第1浸漬槽11と、第2浸漬槽12とで異なる構成を採用しても構わない。
【0034】
ブライン凍結機100の付属品である内袋2には、
図2Aに示すように、凍結対象物であるフィレFが入れられる。内袋2は、上部に袋口21を有する柔軟性のある袋であり、例えば、市販されている薄手のポリエチレン袋である。そして、外袋3には、フィレF入りの内袋2と、第1錘51と第2錘52の錘5が入れられる。
【0035】
この外袋3は、上部に袋口31を有する柔軟性のある袋であり、プロピレングリコール水溶液に耐える材質であり、本実施形態では、内袋2と同じ、市販されている薄手のポリエチレン袋である。
【0036】
第1錘51と第2錘52の錘5は、熱伝導性の良い材質の板金(例えばアルミニウム)であり、
図2BのようにフィレFを挟むように配設される。また、第1錘51と第2錘52のフィレF側の面は、フィレFからはみ出ないような大きさとなっている。錘5がフィレFより大きくなってしまうと、第1錘51と第2錘52との間に空気層からなる隙間ができてしまうことがある。そして空気層ができることで、熱交換性を低下させてしまうことから、錘5の大きさは本実施形態のようにフィレFよりも小さくしておくことが好ましい。
【0037】
なお、本実施形態では錘5は、第1錘51と第2錘52の2つであるが、1つだけ或いはより多くの錘を用いても構わない。ただし、錘が1つだと錘だけが沈みフィレFは浮いてしまうことがあるので、錘の形状等に注意する必要がある。
【0038】
袋保持具4は、
図1に示すように、保持金具41とクリップ42で構成されている。保持金具41は、第1浸漬槽11や第2浸漬槽12の挿入口111、121の奥行方向を跨いで配置され、中央部に開口部411を有する金属製の道具である。そして、この開口部411にフィレF入りの内袋2が入った外袋3が入れられる。そして、
図2Bに示すように、内袋2と外袋3の袋口21、31が開口した状態で保持金具41にクリップ42で保持される。
【0039】
なお、本実施形態においては、保持金具41は、
図1に示すように凍結機本体1の平坦な天面に単に配置されている構成となっている。しかしながら、ブライン凍結機100は、例えば、凍結機本体1の天面に凸部や凹部を設けておき、設置された保持金具41の移動を規制したり、凍結機本体1に保持金具41の固定手段を設けておいたりしても構わない。また、クリップ42は、内袋2と外袋3を保持金具41に固定しておくためのものであり、必ずしもクリップ42に限定されるわけではない。クリップ42ではなく保持金具41自体に、例えばフックの様な固定構造が形成されていても構わない。
【0040】
このようにブライン凍結機100の付属品を用いて凍結対象物であるフィレFは、第1浸漬槽11の第1浸漬液13内に入れられることになる。この時、
図2Bに示すように、内袋2と外袋3の袋口21、31は袋保持具4により開いている開口状態となっている。したがって、第1浸漬液13にフィレFを浸漬していく過程で、第1浸漬液13の液圧によって内袋2と内袋3内の空気が徐々に排出されていく。そして、第1浸漬液13内でフィレFは、
図2Bに示すように袋2と内袋3内の空気が排出された減圧包装の状態になる。このようにブライン凍結機100は、別途パウチ機を準備しなくても、真空に近い状態を簡単に実現できるので、真空包装に近い熱交換率を実現できるだけでなく、パウチ機の設備費と設置場所を削減することができる。
【0041】
また、第1浸漬液13の比重は、水よりも高く(比重1.038g/cm3)、単に内袋2にフィレFだけを入れて浸漬したのでは、袋ごとフィレFが浮いてしまうことになる。しかしながら、錘5が外袋3に入れられているために、フィレFを第1浸漬液13に浸漬しておくことができる。また、錘5は第1錘51と第2錘52からなるので、第1浸漬液13の液圧によって、第1錘51と第2錘52がフィレFを挟み込むことになり、フィレFが浮き上がるのを確実に防止することができる。
【0042】
また、本実施形態においては、内袋2と外袋3という二重構造の袋を用いて第1浸漬槽11の第1浸漬液13内への浸漬を行っている。したがって、仮に内袋2や外袋3の一方に破損が生じたとしても、フィレFに第1浸漬液13が付着することを防止することができる。また、内袋2が破損したとしても、フィレFからのエキス成分が第1浸漬液13に混ざることもないので、衛生面でも好ましい。
【0043】
また、外袋3に破損がなければ、内袋2の表面には第1浸漬液13であるプロピレングリコールは付着していないので、凍結したフィレFを取り出す際に、内袋2に入ったまま取り出し、この状態でそのまま冷凍庫内で保存しておくこともできる。
