(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088974
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】浄化壁と止水壁の最適設計装置と最適設計方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20220608BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20220608BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20220608BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220608BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20220608BHJP
E02D 31/00 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
G06F17/50 634Z
G06F17/50 604D
G06F17/50 612C
G06F17/50 612G
C02F1/28 F
C02F1/70 Z
E02D31/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201130
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】宮城 充宏
(72)【発明者】
【氏名】増岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】熊本 創
(72)【発明者】
【氏名】山本 肇
【テーマコード(参考)】
4D050
4D624
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
4D050AA01
4D050BA02
4D050BD01
4D050CA06
4D624AA01
4D624BC01
4D624CA07
4D624DB22
5B046AA03
5B046BA04
5B046FA18
5B046GA01
5B046HA05
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5B146DC03
5B146DG02
5B146DJ01
5B146DJ14
5B146DL08
5B146EA17
5B146FA00
(57)【要約】
【課題】制約条件を満たした上で最適な壁モデルを設計する、浄化壁と止水壁の最適設計装置と最適設計方法を提供する。
【解決手段】検討エリア10において、連続する浄化壁22と止水壁21の配置と平面視長さを設計する最適設計装置50であり、検討エリアモデルAMが入力され、複数の壁モデルWMが入力される入力部502と、検討エリアモデルAMに適用された壁モデルWMに解析を実行する解析部504と、解析結果を出力する出力部506と、解析結果が、予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルを特定し、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定し、暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習する学習部508と、学習部508による新規壁モデルの壁モデル決定要素を含め、最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する特定部510とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検討エリアの平面視において、一つのライン状で連続する浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さを設計する、浄化壁と止水壁の最適設計装置であって、
前記検討エリアをモデル化した検討エリアモデルが入力され、前記浄化壁と前記止水壁の配置と平面視長さの少なくとも一方が相違する複数の壁モデルが入力される、入力部と、
前記検討エリアモデルに対してそれぞれの前記壁モデルを適用し、解析を実行する、解析部と、
それぞれの前記壁モデルごとに解析結果を出力する、出力部と、
前記解析結果が、予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルを特定し、該制約条件適合壁モデルが複数存在する場合は、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定し、該暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習する、学習部と、
前記学習部により学習され、作成された前記新規壁モデルの前記壁モデル決定要素を含め、全ての前記壁モデルの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する、特定部と、を有することを特徴とする、浄化壁と止水壁の最適設計装置。
【請求項2】
前記解析は、地下水流動解析であり、
前記解析結果は、地下水のダムアップ量及び/又は地下水の流速増加量であることを特徴とする、請求項1に記載の浄化壁と止水壁の最適設計装置。
【請求項3】
前記解析は、物質移行解析であり、
前記解析結果は、汚染物質の濃度であることを特徴とする、請求項1に記載の浄化壁と止水壁の最適設計装置。
【請求項4】
前記壁モデル決定要素は、前記浄化壁の平面視長さであり、
前記特定部は、前記浄化壁の平面視長さが最小の前記壁モデルを、前記最適壁モデルとして特定することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の浄化壁と止水壁の最適設計装置。
【請求項5】
前記壁モデル決定要素は、地下水のダムアップ量、地下水の流速増加量、汚染物質の濃度のいずれか一種であり、
