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特開2022-89401組織補強材装着器及び組織補強材装着キット
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  • 特開-組織補強材装着器及び組織補強材装着キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089401
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】組織補強材装着器及び組織補強材装着キット
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/04 20060101AFI20220609BHJP
   A61L 31/12 20060101ALN20220609BHJP
   A61L 31/06 20060101ALN20220609BHJP
【FI】
A61B17/04
A61L31/12
A61L31/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201774
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上之 康弘
(72)【発明者】
【氏名】船岡 正幸
【テーマコード(参考)】
4C081
4C160
【Fターム(参考)】
4C081AC01
4C081BC02
4C081CA171
4C081CD021
4C081CD022
4C081DA02
4C081DB03
4C081DC02
4C160CC01
(57)【要約】
【課題】貼付型組織補強材を短時間で正確かつ容易に自動縫合器へ装着することができる組織補強材装着器及び該組織補強材装着器を用いた組織補強材装着キットを提供する。
【解決手段】貼付型組織補強材を自動縫合器に固定するための組織補強材装着器であって、板状の部材の両面の対向する位置に溝部を有し、各前記溝部は前記自動縫合器の前記貼付型組織補強材を装着する部位の形状に対応した形状を有し、各前記溝部は前記部材の同一の端まで連続し、各前記溝部の対向する側面はそれぞれ前記貼付型組織補強材を固定するための凸部を有する組織補強材装着器。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貼付型組織補強材を自動縫合器に固定するための組織補強材装着器であって、
板状の部材の両面の対向する位置に溝部を有し、
各前記溝部は前記自動縫合器の前記貼付型組織補強材を装着する部位の形状に対応した形状を有し、
各前記溝部は前記部材の同一の端まで連続し、
各前記溝部の対向する側面はそれぞれ前記貼付型組織補強材を固定するための凸部を有する
ことを特徴とする組織補強材装着器。
【請求項2】
前記部材の前記溝部と連続する端部において、前記溝部の両側の部位が前記溝部の端部より飛び出していることを特徴とする請求項1記載の組織補強材装着器。
【請求項3】
前記凸部を各側面に3個以上、10個以下有することを特徴とする請求項1又は2記載の組織補強材装着器。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の組織補強材装着器の前記溝部に貼付型組織補強材が保持されていることを特徴とする組織補強材装着キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付型組織補強材を短時間で正確かつ容易に自動縫合器へ装着することができる組織補強材装着器及び該組織補強材装着器を用いた組織補強材装着キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数のステープルを埋入したホッチキスタイプの自動縫合器が組織の縫合に用いられている。しかし、肺等への適用においては縫合部からの空気漏れの問題があり、また、軟弱組織への適用においては組織の損傷、断裂等の問題が生じることがあった。
【0003】
そこで、空気漏れや体液漏れ、組織の損傷を防ぐために生体吸収性の補強材が自動縫合器とともに用いられている(例えば、特許文献1、2)。特許文献1、2の補強材は、1枚の生体吸収性不織布の対向する2辺を縫い合わせる、又は2枚の生体吸収性不織布若しくは1枚の生体吸収性不織布と1枚の伸縮性編地を重ねて、対向する2辺を縫い合わせることによって筒状の構造としている。そして、筒の中に自動縫合器のカートリッジの端部を差し込むことで自動縫合器に装着され、組織と一緒に縫合されることで組織を補強する。また、補強後は不要部位を補強材から延出した糸を引っ張ることで分離できるため、作業性が高い。更に、補強材は生体吸収性不織布でできているため、補強が不要になった後は最終的に生体内に吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-047526号公報