【0044】
ところで、プロピレングリコールは、厨房の床にこぼれると、床表面が滑り易くなることから、厨房内での作業事故につながる心配もある。したがって、第1浸漬液13内で凍結したフィレFを取り出すときは、外袋3と第1錘51と第2錘52はそのままにして、内袋2だけ取り出す方がよい。特にプロピレングリコールは低温では粘性が高まることから外袋3の表面に付着し易いが、内袋2だけを取り出すことで外袋3の表面に付着している第1浸漬液13が床等にこぼれることを防ぐことができる。また、このようにすることで、新たな凍結対象物を第1浸漬槽11に入れる場合、新たな凍結対象物であるフィレFが入った内袋2を外袋3に入れるだけでよいので、効率よく作業を行うことができる。
【0045】
なお、本実施形態においては、内袋2と外袋3という二重構造の袋を用いて第1浸漬槽11で凍結を行うことから、袋が1枚だけの場合に比べると熱交換性が若干低下してしまうことにはなるが、急速冷凍としては十分な効果を奏することを確認している。
【0046】
具体的には、凍結対象物(具体的には、約75~90gで厚さ25~27mmのアジ)を袋1枚の場後、袋2枚(内袋2、外袋3を使用)の場合で、それぞれ本発明による減圧包装によってブライン凍結を行ったところ、凍結対象物の中心部の最大氷結晶生成帯の通過時間は、袋1枚で4分55秒、袋2枚で9分であった。ところで、袋2枚の場合、袋1枚の場合に比べると2倍近い時間がかかっているようにも思われるが、急速冷凍の場合、最大表結晶生成帯をだいたい30分以内に通過することが重要であるため、袋2枚の場合であっても急速冷凍として十分な効果を奏しているといえる。
【0047】
また、凍結物である解凍対象物を第2浸漬槽12に浸漬させて解凍する場合でも上記した第1浸漬槽11への浸漬と同様に行うことにより、ブライン凍結機100は解凍時においても同様の効果を奏することができる。
【0048】
ブライン凍結機100は、以上のような構成となっている。なお、ブライン凍結機100は図示していないがこの他第1浸漬槽11、第2浸漬槽には浸漬液を交換するための排水設備や、説明していないが凍結機本体1の側面に吸気口や排気口を備えており、また底面に移動のためのキャスターを備えている。
【0049】
次に、本実施形態のブライン凍結法について説明をする。本実施形態のブライン凍結法は、凍結対象物を不凍液であるブライン液に浸漬し、凍結対象物をブライン凍結するブライン凍結法において、凍結対象物を袋に入れる包装工程と、凍結対象物の入った袋の袋口を開口状態としてブライン液に浸漬する浸漬工程と、からなる。
【0050】
より具体的には、
図3のフローチャート等を用いて説明する。本実施形態のブライン凍結法は、ブライン凍結機100を用いて行うことができる。そして、ブライン凍結機100は、飲食店の厨房等に設置される。
【0051】
まず、凍結対象物であるフィレFの袋入れが行われる(ステップS1)。フィレFの袋入れは、
図2AのようにフィレFがまず内袋2に入れられ、更に第1錘51と第2錘52と共に外袋3に入れられる包装工程となる。
【0052】
次に、第2浸漬槽12を用いた前処理が行われる(ステップS2)。前処理は、0℃~10℃に設定された第2浸漬槽12の第2浸漬液14に、袋に入ったフィレFを浸漬する前処理工程となる。
【0053】
この前処理は、第1浸漬槽11で行う次の凍結処理の前に、フィレFの余分な水分を抜く処理と、フィレFを0℃付近までできるだけ冷却しておく予備冷却処理を目的としたものである。つまり、第2浸漬液14に浸漬することで、第2浸漬液14の圧力により余分な水分が抜くことができ、また、第2浸漬液14の温度まで冷却することができる。
【0054】
なお、フィレFの水分を吸収し易くするために、ステップS1において、フィレFの周りをキッチンペーパーのような吸水性のある紙で包んでおいても構わない。また、第2浸漬液14での浸漬時間としては、フィレFの大きさや種類によっても当然異なるが、30~60分程度となる。
【0055】
次に、第1浸漬槽11を用いた凍結処理が行われる(ステップS3)。凍結処理は、凍結対象物であるフィレFの入った内袋2の袋口21と外袋31の袋口31を開口状態としてブライン液である第1浸漬液13に浸漬する浸漬工程となる。
【0056】
