(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089451
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】ズボン
(51)【国際特許分類】
A41D 1/06 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
A41D1/06 501G
A41D1/06 D
A41D1/06 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201858
(22)【出願日】2020-12-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】502420081
【氏名又は名称】双葉商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山下 恵子
(72)【発明者】
【氏名】中谷 孝子
(72)【発明者】
【氏名】高野江 愛
(57)【要約】
【課題】比較的、着用者の下腹部を押さえる機能に優れるとともに、着用者に対する圧迫感を抑制することができるズボンを提供することを課題とする。
【解決手段】前身頃を備え、前記前身頃は、前身頃本体と、該前身頃本体における着用者の下腹部を被覆する下腹部被覆部に重ねられた重ね布と、該重ね布の一部に重なるように前記重ね布に接合された補強布とを有し、前記補強布の下端縁が、前記重ね布の下端縁よりも上方に配されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃を備え、
前記前身頃は、前身頃本体と、該前身頃本体における着用者の下腹部を被覆する下腹部被覆部に重ねられた重ね布と、該重ね布の一部に重なるように前記重ね布に接合された補強布とを有し、
前記補強布の下端縁が、前記重ね布の下端縁よりも上方に配されている、ズボン。
【請求項2】
前記補強布は、下端縁が前記下腹部被覆部の中央部から左上方向及び右上方向のそれぞれに沿って傾斜しながら延びる第1補強片を有する、請求項1に記載のズボン。
【請求項3】
前記補強布は、さらに、上端縁が前記下腹部被覆部の前記中央部から左下方向及び右下方向のそれぞれに沿って傾斜しながら延びる第2補強片を有し、
前記第2補強片の下端縁が、前記前身頃本体における前記着用者の鼠径部を被覆する部分よりも上方に配されている、請求項2に記載のズボン。
【請求項4】
前記第2補強片が、前記下腹部被覆部の前記中央部において前記第1補強片と重なるように配されている、請求項3に記載のズボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズボンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用者の外観を良好にするための機能を有するズボンが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
図8は、このような機能を有する従来技術に係るズボンを示しており、該ズボンの前身頃の裏側における上側部分を拡大して示す図である。
図8のズボンは、前身頃本体100と、前身頃本体100に重ねられた重ね布200とを有する前身頃を備え、重ね布200が、前身頃本体100の上端縁部から股下部の上部までを被覆する部分に重なる一層の生地片によって構成されている。このズボンによれば、前身頃本体100における重ね布200の重なった部分が、着用者の下腹部から大腿部の上部を押さえるように機能するため、着用者の下腹部における出っ張りを抑制し、この部分における着用者の外観を良好なものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術のズボンは、重ね布の着用者の下腹部を押さえる機能が不十分となる場合がある。
一方、上記機能を高めるために、重ね布を補強することが考えられるが、該補強によっては、着用者に圧迫感が生じ、着用者に不快感を与えるおそれがある。特に、着用者が着席するなどして該着用者が鼠径部を屈曲させた状態となった場合、該圧迫感が生じ易くなる。
【0006】
そこで、上記事情に鑑み、本発明は、比較的、着用者の下腹部を押さえる機能に優れるとともに、着用者に対する圧迫感を抑制することができるズボンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るズボンは、
