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  • 特開-樹脂製ヘルメット 図1
  • 特開-樹脂製ヘルメット 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089585
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】樹脂製ヘルメット
(51)【国際特許分類】
   A42B 3/06 20060101AFI20220609BHJP
   A42C 1/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
A42B3/06
A42C1/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202099
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】立見 彰弘
【テーマコード(参考)】
3B107
【Fターム(参考)】
3B107AA01
3B107BA01
3B107CA02
3B107DA01
(57)【要約】
【課題】イソソルビド系の樹脂を構成成分として含む場合であっても、機械的特性が良好で、低温でも耐衝撃性が良好な樹脂製ヘルメットを提供すること。
【解決手段】イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を構成成分として含有する樹脂組成物の成形体である樹脂製ヘルメットであって、前記樹脂組成物のISO 179-1に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さが100kJ/m以上である、樹脂製ヘルメット。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を構成成分として含有する樹脂組成物の成形体である樹脂製ヘルメットであって、前記樹脂組成物のISO 179-1に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さが100kJ/m以上である、樹脂製ヘルメット。
【請求項2】
前記イソソルビド基を有する繰返し単位が、イソソルビドのカーボネート誘導体の単位である、請求項1記載の樹脂製ヘルメット。
【請求項3】
前記樹脂が、前記のイソソルビド基を有する繰返し単位であるイソソルビドのカーボネート誘導体の単位と、他のモノマー成分のカーボネート誘導体に由来する繰返し単位とを含むポリカーボネート系樹脂である、請求項1又は2に記載の樹脂製ヘルメット。
【請求項4】
前記のイソソルビド基を有する繰返し単位に含まれるイソソルビド基が、生物由来である、請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂製ヘルメット。
【請求項5】
前記樹脂のメルトフローレート(MFR)が、230℃、21.2Nにおいて、5g/10min以下である、請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂製ヘルメット。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の樹脂製ヘルメットの製造方法において、
前記樹脂製ヘルメットの帽体を、前記樹脂組成物を用いて射出成形により成形する工程を含む、樹脂製ヘルメットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ヘルメットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より一般に使用されている産業用ヘルメットは、帽体、ヘッドバンド、あごひも等の構成部品を有しており、特に帽体には、耐熱性、機械的強度、耐衝撃性等の、頭部を保護するヘルメットの帽体の材料として良好な特性を有する合成樹脂が用いられている。このような合成樹脂としては、一般にポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等の合成樹脂材料が使用されている。
【0003】
ところで、近年、自然環境保護の見地から、樹脂製の成形品に対して、生分解可能な樹脂材料や生物由来の材料を用いて合成された樹脂材料等の環境対応型の樹脂材料を用いて成形品を製造することが求められるようになっている。この点は、ヘルメットの帽体のような安全が優先されるものについても同様である。
【0004】
このような生分解可能な樹脂材料を用いたヘルメットは、特許文献1に開示されている。また、生物由来の材料を用いて合成された樹脂材料を用いた成形品としては、例えば、イソソルビドのカーボネート誘導体に由来する構造単位を有する脂肪族ホモポリカーボネート樹脂からなる光学用フィルムが特許文献2において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3653184号公報
