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特開2022-89152超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089152
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20220608BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20220608BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20220608BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220608BHJP
   C21D 9/48 20060101ALI20220608BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
C23C2/06
C22C18/04
C22C18/00
C22C38/00 301T
C21D9/48 J
C22C38/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021166562
(22)【出願日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】202011410113.0
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】519023846
【氏名又は名称】攀▲鋼▼集▲団▼研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】董学▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】郭太雄
(72)【発明者】
【氏名】金永清
(72)【発明者】
【氏名】高▲愛▼芳
(72)【発明者】
【氏名】冉▲長▼▲榮▼
(72)【発明者】
【氏名】尹晶晶
【テーマコード(参考)】
4K027
4K037
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB02
4K027AB44
4K027AC12
4K027AE02
4K027AE03
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA15
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB01
4K037EB02
4K037FH01
4K037FJ02
4K037FK06
4K037GA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、溶融めっき鋼板の技術分野に属し、具体的には、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】めっき層は、重量パーセントで以下の成分:Al:0.8~2.5%、Mg:0.8~2.0%及び微量合金元素:0.02~0.20%を主に含有し、残部はZn及び不可避不純物であり、微量合金元素中のV含有量は0.02%以上である。本発明は、C、S及びPなどの不純物並びに不純物に溶解するTi及びNbなどの元素の添加を厳密に制御することにより、めっき層の濡れ性に対する鋼基材表面上の不純物の影響を排除する。また、めっき層中のVは、脆性ζ相の生成を抑制し、めっき層と鋼基材との結合を増強し、めっき層の成形特性や鋼板の深絞り性能を向上させ、本発明を実用価値の高いものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板であって、鋼基材及びめっき層を備え、前記めっき層が、重量パーセントで以下の成分:Al:0.8~2.5%、Mg:0.8~2.0%及び微量合金元素:0.02~0.20%を主に含有し、残部がZn及び不可避不純物であり、前記めっき層中のZn含有量が96.0%以上であり、前記微量合金元素中のV含有量が0.02%以上であることを特徴とする、
超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層中の微量合金元素が合計0.03~0.15%であることを特徴とする、請求項1に記載の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき層中の微量合金元素が、VとNbの組み合わせ又はVとZrの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき層中の微量合金元素中のV含有量が0.03~0.10%であることを特徴とする、請求項1に記載の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき層中の不可避不純物が0.010%以下であり、Pbが0.003%以下、Sbが0.002%以下、Siが0.003%以下、Snが0.001%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板。
【請求項6】
前記めっき層が両面に20~400g/m2の総重量でめっきされていることを特徴とする、請求項1に記載の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板。
