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  • 特開-回転ツール、接合装置および接合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089457
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】回転ツール、接合装置および接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201869
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
(72)【発明者】
【氏名】吉田 諒
(72)【発明者】
【氏名】小泉 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】及川 恵太
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA07
4E167AA08
4E167BG08
(57)【要約】
【課題】マシニングセンタに装着した状態で荷重制御を行える回転ツール、接合装置および接合方法を提供する。
【解決手段】接合装置3に取り付けて固定される固定部11と、接合装置3からの回転力を伝達する回転軸12とを有する本体部10と、本体部10からの回転力を受けて回転可能に且つ回転軸12の軸方向に対して移動可能に本体部10に配設され、被接合部材2に挿入されて被接合部材に対する摩擦攪拌を行う攪拌ピン60と、攪拌ピン60とは別体に構成され、本体部10からの回転力を受けず回転軸12の軸方向に対して攪拌ピン60とは個別に移動可能に本体部10に配設され、被接合部材2に接触した状態で被接合部材2を押圧するショルダ70と、回転軸12の軸方向に対して攪拌ピン60を先端側に向けて付勢する第一弾性部材61と、を備えることを特徴とする回転ツール。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材の摩擦攪拌接合を行う接合装置に用いられる回転ツールであって、
前記接合装置に取り付けて固定される固定部と、前記接合装置からの回転力を伝達する回転軸とを有する本体部、
前記本体部からの回転力を受けて回転可能に且つ前記回転軸の軸方向に対して移動可能に前記本体部に配設され、前記被接合部材に挿入されて前記被接合部材に対する摩擦攪拌を行う攪拌ピン、
前記攪拌ピンとは別体に構成され、前記本体部からの回転力を受けず前記回転軸の軸方向に対して前記攪拌ピンとは個別に移動可能に前記本体部に配設され、前記被接合部材に接触した状態で前記被接合部材を押圧するショルダ、及び
前記回転軸の軸方向に対して前記攪拌ピンを先端側に向けて付勢する第一弾性部材、を備える、
ことを特徴とする回転ツール。
【請求項2】
前記回転軸の軸方向に対して前記ショルダを先端側に向けて付勢する第二弾性部材をさらに備える、
請求項1に記載の回転ツール。
【請求項3】
前記本体部は、前記回転軸に取り付けられた円筒状の第一ホルダと、前記第一ホルダの中心部に回転軸方向にスライド可能に収容されるとともに前記第一ホルダと同期回転する第一スライド軸とをさらに有し、
前記攪拌ピンは、前記第一スライド軸の先端に設けられ、
前記第一スライド軸は、前記第一弾性部材を介して前記攪拌ピンの先端側に向けて付勢されている、
請求項2に記載の回転ツール。
【請求項4】
前記第一弾性部材は、前記第一スライド軸の下部を囲うように配置されている、
請求項3に記載の回転ツール。
【請求項5】
前記第一弾性部材は、前記第一ホルダの内部に収容され、前記第一スライド軸の基端部と前記第一ホルダの固定部側との間に配置されている、
請求項3に記載の回転ツール。
【請求項6】
前記第一ホルダおよび前記第一スライド軸のいずれか一方に、前記回転軸の軸方向に長尺なキー溝が形成され、他方に、前記回転軸の軸方向と交差する向きに設けられるとともに前記キー溝に嵌入するキーが形成され、
前記第一スライド軸の回転軸の軸方向への移動に伴って、前記キーが前記キー溝の内部を前記回転軸の軸方向に沿って移動し、
前記第一ホルダの回転に伴って、前記キーと前記キー溝とが周方向に当接することで、前記第一ホルダと前記第一スライド軸とが同期回転する、
請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の回転ツール。
【請求項7】
前記本体部は、前記第一ホルダの外周に相対回転可能に設けられた円筒状の第二ホルダと、前記第二ホルダの内部に回転軸の軸方向にスライド可能に収容される第二スライド軸とをさらに有し、
前記ショルダは、前記第二スライド軸の先端に設けられ、
前記第二スライド軸は、前記第二弾性部材を介して前記ショルダの先端側に向けて付勢されている、
請求項3乃至請求項6のいずれか一項に記載の回転ツール。
【請求項8】
前記ショルダは、円筒形状を呈し、
前記攪拌ピンは、前記ショルダの内部を挿通し、当該ショルダの底面よりも下方に突出している、
請求項2乃至請求項7のいずれか1項に記載の回転ツール。
【請求項9】
前記ショルダを無回転状態に保持する保持部を備える
請求項2乃至請求項8のいずれか1項に記載の回転ツール。
【請求項10】
前記第一弾性部材 は、固体ばね、流体ばね、磁力、及び電磁力から選ばれる少なくとも一つによって弾性力を付与する弾性部材である、
請求項2乃至請求項9のいずれか1項に記載の回転ツール。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の回転ツールを備える接合装置であって、
前記回転ツールの前記回転軸に伝達する回転力を出力する動力手段、及び
前記回転ツールの前記固定部を保持して前記回転ツールの位置制御を行う位置制御手段、を備え、
前記位置制御手段によって前記回転ツールを前記被接合部材に対して所定の高さ位置となるように移動させて、前記被接合部材に対して前記回転ツールのショルダを押圧しながら、前記被接合部材に前記回転ツールの攪拌ピンを挿入して、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行う、
ことを特徴とする接合装置。
【請求項12】
前記ショルダを無回転状態に保持する第二保持部をさらに備える、
