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特開2022-89310環状ジセレニド化合物、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089310
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】環状ジセレニド化合物、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 345/00 20060101AFI20220609BHJP
   C07D 421/12 20060101ALI20220609BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20220609BHJP
   C07K 5/078 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C07D345/00 CSP
C07D421/12
C07K1/02
C07K5/078
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201618
(22)【出願日】2020-12-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2019年(令和元年)12月5日 第46回有機典型元素化学討論会 要旨集にて発表 2019年(令和元年)12月5日~7日 第46回有機典型元素化学討論会にて発表 2020年(令和2年)7月13日 Chem Asian J.2020,15,2646-2652にて発表 2020年(令和2年)8月17日 https://www.u-tokai.ac.jp/academics/undergraduate/science/news/detail/chemistry-_an_asian_journalvery_important_paper.htmlにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】荒井 堅太
(72)【発明者】
【氏名】塚越 俊介
【テーマコード(参考)】
4C063
4H045
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC99
4C063DD25
4C063EE10
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA11
4H045EA60
4H045EA65
4H045FA30
4H045FA57
4H045FA61
4H045FA71
4H045GA22
(57)【要約】
【課題】少ない添加量で迅速な酸化的フォールディングと凝集抑制効果を発揮する環状ジセレニド化合物、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される環状ジセレニド化合物又はその塩。
【化1】
(式中、Rは、-L-Xで示される基、または-Xで示される基を示し、Lは炭素数1~10の炭化水素基を示し、Xはイミダゾール基、-NH、-NH-C(=NH)-NH、または-Hを示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環状ジセレニド化合物又はその塩。
【化1】
(式中、Rは、-L-Xで示される基、または-Xで示される基を示し、Lは炭素数1~10の炭化水素基を示し、Xはイミダゾール基、-NH、-NH-C(=NH)-NH、または-Hを示す。)
【請求項2】
Rが
【化2】

の何れかである、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の環状ジセレニド化合物又はその塩を含む、タンパク質フォールディング剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の環状ジセレニド化合物又はその塩の存在下において、構造未形成タンパク質を処理する工程を含む、タンパク質のフォールディング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質フォールディング触媒活性を有する環状ジセレニド化合物に関する。さらに本発明は、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成されたポリペプチド鎖は、正しい立体構造へ折りたたまる(フォールディングする)ことにより生理活性を発現する。フォールディングは、システイン残基間のジスルフィド(S-S)関連反応、すなわちS-S形成反応およびS-S異性化反応が連動するものであり、酸化的フォールディングとも呼ばれる。しかし、試験管内において酸化的フォールディング反応を行う場合には、タンパク質分子どうしが複雑に絡み合って凝集体として沈殿したり、S-S結合の掛け違いによるミスフォールド体が生成したりする場合があるため、効率よく目的タンパク質を得ることが困難となる場合が多い。このようなタンパク質フォールディングにおける問題を解決するため方法としては、以下の(1)~(7)に記載の方法が報告されている。
【0003】
(1)酸化型グルタチオン(GSSG)および還元型グルタチオン(GSH)の混合溶液を用いたフォールディング方法(非特許文献1~4)
グルタチオンは生体内にも存在する酸化還元化合物であり、安価に入手することができることから、広くフォールディング試薬として用いられる。酸化活性を有するGSSGはポリペプチド鎖中のチオール基をジスルフィド結合へと変換する反応(つまりS-S形成反応)を促進する。一方でGSHは掛け違えたタンパク質分子内のS-S結合を一時的に切断し、正しい位置のS-S結合に架け替える反応(つまりS-S異性化反応)を促進する。故に、適切な成分比でこれらを混合した溶液中にタンパク質のS-S結合を開裂した還元型タンパク質(R)を溶解することで、Rは徐々に天然構造(N)にフォールディングする。
【0004】
(2)水溶性チオール試薬を用いたフォールディング方法(非特許文献5~8)
S-S異性化能力の低いGSHの代替分子として、様々な有機チオール分子が開発されている。いずれも、タンパク質S-S結合に対するチオール(SH)部分の求核性を向上させるような分子設計がなされており、GSHの代わりにこれらの試薬を添加することによって、酸化的フォールディングの速度を向上することができる。
【0005】
(3)水溶性セレノキシド試薬を用いたフォールディング方法(非特許文献9)
GSSGの酸化活性の低さは、酸化的フォールディング反応の速度を遅らせる決定的な要因の一つである。S-S結合を迅速に完結させるため、高い酸化能力を有する水溶性セレノキシド試薬が開発され、タンパク質フォールディングに応用されている。
【0006】
(4)水溶性ジセレニド試薬を用いたフォールディング方法(非特許文献10及び11)
S-S形成能力の低いGSSGの代替分子として、S-S結合の代わりにジセレニド(Se-Se)結合を有する試薬が開発されている。Se-Se結合は高いS-S形成能力を有するだけでなく、S-S形成反応の副生成物として生じるセレノール(SeH)基が非常に高い求核性を有することから、タンパク質中で掛け違えたS-S結合を一時的に切断して組み換える反応(つまりS-S異性化反応)を効果的に促進することができる。
【0007】
(5)凝集抑制剤(非特許文献12)
タンパク質のフォールディングではタンパク質の凝集体形成による収率低下が大きな問題となる。そのため従来においては、尿素やグアニジンなどの凝集抑制剤が用いられてきた。しかし、これらは、タンパク質の構造崩壊(アンフォールディング)も同時に引きを超すため、構造形成(フォールディング)を達成させるための試薬としては相反する性質を持つ。
【0008】
(6)凝集抑制能を包含するチオール分子(非特許文献13及び特許文献1)
ウレア型チオール分子は、フォールディング促進能を持つGSHの代替分子であり、凝集抑制効果も発揮する。
【0009】
(7)Protein Disulfide Isomerase触媒の添加(非特許文献14)
Protein Disulfide Isomerase(PDI)は生体内のタンパク質の酸化的フォールディングを促進する酵素であり、試験管内においても高い凝集抑制効果と酸化的フォールディングの触媒活性を示す。よって、PDIがタンパク質合成に用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-210258号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Lyles, M. M., and Gilbert, H. F. (1991) Catalysis of the oxidative folding of ribonuclease A by protein disulfide isomerase: dependence of the rate on the composition of the redox buffer. Biochemistry 30, 613-619.
【非特許文献2】Hevehan, D. L., and Clark, E. D. B. (1997) Oxidative renaturation of lysozyme at high concentrations. Biotechnol. Bioeng. 54, 221-230.
