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  • 特開-液封入式防振装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089249
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】液封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
F16F13/10 K
F16F13/10 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201483
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】増田 辰典
【テーマコード(参考)】
3J047
【Fターム(参考)】
3J047AA03
3J047AA15
3J047AB01
3J047CA01
3J047DA01
3J047FA02
(57)【要約】
【課題】切替弁を省スペース化できる液封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】液封入式防振装置は、第1液室と第2液室とを連通する第2オリフィスと、第2オリフィスの連通状態と遮断状態とを切り替える切替弁と、を備える。切替弁は、第1液室および第2液室にそれぞれ連なる開口部を設けて第2オリフィスの一部を形成する収容空間と、収容空間内に移動可能に収容され、開口部の周囲における収容空間の壁面に当接することで第2オリフィスを遮断状態にする弁体と、弁体から突出する弾性体製の複数の突起と、を備える。振動入力のない静置状態において、複数の突起により弁体と収容空間の壁面との間が離れ、第2オリフィスを連通状態にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1取付具および筒状の第2取付具と、
前記第1取付具と前記第2取付具とを連結する弾性体製の防振基体と、
前記第2取付具に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成する弾性体製のダイヤフラムと、
前記液室を第1液室と第2液室とに仕切る仕切体と、
前記第1液室と前記第2液室とをそれぞれ連通する第1オリフィス及び第2オリフィスと、
前記第2オリフィスの連通状態と遮断状態とを切り替える切替弁と、を備え、
前記切替弁は、
前記第1液室および前記第2液室にそれぞれ連なる開口部を設けて前記第2オリフィスの一部を形成する収容空間と、
前記収容空間内に移動可能に収容され、前記開口部の周囲における前記収容空間の壁面に当接することで前記第2オリフィスを遮断状態にする弁体と、
前記弁体から突出する弾性体製の複数の突起と、を備え、
振動入力のない静置状態において、複数の前記突起により前記弁体と前記収容空間の壁面との間が離れ、前記第2オリフィスを連通状態にすることを特徴とする液封入式防振装置。
【請求項2】
前記弁体は、前記突起と一体成形される弾性体であることを特徴とする請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記第1液室側の前記開口部と、前記第2液室側の前記開口部とが前記弁体を挟んだ両側で対向し、
前記第1液室側の前記開口部と前記第2液室側の前記開口部との対向方向に垂直な断面において前記収容空間の中央に前記弁体が位置するように、前記弁体に対して複数の前記突起が配置され前記収容空間の壁面に当たることを特徴とする請求項1又は2に記載の液封入式防振装置。
【請求項4】
前記収容空間は、球状に形成され、
前記弁体は、前記収容空間よりも内径が小さい球体であり、
複数の前記突起は、前記弁体から放射状に延びることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液封入式防振装置に関し、特に切替弁を省スペース化できる液封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の振動源を車体に支持する防振装置として、例えば特許文献1に開示される液封入式防振装置が知られている。特許文献1に開示される液封入式防振装置は、振動源側(エンジン側)に取り付けられる第1取付具と、車体側(支持側)に取り付けられる筒状の第2取付具と、第1取付具と第2取付具とを連結する防振基体と、を備える。さらに、この液封入式防振装置によれば、第2取付具に取り付けられたダイヤフラムと防振基体との間に液室が形成され、この液室が仕切体により第1液室と第2液室とに仕切られる。
【0003】