前記特定部は、地下水のダムアップ量が最小、もしくは地下水の流速増加量が最小、もしくは汚染物質の濃度が最小である前記壁モデルを、前記最適壁モデルとして特定することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の浄化壁と止水壁の最適設計装置。
【請求項6】
検討エリアの平面視において、一つのライン状で連続する浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さを設計する、浄化壁と止水壁の最適設計方法であって、
前記検討エリアをモデル化した検討エリアモデルを入力し、前記浄化壁と前記止水壁の配置と平面視長さの少なくとも一方が相違する複数の壁モデルを入力する、入力工程と、
前記検討エリアモデルに対してそれぞれの前記壁モデルを適用し、解析を実行する、解析工程と、
それぞれの前記壁モデルごとに解析結果を出力する、出力工程と、
前記解析結果が、予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルを特定し、該制約条件適合壁モデルが複数存在する場合は、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定し、該暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習する、学習工程と、
前記新規壁モデルに対して、前記入力工程と、前記解析工程と、前記出力工程と、前記学習工程とを繰り返し、全ての前記壁モデルの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する、特定工程と、を有することを特徴とする、浄化壁と止水壁の最適設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化壁と止水壁の最適設計装置と最適設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染や地下水汚染の拡散防止対策として、止水壁と浄化壁を地中に造成する方法がある。止水壁は矢板等で地下水の流れを止水し、汚染物質を含む地下水が敷地外に流出することを防止するものである。一方、浄化壁は、汚染物質を含む地下水を通水性の浄化壁に透過させ、この透過の過程で汚染物質を吸着等の作用によって浄化壁内に捉え、浄化された地下水のみを敷地外に流出させるものである。
【0003】
ここで、止水壁に関する技術として、特許文献1には、大深度の止水壁を要することなく、簡易な方法により、汚染乃至汚染予測区域から非汚染区域に汚染物質を含む地下浸透水が拡散することを防止する、汚染水の拡散防止方法が提案されている。具体的には、汚染乃至汚染予測区域の地盤を地下水の水面より下方に到達する深度に構築された止水壁により囲うことで、周縁区域の地盤と区画するとともに、汚染乃至汚染予測区域内部の地下水を揚水して当該区域内の地下水位を周縁区域の地下水位より常時低水位に保つものである。
【0004】
また、特許文献2には、浄化壁に関する技術として、急傾斜地や比較的狭い作業スペースしか確保できない施工箇所や、上空に高さ制限がある施工箇所等においても施工を可能とする、透過性地下水浄化壁が提案されている。具体的には、汚染地下水の下流側流域の地中に汚染地下水の流向方向に対して交差するように配設される透過性の中空領域と、中空領域の内部に充填される充填材と、から構成され、少なくとも充填材の一部が浸透してきた汚染地下水を浄化する透過性の浄化剤からなる透過性地下水浄化壁である。中空領域は、側面に複数の透水孔を有し、少なくとも上下方向で分割された組立式の土留部材から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-224440号公報
【特許文献2】特開2005-2968247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記するように、止水壁と浄化壁は、それぞれに固有の作用や効能を有している。ところで、汚染物質を流出させないという面では、地下水流れを遮断する止水壁の方が確実な方法ではあるものの、自然の地下水流れを阻害することにより、ダムアップといった課題が懸念される。ダムアップにより、上流側は水位上昇する一方で、下流側は水位低下し、上流側では、水位上昇により、植物の根腐れや地下水位が地表面まで上昇すること等が問題となり、下流側では、水位低下により、植物の根枯れや井戸枯れ等が問題となり得る。
一方、浄化壁は地下水流れを遮断しない点では有効な方法と言えるが、止水壁よりも高コストであるといった課題がある。
【0007】
以上のことから、土壌汚染や地下水汚染の拡散防止対策として、特許文献1に開示の止水壁のみを適用したり、特許文献2に開示の浄化壁のみを適用することに代わり、止水壁と浄化壁を併用して実施する技術が適用されるようになっている。
止水壁と遮水壁を併用する場合、止水壁で流れを阻害された地下水は浄化壁に集中し、浄化壁の内側やその近傍における流速が極端に速くなることが懸念され、このことに起因して十分な浄化効果が得られなくなるといった新たな課題が生じ得る。
そのため、止水壁と浄化壁を併用する場合は、施工上の制約に加えて、ダムアップの抑制や、浄化壁での流速増加を可及的に低減することを可能にした、浄化壁と止水壁の最適設計が肝要になる。
【0008】
例えば、一つのライン状で連続する浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さの設計においては、浄化壁の施工に際して相対的に大型の施工機械を要することから、施工機械の設置の可否や作業スペースの確保等が浄化壁の施工における制約条件となる。そこで、このような制約条件を満たすことを前提として、複数の浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さの設計案を挙げ、それぞれの設計案に対して地下水流動解析等を実施してダムアップ量や流速増加量を特定し、各設計案を比較した上で最適な設計案を特定する方法が考えられる。
