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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089660
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】遺伝子スイッチ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20220609BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C07K14/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202234
(22)【出願日】2020-12-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (刊行物等1)令和1年12月7日に日本農芸化学会関西支部 支部例会(第511回講演会)にて発表した内容(冨永)の写し (刊行物等2)令和1年12月7日ウェブサイト:http://kansai.jsbba.or.jp/presentation/2019%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E6%94%AF%E9%83%A8%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A-presentation/%E9%96%A2%E8%A5%BF%E6%94%AF%E9%83%A8%E4%BE%8B%E4%BC%9A%EF%BC%88%E7%AC%AC511%E5%9B%9E%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A%EF%BC%89.htmlにて公開した日本農芸化学会関西支部 支部例会(第511回講演会)の講演予稿集の該当部分(冨永)の写し (刊行物等3)令和1年12月7日に日本農芸化学会関西支部 支部例会(第511回講演会)にて発表した内容(能崎)の写し (刊行物等4)令和1年12月7日ウェブサイト:http://kansai.jsbba.or.jp/presentation/2019%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E6%94%AF%E9%83%A8%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A-presentation/%E9%96%A2%E8%A5%BF%E6%94%AF%E9%83%A8%E4%BE%8B%E4%BC%9A%EF%BC%88%E7%AC%AC511%E5%9B%9E%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A%EF%BC%89.htmlにて公開した日本農芸化学会関西支部 支部例会(第511回講演会)の講演予稿集の該当部分(能崎)の写し
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】冨永 将大
(72)【発明者】
【氏名】石井 純
(72)【発明者】
【氏名】能崎 健太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 高機能化した遺伝子スイッチ・センサの変異配列を提供すること。
【解決手段】 生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドを含む組成物であって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドを含む組成物であって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、組成物。
【請求項2】
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、P5S、S6P、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、K86T、K86A、K86S、K86G、E143K、F109L、K20R、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記遺伝子スイッチが、核移行シグナルの機能が破壊される変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記核移行シグナルの機能が破壊される変異が、核移行シグナルのフレームシフト変異を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVからRKERSKIへの変異を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、S116Y、W201R、H140N、及びT33Aから選択される1または複数の変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Y40Cの変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、K8Nの変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、R157HおよびE41Gから選択される1または複数の変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
配列番号5で表される塩基配列またはその改変体の13位、16位、349位~351位、349位~351位、256位、257位、427位、325位、59位、209位、および559位から選択される1または複数の塩基が変異されている、核酸分子。
【請求項12】
配列番号5で表される塩基配列またはその改変体において、C13T、T16C、A350G、350位および351位のAAのCGへの変異、349位~351位のCAAのATTへの変異、349位~351位のCAAのGGTへの変異、A257C、256位および257位のAAのGCへの変異、256位および257位のAAのTCへの変異、256位および257位のAAのGGへの変異、G427A、T325C、A59G、A209G、およびA559Gから選択される1または複数の変異を含む、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項13】
配列番号5で表される塩基配列またはその改変体において、A350G、350位および351位のAAのCGへの変異、349位~351位のCAAのATTへの変異、349位~351位のCAAのGGTへの変異、A209G、およびA559Gから選択される1または複数の変異を含む、請求項11または12に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記核酸分子がコードするポリペプチドが、生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドとして機能する、請求項11~13のいずれか一項に記載の核酸分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人工転写因子の変異配列、またそれを利用した遺伝子スイッチに関する。より詳しくは、本開示は、従来の初期型の遺伝子スイッチ・センサの性能を劇的に高めることができる効率的な選択手法よって得られた遺伝子スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、代謝物などの化合物に応答する遺伝子スイッチ・センサ(メタボライトセンサ)が注目を集めており、特に大腸菌などのバクテリアを中心にその開発が進められている。しかし、真核生物である酵母では、バクテリアに比べて転写制御領域が長く、その機能領域が曖昧なため、高性能な遺伝子スイッチ・センサを開発することが困難である。
【0003】
ところで、遺伝子スイッチ・センサの開発においては、変異体において、遺伝子発現がONであるべき条件下で起動状態にあるもの、および/またはOFFであるべき条件下で抑制状態にあるものをその遺伝子発現量に対して選抜(ON選抜/OFF選抜)することが必須であるが、この2つの状態ともに適切な条件で選抜を実施することが重要となる。従来のFluorescence activating-cell sortingでは、選抜条件を変えることはできるものの、一度に一つの条件しか検討することができない。また、薬剤を用いた選抜技術では、選抜条件を変えること自体が困難である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、人工転写因子の変異体を取得し、有用な変異を同定した。本開示は、そのような変異体および/または遺伝子スイッチを提供する。
【0005】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドを含む組成物であって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、組成物。
(項目2A)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、5位、6位、20位、70位、86位、109位、117位、143位、及び187位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目に記載の組成物。
(項目2)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、P5S、S6P、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、K86T、K86A、K86S、K86G、E143K、F109L、K20R、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目に記載の組成物。
(項目2B)(DAPG-ON)反転
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目3)(Camphor-OFF)
前記遺伝子スイッチが、核移行シグナルの機能が破壊される変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目4)(Camphor-OFF)
前記核移行シグナルの機能が破壊される変異が、核移行シグナルのフレームシフト変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5A)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVにおける変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVからRKERSKIへの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6A)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、116位、201位、140位、及び33位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、S116Y、W201R、H140N、及びT33Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7A)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、40位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Y40Cの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8A)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、8位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、K8Nの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9A)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、157位および41位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、R157HおよびE41Gから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)(DAPG-ON)変異箇所
配列番号5で表される塩基配列またはその改変体の13位、16位、349位~351位、349位~351位、256位、257位、427位、325位、59位、209位、および559位から選択される1または複数の塩基が変異されている、核酸分子。
