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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089150
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】フッ素樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/48 20060101AFI20220608BHJP
   C08G 65/40 20060101ALI20220608BHJP
   C08L 71/08 20060101ALI20220608BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220608BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220608BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20220608BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
C08G65/48
C08G65/40
C08L71/08
C08J5/24 CEZ
B32B15/08 J
B32B5/28
B32B15/08 105
B32B15/082 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152043
(22)【出願日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2020201154
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 厳
(72)【発明者】
【氏名】麦沢 正輝
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 和弥
(72)【発明者】
【氏名】東田 恵伍
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J002
4J005
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB28
4F072AD42
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH21
4F072AL13
4F100AA37
4F100AA37B
4F100AB17
4F100AB17C
4F100AG00
4F100AG00B
4F100AK17
4F100AK17A
4F100AK17B
4F100AK41
4F100AK41B
4F100AK46
4F100AK46B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA02
4F100CA02A
4F100CA02B
4F100DG01
4F100DG01B
4F100DH01
4F100DH01B
4F100EH46
4F100GB43
4F100JA05
4F100JG05
4J002CH061
4J002EA046
4J002EH076
4J002EH116
4J002EU196
4J002FD146
4J002GF00
4J002GQ01
4J005BA00
4J005BD00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高速伝送用の電子基板材料として有用な新規のフッ素樹脂の提供。
【解決手段】式(I)の構造(式中、nは1~100の範囲内であり、Lは、特定の2価の基であり、R3およびR4は、独立的に、水素、フッ素、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC1~C10の飽和または不飽和炭化水素基、あるいは、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC6~C10のアリール基であり、Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを含む基である)を有するフッ素樹脂。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
Lは、式(II)または式(III)の構造を有し、
【化2】
1およびR2は、それぞれ独立的に、水素原子、C1~C10のアルキル基、C1~C10のハロアルキル基、C6~C10のアリール基からなる群から選択される基であるか、またはR1およびR2が一緒になって置換基を有してもよい環構造を形成する基であり、
3およびR4は、それぞれ独立的に、水素、フッ素、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC1~C10の飽和または不飽和炭化水素基、および、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC6~C10のアリール基からなる群から選択される基であり、
nは1~100の範囲内であり、
Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを含む基である)
