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特開2022-89184患者への輸液を調整するシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089184
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】患者への輸液を調整するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/168 20060101AFI20220608BHJP
   A61M 5/172 20060101ALI20220608BHJP
   A61M 5/142 20060101ALN20220608BHJP
【FI】
A61M5/168 510
A61M5/172 500
A61M5/142 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021196282
(22)【出願日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】63/199,034
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/365,730
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521528296
【氏名又は名称】パーセプティブ メディカル インク.
【氏名又は名称原語表記】Perceptive Medical Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ ラインハート
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA07
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD11
4C066EE06
4C066EE11
4C066FF01
4C066HH01
4C066QQ17
4C066QQ22
4C066QQ27
4C066QQ44
4C066QQ58
4C066QQ64
4C066QQ72
4C066QQ77
4C066QQ78
4C066QQ82
4C066QQ92
(57)【要約】      (修正有)
【課題】1つ以上のバイタルサインに基づいて患者に間欠的に輸液される薬剤の流量を調整する、閉ループシステム及び方法を提供する。
【解決手段】薬剤の投与速度は、患者のバイタルサインが目標範囲内にとどまるように必要に応じて周期的に調節されてよい。閉ループシステム及び方法の安全性及び有効性を確保する為に様々な安全防護策が使用されてよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者への薬剤の流量を調整する方法であって、
患者の第1のバイタルサインの現在値を表す情報を第1のソースから受け取るステップと、
前記第1のバイタルサインの目標値又は目標範囲を受け取るステップと、
前記患者に投与される薬剤の第1の投与速度を受け取って記憶するステップと、
第1の管理アルゴリズムを使用して前記患者への前記薬剤の送達の為の修正投与速度を生成するステップであって、前記第1の管理アルゴリズムは、
前記第1のバイタルサインの前記現在値を表す前記情報を、前記目標値又は目標範囲と比較して差の値を算出するステップと、
前記第1の投与速度及び前記差の値の関数として前記修正投与速度を生成するステップと、
を含む、前記修正投与速度を生成する前記ステップと、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達するステップと、
前記修正投与速度を記憶するステップと、
前記第1の投与速度を含む、前記患者への前記薬剤の先行投与速度のセットを解析するステップと、
一定時間の間の前記先行投与速度の変更頻度が所定閾値を超えた場合にアラームコマンドを生成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のバイタルサインは前記患者の平均動脈圧を含み、前記第1のソースは、前記患者に装着されたトランスデューサを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記修正投与速度を生成する前記ステップは更に、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達する前記ステップの前に、第1の時間が最短時間を超えたかどうかを判定するステップであって、前記第1の時間は、最後に投与速度変更が行われてからの経過時間として定義される、前記判定するステップと、
前記第1の時間が前記最短時間より短い場合は、前記修正投与速度を前記第1の投与速度に設定するステップと、
前記第1の時間が前記最短時間より長い場合は、前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達するステップと、
を含み、
前記最短時間は管路遅延以上である、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
最小投与速度及び最大投与速度を受け取るステップ
を更に含み、
前記第1の管理アルゴリズムは更に、
前記修正投与速度が前記最小投与速度より大きく且つ前記最大投与速度より小さくなっているかどうかを判定するステップと、
そうなっていない場合には、(i)前記修正投与速度を前記第1の投与速度に設定し、(ii)前記第1の投与速度を維持し、前記第1の投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達し、(iii)アラームステータスを生成するステップと、
を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の管理アルゴリズムは更に、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達する前記ステップの前に、前記修正投与速度と前記第1の投与速度との差を計算するステップと、
前記差が上限変更閾値を超えた場合は、前記修正投与速度を、前記第1の投与速度に前記上限変更閾値を加えたものに設定するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者の収縮期血圧を監視するように構成された血圧モニタを含む第2のソースから前記第1のバイタルサインに関する情報を受け取るステップと、
