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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089317
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】プラント地震影響監視システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
G05B23/02 301P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201639
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】村上 博之
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA03
3C223AA05
3C223BA03
3C223CC02
3C223CC03
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF14
3C223FF15
3C223FF16
3C223FF24
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】プラント全体への地震の影響度を容易にまた時系列で確認できるプラント地震影響監視システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る原子力プラント地震影響監視システム1は、地震影響監視装置10が、原子力発電プラントにおいて地震発生時のプラントパラメータ変動による影響を、地震発生トリガ信号をシステム起動信号とし、プラントパラメータの初期値との差分データを収集し、正規化を行い、単位時間当りの累積数で表示し、トレンドグラフとして表示器20に最大加速度波形と同時に表示し、地震の規模によるプラントの変動の発生及び収束と異常の残留状態を確認可能とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの制御システム及び地震観測装置と接続し、前記プラントの状態を表すプラントパラメータに基づき地震影響評価のためのデータを算出・作成する地震影響監視装置と、
前記地震影響監視装置と接続する、データを入力出する入出力手段と、
前記地震影響監視装置と接続する、データを表示する表示手段と、
を含み、
前記地震影響監視装置は、
前記地震観測装置が発信する地震発生信号をトリガとして、前記制御システムから地震発生前後の前記プラントパラメータのデータを取得するデータサンプリング部と、
地震発生前後の前記プラントパラメータの変化量積算値をリアルタイムで算出するデータ処理部と、
地震発生時から終息までの前記変化量積算値のトレンドグラフを含む、前記表示手段に表示させる地震影響評価用データを作成するデータ集約部と、
を備えることを特徴とするプラント地震影響監視システム。
【請求項2】
前記地震影響監視装置は、前記プラントパラメータを放射線モニタデータとそれ以外のデータとに区分けし、
放射線モニタデータについては、地震発生前後の放射線モニタデータの差分を放射線モニタのフルスケール値で除算し、百分率で表し差分正規化処理データを算出し、
前記放射線モニタデータ以外のデータについては、地震発生前後のデータの差分の絶対値をそれぞれのデータを計測する計測器フルスケール値で除算し、百分率で表し差分正規化処理データを算出し、
前記差分正規化処理データのうち0を超えるもののみを積算し前記変化量積算値を算出することを特徴とする請求項1に記載のプラント地震影響監視システム。
【請求項3】
前記地震影響監視装置は、前記プラントに対する重要度に応じて前記プラントパラメータを複数の区分に区分けし、地震発生前後の前記プラントパラメータの変化量積算値を区分毎に算出し、
前記表示手段に区分毎の変化量積算値の前記トレンドグラフを表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラント地震影響監視システム。
【請求項4】
前記地震影響監視装置は、少なくとも前記表示手段に、地震発生時から終息までの前記変化量積算値のトレンドグラフと地震加速度データとを一緒に表示させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプラント地震影響監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所(原子力発電プラント)、化学プラント等において地震が発生したときの地震がプラントに及ぼす影響を監視可能なプラント地震影響監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所では、原子力規制庁の基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイドから、原子力発電所の基準地震動策定およびそれに伴う耐震設計方針が示されている。その基本方針は、『耐震重要施設(設計基準対象施設のうち、地震の発生によって生ずるおそれがある安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度が特に大きいもの。)は、その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない。』とされている。