前身頃を備え、
前記前身頃は、前身頃本体と、該前身頃本体における着用者の下腹部を被覆する下腹部被覆部に重ねられた重ね布と、該重ね布の一部に重なるように前記重ね布に接合された補強布とを有し、
前記補強布の下端縁が、前記重ね布の下端縁よりも上方に配されている。
【0008】
斯かる構成によれば、重ね布に補強布が接合されていることによって、重ね布が補強されるため、着用者の下腹部における出っ張りが抑制される。また、補強布の下端縁が重ね布の下端縁よりも上方に配されていることによって、重ね布におけるその下端縁から補強布の下端縁までの部分の自由度が高まり、着用者に対する圧迫感を抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係るズボンは、好ましくは、
前記補強布が、下端縁が前記下腹部被覆部の中央部から左上方向及び右上方向のそれぞれに沿って傾斜しながら延びる第1補強片を有する。
【0010】
斯かる構成によれば、下端縁が上記のように傾斜しながら延びる第1補強片を有することによって、着用者の下腹部が中央部から左上方向及び右上方向に持ち上げられるようにして押さえられるため、該下腹部の出っ張りやすい部分をより押さえ易くなる。
【0011】
また、本発明に係るズボンは、好ましくは、
前記補強布が、さらに、上端縁が前記下腹部被覆部の前記中央部から左下方向及び右下方向のそれぞれに沿って傾斜しながら延びる第2補強片を有し、
前記第2補強片の下端縁が、前記前身頃本体における前記着用者の鼠径部を被覆する部分よりも上方に配されている。
【0012】
斯かる構成によれば、上端縁が上記のように傾斜しながら延びる第2補強片によって、着用者の下腹部が下側から支えられるようにして押さえられる。また、第2補強片の下端縁が前記前身頃本体における前記着用者の鼠径部を被覆する部分(鼠径部被覆部)よりも上方に配されることによって、着用者が着席するなどした場合の該着用者に対する圧迫感を抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係るズボンは、好ましくは、
前記第2補強片が、前記下腹部被覆部の前記中央部において前記第1補強片と重なるように配されている。
【0014】
斯かる構成によれば、第2補強片が前記下腹部被覆部の中央部において第1補強片と重なるように配されることによって、前記下腹部において比較的出っ張りやすい中央部を重点的に押さえることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上の通り、本発明によれば、比較的、着用者の下腹部を押さえる機能に優れるとともに、着用者に対する圧迫感を抑制することができるズボンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るズボンを正面側から見た図であり、言い換えれば、前身頃を表側から見た図である。
【
図2】
図2は、
図1のズボンにおける前身頃の裏側を示し、股上部分を拡大して示す図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係るズボンにおける前身頃の裏側を示し、股上部分を拡大して示す図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態に係るズボンにおける前身頃の裏側を示し、股上部分を拡大して示す図である。
【
図6】
図6は、実施例3に係るズボンにおける前身頃の裏側を示し、股上部分を拡大して示す図である。
【
図7】
図7は、実施例4に係るズボンにおける前身頃の裏側を示し、股上部分を拡大して示す図である。
【
図8】
図8は、従来技術に係るズボンにおける前身頃の裏側を示し、上側部分を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1~3を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るズボンについて説明する。なお、以下では、前記ズボンが
図1のように広げられた状態において、該ズボンの幅方向を左右方向と称し、前記左右方向に直交する方向を上下方向と称することがある。また、前記左右方向は、前記ズボンを背面から見たときの左右方向を意味するものとする。また、前記ズボンの厚み方向に関して、これを着用した着用者Aにより近い側を内側と称し、着用者Aからより遠い側を外側と称することがある。