(項目11)(DAPG-ON)具体的な変異
配列番号5で表される塩基配列またはその改変体において、C13T、T16C、A350G、350位および351位のAAのCGへの変異、349位~351位のCAAのATTへの変異、349位~351位のCAAのGGTへの変異、A257C、256位および257位のAAのGCへの変異、256位および257位のAAのTCへの変異、256位および257位のAAのGGへの変異、G427A、T325C、A59G、A209G、およびA559Gから選択される1または複数の変異を含む、上記項目に記載の核酸分子。
(項目12)(DAPG-ON)反転変異
配列番号5で表される塩基配列またはその改変体において、A350G、350位および351位のAAのCGへの変異、349位~351位のCAAのATTへの変異、349位~351位のCAAのGGTへの変異、A209G、およびA559Gから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の核酸分子。
(項目13)
前記核酸分子がコードするポリペプチドが、生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドとして機能する、上記項目のいずれか一項に記載の核酸分子。
(項目A1)
生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のために使用されるポリペプチドであって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、ポリペプチド。
(項目A2A)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、5位、6位、20位、70位、86位、109位、117位、143位、及び187位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目に記載のポリペプチド。
(項目A2)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、P5S、S6P、K20R、E70G、K86T、K86A、K86S、K86G、F109L、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、E143K、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目に記載のポリペプチド。
(項目A2B)(DAPG-ON)反転
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A3)(Camphor-OFF)
前記遺伝子スイッチが、核移行シグナルの機能が破壊される変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A4)(Camphor-OFF)
前記核移行シグナルの機能が破壊される変異が、核移行シグナルのフレームシフト変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A5A)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVにおけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A5)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVからRKERSKIへの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A6A)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、116位、201位、140位、及び33位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A6)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、S116Y、W201R、H140N、及びT33Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A7A)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、40位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A7)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Y40Cの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A8A)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、8位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A8)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、K8Nの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A9A)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、157位および41位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目A9)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、R157HおよびE41Gから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目B1)
生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のための組成物を製造するためのポリペプチドの使用であって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、使用。
(項目B2A)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、5位、6位、20位、70位、86位、109位、117位、143位、及び187位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目に記載の使用。
(項目B2)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、P5S、S6P、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、K86T、K86A、K86S、K86G、E143K、F109L、K20R、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目に記載の使用。
(項目B2B)(DAPG-ON)反転
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B3)(Camphor-OFF)
前記遺伝子スイッチが、核移行シグナルの機能が破壊される変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B4)(Camphor-OFF)
前記核移行シグナルの機能が破壊される変異が、核移行シグナルのフレームシフト変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B5A)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVにおける変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B5)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVからRKERSKIへの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B6A)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、116位、201位、140位、及び33位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B6)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、S116Y、W201R、H140N、及びT33Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B7A)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、40位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B7)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Y40Cの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B8A)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、8位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B8)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、K8Nの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B9A)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、157位および41位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目B9)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、R157HおよびE41Gから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の使用。
(項目C1)
生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドを含む組成物を用いて、生物における目的遺伝子の発現を誘導性制御する方法であって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、方法。
(項目C2A)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、5位、6位、20位、70位、86位、109位、117位、143位、及び187位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目に記載の方法。
(項目C2)(DAPG-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、P5S、S6P、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、K86T、K86A、K86S、K86G、E143K、F109L、K20R、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目に記載の方法。
(項目C2B)(DAPG-ON)反転
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C3)(Camphor-OFF)
前記遺伝子スイッチが、核移行シグナルの機能が破壊される変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C4)(Camphor-OFF)
前記核移行シグナルの機能が破壊される変異が、核移行シグナルのフレームシフト変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C5A)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVにおけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C5)(Camphor-OFF)