【0003】
設置許可に係る審査において、以下の要求事項を満たした設計方針であることを確認されており、原子炉施設の耐震重要度分類を、地震により発生するおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失及びそれに続く公衆への放射線による影響を防止する観点から、Sクラス、Bクラス及びCクラスに分類し、それぞれ重要度のクラスに応じた耐震設計を行うこと、とされている。
【0004】
厳格に規定された基準地震動でこれらのS、B、Cクラスの建物・構築物・機器・配管系については、Sクラスの各施設は、基準地震動による地震力に対してその安全機能が保持できること。また、弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力のいずれか大きい方の地震力に対しておおむね弾性状態に留まる範囲で耐えること。Bクラスの各施設は、静的地震力に対しておおむね弾性状態に留まる範囲で耐えること。また、共振のおそれのある施設については、その影響についての検討を行うこと。Cクラスの各施設は、静的地震力に対しておおむね弾性状態に留まる範囲で耐えること。とされている。
【0005】
原子力発電所に起きた過去の大きな地震のケースでは、被害として地盤の不等沈下によるダクトの破損、絶縁油の漏洩、使用済み燃料プールのスロッシングよる内部溢水があった。また、その後、津波の発生により全交流電源喪失、原子炉補機冷却海水系の機能喪失による最終ヒートシンクの喪失によりシビアアクシデントの発生となった事例がある。過去事例からは、震源特性や地下構造特性により、設計時の想定を上回る地震動が観測されたが、安全上重要な設備に要求される静的地震力に対して弾性設計であり、安全余裕のある設計であることから重大な支障は見られなかった。
【0006】
このように、建屋、構築物、機器、配管系に対しては、基準地震動より余裕のある設計としているが、原子力発電所が運転もしくは停止している場合にこれらの地震により加振された場合、地震の影響は構築物や機器だけではなく、機器内部の流体にも当然のことながら影響を与える。
【0007】
たとえば、地震による加振力が加われば、発電所構内のタンクや配管内内部流体の流量、流速、圧力、温度、液位等のパラメータにも変化が生じ、たとえば使用済み燃料プールのような液面が開放された水槽の場合は水面が大きくうねる変動(スロッシング)により、建物内への溢水を及ぼす可能性がある。また、機器・配管系が破損すれば、内部の放射性物質が系外に漏出することで、安全機能の喪失及びそれに続く公衆への放射線による影響を与えてしまう。地震力はこのように内部の流体(特に液体)にも影響を及ぼすことから、地震の規模が大きければ、その影響は原子力発電所全般へ強力に及ぼすことが容易に想定される。
【0008】
公知の技術として地震の加速度は、原子炉建屋および原子力発電所構内に配置された地震計により、その規模と震度を計測し、データ収集の上、水平および鉛直方向の最大規模の加速度を表示するシステムがある。ただし、従来のシステムでは、地震発生時の加速度パラメータとプラントパラメータは別のシステムで評価されていた。そのため、地震加速度とプラントへの影響評価の相対評価が難しいことがあげられる。これらの問題を解決する先願技術として、以下がある。
【0009】
特許文献1には、原子力発電所内に設置された地震加速度計、得られた加速度データを処理する計算機、処理されたデータを表示する中央制御盤上画面及びこの画面上に表示された記録を保持する装置よりなるシステムにおいて、前記画面上に地震波形、最大加速度、床応答スペクトル等を表示することにより運転員に適格な地震情報を与え、継続運転の可否、綿密な点検を必要とする機器の有無を表示する地震時インストラクションシステムが記載されている。
【0010】
特許文献2には、複数のプラント構成機器を有するプラントの運転方法において、上記プラント構成機器を監視する機器監視部および地震計からの信号を取り込んで上記各プラント構成機器の状態評価を行い、この状態評価と予め記憶したプラント固有情報から求められる重要度評価結果から上記各プラント構成機器の重要度に応じた修理の優先順位を決め、この優先順位に基づいて算出したプラント起動に係わる損失予測値が所定値以下となるように起動タイミングを合わせるようにしたプラントの運転方法が記載されている。