【特許文献2】特許第4675237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の自動縫合器に用いられる補強材は、自動縫合器を操作した際にずれが生じないようにするために、組織を補強する生地と伸縮性を有する生地とを組み合わせて筒状とすることで、自動縫合器へ密着させている。しかしながら、自動縫合器のカートリッジは様々なサイズのものが存在しているため、カートリッジの大きさによっては補強材を充分に自動縫合器に密着させることができず、ずれが生じることがある。また、カートリッジの大きさに適合した補強材を用いた場合であっても、生地の縫い目付近には隙間が生じてしまうため、ずれが生じることがある。
【0006】
一方、自動縫合器を用いた内視鏡手術では、患者の体内に筒状のポートを複数本穿刺し、このポートを通して内視鏡や自動縫合器等の器具を挿入する。この際、従来の補強材は自動縫合器のカートリッジ部を取り巻くように装着されていることから、自動縫合器のポート挿入時に補強材が引っかかってしまうことがある。また、カートリッジ部を取り巻くように補強材が存在していることで、補強材を装着した自動縫合器はサイズが大きくなってしまうことから、自動縫合器自体のサイズよりも大きな口径のポートを用いなければ自動縫合器を通すことができない。患者の負担を軽減する観点からは、より口径の小さなポートに通すことができる補強材が求められている。
【0007】
そこで、本願出願人は、生体吸収性材料からなる布状体層と、水溶性高分子からなるスポンジ層とが積層一体化された自動縫合器用縫合補綴材を提案している。このような自動縫合器用縫合補綴材は、スポンジ層が水分を吸収することで粘着力が発生し、カートリッジ部に貼り付けることで自動縫合器に装着することができるため、あらゆるサイズの自動縫合器に用いることができるとともに、ポート通過性が高く、自動縫合器を操作した際にずれを生じ難くすることができる。
【0008】
しかしながら、このような貼付型組織補強材は、水分に浸した後自動縫合器に貼付するため、従来の円筒型の組織補強材よりも装着が煩雑になってしまう。また、装着位置がずれてしまった場合は剥がしてから再度貼りなおす必要があることから、容易かつ正確に貼付型組織補強材を自動縫合器へ装着する方法が求められている。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、貼付型組織補強材を短時間で正確かつ容易に自動縫合器へ装着することができる組織補強材装着器及び該組織補強材装着器を用いた組織補強材装着キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、貼付型組織補強材を自動縫合器に固定するための組織補強材装着器であって、板状の部材の両面の対向する位置に溝部を有し、各前記溝部は前記自動縫合器の前記貼付型組織補強材を装着する部位の形状に対応した形状を有し、各前記溝部は前記部材の同一の端まで連続し、各前記溝部の対向する側面はそれぞれ前記貼付型組織補強材を固定するための凸部を有する組織補強材装着器である。
以下、本発明について詳説する。
【0011】
以下、本発明の組織補強材装着器とその使用対象である貼付型組織補強材について詳述するが、まず、本発明の組織補強材装着器について詳述する。
本発明の組織補強材装着器は、貼付型組織補強材を自動縫合器に固定するための組織補強材装着器である。
貼付型組織補強材は、従来の円筒状の組織補強材と比べてポートへの引っ掛かりがほとんどなく、組織補強材のサイズに関係なく使用できるといった利点がある。しかしながら、貼付型組織補強材を自動縫合器に装着するためには、自動縫合器の所定の位置に貼り付けなければならないため、短時間で正確な装着が難しいという課題があった。本発明の組織補強材装着器を用いることで、装着する人の熟練度に関係なく、短時間で正確かつ容易に貼付型組織補強材を自動縫合器に装着することができる。なお、本発明において「自動縫合器」とは、自動縫合器だけでなく自動吻合器も含まれる。
【0012】
本発明の組織補強材装着器は、板状の部材の両面の対向する位置に溝部を有する。
板状の部材の両面の対向する位置に溝部を設け、この溝部に貼付型組織補強材を保持することで、貼付型組織補強材の輸送、保管時の取り扱い性を向上させることができるとともに、組織補強材装着器ごと貼付型組織補強材を水分に浸し、溝部を自動縫合器で挟むことにより、貼付型組織補強材を2枚同時に自動縫合器に装着することができる。なお、ここで板状とは、自動縫合器を挟み込むことができる程度の厚みを有した平たい形状のことを指す。
【0013】
各上記溝部は上記自動縫合器の上記貼付型組織補強材を装着する部位の形状に対応した形状を有し、各上記溝部は上記部材の同一の端まで連続している。
