(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089574
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】樹木加工品製造方法及び樹木加工品
(51)【国際特許分類】
B27K 9/00 20060101AFI20220609BHJP
A01N 3/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
B27K9/00 R
A01N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202066
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】520479618
【氏名又は名称】水口 祐介
(71)【出願人】
【識別番号】520479917
【氏名又は名称】水口 智美
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】水口 康典
【テーマコード(参考)】
2B230
4H011
【Fターム(参考)】
2B230AA01
2B230AA30
2B230BA01
2B230BA16
2B230DA02
2B230EA14
2B230EA30
2B230EB01
2B230EB13
2B230EC04
4H011AB04
4H011BB03
4H011CA03
4H011CB10
4H011CD02
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】生木に近い状態で長期間保存することが可能な樹木加工品を得ることができる樹木加工品製造方法を提供すること。
【解決手段】保存液が流れる供給配管12と、供給配管12に設けられ樹木20が差し込まれる差込孔15と、保存液を加圧するコンプレッサ14とを備える製造装置10を用い、差込孔15に差し込む樹木20の幹に樹皮剥がし部を形成する剥がし工程と、差込孔15の内部において保存液と樹皮剥がし部とが接触するように、かつ差込孔15に差し込まれた樹木20と差込孔15の内周部との間がシールされた状態となるように、樹木20を差込孔15に差し込む差し込み工程と、差込孔15に差し込まれた樹木20に対し、加圧された保存液を供給する加圧供給工程と、を含む方法により樹木加工品を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の植物体組織に保存液を吸収させることにより、長期保存が可能な樹木加工品を製造する樹木加工品製造方法であって、
前記保存液が流れる流路部と、前記流路部に設けられ前記樹木が差し込まれる差込孔と、前記流路部のうち前記差込孔の上流側において前記保存液を加圧する加圧手段とを備える装置を用い、
前記差込孔に差し込む樹木の幹に、樹皮が剥がされた樹皮剥がし部を形成する剥がし工程と、
前記差込孔の内部において前記保存液と前記樹皮剥がし部とが接触するように、かつ前記差込孔に差し込まれた樹木と前記差込孔の内周部との間がシールされた状態となるように、前記樹木を前記差込孔に差し込む差し込み工程と、
前記差込孔に差し込まれた樹木に対し、前記加圧手段により加圧された前記保存液を供給する加圧供給工程と、
を含む、樹木加工品製造方法。
【請求項2】
前記差し込み工程の前段階において、発泡性の弾性材料により形成されたシート状のシール部材を前記樹木の幹の外周部に巻き付ける工程を含み、
前記差し込み工程では、前記樹木の幹の外周部に前記シール部材が巻き付けられた状態で前記樹木を前記差込孔に差し込む、請求項1に記載の樹木加工品製造方法。
【請求項3】
前記剥がし工程では、前記樹木の幹において前記樹皮剥がし部の上側部分に、樹皮が付いたままの樹皮残存部が形成されるように前記樹皮剥がし部を形成し、
前記シール工程では、前記樹皮剥がし部と前記樹皮残存部との境界部分に前記シール部材を巻き付ける、請求項2に記載の樹木加工品製造方法。
【請求項4】
前記差し込み工程の前段階において、前記樹木の下端から上方へ延びる切り込み部を形成する工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹木加工品製造方法。
【請求項5】
前記加圧供給工程では、着色剤を含有する前記保存液を前記差込孔に差し込まれた樹木に供給することにより前記樹木の葉を着色する、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹木加工品製造方法。
【請求項6】
