(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089033
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】青果物の損傷検出装置および青果物の損傷検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20220608BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
G01N29/07
G01N29/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201244
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細矢 直基
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BC02
2G047CA04
2G047CB03
2G047GG30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】青果物の傷を検出することが可能な青果物の損傷検出装置を提供する。
【解決手段】青果物の損傷検出装置100は、載置部30、振動発生装置40、測定部50、および、制御装置60を備えている。測定部50は、振動発生装置40のレーザ装置41により青果物20の表面に圧力波が励起され、青果物20の表面を伝搬する表面波を測定する。検出部63が測定された前記表面波に基づいて、前記青果物20の損傷を検出する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青果物の表面を伝搬する表面波を測定する測定部と、
測定された前記表面波に基づいて、前記青果物の損傷を検出する検出部とを備える、
青果物の損傷検出装置。
【請求項2】
前記測定部は、前記表面の複数位置において前記表面波を測定する、請求項1に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項3】
前記表面波の伝搬速度が前記表面上の他の位置における前記表面波の伝搬速度に比べて所定割合以上小さい位置である速度低下位置が前記表面上に存在する場合、前記検出部は、前記青果物に前記損傷があると判定する、請求項1又は2に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記表面上における前記速度低下位置の分布に基づいて、前記表面上における前記損傷の存在範囲を特定する、請求項3に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記測定部の測定結果に対してパターン認識を行うことで、前記青果物に前記損傷があるか否かを判定する、請求項2に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記測定部の測定結果に対してパターン認識を行うことで、前記表面上における前記損傷の存在範囲を特定する、請求項5に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項7】
前記青果物に圧力波を与える振動発生装置をさらに備え、
前記表面波は、レイリー波であり、
前記測定部は、前記圧力波に起因して発生した前記レイリー波を測定する、請求項1から6のいずれか一項に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項8】
前記測定部に対する前記青果物の姿勢を変更する姿勢変更部をさらに備える、請求項7に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項9】
前記姿勢変更部は、前記青果物を貫く回転軸周りに前記青果物を回転させる、請求項8に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項10】
前記圧力波が発生する位置と前記回転軸とを結ぶ線と、当該線と交わる線であり、かつ、前記測定部と前記回転軸とを結ぶ線とにより形成される角度は、15度以下である、請求項9に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項11】
前記青果物は、漿果、核果、ナシ状果、および、イチゴ状果のいずれかに属する果物または野菜である、請求項1から10のいずれか一項に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項12】
前記青果物は、りんご、梨、洋ナシ、カリン、ビワ、トマト、アンズ、ブドウ、サクランボ、スモモ、ネクタリン、プルーン、ウメ、ブルーベリー、パパイヤ、柿、ポーポー、キウイ、桃、マンゴー、および、イチゴのいずれかである、請求項11に記載の青果物の損傷検出装置。
【請求項13】
青果物の表面を伝搬する表面波を測定するステップと、
測定された前記表面波に基づいて、前記青果物の損傷を検出するステップと、
を備える青果物の損傷検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の損傷検出装置および青果物の損傷検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青果物は、収穫、輸送、および、包装される過程で衝撃を受けることがある。衝撃により、青果物が傷つくことがある。青果物の傷は、当該傷を起点とする腐敗の進行、および、水分損失の原因となり、青果物の商品価値を下げてしまう。
【0003】
傷がある青果物は、目視検査によって選別されている。しかしながら、目視検査では選別精度が不安定であるため、検査の自動化が要求されている。
【0004】
青果物の状態を判定する装置として、特許文献1には、光を検査対象の果物に照射し、果物からの散乱光の強度を測定し、測定された強度に基づいて果物の熟度を判定する熟度判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の熟度判定装置は、青果物の熟度を判定することはできるが、青果物の傷を検出することはできない。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、青果物の傷を検出することが可能な青果物の損傷検出装置および青果物の損傷検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る青果物の損傷検出装置は、青果物の表面を伝搬する表面波を測定する測定部と、測定された前記表面波に基づいて、前記青果物の損傷を検出する検出部とを備える。
【0009】
本発明に係る青果物の損傷検出方法は、青果物の表面を伝搬する表面波を測定するステップと、測定された前記表面波に基づいて、前記青果物の損傷を検出するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、青果物の傷を検出することが可能な青果物の損傷検出装置および青果物の損傷検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】実施形態に係る青果物の損傷検出装置のブロック図である。
【
図1B】実施形態に係る青果物の損傷検出装置の動作を示すフローチャートである。
【
図1C】実施形態に係る青果物の損傷検出装置によって求められた対応関係であり、位置に対応するパラメータと時間と青果物の表面の変位との対応関係の一例を示す図である。
【
図1D】実施形態に係る青果物の損傷検出装置が実行する損傷に関する判定処理の具体例を説明するための図である。
【
図1E】変形例1に係る青果物の損傷検出装置による青果物の表面の変位の測定結果の一例である。
【
図1F】変形例1に係る青果物の損傷検出装置による青果物の表面の変位の測定結果の別の一例である。
【
図2A】変形例2に係る損傷検出装置がパターン認識を行うときに基準として用いられる青果物の表面の変位の時間変化を示す波形の一例である。
【
図2B】変形例2に係る青果物の損傷検出装置によって求められた対応関係であり、位置に対応するパラメータと時間と青果物の表面の変位との対応関係の一例を示す図である。
【
図3】実施例1に係る実験1に用いられた損傷検出システムを示す概略図である。
【
図4】レイリー波の伝搬について説明する図である。
【
図5】実施例1に係る実験1において設定された加振点および測定点を説明するための図である。
【
図6】打撲傷が付けられていない供試材料のいくつかの測定点における表面の変位の測定結果の例である。
【
図7】打撲傷が付けられていない供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【
図8】打撲傷が付けられた供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【
図9】供試材料の打撲傷について説明するための模式図である。
【
図10A】実施例2における測定結果であり、打撲傷が付けられている供試材料の測定点における表面の変位の測定結果である。
【
図10B】実施例2における測定結果であり、打撲傷が付けられている供試材料の別の測定点における表面の変位の測定結果である。
【
図11A】実施例2における実験結果であり、打撲傷が付けられていない供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【
図11B】
図11Aとは加振点と測定点との位置関係が異なる条件下での実施例2の実験結果であり、打撲傷が付けられていない供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【
図11C】
図11Aおよび
図11Bとは加振点と測定点との位置関係が異なる条件下での実施例2における実験結果であり、打撲傷が付けられていない供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【
図12A】実施例2における実験結果であり、打撲傷が付けられている供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【
図12B】
図12Aとは加振点と測定点との位置関係が異なる条件下での実施例2の実験結果であり、打撲傷が付けられている供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【
図12C】
図11Aおよび