核移行シグナルのフレームシフト変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVからRKERSKIへの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C6A)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、116位、201位、140位、及び33位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C6)(HSL-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、S116Y、W201R、H140N、及びT33Aから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C7A)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、40位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C7)(Borneol-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Y40Cの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C8A)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、8位におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C8)(Tet-ON)
前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、K8Nの変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C9A)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、157位および41位から選択される1または複数の位置におけるアミノ酸の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C9)(DAPG-OFF)
前記遺伝子スイッチが、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、R157HおよびE41Gから選択される1または複数の変異を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
【0006】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0007】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、高機能化した遺伝子スイッチ・センサの変異配列を提供することができる。転写因子(タンパク質)上における有用な変異は、酵母だけでなく、バクテリアを含む他の生物種でも同様に機能することが期待されるため、重要な成果物である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態における改良したTet-ON型遺伝子スイッチのS/N比を示す。
図2図2は、本開示の一実施形態において開発した種々の遺伝子スイッチの変異箇所とそのS/N比を示す。
図3図3は、本開示の一実施形態において開発した遺伝子スイッチを用いたFPPからβ-カロテンへのフラックス制御を示す模式図である。
図4図4は、本開示の一実施形態において進化させたDAPG-ONスイッチのrPhlTA発現カセットに見出されたヌクレオチドおよびアミノ酸(AA、括弧内に示す)変異を示す。
図5図5は、本開示の一実施形態において進化させたHSL-ONスイッチのLuxTA発現カセットに見出されたヌクレオチドおよびアミノ酸(AA、括弧内に示す)の変異を示す。
図6図6は、本開示の一実施形態において開発したピキア酵母における遺伝子スイッチの模式図である。
図7図7は、本開示の一実施形態におけるピキア酵母の遺伝子スイッチにおいて、phlOのコピー数の変化と発現量の変化との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0013】
本明細書において、「遺伝子スイッチ」または「遺伝子スイッチ・センサ」とは、交換可能に使用され、転写調節ドメインを含有する因子(例えば、分子、その複合体、またはそれらの融合物等)であって、対象となる遺伝子を構成する核酸に相互作用(例えば、結合)することにより当該分子を活性化し得る物質(活性化物質)が相互作用(例えば、結合)する部位を有するものをいう。このような因子は、誘導物質の相互作用(例えば、結合や解離)により活性が調節され、その機能を変化させることができる。遺伝子スイッチに活性化物質が相互作用(例えば、結合)することにより、遺伝子スイッチの標的配列へのその相互作用(例えば、結合)の程度または状態が変化し、その結果、目的の遺伝子の発現が抑制または誘導される。例えば、本明細書における「遺伝子スイッチ」は、転写活性化ドメインを含有する分子であって、結合することにより当該分子を活性化し得る物質が結合する部位を有し、該物質の結合により標的配列への結合もしくは解離が生じる分子が例示される。
【0014】
本明細書において、「遺伝子スイッチ発現配列」は、遺伝子スイッチがタンパク質またはポリペプチドの場合、その遺伝子スイッチをコードする核酸配列を意味する。
【0015】
本明細書において、「遺伝子スイッチの活性化物質」は、遺伝子スイッチに相互作用(例えば、結合)することにより遺伝子スイッチを活性化させ、またはその機能を変化させ、その結果、直接的または間接的に、1または複数の遺伝子の発現の調節を誘導する物質をいい、例えばそのような化合物を意味する。活性化物質は、遺伝子スイッチごとに異なるものとすることもできる。遺伝子スイッチと活性化物質との組み合わせとしては、例えば、rtetTAとDox、CamTAとD-Camphor、PhlTAとDAPG、LuxTAとHSLなどを挙げることができる。
【0016】
本明細書において、「遺伝子スイッチの標的配列」は、目的のタンパク質をコードする遺伝子の5’上流に位置する核酸配列であって、標的遺伝子の転写を制御する核酸配列をいい、好ましくはプロモータ活性を有し、プロモータ配列や、オペレーター配列とコアプロモータとが融合された人工プロモータであってもよい。好ましくは、エンハンサが、遺伝子スイッチの標的配列に間接的にまたは直接的に作用されることもできる。標的配列への遺伝子スイッチの作用は誘導物質の添加により調節されることができ、それにより標的遺伝子の発現が制御され、標的配列に遺伝子スイッチが作用しないと標的遺伝子は発現しない。例えば、遺伝子スイッチrtetTAは、その活性化物質Doxの添加により、その標的配列tetOプロモータ(tetOを含む人工プロモータ)に作用し、該プロモータの下流に位置する標的遺伝子の転写を促進する。
【0017】
本明細書において、「プロモータ」とは、遺伝子の転写開始を制御し、またその転写の程度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼの結合により転写を開始する核酸配列をいう。プロモータは、使用する宿主細胞の種によって適宜選択して使用されることができる。酵母を宿主として使用する場合、プロモータとして、酵母などの宿主細胞中で発現できるものであれば特に限定されず、いずれを使用してもよい。例えば、プロモータとして、GAL1プロモータ、GAL10プロモータ、ヒートショックタンパク質プロモータ、MFα1プロモータ、PHO5プロモータ、PGKプロモータ、GAPプロモータ、ADHプロモータ、TDHプロモータ、DAS1、およびAOX1プロモータなどを挙げることができる。
【0018】
本明細書において、「転写調節因子」は、プロモータなどの調節DNAエレメントに作用して働くタンパク質をいう。転写調節因子は転写抑制因子(リプレッサ)および転写活性化因子(アクチベータ)に大別される。転写抑制因子は調節DNAエレメントに作用して遺伝子の転写を抑制し、遺伝子の発現量を低減させることができる。転写活性化因子は調節DNAエレメントに作用して遺伝子の転写を促進し、遺伝子の発現量を増加させることができる。本開示の一実施形態において、転写抑制因子および転写活性化因子は公知の各因子を使用することができる。転写調節因子が作用する調節DNAエレメントの下流に配置された遺伝子配列は、転写調節因子の作用によりその発現が抑制または促進される。遺伝子の発現とは、遺伝子の情報がmRNAに転写され、さらに該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列として翻訳される一連の過程を意味する。発現が促進されれば遺伝子によりコードされるタンパク質が産生されてその量が増大し、発現が抑制されれば遺伝子によりコードされるタンパク質は産生されずその量は減少する。
【0019】
本明細書において、「候補転写調節因子」とは、転写調節因子の候補となり得る因子である。
【0020】
本明細書において、「誘導因子」または「誘導剤」とは、転写調節因子と結合することにより、転写調節因子を活性化させ、または不活性化させ、またはその機能を変化させ、その結果、1または複数の遺伝子の直接的または間接的な発現を調節することができる因子をいう。
【0021】
本明細書において、「DNAライブラリー」とは、天然から単離された核酸配列または合成の核酸配列を含む、核酸ライブラリーである。天然から単離された核酸配列の供給源としては、真核生物細胞、原核生物細胞、またはウイルス由来のゲノム配列やcDNA配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。天然から単離された配列に、任意の配列(例えば、シグナル、タグなど)を付加したライブラリーもまた、本開示のDNAライブラリーに含まれる。
【0022】
本明細書において、「宿主細胞」とは、異種(例えば、外因性)核酸またはタンパク質が導入された細胞を指す。宿主細胞には、特定の対象細胞だけでなく、当該細胞の子孫も含むことができる。宿主細胞は原核生物細胞または真核生物細胞を含み、異種の核酸またはタンパク質を受容して産生するために適切な形質を有する任意の細胞である。例えば、原核生物および真核生物の細胞、細菌細胞、マイコバクテリア細胞、真菌細胞、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞、非ヒト動物細胞、ヒト細胞、または、ハイブリドーマもしくはクアドローマなどの細胞融合物が含まれる。
【0023】
本明細書において、「発現ベクター」とは、宿主細胞に外部遺伝子を運搬するベクターDNAであって、宿主細胞中で目的遺伝子を発現させ得るDNAをいう。ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択することができる。ベクターDNAは、天然に存在するDNAを抽出して得られたベクターDNAの他、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているベクターDNAでもよい。代表的なベクターDNAとして、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、およびウイルス由来のベクターDNAを挙げることができる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどを使用することができる。バクテリオファージDNAとしては、λファージなどを挙げることができる。ウイルス由来のベクターDNAとしては、例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルスなどの動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルスなどの昆虫ウイルス由来のベクターを挙げることができる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAなどを挙げることができる。あるいは、これらを組み合わせて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組み合わせて作成したベクターDNA(コスミドやファージミドなど)を挙げることができる。ベクターDNAには、目的遺伝子が発現されるように目的遺伝子を組み込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子と調節DNAエレメント、例えばプロモータとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列を組み合わせて公知の手法によりベクターDNAに組み込むことができる。このような遺伝子配列として、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー(ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子など)を挙げることができる。これらから選択した1種類または複数種類の遺伝子配列をベクターDNAに組み込むことができる。