樹木の植物体組織に保存液が吸収されてなる樹木加工品であって、
前記樹木の幹の下端部に、樹皮が剥がされた樹皮剥がし部を有し、
葉が着色されている、樹木加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木加工品製造方法及び樹木加工品に関し、詳しくは、樹木に保存液を吸収させることにより、長期保存が可能な樹木加工品を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生花を自然に近い状態のまま長期間にわたり保存するための加工技術として、生花の茎の部分を保存液(例えば、多価アルコール等)に浸漬したり、生花を保存液の中に沈めたりして植物体組織に保存液を浸透させ、生花の水分を抜く技術が知られている。こうした加工技術により得られた加工品は、観賞用や贈答用、装飾用等といった種々の用途に広く適用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生花と同様に樹木の生木に保存液を浸透させ、これにより長期保存が可能な樹木加工品を得ることができれば、水遣りや剪定等の手間を掛けずに、自然に近い状態の樹木を手軽に飾ることができ、樹木を活用する場が更に広がると考えられる。しかしながら、樹木のように比較的大きく、しかも水の吸収がさほど良好でない植物体に対して、生花と同様にして幹や根を保存液に浸漬したり、樹木の一部又は全体を保存液の中に沈めたりする方法を適用した場合、保存液が樹木の先端部分まで十分に行き渡らず、樹木を自然に近い状態で長期保存できないことが懸念される。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、生木に近い状態で長期間保存することが可能な樹木加工品を得ることができる樹木加工品製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の構成は、樹木の植物体組織に保存液を吸収させることにより、長期保存が可能な樹木加工品を製造する樹木加工品製造方法であって、前記保存液が流れる流路部と、前記流路部に設けられ前記樹木が差し込まれる差込孔と、前記流路部のうち前記差込孔の上流側において前記保存液を加圧する加圧手段とを備える装置を用い、前記差込孔に差し込む樹木の幹に、樹皮が剥がされた樹皮剥がし部を形成する剥がし工程と、前記差込孔の内部において前記保存液と前記樹皮剥がし部とが接触するように、かつ前記差込孔に差し込まれた樹木と前記差込孔の内周部との間がシールされた状態となるように、前記樹木を前記差込孔に差し込む差し込み工程と、前記差込孔に差し込まれた樹木に対し、前記加圧手段により加圧された前記保存液を供給する加圧供給工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
上記第1の構成では、樹木の幹に形成された樹皮剥がし部と保存液とを接触させた状態で樹木に対し、加圧された保存液を供給する。この構成によれば、樹皮が剥がされることにより剥き出しになった柔らかい植物体組織に対して、加圧された比較的高圧の保存液が供給されるため、樹皮剥がし部から樹木の内部に保存液を効率良く吸収させることができる。また、差込孔に差し込まれた樹木と差込孔の内周部との間にはシール部材が設けられているため、差込孔の隙間からの圧力の抜けを抑制でき、幹の表面部分から内部への保存液の吸収を促進させることができる。したがって、樹木のような比較的大きな植物体において、保存液を葉の先端部にまで十分に浸透させることができる。これにより、樹木の植物体組織の隅々にまで保存液が浸透し、植物体組織に含まれる水分が保存液に置換されることにより、生木に近い瑞々しい状態を長期間保持可能な樹木加工品を得ることができる。
【0008】
第2の構成は、前記差し込み工程の前段階において、発泡性の弾性材料により形成されたシート状のシール部材を前記樹木の幹の外周部に巻き付ける工程を含み、前記差し込み工程では、前記樹木の幹の外周部に前記シール部材が巻き付けられた状態で前記樹木を前記差込孔に差し込むことを特徴とする。
【0009】
保存液を吸収させる樹木は天然木であるため、幹の部分は直線状であるとは限らず、軸方向において曲がっている等、その形状は個体間で異なる。また、樹木の幹の表層にはこぶや節(ふし)等が存在し、例えばバラやカーネーション等といった生花の茎と比較して、表層部分に凸凹が多く存在する。そのため、差込孔に差し込まれた樹木と差込孔の内周部との間をシールする構成において、樹木とシール部材との間にも隙間が形成されやすい。この場合、その隙間から圧力抜けが生じ、保存液の圧力が低下することによって樹木に対し保存液を十分に浸透させることができないことが懸念される。