図11Bとは加振点と測定点との位置関係が異なる条件下での実施例2の実験結果であり、打撲傷が付けられている供試材料に関する供試材料の表面の位置に対応するパラメータと時間と供試材料の表面の変位との対応関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明に係る青果物の損傷検出装置について詳細に説明する。以下に示す実施形態および変形例はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態および変形例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。また、実施形態および変形例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに、実施形態および変形例の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
なお、実施形態および変形例を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その説明を省略することもある。なお、本発明の青果物の損傷検出装置は、青果物の表面を伝搬する表面波を測定することで青果物の損傷を検出する。なお、損傷には、打撲傷、擦り傷、および、切り傷等、青果物の表皮および喫食に呈する部分を損なわせる傷が含まれる。表面波には、レイリー波、および、ラブ波などがある。以下に示す実施形態および各変形例では、表面波がレイリー波であるとして説明する。また、本明細書中で、青果物の表面を単に「表面」と称することがある。
【0014】
(実施形態)
図1Aは、本発明の実施形態に係る青果物20の損傷検出装置100のブロック図である。
【0015】
損傷検出装置100は、青果物20の表面のレイリー波に基づいて青果物20の損傷を検出する。よって、青果物20は、表面が振動するものであれば、どんな果物および野菜であってもよい。青果物20は、例えば、りんご、梨、洋ナシ、ビワ、トマト、アンズ、ブドウ、サクランボ、スモモ、ネクタリン、プルーン、ウメ、ブルーベリー、パパイヤ、柿、キウイ、桃、マンゴー、ポーポー、栗、アケビ、ザクロ、パイナップル、ドリアン、パッションフルーツ、スターフルーツ、カリン、アボカド、マンゴスチン、ライチ、ドラゴンフルーツ、バナナ、イチジク、イチゴ、キイチゴ、温州みかん、スィーティー、グレープフルーツ、ハッサク、ブンタン、夏みかん、スイカ、および、メロン等、である。
【0016】
青果物20が、比較的薄く、かつ、比較的柔らかい表皮または果皮を有する野菜および果物である場合、すなわち、漿果、核果、ナシ状果およびイチゴ状果の野菜または果物である場合、損傷検出装置100がもたらす効果は大きい。
【0017】
漿果とは、外果皮は薄く、中果皮および内果皮が水分が多い柔軟な組織からなる肉果となり、中果皮および内果皮の中にやや堅い種皮がある種子を生じる果物または野菜である。また、核果とは、外果皮が薄い果皮となり、中果皮が肥大しており、内果皮は硬く、木化して核を形成する果物または野菜である。また、ナシ状果とは、子房を包む花托または花托が肥大して多肉となり、その内部に子房に由来する芯を有する果物または野菜である。また、イチゴ状果とは、花托が肥大して液質になり、表面に多数の痩果がある果物または野菜である。漿果、核果、ナシ状果およびイチゴ状果の野菜または果物は、生の状態でヒトが喫食する際、歯によって容易に表皮または果皮が裂けまたは破れると同時に、歯が喫食に呈する部分に到達する青果物である。漿果、核果、ナシ状果およびイチゴ状果の野菜または果物は、外部からの衝撃により薄くて柔らかい外皮または果皮に傷がつきやすく、かつ、表皮または果皮の傷は、喫食に呈する部分の痛みに直結する。さらに、当該傷を起点として腐敗が進行しやすいので商品価値が損なわれやすい。青果物20が、漿果、核果、ナシ状果およびイチゴ状果の野菜または果物である場合、損傷検出装置100を用いて青果物20の損傷を検出することで、商品価値が高い青果物20のみを出荷することができる。また、詳しくは後述するが、損傷検出装置100は、青果物20に直接接触することなく青果物20の損傷を検出できる。よって、漿果、核果、ナシ状果またはイチゴ状果の野菜または果物のように、傷が付きやすく、さらに、その傷により商品価値が損なわれやすいものに新たな損傷を与えずに青果物20に対する損傷の検査を行うことができる。よって、検査の前後で、青果物20の商品価値を高いまま維持することができる。
【0018】
漿果、核果、ナシ状果、および、イチゴ状果の野菜または果物には、りんご、梨、洋ナシ、カリン、ビワ、トマト、アンズ、ブドウ、サクランボ、スモモ、ネクタリン、プルーン、ウメ、ブルーベリー、パパイヤ、柿、ポーポー、キウイ、桃、マンゴー、および、イチゴ等が含まれる。
【0019】
損傷検出装置100は、載置部30、振動発生装置40、測定部50、および、制御装置60を備えている。
【0020】
載置部30は、青果物20が載置される台である。載置部30は、青果物20が載置されたことを検出するセンサ(不図示)を備えている。センサは、青果物20を検出すると、検出信号を制御装置60に送信する。
【0021】
載置部30は、青果物20のサイズおよび形状に応じて、互いに直交する3つの軸であるX軸、Y軸、および、Z軸のそれぞれの方向における青果物20の位置が調整可能に構成されている。よって、青果物20の中心を、測定部50の軌道中心に一致させることができる。軌道中心は、測定部50が移動するときの基準となる位置のことであり、載置部30の上方に位置する。
【0022】
青果物20の中心とは、X軸方向における青果物20の中央位置であり、かつ、Y軸方向における青果物20の中央位置であり、かつ、Z軸方向における青果物20の中央位置である位置のことである。
【0023】
振動発生装置40は、青果物20の表面に圧力波を与える装置である。本実施形態において、振動発生装置40は、レーザー装置41、および、レンズ43を備える。
【0024】
レーザー装置41は、制御装置60による制御の下、レーザー光を出射する。レンズ43は、例えば、平凸レンズである。レンズ43は、レーザー装置41から出射されたレーザー光を集光する。これにより、空気中にレーザー誘起プラズマ(Laser Induced Plasma:LIP)が形成される。LIPは、高出力のレーザー光が空気中に出射され、そのレーザーフルエンス(つまり、エネルギー密度)が一定値(具体的には、1015W/m2)を越えたときに形成されるプラズマのことである。レーザー装置41は、制御装置60によって、レーザーフルエンスが1015W/m2を越えるように、レーザーパルスエネルギー、レーザー光の照射範囲、および、レーザー光の照射時間の少なくともいずれかが制御される。
【0025】
LIPは、高速で膨張する。LIPが膨張する際に空気中を伝わる圧力波が生成され、当該圧力波が青果物20に当たる。すると、圧力波が当たった位置において、青果物20に衝撃が加わる。すなわち、振動発生装置40は、圧力波による衝撃を青果物20に対する加振力として用いて青果物20を振動させる。以下の説明において、青果物20の表面上の位置であり、かつ、圧力波が当たる位置を加振点と称する。
【0026】
振動発生装置40により発生された圧力波が青果物20に当たると、青果物20の表面にレイリー波が生成される。レイリー波は、青果物20の表面を伝搬する。
【0027】
測定部50は、例えば、レーザードップラー振動計である。測定部50は、青果物20の表面の測定点に伝搬したレイリー波を測定する。より具体的には、測定部50は、圧力波に対する青果物20の応答を測定する。ここでいう応答は、青果物20の表面の変位である。測定部50は、測定した変位を制御装置60に送信する。なお、測定点は、青果物20の表面の変位について測定される位置であり、青果物20の表面上の位置である。
【0028】
測定部50は、制御装置60の制御の下、軌道中心を中心として、青果物20の周囲を移動する。測定部50が移動する軌道は、軌道中心を中心とする円を描く。
【0029】
より具体的には、測定部50は、軌道中心を含み、かつ、軌道中心を含む水平面に対し角度θ傾いた平面(以下、軌道面と称することがある。)に沿って、軌道中心から一定距離離れた位置を、軌道中心を中心として円運動するように移動可能である。θは、0度以上180度未満の角度である。
【0030】
レイリー波の測定の際、測定部50は、以下(1)から(4)に示すように移動する。
(1)θ=0度の軌道面(すなわち、軌道中心を含む水平面)上のある位置を始点として青果物20の周囲を一定の角度Δη(ここでは、Δη=7.5度)ずつ、青果物20の周囲を一周するまで移動する。
(2)θが7.5度である軌道面に沿って、軌道面上のある位置を始点として、青果物20の周囲を一周するまでΔη(=7.5度)ずつ移動する。
(3)θを7.5度ずつ増加させながら、(2)を繰り返す。
(4)θが172.5度(=180度-7.5度)である軌道面に沿って、軌道面上のある位置を始点として、青果物20の周囲を一周するまでΔη(=7.5度)ずつ移動する。
【0031】
これにより、測定点を青果物20の表面の全範囲のうちの加振点となる位置を除いて、いずれにも設定することができる。すなわち、測定部50は、青果物20の形状にもよるが、加振点となる位置を除いて、青果物20の表面上の実質的にすべての位置におけるレイリー波を測定することができる。
【0032】
本実施形態において、青果物20の周囲を一周するにつき、原則48点測定点が設定可能であり、水平面からの角度θが、0度から172.5度まで24個の値をとり得、かつ、加振点となる位置は測定点に設定できないことを踏まえると、青果物20の表面において、測定点を最大で1151(=48×24-1)点設定可能である。
【0033】
制御装置60は、損傷検出装置100全体を制御する。制御装置60は、記憶部61およびCPU(Central Processing Unit)(不図示)を備えている。
【0034】
記憶部61には、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)が含まれる。記憶部61には、青果物20の損傷を検出するための所定のプログラムが記憶されている。
【0035】
CPUは、ROMに記憶されている所定のプログラムを読みだして、RAMに展開し、展開したプログラムを実行することで制御部62および検出部63として機能する。
【0036】
制御部62は、レーザー装置41のレーザー光の出射を制御する。制御部62は、検出信号を受信したとき、または、所定の条件が成立したときにレーザー装置41に出力信号を送信する。所定の条件については、後に詳細に説明する。
