(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089244
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】墜落防止用安全器
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
A62B35/00 F
A62B35/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201475
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000223687
【氏名又は名称】藤井電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 義行
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA11
2E184LA07
2E184LA17
(57)【要約】
【課題】昇降水平兼用として専用の方向転換器やレール等を設置することなく一般的なレールに対して使用でき、安全性に優れた、墜落防止用安全器を提供することにある。
【解決手段】レールにスライド自在に装着される枠体22と、レールに挿通され、かつ枠体22に揺動自在に軸支された把持レバー24と、把持レバー24のレールとの非接触状態を維持するロック機構26とを備えた墜落防止用安全器10の改良であり、その特徴ある構成は、ロック機構26の昇降移動時の操作を制限する安全機構28が設けられたところにある。安全機構28は、昇降移動のときはその自重により、ロック機構26の操作を防止する第一姿勢を、水平移動のときはその自重により、ロック機構26の操作が可能な第二姿勢をとるように構成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールにスライド自在に装着される枠体と、
前記レールに挿通され、かつ前記枠体に揺動自在に軸支された把持レバーと、
前記把持レバーの前記レールとの非接触状態を維持するロック機構と
を備えた墜落防止用安全器において、
前記ロック機構の昇降移動時の操作を制限する安全機構が設けられた
ことを特徴とする墜落防止用安全器。
【請求項2】
前記安全機構は、昇降移動のときはその自重により、前記ロック機構の操作を防止する第一姿勢を、水平移動のときはその自重により、前記ロック機構の操作が可能な第二姿勢をとるように構成された
請求項1に記載の墜落防止用安全器。
【請求項3】
前記ロック機構は、前記枠体の一方の側面から他方の側面へと貫通して前記他方の側面からその先端が突出する貫通部材を備え、
前記ロック機構を前記一方の側面から前記他方の側面に向かって押し込むことで前記ロック機構をロック位置としたときに、前記他方の側面から前記貫通部材の先端が押し込んだ距離だけ更に突出するように構成された
請求項1に記載の墜落防止用安全器。
【請求項4】
前記ロック機構に前記枠体の前記他方の側面から前記一方の側面に向かって付勢する付勢部材が設けられた
請求項3に記載の墜落防止用安全器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電鉄塔上などの高所作業において作業者の墜落を防止するために用いられる墜落防止用安全器に関する。特に、昇降移動および水平移動兼用の墜落防止用安全器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電鉄塔などの高層建造物には、作業者の昇降時における墜落防止のために、昇降用の梯子やステップボルトなどに昇降移動用の墜落防止用レール(以下、「昇降移動用レール」ということがある。)が上下方向に連続して敷設されている。また、作業時における墜落防止のために、鉄塔アームなどに水平移動用の墜落防止用レール(以下、「水平移動用レール」ということがある。)が水平方向に連続して敷設されている。作業者は、それぞれの墜落防止用レールに対応した安全器をレールに装着し、ロープを介して安全器と身体とを繋いだ状態で移動並びに作業を行っている。
作業者が鉄塔を昇る場合、身体とロープで繋がれた安全器は上方に引かれてレールに対して上向きに移動する。一方で、安全器が下方に引かれると、安全器の移動を規制する把持機構が作動する。このように安全器の把持機構が動作することにより、作業者の墜落防止手段が確保された状況での昇降が可能となる。