【0018】
図1に示されるように、本実施形態に係るズボンは、着用者Aの下腹部、鼠径部、及び両脚部を被覆する前身頃1を備えている。
【0019】
図2及び
図3に示されるように、前身頃1は、その主体となる生地片によって形成された前身頃本体10と、前身頃本体10の裏側に接合された重ね布20と、重ね布20の一部に重なるように重ね布20に接合された補強布30とを有している。また、
図3に示されるように、前身頃1は、前身頃本体10と重ね布20とによって形成された2つの前ポケット60を有している。前身頃1は、その両側端縁部が後見頃(不図示)の両側端縁部に接合されている。
【0020】
前身頃1の各部分を構成する生地片どうしの接合は、糸による縫合が好ましいが、これに限定されず、例えば、熱による融着であってもよく、ボタンやフック等による係合であってもよい。
【0021】
前身頃本体10は、重ね布20と補強布30とを除く部分である。
図1に示されるように、本実施形態の前身頃本体10は、さらに、上端縁部11に配されたウエスト帯40と、ウエスト帯40における下端縁41の中央部から下方に向かって延びるように形成された前開き部50とを備えている。
【0022】
前身頃本体10は、着用者Aの前記下腹部を被覆する下腹部被覆部12を少なくとも有している。本実施形態の前身頃本体10は、下腹部被覆部12の下方に配され且つ着用者Aの前記鼠径部から両足首部までを被覆する両脚被覆部13を有している。
【0023】
図1に示されるように、本実施形態の前身頃本体10は、着用者Aの前記下腹部から前記両足首部までを被覆する主生地片14と、主生地片14及び重ね布20とともに2つの前ポケット60を形成するために主生地片14の上側の両隅部に内側から重なるように配された両隅生地片15とを有している。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態の主生地片14は、着用者Aの左下腹部から左足首部までを被覆する左生地片14Lと、着用者Aの右下腹部から右足首部までを被覆する右生地片14Rとを含む。左生地片14L及び右生地片14Rは、それぞれの対向する端縁部の一部が接合されており、それによって、前身頃本体10が、前記左右方向における中央部に前記上下方向に沿って延びるように形成された接合部16を有するものとなっている。また、前見頃本体10は、前開き部50を形成するために左生地片14Lと右生地片14Rとが接合されずに接合部16から左右に分岐し得るように形成された非接合部17を有している。接合部16及び非接合部17は、前記上下方向において連続して延びるように配されている。
【0025】
通常、接合部16の長さは6~12cmであり、非接合部17の長さは14~20cmである。
【0026】
図1に示されるように、左生地片14L及び右生地片14Rのそれぞれの上端縁部は、ウエスト帯40の中央部に接合されており且つ互いに連続するように配された接合上端縁部141L、141Rと、前ポケット60の開口端を形成するように接合上端縁部141L、141Rから両側端縁部に向かって下方に傾斜するように延びている非接合上端縁部142L、142Rとを含む。
【0027】
図1に示されるように、両隅生地片15L、15Rは、扇状に形成されており、前身頃本体10の上側の両隅部を形成している。両隅生地片15L、15Rは、非接合上端縁部142L、142Rを境界として上側部分が表出しており、下側部分が左生地片14L又は右生地片14Rに覆われた状態となっている。
【0028】
両隅生地片15L、15Rは、その上端縁部151L、151Rがウエスト帯40の下端縁部に接合されている。また、両隅生地片15L、15Rは、その側端縁部152L、152Rが前記後見頃(不図示)に接合されている。また、両隅生地片15L、15Rは、上端縁部151L、151Rと側端縁部152L、152Rとを接続する円弧状の接続端縁部153L、153Rを有しており、接続端縁部153L、153Rは重ね布20に接合されている。
【0029】
