(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089036
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】吊荷旋回装置
(51)【国際特許分類】
B66C 13/08 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
B66C13/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201247
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】阿藻 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】夛田 雅次
(57)【要約】
【課題】
風等の外乱が生じた場合であっても、吊荷の旋回速度を確実に制限することができる吊荷旋回装置を提供する。
【解決手段】
フライホイール11と、フライホイール11を回転駆動するフライホイール回転用電動機12と、フライホイール11を軸支するジンバル13と、ジンバル13を傾転駆動するジンバル傾転用電動機14とを備え、フライホイール11を回転させながらジンバル13を傾転させたときに生じるジャイロ効果によって、吊荷11を旋回させるようにした吊荷旋回装置10において、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTが制限値T
rを超えると、ジンバル傾転用電動機14への入力電流をそのときの値で保持して、ジンバル傾転用電動機14による傾転を停止することで、吊荷50の旋回速度の上昇を抑える旋回速度制御手段15を設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライホイールと、
フライホイールを回転駆動するフライホイール回転用電動機と、
フライホイールを軸支するジンバルと、
ジンバルを傾転駆動するジンバル傾転用電動機と
を備え、
フライホイールを回転させながらジンバルを傾転させたときに生じるジャイロ効果によって、吊荷を旋回させるようにした吊荷旋回装置であって、
ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTが制限値Trを超えると、ジンバル傾転用電動機への入力電流をそのときの値で保持して、ジンバル傾転用電動機による傾転を停止することで、吊荷の旋回速度を制限する旋回速度制限手段を備えたことを特徴とする吊荷旋回装置。
【請求項2】
制限値Trを調節する制限値調節手段を備えた請求項1記載の吊荷旋回装置。
【請求項3】
ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTが制限値Tr未満になると、旋回速度制限手段による吊荷の旋回速度の制限が解除されて、ジンバル傾転用電動機の入力電流が上昇し、ジンバル傾転用電動機の傾転が再開される請求項1又は2記載の吊荷旋回装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン等の吊荷を旋回させるための吊荷旋回装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンを用いた荷役作業では、吊荷を所定の向きになるまで旋回(水平旋回)させてから目的の場所に降ろすことが行われている。吊荷の旋回は、通常、近くに立った補助者が吊荷を介錯する(吊荷を引っ張ったり押したりする)ことで行われる。しかし、吊荷が大きい場合や重い場合には、複数人の補助者が意思疎通しながら作業しなければならず、作業効率が著しく低下するという問題があった。また、吊荷の近くで作業員が介錯していると、旋回中の吊荷が当たって作業員が転倒する等の事故が生じるおそれもあった。
【0003】
このような実状に鑑みて、吊荷を人力によらず機械的に旋回させる装置(吊荷旋回装置)が開発され、当該装置は、荷役作業で用いられている。吊荷旋回装置としては、特許文献1の第1図に示されるように、ジャイロ装置(同図の符号10を参照。)を組み込んだものが知られている。ジャイロ装置は、特許文献1の第2図に示されるように、「フライホイール」と呼ばれる円盤状の部材(同図における符号10aを参照。)と、フライホイールを軸支する「ジンバル」と呼ばれる部材(同図における符号11を参照。)を備えている。この種の吊荷旋回装置は、クレーンのフックと吊荷との間に介在され、フライホイールを高速で回転させながらジンバルを傾動(傾転)させることで生ずるジャイロ効果によって吊荷を旋回させる。