第1液室と第2液室とを第1オリフィス及び第2オリフィスが連通し、第2オリフィスの連通状態と遮断状態とが切替弁により切り替わる。この切替弁は、仕切体で挟んで保持した保持部から延びる一対の弁体同士が、大振幅振動の入力に伴い第1液室と第2液室とに生じる液圧差によって当接すると、第2オリフィスを遮断状態にする。一方、小振幅振動の入力に伴う液圧差では弁体同士が当接しないように、保持部に一体化される弁体の形状や剛性などが設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-060395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、弁体に一体化される保持部を仕切体で挟んで保持することにより、第1液室と第2液室との液圧差に応じて連通状態と遮断状態とを切り替え可能な切替弁が構成されているので、保持部を設ける分だけ切替弁の省スペース化が難しいという問題点がある。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、切替弁を省スペース化できる液封入式防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の液封入式防振装置は、第1取付具および筒状の第2取付具と、前記第1取付具と前記第2取付具とを連結する弾性体製の防振基体と、前記第2取付具に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成する弾性体製のダイヤフラムと、前記液室を第1液室と第2液室とに仕切る仕切体と、前記第1液室と前記第2液室とをそれぞれ連通する第1オリフィス及び第2オリフィスと、前記第2オリフィスの連通状態と遮断状態とを切り替える切替弁と、を備え、前記切替弁は、前記第1液室および前記第2液室にそれぞれ連なる開口部を設けて前記第2オリフィスの一部を形成する収容空間と、前記収容空間内に移動可能に収容され、前記開口部の周囲における前記収容空間の壁面に当接することで前記第2オリフィスを遮断状態にする弁体と、前記弁体から突出する弾性体製の複数の突起と、を備え、振動入力のない静置状態において、複数の前記突起により前記弁体と前記収容空間の壁面との間が離れ、前記第2オリフィスを連通状態にする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、第1液室および第2液室にそれぞれ連なる開口部を設けた収容空間が第2オリフィスの一部を形成し、その収容空間内に弁体が移動可能に収容される。振動入力のない静置状態において、この弁体から突出した弾性体製の複数の突起により弁体と収容空間の壁面との間が離れ、第2オリフィスが連通状態になる。液封入式防振装置への振動の入力により、液室の壁面の一部である防振基体が変形すると、第1液室と第2液室とに液圧差が生じ、液圧差に応じた液流動が第2オリフィスに生じる。この液圧差が大きければ、弾性体製の突起が変形し、開口部の周囲における収容空間の壁面(以下「弁座」と称す)に弁体が当接して切替弁が閉じ、第2オリフィスが遮断状態になる。
【0009】
一方、液圧差が小さければ、突起により弁体と弁座とを離した状態、即ち切替弁が開いた状態が維持され、第2オリフィスを連通状態に維持できる。以上のように構成される切替弁は、移動可能で自立可能な弁体によって第2オリフィスの連通状態と遮断状態と(切替弁の開閉)を切り替えることができる。そのため、弁体に一体化される保持部を仕切体などに挟んで保持する切替弁と比べ、切替弁を省スペース化できる。
【0010】
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、弁体は、突起と一体成形される弾性体である。これにより、請求項1の効果に加え、突起を設けた弁体を製造し易くできる。さらに、切替弁が閉じるときに弁体と弁座との間に突起が挟まれても、弁体が弾性変形することで、弁体および突起と弁座との間をシールし易くできる。
【0011】
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、第1液室側の開口部と、第2液室側の開口部とが弁体を挟んだ両側で対向する。第1液室側の開口部と第2液室側の開口部との対向方向に垂直な断面において収容空間の中央に弁体が位置するように、弁体に対して複数の突起が配置され収容空間の壁面に当たる。これにより、2つの開口部の対向方向に弁体が動き、対向方向に垂直な方向に弁体が殆ど動くことなく、液圧差に応じて切替弁が開閉される。よって、請求項1又は2の効果に加え、液圧差に応じて切替弁が開閉するタイミングを安定化できる。
【0012】