の構造を有することを特徴とするフッ素樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載のフッ素樹脂と、架橋剤とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のフッ素樹脂の半硬化物と、繊維質基材とを含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項2に記載の樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項5】
請求項3または4に記載のプリプレグの硬化物と、少なくとも1つの銅層とを含むことを特徴とする銅張積層板。
【請求項6】
請求項3または4に記載のプリプレグの硬化物と、その表面に形成されている導体パターンとを含むことを特徴とする印刷回路板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のフッ素樹脂に関する。より具体的には、本発明は、高速伝送用の電子基板材料として有用な、新規のフッ素樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速通信および高速伝送の要求が高まっている。高速伝送のためには高周波の信号を減衰なく伝達することが必要である。そのため、信号伝送のための電線被覆材料および基板材料には、低い誘電率および低い誘電損失を有する材料が求められている。
【0003】
従来、高速通信・伝送用の樹脂材料として、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などの材料が用いられてきた(特許文献1参照)。しかしながら、従来公知のエポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の電気特性(誘電率、誘電損失など)は、近年の高速通信・伝送の要求に関して不十分である。
【0004】
一方、優れた電気特性を有する材料として、フッ素樹脂が知られている。特に、分子鎖中の水素が全てフッ素に置換されたペルフルオロ樹脂は、特に優れた電気特性(誘電率、誘電損失など)を示すことが知られている。しかしながら、フッ素樹脂(ペルフルオロ樹脂)は、応力による変形が発生しやすいこと、および熱膨張係数が大きいことなどの問題点を有し、基板材料として用いることが難しい。前述の問題点を解消するために、フッ素樹脂に充填材を混合することが試みられてきている。しかしながら、充填材の混合は、電気特性に影響を及ぼすことが知られている。
【0005】
電子部品における誘電体材料として、フッ素化ポリ(アリーレンエーテル)および架橋性フッ素化ポリ(アリーレンエーテル)を用いることが提案されている(特許文献2、3参照)。しかしながら、それら材料の電気特性は、現在の高速通信・伝送の要求を満足できるものではない。
【0006】
また、大量生産および製造コスト低減の観点から、架橋処理温度を低下させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-128718号公報
【特許文献2】米国特許第5115082号明細書
【特許文献3】米国特許第5179188号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高速通信・伝送のための基板材料として、優れた電気特性(低い誘電率および低い誘電損失)、優れた寸法安定性(低い熱膨張率)、薄膜成形を容易にするための高い溶剤可溶性、および200℃程度の加熱による製膜を可能とする優れた架橋性を有する樹脂材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の実施形態は、式(I):
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、
Lは、式(II)または式(III)の構造を有し、
【0012】
【化2】
【0013】
1およびR2は、それぞれ独立的に、水素原子、C1~C10のアルキル基、C1~C10のハロアルキル基、C6~C10のアリール基からなる群から選択される基であるか、またはR1およびR2が一緒になって置換基を有してもよい環構造を形成する基であり、
3およびR4は、それぞれ独立的に、水素、フッ素、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC1~C10の飽和または不飽和炭化水素基、および、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC6~C10のアリール基からなる群から選択される基であり、
nは1~100の範囲内であり、
Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを含む基である)
の構造を有することを特徴とするフッ素樹脂に係る。
【0014】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態のフッ素樹脂と、架橋剤とを含む樹脂組成物に係る。
【0015】
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態のフッ素樹脂の半硬化物と、繊維質基材とを含むプリプレグに係る。
【0016】
本発明の第4の実施形態は、第2の実施形態に記載の樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを含むプリプレグに係る。
【0017】