【0004】
しかし、上記の吊荷旋回装置では、ジンバルを一方向に傾転し続けている間、フライホイールからジンバルにジャイロ効果が及ぼされ続け、吊荷の旋回速度が上昇し続ける。このため、吊荷が軽負荷なものである場合には、吊荷の旋回速度が速くなりすぎてしまい、危険を招くおそれがある。この点、これまでには、吊荷の旋回速度をフィードバック制御するようにした吊荷旋回装置も提案されている。例えば、特許文献2の段落0022~0032及び
図1には、ジャイロ効果を利用して吊荷を旋回させる吊荷姿勢制御装置(吊荷旋回装置)において、吊荷角速度φ’
M(吊荷の旋回速度)をジャイロセンサ101で読み取り、角速度指令値φ’と吊荷角速度φ’
Mとの偏差がゼロになるようにトルクコントローラ206で制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-074891号公報
【特許文献2】特開2014-133600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、吊荷の旋回速度をフィードバック制御するタイプの吊荷旋回装置では、吊荷の旋回速度の補正処理が後追いとなってしまうため、風等の外乱が生じた場合には、修正処理が追いつくまでの間、制限値を超えた旋回速度で吊荷が旋回し続けるおそれがある。また、吊荷の旋回速度を検出するセンサ(ジャイロセンサ等)を設ける必用があるだけでなく、様々な演算が必要となる等、複雑な制御を行う必要もある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、風等の外乱が生じた場合であっても、吊荷の旋回速度を確実に制限することができる吊荷旋回装置を提供するものである。また、吊荷の旋回速度を検出するセンサを別途用いないシンプルな方法で、吊荷の旋回速度を制限することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、
フライホイールと、
フライホイールを回転駆動するフライホイール回転用電動機と、
フライホイールを軸支するジンバルと、
ジンバルを傾転駆動するジンバル傾転用電動機と
を備え、
フライホイールを回転させながらジンバルを傾転させたときに生じるジャイロ効果によって、吊荷を旋回させるようにした吊荷旋回装置であって、
ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTが制限値Trを超えると、ジンバル傾転用電動機への入力電流をそのときの値で保持して、ジンバル傾転用電動機による傾転を停止することで、吊荷の旋回速度(吊荷の旋回の角速度のこと。以下同じ。)を制限する旋回速度制限手段を備えたことを特徴とする吊荷旋回装置
を提供することによって解決される。
【0009】
既に述べたように、ジャイロ効果を利用した吊荷旋回装置では、ジンバルを一方向に傾転し続けている間、フライホイールからジンバルに及ぼされるジャイロ効果によって、吊荷の旋回速度が上昇し続ける。このため、吊荷が旋回を開始すると、吊荷の旋回によるジャイロ効果が発生し、ジンバル傾転用電動機の出力軸には、当該出力軸が回転(傾転)している向きとは逆向きのトルクが加わるようになる。以下においては、この逆向きのトルクを、「吊荷旋回によって生じるトルク」と呼び、記号「T’」を用いて「トルクT’」と表記することがある。また、ジンバル傾転用電動機がジンバルを傾転させるために出力軸に出力するトルクを「傾転トルク」と呼び、記号「T」を用いて「傾転トルクT」と表記することがある。
【0010】
吊荷旋回によって生じるトルクT’は、吊荷の旋回速度が上昇するにつれて大きくなる。トルクT’は、ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTから見ると、抵抗力(抵抗トルク)となる。このため、吊荷の旋回速度が速くなるにつれて、ジンバル傾転用電動機の出力軸には大きな抵抗トルク(トルクT’)が加わるようになり、ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTが大きくなっていく。逆に、吊荷の旋回速度が遅くなるにつれて、ジンバル傾転用電動機に加わる抵抗トルク(トルクT’)が小さくなり、ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTが小さくて済むようになる。このように、吊荷の旋回速度は、シンバル傾転用電動機の傾転トルクTに直に反映される。
