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特開2022-89440構造物の劣化予測装置、構造物の劣化予測方法および構造物の劣化予測プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089440
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】構造物の劣化予測装置、構造物の劣化予測方法および構造物の劣化予測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201837
(22)【出願日】2020-12-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】390034463
【氏名又は名称】株式会社オリエンタルコンサルタンツ
(71)【出願人】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】那須 清吾
(72)【発明者】
【氏名】前田 慎一
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA02
2G050BA02
2G050BA03
2G050BA05
2G050BA09
2G050BA10
2G050EB03
2G050EB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】構造物の劣化予測の精度向上の度合いを分かりやすくする。
【解決手段】構造物のn=1回目の点検に基づいて得られた、複数の面要素に分割した前記構造物の劣化分布を作成する劣化分布作成部と、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する第1の劣化分布設定部と、時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定する第2の劣化分布設定部と、第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の第2の劣化分布の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるように劣化速度補正係数を乗じて、0倍速まで均等にばらつかせる劣化速度補正係数乗算部と、前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布と、前記第2の劣化分布設定部により設定された第2の劣化分布と、が整合するように、劣化予測の劣化表現率を補正する劣化予測装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の劣化予測装置であって、
前記構造物のn=1回目の点検に基づいて得られた、複数の面要素に分割した前記構造物の劣化分布を作成する劣化分布作成部と、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布において、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する第1の劣化分布設定部と、
前記測定誤差を考慮した第1の劣化分布において、時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定する第2の劣化分布設定部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の第2の劣化分布の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるように「劣化速度補正係数」を乗じて、0倍速まで均等にばらつかせる劣化速度補正係数乗算部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布と、前記第2の劣化分布設定部により設定された第2の劣化分布と、が整合するように、劣化予測の劣化表現率を補正する劣化表現率補正部と、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは2以上の最終点検回数)となるまで処理を継続した後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測装置。
ここで、劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合が「劣化表現率」である。
【請求項2】
前記第1の劣化分布設定部は、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項3】
前記劣化分布作成部は、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求める
請求項1又は2に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項4】
劣化予測の要素の数は、100~1000要素である
請求項1~3までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項5】
前記構造物は、実橋である
請求項1~4までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項6】
構造物の劣化予測方法であって、
a)1回目点検を実施し、劣化分布作成ステップにおいて作成した劣化分布を把握するステップと、
b)得られた劣化分布において、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定するステップと、
c)劣化分布設定部が、測定誤差を考慮した劣化分布に時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定するステップと、
d)劣化速度補正係数乗算部が、確定的な劣化予測が、「測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布」の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるまで「劣化速度補正係数」を乗じ、0倍速まで均等にばらつかせるステップと、
e)劣化表現率補正部が、測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布と、誤差を考慮した点検結果の劣化分布と、が整合するように、劣化予測の「劣化表現率」を補正するステップと、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは2以上の最終点検回数)となるまで処理を継続し、その後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測方法。
ここで、劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合が「劣化表現率」である。
【請求項7】
前記第1の劣化分布を設定するステップは、
前記劣化分布作成ステップにより得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする請求項6に記載の構造物の劣化予測方法。
【請求項8】
前記劣化分布作成ステップは、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求めることを特徴とする
請求項6又は7に記載の構造物の劣化予測方法。
【請求項9】
コンピュータに、請求項6から8までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測方法における処理を順次実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の劣化を予測する技術に関する。特に、構造物構築後の所定の年数が経過した時点で行われる点検結果に対して、測定誤差と時間的な誤差とを適用して当該構造物の将来の劣化の予測を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国では、高度成長期以降に整備した実橋(ブリッジ)などの構造物(インフラ)が今後急激に老朽化することが見込まれる。老朽化が進む構造物を計画的に維持管理・更新することにより、国民の安全・安心の確保や維持管理・更新に係るトータルコストの縮減・平準化等を図る必要がある。国土交通省では、構造物の維持管理・更新等を着実に推進するための中長期的な取りみの方向性を明らかにする計画として、予防保全の考え方導入した「国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」を他省庁に先駆けて平成16年5月に策定する等の取り組みを行っている。
【0003】
このため、従来、損傷等が発生した後に対処するという「事後的管理」から、事前に点検し、異常が確認または予測された場合、致命的欠陥が発現する前に速やかに措置するという「予防保全的管理」へと転換し、戦略的に維持管理を実施することで、国民の生命と財産を守り安全・安心を確保するとともに、施設の寿命を伸ばすことでライフサイクルコスト(Life Cycle Cost、以下「LCC」と称する。)の低減を図ることが求められる。
【0004】
橋梁の戦略的な維持管理手法としては、ブリッジマネジメントシステム(Bridge Management System、以下「BMS」と称する。)が注目されており、BMSの精度向上のための研究が進められている。BMSの精度を向上させるためにはLCC算出の精度を向上する必要があり、そのためには劣化予測と実際の劣化とを整合させ様々な補修工法の中からLCCを最小とする工法・タイミング選定の方法および精度の良い補修数量の算出が欠かせない。
劣化予測モデルは、物理モデルと点検データの判別結果を基に、その劣化を統計的に予測するモデル(代表的なものにマルコフ連鎖モデル)がある(下記、非特許文献1参照)。
【0005】
本願明細書では、将来の技術進歩により劣化予測の精度向上が見込める物理モデルを用いることとした。なお、実際の構造物は劣化状態が部材や場所によってばらつくため、劣化予測も実際の構造物の劣化分布を予測できる様にばらつかせる必要がある。しかし、単にばらつかせただけでは、劣化予測の劣化分布と実橋の劣化分布は整合しない。
従って、劣化予測の分布を実橋の分布と整合する様に補正する必要がある。
【0006】
構築済の構造物の劣化分布がばらつくのは種々の要因による。例えば、構築済の実際の橋(橋梁)である実橋の劣化分布がばらつくのは、温度、湿度、飛来塩分量のばらつきや材料のばらつきおよび部材の場所の違いによる風雨の受け方、橋梁周辺の地形の微妙な違いによる温度や湿度の違い等が原因である。
【0007】
これらの原因を個別に考慮するためには、構築済の構造物ごとに種々の原因の特性をつきとめる必要がある。例えば、橋梁ごとにこれら原因の特性をつきとめる必要がある。
さらに、現在の研究成果で考慮することができていない不確定な誤差要因も考えられるため、構造物、例えば、橋梁ごとに材料条件や環境条件のばらつきの特性をつきとめても、劣化予測と実構造物の劣化分布を整合させることは困難である。
【0008】
ここで、構造物の劣化速度(mg/m/時間)は、材料条件や環境条件などの入力条件によって、その速度に影響を受ける。
そこで、飛来塩分量、温度、湿度、材料や周辺環境のばらつきを別個に考慮するよりも、それらを考慮した結果である「劣化速度」について、ばらつきを考慮する方がモデルを単純化できる。
劣化速度(mg/m/時間)は、時間と累積腐食量(mg/m)の関数である。また、劣化度は、累積腐食量(mg/m)から求められ、累積腐食量(mg/m)が変換され得る。
【0009】
既に、発明者らは、劣化予測におけるばらつきを「劣化速度」にばらつきをもたせて考慮することを提案している(下記、非特許文献2)。
実橋の劣化分布は点検結果により得られるが、点検結果には点検を実施した技術者の測定誤差が含まれる。また、ひび割れを測定しても、そのひび割れが、いつその状態になったか不明であるため、ひび割れが発生した時間と点検を実施した時間の誤差(時間誤差)も含まれる。
【0010】
発明者らは、下記の特許文献1において、確定的な予測に対してばらつきを与え、点検結果を用いて劣化予測のばらつきの分布を点検結果のばらつきの分布に補正した上で、ばらつかせた劣化予測に「劣化表現率」という重みを与え、それを点検結果の分布に合うように補正し、これに対して、点検結果に含まれる「測定誤差」と、いつその劣化状態になったかの「時間的な誤差」との範囲で囲まれる範囲を「誤差ボックス」として設定し、劣化予測を補正する方法を提案している。また、1回目点検結果で補正した劣化予測を、2回目点検結果と比較して、補正による効果を検証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2019-15528号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】津田尚胤、貝戸清之、青木一也、小林潔司:橋梁劣化予測のためのマルコフ推移の推定、土木学会論文集、No.801/I-73、 pp.69-82、 2005.