本発明の第5の実施形態は、第3または第4の実施形態に記載のプリプレグの硬化物と、少なくとも1つの銅層とを含む銅張積層板に係る。
【0018】
本発明の第6の実施形態は、第3または第4の実施形態に記載のプリプレグの硬化物と、硬化物の表面に形成されている導体パターンとを含む印刷回路板に係る。
【発明の効果】
【0019】
前述の構成を採用することにより、本発明は、優れた電気特性(低い誘電率および低い誘電損失)、優れた寸法安定性、高い溶剤可溶性、および優れた架橋性を有するフッ素樹脂を提供することができる。本発明のフッ素樹脂は、高速通信・伝送のための基板の材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施形態に係るフッ素樹脂は、式(I):
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、
Lは、式(II)または式(III)の構造を有し、
【0023】
【化4】
【0024】
1およびR2は、それぞれ独立的に、水素原子、C1~C10のアルキル基、C1~C10のハロアルキル基、C6~C10のアリール基からなる群から選択される基であるか、またはR1およびR2が一緒になって置換基を有してもよい環構造を形成する基であり、
3およびR4は、それぞれ独立的に、水素、フッ素、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC1~C10の飽和または不飽和炭化水素基、および、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC6~C10のアリール基からなる群から選択される基であり、
nは1~100の範囲内であり、
Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを含む基である)
の構造を有することを特徴とする。
【0025】
式(I)において、nは、1~100の範囲内、好ましくは3~50の範囲内、より好ましくは5~30の範囲内である。nを前述の範囲内とすることにより、十分な耐熱性、適切なガラス転移温度(Tg)、および十分な溶剤可溶性を同時に達成することができる。また、nを前述の範囲内とすることにより、単位重量の樹脂に含まれる置換基Xの個数を調整して、適切な架橋性、および優れた電気特性(誘電率、誘電損失など)を達成することができる。また、式(I)の構造を有するフッ素樹脂を用いてワニスを形成する際に、nを前述の範囲内とすることにより、ワニスに適切な粘度を付与することができる。
【0026】
式(II)および式(III)において、R1およびR2は、独立的に水素原子、C1~C10のアルキル基、C1~C10のハロアルキル基、C6~C10のアリール基からなる群から選択される基であってもよい。C1~C10のアルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基(イソブチル基)、ブチル基、ペンチル基などを含む。C1~C10のハロアルキル基の例は、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基などを含む。C6~C10のアリール基の例は、フェニル基、ナフチル基(1-異性体および2-異性体を含む)を含む。
【0027】
あるいはまた、R1およびR2が一緒になって、置換基を有してもよい環構造を形成する基であってもよい。環構造を形成する基の例は、テトラメチレン基(シクロペンタン環を形成する)、ペンタメチレン基(シクロヘキサン環を形成する)、ウンデカメチレン基(シクロドデカン環を形成する)、2-メチル-ペンタメチレン基(メチルシクロヘキサン環を形成する)、2,2,4-トリメチル-ペンタメチレン基(トリメチルシクロヘキサン環を形成する)、ビフェニル-2,2’-ジイル基(フルオレン環を形成する)などを含む。
【0028】
式(I)において、R3~R4は、それぞれ独立的に、水素、フッ素、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC1~C10の飽和または不飽和炭化水素基、または、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC6~C10のアリール基であってもよい。一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC1~C10の飽和または不飽和炭化水素基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基(イソブチル基)、ブチル基、ペンチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ビニル基、アリル基、1-メチルビニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基などを含む。一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC6~C10のアリール基の例は、フェニル基、ナフチル基(1-異性体および2-異性体を含む)、ペルフルオロフェニル基などを含む。
【0029】
式(I)において、Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを含む基である。Xの例は、以下の(X-1)~(X-9)の構造を含む。
【0030】
【化5】
【0031】