【0037】
制御部62は、測定部50が位置すべき位置を示す移動信号を測定部50に送信することで、測定部50の位置を制御する。
【0038】
検出部63は、測定部50によって測定されたレイリー波に基づいて、青果物20の損傷を検出する。検出部63は、測定部50からの測定結果に基づいて、測定点と当該測定点におけるレイリー波の伝搬速度との対応関係を求める。そして、測定部50は、求められた対応関係に基づいて、青果物20の損傷を検出する。
【0039】
図1Bは、本発明の第1実施形態に係る青果物20の損傷検出装置100の動作を示すフローチャートである。
【0040】
まず、制御部62が、載置部30に青果物20が載置されたか否かを判定する(ステップS1)。ここで、制御部62は、載置部30から検出信号を受信した場合には青果物20が載置部30に載置されたと判定し、当該検出信号を受信していない場合には載置部30に青果物20が載置されていないと判定する。
【0041】
まず、制御部62が、載置部30に青果物20が載置されていない場合(ステップS1のNO)、制御部62は、ステップS1の処理を繰り返す。
【0042】
載置部30に青果物20が載置されている場合(ステップS1のYES)、制御部62は、振動発生装置40を制御してレーザー光を出射させる(ステップS2)。
【0043】
次に、測定部50は、青果物20の表面のレイリー波を測定する(ステップS3)。ステップS3の測定は、所定時間、例えば、圧力波が青果物に当たった時刻から約3ミリ秒間行われる。
【0044】
なお、測定部50は、制御部62が出力信号を振動発生装置40に送信する一定時間(例えば10ミリ秒)前から青果物20の表面の変位の測定を行っている。レイリー波は、ステップS2の処理により生成される圧力波が、青果物20に当たることで生じるので、レイリー波の測定は、ステップS2の後に行われる。
【0045】
次に、制御部62は、所定の条件が成立しているか否かを判定する(ステップS4)。所定の条件とは、1つの青果物20に対するレイリー波の測定回数が所定回数に達していることである。所定回数とは、1つの青果物20に対してあらかじめ定められたレイリー波の測定回数である。所定回数は、例えば、1151回である。1151回は、本実施形態の損傷検出装置100が設定可能な最大限の測定点の数に対応する。
【0046】
所定の条件が成立していない場合(ステップS4のNO)、制御装置60は、レイリー波の測定点を変更する(ステップS5)。ステップS5において、制御部62は、測定部50を移動させる。
【0047】
損傷検出装置100は、測定回数が所定回数に達するまで、ステップS2~S5の処理を繰り返す。なお、1つの青果物20に対して測定が行われるたびに、異なる測定点でレイリー波が測定される。すなわち、損傷検出装置100は、1つの青果物20に対して、複数の測定点においてレイリー波を測定する。
【0048】
そして、所定の条件が成立した場合(ステップS4のYES)、損傷検出装置100は、青果物20の損傷検出処理を行う(ステップS6)。
【0049】
ステップS6では、以下の処理が実行される。まず、検出部63は、測定部50による測定結果に基づいて、表面上の位置とレイリー波の伝搬速度との対応関係を求める。そして、検出部63は、当該対応関係を参照し、レイリー波の伝搬速度が青果物20の表面上の他の位置におけるレイリー波の伝搬速度に比べて所定割合以上小さい位置(以下、速度低下位置と称す。)が表面上に存在する場合、検出部63は、青果物20に損傷があると判定する。他方、検出部63は、速度低下位置が表面上に存在しない場合、検出部63は、青果物20に損傷が無いと判定する。所定割合とは、速度低下率の判定基準であり、例えば、40%である。
【0050】
また、青果物20に損傷があると判定された場合、検出部63は、表面上における速度低下位置の分布を求め、求められた分布に基づいて、青果物20の表面における損傷の存在範囲を特定する。
【0051】
以下、ステップS6で行われる処理の具体例を、
図1Cおよび1Dを参照しつつ説明する。なお、青果物20はりんごであり、りんごの赤道部に加振点が設定されているとして説明する。なお、赤道部は、りんごの表面に位置しており、りんごの芯に沿った方向において当該りんごの梗窪の上端から萼窪の下端までの間をおよそ2等分する位置に位置する部分である。
【0052】
検出部63は、測定部50による測定結果に基づいて、青果物20の表面上の位置(つまり、測定点)に対応するパラメータと、時間と、青果物20の表面の変位との対応関係を求める。
【0053】
図1Cは、位置に対応するパラメータと、時間と、青果物20の表面の変位との対応関係の一例を示す図である。測定部50は、測定点毎に青果物20の表面の変位の時間変化を測定している。検出部63は、赤道部に位置する測定点における測定結果を並べることで
図1Cに示されている対応関係を求めている。なお、
図1CのGR1については、後に説明する。
【0054】
図1Cには、位置に対応するパラメータとして角度が示されている。角度は、青果物20の中心から青果物20の赤道部の加振点に向かう方向を0度としたときに、青果物20の中心から各測定点に向かう方向が示す角度を意味する。
図1Cの変位は、その値が+1μmから-1μmに減少するにしたがって、白色から黒色となるように示されている。変位は、振動していない状態における青果物20の表面の位置からの当該表面の移動量である。なお、横軸の時間は、青果物20の表面の変位の測定が開始された時刻からの経過時間である。
【0055】
図1Cにおいて、時間が増加するほど角度が増加するように伸びる線RW01および時間が増加するほど角度が減少するように伸びる線RW02がレイリー波を示す線である。実施形態のように、加振点が固定され、測定部50を移動させる場合、加振点から測定中の測定点までの長さは、測定部50が移動する度に変化する。よって、
図1Cに示されているように、レイリー波を示す線RW01およびRW02は、斜めに伸びる。線RW01およびRW02は、比較的大きめの変位を示す部分を略直線的につなぐ線から構成されている。比較的大きめの変位を示す部分を略直線的につなぐ線とは、
図1Cにおける白色部分を略直線的につなぐ線、または、黒色部分を略直線的につなぐ線である。
図1Cには、線RW01およびRW02が、白色部分を略直線的につなぐ線として示されている。なお、線RW01およびRW02の傾きの絶対値は、レイリー波の伝搬速度である。
【0056】
検出部63は、レイリー波を示す線の1つ、例えば線RW01の傾きの絶対値に基づいて、測定点におけるレイリー波の伝搬速度を求める。そして、検出部63は、伝搬速度が他の測定点における伝搬速度よりも40%以上小さい測定点(つまり、速度低下位置)の有無を判定する。速度低下位置がある場合、検出部63は、速度低下位置に該当する測定点を求める。
【0057】
図1Dは、損傷検出装置100が実行する損傷に関する判定処理の具体例を説明するための図である。
図1Dに示されているように、線RW01(
図1Dの白線部分)は、3本の直線部分RPT1、RPT2、および、RPT3から構成されている。
【0058】
検出部63は、直線部分RPT1に対応する表面上の範囲に位置するすべての測定点において、レイリー波の伝搬速度がV11であると求める。同様に、検出部63は、直線部分RPT2に対応する表面上の範囲に位置するすべての測定点において、レイリー波の伝搬速度がV12であると求める。また、検出部63は、直線部分RPT3に対応する表面上の範囲に位置するすべての測定点において、レイリー波の伝搬速度がV13であると求める。なお、V11、V12、およびV13は、直線部分RPT1、RPT2、およびRPT3の傾きの絶対値に基づいて求められる。このようにして、検出部63は、赤道部の測定点とレイリー波の伝搬速度の対応関係を求める。
【0059】
V12は、V11およびV13のいずれに対しても40%以上小さい。よって、検出部63は、速度低下位置があると判定し、さらに、直線部分RPT2に対応する表面上の位置に位置するすべての測定点(75度以上かつ112.5度以下の範囲内の測定点)を、速度低下位置として求める。そして、検出部63は、求められた速度低下位置に対応する表面上の位置範囲を損傷の存在範囲として特定する。
【0060】
なお、
図1Dでは、レイリー波を示す直線の1つである線RW01は、3本の直線部分から構成されているが、青果物20に損傷がない場合、1本の直線部分で構成されていることが多い。この場合、レイリー波は表面上の位置に関係なく、ほぼ一定の伝搬速度で伝搬していると言える。
【0061】
以上説明したように、実施形態に係る損傷検出装置100は、青果物20の表面の複数個所においてレイリー波を測定する。そして、測定点とレイリー波の伝搬速度の大きさに基づいて、速度低下位置が存在する場合、青果物20の表面に損傷があると判定する。よって、青果物20の損傷を検出できる。
【0062】
また、損傷検出装置100は、測定点とレイリー波の伝搬速度の対応関係を求め、求められた対応関係から、速度低下位置の分布を求める。よって、損傷検出装置100は、青果物20の表面における損傷の存在範囲を特定することができる。
【0063】
また、損傷検出装置100は、青果物20に対してレーザー光を照射したり、打撃を加えること無く、LIPを形成したときに発生する圧力波を青果物20に当てることで青果物20の表面にレイリー波を発生させている。よって、青果物20を傷つけることなく、損傷を検出することができる。このため、上述したように、青果物20が、漿果、核果、ナシ状果およびイチゴ状果の野菜または果物、すなわち、傷つきやすい果物または野菜であったとしても、青果物20の商品価値を損なわせることなく、損傷の検査を行うことができる。
【0064】
(変形例1)
以下、変形例1に係る損傷検出装置100について、主に上述した実施形態と異なる点を説明する。
【0065】
変形例に係る損傷検出装置100の載置部30は、姿勢変更部として機能する。載置部30は、制御装置60の制御の下、測定部50に対する青果物20の姿勢を変更する。
【0066】
載置部30は、互いに直交する3つの軸であるX軸、Y軸、およびZ軸周りに青果物20を回転させる。ここで、本変形例において、X軸、Y軸、およびZ軸は青果物20を貫く回転軸であり、互いに青果物20中の1点(以降、この1点を回転中心と記載することがある)にて交わる。
【0067】
載置部30は、実施形態と同様、青果物20のサイズおよび形状に応じて、X軸、Y軸、および、Z軸のそれぞれの方向における青果物20の位置が調整可能に構成されている。よって、青果物20の中心を回転中心に一致させることができる。