【非特許文献2】工藤 徹郎、ボンコッゲサクルナタコーン、那須清吾:劣化のばらつきを考慮した構造物の補修シナリオ、土木学会論文集E2、 Vol.68 No。4、 pp.316-329、 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の実橋等の構造物の劣化予測の補正技術を用いた場合でも、構造物の劣化予測精度が十分高くないという問題があった。
また、特許文献1に記載の技術では、劣化の度合いを示すのに、「劣化評点」を使っていたため、劣化予測の精度向上の度合いが分かりにくいという問題があった。
そこで、本発明は、構造物の劣化予測の精度を高めることを目的とする。
また、本発明は、劣化予測の精度向上の度合いを分かりやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一観点によれば、構造物の劣化予測装置であって、
前記構造物のn=1回目の点検に基づいて得られた、複数の面要素に分割した前記構造物の劣化分布を作成する劣化分布作成部と、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布において、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する第1の劣化分布設定部と、
前記測定誤差を考慮した第1の劣化分布において、時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定する第2の劣化分布設定部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の第2の劣化分布の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるように「劣化速度補正係数」を乗じて、0倍速まで均等にばらつかせる劣化速度補正係数乗算部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布と、劣化予測により算出された劣化分布と、が整合するように、劣化予測の劣化表現率を補正する劣化表現率補正部と、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは2以上の最終点検回数)となるまで処理を継続した後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測装置が提供される。
ここで、劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合が「劣化表現率」である。また、実橋の中で全く劣化しない箇所(要素)も存在する可能性があり、それを表現するため、最も遅い劣化速度は「0倍速」と称する。すなわち、本発明では、「測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布」と「劣化予測により算出された劣化分布」とを整合させる必要がある。
【0015】
前記第1の劣化分布設定部は、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする。
【0016】
前記劣化分布作成部は、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求める
ことを特徴とする。
【0017】
ここで、本発明では、確定的な予測に対してばらつきを与え、点検結果を用いて劣化予測のばらつきの分布を点検結果のばらつきの分布に補正を行う。ばらつきの考慮方法は確定的な劣化予測を0倍から実橋の劣化を網羅できる任意の倍数にばらつかせる方法である。
また、ばらつかせるだけでは点検結果の劣化分布と整合しないため、ばらつかせた劣化予測に「劣化表現率」と言う重みを与え、それを点検結果の分布に合うように補正する。
【0018】
以上により、劣化予測の密度を変えることで、点検結果の劣化分布と整合した劣化予測が可能である。
本発明においては、補正に用いる点検結果には測定誤差や時間的な誤差が含まれているため、点検結果に対して測定誤差を考慮するとともに、いつその劣化状態になったかの時間誤差を考慮した。
これにより、物理現象として起こり得る劣化速度を網羅的に予測できる。
【0019】
劣化予測の要素の数は、100~1000要素である
ことを特徴とする。
前記構造物は、実橋である
ことを特徴とする。
【0020】
本発明の他の観点によれば、構造物の劣化予測方法であって、
a)1回目点検を実施し、劣化分布作成ステップにおいて作成した劣化分布を把握するステップと、
b)得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、劣化分布設定部が、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定するステップと。
c)劣化分布設定部が、測定誤差を考慮した劣化分布に時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定するステップと、
d)劣化速度補正係数乗算部が、確定的な劣化予測が、「測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布」の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるまで「劣化速度補正係数」を乗じ、0倍速まで均等にばらつかせるステップと、
e)劣化表現率補正部が、測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布と、劣化予測により算出された劣化分布と、が整合するように、劣化予測の「劣化表現率」を補正するステップと、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは2以上の最終点検回数)となるまで処理を継続し、その後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測方法が提供される。
「劣化表現率」は上記した通りである。
【0021】
前記第1の劣化分布を設定するステップは、
前記劣化分布作成ステップにより得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする構造物の劣化予測方法が提供される。すなわち、本発明では、「測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布」と「劣化予測により算出された劣化分布」とを整合させる必要がある。
【0022】
前記劣化分布作成ステップは、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求めることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、コンピュータに、上記に記載の構造物の劣化予測方法における処理を順次実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、構造物の劣化予測の精度を高めることができる。
また、本発明によれば、劣化予測の精度向上の度合いを分かりやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態による構造物の劣化予測処理の流れを示すフローチャート図である。
図2】本発明の実施の形態による構造物の劣化予測処理装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図3】職員が判定した劣化度と専門家が判定した劣化度を比較し、職員の測定誤差の傾向を損傷評価分布図で示す図である。
図4】劣化予測を任意にはらつかせた場合の劣化予測例を示す図であり、横軸は時間、縦軸は劣化度を示す図である。
図5】測定誤差を考慮した劣化表現率の算出例を示す図である。
図6】時間誤差を考慮した劣化度分布のイメージ例を示す図である。
図7】測定誤差と時間誤差の両方を考慮した劣化分布のイメージ例を示す図である。
図8】1回目と2回目の点検を考慮した場合の測定誤差、時間誤差による分布の広がりと、補正に用いる点検回数が増えることによる精度向上の関係を示す図である。
図9】1回目から3回目までの点検を考慮した場合の測定誤差、時間誤差による分布の広がりと、補正に用いる点検回数が増えることによる精度向上の関係を示す図である。
図10】本発明の実施例1における、高知県点検マニュアルにおける劣化度定義を示す図である。
図11図10に続く図であり、損傷程度の区分と損傷の程度の区分を示す図である。
図12】解析対象橋梁位置を示す地図である。
図13】片粕大橋における4年前の時間誤差を考慮した劣化予測を示す図であり、劣化速度補正係数が1倍の場合の例を示す図である。
図14】片粕大橋における4年前の時間誤差を考慮した劣化予測を示す図であり、劣化速度補正係数が7倍の場合の例を示す図である。
図15】片粕大橋における点検結果と劣化予測の比較結果を示す図である。
図16】片粕大橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素)。
図17】片粕大橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(1000要素)。
図18】片粕大橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素と1000要素の比較)。