【請求項7】
前記鋼基材が、重量パーセントで以下の成分:C:0.003%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.05~0.20%、P:0.01%以下、S:0.01%以下、Al:0.02~0.10%、Ti:0.05~0.10%、Nb:0.01~0.03%を主に含有し、残部がFe及び不可避不純物であることを特徴とする、請求項1に記載の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の超深絞り用の溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板の溶融めっき方法であって、鋼基材の脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却ステップを含み、前記連続焼鈍プロセスが、炉内の水素の体積分率を3.5%以上に制御し、前記鋼板が亜鉛ポットに入るときの温度とめっき液の温度との差が±20℃に制御され、急冷が採用され、ストリップ鋼が320℃以下の温度で上部回転ロールに到達することを特徴とする、
溶融めっき方法。
【請求項9】
溶融めっきプロセスにおいて、前記鋼板が前記亜鉛ポットに入る温度が380~530℃に制御され、前記めっき液の温度が390~550℃であることを特徴とする、請求項8に記載の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板の溶融めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき鋼板の技術分野に属し、具体的には、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Zn-Al-Mg合金めっきは、1980年代に海外で広く注目され、溶融亜鉛めっき及び亜鉛合金めっきの専門分野における重要な研究対象となった。めっき層中のZn及びAlの含有量が同じであれば、Mgを添加した後の溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、より良好な耐食性能並びに良好なプロセス性能及び適用性能(成形、溶接及びめっき特性)を示すことが、国内外の産業界の研究結果から分かる。したがって、溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、現在の溶融亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板に取って代わることができ、幅広い見込みのある大きな市場を有することとなる。
【0003】
現在、溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、建設業界で主に使用されており、家電、自動車製造及び他の業界に徐々に参入しつつある。関連する研究は中国では比較的遅れて始まり、現在、Baosteel、Ansteel、Jiuquan Steel、Shandong Keruiなどのいくつかの企業のみが溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を発売している。
【0004】
既存の溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、以下の3種類:「低アルミニウム」(W Al<5%)、「中程度のアルミニウム」(5%≦W Al<13%)及び「高アルミニウム」(47%≦W Al≦57%)に分けることができる。異なる種類では、めっき層中のAl含有量及びMg含有量が変化し得るので、めっき層の構造及び品質も変化し、そのため用途は異なる。Al含有量及びMg含有量が増加するにつれて、めっき層の耐食性能は向上するが、成形及び溶接特性は低下する。家電や自動車製造分野では、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板が確実にユーザの絞り及び成形の要求に適合し、良好な成形特性を有するために、「低アルミニウム」板が使用されている。しかし、「低アルミニウム」Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、曲げ後に肉眼で見えるマイクロ亀裂を有する。ユーザの深絞りの要求を満たすためには、成形特性をさらに向上させる必要がある。
【0005】
特許文献1は、表面品質が高く、耐黒化性能に優れたZn-Al-Mg鋼板及びその製造方法を提供している。めっき液は、以下の成分:Al:1.0~3.0%、Mg:1.0~3.0%、Cu:0.005~0.055%、Ti:0.005~0.035%、Si:0.05%~1.0%を含有し、残部はZn及び不可避不純物である。めっき液の温度は410℃~460℃であり、ストリップ鋼がポットに入る温度は400℃~480℃である。めっき後に10~30℃/秒にて冷却を行い、板温度を200℃以下に低下させる。急冷槽に入る前は、板温度が80℃以下であり、急冷槽に入った後は、板は40℃以下に冷却される。この特許では、鋼板がめっき液中にあるときに、Si、Ti及びCuが添加される。浸漬めっき、めっき後の冷却及び仕上げなどのプロセスにより、わずか数個の亜鉛スラグが生成され、めっき層粒が小形化され、生成物は優れた耐黒化性能及び耐食性能、並びに良好な表面品質及び加工特性及び成形特性を有する。