しかしながら、上記方法では、経験則的に候補となる複数の設計案を挙げ、その中から最適な設計案を抽出することから、当初の設計案が必ずしも最適な設計案を含んでいない場合でも当該当初の設計案の中から最終的な設計案が決定されることになり、従って多分に改善の余地がある設計方法と言える。
【0009】
本発明は、制約条件を満たした上で、浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さの少なくとも一方が相違する複数の壁モデルの中から、最適な壁モデルを設計することのできる、浄化壁と止水壁の最適設計装置と最適設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による浄化壁と止水壁の最適設計装置の一態様は、
検討エリアの平面視において、一つのライン状で連続する浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さを設計する、浄化壁と止水壁の最適設計装置であって、
前記検討エリアをモデル化した検討エリアモデルが入力され、前記浄化壁と前記止水壁の配置と平面視長さの少なくとも一方が相違する複数の壁モデルが入力される、入力部と、
前記検討エリアモデルに対してそれぞれの前記壁モデルを適用し、解析を実行する、解析部と、
それぞれの前記壁モデルごとに解析結果を出力する、出力部と、
前記解析結果が、予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルを特定し、該制約条件適合壁モデルが複数存在する場合は、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定し、該暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習する、学習部と、
前記学習部により学習され、作成された前記新規壁モデルの前記壁モデル決定要素を含め、全ての前記壁モデルの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する、特定部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、学習部において、解析結果が予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルの中で、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定し、暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを作成し、新規壁モデルに関しても制約条件の充足と壁モデル決定要素を特定し、このシーケンスを学習部にて随時作成される新規壁モデルに対して繰り返すことにより、最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定することができる。例えば、壁モデル決定要素が一定値に収束した際に、この一定値の壁モデル決定要素を有する壁モデルを、浄化壁と止水壁により構成される拡散防止壁の最適壁モデルとして特定することができる。
ここで、「一つのライン状で連続する浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さ」とは、検討エリアにおける外郭ラインの一部のエリア、もしくは、検討エリアを包囲する外郭ラインに沿って配設される、ライン状で連続する浄化壁と止水壁からなる拡散防止壁に関し、例えばライン状の止水壁の間に線状の隙間が一つもしくは複数存在し、この隙間に浄化壁が設けられている配置の壁モデルにおいて、浄化壁と止水壁のぞれぞれの連続するラインの平面視長さや複数の連続するラインの平面視長さの合計を意味する。
例えば、施工現場や工場敷地等の検討エリアの地盤内に汚染物質が存在し、この汚染物質を通過するように一定方向に地下水の流れ方向が特定されている場合には、検討エリアの外郭ラインに沿ってこの地下水の流れを遮断する一定のエリアに、一つのライン状で連続する浄化壁と止水壁が設計される。この際、平面視において連続する止水壁の中に配設される浄化壁の数や配設位置、一つの浄化壁の平面視長さの相違により、拡散防止壁の壁モデルは様々に設計できる。
【0012】
入力部では、検討エリアをモデル化した検討エリアモデルが入力される。また、検討エリアモデルには、エリア内に汚染物質が存在する場合は、その存在エリアが二次元もしくは三次元にモデル化され、入力される。さらに、検討エリアモデルには、当該検討エリアモデルにおける地下水の流れ方向や流速等がモデル化される。
【0013】
解析部では、入力部に入力されている各壁モデルを検討エリアモデルに適用し、様々な解析手法の中から目的に応じた解析手法を選定し、解析を実行する。そして、出力部では、壁モデルごとに解析結果を出力する。
【0014】
学習部では、解析結果が予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルを特定する。ここで、制約条件はダムアップ量等に対して設定され、壁モデル決定要素には、施工コストに大きく影響する浄化壁の平面視長さを含む様々な決定要素があり、壁モデル決定要素と制約条件が設定される解析結果は相互に連関している。制約条件適合壁モデルが複数存在する場合、学習部では、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定し、暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習し、新規壁モデルを作成する。
【0015】
特定部では、学習部により学習され、作成された新規壁モデルの壁モデル決定要素を含め、全ての壁モデルの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する。例えば、壁モデル決定要素が一定値に収束した際に、この一定値の壁モデル決定要素を有する壁モデルを最適壁モデルとして特定することができる。