図19】荷滝橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素)。
図20】轟崎橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素)。
図21】熊野神代橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願明細書では、点検結果に対して測定誤差や時間誤差を考慮した上で、ばらつかせた劣化予測に対して点検結果を用いて補正する。なお、点検データは高知県から提供されるデータを用いて説明するものとする。
尚、本願の関連発明である特許文献1の記載および図面を適宜参照して説明する。従って、これら特許文献1の記載、図面等も、本願明細書の内容に含まれるものとする。
【0027】
(1)劣化予測モデルにばらつきを考慮する方法
1-1)ばらつき考慮の着眼点
実橋の劣化がばらつくのは、温度、湿度、飛来塩分量のばらつきや材料のばらつきおよび部材の場所の違いによる風雨の受け方、橋梁周辺の地形の微妙な違いによる温度や湿度の違い等が原因である。これらの原因を個別に考慮するためには、橋梁毎にこれら原因の特性をつきとめる必要がある。さらに、現在の研究成果で考慮することができていない不確定な誤差要因も考えられるため、橋梁毎に材料条件や環境条件のばらつきの特性をつきとめても、劣化予測と実構造物の劣化分布を整合させることは困難である。一方、劣化速度は材料条件や環境条件などの入力条件によって、その速度に影響を受ける。以上から、飛来塩分量、温度、湿度、材料や周辺環境のばらつきを別個に考慮するよりも、それらを考慮した結果である「劣化速度」について、ばらつきを考慮する方がモデルを単純化できる。よって、劣化予測におけるばらつきは「劣化速度」にばらつきをもたせて考慮する。
【0028】
1-2)ばらつき分布の考慮方法と補正方針
実構造物(本論文では橋梁)を点検すると、特許文献1の図1の例に示すような面的(要素毎)にばらついた劣化状態が得られる。また、要素毎の劣化速度は特許文献1の図2に示す様なイメージとなる。ここで、特許文献1の図2の縦軸は累積腐食量(mg/m)とあるが、腐食速度(mg/m/時間)は時間とともに変化することを示す。また、「劣化度」は累積腐食量から求められ、累積腐食量を劣化度に変換したイメージも示している。
【0029】
特許文献1の図2の劣化速度(時間と累積腐食量および劣化度の関数)は材料条件・環境条件によりばらつく。なお、特許文献1の図1の例は全部で20要素あることから、1本あたり面積で5%の割合を表現していると言える。本明細書では、この劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合を「劣化表現率」と定義する。従来の劣化予測による劣化速度は特許文献1の図3に示すように確定的であるため、劣化のばらつきを考慮することができない。そこで、下記に示すように、確定的に算出した劣化速度を1倍速として、任意の倍数にばらつかせる。
【0030】
1-2-1)
実橋の中で全く劣化しない箇所(要素)も存在する可能性があり、それを表現するため、最も遅い劣化速度は「0倍速」とする。
【0031】
1-2-2)
最も速い劣化速度としては、実橋の劣化分布を把握した上で、確定的に算出した劣化速度と比較し、十分に実橋の劣化分布をカバーできる速度となるように係数を乗じる。この係数を「劣化速度補正係数」と定義する。
【0032】
1-2-3)
倍数の間隔は、一番遅い劣化速度(0倍速)と最も早い劣化速度の間で、実橋の劣化分布を十分にカバーできる間隔とする。ここで、実橋の劣化度分布は特許文献1の図1のa~eの間でばらついているが、倍率の間隔が大きすぎるとaとeの間であるb,cまたはdとなる劣化速度が存在しない状況になるケースもある。
【0033】
ここで、「十分にカバーできる範囲」とは、全ての劣化度を表現できると言う意味である。特許文献1の図4は、以上の要領でばらつかせた劣化イメージであり、確定的な劣化予測に対して、0倍速~4倍速まで0.4倍速刻みにばらつかせている。10本にばらつかせているため、1本の「劣化表現率」は10%となる。
【0034】
しかしながら、劣化予測をこの方法により任意にばらつかせた場合、均等なばらつきとなるため、特許文献1の図2に示す不均等なばらつきである実橋の劣化度分布とは整合しない。従って、補正が必要となる。
【0035】
補正方法としては劣化曲線1本あたりの「劣化表現率」を補正することで、実橋と整合させることができる。特許文献1の図5に劣化予測における「劣化表現率」のイメージを示しているが、特許文献1の図6の劣化割合補正のイメージに示すように、その「劣化表現率(橋面積の割合)」を点検結果に合うように補正する。
尚、本明細書の劣化予測は劣化分布の割合を予測するものであり、具体的な部位等を示すことはできない。
【0036】
1-3)具体的な補正方法
特許文献1の図1に示す実橋モデルと特許文献1の図4に示す劣化予測を用いて、具体的な補正方法を示す。特許文献1の図4は劣化曲線を10本にばらつかせているため、均等に考えた場合、1本あたり橋面積の10%を表現することとなる。しかし、その場合、前述した様に点検結果の劣化度分布と整合しないため、1本あたりの面積を10%から点検結果に合うように補正する。補正方法を下記に示す。
【0037】
1-3-1)
点検結果における劣化度「a」は10%であり、劣化予測の「劣化表現率」も10%であるため、「a」については点検結果と劣化予測の割合は整合しており、補正を実施する必要はない。
【0038】
1-3-2)
点検結果における劣化度「b」は40%である。劣化予測において「b」となる劣化速度は2本あるため、均等に考えた場合の「劣化表現率」は20%となる。しかしながら、点検結果の40%に整合させるために、この劣化速度1本につき、「劣化表現率」を10%から20%(40÷2=20%)に補正する。以上により点検結果と劣化予測の劣化度分布は整合する。
【0039】
1-3-3)
同様に劣化予測において劣化度が「c」となる劣化速度は1本であるため、均等に考えた場合の割合としては10%存在することとなるが、点検結果では25%存在する。従って、この1本あたりの「劣化表現率」は10%から25%に補正することで、劣化度「c」の割合は点検結果と整合する。
【0040】
1-3-4)
同様に劣化予測において劣化度が「d」となる劣化速度は4本あるため、均等に考えた場合の割合としては40%存在することとなるが、点検結果では20%しか存在しない。
従って、この1本あたりの「劣化表現率」を10%から5%(20÷4=5%)に補正することで、劣化度「d」の割合は点検結果と整合する。
【0041】
1-3-5)
最後に劣化予測において劣化度が「e」となる劣化速度は1本あるため、割合としては10%存在するが、点検結果では5%しか存在しない。よって、この1本の「劣化表現率」を10%から5%に補正することで、劣化度「e」の割合は点検結果と整合する。
【0042】
以上の方法により、任意にばらつかせた劣化予測と点検結果の劣化度分布は整合する。この劣化予測1本あたりの「劣化表現率」を補正した上で、将来の劣化を予測することで、実構造物の劣化のばらつきを考慮した予測が可能になる。
【0043】
なお、特許文献1の図1に示す面的な要素は、等分割されているが実橋の点検は特許文献1の図7に示す様に要素毎に面積が異なる場合もある。この場合も面積を考慮した劣化度の割合を点検で得ることができれば、劣化予測の補正は上記の考え方を用いて、補正可能である。
【0044】
以下に、本発明の一実施の形態による構造物の劣化予測技術について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0045】
(2)点検結果の測定誤差を考慮する方法
2-1)概要
上記1においては、点検結果を用いた劣化予測の補正方法について説明した。
しかしながら、点検結果には点検方法、点検条件および、定義した劣化度等の様々な要因によって、劣化予測には誤差が生じる。これらの要因について全てを考慮する方法もあるが、現在の研究においてはそれらの要因の中に不確定な要素もあり、モデルが煩雑となる上に精度向上に限界がある。
【0046】
そこで、本発明では構造物の劣化予測技術における「測定誤差」に着目した。
ここで、「測定誤差」は、様々な誤差要因の作用として、技術者が構造物の劣化度を測定する際に生じる実橋のひび割れ幅の計測誤差や技術者の判断による誤差として扱える。
本発明では、点検から得られる劣化分布に対して「測定誤差」の補正を行った劣化分布を対象に劣化予測の補正を行う。
【0047】
2-2)測定誤差の考慮について
高知県では、職員による実橋の定期点検を実施している。職員の教育訓練の一環として、職員が判定した劣化度と専門家が判定した劣化度を比較し、職員の測定誤差の傾向を分析している。
【0048】
分析結果のある平成28年度においては、図3に示す傾向となっている。ここで、本発明に関係する研究で対象としている劣化は、「ひび割れ」、「鉄筋露出、剥離」、「遊離石灰、うき」であることから、これらの損傷を対象とした分析結果を用いる。
【0049】
本明細書の測定誤差は、この資料の傾向を用いて測定誤差を考慮する。測定誤差の傾向において、正評価は88%、3段階危険側への評価は2%、2段階危険側の評価は3%、1段階危険側の評価は3%、1段階安全側の評価は4%であった。
