(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089264
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】金属製屋根部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04D 1/00 20060101AFI20220609BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
E04D1/00 B
B21D5/01 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201526
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA01
4E063BA01
4E063CA04
4E063MA12
(57)【要約】
【課題】段差部が明瞭で意匠性に優れ、かつ、段差部成形時の割れを抑制できる金属製屋根部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る金属製屋根部材1は、平板部3と段差部5を有し、段差部5の延在方向が屋根の傾斜方向と直交する方向となるように屋根に設置されるものであって、段差部5は、設置状態で傾斜方向上側が高く下側が低く、軒高さより上方から見て所定の蛇行幅及び蛇行ピッチで蛇行する形状であることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板部と段差部を有し、前記段差部の延在方向が屋根の傾斜方向と直交する方向となるように屋根に設置される金属製屋根部材であって、
前記段差部は、設置状態で傾斜方向上側が高く下側が低く、軒高さより上方から見て所定の蛇行幅及び蛇行ピッチで蛇行する形状であることを特徴とする金属製屋根部材。
【請求項2】
前記段差部における前記蛇行幅が20mm以上100mm以下、前記蛇行ピッチが50mm以上300mm以下、高さが10mm以上30mm以下であることを特徴とする請求項1記載の金属製屋根部材。
【請求項3】
請求項1に記載の金属製屋根部材を製造する金属製屋根部材の製造方法であって、
平坦な金属板に、段差部を形成する段差部形成工程を備え、
該段差部形成工程は、前記段差部の上段側となる部位に配置されて上段側上金型及び段差成形面部を有する上段側下金型からなる上段側金型と、前記段差部の下段側となる部位に配置されて段差成形面部を有する下段側上金型及び下段側下金型からなる下段側金型とを用いて、
金属板における段差部の上段側となる部位を前記上段側金型によってクランプすると共に、前記金属板における段差部の下段側となる部位を前記下段側金型によってクランプした状態で、
前記上段側金型を上に前記下段側金型を下に相対移動させることで、上段側下金型及び下段側上金型に設けられた段差成形面部によって前記段差部を形成することを特徴とする金属製屋根部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製屋根部材に関し、特に、瓦屋根に類似する外観とするための段差部が設けられた金属製屋根部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の屋根には、樹脂塗装しためっき鋼板に波形状の加工を施した波板めっき鋼板が安価で軽量な素材として広く用いられている。
従来、波板めっき鋼板は約30mmピッチの波を有し、その用途は主に倉庫や工場、店舗などの建物で外観の意匠デザインを重要視しないものがほとんどであった。しかし最近ではめっきや塗装樹脂の改善により耐候性が格段に向上し、それに伴って100mm以上のピッチの波を有する波板めっき鋼板の用途が拡大しつつある。
【0003】
一方で、一般住宅では倉庫や工場、店舗などの建物に較べて高級感のある意匠性が要求されており、瓦等の高級感のある屋根部材が用いられている。そのため、意匠デザインを重要視しない上記波板めっき鋼板の住宅への使用は限定的であった。
【0004】
しかしながら、瓦屋根は施工技能者の熟練を要し、施工に工数がかかる。そこで、瓦の代替品として、前述した波板めっき鋼板に段差部を付与したことで瓦屋根のような外観を呈する金属製屋根部材21(
図7参照)が開発されている。
図7に示したものは、山と谷が連続する断面波形状(波長L、波高H)の波板に段差部23を設けたものであって、山の稜線と谷の谷線方向が屋根傾斜方向に平行になるように設置されるものである。