【0003】
安全器としては、昇降移動専用や水平移動専用の他、昇降移動および水平移動の双方の移動が可能な昇降水平兼用の安全器も用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
昇降水平兼用の安全器では、昇降移動時にロープで上方に引かれたときには、安全器がレール上でスムーズに移動でき、ロープで下方に引かれたときには、把持機構が作動して安全器をレール上で停止できる必要がある。また、水平移動時には、把持機構は作動させず、前後左右いずれの方向に対してもスムーズな移動ができることが望ましい。
このように昇降水平兼用の安全器では、昇降移動時、水平移動時で把持機構の作動可能状況をその都度変更することが望まれる。
【0004】
上記特許文献1では、方向転換装置の回転体内に固定されたレール片のフランジ部に切り欠きが設けられている。そして、昇降移動から水平移動へ移行する場合、方向転換装置の回転体内で安全器の把持レバーの爪をレール片の切り欠きからレール片の表面側に移動させることで、把持機構を解除の状態に切り替えている。
上記特許文献2では、規制ローラを備えた安全器と、方向転換装置側の端部近傍に、フランジ部を切り欠いて形成した切り欠きと、規制ローラを案内可能な傾斜面を備えた切り替え用レールと、を備えている。そして、昇降移動から水平移動へ移行する場合、安全器を方向転換装置で90°回転させた後、水平移動用レール側に移動させる。この操作により、規制ローラを、切り替え用レールの傾斜面、切り欠きを通ってフランジ部の表面に乗り上げさせ、規制ローラの動作とともにレバーを回転させ、レバーの爪を切り替え用レールの表面に接触しない状態に保持することで把持機構を解除の状態に切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭64-019457号公報
【特許文献2】特開平8-33728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では専用の方向転換器が、上記特許文献2では専用の切り替え用レールがそれぞれ設置されていなければ、昇降水平兼用として使用することができないため、汎用性に欠けるものであった。
一方で、専用の方向転換器やレールが設置されていない一般的なレールに対して昇降水平兼用の安全器を使用する場合、安全器に把持機構の切替手段を設けて把持機構の作動可能状況を切り替えることが考えられる。この場合、上記特許文献1,2とは異なり、昇降移動位置や水平移動位置のどの位置においても切り替えができてしまうため、安全性に欠けるおそれがあった。
本発明の目的は、昇降水平兼用として専用の方向転換器やレール等を設置することなく一般的なレールに対して使用でき、安全性に優れた、墜落防止用安全器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の墜落防止用安全器は、レールにスライド自在に装着される枠体と、上記レールに挿通され、かつ上記枠体に揺動自在に軸支された把持レバーと、上記把持レバーの上記レールとの非接触状態を維持するロック機構とを備えた墜落防止用安全器の改良であり、上記ロック機構の昇降移動時の操作を制限する安全機構が設けられたことを特徴とする。
本発明の墜落防止用安全器において、上記安全機構は、昇降移動のときはその自重により、上記ロック機構の操作を防止する第一姿勢を、水平移動のときはその自重により、上記ロック機構の操作が可能な第二姿勢をとるように構成されたことが好ましい。
【0008】
本発明の墜落防止用安全器において、上記ロック機構は、上記枠体の一方の側面から他方の側面へと貫通して上記他方の側面からその先端が突出する貫通部材を備え、上記ロック機構を上記一方の側面から上記他方の側面に向かって押し込むことで上記ロック機構をロック位置としたときに、上記他方の側面から上記貫通部材の先端が押し込んだ距離だけ更に突出するように構成されたことが好ましい。