【0050】
ここで、職員が評価した劣化度(a~e)までが専門家の判断より進んでいると判断した場合を「安全側」と表現し、進んでいない場合を「危険側」と表現している。この傾向を用いた具体的な誤差補正の考慮方法は、職員がa評価とした場合、これ以上、危険側の評価はできないため、正評価と危険側の評価を合わせた割合を「正評価88+3+3++2=96%」とする。また、1段階安全側のb評価とする割合を4%とする。b評価以下も上記と同様に補正を実施する。表1に以上を整理した補正行列を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
(3)測定誤差の具体的な考慮例について
3-1)点検回数が1回の場合の測定誤差の考慮例について
点検結果に測定誤差を考慮した補正例を示す。まずは、特許文献1と同様に、点検回数が1回の場合であって点検要素が2要素の橋梁について説明する。
仮にこの橋梁の点検結果が要素1=a、要素2=cの場合、測定誤差を考慮した劣化分布は表2に示す通りとなる。
【0053】
【表2】
【0054】
ここで、測定誤差を考慮した劣化分布割合の合計は職員の判定に偏りがあるため、1.045となり1.000とはならない。そこで、発明者は、劣化分布の合計は1.000になるように全体を割り戻すことに想到した。
以上を踏まえた測定誤差を考慮した場合の劣化分布を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
以上より、高知県職員が2要素の橋梁を点検し、要素1=a、要素2=cと判断した場合、最終的には劣化度aの割合0.459、劣化度bの割合0.057、劣化度cの割合0.445、劣化度dの割合は0.024、劣化度eの割合0.014となる。また、仮にこの橋梁の劣化予測が図4に示した結果となる場合の劣化表現率は図5に示す通りとなる。
【0057】
3-2)点検回数が2回の場合の測定誤差の考慮例
本発明の実施の形態では、2回以上の点検結果を用いることを特徴とする。
まず、点検回数が2回の場合であって点検要素が2要素の橋梁を考える。仮にこの橋梁の点検結果が1回目点検で要素1=a、要素2=c、2回目点検で要素1=b、要素2=cの場合、測定誤差を考慮した劣化分布は表4に示す通りとなる。
【0058】
【表4】
【0059】
ここで、2回の点検結果は5×5=25通りの組み合わせとなるが、正しい劣化判断を行えば、劣化が自然に改善することはありえないため、b→a、c→bやc→a等の組み合わせを無視することができる。但し、点検と点検の間の期間で補修が実施されている場合は改善が見込まれるため、劣化度の改善を考慮する。
【0060】
また、劣化予測速度は1回目点検結果に対し測定誤差と後述する時間誤差を考慮した上で最大と考えられる劣化速度も予測対象としている。これは点検結果を踏まえた劣化速度としては最大の速度と考えらえる。
【0061】
従って、この劣化予測速度を超える劣化度となるものは、物理現象として生じないと考え、劣化予測の対象外とする。例えばb→dやb→eといった5年後に劣化度が2段階以上進む点検結果が得られる場合がある。劣化予測において環境条件が厳しい場合は5年間で劣化度が2段階以上進む速度となる場合もあるため、その場合は、この様な点検結果も劣化予測の対象とする。
【0062】
また、劣化予測において、5年間で2段階以上進む速度がない場合、今回の劣化予測は物理モデルで行っており、この物理劣化予測モデルを超える範囲の劣化は現実的に生じないと考えられることから、異なる要因による劣化又は損傷と考え、本発明の補正の対象外とする。
【0063】
また、測定誤差を考慮すると劣化度がa→dやa→e等の様に大幅に進行する場合が生じる。表4の例ではa→c、a→d、a→e、b→d、b→e、c→eは劣化予測を超える範囲と考えられるため検討の対象外とする。
【0064】
以上を考慮した2回目点検結果の合計に対し1.000になるように割戻の調整を行った結果を表5に示す。今回の例では結果として、a→a、a→b、b→b、b→c、c→cとc→dが残る結果となる。2回目以降の点検結果についても同様に考慮することで劣化分布を表現することができる。
【0065】
【表5】
【0066】
(4)点検結果の時間誤差を考慮する方法
4-1)概要
定期点検は5年に1度などと決められているため、いつその「劣化」が生じたか分からない。すなわち、実橋の劣化程度は経時的に変化しており、点検で発見された「ひび割れ」や「鉄筋露出、剥落」等の損傷がいつその状態になったか等、点検時と損傷発生時の時間的な誤差が生じる。その誤差は点検が5年に1回実施されることを踏まえると。最大4年の誤差があると考えられる。
【0067】
点検結果は、この「時間誤差」も考慮した劣化分布として求める必要がある。ここで点検結果に「時間誤差」を考慮する方法について説明する。
時間誤差の考慮は点検時の点検において劣化分布が得られるが、この劣化分布が点検時の1年~4年前に生じていたと仮定すると、図6に示すように、当初の条件で予測した劣化曲線より劣化速度が速い劣化曲線が得られる。これが時間誤差を考慮した劣化曲線であり、この劣化曲線から得られる劣化分布が時間誤差の劣化分布となる。
【0068】
劣化予測においては、点検結果から得られた劣化分布には前述した測定誤差による劣化分布と、この時間誤差による劣化分布を考慮する。
【0069】
なお、現時点では時間的な誤差を生じる確率は不明であるが、点検結果時の劣化分布となる累積確率は、5年前の時点は「0」、点検実施時までには「1」となる。現時点では、どの時点でその劣化が生じるのか不明であるため、この確率分布関数を、最も簡単な1次関数で想定すると式(1)となる。
P(x)=0.2x (1)
ここで、P(x)は累積確率、xは前回の点検実施から経過した時間(年)である。
【0070】
4-2)時間誤差の考慮について
式(1)を微分すると右辺は0.2と定数になるため、点検実施時の劣化分布になる確率は4年前~点検実施時まで各年で20%となる。上記のように時間的な誤差によって、1橋につき劣化予測モデルは5本派生し、各々の劣化予測が有する確率は20%となるため、「劣化表現率」にはこの確率も加味する必要がある。
但し、時間誤差を考慮すると劣化速度が速い劣化予測を考慮することとなるが、劣化速度が速すぎて点検結果と合わない劣化曲線が得られる場合がある。その場合の劣化曲線の劣化表現率は、0%とする。
【0071】
5)予測する劣化分布のまとめ
5-1)劣化分布の考慮による精度への影響について
これまで、確定的な劣化予測に対して、ばらつきによる分布を与え、これに点検の測定誤差による補正分布と時間誤差による補正分布を考慮してきた。測定誤差と時間誤差の両方を考慮した劣化分布のイメージを図7から図9までに示す。図7から図9までに示すように、1回目点検時において、当初の劣化予測分布に対し、測定誤差による補正分布と時間誤差による時間誤差分布を考慮すると、当初の劣化予測分布より広い範囲を予測対象としなければならなくなることが分かる。また、2回目点検時においても同様に測定誤差と時間誤差を考慮すると当初の劣化予測分布より広い範囲となるものの、1回目点検時よりも予測範囲が狭くなっていることが分かる。本劣化予測は劣化曲線に劣化表現率と言う密度を与えて予測する手法である。
【0072】
よって、劣化予測の範囲が狭くなると言うことは、劣化曲線の密度が濃くなることを意味するため、密度が濃い劣化曲線程、予測精度が高まっていることを示している。以上から、測定誤差や時間誤差を考慮することによって、一旦予測範囲が広がることとなるが、点検による補正を繰り返すことで精度は高まると考えられる。
【0073】
5-2)点検結果の補正と劣化予測の流れ
以上を踏まえ、点検結果の補正と劣化予測の補正の流れを以下に示す。図1は、本実施の形態による構造物の劣化予測処理の流れを示すフローチャート図である。また、図2は、本実施の形態による構造物の劣化予測処理装置Aの一構成例を示す機能ブロック図である。
【0074】
処理の流れを図1および図2を参照して以下に説明する。
a)1回目点検を実施し、劣化分布作成部1において作成した劣化分布を把握する(ステップS1でn=1、ステップS2)。
b)ステップS2で得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、劣化分布設定部3が、測定誤差を考慮した劣化分布を設定する(ステップS3)。
【0075】
c)劣化分布設定部5が、測定誤差を考慮した劣化分布に時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布を設定する(ステップS4)。
d)劣化速度補正係数乗算部7が、確定的な劣化予測が、「測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布」の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるように「劣化速度補正係数」を乗じ、0倍速まで均等にばらつかせる(ステップS5)。すなわち、劣化予測に劣化速度補正係数を乗じ、0倍速から最も劣化度が進んだ劣化分布を網羅するまで劣化速度を均等にばらつかせる。
【0076】
e)劣化表現率補正部11が、「測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布」と劣化分布が整合するように、劣化予測の「劣化表現率」を補正する(ステップS6)。
