IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社博報堂DYホールディングスの特許一覧

特開2022-89555情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム
<>
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図1
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図2
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図3
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図4
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図5
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図6
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図7
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図8
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図9
  • 特開-情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089555
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20220609BHJP
   G16H 20/00 20180101ALI20220609BHJP
【FI】
G16H50/30
G16H20/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202028
(22)【出願日】2020-12-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】507009009
【氏名又は名称】株式会社博報堂DYホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】猪谷 誠一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博司
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼久 真也
(72)【発明者】
【氏名】松本 友里
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】身体管理への意欲を増大可能な技術を提供する。
【解決手段】本開示の一側面に係る方法によれば、身体の状態に関する複数の検査項目のそれぞれの検査成績の改善に関する困難度が、第一の被検者集団における各被検者の複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化に基づいて判定される(S140)。第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の身体の状態改善に関する成績である改善成績が、対応する被検者の複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化と、複数の検査項目のそれぞれの困難度とに基づいて評価される(S140,S150)。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の状態に関する複数の検査項目のそれぞれの検査成績の改善に関する困難度を、第一の被検者集団における各被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化に基づいて判定する困難度判定部と、
前記第一の被検者集団とは同一の又は異なる第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の身体の状態改善に関する成績である改善成績を、前記対応する被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化と、前記複数の検査項目のそれぞれの前記困難度と、に基づいて評価する評価部と、
を備える情報処理システム。
【請求項2】
前記改善成績の評価は、項目反応理論に従う項目反応モデルを用いて行われ、
前記項目反応モデルは、前記複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の前記変化に関する発生確率を、被検者の前記改善成績と前記対応する検査項目の前記困難度を用いて表す請求項1記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記項目反応モデルは、前記複数の検査項目のそれぞれについて、前記改善成績を変数に有する確率モデルであって、被検者が、対応する検査項目に関して検査成績の所定水準以上の改善に成功する又は少なくとも維持に成功する確率を、前記改善成績と前記対応する検査項目の前記困難度とを用いて表す確率モデルを定義し、
前記変化は、対応する検査成績の所定水準以上の改善に成功したか否か又は少なくとも維持に成功したか否かによって、その有無が判別される変化である請求項2記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記困難度判定部は、前記複数の検査項目のそれぞれの前記困難度として、年齢毎の困難度を、前記第一の被検者集団における、対応する年齢の各被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの前記変化から判定し、
前記評価部は、前記第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の前記改善成績を、前記対応する被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの前記変化と、前記対応する被検者の年齢についての前記複数の検査項目のそれぞれの前記困難度と、に基づいて評価する請求項1~請求項3のいずれか一項記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記評価部により評価された前記第二の被検者集団における各被検者の前記改善成績を、前記第二の被検者集団における年齢毎の前記改善成績の分布に基づき、年齢間の前記分布の差異を低減する方向に補正する補正部