【非特許文献3】Gurbhele-Tupkar, M. C., Perez, L. R., Silva, Y., and Lees, W. J. (2008) Rate enhancement of the oxidative folding of lysozyme by the use of aromatic thiol containing redox buffers. Bioorg. Med. Chem. 16, 2579-2590.
【非特許文献4】Kibria, F. M., and Lees, W. J. (2008) Balancing Conformational and Oxidative Kinetic Traps during the Folding of Bovine Pancreatic Trypsin Inhibitor (BPTI) with Glutathione and Glutathione Disulfide. J. Am. Chem. Soc. 130, 796-797.
【非特許文献5】Lees, W. J. (2008) Small-molecule catalysts of oxidative protein folding. Curr. Opin. Chem. Biol. 12, 740-745.
【非特許文献6】Madar, D. J., Patel, A. S., and Lees, W. J. (2009) Comparison of the oxidative folding of lysozyme at a high protein concentration using aromatic thiols versus glutathione. J. Biotechnol. 142, 214-219.
【非特許文献7】Potempa, M., Hafner, M., and Frech, C. (2010) Mechanism of Gemini Disulfide Detergent Mediated Oxidative Refolding of Lysozyme in a New Artificial Chaperone System. Protein J. 29, 457-465.
【非特許文献8】Iii, J. C. L., Andersen, K. A., Wallin, K. K., and Raines, R. T. (2014) Organocatalysts of oxidative protein folding inspired by protein disulfide isomerase. Org. Biomol. Chem. 12, 8598-8602.
【非特許文献9】Arai, K., Dedachi, K., and Iwaoka, M. (2011) Rapid and Quantitative Disulfide Bond Formation for a Polypeptide Chain Using a Cyclic Selenoxide Reagent in an Aqueous Medium. Chem. Eur. J. 17, 481-485.
【非特許文献10】Beld, J., Woycechowsky, K. J., and Hilvert, D. (2007) Selenoglutathione: Efficient Oxidative Protein Folding by a Diselenide. Biochemistry 46, 5382-5390.
【非特許文献11】Reddy, P. S., and Metanis, N. (2016) Small molecule diselenide additives for in vitro oxidative protein folding. Chem. Commun. 52, 3336-3339.
【非特許文献12】Hanpanich, O. and Maruyama, A. (2020) Artificial chaperones: From materials designs to applications. Biomaterials 254, 120150.
【非特許文献13】Okada, S., Matsusaki, M., Arai, K., Hidaka, Y., Inaba, K., Okumura, M., and Muraoka, T. (2019) Coupling effects of thiol and urea-type groups for promotion of oxidative protein folding. Chem. Commun. 55, 759-762.
【非特許文献14】Arai, K., Takei, T., Shinozaki, R., Noguchi, M., Fujisawa, S., Katayama, H., Moroder, L., Ando, S., Okumura, M., Inaba, K., Hojo, H., and Iwaoka, M. (2018) Characterization and optimization of two-chain folding pathways of insulin via native chain assembly. Commun. Chem. 1, 1-11.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の「(1)酸化型グルタチオン(GSSG)および還元型グルタチオン(GSH)の混合溶液を用いたフォールディング方法(非特許文献1~4)」においては、GSSGのS-S形成能力およびGSHのS-S異性化能力は高くはなく、タンパク質基質に対して大量の試薬の添加が必要になる上に、酸化的フォールディングを達成するには数時間~数十時間要する場合があった。
上記の「(2)水溶性チオール試薬を用いたフォールディング方法(非特許文献5~8)」においても、タンパク質基質に対して大量の試薬の添加が必要であり、コスト面と精製工程での非効率化が懸念される。
【0013】
上記の「(3)水溶性セレノキシド試薬を用いたフォールディング方法」においては、この試薬を用いた場合、S-S異性化反応が進行する前にでたらめな位置でS-S結合が架橋されたミスフォールディング体を大量に生成させるため、正しい立体構造(天然構造(N))を有る生理活性タンパク質を得ることはできない。
上記の「(4)水溶性ジセレニド試薬を用いたフォールディング方法(非特許文献10及び11)」においても、タンパク質基質に対して大量の試薬を添加する必要があり、コスト面と精製工程での非効率化が懸念される。さらに、従来分子は後述する凝集抑制活性を有さない。
【0014】
上記の「(5)凝集抑制剤(非特許文献12)」に記載の通り、変性を引き起こさない凝集抑制剤は数多く提案されているが、大量(数mM~数Mオーダー)の試薬添加が必要である。
上記の「(6)凝集抑制能を包含するチオール分子(非特許文献13及び特許文献1)」においては、十分なフォールディング促進効果と凝集抑制効果を達成するには数mMオーダーの高濃度での添加が必要である。
上記の「(7)Protein Disulfide Isomerase触媒の添加(非特許文献14)」については、PDIは合成分野において頻繁に使用するには高価すぎるため、実用的な添加剤とは言えない。
【0015】
タンパク質の人工調製では、いかに凝集体形成を抑制しながら高収率で目的のタンパク質へとフォールディングさせるかが重要である。さらに、フォールディング後の精製工程とコスト面を考慮して、ごく少量で効果的なフォールディング反応を達成できる添加剤がより理想的である。しかし、上記した通り、従来の化合物はいずれもフォールディングの促進と凝集の抑制を十分に達成させるためには、基質タンパク質に対して10~100倍程度の試薬添加が必要である。添加する有機分子のデザインを改め、より少量で十分な効果を発揮する添加剤開発が必要である。
【0016】
本発明においては、従来分子よりも少ない添加量で迅速な酸化的フォールディングと凝集抑制効果を発揮する新しい添加剤を合成し、効率的なタンパク質の酸化的フォールディング手法ならびに凝集抑制手法を提供することを目指した。即ち、本発明の課題は、少ない添加量で迅速な酸化的フォールディングを発揮する環状ジセレニド化合物、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法を提供することである。また、本発明の、必須ではない副次的な課題としては、凝集抑制効果を発揮する環状ジセレニド化合物、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、PDIの活性中心におけるアミノ酸配列を模倣し、下記に示す化合物(1)をデザインした。この化合物は、タンパク質のS-S結合とSH基に対して酸化還元活性を有す環状ジセレニド部位に塩基性アミノ酸である3種(ヒスチジン(1a)、リジン(1b)・アルギニン(1c))をそれぞれ接合したものである。これらのアミノ酸部位が有する塩基性の側鎖(R)によって、セレン原子部位の反応性が高められることで、S-S形成反応とS-S異性化反応に対する触媒活性を増進することができる。さらに、高極性官能基であるこれらの塩基性側鎖(R)はタンパク質分子とイオン性相互作用によって複合体を形成することでタンパク質分子間の会合を阻害し、ひいては凝集体形成を抑制することができる。本発明は上記の知見に基づいて完成したものである。