前記第1及び第2のソースから受け取った、前記第1のバイタルサインに関する前記情報を比較するステップと、
前記第1及び第2のソースから測定された前記第1のバイタルサインの前記差が所定閾値を超えた場合はアラームコマンドを生成するステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記修正投与速度は、前記第1の投与速度、前記差の値、及び前記薬剤に関連付けられたスカラ速度の関数として生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤は昇圧剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のバイタルサインは前記患者の平均動脈圧を含み、前記第1の管理アルゴリズムは、前記第1のバイタルサインを前記目標値の5mmHg以内に維持するように前記修正投与速度を生成するように構成されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
搬送流体の流量を受け取るステップと、
前記搬送流体の前記流量に基づいて管理遅延を計算するステップと、
前記管路遅延に等しい最短時間を設定するステップと、
を更に含み、
前記修正投与速度を生成する前記ステップは更に、最後の投与速度変更から経過した時間として測定される第1の時間が前記最短時間を超えたかどうかを最初に判定するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
コンピュータプログラムが格納されている非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータプログラムは、患者への薬剤の流量を調整する方法をサーバのプロセッサに実施させるコマンドを含み、前記方法は、
管理ユニットにより、患者の第1のバイタルサインを表す情報を第1のソースから受け取るステップと、
前記管理ユニットにより、前記第1のバイタルサインの目標値を受け取るステップと、
前記管理ユニットにより、前記患者に投与される薬剤の第1の投与速度を受け取り、前記第1の投与速度を記憶するステップと、
前記管理ユニットが、前記第1のバイタルサインの現在値を前記目標値と比較して差の値を算出するステップと、
前記管理ユニットにより、前記患者への前記薬剤の送達の為の修正投与速度を、前記第1の投与速度及び前記差の値の関数として生成し、コンピュータプログラムを使用するステップと、
前記修正投与速度を前記非一時的コンピュータ可読媒体に格納するステップと、
前記第1の投与速度を含む、前記患者への前記薬剤の投与速度のセットを解析するステップと、
一定時間の間の前記投与速度の変更頻度が所定閾値を超えた場合にアラームコマンドを生成するステップと、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達するステップと、
を含む、
非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項12】
前記第1のバイタルサインは前記患者の平均動脈圧を含み、前記第1のソースは、前記患者に装着されたトランスデューサを含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記修正投与速度を生成する前記ステップは更に、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達する前記ステップの前に、第1の時間が最短時間を超えたかどうかを判定するステップであって、前記第1の時間は、最後に投与速度変更が行われてからの経過時間として定義される、前記判定するステップと、
前記第1の時間が前記最短時間より短い場合は、前記修正投与速度を前記第1の投与速度に設定するステップと、
前記第1の時間が前記最短時間より長い場合は、前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達するステップと、
を含み、
前記最短時間は管路遅延以上である、
請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記方法は更に、
最小投与速度を受け取り、前記最小投与速度を前記非一時的コンピュータ可読媒体に格納するステップと、
最大投与速度を受け取り、前記最大投与速度を前記非一時的コンピュータ可読媒体に格納するステップと、
前記修正投与速度が前記最小投与速度より大きく且つ前記最大投与速度より小さくなっているかどうかを判定するステップと、
そうなっていない場合には、(i)前記修正投与速度を前記第1の投与速度に設定し、(ii)前記第1の投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達し、(iii)アラームコマンドを生成するステップと、
を含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項15】
前記方法は更に、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達する前記ステップの前に、前記修正投与速度と前記第1の投与速度との差を計算するステップと、
前記差が上限変更閾値を超えた場合は、前記修正投与速度を、前記第1の投与速度に前記上限変更閾値を加えたものに設定するステップと、
を含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項16】
前記方法は更に、
前記患者の収縮期血圧を監視するように構成された血圧モニタを含む第2のソースから前記第1のバイタルサインに関する情報を受け取るステップと、
前記第1及び第2のソースから受け取った、前記第1のバイタルサインに関する前記情報を比較するステップと、
前記第1及び第2のソースから測定された前記第1のバイタルサインの前記差が所定閾値を超えた場合はアラームコマンドを生成するステップと、
を更に含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項17】
前記修正投与速度は、前記第1の投与速度、前記差の値、及び前記薬剤に関連付けられたスカラ速度の関数として生成される、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項18】
