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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089577
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】軽度認知障害の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20220609BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20220609BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
C12Q1/6883 Z
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202075
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(71)【出願人】
【識別番号】520358379
【氏名又は名称】株式会社Rhelixa
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 信孝
(72)【発明者】
【氏名】西岡 健弥
(72)【発明者】
【氏名】代田 健祐
(72)【発明者】
【氏名】小田 真由美
(72)【発明者】
【氏名】内海 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】仲木 竜
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR66
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軽度認知障害(MCI)の検出方法の提供。
【解決手段】被験者から採取された生体試料由来のゲノムDNAにおける標的CpGサイトのDNAメチル化率を測定することを含む、当該被験者における軽度認知障害(MCI)の検出方法であって、前記標的CpGサイトが、染色体上の特定の位置又はその近傍に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトである、方法。前記ゲノムDNAがバイサルファイト処理されたゲノムDNAである方法。前記DNAメチル化率の測定がマイクロアレイ法、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、又は定量的メチル化特異的PCR(MSP)法を用いて行われる方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された生体試料由来のゲノムDNAにおける標的CpGサイトのDNAメチル化率を測定することを含む、当該被験者における軽度認知障害(MCI)の検出方法であって、
前記標的CpGサイトが、下記表1の(1)~(34)に記載される染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトである、方法。
【表1】
【請求項2】
前記ゲノムDNAがバイサルファイト処理されたゲノムDNAである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記DNAメチル化率の測定がマイクロアレイ法、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、又は定量的メチル化特異的PCR(MSP)法を用いて行われる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記生体試料が全血試料である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記標的CpGサイトが前記表1の(1)~(34)に記載される染色体上の位置に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトである、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記標的CpGサイトが前記表1の(1)~(20)に記載される染色体上の位置に位置するCpGサイトである、請求項1~5のいずれか1項の方法。
【請求項7】
前記標的CpGサイトが前記表1の(1)~(34)に記載される染色体上の位置に位置するCpGサイトである、請求項1~5のいずれか1項の方法。
【請求項8】
さらに、前記DNAメチル化率を対照DNAメチル化率と比較することを含む、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
さらに、前記DNAメチル化率を下記式(1)に代入し、得られた値をカットオフ値と比較することによって、当該被験者におけるMCIの有無を検出する、請求項6記載の方法。
【数1】
(式(1)中、αは-533.1722を示し、βは446.3352、βは-450.7728、βは-244.6187、βは385.7751、βは204.7351、βは54.8807、βは504.2445、βは-139.5432、βは332.2435、β10は-350.7700、β11は114.3273、β12は232.6809、β13は-189.6994、β14は66.6434、β15は-12.0331、β16は9.2219、β17は-47.9527、β18は152.8140、β19は-67.5121、β20は-19.4151を示し、x~x20は、それぞれ、上記表1の(1)~(20)に記載される染色体上の位置に位置するCpGサイトのDNAメチル化率を示す。)
【請求項10】
さらに、前記DNAメチル化率を下記式(2)に代入し、得られた値をカットオフ値と比較することによって、当該被験者におけるMCIの有無を検出する、請求項7記載の方法。
【数2】
(式(1)中、αは-585.9345を示し、βは725.2845、βは-629.1517、βは-396.5470、βは350.7335、βは316.9368、βは291.4193、βは235.9880、βは-227.1130、βは203.5180、β10は-193.7436、β11は183.5877、β12は182.7943、β13は-177.1248、β14は159.0189、β15は136.6889、β16は-134.3153、β17は-117.9282、β18は115.0902、β19は-113.9686、β20は-111.6214、β21は-108.6566、β22は104.5547、β23は-100.0736、β24は96.2618、β25は96.1807、β26は-89.5214、β27は87.8011、β28は-57.1841、β29は56.5640、β30は-50.0396、β31は-42.3310、β32は29.2738、β33は-28.2257、β34は-25.8969を示し、x~x34は、それぞれ、上記表1の(1)~(34)に記載される染色体上の位置に位置するCpGサイトのDNAメチル化率を示す。)
