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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089524
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】生体信号処理装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20220609BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20220609BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20220609BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/16 130
A61B5/11 100
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201973
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100161399
【弁理士】
【氏名又は名称】大戸 隆広
(72)【発明者】
【氏名】藤原 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】薬師川 聡子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亨
(72)【発明者】
【氏名】小林 茉以
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 枝里子
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KM03
4C038KX01
4C038KY01
4C038PP05
4C038PS07
4C038SU06
4C038SV01
4C038SX07
4C038VA04
4C038VA15
4C038VB01
4C038VB31
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】呼吸や被検者の動きに関するデータに基づいて被検者の睡眠時間を推定する生体情報処理装置およびその制御方法を提供すること。
【解決手段】生体信号処理装置は、睡眠評価のために計測された体動もしくは体位に関するデータと、呼吸に関するデータとを取得する。生体信号処理装置は、呼吸に関するデータに基づいて、呼吸が安定したと判定される呼吸安定時刻を検出し、呼吸安定時刻以前に計測された体動もしくは体位に関するデータに基づいて、入眠時刻を推定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠評価のために計測された計測データから、体動もしくは体位に関するデータと、呼吸に関するデータとを取得する取得手段と、
前記呼吸に関するデータに基づいて、呼吸が安定したと判定される呼吸安定時刻を検出する検出手段と、
前記呼吸安定時刻以前に計測された前記体動もしくは体位に関するデータに基づいて、入眠時刻を推定する推定手段と、
を有することを特徴とする生体信号処理装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記呼吸安定時刻から遡って直近に体動が検出されなくなった時刻もしくは立位が検出されなくなった時刻を入眠時刻として推定することを特徴とする請求項1に記載の生体信号処理装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記呼吸に関するデータから得られる呼吸振幅のばらつきに関する指標に基づいて、前記呼吸安定時刻を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の生体信号処理装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記呼吸振幅のばらつきに関する指標が予め定められた閾値に対して予め定められた条件を満たしたことに基づいて、前記呼吸安定時刻を検出することを特徴とする請求項3に記載の生体信号処理装置。
【請求項5】
前記検出手段は、計測開始から最初に前記呼吸振幅のばらつきに関する指標が予め定められた閾値を下回ったことに基づいて前記呼吸安定時刻を検出することを特徴とする請求項3または4に記載の生体信号処理装置。
【請求項6】
前記検出手段は、直近の複数の前記呼吸振幅のばらつきに関する指標のうち、所定の割合以上が予め定められた閾値を下回ったことに基づいて前記呼吸安定時刻を検出することを特徴とする請求項3または4に記載の生体信号処理装置。
【請求項7】
前記予め定められた閾値が、前記呼吸振幅のばらつきに関する指標に基づいて算出されることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項8】
前記取得手段は、前記計測データから、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)に関するデータをさらに取得し、
前記検出手段はさらに、前記呼吸に関するデータに基づいて、前記計測データの計測区間のうち、呼吸センサの装着不良区間を検出するとともに、前記SpO2に関するデータに基づいて、SpO2センサの装着不良区間を検出し、