請求項4記載の液封入式防振装置によれば、弁体は、球状の収容空間よりも内径が小さい球体である。この弁体から複数の突起が放射状に延びるので、液圧差が小さい場合に弁体が弁座から離れた状態を簡易な構成で維持できる。さらに、このように切替弁が簡易な構成なので、弁体と弁座とが当接する液圧差の大きさを、突起の太さや長さ、本数などに応じて容易に調整できる。よって、請求項1から3のいずれかの効果に加え、開閉タイミング等の切替弁の設計を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態における液封入式防振装置の断面図である。
図2図1のII-II線における液封入式防振装置の断面図である。
図3】弁体および突起の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、一実施形態における液封入式防振装置10の断面図である。なお、図1には、液封入式防振装置10がエンジンを支持する前の状態(即ち、エンジンの重量が付加される前の状態)であって、液封入式防振装置10に振動が入力されていない静置状態を示している。また、以下の説明では、図1の紙面上側を液封入式防振装置10の上側などとして説明するが、この液封入式防振装置10の上下と、液封入式防振装置10が取り付けられる車両の上下とは必ずしも一致しない。
【0015】
液封入式防振装置10は、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントである。液封入式防振装置10は、振動源であるエンジン(図示せず)側に取り付けられる第1取付具11と、支持側の車体(図示せず)に取り付けられる筒状の第2取付具12と、第1取付具11と第2取付具12とを連結する弾性体から構成される防振基体13と、を主に備える。なお、図1の液封入式防振装置10の断面図は、筒状の第2取付具12の軸心Cを含む軸方向断面図である。
【0016】
第1取付具11は、第2取付具12の上方に位置するように第2取付具12の軸心C上に配置されたボス金具であり、鉄鋼やアルミニウム合金などの金属により形成される。第1取付具11の上端面にはボルト孔(図示せず)が形成されている。第1取付具11は、ボルト孔に取り付けられるボルト(図示せず)を介してエンジン側に取り付けられる。
【0017】
第2取付具12は、円筒状に形成された部材であり、主に鉄鋼などの金属により形成される。第2取付具12は、上端側の大径部12aと、大径部12aの下端に連なり下方へ向かって徐々に内外径が小さくなる縮径部12bと、縮径部12bの下端に連なり大径部12aよりも内外径が小さい小径部12cと、を備える。車体側に設けた筒状のブラケットに小径部12cを嵌め、そのブラケットで縮径部12bを下方から支持することによって、第2取付具12が車体側に取り付けられる。
【0018】
防振基体13は、略傘状に形成されるゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体製の部材である。防振基体13は、第1取付具11の下部と、大径部12a及び縮径部12bの内周面とにそれぞれ加硫接着され、これらを連結する。防振基体13の下端部には、小径部12cの内周面を覆うゴム膜状のシール壁部14が連なる。このシール壁部14は第2取付具12の一部である。
【0019】
第2取付具12には、小径部12cの下端開口部を塞ぐようにダイヤフラム15が取付部16を介して取り付けられる。ダイヤフラム15は、ゴム等の弾性体製の膜である。取付部16は、鉄鋼などの金属製の環状部材である。取付部16の内周部に全周に亘ってダイヤフラム15の外周部が加硫接着される。
【0020】
防振基体13、第2取付具12及びダイヤフラム15により区画される密閉空間によって液室が形成される。液室には、エチレングリコール等の不凍性の液体(図示せず)が封入される。液室は、仕切体20により、防振基体13が室壁の一部を構成する第1液室17と、ダイヤフラム15が室壁の一部を構成する第2液室18とに仕切られる。
【0021】
なお、ダイヤフラム15及び仕切体20を第2取付具12に取り付けるには、まず、シール壁部14の上端から径方向内側へ段差状に張り出す防振基体13の段差13aに当たるまで、第2取付具12の小径部12cに仕切体20を挿入する。次いで、ダイヤフラム15が一体化された取付部16を小径部12cに挿入した後、小径部12cを絞り加工により縮径させて、仕切体20及び取付部16の外周部をシール壁部14で保持する。これにより、ダイヤフラム15及び仕切体20が第2取付具12に取り付けられる。
【0022】
仕切体20は、上端部が段差13aに接触してシール壁部14の内側に保持される筒部材21と、筒部材21の内周側を上下に仕切る平板状の仕切部材24,25と、仕切部材24,25の一部に設けられる切替弁30と、を備える。第1液室17に面する仕切部材24と、第2液室18に面する仕切部材25とは、互いに上下に重ねられて溶着や接着により接合される。