請求項11に記載の接合装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の回転ツールを、前記被接合部材に対して所定の高さ位置となるように移動させて、前記被接合部材に対して前記ショルダを押圧しながら、前記被接合部材に回転する前記攪拌ピンを挿入して、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行う、
ことを特徴とする接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合に用いられる回転ツール、接合装置および接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合を行うための接合装置として、被接合部材に対して回転ツールの押込み量を制御するために、荷重制御を行うものと、位置制御を行うものが知られている。荷重制御は、主として、ロボット(ロボットアーム)による接合装置で用いられ、位置制御は、主として、マシニングセンタ(MC)による接合装置で用いられていた。
【0003】
荷重制御を行う接合装置としては、例えば特許文献1に開示されたものがあった。特許文献1の接合装置は、接合条件に応じて好適な制度で良好な接合品質を得るために、ショルダ部材またはピン部材の被接合物への圧入深さを制御するものである。かかる接合装置は、圧入深さの制御を行うために、圧入基準点設定部で設定された圧入基準点に基づいて、ショルダ部材に対するピン部材の相対位置を制御する。接合装置は、前記制御を行うために、加圧力検出部、圧力基準点設定部や工具駆動制御部等を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-196681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の接合装置は、荷重制御を行うため、構造が複雑で高価であるため、近年では、位置制御のみを行える比較的安価なMCに装着可能で且つ荷重制御を行える回転ツールが求められている。
【0006】
このような観点から、本発明は、マシニングセンタに装着した状態で荷重制御を行える回転ツール、接合装置および接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被接合部材の摩擦攪拌接合を行う接合装置に用いられる回転ツールであって、前記接合装置に取り付けて固定される固定部と、前記接合装置からの回転力を伝達する回転軸とを有する本体部、前記本体部からの回転力を受けて回転可能に且つ前記回転軸の軸方向に対して移動可能に前記本体部に配設され、前記被接合部材に挿入されて前記被接合部材に対する摩擦攪拌を行う攪拌ピン、前記攪拌ピンとは別体に構成され、前記本体部からの回転力を受けず前記回転軸の軸方向に対して前記攪拌ピンとは個別に移動可能に前記本体部に配設され、前記被接合部材に接触した状態で前記被接合部材を押圧するショルダ、及び前記回転軸の軸方向に対して前記攪拌ピンを先端側に向けて付勢する第一弾性部材、を備える、ことを特徴とする回転ツールである。
【0008】
本発明の回転ツールにおいては、前記回転軸の軸方向に対して前記ショルダを先端側に向けて付勢する第二弾性部材をさらに備えるものが好ましい。
【0009】
本発明の回転ツールにおいては、前記本体部は、前記回転軸に取り付けられた円筒状の第一ホルダと、前記第一ホルダの中心部に回転軸方向にスライド可能に収容されるとともに前記第一ホルダと同期回転する第一スライド軸とをさらに有し、前記攪拌ピンは、前記第一スライド軸の先端に設けられ、前記第一スライド軸は、前記第一弾性部材を介して前記攪拌ピンの先端側に向けて付勢されているものが好ましい。
【0010】
本発明の回転ツールにおいては、前記第一弾性部材は、前記第一スライド軸の下部を囲うように配置されているものが好ましい。
【0011】
本発明の回転ツールにおいては、前記第一弾性部材は、前記第一ホルダの内部に収容され、前記第一スライド軸の基端部と前記第一ホルダの固定部側との間に配置されているものが好ましい。
【0012】
本発明の回転ツールにおいては、前記第一ホルダおよび前記第一スライド軸のいずれか一方に、前記回転軸の軸方向に長尺なキー溝が形成され、他方に、前記回転軸の軸方向と交差する向きに設けられるとともに前記キー溝に嵌入するキーが形成され、前記第一スライド軸の回転軸の軸方向への移動に伴って、前記キーが前記キー溝の内部を前記回転軸の軸方向に沿って移動し、前記ホルダの回転に伴って、前記キーと前記キー溝とが周方向に当接することで、前記ホルダと前記スライド軸とが同期回転するものが好ましい。
【0013】
本発明の回転ツールにおいては、前記本体部は、前記第一ホルダの外周に設けられた円筒状の第二ホルダと、前記第二ホルダの内部に回転軸方向にスライド可能に収容されるとともに前記第二ホルダと自由回転する第二スライド軸とをさらに有し、前記ショルダは、前記第二スライド軸の先端に設けられ、前記第二スライド軸は、前記第二弾性部材を介して前記ショルダの先端側に向けて付勢されているものが好ましい。
【0014】
本発明の回転ツールにおいては、前記ショルダは、円筒形状を呈し、前記攪拌ピンは、前記ショルダの内部を挿通し、当該ショルダの底面よりも下方に突出しているものが好ましい。
【0015】
本発明の回転ツールにおいては、前記ショルダを無回転状態に保持する保持部を備えるものが好ましい。
【0016】
本発明の回転ツールにおいては、前記第一弾性部材は、固体ばね、流体ばね、磁力、及び電磁力から選ばれる少なくとも一つによって弾性力を付与する弾性部材であるものが好ましい。
【0017】
第二の本発明は、請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の回転ツールを備える接合装置であって、前記回転ツールの前記回転軸に伝達する回転力を出力する動力手段、及び前記回転ツールの前記固定部を保持して前記回転ツールの位置制御を行う位置制御手段、を備え、前記位置制御手段によって前記回転ツールを前記被接合部材に対して所定の高さ位置となるように移動させて、前記被接合部材に対して前記回転ツールのショルダを押圧しながら、前記被接合部材に前記回転ツールの攪拌ピンを挿入して、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行う、ことを特徴とする接合装置である。