【0068】
変形例1に係る測定部50は、LIPが形成される位置(すなわち、圧力波が発生する位置)と1つの回転軸とを結ぶ線(以下、第1の線と称す。)と、第1の線と交わる線であり、かつ、測定部50と当該1つの回転軸とを結ぶ線(以下、第2の線と称す。)とにより形成される角度が所定角度(例えば、15度)となる位置に配置されている。ここで、1つの回転軸は、第1の線および第2の線を含む平面に垂直な回転軸である。所定角度は0度よりも大きく、かつ、15度以下であればよい。なお、測定部50は、上述した実施形態と異なり、青果物20の周囲を移動しない。
【0069】
変形例1に係る制御部62は、測定部50の位置を制御することに代えて、載置部30を制御する。より具体的には、制御部62は、青果物20の姿勢を変更するための姿勢制御信号を載置部30に送信する。姿勢制御信号には、例えば、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸周りに回転させるべき角度を示す情報が含まれる。
【0070】
このように、変形例1に係る損傷検出装置100は、測定部50を移動させる代わりに、測定部50に対する青果物20の姿勢を変更させることで、レイリー波の測定点を変更する。
【0071】
変形例1に係る損傷検出装置100が実行する動作は、ステップS5およびS6の処理内容以外は、実施形態に係る損傷検出装置100が実行する動作と同じである。
【0072】
変形例1では、ステップS5において、制御部62は、載置部30を制御することで青果物20の測定部50に対する姿勢を変更する。その結果、測定点が変更される。
【0073】
以下、変形例1におけるステップS6で行われる処理の具体例を、
図1Eおよび
図1Fを参照しつつ説明する。なお、以下の説明における損傷は、表面において比較的広範囲に存在するものであるとする。また、所定角度が15度となるように測定部50が配置されているとする。さらに、青果物20は、りんごであるとする。
【0074】
図1Eおよび
図1Fは、変形例1に係る青果物20の損傷検出装置100による測定結果の一例であり、青果物20の表面の変位の時間変化を示すグラフである。
【0075】
図1Eおよび
図1Fは、互いに異なる測定点における測定結果である。なお、横軸の時間は、青果物20の表面の変位の測定が開始された時刻からの経過時間を意味する。
図1Eおよび
図1FのPT1およびPT2については、後に説明する。以下、
図1Eおよび
図1Fのグラフは、青果物20の赤道部上に位置する測定点M1および測定点M2における測定結果であるとして説明する。
【0076】
まず、検出部63は、赤道部上の各測定点における表面の変位の時間変化を示すグラフに基づいて、加振点から測定点までの表面上の範囲におけるレイリー波の伝搬速度に対応する速度パラメータをそれぞれ求める。この速度パラメータは、レイリー波が加振点において発生してから測定点に到達するまでにかかる時間の逆数である。
【0077】
例えば、
図1Eおよび1Fのグラフにおいて、レイリー波が発生してから測定点M1およびM2に到達するまでの時間はそれぞれTAR1およびTAR2である。よって、加振点から測定点M1およびM2までの速度パラメータは、TAR1およびTAR2の逆数を計算することでそれぞれ求められる。
【0078】
検出部63は、求められた速度パラメータ同士を比較して、速度パラメータが、他の範囲の速度パラメータと比べて、40%以上小さい表面上の範囲(以下、速度低下範囲と称す。)の有無を判定する。
【0079】
変形例1では加振点から測定点までの長さがほぼ一定に保たれるので、加振点から測定点までの長さは、測定点の位置に関係なく一定である。このため、加振点から測定点までの範囲におけるレイリー波の伝搬速度は、レイリー波が発生してから測定点に到達するまでにかかる時間に反比例し、加振点から測定点までの範囲における速度パラメータに比例する。
【0080】
よって、検出部63は、速度パラメータの値に基づく判定を行うことで、伝搬速度が、表面上の他の範囲における伝搬速度と比べて、40%以上小さい表面上の範囲の有無を判定していることになる。さらに、速度低下範囲は速度低下位置を含んでいる。よって、上述したように、速度パラメータの値に基づく判定を行うことで、速度低下位置の有無を判定していることになる。
【0081】
加振点から測定点M2における速度パラメータは、加振点から測定点M1における速度パラメータよりも約53%小さい。よって、検出部63は、速度低下範囲、すなわち、速度低下位置があると判定し、さらに、青果物20に損傷があると判定する。そして、検出部63は、速度低下位置の分布、すなわち、表面上の速度低下範囲に基づいて、表面上における損傷の存在範囲を特定する。
【0082】
もし、速度低下位置が存在しないと判定された場合、検出部63は、青果物20に損傷が無いと判定する。
【0083】
なお、上述した処理は、加振点から測定点までの長さが、損傷の存在範囲の長さ以下である場合には有効である。損傷の存在範囲の長さが、加振点から測定点までの長さよりも短くなる程度に損傷の存在範囲が小さい場合、損傷が存在している範囲と損傷が存在していない範囲とを伝搬する速度パラメータしか算出できない。つまり、損傷が存在している範囲のみを伝搬するレイリー波の速度パラメータが算出できない。よって、伝搬速度(速度パラメータ)の低下率の判定基準を40%とした場合、損傷があるにもかかわらず、検出部63は、損傷がないと判定される可能性があるためである。このため、加振点から測定点までの長さができるだけ短い方が、つまり、上述した所定角度は小さい方が損傷の検出精度が高くなる。また、高い精度で損傷の存在範囲を特定することができる。
【0084】
以上説明したように、変形例1に係る損傷検出装置100は、測定部50に対する青果物20の姿勢を変更することで測定点を変更する。このような変更を複数回行うことで、測定部50を移動させることなく、青果物20の表面の様々な位置においてレイリー波の測定を実行することができる。よって、より短時間で測定点を変更でき、ひいては、損傷検出装置100を用いた青果物20の損傷検査をより効率的に行うことができる。
【0085】
変形例1に係る損傷検出装置100は、測定部50に対する青果物20の姿勢を変更するので、測定部50の位置とLIPが形成される位置との位置関係が変更されない。また、測定点の変更に伴い、加振点も変更されるので、測定点と加振点の位置関係を変更することなく、測定点を次々に変更できる。
【0086】
すなわち、測定点が変更されたとしても、測定点と加振点との距離がほぼ一定に維持される。さらに、測定部50は、LIPが形成される位置と回転軸とを結ぶ線と、当該線と交わる線であり、かつ、測定部50と当該回転軸とを結ぶ線とにより形成される角度が0度よりも大きく、かつ、15度以下となる位置に位置している。これにより、青果物20の損傷の検出精度を高めることができる。具体的には、青果物20の損傷の有無をより正確に判定することができるとともに、損傷の存在範囲をより正確に特定できる。
【0087】
(変形例2)
以下、変形例2に係る損傷検出装置100について、主に上述した変形例1と異なる点を説明する。
【0088】
変形例1と異なる点はステップS6で行われる処理である。変形例2では、ステップS6において、検出部63は、測定部50の測定結果に対してパターン認識を行うことで、青果物20に損傷があるか否かを判定する。また、検出部63は、測定部50による測定結果に対してパターン認識を行うことで、表面上における損傷の存在範囲を特定する。以下、変形例2の損傷検出装置100が実行するパターン認識の例を説明する。以下の説明は、青果物20がりんごであり、赤道部上に位置する測定点における測定結果に対して処理することを例とするものである。
【0089】
<パターン認識の例1>
予め記憶部61には、パターン認識の基準とする波形(以下、基準波形と称す。)が記憶されている。基準波形は、青果物20の表面における損傷がない位置をレイリー波が伝搬したときの当該位置における表面の変位の時間変化を示す波形である。
図2Aは、検出部63がパターン認識を行うときに基準として用いられる青果物の表面の変位の時間変化を示す波形の一例である。
図2Aの時間範囲PTは、パターン認識において比較対象となる部分波形(以下、基準部分波形と称す。)が位置する時間範囲である。基準部分波形には、レイリー波の成分を示す波形部分が含まれる。なお、横軸の時間は、青果物20の表面の変位の測定が開始された時刻からの経過時間を意味する。
【0090】
検出部63は、測定部50による測定結果に基づいて、青果物20の表面上の位置(つまり、測定点)毎に表面の変位と時間との対応関係を求める。ここで求められる対応関係は、測定点における青果物20の表面の変位の時刻歴波形を示す。
【0091】
以下、測定部50による測定結果に基づいて求められた変位と時間との対応関係の中に、
図1Eおよび
図1Fに示されている変位と時間との対応関係が含まれているとして説明する。
【0092】
検出部63は、基準部分波形に基づいて各測定点の時刻歴波形をパターン認識する。まず、検出部63は、各測定点における時刻歴波形から、レイリー波の成分を示す波形部分が含まれるように所定の波形部分(以下、抽出波形と称す。)を抽出する。検出部63は、
図1Eおよび
図1Fの時刻歴波形について、それぞれ時間範囲PT1の波形部分、および、時間範囲PT2の波形部分を抽出波形として抽出する。そして、検出部63は、すべての測定点に対応する抽出波形と、基準部分波形とを比較して、抽出波形と基準部分波形とが同一の形状であるか否かを判定する。
【0093】
例えば、検出部63は、抽出波形が、基準部分波形における最大変位の2倍以上の変位を有する場合、抽出波形と基準部分波形とは異なる波形であると判定する。また、検出部63は、抽出波形が、当該最大変位の2倍以上の変位を有していない場合、抽出波形と基準部分波形とは同じ波形であると判定する。
【0094】
図1Eの抽出波形の最大変位は、約0.5μmであり、
図1Fの抽出波形の最大変位は、約3.7μmである。よって、検出部63は、
図1Eの抽出波形は、基準部分波形と同じ波形であると判定し、
図1Fの抽出波形は、基準部分波形と異なる波形であると判定する。
【0095】
検出部63は、すべての測定点に対応する抽出波形が基準部分波形と同じ波形であると判定した場合、青果物20に損傷はないと判定する。すべての測定点に対応する抽出波形の中に、1つでも基準部分波形と異なる波形であると判定された抽出波形が含まれる場合、検出部63は、青果物20に損傷があると判定する。
【0096】