【0005】
このように金属板を加工して瓦屋根のような外観にしたものは、「金属製長尺成形瓦」とも呼ばれており、従来の瓦に較べて扱いやすく、安価で軽量という利点がある。また、金属製長尺成形瓦を屋根に施工することで繰り返し形状が瓦屋根に似た高級感のある外観を呈するので、一般住宅の屋根の用途へ広く適用が拡大した。
【0006】
上記のような段差部23を有する金属製屋根部材21(金属製長尺成形瓦)の例が、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されている。
特許文献1の第1図には、「金属板1の幅方向に山部2を一定間隔に5本平行に形成し、・・・(中略)・・・これらを金属板1の長手方向で多数段に例えば6段に金属板の断面形状に沿った平面形状の屈曲4により段差を付した」([従来の技術]参照)「金属製波形長尺瓦」が示されている。
また、特許文献2の
図7には、「屋根の斜面方向に単位形状(山)が5個連なった」([0052]参照)「金属成形瓦」が示されている。
【0007】
上述したような段差部を有する金属製屋根部材の成形方法は、例えば、
図7に示した金属製屋根部材21の場合、下記のように行われる。
まず、平板素材をロール工具の間を通過させながら徐々に目的の断面形状にするロールフォーミングと呼ばれる加工によって波板を成形する。ロールフォーミングでは、複数段のロール工具を組み合わせて構成された一連のロール工具セットに、平板素材を順に通過させることで断面波形状を有する波板が成形される。
【0008】
ロールフォーミングによって成形された波板に対し、波板の波形状に交差するように段差部23をプレス加工することで、金属製屋根部材21が成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2-104853号公報
【特許文献2】特開平11-62116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、金属製長尺成形瓦の製造には、波板成形に用いる「ロールフォーミング」と段差部成形に用いる「プレス加工」の異なる工法を用いるため、必要とする設備も多く、工程も複数に分けて行う必要がある。そのため、設備および製造工数における負担を低減させたいという要求があった。
【0011】
また、波板に対して波形状に交差するような段差部23を形成する場合、素材や寸法サイズ、加工条件によっては割れを生じることがある。この点について、
図8~
図10を用いて説明する。なお、
図8~
図10において、屋根傾斜方向における段差部23から棟側を上段波板部25、段差部23から軒側を下段波板部27という。
【0012】
図8(a)は、
図7に示した金属製屋根部材21の一部を拡大した斜視図であり、
図8(b)は、
図8(a)を山の稜線方向(y方向)に対して直交する上方(
図8(a)の目視方向(z方向))から見た(以下上面視ともいう)図である。
図8(b)において、波形状の最上部分における山の稜線を一点鎖線、最下部分における谷の谷線を破線で示す。
【0013】
波板に段差部23を加工する場合、上段側となる部位を一対の上段側金型でクランプし、さらに、下段側となる部位を一対の下段側金型でクランプした状態で、上段側金型と下段側金型を相対移動させることで段差部23が形成される。
段差部23の上面視における形状は、
図8(b)に示すように、山の稜線方向(y方向)に直交する方向(x方向)に直線状に延在するような形状となっている。
【0014】
上記段差部23の形成時において、山の最上部分における上段波板部25と段差部23をつなぐ屈曲部分(
図8のc部)と、谷の最下部分における下段波板部27と段差部23をつなぐ屈曲部分(
図8のd部)で特に板厚減少が生じ、割れが発生しやすいという課題があった。
この点について、
図9を用いて以下に説明する。
【0015】
図9は
図8(b)のc部周辺の部分拡大図であり、上凸張り出し形状となる部分である。
【0016】
図9に示すように、c部は山の稜線(一点鎖線参照)上でかつ段差部の上段側であり、その周辺では段差加工の過程で、特に段差部23の傾斜方向を主として、矢印のようにc部から集中して材料が流れるため、c部での板厚減少は大きくなる。このように板厚減少が大きくなる機構はd部でも同様である。
上記のように、従来の金属製屋根部材21では、段差加工においてc部、d部は張出しの頂点になるため、集中して板厚減少して割れが生じる危険部位である。
【0017】