【0024】
本明細書において、「融合遺伝子」とは、人工的にまたは自然に複数の遺伝子が連結されて生じる新たな遺伝子のことをいい、染色体の転座、挿入、逆位などの組換えの結果生じるものも含まれる。また、融合遺伝子は、融合タンパク質をコードしていることもある。融合遺伝子として機能的なタンパク質を生じさせることができるものであれば、融合遺伝子において連結される遺伝子の数は特に限られるものではない。融合遺伝子における各遺伝子の向きも特に限定されず、すべてがフォワード(本来の転写の向き)、すべてがリバース(本来の転写の向きと逆向き)、及びフォワードとリバースとの組み合わせのいずれであってもよい。また融合遺伝子において、各遺伝子はいずれの位置で連結されていてもよい。本明細書における「融合遺伝子」は、異なる遺伝子が連結しているものだけではなく、同一の遺伝子同士が連結しているものも含まれる。
【0025】
本明細書において、「作動可能に連結」とは、核酸にコードされたポリペプチドが、プロモーターなどのエレメントによる制御下に当該ポリペプチドの生物学的活性を示す状態で発現するようにエレメントに連結されていることを意味する。
【0026】
本明細書において、「ランダムな変異」とは、核酸配列において変異がランダムに入っていること、およびそのような変異を指し、変異の数は1個であってもよいし、2個以上であってもよい。ランダムな変異における変異は、人工的に導入されたものであってもよく、または自然に発生した突然変異でもよい。
【0027】
本明細書において、「マーカー遺伝子」とは、細胞内で翻訳されて、マーカーとして機能し、特定の条件を満たした細胞種の判別を可能にする任意のタンパク質をコードする遺伝子をいう。細胞内で翻訳されてマーカーとして機能しうるタンパク質であれば特に限られるものではなく、例えば、蛍光、発光、または呈色を示すもの、あるいは蛍光、発光、または呈色を補助することなどにより、視覚化し、定量化することができるタンパク質が含まれる。蛍光タンパク質としては、Sirius、EBFPなどの青色蛍光蛋白質;mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFPなどのシアン蛍光タンパク質;TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green(例えば、hmAG1)、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、mUkG(Umikinoko Green)などの緑色蛍光タンパク質;TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBananaなどの黄色蛍光タンパク質;KusabiraOrange (例えば、hmKO2)、mOrangeなどの橙色蛍光タンパク質;TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、などの赤色蛍光タンパク質;TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、HcRed、KeimaRed(例えば、hdKeimaRed)、mRasberry、mPlumなどの近赤外蛍光タンパク質が挙げられるが、これらには限定されない。
【0028】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0029】
一つの局面において、本開示は、生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドを含む組成物であって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、組成物を提供する。このようなポリペプチドまたは組成物は、遺伝子スイッチまたは遺伝子スイッチ分子として機能する。
【0030】
一つの実施形態において、生物は、任意の原核生物または真核生物であり、例えば、動物、植物、菌類、原生生物であり得る。好ましくは真核生物は菌類であり、より好ましくは真核生物は酵母である。本開示において好適な酵母としては、例えば、サッカロミセス属(GenusSaccharomyces)に属する酵母、サッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母、ピキア酵母(Pichia pastoris:Komagataella phaffii、Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris)やメタノール資化性酵母(Ogataea polymorpha、Hansenula polymorpha、Candida boidiniiなど)などが挙げられる。
【0031】
一つの実施形態において、遺伝子スイッチ発現配列は任意の配列であり、例えば、遺伝子スイッチがタンパク質またはポリペプチドの場合、その遺伝子スイッチをコードする核酸配列であり得る。遺伝子スイッチ発現配列は、対象となる遺伝子を構成する核酸に相互作用(例えば、結合)することにより当該分子を活性化し得る物質(活性化物質)が相互作用(例えば、結合)する部位を有する転写活性化ドメインを含有する因子である。一実施形態において、遺伝子スイッチ発現配列は、例えば、CamTA、PhlTA、LuxTA、rtetTAなどの転写調節因子や、そのような転写調節因子を改変した人工転写調節因子を発現する配列を含むことができる。
【0032】
一つの実施形態において、転写調節因子はプロモータなどの調節DNAエレメントに作用して働く任意の因子であり、例えば、調節DNAエレメントに作用して遺伝子の転写を抑制し、遺伝子の発現量を低減させる転写抑制因子(リプレッサ)や、調節DNAエレメントに作用して遺伝子の転写を促進し、遺伝子の発現量を増加させる転写活性化因子が含まれる。一実施形態において、転写調節因子は、CamTA、PhlTA、LuxTA、rtetTAや、そのような転写調節因子を改変した人工転写調節因子を含むことができる。一実施形態において、転写調節因子には、転写活性化ドメイン(VP16、48など)、他の活性化ドメイン配列、転写抑制因子、核移行シグナル(NLS)などを融合することができる。
【0033】
一つの実施形態において、誘導因子は転写調節因子と結合することにより、転写調節因子を活性化させ、または不活性化させ、またはその機能を変化させることができる任意の因子である。一実施形態において、誘導因子は、例えば、DAPG、D-Camphor、HSL、Doxであり得る。
【0034】
一つの実施形態において、転写調節因子と誘導因子が結合した複合体は、複合体の機能として、1または複数の遺伝子の直接的または間接的な発現を調節することができるものであれば、どのような態様で結合したものであってもよい。
【0035】
一実施形態において、オペレーター配列はプロモーター配列の上流または下流に近接して位置することができ、またオペレーター配列は1つでもよく、またはタンデム化して複数個をつなげることもできる。タンデム化する場合には、例えば、約2個、約3個、約5個、約10個、約15個、約20個、約25個、約30個、約35個、約40個、約45個、約50個、約55個、約60個、約65個などのオペレーター配列をつなげて用いることができる。
【0036】
一つの実施形態において、本開示の組成物に含まれるポリペプチド(遺伝子スイッチ)は、例えば、人工転写活性化ドメイン(VP16×3=VP48)や核移行シグナル(NLS)を含む点で共通する構造を含み得る。また他の実施形態において、人工プロモーターは、コアプロモーター(GAL1由来)(ピキア酵母を用いる場合にはAOX1やDAS1のコアプロモーター)を含む点で共通する構造を含み得る。また一実施形態において、本開示の転写因子(人工転写因子)またはその結合配列(人工プロモーター)として、それぞれ対応するバクテリア由来のリプレッサーとオペレーターを含むことができる。
【0037】
一つの実施形態において、本開示の組成物に含まれるポリペプチド(遺伝子スイッチ)は、(DAPG-ON)配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、5位、6位、20位、70位、86位、109位、117位、143位、及び187位から選択される1または複数の変異を含むもの;(HSL-ON)配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、116位、201位、140位、及び33位から選択される1または複数の変異を含むもの;(Borneol-ON)配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、40位の変異を含むもの;(Tet-ON)配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、8位の変異を含むもの;(Camphor-OFF)配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVにおける変異を含むもの;(DAPG-OFF)配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、157位および41位から選択される1または複数の変異を含むものであり得る。
【0038】
あるいは、具体的には、例えば、(DAPG-ON)配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、P5S、S6P、Q117R、Q117P、Q117G、Q117N、K86T、K86A、K86S、K86G、E143K、F109L、K20R、E70G、及びT187Aから選択される1または複数の変異を含むもの;(HSL-ON)配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、S116Y、W201R、H140N、及びT33Aから選択される1または複数の変異を含むもの;(Borneol-ON)配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Y40Cの変異を含むもの;(Tet-ON)配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、K8Nの変異を含むもの;(Camphor-OFF)配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVからPKRKERSKIへの変異を含むもの;(DAPG-OFF)配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、R157HおよびE41Gから選択される1または複数の変異を含むものであり得る。
【0039】
本開示で使用される核酸またはタンパク質は、対象となるアミノ酸または塩基配列において1もしくは複数のアミノ酸またはヌクレオチドが変異された(例えば、置換、欠失および/または付加された)配列またはその改変体を含み得る。ここで、キメラタンパク質全長アミノ酸配列において「1もしくは複数」とは、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。また、ドメインのアミノ酸配列において、「1もしくは複数」とは、通常、6アミノ酸以内であり、好ましくは5アミノ酸以内であり、更に好ましくは4アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。本開示の生物学的活性を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらは本明細書において「保存的置換」ともいい、本開示のポリペプチドにおいて変異を想定する場合は、保存的置換ではない置換が好ましく、変異を想定していないアミノ酸位置では、保存的置換をしてもよいことが理解される。なお、あるアミノ酸配列に対する1または複数個のアミノ酸残基の欠失、付加および/または他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することは公知である(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662-5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487-6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431-1433、Dalbadie-McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409-6413)。したがって、本開示の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。欠失等がなされたタンパク質は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、または抗体ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD-Plus- Mutagenesis Kit (TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型抗体から、野生型と同様の活性のある抗体を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0040】