【0023】
筒部材21は、金属や合成樹脂製の円筒状の部材である。筒部材21は、仕切部材24,25に一体成形されており、仕切部材24,25と同様に上下の部材を合わせて形成されている。筒部材21の外周面は、全周に亘りシール壁部14を介して第2取付具12の小径部12cに押し付けられる。
【0024】
筒部材21の外周面には略2周の長さの外周溝22が形成される。この外周溝22とシール壁部14との間によって第1オリフィス19が形成される。外周溝22の一端が、段差13aよりも径方向内側で筒部材21の上端に開口することで、第1オリフィス19が第1液室17に連通する。外周溝22の他端が、ダイヤフラム15との接触位置よりも径方向内側で筒部材21の下端に開口することで、第1オリフィス19が第2液室18に連通する。
【0025】
このように、第1オリフィス19は、第1液室17と第2液室18とを連通する流路である。第1オリフィス19は、例えば車両走行時のシェイク振動を減衰するため、大振幅のシェイク振動の入力時にシェイク振動に対応した周波数帯(例えば5~15Hz程度)で減衰係数が大きくなるよう、第1オリフィス19の流路断面積、長さ、断面周長などが設定される。
【0026】
図1に加え、図2及び図3を参照して切替弁30について説明する。図2図1のII-II線における液封入式防振装置10の断面図であって、切替弁30を拡大して示した部分拡大断面図である。図3は弁体38及び突起39の斜視図である。
【0027】
切替弁30は、仕切部材24,25の中央よりも外周側へ寄った位置に配置される。切替弁30は、外周縁が仕切部材24に連なり仕切部材24から上方へ膨らんだ半球状のドーム部31と、外周縁が仕切部材25に連なり仕切部材25から下方へ膨らんだ半球状のドーム部32と、ドーム部31,32の内部の壁面によって形成される球状の収容空間35に収容される弁体38と、弁体38から突出する複数の突起39と、を備える。
【0028】
上下に接合する前の仕切部材24,25のドーム部31,32の間に、突起39を挟み込まないよう弁体38を入れてから、仕切部材24,25を上下に重ねて接合することで、切替弁30を設けた仕切体20が形成される。
【0029】
図1及び図2に示すように、ドーム部31には、収容空間35及び第1液室17それぞれに開口する開口部33が頂点部分に貫通形成される。この開口部33による流路36によって収容空間35と第1液室17とが連通する。同様に、ドーム部32には、収容空間35及び第2液室18それぞれに開口する開口部34が頂点部分に貫通形成される。この開口部34による流路37によって収容空間35と第2液室18とが連通する。この開口部33,34(流路36,37)は、弁体38を挟んで上下に対向する。
【0030】
これらの収容空間35及び流路36,37によって、第1液室17と第2液室18とを連通する第2オリフィスが形成される。この第2オリフィスは、例えばアイドル時(車両停止時)のアイドル振動を低減するため、小振幅のアイドル振動の入力時にアイドル振動に対応した周波数帯(例えば15~50Hz程度)で減衰係数が大きくなるよう、第2オリフィス(特に流路36,37)の流路断面積、長さ、断面周長などが設定される。
【0031】
切替弁30は、この第2オリフィスの連通状態と遮断状態とを切り替えるものである。小振幅のアイドル振動時に切替弁30を開けて第2オリフィスを連通状態にすることで、そのアイドル振動を第2オリフィスで低減できる。一方、大振幅のシェイク振動時に切替弁30を閉めて第2オリフィスを遮断状態にすることで、液体が第1オリフィス19を通り、第1オリフィス19による防振効果を有効に発揮できる。
【0032】
弁体38は、流路36,37を塞いで切替弁30を閉じ第2オリフィスを遮断状態にするための弾性体製の球体である。弁体38の直径D1が球状の収容空間35の直径D2よりも小さいので、収容空間35内で弁体38を移動させることができる。また、弁体38の直径D1は、流路36,37(開口部33,34)の直径D3よりも小さいので、開口部33,34まわりの収容空間35の壁面(以下「弁座31a,32a」と称す)に弁体38を当接させ、流路36,37を塞ぐことができる。
【0033】
また、弁体38の直径D1が流路36,37の直径D3よりも小さいので、収容空間35内で動く弁体38を流路36,37から第1液室17や第2液室18へ放出され難くできる。なお、直径D1が直径D3の1.1倍以上であることが好ましい。弁体38を構成する弾性体の硬さにもよるが、直径D1が直径D3の1.1倍以上であれば、弁体38を流路36,37から十分に放出され難くできる。
【0034】