【0018】
【化1】
【0019】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 下記式(1)で表される環状ジセレニド化合物又はその塩。
【化2】

(式中、Rは、-L-Xで示される基、または-Xで示される基を示し、Lは炭素数1~10の炭化水素基を示し、Xはイミダゾール基、-NH、-NH-C(=NH)-NH、または-Hを示す。)
<2> Rが
【化3】
の何れかである、<1>に記載の化合物又はその塩。
<3> <1>又は<2>に記載の環状ジセレニド化合物又はその塩を含む、タンパク質フォールディング剤。
<4> <1>又は<2>に記載の環状ジセレニド化合物又はその塩の存在下において、構造未形成タンパク質を処理する工程を含む、タンパク質のフォールディング方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の環状ジセレニド化合物、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法によれば、従来分子よりも少ない添加量で迅速な酸化的フォールディングと凝集抑制効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、リゾチーム(HEL)のフォールディング実験の結果を示す。
図2図2は、合成化合物1aの非存在下(a)と存在下(b)における還元型リゾチーム(RHEL)の酸化的フォールディング実験および、合成化合物1aの非存在下(c)と存在下(d)におけるミスフォールドリゾチーム(4SSHEL)のリフォールディング実験から得られたサンプルのHPLCクロマトグラムを示す。
図3図3は、HELの凝集とフォールディング反応の競合試験の結果を示す。
図4図4は、高濃度の還元型リゾチーム(RHEL)の酸化的フォールディングによって得られるサンプル中の最終的なHELの酵素活性回復率の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、下記式(1)で表される環状ジセレニド化合物又はその塩に関するものであり、本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩は、タンパク質フォールディング剤として使用することができる。
【化4】
(式中、Rは、-L-Xで示される基、または-Xで示される基を示し、Lは炭素数1~10の炭化水素基を示し、Xはイミダゾール基、-NH、-NH-C(=NH)-NHを、または-Hを示す。)
【0023】
本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩によれば、数十μMというごく少量の添加量で、酸化的フォールディング速度を向上させることができる。また、1mM以下の添加量で、凝集性タンパク質の凝集抑制ならびに効果的なフォールディングが可能である。本発明によれば、タンパク質合成おいて律速となりがちな酸化的フォールディング工程を簡便に、迅速に、そして高収率に達成することができる。
【0024】
Lが示す炭素数1~10の炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖の何れでもよく、飽和又は不飽和のいずれでもよい。
炭素数1~10の炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1以上10以下のアルキレン基、直鎖又は分岐鎖の炭素数2以上10以下のアルケニレン基、及び直鎖又は分岐鎖の炭素数2以上10以下のアルキニレン基が挙げられる。
【0025】
上記アルキレン基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1以上10以下のアルキル基の炭素骨格の任意の位置における1個の水素原子が1つのさらなる結合部位で置き換えられて二価部分を形成しているものが挙げられる。上記アルキレン基の炭素数は、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1以上4以下である。上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1以上10以下のアルキル基の例は、これらに限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、2-ブチル(sec-ブチル)、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル及び1-エチルプロピル等が挙げられる。好ましくは、上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1以上5以下のアルキレン基は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン及びペンチレンからなる群から選択される。
【0026】
上記アルケニレン基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2以上10以下のアルケニルの炭素骨格の任意の位置における1個の水素原子が1つのさらなる結合部位で置き換えられて二価部分を形成しているものが挙げられ、主鎖は1個以上の二重結合を有して
いてよい。上記アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2以上5以下である。上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素2以上5以下のアルケニル基の例は、これらに限定されないが、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-メチルエテニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-メチル-1-ブテニル、2-メチル-1-ブテニル、3-メチル-1-ブテニル、1-メチル-2-ブテニル、2-メチル-2-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-メチル-3-ブテニル、2-メチル-3-ブテニル、3-メチル-3-ブテニル、1,1-ジメチル-2-プロペニル、1,2-ジメチル-1-プロペニル、1,2-ジメチル-2-プロペニル、1-エチル-1-プロペニル、1-エチル-2-プロペニル及びその位置異性体が挙げられる。好ましくは、上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素2以上5以下のアルケニレン基は、エテニレン、1-プロぺニレン、2-プロぺニレン、1-ブテニレン、2-ブテニレン、3-ブテニレン、1-ペンテニレン、2-ペンテニレン、3-ペンテニレン及び4-ペンテニレンからなる群から選択される。
【0027】
上記アルキニレン基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2以上10以下のアルキニル基の炭素骨格の任意の位置における1個の水素原子が1つのさらなる結合部位で置き換えられて二価部分を形成しているものが挙げられ、主鎖は1個以上の三重結合を有していてよい。上記アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2以上5以下である。上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2以上5以下のアルキニル基の例は、これらに限定されないが、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-メチル-2-ブチニル、1-メチル-3-ブチニル、2-メチル-3-ブチニル及び3-メチル-1-ブチニル等が挙げられる。好ましくは、上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2以上5以下のアルキニレン基は、エチニレン、1-プロピニレン、2-プロピニレン、1-ブチニレン、2-ブチニレン、3-ブチニレン、1-ペンチニレン、2-ペンチニレン、3-ペンチニレン及び4-ペンチニレンからなる群から選択される。
【0028】
Rとしては、好ましくは、
【化5】
の何れかである。
【0029】