【0011】
この点、本発明の吊荷旋回装置は、ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTが制限値Trを超えたとき(吊荷の旋回速度が上限を超えそうなとき)に、ジンバル傾転用電動機による傾転を停止することで、吊荷の旋回速度がそれよりも上昇しない(旋回速度を制限する)ようになっている。吊荷の旋回速度が直に反映される傾転トルクTに基づいて吊荷の旋回速度を制限することによって、風等の外乱が生じている場合であっても、吊荷の旋回速度が上限を超えそうなときには、速やか且つ確実に吊荷の旋回速度を制限することができる。また、複雑な演算を行う必要がなく、シンプルな方法で吊荷の旋回速度を制限することもできる。
【0012】
本発明の吊荷旋回装置において、上記の一連の動作(傾転トルクTが制限値Trを超えたときに吊荷の旋回速度を制限する動作)は、旋回速度制限手段によって実行される。この旋回速度制限手段としては、電流制限式のトルクリミッターが挙げられる。ジンバル傾転用電動機(交流モーター)と電源との間には、通常、ジンバル傾転用電動機に入力する交流電流の周波数を制御するインバータ装置が介在されるところ、電流制限式のトルクリミッターは、このインバータ装置による制御で実現することができる。このため、本発明の吊荷旋回装置では、吊荷の旋回速度を検出するためのセンサ(ジャイロセンサ等)を別途設ける必用がない。したがって、吊荷旋回装置の構成をシンプルにすることもできる。
【0013】
好ましくは、制限値Trを調節する制限値調節手段を備えた吊荷旋回装置が提供される。
【0014】
好ましくは、ジンバル傾転用電動機の傾転トルクTが制限値Tr未満になると、旋回速度制限手段による吊荷の旋回速度の制限が解除されて、ジンバル傾転用電動機の入力電流が上昇し、ジンバル傾転用電動機の傾転が再開される吊荷旋回装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によって、風等の外乱が生じた場合であっても、吊荷の旋回速度を確実に制限することができる吊荷旋回装置を提供することが可能になる。また、吊荷の旋回速度を検出するセンサを別途用いないシンプルな方法で、吊荷の旋回速度を制限することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】吊荷旋回装置を用いてクレーンの吊荷を旋回させている様子を示した斜視図である。
【
図2】吊荷旋回装置による吊荷の旋回動作の一例を示したフロー図である。
【
図3】吊荷旋回装置において、制限値T
rを変化させたときのジンバル傾転用電動機への通電時間と吊荷の旋回速度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
吊荷旋回装置の好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。
図1は、吊荷旋回装置10を用いてクレーンの吊荷50を旋回させている様子を示した斜視図である。
図1の丸囲み拡大部分は、吊荷旋回装置10の内部構造を透視した状態で描いている。
【0018】
吊荷旋回装置10は、
図1に示すように、クレーンのフック60等から吊り下げられた吊荷50を、鉛直軸線L
1を中心として矢印A
1の方向に旋回させるものである。吊荷旋回装置10は、それ自身が鉛直軸線L
1回りに旋回したときにその旋回力を吊荷50に伝達できる場所に設けられる。
図1に示した例では、吊荷50とクレーンのフック60との間に吊荷旋回装置10を介在させており、吊荷旋回装置10が吊荷50よりも上側に取り付けられているが、吊荷50の下側に取り付けられても、吊荷50を旋回させることができる。
【0019】