図1から図3に示すように、複数の突起39は、弁体38から放射状に延びるように分散配置された棒状の弾性体製の部位であり、弁体38と一体成形されている。これにより、突起39を設けた弁体38を製造し易くできる。突起39の長さL1は、突起39の太さ(直径)D4の2倍以上に設定される。また、突起39の長さL1は、弁体38の直径D1と収容空間35の直径D2との差と略同一に設定される。これにより、突起39の先端が収容空間35の壁面に接触する。
【0035】
本実施形態では、複数の突起39が14本設けられている。具体的に、弁体38の中心を通って互いに直交するX軸、Y軸、Z軸上であって弁体38の両側にそれぞれ計6本の突起39が位置する。さらに、XY平面において、X軸上の2本の突起39とY軸上の2本の突起39の中間地点のそれぞれに計4本の突起39が位置する。また、XZ平面において、X軸上の2本の突起39とZ軸上の2本の突起39の中間地点のそれぞれに計4本の突起39が位置する。
【0036】
このように複数の突起39が弁体38のまわりに分散配置されるので、振動入力のない静置状態では、弁体38と、弁座31a,32aを含む収容空間35の壁面との間が突起39により離れる。これにより、切替弁30が開き、第2オリフィス(収容空間35及び流路36,37)が連通状態になる。特に、収容空間35が球状であって弁体38が球体である場合、X軸、Y軸、Z軸上に計6本の突起39があれば、弁体38と弁座31a,32aとの間を確実に離すことができ、第2オリフィスの連通状態を確実に維持できる。
【0037】
液封入式防振装置10に振動入力があると、防振基体13の変形に伴って第1液室17が収縮または膨張し、第1液室17と第2液室18とに液圧差が生じる。この液圧差に応じた液流動が第2オリフィスに生じ、液流動に伴う圧力が弁体38に作用する。液圧差が大きければ、弾性体製の突起39が変形し、弁座31a,32aに弁体38が当接して切替弁30が閉じる。これにより、第2オリフィスが遮断状態になる。なお、第1液室17から第2液室18への液流動では弁体38が弁座32aに当接し、第2液室18から第1液室17への液流動では弁体38が弁座31aに当接する。
【0038】
一方、液圧差が小さければ、静置状態と同様に、突起39により弁体38と弁座31a,32aとを離した状態、即ち切替弁30が開いた状態が維持され、第2オリフィスを連通状態に維持できる。以上のように構成される切替弁30は、移動可能で自立可能な弁体38によって第2オリフィスの連通状態と遮断状態と(切替弁30の開閉)を切り替えることができるので、弁体に一体化される保持部を仕切体などに挟んで保持する従来の切替弁と比べ、切替弁30を省スペース化できる。
【0039】
突起39が弾性体から構成されるため、大きな液圧差により切替弁30が閉じるときには、突起39が弾性変形しながら弁体38が弁座31a,32aに当接する。そのため、これらの当接時の衝撃を突起39の弾性変形によって緩和できる。
【0040】
特に、弁体38と収容空間35の壁面との間に、開口部33,34(流路36,37)の対向方向であって弁体38の移動方向である上下方向に突起39が挟まれる場合には、切替弁30が閉じるときに、突起39が潰れながら弁体38が上下に移動して弁座31a,32aに当接する。これにより、弁体38と弁座31a,32aとの当接時の衝撃を突起39の潰れによって一層緩和できる。
【0041】
なお、本実施形態では、互いに直交する2面(本実施形態ではXY平面およびXZ平面)にそれぞれ等間隔に8本の突起39がある。これにより、弁体38が収容空間35内で回転したとしても、弁体38と収容空間35の壁面との間に突起39を上下方向に確実に挟むことができる。よって、弁体38と弁座31a,32aとの当接時の衝撃を突起39の潰れにより確実に緩和できる。
【0042】
弁体38が弾性体なので、切替弁30が閉じるときに弁体38と弁座31a,32aとの間に突起39が挟まれても、弁体38の弾性変形によって突起39のまわりの弁座31a,32aに弁体38を密着させ易くできる。これにより、弁体38及び突起39と弁座31a,32aとの間をシールし易くできる。
【0043】
大きな液圧差によって弁体38と弁座31a,32aとが当接した後でも、弁体38が当接した弁座31a,32aとは反対側へ突出する突起39や、流路36,37内の突起39の変形が許容される。第1液室17と第2液室18との液圧差に応じた液流動によって、これらの突起39が変形することで、仕切体20への伝達エネルギーを緩和でき、液封入式防振装置10による緩衝性能を向上できる。
【0044】
球状の収容空間35に対し、球体である弁体38から複数の突起39が放射状に延びるので、上述した静置状態と同様に、液圧差が小さい場合においても、弁体38が弁座31a,32aから離れた状態を簡易な構成で維持できる。さらに、このように切替弁30が簡易な構成なので、弁体38と弁座31a,32aとが当接する液圧差の大きさを、突起39の太さD4や長さL1、本数などに応じて容易に調整できる。よって、開閉タイミング等の切替弁30の設計を容易にできる。