【特許文献2】特許第5346449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によると、ヘルメットの帽体の成形材料として用いられている樹脂材料、例えば、一般的な芳香族系のポリカーボネート樹脂を用いた場合でも、表面硬度等の機械的強度や耐衝撃性に関して改善の余地があることが判明した。また、特許文献1に記載のようなポリ乳酸系の生分解性樹脂は、機械的強度や耐衝撃性等の特性が必ずしも十分ではなく、改善の余地がある。さらに、特許文献2には、成形品としてフィルムは開示されているものの、ヘルメットの帽体のような耐熱性、機械的強度、耐衝撃性が要求される用途は記載されていない。加えて、本発明者の検討によると、イソソルビド系の樹脂を用いたものであっても、低温での耐衝撃性が低い場合があることが判明した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、イソソルビド系の樹脂を構成成分として含む場合であっても、機械的特性が良好で、低温でも耐衝撃性が良好な樹脂製ヘルメットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の課題解決のために鋭意検討を行った。その結果、イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を構成成分として含有する樹脂組成物のうち、その成形体のISO 179-1に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さが所定範囲のものを用いることで、前述の課題を解決できることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1)イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を構成成分として含有する樹脂組成物の成形体である樹脂製ヘルメットであって、前記樹脂組成物のISO 179-1に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さが100kJ/m以上である、樹脂製ヘルメット。
(2)前記イソソルビド基を有する繰返し単位が、イソソルビドのカーボネート誘導体の単位である、前項(1)記載の樹脂製ヘルメット。
(3)前記樹脂が、前記のイソソルビド基を有する繰返し単位であるイソソルビドのカーボネート誘導体の単位と、他のモノマー成分のカーボネート誘導体に由来する繰返し単位とを含むポリカーボネート系樹脂である、前項(1)又は(2)記載の樹脂製ヘルメット。
(4)前記のイソソルビド基を有する繰返し単位に含まれるイソソルビド基が、生物由来である、前項(1)~(3)の何れかに記載の樹脂製ヘルメット。
(5)前記樹脂のメルトフローレート(MFR)は、230℃、21.2Nにおいて、5g/10min以下である、前項(1)~(4)の何れかに記載の樹脂製ヘルメット。
(6)前項(1)~(5)の何れかに記載の樹脂製ヘルメットの製造方法において、前記樹脂製ヘルメットの帽体を、前記樹脂組成物を用いて射出成形により成形する工程を含む、樹脂製ヘルメットの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イソソルビド系の樹脂を構成成分として含む場合であっても、機械的特性が良好で、低温でも耐衝撃性が良好な樹脂製ヘルメットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る樹脂製ヘルメットの帽体部分を模式的に示した斜視図である。
図2図1におけるI-I断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る樹脂製ヘルメットは、イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を構成成分として含有する樹脂組成物の成形体である。そして、前記樹脂組成物のノッチ付きシャルピー衝撃強さは100kJ/m以上である。好ましくは110kJ/m以上、より好ましくは120kJ/m以上である。ノッチ付きシャルピー衝撃強さはISO 179-1に準拠して測定されたものであり、例えば、後述する実施例の欄に記載のようにして測定することができる。
【0013】
このように、成形体のノッチ付きシャルピー衝撃強さが所定値以上となるような、特定の樹脂を構成成分として含有する樹脂組成物を用いることで、例えば従来の一般的な芳香族系のポリカーボネート樹脂製や従来の一般的なポリ乳酸系の生分解性樹脂製ヘルメットより機械的強度や耐衝撃性を向上させることが可能になる。また、成形体のノッチ付きシャルピー衝撃強さが所定値に満たないある種のイソソルビド系の樹脂を構成成分として含む樹脂組成物製のヘルメットより、低温での耐衝撃性を向上させることが可能になる。
【0014】