本発明の式(I)で表される環状ジセレニド化合物又はその塩は、例えば、以下の実施例に記載の方法に準じて後記のScheme 1に従って合成することができる。即ち、脱水DMFに溶解したBoc-L-amino acid (3)と、 (S)-1,2-diselenan-4-amine hydrochloride(2)とを混合して反応させることにより、本発明の式(I)で表される環状ジセレニド化合物を合成することができる、
【0030】
式(I)で表される環状ジセレニド化合物は、塩の形態や溶媒和物の形態でもよい。
塩としては、特に制限されず、例えば、塩酸、燐酸、硫酸等の無機酸との塩、及び酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
式(I)で表される環状ジセレニド化合物は、無水物として単離することができるが、溶媒和物であってもよい。溶媒和物としては、水和物が挙げられる。
【0031】
本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩は、タンパク質のジスルフィド結合を形成させるリフォールディング剤における有効成分としてとして使用することができる。
本発明のリフォールディング剤は、式(1)で表される環状ジセレニド化合物又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含むものであり、所望により、2種以上の式(1)で表される環状ジセレニド化合物又はその塩を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明によれば、本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩の存在下において、構造未形成タンパク質を処理する工程を含む、タンパク質のフォールディング方法が提供される。
構造未形成とは、活性を有するネイティブの構造になっていないことを意味し、例えば、リゾチームの場合には、還元型リゾチーム(RHEL)および4SSリゾチーム(4SSHEL)の両方の意味を包含する。
【0033】
本明細書において、「タンパク質のリフォールディング」には、(1)タンパク質をアンフォールディングする工程、(2)アンフォールディングされたタンパク質をリフォールディングする工程、及び(3)リフォールディングされたタンパク質を単離する工程を含むものとする。本明細書において、「リフォールディング反応」という場合、上記工程(2)を意味する。
【0034】
本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩を用いてリフォールディングする対象のタンパク質は、天然又は人造(化学合成法、発酵法、遺伝子組み換え法)等の由来や製造方法の別にかかわらず、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及びこれらの複合体が含まれる。タンパク質の種類は問わず、例えば細胞内タンパク質、細胞外タンパク質、膜タンパク質、及び核内タンパク質がいずれも含まれる。タンパク質としては、必ずしもジスルフィド結合を有するタンパク質である必要はないが、好ましくは少なくとも1つのジスルフィド結合を含むタンパク質を挙げることができる。具体的には、以下に示す酵素、組み換えタンパク質及び抗体等が挙げられる。
【0035】
酵素としては、加水分解酵素、異性化酵素、酸化還元酵素、転移酵素、合成酵素及び脱離酵素等が挙げられる。加水分解酵素としては、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グルコアミラーゼ等が挙げられる。異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼが挙げられる。酸化還元酵素としては、プロテインジスルフィドイソメラーゼ、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。転移酵素としては、アシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ等が挙げられる。合成酵素としては、脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ、クエン酸シンターゼ等が挙げられる。脱離酵素としては、ペクチンリアーゼ等が挙げられる。
【0036】
組み換えタンパク質としては、タンパク製剤、ワクチン等が挙げられる。大腸菌等の原核生物や酵母等の真核生物や無細胞抽出系等の異種発現系を用いて遺伝子工学的に生産された組み換えタンパク質は、しばしば不溶性で不活性の凝集体、いわゆる封入体として得られるため、本発明のリフォールディング剤を好適に使用することができる。タンパク製剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ディフェンシン、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第2因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。ワクチンとしては、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン等が挙げられる。抗体としては、特に限定はないが、医療用抗体が挙げられる。
【0037】
本明細書において、「アンフォールディングされたタンパク質」とは、任意の方法でアンフォールディングされたタンパク質でよいが、リフォールディング効果の観点から、塩酸グアニジン、尿素、チオ尿素又はこれらの併用でアンフォールディングされたタンパク質が好ましい。尚、タンパク質が、分子内にジスルフィド結合を含むものである場合には、上記アンフォールディング剤以外に、さらにβ-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)又はチオフェノール等の還元剤を加えてアンフォールディングされたタンパク質であってもよい。
【0038】
上記アンフォールディングされたタンパク質は、その分子量を特に制限するものではないが、通常1,000~10,000,000程度のタンパク質が挙げられる。リフォールディング効果の点から、好ましくは分子量1,000~250,000のタンパク質である。本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩によれば、高効率でリフォールディングを行うことができるので、高分子量のタンパク質に適用することができる。
【0039】
本発明のリフォールディング方法における、本発明のリフォールディング剤の存在下で、アンフォールディングされたタンパク質を処理する工程(以下、単に処理工程ともいう)としては、アンフォールディングされたタンパク質とリフォールディング剤とを接触させる工程が挙げられ、具体的には、アンフォールディングされたタンパク質とリフォールディング剤とをリフォールディング緩衝液中に配合して撹拌等により混合する工程、さらには、当該工程の後、必要によりリフォールディングをより十分に進めるために一定時間静置する工程も含まれる。
【0040】
上記処理工程の処理時間は、リフォールディングが十分に行われる限り特に制限されないが、例えば、5分~24時間、好ましくは10分~3時間である。また温度は、対象とするタンパク質の熱耐性に応じて適宜選択することができ、例えば、0~100℃の範囲、好ましくは4~40℃の範囲である。
【0041】
上記処理工程において使用されるリフォールディング剤における環状ジセレニド化合物又はその塩の濃度は特に制限されないが、対象タンパク質を含む溶液(例えばリフォールディング緩衝液)に対して、通常0.001~100mM、好ましくは0.01~5mMである。また、上記対象タンパク質を含む溶液(例えばリフォールディング緩衝液)中に含まれるアンフォールディングタンパク質の濃度は、通常0.01~100μM、好ましくは0.1~70μM、より好ましくは1~50μMである。
【0042】
リフォールディング緩衝液は、目的のタンパク質の機能を失わせるような濃度及び組成でなければ特に限定されず、具体的には、トリス緩衝液、MES緩衝液、HEPES緩衝溶液及びトリシン緩衝液等のアミン系緩衝液、リン酸緩衝液、又は各種Good’sbuffer等が挙げられる。上記リフォールディング緩衝液のpHは、通常pH4~10、好ましくはpH5~9の範囲、より好ましくはpH7~9の範囲で調整することができる。
【0043】
上記リフォールディング緩衝液には、本発明のリフォールディング剤の他に、種々の添加物を添加することができる。そのような添加物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩類;クエン酸塩、リン酸塩、及び酢酸塩等の緩衝液;水酸化ナトリウム等の塩基類;塩酸や酢酸等の酸類;メタノール、エタノール、プロパノール等の有機溶媒等が挙げられる。また、上記緩衝剤には、本発明のリフォールディング剤及び上記添加物の他に、界面活性剤、pH調整剤、又はタンパク質安定化剤を配合することもできる。当業者であれば適宜その使用量を調節することができる。