【0018】
本発明の接合装置においては、前記ショルダを無回転状態に保持する第二保持部をさらに備えるものが好ましい。
【0019】
第三の本発明は、請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の回転ツールを、前記被接合部材に対して所定の高さ位置となるように移動させて、前記被接合部材に対して前記ショルダを押圧しながら、前記被接合部材に回転する前記攪拌ピンを挿入して、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行う、ことを特徴とする接合方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る回転ツール、接合装置および接合方法によれば、弾性部材を利用した荷重制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る回転ツールを示す断面図である。
図2】実施形態に係る回転ツールを示す一部破断斜視図である。
図3】実施形態に係る回転ツールを示す一部破断分解斜視図である。
図4】実施形態に係る回転ツールの摩擦攪拌接合開始時の各部の動作を示す断面図である。
図5】実施形態に係る回転ツールの摩擦攪拌接合時の各部の動作を示す断面図である。
図6】実施形態に係る回転ツールの変形例を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。さらに、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであり、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0023】
[1.回転ツール]
まず、本実施形態に係る回転ツールの構成を説明する。図1に示すように、本実施形態に係る回転ツール1は、被接合部材2(図5参照)の摩擦攪拌接合を行う接合装置に用いられるものであって、被接合部材2の突合せ部に回転しながら挿入される。かかる回転ツール1は、本体部10と、攪拌ピン60と、ショルダ70と、第一弾性部材61と、第二弾性部材71とを備えている。また、回転ツール1は、保持部80を備えている。
【0024】
<本体部>
本体部10は、例えばマシニングセンタ等の接合装置3に固定される部分であって、固定部11と、回転軸12とを備えている。固定部11は、接合装置3に取り付けられて固定される部位であり、円筒形状を呈している。固定部11はチャック機構であり、接合装置3に設けられた対となるチャック機構と共同することで、固定部11を接合装置に対して着脱可能に固定することができる。チャック機構としては、例えば、固定部11に設けられた溝と、接合装置3に設けられて、固定部11側の溝に嵌合して挟み付ける爪とが挙げられる。固定部11の接合装置3に取り付けられる側とは他端側(図1中、下側)に、回転軸12が連結して設けられている。回転軸12は、円柱形状を呈している。回転軸12は、接合装置3からの回転力を攪拌ピン60に伝達する部位であり、固定部11を介して接合装置3の回転軸(図示せず)に連結されている。
【0025】
図2および図3にも示すように、本体部10は、第一ホルダ21と、第一スライド軸31と、第二ホルダ41と、第二スライド軸51とをさらに備えている。
【0026】
<第一ホルダ>
第一ホルダ21は、回転軸12に取り付けられ、回転軸12と同期回転し、攪拌ピン60を支持する部位である。第一ホルダ21は、有底円筒形状を呈しており、内部に第一スライド軸31が挿入される第一収納凹部22が形成されている。第一収納凹部22は、円柱形状を呈しており、攪拌ピン60側(図1中、下側)に向かって開口している。第一ホルダ21の円筒胴部(第一収納凹部22の外周縁部)には、キー溝23が形成されている。キー溝23は、回転軸12の軸方向(図中1中、上下方向)に沿って長尺の長円形に形成されており、第一ホルダ21の外周面から内周面まで貫通している。キー溝23は、円筒胴部を貫通していなくてもよく、円筒胴部の内周面に溝状に形成されていてもよい。キー溝23は、円筒胴部の円周方向に180°間隔で配置され、互いに対向して2か所に形成されている。なお、キー溝23の個数は、2に限定されるものではなく、1であってもよいし、3以上であってもよい。
【0027】
<第一スライド軸>
第一スライド軸31は、第一ホルダ21の中心部の第一収納凹部22に、回転軸方向(図1中、上下方向)にスライド可能に収納されるとともに、第一ホルダ21と同期回転(共回り)する部位である。第一スライド軸31は、円柱形状を呈しており、第一収納凹部22に収納可能な外径を有している。第一スライド軸31の外周面には、外側に突出するキー32が設けられている。キー32は、第一スライド軸31の基端部(第一収納凹部22の奥側端部:図1中、上端部)で、キー溝23に相当する位置に固定されており、キー溝23に挿入されている。キー32は、回転軸方向に長い長円形状を呈しており、キー溝23と同等の幅寸法を備えるとともに、キー溝23の長手方向寸法よりも短い長さ寸法を備えている。つまり、キー32は、キー溝23の幅方向に嵌合するとともに長手方向に移動可能である。なお、キー32の形状は、長円形状に限定されるものではなく、キー溝23と同等の幅寸法を備えていれば、円形や楕円形、長楕円、長方形等の他の形状であってもよい。第一スライド軸31の先端部(接合装置3から離間する側の端部:図1中、下端部)には、攪拌ピン60が一体的に設けられている。したがって、攪拌ピン60が第一弾性部材61によって先端側に付勢されることによって、第一スライド軸31の先端側に付勢される。
【0028】
<第二ホルダ>