吊荷旋回装置10は、フライホイール11と、フライホイール回転用電動機12と、ジンバル13と、ジンバル傾転用電動機14と、旋回速度制限手段15とを、筐体16内に収めている。フライホイール11は、円盤状を為しており、その中心部を、軸線L2を中心として矢印A2の方向に回転可能な状態でジンバル13に軸支されている。フライホイール回転用電動機12は、フライホイール11を軸線L2回りに回転駆動させる。ジンバル13は、フライホイール11を囲うフレーム状を為しており、その両端部を、軸線L3を中心として矢印A3の方向に傾転可能な状態で軸支されている。ジンバル13の傾転中心となる軸線L3と、フライホイール11の回転中心となる軸線L2は、互いに非平行(交差した状態)とされ、通常、直交した状態とされる。ジンバル傾転用電動機14は、ジンバル13を軸線L3回りに傾転駆動させる。旋回速度制限手段15は、吊荷50の旋回速度(吊荷50の旋回の角速度)を制限するものである。
【0020】
本実施形態の吊荷旋回装置10においては、フライホイール回転用電動機12及びジンバル傾転用電動機14を、いずれも電気モーターとしている。このうち、ジンバル傾転用電動機14を構成する電気モーター(交流モーター)には、ジンバル傾転用電動機14に入力する交流電流の周波数を制御するインバータ装置(図示省略)が接続され、このインバータ装置には、電流制限式のトルクリミッターが備えられている。このトルクリミッターは、後述するように、旋回速度制限手段15として機能する。いずれの電気モーター(フライホイール回転用電動機12及びジンバル傾転用電動機14)にも電流が入力されていない非稼働状態にあっては、フライホイール11は、軸線L2回りに自由に回転できる状態であり、ジンバル13は、軸線L3回りに自由に傾転できる状態である。この非稼働状態においては、フライホイール11が鉛直方向に立つ(フライホイール11の回転中心である軸線L2が水平に寝る)ように、フライホイール11及びジンバル13等のバランスがとられている。
【0021】
上記の非稼働状態から、フライホイール回転用電動機12を駆動(フライホイール回転用電動機12への電流の入力を開始)すると、フライホイール11が軸線L2回りに回転(矢印A2の方向に回転)し始める。また、ジンバル傾転用電動機14を駆動(ジンバル傾転用電動機14への電流の入力を開始)すると、ジンバル13が軸線L3回りに傾転(矢印A3の方向に傾転)し始める。このように、フライホイール11が回転しているときにジンバル13を傾転させると、フライホイール11からジンバル13にジャイロ効果が及ぼされるようになり、吊荷旋回装置10の筐体16には、鉛直軸線L1回りのジャイロモーメントが生じる。このジャイロモーメントによって、吊荷旋回装置10が鉛直軸線L1回りに旋回(矢印A1の方向に旋回)する。吊荷50は吊荷旋回装置10の下側に吊り下げられているため、吊荷旋回装置10が鉛直軸線L1回りに旋回すると、吊荷50も鉛直軸線L1回りに旋回(矢印A3の方向に旋回)する。
【0022】
吊荷50が旋回する向きは、フライホイール11を回転させる向きや、ジンバル13を傾転させる向きを逆にすると、逆転させることができる。吊荷50が所望の向きとなるまで旋回すると、吊荷旋回装置10による旋回を停止し、吊荷50の旋回を止める。本実施形態の吊荷旋回装置10は、リモートコントローラ17によって操作できる。
【0023】
以上のように、吊荷旋回装置10は、フライホイール11を回転させながらジンバル13を傾転させたときに生じるジャイロ効果によって、吊荷50を旋回させる。しかし、ジンバル13を傾転し続けている間は、フライホイール11からジンバル13にジャイロ効果が及ぼされ続け、吊荷50の旋回速度が上昇し続ける。このため、吊荷50の旋回速度を制限しないと、吊荷50の旋回速度が速くなりすぎてしまい、危険を招くおそれがある。
【0024】
この点、吊荷旋回装置10では、上記の旋回速度制限手段15(トルクリミッター)によって、吊荷50の旋回速度の上昇を制限するようにしている。この旋回速度制限手段15(トルクリミッター)は、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクT(ジンバル傾転用電動機14がジンバル13を軸線L3回りに傾転するトルク)が所定の制限値(Trとする。)を超えると、ジンバル傾転用電動機14への入力電流をそのときの値で保持して、ジンバル傾転用電動機による傾転を停止する。
【0025】