を更に備える請求項1~請求項4のいずれか一項記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記困難度判定部は、前記複数の検査項目のそれぞれの前記困難度として、性別毎の困難度を、前記第一の被検者集団における、対応する性別の各被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの前記変化から判定し、
前記評価部は、前記第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の前記改善成績を、前記対応する被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの前記変化と、前記対応する被検者の性別についての前記複数の検査項目のそれぞれの前記困難度と、に基づいて評価する請求項1~請求項3のいずれか一項記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記評価部により評価された前記第二の被検者集団における各被検者の前記改善成績を、前記第二の被検者集団における性別毎の前記改善成績の分布に基づき、性別間の前記分布の差異を低減する方向に補正する補正部
を更に備える請求項1~請求項4及び請求項6のいずれか一項記載の情報処理システム。
【請求項8】
前記第二の被検者集団における各被検者を、前記補正部により補正された前記改善成績に基づいて順位付けする順位付け部
を更に備える請求項5又は請求項7記載の情報処理システム。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか一項記載の情報処理システムであって、
前記複数の検査項目のそれぞれの検査成績は、対応する検査項目について測定された値を、予め定められたランクと測定値の範囲との対応関係に従って、対応するランクに変換して得られる前記測定値のランクを示す情報処理システム。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか一項記載の情報処理システムにおける前記困難度判定部及び前記評価部としての機能を、コンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム。
【請求項11】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
身体の状態に関する複数の検査項目のそれぞれの検査成績の改善に関する困難度を、第一の被検者集団における各被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化に基づいて判定することと、
前記第一の被検者集団とは同一の又は異なる第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の身体の状態改善に関する成績である改善成績を、前記対応する被検者の前記複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化と、前記複数の検査項目のそれぞれの前記困難度と、に基づいて評価することと、
を含む情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理システム及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被評価者の複数年の健診データを入力すると、その被評価者の過去から現在までの複数年間の健康度を評価し、将来の健康度をシミュレートするシステムが既に知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-63278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来システムによれば、被評価者は、システムの出力に基づいて健康管理の目標設定を行うことができる。しかしながら、個人の健康管理への意欲を増大させる効果は、従来システムでは大きくは期待できない。例えば、大きな健康不安を抱えていない、比較的健康管理に関心の低い多くの個人の健康管理に対する意欲を、従来システムで増大させることは難しい。このことは、健康管理に限らない。従来システムでは、比較的関心の低い多くの個人の身体管理に対する意欲を増大させることは難しい。
【0005】
そこで、本開示の一側面によれば、個人の身体管理への意欲を増大可能な新規技術を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面によれば、困難度判定部と、評価部とを備える情報処理システムが提供される。困難度判定部は、身体の状態に関する複数の検査項目のそれぞれの検査成績の改善に関する困難度を、第一の被検者集団における各被検者の複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化に基づいて判定する。
【0007】
評価部は、第一の被検者集団とは同一の又は異なる第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の身体の状態改善に関する成績である改善成績を、対応する被検者の複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化と、複数の検査項目のそれぞれの困難度と、に基づいて評価する。
【0008】
検査項目毎の改善に関する困難度を考慮しながら、複数の検査項目の検査成績の変化を評価することにより、上記改善成績を評価することによれば、被検者の身体の状態改善に対する取り組みを反映した適切な成績評価を行うことができる。
【0009】
更には、複数の検査項目に亘る検査結果をまとめた分かりやすい指標で、改善成績を被検者に伝えることができる。上記改善成績は、例えば、複数の検査項目のそれぞれについて個別に健康成績の良否や改善の有無を示す場合よりも、身体の状態改善に対する取り組みを評価するものとして、分かりやすい。
【0010】