前記推定手段はさらに、前記検出手段が検出した前記呼吸センサの装着不良区間と前記SpO2センサの装着不良区間とに基づいて、被検者の起床時刻を推定する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項9】
前記計測データの計測開始から前記入眠時刻までの区間、前記起床時刻から前記計測データの計測終了までの区間、前記呼吸センサの装着不良区間、および前記SpO2センサの装着不良区間を、前記計測データの計測区間から除いた区間の長さを、被検者の睡眠時間として用いて、睡眠時無呼吸症候群(SAS)診断の指標となる値を算出する算出手段をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の生体信号処理装置。
【請求項10】
睡眠評価のために計測された計測データから、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)に関するデータと、呼吸に関するデータとを取得する取得手段と、
前記呼吸に関するデータに基づいて、前記計測データの計測区間のうち、呼吸センサの装着不良区間を検出するとともに、前記SpO2に関するデータに基づいて、SpO2センサの装着不良区間を検出する、検出手段と、
前記検出手段が検出した前記呼吸センサの装着不良区間と前記SpO2センサの装着不良区間とに基づいて、被検者の起床時刻を推定する推定手段と、
を有することを特徴とする生体信号処理装置。
【請求項11】
前記推定手段は、前記計測区間のうち、前記呼吸センサの装着不良区間と前記SpO2センサの装着不良区間とが重複する区間に基づいて前記起床時刻を推定することを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項12】
前記推定手段は、前記計測区間のうち、前記呼吸センサの装着不良区間と前記SpO2センサの装着不良区間とが重複する最後の区間の開始時刻から遡って、前記呼吸センサの装着不良区間と前記SpO2センサの装着不良区間がいずれも検出されなくなった時刻を、前記起床時刻として推定することを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項13】
前記検出手段は、前記呼吸に関するデータから得られる呼吸振幅の大きさに基づいて、前記呼吸センサの装着不良区間を検出することを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項14】
前記検出手段は、前記計測区間のうち、前記呼吸に関するデータから得られる呼吸振幅の大きさが予め定められた閾値以下である区間を、前記呼吸センサの装着不良区間として検出することを特徴とする請求項13に記載の生体信号処理装置。
【請求項15】
前記検出手段は、前記SpO2に関するデータのうち、SpO2の値が予め定められた一定時間以上計測されていない区間を、前記SpO2センサの装着不良区間として検出することを特徴とする請求項8から14のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項16】
睡眠評価のために計測された計測データから、体動もしくは体位に関するデータと、呼吸に関するデータとを取得する取得工程と、
前記呼吸に関するデータに基づいて、呼吸が安定したと判定される呼吸安定時刻を検出する検出工程と、
前記呼吸安定時刻以前に計測された前記体動もしくは体位に関するデータに基づいて、入眠時刻を推定する推定工程と、
を有することを特徴とする生体信号処理装置の制御方法。
【請求項17】
睡眠評価のために計測された計測データから、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)に関するデータと、呼吸に関するデータとを取得する取得工程と、
前記呼吸に関するデータに基づいて、前記計測データの計測区間のうち、呼吸センサの装着不良区間を検出するとともに、前記SpO2に関するデータに基づいて、SpO2センサの装着不良区間を検出する、検出工程と、
前記検出工程で検出された前記呼吸センサの装着不良区間と前記SpO2センサの装着不良区間とに基づいて、被検者の起床時刻を推定する推定工程と、
を有することを特徴とする生体信号処理装置の制御方法。
【請求項18】
コンピュータを、請求項1から15のいずれか1項に記載の生体信号処理装置が有する各手段として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体信号処理装置およびその制御方法に関し、特には睡眠評価のために計測されたデータを取り扱う生体信号処理装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)に対する社会的な関心が高まっている。SASの確定には被検者に多数のセンサを装着するPSG(polysomnography)検査が必要であるが、PSG検査には1~2泊の入院が必要であるため、被検者の負担が小さくない。そのため、PSG検査(精密検査)を実施する前に、PSG検査の必要性を判定するためのスクリーニング検査(簡易PSG検査とも呼ばれる)が行われることが多い。特許文献1には、スクリーニング検査用の装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-80141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