本発明の墜落防止用安全器において、上記ロック機構に上記枠体の上記他方の側面から上記一方の側面に向かって付勢する付勢部材が設けられたことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る墜落防止用安全器では、ロック機構の昇降移動時の操作を制限する安全機構が設けられている。この安全機構により、ロック機構は昇降移動時に操作が制限されてロック位置に切り替えることができないので、昇降移動時での、把持機構の作動不可状態への切り替えを防止できる。そのため、安全性に優れた、昇降水平兼用の墜落防止用安全器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の墜落防止用安全器がレールに取付けられた状態を示す図である。
【
図2】誤操作防止板及びストッパーが設置された墜落防止用レールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本実施形態>
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態の墜落防止用安全器がレールに取付けられた状態を示す図である。
図1に示すように、この墜落防止用安全器10は、鉄塔等に敷設された墜落防止用レール12に取り付けて用いられる。
【0012】
<墜落防止用レール>
本実施形態における墜落防止用レール12は、断面がI字状で、対向する短辺のうち一方が安全器10の走行面、他方が鉄塔等への取付面である。以下、安全器10が走行する面側を「走行面側短辺」、鉄塔等へ取付けられる面側を「取付面側短辺」という。レール12は、レール把持金具14、レール取付金具16を介して鉄塔等へ取付けられる。
図2は、誤操作防止板及びストッパーが設置された墜落防止用レールを示す図である。
図2に示すように、レール12の長手方向における末端近傍には、誤操作防止板18及びストッパー20が設置される。なお
図2では、レール12上部に誤操作防止板18及びストッパー20が設置されている状態を示している。誤操作防止板18及びストッパー20は、レール12の取付面側短辺に取付けられる。
レール12に装着した安全器10を上方へと移動させると、レール12上部に設置されたストッパー20によって進行が妨げられる。なお、この場合、ストッパー20を手動で押し下げてレール12上の通路を確保した状態とすることで安全器10をストッパー20位置よりも上方へと移動させることができる。また、図示しないが、レール12下部に設置されたストッパー20については、レール12の下端部から安全器10を装着する際は、安全器10が下部に設置されたストッパー20を乗り越えてストッパー20位置より上方へと移動が可能だが、ストッパー20を乗り越えた後の下方への移動はこのストッパー20によって進行が妨げられる。このように、ストッパー20は、レール12からの安全器10の脱落を防止しており、安全性を確保するために設置されている。
誤操作防止板18はレール12の右側に配置されており、安全器10を誤って、正しい装着方向とは反対の方向からレール12に装着した場合に、その進行を妨げるために設けられている。
【0013】
図示しないが、昇降移動用レール12Aと水平移動用レールとの切り替わり位置には、方向転換器が設けられる。また、方向転換器に代えて、曲げ加工が施されたレールで昇降移動用レール12Aと水平移動用レールとが連結されている場合もある。この曲げ加工が施されたレールは、切り替わり位置への使用に限らず、取り付ける鉄塔等の構造に合わせて適宜使用される。また、昇降移動用レール12Aと水平移動用レールとの切り替わり位置の近傍にも、誤操作防止板18やストッパー20が設置される。
【0014】
ここで、安全器10に対する方向は、
図1に示すように昇降移動用レール12Aに安全器10を装着した場合において以下のように定義する。本体前方・後方とは、鉛直方向上方を本体前方、鉛直方向下方を本体後方とする。本体正面側・背面側とは、本体がレール12Aの走行面に接する側を背面側、それに対向する側を正面側とする。
【0015】
<枠体>
図3は墜落防止用安全器の正面図であり、
図4は墜落防止用安全器の左側面図である。
図3及び
図4に示すように、本実施形態の墜落防止用安全器10は、枠体22と、把持レバー24と、ロック機構26と、安全機構28とを備えている。
図5は、墜落防止用安全器の左側面断面図である。