【請求項11】
被験者におけるMCIの検出のためのプライマー又はプローブであって、
前記プライマー又はプローブは、少なくとも10塩基の鎖長を有し、かつバイサルファイト処理された後の標的CpGサイトを含むDNA領域、前記標的CpGサイトの上流のDNA領域、又は該標的CpGサイトの下流のDNA領域にハイブリダイズし、
前記標的CpGサイトが、上記表1の(1)~(34)に記載される染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトである、プライマー又はプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知障害の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)とは、健常な状態とアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症等の認知症の間にあたり、認知機能の低下は生じているものの日常生活は支障なく送ることができる状態である。MCIの定義は、1.年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する、2.本人または家族による物忘れの訴えがある、3.全般的な認知機能は正常範囲である、4.日常生活動作は自立している、5.認知症ではない、の5つである。MCI有病者数は、人口の高齢化に従ってますます増加することが予想される。
【0003】
MCIを放置すると年平均で約5~15%が認知症に進行する一方、約16~41%でMCIから認知機能が正常な状態へと回復することが報告されている(非特許文献1)。さらに、症状が軽いMCIでは、症状が進行し複数の認知機能に低下がみられるMCIに比べて回復率が高いことも報告されている(非特許文献2)。よって、一部の原因疾患が明らかな場合を除いて認知症の根本的治療法は確立されていないところ、認知機能の低下が軽微なMCIの段階で早期診断して早期介入を図ることが肝要である。
【0004】
現在、MCIは、本人や家族からの問診や認知機能検査に加え、血液検査等の一般的な身体検査、頭部MRI、CT、脳血流SPECT等の検査の結果を総合的に踏まえて診断されている。しかしながら、かかる方法では医師の専門的な判断を要する。したがって、MCIを簡便に診断するための技術が強く望まれている。
【0005】
一方、DNAのメチル化は、正常な発生に必須であり、遺伝子発現を調節し、細胞の発生、分化、老化、リプログラミング等の生物学的現象に深く関与することが知られている。DNAのメチル化の異常は、様々な疾患の発症に関わると考えられており、例えば、がんにおいては、一部の遺伝子のプロモーター領域におけるCpGアイランドの異常なDNAメチル化が、がん抑制遺伝子の不活化等を通じて発がんに関与することが明らかになっている。
【0006】
認知症の主な原因の1つであるアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)については、血漿内のアミロイドβ(Aβ)ペプチド、Tauペプチド、α-シヌクレイン、TDP-43等のバイオマーカーが報告されている(非特許文献3)。また、AD患者及び健忘性MCI患者において、健常者に比して、NCAPH2/LMF2遺伝子のプロモーター領域のCpGサイトのDNAメチル化が有意に減少していたことが報告されている(非特許文献4)。しかしながら、非特許文献4では、スクリーニングに用いた検体数が少なく、該CpGサイトのDNAメチル化率は、認知機能障害を反映するMini-Mental State Examination(MMSE)及びFrontal Assessment Battery(FAB)のスコアと有意に相関することから、健忘性MCIを含むADのバイオマーカーとなるに過ぎない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】認知症疾患診療ガイドライン2017、日本神経学会監修、「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会編集、2017年
【非特許文献2】Brodaty H et al., Alzheimers Dement. 2013, 9(3):310-317
【非特許文献3】Molinuevo JL et al., Acta Neuropathologica, 2018, 136:821-853
【非特許文献4】Kobayashi N et al., PLoS One, 2016, 11(1):e0146449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、DNAのメチル化率に基づいてMCIを検出する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、健常者、MCI患者、及びAD患者から採取された血液試料を対象として鋭意検討したところ、健常者及びAD患者と比較してMCI患者でのみ特定のCpGサイトにおいてメチル化が有意に増加しており、当該CpGサイトのDNAメチル化率を指標にMCIを検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)及び2)に係るものである。
1)被験者から採取された生体試料由来のゲノムDNAにおける標的CpGサイトのDNAメチル化率を測定することを含む、当該被験者における軽度認知障害(MCI)の検出方法であって、
前記標的CpGサイトが、下記表1の(1)~(34)に記載される染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトである、方法。
【表1】
2)被験者におけるMCIの検出のためのプライマー又はプローブであって、
前記プライマー又はプローブは、少なくとも10塩基の鎖長を有し、かつバイサルファイト処理された後の標的CpGサイトを含むDNA領域、前記標的CpGサイトの上流のDNA領域、又は該標的CpGサイトの下流のDNA領域にハイブリダイズし、
前記標的CpGサイトが、上記表1の(1)~(34)に記載される染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトである、プライマー又はプローブ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、MCIを簡便に検出することが可能となる。本発明により早期にMCIを検出できれば、MCI患者に対する適切な治療を早期に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】20CpGサイトのDNAメチル化率を利用する判別式による健常者(HC)群、MCI群、AD群におけるMCIスコアを示す図。