一方で、波板に段差部23を追加加工する目的は、瓦屋根に類似する高級感のある意匠デザインとすることである。意匠性の観点では段差部23を視覚的に認識しやすくするのが好ましい。そのためには段差部23をより急峻な形状にする必要がある。以下、
図10を用いて、段差部23の形状を具体的に説明する。
【0018】
図10は、
図8(a)におけるB-B断面図であり、段差部23の断面形状を示したものである。
段差部をより明瞭な外観にするには、
図10に示した段差部23の高さhを大きく、傾斜角θを大きく、肩Rを小さくすればよい。しかしながら、高さhを大きく、傾斜角θを大きく、肩Rを小さくすることは、段差加工におけるc部、d部での上述した板厚減少がより大きく生じて割れが発生しやすい。
したがって、高級感の観点で好ましい意匠デザインを指向すると、前述した段差加工での板厚減少がより大きくなり、割れを生じる危険性が高くなるという問題があった。
【0019】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、意匠性に優れ、かつ、段差部成形時の割れを抑制できる金属製屋根部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)本発明に係る金属製屋根部材は、平板部と段差部を有し、前記段差部の延在方向が屋根の傾斜方向と直交する方向となるように屋根に設置されるものであって、前記段差部は、設置状態で傾斜方向上側が高く下側が低く、軒高さより上方から見て所定の蛇行幅及び蛇行ピッチで蛇行する形状であることを特徴とするものである。
【0021】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記段差部における前記蛇行幅が20mm以上100mm以下、前記蛇行ピッチが50mm以上300mm以下、高さが10mm以上30mm以下であることを特徴とするものである。
【0022】
(3)また、本発明に係る金属製屋根部材の製造方法は、上記(1)に記載の金属製屋根部材を製造するものであって、平坦な金属板に、段差部を形成する段差部形成工程を備え、該段差部形成工程は、前記段差部の上段側となる部位に配置されて、上段側上金型及び段差成形面部を有する上段側下金型からなる上段側金型と、前記段差部の下段側となる部位に配置されて、段差成形面部を有する下段側上金型及び下段側下金型からなる下段側金型とを用いて、金属板における段差部の上段側となる部位を前記上段側金型によってクランプすると共に、前記金属板における段差部の下段側となる部位を前記下段側金型によってクランプした状態で、前記上段側金型を上に前記下段側金型を下に相対移動させることで、上段側下金型及び下段側上金型に設けられた段差成形面部によって前記段差部を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、平板部に直交する上方から見て所定の蛇行幅及び蛇行ピッチで蛇行する形状の段差部を備えたことにより、意匠性に優れると共に、製造過程における板厚減少を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施の形態1にかかる金属製屋根部材を説明する説明図であり、
図1(a)は、金属製屋根部材(一部)の斜視図、
図1(b)は
図1(a)に示した金属製屋根部材を上面視した図である。
【
図2】
図1(b)のa部の部分拡大図であり、a部における材料流れを説明する説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態2にかかる金属製屋根部材の製造方法を説明する説明図である。
【
図4】本発明の実施の形態2にかかる金型の形状を説明する説明図であり、
図4(a)は
図3(a)のC-C断面図、
図4(b)は
図3(a)のD-D断面図である。
【
図5】本発明の実施例1にかかる屋根の設置状態及び目視方向の例を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の実施例1にかかる比較例、発明例及び従来例の金属製屋根部材を示す図である。
【
図7】従来の金属製屋根部材の例を示す斜視図である。
【
図8】従来の金属製屋根部材における課題を説明する説明図であり、
図8(a)は、
図7の一部を拡大した斜視図、
図8(b)は
図8(a)に示した金属製屋根部材を上面視した図である。
【
図9】
図8(b)のc部(上凸張り出し形状の部分)の部分拡大図であり、c部における材料流れを説明する説明図である。
【
図10】