簡易PSG検査は携帯型の計測機器を用い、装着するセンサの数も少ないため、自宅で行うことが可能であり、被検者の負担が少ないという利点がある。その反面、簡易PSG検査では脳波、眼球運動、頤筋筋電図といった、睡眠状態を特定可能な生体信号を計測しない(計測できない)ため、計測中における被検者の真の睡眠時間を知ることができない。
【0005】
一方で、PSG検査(精密検査)の必要性の判定基準やSAS診断の指標として一般に用いられる無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index:AHI)や酸素飽和度低下指数(Oxygen Desaturation Index:ODI)の算出には、睡眠時間が必要である。そのため、簡易PSG検査で一般的に計測される、呼吸や被検者の動きに関するデータに基づいて被検者の睡眠時間を推定する必要がある。
【0006】
したがって、本願発明は、呼吸や被検者の動きに関するデータに基づいて被検者の睡眠時間を推定する生体信号処理装置およびその制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は、睡眠評価のために計測された計測データから、体動もしくは体位に関するデータと、呼吸に関するデータとを取得する取得手段と、呼吸に関するデータに基づいて、呼吸が安定したと判定される呼吸安定時刻を検出する検出手段と、呼吸安定時刻以前に計測された体動もしくは体位に関するデータに基づいて、入眠時刻を推定する推定手段と、を有することを特徴とする生体信号処理装置によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、呼吸や被検者の動きに関するデータに基づいて被検者の睡眠時間を推定する生体信号処理装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る生体信号処理装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2】計測データとアーチファクト区間の例を示す図である。
図3】実施形態に係る入眠時刻の推定動作に関するフローチャートである。
図4】実施形態に係る入眠時刻の推定動作を計測データを用いて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明をその例示的な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明をいかなる意味においても限定しない。また、実施形態で説明される構成の全てが本発明に必須とは限らない。また、明らかに不可能である場合や、それが否定されている場合を除き、異なる実施形態に含まれる構成を組み合わせたり、入れ替えたりしてもよい。また、重複した説明を省略するために、添付図面においては全体を通じて同一もしくは同様の構成要素には同一の参照番号を付してある。
【0011】
図1は、本実施形態に係る生体信号処理装置100の機能構成例を示すブロック図である。生体信号処理装置100は、例えばプログラマブルプロセッサにより、後述する動作を実現するアプリケーションプログラムを実行することによって実現することができる。したがって、生体信号処理装置は、パーソナルコンピュータなど、プログラマブルプロセッサを有する電子機器一般で実施することができる。
【0012】
なお、生体信号処理装置100は睡眠評価のために簡易PSG検査装置によって計測、記録されたデータを取り扱う。なお、本明細書において簡易PSG検査とは、脳波、眼球運動、頤筋筋電図など、睡眠状態を直接表す生体信号を計測しない検査を意味する。簡易PSG検査装置が計測するデータは装置に応じて異なりうるが、本実施形態では、少なくとも呼吸に関するデータとして鼻または口鼻呼吸(圧力)が、被検者の動きに関するデータとして体動または体位が計測されているものとする。また、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)のデータも計測されているものとする。
【0013】
制御部110は、プログラマブルプロセッサ、ROM、RAMを有し、ROMや記録部130に記憶されているプログラムをRAMに読み込んで実行することにより、後述する波形編集処理を含む、生体信号処理装置100の処理を実現する。また、制御部110は操作部160の操作に応じた処理を実行することにより、ユーザによる生体信号処理装置100の対話的な操作を可能にする。
【0014】
外部I/F120は生体信号処理装置100が外部装置と有線および/または無線通信するためのインタフェースである。生体信号処理装置100は、外部I/F120を通じて外部機器から処理対象の計測データを取得することができる。外部I/F120は例えば、USB、無線LAN、有線LAN、bluetooth(登録商標)など、機器間の通信に関する規格の1つ以上に準じた構成を有することができる。
【0015】
記録部130は計測データなどを保持するための装置であり、SSD、HDDなどの内蔵記憶装置、および/またはUSBメモリ、メモリカードなどの着脱可能な記憶装置であってよい。制御部110は、記録部130にデータを記録したり、記録部130に記録されたデータを読み出したりする。