式中、pは、1~4の整数であり、好ましくは4である。qは、0~4の整数であり、好ましくは4である。Rは、C1~C10のアルキル基、およびC6~C10のアリール基からなる群から選択される基を表す。
【0032】
好ましくは、Xは、以下の(X-10)または(X-11)の構造を有する。
【0033】
【化6】
【0034】
本発明において好ましいフッ素樹脂は、たとえば以下の構造を有する樹脂を含む(式中、「(*)」は結合位置を示す)。
【0035】
【化7】
【0036】
【化8】
【0037】
本発明において、フッ素樹脂が溶剤可溶であることが好ましい。フッ素樹脂が「溶剤可溶」であるとは、所与の溶剤から得られる溶液100gあたり、1g以上、好ましくは10g以上のフッ素樹脂が溶解していることを意味する。本実施形態のフッ素樹脂は、後述する炭化水素類に可溶であることが好ましい。また、本実施形態のフッ素樹脂は、コストの観点からトルエンに可溶であることが特に好ましい。
【0038】
本発明のフッ素樹脂は、(1)塩基の存在下、ビスフェノール誘導体(A)と、ペルフルオロビフェニル(B)とを縮合させる工程と、(2)得られた縮合物に、置換基Xの前駆体(C)を縮合する工程とを含む方法で製造することができる。
【0039】
【化9】
【0040】
前駆体(C)におけるZは、脱離基であり、好ましくはF、Cl、Br、およびIからなる群から選択され、より好ましくはFである。
【0041】
用いられる塩基は、好ましくは、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、および水酸化物を含む。好ましい塩基の例は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムを含む。ビスフェノール誘導体(A)1モルあたり1モル以上、好ましくは2.0~2.6モルの塩基を用いることが好ましい。
【0042】
工程(1)および工程(2)を、非プロトン性極性溶媒中、または非プロトン性極性溶媒を含む混合溶媒中で実施することが好ましい。好ましい非プロトン性極性溶剤は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどを含む。混合溶媒は、フッ素樹脂の溶解性を低下させることがなく、かつ縮合反応に影響を及ぼさない限りにおいて、低極性溶媒を含んでもよい。用いることができる低極性溶媒は、トルエン、キシレン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ベンゾトリフルオリド((トリフルオロメチル)ベンゼン)、キシレンヘキサフルオリド(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)などを含む。低極性溶媒の添加により溶剤混合物の極性(誘電率)を変化させて、縮合反応の速度を制御することができる。
【0043】
工程(1)および(2)を連続して実施することが好ましい。工程(1)および(2)全体を、10~200℃の反応温度および1~80時間の反応時間、好ましくは20~180℃の反応温度および2~60時間の反応時間、より好ましくは50~160℃の反応温度および3~40時間の反応時間の条件で実施することが好ましい。
【0044】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態のフッ素樹脂と、架橋剤とを含む樹脂組成物に係る。
【0045】
本実施形態において用いられる架橋剤は、分子中に2個以上のオレフィン性炭素-炭素二重結合を有する化合物を含む。本実施形態において用いられる架橋剤の例は、分子中に2個以上のメタクリル基を有する多官能メタクリレート化合物、分子中に2個以上のアクリル基を有する多官能アクリレート化合物、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)などのトリアルケニルイソシアヌレート化合物、ジビニルベンゼンなどを含む。多官能性アクリレート/メタクリレート化合物の例は、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどのジシクロペンタジエン型アクリレート化合物、およびトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートなどのジシクロペンタジエン型メタクリレート化合物を含む。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物の総質量を基準として、50質量%、好ましくは20質量%の架橋剤を含んでもよい。また、本実施形態の樹脂組成物において、フッ素樹脂:架橋剤の質量比は、好ましくは9.5:0.5~5:5、より好ましくは7.5:2.5~5.5:4.5の範囲内である。この範囲内の質量比を用いることにより、樹脂組成物の硬化物に十分な硬度を与えることができる。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物は、溶剤、反応開始剤、および/または充填材をさらに含んでもよい。また、本実施形態の樹脂組成物は、消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤(染料または顔料)、難燃剤、滑剤、分散剤などの、当該技術において知られている任意の添加剤をさらに含んでもよい。
【0048】