図8のB-B断面図であり、段差部の屋根傾斜方向の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る金属製屋根部材1は、
図1に示すとおり平板部3と段差部5を有し、段差部5の延在方向が屋根の傾斜方向と直交するように屋根に設置されるものであり、段差部5は、設置状態で傾斜方向上側が高く下側が低く、軒高さより上方から見て所定の蛇行幅及び蛇行ピッチで蛇行する形状となっている。また、段差部5は屋根の傾斜方向に例えば15cm~60cmピッチで複数段設けられる。
このような金属製屋根部材1について、以下、具体的に説明する。
【0026】
図1は、金属製屋根部材1の一部を示したものであり、
図1(a)は斜視図、
図1(b)は
図1(a)を上面視した図である。
図1において、屋根傾斜方向における段差部5から棟側の平板部3を上段平板部3a、段差部5から軒側の平板部3を下段平板部3bという。
【0027】
従来の金属製屋根部材21(
図8参照)は、波板に段差部23を設けたものであったが、本実施の形態の金属製屋根部材1は
図1(a)に示すように、平板に段差部5を設けている。
図1の段差部5及び
図8の段差部23は、屋根傾斜方向(y方向)の断面における断面形状(高さh、傾斜角θ、肩R(
図10参照))が同じである。
【0028】
また、従来の金属製屋根部材21は、上面視における段差部23の形状が直線状になっているのに対し(
図8(b)参照)、本実施の形態の金属製屋根部材1は、
図1(b)に示すように、上面視における段差部5の形状が所定の蛇行幅w及び蛇行ピッチpで蛇行する形状(以下、「蛇行形状」という場合あり)となっている。
【0029】
段差部5の形状を上記のようにすることで、段差部5が平板に設けたものであるにもかかわらずその外観が、従来の波板に設けた段差部23の外観と類似して、従来例と同様の高級感のある意匠性を呈することができる。
また、本実施の形態では、ロールフォーミングによって波板を成形する必要がないので、従来例に較べて製造工程を簡略化することができ、設備も少なくすることができる。
さらに、本実施の形態の金属製屋根部材1は、従来例に較べて段差加工時の板厚減少を緩和することができる。板厚減少が緩和される理由について、
図2を用いて以下に説明する。
【0030】
図2は
図1(b)のa部周辺の部分拡大図であり、外観上
図8のc部に相当する部分である。
【0031】
図9に示したように、従来の金属製屋根部材21のc部は、波板の山の最上部分であるので張り出し成形となり、段差部23の加工時に山の最上部から両隣の谷方向(図中左向き・右向き矢印参照)へ材料流れが生じる。また、c部は、上段波板部25と段差部23をつなぐ部分でもあるので、上段波板部25から下段波板部27方向(図中下向き矢印参照)へも材料が流れることとなり、材料流出が集中して板厚減少が生じやすい部分であった。
【0032】
一方、本実施の形態の金属製屋根部材1のa部は、上段平板部3aが平坦な形状であるので、
図2に示すように従来例のような波形状の山の最上部分から谷方向の材料流れが生じず、c部よりも板厚減少が生じにくい。
【0033】
なお、本実施の形態における金属製屋根部材1のような金属製長尺成形瓦は、あえて瓦屋根にはない独特な意匠デザインが求められることもあるが、瓦屋根により近い外観とする場合には、例えば蛇行ピッチp(
図1参照)を50mm以上300mm以下、高さh(
図1、
図10参照)を10mm以上30mm以下に設定するとよい。その理由は以下のとおりである。
【0034】
瓦屋根は、湾曲している個々の瓦が屋根傾斜方向と直交する方向に並んでいるので、湾曲形状が連続して波形状のように見える。
本実施の形態における段差部5の蛇行ピッチpが、上記連続する湾曲形状のピッチ、即ち個々の瓦の幅に相当するので、例えば、蛇行ピッチpを50mm以上300mm以下とすることで、上記瓦屋根の形状に近い外観が得られて好ましい。
また、段差部5の高さhが瓦の厚みに相当する部分であるので、高さhを10mm以上30mm以下とすることで、瓦の厚みに近い外観が得られて好ましい。
なお、段差部5の蛇行幅w(
図1参照)は上面視で(平板部3に対して直交する上方から見て)20mm以上100mm以下に設定するのが好ましい。この理由については後述の実施例で説明する。
【0035】
以上のように、本実施の形態においては、平板を素材として上面視形状が蛇行形状となっている段差部5を設けたことで、段差部5の成形時の割れを抑制しつつ、意匠性に優れた高級感のある外観を呈する。
【0036】
[実施の形態2]