内袋2の袋口21と外袋31の袋口31を開口状態として第1浸漬液13に浸漬することで、第1浸漬液13の圧力により、内袋2と内袋3内の空気が排出されることになり、フィレFを減圧包装した状態で凍結処理を行うことができる。従って、別途パウチ機を準備しなくても、真空に近い状態を簡単に実現できるので、簡単に凍結処理を行うことでき、また、パウチ機の設備費と設置場所を削減することができる。
【0057】
なお、ステップS3においては、ステップS2のフィレFが入った内袋2のみを取り出し、新たな外袋3に入れてもよい。また、ステップS2で袋保持具4に保持されたまま外袋3の表面に付着した水を拭き取って、袋保持具4に保持されたままステップS3の浸漬工程に移っても構わない。
【0058】
そして、凍結したフィレF(凍結物)は冷凍保管される(ステップS4)。冷凍保管の場所は厨房内の冷凍庫を用いればよい。また、冷凍保管の期限はとくにないが、1週間~1年間程度が好ましい。従って、旬の時期の鮮魚や安く仕入れた鮮魚を冷凍処理しておくことで、旬の時期を過ぎた後でも美味しい魚を十分楽しむことができる。
【0059】
次に、第2浸漬槽12を用いた解凍処理が行われる(ステップS5)。解凍処理は、凍結物である解凍対象物を内袋2に入れ更に第1錘51と第2錘52と共に外袋3に入れたものを内袋2の袋口21と外袋31の袋口31を開口状態として第2浸漬液14に浸漬して解凍する解凍工程となる。
【0060】
解凍処理は、ステップS4で冷凍庫に冷凍保管されている凍結物の解凍が必要になった場合に行われる。そして、本実施形態においては、ステップS3と同様に減圧包装した状態で解凍処理も行うことができるので、高い熱交換率で急速な解凍を実現することできる。
【0061】
従って、本実施形態によれば、冷蔵庫の中に長時間放置する緩慢解凍のような、解凍中に魚の旨味が出てしまうというような問題も生じない。また、水道水の垂れ流しによる解凍も従来から知られてはいるが、このような解凍は温度コントロールされていないため、例えば夏場等には水温が高く、解凍部が30℃近くにまで温められて酵素反応が増大し、解凍品の品質劣化が著しくなるといったことも生じ得るが、本実施形態によればこのような問題も生じない。
【0062】
また、本実施形態によれば短時間で解凍できることから、飲食店の開店前だけでなく飲食店の営業中、急に凍結物の解凍が必要になったとしても対応することができる。
【0063】
このように本実施形態のブライン凍結法は、凍結対象物のフィレFをブライン液である第1浸漬液13に浸漬し、フィレFをブライン凍結するブライン凍結法において、フィレFを袋に入れる包装工程(ステップS1)と、フィレFの入った内袋2及びこれの入った外袋3の袋口21、31を開口状態として第1浸漬液13に浸漬する浸漬工程(ステップS3)と、からなる。
【0064】
つまり、袋口21、31を開口状態で浸漬することで、第1浸漬液13の液圧によって袋内の空気を除去することができ、これによりフィレFを減圧包装した状態でブライン凍結を行うことができる。このため、わざわざパウチ機を準備する必要がないため、真空に近い状態を簡単に実現できるので、簡単に凍結処理を行うことでき、また、パウチ機の設備費と設置場所を削減することができる。
【0065】
なお、本実施形態のブライン凍結機100は、ブライン凍結による凍結処理を行う第1浸漬槽11と、第2浸漬液14を用いた解凍処理を行う第2浸漬槽を備えるものであるが、冷凍食品を購入した場合の解凍のために、第2浸漬槽12のみを使用することができる。
【0066】
また、第2浸漬槽12は、第2浸漬液14を10℃~0℃の範囲で温度調整できる解凍用の槽であるが、第1浸漬液13のように更に-30℃までの温度調整が行えるようにし、前処理や解凍処理だけでなく、必要に応じて凍結処理も更に行えるようにしてもよい。
【0067】
また、本実施形態においては、凍結対象物としてフィレFを用いて説明したが、凍結対象物はフィレF、つまり三枚におろした片身に限定するものではなく、魚そのままの所謂ラウンドや、エラと内臓を取り除いた所謂セミドレスのようなものを凍結対象物としても当然ながら構わない。また、本実施形態においては、凍結対象物や凍結物(解凍対象物)について魚を例示しているが、当然ながら魚に限定されるわけではなく甲殻類や貝類等の水産物や、牛肉や豚肉等の畜産物にも適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
100:ブライン凍結機
1:凍結機本体
11:第1浸漬槽
12:第2浸漬槽
13:第1浸漬液
14:第2浸漬液
15:攪拌手段
2:内袋
3:外袋
21、31:袋口
4:袋保持具
51:第1錘
52:第2錘
F:フィレ