図5に示すように、枠体22には、墜落防止用レール12が通される溝30が形成されている。そして、この溝30に沿って、複数のローラ32が設けられている。この複数のローラ32は、溝30に通されるレール12に接して回転するように配置されている。本実施形態では、ローラ32は、レール12の走行面側短辺の両側縁部の表裏面及び側面に各々接して回転するように配設されている。
図3及び
図4に示すように、枠体22の側面には逆挿入防止のための安全ピン34が突出して設けられている。この安全ピン34は、枠体22の正面左側側面の本体前方かつ本体背面側に配置されている。安全器10を誤って、正しい装着方向とは反対の方向からレール12に装着してしまったときに、安全ピン34がレール12の右側に設けられた誤操作防止板18に当接することで、これ以上は逆挿入した安全器10が進行しようとする方向には移動できないように構成されている。
【0016】
<把持レバー>
図5に示すように、把持レバー24は、その一端側にはレール12に挿通可能な挿通部36が、他端側には連結レバー38を連結するための連結孔40が設けられている。また中間部には軸孔42が設けられ、この軸孔42に回転軸44を貫通させ、回転軸44を枠体22に取付けることで、把持レバー24が枠体22に揺動自在に接続される。把持レバー24は、連結孔40が本体正面側、挿通部36が本体背面側となるように、枠体22側面の中央上部付近に配置されている。枠体22側面の本体後方には、その一端側に連結孔46を有する補助レバー48が揺動自在に接続されている。
そして、把持レバー24と補助レバー48を繋ぐように連結レバー38が揺動自在に接続され、把持レバー24と補助レバー48と連結レバー38とで四節リンク構造を構成している。連結レバー38は、一端が把持レバー24の連結孔40に、他端が補助レバー48の連結孔46に接続されている。連結レバー38の中間部にはロープを連結する接続環50が設けられている。
図4に示すように、接続環50には接続部材52を介してロープが接続される。接続部材52としてはUシャックル、スイベルなどが挙げられる。
【0017】
図5に戻って、挿通部36は、正面から見たときに一部が開口したC字状に形成され、レール12の走行面側短辺の表裏に位置する把持部54を備える。各把持部54には、V字状に傾斜させた把持爪56が対角位置に配置されている。把持レバー24にはレバー用ばね58が、把持爪56がレール12にかみ込む方向に付勢するように設けられている。本実施形態のレバー用ばね58は、把持レバー24の連結孔40側が本体後方に向かう方向に付勢されている。
把持レバー24は、レール12の走行面側短辺の裏側縁部及び表側中央部を把持することで安全器10のレール12上での移動を停止するように構成されている。即ち、把持レバー24は、安全器10の移動を規制する把持機構として作用する。具体的には、把持レバー24の連結孔40側を本体後方に摺動させたときは、把持部54に配置されている把持爪56がレール12の走行面側短辺の裏側縁部及び表側中央部を把持し、安全器10のレール12上での移動を停止させる。一方、把持レバー24の連結孔40側を本体前方に摺動させたときは、把持部54がレール12の走行面側短辺の表裏面と平行に位置し、挿通部36がレール12と非接触状態となる。この状態では、安全器10は、レール12上をスムーズに移動できる。
【0018】
<ロック機構>
図3及び
図4に示すように、ロック機構26は、ロック位置としたときに、把持機構の作動不可状態が維持されるように構成されている。具体的には、把持レバー24がレール12と非接触状態をとり、この状態が維持されるように構成されている。また、ロック機構26を非ロック位置としたときは、把持機構が作動可能状態とされる。この場合、把持レバー24は、本体前方、本体後方に摺動可能である。把持レバー24の連結孔40側を本体後方に摺動させたときは、把持レバー24がレール12の走行面側短辺の裏側縁部及び表側中央部を把持する。
【0019】
ロック機構26は、貫通部材60、第一ロック部材62、第二ロック部材64を備えている。