樹脂組成物に構成成分として含まれる樹脂は、イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を含有する。イソソルビド基は、イソソルビドを重合させた際に生成する化学結合の構造以外のイソソルビドの部分構造を有する基であり、イソソルビド残基、或いは、イソソルビド骨格を有する基とも称し得る。イソソルビド基は、例えば下記式(1)に示す構造を有する。下記式(1)中、*は結合手を表す。
【0015】
【化1】
【0016】
イソソルビド基を有する繰返し単位は、繰り返し単位中に、イソソルビド基を含めばよく、例えば、式(1)で示されるイソソルビドに由来するイソソルビド基のみを有してもよいし、イソソルビド基と、イソソルビドと重合可能な他の化合物に由来する基とを有してもよい。
【0017】
イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂としては、例えば、イソソルビドと、イソソルビドと結合可能な化合物(以下、「化合物A」と称する場合がある。)と、該化合物Aと結合可能な成分(イソソルビドを除く)と、の重合反応物が挙げられ、イソソルビドと化合物Aとの反応により形成される構成単位が、イソソルビド基を有する繰返し単位となる。
【0018】
イソソルビドは、一般に、生物由来の種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるため、石油等の化石燃料由来の成分の使用を抑制可能である。そのため、環境対応型の樹脂を用いた樹脂製ヘルメットを提供することが可能である。生物由来のイソソルビドを用いても、当該イソソルビドに由来するイソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂は、生分解性ではないため、機械的特性や耐衝撃性が経時劣化しにくく、実使用において安全性と環境対応性との両立が可能である。
【0019】
イソソルビドと結合可能な化合物(化合物A)としては、例えば、炭酸ジエステル、ビスフェノール系化合物等が挙げられる。このうち、機械的強度、耐衝撃性の観点から、炭酸ジエステルが好ましい。炭酸ジエステルとイソソルビドとを反応させることにより、イソソルビドの水酸基にカーボネート基が導入された下記式(2)に示される繰返し位が形成される。換言すると、イソソルビド基を有する繰返し単位は、式(2)で示されるイソソルビドのカーボネート誘導体の単位であるのが好ましい。
【0020】
【化2】
【0021】
イソソルビドには、立体異性体として、イソマンニド、イソイデットが存在するが、これらは、イソソルビド以外のジヒドロキシ化合物に含まれるものとする。
【0022】
炭酸ジエステルは、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートに代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ-t-ブチルカーボネート等が挙げられる。このうち、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0023】
イソソルビド以外の前記化合物Aと結合可能な成分としては、例えば、イソソルビド以外のジヒドロキシ化合物、カルボニルハライド等のモノマー成分等が挙げられる。このうち、機械的強度、耐衝撃性の観点から、イソソルビド以外のジヒドロキシ化合物(モノマー成分)が好ましい。このようなジヒドロキシ化合物は、例えば、脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物及び環状エーテル構造を有するジオール類が挙げられる。このようなジヒドロキシ化合物は、前述の炭酸ジエステル等の化合物Aと反応し、そのカーボネート誘導体に由来する構成単位を形成する。
【0024】
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、耐熱性の観点からは、5員環構造又は6員環構造を含む化合物であるのが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は、好ましくは70以下であり、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素原子数が大きくなるほど、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価だったりする。炭素原子数が小さくなるほど、精製しやすく、入手しやすくなる。
【0025】
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
HOCH-R-CHOH
HO-R-OH
(式中、R、Rは、炭素数4~20のシクロアルキル基又は炭素数6~20のシクロアルコキシル基を示す。)
【0026】
このような脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、以下のものを例示できる。