すなわち、劣化予測から得られた劣化分布と誤差を考慮した点検結果の劣化分布が整合するように、劣化予測の「劣化表現率」を補正する。
以下、n=m(mは最終点検回数)となるまで(ステップS7)、n+1として(ステップS8)処理を継続し、その後に処理を終了させる(end)。
【0077】
尚、上記の処理に関して発明、ハードウェア処理で行っても良いし、ソフトウェア処理で行っても良い。
本発明では以上の調整を、点検を実施する毎に行うことで、劣化予測の精度が向上すると仮説を立てている。
【実施例0078】
[実施例1]
以下、実施の形態による構造物の劣化予測処理装置Aを用いた劣化予測の実施例について説明する。
【0079】
(実橋における劣化予測の実施例)
上記において、点検結果を用いた劣化予測の補正方法と点検結果が多いほど誤差の範囲が狭くなり、劣化予測の精度が向上する仮説を示した。ここでは高知県の点検データを用いて、実際の橋梁の劣化予測と点検結果を用いた補正と劣化予測の精度について検証する。
【0080】
(1)高知県における点検システム概要について
点検データは高知県で5年に1回実施する定期点検のデータを用いる。高知県では職員による点検を実施しており、平成31年3月現在で、2順目(2回目)の点検を実施している状況である。
【0081】
高知県の点検システムでは、図10および図11に示す指標によって、劣化度を判定する。特許文献1の図1図4(本願)に示す様な要素毎に劣化度を集計することで、橋梁毎の劣化のばらつきの情報を得ることができる。なお、本論文の解析は高知県管内の橋梁の中で、点検結果が3回以上データベースに登録されているPC橋の「片粕大橋」、「荷滝橋」、「轟崎橋」、「熊野神代橋」等を対象として実施した。それらの実橋の地図に示した図が図12である。
劣化予測処理は、点検結果の測定誤差および時間誤差を考慮した上で、点検結果による劣化予測の補正過程を示す。
【0082】
また、点検で補正しない劣化予測と1回目点検で補正した劣化予測、1回目と2回目点検結果で補正した劣化予測、及び1回目~3回目点検結果で補正した劣化予測の結果と3回目点検結果との比較による精度検証について説明する。
【0083】
(2)実橋における点検結果
2-1)橋梁(解析)諸元
「片粕大橋」、「荷滝橋」、「轟崎橋」、「熊野神代橋」は、1973年~1998年に架設されたPC橋である。また、詳細な構造図や配筋図が存在しないため、建設省標準図集や同じ示方書(S36年プレストレストコンクリート道路橋示方書)、S43年プレストレスとコンクリート道路橋示方書により設計された同規模の類似橋梁の設計図等を参考に、必要な諸元を想定した上で解析を実施する。表6に解析諸元を示す。
【0084】
【表6】
【0085】
2-2)測定誤差を考慮した1回目点検結果について
解析対象の4橋の点検実施年は表7に示す通りとなっている。
【0086】
【表7】
【0087】
1回目点検は「片粕大橋」において2008年(供用24年)、「荷滝橋」は2009年(供用33年)、「轟崎橋」は2010年(供用37年)、「熊野神代橋」は2008年(供用10年)に1回目の点検を実施している。
2回目以降の点検は、基本的に1回目点検から5年経過毎に実施することとなるが、点検計画上5年未満の橋梁も存在する。
【0088】
上述した様に、ここで得られた点検結果は測定誤差を含んでいると考えられることから表1に示す測定誤差の補正行列により、得られた点検結果を補正する。
なお、本発明の劣化予測の劣化速度は1回目点検結果を用いて設定するため、1回目点検結果に測定誤差を考慮した劣化度分布を設定する。
補正の例として、ここでは表8に片粕大橋における1回目点検結果、表9に測定誤差の補正行列により補正した点検結果を示す。
【0089】
【表8】
【0090】
【表9】
【0091】
また、本発明の劣化予測の対象となる1から3回目の点検結果を表10に示し、測定誤差を考慮して補正した1~3回目の点検結果を表11に示す。
【0092】
【表10】
【0093】
【表11】
【0094】
さらに上記において説明したように、測定誤差を考慮した1~3回目の点検結果に対して補正が必要になる。
補正は、1回目から2回目、あるいは、2回目から3回目点検において、劣化度が2段階以上進んでいるものが物理現象の範囲か範囲外か否かを確認し、範囲外の点検結果は除外する。
確認方法は、考えられる最大劣化速度を考慮した劣化予測との比較により行う。
【0095】
表11は、劣化予測の本数を示しており、2段階以上劣化が進んだ結果と劣化予測の比較ができる様にしている。
ここで、劣化度が2段階以上進む現象に対応する劣化予測が0本であるもの(太字箇所)は範囲外と考える。範囲外を除外し劣化度分布の合計が1.000になるように割り戻した結果を表12に示す。
【0096】
【表12】
【0097】
(3)点検結果を用いた劣化予測の補正
3-1)概要
次に、解析対象橋梁に対して点検結果を用いて劣化予測の補正を実施する。点検結果を用いた劣化予測の補正方法は上記の実施の形態で説明した方法を用いる。
また、ここでは、片粕大橋について点検で補正しない劣化予測と、1回目点検で補正した劣化予測、1回目と2回目点検結果で補正した劣化予測、及び1回目~3回目点検結果で補正した劣化予測を、点検結果と比較する具体的な例で示した。そして、補正する点検回数が劣化予測に与える精度を検証する。
他の解析対象橋梁については簡単に説明する。
【0098】
3-2)初期解析における劣化速度係数の設定
本発明では、確定的な劣化予測に対して任意の倍数を与えて実橋のばらつきに補正することを提案している。従って、解析対象橋梁の確定的な劣化予測に「0倍速~実橋の劣化分布を網羅できる範囲の倍速」を乗じて任意にばらつかせ、測定誤差行列で補正した点検結果を用いて劣化予測を補正する流れとなる。
【0099】
ここで、上記の「実橋の劣化分布を網羅できる範囲の倍速」とは、ばらつかせた劣化予測で最も進行している劣化度と実橋の点検結果で最も進行している劣化度が同じになる倍速をいう。
【0100】
なお、実橋の劣化分布は点検結果から得られるが、点検結果には上述した様に測定誤差と時間誤差を考慮する必要がある。すなわち、「実橋の劣化分布を網羅できる範囲の倍速」は、点検実施時から4年遡った点検結果の劣化分布と、劣化予測の劣化分布を比較して決めると、4年前の供用20年目に1回目点検結果で得られた劣化分布となる可能性を考慮する必要性がある。
【0101】
1回目点検結果では、表9に示す様に、eの割合が6.1%存在する。従って、時間誤差を考慮する場合、供用20年目で劣化度eが存在することを考慮する必要がある。一方劣化予測は、1倍速で供用20年目を予測すると図13に示すように、劣化速度が遅いためeは存在しない。
【0102】
従って、実橋の劣化分布を網羅できるように任意の倍数を劣化速度に乗じる必要がある。倍数を徐々に上げていった結果、供用20年目で劣化度eが存在するためには、倍数を7とする必要がある。従って、片粕大橋においては「0倍~7.0倍まで0.07倍間隔(100要素)でばらつかせる」ことによって、「0倍速~実橋の劣化分布を網羅できる範囲の倍速」でばらつかせたことになる。
【0103】
図14は、片粕大橋の4年前の時間誤差を考慮した劣化予測を示す図であり、劣化速度補正係数7倍の場合の図である。
図14に示すように、解析結果の劣化分布は点検結果の劣化分布を網羅することができる。本発明では、この任意の倍数のことを「劣化速度補正係数」と称する。
なお、同様に他の解析対象橋梁に対して劣化速度補正係数を設定した結果、荷滝橋の劣化速度係数は0.1、轟崎橋の劣化速度係数は5、熊野神代橋の劣化速度係数は717となった。
【0104】
3-3)片粕大橋の劣化予測の精度について
次に、1~3回目の点検結果に対し、劣化予測の適合度を確認する。表12に示す対象とする点検結果に対し、太字で示すように劣化予測が存在しない劣化度がある。これは100本の劣化予測では予測の間隔が大きく、予測することができなかったことを示している。予測できなかった劣化度を除いて劣化度分布を集計した結果を表13に示す。
【0105】
【表13】
【0106】
表13に示すように、劣化度の合計は0.913となる。これが劣化予測を100本にばらつかせた場合の劣化予測の精度となる。
【0107】
3-4) 片粕大橋の劣化予測結果について
片粕大橋について、上述した結果を整理して劣化予測の精度検証を行う。以上に説明した手法を用いて、点検で補正しない劣化予測と1回目点検で補正した劣化予測、1回目と2回目点検結果で補正した劣化予測、及び1回目~3回目点検結果で補正した劣化予測の結果を表14から表17までに示す。
【0108】
【表14】
【0109】
【表15】
【0110】
【表16】
【0111】
【表17】
【0112】
また、表12に示す片粕大橋の点検結果とそれぞれの劣化予測の結果を重ね合わせたグラフを図15に、点検結果と劣化予測の劣化度の割合について、小さい値÷大きい値×点検結果の確率関数を合計した整合度を図16に示す。
【0113】
劣化予測の精度について、表14に示す様に、まず点検結果で補正しない劣化予測は100本の劣化予測のうち、1本毎の劣化表現率は全て同じ0.010を初期値としている。図15に示すように、全体的に点検結果と整合している度合いが少なく、図16に示すように、整合度は0.235となっている。
【0114】
同様に、1回目点検のみで補正した劣化予測は点検結果で補正しない点検結果に対して大幅に精度が向上していることが分かる。aaa、dee及eeeと言った割合が比較的大きい劣化度に対しては、ある程度整合していることが分かる。