第二ホルダ41は、第一ホルダ21の外周に相対回転可能に設けられた円筒状の部位であり、ショルダ70を支持する部位である。第二ホルダ41と回転軸12との間にはベアリング47が介設されている。ベアリング47は、回転軸12を囲ように配置されている。これにより、第二ホルダ41は、回転軸12に対して、相対回転可能に設けられている。第一ホルダ21と第二ホルダ41とは相対回転可能であるので、第一ホルダ21は、第二ホルダ41の内側で回転可能である。第二ホルダ41の円筒胴部は、第一ホルダ21の円筒胴部よりも厚く形成されている。第二ホルダ41の円筒胴部には、第二スライド軸51が挿入される第二収納凹部42が複数形成されている。本実施形態では、第二収納凹部42は、円筒胴部の円周方向に90°ピッチで、4か所に形成されている。第二収納凹部42は、円柱形状を呈しており、ショルダ70側(図1中、下側)に向かって開口している。第二収納凹部42の外周縁部には、キー溝43が形成されている。キー溝43は、回転軸12の軸方向(図中1中、上下方向)に沿って長尺の長円形に形成されており、第二収納凹部42の内周面から第二ホルダ41の外周面まで貫通している。なお、キー溝43は、貫通していなくてもよく、第二収納凹部42の内周面に溝状に形成されていてもよい。キー溝43は、それぞれの第二収納凹部42において、第二ホルダ41の円筒胴部の外周面側の1か所に形成されている。また、第二収納凹部42の個数は、4に限定されるものではなく、1であってもよいし、2または5以上であってもよい。
【0029】
第二ホルダ41の下部には、ショルダ70の外周部を覆うスカート部44が形成されている。スカート部44の内側に、攪拌ピン60とショルダ70の上部が収納されるショルダ収納凹部45が形成されている。ショルダ収納凹部45の奥側底面(図1中、上端面)は、第一ホルダ21の先端面と面一になっている。なお、ショルダ収納凹部45の奥側の底面(図1中、上端面)と、第一ホルダ21の先端面とは、面一でなくてもよい。
【0030】
<第二スライド軸>
第二スライド軸51は、第二ホルダ41の第二収納凹部42に、回転軸方向にスライド可能に収納される部位である。第二スライド軸51は、円柱形状を呈しており、第二収納凹部42に収納可能な外径を有している。第二スライド軸51の外周面には、外側に突出するキー52が設けられている。キー52は、第二スライド軸51の端部(第二収納凹部42の奥側端部:図1中、上端部)で、キー溝43に相当する位置に固定されており、キー溝43に挿入されている。キー52は、回転軸方向に長い長円形状を呈しており、キー溝43と同等の幅寸法を備えるとともに、キー溝43の長手方向寸法よりも短い長さ寸法を備えている。つまり、キー52は、キー溝43の幅方向に嵌合するとともに長手方向に移動可能である。キー52は、第二スライド軸51を第二収納凹部42に挿入した状態で、キー溝43の外側から挿入して、第二スライド軸51の側面に固定することができる。キー52の形状は、長円形状に限定されるものではなく、キー溝43と同等の幅寸法を備えていれば、円形や楕円形、長楕円、長方形等の他の形状であってもよい。第二スライド軸51の先端部(接合装置3から離間する側の端部:図1中、下端部)には、ショルダ70が一体的に設けられている。
【0031】
<攪拌ピン>
攪拌ピン60は、本体部10からの回転力を受けて、被接合部材に回転しつつ挿入されて被接合部材に対する摩擦攪拌を行う部位である。攪拌ピン60は、例えば工具鋼で円柱形状に形成されている。攪拌ピン60の先端部62(図1中、下端部)は、先端に向かうにつれて先細りになっている。攪拌ピンの先端部62の先端は、軸方向に直交する平坦面状となっている。攪拌ピン60は、第一スライド軸31と一体形成されており、第一スライド軸31のスライド移動によって、回転軸の軸方向に移動する。攪拌ピン60は、第一スライド軸31よりも大径であり、攪拌ピン60と第一スライド軸31との連結部(攪拌ピン60の基端部)には、平面視でリング状の段部63が形成されている。
【0032】
<第一弾性部材>
第一弾性部材61は、回転軸の軸方向に対して攪拌ピンを先端側に向けて付勢する部位である。第一弾性部材61は、例えばコイルバネにて構成されており、第一スライド軸31の下部の外周面を囲うように配置されている。第一弾性部材61は、攪拌ピン60の段部63と第一ホルダ21の先端との間に装着されている。第一弾性部材61は、攪拌ピン60側から受ける力に対して、攪拌ピンを先端側に向けて付勢できるようになっている。
【0033】
第一弾性部材61の弾性は、アルミニウム、銅、マグネシウム、及びこれらの合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの材料からなる被接合部材に対して、攪拌ピン60を、所定の押し込み荷重で挿入する場合に、第一弾性部材61による攪拌ピン60の全可動範囲(キー溝23内でのキー32の可動長さ)内で、所定の範囲で攪拌ピン60が変位して挿入されるように設定されている。例えば、第一弾性部材61がコイルネバネの場合であって、第一弾性部材61に加わる荷重を100kg~5tで挿入する場合に、第一弾性部材61の自由長に対して、第一弾性部材61のたわみ量が0~30%の範囲で変形した状態で、攪拌ピン60が被接合部材に挿入されるように設定されている。これにより、被接合部材2に対して一定の高さで攪拌ピン60を押し込んだ場合に、被接合部材2の高さが変化した場合にも、被接合部材2の変化に合わせて第一弾性部材61が変形することで、攪拌ピン60の挿入量を一定に保ちやすくなる。
【0034】
なお、第一弾性部材61は、コイルバネに限定されるものではなく、板バネ、皿ばね等の金属ばねや、ゴム、高分子樹脂、スポンジ状樹脂等の高分子弾性体(エラストマー)であってもよい。さらに第一弾性部材61は、空気圧、ガス圧や油圧を用いた流体ばねや、磁力や電磁力を用いた磁性ばねであってもよい。
【0035】
第一弾性部材は、接合条件を考慮して、攪拌ピン60が所定の深さにまで挿入される変形量と弾性率との関係を満たすように設定すればよい。第一弾性部材の設定に影響を与える接合条件としては、例えば、被接合部材の材質や接合部の形状といった接合部材の条件や、攪拌ピン60の挿入深さ、回転ツールの形状、回転速度、移動速度といった接合態様が挙げられる。
【0036】
<ショルダ>
ショルダ70は、被接合部材に接触した状態で被接合部材を押圧する部位である。ショルダ70は、攪拌ピン60とは別体に構成され、攪拌ピン60とは個別に回転軸の軸方向に移動可能に、本体部10に接続されている。ショルダ70は、例えば工具鋼にて形成されている。ショルダ70は、円筒形状を呈しており、攪拌ピン60を囲うように同軸状に配置されている。つまり、ショルダ70の中空部72には、攪拌ピン60が挿入されている。攪拌ピン60は、ショルダ70に対して相対回転可能で且つ軸方向に相対移動可能になっている。ショルダ70の先端面は、攪拌ピン60の先端部62のテーパ面の基端部と同一高さとなっている。つまり、ショルダ70の先端面から攪拌ピン60の先端部62が先端側に向かって突出している。言い換えれば、攪拌ピン60は、ショルダの底面73よりも下方に突出している。ショルダ70は、第二スライド軸51と一体形成されており、第二スライド軸51のスライド移動によって、回転軸の軸方向に移動する。第二スライド軸51は、ショルダ70の基端面(第二ホルダ41の第二収納凹部42に対向する面)に連結され、第二収納凹部42に向かって突出している。第二スライド軸51は、ショルダ70の基端面に、90°ピッチで4か所に連結されている(図3参照)。なお、第二スライド軸51の個数は、4に限定されるものではなく、第二収納凹部42と対応する個数であれば、1であってもよいし、2,3または5以上であってもよい。