本実施形態の樹脂組成物は、溶剤を含むワニス状の組成物であってもよい。本実施形態においては、種々の溶剤を用いることができる。溶剤可溶性の観点から、本発明においては非プロトン性溶剤を用いることが好ましい。本実施形態において用いられる溶剤は:ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)などのケトン類;シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノンなどの環式ケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソランなどの環状エーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-シクロヘキシルピロリドンなどのアミド類;スルホラン、ジメチルスルホンなどのスルホン類;およびジメチルスルホキシド(DMSO)のようなスルホキシド類を含む。本発明において好ましい溶剤は炭化水素類であり、特に好ましくは芳香族炭化水素類である。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物は、架橋反応のための反応開始剤を含むことが好ましい。反応開始剤が存在しなくても加熱による架橋・硬化は可能であるが、反応開始剤が存在する場合、より緩和な条件でより効率的な架橋・硬化が可能となる。用いることができる反応開始剤は、たとえば、過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ジクミル、クミルヒドロペルオキシド、α,α’-ジ(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン(日本油脂株式会社製パーブチルP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリルなどを含む。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物は、1種または複数種の充填材をさらに含んでもよい。充填材は、有機充填材であってもよいし、無機充填剤であってもよい。用いることができる有機充填材は:ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのエンジニアリングプラスチック;およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)などの溶剤不溶性フッ素樹脂を含む。用いることができる無機充填剤は:金属;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタンなどの金属酸化物;金属水酸化物;チタン酸金属塩;ホウ酸亜鉛;スズ酸亜鉛;ベーマイト;シリカ;ガラス;酸化ケイ素;炭化ケイ素;窒化ホウ素;フッ化カルシウム;カーボンブラック;マイカ;タルク;硫酸バリウム;二硫化モリブデンなどを含む。溶剤不溶性フッ素樹脂は、樹脂組成物の硬化物の電気特性(誘電率、誘電損失など)の改善の点から好ましい。また、シリカは、樹脂組成物の硬化物の電気特性(誘電率、誘電損失など)を損なうことなしに、熱膨張率を減少させることができる点で好ましい。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物は、第1の実施形態のフッ素樹脂と、架橋剤と、任意選択的成分とを混合させることによって形成することができる。混合時に加熱を行ってもよい。また、混合は、各種の攪拌機、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミルなどの、当該技術において知られている任意の混合装置を用いて実施することができる。
【0052】
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態に記載のフッ素樹脂の半硬化物と、繊維質基材とを含むプリプレグに係る。本実施形態のプリプレグは、架橋反応のための反応開始剤をさらに含んでもよい。本実施形態で用いることができる反応開始剤は、第2の実施形態と同様である。
【0053】
本実施形態で用いることができる繊維質基材は、ガラス織布、アラミド織布、ポリエステル織布、炭素繊維織布、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、炭素繊維不織布、パルプ紙、リンター紙などを含む。好ましい繊維質基材は、優れた機械強度を実現することができるガラス織布である。繊維質基材は、0.01mm~0.3mmの厚さを有することが望ましい。
【0054】
本実施形態のプリプレグは、繊維質基材に対して、第1の実施形態に記載のフッ素樹脂および任意選択的な反応開始剤を含浸させ、乾燥させることにより形成することができる。ここで、含浸させるフッ素樹脂は、溶剤を含むワニス状態であることが望ましい。用いることができる溶剤は、第2の実施形態と同様である。乾燥処理の結果、ワニス中の溶剤が少なくとも部分的に除去され、フッ素樹脂が半硬化状態(いわゆる「Bステージ」)となる。含浸工程は、浸漬または塗布などの当該技術において知られている任意の方法により実施することができる。フッ素樹脂および任意選択的な反応開始剤の含浸を複数回にわたって実施することによって、プリプレグ中の樹脂含有量を調整することができる。乾燥工程の条件(温度および時間)は、フッ素樹脂の種類、ならびに任意選択的な反応開始剤および/または溶媒の種類に依存する。たとえば、1~10分間にわたって80℃~170℃の温度に加熱することにより、乾燥工程を実施することができる。