従って、本開示の一側面に係る情報処理システムを用いて評価される改善成績を被検者へ通知することによれば、被検者の身体管理への意欲を増大させることができる。更には、被検者間における改善成績の比較も容易であることから、被検者集団に対する通知の方法次第では、身体の状態改善に関する被検者間における競争心を掻き立てる効果も期待できる。この場合、競争心を利用して、被検者集団における身体管理への意欲を増大させることができる。
【0011】
本開示の一側面によれば、困難度の判定及び/又は改善成績の評価に、項目反応理論が利用されてもよい。本開示の一側面によれば、改善成績の評価が、項目反応理論に従う項目反応モデルを用いて行われてもよい。
【0012】
項目反応モデルは、複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の上記変化に関する発生確率を、被検者の改善成績と対応する検査項目の困難度を用いて表すモデルであり得る。項目反応理論を用いれば、困難度の異なる複数の検査項目の検査成績に基づく改善成績を、適切に評価することができる。
【0013】
本開示の一側面によれば、項目反応モデルは、複数の検査項目のそれぞれについて、改善成績を変数に有する確率モデルであって、被検者が、対応する検査項目に関して検査成績の所定水準以上の改善に成功する又は少なくとも維持に成功する確率を、改善成績と、対応する検査項目の困難度と、を用いて表す確率モデルを定義し得る。この場合の上記変化は、対応する検査成績の所定水準以上の改善に成功したか否か又は少なくとも維持に成功したか否かによって、その有無が判別される変化であり得る。
【0014】
本開示の一側面によれば、困難度判定部は、複数の検査項目のそれぞれの困難度として、年齢毎の困難度を、第一の被検者集団における、対応する年齢の各被検者の複数の検査項目のそれぞれの変化から判定してもよい。
【0015】
評価部は、第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の改善成績を、対応する被検者の複数の検査項目のそれぞれの変化と、対応する被検者の年齢についての複数の検査項目のそれぞれの困難度と、に基づいて評価してもよい。
【0016】
同じ尺度で検査成績を見た場合、若年者よりも高齢者のほうが、検査成績を改善することが難しい傾向がある。従って、身体の状態改善に対する取り組みを評価するために、年齢別(例えば、年齢各歳別又は年齢階級別)の困難度を判定して、改善成績を評価することは有意義である。
【0017】
本開示の一側面によれば、情報処理システムは、評価部により評価された第二の被検者集団における各被検者の改善成績を、第二の被検者集団における年齢毎の改善成績の分布に基づき、年齢間の分布の差異を低減する方向に補正する補正部を更に備えてもよい。年齢間で改善成績の分布に差異が生じ得る可能性がある。差異を低減する方向への改善成績の補正によれば、身体の状態改善に関する取り組みを年齢間で公平に評価することができる。
【0018】
本開示の一側面によれば、困難度判定部は、複数の検査項目のそれぞれの困難度として、性別毎の困難度を、第一の被検者集団における、対応する性別の各被検者の複数の検査項目のそれぞれの変化から判定してもよい。
【0019】
評価部は、第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の改善成績を、対応する被検者の複数の検査項目のそれぞれの変化と、対応する被検者の性別についての複数の検査項目のそれぞれの困難度と、に基づいて評価してもよい。
【0020】
年齢と同様に、検査成績に関する改善の困難度は、性別によって異なる場合がある。従って、身体の状態改善に対する取り組みを評価するために、性別毎の困難度を判定して、改善成績を評価することは有意義である。
【0021】
本開示の一側面によれば、情報処理システムは、評価部により評価された第二の被検者集団における各被検者の改善成績を、第二の被検者集団における性別毎の改善成績の分布に基づき、性別間の分布の差異を低減する方向に補正する補正部を更に備えてもよい。分布の差異を低減する方向への改善成績の補正によれば、身体の状態改善に関する取り組みを性別間で公平に評価することができる。
【0022】
本開示の一側面によれば、情報処理システムは、第二の被検者集団における各被検者を、補正部により補正された改善成績に基づいて順位付けする順位付け部を更に備えてもよい。被検者を改善成績に基づき順位付けすることによれば、例えば関連する情報を被検者に伝えたり、順位に応じて表彰したりすることにより、競争心を利用して、被検者集団の身体管理に対する意欲を高めることができる。更には、順位付けにより、身体管理の娯楽化が期待される。
【0023】
本開示の一側面によれば、複数の検査項目のそれぞれの検査成績は、対応する検査項目について測定された値を、予め定められたランクと測定値の範囲との対応関係に従って、対応するランクに変換して得られる測定値のランクを示すものであってもよい。検査成績として、測定値それ自体ではなく、正常範囲を考慮したランクを用いて身体の状態改善を評価することによれば、適切な評価を、比較的簡単な処理で実現することができる。
【0024】
本開示の一側面によれば、上述した情報処理システムの少なくとも一部の機能を、コンピュータに実現させるためのコンピュータプログラムが提供されてもよい。本開示の一側面によれば、上述した情報処理システムにおける困難度判定部及び評価部としての機能を、コンピュータに実現させるためのコンピュータプログラムが提供されてもよい。
【0025】
本開示の一側面によれば、コンピュータにより実行される情報処理方法が提供されてもよい。情報処理方法は、身体の状態に関する複数の検査項目のそれぞれの検査成績の改善に関する困難度を、第一の被検者集団における各被検者の複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化に基づいて判定することを含んでいてもよい。
【0026】
情報処理方法は、第一の被検者集団とは同一の又は異なる第二の被検者集団における被検者毎に、対応する被検者の身体の状態改善に関する成績である改善成績を、対応する被検者の複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化と、複数の検査項目のそれぞれの困難度と、に基づいて評価することを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】情報処理システムの構成を表すブロック図である。
図2】受診者データの構成を表す図である。