本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の変異(例えば、挿入、置換および/もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加)」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~9個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、本開示のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。また一実施形態において、改変体とは、例えば配列番号1~5の各アミノ酸配列や核酸配列において、1番目のMetを削除したもの、またはそのN末端やC末端などを削除したものなど、配列の一部分だけのものを含む。
【0041】
また本開示の一実施形態において、本開示のポリペプチドまたは組成物において明示した変異に加え、本開示の機能(遺伝子スイッチなど)に実質的な影響を与えない限り、1または複数の更なる変異をさらに含んでいてもよい。
【0042】
本開示の一実施形態において、遺伝子スイッチは、有用タンパク質の大量生産に応用でき、タンパク質の生産においては、例えば、大腸菌などの宿主細胞に異種生物から得た標的タンパク質を強制発現させる手法が用いられる。宿主細胞にとって毒性を示すタンパク質を生産させる場合、宿主細胞を充分な数まで増殖させて、適切なタイミングで発現を誘導して強制発現させる。したがって、本開示の一実施形態に係る遺伝子スイッチは、非誘導時の基底発現レベルが充分低く(すなわち、漏出発現が小さいこと)、および発現が誘導(ON)されたときに充分な遺伝子発現を行う(すなわち、ON/OFF時の発現レベル比が大きいこと)ものである。
【0043】
また他の実施形態において、本開示の遺伝子スイッチは、誘導因子の濃度が低い場合にも高感度に下流の遺伝子の発現を調節することができるものである。
【0044】
他の実施形態において、遺伝子スイッチは、代謝工学の手段として使用することができる。代謝工学では、複数の酵素遺伝子を1つの宿主細胞の中で同時に発現させ、ある目的物質の生合成経路を構築する。構築した人工の生合成経路において最高の成果、例えば、バイオマスあたりの最終生成物の収量最大化、副産物の最少化などを目指す場合には、個々の遺伝子の発現レベルを詳細に、かつ独立して調節することが必要となる。そのため、本開示の一実施形態において、望みどおりのON/OFF切り替え特性をもち、複数の遺伝子の発現調節をひとつの細胞で同時に行う場合に、1つの遺伝子スイッチの誘導物質が別の遺伝子スイッチを誤作動させることなく、それぞれの遺伝子スイッチによる発現量を連続的に調節することができる遺伝子スイッチを提供することができる。
【0045】
他の実施形態において、本開示の遺伝子スイッチ・センサは、目的の代謝産物をHPLCやGCMSなどの分析手法を用いずに、GFP等で簡便かつ高速な生産量(濃度)測定を行うことができる。本開示の遺伝子スイッチ・センサをメタボライトセンサとして用いる場合には、高感度化させた遺伝子スイッチ・センサを用いて生産量が低い化合物を測定するだけではなく、低感度化させた遺伝子スイッチ・センサを用いて生産量が高くなってきた株の生産量を測定することもでき、本開示の方法によれば、その感度調整を容易に行うことができる。
【0046】
本開示の一実施形態において、酵母だけでなく、大腸菌などの原核生物や他の真核生物を含む宿主において転写因子を使用する際に、本開示において得られた人工転写因子で同定した変異を導入すると、同様の効果を得ることができる。天然型の転写因子に変異を加える場合と、人工転写因子にした場合に変異を加える場合の両方が考えられる。
【0047】
本開示の一実施形態において、様々な遺伝子スイッチ・センサ(テトラサイクリン応答型、ホモセリンラクトン(HSL)応答型、2,4-ジアセチルフロログルシノール(DAPG)応答型、など)の改良型を簡便に作出することができる。また、初期型センサではほとんど応答の見られなかった遺伝子センサについても、応答がきちんと見られるレベルにまで簡便に改良できる。また、逆転型のスイッチも簡単に構築することができる。さらに、オペレーター配列をタンデム化することで、さらなる劇的な応答性能の向上を達成した。
(人工転写因子)
本開示の一局面において、生物における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドを含む組成物であって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、遺伝子スイッチ発現配列と、前記遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子と誘導因子が結合した複合体が結合することによって発現が誘導される目的遺伝子配列とを含む、組成物が提供される。
(DAPG-ON型遺伝子スイッチ)
本開示の一実施形態において、DAPG-ON型遺伝子スイッチを提供することができる。2,4-ジアセチルフロログルシノール(DAPG)応答型の転写因子(PhlF)を用いた人工転写因子(PhlTA)の場合、OFF型のスイッチ(DAPG-OFF)しか知られていないが、本開示の一実施形態において、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PhlFにQ117R、K86T、E143Kの変異を加えることで応答性が逆転したDAPG-ON型の遺伝子スイッチを提供することができる。一実施形態において、このDAPG-ON型の遺伝子スイッチは、Q117R、Q117P、Q117G、またはQ117Nを導入することだけでも応答性は逆転する。一実施形態において、DAPG-ON型の遺伝子スイッチは、さらにK86TとE143Kを加えるとその応答性がより顕著に逆転させることができる。一実施形態において、さらに、これらの変異に加えて、F109L、K86S、K86A、またはK86G変異を加えることで、DAPGに対する感度も向上することができる。また他の実施形態において、感度向上に伴うOFF(DAPG不在時)発現の増加(漏出の増加)が、S5PまたはP6Sの変異によって抑制することができる。また一実施形態において、P5S、S6P、またはD90Gの変異を加えることで、応答性を向上させることもでき、例えばF109L変異などを導入して高感度化する際に、OFF時の漏出発現を抑えることができる。F109については、F109残基のsite-saturation library(NNK)から50バリアントをスクリーニングしても、高感度化変異はF109Lしか見つからないことから、L以外への変異は高感度化させるものではないということができる。
【0048】
また、他の実施形態において、K20R、E70G、および/またはT187Aの変異でも応答性が反転したDAPG-ON型のスイッチを提供することができる。一実施形態において、E70GおよびT187Aのいずれかがないと、応答性の反転を得ることができない。
【0049】
さらに、一実施形態において、オペレーター配列をタンデム化することで、応答性が劇的に向上させることもできる(phlO×6コピーで500倍以上)。
【0050】
本開示の他の局面において、DAPG-ON型の遺伝子スイッチは、配列番号5で表される塩基配列またはその改変体において、C13T、T16C、A350G、350位および351位のAAのCGへの変異、349位~351位のCAAのATTへの変異、349位~351位のCAAのGGTへの変異、A257C、256位および257位のAAのGCへの変異、256位および257位のAAのTCへの変異、256位および257位のAAのGGへの変異、G427A、T325C、A59G、A209G、およびA559Gから選択される1または複数の変異を含む核酸分子がコードするものとして提供することもできる。この場合、前記核酸分子がコードするポリペプチドが、ピキア酵母における目的遺伝子発現の誘導性制御のためのポリペプチドとして機能することもできる。
(DAPG-OFF型遺伝子スイッチ)
本開示の一実施形態において、DAPG-OFF型遺伝子スイッチを提供することができる。本開示の一実施形態において、2,4-ジアセチルフロログルシノール(DAPG)応答型の転写因子(PhlF)を用いた人工転写因子(PhlTA)を用いて、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PhlFにR157HおよびE41Gから選択される1または複数の変異(配列番号5の核酸配列におけるG470A(R157Hに対応)およびA122G(E41Gに対応)の変異)を加えることで、従来のOFF型のスイッチ(DAPG-OFF)よりもS/N比が大きい遺伝子スイッチを提供することができる。
(HSL-ON型遺伝子スイッチ)
本開示の一実施形態において、HSL-ON型遺伝子スイッチを提供することができる。本開示の一実施形態において、ホモセリンラクトン(HSL)応答型の転写因子(LuxR)を用いた人工転写因子(LuxTA)を利用した遺伝子スイッチ(HSL-ON)を提供することができ、LuxRにS116Y変異を加えることで、従来知られていたS116A変異よりも、HSLに対する感度を向上させることができる。また、一実施形態において、S116Yに追加して、W201R、T33A、および/またはH140N変異を加えることで、さらにHSLに対する感度を向上させることができる。したがって、本開示の一実施形態において、前記遺伝子スイッチが、配列番号3で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、S116Y、W201R、H140N、及びT33Aから選択される1または複数の変異を含むことが好ましい。
(Borneol-ON型遺伝子スイッチ)
本開示の一実施形態において、Borneol-ON型遺伝子スイッチを提供することができる。この場合、前記遺伝子スイッチが、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、Y40Cの変異を含むことが好ましい。
(Tet-ON型遺伝子スイッチ)
本開示の一実施形態において、Tet-ON型遺伝子スイッチを提供することができる。本開示の一実施形態において、ドキシサイクリン(Dox)応答型の転写因子(TetR)を用いた人工転写因子(rTetTA)を利用した遺伝子スイッチ(Tet-ON)を提供することができ、R8K変異を加えることで、従来知られていたG72V変異(~500倍)よりも高いS/N比(~600倍)を実現することができる。したがって、本開示の一実施形態において、前記遺伝子スイッチが、配列番号4で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、R8Kの変異を含むことが好ましい。
(Camphor-OFF型遺伝子スイッチ)
本開示の一実施形態において、Camphor-OFF型遺伝子スイッチを提供することができる。本開示の一実施形態において、D-camphor応答型の転写因子(CamR)を用いた人工転写因子(CamTA)を利用した遺伝子スイッチ(Camphor-OFF)を提供することができ、C末端に配置した核移行シグナル(NLS)に対して、NLS機能の破壊(たとえばフレームシフトや終始コドンの挿入)を行うことにより、毒性を回避して酵母で機能的に発現させることができる。本開示の一実施形態において、このようなNLS機能を破壊するフレームシフト変異としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはその改変体において、PKKKRKVからPKRKERSKIへの変異を挙げることができる。この場合、遺伝子配列としては、A695delの変異を含むことができる。また他の実施形態において、CamRにY40C(またはQ87R、またはR20K)変異を加えることで、camphorだけでなく、borneolやβ-pineneに対する感度が向上したスイッチを提供することもできる。
(ピキア酵母の遺伝子スイッチ)