【0010】
また、差込孔の内周部と樹木との間の隙間を埋めるべく、シール部材として例えばゴム栓等の比較的硬い部材を用いた場合、樹木とシール部材との間に隙間が形成されやすく、また幹が外部から過度に締め付けられることによって、植物体組織において保存液の流れが阻害されやすくなることが考えられる。
【0011】
この点、本構成では、発泡性の弾性材料により形成されたシート状のシール部材を用い、このシール部材を樹木の幹の外周部に巻き付けて差込孔に差し込むことにより、差込孔の内周部と樹木との間をシールする構成とした。この構成によれば、シール部材が幹の表面形状に追従して変形することにより、幹の表層部分の形状に沿ってシール部材を密着させることができる。これにより、樹木とシール部材との間に隙間が形成されることを抑制することができる。また、泡性の弾性材料により形成されたシール部材は比較的柔軟であることから、適度な力で樹木の幹に密着しつつ、差込孔の内周部と樹木との間をシールすることができる。
【0012】
第3の構成は、前記剥がし工程では、前記樹木の幹において前記樹皮剥がし部の上側部分に、樹皮が付いたままの樹皮残存部が形成されるように前記樹皮剥がし部を形成し、前記シール工程では、前記樹皮剥がし部と前記樹皮残存部との境界部分に前記シール部材を巻き付けることを特徴とする。
【0013】
樹皮が残存している部分は表面がでこぼこしているのに対し、樹皮が剥がされた部分の表面は比較的平滑である。そこで、樹皮を剥がした平滑部分にシート部材の一部を配置することにより、シート状のシール部材を幹に取り付けやすくすることができる。またその際、シール部材の一部を表面が凹凸形状である樹皮残存部に配置することにより、樹木に取り付ける際及び樹木に取り付けた後においてシール部材の位置ずれを抑制することができる。
【0014】
第4の構成は、前記差し込み工程の前段階において、前記樹木の下端から上方へ延びる切り込み部を形成する工程を含むことを特徴とする。この構成によれば、切り込み部の形成によって幹の表層部分からだけでなく幹の内部からも、加圧された比較的高圧の保存液を吸収させることができる。これにより、樹木の植物体組織において保存液の吸収をより促進させることができる。
【0015】
第5の構成は、前記加圧供給工程では、着色剤を含有する前記保存液を前記差込孔に差し込まれた樹木に供給することにより前記樹木の葉を着色することを特徴とする。本製造方法によれば、樹木の植物体組織の隅々にまで保存液を浸透させることができ、植物体組織に含まれる水分を、着色剤が含まれた保存液に置換することができる。このため、色が葉の先まで綺麗に行き渡った状態の樹木加工品を得ることができる。
【0016】
上記第1~第5の構成の製造方法によれば、第6の構成のように、樹木の植物体組織に保存液が吸収されてなる樹木加工品であって、前記樹木の幹の下端部に、樹皮が剥がされた樹皮剥がし部を有し、葉が着色された樹木加工品を得ることができる。この樹木加工品は、樹木の植物体組織の隅々にまで保存液が浸透し、植物体組織に含まれる水分が保存液に置換されている。このため、生木に近い瑞々しい状態を、色が葉の先まで綺麗に行き渡った状態で長期間保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】樹木取付部に取り付ける前の樹木の概略構成図。(a)は正面図であり、(b)は斜視図である。
【
図3】樹木を樹木取付部に差し込んだ状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、樹木加工品製造方法の実施形態について、適宜図面を用いて説明する。本実施形態では、長期保存が可能なように生木の植物体組織に保存液を吸収させる加工処理を施し、これにより、水を与えなくても長期間にわたり保存可能な樹木加工品を製造する方法を具体化している。この方法により製造される樹木加工品は、保存液に着色剤が配合されることによって、樹木の葉の部分が任意の色彩を呈するように着色されている。
【0019】
本製造方法において用いられる樹木加工品の製造装置の一例を
図1に示す。
図1に示すように、製造装置10は、液タンク11と、流路部としての供給配管12と、樹木取付部13と、加圧手段としてのコンプレッサ14とを備える。
【0020】