図2】34CpGサイトのDNAメチル化率を利用する判別式による健常者(HC)群、MCI群、AD群におけるMCIスコアを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「軽度認知障害(MCI)」とは、健常な状態と認知症の間にあたり、認知機能の低下は生じているものの日常生活は支障なく送ることができる状態、あるいは認知症の最初期状態をさす。具体的には、Mini-Mental State Examination(MMSE)のスコアが20以上23以下の状態又は認知機能がそれに相当する状態をさす。
【0014】
本明細書において、被験者におけるMCIの「検出」とは、被験者におけるMCIの有無を明らかにする意味であり、検査、測定、判定、又は評価と言い換えることもできる。なお、本明細書において、「判定」又は「評価」という用語は、医師による判定や評価を含むものではない。
【0015】
本明細書において、「CpGサイト」とは、DNA中のシトシン(C)とグアニン(G)がホスホジエステル結合した2塩基配列を意味する。CpGサイトの出現頻度が高い領域は、CpGアイランドと呼ばれる。CpGアイランドは、遺伝子のコード領域に近い位置、例えばプロモーター領域に存在することが多く、したがって遺伝子のCpGサイトは、該遺伝子のコード領域に近い位置に存在するCpGアイランド、又は該遺伝子のプロモーター領域に多く存在する。
【0016】
本明細書において、「DNAメチル化」とは、DNAにおいてシトシンのピリミジン環の5位の炭素がメチル化されている状態のことを意味する。また、本明細書において、あるCpGサイトの「DNAメチル化率」とは、該CpGサイトにおいてDNAがメチル化されている割合を意味する。かかる割合は、完全メチル化を100%、完全非メチル化を0%とした百分率で表してもよいし、完全メチル化を1、完全非メチル化を0として表してもよい。本明細書において、DNAメチル化率が高い及び低いとは、それぞれ、DNAがメチル化されている割合が高いこと及び低いことを意味する。
【0017】
本発明は、被験者におけるMCIの検出方法に関する。本発明の方法は、被験者から採取された生体試料由来のゲノムDNAにおける標的CpGサイトのDNAメチル化率を測定することを含む。ここで、被検者としては、ヒト、例えば、認知機能低下を訴える者、認知機能低下の疑いがある者、認知機能の評価を希望する者等が挙げられる。
【0018】
本発明の方法において用いられる被験者から採取された生体試料としては、ゲノムDNAを含むものである限り特に限定されず、被験者からの採取物(生体から分離した試料)、具体的には、採取された細胞、組織、血液、血液に由来する血漿や血清、口腔粘液等が挙げられる。このうち、血液試料が好ましく、全血試料がより好ましい。
【0019】
本発明の方法において用いられる被験者から採取された生体試料由来のゲノムDNAとしては、上記生体試料より調製されたゲノムDNA等が挙げられる。生体試料からゲノムDNAを調製する手法としては、特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。DNAを調製する公知の方法としては、フェノールクロロホルム法、CTAB法、アルカリSDS法又は市販のDNA抽出キット、例えばDNeasy Blood&Tissue Kit(Qiagen社製)や、QIAamp DNA Mini kit(Qiagen社製)、Clean Columns(NexTec社製)、AquaPure(Bio-Rad社製)、ZR Plant/Seed DNA Kit(Zymo Research社製)、prepGEM(ZyGEM社製)、BuccalQuick(TrimGen社製)、等を用いるDNA抽出方法等が挙げられる。
【0020】
好ましくは、調製されたゲノムDNAは、バイサルファイト処理される。DNAのバイサルファイト処理の方法としては、特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。バイサルファイト処理のための公知の方法としては、例えば、EZ DNA Methylation-Goldキット、EZ DNA Methylation-Lightning Kit(いずれもZymo Research社製)、EpiTect Bisulfite Kit(48)(Qiagen社製)、MethylEasy(Human Genetic Signatures Pty社製)、Cells-to-CpG Bisulfite Conversion Kit(Applied Biosystems社製)、CpGenome Turbo Bisulfite Modification Kit(MERCK MILLIPORE社製)等の市販のキットを用いる方法が挙げられる。
【0021】
さらに、前記バイサルファイト処理されたゲノムDNAを増幅することが好ましい。増幅の手法には特に制限はないが、好ましくはPCRが利用される。増幅の手法及び条件は、増幅対象のDNAの配列、長さ、量等に応じて、公知の手法及び条件を適宜選択して用いることができる。
【0022】
後述の実施例に示すように、本発明者らは、表2に示す(1)~(34)のCpGサイトにおけるDNAメチル化率が、健常者群及びアルツハイマー病(AD)患者群と比較して、MCI患者群でのみ有意に高いことを見出した。また、かかるCpGサイトにおけるDNAメチル化率の群平均の差分は5%以上と非常に大きかった。よって、これらCpGサイトにおけるDNAメチル化率は、MCIの検出のためのマーカーとして使用することができる。すなわち、これらCpGサイトにおけるDNAメチル化率の高低に基づいて、被験者におけるMCIの有無を検出できる。
【0023】
【表2】
【0024】
したがって、本発明の方法において、DNAメチル化率を測定する標的CpGサイトとしては、表2に示す染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトが挙げられる。本発明の方法においては、表2に示す染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトのDNAメチル化率を測定すればよい。
なお、本明細書において、CpGサイトの染色体上の位置は、基準ヒトゲノム配列であるNCBIデータベース Genome Build 37上の位置を基準にして表されている。また、本明細書において、遺伝子の名称は、NCBIデータベースに登録された遺伝子の名前に基づくものである。
【0025】
本明細書において、染色体上の位置の「近傍」とは、当該染色体上の位置から上流(DNAの5’側)500塩基~下流(DNAの3’側)500塩基、好ましくは上流200塩基~下流200塩基、より好ましくは上流100塩基~下流100塩基、さらに好ましくは上流50塩基~下流50塩基の領域をいう。ゲノムDNAにおいて、あるCpGサイトの近傍に位置するCpGサイトのDNAメチル化が、該CpGサイトのDNAメチル化と多くの場合に相関することが知られている(例えば、Bell JT et al., Genome Biology 2011, 12:R10参照)。