主生地片14や両隅生地片15などの前身頃本体10を構成する生地片は、伸縮性を有することが好ましい。よって、前身頃本体10を構成する生地片は、織物又は編物であることが好ましい。前身頃本体10を構成する生地片が織物である場合、JIS L1096:2010に規定される伸び率(B法(織物の定荷重法))が、3~100%であることが好ましい。また、前身頃本体10を構成する生地片が編物である場合、JIS L1096:2010に規定される伸び率(D法(編物の定荷重法))が、5~100%であることが好ましい。これによって、着用者Aに対する圧迫感が抑制される。
【0030】
図2~5に示されるように、重ね布20は、前身頃本体10の下腹部被覆部12に重ねられている。本実施形態の重ね布20は、接合部16を介して前記左右方向において線対称となるように配された一対の生地片によって構成されている。
【0031】
重ね布20の下端縁21は、前記左右方向に沿って延びている。本実施形態の重ね布20の下端縁21は、前身頃本体10の接合部16に交差するように配されている。すなわち、下端縁21が、前記上下方向において、接合部16の下端よりも上方に且つ非接合部17の下端よりも下方に配されている。
【0032】
重ね布20における、下端縁21からウエスト帯40の下端縁41までの長さは、17~23cmであることが好ましい。本実施形態の下端縁21は、前身頃本体10における前記左右方向の中央部と、両側端部と、中央部及び両側端部の間の2つの中間部とにおいて、前記上下方向の位置が異なる波形状となっている。この場合、重ね布20の前記長さは、前記中央部において14~20cm(中央長さ)、前記両側端部において14~20cm(側端長さ)、前記中間部において20~26cm(中間長さ)であることが好ましい。
【0033】
重ね布20の下端縁21は、前身頃本体10における着用者Aの前記鼠径部を被覆する部分(鼠径部被覆部)よりも上方に配されていてもよく、下方に配されていてもよい。また、重ね布20の下端縁21は、前記鼠径部被覆部に交差するように配されていてもよい。
【0034】
図3に示されるように、本実施形態では、重ね布20の上端縁22は、ウエスト帯40に重なるように配されている。この他、重ね布20の上端縁22は、ウエスト帯40の下端縁41よりも下方に位置するように配されてもよい。
【0035】
重ね布20の前記上下方向における長さは、17~23cmであることが好ましい。
【0036】
本実施形態の重ね布20は、着用者Aの前記下腹部を全体的に被覆するものであり、前身頃本体10の前記左右方向にわたって重なったものとなっている。このため、着用者Aが前記ズボンを着用しようとするときに該ズボンを(特に前記左右方向に)伸縮し易くし、また、着用者Aの着用しているときの窮屈感や圧迫感を抑制させるためには、重ね布20の上端縁部又は下端縁部のいずれか一方は、他の部分を構成する生地片に接合されていないことが好ましい。一方、重ね布20が着用者Aの前記下腹部をより押さえ易くするためには、重ね布20の両側端縁部が前身頃本体10に接合されていることが好ましい。さらに、着用者Aの窮屈感や圧迫感を抑制させつつ、着用者Aの前記下腹部を押さえ易くするためには、重ね布20の両側端縁部が前身頃本体10に接合され、重ね布20の上端縁部が前身頃本体10に接合され、且つ、重ね布20の下端縁部が他の部分を構成する生地片に接合されていないことによって下端縁21が自由端となっていることが好ましい。このように、重ね布20は、下腹部被覆部12の伸縮を抑制するものであることが好ましい。
【0037】
さらに、
図3に示されるように、本実施形態の重ね布20は、二重構造となっている。具体的には、重ね布20は、前身頃本体10と直接的に重なった(外側の)第1重ね布23と、第1重ね布23を介して前身頃本体10に重なった(内側の)第2重ね布24とを含む。
【0038】
第1重ね布23及び第2重ね布24は、それぞれの両側端縁部が前身頃本体10の両側端縁部に接合されている。また、第1重ね布23の上端縁部は、主生地片14の上端縁部に接合されている。また、第2重ね布24の上端縁部は、両隅生地片15に内側から接合されている。また、第1重ね布23及び第2重ね布24のそれぞれの下端縁部どうしは、それぞれの下端縁が位置ずれしないように接合されており、それによって、重ね布20の下端縁21を構成している。
【0039】
上記のような接合によって、第1重ね布23及び第2重ね布24は、両隅生地片15とともに、上方に開口した前ポケット60を形成している。重ね布20が、着用者Aの前記下腹部を押さえるだけでなく、前ポケット60の形成にも関わることによって、前ポケット60専用の生地片が使用されなくて済むため好ましい。