【0006】
特許文献2は、溶融亜鉛めっき鋼及びその製造方法を開示している。溶融亜鉛めっき鋼は、鉄基材と、その上に形成された溶融亜鉛めっき層とを含む。溶融亜鉛めっき層は、重量パーセントで以下の成分:Al:0.01~0.5%、Mg:0.01~1.5%、Mn:0.05~1.5%、Fe:0.1~6%を含有し、残部はZn及び不可避不純物である。鉄基材と溶融亜鉛めっき層との界面には、溶融亜鉛めっき層の1%~60%の面積を占めるZn-Fe-Mn合金相が存在する。
【0007】
特許文献3は、高い表面品質を有する自動車用Zn-Al-Mgめっき鋼板及びその製造方法を開示している。めっき液は、重量パーセントで以下の成分:Al+Mg:2~6%、Mg/Al:0.8~1.2%、Cr:0.1~0.6%、Ti:0.2~1.0%、Cu:0.5~2.5%を含有し、残部はZn及び不可避不純物である。IF鋼板、BH鋼板、HSLA鋼板、DP鋼板は、MGLプロセスによる溶融めっきに使用され、TRIP鋼及びQ&P鋼板は、MGLプロセス及びSendzimirプロセスによる溶融めっきに使用される。この特許では、Zn-Al-Mgを基準としてTi、Cr及びCuを添加して、めっき層粒を小形化し、めっき硬度を向上させている。めっき層は、120~150HVの硬度及び0.69~0.89の仕上げ度を特徴とし、良好な耐擦傷性能及び高い表面品質を有する。
【0008】
このように、既存の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、微量元素であるTi、Cr、Cuを添加するなど、主にめっき層の成分を変更することによって成形特性が向上する。これは、鋼基材とめっき層との結合にほとんど影響せず、深絞り部品の要求を満たすことができない。そのため、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】CN111519117A
【特許文献2】CN110100036A
【特許文献3】CN110512118A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする技術的課題は、主にめっき層の成分を変更することによって、既存の溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では深絞り部品の要求を十分に満たすことができない成形特性が改善されることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の技術的問題を解決するために、本発明によって提供される技術的解決策は、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を提供することである。溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、鋼基材及びめっき層を備え、めっき層は、重量パーセントで以下の成分:Al:0.8~2.5%、Mg:0.8~2.0%及び微量合金元素:0.02~0.20%を主に含有し、残部はZn及び不可避不純物であり、微量合金元素中のV含有量は0.02%以上である。
【0012】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中のZn含有量は96.0%以上である。
【0013】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の微量元素はV、Nb及びZrのうちの少なくとも1つである。
【0014】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の微量合金元素は合計0.03~0.15%である。
【0015】
好ましくは、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の微量合金元素は、VとNbの組み合わせ又はVとZrの組み合わせであり、V含有量は0.02%以上である。
【0016】
好ましくは、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の微量合金元素中のV含有量は0.03~0.10%である。
【0017】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の不可避不純物は0.010%以下であり、Pbは0.003%以下、Sbは0.002%以下、Siは0.003%以下、Snは0.001%以下である。
【0018】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層は両面がめっきされ、総重量は20~400g/m2である。
【0019】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、鋼基材はフェライトのみからなる超低炭素鋼である。
【0020】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、鋼基材は、重量パーセントで以下の成分:C:0.003%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.05~0.20%、P:0.01%以下、S:0.01%以下、Al:0.02~0.10%、Ti:0.05~0.10%、Nb:0.01~0.03%を主に含有し、残部はFe及び不可避不純物である。