上記溝部の形状を自動縫合器の貼付型組織補強材を装着する部位の形状に対応した形状とすることで、所定の位置に正確に貼付型組織補強材を装着することができる。また、上記2つの溝部が上記部材の同一の端まで連続していることで、溝が連続している側から自動縫合器を挟み込むことができる。なお、各溝部は部材の1つの端部と連続していてもよく、複数の端部と連続していてもよい。
【0014】
各上記溝部の対向する側面はそれぞれ上記貼付型組織補強材を固定するための凸部を有する。
溝部の対向する側面に凸部を設け、この凸部間に貼付型組織補強材を挟み込んで保持することで、側面が平坦な溝部と比べて貼付型組織補強材をより確実に保持することができる。上記凸部は各溝部の対向する側面に少なくとも2個ずつ存在していればよいが、より確実に貼付型組織補強材を保持する観点から、各側面は上記凸部をそれぞれ3個以上、10個以下有することが好ましく、6個以下有することがより好ましい。なお、上記凸部は、出っ張った形状であれば特に限定されず、V字状のような尖った形状であってもよく、半円状のようななだらかな形状であってもよい。
【0015】
上記溝部の底部間距離は、0.5mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。
溝部の底部間距離が上記範囲であることで、自動縫合器をより確実に溝部に挟み込むことができ、その結果、より確実に貼付型組織補強材を自動縫合器に装着することができる。上記溝部の底部間距離は、1mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることがより好ましい。
【0016】
上記溝部の深さは、0.5mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。
溝部の深さが上記範囲であることで、貼付型組織補強材をより確実に保持することができる。上記溝部の深さは、貼付型組織補強材の厚み±0.5mmであることが望ましく、貼付型組織補強材の厚みが1.0mm以上、1.5mm以下の場合は、0.5mm以上、2.0mm以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の組織補強材装着器は、上記部材の上記溝部と連続する端部において、上記溝部の両側の部位が上記溝部の端部より飛び出していることが好ましい。
溝部の外部と連続する端部において、溝部の両側の部位が溝部の端部より飛び出している、つまり、部材の溝部が連続している端部の形状が凹状になっていることで、飛び出した溝部両側の部位が自動縫合器のガイドとなるため、より確実に所定の位置へ貼付型組織補強材を自動縫合器に装着することができる。上記溝部の両側の部位の飛び出し長さについては特に限定されないが、自動縫合器へのガイド性能と取り扱い性の観点から10mm以上、50mm以下であることが好ましい。
更には、上記部材の上記溝部と連続する端部において、上記溝部の中央部にも飛び出している部位があることが望ましい。上記中央部の飛び出し部は、自動縫合器の口部の奥に挿入することにより自動縫合器のガイドとなるため、より確実に所定の位置へ貼付型組織補強材を自動縫合器に装着することができる。上記溝部の両側の部位の飛び出し長さについては特に限定されないが、自動縫合器への口部の奥行とガイド性能の観点から10mm以下であることが好ましい。
【0018】
上記部材の材料、つまり、本発明の組織補強材装着器の材料は特に限定されないが、貼付型組織補強材を自動縫合器により確実に装着するために、ある程度のクッション性を有することが好ましい。このような材料としては例えば、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、発泡ポリ塩化ビニル、発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタン等や、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。製造時に貼付型補強材を保持させて滅菌、包装を行う場合は、耐熱性や寸法安定性が要求されるため、耐久性の高いシリコーンゴムが好ましい。
【0019】
ここで、本発明の組織補強材装着器の態様と使用法について図を用いて詳しく説明する。図1は本発明の組織補強材装着器の一例を表した模式図である。図1(a)に示すように、本発明の組織補強材装着器1は、板状の部材の両面の対向する位置に溝部2を有している。2つの溝部2は対向する側面に凸部3を有しており、各側面の凸部3間に貼付型組織補強材を保持する。また、2つの上記溝部2は、部材(組織補強材装着器1)の同一の端まで連続しているため、組織補強材装着器1の溝部2が連続している端から自動縫合器を溝部2と完全に噛み合うように挟み込めば、2枚の貼付型組織補強材を同時に自動縫合器の所定の位置に正確に装着することができる。更に、図1(b)に示すように、部材の溝部2と連続する端部において、溝部2の両側の部位が溝部2の端部より飛び出している(以下、飛び出している部位を飛び出し部位4という)と、飛び出し部位4が自動縫合器のガイドとなるため、より確実に貼付型組織補強材を所望の位置へ装着することができる。なお、図1(a)、(b)では、溝部の形状が直方体状となっているが、これは自動縫合器の貼付型組織補強材装着部位の形状によって適宜変更される。