【0045】
なお、突起39を構成する弾性体の硬さにもよるが、突起39の長さL1を突起39の太さD4の2倍以上にすることで、シェイク振動時に切替弁30が閉じ、アイドル振動時に切替弁30が開くように、突起39の剛性を調整できる。これにより、シェイク振動に合わせてチューニングした第1オリフィス19による防振効果と、アイドル振動に合わせてチューニングした第2オリフィスの防振効果とを有効に発揮できる。
【0046】
収容空間35が球状であって弁体38が球体であり、X軸、Y軸、Z軸上に計6本の突起39があるので、これらの突起39の先端が収容空間35の壁面に当たると、開口部33,34の対向方向に垂直な断面において、収容空間35の中央に弁体38を位置させることができる。特に、突起39の長さL1が、弁体38の直径D1と収容空間35の直径D2との差と略同一に設定されているので、弁体38の両側の突起39が収容空間35の壁面に当たり、収容空間35の中央に弁体38が位置する状態を維持し易くできる。さらに、突起39の長さL1を、弁体38の直径D1と収容空間35の直径D2との差よりも若干大きくすることで、突起39が長さ方向に圧縮され、収容空間35の中央に弁体38が位置する状態をより維持し易くできる。
【0047】
このように、収容空間35の中央に弁体38を位置させることで、開口部33,34の対向方向に弁体38が動き、対向方向に垂直な方向に弁体38が殆ど動くことなく、液圧差に応じて切替弁30が開閉される。よって、液圧差に応じて切替弁30が開閉するタイミングを安定化できる。
【0048】
弁体38及び突起39が収容されることで切替弁30を形成する収容空間35は、仕切部材24,25から上下にそれぞれ膨らんだ半球状のドーム部31,32によって形成される。これにより、ドーム部31,32(切替弁30)の周囲をそれぞれ第1液室17及び第2液室18にでき、液封入式防振装置10における切替弁30のスペースをより小さくできる。
【0049】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。第1取付具11や第2取付具12、防振基体13、仕切体20等の各部の形状や寸法などを適宜変更しても良い。また、第1オリフィス19や第2オリフィス(収容空間35及び流路36,37)の形成位置や長さ等を適宜変更しても良い。例えば、切替弁30及び第2オリフィスを軸心C上に設けても良い。
【0050】
上記形態では、液封入式防振装置10を、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントとして用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ボディマウント、デフマウント等、種々の防振装置に液封入式防振装置10を適用しても良い。また、第1取付具11を車体側に取り付け、第2取付具12を振動源側に取り付けても良い。
【0051】
上記形態では、収容空間35が球状であり、弁体38が球体であり、複数の棒状の突起39が放射状に延びる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、収容空間35を円柱状にし、弁体38を円板状にしても良い。また、直径D2が略一定の球状の収容空間35に対し、弁座31a,32a付近のみを上下に離したり近づけたりして、液圧差に応じた切替弁30の開閉タイミングを調整しても良い。
【0052】
静置状態において、弁体38と弁座31a,32aとを突起39によって離すことができれば、弁体38の形状に応じて複数の突起39の本数や配置を適宜変更しても良い。球体である弁体38まわりに複数の突起39をらせん状に配置しても良く、球体である弁体38表面の接線上に複数の突起39を配置しても良い。棒状の突起39をカーブさせても良く、突起39を円錐状やらせん状に形成しても良い。
【0053】
上記形態では、弁体38と突起39とが弾性体により一体成形されている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。弁体38と突起39とを別々の弾性体で形成しても良い。また、弁体38を金属や合成樹脂などで形成しても良い。
【符号の説明】
【0054】
10 液封入式防振装置
11 第1取付具
12 第2取付具
13 防振基体
15 ダイヤフラム
17 第1液室
18 第2液室
19 第1オリフィス
20 仕切体
30 切替弁
33,34 開口部
35 収容空間(第2オリフィスの一部)
36,37 流路(第2オリフィスの一部)
38 弁体
39 突起
図1
図2
図3