【0037】
以上のように、ショルダ70と一体形成された第二スライド軸51が、第二ホルダ41の第二収納凹部42に挿入されているので、ショルダ70は、第二ホルダ41と同期回転
する。
【0038】
<第二弾性部材>
第二弾性部材71は、回転軸の軸方向に対してショルダ70を先端側に向けて付勢する部位である。第二弾性部材71は、第一弾性部材61と同様に例えばコイルバネにて構成されている。第二弾性部材71は、第二スライド軸51の下部を巻くように配置されている。第二弾性部材71は、ショルダ70の基端面と第二ホルダ41のショルダ収納凹部45の奥側底面との間に装着されている。第二弾性部材71は、ショルダ70から受ける力に対して、ショルダ70を先端側に向けて付勢できるようになっている。
【0039】
第二弾性部材71の弾性は、アルミ、銅、マグネシウム、及びこれらの合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの材質からなる被接合部材に対して攪拌ピン60を所定の押し込み荷重で挿入する場合に、第二弾性部材71による攪拌ピン60の全可動範囲(キー溝43内でのキー52の可動長さ)内で、所定の範囲でショルダ70が変位して被接合部材2を押圧するように設定されている。例えば、第二弾性部材71がコイルネバネの場合であって、第二弾性部材71に加わる荷重を50kg~2tで挿入する場合には、第二弾性部材71の自由長に対して、第二弾性部材71のたわみ量が0~30%の範囲で変形した状態で、ショルダ70が被接合部材2を押圧するように設定されている。これにより、被接合部材2に対してショルダ70が接触した状態で、ショルダ70が被接合部材2に挿入されることなく、ショルダ70で被接合部材を押さえ付けやすくなる。第二弾性部材71は、第一弾性部材61よりも変形し易くなっている。
【0040】
なお、第二弾性部材71は、第一弾性部材61と同様にコイルバネに限定されるものではなく、板バネ、皿ばね等の金属ばねや、ゴム、高分子樹脂、スポンジ状樹脂等の高分子弾性体(エラストマー)であってもよい。さらに第二弾性部材71は、空気圧、ガス圧や油圧を用いた流体ばねや、磁力や電磁力を用いた磁性ばねであってもよい。
【0041】
第二弾性部材71は、接合条件を考慮して、被接合部材2に押し付けられたショルダ70が、被接合部材2と接触した状態で、被接合部材2に挿入されずに、被接合部材2を押さえ付けることができる変形量と弾性率との関係を満たすように設定すればよい。第二弾性部材71の設定に影響を与える接合条件としては、例えば、被接合部材2の材質や接合部の形状といった接合部材の条件や、攪拌ピン60の挿入深さ、回転ツール1の形状、回転速度、移動速度といった接合態様が挙げられる。ショルダ70は、少なくとも一部が被接合部材2と接触していればよく、被接合部材2の表面形状との関係に応じて被接合部材2との間に多少の空間が生じても良いが、摩擦攪拌接合によって溢れ出した金属材料を押さえ付けてバリの発生を防ぐことができるように、被接合部材2と隙間なく接触することが好ましい。また、ショルダ70は、被接合部材2に多少は挿入されてもよいが、接合後に被接合部材2とショルダ70との接触による凹部が生じない程度に、被接合部材2に深く挿入されないことが好ましい。
【0042】
<保持部>
保持部80は、図1に示すように、ロッド状のアーム部材であって、先端部が第二ホルダ41の外周面に固定されている。保持部80の基端部は、接合装置3の固定系に接続されており、第二ホルダ41を無回転状態に保持するようになっている。この保持部80は、回転ツール1に含まれている。第二ホルダ41及びショルダ70は、回転軸12、並びに第一ホルダ21及び攪拌ピン60に対して相対回転可能に設けられており、さらに、保持部80によって無回転状態に保持される。これにより、攪拌ピン60が回転する場合であっても、ショルダ70を無回転状態に保持することができる。
【0043】
[2.接合装置]
次に、前記構成の回転ツール1を備えた接合装置3の構成を説明する。かかる接合装置3は、回転ツール1の回転軸12に伝達する回転力を出力する動力手段(図示せず)と、回転ツール1の固定部11を保持して回転ツールの位置制御を行う位置制御手段(図示せず)と、を備えている。接合装置3は、例えば位置制御を行うマシニングセンタにて構成されており、位置制御装置は、CPU等にて構成され、予め入力された位置情報に基づいて、動力手段を作動させて回転ツール1を移動させる。動力手段は、回転ツール1をXYZの3軸方向に移動させる。
【0044】
[3.接合方法]
次に、本発明に係る接合方法を、図4図5を参照して説明する。かかる接合方法では、本実施形態の回転ツール1を、被接合部材2に対して予め設定された所定の高さ位置となるように移動させて、被接合部材2に対して回転ツール1のショルダ70を押圧しながら、被接合部材2に回転する回転ツール1の攪拌ピン60を挿入して、被接合部材2に対する摩擦攪拌接合を行う。
【0045】
攪拌ピン60の挿入時には、図4の(a),(b)に示すように、回転ツール1を被接合部材2に向けて挿入方向に近づけるにつれて、まずは攪拌ピン60の先端が被接合部材2に接触する。回転ツール1をさらに被接合部材2に近づけると、第一弾性部材61が圧縮を受けることで、被接合部材2に向けて攪拌ピン60を付勢する第一弾性部材61による弾性力が強まりながら、攪拌ピン60が被接合部材2に挿入される。このようにして、攪拌ピン60が所望の深さで被接合部材2に挿入されるまで、回転ツール1を被接合部材2に向けて挿入方向に近づけて接合を行う。このとき、第一弾性部材61が完全に変形しきらずに、第一弾性部材61の変形による余力を残した状態で、攪拌ピン60を被接合部材2に挿入することができるように、第一弾性部材61が設定されている。