【0020】
図2、3は本発明の組織補強材装着器の使用の様子を模式的に表した図である。図2に示すように、本発明の組織補強材装着器1の使用方法は、まず、2つの溝部2の凸部3間に貼付型組織補強材5を保持させる。本発明の組織補強材装着機は、凸部間に貼付型組織補強材を保持するため、平坦な側面間に貼付型組織補強材を保持するよりも確実に貼付型組織補強材を保持することができる。なお、貼付型組織補強材を保持する操作は手術現場で行ってもよいし、製造時に貼付型組織補強材5を保持させて滅菌、包装、輸送及び保管がされてもよい。次いで、貼付型組織補強材5を組織補強材装着器1ごと滅菌水に浸す。その後滅菌水から取り出し、図3に示すように、溝部2が連続している端部側から自動縫合器6を挿入し、2つの溝部2を挟み込むことで、2つの貼付型組織補強材5が自動縫合器6に同時に装着される。この際、組織補強材装着器1が飛び出し部位4を有していると、飛び出し部位4が自動縫合器6を挟み込む際のガイドとなるため、より確実に所定の位置へ貼付型組織補強材5を装着することができる。
【0021】
上記のように、本発明の組織補強材装着器は、貼付型組織補強材の保持を手術現場で行ってもよいが、溝部に貼付型組織補強材を保持した状態で輸送、保管することで、貼付型組織補強材の取り扱い性を向上させることができるとともに手術現場での作業をより簡略化できるものである。
このような本発明の組織補強材装着器の上記溝部に上記貼付型組織補強材が保持されている組織補強材装着キットもまた、本発明の1つである。
【0022】
本発明の組織補強材装着器の製造方法は特に限定されず、射出成型やプレス成型、切削等の従来公知の方法を特に限定されることなく用いることができる。
【0023】
次に、貼付型組織補強材について詳説する。
上記貼付型組織補強材とは、粘着力によって自動縫合器に固定される組織補強材のことを意味する。上記貼付型組織補強材は、従来の組織補強材に粘着性の物質を塗布又は積層したものや、組織補強材自体が粘着性を有するもの等の粘着性を有する組織補強材であれば特に限定されないが、生体吸収性材料からなる布状体層と水溶性高分子からなるスポンジ層とが積層一体化された貼付型組織補強材であることが好ましい。このような貼付型組織補強材を用いる場合、本発明の効果が大きく発揮される。以下、生体吸収性材料からなる布状体層と水溶性高分子からなるスポンジ層とが積層一体化された貼付型組織補強材について説明する。
【0024】
上記布状体層は組織補強材としての役割を果たすものであり、生体吸収性材料を用いていることから、補強が不要になった後は最終的に生体内に吸収され、体内に異物を長期間残留させることがなく、安全性が高い。上記スポンジ層は貼付型組織補強材に粘着性を付与する役割を果たすものであり、上記水溶性高分子は水分を含むことで粘着性を発現する。なお、ここでスポンジ状とは多数の空隙を有する構造のことを指す。
【0025】
上記積層一体化とは、力を加えても上記布状体層と上記スポンジ層との間で剥離が起き難い程度に両層を接合することを指す。上記布状体層と上記スポンジ層とを積層一体化する方法としては、上記布状体を上記スポンジ層の原料となる水溶性高分子溶液上に浮かべた後に、凍結乾燥を行う方法が挙げられる。布状体層とスポンジ層の界面密着性を高めるためには、上記布状体をプラズマ処理装置等で親水処理を行い、布状体への水溶性高分子溶液の浸透性を改善することが好ましい。
【0026】
上記生体吸収性材料としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、グリコリド-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(p-ジオキサノン)、グリコリド-ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体等のα-ヒドロキシ酸重合体高分子等の合成吸収性高分子や、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、キチン等の天然吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。例えば、上記生体吸収性材料として上記合成吸収性高分子を用いる場合に、天然吸収性高分子を併用してもよい。なかでも、高い強度を示すことから、ポリグリコール酸、ポリ乳酸又は乳酸とカプロラクトンの共重合体が好適である。
【0027】