また、検出部63は、基準部分波形と異なる波形であると判定された抽出波形に対応する測定点の位置に基づいて、青果物20の表面における損傷の存在範囲を特定する。
【0097】
なお、記憶部61は基準部分波形、すなわち、比較対象となる部分の波形のみを記憶していてもよい。また、変位の大きさの基準は、必ずしも基準部分波形の最大変位の2倍でなくてもよい。さらに、抽出波形と基準部分波形とが同一の形状であるか否かを判定するとき、検出部63は、変位の大きさ以外の波形の特徴部分、例えば、波長等に基づいて判定してもよい。
【0098】
<パターン認識の例2>
以下、パターン認識の例2を、
図2Bを参照しつつ説明する。以下の説明において青果物20は、りんごであるとする。
【0099】
検出部63は、測定部50による測定結果に基づいて、青果物20の表面上の位置(つまり、測定点)に対応するパラメータと、時間と、青果物20の表面の変位との対応関係を求め、その対応関係を示す画像を生成する。
【0100】
図2Bは、位置に対応するパラメータと、時間と、青果物20の表面の変位との対応関係の一例を示す図である。検出部63は、赤道部に位置する測定点における測定結果(つまり、変位の時間変化のグラフ)を並べることで
図2Bに示されている対応関係を求めている。
【0101】
図2Bには、縦軸の角度、横軸の時間、および、変位の色については、
図1Cにおける角度、時間、および変位と同じことを意味するので、詳細な説明を省略する。
【0102】
変形例2は、変形例1と同様、青果物20の姿勢を変更することで測定点を切り替える測定方法を利用している。このため、測定点が変更されたとしても加振点から測定点までの長さはほぼ変わらない。このため、レイリー波を示す線RW03は、同時刻を示す直線が伸びる方向と略平行に伸びた線となる。線RW03は、比較的大きめの変位を示す部分を略直線的につなぐ線から構成されている。比較的大きめの変位を示す部分を略直線的につなぐ線とは、
図2Bにおける白色部分を略直線的につなぐ線、または、黒色部分を略直線的につなぐ線である。
図2Bには、線RW03が、白色部分を略直線的につなぐ線として示されている。
【0103】
図2BのGR2(2点鎖線枠内部分)が、検出部63によって生成される画像である。
【0104】
検出部63は、生成された画像に対してパターン認識する。まず、検出部63は、画像GR2からレイリー波を示す線を探す。そして、検出部63は、レイリー波を示す線が、0度から360度まで分断されていないと判定した場合、青果物20に損傷はないと判定する。検出部63は、レイリー波を示す線が、複数の線に分断されていると判定した場合、青果物20に損傷があると判定する。
【0105】
検出部63は、画像GR2をパターン認識し、線RW03を発見する。そして、線RW03が、分断部分SPTにより分断されていると判定する。そして、検出部63は、青果物20に損傷があると判定する。
【0106】
さらに、検出部63は、分断部分SPTの角度範囲を特定する。そして、検出部63は、特定した角度範囲に基づいて、青果物20の表面における損傷の存在範囲を特定する。検出部63は、例えば、75度以上112.5度以下の角度範囲を損傷の存在範囲として特定する。
【0107】
変形例2で実行されるパターン認識は、上述した2つの例に限られない。他の部位におけるレイリー波の伝搬状態と比べてレイリー波の伝搬状態が異なるか否かを判定できる手法であればよい。
【0108】
以上説明したように、変形例2に係る損傷検出装置100は、レイリー波の測定結果に対して、パターン認識を行うことで、損傷の有無、および、損傷の存在範囲を特定することができる。また、変形例2に係る損傷検出装置100は、変形例1に係る損傷検出装置100と同様の効果が得られる。
【0109】
(変形例3)
以下、変形例3に係る損傷検出装置100について、主に上述した実施形態と異なる点を説明する。
【0110】
実施形態と異なる点はステップS6で行われる処理である。変形例3では、ステップS6において、検出部63は、測定部50の測定結果に対してパターン認識を行うことで、青果物20に損傷があるか否かを判定する。また、検出部63は、測定部50による測定結果に対してパターン認識を行うことで、表面上における損傷の存在範囲を特定する。
【0111】
<パターン認識の例3>
上述したパターン認識の例1と同様に、検出部63は、予め記憶部61に記憶されている基準波形の中の基準部分波形と、各測定点における時刻歴波形の中の抽出波形とが同一波形であるか否かを判定することで、損傷の有無を判定する。さらに、検出部63は、基準部分波形と異なる波形であると判定された抽出波形に対応する測定点の位置に基づいて、青果物20の表面における損傷の存在範囲を特定する。
【0112】
なお、変形例3では、加振点が固定されつつ測定部50が移動させるので、測定点が切り替えられる度に、加振点から測定点までの長さが変わる。よって、レイリー波が各測定点に到達する時刻が異なる。このため、各測定点における時刻歴波形の中の抽出波形に対応する時間範囲は、加振点から測定点までの長さに応じて後の時刻にシフトしている。この点を除けば、パターン認識の例1と同様にして、検出部63は、損傷の有無の判定、および、損傷の存在範囲の特定を行う。
【0113】
<パターン認識の例4>
以下、
図1Cおよび
図1Dを参照しつつ、変形例3の損傷検出装置100が実行するパターン認識の例4を説明する。主に、上述したパターン認識の例2と異なる点を説明する。
【0114】
検出部63は、測定部50による測定結果に基づいて、青果物20の表面上の位置(つまり、測定点)に対応するパラメータと、時間と、表面の変位との対応関係を求め、その対応関係を示す画像を生成する。以下の説明において、
図1Cおよび
図1Dに示されている画像GR1(2点鎖線枠内部分)が、検出部63によって生成されたとして説明する。
【0115】
検出部63は、生成された画像GR1に対してパターン認識する。
【0116】
検出部63は、画像GR1からレイリー波を示す線を探す。そして、検出部63は、レイリー波を示す線が、ほぼ1本の直線部分で構成されていると判定した場合、青果物20に損傷はないと判定する。検出部63は、レイリー波を示す線が、複数の直線部分で構成されていると判定した場合、青果物20に損傷があると判定する。
【0117】
検出部63は、画像GR1をパターン認識し、線RW01(
図1Dの白線部分)を発見する。そして、線RW01が、3本の直線部分RPT1、RPT2、および、RPT3から構成されていると判定する。そして、検出部63は、青果物20に損傷があると判定する。
【0118】
さらに、検出部63は、直線部分RPT1および直線部分RPT3に対して傾きが大きく異なる部分である直線部分PRT2の角度範囲を特定する。そして、検出部63は、特定した角度範囲に基づいて、青果物20の表面における損傷の存在範囲を特定する。検出部63は、例えば、75度以上112.5度以下の角度範囲を損傷の存在範囲として特定する。
【0119】
変形例3で実行されるパターン認識は、上述した2つの例に限られない。他の部位におけるレイリー波の伝搬状態と比べてレイリー波の伝搬状態が異なるか否かを判定できる手法であればよい。
【0120】
以上説明したように、変形例3に係る損傷検出装置100は、レイリー波の測定結果に対して、パターン認識を行うことで、損傷の有無、および、損傷の存在範囲を特定することができる。また、変形例3に係る損傷検出装置100によれば、変形例1に係る損傷検出装置100と同様の効果が得られる。
【0121】
(その他の変形例)
損傷検出装置100が測定部50を青果物20の周囲を移動させる場合、損傷検出装置100は、測定部50および制御装置60を備えていればよく、載置部30および振動発生装置40を必ずしも備えていなくてもよい。すなわち、載置部30および振動発生装置40は、損傷検出装置100とは別に準備される装置であってもよい。
【0122】
圧力波を青果物20に当てるための手法は、レーザー光を用いてLIPを形成する手法に限られず、青果物20の表面を振動させることができる手法であればどんな手法が用いられてもよい。よって、例えば、スピーカ等の音響装置を用いて青果物20にレイリー波を生成して(つまり、振動を与えて)もよい。ただし、圧力波は青果物20の加振点に、点とみなせるような小さな領域で与えることが望ましい。また、バイブレーター等の振動装置を用いて、振動装置を青果物20に接触させてレイリー波を生成して(つまり、振動を与えて)もよい。ただし、青果物20に新たな損傷を与えることなく損傷を検出する観点からは、青果物20に接触することなく青果物20を振動させる装置を用いることが望ましい。
【0123】
1つの青果物20に対するレイリー波の測定回数は、1151回に限られない。損傷の有無のみを判定するという観点に基づけば、測定回数を1151回より少なくしてもよい。この場合、上述した一定の角度Δηは、7.5度よりも大きく設定され、かつ、角度θは、7.5度よりも大きい値で変更される。
【0124】
損傷の存在範囲をより正確に特定するという観点に基づけば、測定回数を1151回より多くしてもよい。この場合、上述した一定の角度Δηは、7.5度よりも小さく設定され、かつ、角度θは、7.5度よりも小さい値で変更される。
【0125】
変形例1および2に係る載置部30は、必ずしも3つの軸周りに青果物20を回転させるように構成されていなくてもよく、少なくとも1つの回転軸周りに回転させることができるように構成されていればよい。
【0126】
上述した実施形態、および、各変形例では、測定部50は、圧力波に対する青果物20の応答として青果物20の表面の変位を測定すると説明したが、測定される応答は、青果物20の表面の振動に対応する速度、または、加速度であってもよい。速度や加速度を測定した場合、測定結果を積分することで、変位の値を得ることができる。また、測定部50は、青果物20の表面の振動を測定できればよいので、レーザードップラー振動計に代えて、レーザー変位計等を用いてもよい。また、測定部50として、青果物20の表面の振動を測定できるカメラを使用してもよい。当該カメラを使用する場合、青果物20対して少なくとも2つの方向から測定することで、青果物20の表面の全範囲の各位置における振動を測定できる。このため、実施形態および変形例3に係る測定部50の移動回数および変形例1および2に係る載置部30による姿勢変更回数を少なくすることができる。
【0127】
変形例1および2では、所定角度が0度よりも大きく、かつ、15度以下となるように測定部50が配置されるとしたが、損傷の有無を判定するという観点に基づけば、所定角度が15度よりも大きくかつ90度以下であってもよい。