【0026】
表2に示す染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトの例としては、表3に示すDNA領域に含まれるCpGサイトが挙げられる。
【0027】
【表3】
【0028】
換言すると、DNAメチル化率を測定する標的CpGサイトの例としては、配列番号1~34のいずれかの塩基配列又はその相補配列からなるDNA領域に含まれるCpGサイトが挙げられる。
【0029】
表2に示す染色体上の位置に位置するCpGサイトのうち、5番染色体の1,594,715位、1,594,678位、及び1,594,733位に位置するCpGサイト(表2のCpGサイト(1)、(3)及び(21))は、5番染色体の1,594,238~1,595,027位に存在するSDHAP3遺伝子のCpGアイランド(配列番号35)に含まれる。また、16番染色体の857,454位及び857,863位に位置するCpGサイト(表2のCpGサイト(8)及び(22))は、16番染色体の857,341~858,025位に存在するPRR25遺伝子のCpGアイランド(配列番号36)に含まれる。よって、表2に示す染色体上の位置又はその近傍に位置するCpGサイトの別の例としては、5番染色体の1,594,238~1,595,027位のCpGアイランドに含まれるCpGサイト又は16番染色体の857,341~858,025位のCpGアイランドに含まれるCpGサイトが挙げられる。
【0030】
本発明の方法においては、上述の標的CpGサイトのうちの少なくとも1つのCpGサイトについてのDNAメチル化率を測定すればよい。例えば、本発明の方法においては、上記表2に示す染色体上の位置に位置するCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトのDNAメチル化率を測定すればよい。あるいは、本発明の方法においては、上記の表3に示すDNA領域に含まれるCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトのDNAメチル化率を測定すればよい。あるいは、本発明の方法においては、配列番号1~36のヌクレオチド配列又はその相補配列からなるDNA領域に含まれるCpGサイトからなる群より選択される少なくとも1つのCpGサイトのDNAメチル化率を測定すればよい。
【0031】
また、検出感度の向上という観点からは、前述したCpGサイトを組み合わせて標的CpGサイトとしてもよい。かかる組み合わせの例としては、表2に示すいずれかのCpGサイトとその近傍に位置するCpGサイトとの組み合わせ、表2に示すCpGサイトのいずれか2つ以上の組み合わせ、表2に示す(1)~(20)のCpGサイトの組み合わせ、表2に示す(1)~(34)のCpGサイトの組み合わせ、等が挙げられる。このうち、表2に示すいずれかのCpGサイトとその近傍に位置するCpGサイトとの組み合わせ、表2に示す(1)~(20)のCpGサイトの組み合わせ、及び表2に示す(1)~(34)のCpGサイトの組み合わせが好ましい。
【0032】
したがって、本発明の方法において前述したようにバイサルファイト処理されたDNAをPCR等で増幅する場合、上述の標的CpGサイトを含むDNA領域が増幅される。増幅されるDNA領域のサイズは、そこに標的CpGサイトが含まれている限りにおいて、特に限定されない。
【0033】
本発明において、CpGサイトのDNAメチル化率を測定する手法としては、特に限定されず、公知のDNAメチル化率を測定できる手法を適宜用いることができる。かかる公知の手法としては、マイクロアレイ法、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、メチル化特異的PCR(Methylation-specific PCR:MSP)法、定量的MSP法、Combined Bisulfite Restriction Analysis(COBRA)法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
マイクロアレイ法は、各CpGサイトについて3’末端にメチル化シトシン又は非メチル化シトシンに相補的な塩基を有するように構築されたプローブを用いた1塩基伸長反応を利用して、CpGサイトにおけるDNAのメチル化を定量する方法である。該方法は、例えば、次のように実施することができる。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。なお、このバイサルファイト処理によって、非メチル化シトシン残基はウラシルに変換されるが、メチル化シトシン残基は変換されない。次いで、このようにバイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型として、全ゲノム増幅を行い、酵素による断片化(通常300~600bp程度の断片化)を行い、一本鎖に解離させる。
【0035】
一方、バイサルファイト処理によって変換されたゲノムDNAにハイブリダイズするプローブであって、該プローブの3’末端の塩基が、前記CpGサイトのシトシンに相補的な塩基であるプローブを調製する。すなわち、該CpGサイトがメチル化されている場合には、プローブの3’末端の塩基はグアニンとなり、該CpGサイトがメチル化されていない場合には、プローブの3’末端の塩基はアデニンとなる。
【0036】
そして、このような前記CpGサイトに相補的な3’末端の塩基のみが異なる2種類のプローブと、前記一本鎖DNA断片とをハイブリダイズさせ、蛍光標識した塩基の存在下、1塩基伸長反応を行う。その結果、該一本鎖断片のCpGサイトがメチル化されている場合、3’末端の塩基がグアニンであるプローブ(メチル化検出用プローブ)には1塩基伸長反応により蛍光標識した塩基が取り込まれるが、3’末端の塩基がアデニンであるプローブ(非メチル化検出用プローブ)には、3’末端の塩基のミスマッチのため1塩基伸長反応が起こらず、蛍光標識した塩基は取り込まれない。一方、該一本鎖断片のCpGサイトがメチル化されていない場合、非メチル化検出用プローブには蛍光標識した塩基が取り込まれるが、メチル化検出用プローブには蛍光標識した塩基は取り込まれない。したがって、メチル化検出用プローブ及び/又は非メチル化検出用プローブが発する蛍光の強度からDNAメチル化率を算出することができる。
【0037】
また、該方法においては、別の態様として、前記メチル化検出用プローブ及び非メチル化検出用プローブの代わりに、バイサルファイト処理によって変換されたゲノムDNAにハイブリダイズするプローブであって、該プローブの3’末端の塩基が前記CpGサイトのグアニンに相補的な塩基となっているプローブを用いてもよい。そして、かかるプローブと、前記一本鎖DNA断片とをハイブリダイズさせ、蛍光物質にて標識したグアニン及び/又は該蛍光物質とは異なる蛍光色素にて標識したアデニンの存在下、1塩基伸長反応を行う。その結果、前記CpGサイトがメチル化されている場合には、当該プローブに蛍光標識したグアニンが取り込まれることになり、一方、前記CpGサイトがメチル化されていない場合には、当該プローブに蛍光標識したアデニンが取り込まれることになるため、前記プローブに取り込まれた各蛍光物質が発する蛍光の強度からDNAメチル化率を算出することができる。