【0011】
特許文献3には、プロセス値データベース更新部が、複数のプロセス入力装置からプロセス値を入力し前記プロセス値データベースを更新し、差分値算出部が、前記プロセス値データベースにアクセスして、基準プラントユニット以外のプラントユニットのプロセス値と、前記基準プラントユニットの基準プロセス値との差である基準差分値を算出し、監視状況判定部が、前記基準差分値と差分しきい値とを比較し、前記基準差分値が前記差分しきい値よりも大きい場合、前記プラントユニットの監視が異常状態にあると判定する、監視状態が正常であるか否かを判定可能なプラント監視システムおよびプラント監視方法が記載されている。
【0012】
特許文献1では、地震発生時の地震波形等を表示し、特許文献2では、地震発生からプラント構成機器の状態評価を行い、特許文献3では、基準プラントユニット以外のプラントユニットのプロセス値と基準プラントユニットの基準プロセス値との差である基準差分値を算出し、監視状態が正常であるか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭62-169085号公報
【特許文献2】特開2004-227298号公報
【特許文献3】特開2016-012222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
一般的に、地震が発生するとその規模に応じてプラントパラメータが変化し、地震の揺れが終息すると、徐々にパラメータ変化が収束するが、たとえば万一、配管が破損すると放射能モニタの指示値が上昇することが考えられるため、中央制御室の運転員は、放射線モニタの監視および漏水関連のパラメータの監視を強化している。
【0015】
特許文献に記載の技術は、地震発生後からのプラントの状態評価に力点が置かれており、地震発生中のプラント状態の容易な把握に資することを目的としていない。また一般的にしきい値には、警報設定点または設計上の制限値、最大値が用いられるが、すべてのしきい値を設定することは容易ではない。また、しきい値に警報設定点または設計上の制限値、最大値を用いると、プラント停止中にはしきい値異常が多発するおそれがある。
【0016】
先述のように、地震の影響はプラント全体に対し同時に及ぶため、大小を含め一斉に変化するパラメータ数は膨大な数にのぼり、運転員は中央制御室で示されるすべてのパラメータの逐次監視が難しくなる。また、変化しているパラメータの総量がわかりにくく、これまでプラントに対する地震の影響度が容易に監視できるシステムが存在していなかった。
【0017】
重大な影響が発生するのは地震発生中および地震発生後であり、また、地震力はある一定程度継続し、その時系列でプラントのパラメータが変化し、地震が終了した後でもしばらくパラメータが収束しない場合もある。プラント全体に対する影響の大きさは警報システムおよび監視制御システムの運転員による監視で確認できるが、これまでプラント全体への影響度合いを時系列で確認できるシステムがなかった。
【0018】
本発明の目的は、プラント全体への地震の影響度を容易にまた時系列で確認できるプラント地震影響監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、プラントの制御システム及び地震観測装置と接続し、前記プラントの状態を表すプラントパラメータに基づき地震影響評価のためのデータを算出・作成する地震影響監視装置と、前記地震影響監視装置と接続する、データを入力出する入出力手段と、前記地震影響監視装置と接続する、データを表示する表示手段と、を含み、前記地震影響監視装置は、前記地震観測装置が発信する地震発生信号をトリガとして、前記制御システムから地震発生前後の前記プラントパラメータのデータを取得するデータサンプリング部と、地震発生前後の前記プラントパラメータの変化量積算値をリアルタイムで算出するデータ処理部と、地震発生時から終息までの前記変化量積算値のトレンドグラフを含む、前記表示手段に表示させる地震影響評価用データを作成するデータ集約部と、を備えることを特徴とするプラント地震影響監視システムである。
【0020】
本発明に係るプラント地震影響監視システムにおいて、前記地震影響監視装置は、前記プラントパラメータを放射線モニタデータとそれ以外のデータとに区分けし、放射線モニタデータについては、地震発生前後の放射線モニタデータの差分を放射線モニタのフルスケール値で除算し、百分率で表し差分正規化処理データを算出し、前記放射線モニタデータ以外のデータについては、地震発生前後のデータの差分の絶対値をそれぞれのデータを計測する計測器フルスケール値で除算し、百分率で表し差分正規化処理データを算出し、前記差分正規化処理データのうち0を超えるもののみを積算し前記変化量積算値を算出することを特徴とする。
【0021】