1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-メチル-1,4-シクロヘキサンジオール、2,6-デカリンジオール、1,5-デカリンジオール、2,3-デカリンジオール、2,3-ノルボルナンジオール、2,5-ノルボルナンジオール、1,3-アダマンタンジオール等。
【0027】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0028】
オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0029】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-2,5-ジエトキシジフェニルエーテル、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ-2-メチル)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0030】
環状エーテル構造を有するジオール類としては、例えば、下記式で示されるスピログリコール、ジオキサングルコール等が挙げられる。
【0031】
【化3】
【0032】
以上のようなイソソルビド以外のジヒドロキシ化合物(モノマー成分)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
樹脂組成物に構成成分として含まれる樹脂としては、イソソルビドのカーボネート誘導体の単位と、イソソルビド以外のジヒドロキシ化合物(モノマー成分)のカーボネート誘導体に由来する構成単位とを含むポリカーボネート系樹脂であるのがより好ましい。このような樹脂は、例えば、特許第6188675号公報に記載のものを用いることができる。
【0034】
樹脂組成物に含まれる樹脂には、前述の樹脂以外に他の樹脂が含まれていてもよい。このような他の樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド等の縮重合タイプの合成樹脂、ポリエチレン、ポリプロピエレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等の付加重合タイプの合成樹脂、アモルファスポリオレフィン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)等の合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート等の生分解性樹脂、ゴム等が挙げられる。これらの他の樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
樹脂組成物に含まれる樹脂のメルトフローレート(MFR)は、射出成形性、機械的強度、耐衝撃性の観点から、230℃、21.2Nにおいて、5g/10min以下であるのが好ましい。また、射出成形性の観点からは、同条件において、3g/10min以上であるのが好ましい。MFRの測定は、例えば後述する実施例の欄に記載のようにISO1133に準拠した方法で行うことができる。
【0036】
樹脂組成物に含まれる樹脂が、前述のポリカーボネート系樹脂を含み、樹脂組成物に色素が含まれる場合は、色素の発色性が良好であるのが好ましい。ポリカーボネート系樹脂は透明であるため、直射日光から頭部を守るための遮光性及び識別性等の観点からは、通常隠蔽力等を有する色素材により着色するのが好ましい。色素の発色性が良好であることで、色再現性が確保され、所望の色による鮮明な着色が可能になり、着用者の位置確認に有効である。発色性は、例えば、後述する方法により評価することができる。
【0037】
樹脂組成物に含まれる樹脂は、表面の傷付きを抑制する観点から、成形体とした場合の表面硬度が良好なものが好ましい。特に、樹脂が前述のポリカーボネート系樹脂の場合は、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂より表面硬度が良好となるものが好ましい。
【0038】
以上のような樹脂の特性は、樹脂の分子量、繰返し単位の種類等に応じて適宜調整することができる。
【0039】
適用可能な樹脂は、市販のものを用いることができる。例えば、三菱ケミカル株式会社製、DURABIO(登録商標) DT5120R(式(2)のイソソルビドのカーボネート誘導体の単位を含むポリカーボネート系樹脂、ISO179-1に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さ:122kJ/m)、DT5140R(式(2)のイソソルビドのカーボネート誘導体の単位を含むポリカーボネート系樹脂、ISO179-1に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さ:127kJ/m)が挙げられる。