上記生体吸収性材料としてポリグリコリド(グリコリドのホモポリマー又はコポリマー)を用いる場合、ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は1000000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000以上であると、より確実に組織を補強することができ、1000000以下であると、異物反応をより抑えることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は300000である。
【0028】
上記布状体層の形態は特に限定されず、例えば、編地、織地、不織布、フィルム等いかなる形態であってもよい。なかでも、柔軟性、通気性、ステープルの通り易さ等の観点から不織布であることが好ましい。
【0029】
上記布状体層が不織布である場合、上記不織布の目付は特に限定されないが、好ましい下限は3g/m、好ましい上限は300g/mである。上記不織布の目付が3g/m以上であると、より確実に組織を補強することができ、300g/m以下であると、組織への接着性をより高めることができる。上記生体吸収性不織布の目付のより好ましい下限は5g/m、より好ましい上限は100g/mである。
【0030】
上記不織布を製造する方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0031】
上記水溶性高分子としては、例えば、多糖類系材料、タンパク質系材料等の天然高分子やポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等の合成高分子が挙げられる。自動縫合器用の組織補強材は体内に埋入されるため、生体適合性の高い材料が必要とされる。なかでも、自動縫合器の操作時はずれが生じ難く、縫合終了時には容易に剥離できる程度の粘着力を有することから、上記水溶性高分子は多糖類系材料又はタンパク質系材料であることが好ましい。上記多糖類系材料としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、タンパク質系材料としては、ゼラチン、コラーゲンペプチド、水溶性エラスチン等が挙げられる。
【0032】
上記水溶性高分子は、2%濃度の水溶液にした際の粘度が1mPa・s以上、500mPa・s以下であることが望ましい。上記の範囲の水溶性高分子を用いることでスポンジ層にした際に適度な柔らかさを有し、水分が浸透した後、適度な粘着性を発現し、容易に自動縫合器へ貼り付けることが可能になる。
【0033】
上記スポンジ層は凍結乾燥体であることが好ましい。
スポンジ層を凍結乾燥によって形成することで、気孔形成剤を使わずにスポンジ層が形成できるため、気孔形成剤の除去が不要であり、材料純度の高いスポンジ層を形成できる。凍結乾燥の方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0034】
上記スポンジ層の厚みは、0.5mm以上、10mm以下であることが好ましい。
スポンジ層の厚みを上記範囲とすることで、自動縫合器操作時のずれをより抑えることができるとともに、縫合終了後は容易に剥離できる程度の適度な粘着力に調節しやすくすることができる。上記スポンジ層の厚みは1.5mm以上であることが好ましく、5.0mm以下であることが好ましい。上記スポンジ層の厚みは、スポンジ層を凍結乾燥によって形成する場合は、布状体層に浸す水溶性高分子溶液の量によって調節することができる。また、ここで上記スポンジ層の厚みは、スポンジ層の全面積をダイヤルゲージ(例えば、テクロック社製SMD-565J-L等)によって1箇所/cmの間隔で測定した厚みを平均したもののことを指す。
【0035】
上記スポンジ層の密度は特に限定されないが、0.04g/cm以上、0.2g/cm以下であることが好ましい。
スポンジ層の密度が上記範囲であることで、自動縫合器操作時のずれをより抑えることができるとともに、縫合終了後は容易に剥離できる程度の適度な粘着力に調節しやすくすることができる。
【0036】
上記貼付型組織補強材は、自動縫合器に貼付した際の接着強度が1.5N/cm以上であることが好ましい。
自動縫合器に貼付した際の接着強度が上記範囲であることで、自動縫合器操作時のずれをより抑えることができる。上記接着強度は3.0N/cm以上であることがより好ましい。上記接着強度の上限は特に限定されないが、縫合終了後の剥離を容易にする観点から30N/cm以下であることが好ましい。なお、上記接着強度は具体的には以下の方法で測定することができる。