【0016】
表示部150は液晶表示装置(LCD)などの表示装置であり、生体信号処理装置100のユーザインタフェース(GUI)、計測データや被検者情報などを表示する。表示部150は外部表示装置であってもよい。
【0017】
操作部160はキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、スイッチ、ボタンなど、ユーザが生体信号処理装置100に指示を入力するための入力デバイスの総称である。表示部150がタッチディスプレイの場合、表示部150に表示されたソフトウェアキーは操作部160の一部を構成する。
【0018】
図2は、記録部130が保持する計測データと、計測データに存在するアーチファクト区間の例である。アーチファクト区間は、計測区間のうち、センサ外れなどにより計測項目の少なくとも一部が正しく計測できておらず、有効な計測時間として見なすべきでない時間区間である。
【0019】
図2には、計測区間にアーチファクト区間201、203、205、207、209が存在する例を示している。アーチファクト区間203、205、207はSpO2センサの装着不良および/または呼吸センサの装着不良に起因している。また、アーチファクト区間201は被検者が入眠する前の区間(入眠前区間)、アーチファクト区間209は被検者が起床した後の区間(起床区間)である。
【0020】
本実施形態の生体信号処理装置100は、計測データからこのようなアーチファクト区間を検出もしくは推定する。特に、体動もしくは体位と、呼吸に関する計測データに基づいて、被検者の入眠前および起床後の区間の推定を行うことを特徴とする。以下、(1)入眠前区間の推定、(2)センサ装着不良の検出、(3)起床区間の推定について順に説明する。以下の処理は、計測データの解析アプリケーションの機能と一部として実装することができ、例えば制御部110が解析アプリケーションを実行中に記録部130から計測データを取得した際に自動的に実行することができる。
【0021】
(1)入眠前区間の推定
まず、図3および図4を用いて、入眠前区間の推定動作について説明する。本実施形態では、体動データまたは体位データと、呼吸データとに基づいて、入眠前区間(より具体的には入眠時刻)を推定する。
【0022】
なお、呼吸データは鼻呼吸または口鼻呼吸を圧力値の変化によって表すデータであってよい。このような呼吸データは、被検者に装着した鼻カニューレもしくは口鼻カニューレと圧力センサとを用いて計測することができる。なお、圧力センサはカニューレに設けられても良いし、カニューレを接続する検査装置に設けられてもよい。
【0023】
体動データは例えば被検者の胸部に装着した体動センサ(例えば加速度センサ)の出力に基づくデータであり、体動データの値が予め定めた閾値を一定期間連続して超えた際に、体動が検出されたと見なす。
体位データは、被検者の体位(仰臥位、左側臥位、右側臥位、伏臥位、または立位/座位)を表すデータであり、例えば体動センサを用いて計測することができる。
【0024】
なお、制御部110は、記録部130から取得した計測データがどのような計測項目に関するものであるかや、個々の計測項目がどのような計測条件(例えばサンプリング周波数、ビット数など)で計測されたかを把握できるものとする。制御部110は、計測項目および計測条件と検査装置の機種情報とを関連付けて記憶したテーブルを有し、計測データを格納したデータファイルのヘッダ情報から取得した計測装置に関する情報に基づいてテーブルを参照することで、計測項目および計測条件を特定することができる。なお、計測項目と計測条件は他の任意の方法で特定してもよい。
【0025】
S301で制御部110は、記録部130から、体動データおよび体位データの少なくとも一方と、呼吸データとを、計測区間の始めから所定時間分、内部のRAMに読み込む。そして、呼吸データに基づいて、呼吸が安定したと見なされる時刻(呼吸安定時刻)を検出する。
【0026】
具体的には、制御部110は、呼吸データを構成する時系列データから、極大値と極小値を検出し、吸気および呼気のタイミングを特定する。そして、制御部110は、隣接する極大値と極小値との差分絶対値を1回の呼吸振幅として算出する。次に制御部110は、予め定められた一定時間(例えば30秒)分の呼吸データについて算出した呼吸振幅のばらつきを示す指標(ばらつき指標)を算出する。
【0027】
制御部110は、一例として、以下の式で表されるばらつき指標を算出する。
【数1】
nは30秒間に計測された呼吸の総数
iは30秒間で計測された呼吸振幅の大きさ(1≦i≦n)
Medianは、30秒間で計測された呼吸振幅の中央値
である。
【0028】
制御部110は、算出されたばらつき指標が、例えばROMに記憶された安定閾値に対して所定の条件を満たした時刻を呼吸安定時刻t1として検出する。例えば、制御部110は、最新のばらつき指標を安定閾値と比較し、ばらつき指標が安定閾値を下回れば(安定閾値未満であれば)、呼吸の安定を検出したと判定して、ばらつき指標の算出に用いた複数の呼吸振幅のうち、最後の呼吸振幅に対応する時刻を呼吸安定時刻t1として検出する。
【0029】