【0038】
かかる方法の好ましい例としては、例えば、ビーズアレイ法(例えば、Infinium(登録商標)Assay)が挙げられる。
【0039】
パイロシークエンシング法は、例えば、次のように実施することができる。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。なお、このバイサルファイト処理によって、非メチル化シトシン残基はウラシルに変換されるが、下記伸長反応(シークエンス反応)においてはウラシルはチミンとして示される。次いで、このようにバイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型として、前記CpGサイトを少なくとも一つ含むDNAを増幅する。そして、増幅したDNAを一本鎖に解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAのうち、片鎖のみを分離する。そして、前記CpGサイトの塩基の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行い、その際に生成されるピロリン酸を酵素的に発光させ、発光の強度を測定する。このようにして得られたメチル化シトシン残基由来の発光の強度(シトシンの発光強度)と、非メチル化シトシン残基由来の発光の強度(チミンの発光強度)とを比較し、例えば、下記式(1)によって前記CpGサイトにおけるDNAメチル化率を算出する。
【0040】
【数1】
【0041】
バイサルファイトシークエンス法は、例えば、次のように実施することができる。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次いで、バイサルファイト変換された前記CpGサイトを含むヌクレオチドを鋳型として、直接シークエンシング反応を行う。そして、決定された塩基配列に基づく蛍光強度、すなわちメチル化シトシン残基由来の蛍光強度(シトシンの蛍光強度)と、非メチル化シトシン残基由来の蛍光強度(チミンの蛍光強度)とを比較することによって、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化率を算出する。
【0042】
MSP法は、例えば、次のように実施することができる。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次に、前記CpGサイトがメチル化されている場合に増幅可能なプライマーセット、及び前記CpGサイトがメチル化されていない場合に増幅可能なプライマーセットを調製する。そして、前記バイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型とし、前記CpGサイトを少なくとも1つ含むヌクレオチドを、これらのプライマーセットを用いて各々増幅する。そして、得られた増幅産物の量、すなわちメチル化CpGサイト特異的な増幅産物の量、及び非メチル化CpGサイト特異的な増幅産物の量を比較することにより、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化率を算出する。
【0043】
定量的MSP法は、例えば、次のように実施することができる。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次に、前記CpGサイトがメチル化されている場合にハイブリダイズすることが可能なヌクレオチドを有し、レポーター蛍光色素及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを調製する。また、前記CpGサイトがメチル化されていない場合にハイブリダイズすることが可能なヌクレオチドを有し、前記レポーター蛍光色素とは異なるレポーター蛍光色、及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを調製する。そして、バイサルファイト処理したゲノムDNAに前記オリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせ、さらに前記オリゴヌクレオチドプローブがハイブリダイズしたゲノムDNAを鋳型として前記CpGサイトを含むヌクレオチドを増幅する。そして、前記増幅に伴うオリゴヌクレオチドプローブの分解により、前記レポーター蛍光色素が発する蛍光を検出する。このようにして検出されたメチル化シトシンCpGサイト特異的なレポーター蛍光色素が発する蛍光の強度と、非メチル化シトシンCpGサイト特異的なレポーター蛍光色素が発する蛍光の強度とを比較することによって、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化率を算出する。
【0044】
該方法としては、例えば、TaqManプローブ(登録商標)を用いたMethyLight法等が挙げられる。
【0045】
COBRA法は、例えば、次のように実施することができる。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次いで、バイサルファイト変換された前記CpGサイトを含むヌクレオチドを鋳型として、前記CpGサイトを含む領域をPCRにて増幅する。次いで、増幅したDNA断片を、該CpGサイトがメチル化されている場合とされていない場合とで配列が異なる箇所を認識する制限酵素で処理する。そして、電気泳動することによって分画された、メチル化CpGサイトに由来する制限酵素断片と非メチル化CpGサイトに由来する制限酵素断片とのバンドの濃さを定量的に解析することにより、該CpGサイトのDNAメチル化率を算出することができる。
【0046】
本発明において「DNAメチル化率を検出する手法」としては、上記手法に限定されないが、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、又は定量的MSP法が好ましい。上記手法では、ゲノムDNAは、バイサルファイト処理に供される。したがって、本発明の方法においてCpGサイトのDNAメチル化率の測定に用いられるゲノムDNAは、好ましくは、バイサルファイト処理されたゲノムDNAである。
【0047】
斯くして、被験者から採取された生体試料由来のゲノムDNAにおける本発明の標的CpGサイトのDNAメチル化率が測定され、当該DNAメチル化率に基づいて、当該被験者におけるMCIの有無が検出される。検出のための具体的な指標(閾値)は、当業者であれば、DNAメチル化率を検出する手法に合わせて適宜設定することができる。検出の手順の実施形態について以下に述べる。
【0048】