本発明に係るプラント地震影響監視システムにおいて、前記地震影響監視装置は、前記プラントに対する重要度に応じて前記プラントパラメータを複数の区分に区分けし、地震発生前後の前記プラントパラメータの変化量積算値を区分毎に算出し、前記表示手段に区分毎の変化量積算値の前記トレンドグラフを表示させることを特徴とする。
【0022】
本発明に係るプラント地震影響監視システムにおいて、前記地震影響監視装置は、少なくとも前記表示手段に、地震発生時から終息までの前記変化量積算値のトレンドグラフと地震加速度データとを一緒に表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によればプラント全体への地震の影響度を容易にまた時系列で確認できるプラント地震影響監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のプラント地震影響監視システム1のシステム構成図である。
図2】本発明のプラント地震影響監視システム1の地震影響監視装置10が実施するデータ処理の説明図である。
図3】本発明のプラント地震影響監視システム1の表示器20の表示例である。
図4】本発明のプラント地震影響監視システム1のデータベース出力結果である。
図5】本発明のプラント地震影響監視システム1のデータ処理手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明のプラント地震影響監視システム1のシステム構成図である。図1に基づきシステム構成について説明する。図1に示すプラント地震影響監視システム(以下、本監視システムと記す場合がある)1は、原子力発電所における地震の影響を監視するシステムである。
【0026】
本監視システム1は、ネットワークデバイスを介して原子力発電所の制御計測システム100及び地震観測系200と接続し、プラントパラメータに基づき地震の影響を評価する地震影響監視装置10と、地震影響監視装置10と接続しデータを表示する表示器20及びデータを入出力する入出力器30とを含んでいる。
【0027】
プラントパラメータは、プラントの状態を表す変数であり、流量、温度、圧力、差圧、放射線量などの物理量からならなるプロセスデータ、ON、OFF信号、警報発報、ポンプ、ファン起動・停止、弁開閉など機器の状態を表す変数、プラント機器の漏洩、使用済み燃料プールや炉心に配置している原子燃料の破損、原子炉主蒸気配管からの漏洩を含む原子炉圧力容器の破損、原子炉格納容器への漏洩、原子炉施設内での放射線量上昇を表すデータ・変数などが含まれる。以降、プラントパラメータをパラメータと記す場合がある。
【0028】
地震影響監視装置10は、システム起動信号処理部11、データサンプリング部12、データ処理部13、データ集約部14、計測器フルスケールデータベース15と、を備え、原子力発電所の制御計測システム100の運転監視用計算機125からプラント側データであるデジタル・アナログデータ、地震観測系200の地震観測装置210からの保安確認用最大地震加速度波形データ入力、地震発生トリガ信号を入力データ・入力信号とする。
【0029】
地震影響監視装置10は、原子力発電所の制御計測システム100及び地震観測系200とネットワークデバイスを介して接続するが、地震影響監視装置10と原子力発電所の制御計測システム100の運転監視用計算機125との間、地震影響監視装置10と地震観測系200の地震観測装置210との間にデータゲートウェイを設けてもよい。
【0030】
原子力発電所の制御計測システム100は、プラント計測器発信器110、入出力装置115、デジタルコントローラ120、運転監視用計算機125、運転監視用フラットディスプレイ表示器130を備える。原子力プラントの現場のプラント計測器発信器110のアナログ信号は、入出力装置115にてAD変換され、デジタルコントローラ120からのアウトプットとして、原子力プラント制御コンソールにある運転監視用フラットディスプレイ130に出力され、運転員による監視に供される。また、上記デジタル信号は、運転監視用計算機125にも入力され、計測値、演算値、機器状態デジタル信号が運転監視用フラットディスプレイ表示器130に出力される。
【0031】
地震観測系200は、地震観測装置210と、原子炉建物の地下階から上層階にかけて配置される建物系地震計220と、原子炉建物地盤に設置される地盤系地震計230と、敷地地表面および地下に配置される敷地系地震計240とを有する。地震観測装置210は、原子力発電所の制御計測システム100から分離されており、地震計測はこれら専用システムで行われる。
【0032】
地震観測装置210は、1gal以下程度の加速度を定められた複数の地震計が検知すると、地震発生トリガ信号を発信する。地震発生トリガ信号は、本監視システム1の起動信号である。地震観測装置210は、地震発生トリガ信号を発信後、中央制御室への警報発報および地震データの収集、震度計算および水平・鉛直方向の最大加速度計測を実施する。収集されたデータは、ファイル化されデータとして保存される。