前記薬剤は昇圧剤を含み、前記第1のバイタルサインは前記患者の平均動脈圧を含み、前記第1の管理アルゴリズムは、前記第1のバイタルサインを前記目標値の5mmHg以内に維持するように前記修正投与速度を生成するように構成されている、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項19】
前記方法は更に、
搬送流体の流量を受け取るステップと、
前記搬送流体の前記流量に基づいて管理遅延を計算するステップと、
前記管路遅延に等しい最短時間を設定するステップと、
を更に含み、
前記修正投与速度を生成する前記ステップは更に、最後の投与速度変更から経過した時間として測定される第1の時間が前記最短時間を超えたかどうかを最初に判定するステップを含む、
請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項20】
患者への薬剤の流量を調整するシステムであって、
プロセッサと、前記プロセッサと通信可能に結合されたメモリと、を含む管理ユニットであって、前記メモリは第1の管理アルゴリズムを格納する、前記管理ユニット
を含み、
前記管理ユニットは、患者の第1のバイタルサインに関する情報を第1のソースから受け取るように構成されており、
前記管理ユニットは更に、前記第1のバイタルサインの目標値又は目標範囲、及び前記患者への薬剤の送達の為の第1の投与速度を受け取るように構成されており、
前記管理ユニットは、第1の管理アルゴリズムを使用して、前記患者への前記薬剤の送達の為の修正投与速度を生成し、
前記管理ユニットは、前記薬剤が前記患者へ前記修正投与速度で送達されるようにするコマンド信号を送信し、
前記第1の管理アルゴリズムは、
前記第1のバイタルサインの現在値を前記目標値又は目標範囲と比較して差の値を算出するステップと、
前記第1の投与速度及び前記差の値の関数として前記修正投与速度を生成するステップと、
を含み、
前記管理ユニットは更に、
前記第1の投与速度及び前記修正投与速度を格納し、
前記患者への前記薬剤の投与速度のセットを解析し、
一定時間の間の前記投与速度の変更頻度が所定閾値を超えた場合にアラームコマンドを生成する
ように構成されている、
システム。
【請求項21】
前記第1のバイタルサインは前記患者の平均動脈圧を含み、前記第1のソースは、前記患者に装着されたトランスデューサを含む、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記管理ユニットは更に、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達する前記ステップの前に、第1の時間が最短時間を超えたかどうかを判定するステップであって、前記第1の時間は、最後に投与速度変更が行われてからの経過時間として定義される、前記判定するステップと、
前記第1の時間が前記最短時間より短い場合は、前記修正投与速度を前記第1の投与速度に設定するステップと、
前記第1の時間が前記最短時間より長い場合は、前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達するステップと、
によって前記修正投与速度を生成するように構成されており、
前記最短時間は管路遅延以上である、
請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
前記管理ユニットは更に、
最小投与速度及び最大投与速度を受け取るステップと、
前記修正投与速度が前記最小投与速度より大きく且つ前記最大投与速度より小さくなっているかどうかを判定するステップと、
そうなっていない場合には、(i)前記修正投与速度を前記第1の投与速度に設定し、(ii)前記第1の投与速度を維持し、前記第1の投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達し、(iii)アラームコマンドを生成するステップと、
を実施するように構成されている、
請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記管理ユニットは更に、
前記修正投与速度に従って前記患者に前記薬剤を送達する前記ステップの前に、前記修正投与速度と前記第1の投与速度との差を計算するステップと、
前記差が上限変更閾値を超えた場合は、前記修正投与速度を、前記第1の投与速度に前記上限変更閾値を加えたものに設定するステップと、
を実施するように構成されている、
請求項20に記載のシステム。
【請求項25】
前記管理ユニットは更に、
前記患者の収縮期血圧を監視するように構成された血圧モニタを含む第2のソースから前記第1のバイタルサインに関する情報を受け取るステップと、
前記第1及び第2のソースから受け取った、前記第1のバイタルサインに関する前記情報を比較するステップと、
前記第1及び第2のソースから測定された前記第1のバイタルサインの前記差が所定閾値を超えた場合はアラームコマンドを生成するステップと、
を実施するように構成されている、
請求項20に記載のシステム。
【請求項26】
前記修正投与速度は、前記第1の投与速度、前記差の値、及び前記薬剤に関連付けられたスカラ速度の関数として生成される、請求項20に記載のシステム。
【請求項27】
前記薬剤は昇圧剤を含み、前記第1のバイタルサインは前記患者の平均動脈圧を含み、前記第1の管理アルゴリズムは、前記第1のバイタルサインを前記目標値の5mmHg以内に維持するように前記修正投与速度を生成するように構成されている、請求項20に記載のシステム。
【請求項28】
前記管理ユニットは更に、
搬送流体の流量を受け取るステップと、
前記搬送流体の前記流量に基づいて管理遅延を計算するステップと、
前記管路遅延に等しい最短時間を設定するステップと、
を実施するように構成されており、
前記修正投与速度を生成する前記ステップは更に、最後の投与速度変更から経過した時間として測定される第1の時間が前記最短時間を超えたかどうかを最初に判定するステップを含む、
請求項20に記載のシステム。
【請求項29】
前記管理ユニットは更に、
前記修正投与速度を生成する前記ステップの前に、第1のバイタルサインに関する前記情報を、前記第1のバイタルサインを受け取る前のバイタルサインを表す、保存されているバイタルサインと比較するステップと、
前記第1のバイタルサインが前記保存されているバイタルサインと等しい場合は、前記修正投与速度を前記第1の投与速度に設定するステップと、