貫通部材60は、枠体22の左右の側面を貫通する長さの棒状部材である。貫通部材60の基端66は、枠体22の正面左側の側面から所定の長さだけ突出するように配置されている。また、貫通部材60の先端68は、枠体22の正面右側の側面から突出しており、ロック位置維持部材70が取り付けられている。貫通部材60は、長手方向にスライドが可能であり、貫通部材60を正面左側の側面から正面右側の側面に向かって押し込んでロック機構26をロック位置としたときに、正面右側の側面から貫通部材60の先端68が押し込んだ距離だけ更に突出するように構成されている。また、貫通部材60は、押し込んだときの先端68の位置がレール12の右側に配置された誤操作防止板18と当接するようにその長さと押し込む距離とが設定されている。押し込んでロック位置とした貫通部材60は、ロック位置維持部材70で固定することにより、その状態が維持される。貫通部材60には、枠体22の正面右側の側面から正面左側の側面に向かって付勢するロック解除用ばね(付勢部材)72が設けられている。押し込んでロック位置に維持されていた貫通部材60は、ロック位置維持部材70による固定を解除することで、ロック解除用ばね72の付勢力により、非ロック位置に戻る。
【0020】
第一ロック部材62及び第二ロック部材64は、貫通部材60よりも短尺の棒状部材である。第一ロック部材62及び第二ロック部材64は、枠体22の正面左側の側面に、貫通部材60とは間隔をあけて略直線を形成するように配置されている。貫通部材60、第一ロック部材62及び第二ロック部材64は、この順に並んで配置されている。貫通部材60、第一ロック部材62及び第二ロック部材64がなす略直線は、本体前方に摺動させた把持レバー24がなす傾きと略同じ傾きとなるように調整されている。
第一ロック部材62及び第二ロック部材64は、貫通部材60と平行に、かつ、それらの基端が貫通部材60の基端66と同じ長さだけ枠体22側面から突出するように配置されている。貫通部材60、第一ロック部材62及び第二ロック部材64は、長板状の連結部材74によりその基端がそれぞれ接続されており、各部材が連動して動くように構成されている。第一ロック部材62及び第二ロック部材64は、非ロック位置では把持レバー24とは当接せず、ロック位置としたときに、第一ロック部材62及び第二ロック部材64の先端側側面が本体前方に摺動させた把持レバー24に当接するように配置されている。第一ロック部材62及び第二ロック部材64が、本体前方に摺動させた把持レバー24に当接することで、把持レバー24の本体前方に摺動させた状態が維持される。
連結部材74には、貫通部材60の接続位置から第一ロック部材62の接続位置とは反対側に延びる延伸領域76が形成されている。
【0021】
<安全機構>
本実施形態の墜落防止用安全器10には、ロック機構26の昇降移動時の操作を制限する安全機構28が設けられる。安全機構28は、略L字に形成された板状部材78により形成されており、その一端には軸孔80が設けられている。そして、この軸孔80に第一ロック部材62が貫通されることで、安全機構28がロック機構26に揺動自在に接続される。軸孔80は、第一ロック部材62の径よりも大きい孔径に設定されている。安全機構28は、軸孔80を第一ロック部材62の径よりも大きい孔径とすることで、その自重により揺動するように構成されている。
また板状部材78の他端には、ロック機構26の操作を制限する規制部材82が突出して設けられている。規制部材82の長さは、貫通部材60の基端66の突出長さよりも短く設定されている。この規制部材82は、安全機構28をロック機構26側に揺動させたときに、連結部材74の延伸領域76の裏面側に位置するように配置される。
安全機構28を揺動させ、規制部材82を延伸領域76の裏面側に配置させた状態で、ロック機構26を押し込んだ場合、延伸領域76の裏面と規制部材82が当接するので、ロック位置に入れることができない。本実施形態では、この「規制部材82を延伸領域76の裏面側に配置させた状態」を第一姿勢という。また、第一姿勢以外の状態を第二姿勢という。第一姿勢では、ロック機構26の操作が制限されるため、ロック機構26の誤操作を防止できる。
昇降移動のときは安全器10の本体前方が鉛直方向上方に位置しており、安全機構28はその自重により、ロック機構26側に揺動してロック機構26の操作を制限する第一姿勢をとる。一方、水平移動のときは安全器10の本体前方、本体後方が水平の位置をとるため、安全機構28はその自重により、ロック機構26から離れる方向に揺動してロック機構26の操作が可能な第二姿勢をとる。
【0022】
<安全器の動作>