本開示の一実施形態において、ピキア酵母(Pichia pastoris:Komagataella phaffii、Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris)やメタノール資化性酵母(Ogataea polymorpha、Hansenula polymorpha、Candida boidiniiなど)を用いて、オペレーター配列(phlO)とコアプロモーター(ピキア酵母由来AOX1またはDAS1のコアプロモーターなど)を融合した人工プロモーターを導入して遺伝子スイッチとすることもできる。これにより、出芽酵母で作出したPhlF変異体(PhlTA変異体)を発現させることで、ピキア酵母を含むメタノール資化性酵母でもDAPG-ON型のプロモーターとして機能させることが可能となる。一実施形態において、オペレーター配列(phlO)を最大48コピーまでタンデム化することで、メタノール資化性酵母で機能する極めて強力な人工型の誘導プロモーターを作出することができる。
【0051】
本開示の一実施形態において、DNAライブラリーは公知の種々の方法を用いて作製することができ、遺伝子スイッチ発現配列および/または該遺伝子スイッチ発現配列によってコードされる転写調節因子が結合するプロモータにランダムな変異が導入されているものであれば特に限られるものではない。本開示の一実施形態において、このようなDNAライブラリーを宿主細胞に導入する場合には、宿主細胞に発現ベクターを導入することによって行うことができる。「発現ベクター」は、宿主細胞に外部遺伝子を運搬するベクターDNAであって、宿主細胞中で目的遺伝子を発現させ得るDNAをいう。ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択することができる。ベクターDNAは、天然に存在するDNAを抽出して得られたベクターDNAの他、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているベクターDNAでもよい。代表的なベクターDNAとして、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、およびウイルス由来のベクターDNAを挙げることができる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどを使用することができる。バクテリオファージDNAとしては、λファージなどを挙げることができる。ウイルス由来のベクターDNAとしては、例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルスなどの動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルスなどの昆虫ウイルス由来のベクターを挙げることができる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAなどを挙げることができる。あるいは、これらを組み合わせて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組み合わせて作成したベクターDNA(コスミドやファージミドなど)を挙げることができる。ベクターDNAには、目的遺伝子が発現されるように目的遺伝子を組み込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子と調節DNAエレメント、例えばプロモータとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列を組み合わせて公知の手法によりベクターDNAに組み込むことができる。このような遺伝子配列として、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー(ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子など)を挙げることができる。これらから選択した1種類または複数種類の遺伝子配列をベクターDNAに組み込むことができる。
【0052】
ベクターDNAに目的遺伝子を組み込む方法は、公知の遺伝子工学的技術を適用することができる。例えば、目的遺伝子を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼにより再結合する手法を用いることもできる。あるいは、目的遺伝子に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても所望のベクターDNAを得ることができる。
【0053】
宿主細胞への発現ベクターの導入方法は、宿主細胞にベクターDNAを導入して宿主細胞中で目的遺伝子を発現させ得る導入方法であれば特に限定されず、宿主細胞の種により適宜選択した公知の方法のいずれを使用してもよい。例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などを挙げることができる。
【0054】
本開示の一実施形態において、発現配列と遺伝子スイッチとを同一の発現ベクターに含む必要はなく、上記融合レポーター遺伝子の発現配列を含む発現ベクターと、遺伝子スイッチを含む発現ベクターとを同一の細胞に共形質転換することにより実施することもできる。
【0055】
本開示において使用される細胞は、特に限定されるものではなく、酵母や大腸菌などの種々の細胞を用いることができる。本開示の一実施形態において、細胞死や細胞の死滅とは、増殖能などの細胞としての機能を消失している状態を意味する。例えば、酵母などの細胞を固形培地上で培養したとき、一個の細胞から増殖して可視的に計数できる一定以上の大きさの細胞集落(コロニー)を形成できる能力を消失している状態をさす。また他の実施形態において、細胞死や細胞の死滅には、生理的または病理的な要因により生じた不要な細胞や障害細胞などを積極的に除去する能動的細胞死(アポトーシス)および外的要因への反応による受動的細胞死(ネクローシス)も含まれ得る。
【0056】
本開示の一実施形態において、酵母としては、出芽酵母、分裂酵母などを用いることができる。出芽酵母としては、例えば、Saccharomyces属(Saccharomyces cerevisiaeなど)、Zygosaccharomyces属(Zygosaccharomyces rouxiiなど)や、ピキア酵母(Komagataella phaffii、Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris)、メタノール資化性酵母(Ogataea polymorpha、Hansenula polymorpha、Candida boidinii、Ogataea minuta、Ogataea angusta、Pichia methanolica、Ogataea parapolymorphaなど)などを用いることができる。分裂酵母としては、例えば、Zygosaccharomyces属(Zygosaccharomyces rouxiiなど)を用いることができる。これらのうちでも特に好ましい酵母は、Saccharomyces cerevisiaeまたはピキア酵母(Komagataella phaffii、Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris)である。一実施形態において、メタノール資化性酵母とは、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母細胞と定義されるが、本来メタノール資化性酵母細胞であったが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失した酵母細胞もメタノール資化性酵母細胞に包含される。
【0057】
ピキア酵母はメタノール資化性の性質をもち、主にタンパク質生産で産業的に広く使われている。このピキア酵母では、メタノール誘導システムとしてAOX1プロモータが広く用いられている。このAOX1プロモータは発現量が非常に強く、メタノール下で増殖した細胞では全mRNA量の5%がAOX1p由来といわれており、その発現はメタノールで厳密に制御することができる。
【0058】
本開示の一実施形態においては、人工転写活性化因子であるrPhlTAと誘導剤としてDAPGを用いることで、AOX1プロモータに匹敵する新規誘導性プロモータを提供することができる。
【0059】
遺伝子スイッチは、誘導プロモーターとして利用することができ、使用しにくい特性を持つ天然型の誘導プロモーターの欠点を克服した性能の良い人工の遺伝子スイッチはニーズが高い。また、遺伝子スイッチは生産物の簡便な間接定量評価や遺伝子発現の調節を行うことができるため、近年その利用ニーズが高まってきている。産業微生物としても有用な酵母において、本手法により、簡便に高性能遺伝子スイッチ・センサを作ることができれば、菌株構築の時間を圧倒的に短縮したり、高度な代謝や遺伝子ネットワーク制御を行うことができる。そのため、特に代謝工学や合成生物学分野において産業応用が期待される。また本開示の遺伝子スイッチは、有用タンパク質の大量生産や毒性を示すタンパク質などの発現制御、代謝化合物の簡易的な濃度測定などに利用できる。
【0060】
本開示の一実施形態において、誘導プロモーターはタンパク質の誘導発現(分泌または細胞内での生産)に利用することができる。
【0061】
本開示の一実施形態において、S/N比に優れたTet-ON、DAPG-ON、HSL-ONは、代謝酵素の発現制御への利用を想定することができる。例えば代謝経路を分岐させる酵素への使用が考えられる。例えばテルペノイドの一種のスクアレンの生産において、スクアレン消費する下流のエルゴステロール経路の酵素を、スクアレンを高生産するタイミングでのみOFFにすることで、スクアレンの生産量を高めることができる。または他の実施形態において、細胞に強い毒性を示す有用タンパク質、例えば抗体タンパク質などを候補として挙げることができる。抗体タンパク質の生産では、化学反応の変換プロセスを構築する代謝工学とはことなり、抗体タンパク質の発現量がそのまま生産量に比例する。そのため、発現量を限界まで高める必要があるが、発現誘導系のS/N比が低いと、発現の漏出が起き、タンパク質の過剰発現による細胞毒性のために酵母株を得ること自体不可能である。DAPG-ONやTet-ON、HSL-ONスイッチでは、その高いS/N比ゆえに、毒性タンパク質の高生産が見込まれる。
【0062】
本開示の一実施形態において、遺伝子スイッチは、特に細胞に対して毒性を示す遺伝子の発現のON/OFF切り替えに利用されることができる。医薬品としての利用が期待される抗体タンパク質、あるいは植物代謝物の合成を担う異種酵素遺伝子の酵母内発現は、過剰に発現させ過ぎると往々にして細胞毒性を示す。しかし、細胞増殖期には毒性を示す遺伝子であっても、増殖完了後の発現誘導であればその毒性が緩和されることがある。そこで、遺伝子スイッチを用いて、増殖期には毒性遺伝子の発現をOFF、増殖完了後にONにすることで、異種遺伝子の過剰発現による細胞毒性を回避できる。
【0063】
本開示の一実施形態において、遺伝子スイッチは、バイオコンピューティングの分野でも注目を集めている。複数の遺伝子スイッチの組み合わせで構成される「遺伝子回路」は、細胞に与えられた外部情報を処理する「電子回路」のアナロジーとして解釈することができる。実際に、合成生物学分野では、遺伝子回路を構築し、細胞に新規機能を付与すること目的として、実際のコンピュータに実装されている論理回路と同じトポロジーを持つ多数の遺伝子回路を設計・構築してきた。しかし、電子回路とは異なり、遺伝子スイッチのON/OFF切り替えはアナログであるため、遺伝子回路の組み合わせは数個に止まり、その拡張性を制限していた。OFFとONの比に優れた遺伝子スイッチによって遺伝子回路の抱えるこのような弱点を解決できる可能性がある。
【0064】
本開示の一実施形態において、酵母をメインとして、その他の真核生物や大腸菌を含む原核細胞など様々な生物種において、高性能な新たな遺伝子スイッチまたはメタボライトセンサを作出するために本開示の方法を使用することができる。作出するスイッチ・センサをライセンス若しくはキットの一部としての販売する、あるいはスイッチ・センサの受託開発をすることもできる。また、作出した遺伝子スイッチは、安全かつ安価で使いやすい(たとえば防爆設備が不要、炭素源を限定しない、など)新たなタンパク質生産の誘導プロモーターとして利用したり、代謝経路中の遺伝子発現を厳密にコントロールしたり、遺伝子回路を組むことによって、実用プロセスまたは研究用途の高性能(高生産)な物質生産株を開発(自社開発・受託開発を含む)するために利用することもできる。また、開発したメタボライトセンサは、HPLCやGCMSの代わりに目的産物や副産物の生産量を簡易的にハイスループット定量するために利用し、高性能(高生産)な物質生産株の開発スピードを加速させることもできる。
【0065】