すなわち、吊荷50が旋回しているときには、吊荷50の旋回によるジャイロ効果によって、ジンバル傾転用電動機14の出力軸には、当該出力軸が回転(傾転)している向き(傾転トルクTの向き)とは逆向きのトルクT’が加わるようになるため、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTが増大する。つまり、吊荷50の旋回速度は、シンバル傾転用電動機14の傾転トルクTに直に反映される。このため、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTは、吊荷50の旋回速度の指標となる。したがって、シンバル傾転用電動機14を制限することによって、吊荷50の旋回速度の上昇を制限することができる。
【0026】
図2に、吊荷旋回装置10による吊荷50の旋回動作のフロー図の一例を示す。フライホイール11の回転は、
図2のステップS1よりも前の段階で既に開始されているものとする。
図2に示すように、吊荷50の旋回動作を開始する(ステップS1)と、ジンバル13の傾転が開始される(ステップS2)。具体的には、ジンバル傾転用電動機14への電流入力を開始し、その電流を増大させていく。すると、ジンバル13が初期位置(鉛直方向に立った状態)から一側に徐々に傾転し始め、フライホイール11の回転に起因するジャイロ効果によって、吊荷50が矢印A
1(
図1)の方向に旋回をし始める。ジンバル13の傾転角度が増大するにつれて、吊荷50の旋回速度(吊荷50の旋回の角速度)が徐々に加速されていく。
【0027】
このように、ジンバル13が傾転され、吊荷50が旋回しているときに、上記のリモートコントローラ17等によって旋回停止操作が為される(ステップS3の「YES」)と、ジンバル傾転用電動機14への電流入力が停止される(ステップS7)。これにより、ジンバル13は、ジンバル傾転用電動機14による拘束が解かれて、矢印A
3(
図1)の方向に自由に傾転できる状態となる。このため、ジンバル13の一側への傾転が停止され、その後は、慣性で旋回する吊荷50によるジャイロ効果によって、ジンバル13が逆向き(初期位置に復帰する側)に傾転し始め、吊荷50の旋回が停止する。これにより、吊荷50の旋回動作が終了する(ステップS8)。
【0028】
これに対し、旋回停止操作が為されることなく、ジンバル13が傾転をし続ける(ステップS3の「NO」)と、吊荷50の旋回速度が上昇し続け、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTは、制限値T
rに達するまで増大し続ける(ステップS4の「NO」)。一方、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTが制限値T
rを超える(ステップS4の「YES」)と、ジンバル13の傾転が停止される(ステップS5)。具体的には、ジンバル傾転用電動機14への入力電流がそのときの値で保持(そのときの通電状態を保持)される。ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTが、吊荷50の旋回によって生じるジャイロ効果によるトルクT’(
図1)と釣り合ったときに、ジンバル13の傾転が停止する。
【0029】
ジンバル13の傾転が停止されると、フライホイール11の回転によるジャイロ効果が吊荷50に及ぼされなくなるため、吊荷50の旋回速度の上昇が止まる。ジンバル13の傾転が停止されても、吊荷50は慣性により旋回をし続けるが、摩擦等の抵抗を受けて、その旋回速度は徐々に低下していく。ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTが制限値Trよりも大きい間は、ジンバル13の傾転が停止したままの状態が維持される(ステップS6の「NO」)ものの、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTが制限値Trよりも小さくなると、再び、ジンバル13の傾転が開始される(ステップS6の「YES」)。
【0030】