【0033】
地震影響監視装置10は、CPU(central processing unit)、ROM(read only memory)を有し、ROMからオペレーティングシステムOSを読み出してメインメモリ部上に展開してOSを起動し、OS管理下において、ROMからアプリケーションソフトウェアのプログラム(処理モジュール)を読み出し、GUI(Graphical User Interface)機能や各種処理を実行する。また表示器20、キーデバイス、マウス等の入出力器30と接続しこれらを用いて、コマンド入力を行う。
【0034】
地震影響監視装置10は、プラントのデータをリアルタイムにすべて取り扱うことから負荷が大きいためマルチスレッド対応のマルチCPUを採用することや複数台のPCユニットのアレイ構造としてもよい。
【0035】
地震影響監視装置10の処理部の処理・動作について説明をする。
【0036】
システム起動信号処理部11は、地震観測装置210から発せられた地震発生トリガ信号の受信、保安確認用最大地震加速度波形データの入力、本装置の起動信号処理を担う。
【0037】
データサンプリング部12は、地震発生トリガ信号の受信と同時に、運転監視用計算機125へ、例えば地震発生1分前のプラントパラメータとして全アナログデータおよびデジタルデータのリクエストを行い、データサンプリング部データベースへ読み込みを開始し、地震発生前初期値としてダウンロードする。ここでダウンロードされた地震発生前初期値データをAデータとする。
【0038】
またデータサンプリング部12は、Aデータをダウンロードした以降、地震発生後のプラントパラメータとして運転監視用計算機125のデータを例えば1秒ごとのサンプリング周期で取り込み、逐次、X、Y、Zに区分分けされたデータベースへダウンロードする。ここでリアルタイムにダウンロードされたデータをBデータとする。X、Y、Z区分については後述する。また、計測器フルスケールデータベース15からサンプリングされたパラメータのフルスケール値を呼び出し、差分正規化処理のデータとする。
【0039】
データ処理部13は、区分に応じ、以下のデータ処理を行う。図2は、データ処理の説明図である。データ処理部13は、運転監視用計算機125から受信するアナログデータおよびデジタルデータの差分正規化処理する。これらのアナログデータおよびデジタルデータは、運転監視用フラットディスプレイ表示器130に表示され、運転員がデータを監視できるようになっている。
【0040】
アナログデータは、現場のプラント計測器発信器110から発信される電流もしくは電圧変化による電気信号が入出力装置115でデジタル化され、デジタルコントローラ120を経て、運転監視用計算機125に入力された、デジタル化されたプロセスデータである。
【0041】
デジタルデータは、警報発報ON・OFF信号、機器起動・停止信号、弁全開・全閉信号等、ON・OFFであらわされるデジタル信号である。他に、アナログ信号を基に演算を行い、デジタル化されたデータをいう。
【0042】
アナログデータ(アナログ信号)およびデジタルデータ(デジタル信号)の差分正規化処理について説明する。一般的に、原子力発電所は定格出力運転で運転しており、時間による出力変化がなく、パラメータは緩やかに変化するものもあるが、ほぼ一定であるものが多い。そのため地震発生後のプロセスデータを初期値データと比較すれば変動がわかりやすい。初期値データは、地震発生前のプロセスデータ、例えば地震発生1分前のプロセスデータでありAデータである。
【0043】
地震発生後は、パラメータ値が変動する。パラメータ値は、地震による加振力によって周期的な増減をする場合や、インターロックが動作するとなれば、増または減方向に変化をする。パラメータ全数のプロセスデータ変動値は、地震発生後のリアルタイムのプロセスデータでありBデータである。変動したパラメータ(プロセスデータ)は、B-Aの差分であらわされるが、変動値を絶対値とすることで、プラス方向もしくはマイナス方向に振れても過渡変化が継続しているとみなすようにする。変動値は、差分の絶対値である|(B-A)|で表す。
【0044】
次に、この変動値を正規化するため、計測器フルスケールデータベース15に格納された当該パラメータの計測範囲(フルスケール)を用いて、変動値を百分率に正規化処理する。具体的には計測範囲の下限が0、上限が1000であれば、フルスケールは上限-下限=1000-0=1000となる。このフルスケール値をCデータとし、変動値|(B-A)|をCデータで除算し、これを百分率で表し差分正規化処理データとする。小数点以下は切り捨てとする。
【0045】
アナログデータおよびデジタルデータの差分正規化処理は、信号群をX・Y・Z区分に分類した上で行う。原子炉施設の耐震設計においては、Sクラス、Bクラス及びCクラスからなる耐震重要度分類が使用されるが、本監視システムではこれとは異なる区分けを採用する。X・Y・Z区分のデータ・信号は次の通りである。