図3】第一実施形態でプロセッサが実行する分析評価処理を表すフローチャートである。
図4】反応値の第一例を説明する図である。
図5】反応値の第二例を説明する図である。
図6】第二実施形態でプロセッサが実行する分析処理を表すフローチャートである。
図7】第二実施形態でプロセッサが実行する評価処理を表すフローチャート(その1)である。
図8】第二実施形態でプロセッサが実行する評価処理を表すフローチャート(その2)である。
図9】男女間の特性尺度値の分布の差異と性別補正係数を説明する図である。
図10図10A及び図10Bは、年齢補正係数を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
[第一実施形態]
本実施形態の情報処理システム1は、健康診断の受診者集団について、受診者毎の複数回に亘る健診データを用いて、各受診者の健康改善に対する取り組みを評価するように構成される。上記複数回に亘る健診データは、複数年に亘る健診データであり得る。
【0029】
健康診断の例には、定期健康診断がある。日本国において、事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に健康診断を行わなければならない。情報処理システム1は、例えば、この定期健康診断により得られる年毎の検診データを用いて、各受診者の健康改善に対する取り組みを評価するように構成され得る。各受診者は、健康診断に含まれる身体の状態に関する複数の検査項目の被検者に対応する。
【0030】
図1に示す情報処理システム1は、コンピュータシステムに、上記評価のための専用のコンピュータプログラムがインストールされて構成される。情報処理システム1は、プロセッサ11と、メモリ13と、ストレージ15と、ユーザインタフェース17と、通信インタフェース19とを備える。
【0031】
プロセッサ11は、コンピュータプログラムに従う処理を実行する。メモリ13は、RAMを備え、プロセッサ11による処理実行時に作業領域として使用される。ストレージ15は、ハードディスクドライブ及び/又はソリッドステートドライブを備え、コンピュータプログラム及び各種データを記憶する。
【0032】
ユーザインタフェース17は、キーボード及びマウス等の入力デバイスと、液晶ディスプレイ等の表示デバイスとを備え、ユーザからの操作を受付可能、且つ、ユーザに向けて各種情報を表示可能に構成される。通信インタフェース19は、外部デバイスと通信可能に構成される。
【0033】
情報処理システム1は、評価対象の受診者集団における各受診者の健診データを、外部デバイス、例えば健診センタが管理するサーバから取得し、取得した健診データを含む受診者毎の受診者データを、ストレージ15に予め格納する。
【0034】
図2に示す例によれば、受診者データは、対応する受診者の識別ID、氏名、年齢、及び性別を示すデータの他、対応する受診者についての複数回に亘る健診データの一群を備える。健診データのそれぞれは、対応する回の健康診断により測定された検査項目毎の測定値を記述する。
【0035】
例えば血液検査には、HDLコレステロール、LDLコレステロール、及び中性脂肪などの脂質に関する複数の検査項目が含まれ得る。血液検査には更に、γ-GTP等の肝機能に関する複数の検査項目、空腹時血糖などの血糖に関する複数の検査項目が含まれ得る。定期健康診断には、体格指数(BMI)、最高血圧、及び最低血圧などの検査項目も含まれる。健診データは、これらの検査項目のそれぞれに関する測定値を記述することができる。
【0036】
プロセッサ11は、分析評価処理の実行指示が入力されると、評価対象の受診者集団における各受診者の健康改善に対する取り組みを評価するために、図3に示す分析評価処理を実行する。実行指示は、例えばユーザインタフェース17を通じて、情報処理システム1のユーザから入力される。
【0037】
図3に示す分析評価処理を開始すると、プロセッサ11は、ユーザから指定された評価対象の受診者集団における各受診者の受診者データをストレージ15から読み出し(S110)、受診者毎の項目反応パターンデータを生成する(S120)。
【0038】
項目反応パターンデータのそれぞれは、対応する受診者の受診者データに含まれる注目回の検診データと注目回より一つ前の回(以下、「前回」という)の検診データとの比較に基づいて生成される。
【0039】
項目反応パターンデータのそれぞれは、対応する受診者の注目回における複数の検査項目のそれぞれの検査成績を、前回の検査成績からの改善の有無に応じて、二値表現したデータである。年毎に行われる定期健康診断の例によれば、注目回の健診データは、最新年の健診データに対応し、前回の検診データは、その前年の検診データに対応し得る。
【0040】
項目反応パターンデータは、具体的に、検査項目毎の反応値として「0」又は「1」を備えるデータである。反応値「1」は、対応する検査項目の検査成績について、注目回の検査成績が前回の検査成績から改善したことを示し、反応値「0」は、改善していないことを示す。
【0041】
項目反応パターンデータの生成に際して、プロセッサ11は、まず各検査項目の測定値を、ランクを表す値(以下、ランク値という)に変換する。変換は、例えばストレージ15に記憶される検査項目毎の変換表(図示せず)に基づいて行われる。
【0042】
変換表は、対応する検査項目についての測定値の範囲とランク値との対応関係を表す。変換表により、測定値の採り得る範囲は、例えば、ランクA-Eに区分化される。ランクAは、測定値の採り得る範囲のうち、最も健康的な測定値の範囲に対応する。ランクEは、測定値の採り得る範囲のうち、最も不健康な測定値の範囲に対応する。
【0043】
ランクBは、ランクAより不健康であるがランクCより健康的な測定値の範囲に対応し、ランクCは、ランクBより不健康であるがランクDより健康的な測定値の範囲に対応し、ランクDは、ランクCより不健康であるがランクEより健康的な測定値の範囲に対応する。測定値を、ランク値としての「ランクA」に変換することは、対応する検査項目の健康度が最上位ランクにあると判定することに対応し、測定値を、「ランクE」に変換することは、対応する検査項目の健康度が最下位ランクにあると判定することに対応する。
【0044】
一例によれば、特定のランク、例えばランクDは、対応する測定値の範囲が33パーセンタイルで分割されることによって、ランクDa,Db,Dcの三段階のランクに更に細分化され得る。一例によれば、ランクA-Eは、医学的な根拠に基づいた定期健康診断の一般的な判定基準値を参考に定義され得る。