ただし、bbb、bccと言った比較的割合の小さい劣化度に対して、点検結果はほとんど割合が無いのに対し、劣化予測は3.0%程度の割合がでており、整合していない。
【0115】
図16の整合度は0.802となっていることから、8割程度の精度となっている。
点検1回目と2回目で補正した劣化予測は、図15を見ると、点検1回目で補正した劣化予測に見られたbbbやbccと言った割合の低い劣化度の不整合に対して改善が見られており、点検結果と同様にほとんど割合が無い結果を得ている。
ただし、劣化度の割合が大きいaaaやdee及びeeeに対して、やや点検結果との不整合が見られる。
【0116】
図16に示すように、全体的な整合度は0.818であり、結果的には1回目点検で補正した劣化予測と比較して大きな精度向上とはなっていない。
最後に、点検1~3回目の点検で補正した劣化予測は、どの劣化度に対しても点検結果と整合している。しかし、aabやabcといった劣化度に対し、点検結果では割合があるが、これらの劣化度を予測することができなかったため、図-16に示す整合度は0.913となっている。
【0117】
しかし、片粕大橋において、点検結果を用いて劣化予測を補正することで、劣化予測の精度が向上する結果を得ており、補正する点検回数が増えることで劣化予測精度が向上していることが分かった。
【0118】
次に片粕大橋について1~3回目の点検結果で補正した劣化予測のaabやabcといった劣化度を予測できなかった課題に対して、要素数を増やし1000要素で予測した場合の精度への影響を検証する。
解析結果を表18に、点検結果と1回目~3回目点検結果で補正した劣化予測100要素の場合及び1000要素の場合の比較を図17に、100要素の場合と1000要素の場合の整合度を図18に示す。
【0119】
【表18】
【0120】
点検1回目~3回目点検結果で補正した劣化予測について100要素の場合と1000要素とを比較すると、表17と表18及び図17を見ると、ほぼ傾向は同じであるが、1000要素に増やすことによって、abbやbbcといった100要素では予測できなかった割合の低い劣化度に対して、1000要素では予測できるようになっている。しかし、その割合は合計で0.066程度であり、図18に示す様に100要素で0.913だった整合度が1000要素では0.920とわずかな精度向上しか見込めない結果となった。
【0121】
以上の結果から、片粕大橋の事例では要素数を、100要素を1000要素に増やしても、大幅な精度向上が見込めない結果となることが分かった。従って、100要素程度の分割でも十分であることがわかった。
【0122】
3-5) 荷滝橋、轟崎橋、熊野神代橋の補正結果
荷滝橋、轟崎橋、熊野神代橋について、片粕大橋と同様に、1~3回目点検結果の補正前と補正後及び、点検で補正しない劣化予測と1回目点検で補正した劣化予測、1回目と2回目点検結果で補正した劣化予測、及び1回目~3回目点検結果で補正した劣化予測の結果と点検結果との比較による精度検証を行った。
図19は、荷滝橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素)。
図20は、轟橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素)。 図21は、熊野神代橋における点検結果と劣化予測の整合度を示す図である(100要素)。それぞれ、図16に対応する図である。
【0123】
詳細は省略するが、点検結果の補正前、補正後の比較、劣化予測の結果の比較を行ったところ、荷滝橋、轟崎橋、熊野神代橋とも、点検結果で補正しない場合の劣化予測の精度は良く無いことが分かった。
一方、1回目点検結果で補正することで大幅に予測精度が向上し、1,2回目点検結果及び1~3回目点検結果で補正する毎に予測精度が向上しており、片粕大橋と概ね同様の傾向を示していることが分かった。また、実橋における点検結果と劣化予測の整合度は、図16と同様である。従って、本発明の予測補正技術には、汎用性があることがわかった。
【0124】
(まとめ)
以上の劣化予測の解析結果と点検結果についてまとめる。
(1)片粕大橋、荷滝橋、轟崎橋、熊野神代橋の4橋は点検結果で補正しない劣化予測の精度は悪くなっている。
これは、本実施例の劣化予測技術は、測定誤差や時間誤差を考慮して広範囲を予測対象としており、広範囲の劣化分布のうち、最も劣化速度が速いものを対象に劣化速度係数を設定し、確定的な劣化予測をばらつかせている。
【0125】
これら4橋の実際の劣化分布において、劣化速度が速い割合は小さいが、点検結果で補正しない劣化予測は均等な割合となるため、実際の劣化分布との乖離は大きくなる傾向になると考えられる。
【0126】
(2)4橋は、より多くの点検結果で補正した劣化予測の精度が良くなることがわかった。図8図9に示すように、点検結果が多くなる毎に劣化の経緯が明確になる。本発明の劣化予測は点検結果と整合する劣化予測を残して密度を増やし、整合しない劣化予測は除外している。
【0127】
従って、劣化の経緯が整合する劣化予測が残り、その密度が濃くなることによって、精度が向上していると考えられる。
【0128】
(3)片粕大橋において、劣化予測の本数を100本とした場合と1000本とした場合で予測精度の比較を行い、大きな差が無いことを確認した。
【0129】
これは、表17、表18に示すように、本発明の劣化予測は劣化速度係数を乗じることから、劣化の速度が速い分布に対して劣化予測本数が多くなり、その場合、劣化速度が遅い分布に対しては劣化予測本数が少なくなる傾向にある。
【0130】
片粕大橋のように、3回の点検による劣化の経緯において、「aab」、「abb」や「abc」のような劣化速度が遅い範囲に対しては劣化予測本数が少なくなり、劣化予測が点検結果の経緯と整合しにくい傾向となる。これは、劣化予測の本数を100本から1000本にしても多少の精度向上はあるが、傾向としては変わらないためと考えられる。
【0131】
(結論)
本発明は、実用的なBMSを開発する際の課題の一因となっていた、劣化予測にばらつきを考慮し、さらに、測定誤差や時間誤差を考慮した点検結果を用いて劣化予測補正モデルを提供するものである。
【0132】
(1)本発明では、確定的な予測に対してばらつきを与え、点検結果を用いて劣化予測のばらつきの分布を点検結果のばらつきの分布に補正する方法を提示した。ばらつきの考慮方法は確定的な劣化予測を0倍から実橋の劣化を網羅できる任意の倍数にばらつかせる方法を提案する。
また、ばらつかせるだけでは点検結果の劣化分布と整合しないため、ばらつかせた劣化予測に「劣化表現率」と言う重みを与え、それを点検結果の分布に合うように補正する方法を提案する。
【0133】
以上により、劣化予測の密度を変えることで、点検結果の劣化分布と整合した劣化予測を可能とした。
【0134】
(2)補正に用いる点検結果には測定誤差や時間的な誤差が含まれているため、点検結果に対して測定誤差を考慮するとともに、いつその劣化状態になったかの時間誤差を考慮した。
これにより、物理現象として起こり得る劣化速度を網羅的に予測できることがわかった。
【0135】
(3)高知県管内の塩害を受ける橋梁の中から、3回目点検を実施している片粕大橋を始めとした4橋に着目して、本発明の劣化予測モデルを適用して解析を行った。
確定的な劣化予測に与える任意倍数を示すとともに、点検結果で補正した劣化予測は、点検結果で補正しない劣化予測よりも予測精度が向上することがわかった。
また、点検結果による補正についても回数が増える毎に予測精度が向上することがわかった。
【0136】
(補足)本発明で用いた劣化予測モデル
本発明で用いる劣化予測モデルはこれまでの既往研究成果を用いて構成している。劣化予測モデルは飛来塩分ひび割れモデル、剥落モデルから構成される。飛来塩分量算出モデル、塩化物イオン移動モデル、腐食モデル、水分の移動モデルは、1次元の物質移動方程式を用いる。量算出モデルは小窪モデル(小窪 幸恵,岡村 甫:海水飛沫の発生過程に着目した飛来塩化物イオン量の算定モデル,土木学会論文集B, Vol.65 No.4, pp.259-268, 2009.8)を用いる。
【0137】
塩化物イオン・腐食モデルは環境の変化、電気防食や補修効果を考慮できる電気化学腐食モデル(前川宏一,石田哲也,岸利治:Multi-Scale Modeling of Structural Concrete9)を用いる。
【0138】
ひび割れモデルはFEM 解析と腐食ひび割れ実験から求めた提案式(Lukuan Q., 関 博:鉄筋腐食によるコンクリートのひび割れ発生状況及びひび割れ幅に関する研究,土木学会論文集,No.669/V-50, pp.161-171, 2001.)を用いる。
剥落モデルは腐食深さが限界値を超えるとかぶりが剥落することをFEM解析と実験から求めた提案式(鳥取誠一,宮川豊章:初期塩化物イオンの影響を受ける場合の鉄筋腐食に関する劣化予測,土木学会論文集,No.781/V-65, pp.157-170, 2005. (2020. 8.14 受付)を用いる。
【0139】
本明細書における処理および制御は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)によるソフトウェア処理、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理によって実現することができる。