【0128】
なお、振動発生装置40が備えるレンズ43は、レーザー光を集光可能なレンズであればよい。例えば、レンズ43は、対物レンズ、集光レンズ、および、シリンダレンズ等のレンズであってもよいし、それらを組み合わせたものであってもよい。
【0129】
実施形態および変形例2において、測定部50は、始点からΔη度ずつ、青果物20の周囲を移動するとしたが、測定部50は、軌道中心に対して始点の反対側の点まで、一方向周りに始点からΔη度ずつ移動し、その後、当該始点から他方向周りに反対側の点まで移動してもよい。
【0130】
(実施例1)
発明者は、実験1により、青果物の表面波の一例であるレイリー波を測定することで青果物の打撲傷を検出できることを明らかにした。以下、発明者が行った実験1について説明する。
【0131】
<供試材料>
本実験では、供試材料、すなわち、青果物として4個のりんごを用いた。詳しく説明すると、りんごは、直径10cm程度の新鮮な青森県産「サンふじ」である。以下の説明において、4個のりんごを、それぞれサンプル1、サンプル2、サンプル3、サンプル4と称する。
【0132】
<損傷検出システム>
図3は、実施例1に係る実験1に用いられた損傷検出システム200を示す概略図である。なお、
図3の110はりんごである。
【0133】
損傷検出システム200は、ラボジャッキ130、振動発生装置140、レーザードップラー振動計(LDV)150、および、アナライザ170を備えている。
【0134】
ラボジャッキ130は、りんご110を載置する台である。ラボジャッキ130は、その高さが調整可能である。ラボジャッキ130は、りんごの載置位置に設けられたクッションを備えている。
【0135】
振動発生装置140は、レーザー装置141、ミラー142、および、平凸レンズ143を備えている。
【0136】
レーザー装置141として、高出力Nd:YAGパルスレーザー(Continum Inc. surelite III-10、波長1064nm、ビーム直径9.5mm、パルス幅5ns、最大出力850mJ、広がり角0.5mrad)を用いた。
【0137】
ミラー142は、LIPを形成させる位置に向けてレーザー装置141から出射されたレーザー光LSの進行方向を変更する。
【0138】
平凸レンズ143として、焦点距離100mmの平凸レンズを用いた。平凸レンズ143は、ミラー142にて進行方向が変更されたレーザー光LSを集光する。これにより、LIPが形成され、LIPが膨張するときに空気中を伝搬する圧力波が生じる。この圧力波による衝撃をりんご110に対する加振力として用いてりんご110の表面を振動させた。
【0139】
本実験では、レーザー光のレーザーパルスエネルギーを850mJに設定した。
【0140】
なお、LIPが空気中で形成するために必要なレーザーフルエンス(つまり、エネルギー密度)I[W/m2]は、レーザーパルスエネルギーE[J]、レーザー光の照射時間T[s]、および、レーザー光LSが照射される領域の面積S[m2]を用いて、I=E/(ST)と表される。空気中におけるLIPの閾値はI≧1015W/m2である。本実験はエネルギー密度Iが1015W/m2以上となるように、レーザー光LSが照射される空気中の領域範囲の面積Sを調整した。
【0141】
また、LIPが、りんご110の表面から3mmの位置に形成されるようにレーザー装置141、ミラー142、および、平凸レンズ143の位置、並びに、ラボジャッキ130の高さを調整した。
【0142】
図4は、レイリー波の伝搬について説明する図である。なお、点Pおよび点BPはりんご110の表面上の点である。
【0143】
LIPが形成される際に生じる圧力波がりんご110の加振点である点Pに当たると、点Pに衝撃が加わり、点Pが振動する。これにより、りんご110の表面にレイリー波が生成される。レイリー波は点Pを起点としてりんご110の表面を伝搬する。レイリー波は、点Pの反対側に位置する点BPにも伝搬する。
【0144】
【0145】
レーザードップラー振動計150は、圧力波を受けたりんご110の応答を測定する計器である。本実験では、レーザードップラー振動計150として、LDV(Polytec Inc. NLV-2500-5)を用いて、りんご110の表面の変位を測定した。
【0146】
図3の破線は、りんご110の中心Oから一定距離離れた位置を示す曲線(以下、移動曲線と称す。)である。本実験では、レーザードップラー振動計150を破線に沿って移動させ、りんご110の赤道部EQ上の複数の測定点におけるりんご110の表面の変位を測定した。なお、本実験において設定された測定点については、後に詳細に説明する。なお、中心Oは、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸およびZ軸としたとき、X軸方向におけるりんご110の中央位置であり、かつ、Y軸方向におけるりんご110の中央位置であり、かつ、Z軸方向におけるりんご110の中央位置である位置のことである。
【0147】
本実験では、アナライザ170として、スペクトルアナライザ(NI PXI-4462)を用いて、レーザードップラー振動計150による測定結果を記録した。
【0148】
<加振点および測定点>
図5は、実験1における加振点IPおよび測定点MP1~MP47を説明するための図である。
図5には、上側から見たときのりんご110の様子が示されている。
図5のBRは打撲傷である。
【0149】
本実験では、りんご110の赤道部EQ上に加振点IPおよび測定点MP1~MP47をそれぞれ設定した。
【0150】
加振点IPは、LIPに起因する圧力波が当てられる位置である。本実験では、加振点IPは、りんご110の赤道部EQ上に設定された。
【0151】
本実験を説明する上で、点Oと点IPとを結ぶ線を基準線とし、当該基準線に沿って点Oから点IPに向かう方向を、0度の方向と称する。また、点IPの位置を0度の位置と称することもある。
【0152】
本実験では、測定点を等間隔に47点(測定点MP1~MP47)設定した。測定点MP1~47は、レーザードップラー振動計150により測定対象となる位置である。測定点MP1~47は、0度の方向から7.5n度反時計回りに回転させた方向にそれぞれ位置する。ここで、nは1~47のいずれかの整数である。例えば、測定点MP1は、7.5度の位置に位置し、測定点MP12は、90度の位置に位置し、測定点MP24は、180度の位置に位置し、測定点MP36は、270度の位置に位置する。
【0153】
<打撲傷>
サンプル1~4を温度が0℃かつ湿度が50%の冷蔵庫内で保管し、さらに、室温で1時間放置した。そして、打撲傷BRが付けられていない状態でサンプル1~4について後述するレイリー波の測定を行った後、サンプル1~4を高さ15cmの位置から自由落下させて鋼鉄製の定盤と衝突させることで、赤道部EQに打撲傷BRをつけた。なお、本実験では、打撲傷BRが、測定点MP12の近傍になるようにサンプル1~4に打撲傷BRが付けられている。
【0154】
なお、打撲傷BRが付けられたりんご110は、りんご110の果肉が痛んでいるものの、痛んだ果肉を覆う表皮と痛んでいない果肉を覆う表皮とを目視により判別することは困難な状態にある。すなわち、りんご110の表皮を見ただけでは、打撲傷BRの位置を特定することは困難である。
【0155】
<レイリー波の測定>
本実験では、レイリー波の測定を行う度に、7.5度の方向から180度の方向まで、レーザードップラー振動計150を
図3の矢印Y1の方向に7.5度ずつ移動させた。これにより、測定点MP1~24におけるレイリー波を次々に測定した。また、352.5度の方向から187.5度の方向までレーザードップラー振動計150を
図3の矢印Y2の方向に7.5度ずつ移動させた。これにより、測定点MP47~25におけるレイリー波を次々に測定した。
【0156】
なお、1つの測定点についてレイリー波の測定が行われる度にレーザー装置141は、レーザー光LSを出射する。例えば、測定点MP1におけるレイリー波の測定が完了すると、測定点MP2におけるレイリー波を測定する際にレーザー装置141は、レーザー光LSを出射する。
【0157】
<その他>
発明者は、サンプル1~4に対してレイリー波の測定を温度が20℃、および、湿度が60%の環境下で行った。なお、発明者は、サンプル1~4が、打撲傷BRが付けられていない状態および打撲傷BRが付けられた状態の両方においてレイリー波の測定を行った。また、発明者は、打撲傷BRが付けられたサンプル1~4に対するレイリー波の測定を、それぞれに打撲傷BRを付けてから6時間以内に行った。
【0158】
1つの測定点に対して、一定時間、ここでは約13ミリ秒間、レーザードップラー振動計150を用いてりんご110の表面の変位を測定し続けた。なお、レイリー波が発生する約10ミリ秒前からレーザードップラー振動計150でりんご110の表面の変位の測定を開始しており、レイリー波がりんご110の表面に発生してから約3ミリ秒間、りんご110の表面の変位を測定した。
【0159】
<実験1の結果>
図6は、サンプル4のいくつかの測定点における表面の変位の測定結果の例であり、表面の変位の時間変化を示すグラフである。
図6のグラフは、打撲傷BRが付けられていない状態にあるサンプル4のレイリー波の測定結果を示しており、測定点MP6、測定点MP12、および、測定点MP18における表面の変位の時間変化を示している。
【0160】
なお、変位は、振動していない状態におけるりんご110の表面の位置からの当該表面の移動量である。りんご110の中心Oからりんご110の表面に向かう方向(以下、半径方向と称す。)に表面が移動したとき、変位の符号は正であり、半径方向に対して反対方向に表面が移動したとき、変位の符号は負である。時間は、レーザードップラー振動計150が、りんご110の表面の変位の測定を開始した時刻からの経過時間である。レイリー波がりんご110の表面に発生したときの時刻は10ミリ秒であった。
【0161】
そして、測定点MP1~47における表面の変位の時間変化のグラフを、測定点MP1~47の位置毎に並べることで、サンプル4の表面の位置に対応するパラメータ(ここでは角度)と、時間と、変位との対応関係を生成した。
【0162】
図7は、打撲傷BRが付けられていないサンプル4に関する実験結果であり、サンプル1の表面の位置に対応するパラメータ(ここでは角度)と時間とサンプル4の表面の変位と対応関係を示す図である。
【0163】
図7の縦軸の角度は、サンプル4の表面の位置に対応している。1~47のいずれかの整数をnとしたときに整数7.5n度は、測定点MPnの位置に対応する。また、角度0度から角度360度までの角度の大きさは、サンプル4の赤道部EQに沿った外周の長さに相当する。