第一の実施形態においては、前記検出は、測定された標的CpGサイトのDNAメチル化率を対照DNAメチル化率と比較することによって行われる。ここで、「対照DNAメチル化率」とは、例えば、健常者における該標的CpGサイトのDNAメチル化率が挙げられる。健常者の標的CpGサイトのDNAメチル化率は、健常者集団から測定した該標的CpGサイトのDNAメチル化率の統計値(例えば平均値等)であってもよい。該標的CpGサイトが複数の場合は、各々のCpGサイトについて基準レベルを求めることが好ましい。
前記第一の実施形態においては、被験者から採取された生体試料について、標的CpGサイトのDNAメチル化率が対照DNAメチル化率よりも高い場合、DNAメチル化率は診断閾値を超えたと判断され、該被験者はMCIを有すると判定される。一方、DNAメチル化率が対照DNAメチル化率以下であれば、該被験者はMCIを有さないと判定される。
【0049】
第二の実施形態においては、前記検出は、測定された標的CpGサイトのDNAメチル化率の上昇を検出することにより行われる。この場合は、測定された標的CpGサイトのDNAメチル化率が、各CpGサイトのカットオフ値(参照値)と比較される。カットオフ値は、予め健常者における該標的CpGサイトのDNAメチル化率を基準データとして取得しておき、それに基づくDNAメチル化率の平均値や標準偏差等の統計的数値に基づき、適宜決定すれば良い。
前記第二の実施形態においては、被験者から採取された生体試料について、標的CpGサイトのDNAメチル化率がカットオフ値より高い場合、DNAメチル化率は診断閾値を超えたと判断され、該被験者はMCIを有すると判定される。一方、DNAメチル化率が該カットオフ値以下であれば、該被験者はMCIを有さないと判定される。
【0050】
前記第一及び第二の実施形態において、複数のCpGサイトのDNAメチル化率が測定される場合は、DNAメチル化率が診断閾値を超えたCpGサイトの数又は割合を、判定のための指標とすることができる。例えば、調べた全てのCpGサイトのDNAメチル化率がいずれも診断閾値を超えた場合に、被験者がMCIを有すると判定することができる。あるいは、調べたCpGサイトのうちの一定割合以上でDNAメチル化率が診断閾値を超えた場合に、被験者がMCIを有すると判定することができる。あるいは、一定数以上のCpGサイトのDNAメチル化率が診断閾値を超えた場合に、被験者がMCIを有すると判定することができる。一方、これらの基準を満たさなかった被験者は、MCIを有さないと判定され得る。
【0051】
第三の実施形態においては、前記検出は、MCI患者から採取された生体試料について測定された標的CpGサイトのDNAメチル化率と、健常者及び/又はAD患者から採取された生体試料由来の標的CpGサイトのDNAメチル化率の測定値を利用して、MCI患者を見出す判別式(予測モデル)を構築し、該判別式を利用することにより行われる。判別式は、例えば、後述する実施例に示すとおり、標的CpGサイトのDNAメチル化率の実測値をもとにして、ロジスティック回帰モデルを計算することで構築される。
そして、被験者から採取された生体試料について標的CpGサイトのDNAメチル化率を同様に測定し、得られたDNAメチル化率の値を判別式に代入してスコア化し、該スコアをカットオフ値(参照値)と比較することによって、被検者におけるMCIの有無を評価できる。
前記第三の実施形態においては、被験者由来の生体試料について、該判別式により算出される値がカットオフ値以上である場合、診断閾値を超えたと判断され、該被験者はMCIを有すると判定される。一方、値が該カットオフ値未満であれば、該被験者はMCIを有さないと判定される。
【0052】
カットオフ値(参照値)の決定方法は特に制限されず、公知の手法に従って決定することができる。例えば、判別式を使用して作成されたROC(Receiver Operating Characteristic Curve)曲線より求めることができる。ROC曲線では、縦軸に陽性患者において陽性の結果がでる確率(感度)と、横軸に陰性患者において陰性の結果がでる確率(特異度)を1から減算した値(偽陽性率)がプロットされる。ROC曲線に示される「真陽性(感度)」及び「偽陽性(1-特異度)」に関し、「真陽性(感度)」-「偽陽性(1-特異度)」が最大となる値(Youden index)をカットオフ値(参照値)とすることができる。
【0053】
後述する実施例では、表2に示す標的CpGサイトについて、下記式(2)のMCIを検出するための判別式(予測モデル)が構築された。
【0054】
【数2】
【0055】
式(2)中、αはインターセプト(切片)を、β~βは各標的CpGサイトの係数を、x~xは各標的CpGサイトのDNAメチル化率を、kは標的CpGサイト数を示す。式(2)では、インターセプト(α)に、それぞれの標的CpGサイトについて係数(β~β)とDNAメチル化率(x~x)をかけたものを足し合わせ、MCIスコア(linear predictor)を算出する。ここで、DNAメチル化率の値としては、完全メチル化を1、完全非メチル化を0とした割合が挙げられ、いわゆるβ値であってもよい。表2に示す標的CpGサイト(1)~(20)の20個のCpGサイトを利用する場合の判別式におけるαは-533.1722であり、係数を表4に示す。また、標的CpGサイト(1)~(34)の34個のCpGサイトを利用する場合の判別式におけるαは-585.9345であり、係数を表5に示す。
式(2)で算出されるMCIスコアは、被験者がMCIを有するか否かを評価するための指標で、カットオフ値は0であり、算出したMCIスコアの値が0以上であれば、被験者はMCIを有すると判定され、一方、算出した値が負の値であれば、被験者はMCIを有さないと判定される。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
このように、本発明によれば、被験者におけるMCIの有無を判定することができる。本発明の方法によりMCI患者を早期に発見することができれば、早期介入を行うことで、認知機能の改善、認知症発症の回避や遅延、QOLの改善等に貢献することができる。
したがって、本発明はまた、前記本発明の方法によりMCIを有すると判定された被験者に早期介入することに関する。この本発明の態様は、MCIを有する被験者における認知機能の改善、認知症の予防、早期診断、又は早期治療を可能にする。
さらに本発明は、前記本発明の方法によりMCIを有すると判定された被験者を治療することを含む、MCIの治療方法を提供する。この本発明の態様は、MCIを有する被験者に対してより早期に適切な治療を施すことを可能にする。治療の手段としては、運動療法、食事療法、認知機能トレーニング、化学療法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0059】
さらに本発明は、MCIの検出のためのプライマー又はプローブを提供する。該プライマー又はプローブは、少なくとも10塩基の鎖長を有し、かつバイサルファイト処理された後の標的CpGサイトを含むDNA領域、該標的CpGサイトの上流のDNA領域、又は該標的CpGサイトの下流のDNA領域にハイブリダイズする。