を実施するように構成されている、
請求項20に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月3日に出願された米国特許仮出願第63/199,034号の優先権を主張する、2021年7月1日に出願された米国特許非仮出願第17/365,730号の優先権を主張するものである。これら及び他の全ての参照される外部資料は、参照によって完全な形で本明細書に組み込まれている。参照によって組み込まれている参照文献中の用語の定義又は用法が、本明細書において与えられているその用語の定義と矛盾しているか反対の意味である場合は、本明細書において与えられているその用語の定義が支配的であるものとする。
【0002】
本発明の分野は、閉ループ輸液のシステム及び方法であり、特に、静脈内輸液ポンプとともに使用されるシステム及び方法である。
【背景技術】
【0003】
以下の記述は、本発明の理解に役立ちうる情報を含む。これは、本明細書において提供される情報の全てが先行技術である又は特許請求対象の本発明に関係すると言っているわけでもなく、明示的又は暗黙的に参照される全ての公表物が先行技術であると言っているわけでもない。
【0004】
患者の血圧や他のバイタルを維持することが困難になる可能性があり、管理が不十分であると患者の健康に影響を及ぼす可能性がある。手術中は低血圧が頻繁に発生する可能性があり、この低血圧は、患者の転帰に悪影響を及ぼすことと相互に関連付けられている。例えば、患者の平均動脈圧(MAP)が手術中のほんの1分の間に55~65mmHg下がると、患者の血圧が安定したままの場合に比べて死亡リスクが高まる。
【0005】
残念なことに、手術中に血圧及び他のバイタルを維持するように投薬を手動で管理することは難易度が高い場合がある。血圧又は他のバイタルの最適化は、患者のバイタルサインの測定値を繰り返し取得し、薬剤の投与速度の調節を手動で頻繁に行うことを必要とする。このことは、最も典型的には医療専門家が常に注視することを必要とする為、法外なコストがかかり実現が難しい可能性がある。
【0006】
図1は、患者のバイタルサインを手動で維持する為の典型的なワークフローを示す。看護師又は他の医療専門家が患者のバイタルサインをモニタ等で精査し、患者への薬剤の投与速度を手動で調節する。医療専門家は一度に複数の患者をケアすることが多い為、各患者のバイタルサインのチェックは周期的に行われるが頻繁には行われず、それによって更なる是正の機会が失われる。更に、調節は、患者のバイタルサインの瞬時の印象に基づいて恣意的に行われる可能性がある。
【0007】
血圧の場合には、そのような手動管理の結果として、患者がかなりの時間にわたってその患者にとっての目標範囲から外れることが多い。例えば、ある調査によれば、血圧の手動管理の結果として、患者らは全体の50%を超える時間にわたって目標範囲から外れており、10~15%の時間にわたって(目標範囲を下回る)低血圧状態にあり、30~40%の時間にわたって(目標範囲を上回る)高血圧状態にあった。
【0008】
本明細書において明示されている全ての公表文献は、それぞれ個々の公表文献又は特許出願が参照により具体的且つ個別に示されて組み込まれるのと同程度に、参照により組み込まれている。組み込まれている参照文献中の用語の定義又は用法が、本明細書において与えられているその用語の定義と矛盾しているか反対の意味である場合は、本明細書において与えられているその用語の定義が適用され、参照文献中のその用語の定義は適用されないものとする。
【0009】
従って、患者に与えられる薬剤の投与速度を経時的に常に最適化する閉ループシステム及び方法が引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の技術における課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明対象は、患者への薬剤又は他の流体の流量を調整する装置、システム、及び方法を提供する。1つ以上のバイタルサイン等の患者の情報が、(例えば、トランスデューサ又は他のセンサを含む)少なくとも1つのソースから受け取られてよい。それらのバイタルサインのうちの1つ以上のバイタルサインの目標値及び/又は目標範囲が受け取られてよい。一実施例では、目標値及び/又は目標範囲は、グラフィカルユーザインタフェースを使用して入力されてよい。患者に投与される薬剤又は他の流体の最初の投与速度も受け取られてよい。
【0012】
そのようなバイタルサインは、例えば、患者の平均動脈圧を含んでよいが、静脈内輸液装置の使用等による薬剤の間欠的輸液によって管理されることが可能な他の任意のバイタルサインも含んでよい。
【0013】
1つ以上のバイタルサイン等の患者に関して受け取られた情報に基づいて、第1の管理アルゴリズムが使用されて、患者への薬剤又は他の流体の送達の為の修正投与速度が生成されてよい。第1の管理アルゴリズムは、第1のバイタルサインの値を目標値と比較して差の値を算出し、最初(第1)又は現在の投与速度と差の値との関数として修正投与速度を生成する。修正投与速度が生成されたら、その修正投与速度に従って薬剤が患者に送達されてよい。第1の管理アルゴリズムは、患者のバイタルサインを目標範囲(即ち、バイタルサインの目標値から所定の範囲)内に維持する為に、患者の情報(例えば、1つ以上のバイタルサイン)を常に監視し、必要に応じて薬剤又は他の流体の投与速度を随時修正するように構成されてよい。
【0014】
別の実施形態では、非一時的コンピュータ可読媒体が、患者への薬剤の流量を調整する方法をプロセッサに実施させるコマンドを含むコンピュータプログラムを格納する。プログラムは、(i)第1のソースからの患者の第1のバイタルサイン、及び(ii)第1のバイタルサインの目標値に関する情報を受け取ってよい。患者に投与される薬剤の最初又は現在の投与速度も受け取られてよい。
【0015】
プロセッサは、コンピュータプログラムを実行して、第1のバイタルサインの現在値を目標値又は目標範囲と比較して差の値を算出してよく、次に、患者への薬剤の送達の為の修正投与速度を、最初(第1)又は現在の投与速度と差の値との関数として生成してよい。修正投与速度が生成されたら、その修正投与速度に従って薬剤が患者に送達されてよい。
【0016】