【0040】
本実施形態の補強布30は、重ね布20と同様に、接合部16を介して線対称となるように配されている。
【0041】
補強布30は、重ね布20の特定の部分に重ねられることによって、着用者Aの前記下腹部における出っ張りやすい部分を重点的に押さえつつ、着用者Aに対する圧迫感を抑制するように配されていることが好ましい。
【0042】
例えば、ズボンを着用した着用者Aの外観においては、前記下腹部の中央部よりも上側部分が、出っ張り易く、目立ちやすくなる。特に、前開き部50を備えるズボンの場合、このような上側部分における出っ張りが生じ易くなる。このような観点から、前身頃本体10における前記上側部分を被覆する部分に重なるように、補強布30が配されていることが好ましい。
一方、着用者Aが着席したりしゃがんだりして着用者Aが鼠径部を屈曲させた状態になった場合には、着用者Aに圧迫感が生じやすくなる。このような観点から、前身頃本体10の前記鼠径部被覆部には、補強布30が配されていないことが好ましい。
【0043】
具体的には、
図2、4及び5に示されるように、補強布30は、その下端縁301が重ね布20の下端縁21よりも上方に配されていることが重要である。これによって、重ね布20は、補強布30が重なった補強領域25と、補強布30の下端縁301よりも下側に、補強布30が重なっていない非補強領域26とを有するものとなる。本実施形態では、補強布30の下端縁301の全体が、重ね布20の下端縁21と重ならずに下端縁21よりも上方に配されており、それによって、重ね布20が、前記左右方向にわたって延在する第1非補強領域261を有するものとなっている。
【0044】
補強布30の下端縁301と重ね布20の下端縁21の間隔は、前身頃本体10における前記左右方向における中央部において2~9cm又は2~6cm(中央間隔)、前身頃本体10における前記左右方向における両側端部において2~8cm(側端間隔)、前身頃本体10における前記左右方向における中央部及び両側端部の間の2つの中間部において2~10cm(中間間隔)であることが好ましい。
【0045】
また、
図2及び
図4に示されるように、補強布30は、下端縁311が下腹部被覆部12の中央部から左上方向及び右上方向のそれぞれに沿って傾斜しながら延びる第1補強片31を有することが好ましい。
さらに、補強布30は、上端縁322が下腹部被覆部12の中央部から左下方向及び右下方向のそれぞれに沿って傾斜しながら延びる第2補強片32を有していることが好ましい。また、この場合、第2補強片32の下端縁321は、前身頃本体10の前記鼠径部被覆部よりも上方に配されることが好ましい。第2補強片32の下端縁321は、前記左右方向に並行するように配されていてもよく、前記左右方向に対して傾斜するように配されていてもよい。
【0046】
第1補強片31は、下腹部被覆部12の中央部から左方向及び右方向に向かって幅が狭くなるように形成されていることが好ましい。これによって、着用者Aの前記下腹部が、上方に支えられるようにして押さえられ易くなる。
【0047】
また、第2補強片32も、第1補強片31と同様に、下腹部被覆部12の中央部から前記左方向及び前記右方向に向かって幅が狭くなるように形成されていることが好ましい。これによって、着用者Aの前記下腹部が、さらに上方に支えられるようにして押さえられ易くなる。
【0048】
補強布30が第1補強片31及び第2補強片32を有する場合、これらが下腹部被覆部12の中央部において重なり合っていることが好ましい。また、重ね布20が、第1補強片31及び第2補強片32の両方が重なった強補強領域251と、第1補強片31の下端縁311及び第2補強片32の上端縁322のそれぞれの間に形成された対をなす第2非補強領域262とを有することが好ましい。これによって、前身頃本体10における、着用者Aの下腹部における骨盤の出っ張った部分(比較的押さえる必要に乏しい部分)に第2非補強領域262が配され得るため、着用者Aに無用の圧迫感が生じることを抑制することができる。
【0049】
また、
図4のように、第1補強片31の上端縁312がウエスト帯40の下端縁41よりも下方に配されていてもよい。例えば、第1補強片31が、前記左上方向及び前記右上方向に沿って一定の幅を有するように形成された帯状であってもよい。また、重ね布20が、第1補強片31の上端縁312とウエスト帯40の下端縁41との間に形成された第3非補強領域263を有していてもよい。