【0046】
図4の(c)に示すように、回転ツール1をさらに被接合部材2に近づけると、ショルダ70が被接合部材2に接触する。第二弾性部材71が圧縮を受けることで、被接合部材2に向けてショルダ70を付勢する第二弾性部材71による弾性力が強まりながら、ショルダ70が被接合部材2に押し付けられる。このとき、第二弾性部材71が完全に変形しきらずに、第二弾性部材71の変形による余力を残した状態で、ショルダ70を被接合部材2に押圧することができるように第二弾性部材71の弾性力が設定されている。また、ショルダ70が、被接合部材2と接触した状態で、被接合部材2に挿入されずに、被接合部材2を押さえ付けることができるように第二弾性部材71が設定されている。
【0047】
回転ツール1による接合中は、図5中、左側に示すように、攪拌ピン60が第一弾性部材61によって先端側に向けて付勢されるとともに、ショルダ70が第二弾性部材71によって先端側に向けて付勢されている。これにより、被接合部材2の高さが設定値に対して誤差が無い場合は、図5中、左側に示すように、攪拌ピン60の先端部62が、所望の深さで被接合部材2に挿入される。また、ショルダ70は、被接合部材に対して接触した状態で、被接合部材2に挿入されずに、被接合部材2を押さえ付けることができるようになっている。
【0048】
次に、図5中、中央部に示すように、摩擦攪拌接合を行ううちに被接合部材2の高さが誤差によって設定値より少し高くなった場合について説明する。ここで、仮に、第一弾性部材61が存在せずに攪拌ピン60をそのまま被接合部材2に押し込んでいた場合には、被接合部材2の高さが設定値に対して誤差が無い場合と比べて、被接合部材2の高さが高くなった分だけ攪拌ピン60の挿入量が大きくなる。これに対して、本実施形態の回転ツール1により接合を行った場合には、被接合部材2の高さが高くなったことで攪拌ピン60が被接合部材2からの上向きの反力を受けて押し上げられるとともに、この押し上げによって第一弾性部材61が圧縮されて、攪拌ピンが第一弾性部材61から下向きの弾性力を受けて押し下げられる。このような被接合部材2の高さの変化に伴う上向きの反力と下向きの弾性力との釣り合う位置に、攪拌ピン60の位置が変更される。このときの攪拌ピン60の挿入量が、被接合部材2の高さが設定値に対して誤差が無い場合の挿入量と比べて同程度となるように、第一弾性部材61が設定されている。仮に、第一弾性部材61の弾性力が弱すぎると、被接合部材2の高さの変化に伴う上向きの反力の方が大きくなり、挿入量が小さくなってしまう。一方、第一弾性部材61の弾性力が強すぎると、被接合部材2の高さの変化に伴う下向きの弾性力の方が大きくなり、挿入量が大きくなってしまう。すなわち、被接合部材2の高さが変動して高くなった場合であっても、回転ツール1では、被接合部材2の設定値の高さに合わせて設定した所望の深さで攪拌ピン60が被接合部材2に挿入されるように、第一弾性部材61が設定されている。
【0049】
またここで、仮に第二弾性部材71が存在せずにショルダ70をそのまま被接合部材2に押し込んでいた場合には、被接合部材2の高さが設定値に対して誤差が無い場合と比べて、被接合部材2の高さが高くなった分だけショルダ70の挿入量が大きくなる。これに対して、本実施形態の回転ツール1により接合を行った場合には、被接合部材2の高さが高くなったことでショルダ7が被接合部材2からの上向きの反力を受けて押し上げられるとともに、この押し上げによって第二弾性部材71が圧縮されて、ショルダ70が第二弾性部材71から下向きの弾性力を受けて押し下げられる。このようにして、被接合部材2の高さの変化に伴う上向きの反力と下向きの弾性力の釣り合う位置に、ショルダ70の位置が変更される。このときのショルダ70が、被接合部材2の高さが設定値に対して誤差が無い場合と比べて、同様に押し付けられるように、第二弾性部材71が設定されている。仮に、第二弾性部材71の弾性力が弱すぎると、挿入深さの変化に伴う上向きの反力の方が大きくなり、押付けが不十分になることで、ショルダ70がバリの発生を抑えられなくなってしまう。また、第二弾性部材71の弾性力が弱すぎると、被接合部材2の高さの変化に伴う上向きの反力の方が大きくなり、押付けが不十分になることで、接合部に欠陥が生じてしまう。一方、第二弾性部材71の弾性力が強すぎると、被接合部材2の高さの変化に伴う下向きの弾性力が大きくなり、挿入力が大きくなることで、ショルダ70が被接合部材2に挿入されてしまう。すなわち、回転ツール1では、被接合部材2の高さが変動した場合であっても、ショルダ70が被接合部材2に接触した状態で、被接合部材2に挿入されずに、被接合部材2を押さえ付けるように第二弾性部材71が設定されている。
【0050】
さらに、被接合部材2の高さが設定値より低くなると、図5中、右側に示すように、第一弾性部材61が伸張して、攪拌ピン60が下降するとともに、第二弾性部材71が伸張して、ショルダ70が下降する。このように、被接合部材2の高さが変動して低くなった場合であっても、回転ツール1では、被接合部材2の設定値の高さに合わせて設定した所望の深さで攪拌ピン60が被接合部材2に挿入されるように、第一弾性部材61が設定されている。また、被接合部材2の高さが変動して低くなった場合であっても、回転ツール1では、ショルダ70が被接合部材2に接触した状態で、被接合部材2に挿入されずに、被接合部材2を押さえ付けるように第二弾性部材71が設定されている。
【0051】
その後、攪拌ピンの引き抜き位置では、回転ツール1を被接合部材2から遠ざけるにつれて、まずはショルダ70が被接合部材2から離脱する。回転ツール1をさらに被接合部材2から遠ざけると、攪拌ピン60の挿入量が次第に小さくなる。そして、回転ツール1をいっそう被接合部材2から遠ざけると、攪拌ピン60が被接合部材2から離脱する。
【0052】
以上のように、回転ツール1では、第一弾性部材61の作用によって、攪拌ピン60が被接合部材2に対して一定の深さで挿入されるので、塑性化領域が一定の深さで形成される。したがって、安定した接合品質を得ることができる。また、回転ツール1では、第二弾性部材71の作用によって、ショルダ70が被接合部材2を押圧する状態を保ちながら、攪拌ピン60を被接合部材2に挿入して摩擦攪拌を行うことで、攪拌ピン60による摩擦攪拌を受けて攪拌ピン60の挿入部位から溢れ出した金属材料をショルダ70が押さえ付けることができる。したがって、バリの発生を軽減することができる。