【0140】
また、上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0141】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
また、本実施の形態で説明した機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0142】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また前記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。機能の少なくとも一部は、集積回路などのハードウェアで実現しても良い。
【0143】
(付記)
尚、本発明は、特許文献1に関する以下の開示および上記の記載に基づくその改良発明の開示を含む。
【0144】
(参考)
(発明1)
複数の面要素に分割されている実構造物について点検者が行った点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた腐食量(mg/m)を把握する工程と、
分割した前記複数の面要素ごとの前記腐食量(mg/m)と構築時から前記点検を行ったときまでの経過時間(年)とに基づき、劣化予測速度(mg/m/時間)を表す曲線である劣化予測曲線を、横軸を構築時からの経過時間(年)、縦軸を累積腐食量(mg/m)として複数の面要素に分割されている前記実構造物について点検者が行った前記点検に基づいて表す工程と、
分割した前記複数の面要素ごとの前記劣化予測曲線1本あたりが表現している前記実構造物における表面積の割合を劣化表現率として把握し、確定的に算出した劣化予測速度を1倍速として、前記点検を行ったときにまったく劣化していない最も遅い劣化予測速度を0倍速とし、最も速い劣化速度として前記実構造物の劣化分布を把握した上で確定的に算出した劣化速度と比較し、累積腐食量(mg/m)から求められ累積腐食量(mg/m)が変換され、前記実構造物の劣化状態である劣化度を、分割した前記複数の面要素のすべてにわたって表現できる倍速とし、確定的に算出した劣化予測速度に、最も遅い劣化速度と最も早い劣化速度の間で前記実構造物の劣化分布に対応する間隔に相当する所定の間隔の倍率をそれぞれ掛けて、最も遅い劣化速度から最も早い劣化速度まで前記所定の間隔の倍率で刻んでばらつかせた複数の劣化表現率を得る工程と、
前記劣化予測曲線1本あたりの、前記ばらつかされた劣化表現率を前記実構造物について点検者が行った前記点検結果の劣化表現率に合うように補正することで、前記実構造物について点検者が行った前記点検結果と整合させる補正を行って前記劣化予測曲線1本あたりの、前記ばらつかされた劣化表現率を補正した劣化表現率を得る工程と、
前記実構造物の劣化状態を表す複数の劣化度に応じてそれぞれ所定の点数を定義し、定義した劣化度ごとの点数に、各劣化度の前記実構造物の面積割合を乗じ、その合計を劣化評点とする工程と、
分割した複数の面要素ごとの前記劣化評点を劣化予測速度を表す劣化評点曲線として、横軸を構築時からの経過時間(年)、縦軸を劣化評点として表す工程と、
前記劣化評点曲線のn年(nは2以上の整数)ごとに行われる点検時ごとに、
構造物の構築後所定の年数が経過してから行う点検の際に発生する「点検結果による測定誤差」について、点検を行う者が判定した劣化度と、専門家が判定した劣化度を比較することで分析し、あらかじめ把握されている、点検を行う者による測定誤差の傾向を用いて、点検を行う者が判定した劣化度についての点検結果を補正して得られた「点検結果による測定誤差」と、
前記点検時の劣化分布となるn年前の累積確率を0、前記点検時の劣化分布となる前記点検時の累積確率を1として、劣化予測が有する確率を{(1/n)×100}%とすることで得られた「時間的な誤差」
との範囲で囲まれる範囲を「誤差ボックス」として設定する工程と、
前記「誤差ボックス」の範囲に含まれる前記劣化予測に基づいて構造物の将来の劣化を予測する工程
を備えている
測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果を用いた構造物の将来の劣化を予測する方法。
【0145】
(発明2)
コンピュータシステムによって構成されている劣化予測システムであって、
実構造物における分割した複数の面要素ごとの劣化予測速度(mg/m/時間)を表す曲線である劣化予測曲線を、横軸を構築時からの経過時間(年)、縦軸を累積腐食量(mg/m)として複数の面要素に分割されている前記実構造物について点検者が行った点検に基づいて表す処理を行う劣化予測曲線作成処理部と、
実構造物における分割した複数の面要素ごとの劣化予測曲線1本あたりが表現している前記実構造物における表面積の割合を劣化表現率として把握し、確定的に算出した劣化予測速度を1倍速として、前記点検を行ったときにまったく劣化していない最も遅い劣化予測速度を0倍速とし、最も速い劣化速度として前記実構造物の劣化分布を把握した上で確定的に算出した劣化速度と比較し、累積腐食量(mg/m)から求められ累積腐食量(mg/m)が変換され、前記実構造物の劣化状態である劣化度を、分割した前記複数の面要素のすべてにわたって表現できる倍速とし、確定的に算出した劣化予測速度に、最も遅い劣化速度と最も早い劣化速度の間で前記実構造物の劣化分布に対応する間隔に相当する所定の間隔の倍率をそれぞれ掛けて、最も遅い劣化速度から最も早い劣化速度まで前記所定の間隔の倍率で刻んでばらつかせた複数の劣化表現率を作成する処理を行う修正劣化表現率作成処理部と、
前記劣化予測曲線1本あたりの、前記ばらつかされた劣化表現率を前記実構造物について点検者が行った前記点検結果の劣化表現率に合うように補正することで、前記実構造物について点検者が行った前記点検結果と整合させる補正を行って前記劣化予測曲線1本あたりの、前記ばらつかされた劣化表現率を補正した劣化表現率を得る劣化予測曲線補正処理部と、
前記実構造物の劣化状態を表す複数の劣化度に応じてそれぞれ所定の点数を定義し、定義した劣化度ごとの点数に、各劣化度の前記実構造物の面積割合を乗じ、その合計を劣化評点とする処理を行う劣化評点演算処理部と、
分割した複数の面要素ごとの前記劣化評点を劣化予測速度を表す劣化評点曲線として、横軸を構築時からの経過時間(年)、縦軸を劣化評点として表す処理を行う劣化評点曲線作成処理部と、
前記劣化評点曲線のn年(nは2以上の整数)ごとに行われる点検時ごとに、
構造物の構築後所定の年数が経過してから行う点検の際に発生する「点検結果による測定誤差」について、点検を行う者が判定した劣化度と、専門家が判定した劣化度を比較することで分析し、あらかじめ把握されている、点検を行う者による測定誤差の傾向を用いて、点検を行う者が判定した劣化度についての点検結果を補正して得られた「点検結果による測定誤差」と、
前記点検時の劣化分布となるn年前の累積確率を0、前記点検時の劣化分布となる前記点検時の累積確率を1として、劣化予測が有する確率を{(1/n)×100}%とすることで得られた「時間的な誤差」
との範囲で囲まれる範囲を「誤差ボックス」として設定する処理を行う「誤差ボックス」設定処理部と、
前記「誤差ボックス」の範囲に含まれる前記劣化予測に基づいて構造物の将来の劣化を予測する処理部と
を備えている劣化予測システム。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、構造物の劣化予測装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0147】
A 構造物の劣化予測処理装置
1 劣化分布作成部
3 劣化分布設定部
5 劣化分布設定部
7 劣化速度補正係数乗算部
11 劣化表現率補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【手続補正書】
【提出日】2021-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の劣化予測装置であって、
前記構造物のn=1回目の点検に基づいて得られた、複数の面要素に分割した前記構造物の劣化分布を作成する劣化分布作成部と、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布において、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する第1の劣化分布設定部と、
前記測定誤差を考慮した第1の劣化分布において、時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定する第2の劣化分布設定部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の第2の劣化分布の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるように「劣化速度補正係数」を乗じて、劣化予測を0倍速まで均等にばらつかせる劣化速度補正係数乗算部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布と、前記劣化速度補正係数乗算部によってばらつかされた劣化予測の劣化分布と、が整合するように、劣化予測の劣化表現率を補正する劣化表現率補正部と、