【0016】
拡散防止壁に関する壁モデルの初期設定の段階では、例えば複数の壁モデルを任意に設定するものの、学習部では、最適化アルゴリズムに基づいて壁モデルを随時更新し、最適な壁モデル決定要素を有する壁モデルを自動的に導出することから、初期設定段階の壁モデルとは離れて、客観的に最適な壁モデルを設計することが可能になる。
【0017】
また、本発明による浄化壁と止水壁の最適設計装置の他の態様において、前記解析は、地下水流動解析であり、
前記解析結果は、地下水のダムアップ量及び/又は地下水の流速増加量であることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、解析部にて地下水流動解析を実施し、はじめに、止水壁や浄化壁を設置する前の状態における地下水位や流速を地下水流動解析にて求めておき、次に、止水壁や浄化壁を設置した後の地下水位や流速を地下水流動解析にて求め、設置の前後における地下水位や流速の差分値を算定する。そして、このようにして算定された、地下水のダムアップ量及び/又は地下水の流速増加量を適用することにより、地下水のダムアップ量や地下水の流速増加量に対して制約条件が設定され、これらの制約条件を満たす制約条件適合壁モデルの中で、最適な壁モデル決定要素を備えた最適壁モデルを特定することができる。
【0019】
また、本発明による浄化壁と止水壁の最適設計装置の他の態様において、前記解析は、物質移行解析であり、
前記解析結果は、汚染物質の濃度であることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、解析部にて物質移行解析を実施し、解析結果として、汚染物質の濃度を適用することにより、汚染物質の濃度に対して制約条件が設定され、制約条件を満たす制約条件適合壁モデルの中で、最適な壁モデル決定要素を備えた最適壁モデルを特定することができる。ここで、汚染物質は化学反応により経時的に変化し得ることから、汚染物質が変化した場合、「汚染物質の濃度」には変化後の汚染物質の濃度も含まれるものとする。また、一般には、物質移行解析を実施する際の入力条件の中で、汚染物質種を特定することになるが、化学反応により経時的に変化して生じる新規の汚染物質種も本解析にて特定することが可能である。
【0021】
また、本発明による浄化壁と止水壁の最適設計装置の他の態様において、前記壁モデル決定要素は、前記浄化壁の平面視長さであり、
前記特定部は、前記浄化壁の平面視長さが最小の前記壁モデルを、前記最適壁モデルとして特定することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、壁モデル決定要素が浄化壁の平面視長さであり、浄化壁の平面視長さが最小の壁モデルを最適壁モデルとして特定することにより、制約条件を満たす壁モデル(制約条件適合壁モデル)の中で、施工コストの高価な浄化壁の平面視長さが最小の壁モデルを特定することにより、制約条件を満たしながら施工コストが最小となる最適壁モデルを特定することができ、費用対効果の高い最適壁モデルを設計することができる。
【0023】
また、本発明による浄化壁と止水壁の最適設計装置の他の態様において、前記壁モデル決定要素は、地下水のダムアップ量、地下水の流速増加量、汚染物質の濃度のいずれか一種であり、
前記特定部は、地下水のダムアップ量が最小、もしくは地下水の流速増加量が最小、もしくは汚染物質の濃度が最小である前記壁モデルを、前記最適壁モデルとして特定することを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、壁モデル決定要素が、地下水のダムアップ量、地下水の流速増加量、汚染物質の濃度のいずれか一種であり、地下水のダムアップ量等が最小の壁モデルを最適壁モデルとして特定することにより、制約条件を満たしながら最適な壁モデル決定要素を備えた最適壁モデルを特定することができる。
【0025】
また、本発明による浄化壁と止水壁の最適設計方法の一態様は、
検討エリアの平面視において、一つのライン状で連続する浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さを設計する、浄化壁と止水壁の最適設計方法であって、
前記検討エリアをモデル化した検討エリアモデルを入力し、前記浄化壁と前記止水壁の配置と平面視長さの少なくとも一方が相違する複数の壁モデルを入力する、入力工程と、
前記検討エリアモデルに対してそれぞれの前記壁モデルを適用し、解析を実行する、解析工程と、
それぞれの前記壁モデルごとに解析結果を出力する、出力工程と、
前記解析結果が、予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルを特定し、該制約条件適合壁モデルが複数存在する場合は、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定し、該暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習する、学習工程と、
前記新規壁モデルに対して、前記入力工程と、前記解析工程と、前記出力工程と、前記学習工程とを繰り返し、全ての前記壁モデルの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する、特定工程と、を有することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、例えば任意に設定した拡散防止壁に関する複数の壁モデルに対して、入力工程、解析工程、出力工程、学習工程を経て暫定最適壁モデルを特定し、暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習し、作成した後、新規壁モデルに対して入力工程、解析工程、出力工程、学習工程を繰り返すことにより、全ての壁モデルの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定することができる。例えば、壁モデル決定要素が一定値に収束した際に、この一定値の壁モデル決定要素を有する壁モデルを最適壁モデルとして特定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の浄化壁と止水壁の最適設計装置と最適設計方法によれば、制約条件を満たした上で、浄化壁と止水壁のそれぞれの配置と平面視長さの少なくとも一方が相違する複数の壁モデルの中から、最適な壁モデルを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】検討エリアの一例の平面図であって、検討エリアの一部に浄化壁と止水壁からなる拡散防止壁の一例が施工されている状態を示す図である。