【0060】
本発明のプライマー又はプローブの一例は、表3に示すいずれかのDNA領域(例えば、配列番号1~34のいずれかのヌクレオチド配列又はその相補配列からなるDNA領域)若しくは配列番号35若しくは36のヌクレオチド配列若しくはその相補配列からなるDNA領域に含まれる標的CpGサイトを含むDNA領域、該標的CpGサイトの上流のDNA領域、又は該標的CpGサイトの下流のDNA領域にハイブリダイズするプライマー又はプローブである。
【0061】
本発明のプライマー又はプローブの好ましい一例は、配列番号1~36のいずれかのヌクレオチド配列又はその相補配列からなるプライマー又はプローブである。本発明のプライマー又はプローブの別の好ましい一例は、配列番号1~36のいずれかのヌクレオチド配列又はその相補配列と95%以上の同一性を有し、かつ当該配列がハイブリダイズするCpGサイトと同じCpGサイトにハイブリダイズするプライマー又はプローブである。また、これらのプライマー又はプローブがハイブリダイズするCpGサイトと同じCpGサイトにハイブリダイズする該プライマー又はプローブの断片も、本発明のプライマー又はプローブとして使用することができる。
【0062】
本発明のプライマー又はプローブの別の好ましい一例は、バイサルファイト処理された前記標的CpGサイトを含むDNA断片(例えば、配列番号1~36のいずれかのヌクレオチド配列を含む断片又はその相補鎖)にハイブリダイズし、かつその3’末端にメチル化シトシン又は非メチル化シトシンに相補的な塩基を有するように構築されたプローブである(例えば前述したマイクロアレイ法に用いることができるプローブ)。本発明のプライマー又はプローブの別の好ましい一例は、バイサルファイト処理された前記標的CpGサイトを含むDNA断片(例えば、配列番号1~36のいずれかのヌクレオチド配列を含む断片又はその相補鎖)にハイブリダイズし、かつその3’末端に前記標記CpGサイトのグアニンに相補的な塩基を有するように構築されたプローブである(例えば前述したマイクロアレイ法に用いることができるプローブ)。
【0063】
本発明のプライマー又はプローブの別の好ましい一例は、バイサルファイト処理された前記標的CpGサイトの塩基の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行うことができるプライマー(シークエンシングプライマー)である(例えば前述したパイロシークエンス法に用いることができるプライマー)。
【0064】
本発明のプライマー又はプローブの別の好ましい一例は、バイサルファイト処理された前記標的CpGサイトを含むDNA断片(例えば、配列番号1~36のいずれかのヌクレオチド配列を含む断片又はその相補鎖)における、メチル化された又はメチル化されていない該標的CpGサイトを含む領域を特異的に増幅可能なプライマーセットである(例えば前述したMSP法、定量的MSP法又はCOBRA法におけるPCR増幅に用いることができるプライマーセット)。
【0065】
本発明のプライマー又はプローブの別の好ましい一例は、バイサルファイト処理された前記標的CpGサイトを含むDNA断片(例えば、配列番号1~36のいずれかのヌクレオチド配列を含む断片又はその相補鎖)に該CpGサイトがメチル化されている場合又はメチル化されていない場合に特異的にハイブリダイズし、かつレポーター蛍光色素及びクエンチャーが標識されたプローブである(例えば前述した定量的MSP法に用いることができるプローブ)。
【0066】
本発明のプライマー又はプローブの鎖長は、少なくとも10塩基であればよいが、好ましくは少なくとも15塩基、より好ましくは少なくとも20塩基、さらに好ましくは15~200塩基である。プローブの場合、好ましい鎖長は100~200塩基、より好ましくは100~150塩基である。PCRプライマーの場合、好ましい鎖長は10~60塩基、より好ましくは15~40塩基である。また、本発明のプライマー又はプローブは、標識(例えば蛍光標識)されていてもよい。また、本発明のプライマー又はプローブは、好ましくは、マイクロアレイ法、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、MSP法、定量的MSP法、及びCOBRA法のいずれかに用いることができるプライマー又はプローブであり、より好ましくは、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、又は定量的MSP法に用いることができるプライマー又はプローブである。
【0067】
さらに、本発明は、前記本発明のプライマー又はプローブを含む、MCIの検出のためのキットを提供する。好ましくは、本発明のキットは、マイクロアレイ法、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、MSP法、定量的MSP法、及びCOBRA法のいずれかによる、より好ましくは、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、又は定量的MSP法による、MCIの検出のために用いられる。
【0068】
本発明のキットは、前記本発明のプライマー又はプローブ以外の成分を含むことができる。このような成分の例としては、バイサルファイト処理に必要な試薬(例えば、亜硫酸水素ナトリウム溶液等)、PCR反応に必要な試薬(例えば、デオキシリボヌクレオチドや耐熱性DNAポリメラーゼ等)、Infinium Assayに必要な試薬(例えば、蛍光物質にて標識されたヌクレオチド)、パイロシークエンス法に必要な試薬(例えば、ピロリン酸の検出のためのATPスルフリラーゼ、アデノシン-5’-ホスホ硫酸、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、一本鎖DNAを分離するためのストレプトアビジン等)、標識の検出に必要な試薬(例えば、基質や酵素、陽性対照や陰性対照サンプル)、COBRA法に必要な試薬(例えば、制限酵素等)、試料(組織由来のゲノムDNA等)の希釈や洗浄に用いる緩衝液等等が挙げられるが、これらに限定されない。また、該キットには、その使用説明書を含めることができる。
【実施例0069】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
実施例1 MCIを検出可能なDNAメチル化マーカーの同定
(1)サンプル
順天堂大学DNAバンクに保存された健常者(HC)群24検体、軽度認知障害患者(MCI)群8検体、及びアルツハイマー病患者(AD)群14検体の全血サンプルを用いた。各検体の詳細を表6に示す。認知機能検査の1種であるMini-Mental State Examination(MMSE)のスコアは、MCI群で20≦MMSE≦23であり、AD群でMMSE≦19であった。HC群、MCI群、及びAD群は、男女比率及び年齢分布がほぼ等しくなるようにした。なお、若年性AD病及び強い家族性AD病の患者は除外した。