本実施の形態では、実施の形態1で説明した金属製屋根部材1を製造する製造方法について説明する。本実施の形態における金属製屋根部材1の製造方法は、平坦な金属板に段差部5を形成する段差部形成工程を備えている。
【0037】
段差部形成工程は、
図3、
図4に示すように、平板状の金属板7における段差部5の上段側となる部位に配置される上段側金型9と、段差部5の下段側となる部位に配置される下段側金型11とを用いる。
図3は、
図1(a)に示した金属製屋根部材1のA-A断面に相当する部分の成形過程を示す図である。
図4(a)は、
図3(a)のC-C断面図、
図4(b)は、
図3(a)のD-D断面図である。
図4において、金型の形状を分かりやすくするため金属板の図示を省略している。
各金型について、以下に具体的に説明する。
【0038】
上段側金型9は、段差部5の上段側となる部位の上方に配置される上段側上金型13と下方に配置される上段側下金型15からなり、上段側上金型13と上段側下金型15は、
図3(a)に示すように、金属板7をクランプするクランプ面部13a、15aを有している。
【0039】
下段側金型11は、段差部5の下段側となる部位の上方に配置される下段側上金型17と下方に配置される下段側下金型19からなり、下段側上金型17と下段側下金型19は、上段側上金型13及び上段側下金型15と同様に、金属板7をクランプするクランプ面部17a、19aを有している。
【0040】
また、下段側上金型17は、
図4(b)に示すように、実施の形態1で説明した段差部5に対応した形状の段差成形面部17bを有している。同様に、上段側下金型15も段差部5に対応した形状の段差成形面部15bを有している。上段側上金型13及び下段側下金型19においても、それぞれ段差成形面部15b、17bに対応する形状の面を有しており、各金型を所定の位置に配置したとき、上段側金型9及び下段側金型11を上面視すると、その隙間は
図4(b)に示すように、蛇行する形状となっている。
上段側金型9及び下段側金型11はこの状態でそれぞれ金属板7をクランプするとともに、金属板7の板面に対して垂直方向に相対移動できる。
【0041】
次に、上記のような上段側金型9及び下段側金型11を用いて段差部5を形成する方法について
図3を用いて説明する。
まず、金属板7における段差部5の上段側となる部位を、上段側金型9のクランプ面部13a、15aによってクランプすると共に、金属板7における段差部5の下段側となる部位を、下段側金型11のクランプ面部17a、19aによってクランプする(
図3(a)参照)。
【0042】
上記のように上段側金型9及び下段側金型11で金属板7をクランプした状態で、上段側金型9を上方向に下段側金型11を下方向に相対移動させる(
図3(b)参照)。
【0043】
さらに上段側金型9と下段側金型11を移動させて、段差部5の高さhに相当する距離を相対移動させることで、上段側下金型15の段差成形面部15bと下段側上金型17の段差成形面部17bの間の隙間に段差部5が形成される(
図3(c)参照)。
【0044】
以上の製造方法により、実施の形態1で説明した上面視の形状が所定の蛇行幅及び蛇行ピッチで蛇行する形状である段差部5を有する金属製屋根部材1を製造することができる。
【実施例0045】
本発明においては、段差部の外観が重要な観点であるので、実施例の説明に先立ち、一般的な日本の住宅の屋根の設置例とその見え方について説明する。
住宅の屋根は水平から急勾配な屋根まで様々な形状があるが、一般的な日本の住宅の屋根の多くは4寸~6寸勾配(水平方向:垂直方向=10:xの傾斜をx寸勾配と呼ぶ)であり、水平方向からの傾斜角に換算すると概ね22~31度である。
図5に5寸勾配(傾斜角26.6度)の屋根の一例を模式的に示す。
【0046】
図5に示すように、屋根は地面に立つ人の視線よりも高い位置に設置されるため、建物の近くの視線(a)からはその上面の外観を見ることはできない。また、建物から遠く離れた視線(b)からは、屋根の上面を見ることはできるが、屋根から距離があるため意匠の詳細までは認識しにくい。
一方、例えば近隣の高い建物から見下ろす場合に相当する視線(c)のように、屋根を斜め45度上方から眺める場合、屋根の意匠が詳細に認識されやすい。
したがって、屋根部材の意匠外観は、視線(c)のように軒より高い上方から見下ろす場合において、特に住宅の高級感に強く影響する重要な要素である。
【0047】
上記の点を踏まえて、本発明の金属製屋根部材の効果を確認する実験を行ったので、その結果を以下に説明する。
本実施例では、板厚0.3mmの樹脂塗装を施したAlZnメッキ鋼板を素材として種々の金属製長尺成形瓦を成形して比較した。