【0045】
反応値「1」は、図4に示すように、対応する検査項目の注目回のランク値が前回のランク値より上位である場合に、対応する検査項目に与えられる。反応値「0」は、対応する検査項目の注目回のランク値が前回のランク値と同じ又は前回のランク値より下位である場合に、対応する検査項目に与えられる。但し、前回のランク値が最上位の「ランクA」である場合には、それ以上ランク値が上がることがない。そのため、反応値「1」は、図4に示すように、注目回のランク値が前回のランク値と同様に「ランクA」であるときにも、対応する検査項目に与えられる。
【0046】
別例によれば、注目回のランク値が前回のランク値以上であるとき、検査成績が改善したと判定されてもよい。すなわち、反応値「1」は、図5に示すように、対応する検査項目に関して、注目回のランク値が前回のランク値と同一か、それより上位である場合に、対応する検査項目に与えられてもよい。反応値「0」は、注目回のランク値が前回のランク値より下位である場合に、対応する検査項目に与えられてもよい。このようにして反応値は、対応する検査成績の変化を、対応する検査成績の所定水準以上の改善に成功したか否か又は少なくとも維持に成功したか否かにより示す1,0の離散値として定義される。
【0047】
プロセッサ11は、受診者毎に、対応する受診者の注目回及び前回の健診データに基づいて上述した手法で項目反応パターンデータを生成すると、これらの項目反応パターンデータを用いて、項目反応行列Uを設定する(S130)。
【0048】
項目反応行列Uは、第j行第k列の要素ujkとして、第j番目の受診者についての第k番目の検査項目の反応値(0又は1)を有する行列である。jは、受診者のインデックスであり、kは、検査項目のインデックスである。受診者数がMであり、検査項目数がNであるとき、jは、値1から値Mまでの整数値を採り、kは、値1から値Nまでの整数値を採る。以下では、第j番目の受診者のことを受診者jと表現し、第k番目の検査項目のことを検査項目kと表現する。
【0049】
項目反応行列Uを設定した後、プロセッサ11は、項目反応理論に基づいて、具体的には項目反応モデルとして2パラメータのロジステックモデル(2PLモデル)を用いて、各受診者j(j=1,2,…,M)の健康改善に関する特性尺度値θを、各検査項目k(k=1,2,…,N)の識別力α及び困難度βと共に算出する。特性尺度値θは、受診者jの健康改善への取り組みに関する成績評価値に対応する。
【0050】
ここで、検査項目kの識別力α及び困難度βを含むモデルパラメータをλで表す。更に各検査項目のモデルパラメータλをまとめた項目パラメータ行列Λを以下のように定義する。更に、各受診者j(j=1,2,…,M)の特性尺度値θをまとめた配列Θを以下のように定義する。更に、各受診者jの項目反応パターンuを、各検査項目kに対する受診者jの反応値ujk(k=1,2,…,N)を用いて以下のように定義する。反応値ujkは、上述の通り、項目反応行列Uの第j行第k列の要素ujkに対応する。
【0051】
【数1】
【0052】
項目反応行列Uが与えられた時の母数Λ,Θの尤度関数L(Λ,Θ|U)は、θ及びΛが与えられた時に受診者jが項目反応パターンuを示す確率f(u|θ,Λ)を用いて次のように表すことができる。
【0053】
【数2】
【0054】
確率P(θ)は、対応する検査項目kの項目反応モデル(2PLモデル)に従って次のように定義される。
【0055】
【数3】
【0056】
上式から理解できるように、本実施形態の検査項目毎の項目反応モデルは、対応する検査項目kについて反応値1が得られる確率P(θ)を、特性尺度値θとモデルパラメータである識別力α及び困難度βとを用いて表す。この項目反応モデルは、ある特性尺度値θに対応する能力又は態度を有する受診者が、対応する検査項目kについて反応値1に対応する事象である検査成績の改善又は少なくとも維持に成功する事象の発生確率P(θ)を、対応する検査項目kの識別力α及び困難度βを用いて表す確率モデルとして定義される。
【0057】
プロセッサ11は、尤度関数L(Λ,Θ|U)を最大化するΛ,Θを探索することにより、各受診者j(j=1,2,…,M)の特性尺度値θを、各検査項目k(k=1,2,…,N)の識別力α及び困難度βと共に算出する(S140)。尤度関数L(Λ,Θ|U)を最大化するΛ,Θは、例えば、Newton-Raphson法や、Fisher情報行列を用いたスコア法に基づく数値計算によって探索され得る。
【0058】
プロセッサ11は、このように算出された各受診者jの特性尺度値θに基づいて、対応する受診者jの健康改善に関する成績である改善成績Xを決定する(S150)。Xは、受診者jの改善成績を表す。
【0059】
特性尺度値θは、多くの場合、-3から+3の範囲の値をとる。受診者に分かりやすく健康改善に関する成績を伝えるために、改善成績Xは、特性尺度値θを例えば、0点から100点の間の整数範囲に変換した値として決定され得る。改善成績Xは、特性尺度値θそのものであってもよい。
【0060】
その後、プロセッサ11は、受診者集団における各受診者を、改善成績Xを指標に順位付けする(S160)。プロセッサ11は、例えば、改善成績Xが最も良い受診者を第1位、改善成績Xが最も悪い受診者を最下位(第M位)として、各受診者jに改善成績Xに応じた順位を付すことができる。
【0061】
更に、プロセッサ11は、受診者毎に、対応する受診者個人への健康改善に関する成績報告書としての個人成績報告書を作成すると共に、受診者集団全体の成績を説明する集団成績報告書を作成して記憶する(S170)。
【0062】
受診者jの個人成績報告書には、受診者jの改善成績X及びその順位を記載することができる。集団成績報告書には、受診者集団全体のうち、改善成績Xが上位の受診者を列挙する上位者リストを記載することができる。上位者リストは、例えば成績上位者を称える目的で報告書に記載され得る。
【0063】
その後、プロセッサ11は、作成した集団成績報告書及び受診者毎の個人成績報告書に関する出力処理を実行し(S180)、当該分析評価処理を終了する。プロセッサ11は、出力処理として、例えば、各受診者の予め登録されたメールアドレス先に、対応する受診者の個人成績報告書及び集団成績報告書を電子メールで送信する処理を実行することができる。
【0064】