【
図2】
図1のII方向矢視図であって、拡散防止壁の一例の正面図である。
【
図4】実施形態に係る最適設計装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る最適設計装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図6】入力部に入力される、検討エリアモデルと壁モデルを示す模式図である。
【
図7】特定部における最適壁モデルの特定方法の一例を説明する図である。
【
図8】実施形態に係る最適設計方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施形態に係る浄化壁と止水壁の最適設計装置と最適設計方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0030】
[実施形態]
<検討エリアと拡散防止壁>
まず、
図1乃至
図3を参照して、実施形態に係る最適設計装置が適用される、検討エリアの一例と、検討エリアに施工される拡散防止壁の一例について説明する。ここで、
図1は、検討エリアの一例の平面図であって、検討エリアの一部に浄化壁と止水壁からなる拡散防止壁の一例が施工されている状態を示す図であり、
図2は、
図1のII方向矢視図であって、拡散防止壁の一例の正面図である。
【0031】
図1に一例として示す検討エリア10は五角形状を呈し、その内部の地盤内に汚染物質30が一定範囲に亘り存在している。この検討エリアは、例えば、既存もしくは新設の工場敷地や、新設の造成敷地等である。そして、検討エリア10の内部には、地下水40が所定のX1方向に流れることが特定されている。
【0032】
汚染物質30を通過した地下水40は、検討エリア10から周辺エリア15へ拡散し得る。そこで、検討エリア10における汚染物質30の位置とその範囲、地下水40の流れ方向や流速等に基づき、検討エリア10の外郭ライン11の一部のエリア、もしくは、検討エリア10を包囲する外郭ライン11に沿って、ライン状で連続する止水壁21と浄化壁22とにより構成される拡散防止壁20が設置される。図示例では、検討エリア10の外郭ライン11の一部のエリアに拡散防止壁20が設置されている。
【0033】
拡散防止壁20は、一つのライン状で連続する止水壁21と浄化壁22とにより構成される。拡散防止壁20の設置位置を規定する始点P1と終点P8,折れ点P2,P7の設定は、地下水40の流れに基づく汚染物質30の拡散を防止可能な範囲として設計者等により設定される。
【0034】
また、平面視長さL0の拡散防止壁20の中で、止水壁21に比べて施工コストが高価となる浄化壁22の設置位置(図示例は二つの浄化壁22を有し、一方の浄化壁22の始点P3、終点P4、平面視長さL1,他方の浄化壁22の始点P5、終点P6、平面視長さL2)は、例えば、費用対効果が最大となるように設計されるのが望ましい。実施形態に係る最適設計装置や最適設計方法では、費用対効果を最大とする浄化壁22の設置位置や平面視長さを目的関数とし、目的関数を最大とする(もしくは、施工コストを最小とする)最適な壁モデルを設計するものである。
図1からも明らかなように、施工コストを可及的に抑制する最適な拡散防止壁20においては、止水壁21の平面視長さが相対的に長くなる。言い換えると、一定の平面視長さL0を有する拡散防止壁20を構成する止水壁21の一部が、一つもしくは複数の連続する浄化壁22で置き換えられることにより、拡散防止壁20が形成されることになる。
【0035】
ここで、
図1及び
図2に示す止水壁21は、遮水壁と称することもでき、柱列式ソイルセメント止水壁、等厚式ソイルセメント止水壁、ソイルベントナイト止水壁、機械撹拌式深層混合処理止水壁、高圧噴射撹拌式深層混合処理止水壁、鋼製止水壁(鋼矢板止水壁、鋼管止水壁、鋼管と鋼矢板の複合壁)等により形成される。例えば、止水壁21は、厚さ0.5m以上でかつ透水係数kが1.0×10
-7m/s以下等の性能を有している。
【0036】
一方、
図1及び
図2に示す浄化壁22は、汚染物質30の下流側において、透水性が原位置の帯水層と同等かそれ以上の透水性を有する壁であり、汚染物質30にて汚染された地下水40が浄化壁22を通過する際に有害物質を補足もしくは除去することにより、浄化された地下水を周辺エリア15へX3方向に流すことができ、検討エリア10における汚染された地下水を周辺エリア15に拡散させない壁である。
【0037】
浄化壁22には、例えば、壁状浄化壁と杭状浄化壁がある。壁状浄化壁には、ボーリング削孔内に、透水性の高い砕石等の母材と鉄粉や吸着材等の薬剤とが所定割合で混合された反応材が充填されている形態や、削孔内に反応材が充填された円柱状の浄化体がラップ配置されている形態などがある。一方、杭状浄化壁には、削孔内に反応材が充填された円柱状の浄化体が千鳥配置されている形態や、地盤改良機にて反応材が強制圧入されている形態などがある。
【0038】
止水壁21で流れを遮断された地下水40は、
図1に示すように浄化壁22の方向へX2方向に流れ、従って、浄化壁22の内側(検討エリア10側)では地下水の流速が増加する。また、流速増加量が大きくなることにより、浄化壁22において十分な浄化効果が得られなくなることが懸念される。これらのことから、地下水の流速増加量には拡散防止壁20の設計に際して制約条件が設定され得る。一例として、流速増加前の流速に対して、流速増加量として18倍乃至20倍程度を制約条件として設定できる。