【0048】
比較例として、平板状の上記素材に上面視形状が直線の段差部23形成した金属製屋根部材29を成形した。比較例の斜視図を
図6(a-1)に示し、
図6(a-1)の一部を上面視した図を
図6(a-2)に示す。なお
図6(a-1)の斜視図は、
図5で説明した5寸勾配(傾斜角26.6度)の屋根を視線(c)(斜め45度上方からの視線)から見た場合に相当するものであり、以降の斜視図も同様である。
【0049】
発明例1として、平板状の上記素材に上面視形状が蛇行形状(蛇行ピッチp=140mm、蛇行幅w=10mm)の段差部5を形成した金属製屋根部材1を成形した。発明例1の斜視図を
図6(b-1)に示し、
図6(b-1)の一部を上面視した図を
図6(b-2)に示す。
【0050】
また、発明例2、3として、発明例1の段差部5を蛇行ピッチpが同じで蛇行幅wのみ20mm又は30mmに変更して成形した。発明例2、3の斜視図を
図6(c-1)、
図6(d-1)に示し、
図6(c-1)、
図6(d-1)の一部を上面視した図をそれぞれ
図6(c-2)、
図6(d-2)に示す。
【0051】
従来例1として、波板状(波長L=140mm、波高H=30mm)の上記素材に上面視形状が直線の段差部23を形成した金属製屋根部材21を成形した。従来例1の斜視図を
図6(e-1)に示し、
図6(e-1)の一部を上面視した図を
図6(e-2)に示す。
なお、上記発明例1~3の段差部5と、比較例及び従来例1の段差部23は、断面形状(
図10参照)を同じ(高さh=15mm、傾斜角θ=70度、肩R=5mmR)にしている。
【0052】
表1に、上記比較例、発明例及び従来例における段差部5、23の形状寸法と、段差加工した後の板厚減少率の測定結果を併せて示す。
板厚減少率は、比較例では、段差部23の上端及び下端のそれぞれ10ヶ所の板厚を測定し、発明例では
図1のa部とb部のそれぞれ10ヶ所の板厚を測定して平均し、従来例では
図8のc部とd部のそれぞれ10ヶ所の板厚を測定して平均し、素材の板厚との比から求めた。
【0053】
【0054】
図6(b-1)と
図6(e-1)を比較するとわかるように、発明例1の段差部5の蛇行ピッチpを従来例1の素材の波板の波長Lと同じ140mmとしているので、発明例1の段差部5と従来例1の段差部23は類似している。
したがって、
図5の視線(c)から見たときの外観において、発明例1の段差部5と従来例1の段差部23は段差が同程度に明瞭となる意匠性を有していることがわかる。
【0055】
次に、発明例1と発明例2、3を比較するとわかるように、蛇行幅wが大きくなる程、より明瞭に段差部5の形状を認識できる。
明瞭な意匠性のためには段差部5の蛇行幅wが20mm以上であることがより好ましいことがわかる。
【0056】
また、上面視で直線状となる段差部23が設けられた比較例は単調な外観(
図6(a-1)参照)であるのに対し、発明例1~3は波形状に類似した段差部5を明瞭に認識できるので、住宅の屋根として施工したときに、より瓦屋根に似た外観として高級感を向上させる。
【0057】
次に、段差部成形時の板厚減少の抑制効果について表1を用いて説明する。
表1に示すように、平板の素材を段差加工した場合には、比較例1がもっとも板厚減少率が小さく、次に発明例1<発明例2<発明例3の順で板厚減少率が大きくなっている。発明例1~3は、段差部5の蛇行幅wが大きくなるほど、板厚減少率が大きくなっているが、いずれも従来例1と較べて板厚減少が抑制されている。
【0058】
すなわち、本発明の金属製屋根部材の段差部は、従来の金属製屋根部材の段差部と類似、またはそれ以上に明瞭な外観を有し、さらに板厚減少が抑制されるので、より安定した段差加工を可能にする。
また、発明例5と従来例2は、発明例5の段差部5の蛇行形状(蛇行ピッチp=300mm、蛇行幅w=37mm)と、従来例2の素材の波板の波形状(波長L=300mm、波高=37mm)が類似するものであるが、発明例5の板厚減少率は従来例2に較べて小さい。また発明例4~10のうち最も板厚減少率の大きい発明例10も、従来例2より板厚減少率が小さく、本発明例において板厚減少が抑制されている。
すなわち、発明例4~10のいずれも、高級感のある意匠性を志向しつつ、従来例2に較べて板厚減少を抑制して安定的な成形加工が可能であることがわかる。
もっとも、発明例10のように蛇行幅wが110mmまで大きくなると板厚減少率は従来例2と同程度になるため、板厚減少の抑制効果を得るには、蛇行幅wを例えば100mm以下とするのが好ましい。