液タンク11は、植物体組織に吸収させる保存液を貯留する容器である。製造装置10により加工処理を施す樹木20は天然木であり、その種類は特に限定されない。樹木20としては、例えば、マツ科、ヒノキ科、イチイ科等といったコニファー類の生木が挙げられる。樹木20の高さは、例えば0.3~3メートルであり、1~2メートルが好ましい。保存液としては、グリセリン等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリエーテルを含む有機溶媒が使用される。また、保存液は、多価アルコールやポリエーテルと共に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが含有された混合溶媒であってもよい。液タンク11内の保存液には、染料等の着色剤が含まれている。
【0021】
供給配管12は、樹脂製又は金属製であり、その一方の端部が液タンク11に接続されている。液タンク11に貯留された保存液は、供給配管12の内部を通って液タンク11より下流側に供給される。
【0022】
樹木取付部13は、樹木20を支持する支持部であり、液タンク11に対し保存液の流れ方向の下流側に配置されている。樹木取付部13には、供給配管12における液タンク11側とは反対側の端部が接続されている。これにより、液タンク11内の保存液が、供給配管12を通じて樹木取付部13に供給される。樹木取付部13は、例えばカプラ等の継手が供給配管12に取り付けられることにより形成されている。
【0023】
樹木取付部13には、樹木20を差し込む差込孔15が設けられている。差込孔15は、樹木20の幹21よりも一回り大きい内径を有している。この差込孔15に、根が取り除かれた状態の樹木20が幹の根元から差し込まれることにより、樹木20が起立した状態に保持される。差込孔15の内径は、樹木20の幹の太さに応じて設定可能であり、例えば0.05~0.3メートルである。なお、継手を取り替え可能に供給配管12に取り付けることにより、樹木20の幹の太さに合わせて差込孔15の内径を変更可能にしてもよい。
【0024】
樹木取付部13は、差込孔15の内部と供給配管12の内部とが連通するように供給配管12に設けられている。これにより、液タンク11から排出された保存液は、供給配管12の内部を流れて樹木取付部13に供給される。差込孔15に樹木20が差し込まれた状態では、差込孔15の内周部において樹木20の下端部と保存液19とが接触可能になっている(
図3参照)。より具体的には、樹木20が差込孔15に差し込まれた状態では、樹木20の下端部は、差込孔15の内部の保存液19に浸漬される。
【0025】
樹木20が差込孔15に差し込まれた状態において、樹木20と差込孔15の内周部との間には、その隙間を埋めるようにしてシール部材16が設けられている(
図3参照)。シール部材16は、差込孔15の内周面と樹木20の幹21の外周面との隙間に、幹21の周方向の全域にわたって配置されている。供給配管12の内部及び樹木取付部13の内部により、保存液が流れる液体流路が形成されている。
【0026】
コンプレッサ14は、圧縮した空気を供給する加圧装置である。コンプレッサ14は、分岐配管17を介して供給配管12に接続されており、圧縮した空気を、分岐配管17を通じて供給配管12の内部に供給する。コンプレッサ14の作動により、供給配管12の内部を流れる保存液が加圧され、その加圧された保存液が樹木取付部13に供給される。加圧後における保存液の圧力は大気圧よりも高圧であり、例えば1.1~1.5気圧であり、1.2~1.3気圧が好ましい。
【0027】
製造装置10において、コンプレッサ14には、第1ユニットU1、第2ユニットU2及び第3ユニットU3の3つのユニットが、分岐配管17を介してそれぞれ接続されている。各ユニットU1~U3は、液タンク11、供給配管12及び樹木取付部13をそれぞれ備えている。なお、第1ユニットU1~第3ユニットU3は同一の構成であるため、
図1では、第2ユニットU2及び第3ユニットU3の構成を省略して示している。
【0028】
このように、製造装置10に複数個のユニットを設けることにより、樹木加工品の量産化を図ることができ、製品のコスト低減を図ることができる。また、各ユニットU1~U3が液タンク11、供給配管12及び樹木取付部13をそれぞれ備えることにより、液タンク11内の保存液に含まれる着色剤の色彩を異ならせることができる。さらに、1つの液タンク11に対し1つの樹木20が接続されているため、保存液の減り具合によって樹木20の植物体組織にどのくらいの量の保存液が浸透しているかを把握しやすい。
【0029】