【0053】
[4.作用・効果]
本実施形態に係る回転ツール1、接合装置3および接合方法によれば、回転軸12の軸方向に対して移動可能に設けられた攪拌ピン60が、第一弾性部材61によって先端側に向けて付勢されていることによって、攪拌ピン60の先端部62を被接合部材2に挿入した際に、第一弾性部材61の弾性に応じて、攪拌ピン60が所定の深さにまで挿入される。接合部材や接合態様といった接合条件を考慮して、第一弾性部材61を設定することで、攪拌ピン60を所望の深さに挿入させることができる。つまり、回転ツール1は、第一弾性部材61を用いた疑似的な荷重制御を行うことができる。
【0054】
位置制御のみを行える、例えばマシニングセンタ等の接合装置に弾性部材が無い回転ツールを装着した場合には、マシニングセンタによる設定値に基づいて回転ツール1の支持高さが一定となり、攪拌ピン60の挿入位置が略一定になる。これに対して、本実施形態の回転ツール1を用いると、マシニングセンタによる回転ツール1の支持高さが一定であっても、被接合部材2の高さに応じて、第一弾性部材61が適宜伸縮して、攪拌ピン60が軸方向に移動する。このように、第一弾性部材61の弾性を利用することで、攪拌ピン60の被接合部材2への挿入深さを制御できるという荷重制御が可能となる。
【0055】
また、回転ツール1は、本体部(回転軸12)からの回転力を受けずに、回転軸12の軸方向に対して攪拌ピン60とは個別に移動可能に配設されて、被接合部材2を押圧するショルダ70を備えている。攪拌ピン60による摩擦攪拌を受けて攪拌ピン60の挿入部位から溢れ出した金属材料をショルダ70が押さえ付けることによって、バリの発生を軽減することができる。このようにして、ショルダ70によって、摩擦攪拌接合後の表面の仕上がりが良好になる。
【0056】
さらに、回転ツール1は、ショルダ70を先端側に向けて付勢する第二弾性部材71を備えている。これにより、ショルダ70も第二弾性部材71によって荷重制御が可能となるので、摩擦攪拌接合後の表面の仕上がりが一層良好になる。
【0057】
本体部10は、円筒状の第一ホルダ21と、第一ホルダ21の中心部に回転軸方向にスライド可能に収容されるとともに第一ホルダ21と同期回転する第一スライド軸31とをさらに有し、攪拌ピン60は、第一スライド軸31の先端に設けられている。これにより、本体部10からの回転力を攪拌ピン60に伝達しつつ、攪拌ピン60が回転軸方向にスライドすることができる。
【0058】
回転ツール1においては、第一弾性部材61が第一スライド軸31の下部を囲うように配置されている。これにより、第一弾性部材61が第一スライド軸31と攪拌ピンとの中間部付近に位置するとともに、第一弾性部材61が第一スライド軸31の周方向に均等に作用する。したがって、第一スライド軸31が移動しても、第一弾性部材61が攪拌ピン60を先端側に向けて安定に付勢する。したがって、第一弾性部材61を容易に設置できるとともに、攪拌ピン60の荷重制御の精度を高めることができる。
【0059】
回転ツール1においては、第一弾性部材61は、第一ホルダ21の内部に収容され、第一スライド軸31の基端部と第一ホルダ21の固定部側との間に配置されている。これにより、第一弾性部材61が第一スライド軸31と攪拌ピン60との中間部付近に位置するとともに、第一弾性部材61が攪拌ピン60側から受ける力を第一ホルダ21によって受けることができる。したがって、第一スライド軸31が移動しても、第一弾性部材61が攪拌ピン60を先端側に向けて安定に付勢するため、攪拌ピン60の荷重制御の精度を高めることができる。
【0060】
また、第一ホルダ21にキー溝23が形成され、第一スライド軸31にキー32が形成されている。これにより、第一スライド軸31および攪拌ピン60が、回転軸12及び第一ホルダ21の回転に伴って同期回転しつつ、軸方向への移動を安定した状態で許容する。したがって、攪拌ピン60の動作がより一層安定する。
【0061】
さらに、本体部10は、第二ホルダ41と第二スライド軸51とを有している。ショルダ70が第一ホルダ21及び回転軸12に対して相対回転可能となり、無回転の状態で安定して回転軸12の軸方向にスライドすることができる。
【0062】
ショルダ70は円筒形状を呈し、攪拌ピン60はショルダ70の中空部72を挿通し、攪拌ピン60の先端部62がショルダ70の底面よりも下方に突出しているので、攪拌ピン60がショルダ70の内部で安定して回転できるとともに、ショルダ70の底面が摩擦攪拌領域の周囲を押圧することができる。
【0063】
回転ツール1は、ショルダ70を無回転状態に保持する保持部80を備えているので、ショルダ70を無回転状態に保持しやすくなり、摩擦攪拌接合後の被接合部材2の表面の仕上がりがより一層良好になる。
【0064】
回転ツール1においては、第一弾性部材61は、固体ばね、流体ばね、磁力、及び電磁力から選ばれる少なくとも一つによって弾性力を付与する弾性部材であるものが好ましい。このような構成によれば、第一弾性部材61の弾性を調整し易い。
【0065】
接合装置3は、回転ツール1、動力手段、及び位置制御手段を備え、位置制御手段によって回転ツール1を被接合部材2に対して所定の高さ位置となるように移動させて、被接合部材2に対して回転ツール1のショルダ70を押圧しながら、被接合部材2に回転ツール1の攪拌ピン60を挿入して、被接合部材2に対する摩擦攪拌接合を行う。本接合装置3によれば、第一弾性部材61の弾性を利用することで、攪拌ピン60の被接合部材2への挿入深さを制御する荷重制御を行いながら摩擦攪拌接合を行うことができる。また、攪拌ピン60による摩擦攪拌を受けて攪拌ピン60の挿入部位から溢れ出した金属材料をショルダ70が押さえ付けることによってバリの発生を軽減して、摩擦攪拌接合後の表面の仕上がりが良好になる。
【0066】
本接合方法は、回転ツール1を、被接合部材2に対して所定の高さ位置となるように移動させて、被接合部材2に対してショルダ70を押圧しながら、被接合部材2に回転する攪拌ピン60を挿入して、被接合部材2に対する摩擦攪拌接合を行う。本接合方法によれば、第一弾性部材61の弾性を利用することで、攪拌ピン60の被接合部材2への挿入深さを制御する荷重制御を行いながら摩擦攪拌接合を行うことができる。また、攪拌ピン60による摩擦攪拌を受けて攪拌ピン60の挿入部位から溢れ出した金属材料をショルダ70が押さえ付けることによってバリの発生を軽減して、摩擦攪拌接合後の表面の仕上がりが良好になる。