【0039】
一方、止水壁21の内側(検討エリア10側)では、地下水40の自然な流れが阻害されることにより、
図3に示すように、上流側の地下水位が上昇する、ダムアップが生じ得る。ダムアップにより、植物の根枯れや、地下水が地表面まで上昇して流出する事態が懸念されることから、ダムアップ量には拡散防止壁20の設計に際して制約条件が設定され得る。一例として、ダムアップ量として30cm乃至50cm程度を制約条件として設定できる。
【0040】
<浄化壁と止水壁の最適設計装置と最適設計方法>
次に、
図4乃至
図7を参照して、実施形態に係る浄化壁と止水壁の最適設計装置の一例について説明する。ここで、
図4は、実施形態に係る最適設計装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図5は、実施形態に係る最適設計装置の機能構成の一例を示す図である。また、
図6は、入力部に入力される、検討エリアモデルと壁モデルを示す模式図であり、
図7は、特定部における最適壁モデルの特定方法の一例を説明する図である。
【0041】
図4に示すように、最適設計装置50は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。最適設計装置50を構成するコンピュータは、接続バス56により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)51、主記憶装置52、補助記憶装置53、入出力IF(interface)54、及び通信IF55を備えている。主記憶装置52と補助記憶装置53は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0042】
CPU51は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU51は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU51は、コンピュータからなる最適設計装置50の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU51は、例えば、補助記憶装置53に記憶されたプログラムを主記憶装置52の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0043】
主記憶装置52は、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置52は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置53は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置53には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF55を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、ネットワークに接続する他の設計者等の有するパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。すなわち、アクセス権限のある複数の設計者がネットワークを介して例えばクラウド上にあるサーバ装置等に接続し、検討エリア情報や壁モデル等に関する各種情報が無線通信等によりサーバ装置に送信され、各設計者が必要な情報を自身のパーソナルコンピュータに取り込み、各種処理を実行した後、処理後の各種データをサーバ装置にアップすることにより、複数の設計者が共通の各種データを共有することができる。
【0044】
補助記憶装置53は、例えば、主記憶装置52を補助する記憶領域として使用され、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置53は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置53として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0045】
入出力IF54は、最適設計装置50に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF54には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。最適設計装置50は、入出力IF54を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0046】
また、入出力IF54には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、最適設計装置50において、以下で詳説する検討エリアモデルや壁モデル(検討段階での複数の壁モデルや最終的に特定された最適壁モデル)が表示される。
【0047】
通信IF55は、最適設計装置50が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF55は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、サーバ装置や他の設計者のパーソナルコンピュータ等に様々なデータを送信する。
【0048】
図5に示すように、最適設計装置50は、CPU51によるプログラムの実行により、少なくとも、入力部502、解析部504、出力部506、学習部508,特定部510,及び格納部512の各種機能を提供する。尚、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0049】
入力部502では、
図6に示すように、検討エリア10を包含する検討エリアモデルAMが入力される。この検討エリアモデルAMは、コンピュータ内において、検討エリア10の平面視における二次元モデルや、さらに検討エリアの土層構造(砂層、礫層、砂礫層、粘土層等の積層構造)がモデル化された三次元モデル等である。