このような墜落防止用安全器10を使用して高所作業を行う際には、作業者は安全器10の接続環50に身体に装着した安全帯のロープを接続する。そして、鉄塔などに設置された昇降移動用レール12Aの下端部から安全器10を挿通させて、レール12Aに安全器10を装着した状態で、鉄塔を登る。
鉄塔を登っているときは、安全器10はロープによって上方へ吊り上げられているので、把持レバー24はレバー用ばね58に抗して本体前方側へと摺動する。本体前方側へと摺動した把持レバー24は、挿通部36がレール12Aと非接触の状態をとる。このため、安全器10は作業者によって吊り上げられることでレール12A上をスムーズに上方へと移動できる。また、鉄塔を降りているときは、安全器10の自重によってレール12A上をスムーズに下方へと移動できる。
【0023】
この昇降移動の動作では、安全器10は、本体前方が鉛直方向上方に位置している。このため、安全機構28はその自重により、ロック機構26側に揺動して第一姿勢をとっている。ロック機構26は第一姿勢の安全機構28により操作が制限され、ロック位置にまで押し込むことができない。したがって、この昇降移動時では、把持レバー24がロックされることがない。
このように、昇降移動時に安全器10が把持機構作動可能状態に維持されていることから、万一作業者が落下した場合には、把持機構が作動する。具体的には、上方へ吊り上げられていた把持レバー24が解放され、レバー用ばね58の付勢力によって本体後方に揺動し、挿通部36の把持部54がレール12Aの走行面側短辺の裏側縁部及び表側中央部をこじるように掴んで停止することで作業者の墜落を防止できる。
【0024】
安全器10が方向転換器を介して昇降移動用レール12Aから水平移動用レールに移行すると、安全器10の位置は、本体前方が鉛直方向上方から水平方向へと変化する。この安全器10の位置変化に伴って、安全機構28はその自重により、ロック機構26から離れる方向に揺動して第二姿勢をとる。即ち、この水平移動時では安全機構28が第二姿勢をとっているため、ロック機構26の操作が可能な状態になっている。
把持機構作動可能状態では、水平移動時に安全器10がスムーズな移動をすることができず、作業者が行う作業に支障をきたすおそれがある。そのため、把持機構の作動状態を作動不可状態に切り替える必要がある。
【0025】
<昇降水平切替>
把持機構を作動可能状態から作動不可状態へと切り替えるには、先ず、把持レバー24を本体前方に摺動させる。次に、把持レバー24を摺動させた状態でロック機構26をロック位置にまで押し込む。これにより、第一ロック部材62、第二ロック部材64の先端側側面が把持レバー24と当接する。そして、この状態を維持するため、押し込んだ状態をロック位置維持部材70により固定する。これにより、把持機構は作動不可の状態が維持される。この把持機構作動不可状態では、把持レバー24が水平移動用レールと非接触状態に維持されているため、安全器10は、水平移動用レール上でスムーズな移動ができる。
また、この切り替えに伴い、貫通部材60の先端68が押し込んだ距離だけ更に突出される。この先端68は、水平移動用レールに配置された誤操作防止板18と当接する位置にあるため、水平移動用レールの末端付近にまで安全器10を移動しても、この先端68が誤操作防止板18に当たって、安全器10の進行が妨げられる。このため、把持機構作動不可状態のまま、誤って水平移動用レールから昇降移動用レール12Aへと移行することがなく、安全である。
【0026】
また、把持機構を作動不可状態から作動可能状態へと切り替えるには、ロック位置維持部材70によるロック位置の固定を解除する。この解除により、ロック解除用ばね72の付勢力によってロック機構26がロック位置から非ロック位置へと移動する。この移動により、把持レバー24を本体前方に維持していた第一ロック部材62及び第二ロック部材64が外れる。そして、把持レバー24は、レバー用ばね58の付勢力によって本体前方から本体後方へと摺動する。このようにして、把持機構が作動可能状態に切り替わる。
【0027】
<本実施形態の作用効果>
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、ロック機構26の昇降移動時の操作を制限する安全機構28が設けられている。この安全機構28により、ロック機構26は昇降移動時に操作が制限されて、ロック位置に切り替えることができないので、把持レバー24がロック機構26によってロックされることがない。従って、昇降移動時での把持機構の作動不可状態への切り替えを防止できる。そのため、安全性に優れた、昇降水平兼用の墜落防止用安全器10を提供できる。