【0021】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、180Mpa以下の降伏強度、260~350Mpaの引張強度、伸びA80mm≧40%、n≧0.20及びr≧2.2を有する。
【0022】
本発明は、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板の溶融めっき方法も提供し、当該方法は、鋼基材の脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却ステップを含む。連続焼鈍プロセスは、炉内の水素の体積分率を3.5%以上に制御する。鋼板が亜鉛ポットに入るときの温度とめっき液の温度との差は、±20℃に制御される。(自然冷却以外の)急冷が採用され、ストリップ鋼は320℃以下の温度で上部回転ロールに到達する。
【0023】
また、超深絞り用の溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板の溶融めっき法では、溶融めっきプロセスにおいて、鋼板が亜鉛ポットに入る温度を380~530℃に制御し、めっき液の温度は390~550℃である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以下の効果を有する。
【0025】
本発明は、C、S、Pなどの不純物や、不純物に溶解するTi、Nbなどの元素の添加を厳密に制御することにより、鋼基材とめっき液との濡れ性に対する、鋼基材表面の不純物の影響を排除し、めっき層と鋼基材との接合部におけるいずれの亀裂発生源も防止し、めっき層の成形特性を向上させるものである。めっき層に添加された微量元素は、鋼基材とめっき液との濡れ性を高める。Vは、Feと容易に結合することができ、Alに溶解することができ、Alはめっき層における脆性ζ相の発生を抑制するだけでなく、めっき層と鋼基材との結合を強化する。さらに、めっき層の形成において、不均一な核生成サイトが発生し、アルミニウムリッチ相の樹状結晶構造中に分布し、このことにより、アルミニウムリッチ相の靭性が改善し、めっき層粒が小形化され、めっき層の伸びが増大して、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板の超深絞りによる成形プロセス中の亀裂幅及び亀裂密度が低減され、めっき層の成形特性及び耐食性が改善され、超深絞りに対するユーザの要求に適合する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、鋼基材及びめっき層を備える超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を提供し、前記めっき層は、重量パーセントで以下の成分:Al:0.8~2.5%、Mg:0.8~2.0%及び微量合金元素:0.02~0.20%を主に含有し、残部はZn及び不可避不純物であり、微量合金元素中のV含有量は0.02%以上である。
【0027】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中のZn含有量は96.0%以上である。Al及びMgの含有量が上昇すると、めっき層の成形特性が低下する。めっき層の良好な成形特性及び超深絞り後の十分なめっき層を確保にするために、本発明は、Zn含有量が96.0%以上であることを特に必要とする。
【0028】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の微量元素はV、Nb及びZrのうちの少なくとも1つである。
【0029】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の微量合金元素は合計0.03~0.15%である。
【0030】
好ましくは、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の微量合金元素は、VとNbの組み合わせ又はVとZrの組み合わせであり、V含有量は0.02%以上である。
【0031】
VはFe及びAlに対して親和性が高いため、めっき層と鋼基材との結合を強化するために本発明において添加される。Vの添加により、めっき層の結晶化中の不均一な核生成が可能となり、めっき層の構造が小形化され、したがってめっき層の成形特性が改善される。しかし、過剰なVはめっき層を粉砕しやすく、成形特性を低下させる。したがって、本発明はV含有量が0.03~0.10%であることを必要とする。
【0032】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層中の不可避不純物は0.010%以下であり、Pbは0.003%以下、Sbは0.002%以下、Siは0.003%以下、Snは0.001%以下である。
【0033】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、めっき層は両面がめっきされ、総重量は20~400g/m2である。
【0034】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、鋼基材はフェライトのみからなる超低炭素鋼である。