【0046】
X区分データ(X区分信号)は、機器の破損、配管からの漏洩を検知するために放射線、漏洩関係パラメータ以外のアナログデータを指す。X区分信号は、のちにいう地震で重要なZ区分信号以外のアナログデータ信号の集合であり、アナログ信号系(放射線、漏洩関係パラメータ以外)の導電率、密度、露点、差圧、流量、液位、湿度、中性子束、濃度、圧力、弁位置、温度、時間、振動、温度差、質量、電流、電位差、周波数、電力、無効電力等であらわされる信号群のことを指す。
【0047】
Y区分データ(Y区分信号)は、プラントの警報、機器動作に関する信号の集合であり、地震の発生により警報に達した、もしくは設置値に到達したことで動作または誤動作したものについての信号群であらわすものであり、デジタル信号系(ON、OFF信号)の警報発報、ポンプ、ファン起動・停止、弁開閉等が該当する。
【0048】
Z区分データ(Z区分信号)は、原子力プラントに対し、プラント機器の漏洩、使用済み燃料プールや炉心に配置している原子燃料の破損、原子炉主蒸気配管からの漏洩を含む原子炉圧力容器の破損、原子炉格納容器への漏洩、原子炉施設内での放射線量上昇に関する重要なパラメータを指す。具体的にはエリア・プロセス放射線量、原子炉格納容器(ドライウェル温度、圧力、露点、サンプ水位)、主蒸気系(主蒸気圧力、主蒸気配管温度、主蒸気放射能、主蒸気流量、主蒸気逃し弁動作信号、主蒸気逃し弁排気管温度)、原子炉(原子炉水位、原子炉圧力)、建屋漏えい系(各建屋 床面漏洩検出器動作、高電導度ドレンサンプ起動信号、使用済み燃料プール、燃料プール水位、復水器水位、復水器真空等)等である。
【0049】
Z区分データは、アナログ信号およびデジタル信号が混合された信号群であり、先に述べた放射性物質の系外放出に係るデータや重要機器の破損を示すデータを指すものである。
【0050】
X区分では、リアルタイムでBデータに対して上記手順で差分正規化処理の演算を行う。演算値が0を超えていれば、次の処理に演算値を出力し、0であれば、出力しないものとする。
【0051】
Y区分では、同様にリアルタイムでBデータに対して上記手順で差分正規化処理の演算を行う。Y区分のBデータは、ON・OFF信号であり、ここではON値を1、OFF値を0とする。フルスケール値であるCデータは1である。地震発生前後で信号がONからOFFへ、あるいはOFFからONに変化した場合に演算値が100となる。演算値が、100であれば、次の処理に演算値100を出力し、0であれば、出力しないものとする。
【0052】
Z区分では、放射線モニタとそれ以外で演算方法を変更する。放射線モニタ値は、初期値より小さくなる方向では問題はない。ただし、フルスケールの下限以下となれば、警報発報するため故障したとみなすものとする。
【0053】
放射線モニタ以外のアナログデータについては、X区分アナログデータ処理と同様に、差分正規化処理演算を行う。この値が0を超えていれば、次の処理に演算値を出力し、0であれば出力しないものとする。放射線モニタ以外のデジタルデータについては、Y区分デジタルデータ処理と同様に、差分正規化処理演算を行う。この値が100であれば、次の処理に演算値100を出力し、0であれば出力しないものとする。
【0054】
放射線モニタデータ(アナログデータ)については、変動値|(B-A)|に代えて、差分(B-A)をCデータで除算し、差分正規化処理を行い、これを百分率で表し差分正規化処理データとする。差分正規化処理データが0を超えていれば、次の処理に演算値を出力し、0以下であれば、出力しないものとする。放射線モニタ値については、初期値より小さくなる方向では問題はないためである。
【0055】
各区分でBデータとAデータとの差分の絶対値|(B-A)|を求めているが、プラントパラメータが初期値に対してプラス側およびマイナス側へ変動する場合、この変動は地震の加振力による変動であるとみなされるためであり、放射線モニタデータ以外は、変動したものとして出力することを考慮している。
【0056】
出力された各区分の差分正規化処理データ(演算値)は、区分毎に集計処理を行い、各々の単位時間当りの集積値(変化量積算値)としてデータ集約部14に出力される。
【0057】
データ集約部14は、データ処理部13で算出された区分毎の単位時間当りの集積値(変化量積算値)を基に、地震発生時から終息までの変化量積算値のトレンドグラフを含む、地震影響評価用データを作成し、表示器20に出力する。
【0058】
図3は、データ集約部14が作成され表示器20に出力された地震影響評価用データの表示例である。データの累積トレンドグラフは、横軸を地震発生トリガ発信時刻を0としての経過時間(SEC)、縦軸を対数目盛で変動データ影響度総数とし、地震発生からX、Y、Z区分の差分正規化処理データの累積値(変化量積算値)をグラフに表したものである。縦軸の対数目盛上限値は、たとえば運転監視用計算機125の全データ総数に100をかけた値を上限としてもよい。横軸の経過時間は、トレンドを記録するため画面右部端までデータが表示されたら、画面がスクロールされ、データ採取を継続する。スクロール画面を縮小表示するために画面横軸下にスクロールボタンが設けられている。