前記劣化表現率補正部によって補正された前記劣化表現率に基づいて、構造物の劣化予測を行い、結果を出力する劣化予測部と、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは以上の最終点検回数)となるまで処理を継続した後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測装置。
ここで、劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合が「劣化表現率」である。
【請求項2】
前記第1の劣化分布設定部は、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項3】
前記劣化分布作成部は、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求める
請求項1又は2に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項4】
劣化予測の要素の数は、100~1000要素である
請求項1~3までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項5】
前記構造物は、実橋である
請求項1~4までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項6】
構造物の劣化予測方法であって、
a)1回目点検を実施し、劣化分布作成ステップにおいて作成した劣化分布を把握するステップと、
b)得られた劣化分布において、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定するステップと、
c)劣化分布設定部が、測定誤差を考慮した劣化分布に時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定するステップと、
d)劣化速度補正係数乗算部が、確定的な劣化予測が、「測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布」の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるまで「劣化速度補正係数」を乗じ、劣化予測を0倍速まで均等にばらつかせるステップと、
e)劣化表現率補正部が、測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布と、前記劣化速度補正係数乗算部によってばらつかされた劣化予測の劣化分布と、が整合するように、劣化予測の「劣化表現率」を補正するステップと、
補正された前記劣化表現率に基づいて、構造物の劣化予測を行い、結果を出力するステップと、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは以上の最終点検回数)となるまで処理を継続し、その後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測方法。
ここで、劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合が「劣化表現率」である。
【請求項7】
前記第1の劣化分布を設定するステップは、
前記劣化分布作成ステップにより得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする請求項6に記載の構造物の劣化予測方法。
【請求項8】
前記劣化分布作成ステップは、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求めることを特徴とする
請求項6又は7に記載の構造物の劣化予測方法。
【請求項9】
コンピュータに、請求項6から8までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測方法における処理を順次実行させるためのプログラム。
【手続補正書】
【提出日】2021-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
【表5】

【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0110
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0110】
【表16】
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の劣化予測装置であって、
前記構造物のn回目までの点検に基づいて得られた、複数の面要素に分割した前記構造物の劣化分布を作成する劣化分布作成部と、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布において、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する第1の劣化分布設定部と、
前記測定誤差を考慮した第1の劣化分布において、時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定する第2の劣化分布設定部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の第2の劣化分布の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるように「劣化速度補正係数」を乗じて、劣化予測を0倍速まで均等にばらつかせる劣化速度補正係数乗算部と、
前記第2の劣化分布設定部により設定された、前記測定誤差、時間誤差を考慮した劣化分布と、前記劣化速度補正係数乗算部によってばらつかされた劣化予測の劣化分布と、が整合するように、劣化予測の劣化表現率を補正する劣化表現率補正部と、
前記劣化表現率補正部によって補正された前記劣化表現率に基づいて、構造物の劣化予測を行い、結果を出力する劣化予測部と、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは3以上の最終点検回数)となるまで処理を継続した後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測装置。
ここで、劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合が「劣化表現率」である。
【請求項2】
前記第1の劣化分布設定部は、
前記劣化分布作成部により得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項3】
前記劣化分布作成部は、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求める
請求項1又は2に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項4】
劣化予測の要素の数は、100~1000要素である
請求項1~3までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項5】
前記構造物は、実橋である
請求項1~4までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測装置。
【請求項6】
構造物の劣化予測方法であって、
)点検を実施し、n回目までの点検に基づいて、劣化分布作成ステップにおいて作成した劣化分布を把握するステップと、
b)得られた劣化分布において、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定するステップと、
c)劣化分布設定部が、測定誤差を考慮した劣化分布に時間誤差を考慮し、測定誤差、時間誤差を考慮した第2の劣化分布を設定するステップと、
d)劣化速度補正係数乗算部が、確定的な劣化予測が、「測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布」の中で最も劣化が進んでいる劣化度を網羅できるまで「劣化速度補正係数」を乗じ、劣化予測を0倍速まで均等にばらつかせるステップと、
e)劣化表現率補正部が、測定誤差、時間誤差を考慮した点検結果の劣化分布と、前記劣化速度補正係数乗算部によってばらつかされた劣化予測の劣化分布と、が整合するように、劣化予測の「劣化表現率」を補正するステップと、
補正された前記劣化表現率に基づいて、構造物の劣化予測を行い、結果を出力するステップと、
を有し、
以下、n+1として、n=m(mは3以上の最終点検回数)となるまで処理を継続し、その後に処理を終了させることを特徴とする構造物の劣化予測方法。
ここで、劣化予測1本あたりが表現している表面積の割合が「劣化表現率」である。
【請求項7】
前記第1の劣化分布を設定するステップは、
前記劣化分布作成ステップにより得られた劣化分布に測定誤差補正行列を用いて、測定誤差を考慮した第1の劣化分布を設定する
ことを特徴とする請求項6に記載の構造物の劣化予測方法。
【請求項8】
前記劣化分布作成ステップは、
複数の面要素に分割されている実構造物について点検により把握された前記複数の面要素ごとのばらついた劣化状態である複数の面要素ごとのばらついた劣化度を求めることを特徴とする
請求項6又は7に記載の構造物の劣化予測方法。
【請求項9】
コンピュータに、請求項6から8までのいずれか1項に記載の構造物の劣化予測方法における処理を順次実行させるためのプログラム。