【0050】
また、検討エリアモデルAMには、エリア内に存在する汚染物質モデルCMが入力される。この汚染物質モデルCMも、その存在エリアが二次元もしくは三次元にモデル化され、入力される。さらに、検討エリアモデルAMには、検討エリアモデルAMにおける地下水の流れ方向や流速等が地下水モデルGMとして入力される。
【0051】
入力部502では、上記するように複数の拡散防止壁20をモデル化した壁モデルWMが入力される。尚、
図6には、壁モデルWMの一例が図示されている。壁モデルWMの設定に当たり、まず、その始点P1(x1,y1)と終点P8(x8,y8),折れ点P2(x2,y2),P7(x7,y7)が、地下水40の流れに基づく汚染物質30の拡散を防止可能な範囲として設計者等により設定される。
【0052】
このようにして、壁モデルWMの設置位置や平面視における線形が設定された後、この壁モデルWMの平面視における線形の中で、施工コストが相対的に安価な止水壁モデルを全域に割り当てた後、相対的に施工コストの高価な浄化壁モデルを止水壁モデルの一部と置き換えるようにして割り当てる。図示例では、壁モデルWMの始点P1(x1,y1)から途中点P3(x3,y3)までの範囲、途中点P4(x4,y4)から途中点P5(x5,y5)までの範囲、途中点P6(x4,y4)から終点P8(x8,y8)までの範囲にそれぞれ、止水壁モデルWM11,WM12,WM13が設定され、途中点P3(x3,y3)から途中点P4(x4,y4)までの範囲、途中点P5(x5,y5)から途中点P6(x4,y4)までの範囲にそれぞれ、浄化壁モデルWM21,WM22が設定されている。
【0053】
ここで、止水壁モデル内における浄化壁モデルの線形や数、配設位置等に関する初期設定方法は、ランダムな設定方法でもよいし、経験則に基づく設定方法でもよい。後者の設定方法では、一般に大型の施工機械を要する浄化壁22の施工において、施工ヤードの確保可能性等の観点から、実現可能性のある複数の浄化壁22の設置位置や平面視長さを割り出し、複数の拡散防止壁20に関する壁モデルWMを設定する。
【0054】
解析部504では、入力部502に入力されている各壁モデルWMを検討エリアモデルAMに適用し、様々な解析手法の中から目的に応じた解析手法を選定し、解析を実行する。尚、既述するように、検討エリアモデルAMは、検討エリア10を包含するエリアをモデル化したものである。
【0055】
ここで、解析手法には、地下水流動解析や物質移行解析が含まれる。地下水流動解析に関する解析プログラムとしては、一例として、3次元地下水流動解析プログラム等が適用でき、解析部504にインストールされている解析プログラムに基づいて解析が実行される。一方、物質移行解析に関する解析プログラムとしては、一例として、地下水溶存成分の岩石や土壌との化学反応を考慮した、2相流の移流拡散解析プログラム等が適用でき、解析部504にインストールされている解析プログラムに基づいて解析が実行される。
【0056】
出力部506では、壁モデルWMごとに解析結果を出力する。ここで、解析部504において地下水流動解析が実行される場合、出力部506では、地下水のダムアップ量や地下水の流速増加量が解析結果として出力される。一方、解析部504において物質移行解析が実行される場合、出力部506では、汚染物質の濃度が解析結果として出力される。尚、汚染物質は化学反応により経時的に変化し得ることから、汚染物質が変化した場合、「汚染物質の濃度」には変化後の汚染物質の濃度も含まれるものとする。
【0057】
学習部508では、予め設定されている制約条件を解析結果が満たす制約条件適合壁モデルを特定する。ここで、上記するように、ダムアップ量や流速増加量、汚染物質の濃度等に対して所定の制約条件が設定される。そして、出力部506では、解析部504による解析結果のうち、少なくとも制約条件が設定されている項目に対応する解析結果の出力を行う。
【0058】
例えば、複数の壁モデルWMの中で、最適な壁モデルを決定する壁モデル決定要素として、施工コストに大きく影響する浄化壁22の平面視長さが設定されている場合、地下水のダムアップ量や地下水の流速増加量に対して制約条件が定され、出力部506にて壁モデルWMごとに地下水のダムアップ量や地下水の流速増加量が解析結果として出力される。このように、壁モデル決定要素と制約条件が設定される解析結果は、相互に連関している。
【0059】
制約条件適合壁モデルが複数存在する場合、学習部508では、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定する。次いで、暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習し、新規壁モデルを作成する。新規壁モデルの作成に際しては、最終的に特定される最適壁モデルが、暫定最適壁モデルに近いモデルであると想定できることから、暫定最適壁モデルにおける、浄化壁モデルWM21,WM22の始点P3(x3,y3)及び終点P4(x4,y4)と、始点P5(x5,y5)及び終点P6(x4,y4)を若干変化させる等により、新規モデルを順次作成することができる。
【0060】
ここで、新規壁モデルの学習・作成方法は、最終的に最適な壁モデル(最適壁モデル)を作成する最適化アルゴリズム(最適化手法)に基づいて行われる。最適化問題は、与えられた条件から制約条件を設け、ある目的関数の最大値もしくは最小値を求めるものであり、この目的関数は上記する壁モデル決定要素に相当する。学習部において適用される最適化手法には、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm; GA)、差分進化法(Differential Evolution; DE)、焼きなまし法(Simulated Annealing; SA)、Particle Swarm Optimization (PSO)、Covariance Matrix Adaption Evolution Strategy (CMA-ES)、強化学習法等、様々な手法が挙げられる。