以上のように、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTを制限する方法で、吊荷50の旋回速度を制限することによって、吊荷50の旋回速度を必要なときに速やかに制限することができる。このため、風等の外乱が生じている場合であっても、旋回速度が上限を超えないように確実に旋回速度の上昇を抑えることができる。また、複雑な演算を行う必要がなく、シンプルな方法で吊荷50の旋回速度を制限することもできる。さらに、吊荷50の旋回速度を検出するためのセンサ(ジャイロセンサ等)を別途設ける必用がない。したがって、吊荷旋回装置10の構成をシンプルにすることもできる。
【0031】
さらにまた、
図2のステップS6に示すように、ジンバル傾転用電動機14の傾転トルクTが制限値T
rよりも小さくなったときに、ジンバル傾転用電動機14の傾転が再開されるようにしたことによって、上限を超える直前の旋回速度で吊荷50を旋回させ続けることが可能となり、吊荷50を所望の向きとなるまで短時間で旋回させる等、荷役作業の効率を高めることも可能である。
【0032】
ところで、吊荷旋回装置10では、
図2のステップS4の処理を実行することからも分かるように、制限値T
rによって、吊荷50の旋回速度の最大値(最高角速度)が変化する。
図3は、吊荷旋回装置10において、制限値T
rを変化させたときのジンバル傾転用電動機14への通電時間と吊荷50の旋回速度との関係を示したグラフである。同グラフにおける曲線Aは、制限値T
rをジンバル傾転用電動機14の定格トルクの100%の値に設定したときを、曲線Bは、制限値T
rをジンバル傾転用電動機14の定格トルクの70%の値に設定したときを、曲線Cは、制限値T
rをジンバル傾転用電動機14の定格トルクの50%の値に設定したときを、曲線Dは、制限値T
rをジンバル傾転用電動機14の定格トルクの30%の値に設定したときをそれぞれ示している。
図3を見ると、制限値T
rを高い値に設定すると、吊荷50の旋回速度の最大値(最高角速度)が高くなり、逆に、制限値T
rを低い値に設定すると、吊荷50の旋回速度の最大値(最高角速度)が高くなっている。
図3のグラフは、数値計算で求めたものであるが、実測においてもこれに近い結果が得られることを確認している。
【0033】
このような特性に鑑みて、吊荷旋回装置10では、吊荷50の旋回速度を制限する制限値Trを調節するための制限値調節手段(図示省略)を設けることが好ましい。これにより、吊荷50の旋回速度の最大値(最高角速度)を調節することが可能になる。また、吊荷50の旋回速度の最大値(最高角速度)は、吊荷の負荷(旋回の慣性モーメント)によっても変わるところ、吊荷50が軽負荷なものである場合には、制限値Trを低めに設定し、吊荷50が重負荷なものである場合には、制限値Trを高めに設定するといった具合に、吊荷50の負荷に応じて制限値Trを調節することも可能になる。
【0034】
換言すると、制限値Trは、予め定められた1つの値から変更できないものであってもよいが、吊荷50としては、旋回方向の慣性モーメントが小さい軽負荷なものから大きい重負荷なものまで、様々なものが想定される。すなわち、軽負荷な吊荷は、重負荷な吊荷よりも旋回速度が速くなりやすいため、重負荷な吊荷を想定して制限値Trを設定しておくと、吊荷50が軽負荷な(小さな)ものに切り替わった場合に、吊荷50の周速(旋回速度)が必要以上に遅くなりすぎる場合がある。したがって、制限値Trを調節する制限値調節手段15(トルクリミッター)を設けることで、危険速度に達しない範囲で吊荷50の旋回速度を速くすることができる。
【0035】
上記の制限値調節手段は、制限値調節手段は、制限値T
rを段階的に調節するもの(予め定められた複数の値のなかから制御値T
rを選択するもの)であってもよいし、制限値T
rを連続的に調節するものであってもよい。制限値調節手段における操作部分としては、ボタンや、スイッチや、ダイヤルや、レバーや、タッチパネル等、各種のものが例示される。これらの操作部分は、リモートコントローラ17(
図1)に設けることもできる。これにより、作業員70が吊荷50の旋回速度を手元で調節することが可能になる。
【符号の説明】
【0036】
10 吊荷旋回装置
11 フライホイール
12 フライホイール回転用電動機
13 ジンバル
14 ジンバル傾転用電動機
15 旋回速度制限手段
16 筐体
17 リモートコントローラ
50 吊荷
60 フック
70 作業員
A1 吊荷の旋回方向
A2 フライホイールの回転方向
A3 ジンバルの傾転方向
L1 吊荷の旋回中心となる鉛直軸線
L2 フライホイールの回転中心となる軸線
L3 ジンバルの傾転中心となる軸線