【0059】
図3において上から順番にX、Y、Z区分の順番となっているのは、X→Y→Z区分の順に地震の影響を受けにくいからである。X区分は、地震の規模が小さい場合でも影響を受けやすい。Y区分は、ある程度の変動を受けて設定値に達したら動作する警報やインターロックであり、X区分より規模が大きい地震で影響を受ける。Z区分は、安全重要系もしくは耐震重要度分類で上位にある機器が属しており、プラントに重大な影響を与えるものであるが、X区分、Y区分に比較して地震の影響を受けにくい。
【0060】
運転員は、地震の影響を受けて最初にX区分のデータが変動し、収束することで全体の山の大きさが小さくなり、視覚的にプラントへの影響が緩和されてきたことがわかる。反対に、Y区分、X区分が時間の進行により数値が大きくなり、地震後にプラントへの影響が大きくなっていることが簡単にわかる。
【0061】
図3の表示器20の表示例では、上記累積トレンドグラフの下部に地震発生トリガの起動、停止のON、OFF信号を表示しており、トリガ発生1gal以上の加速度が継続している時間を表す。パラメータの変化量積算値と地震発生とを同時に表示することにより、どのタイミングで変化が生じたかを視覚的に把握できやすくする。
【0062】
また、その下部に保安確認用最大加速度の水平方向波形および鉛直方向波形を表示し、ドローイングすることにより、振幅の大きさが視覚的にわかりやすくするようにする。また右上部には、地震発生日時、水平成分最大値、鉛直成分最大値、震度、初発からトリガ発生地震回数を表示しており、運転員に地震データサマリを表示する。
【0063】
またメニューバーとして地震発生トリガ表示、データ記録表示、収録停止ボタン、データ記憶1ボタン、データ記憶2ボタン、データ記憶3ボタン、X区分総数MAX値ボタン、Y区分総数MAX値ボタン、Z区分総数MAX値ボタン、一括区分総数MAX値ボタンを設ける。
【0064】
地震トリガ発生中の表示は、地震発生トリガのON信号を受信中に表示するものとする。データ記録中の表示は、同じく地震発生トリガのON信号を受信中に表示するものであり、データの収集中であることを運転員に報知する。
【0065】
収録停止ボタンは、データの収集動作を停止するために設けているが、インターロックにより地震発生トリガOFF信号が発生しないと収録は停止されないようインターロックされている。
【0066】
データ記憶ボタン1~3については、ファイル化された過去のデータ採取記録をリロードし、画面に表示する。直近データを1とし、過去になるにつれて、2、3とする。なお、図3ではデータ記憶ボタンを1~3としたが、それより過去のデータをリロードするためのコマンドボタンを設けてもよい。
【0067】
X~Z区分総数MAX値ボタンは、図4に示すような区分、パラメータ名、初期値データA、プラス変動MAXデータB、プラス変動MAXデータ記録時刻、マイナス変動MAXデータB、マイナス変動MAXデータ記録時刻と地震発生トリガ発生時刻を記録したデータシートを別画面に出力するものであり、プラントに対する地震の影響評価を行うものである。一括区分総数MAX値ボタンは、これらX、Y、Z区分の変化を時系列に整理し、すべてのデータを出力するものである。
【0068】
このように、地震発生から地震が終息するまで、さらには地震が終息後のプラントパラメータ変化の評価にも使用することができ、迅速な監視や評価が可能となる。
【0069】
図5は、本監視システム1のデータ処理フロー図である。図5に基づき本監視システム1の動作について説明する。
【0070】
地震が発生すると地震観測装置210は、地震発生トリガ信号を発信する。システム起動信号処理部11は、地震発生トリガ信号を受信すると(ステップS1)、システム起動信号を発する(ステップS2)。これによりデータサンプリング部12は、運転監視用計算機125から1分前の全データをサンプリングし、またリアルタイムデータのデータベースダウンロードを開始する(ステップS3)。続いてデータ処理部13が、X、Y、Z区分毎にリアルタイムデータの差分正規化・累積処理を行い(ステップS4)、データ集約部14が、集約されたデータを単位時間ごとに所定の様式で表示器20に表示する(ステップS5)。
【0071】
またデータ集約部14は、保安確認用最大地震加速度水平・鉛直波形データ、地震発生トリガ発停信号を受信し(ステップS6)、表示器20へ表示する(ステップS5)。また記憶装置内にデータをストアする(ステップS7)。
【0072】