【0035】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板では、鋼基材は、重量パーセントで以下の成分:C:0.003%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.05~0.20%、P:0.01%以下、S:0.01%以下、Al:0.02~0.10%、Ti:0.05~0.10%、Nb:0.01~0.03%を主に含有し、残部はFe及び不可避不純物である。
【0036】
本発明の鋼基材成分の中で、C、S及びPなどの不純物は厳密に制御され、Ti及びNbが添加され、微量元素がめっき層中で互いに協働することで、鋼基材とめっき液との濡れ性が改善され、鋼基材表面上のZn-Al-Mgめっき液の化学反応プロセスが変化し、中間合金層及びアルミニウムリッチ相などのめっき層構造の形成に影響が及び、脆性ζ相が排除され、粒子が小形化する。さらに、Vは、めっき層表面上の緻密な酸化物の形成を助け、したがってめっき層の成形特性及び耐食性を包括的に改善し、超深絞りに対するユーザの要求を満たす。
【0037】
ここで、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、180Mpa以下の降伏強度、260~350Mpaの引張強度、伸びA80mm≧40%、n≧0.20及びr≧2.2を有する。
【0038】
本発明は、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板の溶融めっき方法も提供し、当該方法は、鋼基材の脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却ステップを含む。連続焼鈍プロセスは、炉内の水素の体積分率を3.5%以上に制御する。鋼板が亜鉛ポットに入るときの温度とめっき液の温度との差は、±20℃に制御される。(自然冷却以外の)急冷が採用され、ストリップ鋼は320℃以下の温度で上部回転ロールに到達する。
【0039】
本発明は、以下の態様:鋼基材表面上の油脂を確実に除去するための脱脂及び洗浄;酸化を回避し、鋼基材表面の活性を向上させ、めっき層と鋼基材との反応結合を促進するための還元雰囲気を確保するための、焼鈍中の水素;めっき液温度の安定性及び溶融めっきの安定性を確保するための、亜鉛ポットに入る鋼板の温度とめっき液温度との間の温度差制御;結晶化を速め、粒子核の成長を抑制するための急冷;の連携協働によって、鋼板の高温深絞り性能を改善する。このプロセスの相乗効果により、めっき層と鋼基材が密着し、めっき層粒が小形化される。
【0040】
また、超深絞り用の溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板の溶融めっき法では、溶融めっきプロセスにおいて、鋼板が亜鉛ポットに入る温度を380~530℃に制御し、めっき液の温度は390~550℃である。
【0041】
本発明の具体的な実施形態について、実施例を参照して以下でさらに説明するが、本発明は以下で説明する実施形態に限定されない。
【0042】
実施例1
100g/m2(両面)のめっき層重量を有し、めっき層の主成分が、Al:1.0%、Mg:1.0%、V:0.05%、Pb:0.001%、Sb:0.001%、Si:0.002%、Sn:0.001%を含み、残部がZnである、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を製造する;鋼基材構造はフェライトであり、以下の化学成分:C:0.002%、Si:0.02%、Mn:0.10%、P:0.01%、S:0.01%、Al:0.04%、Ti:0.06%及びNb:0.015%を含有し、残部はFe及び不可避不純物である。
【0043】
製造方法:脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却のステップを行う。脱脂及び洗浄は、脱脂処理後に洗浄するものとする;連続焼鈍では、炉内の水素を体積パーセントで4.0%に制御する;鋼板が亜鉛ポットに入る際の温度は400℃に制御する;溶融めっきプロセスにおけるめっき液の温度は410℃である;めっき後に急冷を行う;ストリップ鋼は、320℃の温度で上部回転ロールに到達する。
【0044】
試験方法:
耐食性能:GB/T10125-2012Corrosion Tests in Artificial Atmospheres-Salt Spray Tests(人工雰囲気下における腐食試験--塩水噴霧試験)に規定された条件及び方法で、中性塩水噴霧加速腐食試験を実施する。試験機器として塩水噴霧腐食試験チャンバを使用し、腐食媒体として濃度50g/L及びpH6.5のNaCl脱イオン水溶液を使用し、35±2℃の温度で試験し、75mm×150mm×0.8mmの試験片を使用し、試験片の縁部を透明テープで封止して5mmの縁部バンドを確保し、試験結果に影響を及ぼす縁部腐食を防止し、試験片を垂直方向に対して15°~25°の角度で配置する。試験片表面に出現する赤錆の時間を測定する。
【0045】
成形特性:試験片に対して0T曲げを実施し(180°曲げ、半径0mm)、肉眼で任意の亀裂を観察し、GB/T10125-2012 Corrosion Tests in Artificial Atmospheres-Salt Spray Testsにしたがって、曲げ部に対して中性塩水噴霧試験を実施して、赤錆が出現する時間を測定する。