【0050】
また、第2補強片32が、前記左下方向及び前記右下方向に沿って一定の幅を有するように形成された帯状であってもよい。
【0051】
第1補強片31及び第2補強片32は、少なくともその両側端縁部が重ね布20(具体的には、内側の第2重ね布24)に接合されていることが好ましい。また、第1補強片31及び第2補強片32は、その端縁部の全てが重ね布20に接合されていることがより好ましい。これによって、重ね布20の補強領域25における伸縮がさらに低減されるため、補強領域25が着用者Aの前記下腹部をさらに押さえ易くなる。
【0052】
重ね布20及び補強布30は、織物や編物などから切り出された生地片によって構成されることが好ましい。また、重ね布20及び補強布30は、JIS L 0214:1983に規定された機械レースから切り出された生地片によって構成されてもよい。前記機械レースとしては、トリコットレースやパワーネットが好ましい。
【0053】
重ね布20及び補強布30を構成するための生地片が織物である場合、JIS L1096:2010に規定される伸び率(B法(織物の定荷重法))が、3~100%であることが好ましい。また、重ね布20及び補強布30を構成するための生地片が編物である場合、JIS L1096:2010に規定される伸び率(D法(編物の定荷重法))が、5~100%であることが好ましい。これによって、着用者Aの下腹部を適度に押圧しつつ、着用者Aに対する圧迫感が抑制される。
【0054】
重ね布20を構成する生地片及び補強布30を構成する生地片の伸縮方向Dについて説明する。伸縮方向Dは、前記生地片の任意の点を支点として該生地片をその延在方向のうちの任意の方向に伸ばしたときに、最も伸びる割合の大きい方向、言い換えれば、最も高い伸縮性を示す方向を意味するものとする。例えば、織物の場合、通常は、該織物のバイアス方向が伸縮方向Dに相当することとなる。また、前記パワーネットの場合、JIS L 0214:1983において該パワーネットは「弾性糸などを編みこみ,たて方向に対して著しい弾力性を与えた編レース」と定義されていることから、該たて方向が、伸縮方向Dに相当することとなる。
【0055】
図2、4及び5に示されるように、重ね布20の伸縮方向D1は、前記左右方向に並行していることが好ましい。これによって、着用者Aが着用しようとする際に着用し易くなり、また、着用した着用者Aに対する圧迫感を抑制することができる。また、重ね布20がこのような伸縮方向で配される場合、着用者Aの前記下腹部を押さえるための重ね布20の機能を優れたものとするために、重ね布20は、前記パワーネットによって構成されていることが好ましい。
【0056】
前記左右方向に対して伸縮方向D1が傾く角度は、±10°以内の範囲であることが好ましく、±5°以内の範囲であることがより好ましい。
【0057】
補強布30の伸縮方向D2は、重ね布20の伸縮方向D1に交差する方向であることが好ましい。言い換えれば、補強布30は、重ね布20の伸縮を抑制するように重ね布20に接合されていることが好ましい。具体的には、重ね布20の伸縮方向D1に対する補強布30の伸縮方向D2の交差角度θ(鋭角又は直角)が、45~90°であることが好ましく、60~90°であることがより好ましく、75~90°であることがさらに好ましい。このような伸縮方向D2の補強布30が重ね布20に重ねられることによって、この重なった部分において、重ね布20の伸縮方向D1における伸縮が低減される。言い変えれば、補強領域25において、伸縮方向D1における重ね布20の伸縮が低減されるため、前身頃本体10における補強領域25が重なった部分が、着用者Aの前記下腹部を押さえ易くなる。
【0058】
以上のように、本実施形態に係るズボンは、補強布30によって補強された重ね布20を有するため、着用者Aの前記下腹部を押さえる機能に優れ、且つ、該下腹部に対する圧迫感が抑制されたものとなっている。このような機能に優れるため、前記ズボンは、着用者Aのシルエットを美しく見せるために比較的幅が狭くなるように形成された細身タイプのものであってもよい。また、前記ズボンは、女性用であることが特に好ましい。
【0059】