本開示の一実施形態において、より安価かつ安全な化合物を誘導剤とする遺伝子スイッチを開発し、そのライセンス化やキットの一部としての販売を行うことができる。さまざまな生物種が持つ転写因子について、誘導剤の物性を指標にスクリーニングを行い、これを用いた遺伝子スイッチのプロトタイプを試作する。試作したプロトタイプについて、その構成要素にランダムな遺伝子変異を導入する。そうして作製した遺伝子スイッチライブラリに対して、OFF/ON選抜を行う。すなわち、遺伝子スイッチライブラリを保持する酵母株を、100nMの5FdU存在下で培養したのちに、誘導剤を加えた培地に移すことで、遺伝子発現を誘導する。培養液を1~3mMのZeocinと誘導剤を含む培地へと移すことで、ON選抜を行う。用途に合わせて誘導剤の濃度を調整することで、より低濃度の誘導剤に応答する遺伝子スイッチ変異体の単離(高感度化)も行う。開発した遺伝子スイッチは、物質生産の鍵となる代謝酵素の発現制御や、細胞にとって負荷の大きいタンパク質の生産を誘導することに用いる。スイッチ・センサの受託開発においては、指定の誘導剤と転写因子のペアについて同様の進化分子工学サイクルを実施する。誘導剤・転写因子ペアについては、代謝工学上重要な化合物、例えば目的の生産物やあるいはその中間体などに応答するものを選定することで,これらの濃度を簡易モニタリングできるメタボライトセンサを開発する。こうして得たメタボライトセンサは、菌株開発のスピードアップに用いる。
【0066】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0067】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えばGeneArt、GenScript、Integrated DNA Technologies(IDT)などの遺伝子合成やフラグメント合成サービスを用いることもでき、その他、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0068】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0069】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0070】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0071】
(実施例1:Tet-ON型遺伝子スイッチのS/N比の評価)
Tet-ON型遺伝子スイッチは、以前の研究により、Dox添加時に3倍の誘導しか示さなかったことがわかっているが、これはrtTetTAがtetOに非特異的に結合したこと、およびptetO7の上流でのプロモーターの偶然の出現によるものと考えられている。tetOへの非特異的結合を減少させるために、rTetTA発現カセットの全領域を、エラーを起こしやすいPCR(epPCR)によってランダムに変異させ、その結果得られたPCR産物を、GAP修復クローニングによって、ptetO7-TBGをもつ細胞内のプラスミドに直接クローニングした(図1A)。得られた形質転換体(~10個のユニークなクローン)を、Doxを含まない5FdU含有液体培地で培養することにより、漏出の(すなわち、Doxに依存しない)TBG発現を有する変異体を除去してOFF選抜を行った。次に、非機能性バリアントを除去し、これにより良好なスイッチを濃縮するために、様々な条件下でON選抜を行った。具体的には、OFF選抜された細胞のプールを、Dox(0.01~10μg/mL)とゼオシン(1または2mM)の様々な組み合わせを含む14本の試験管に分注し、サンプルを一晩振盪した。
【0072】
14本のON選抜された細胞混合物のそれぞれをフローサイトメトリーを用いて分析した(図1A)。機能的なスイッチを、様々な選抜条件下で異なる程度に濃縮した。すべての場合において、試験したゼロではない濃度のDoxにおいて、望ましい(Dox誘導性)変異体の有意な濃縮が観察された(図1A)。一般に、誘導条件(Dox+)の下での出力シグナルは、低い選択圧(ラン1~7;1mMゼオシン)の下でのそれぞれの対応するプールよりも、より高い選択圧(2mMゼオシン)がON条件の下で適用されたラン8~14からのプールの方が高かった。しかし、2mMゼオシンでON選抜されたプールは、Doxの非存在下でも高い蛍光シグナルを示した高割合の「常にON」のバリアントで汚染されていた。2mMのゼオシンを用いたON選抜は、Dox誘導時に高い出力を持つ陽性(望ましい)クローンにも毒性効果を及ぼし、それによって「常にON」の表現型を持つ非スイッチング変異体(スーパーアクチベーター)と比較してスイッチング変異体の割合を減少させたことがわかった。いずれの場合にも、低濃度のDox、特に0.1μg/mL以下の濃度では、プール内に漏出発現のあるバリアントが徐々に蓄積される結果となった。この特定のケースでは、機能的スイッチの最も効率的な濃縮は、ラン9および11(プール#9および#11)で達成された。最高の誘導出力と最高のストリンジェンシーの両方を持つバリアントを分離するため、その後のスクリーニングにはラン8と11を用いた。
【0073】
選択された2つのプールから、93個のクローンをランダムに選び、96ウェルプレートで蛍光スクリーニングを行った(図1B)。試験したクローンの合計48%(45/93)は、Dox(10μg/mL)で5倍以上の誘導を示し、最高のrTetTA変異体(rTetTAK8N、L131L)は、0.3および10μg/mLのDoxの存在下でそれぞれ8倍および11倍の誘導を示した(図1C)。
【0074】
図1Aに示すように、Tet-ONスイッチのrTetTAをコードする発現カセットにランダムな変異を導入し、得られたライブラリーを異なる選抜条件でOFF/ON選抜の並列操作を行った。スイッチバリアントが濃縮される条件をスクリーニングするために、得られた細胞集団をDox依存性の蛍光シフトについて評価した。緑と青で示した領域は、望ましくない挙動、すなわち漏出発現のあるバリアント(Doxが存在しない場合に10以上のGFP蛍光を持つ細胞)と不活性バリアント(10μg/mLのDoxの存在下で10未満のGFP蛍光を持つ細胞)のそれぞれ相対的な量(%)を示す。スイッチングバリアントの相対的な量(%)は、これらの2つの数値の両方を100%から差し引くことによって得られた。破線は、rTetTAを含まないプラスミドをもつ酵母株から得られたヒストグラムを示す。図1Bでは、Tet-ONバリアントの96ウェルプレートでの蛍光スクリーニングの結果を示した。また図1Cでは、選択された変異体のトランスファー機能を示した。エラーバーは、3つの独立した実験の平均±SDを表す。50%有効濃度(EC50)値は、最小二乗法によりヒル式に適合した用量反応曲線から計算した。上のパネルは、野生型および進化させたTet-ONスイッチ(rTetTAK8N、L13L)をもつ酵母株の細胞ペレットを10μg/mLのDoxの有無にかかわらずインキュベートした場合の蛍光画像を示す。
(実施例2:遺伝子スイッチの改良)
Tet-ONシステムを開発するためのプロトコルに従って、任意の転写因子を真核生物の転写スイッチの構成要素として使用することができる。しかし、異なる転写因子の場合、安定性、DNA結合親和性、およびsTAを生成するために他のタンパク質またはドメインと融合したときにそれらの機能がどのように変化するのかがそれぞれ異なるため、得られるスイッチの性能は予測不可能である。さらに、sTAのスイッチング挙動は、種々の要因(発現レベル、プロモーターの位置およびコピー数、および株の種類)に大きく依存する。実際には、それぞれの条件において適切な性能を確保するために、新しいシステムを再進化させる必要がある。
【0075】
負に制御された真核生物の遺伝子スイッチを改良するため、2つの酵母の転写スイッチを再構築した。2,4-ジアセチルフロログシノール(DAPG)-repressible(DAPG-OFF)スイッチとD-Camphor-repressible(Camphor-OFF)スイッチ(図2A)。具体的には、DAPGおよびD-Camphor応答性細菌リプレッサー(PhlFおよびCamR)をVP48活性化ドメインおよび核局在化シグナル(NLS)と融合させ、公表されている配列と同一のタンパク質配列を有するsTA(それぞれPhlTAおよびCamTA)を生成した。また、7コピーのtetOの代わりに、PhlFとCamRのシングルオペレーター(それぞれphlOとcamO)をpGAL1-cに融合させ、合成プロモーター(それぞれpphlO1とpcamO1)を作製した。本発明者らの手法は可能な限り報告された方法と一致していたものの、初期のコンストラクトは、報告されているように機能しなかった。これはおそらくsTAの発現を駆動するために使用されるシス制御エレメント(プロモーター/ターミネーター)のわずかな違いに起因するものと思われた。さらに、本発明者らはPhlTA発現プラスミドで高い毒性を観察した。プラスミドを酵母に形質転換したところ、DAPGに感受性のない数個の生存可能なコロニーのみが得られた(図2B)。これらの単離株は、VP16を過剰に発現させた場合の毒性効果を緩和すると思われるPhlTA発現プラスミドの自然発生的なダウンチューニング変異を持つ突然変異体と考えられた。CamTA発現プラスミドは、酵母においてより低い毒性を示したが、再構成されたCamphor-OFFスイッチは、D-camphorの存在下で有意な漏出発現を示した(図2C)。
【0076】
epPCRを用いて、PhlTAおよびCamTA発現カセット全体を変異させ、得られたライブラリーをON/OFF選抜をおこなった。この選抜により、DAPG添加時に4倍の発現低下を示した機能的なDAPG-OFF変異体(1-2Eおよび1-6H)(図2B)、ならびにD-Camphorに対する応答性がS/N比で2倍に改善されたCamphor-OFFスイッチ変異体(1-8D)(図2C)を迅速に単離することができた。特筆すべきことに、新たに単離された変異体については、酵母において明らかな毒性は観察されなかった。最良の性能を有するCamphor-OFFスイッチのうちの5つは、完全なNLSを無効にするフレームシフト変異(A695del)(アミノ酸PKKKRKVからRKERSKIへの変異)を共有していた。その一方で、最良の性能を有するDAPG-OFFスイッチのうちの4つは、無傷のNLSを保持していたが、PhlTA発現カセットに同じ変異を有していた。これらの観察から、D-camphorの存在下で漏出のTBG発現がないか、またはそれ以下であることを確実にするために、最適なCamTA活性のためには、NLS機能(およびおそらく核内局在性)の部分的な障害が必要であることが示唆された。コントロール実験では、NLSを欠いたCamTAによる転写活性化は検出されなかった。
【0077】
図2に酵母転写スイッチの作出と進化方法を示す模式図を示した(S/N比、感度、行動タイプで評価)。図2Aに本開示で開発した酵母遺伝子スイッチを示す。特定されたsTA変異体のプラスミド発現によって、宿主細胞においてpphlO1、pcamO1、またはpluxO1の制御下に置かれた用量依存的な活性化遺伝子が発現した。図2B図2Fに、DAPG-OFFスイッチ(図2B)、Camphor-OFFスイッチ(図2C)、DAPG-ONスイッチ(図2D)、およびHSL-ONスイッチ(図2F)の親および変異体のトランスファー機能を示した。TBG由来のGFP蛍光は、各誘導剤濃度の関数としてプロットした。示されているエラーバーは、3つの独立した実験の平均±SDを表している。OFF/ON選抜中に添加された誘導剤の濃度は、矢印および破線で示した。EC50値は、最小二乗法によりヒル式に適合した用量反応曲線から計算され、マイクロモル濃度単位で表した。図2Eおよび図2Gには、それぞれPhlTAを反転/増感させ、LuxTAを増感させる、PhlFおよびLuxRにおける変異の構造マッピングを示した。PhlFとLuxRの構造は、それぞれTetRファミリーの転写調節因子SCO0332(PDB:2ZB9)とクォーラムセンサータンパク質TraR(PDB:1L3L)の結晶構造をもとに、Swiss-Modelサーバーを用いてモデル化した。DNA構造は対応する参照結晶構造から引用した。
(実施例3:DAPG-OFFシステムからDAPG-ONシステムへの変換)
突然変異によって、新規なスイッチング動作を持つ転写因子を出現させることができる。様々な細菌のリプレッサーは、いくつかの突然変異が生じることによって、それらのリガンド応答を反転させることが知られている。したがって、前述のDAPG-OFFスイッチをコードする遺伝子に変異を誘発させることにより、DAPG-ONスイッチにコンストラクトを変換することができるかどうかを確認した。この目的のために、DAPG-OFFスイッチの単離に使用したのと同じPhlTAライブラリーを、DAPGの非存在下でOFF選抜にかけ、次いでこの化合物(5μM)の存在下でON選抜にかけた。生存プールから、30のバリアントをランダムに選択し、OFF/ONスクリーニングを行った結果、DAPG-ONバリアント(1-11E、1-11G)を単離し、8倍のDAPG依存性の蛍光増加を示した(図2D図4A)。このバリアントの変異解析を行ったところ、3つの新規変異の存在を明らかにした。そのうちの1つ(Q117R)は、PhlTA(rPhlTA)の機能の反転に必須であり、他の2つの変異(E143Kおよび/またはK86T)は、反転したスイッチの応答性(感度および倍数変化の両方)の改善に必須であった(図2E)。ON選抜のためのより低い濃度のDAPG(0.5μM)を用いた別のサイクルの突然変異誘発、選抜、およびスクリーニングによって、最大1/8倍に減少したEC50値を示す3つの第2世代バリアント(2-1E、2-4E、および2-7E)を得た(図2D)。これらの第2世代バリアントはすべて、DAPGに対する感受性の増加の原因となった新規変異(F109L)を共有していた(図2E)。PhlFはこれまでに、大腸菌においてDAPGに対する感度および選択性を改変されているが、本実施例において反転PhlF(rPhlF)機能を示す変異は、これまでに報告されていない。同様に、rPhlFの感度をあげる変異はこれまで報告されていない。