本発明対象物の様々な目的、特徴、態様、及び利点が、以下の好ましい実施形態の詳細説明を添付図面と併せて読むことにより更に明らかになるであろう。添付図面では類似の参照符号は類似の構成要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】患者のバイタルサインの手動調整の先行技術のフローチャートを示す。
図2】患者のバイタルサインの自動調整のフローチャートを示す。
図3】患者への薬剤の流量を調整する方法の一実施形態の図を示す。
図4】第1の管理アルゴリズムの一例示的実施形態を示す。
図5】ルールエンジンの一例示的実施形態を示す。
図6】手動管理を使用する患者と自動管理を使用する患者との、目標範囲内にある時間を比較する一実施例を示す。
図7】患者のバイタルサインの自動調整用のシステムの一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の議論を通して、コンピューティング装置で形成されたサーバ、サービス、インタフェース、ポータル、プラットフォーム、又は他のシステムに関して様々な参照を行うことがある。当然のことながら、そのような用語の使用は、コンピュータ可読な有形の非一時的媒体に記憶されたソフトウェア命令を実行するように構成された少なくとも1つのプロセッサを有する1つ以上のコンピューティング装置を表すものと見なされる。例えば、サーバは、ウェブサーバ、データベースサーバ、又は他のタイプのコンピュータサーバとして、記載の役割、任務、又は機能を果たすように動作する1つ以上のコンピュータを含んでよい。
【0019】
以下の議論は、本発明対象物の様々な例示的実施形態を提供する。各実施形態は発明要素の1つの組み合わせを表すが、本発明対象物は、開示の要素の全ての可能な組み合わせを包含するものと見なされる。従って、1つの実施形態が要素A、B、及びCを含み、別の実施形態が要素B及びDを含むとすると、本発明対象物は更に、明示的に開示されないとしてもA、B、C、又はDの他の残りの組み合わせを包含するものと見なされる。
【0020】
図2は、患者の監視されている1つ以上のバイタルサインの変化に基づく、患者への薬剤の投与速度の自動調節を用いる、患者のバイタルサインの自動調整の簡略化されたフローチャートを示す。
【0021】
図3は、患者114への薬剤122の流量を調整する方法の第1の実施形態100を示す。第1のバイタルサインの目標値、及び患者114に投与される薬剤122の最初(第1)又は現在の投与速度が、グラフィカルユーザインタフェース116への入力等により受け取られてよい。
【0022】
患者114の第1のバイタルサインに関する情報112が、第1のソース110から受け取られてよく、これは、センサ等から直接、又は患者監視装置等から間接的に受け取られてよい。受け取られた情報112に基づいて、第1の管理アルゴリズムにより、修正された投与速度118が生成されてよい。次に、その修正投与速度に従って、輸液ポンプ120等により、薬剤122が患者114に送達されてよい。このようにして、患者114の第1のバイタルサインは周期的且つ常に監視されることが可能であり、第1のバイタルサインと目標値又は目標範囲並びに他の因子との差に応じて薬剤122の投与速度の調節が行われることが可能である。幾つかの実施形態では、投与速度の調節においては、最初(第1)又は現在の投与速度、現在のバイタルサインと目標値又は目標範囲との差の値、及び薬剤122に関連付けられたスカラ速度を考慮してよい。薬剤として昇圧剤を図示しているが、本明細書に記載のシステム及び方法は、他の任意の、患者の1つ以上のバイタルを管理する為に使用されてよく、患者に間欠的に輸液される薬剤とともに使用されてよいことが企図されている。
【0023】
幾つかの企図される実施形態では、プロセッサが第1の管理アルゴリズムを実行し、このアルゴリズムは、患者の第1のバイタルサインの値を目標値又は目標範囲と比較して差の値を算出し、最初(第1)又は現在の投与速度と差の値との関数として修正投与速度を生成する。
【0024】
一実施例として、本明細書に記載のシステム及び方法は、患者の血圧を調整することに使用されてよいことが企図されており、この調整は、例えば、患者に間欠的に投与される昇圧剤の投与速度を管理することによって行われる。そのような実施形態では、第1のバイタルサインは患者の平均動脈圧(MAP)を含んでよいことが企図されており、MAPは、患者に装着されたトランスデューサを使用して測定可能である。本システム及び方法は、好ましくは、患者のMAPを監視及び追跡し、第1の管理アルゴリズムを利用して、患者のMAPの変化に応じて修正投与速度を生成することにより、患者の第1のバイタルサインを目標値の目標範囲内(例えば、5mmHg以内)に維持するように構成される。修正投与速度は、例えば、IV輸液装置に送られてよく、そしてIV輸液装置は、患者に投与されている薬剤の投与速度を変更することが可能である。
【0025】
更に、本明細書に記載のシステム及び方法が薬剤の投与速度を増加させ続けるなどして患者の血圧又は他のバイタルサインを維持することによって患者の状態の悪化を隠すことがないようにすることに役立つ追加の安全防護策が使用されてよいことが企図されている。そのような一実施例では、最初(第1)の投与速度、先行投与速度のセット、現在の投与速度(該当する場合)、及び修正投与速度が、プロセッサと通信可能に結合されたメモリに記憶されてよく、患者への薬剤の記憶された投与速度のセットがプロセッサによって解析されてよい。一定時間の間の薬剤の投与速度の変更頻度が所定の閾値を超えた場合に、患者のバイタルサインが目標範囲内にとどまっているにもかかわらず患者の状態が悪化しつつある可能性を医療チームに通知するアラームコマンドが生成されることが可能である。
【0026】
追加又は代替として、使用可能な別の安全防護策は、薬剤の最後の投与速度変更から一定時間が経過していないと投与速度の更なる調節を行うことができないとするものである。例えば、修正投与速度を生成するステップでは、薬剤の最後の投与速度変更から経過した時間として測定された第1の時間が確定されることが企図されている。そして、第1の時間がある最短時間より短い場合には投与速度は変更されない。これに対し、第1の時間がその最短時間以上の長さであれば、修正投与速度が、患者への薬剤の最初(第1)又は現在の投与速度として設定されてよい。
【0027】