分岐配管17には、コンプレッサ14と各ユニットU1~U3との間に、開閉弁18a~18cがそれぞれ設けられている。これらの開閉弁18a~18cを開弁/閉弁することにより、コンプレッサ14から各ユニットU1~U3に送られる圧縮空気をユニット毎に独立して調整することが可能である。開閉弁18a~18cは、その開閉が電気的に制御される制御弁であってもよいし、手動で開閉されるものであってもよい。
【0030】
次に、差込孔15に差し込む樹木20について
図2を用いて詳細に説明する。樹木20は、幹21を樹木20の下端部から差込孔15に差し込み可能なように根が取り除かれている。根を取り除く方法は特に限定されない。例えば、根の上方の位置において幹21を径方向に切断する方法、鉈等を用いて根の部分のみを削ぎ落とす方法等が挙げられる。
【0031】
幹21には、樹皮が付いたままの樹皮残存部22と、樹皮が剥がされた樹皮剥がし部23とが形成されている(
図2(a)参照)。幹21が延びる方向において、樹皮剥がし部23は幹21の下部に設けられ、樹皮残存部22は樹皮剥がし部23の上側部分に設けられている。本実施形態では、幹21の下端から所定の高さ位置Hまでの領域全体の樹皮が剥がされており、高さ位置Hより上部については樹皮が残されたままとなっている。
【0032】
樹木20の下端部には切り込み24が設けられている。切り込み24は、樹木20の下端から上方へ延び、所定長さを有している。
図2(a)及び
図3に示すように、切り込み24は、樹木20の下端から樹皮剥がし部23の途中の高さ位置まで延びている。
【0033】
なお、
図2及び
図3には、樹木20の下端部に切り込み24が1個形成されている場合を示したが、切り込み24の数は特に限定されず、2個以上としてもよい。切り込み24を2個以上形成する場合、複数の切り込み24を互いに交差させてもよく、交差させないように(例えば平行に)してもよい。また、樹皮剥がし部23について、幹21の下端から所定の高さ位置Hまでの領域のうち一部の領域の樹皮を剥がし、残りの領域の樹皮を残すようにしてもよい。
【0034】
差込孔15に差し込む前の状態において、樹木20にはシール部材16が取り付けられている(
図2(a)及び
図2(b)参照)。シール部材16は、発泡性の弾性材料により形成されたシート状の発泡体である。この発泡体は、より具体的には、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDMゴム)を主成分とするゴム発泡体である。なお、ゴム発泡体は、独立気泡型であってもよいし、半独立半連続気泡型であってもよい。本実施形態では、シート状のゴム発泡体(以下、「ゴム発泡シート」ともいう)が樹皮剥がし部23の少なくとも一部を被覆するように幹21に巻き付けられており、これによりシール部材16が構成されている。
【0035】
より具体的には、
図2(b)に示すように、幹21には、樹皮剥がし部23と樹皮残存部22との境界部分を被覆するようにゴム発泡シートが巻き付けられている。これにより、幹21の外周全体にわたってシール部材16が配置されている。本実施形態では、幹21の径方向にみてゴム発泡シートが互いに重なるように、ゴム発泡シートが幹21に複数回(例えば2、3回)巻き付けられている。ゴム発泡シートの厚みは、例えば5~20ミリメートルであり、本実施形態では約10ミリメートルである。なお、こうしたゴム発泡シートとしては公知のシーリング材を使用でき、例えば製品名でエプトシーラー(日東電工社製)等が挙げられる。
【0036】
幹21にゴム発泡シートが巻き付けられた状態において、幹21の軸方向におけるシール部材16の長さ(すなわち、ゴム発泡シートの幅)は、樹木20の高さにもよるが、例えば0.03~0.1メートルである。また、樹木20を差込孔15に差し込む前の状態では、幹21の径方向におけるシール部材16の幅(厚み)は、幹21の外周面と差込孔15の内周面との間の長さよりも大きくなるようにシール部材16が肉厚に巻き付けられている。このため、樹木20が差込孔15に差し込まれた状態では、シール部材16は、その弾性力(すなわち、ゴム発泡体の弾性力)により、差込孔15の径方向に圧縮された状態で幹21と差込孔15の内周部との間に配置される。このように、シール部材16が圧縮された状態で樹木20と差込孔15の内周部との隙間に介在することにより、樹木20が差込孔15に対して固定されるとともに、差込孔15の開口部が密閉される。
【0037】
次に、上述した製造装置10を用いて樹木加工品を製造する方法について説明する。
【0038】