【0040】
樹脂組成物には、前述の樹脂以外に他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、着色防止剤(重合反応時の着色防止)、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、光安定剤、色素材、帯電防止剤、抗菌剤等が挙げられる。これらのうち、着色防止剤(重合反応時の着色防止)、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、光安定剤は、特許第6188675号公報に記載のものを用いることができる。色素材は、顔料、染料等が挙げられるが、隠蔽性が良好なものを用いるのが好ましい。
【0041】
樹脂製ヘルメットの構造は、従来公知の構造を採用することができる。例えば、帽体、装着体及びあごひもを備える。帽体は、着用者の頭部を覆い、ヘルメットの外形を形づくるものであり、帽体には、一体的又は取り外し可能にひさしが設けられていてもよい。ひさしは、着用者の目の上方にあるヘルメットの突き出した部分であり、バイザー等と称する場合もある。或いは、帽体の下端全周に亘って、帽体と一体となって張り出しているつばが設けられていてもよい。装着体は、ヘルメットの内部に装着してヘルメットを頭部に保持し、ヘルメットに衝撃が加わった時に、着用者の頭部に伝わる衝撃を吸収、緩和するための組立部材であり、例えば、ヘッドバンド、ハンモックを有する。必要に応じて、着用者の頭部に伝わる衝撃をより吸収するため、帽体の内部に防護パッド(衝撃吸収ライナーを含む)が設けられていてもよい。防護パッドは、装着体と帽体の間に設けられ、一般に発泡体で形成される。
【0042】
図1は、実施形態に係る樹脂製ヘルメットの帽体1を模式的に示した斜視図であり、図2は、図1中のI-I断面を模式的に示した断面図である。図1、2に示す帽体1は、前述の樹脂組成物の成形体、好ましくは射出成形による成形体(射出成形体)である。帽体1は、一体的又は取り外し可能にひさし2が設けられている。また、図2に示すように、帽体1の下端開口部分近傍の内側周縁部には、装着体であるヘッドバンドを固定するための取付部材3が設けられている。帽体1は、曲面状の外表面6に沿って後頭部から前頭部にかけて線状に連続して延びる突起部4、突起部4の両側に平行に設けられ、突起部4より高さの低い段部5が設けられている。帽体1に、装着体とあごひもを設け、必要に応じて防護パッドを設けることで、樹脂製ヘルメット、特に、産業用樹脂製ヘルメットとなる。
【0043】
樹脂製ヘルメットは、従来公知の方法で製造することができる。例えば、射出成形により成形する場合は、所望の構造の帽体のキャビティを有する金型に、射出成形機を用いて前述の樹脂組成物の溶融物を射出し、冷却して成形体を得ることで、帽体が得られる。帽体は、ひさしが一体的に設けられていてもよいし、ひさしは別途射出成形により成形し、別途射出成形したひさしのない帽体の本体部分と連結させてもよい。このようにして得られた帽体に、ヘッドバンドを固定するための取付部材、ヘッドバンド等の装着体、あごひも、必要により保護バッドを設けることで、樹脂製ヘルメット、特に、産業用樹脂製ヘルメットが製造される。前述の樹脂組成物は、樹脂として所定のMFRを有するものを含むことで、射出成形が可能になる。
【0044】
また、樹脂製ヘルメットは、前述の樹脂を用いることで、射出成形による成形体(射出成形体)であっても、従来の樹脂と比較して、機械的強度や常温における耐衝撃性或いは低温での耐衝撃性に優れたものとすることができる。
【実施例0045】
以下、本発明の実施形態についてより詳細に説明する。
【0046】
(評価)
<メルトフローレート(MFR)の測定>
後述する実施例1及び比較例1~3で用いる下記の樹脂を用い、ISO1133に準拠して測定した。各樹脂に応じた測定条件は表1に示す。
・実施例1で用いる樹脂
三菱ケミカル株式会社製、DURABIO(登録商標) DT5140R(以下、DT5140Rと称する。)
式(2)に示すイソソルビトのカーボネート誘導体の単位を含むポリカーボネート系樹脂
・比較例1で用いる樹脂
三菱ケミカル株式会社製、DURABIO(登録商標) D7340R(以下、D7340Rと称する。)
式(2)に示すイソソルビトのカーボネート誘導体の単位を含むポリカーボネート系樹脂
・比較例2で用いる樹脂
住化ポリカーボネート株式会社製、SDポリカ 301-4(以下、SDポリカ 301-4と称する。)
芳香族ポリカーボネート樹脂
・比較例3で用いる樹脂
ユニチカ株式会社製、テラマック(登録商標) TE-1030(以下、TE-1030と称する。)
ポリ乳酸系樹脂
【0047】
【表1】
【0048】
<発色性試験>
実施例1及び比較例1~3のヘルメットの帽体を、温度23℃、相対湿度(RH)50%にて状態調節した後、60w相当LED電球(昼白色、810ルーメン)1灯のもと、実施例1及び比較例1~3の全ヘルメットの帽体の色を目視観察して色見本に対して相対評価した。評価基準は、3:色見本より鮮やかな色(ほぼ再現)、2:色見本よりややくすみ、1:色見本より非常にくすんだ色合い、とした。