【0046】
めっき特性:オイル塗布後に、脱脂、洗浄及びセラミック化又はリン酸化を行っためっき鋼板をめっき及び乾燥し、クロスカット法によってめっき層と鋼板との間の結合を試験する。めっき層が剥離しなければ、めっき層が良好に付着していることを示す。
【0047】
めっき層構造:研磨後、Zeiss sigma500SEMを用いて、めっき層の微細構造を観察する。
【0048】
試験により、実施例の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、良好な表面品質及び高い耐食性能、成形特性及びめっき特性を特徴とすることが判明した。めっき層は、Al-Fe-Zn-V合金層、アルミニウムリッチ相、Zn2Mg相及び三元共晶相のみからなり、ζ相は見られない。
【0049】
中性塩水噴霧試験では、1200時間を超えると赤錆が出現する。0T曲げ後に明らかな亀裂は肉眼では見られない。中性塩水噴霧試験条件下で1000時間を超えると、曲げ部に赤錆が出現する。めっき層は良好に付着し、ユーザの要求を満たしている。
【0050】
超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、150MPaの降伏強度、270MPaの引張強度、42%の伸びA80mm、0.22のn及び2.3のrを有する。複雑な絞り変形用途(60インチTVバックプレートなど)では、亀裂又は他の望ましくない現象は見られず、これは超深絞りに対するユーザの要求を満たしている。
【0051】
実施例2
150g/m2(両面)のめっき重量を有し、めっき層の主成分が、Al:2.0%、Mg:1.5%、V:0.08%、Nb:0.05%、Pb:0.002%、Sb:0.001%、Si:0.003%、Sn:0.002%を含み、残部がZnである、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を製造する;鋼基材構造はフェライトであり、以下の化学成分:C:0.003%、Si:0.01%、Mn:0.15%、P:0.01%、S:0.005%、Al:0.05%、Ti:0.08%及びNb:0.010%を含有し、残部はFe及び不可避不純物である。
【0052】
製造方法:脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却のステップを行う。脱脂及び洗浄は、脱脂処理後に洗浄するものとする;連続焼鈍では、炉内の水素を体積パーセントで3.5%に制御する;鋼板が亜鉛ポットに入る際の温度は460℃に制御する;溶融めっき法におけるめっき液の温度は450℃である;めっき後に急冷を行う;ストリップ鋼は、280℃の温度で上部回転ロールに到達する。
【0053】
試験方法は実施例1と同じである。
【0054】
試験により、実施例の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、良好な表面品質及び高い耐食性能、成形特性及びめっき特性を特徴とすることが判明した。めっき層は、Al-Fe-Zn-V合金層、アルミニウムリッチ相、Zn2Mg相及び三元共晶相のみからなり、ζ相は見られない。
【0055】
中性塩水噴霧試験では、1800時間を超えると赤錆が出現する。0T曲げ後に明らかな亀裂は肉眼では見られない。中性塩水噴霧試験条件下で1700時間を超えると、曲げ部に赤錆が出現する。めっき層は良好に付着し、ユーザの要求を満たしている。
【0056】
超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、143MPaの降伏強度、275MPaの引張強度、44%の伸びA80mm、0.23のn及び2.4のrを有する。複雑な絞り変形用途(60インチTVバックプレートなど)では、亀裂又は他の望ましくない現象は見られず、これは超深絞りに対するユーザの要求を満たしている。
【0057】
実施例3
240g/m2(両面)のめっき重量を有し、めっき層の主成分が、Al:1.8%、Mg:2.0%、V:0.12%、Zr:0.06%、Pb:0.002%、Sb:0.001%、Si:0.003%、Sn:0.002%を含み、残部がZnである、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を製造する;鋼基材構造はフェライトであり、以下の化学成分:C:0.0015%、Si:0.01%、Mn:0.16%、P:0.01%、S:0.01%、Al:0.03%、Ti:0.09%及びNb:0.008%を含有し、残部はFe及び不可避不純物である。
【0058】
製造方法:脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却のステップを行う。脱脂及び洗浄は、脱脂処理後に洗浄するものとする;連続焼鈍では、炉内の水素を体積パーセントで5.5体積%に制御する;鋼板が亜鉛ポットに入る際の温度は520℃に制御する;溶融めっき法におけるめっき液の温度は540℃である;めっき後に急冷を行う;ストリップ鋼は、300℃の温度で上部回転ロールに到達する。
【0059】
試験方法は実施例1と同じである。
【0060】
試験により、実施例の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、良好な表面品質及び高い耐食性能、成形特性及びめっき特性を特徴とすることが判明した。めっき層は、Al-Fe-Zn-V合金層、アルミニウムリッチ相、Zn2Mg相及び三元共晶相のみからなり、ζ相は見られない。