【0061】
学習部508により特定された暫定最適壁モデルは、格納部512に一時的に格納される。そして、学習部508により学習され、作成された新規壁モデルWMに対して、入力部502による入力、解析部504による解析、出力部506による出力、及び格納部512に格納されている暫定最適壁モデルの壁モデル決定要素と新規壁モデルの壁モデル決定要素との比較が順次行われ、相対的に優れた壁モデル決定要素を有する壁モデルを新たな暫定最適壁モデルとして特定する。尚、新規壁モデルは、出力部506により出力される解析結果が、設定されている制約条件を充足することを要し、制約条件を充足する新規壁モデルの壁モデル決定要素とそれまでの暫定最適壁モデルの壁モデル決定要素の比較が行われる。
【0062】
例えば、壁モデルWMを構成する止水壁や浄化壁のそれぞれの位置や平面視長さに関するパラメータ:Xを生成する壁モデルをg(θ)は、以下の式(1)で表すことができる。
【0063】
【0064】
学習部508では、壁モデルのパラメータ:θを、上記種々の最適化アルゴリズムから選定され、適用される最適化アルゴリズム:fと、出力部506にて出力された制約条件である、項目βに基づいて壁モデルの更新を行う。ここで、繰り返し回数t+1回目の壁モデルのパラメータは以下の式(2)で表すことができる。
【0065】
【0066】
特定部510では、学習部508により学習され、作成された新規壁モデルの壁モデル決定要素を含め、全ての壁モデルWMの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する。例えば、複数の壁モデルWMの中で、最適な壁モデルを決定する壁モデル決定要素として、施工コストに大きく影響する浄化壁22の平面視長さが設定されている場合、
図7に示すように、浄化壁の平面視長さ:Lに対応する施工コスト:Cを算定し、これを更新された壁モデル(暫定最適壁モデル)に対して同様に実行していく。
【0067】
更新された壁モデルの施工コスト:Cを繰り返し算定していくことにより、
図7に示すように施工コスト:Cが一定値であるClowに収束し、この施工コスト:Clowに対応する浄化壁の平面視長さ:Leff(及び、浄化壁の平面配置)を備えた壁モデルを、最適壁モデルとして特定する。
【0068】
拡散防止壁20に関する壁モデルWMの初期設定の段階では、例えば複数の壁モデルWMを任意に設定するものの、最適設計装置50の学習部508では、最適化アルゴリズムに基づいて壁モデルWMを随時更新し、最適な壁モデル決定要素を有する壁モデルWMを自動的に導出することから、初期設定段階の壁モデルWMとは離れて、客観的に最適な壁モデルWMを設計することが可能になる。
【0069】
次に、
図8を参照して、実施形態に係る最適設計方法の一例について説明する。ここで、
図8は、実施形態に係る最適設計方法の一例のフローチャートである。
【0070】
最適設計方法では、まず、検討エリア10をモデル化した検討エリアモデルAMを入力し、浄化壁と止水壁の配置と平面視長さの少なくとも一方が相違する複数の壁モデルWMを入力する(以上、入力工程(ステップS102))。
【0071】
次に、検討エリアモデルAMに対してそれぞれの壁モデルWMを適用し、解析を実行する。ここで、解析手法には、地下水流動解析や物質移行解析が含まれる(以上、解析工程(ステップS104))。
【0072】
次に、それぞれの壁モデルWMごとに解析結果を出力する。解析工程において例えば地下水流動解析が実行される場合、地下水のダムアップ量や地下水の流速増加量が解析結果として出力される(以上、出力工程(ステップS106))。
【0073】
次に、解析結果が予め設定されている制約条件を満たす制約条件適合壁モデルを特定し、制約条件適合壁モデルが複数存在する場合は、予め設定されている壁モデル決定要素に関して暫定的に最適な壁モデル決定要素を備えた暫定最適壁モデルを特定する。そして、暫定最適壁モデルに基づいて新規壁モデルを学習し、作成する。ここで、新規壁モデルの学習・作成方法は、最終的に最適な壁モデル(最適壁モデル)を作成する最適化アルゴリズム(最適化手法)に基づいて行われる(以上、学習工程(S108))。
【0074】
学習工程(S108)にて作成された新規壁モデルWMに対して、入力工程(ステップS102)乃至学習工程(S108)を繰り返し実行し、新規壁モデルの壁モデル決定要素と、それまでの暫定最適壁モデルの壁モデル決定要素との比較を行い、相対的に優れた壁モデル決定要素を有する壁モデルを新たな暫定最適壁モデルとして特定する。
【0075】
以上の一連のシーケンスを、学習工程にて順次作成される新規壁モデルに対して都度実行し、全ての壁モデルWMの中で最適な壁モデル決定要素を示す最適壁モデルを特定する。例えば、
図7に示すように、浄化壁の平面視長さ:Lに対応する施工コスト:Cを算定し、これを更新された壁モデル(暫定最適壁モデル)に対して同様に実行していき、施工コスト:Cが一定値であるClowに収束した際に、この施工コスト:Clowに対応する浄化壁の平面視長さ:Leff(及び、浄化壁の平面配置)を備えた壁モデル(拡散防止壁の壁モデル)を、最適壁モデルとして特定する(以上、特定工程(S110))。
【0076】
実施形態に係る最適設計方法によれば、任意に設定される初期設定段階の壁モデルWMとは離れて、目的関数を最大もしくは最小とする客観的に最適な壁モデルWMを設計することが可能になる。
【0077】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0078】
10:検討エリア
11:外郭ライン
15:周辺エリア
20:拡散防止壁
21:止水壁
22:浄化壁
30:汚染物質
40:地下水
50:最適設計装置
502:入力部
504:解析部
506:出力部
508:学習部
510:特定部
512:格納部
AM:検討エリアモデル
WM:壁モデル
WM11,12,13:止水壁モデル
WM21,22:浄化壁モデル
CM:汚染物質モデル
GM:地下水モデル