あるいは、プロセッサ11は、紙媒体により各受診者に個人成績報告書及び集団成績報告書を提供するために、外部デバイスとしてのプリンタを通じてこれらの報告書を出力する処理を実行することができる。
【0065】
個人成績報告書及び集団成績報告書は、出力処理によって、これらの報告書の閲覧のために用意されたウェブサーバに登録されてもよい。ウェブサーバは、受診者の通信端末からの要求に応じて、対応する個人成績報告書及び集団成績報告書をウェブページとして、受診者の通信端末に送信することができる。
【0066】
以上に説明した本実施形態の情報処理システム1によれば、S140において、項目反応理論に従って、各検査項目の識別力α及び困難度β、並びに、各受診者の特性尺度値θが算出される。
【0067】
上述の尤度関数L(Λ,Θ|U)を最大化するΛ,Θを探索することは、健康診断に含まれる複数の検査項目のそれぞれの検査成績の改善に関する困難度βを、受診者集団における各受診者の複数の検査項目のそれぞれの検査成績の過去の検査成績からの変化に対応する反応値ujkに基づいて判定することを含む。
【0068】
更に、上記尤度関数L(Λ,Θ|U)を最大化するΛ,Θを探索することは、改善成績Xに対応する特性尺度値θを、対応する受診者の項目反応パターンuと、各検査項目の困難度βと、に基づいて評価することを含む。
【0069】
本実施形態によれば、このように受診者集団全体の健康改善に関する実績を示す項目反応行列Uに基づいて、検査項目毎の改善に関する困難度を判定しつつ、当該困難度を加味した改善成績を算出する。従って、本実施形態によれば、改善成績として、受診者の健康改善に対する取り組みを反映した適切な成績評価値を算出することができる。
【0070】
しかも、上記算出される改善成績は、複数の検査項目に亘る受診結果をまとめた評価値であることから、複数の検査項目のそれぞれについて個別に健康成績の良否や改善の有無を示す場合よりも、受診者にとって分かりやすい。
【0071】
従って、本実施形態のように、改善成績を算出し、受診者へ通知することによれば、受診者の健康管理への意欲を増大させることができる。本実施形態のように、受診者集団の各受診者の改善成績を順位付けし、この順位を対応する受診者に通知すれば、各受診者に本人の健康改善に対する取り組みの大小を、受診者集団における相対値として説明することができ、受診者の健康管理への意欲を一層増大させることができる。
【0072】
本実施形態では、集団成績報告書において成績上位者が発表されることにより、成績上位者が称えられるので、競争心を利用して、各受診者の健康管理への意欲を更に増大させることができる。このように成績上位者を称えることによっては、健康診断又は健康改善に娯楽性を持たせることができ、各受診者は、楽しみながら健康改善に取り組むことができる。
【0073】
[第二実施形態]
続いて、第二実施形態の情報処理システム1を説明する。第二実施形態の情報処理システム1は、プロセッサ11が実行する処理及び取り扱われるデータが第一実施形態とは部分的に異なる点を除き、基本的に第一実施形態と同じである。従って、以下では、第二実施形態の情報処理システム1の第一実施形態とは異なる構成を選択的に説明し、同一構成の説明を省略する。
【0074】
第二実施形態の情報処理システム1では、プロセッサ11が、図6に示す分析処理を実行することにより、第一の受診者集団の検診データを用いて、各検査項目の識別力α及び困難度βを算出及び登録する。その後、プロセッサ11が、評価対象の第二の受診者集団の検診データ、並びに、上記登録された検査項目毎の識別力α及び困難度βを用いて、図7及び図8に示す評価処理を実行することにより、第二の受診者集団における各受診者の改善成績Xを算出する。
【0075】
ストレージ15には、第一の受診者集団に属する各受診者及び第二の受診者集団に属する各受診者の受診者データが格納される。第一の受診者集団と第二の受診者集団とは異なる集団であってもよいし、同一の集団であってもよい。
【0076】
プロセッサ11は、例えばユーザインタフェース17を通じて分析処理の実行指示が入力されると、図6に示す分析処理を実行する。分析処理を開始すると、プロセッサ11は、処理対象の性年齢階級を選択する(S210)。性年齢階級は、性別と年齢階級との組合せである。年齢階級は、20代、30代、40代等の、受診者の採り得る年齢範囲を所定年齢幅で区切って定義される。性年齢階級の選択は、検査項目毎の識別力α及び困難度βを、性年齢階級毎に算出するために実行される。
【0077】
選択後、プロセッサ11は、対象グループに属する各受診者の受診者データをストレージ15から読み出し(S220)、対象グループに属する各受診者の項目反応パターンデータを生成する(S230)。ここでいう対象グループは、第一の受診者集団のうち、選択された性年齢階級に属する受診者群を意味する。
【0078】
項目反応パターンデータのそれぞれは、第一実施形態と同様に、対応する受診者の受診者データに含まれる注目回の検診データと、その前回の検診データとの比較に基づいて生成される。
【0079】
但し、注目回は、改善成績の算出に用いる健診データと同じ回である必要はない。例えば、改善成績が、最新年であるY年の健診データと、その前年である(Y-1)年の健診データとの比較に基づき算出される場合、項目反応パターンデータは、注目回としての(Y-1)年の健診データと、その前年である(Y-2)年の健診データとの比較に基づいて生成されてもよい。
【0080】
別例として、各受診者の受診者データが、最新年であるY年の健診データ、その前年である(Y-1)年の健診データ、その前々年である(Y-2)年の健診データ等、三年以上の複数年数分の健診データを有する場合、項目反応パターンデータは、一人の受診者に対して、複数生成されてもよい。
【0081】
例えば、第一の項目反応パターンデータが、Y年の健診データと(Y-1)年の健診データとの比較に基づいて生成され、更に第二の項目反応パターンデータが、(Y-1)年の健診データと(Y-2)年の健診データとの比較に基づいて生成されてもよい。この場合、第一の項目反応パターンデータ及び第二の項目反応パターンデータは、後続の処理において、形式的に異なる受診者の項目反応パターンデータと取り扱われる。
【0082】
受診者一人につき、三年以上のY年数分の健診データを用いて、(Y-1)個の項目反応パターンデータを生成することによれば、受診者を仮想的に(Y-1)倍に増やして、これらの項目反応パターンデータの一群に基づき、各検査項目の識別力α及び困難度βを算出することができる。
【0083】