【0044】
pH調整剤としては、例えば、Tris(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノエタンスルホン酸)、HEPES(N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸)、及びリン酸緩衝剤(例えば、リン酸1水素2ナトリウム+塩酸水溶液、又はリン酸2水素1ナトリウム+水酸化ナトリウム水溶液)等が挙げられる。pH調整剤を用いる場合の含有量は、pH4~10、好ましくはpH5~9の範囲、より好ましくはpH7~9の範囲となるように調節され、対象タンパク質を含む溶液(例えばリフォールディング緩衝液)に対して、通常0.01~200mM、好ましくは0.05~150mM、より好ましくは0.1~100mMである。
【0045】
タンパク質安定化剤としては、例えば、グルタチオン、β-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、TCEP、アスコルビン酸及びシステイン等の還元剤が挙げられる。そのような還元剤を用いる場合の含有量は、対象タンパク質を含む溶液(リフォールディング緩衝液)に対して、通常0.01~100mM、好ましくは0.05~10mM、より好ましくは0.1~5mMである。これらの還元剤がリフォールディング剤に含まれている場合には、当該含まれている還元剤との合計量とする。また上記タンパク質安定化剤としては、例えば、ポリオール類、金属イオン、キレート試薬等も挙げられる。ポリオール類としてはグリセリン、ブドウ糖、ショ糖、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール及びマンニトール等が挙げられる。金属イオンとしてはマグネシウムイオン、マンガンイオン及びカルシウムイオン等の2価金属イオンが挙げられる。キレート試薬としてはエチレンジアミン4酢酸(EDTA)及びグリコールエーテルジアミン-N,N,N’,N’-4酢酸(EGTA)等が挙げられる。タンパク質安定化剤を用いる場合の含有量は、対象タンパク質を含む溶液(リフォールディング緩衝液)に対して、通常10質量%以下、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~1質量%である。
【0046】
また、対象タンパク質を含む溶液(リフォールディング緩衝液)中には、アンフォールディング剤、すなわち変性剤(例えば、グアニジン塩酸や尿素)が含まれていてもよい。この場合、アンフォールディング剤の含有量は、通常0.01~100mM、好ましくは
0.05~10mM、より好ましくは0.1~5mMである。当該濃度は、アンフォールディングされたタンパク質溶液に本発明のリフォールディング剤を添加してアンフォールディング剤濃度を希釈し低下させて調節してもよいし、又はアンフォールディングされたタンパク質懸濁液を透析してアンフォールディング剤濃度を希釈し低下させて調節してもよい。
【0047】
本発明は、本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩の存在下で、タンパク質を処理してリフォールディングする工程を含む、タンパク質の再生方法にも関する。本発明のタンパク質の再生方法は、本発明の環状ジセレニド化合物又はその塩の存在下でタンパク質を処理してリフォールディングする工程(以下、リフォールディング工程ともいう)、さらには、当該工程の後、必要によりリフォールディングされたタンパク質を単離する工程(以下、単離工程ともいう)が含まれる。
【0048】
単離工程としては、例えば上記リフォールディング工程で得られたタンパク質溶液から、目的とする正常タンパク質(リフォールディングタンパク質)を、カラムクロマトグラフィー等を用いて単離することが挙げられる。カラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としてはシリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド、ビニルポリマー等が挙げられる。商業的に入手できる市販品としては、Sephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio-Gelシリーズ(Bio-Rad社)等を挙げることができる。また透析法により目的とする正常タンパク質(リフォールディングタンパク質)を単離してもよい。
【0049】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0050】
【化6】
【0051】
<化合物合成における基本手順>
上記Scheme 1に従って合成を実施した。10 mL容量のガラス製ナス型フラスコ中で、Boc-L-amino acid (3) (渡辺化学, 0.113 mmol)を脱水DMF(富士フィルム和光純薬株式会社 1.5 mL)に溶解した。出発物質である(S)-1,2-diselenan-4-amine hydrochloride(2)(文献 [K. Arai, et al., ChemBioChem 2018, 19, 207-211]により合成、0.0150 g, 0.0565 mmol)を加えて撹拌した。得られた溶液に、PyBOP(渡辺化学, 0.0588 g、0.113 mmol)とDIPEA (富士フィルム和光純薬株式会社, 39.4 μL, 0.226 mmol)を加え、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、25℃で15時間撹拌した。蒸留水を15 mL加え、ジクロロメタン(関東化学, 15 mL, 3回)で抽出を行った。得られたジクロロメタン溶液を飽和塩化ナトリウム水溶液(20 mL, 1回)で洗浄し、さらにISOLUTE(R) Phase Separator. (バイオタージジャパン)に通すことで脱水した後、溶媒減圧留去した。得られた黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル、関東化学、展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン)によって生成することで、化合物1のBoc保護体を黄色油状物として得た。Boc基を脱保護するために、得られた黄色油状物を10 mL容量のガラス製ナス型フラスコ中でジクロロメタン(関東化学, 0.8 mL)に溶解し、trifluoroacetic acid(富士フィルム和光純薬株式会社、0.5 mL)を氷浴中でゆっくり加え、そのまま氷浴中で30分間攪拌した後、25℃まで温度を上昇させ、さらに4時間攪拌した。得られた溶液を溶媒減圧留去することで、化合物1を得た。
【0052】
<(S)-2-amino-N-((S)-1,2-diselenan-4-yl)-3-(1H-imidazol-4-yl)propenamide di-TFA salt (1a)の合成>
原料である化合物3には、Boc-L-His(Boc) dicyclohexylammonium salt (60.6 mg, 0.113 mmol)を用い、上記の化合物合成における基本手順に従って合成を実施した。Boc保護体の粗生成物は、展開溶媒として酢酸エチル/ヘキサン、8:1を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、最終的な目的物(1a)を茶色粉末(31.0 mg, 91%)として得た。
【0053】
<合成化合物(1a)の同定>
M.p. 122.1~125.8℃; 1H NMR (500 MHz, D2O): δ 8.60 (d, J=1.3 Hz, 1H), 7.31 (d, J=0.5 Hz, 1H), 4.12-4.06 (m, 1H), 3.94-3.39 (m, 1H), 3.28-3.16 (m, 3H), 3.11-3.06 (m, 1H), 2.80-2.77 (m, 1H), 2.72-2.66 (m, 1H), 2.16-2.10 (m, 1H), 1.79-1.72 (m, 1H) ppm; 13C NMR (125.8 MHz, D2O): δ 166.3, 134.2, 126.0, 118.3, 52.1, 48.7, 33.9, 26.0, 25.7, 23.3 ppm; 77Se NMR (95.4 MHz, D2O): δ 269.3 ppm; HRMS (ESI-TOF) m/z: [M+H -2TFA]+ calcd for C10H17N4OSe2 +, 368.9727; found, 368.9743.