なお、本発明に係るズボンは、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係るズボンは、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係るズボンは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態では、前身頃1が前開き部50を備える態様を示したが、前身頃1は前開き部50を備えていなくてもよい。すなわち、前身頃本体10を構成する左生地片14L及び右生地片14Rは、着用者Aの股上を被覆する部分において、左右に分岐することなく対向する端縁部どうしが接合されていてもよい。
この場合、重ね布20は、前身頃本体10の左側端縁部から右側端縁部にわたって延在する一つなぎの生地片によって構成されてもよい。また、補強布30も、前身頃本体10の左側端縁部から右側端縁部にわたって延在する一つなぎの生地片によって構成されていてもよい。
【実施例0061】
次に、実施例を例示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0062】
本実施例では、下記表2に示す前身頃本体を備えた下記表1に示す寸法のズボンをベースとし、補強布の大きさ及び形状、並びに、配置について評価した。
【0063】
【0064】
【0065】
[実施例1]
パワーネット生地(伸縮方向Dの伸び率59%、伸縮方向Dに直交する方向の伸び率25%)から、
図4に示される形状の重ね布及び補強片を切り出した。
次に、
図4及び表4に示される配置となるように、補強片の全ての端縁部を重ね布に縫合し、補強片が縫合された重ね布を左右一対作製した。
下記表3及び表4に示される配置となるように、左右一対の重ね布を前身頃本体に縫合した。このとき、重ね布の上端縁部を前身頃本体の上端縁部に接合し、且つ、重ね布の両側端縁部を前身頃本体の両側端縁部に縫合した。
前身頃と後見頃とを縫合し、実施例1に係るズボンとした。
【0066】
[実施例2]
図5及び表4に示されるような形状及び大きさの補強布とした以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るズボンを製造した。
【0067】
[実施例3]
図6及び表4に示されるように、補強布の下端縁の一部を重ね布の下端縁と重なるように配した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係るズボンを製造した。
【0068】
[実施例4]
図7及び表4に示されるように、重ね布の前記左右方向における中央部に前記上下方向にわたって配された中央補強片と、重ね布の中央部から左下方向及び右下方向に傾斜するように配された下方傾斜補強片とで補強布を構成した以外は、実施例1と同様にして実施例4に係るズボンを製造した。
【0069】
【0070】
【0071】
[評価方法]
製造した4つのズボンについて、下腹部が抑えられている感覚及び圧迫感の感じにくさという観点から評価を実施した。具体的には、上記観点に基づいて、13名の試着者(全て女性)による順位付けを実施した。また、順位を点数化するために、1位のものに4点、2位のものに3点、3位のものに2点、及び、4位のものに1点を付与することとした。
【0072】
【0073】
表5に示したように、実施例1及び2に係るズボンの評価が比較的高く、実施例2に係るズボンの評価がとりわけ高かった。
【0074】
[実施例5]
図2に及び表4に示されるような形状及び大きさの補強布とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るズボンを製造した。
【0075】
実施例5に係るズボンについて、上記と同様に評価したところ、実施例1及び2に係るズボンと比較して、さらに良好なものである評価された。
【0076】
[実施例6]
実施例5における補強布を構成する生地片を、パワーネットから該パワーネットよりも伸び率の小さい(1/2未満の)織物に変更した以外は実施例5と同様のズボンを製造した。
【0077】
実施例5に係るズボン及び実施例6に係るズボンについて、12名の試着者(全て女性)により上記と同様に評価を実施した。その結果、実施例5がより良好であると評価した試着者は、8名であった。一方、実施例6がより良好であると評価した試着者は、4名であった。
この結果から、パワーネットによって構成された補強布を用いる方が、さらに、外観の向上に優れ且つ圧迫感の抑制に優れたものであることがわかった。