プロセッサ11は、S230で生成した項目反応パターンデータを用いて、対象グループの項目反応行列Uを設定する(S240)。ここで設定される項目反応行列Uは、第一実施形態と同様に、第j行第k列の要素ujkとして、対象グループにおける第j番目の受診者についての第k番目の検査項目の反応値(0又は1)を有する行列である。項目反応行列Uにおける一行は、一つの項目反応パターンデータに対応する。
【0084】
対象グループの受診者数がM1であり、検査項目数がNであり、受診者一人につき、三年以上のY年数分の健診データを用いて、(Y-1)個の項目反応パターンデータが生成される場合、jは、値1から値M’={M1×(Y-1)}までの整数値を採り、kは、値1から値Nまでの整数値を採る。すなわち、項目反応行列Uは、{M1×(Y-1)}行N列の行列である。
【0085】
その後、プロセッサ11は、上記項目反応行列Uを用いて、各検査項目k(k=1,2,…,N)の2PLモデルのモデルパラメータである識別力α及び困難度βを算出する(S250)。すなわち、プロセッサ11は、各検査項目の識別力α及び困難度βを、尤度関数L(Λ,Θ|U)を最大化するΛ,Θを求めることにより算出する。
【0086】
別例として、プロセッサ11は、特性尺度値θが正規分布に従うとの仮定の下で項目パラメータ行列Λを算出してもよい。特性尺度値θの母集団分布の母数Dを、平均μ及び分散σを用いてD=(μ,σ)で表すと、項目反応行列Uが与えられたときの母数Λ,Dの周辺尤度関数L(Λ,D|U)は、「特性尺度値θの母集団分布関数h(θ|D)」、及び、「θ,Λが与えられたときに受診者jが項目反応パターンuを示す確率f(u|θ,Λ)」を用いて次のように表すことができる。
【0087】
【数4】
【0088】
プロセッサ11は、この周辺尤度関数L(Λ,D|U)を最大化するΛ,Dを、例えばEMアルゴリズムを用いて、数値計算により求めることにより、各検査項目の識別力α及び困難度βを算出することができる。
【0089】
プロセッサ11は、上記算出した各検査項目の識別力α及び困難度βを、対応する性年齢階級のモデルパラメータとして登録する(S260)。その後、プロセッサ11は、性年齢階級の全てを選択したか否かを判断する(S270)。全てを選択していないと判断した場合(S270でNo)、プロセッサ11は、S210に移行し、処理対象の性年齢階級を新たに選択し、S220~S260の処理を実行する。
【0090】
すなわち、プロセッサ11は、選択した性年齢階級に対応する対象グループに属する各受診者の受診者データをストレージ15から読み出し(S220)、対象グループに属する各受診者の項目反応パターンデータを生成し(S230)、これらの項目反応パターンデータを用いた項目反応行列Uを設定する(S240)。プロセッサ11は、この項目反応行列Uを用いて、対応する性年齢階級のモデルパラメータとして、各検査項目の識別力α及び困難度βを算出及び登録する(S250,S260)。
【0091】
このようにして、プロセッサ11は、性年齢階級毎に、各検査項目の識別力α及び困難度βを算出及び登録し、全ての性年齢階級についての登録が完了すると(S270でYes)、図6に示す分析処理を終了する。上記登録により、性年齢階級毎及び検査項目毎の識別力α及び困難度βが、ストレージ15に記憶される。
【0092】
分析処理の終了後、プロセッサ11は、例えばユーザインタフェース17を通じて評価処理の実行指示が入力されると、図7に示す評価処理を実行する。評価処理を開始すると、プロセッサ11は、第二の受診者集団に属する各受診者の受診者データをストレージ15から読み出す(S310)。
【0093】
読み出した受診者データに基づいて、プロセッサ11は、第二の受診者集団に属する各受診者の項目反応パターンデータを生成する(S320)。項目反応パターンデータのそれぞれは、第一実施形態と同様に、対応する受診者の受診者データに含まれる注目回の検診データと、その前回の検診データとの比較に基づいて生成される。注目回の健診データは、最新年の健診データに対応し、前回の検診データは、その前年の検診データに対応し得る。
【0094】
その後、プロセッサ11は、第二の受診者集団の中から処理対象の受診者を一人選択し(S330)、選択した受診者の受診者データを参照することにより、当該受診者の性年齢階級を判別する(S340)。更に、対応する性年齢階級についての予め登録された検査項目毎の識別力α及び困難度βをストレージ15から読み出す。
【0095】
更に、プロセッサ11は、S330で選択した受診者j(j=1,2,…,M)の項目反応パターンデータから特定される項目反応パターンu、及び、読み出した各検査項目k(k=1,2,…,N)の識別力α及び困難度βを用いて、当該受診者jの特性尺度値θを算出する(S350)。
【0096】
すなわち、受診者jが項目反応パターンuを示す次式に従う確率g(θ)、を最大化する特性尺度値θを、受診者jの特定尺度値θとして算出する。
【0097】
【数5】
【0098】
その後、プロセッサ11は、算出した特性尺度値θをメモリ13に一時記憶する(S360)。続くS370において、プロセッサ11は、第二の受診者集団の全受診者について特性尺度値θを算出したかを判断し、全受診者について特性尺度値θを算出していないと判断すると(S370でNo)、S330に移行する。
【0099】
すなわち、プロセッサ11は、S330~S360の処理を繰返し実行することにより、第二の受診者集団の受診者j(j=1,2,…,M)毎に、特性尺度値θを算出及び一時記憶する。ここでのMは、第二の受診者集団の受診者数に対応する。
【0100】
全受診者について特性尺度値θを算出すると、プロセッサ11は、第二の受診者集団における特性尺度値θの分布に基づいて、性別補正係数γ及び年齢補正係数γを算出する(S380)。
【0101】
プロセッサ11は更に、当該算出した性別補正係数γ及び年齢補正係数γに基づいて、各受診者jの特性尺度値θ(j=1,2,…,M)を補正する(S390)。補正前の特性尺度値θと補正後の特性尺度値θ’との関係は、次の通りです。
【0102】
【数6】
【0103】
ここで、Zは、受診者の性別を表すパラメータであり、受診者が男であるとき、値1を示し、受診者が女であるとき、値0を示す。Zは、受診者の年齢を表すパラメータであり、受診者の年齢に対応する数値を示す。
【0104】
性別補正係数γは、男女間の特性尺度値θの分布の差異を低減するための補正係数である。年齢補正係数γは、年齢間の特性尺度値θの分布の差異を低減するための補正係数である。