そのような実施形態では、最短時間は、送達されている薬剤の管路遅延以上の長さであることが好ましく、管路遅延は、薬剤が薬剤ソースから患者までの間に流れなければならない配管の長さと、配管を通る薬剤の流量とを認識することによって計算可能である。これは大まかな概算でもかまわない。重要なのは、患者が前の投与速度で薬剤を実際に受け取っていない限り、本システム及び方法によって投与速度が変更されないことである。管路遅延は状況に応じて1~2分以上になる可能性がある為、この安全防護策は、本システム及び方法が、管路遅延を考慮せずに薬剤の投与速度を調節することによって過剰に補償することのないようにし、むしろ、投与速度が変化する為の時間が有効に存在することを可能にするようにすることに役立つ。
【0028】
閉ループシステム及び方法が患者に対して安全であることを更に確実にする為に、薬剤の最小投与速度及び最大投与速度が患者に合わせて入力されることが好ましい。これが行われていない場合、本システム及び方法は、その情報を医療専門家に要求することが可能であること、又は患者に送達されている薬剤に依存してよい使用可能なデフォルト値を有することが可能であることが企図されている。
【0029】
そのような実施形態では、第1の管理アルゴリズムは更に、修正投与速度が最小投与速度より大きく且つ最大投与速度より小さくなっているかどうかを判定することが可能であることが企図されている。そうなっていない場合には、最初(第1)又は現在の投与速度が(調節されずに)維持されてよいこと、及び最初(第1)又は現在の投与速度に従って薬剤が患者に送達されてよいことが企図されている。そのような場合には更に、その問題を医療専門家にアラートするアラームステータスが生成されてよいことが企図されている。代替として、修正投与速度は、現在の投与速度から最小又は最大投与速度に調節されてよく(該当する場合)、アラームステータスが生成されてよいことが企図されている。
【0030】
更に別の実施形態では、本システム及び方法は、投与速度の変更量がどの1回の調節でも一定量(上限変更閾値)を超えないことを更に確実にすることが可能であることが企図されている。例えば、第1の管理アルゴリズムは、修正投与速度に従って薬剤を患者に送達する前に修正投与速度と最初(第1)又は現在の投与速度との差を計算することが可能であることが企図されている。この2つの投与速度の差が上限変更閾値を超えた場合、修正投与速度は、それの代わりに、最初(第1)又は現在の投与速度に上限変更閾値を加えたものに設定されてよい。従って、そのような実施形態では、投与速度は変更されるものの、上限変更閾値の値の分だけ調節されるに過ぎない。そのような場合には更に、その問題を医療専門家にアラートするアラームステータスが生成されてよいことが企図されている。
【0031】
更に、第1のバイタルサインは、第1のソースに加えて第2のソースからのものも別個に監視されてよいことが企図されている。第1のバイタルサインの情報が第2のソースから受け取られてよく、第2のソースから受け取られた情報は、第1のソースから受け取られた、第1のバイタルサインの情報と比較されてよい。第1のソースの情報と第2のソースの情報との差が所定閾値を超えた場合は、アラームコマンドが生成されてよい。測定されたバイタルサインの単位が、第1のソースによって測定されたものと第2のソースによって測定されたものとで異なっていても、それらの値の比較が可能になるように、一方のソースから受け取られた情報が変換されてよいことが企図されている。例えば、血圧監視の場合には、第1のソースが患者のMAPを監視してよく、第2のソースが患者の収縮期血圧(SBP)及び拡張期血圧(DBP)を監視してよいことが企図されている。そのような状況では、収縮期血圧は次式によってMAPに変換されてよい。
MAP=(SBP+2*(DBP))/3
【0032】
第1のバイタルサインに加えて、患者の他のバイタルサインが監視されてよく、そのようなバイタルサインとして、例えば、酸素飽和度(SpO)、体温、及び心臓からの電気信号(EKG)があることが企図されている。追加又は代替として、患者内の灌流活動及び/又は代謝活動も監視されてよい。
【0033】
単なる一実施例として、患者の血圧を監視する場合には、第1のソースは、患者に装着されたトランスデューサであってよく、第2のソースは、収縮期血圧を監視するように構成された血圧モニタであってよいことが企図されている。
【0034】
別の態様では、コンピュータプログラムが格納されている非一時的コンピュータ可読媒体が提供される。好ましくは、コンピュータプログラムは、患者への薬剤の流量を調整する方法をサーバのプロセッサに実施させるコマンドを含む。従って、例えば、静脈内輸液装置がプロセッサを含んでよく、プロセッサは、コンピュータプログラムが格納されている非一時的コンピュータ可読媒体と通信可能に結合されており、コンピュータプログラムは、上述の第1の管理アルゴリズムを含んでよい。静脈内輸液装置は、投与速度を監視及び計算する管理ユニットであってよく、又は独立した管理ユニットが静脈内輸液装置と通信して、患者への薬剤の投与速度を管理してよい。
【0035】
コンピュータプログラムは、患者の第1のバイタルサインに関する、第1のソースからの情報を管理ユニット経由で受け取るように構成されてよい。第1のバイタルサインの目標値、及び患者に投与される又は投与されている薬剤の最初(第1)又は現在の投与速度も、管理ユニットに接続されたGUI等により受け取られてよい。
【0036】
受け取られた情報に基づいて、管理ユニットのプロセッサは、コンピュータプログラムを実行して、第1のバイタルサインの値を目標値又は目標範囲と比較して差の値を算出してよい。次に、最初(第1)又は現在の投与速度及び差の値に基づいて、修正投与速度が生成されて、患者への薬剤の送達の為に輸液装置に送られてよく、現在の投与速度が修正投与速度に調節されてよい。
【0037】
次に、その修正投与速度に従って、輸液装置により、薬剤が患者に送達されてよい。
【0038】
幾つかの実施形態では、第1のバイタルサインが患者の平均動脈圧を含んでよいこと、並びに薬剤は昇圧剤を含んでよいことが企図されている。そのような実施形態では、第1のソースは、患者のMAP又は他の血圧の指標を測定することが可能な、患者に装着されたトランスデューサ又は別のセンサであってよいことが企図されている。
【0039】
第1の投与速度、前の投与速度、現在の投与速度(該当する場合)、及び修正投与速度は、同じ非一時的コンピュータ可読媒体又は別々の非一時的コンピュータ可読媒体に記憶されてよい。記憶された薬剤の投与速度のセットが解析されてよく、一定時間の間の投与速度の変更の頻度が所定閾値を超えた場合にはアラームコマンドが生成されてよい。