貼付型組織補強材を8mm幅×40mm長にカットし、予め生理食塩水に浸しておいた自動縫合器(例えば、エチコン社製、エンドパスステープラーECHELON FLEX 60等)の作用面(アンビル側)に10mm長のみ貼付し、3分間押さえつけて接着させる。次いで、自動縫合器の柄の部分を引張試験機(例えば、オートグラフ精密万能試験機AG-X Plus、島津製作所社製等)の下部チャックに装着し、自動縫合器からはみ出た貼付型組織補強材の端部を引張試験機の上部チャックに装着する。その後、引張速度100mm/minにて引張試験を行い、ずれが生じた際の最大荷重を接着強度とする。
【0037】
上記貼付型組織補強材の製造方法は特に限定されず、例えば、上記方法で製造しても良いし、または布状体を底面に敷いた後、水溶性高分子溶液が布状体の下面に流れ込まないようにしたうえで布状体の上に水溶性高分子溶液を流し込み、凍結乾燥によってスポンジ層を形成することによって得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、貼付型組織補強材を短時間で正確かつ容易に自動縫合器へ装着することができる組織補強材装着器及び該組織補強材装着器を用いた組織補強材装着キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の組織補強材装着器の一例を表した模式図である。
図2】本発明の組織補強材装着器の使用の様子を模式的に表した図である。
図3】本発明の組織補強材装着器の使用の様子を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に図を用いて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの態様にのみ限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(1)貼付型組織補強材の製造
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(粘度グレード6:AN6、2%溶液粘度:5.1mPa/s、三菱ケミカルフーズ社製)に蒸留水を加えて8重量%のHPMC水溶液を調製し、φ100mmのシャーレに10g加えた。次いで、HPMC水溶液を加えたシャーレ上に、布状体層としてφ100mmにカットしたポリグリコール酸(PGA)製のシート状不織布を浮かべた。シート状不織布にHPMC水溶液が浸透したのを確認した後、シャーレを-80℃の冷凍庫に15分間入れることでHPMC水溶液を凍結した。その後、凍結したHPMC水溶液を真空凍結乾燥機にて乾燥することで、不織布上にHPMCのスポンジ層(接着剤層)を形成し、貼付型組織補強材を作製した。
【0042】
(2)組織補強材装着器、貼付型組織補強材装着キットの製造
厚み6mmの板状の発泡ポリエチレン(サンペルカL-1000、三和加工社製)を切削加工することで、図1(b)に示すような、対向する側面(長辺)に凸部を5個ずつ有する70mm×14mm×1.5mmの溝部が板状の発泡ポリエチレンの両面に形成された組織補強材装着器を得た。なお、溝部は凸部の形状が高さ2.15mm、半径3mmの半球状、対向する凸部の頂点間距離が9.7mm、凸部の頂点の長辺方向の間隔が14mm、13mm、13mm、14mmとなるように形成した。また、溝部の端部よりも飛び出している部位の長さは20mmとした。
次いで、得られた貼付型組織補強材を溝部に合わせたサイズにカットして接着剤層が上向きとなるように溝部に保持し、貼付型組織補強材装着キットとした。
【0043】
(3)自動縫合器への装着
得られた貼付型組織補強材装着キットを、生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬社製)に5秒間浸漬した。その後図3に示すように、固定部の溝部が端部とつながっている側から自動縫合器(エチコン社製、エンドパスステープラーECHELON FLEX 60)を挿入し、溝部を5秒間挟み込んだ。その後、自動縫合器の組織補強材の装着部位を確認したところ、貼付型組織補強材は所定の位置をずれることなく装着されていた。また、生理食塩水に浸漬してから装着完了までの時間は約30秒だった。
【0044】
(比較例1)
実施例1で製造した貼付型組織補強材を自動縫合器の形状に合わせてカットした。その後、生理食塩水に5秒間浸し、自動縫合器の所定の位置(2箇所)に貼り付けて、厚み2mmの発泡ポリエチレンシートを用いて5秒間抑えることで貼付型組織補強材を装着した。貼付型組織補強材は所定の位置をずれることなく装着されたが、生理食塩水に浸漬してから装着完了までの時間は約90秒だった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、貼付型組織補強材を短時間で正確かつ容易に自動縫合器へ装着することができる組織補強材装着器及び該組織補強材装着器を用いた組織補強材装着キットを提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 組織補強材装着器
2 溝部
3 凸部
4 飛び出し部位
5 貼付型組織補強材
6 自動縫合器
図1
図2
図3