あるいは、制御部110は、直近の複数のばらつき指標のうち、所定割合以上が安定閾値未満であるか、直近のばらつき指標が所定時間(あるいは所定の複数)継続して安定閾値未満であれば、呼吸の安定を検出したと判定して、最新のばらつき指標の算出に用いた複数の呼吸振幅のうち、最後の呼吸振幅に対応する時刻を呼吸安定時刻t1として検出する。最新のばらつき指標のみに基づいて呼吸の安定を検出すると、局所的なばらつき指標の低下を呼吸の安定と誤って検出する可能性がある。直近の複数のばらつき指標に基づいて呼吸の安定を検出することで、検出精度を高めることができる。
【0030】
なお、安定閾値は例えば実験的に定めた一定値であってもよいが、被検者の個人差に対応するために、計測データに基づいて算出してもよい。例えば、制御部110は、計測開始から、ばらつき指標を算出する計測データの区間を1呼吸波形(もしくは所定時間分)ずつずらしながら、ばらつき指標を所定数(あるいは計測データの所定時間分に渡って)算出する。そして、制御部110は、得られた複数のばらつき指標の代表値(例えば中央値、平均値など)に所定の係数(<1)を乗じた値を安定閾値として用いてもよい。係数は例えば0.4~0.5程度とすることができる。
【0031】
計測データから安定閾値を算出する場合、制御部110は、ばらつき指標との比較に、直近に算出した安定閾値を用いる。
制御部110は、呼吸の安定を検出したと判定すればS303を実行し、呼吸の安定を検出していないと判定すればS307を実行する。
【0032】
S303で制御部110は、体動データと体位データの少なくとも一方を参照して、S301で検出された呼吸安定時刻t1以前に、体動が検出されている、もしくは立位/座位が検出されているか否かを調べる。なお、計測データに体動データと体位データの一方しか含まれていない場合、S303で制御部110は計測データに含まれている一方を参照する。また、計測データに体動データと体位データの両方が含まれている場合、S303で制御部110は、両方を参照しても、予め設定された一方を参照してもよい。
【0033】
制御部110は、体動データのみを参照した場合には、呼吸安定時刻t1以前に体動が検出されていればS305を実行し、検出されていなければS307を実行する。制御部110は、体位データのみを参照した場合には、呼吸安定時刻t1以前に立位/座位が検出されていればS305を実行し、検出されていなければS307を実行する。制御部110は、体動データと体位データの両方を参照した場合には、呼吸安定時刻t1以前に体動もしくは立位/座位が検出されていればS305を実行し、いずれも検出されていなければS307を実行する。
【0034】
S305で制御部110は、呼吸安定時刻t1の直近に体動もしくは立位/座位が検出された時刻を推定入眠時刻t2とし、入眠時刻の推定動作を終了する。なお、体動もしくは立位/座位の検出が継続した期間である場合には、その期間の終了時刻を推定入眠時刻t2とする。したがって、呼吸安定時刻t1の直近に、体動もしくは立位/座位が検出されなくなった時刻を推定入眠時刻t2としてもよい。
【0035】
S307で制御部110は、S301で計測データの終わりを含んだ区間についてばらつき指標を算出したか否かを判定する。制御部110は、計測データの終わりを含んだ区間までばらつき指標を算出したと判定されれば、入眠時刻の推定動作を終了する。制御部110は、計測データの終わりを含んだ区間までばらつき指標を算出したと判定されなければ、ばらつき指標を算出する区間を進めてS301を実行する。
【0036】
なお、計測データの終わりまで呼吸安定時刻t1を検出できなかった場合、S301で用いる安定閾値をよい大きな値に変更して、再度計測データの始めから入眠時刻の推定動作をやり直してもよい。例えば安定閾値を計測データから算出する上述の例であれば、安定閾値の算出に用いる係数を所定値(例えば0.1)だけ大きな値として安定閾値を変更して、再度呼吸安定時刻の検出を実行してもよい。係数が所定の上限値(<1)になるまで呼吸安定時刻の検出を繰り返し実行しても呼吸安定時刻t1が検出できなければ、呼吸安定時刻が検出できないと見なして入眠時刻の推定を終了する。
【0037】
図4は、図3で説明した入眠時刻の推定動作について、呼吸データと体動データの具体例とともに模式的に示した図である。上段は計測データであり、鼻呼吸の圧力データ、体動データ、体動検出区間(体動データが閾値を超えている区間)をそれぞれ示している。また、下段は、圧力データから算出した呼吸振幅のばらつき指標とその中央値の時系列データ、安定閾値を示している。なお、ばらつき指標の中央値と安定閾値は、呼吸の安定を検出した時点における値を示している。ここでは、ばらつき指標の中央値から動的に算出した安定閾値を用いている。
【0038】
また、ばらつき指標は30秒ごとに算出するものとし、直近の10個のばらつき指標のうち、安定閾値より小さいばらつき指標の割合が8割以上となったことが検出された際に、呼吸の安定を検出したと判定し、呼吸安定時刻t1を決定する。そして、呼吸安定時刻t1から遡って直近の体動検出区間が終了する時刻t2を、推定入眠時刻t2とする。
【0039】
制御部110は、以上の様に推定した入眠時刻以前の計測区間を入眠前区間として推定する。以上が、入眠前区間の推定動作である。
【0040】
(2)センサ装着不良の検出
次に、センサ装着不良の検出動作について説明する。本実施形態の生体信号処理装置100は、呼吸センサの装着不良(圧力センサが検査装置本体にある場合のカニューレの装着不良を含む)と、SpO2センサの装着不良を検出する。
【0041】