地震発生トリガ発信停止信号を受信後もデータの記録採取を行うが(ステップS8)、収録停止ボタンから収録停止信号が入力されるとデータ収集を終了する(ステップS9)。ただし、地震発生トリガ信号受信中は、データ採取の手動収録停止は行わないインターロックとする。記録したデータをファイル化し、ディスクアレイ装置などに格納する(ステップS10)。地震発生トリガ信号が再発信された場合は(ステップS11)、ステップS3に戻りステップS3からステップS10の処理を繰り返す。
【0073】
以上のように本発明に係るプラント地震影響監視システムは、原子力発電所などプラントに設置されている地震検知手段が地震を検知したらこれをトリガ(地震発生トリガ)として、プラントパラメータを集約している運転監視用計算機125から地震発生の例えば1分前のプロセスデータを取得し、これを基準データとし、運転監視用計算機125から取得するリアルタイムのプロセスデータを差分正規化処理し、地震発生時から終息までの変化したパラメータの総数(大きさ)を単位時間当たりに時系列で累積し、表示するので地震に対するプラントの影響が容易に把握できる。
【0074】
本発明に係るプラント地震影響監視システムは、プラントの機器破損、放射能放出に関する重要度に応じてプラントパラメータをX・Y・Zの区分分けを行うことによって、先に述べた基準地震動に対する重要度分けのS、B、C区分にかかわらず、異常が生じた機器を判別できる。累積されたデータは、地震発生トリガON、OFF信号と最大加速度データの地震波形とX・Y・Z区分データの累積図とを同時に表すことによって、地震の影響が端的にわかる。
【0075】
パラメータの変化は、地震の終息により徐々に地震発生前のデータに収束すると考えられるが、地震の終了後にも変化しているパラメータが残っている場合は、何らかの異常が継続していることが示唆されており、運転員はその変化したパラメータに注目し、プラントの異常を即座に把握することができる。
【0076】
本発明に係るプラント地震影響監視システムは、プラント運転中だけではなく、プラント停止中でも機能できるように構成されている。プラント停止中は、作業による系統の隔離水抜きにより、内部流体がない状態の系統が存在するため、運転中のパラメータ値とは異なっていが、地震発生1分前のデータを基準データとし、その後のパラメータの相対的変化を見るため、プラント停止中でも機能する。なお、機器の隔離水抜きにより、内部に流体が存在しない状態の系統は、内部静水圧荷重がなく、地震による加振力に対する影響は軽減される。
【0077】
プラント停止中、保修作業によりパラメータの電源がない状態や水抜きにより不正な値となっていても、基準データと変動値で相対評価を行うため影響がない。当然、プラント停止中でも共用されているパラメータについては、運転中パラメータと同様に判定される。なお、地震は初発だけではなく、連続して起こる可能性があるため、初発の地震前のデータを保持して評価することにより、最終的なプラントパラメータの変化を把握できる。
【0078】
以上、原子力発電所における地震影響を監視するシステムを実施形態として、本発明に係るプラント地震影響監視システムを説明したが、本発明に係るプラント地震影響監視システムは、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で変更することができる。
【0079】
例えば上記実施形態では、地震発生前の1分前のプロセスデータをAデータとするが、地震発生前の10分間、あるいは30分間のプロセスデータの平均値をAデータとしてもよい。
【0080】
また本システムはスタンドアローンタイプのシステムとしたが、適切なデータゲートウェイを設けて、地震観測装置の地震データを運転監視用計算機に取り込み、運転監視用計算機のアプリケーションソフトウェアとしてもよい。
【0081】
本発明に係るプラント地震影響監視システムは、原子力プラントに限定されるものではなく、同じく装置産業である火力発電所、化学プラントやその他地震計を設置したプラントにも適用することができる。火力発電所、化学プラント等に本発明に係るプラント地震影響監視システムを適用する場合には、プラントの実態に合わせて上記実施形態に示すX,Y,Z区分の内容を変えればよい。またプラントの実態に合わせて、区分数も2区分、4区分に区分けしてもよい。
【0082】
図面を参照しながら好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更及び修正を容易に想定するであろう。従って、そのような変更及び修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0083】
1 プラント地震影響監視システム
10 地震影響監視装置
11 システム起動信号処理部
12 データサンプリング部
13 データ処理部
14 データ集約部
15 計測器フルスケールデータベース
20 表示器
30 入出力器
100 原子力発電所制御計測システム
210 地震観測装置
図1
図2
図3
図4
図5