【0055】
本発明の第4の実施形態は、第2の実施形態に記載の樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを含むプリプレグに係る。本実施形態で用いることができる繊維質基材は、第3の実施形態と同様である。
【0056】
本実施形態のプリプレグは、繊維質基材に対して、第2の実施形態の樹脂組成物を含浸させ、乾燥させることにより形成することができる。ここで、含浸させる樹脂組成物は、溶剤を含むワニス状態であることが望ましい。乾燥処理の結果、ワニス中の溶剤が少なくとも部分的に除去され、樹脂組成物が半硬化状態(いわゆる「Bステージ」)となる。含浸工程は、浸漬または塗布などの当該技術において知られている任意の方法により実施することができる。樹脂組成物の含浸を複数回にわたって実施することによって、プリプレグ中の樹脂含有量を調整することができる。乾燥工程の条件(温度および時間)は、樹脂組成物に含まれるフッ素樹脂、架橋剤、および任意選択的な溶媒の種類に依存する。たとえば、1~10分間にわたって80℃~170℃の温度に加熱することにより、乾燥工程を実施することができる。
【0057】
本発明の第5の実施形態は、第3または第4の実施形態に記載のプリプレグの硬化物と、少なくとも1つの銅層とを含む銅張積層板に係る。
【0058】
本実施形態の銅張積層板は、1つまたは複数のプリプレグを積層し、その一方または両方の表面に銅箔を積層し、得られた積層物を加熱加圧処理して一体化することにより形成することができる。銅張積層板中の樹脂組成物は、硬化が完了した状態(いわゆる「Cステージ」)にあることが望ましい。加熱加圧処理の条件は、製造する銅張積層板の厚さ、プリプレグ中の樹脂組成物の組成などに基づいて、適宜設定することができる。たとえば、60~150分間にわたって、170℃~220℃の温度に加熱し、1.5MPa(ゲージ圧)~5.0MPa(ゲージ圧)の圧力を印加することにより、銅張積層板を製造することができる。
【0059】
本発明の第6の実施形態は、第3または第4の実施形態に記載のプリプレグの硬化物と、硬化物の表面に形成されている導体パターンとを含む印刷回路板に係る。
【0060】
本実施形態の印刷回路板は、第5の実施形態の銅張積層板の銅層をエッチング加工して、導体パターンを形成することによって製造することができる。あるいは、1つまたは複数のプリプレグを積層および加熱加圧処理して積層体を形成し、積層体の表面に導電性材料をパターン状に積層して導体パターンを形成する方法によって、印刷回路板を製造することができる。
【実施例0061】
(実施例1) フッ素樹脂(I-1)の合成
ガラス製反応容器に、1.009g(3.0ミリモル)の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)および0.912g(6.6ミリモル)の炭酸カリウムを装填した。ガラス製反応容器内を真空に減圧した後に、窒素置換した。次いで、ガラス製反応容器内に10mLのDMAcを添加した。反応混合物を撹拌しながら150℃に加熱し、3時間にわたって攪拌した。加熱終了後、反応混合物を室温に冷却した。次いで、反応混合物に0.802g(2.4ミリモル)のデカフルオロビフェニルを添加した。反応混合物を撹拌しながら70℃に加熱し、4時間にわたって攪拌した。次いで、反応混合物を遮光し、0.17mL(0.233g、1.2ミリモル)の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを添加した。70℃の温度で15時間にわたって撹拌を継続した。撹拌終了後、反応混合物を室温まで冷却した。続いて、反応混合物を、0.5Lの純水に注加した。反応混合物を吸引濾過し、得られた固形物を純水およびメタノールで洗浄した。洗浄後の固形物を減圧乾燥して、約1.52gのフッ素樹脂(I-1)を得た。
【0062】
(実施例2) フッ素樹脂(I-2)の合成
ビスフェノールAFに代えて、0.811g(3.0ミリモル)の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタンを用いたことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、約1.21gのフッ素樹脂(I-2)を得た。
【0063】
(実施例3) フッ素樹脂(I-3)の合成
ビスフェノールAFに代えて、0.805g(3.0ミリモル)の1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)を用いたことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、約1.14gのフッ素樹脂(I-3)を得た。
【0064】
(実施例4) フッ素樹脂(I-5)の合成
ビスフェノールAFに代えて、1.039g(3.0ミリモル)の1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)を用いたことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、約1.12gのフッ素樹脂(I-5)を得た。
【0065】
(実施例5) フッ素樹脂(I-6)の合成
2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンに代えて、0.21mL(0.359g、1.2ミリモル)の3-(ペンタフルオロフェニル)ペンタフルオロ-1-プロペンを用いたことを除いて、実施例3の手順を繰り返して、約1.22gのフッ素樹脂(I-6)を得た。