【0061】
中性塩水噴霧試験では、3000時間を超えると赤錆が出現する。0T曲げ後に明らかな亀裂は肉眼では見られない。中性塩水噴霧試験条件下で2900時間を超えると、曲げ部に赤錆が出現する。めっき層は良好に付着し、ユーザの要求を満たしている。
【0062】
超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、155MPaの降伏強度、268MPaの引張強度、45%の伸びA80mm、0.23のn及び2.5のrを有する。複雑な絞り変形用途(55インチTVバックプレートなど)では、亀裂又は他の望ましくない現象は見られず、これは超深絞りに対するユーザの要求を満たしている。
【0063】
比較例1
120g/m2(両面)のめっき層重量を有し、めっき層の主成分が、Al:1.2%、Mg:1.0%、V:0.005%、Pb:0.001%、Sb:0.001%、Si:0.002%、Sn:0.001%を含み、残部がZnである、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を製造する;鋼基材構造はフェライトであり、以下の化学成分:C:0.002%、Si:0.02%、Mn:0.10%、P:0.01%、S:0.01%、Al:0.04%、Ti:0.06%及びNb:0.015%を含有し、残部はFe及び不可避不純物である。
【0064】
製造方法:脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却のステップを行う。脱脂及び洗浄は、脱脂処理後に洗浄するものとする;連続焼鈍では、炉内の水素を体積パーセントで4.0%に制御する;鋼板が亜鉛ポットに入る際の温度は410℃に制御する;溶融めっき法におけるめっき液の温度は410℃である;めっき後に急冷を行う;ストリップ鋼は、320℃の温度で上部回転ロールに到達する。
【0065】
試験方法は実施例1と同じである。
【0066】
試験により、比較例の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、良好な表面品質及び高い耐食性能、成形特性及びめっき特性を特徴とすることが判明した。めっき層は、Al-Fe-Zn合金層、アルミニウムリッチ相、Zn2Mg相及び三元共晶相からなり、極めて薄いζ相が存在する。
【0067】
超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、175MPaの降伏強度、290MPaの引張強度、40%の伸びA80mm、0.21のn及び2.0のrを有する。複雑な絞り変形用途(55インチTVバックプレートなど)では、亀裂又は他の望ましくない現象は見られない。中性塩水噴霧試験では、1100時間を超えると赤錆が出現する。0T曲げ後にわずかな亀裂が肉眼で見られる。中性塩水噴霧試験条件下で900時間を超えると、曲げ部に赤錆が出現する。めっき層は十分に付着している。
【0068】
比較例2
160g/m2(両面)のめっき重量を有し、めっき層の主成分が、Al:2.0%、Mg:1.8%、V:0.08%、Nb:0.05%、Pb:0.002%、Sb:0.001%、Si:0.003%、Sn:0.002%を含み、残部がZnである、超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を製造する;鋼基材構造はフェライトであり、以下の化学成分:C:0.003%、Si:0.01%、Mn:0.15%、P:0.01%、S:0.005%、Al:0.05%、Ti:0.03%及びNb:0.010%を含有し、残部はFe及び不可避不純物である。
【0069】
製造方法:脱脂及び洗浄、連続焼鈍、溶融めっき、エアナイフパージ及び冷却のステップを行う。脱脂及び洗浄は、脱脂処理後に洗浄するものとする;連続焼鈍では、炉内の水素を体積パーセントで3.5%に制御する;鋼板が亜鉛ポットに入る際の温度は460℃に制御する;溶融めっき法におけるめっき液の温度は450℃である;めっき後に急冷を行う;ストリップ鋼は、280℃の温度で上部回転ロールに到達する。
【0070】
試験方法は実施例1と同じである。
【0071】
試験により、比較例の超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、良好な表面品質を特徴とすることが判明した。めっき層は、Al-Fe-Zn-V合金層、アルミニウムリッチ相、Zn2Mg相及び三元共晶相のみからなり、ζ相は見られない。中性塩水噴霧試験では、1500時間を超えると赤錆が出現する。0T曲げ後に明らかな亀裂は肉眼では見られない。中性塩水噴霧試験条件下で1200時間を超えると、屈曲部に赤錆が出現する。めっき層は、噴霧後に十分に付着している。
【0072】
超深絞り用溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板は、210MPaの降伏強度、330MPaの引張強度、38%の伸びA80mm、0.19のn及び2.0のrを有する。複雑な絞り変形用途(55インチTVバックプレートなど)では、鋼基材に亀裂が頻繁に出現し、これはさらなる超深絞りに対するユーザの要求を満たすことができない。
【外国語明細書】