各全血サンプルより、QIAamp DNA Blood Maxi kit(QIAGEN社製)を用い、キット添付のプロトコールに従ってゲノムDNAを調製した。
【0071】
【表6】
【0072】
(2)CpGサイトのDNAメチル化率の測定
得られたゲノムDNAを亜硫酸ナトリウムで16時間処理後、スルホン化した。バイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型として、PCR増幅した。これにより、メチル化されていないシトシン(C)はウラシル(U)に変換され、PCR増幅を介してTと認識される。この工程はEZ Methylation Gold kit(Zymo社製、Cat#D5001/D5002)を用いて行い、プロトコールに記載されているAppendixに従いIllumina Infinium(登録商標) Methylation Assay用の条件で処理を行った。
DNAメチル化測定用ビーズアレイ(Infinium(登録商標) MethylationEPIC BeadChip、Illumina社製)を用い、約85万箇所のCpGサイトにおけるDNAメチル化率を測定した。具体的には、PCR増幅したDNA断片を、上記アレイ上のプローブとハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたDNAに対し、1塩基伸長反応により蛍光標識した塩基を取り込ませ、各CpGサイトのメチル化又は非メチル化に応じた蛍光標識を行った。その後、iScan Reader(Illumina社製)を用いて蛍光シグナルを測定し、得られたデータを、R bioconductor package ChAMP(https://bioconductor.org/packages/release/bioc/html/ChAMP.html)を用いて解析した。各CpGサイトについて、メチル化検出用プローブ及び非メチル化検出用プローブからのシグナルの合計に対する、メチル化検出用プローブからの蛍光シグナルの相対比を算出した。各CpGサイトのDNAメチル化率は、いわゆるβ値として算出される。β値は、0(完全に非メチル化)~1(完全にメチル化)で表される。ChAMPを用いて正規化を行ったβ値を以下の試験に用いた。
【0073】
(3)群間でDNAメチル化率の異なるCpGサイトの抽出
(2)で得られた各CpGサイトのDNAメチル率のデータについて、ロジスティック回帰解析を行い、p<0.05を有意として、(i)HC群-MCI群、及び(ii)MCI群-AD群の間でDNAメチル化率が有意に異なるCpGサイトを抽出した。その結果、(i)及び(ii)の比較のそれぞれでHC群及びAD群に比較してMCI群で有意にDNAメチル化率が高いCpGサイトが2219個見出された。
【0074】
(4)血液細胞比率のDNAメチル化への影響の確認
(3)で得られた2219CpGサイトについて、DNAメチル化率への血液細胞比率の影響を確認した。具体的には、血液細胞種間のメチル化の比較をEWAS Atlas(https://bigd.big.ac.cn/ewas)のデータベースに格納された25血液細胞種のDNAメチル化アレイHumanMethylation 450K(MethylationEPICと同様のプラットフォームで約半数の共通CpGプローブを持つ)のDNAメチル化データを使って行った。25細胞種の各CpGサイトのDNAメチル化率平均値との比較を行ったところ、比較可能であった1410CpGサイトは、多くの細胞種で全血の場合と同様のパターンを示したが、唯一naive CD4+T細胞は613CpGサイトで高メチル化であった(naive CD4+T細胞で50%以上、WBCで20%以下)。797CpGサイトはnaive CD4+T細胞と全血の間に差異がなかった。
【0075】
(5)CpGサイトの選抜
(3)で得られた2219CpGサイトのうち、DNAメチル化率の群平均の差分が5%以上(β値において0.05以上)である34CpGサイトを見出した(表7)。これらのCpGサイトが位置する領域は、GREB1、RUNX1、SFF4、KDM5B等の一群の転写因子と関連性が高い領域であった。また、34CpGサイトのうち、4CpGサイトのみがnaive CD4+T細胞特異的な高メチル化を示すCpGサイトだった(表7中のCD4Naive)。一方、14CpGサイトは、naive CD4+T細胞と全血の間でメチル化に差異がなかった(表7中のOthers)。このことから、34CpGサイトの選抜は、Naive CD4+T細胞特異的なメチル化に基づくものでない可能性が高いことが示唆された。
【0076】
【表7】
【0077】
実施例2 MCI検出用判別式の構築
実施例1の(5)で得た34CpGサイトより20個又は34個のCpGサイトを選択し、各CpGサイトのDNAメチル化率の実測データ(完全メチル化を1、完全非メチル化を0とした割合)をもとにして、ロジスティック回帰モデルを計算し、下記式(2)のMCIを検出するための判別式(予測モデル)を構築した。
【0078】
【数3】
【0079】
式(2)中、αはインターセプト(切片)を、β~βは各標的CpGサイトの係数を、x~xは各標的CpGサイトのDNAメチル化率を、kは標的CpGサイト数を示す。式(2)では、インターセプト(α)に、それぞれのCpGサイトについて係数(β~β)とDNAメチル化率(x~x)をかけたものを足し合わせ、MCIスコア(linear predictor)を算出する。表7に示す標的CpGサイト(1)~(20)の20個のCpGサイトを利用する場合の判別式におけるαは-533.1722であり、係数を表8に示す。また、標的CpGサイト(1)~(34)の34個のCpGサイトを利用する場合の判別式におけるαは-585.9345であり、係数を表9に示す。MCIスコアのカットオフ値は0であり、算出したMCIスコアの値が0以上であれば、被験者はMCIを有すると判定され、一方、算出した値が負の数であれば、被験者はMCIを有さないと判定される。
【0080】
【表8】
【0081】
【表9】
【0082】
標的CpGサイト(1)~(20)の20個のCpGサイトを利用する判別式を用いた場合の各群のMCIスコアを図1に示す。ウィルコクソンの順位和検定を行ったところ、HC群vsMCI群でp-value=1.901e-07、AD群vsMCI群で、p-value=6.254e-06であった。また、標的CpGサイト(1)~(34)の34個のCpGサイトを利用する判別式を用いた場合の各群のMCIスコアを図2に示す。ウィルコクソンの順位和検定を行ったところ、HC群vsMCI群でp-value=1.901e-07、AD群vsMCI群で、p-value=6.254e-06であった。複数のCpGサイトのDNAメチル化率を用いたかかる判別式により、被験者がMCIを有しているか否かを精度よく検出することができる。
図1
図2
【配列表】
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