【0040】
上述のように、投与速度の調節が患者にとって安全であることを保証する為の他の様々な安全防護策がコンピュータプログラムに実装されてよい。実施例として、薬剤の最小投与速度及び最大投与速度を設定すること、投与速度を調節できる頻度を制限すること、及び/又は投与速度の1回の調節量の最大値を設定することがあってよい。
【0041】
従って、例えば、修正投与速度を生成することは、最後の投与速度変更から少なくとも、事前設定された時間長又は最短時間が経過したかどうかを最初に判定し、経過していない場合には投与速度は不変のままであってよいことを含むことが企図されている。経過した時間の長さが最短時間を超えている場合には、投与速度の調節が行われてよい。好ましくは、そのような実施形態では、最短時間は、薬剤が患者に投与されている場合に存在する管路遅延以上であってよい。上述のように、この管路遅延は、薬剤ソースから患者まで測定された配管の長さと、配管を通る薬剤の流量とに基づく。
【0042】
更に、修正投与速度を生成することは、修正投与速度と最初(第1)又は現在の投与速度との差を計算することを含んでよいことが企図されている。現在の投与速度と修正投与速度との差が上限変更閾値を超えた場合、修正投与速度は、最初(第1)又は現在の投与速度に上限変更閾値を加えたものに設定されてよい。
【0043】
又、患者への薬剤の流量を調整する為の様々なシステムが企図されている。図7では、システムの一実施形態200が管理ユニット220を含んでよく、管理ユニット220においてはプロセッサ222がメモリ224と通信可能に結合されており、メモリ224は第1の管理アルゴリズムを格納するように構成されている。管理ユニット220は、患者への薬剤の間欠的送達の為に、第1のソースからの患者240の第1のバイタルサイン、第1のバイタルサインの目標値又は目標範囲、及び最初(第1)又は現在の投与速度に関する情報を受け取るように構成されている。薬剤は輸液装置により送達されてよく、輸液装置は管理ユニット220を含んでも含まなくてもよい。
【0044】
バイタルサインが目標範囲から外れている場合、管理ユニット220は、第1の管理アルゴリズムを使用して、患者240への薬剤の送達の為の修正投与速度を生成する。第1の管理アルゴリズムは、第1のバイタルサインの値を目標値又は目標範囲と比較して差の値を算出し、最初(第1)又は現在の投与速度と差の値とに基づいて修正投与速度を生成するようにプログラムされている。例えば、患者のバイタルサインが目標値又は目標範囲を超えた場合には、バイタルサインと目標値又は目標範囲との差が計算されてよい(差)。次に管理ユニットは、バイタルサインを目標範囲内まで下げることに必要な薬剤の追加量(投与速度の増加量)を計算してよい。次にこの投与速度の増加量が現在の投与速度に追加されて修正投与速度が生成されてよい。
【0045】
次に管理ユニット220は、薬剤が輸液ポンプ230から患者240へ修正投与速度で送達されるようにするコマンド信号を送信してよい。
【0046】
幾つかの企図される実施形態では、第1のバイタルサインは患者240の平均動脈圧を含み、第1のソースは、患者240に装着されたトランスデューサを含む。
【0047】
又、管理ユニット220は、最初の投与速度と、投与速度の調節の履歴又は修正投与速度と、を記憶してよく、患者240への薬剤の記憶された投与速度を解析してよいことが企図されている。一定時間の間の投与速度の変更頻度が所定閾値を超えた場合、管理ユニット220はアラームコマンドを生成してよい。
【0048】
上述のように、投与速度が患者240にとって安全であることを保証する為の他の様々な安全防護策が管理ユニット220の管理アルゴリズムに実装されてよい。実施例として、最小投与速度及び最大投与速度を設定すること、投与速度を調節する頻度を制限すること、及び/又は投与速度の調節量の最大値を設定することがあってよい。
【0049】
コンピュータソフトウェア即ち第1の管理アルゴリズムの一例示的実施形態を図4に示す。PIDコントローラが使用されて、バイタルサインの目標値、バイタルサインの現在値、及び任意選択で患者の血圧履歴に基づいて投与速度変更が決定されてよい。その結果値に薬剤スカラが乗ぜられることによって投与速度変更値に到達されてよく、この変更値と現在の投与速度とが組み合わされて、修正投与速度が生成されてよい。修正投与速度がルールエンジンによって解析されて、患者にとっての新しい投与速度の安全性が確認されてよく、これは、例えば、上述の安全防護策の幾つか又は全てを実施することによって行われてよい。
【0050】
一例示的ルールエンジンを図5に示す。図示のように、管理アルゴリズムを使用して計算された修正投与速度が解析されて、修正投与速度が患者にとって安全であることを確認されてよい。図では特定の順序で示しているが、解析の順序は、本発明の範囲から逸脱しない限り、様々であってよいことが企図されている。
【0051】
図示のように、薬剤の最後の投与速度変更からの経過時間が監視されてよい。修正投与速度が計算されたら、経過時間が第1の閾値と比較されてよい。経過時間が第1の閾値より短い場合、投与速度は調節されない(変更なし)。経過時間が第1の閾値以上である場合、他の全てのプログラムされた条件が満たされれば、投与速度は調節される。
【0052】
投与速度の調節量も解析されて、調節量が最小値より大きく最大値より小さいことが確認されてよい。これは、輸液装置で可能な最小量(例えば、最小変更量)を超えない限り、調節が行われないようにすることに役立つ。又、これにより、投与速度に対するいかなる調節も、短時間に大きな変更が行われるのではなく、段階を踏んで徐々に行われるようになる。調節量が2つの値の間にある場合、他の全てのプログラムされた条件が満たされれば、投与速度は調節される。調節量が2つの値の間にない場合、投与速度は調節されない(変更なし)。
【0053】
修正投与速度も投与速度の最小値及び最大値と比較されて、修正投与速度がこれらの閾値の外側に外れないようにされてよい。修正投与速度が2つの値の間にある場合、他の全てのプログラムされた条件が満たされれば、投与速度は調節される。修正投与速度が2つの値の間にない場合、投与速度は調節されない(変更なし)。
【0054】
図6は、患者の血圧の手動管理と、本明細書に記載の閉ループシステム及び方法による自動管理との比較を示す。図示のように、自動管理の目標範囲内にある時間(95%)は、手動管理の目標範囲内にある時間(46%及び59%)を大きく上回った。目標範囲内にある時間の計算は、指定された時間の間にどれだけ長く、患者の血圧がその患者について設定された目標値の±5mmHg以内にあったかを調べることによって行われる。