製造装置10により樹木加工品を製造する場合、まず、保存加工の対象の生木に前処理を施し、差込孔15に差し込むための樹木20を準備する(前処理工程)。この前処理工程では、生木の根の部分を取り除くとともに、幹21の下部の樹皮を剥がして樹皮剥がし部23を幹21に形成する(剥がし工程)。また、根を取り除いた後の生木の幹21の下端部に切り込み24を形成する(切り込み形成工程)。さらに、樹皮剥がし部23と樹皮残存部22との境界部分にゴム発泡シートを巻き付け(巻き付け工程)、シール部材16としてのコム発泡シートを幹21に配置する(
図2(a)及び
図2(b)参照)。
【0039】
次いで、上記の前処理工程で準備した樹木20の下端部を差込孔15に差し込み、差込孔15の内部の保存液と樹木20の下端部とを接触させる(差し込み工程)。このとき、差込孔15の内部の保存液に樹木20の下端部を浸漬させることにより、樹皮剥がし部23の外周面と保存液とが十分に大きい面積で接触するようにし、かつシール部材16の少なくとも一部が差込孔15の内部に挿入されるようにして、樹木20を差込孔15に差し込む。これにより、樹皮が剥がされることによって剥き出しになった柔らかい植物体組織を保存液に接触させるとともに、差込孔15に差し込まれた樹木20と差込孔15の内周部との間がシールされた状態となるようにする。
【0040】
続いて、コンプレッサ14により加圧された保存液を、供給配管12を通じて樹木取付部13に供給する(加圧供給工程)。なお、製造装置10による樹木20の保存加工処理は、通常、大気圧下で行われる。この加圧供給工程により、保存液が樹木20の植物体組織に吸収・浸透され、植物体組織に含まれる水分と保存液とが置換されることにより、生木に近い状態を長期間保持可能な樹木加工品を得ることができる。
【0041】
特に、製造装置10では、差込孔15に差し込まれた樹木20に対して、コンプレッサ14により加圧した保存液を供給するため、樹木20のような比較的大きな植物体の保存加工を行う場合にも、樹木20の葉の先端部分まで保存液を十分に行き渡らせることができる。これにより、生木に近い瑞々しい状態を葉の先端部分まで長期にわたって保持可能な樹木加工品を得ることができる。また、液タンク11内の保存液には着色剤を含ませているため、保存液と共に着色剤を樹木の葉の先端部分まで綺麗に行き渡らせることができる。このため、加工処理後の樹木20は、葉の先端部分まで任意の色彩(例えば、赤やピンク、青、黄、緑等)に着色されており意匠性が高い。
【0042】
なお、製造装置10を用いて樹木20に保存液を供給している期間、周囲環境の温度や湿度を調整し、樹木20の蒸散を促進させるようにしてもよい。
【0043】
製造装置10を用いて保存加工された樹木20を、植木鉢や箱、籠等の各種容器に起立させた状態で入れ、必要に応じてデコレーションバーグやココヤシファイバー、その他の飾り等を付すことにより、装飾性がより高い樹木加工品40とすることができる(
図4参照)。具体的には、容器41に樹皮剥がし部23及び切り込み24が入り込むように樹木20を収容し、樹皮剥がし部23及び切り込み24が埋まるようにチップ等の装飾材42を敷き詰めることにより、樹木加工品40が完成する。このようにすることで、樹皮剥がし部23及び切り込み24が外部から視認されないようにすることができ、装飾性を高めることができる。また、樹皮剥がし部23が外部から視認されないため、より自然な外観を演出することができる。
【0044】
こうして得られた樹木加工品40は、例えば、自宅や店舗、事務所、会社等での観賞用;祝い事、誕生日等の贈答用;冠婚葬祭の会場やイベント会場等の会場装飾用等といった各種用途に適用することができる。
【0045】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0046】
樹木20の幹21に樹皮剥がし部23を形成し、樹皮剥がし部23と保存液とを接触させた状態において、樹木20に対し、コンプレッサ14により加圧された保存液を供給する構成とした。この構成によれば、樹皮が剥がされることによって剥き出しになった柔らかい植物体組織に対して、加圧された比較的高圧の保存液が供給されるため、その軟らかい植物体組織から樹木20の内部に保存液を効率良く浸透させることができる。
【0047】
また、差込孔15に差し込まれた樹木20と差込孔15の内周部との間にはシール部材16が設けられているため、差込孔15の隙間からの圧力の抜けを抑制でき、幹21の表層部分への圧力により保存液を幹の表層部分から内部に十分に浸透させることができる。これにより、樹木20のように比較的大きく、生花に比べて下部からの水の吸い上げが良好でない植物体に対しても、保存液を葉の先端部分まで十分に行き渡らせることができ、生木に近い瑞々しい状態を長期間(例えば、数年以上)保持できる樹木加工品40を製造することができる。