【0164】
図7の変位は、その値が+1μmから-1μmに減少するにしたがって、白色から黒色となるように示されている。
【0165】
本実験では、加振点IPを固定しつつ、測定点MP1~47を次々に切り替えた。このため、レイリー波が測定点MP1~47に到達する時刻は、加振点IPからの距離に比例して遅くなる。したがって、
図7に示されているように、レイリー波は、時間に比例して角度の値が大きくなる直線RW1、および、時間に比例して角度の値が小さくなる直線RW2として表される。また、これらの直線RW1およびRW2の傾きは、途中で大きく変化することなく、ほぼ一定であった。
【0166】
なお、直線RW1は、加振点IPから測定点MP1、MP2、…と伝搬するレイリー波を示す。一方、直線RW2は、加振点IPから測定点MP47、MP46、…と伝搬するレイリー波を示す。
【0167】
直線RW1およびRW2の傾きが途中で大きく変化することなく、ほぼ一定の傾きを有する直線として表されていることは、サンプル4の測定点MP1~47をほぼ同じ速度でレイリー波が伝搬していることを意味する。2つのレイリー波の伝搬速度は、直線RW1およびRW2の傾きの絶対値であり、その値は約84m/sであった。
【0168】
図8は、打撲傷BRが付けられたサンプル4に関する実験結果であり、サンプル4の表面の位置に対応するパラメータ(ここでは角度)と時間とサンプル4の表面の変位との対応関係を示す図である。
図8の対応関係は、打撲傷BRが付けられたサンプル4に関する測定点MP1~47における表面の変位の時間変化のグラフを、測定点MP1~47の位置毎に並べることで得られる。
【0169】
レイリー波を示す線RW3において、75度以上112.5度以下の角度範囲の傾きの絶対値は、0度以上75度未満の角度範囲の傾きの絶対値、および、112.5度より大きく360度未満の角度範囲の傾きの絶対値と比べて小さくなっている。この結果は、75度以上112.5度以下の角度範囲において、レイリー波の伝搬速度が小さくなっていることを意味する。
【0170】
線RW3の0度以上75度未満の角度範囲、および、112.5度より大きく360度未満の角度範囲における傾きの絶対値は、直線RW1およびRW2の傾きの絶対値とほぼ同じであった。よって、打撲傷BRが付けられているサンプル4の表面を伝搬するレイリー波の伝搬速度は、0度以上75度未満の角度範囲、および、112.5度より大きく360度未満の角度範囲において、打撲傷BRが付けられていないサンプル4の表面を伝搬するレイリー波の伝搬速度とほぼ同じであると言える。
【0171】
図8において、75度以上112.5度以下の角度範囲におけるレイリー波の伝搬速度の大きさは、75度以上112.5度以下の角度範囲における線RW3の傾きの絶対値から、約45m/sと求められた。この値は、打撲傷BRが付けられていないサンプル4におけるレイリー波の伝搬速度(すなわち、約84m/s)と比べて、約46%小さい。言い換えると、打撲傷BRが付けられているサンプル4において、レイリー波の伝搬速度は、0度以上75度未満の角度範囲、および、112.5度より大きく360度未満の角度範囲の値と比べて、75度以上112.5度以下の角度範囲の値が約46%小さい。
【0172】
表1には、本実験により得られたサンプル1~4に関するデータが示されている。なお、伝搬速度Vbfは、打撲傷BRが付けられていない状態のサンプル1~4に関するデータであり、赤道部EQにおけるレイリー波の伝搬速度の平均値である。伝搬速度Vafは、打撲傷BRが付けられている状態のサンプル1~4に関するデータであり、レイリー波の伝搬速度の値が小さい領域におけるレイリー波の伝搬速度の平均値である。速度低下率は、伝搬速度Vbfに対する伝搬速度Vafの低下率を示しており、(Vbf-Vaf)×100/Vbfで表すことができる。
【0173】
【0174】
表1には、サンプル1~4の質量が、313.3g以上347.5g以下であることが示されている。よって、サンプル1~4の中には、極端に大きいりんご、および、極端に小さいりんごは含まれていないと言える。
【0175】
表1には、サンプル1~4の伝搬速度Vafはサンプル1~4の伝搬速度Vbfに対して、少なくとも44%以上小さい値であることが示されている。
【0176】
発明者は、サンプル1~4の打撲傷BRの大きさを評価した。
【0177】
図9は、りんご110の打撲傷BRについて説明するための図である。
図9の上側には、打撲傷BRに正対する方向からりんご110を見た時の打撲傷BRの模式図が示されており、
図9の下側には、打撲傷BRに正対する方向に対して垂直な方向から見た時の打撲傷BRの模式図が示されている。
【0178】
W1およびW2は、打撲傷BRの延在方向を含む平面(以下、延在面と称す。)に関する値である。W1およびW2は、延在面に含まれる互いに直交する2つの軸に沿った方向における各寸法である。
【0179】
yおよびbは、りんご110の半径方向に関する打撲傷BRの値である。yは、打撲傷BRが付けられたことで中心Oに向かってりんご110の表面が凹んだ長さである。bは、打撲傷BRが付けられる前のりんご110の表面から当該表面に付けられた打撲傷BRの最も中心Oに近い位置までの長さである。
【0180】
Enclosed volume法を用いた場合、打撲傷BRの大きさである打撲量Eは、以下に示す式で表される。
【0181】
【0182】
供試材料として用いた4個のりんご110に対して発明者は式(1)を用いて打撲量Eを算出した。
【0183】
表2には、サンプル1~4の打撲傷BRに関する各値(W1、W2、y、およびb)、打撲量、および、打撲傷BRの存在範囲が示されている。
【0184】
【0185】
表2には、サンプル4の打撲傷BRの存在範囲が75度以上かつ112.5度以下であることが示されている。この範囲は、打撲傷BRが付けられている状態のサンプル4における伝搬速度が周囲よりも小さい角度範囲(つまり、75度以上かつ112.5度以下である角度範囲)に一致している。
【0186】
なお、サンプル1~3におけるレイリー波の伝搬速度が小さい範囲は、サンプル1~3の打撲傷BRの存在範囲(表2参照)と完全には一致しなかった。しかし、サンプル1~3におけるレイリー波の伝搬速度が小さい範囲と、各サンプル1~3における打撲傷BRの存在範囲(表2参照)とは広い角度範囲において重複していた。すなわち、打撲傷BRの存在範囲と、レイリー波の伝搬速度が小さい範囲とは対応していることが分かった。
【0187】
このように、りんご110の表面における打撲傷BRが存在する領域範囲においては、打撲傷BRが存在しない領域よりも40%以上伝搬速度が小さくなることが分かった。
【0188】
したがって、りんご110についてレイリー波を測定し、レイリー波の伝搬速度が他の位置の伝搬速度に比べて所定割合以上小さい位置があるか否かを判定することで、りんご110に打撲傷BRがあるか否かを判定することができることが分かった。また、レイリー波の伝搬速度が他の位置の伝搬速度に比べて所定割合以上小さい範囲を特定することで、打撲傷BRの存在範囲を特定することができることが分かった。
【0189】
また、りんご110に打撲傷BRが付けられていない場合、りんご110の表面の位置に対応するパラメータと時間と表面の変位との対応関係において、レイリー波を示す線RW1およびRW2は、ほぼ1本の直線とみなせる線であった。他方、打撲傷BRが付けられた場合、りんご110の表面の位置に対応するパラメータと時間と表面の変位との対応関係において、レイリー波を示す線RW3の傾きの絶対値は、打撲傷BRの存在範囲に対応する角度範囲において、当該角度範囲以外におけるレイリー波を示す線の傾きの絶対値と比べて変化した。つまり、線RW3は、複数の直線部分から構成されるものであった。よって、青果物の表面の位置に対応するパラメータと時間と表面の変位との対応関係において、レイリー波を示す線が、ほぼ1本の直線とみなせるか否かを判定することで、りんご110に打撲傷BRがあるか否かを判定することができることが分かった。さらに、レイリー波を示す線の中で、他の直線部分と比べて傾きが異なる直線部分の角度範囲を特定することで、打撲傷BRの存在範囲を特定することができることが分かった。
【0190】
(実施例2)
発明者は、加振点IPと測定点との距離を一定にしつつ、青果物の表面のレイリー波の測定を行う実験2を実行した。以下、実験2について、主に実験1と異なる点を説明する。
【0191】
<供試材料>
供試材料として実験1と同様、サンプル1~4を使用した。
【0192】
<打撲傷>
サンプル4の保管条件、および、打撲傷BRの付け方は実験1と同様である。
【0193】
<損傷検出システム>
実験2において使用した損傷検出システムは、ラボジャッキ130に代えて、回転台を備えている。回転台は、鉛直方向周りに回転可能な台である。すなわち、回転軸は鉛直方向に沿う。発明者は、りんご110が、その中心を回転軸が通過するように回転台に配置した。
【0194】
レーザードップラー振動計150は、LIPが形成される位置と回転軸とを結ぶ線と、当該線と交わる線であり、かつ、レーザードップラー振動計150と当該回転軸とを結ぶ線とにより形成される角度が一定の角度(以下、角度αと称す。)となる位置に配置されている。
【0195】
<レイリー波の測定方法>
本実験では、打撲傷BRが付けられていないサンプル1~4、および、打撲傷BRが付けられたサンプル1~4に対して、角度αが、15度、45度、および、90度となるようにレーザードップラー振動計150の位置を設定し、各設定条件の下、赤道部EQ上の48個の測定点(測定点MP1~MP48)に伝搬するレイリー波の測定を行った。測定点MP1~MP47は実験1における測定点MP1~MP47に対応する。測定点MP48は、0度の方向に位置する測定点である。
【0196】
まず、LIPが形成される位置に対するレーザードップラー振動計150の位置を、角度αが15度となるように設定した。そして、1つの測定点に伝搬したレイリー波の測定を行った。レイリー波の測定が行われるたびに回転台を回転軸周りに7.5度ずつ回転させて測定点および加振点IPを次々と変更した。このようにして、測定点および加振点IPを、サンプル4の赤道部EQ上をほぼ等間隔に48箇所設定した。なお、測定点および加振点が変更されたとしても、加振点IPから測定点までの長さはほぼ一定である。
【0197】
48個の測定点におけるレイリー波の測定が完了すると、角度αが45度となるようにレーザードップラー振動計150の位置を変更した。そして、角度αが15度である場合と同様に48個の測定点においてレイリー波の測定を行った。