【0054】
<(S)-2,6-diamino-N-((S)-1,2-diselenan-4-yl)hexanamide di-TFA salt (1b)の合成>
原料である化合物3には、Boc-L-Lys(Boc) (39.1 mg, 0.113 mmol)を用い、上記の化合物合成における基本手順に従って合成を実施した。Boc保護体の粗生成物は、展開溶媒として酢酸エチル/ヘキサン、2:1を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、最終的な目的物(1b)を黄色粉末(26.7 mg, 81%)として得た。
【0055】
<合成化合物(1b)の同定>
M.p. 110.1~113.8℃; 1H NMR (500 MHz, D2O): δ 3.96-3.91 (m, 1H), 3.80 (t, J=6.7 Hz, 1H), 3.22-3.10 (m, 2H), 3.00-2.83 (m, 4H), 2.19-2.13 (m, 1H), 1.83-1.71 (m, 3H), 1.59-1.52 (m, 2H), 1.39-1.25 (m, 2H) ppm; 13C NMR (125.8 MHz, D2O): δ 168.1, 52.9, 49.0, 38.9, 34.2, 30.3, 26.3, 25.9, 23.8, 21.3 ppm; 77Se NMR (95.4 MHz, D2O): δ 267.2 ppm; HRMS (ESI-TOF) m/z: [M+H -2TFA]+ calcd for C10H22N3OSe2 +, 360.0088; found, 360.0086.
【0056】
<(S)-2-amino-N-((S)-1,2-diselenan-4-yl)-5-guanidinopentanamide di-TFA salt (1c)の合成>
原料である化合物3には、Boc-L-Arg(Boc)2(53.6 mg, 0.113 mmol)を用い、上記の化合物の合成の基本手順に従って合成を実施した。Boc保護体の粗生成物は、展開溶媒として酢酸エチル/ヘキサン、2:1を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、最終的な目的物(1c)を黄色固体(29.4 mg, 85%)として得た。
【0057】
<合成化合物(1c)の同定>
M.p. 100.8~103.2℃; 1H NMR (500 MHz, D2O): δ 3.99-3.94 (m, 1H), 3.85 (t, J=6.6 Hz, 1H), 3.25-3.21 (m, 1H), 3.16-3.08 (m, 3H), 2.97-2.89 (m, 2H), 2.21-2.16 (m, 1H), 1.87-1.77 (m, 3H), 1.56-1.48 (m, 2H) ppm; 13C NMR (125.8 MHz, D2O): δ 167.9, 156.7, 52.8, 52.7, 48.9, 40.2, 34.1, 27.9, 26.0, 23.5 ppm; 77Se NMR (95.4 MHz, D2O): δ 268.1 ppm; HRMS (ESI-TOF) m/z: [M+H -2TFA]+ calcd for C10H21N5OSe2 +, 388.0149; found, 388.0152.
【0058】
<(S)-2-amino-N-((S)-1,2-diselenan-4-yl)propanamide TFA (1d)の合成>
原料である化合物3には、Boc-L-Ala (21.4 mg, 0.113 mmol)を用い、上記の化合物の合成の基本手順に従って合成を実施した。Boc保護体の粗生成物は、展開溶媒として酢酸エチル/ヘキサン、2:1を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、最終的な目的物(1d)を黄色粉末(21.9 mg, 94%)として得た。
【0059】
<合成化合物(1d)の同定>
M.p. 102.0~103.9℃; 1H NMR (500 MHz, D2O): δ 3.97-3.88 (m, 2H), 3.24-3.13 (m, 2H), 2.98-2.89 (m, 2H), 2.21-2.16 (m, 1H), 1.85-1.77 (m, 1H), 1.39 (d, J=7.1 Hz 3H) ppm; 13C NMR (125.8 MHz, D2O): δ 169.3, 49.1, 48.9, 34.3, 26.0, 23.9, 16.5 ppm; 77Se NMR (95.4 MHz, D2O): δ 265.1 ppm; HRMS (ESITOF) m/z: [M+H -TFA]+calcd for C7H15N2OSe2 +, 302.9509; found, 302.9497.
【0060】
<還元変性リゾチーム(RHEL)の調製>
文献 [K. Arai, et al., Int. J. Mol. Sci. 2013, 14, 13194-13212] に従い、以下の手順で調製した。市販のニワトリ卵白リゾチーム(富士フィルム和光純薬株式会社 12.0 mg)を8 M 尿素および1 mM EDTA を含む100 mM Tris-HCl 緩衝溶液 pH 8.0(700 μL)に溶解し、還元剤である(±)-ジチオトレイトール(DTTred)(富士フィルム和光純薬株式会社 12.0 mg)を加えて溶解した後、40.0℃で2時間反応させた。得られたサンプル溶液に0.1 M 酢酸水溶液(1.3 mL)を加えて反応を停止し、ゲル濾過クロマトグラフィー(Sephadex G-50 DNA Grade F、GEヘルスケアライフサイエンス、展開溶媒:0.1 M 酢酸水溶液)で脱塩・精製した。得られた溶液を凍結乾燥し、白色固体の還元変性リゾチーム(RHEL、10.0 mg)が得られた。
【0061】
<ミスフォールドリゾチーム(4SSHEL)の調製>
上記で調製したRHEL(2 mg)の粉末を8 M 尿素および1 mM EDTA を含む200 mM 酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液 pH 4.0(250 μL)に溶解させた後、尿素不含の同緩衝溶液(750 μL)を加えてよく混合した。紫外可視吸光高度計(ε280= 33890 cm-1 M-1)を用いて、RHEL溶液の濃度を決定した。この濃度に対して20倍の濃度になるように尿素不含の同緩衝溶液で調製したtrans-3,4-dihydroxytetrahydroselenophene-1-oxide(DHSox; 文献 [M. Iwaoka, et al., Heteroatom Chem. 2001, 19, 293-299]により合成)溶液(1 mL)を RHEL溶液(1 mL)に加えて混合し、室温で15分間反応させた。得られたサンプル溶液をゲル濾過クロマトグラフィー(Sephadex G-50 DNA Grade F、GEヘルスケアライフサイエンス、展開溶媒:0.1 M 酢酸水溶液)によって脱塩・精製した。得られた溶液を凍結乾燥し、S-S結合がタンパク質分子内でランダムに架橋されたミスフォールドリゾチーム(4SSHEL、1.2 mg)を得た。