【0048】
また、加圧した比較的高圧の保存液を樹木20に供給するため、樹木20のように比較的大きな植物体に保存液を吸収させる場合にも、比較的短期間で加工処理を行うことができる。さらに、本製造方法においては、保存液による加工処理後に樹木20(主に葉の部分)を乾燥させる乾燥工程が不要である。このため、1週間から10日程度で製品としての樹木加工品40を製造することができ、製造期間の短縮化を図ることができる。
【0049】
本製造方法によれば、液タンク11内の保存液に着色剤を混ぜることにより、葉の先端部分まで綺麗に着色された樹木加工品を容易に製造することができる。また、得られた樹木加工品は、見た目だけでなく天然木としての匂いも残っており、より生木に近い樹木加工品40とすることができる。
【0050】
差込孔15に差し込む前の樹木20の幹21に、シール部材16としてのゴム発泡シートを巻き付け、ゴム発泡シートを巻き付けた部分の少なくとも一部が差込孔15に差し込まれるように樹木20を差込孔15に差し込むことにより、樹木20と差込孔15の内周部との間をシールする構成とした。この構成によれば、ゴム発泡シートが幹21の表面形状に追従して変形することにより、幹21の表層部分の形状に沿ってゴム発泡シートを密着させることができる。これにより、樹木20とシール部材16との間に隙間が形成されないようにすることができる。
【0051】
また、ゴム発泡シートは比較的柔軟であり、適度な力で幹21に密着するため、例えばゴム栓等の比較的硬い部材を用いる場合に比べて、幹21が外部から過度に締め付けられることを抑制できる。このため、シール部材16によって植物体組織での保存液の流れが阻害されることを抑制でき、樹木20のような比較的大きな植物体に対しても、植物体内部の隅々まで保存液を行き渡らせることができる。
【0052】
樹皮剥がし部23と樹皮残存部22との境界部分にゴム発泡シートを巻き付ける構成とした。樹皮が剥がされた部分の表面は比較的平滑であるため、ゴム発泡シートを巻き付けやすく、また幹21とゴム発泡シートとの密着性を高くすることができる。またその際、発泡シートの一部を、こぶや節(ふし)等が多く存在し表面が凹凸形状である樹皮残存部22に配置することにより、ゴム発泡シートの取り付け時や取り付け後において、ゴム発泡シートの位置ずれが生じることを抑制することができる。
【0053】
また、幹21の下端部の樹皮を剥がすことにより幹21が保存液を吸収しやすくする一方、幹21のうち樹皮剥がし部23よりも上方については樹皮を残したままとしたことから、加工後も自然な状態が保たれる。このため、得られる樹木加工品40の意匠性を高めることができる。
【0054】
差込孔15に差し込む樹木20の下端部には切り込み24を形成して、保存液と接触させる構成とした。この構成によれば、樹皮剥がし部23の表層部分だけでなく切り込み24の部分からも、加圧された比較的高圧の保存液を樹木20の内部に吸収させることができる。これにより、生花に比べて下部からの水の吸い上げが良好でない樹木20において、植物体組織への保存液の浸透を一層促進させることができる。
【0055】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0056】
・樹木20に光を照射する手段(光照射手段)を製造装置10に設け、樹木20に光を照射しながら保存液を供給するようにしてもよい。こうした光照射によって樹木20をできるだけ自然に近い状態に環境下に置くことにより蒸散を促進させることができ、ひいては保存液の吸収を促進させることが可能である。光照射手段としては、LEDライト等が挙げられる。
【0057】
・上記実施形態では、差込孔15に差し込む前の樹木20の幹21にゴム発泡シートを巻き付けた後、樹木20を差込孔15に差し込むことにより、樹木20と差込孔15の内周部との間にシール部材16を配置する構成としたが、差込孔15の内周部にシール部材16を取り付け、その後、樹木20を差込孔15に差し込むようにしてもよい。また、シール部材16としてゴム発泡シートに代えて、例えば、発泡性を有しないゴムシートや輪ゴム、ゴム栓等の弾性部材を用いてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…製造装置、11…液タンク、12…供給配管(流路部)、13…樹木取付部、14…コンプレッサ(加圧手段)、15…差込孔、16…シール部材、20…樹木、21…幹、22…樹皮残存部、23…樹皮剥がし部、24…切り込み。