【0105】
図9には、男性の受診者群の特性尺度値θの分布を示すグラフを左側に示し、女性の受診者群の特性尺度値θの分布を示すグラフを右側に示す。このように、特性尺度値θの分布は、男女間で異なり得る。
【0106】
従って、一例によれば、性別補正係数γは、第二の受診者集団における男性の特性尺度値θの平均値θave1と、第二の受診者集団における女性の特性尺度値θの平均値θave2との差(θave1-θave2)として、算出される。すなわち、性別補正係数γ=(θave1-θave2)が算出される。
【0107】
性別補正係数γは、男性の特性尺度値θが女性よりも高く算出される程度を示す。性別補正係数γが負であることは、女性よりも男性の特性尺度値θが低く算出されることを意味する。従って、性別補正係数γが負であるときには、男性の特性尺度値θは正方向に補正される。
【0108】
図10Aに示すグラフは、年齢Zに対する特定尺度値θの分布を示す。一例によれば、年齢補正係数γは、図10Aに示すように、線形回帰分析により求められる最小二乗回帰直線の傾きとして算出される。
【0109】
年齢補正係数γは、受診者が1歳年をとる毎に特性尺度値θが高く算出される程度を示す。年齢補正係数γが負であることは、若者よりも高齢者の特性尺度値θが低く算出されることを意味する。従って、年齢補正係数γが負であるときには、年齢が上がるほど、特性尺度値θが正方向に大きく補正される。
【0110】
プロセッサ11は、このように補正された各受診者j(j=1,2,…,M)の特性尺度値θ’に基づいて、対応する受診者jの改善成績Xを決定する(S400)。第一実施形態と同様に、改善成績Xは、特性尺度値θ’を例えば、0点から100点の間の整数範囲に変換した値として決定され得る。改善成績Xは、補正後の特性尺度値θ’そのものであってもよい。
【0111】
その後、プロセッサ11は、第一実施形態におけるS160~S180の処理と同様の処理をS410~S430で実行する。すなわち、プロセッサ11は、第二の受診者集団における各受診者を、対応する改善成績Xを指標に順位付けする(S410)。
【0112】
更に、プロセッサ11は、受診者j(j=1,2,…,M)毎に、改善成績Xを説明する個人成績報告書を作成すると共に、集団成績報告書を作成して記憶する(S420)。その後、プロセッサ11は、作成した集団成績報告書及び受診者毎の個人成績報告書に関する出力処理を実行し(S430)、評価処理を終了する。
【0113】
以上に説明した第二実施形態の情報処理システム1によれば、性別や年齢等の異なる受診者間では、各検査項目の困難度について違いが現れることを考慮して、性別毎、及び、年齢毎(具体的には年齢階級毎)に、困難度βを判定し、対応する項目反応モデルを定義する。情報処理システム1は、この性別及び年齢毎の項目反応モデルに基づいて特性尺度値θを算出する。しかも、本実施形態では、性別及び年齢間での特性尺度値θの分布の差異を低減する方向に、特性尺度値θを補正して、改善成績を算出する。
【0114】
このような性別毎及び年齢毎の項目反応モデルを用いた特性尺度値θの算出、及び、性別及び年齢を考慮した特性尺度値θの補正によれば、属性(性別や年齢等)の異なる受診者集団の各受診者の健康改善に対する取り組みを、異なる受診者属性間で不公平が生じないように、適切に評価することができる。このような公平な評価は、受診者間の改善成績の比較を容易にし、健康改善に対する取り組みの程度に関して、受診者の公平な順位付けを可能にする。公平な評価及び順位付けは、受診者の健康管理への意欲又は競争心が公平ではない評価によって削がれる可能性を抑制するのに役立つ。
【0115】
[その他]
本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。例えば、第二実施形態の分析処理(図6)において、各検査項目の識別力α及び困難度βは、性年齢階級毎に算出されなくてもよい。すなわち、各検査項目に対しては、性別及び年齢階級によって区別されない、一つの識別力α及び困難度βが算出されてもよい。
【0116】
項目反応モデル、又は、そのモデルを規定する識別力α及び困難度βを、受診者属性別(例えば性年齢階級別)に求めて、受診者属性別の項目反応モデル又は識別力α及び困難度βを用いて特性尺度値θを求める思想は、第一実施形態に適用されてもよい。異なる受診者属性間における特性尺度値θの分布差を低減する方向に、特性尺度値θを補正する思想もまた、第一実施形態に適用されてもよい。
【0117】
この他、特性尺度値θは、他の手法で補正されてもよい。例えば、第二実施形態のS390では、次式に従って、特性尺度値θを補正し、補正後の特性尺度値θ’を算出してもよい。
【0118】
【数7】
【0119】
プロセッサ11は、S380において、図10Bに示すように、第二の受診者集団の年齢Zに対する特定尺度値θの分布にフィットするシグモイド型関数を求めることができる。これにより、プロセッサ11は、シグモイド型関数のパラメータに対応する年齢補正係数γ,φ,ψを算出することができる。
【0120】
プロセッサ11は、受診者jの特定尺度値θを、S380で算出した性別補正係数γ及び年齢補正係数γ,φ,ψと、受診者jの性別に対応する値Zと、受診者jの年齢に対応する値Zとを用いて、上式により、特性尺度値θ’に補正することができる(S390)。このようにシグモイド型関数を用いることによっては、特定年齢から急に改善しにくくなる傾向を考慮した改善成績を算出することができる。
【0121】
この他、特定尺度値θは、2PLモデル以外の1PLモデル又は3PLモデルを用いて算出されてもよい。
【0122】
また、本開示の技術は、健康診断に限らず、体力測定等の、身体の状態に関する各種検査に適用することができる。この場合には、例えば上記実施形態と同様に、被検者集団の各回の身体の状態に関する検査により測定された検査項目毎の測定値に基づいて、検査項目毎の困難度が算出され、各被検者の身体の状態改善に関する改善成績が算出され得る。
【0123】
上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0124】
1…情報処理システム、11…プロセッサ、13…メモリ、15…ストレージ、17…ユーザインタフェース、19…通信インタフェース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10