【0049】
<表面鉛筆硬度測定>
JIS K5600-5-4に準拠して測定した。
【0050】
<ノッチ付きシャルピー衝撃強さ>
<<試験片の作製>>
ISO179-1に準拠して、試験片を作製した。後述する実施例1及び比較例1~3において使用するヘルメット用金型をISOテストピース金型(スターライト工業株式会社製)に変更し、定法に従って射出成形を行って、射出成形体である試験片を作製した。試験片は、大きさが80mm×10mm×4mmの平板で、中央部にノッチが設けられた形状(ノッチ残部8mm)を有する。
【0051】
<<測定>>
前述の試験片を用い、ISO179-1に準拠して測定した。試験は、常温(25℃)で行った。
【0052】
<衝撃吸収性試験>
JIS T8131の試験手順に準拠し、下記の温度条件で測定した。低温条件では、実施例1及び比較例1~3のヘルメットの帽体をマイナス10℃±2℃に調節した試験炉に4時間静置した後、取り出した直後に22℃±5℃に調節した試験室内で試験に供した。常温条件では、22℃±5℃に調節した試験室に24時間静置した後に試験に供した。高温条件では、50℃±2℃に調節した試験炉に4時間静置した後、取り出した直後に22℃±5℃に調節した試験室内で試験に供した。尚、割れが発生したものは「×」とした。
【0053】
<耐貫通性試験>
JIS T8131に準拠して測定した。衝撃吸収性試験と同様にして、低温条件又は高温条件で実施例1及び比較例1~3のヘルメットの帽体を静置した後、同様に温調した試験室内で試験に供した。評価基準は、飛来物・落下物用人頭模型にしっかりと装着したヘルメットの頭頂部に円すい形ストライカ(質量3kg)を1000mmの高さから自由落下させ、該ストライカが人頭模型に接触しなかったものを「〇」、接触したものを「×」とした。人頭模型とストライカの接触の有無は、電流の導通の有無で判定した。
【0054】
以上の評価結果を表2に示す。
【0055】
(実施例1)
DT5140Rを99重量%、白色顔料(酸化チタン顔料)を1重量%含有する樹脂組成物を用い、射出成形機(360トン、日精樹脂工業株式会社製、FE36S100A型)に設置されたヘルメット用金型(スターライト工業株式会社製ヘルメットの700Mシリーズの帽体用、図1、2参照)に対して、定法に従って射出成形を行って、射出成形体である樹脂製ヘルメットの帽体を得た。得られた帽体を評価に供した。
【0056】
(比較例1)
D7340Rを99重量%、白色顔料(酸化チタン顔料)を1重量%含有する樹脂組成物を用い、射出成形機(360トン、日精樹脂工業株式会社製、FE36S100A型)に設置されたヘルメット用金型(スターライト工業株式会社製ヘルメットの700Mシリーズの帽体用、図1、2参照)に対して、定法に従って射出成形を行って、射出成形体である樹脂製ヘルメットの帽体を得た。得られた帽体を評価に供した。
【0057】
(比較例2)
SDポリカ 301-4を99重量%、白色顔料(酸化チタン顔料)を1重量%含有する樹脂組成物を用い、射出成形機(360トン、日精樹脂工業株式会社製、FE36S100A型)に設置されたヘルメット用金型(スターライト工業株式会社製ヘルメットの700Mシリーズの帽体用、図1、2参照)に対して、定法に従って射出成形を行って、射出成形体である樹脂製ヘルメットの帽体を得た。得られた帽体を評価に供した。
【0058】
(比較例3)
TE-1030を99重量%、白色顔料(酸化チタン顔料)を1重量%含有する樹脂組成物を用い、射出成形機(360トン、日精樹脂工業株式会社製、FE36S100A型)に設置されたヘルメット用金型(スターライト工業株式会社製ヘルメットの700Mシリーズの帽体用、図1、2参照)に対して、定法に従って射出成形を行って、射出成形体である樹脂製ヘルメットの帽体を得た。得られた帽体を評価に供した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが所定範囲となる、イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を構成成分として樹脂組成物に含有させた場合は、比較例2、3のような従来の樹脂を含有させた場合に比べて、機械的特性(表面鉛筆硬度)が良好であり、比較例1のような、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが所定範囲とならない、イソソルビド基を有する繰返し単位を含む樹脂を構成成分として樹脂組成物に含有させた場合に比べて、低温でも耐衝撃性(衝撃吸収性、耐貫通性)が良好であることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1 帽体
2 ひさし
3 取付部材
4 突起部
5 段部
6 外表面
図1
図2