【0062】
<還元変性リゾチーム(RHEL)の酸化的フォールディング>
合成化合物の酸化的フォールディングに対する触媒としての効果を以下の方法で確認した。
合成化合物(1a~d及び2のいずれか)、GSH、GSSGそれぞれ200 μM、5.0 mM、1.0 mMになるようにアルゴンガスでバブリングした1 mM EDTA を含む100 mM Tris-HCl 緩衝溶液 pH 7.5を用いて調製した。上記で調製したRHEL(1 mg)の白色粉末を2 M 尿素および1 mM EDTA を含む100 mM Tris-HCl 緩衝溶液 pH 7.5に溶解した。試料中のRHEL濃度を紫外可視吸光高度計(ε280 = 33890 cm-1 M-1)を用いて決定し、RHELの濃度が20 μMになるように同緩衝溶液を用いて希釈した。調整したRHEL溶液(500 μL)、合成化合物溶液(100 μL)、GSH溶液(200 μL)、GSSG溶液(200 μL)を素早く混合し、37.0℃で反応させた。一定時間後、このサンプル溶液から48 μL分注し、3 M 塩酸水溶液(2 μL)を加えて反応を停止し、冷蔵庫で保存した。文献(K. Arai, et al., Chem. Asian J. 2014, 9, 3464-3471)を参考に、各時間で得られたサンプル中に含まれる酵素活性量を見積もり、反応時間に対して相対的な酵素活性回復率をプロットした。
【0063】
結果を図1a及び表1に示す。図1aは、還元型リゾチーム(RHEL)の酸化的フォールディングにおけるHELの酵素活性回復速度の比較を示す。反応条件:[RHEL]0=10 μM、[GSH]0=1.0 mM、[GSSG]0=0.20 mM、[Catalyst] = 20 μM、37℃、pH 7.5、1 M urea存在下。データは平均値±標準誤差(n =3)として示してある。
タンパク質酵素はフォールディングすることで酵素活性が回復するため、酵素活性回復率の速度はフォールディング速度と考えることができる。合成化合物1あるいは2を加えることで、フォールディング反応が大きく加速されていることがわかる。さらに、一般的に用いられるGSSGの触媒量の添加は効果を見せない。さらにヒスチジンを接合した1aはそのほかの触媒よりも反応をさらに促進させていることが分かる。実際、この酸化的フォールディングの反応速度定数(k)見積もったところ(表1)、反応速度の増進率は合成化合物1aを用いたときに最大であった。
【0064】
<4SSHELのリフォールディング>
合成化合物のミスフォールディング体からのリフォールディングに対する触媒としての効果を以下の方法で確認した。
合成化合物(1a~d及び2のいずれか)およびGSHが、それぞれ80 μM、4.0 mMになるようにアルゴンガスでバブリングした1 mM EDTA を含む100 mM Tris-HCl 緩衝溶液 pH 7.5を用いて調製した。上記で調製した4SSHEL(1 mg)の白色粉末を2 M 尿素および1 mM EDTA を含む100 mM Tris-HCl 緩衝溶液 pH 7.5に溶解した。試料中の4SSHEL濃度を紫外可視吸光高度計(ε280= 33890 cm-1 M-1)を用いて決定し、4SSHELの濃度が20 μMになるように同緩衝溶液を用いて希釈した。調整した4SSHEL溶液(500 μL)、合成化合物溶液(250 μL)、GSH溶液(250 μL)を素早く混合し、37.0℃で反応させた。一定時間後、このサンプル溶液から48 μL分注し、3 M 塩酸水溶液(2 μL)を加えて反応を停止し、冷蔵庫で保存した。文献(K. Arai, et al., Chem. Asian J. 2014, 9, 3464-3471)を参考に、各時間で得られたサンプル中に含まれる酵素活性量を見積もり、反応時間に対して相対的な酵素活性回復率をプロットした。
【0065】
結果を図1b及び表1に示す。
図1bは、ミスフォールドリゾチーム(4SS)のリフォールディングにおけるHELの酵素活性回復速度の比較を示す。反応条件:[4SS]0=10 μM、[GSH]0=1.0 mM、[Catalyst] = 20 μM、37℃、pH 7.5、1 M urea存在下。データは平均値±標準誤差(n = 3)として示してある。
図1aの場合と同様に、酵素活性が50%回復するまでに要する時間t50[min]を見ると、ヒスチジンを接合した1aは最も反応速度の増進を見せている(表1)。
【0066】
【表1】
【0067】
酸化的フォールディングの反応速度定数kは、 %HEL activity = Amax(1-e-kt)を用いた実験値(図1a)のフィッティングによって得られた見かけの反応速度定数であり、Amaxはフォールディングによって回復したHELの最大酵素活性である。酵素活性が50%回復するまでに要する時間t50[min]は、4SSHELのリフォールディング反応において、HELの酵素活性が50%回復するのに要する時間である。表中のすべてのデータは平均値±標準誤差(n = 3)として示してある。
【0068】
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるリゾチームのフォールディング収率の評価>
RHELの酸化的フォールディングおよび4SSHELのリフォールディングを既述の方法に従って開始した。一定時間後、反応溶液から200 μLを分注し、2-aminoethyl methanethiosulfonate(AEMTS; 文献 [M. Iwaoka, et al., Heteroatom Chem.2001, 19, 293-299]により合成)水溶液(7 mg/mL, 200 μL)が入った1.5 mL容量のプラスチックチューブに移した。得られたサンプル溶液に酢酸(10 μL)を加えて混合し、溶液のpHを3.5に調整したのち、カラムクロマトグラフィー(Sephadex G-50 DNA Grade F、GEヘルスケアライフサイエンス、展開溶媒:0.1 M 酢酸水溶液)を用いて、脱塩・精製した。得られたサンプル溶液を凍結乾燥し、得られた残渣を0.1% トリフルオロ酢酸水溶液(1100 μL)に溶解し、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によってリゾチームのフォールディング収率を見積もった。HPLC分析条件は文献(K. Arai, et al., Int. J. Mol. Sci. 2013, 14, 13194-13212)を参考に実施した。