【0066】
(比較例1) フッ素樹脂(C-1)の合成
2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンに代えて、0.14mL(0.143g、1.2ミリモル)の4-フルオロスチレンを用いたことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、約1.09gのフッ素樹脂(C-1)を得た。
【0067】
【化10】
【0068】
(比較例2) フッ素樹脂(C-2)の合成
2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンに代えて、0.12mL(0.125g、1.2ミリモル)のメタクリロイルクロリドを用いたことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、約1.11gのフッ素樹脂(C-2)を得た。
【0069】
【化11】
【0070】
(評価1)
実施例1~5および比較例1~2で得られたフッ素樹脂の約5mgを秤取し、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて、10℃/分の加熱速度で23℃から500℃まで加熱した際の熱重量(TG)曲線を測定した。得られたTG曲線を解析し、重量が測定前から1%減少した温度を、1%分解温度とした。得られた結果を第1表に示す。
【0071】
(評価2)
示差走査熱量計(パーキンエルマー製)を用い、実施例1~5および比較例1~2で得られたフッ素樹脂を分析した。用いた温度プロファイルは、以下の通りである。
(1) 50℃/分の加熱速度で、30℃から350℃まで加熱する。
(2) 1分間にわたって、350℃の温度を維持する。
(3) 10℃/分の加熱速度で、30℃まで冷却する。
(4) 1分間にわたって、30℃の温度を維持する。
(5) 10℃/分の加熱速度で、350℃まで加熱する。
【0072】
段階(5)において得られる融解曲線から、ASTM D3418-15に記載のTmg(midpoint temperature、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と,ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度)を求め、フッ素樹脂のガラス転移温度(Tg)とした。得られた結果を第1表に示す。
【0073】
(評価3)
実施例1~5および比較例1~2で得られたフッ素樹脂にトルエンを加え、混合物を80℃に加熱して、フッ素樹脂の50質量%トルエン溶液を得た。ここで、フッ素樹脂が完全に溶解した場合、フッ素樹脂がトルエン可溶性であると判断した。
【0074】
(評価4)
実施例1~5で得られたフッ素樹脂に等量のシクロヘキサノンを加え、混合物を80℃に加熱および攪拌して、フッ素樹脂の50質量%溶液を得た。得られたシクロヘキサノン溶液を厚み0.1mmのアルミニウム製シート上に塗布した。得られた塗布物を、ホットプレートを用いて110℃で30分間、160℃で1時間加熱して、溶剤(シクロヘキサノン)を除去した。得られたフッ素樹脂が塗布されたシートを、ホットプレートを用いて220℃で2時間加熱してフッ素樹脂を融解させた。その後に、終夜にわたってシートを室温に冷却した後に塗膜を剥離してテストピースとした。
【0075】
比較例1~2で得られたフッ素樹脂については、シクロヘキサノンへの溶解が困難であった。そのため、フッ素樹脂の2倍量のジメチルアセトアミド(DMAc)を加え、混合物を80℃に加熱および攪拌して、フッ素樹脂の約33質量%溶液を得た。後は上記と同様の手順にてテストピースを得た。
【0076】
RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(アジレント・テクノロジー製E4991A)を用いて、1GHzの周波数におけるテストピースの誘電率および誘電損失を測定した。得られた結果を第1表に示す。
【0077】
(実施例6) フッ素樹脂(I-1)を含む樹脂組成物の製造
0.5gのフッ素樹脂(I-1)にトルエンを加え、混合物を80℃に加熱して、フッ素樹脂(I-1)の50質量%トルエン溶液を得た。80℃の温度において、得られたトルエン溶液に対して、0.05g(フッ素樹脂を基準として10質量%)の過酸化ベンゾイルと、0.2gのトリアリルイソシアヌレート(TAIC)とを添加し、10分間にわたって撹拌して、樹脂組成物を得た。フッ素樹脂(I-1)とTAICとの質量比は、7:3であった。
【0078】
(評価5)
実施例6で得られた樹脂組成物を厚み0.1mmのアルミニウム製シート上に塗布した。得られた塗布物を、ホットプレートを用いて110℃で60分間加熱してトルエンを除去した。得られた樹脂組成物が塗布されたシートを、ホットプレートを用いて220℃で2時間加熱して樹脂組成物の硬化物を得た。その後に、終夜にわたってシート室温に冷却した後に塗膜を剥離してテストピースとした。
【0079】
RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(アジレント・テクノロジー製E4991A)を用いて、1GHzの周波数におけるテストピースの誘電率および誘電損失を測定した。得られた結果を第1表に示す。
【0080】
【表1】