【0028】
また、本実施形態では、昇降移動のときは、安全機構28が、その自重により、ロック機構26の操作を防止する第一姿勢をとり、水平移動のときはその自重により、ロック機構26の操作が可能な第二姿勢をとるように構成されている。
第一姿勢はロック機構26の操作を防止する位置にあり、ロック機構26の操作ができなくなる。したがって、昇降移動時には、ロック機構26がロックされて、把持レバー24がレール12との非接触状態に維持されるということがない。
一方、安全機構28が第二姿勢をとっている場合、ロック機構26はその操作が制限されないので、ロック機構26をロックして把持レバー24をレール12との非接触状態に維持することができる。この場合、把持レバー24による引っ掛かりがないので、安全器10がレール12上で走行自在になる。
このように本実施形態によれば、安全器10がレール12に取り付けられている状態(昇降、水平)に応じて、安全機構28がその自重によってロック機構26の操作を防止する第一姿勢、或いはロック機構26の操作が可能な第二姿勢のいずれかをとるので、昇降移動時での把持機構の作動不可状態への切り替えを確実に防止できる。
【0029】
また、本実施形態では、ロック機構26に貫通部材60を備えており、ロック機構26を枠体22側へと押し込んでロック位置としたときに、貫通部材60の先端68が押し込んだ距離だけ他の側面から更に突出した状態となる。この場合、貫通部材60の先端68が、レール12に所定の間隔をあけて設けられた誤操作防止板18よりも突出することになる。このため、安全器10が水平移動用レール上で誤操作防止板18の位置まで移動しても、貫通部材60の先端68が誤操作防止板18に当接して移動が制限されるため、安全器10は誤操作防止板18を通過できない。したがって、レール12との非接触状態に維持された把持機構作動不可状態のまま、安全器10が水平移動用レールから昇降移動用レール12A側に移動することを防止できる。
【0030】
更に、本実施形態では、ロック機構26に、枠体22の一方の側面から外方に向かって付勢するロック解除用ばね72が設けられている。ロック位置を維持しているロック位置維持部材70による固定を解除すると、このロック解除用ばね72の付勢力によってロック機構26がロック位置から非ロック位置に戻るので、切替に伴う手動操作が最小限で済む。
【0031】
<変形例>
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれるものとする。
上記実施形態では、断面がI字状の墜落防止用レール12に対応した安全器10として説明したが、これに限定されない。例えば、中央に上下方向の開口部を備えた断面が箱形形状(略角型パイプ状の形状)の墜落防止用レールにも適用できる。
また上記実施形態では、本体前方に摺動させた把持レバー24を維持するためのロックを、第一ロック部材62及び第二ロック部材64の2つの部材で行うこととしたが、これに限定されない。ロック部材は、1つの部材でもよいし3つ以上の部材から構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明された墜落防止用安全器は、墜落防止用レールが敷設された高層建造物の高所作業において広く適用できる。
【符号の説明】
【0033】
10 墜落防止用安全器
12 墜落防止用レール
12A 昇降移動用レール
14 レール把持金具
16 レール取付金具
18 誤操作防止板
20 ストッパー
22 枠体
24 把持レバー
26 ロック機構
28 安全機構
30 溝
32 ローラ
34 安全ピン
36 挿通部
38 連結レバー
40 連結孔
42 軸孔
44 回転軸
46 連結孔
48 補助レバー
50 接続環
52 接続部材
54 把持部
56 把持爪
58 レバー用ばね
60 貫通部材
62 第一ロック部材
64 第二ロック部材
66 基端
68 先端
70 ロック位置維持部材
72 付勢部材(ロック解除用ばね)
74 連結部材
76 延伸領域
78 板状部材
80 軸孔
82 規制部材