まず、呼吸センサの装着不良検出について説明する。制御部110は、呼吸データから、入眠時刻の推定動作と同様にして呼吸振幅を算出し、呼吸振幅が予め定めた閾値以下の区間を、呼吸センサ(圧力センサ)の装着不良区間として検出する。なお、制御部110は、閾値を上回る振幅と閾値以下の振幅とが混在する区間は、呼吸センサの装着不良区間とする。制御部110は、予め定められた一定期間にわたって呼吸振幅が閾値を超える区間を、呼吸センサが正しく装着されている区間として検出し、それ以外の区間を呼吸センサ区間としてもよい。
【0042】
次に、SpO2センサの装着不良検出について説明する。制御部110は、SpO2データを参照し、所定時間(例えば5分)以上継続してSpO2の値が計測されていない(値が0である)区間がある場合、その区間をSpO2センサの装着不良区間として検出する。
【0043】
(3)起床区間の推定
最後に、起床区間の推定動作について説明する。本実施形態では、呼吸データとSpO2データとに基づいて、起床区間(より具体的には起床時刻)を推定する。
制御部110は、計測データの終わりから遡って、呼吸センサの装着不良区間とSpO2センサの装着不良区間とが重複している区間を検出する。そして、制御部110は、計測データの終わりから遡って、呼吸センサの装着不良区間とSpO2センサの装着不良区間とが重複している区間が終了し、呼吸センサの装着不良区間でもSpO2センサの装着不良区間でもなくなった時刻を推定起床時間とする。
【0044】
計測区間の終わりにおいて呼吸センサの装着不良区間とSpO2センサの装着不良区間とが重複している区間は、被検者が意図的に呼吸センサとSpO2センサを外していると考えられる。また、呼吸センサとSpO2センサを意図的に外す場合、1つずつ外すことから、まず一方のセンサについて装着不良が検出されてから、両方のセンサについての装着不良が検出されることになる。これを、時間を遡って検出する場合、呼吸センサの装着不良区間とSpO2センサの装着不良区間とが重複している区間の開始時刻からさらに遡って、両方のセンサの装着不良が検出されなくなった時刻が、1つ目のセンサを外した時刻に相当する。
【0045】
制御部110は、以上の様に推定した起床時刻以降の計測区間を起床区間として推定する。以上が、起床区間の推定動作である。
【0046】
制御部110は、上述したアーチファクト区間の自動検出を実施した場合、検出結果として、アーチファクト区間を特定する情報を例えばROMに記憶する。そして、制御部110は、図2に示したように、自動検出結果を対応する計測データとともに表示部150に表示してもよい。また、自動検出したアーチファクト区間は、操作部160を通じてユーザが編集(区間の開始時刻および開始時刻の変更、区間の削除)可能であってよい。また、自動検出されたアーチファクト区間の編集に加え、ユーザが新たなアーチファクト区間を設定可能であってもよい。
【0047】
制御部110は、AHIやODIといったSASの指標を算出する場合、全計測区間から、すべてのアーチファクト区間の長さを除いた区間の長さを睡眠時間として用いる。アーチファクト区間を計測区間から除去することで、得られるAHIやODIの値の信頼性が向上する。
【0048】
また、アーチファクト区間の自動検出は、操作部160を通じた、解析アプリケーションに対するユーザの指示に応答して任意のタイミングで実行してもよい。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の生体信号処理装置100は、睡眠評価のために簡易PSG検査装置で一般的に計測される呼吸や被検者の動きに関するデータに基づいて、被検者の入眠前区間および起床区間を推定することができる。したがって、簡易PSG検査による計測データから、AHIやODIといったSAS診断の指標に用いられる値を算出することが可能になる。
【0050】
特に、本実施形態では体動や体位に関するデータだけでなく、呼吸に関するデータを用いて入眠前区間や起床区間を推定する。そのため、体動や体位に関するデータのみを用いる場合よりも高い精度で入眠前区間や起床区間を推定することができる。例えばSASの指標として一般的に用いられるAHIは時間当たりの無呼吸および低呼吸イベントの発生回数であるため、睡眠時間の推定精度がAHIの精度に直接影響する。ODIについても、時間当たりのSpO2低下回数であるため同様である。入眠前区間や起床区間の推定精度を高めることにより、このようなSASの指標の精度を向上させることができる。
【0051】
なお、本発明に係る生体信号処理装置は、一般的に入手可能な、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末のようなプログラムを実行可能な電子機器で、図3図4を用いて説明した動作を実行させるプログラム(アプリケーションソフトウェア)を実行することによっても実現できる。従って、コンピュータを実施形態に係る生体信号処理装置として機能させるこのようなプログラムおよび、プログラムを格納した記憶媒体(CD-ROM、DVD-ROM等の光学記録媒体や、磁気ディスクのような磁気記録媒体、半導体メモリカードなど)もまた本発明を構成する。
【符号の説明】
【0052】
100...生体信号処理装置、110...制御部、120...外部I/F、130...記録部、150...表示部、160...操作部
図1
図2
図3
図4