【0069】
図2は、合成化合物1aの非存在下(a)と存在下(b)における還元型リゾチーム(RHEL)の酸化的フォールディング実験および、合成化合物1aの非存在下(c)と存在下(d)におけるミスフォールドリゾチーム(4SSHEL)のリフォールディング実験から得られたサンプルのHPLCクロマトグラムを示す。図2の各反応条件は図1と同じである。
図2においては、HPLCを用いて、HELの酸化的フォールディングおよびリフォールディング反応中のサンプル内の成分分析を実施した。合成化合物1a存在下では、いずれの実験においてもより素早くN体が生成している様子が確認できる。この結果は、酵素活性回復率から評価したHELのフォールディング速度の評価結果と矛盾はない。
【0070】
<合成化合物による熱変性リゾチームの凝集抑制効果の評価>
合成化合物のタンパク質の凝集抑制効果を、以下の方法で確認した。
市販のニワトリ卵白リゾチーム(富士フィルム和光純薬株式会社 5.0 mg)を0.5 mM EDTA および0.28 M NaClを含む50 mM Tris-HCl緩衝溶液 pH 7.5(1.0 mL)加えて溶解した。紫外可視吸光高度計(ε280 = 37600 cm-1 M-1)を用いて、リゾチームの濃度を決定し、200 μMになるように同緩衝溶液を用いて希釈した。合成化合物(1a~d及び2のいずれか)を1.0 mMになるように同緩衝溶液を用いて調製した。合成化合物1aについては、濃度依存性を確認するために、0.04、0.1、0.2、0.4、0.6、0.8 mMについても同緩衝溶液を用いて調製した。1.5 mL容量のプラスチックチューブに調整したリゾチーム溶液(400 μL)と化合物溶液を400 μL加え、30、50、70、80、90℃の各温度で5分間インキュベーションし、加熱したサンプルは、直ちに23℃で30分間静置した。サンプル溶液を3分間遠心分離機(14000 rpm)にかけ、不溶解性沈殿物を沈降させたのち、文献(K. Arai, et al., Chem. Asian J. 2014, 9, 3464-3471)を参考に、得られたサンプル中に含まれる酵素活性量を見積もった。
【0071】
結果を図3に示す。
図3(a)は、90℃で10分間加熱後、23℃まで冷却した時に得られた0.28 M NaClおよび0.5 mM EDTAを含む50 mM Tris-HCl緩衝溶液 pH 7.5 中のHEL溶液(100 μM)の写真を示す。図3(b)は、(a)と同様の実験から得られたサンプル溶液中のHELの相対的な酵素活性回復率を示す。データは平均値±標準誤差(n = 3)として示してある。図3(c)は熱変性後のHELの凝集と酵素活性回復率に与える化合物1aの濃度依存性を示す。反応条件は化合物1aの濃度条件を除いて(a)と同様である。
HELは加熱によって変性し、分子間の会合が起こり、凝集(白濁)する。化合物を入れないサンプル(Blank)はもちろん、化合物2、化合物2とヒスチジン以外のアミノ酸を接合した化合物(1b~d)、化合物2とアミノ酸ヒスチジンを混合したもの(2+His)、さらに凝集抑制剤としてしばしば用いられるグアニジン塩酸塩(Gdn-HCl)を添加したサンプル溶液は熱変性後、凝集体形成による白色沈殿が観測された。一方、化合物1aを添加することで凝集体の形成は確認されなかった(a)。さらに酵素活性回復率を見積もってみると、化合物1aの共存下で酵素活性をほぼ100%回復した(b)。さらに、1aの凝集抑制効果は0.3 mMという極めて低濃度においても十分な効果を発揮することも分かった(c)。
【0072】
<凝集反応が伴う高濃度RHELの酸化的フォールディング>
合成化合物の酸化的フォールディングと凝集抑制効果を以下の方法で確認した。
合成化合物(1a~d及び2のいずれか、あるいはGSSG)およびGSHをそれぞれ2.67 mMおよび533 μMになるようにアルゴンガスでバブリングした1 mM EDTA を含む100 mM Tris-HCl 緩衝溶液 pH 7.5を用いて調製した。上記で調製したRHEL(2 mg)の粉末を1 mM EDTAおよび 4 M ureaを含む100 mM Tris-HCl 緩衝溶液 pH 7.5に溶解した。試料中のRHEL濃度を紫外可視吸光高度計(ε280= 33890 cm-1 M-1)を用いて決定し、RHELの濃度が200 μMになるように同緩衝溶液を用いて希釈した。調整したRHEL溶液(50 μL)、合成化合物溶液(75 μL)、GSSG溶液(75 μL)を素早く混合し、37.0℃で反応させた。5時間および24時間後、サンプル溶液から48 μL分注し、3 M 塩酸水溶液(2 μL)を加えて反応を停止し、冷蔵庫で保存した。文献(K. Arai, et al., Chem. Asian J.2014, 9, 3464-3471)を参考に、各時間で得られたサンプル中に含まれる酵素活性量を見積もった。
【0073】
結果を図4に示す。
図4の反応条件は、[RHEL]0=50 μM、[GSH]0=1.0 mM、[Compound]0=0.20 mM、37℃、pH 7.5、1 M urea存在下。反応時間はGSSGを用いた場合は24時間、その他は5時間であった。データは平均値±標準誤差(n = 3)として示してある。
GSSGおよびGSHを含む緩衝溶液はタンパク質の酸化的フォールディングを行う際の溶媒として広く用いられる。図4では、GSSGの代わりに、合成した化合物1a~dのいずれかを添加し、50 μM(0.7 mg/mL)という高濃度の条件でHELの酸化的フォールディングを実施した。通常このような高い濃度条件では、RHELがオリゴマー化、ひいては凝集し、十分なフォールディング収率を達成できない。実際、GSSG/GSH (0.2/1.0 mM)を用いた場合、フォールディング収率はわずか24時間後で25%程度であった。一方、合成化合物1/ GSH (0.2/1.0 mM)を用いた場合、フォールディング収率は反応時間5時間で55%まで上昇した。2/ GSH (0.2/1.0 mM)や2/His/GSH (0.2/0.2/1.0 mM)を用いた場合、フォールディング収率は37%程度にとどまったことを考えれば、合成化合物1(特に1a)がHELのオリゴマー化・凝集体形成を抑制したことによって、さらなるフォールディング収率の向上がなされたものと考察できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
化学合成法あるいはリコンビナント法で調製したポリペプチド鎖を生理活性なタンパク質として得るためにはフォールディングの工程が必須である。本発明によれば、タンパク質のフォールディングが可能となる。本発明の環状ジセレニド化合物、タンパク質フォールディング剤、及びタンパク質のフォールディング方法は、構造生物学や創薬分野において有益な新規タンパク質の人工調製において有用である。
図1
図2
図3
図4