【0198】
さらに、角度αが90度となるようにレーザードップラー振動計150の位置を変更し、48個の測定点においてレイリー波の測定を行った。
【0199】
<実験2の結果>
(1)変位の時間変化について
図10Aは、打撲傷が付けられているサンプル4の測定点における表面の変位の測定結果である。
図10Aの測定結果は、角度αが15度の場合における、測定点MP1の変位の時間変化を示すグラフである。上述したように、測定点MP1は、7.5度の位置に位置する。角度αが15度であるので、加振点は、352.5度の位置に位置する。すなわち、測定点MP1と加振点とはいずれもサンプル4における打撲傷BRの存在範囲(表2参照)に位置していない。
【0200】
図10AのTAR11は、サンプル4にレイリー波が発生してから測定点MP1にレイリー波が到達するまでの時間である。TAR11は、約0.15ミリ秒であった。サンプル4の赤道部EQにおける周囲の長さ(以下、周長と称す。)は28cmであった。また、測定点は7.5度ずつシフトしており、角度αの値である15度は、シフト2回分に相当する。よって、加振点から測定点MP1までの長さは、周長に対して2/48倍した長さである。したがって、加振点から測定点MP1までの範囲におけるレイリー波の伝搬速度は、28cm×2/48×1/(0.15ミリ秒)を計算することで、約78m/sと求められた。
【0201】
図10Bは、打撲傷が付けられているサンプル4の別の測定点における表面の変位の測定結果である。
図10Bの測定結果は、角度αが15度の場合における、測定点MP14の変位の時間変化を示すグラフである。測定点MP14は、105度の位置に位置する。角度αが15度であるので、加振点は、90度の位置に位置する。すなわち、測定点MP14と加振点IPとはいずれもサンプル4における打撲傷BRの存在範囲(表2参照)に位置する。
【0202】
図10BのTAR12は、サンプル4にレイリー波が発生してから測定点MP14にレイリー波が到達するまでの時間である。TAR12は、約0.32ミリ秒であった。サンプル4の周長が、28cmであること、および、加振点から測定点MP14までの長さが周長に対して2/48倍した長さであることから、加振点から測定点MP14までの範囲におけるレイリー波の伝搬速度は、28cm×2/48×1/(0.32ms)を計算することで、約36m/sと求められた。
【0203】
よって、サンプル4において、打撲傷BRが存在しない範囲におけるレイリー波の伝搬速度(約78m/s)に対して、打撲傷BRが存在する範囲におけるレイリー波の伝搬速度(約36mm/s)は、約53%低下したことが分かった。
【0204】
このため、実験2のように、加振点から測定点までの長さを一定にしつつレイリー波を測定する場合でも、各測定点における青果物の表面の変位と時間との対応関係に基づくことで、青果物の表面においてレイリー波の伝搬速度が低下している範囲を特定することができることが分かった。よって、加振点から測定点までの長さを一定にしつつレイリー波を測定する場合であっても、加振点から測定点までの長さがある程度短い場合には、青果物の表面にレイリー波の伝搬速度が低下している範囲が存在するか否かに基づいて、損傷の有無を判定することができると言える。そして、40%の値を速度低下率の判定基準にすることは有効であると言える。
【0205】
また、レイリー波の伝搬速度が低下している範囲を特定することで、打撲傷BRの存在範囲をおおよそ特定することができると言える。
【0206】
図10Aおよび
図10BのPT11、PT12は、それぞれレイリー波の成分を含む抽出波形が位置する時間範囲である。
図10Aの抽出波形と
図10Bの抽出波形とを見比べると、互いに振幅および波長が明らかに異なる波形であることが分かった。すなわち、測定点が、打撲傷BRが存在する範囲に位置するか否かによって、青果物の表面の変位の時間変化を示す波形のうちのレイリー波の成分を含む波形が明らかに異なる波形となった。
【0207】
よって、加振点から測定点までの長さを一定にしつつレイリー波を測定する場合、各測定点における変位と時間との対応関係を示す波形に基づいて、青果物に打撲傷BRの有無を判定することができると言える。また、各測定点における変位と時間との対応関係を示す波形に基づいて、打撲傷BRの存在範囲をおおよそ特定することができると言える。
【0208】
なお、加振点を固定しつつ測定点のみを変更していく手法を用いてレイリー波を測定する場合、表面の変位と時間との対応関係において、レイリー波の成分が位置する時間範囲は、加振点から測定点までの長さに応じて異なる。このため、表面の変位と時間との対応関係から正確にレイリー波の成分を抽出できさえすれば、加振点から測定点までの長さを一定にする手法と同様に各測定点における測定結果を処理することで打撲傷BRの有無を判定することができると言える。また、打撲傷BRの存在範囲をおおよそ特定することができると言える。
【0209】
(2)表面上の位置に対応するパラメータと時間と変位との対応関係
図11A、
図11Bおよび
図11Cは、実施例2における実験結果であり、打撲傷BRが付けられていないサンプル4に関する表面の位置に対応するパラメータ(つまり、角度)と時間と表面の変位との対応関係を示す図である。
図11A、
図11Bおよび
図11Cは、それぞれ角度αが15度、45度および90度の場合の実験結果である。
図11A、
図11Bおよび
図11Cの縦軸の角度は、サンプル4の表面の位置に対応している。
【0210】
本実験では、角度αが変更されない限り、加振点IPから測定点までの長さはほぼ一定に保たれるので、各測定点にはほぼ同時刻にレイリー波が到達する。このため、
図11A、
図11Bおよび
図11Cに示されているように、レイリー波は、縦軸にほぼ平行に伸びる直線として表される。これらの結果は、48個の測定点のいずれの位置においても、レイリー波がほぼ同じ伝搬速度で伝搬していることを意味する。
【0211】
図示されていないが、打撲傷BRが付けられていないサンプル1~3において、αが15度、45度、および、90度のいずれの場合にも、表面の位置に対応するパラメータ(つまり、角度)と時間と表面の変位との対応関係において、レイリー波を示す線は、縦軸にほぼ平行に伸びる直線となった。よって、サンプル1~3のいずれにおいても、測定点の位置に関係なくレイリー波がほぼ同じ伝搬速度で伝搬していたと言える。
【0212】
【0213】
図12A、
図12Bおよび
図12Cは、実施例2における実験結果であり、打撲傷が付けられているサンプル4に関する表面の位置に対応するパラメータ(つまり、角度)と時間と表面の変位との対応関係を示す図である。
図12A、
図12Bおよび
図12Cは、それぞれ角度αが15度、45度および90度の場合の実験結果である。
【0214】
図12A、
図12Bおよび
図12CのQRは、特定範囲を示す。特定範囲QRは、特定範囲以外の角度範囲における変位と比べて大きく異なる変位を有する角度範囲であり、レイリー波を示す線RW21、RW22、およびRW23を分断する分断部分が位置する角度範囲である。なお、以下の説明において、特定範囲以外の角度範囲を他の範囲と称する。
【0215】
図12Aには、75度以上112.5度以下の角度範囲が特定範囲QRであり、0度以上75度未満の角度範囲、および、112.5度よりも大きく360度未満の角度範囲が他の範囲であることが示されている。この特定範囲QRは、サンプル4の打撲傷BRの存在範囲(表2参照)に一致した。なお、
図12Aに示されている特定範囲QRの大きさは約37.5度(=112.5度-75度)である。
【0216】
図12Bおよび
図12Cには、
図12Aに示される特定範囲QRよりも広い特定範囲QRがそれぞれ示されている。
図12Bに示されている特定範囲QRの大きさは約90度であり、
図12Cに示されている特定範囲QRの大きさは約105度である。よって、角度αが小さい方が、つまり、加振点から測定点までの長さが短い方が、特定範囲QRが小さくなった。また、
図12Bおよび
図12C、並びに表2を見ると、サンプル4において、角度αが90度および45度の特定範囲QRは、りんご110の表面における打撲傷BRの存在範囲と広い範囲においてそれぞれ重複していることが分かる。
【0217】
打撲傷BRが付けられたサンプル1~3においても同様の傾向が見られた。すなわち、サンプル1~3において、角度αが90度、45度、および、15度と小さくなるにつれて、特定範囲QRは小さくなった。また、サンプル1~3において、角度αが90度、45度、および、15度の特定範囲QRは、りんご110の表面における打撲傷BRの存在範囲(表2参照)と広い範囲において重複していた。
【0218】
これらの結果から、変形例2のように加振点から測定点までの長さを一定にしつつレイリー波を測定する場合でも、特定範囲QRの有無、つまり、表面の位置に対応するパラメータと時間と表面の変位との対応関係において、レイリー波を示す線が分断されているか否かに基づいて、りんご110の打撲傷BRの有無を判定することができることが分かった。
【0219】
また、加振点から測定点までの長さが比較的長かったとしても、少なくとも一定の距離以内であれば、表面の位置に対応するパラメータと時間と表面の変位との対応関係を示す画像に基づいて、打撲傷BRの有無を判定することができることが分かった。
【0220】
また、加振点から測定点までの長さは短い方が、打撲傷BRの存在範囲をより正確に特定できることが分かった。さらに、一定の角度αが15度以下となるようにLIPの形成位置に対するレーザードップラー振動計150の位置を決めることで、高い精度で打撲傷BRの存在範囲を特定できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明は、青果物の傷を検出する損傷検出装置および青果物の損傷検出方法に好適に利用できる。したがって、その産業上の利用可能性はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0222】
20 青果物
30 載置部
40 振動発生装置
41 レーザー装置
43 レンズ
50 測定部
60 制御装置
61 記憶部
62 制御部
63 検出部
100 損傷検出装置
110 りんご
130 ラボジャッキ
140 振動発生装置
141 レーザー装置
142 ミラー
143 平凸レンズ
150 レーザードップラー振動計
170 アナライザ
200 損傷検出システム
EQ 赤道部
LS レーザー光
BR 打撲傷