【0055】
又、本明細書に記載の閉ループシステム及び方法を使用した結果、閉ループシステム及び方法を使用した患者における昇圧剤の総投与量は、手動管理を使用した患者(対照群)より40%少なかった。更に、閉ループシステムによる昇圧剤の投与速度の調節は患者当たり1000回を超えたが、これに対し、対照群では中央値が患者当たり15回であった。
【0056】
手術時間のうちの患者が(患者のベースラインMAPの90%を下回るMAPとして定義される)低血圧になっていた時間のパーセンテージは、閉ループシステム及び方法を使用した患者では1.2%。手動管理を使用した患者では21.5%あった。手術時間のうちのMAPが65mmHgを下回った時間のパーセンテージも、閉ループシステムを使用した患者では対照群より小さかった(平均で1.9%に対して0%であった)。閉ループシステム及び方法を使用した患者は又、平均で手術時間の97.2%において目標MAP範囲(患者のベースラインMAP値の±10mmHg)内にあった。これに対し、手動管理下の患者が目標MAP範囲内にあったのは平均で手術時間の58.8%であった。手術時間のうちの(MAP目標を10mmHg以上上回るMAPとして定義される)高血圧だった時間のパーセンテージも、閉ループシステム及び方法を使用した患者では手動管理を使用した対照群より小さかった(平均で12.9%に対して2.5%)。
【0057】
本発明で用いるように、且つ別段に記述しない限りは、「と結合される(coupled to)」という語句は、(互いに結合される2つの要素が互いに接触する)直接結合、及び(2つの要素の間に少なくとも1つの追加要素が置かれる)間接結合の両方を包含するものとする。従って、「と結合される(coupled to)」と「と結合される(coupled with)」は区別なく使用される。
【0058】
幾つかの実施形態では、本発明の特定の実施形態を記述及び特許請求する為に使用される、測定値、成分量、濃度等の特性、反応条件等を表す数値は、場合によっては「約(about)」という語で修飾されるものと理解されたい。従って、幾つかの実施形態では、従って、本明細書及び添付の特許請求項に記載された数値パラメータは、特定実施形態により得られることが求められている所望の特性に応じて様々であってよい近似である。幾つかの実施形態では、数値パラメータは、報告された有効桁数に照らして、且つ通常の丸め手法を適用して構築されるべきである。本発明の幾つかの実施形態の広い範囲を記述する数値範囲及びパラメータが近似であるにもかかわらず、特定の実施例において記述される数値は、実現可能な限り正確に報告される。本発明の幾つかの実施形態で示された数値は、それぞれの検査測定値に見られる標準偏差に必然的に起因するある程度の誤差を含みうる。
【0059】
文脈が反対のことを示さない限り、本明細書に記載の全ての範囲はそれらの端点を包含するものと解釈されるべきであり、オープンエンドな範囲は、商業上実用的な値のみを包含するものと解釈されるべきである。同様に、全ての値並びは、文脈が反対のことを示さない限り、中間的な値を包含するものと見なされるべきである。
【0060】
本明細書の記述において、並びにこの後の特許請求項全体を通して、文脈が明らかに反対のことを示さない限り、「a」、「an」、及び「the」の意味は複数形の参照を包含する。又、本明細書の記述において、文脈が明らかに反対のことを示さない限り、「in」の意味は「in」及び「on」を包含する。
【0061】
本明細書における値の範囲の記述は、単に、その範囲に入る各離散値を個別に参照することの簡単な方法として働くものとする。本明細書中で特に断らない限り、ある範囲を有する各個別値は、それぞれが個々に本明細書において記述されているかのように本明細書に組み込まれている。本明細書中で説明される全ての方法は、本明細書中で特に指摘されたり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、任意の好適な順序で実施されてよい。本明細書において特定の実施形態に関して与えられるあらゆる例、又は例示的言い回し(例えば、「等の(such as)」)は、特に主張されない限り、単に本発明をより明らかにすることだけを意図したものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中の如何なる言い回しも、特許請求されていない任意の要素を、本発明の実施に不可欠であると示すものとして解釈されてはならない。
【0062】
本明細書に開示の本発明の代替要素又は代替実施形態の群化は限定として解釈されるべきではない。群の各メンバは、個別に参照及び特許請求されてよく、又はその群の他のメンバ又は本明細書中の他の要素との任意の組み合わせの形で参照及び特許請求されてもよい。利便性及び/又は特許性の為に、ある群の1つ以上のメンバがある群に包含されてよく、又はある群から削除されてよい。そのような包含又は削除が1つでも行われた場合、本明細書はここで、それらの群を修正されたものとして含むことによって、添付の特許請求項で使用されるマーカッシュ群の書面記載を満たすと見なされる。
【0063】
当業者には当然明らかであるが、本明細書に記載の発明概念から逸脱しない限り、既述の修正に加えて更に多くの修正が可能である。従って、本発明対象は、添付の特許請求項の趣旨にある制限を除いて制限されるべきではない。更に、本明細書及び特許請求の両方を解釈するにあたっては、全ての語句が、文脈と整合しながらも可能な限り広く解釈されるべきである。特に、「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」という語句は、要素、構成要素、又はステップを非排他的に参照すると解釈されるべきであり、このことは、参照される要素、構成要素、又はステップが明示的に参照されていない他の要素、構成要素、又はステップとともに存在してよく、又はそれらとともに利用されてよく、又はそれらと組み合わされてよいことを示している。本明細書の特許請求項がA、B、C、…、及びNからなる群から選択される少なくとも1つの何かを参照する場合、その文章は、AとN、又はBとN等ではなく、群中の1つの要素だけを要求していると解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【外国語明細書】