【0067】
以上説明したように、回転ツール1、接合装置3および接合方法によれば、位置制御のみを行うマシニングセンタに装着した状態であっても荷重制御を行うことができる。
【0068】
[5.変形例]
次に、図6を参照しながら、保持部の変形例について説明する。変形例に係る保持部85として、図6に示すように、第二ホルダ41aの下端部に外形が矩形形状の矩形部48が設けられ、回転ツール1aの移動軌跡に沿ってガイド部材86が設けられている形状であってもよい。ガイド部材86は、長尺部材からなり、第二ホルダ41aの矩形部48を両側から挟むように、矩形部48の幅と略同じ長さの間隔を空けて、両側にそれぞれ配置されている。ガイド部材86は、接合装置3が備える保持部である。このような構成の第二ホルダ41aは、矩形部48の外周面がガイド部材86の側面に摺動しながら回転せずに移動軌跡に沿って移動する。第二ホルダ41aの内部には、図1の第二ホルダ41と同様に、攪拌ピン60、及び第一ホルダ21、並びにベアリングが挿入されている。その他の構成は、図1の回転ツール1と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0069】
[6.その他]
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。前記実施形態では、第一ホルダ21にキー溝23が形成され、第一スライド軸31にキー32が形成されているが、これに限定されるものではない。第一ホルダ21にキーを形成し、第一スライド軸31にキー溝を形成してもよい。また、第二ホルダ41と第二スライド軸51も同様に、キーとキー溝の位置関係を逆にし、第二ホルダ41にキーを形成し、第二スライド軸51にキー溝を形成してもよい。このような場合も前記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0070】
また、前記実施形態では、回転ツール1が、第二ホルダ41に固定される保持部80を備え、この保持部が接合装置3に接続されてショルダ70を無回転状態に保持する場合を例示したがこれに限定されるものではない。例えば、接合装置3が第二保持部として、接合装置3の固定系に固定されるロッド状のアーム部材を備え、この第二保持部が回転ツール1の第二ホルダ41に接続されてショルダ70を無回転状態に保持するものであってもよい。この第二保持部は、接合装置3に含まれている。また、回転ツール1が保持部80として、第二ホルダ41に固定されるロッド状のアーム部材を備えるとともに、接合装置3が第二保持部として、接合装置3の固定系に固定されるロッド状のアーム部材を備え、両保持部が互いに接続されることで、ショルダ70を無回転状態に保持するものであってもよい。この保持部は、回転ツール1、及び接合装置3に含まれている。このように、回転ツール1に含まれる保持部と、接合装置3に含まれて、回転ツール1に含む保持部と共同して動作する第二保持部とを同時に設けてもよい。また、固定手段は保持部80として、ショルダ70に固定されるロッド状のアーム部材(回転ツール1に含む)や、接合装置3の固定系とショルダ70とを接続するロッド状のアーム部材(接合装置3に含む)等の他の形状であってもよい。以上のように、本接合装置3がショルダ70を無回転状態に保持する第二保持部を備えることで、ショルダ70を無回転状態に保持しやすくなり、摩擦攪拌接合後の被接合部材2の表面の仕上がりがより一層良好になる。
【0071】

さらに、前記実施形態では、第一弾性部材61は、第一スライド軸31の下部を囲うように配置され、第一ホルダ21の下端と攪拌ピン60の段部63との間に設けられているがこれに限定されるものではない。第一弾性部材61は、攪拌ピン60を先端側に付勢する位置であればどこに配置しても良く、例えば、第一ホルダ21の内部に収容し、第一スライド軸31の基端部と第一ホルダの固定部側との間(第一スライド軸31の基端部と第一収納凹部22の奥側底部との間)に装着してもよい。また、第二弾性部材71も同様に、第二スライド軸51の基端部と第二収納凹部42の奥側底面との間に装着してもよい。また、第一スライド軸31の上端部において、上端部側に向けて柱状形状に伸長された伸長部が形成されており、この第一スライド軸31の伸長部を囲うとともに、ホルダ21の固定部側との間に第一弾性部材61を装着してもよい。このとき、ホルダ21の内径に合わせて伸長部を第一スライド軸31よりも小さい径に形成してもよい。このような場合も前記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0072】
前記実施形態では、攪拌ピン60の先端部62がショルダ70の底面よりも下方に突出している場合を例示したが、これに限定されるものではない。回転ツール1は、被接合部材2と接触していない状態で、ショルダ70の底面が攪拌ピン60の先端部62よりも下方に突出していてもよい。これにより、回転ツール1を被接合部材2から引き抜く際に、回転ツール1を被接合部材2から遠ざけていくと、ショルダ70が被接合部材2を押圧した状態で、ショルダ70よりも先に攪拌ピン60が被接合部材2から離脱する。このとき、ショルダ70が被接合部材2を押圧する状態を保ちながら、攪拌ピン60を引き抜くことによって、攪拌ピン60の挿入によって流動して溢れ出した金属材料をショルダ70が押さえ付けることができる。したがって、攪拌ピン60を抜く際に生じる抜き穴を、ショルダ70が押さえ付けた金属材料によって埋めやすくなる。特には、摩擦攪拌接合時に回転ツール1を挿入した位置で接合を行い、挿入位置から移動させずに引き抜く、スポットでの摩擦攪拌を行う場合に抜き穴の形成を防ぎやすくなる。
【符号の説明】
【0073】
1 回転ツール
2 被接合部材
3 接合装置
10 本体部
11 固定部
12 回転軸
21 第一ホルダ
23 キー溝
31 第一スライド軸
32 キー
41 第二ホルダ
43 キー溝
51 第二スライド軸
52 キー
60 攪拌ピン
61 第一弾性部材
70 ショルダ
71 第二弾性部材
80 保持部材
85 第二保持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6