【0078】
図4に進化させたDAPG-ONスイッチのrPhlTA発現カセットに見出されたヌクレオチドおよびアミノ酸(AA、括弧内に示す)変異を示した。その変異が親である(1-11E)変異体にも見出された第二世代の変異体を除いて、第一世代(図4A)および第二世代(図4B)のrPhlTA発現カセットに見出された変異を赤線で示した。フォールドチェンジは、10μMのDAPGの存在下および非存在下での蛍光強度の平均±SD比として、図2Dに示すデータから計算した。
(実施例4:その他の新規なスイッチ)
これまでのところ、原核生物の転写活性化因子は酵母の転写活性化因子として利用されていない。そこで、3-オキソ-ヘキサノイルホモセリンラクトン(HSL)誘導細菌転写活性化因子であるVibrio fischeri LuxRを誘導成分として用いて、sTAの生成を試みた。LuxTA(LuxR、VP48、およびNLSの融合体、図2A)の単純なプラスミド発現では、pluxO1(LuxR結合ボックス(luxO)と融合したGAL1コアプロモーター)の制御下では、TBGのHSL依存性発現はみられなかった(図2F)。この非機能的な親を出発材料として、誘導剤の濃度を段階的に減少させながら2ラウンドの突然変異誘発および選抜を行い(1ラウンド目、10μMのHSL;2ラウンド目、1μMのHSL)、機能的なHSL-ONのバリアントを同定することに成功した。このようにして、迅速に、酵母が細菌のシグナルを感知し、応答することを初めて可能にした。
【0079】
3μMのHSLを添加したときにTBG発現の6倍の増強を示した最高のパフォーマンスのバリアント(図2F)は、2つの非同義変異(S116Y、W201R)を持っていた(図2G図5)。酵母のHSL-ONスイッチでは、いずれの変異も、程度は異なるものの、LuxTAを単独でHSLに増感させるのに十分であった。しかし、それぞれの変異は大腸菌では全く異なる挙動を示した。酵母で見られるように、LuxR構造のリガンド結合領域に位置するS116Y変異は、大腸菌ではLuxR/plux転写制御因子のHSL感度を増加させた。一方、大腸菌RNAポリメラーゼと相互作用することが知られているLuxRの表面に位置するもう一つの変異(W201R)は、大腸菌におけるluxプロモーターからの発現を著しく低下させた。W201R置換がRNAポリメラーゼのリクルーターとしてのLuxRの機能に負の影響を与えると考えられるが、これはこの変異がこれまでにHSLによる活性化のためにタンパク質を増感させるLuxR変異を見つけるためのスクリーニングで見落とされていた理由となり得ると考えられる。酵母のHSL-ONスイッチでは、LuxRの役割は、HSLによって誘導されたDNA結合を促進することとなる。したがって、この増感性変異は酵母の遺伝子スイッチでのみ同定できると考えられる。
【0080】
図5は進化させたHSL-ONスイッチのLuxTA発現カセットに見出されたヌクレオチドおよびアミノ酸(AA、括弧内に示す)の変異を示す。その変異が親である(1-4A)変異体にも見出された第2世代の変異体を除いて、第1世代(図5A)および第2世代(図5B)のLuxTA発現カセットに見出された変異は赤線で示した。フォールドチェンジは、100μMのHSL(2-4Fについては3μM)の存在下および非存在下での蛍光強度の平均±SD比として、図2Fに示すデータから計算した。
(実施例5:酵母スイッチ変異体のANDゲートβ-カロテン生合成経路への統合)
酵母では、S/N比を向上させた一連の遺伝子スイッチを開発してきたので、これらの構造をパスウェイ・フラックス制御に応用することを試みた。単離された3つのsTA(DAPG-ON2-1E、HSL-ON2-4F、およびTet-ON1-11F)を酵母の異なる染色体に統合した(図3A)。得られた株を、それぞれのsynPの下流にgfp遺伝子がクローニングされたプラスミド(ptetO7、pphlO6、およびpluxO5)で形質転換した。なお、synPの500以上上流のベクター配列に含まれる潜在的なプロモーター配列は削除し、phlOおよびluxOの繰り返し数を増加させた。得られた細胞のGFP蛍光は、それらの同族の誘導剤の存在下でのみ誘導され、10以上の因子によって誘導された(図3B)。これらの合成プロモーターはいずれもストリンジェントであり、すなわち、誘導剤が存在しない場合には低い基底TBG発現を示した。
【0081】
これらのスイッチをβ-カロテン生合成経路の調節因子として利用することで、直交的な調節能を利用することを試みた。そのために、S.cerevisiae Bts1pを用い、Xanthophyllomyces dendrorousのCrtYBおよびCrtIタンパク質と組み合わせた3つの酵素の作用による9段階のプロセスでβ-カロテンの合成を行った(図3C)。
【0082】
3つの遺伝子(BTS1、crtYB、およびcrtI)をすべて発現するプラスミドを構成プロモーターの制御下で酵母を形質転換すると、誘導剤の有無にかかわらず、酵母はβ-カロテンを産生した(図3D)。BTS1とcrtYBのプロモーターをそれぞれpphlO6とptetO7で置換した。これらの3つの遺伝子のすべてが発現する必要があったので、β-カロテン産生は、DAPGとDoxの両方の存在下でのみ期待された(AND-ゲート制御)。しかし、ptetO7プロモーターによる漏出発現は、おそらくCrtYBの強力な触媒活性のために、無視できないことが判明し、Doxの非存在下では有意な誤った色素沈着をもたらした。この漏出発現は、crtYBを制御するために使用される遺伝子スイッチをptetO7からpluxO5に変換することによって緩和され、β-カロテン生合成経路はHSLとDAPGの組み合わせによってANDゲート制御下に置かれた。この株では、β-カロテンの生合成はDAPGとHSLの両方の存在下でのみ見られるという、期待されたANDゲートの挙動が観察された。同様の戦略を、β-カロテン生合成経路をANDゲート下に配置した株の構築においても採用した。
【0083】
図3に新たに開発した遺伝子スイッチを用いたFPPからβ-カロテンへのフラックス制御を示した。図3Aでは、カロテノイド生合成のANDゲート制御に用いた酵母株を示す。DAPG-ON2-1E、HSL-ON2-4F、およびTet-ONK8N,L131Lスイッチで使用するためのsTAを発現する3つのプラスミドを染色体統合した。各synPの下流の遺伝子(pphlO6、ptetO7、およびpluxO5)は、対応する誘導剤(それぞれ、DAPG、Dox、およびHSL)の存在下でのみ発現した。図3Bに、Dox、DAPG、およびHSLを用いた直交GFP発現制御をフローサイトメトリーで測定した結果を示す。図3Cにβ-カロテンへの合成経路を示す。FPPはファルネシル二リン酸を、GGPPはゲラニルゲラニル二リン酸を示す。図3Dに、定常的なβ-カロテン生合成とANDゲート制御によるβ-カロテン生合成の模式図を示した。左図に示す組み合わせで構成的プロモーターまたはsynP(pphlO6、ptetO7、およびpluxO5)の制御下で(BTS1、crtYB、およびcrtI)を発現する酵母株(右図)の細胞ペレットを示す。これらの菌株を、異なる組み合わせの誘導剤(Dox、DAPG、およびHSL)を含む液体培地に接種し、30℃で24時間培養した。誘導剤の濃度は、DAPG(3μM)、HSL(3μM)、およびDox(10μg/mL)であった。
(実施例6:ピキア酵母での遺伝子スイッチの開発)
本実施例ではピキア酵母を用いて遺伝子スイッチを開発した。具体的には、図6Aに示すとおり、DAPG応答性細菌リプレッサー(PhlF)をVP48活性化ドメインおよび核局在化シグナル(NLS)と融合させて人工の転写活性化因子(rPhlTA)を生成し、GAPプロモータとAOX1ターミネータの間にクローニングした。またPhlFのオペレーター(phlO)を1個あるいはタンデムに18個つなげたものを、AOX1 coreプロモータに融合させ、合成プロモーター(pphlO1およびphlO18)を作製し、EGFP遺伝子の上流にクローニングした。EGFPの下流にはAOX1ターミネータを配置した。以上のrPhlTAの発現カセットと人工プロモータカセットを、Komagataella phaffii CBS 7435株の T38473とARG4座位に組み込んだ(図6A)。
【0084】
その結果、図6Bに示すとおり、rPhlTAをARG4座位,人工プロモータpphlO1またはpphlO18を含むEGFPカセットをT38473座位に組み込んだ場合において,それぞれおよそ600および3000倍のS/N比を示した。これは従来の天然のプロモータの性能と匹敵し、さらに培地成分(主に糖源)の制約がなく、また従来の低性能の人工プロモータと比較して極めて高いS/N比を示すことがわかった。
【0085】
図6Cに示すとおり、rPhlTAをT38473座位、人工プロモータpphlO1またはpphlO18を含むEGFPカセットをT38473座位に組み込んだ場合では、DAPG 0μMのときのGFP発現が大きく増加し、S/N比がお(約1.6kbp)または部分(1kbp)よそ7および300倍にまで低下した。
【0086】
ARG4遺伝子の全部(約1.6kbp)または部分(1kbp)を、人工プロモータpphlO1またはpphlO18の上流にクローニングすると、図6Dに示すとおり、DAPG 0μMのときの発現量のGFP発現のみが低下し、pphlO1を用いた場合において、S/N比が300倍に回復した。このことから、人工プロモータの上流に1kbp以上の配列を挿入しておくことが、導入されるゲノム上の座位に依らず高いS/N比を実現するために必要であることがわかった。図6Eに示すとおり、同様の効果はphlOのコピー数を48に増やし、phlOのタンデムリピート全体で約1.6kbpにまで伸ばしたときにも確認され、3000倍を超えるS/N比を示すことがわかった。
【0087】
ピキア酵母を含む酵母用の遺伝子スイッチは、人工の転写活性化因子だけでなく、VP16の代わりに転写抑制モチーフ、例えばMxi1(転写抑制因子)を融合することで、制御様式を反転することができる。
【0088】
ピキア酵母用の遺伝子スイッチでは、人工プロモータとして、GAL1coreを用いるよりも、AOX1coreやDAS1coreを用いたほうが効率よく遺伝子の発現を制御することができる。ピキア酵母においては、GAL1coreを用いた人工プロモーターは活性が極めて低く、ピキア酵母由来のAOX1やDAS1(強力なメタノール誘導プロモーター)やGAPなどのコアプロモーターに変えることでON(遺伝子発現誘導)の際の値が極めて大きくなる。
【0089】
また上記のとおり、phlOのコピー数を48に増やした場合には高いS/N比を達成している一方で、1、6、12、18、24コピーでも応答性は高い。ON(遺伝子発現誘導)の際の最大の発現量は大きく変わらないものの、phlOのコピー数が増えるにつれて、漏出発現が大きく低減することがわかった(図6B図6E図7)。これはプロモーター上流のDNAの長さが漏出発現の低減に影響している可能性がある。上流からの何等かの転写が漏出発現の原因となっており、上流からの距離が遠くなるとその影響が低減され、漏出発現が減少していると考えられる。このような上流配列に起因する漏出発現については、上流配列を変更したり、または上流からの距離を遠くさせるなどによって、漏出発現のほぼない人工プロモーターを開発することができる。
【0090】
また、phlOタンデムコピー(48コピー)の代わりに、ARG4をオペレーター配列の上流に置いても同じように漏出発現が極めて小さくなる。これはARG4がinsulatorとして機能していると考えられる。ARG4を1000bpくらいまで削ってもinsulatorとして機能する。phlO1でも600倍程度のS/N比を達成することができる(図6C図6D)。オペレーターのコピー数を増やして配列を長くしても同じように漏出発現が低減することから、上流からの距離の長さが影響していると考えられる。
【0091】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示の遺伝子スイッチは、有用タンパク質の大量生産や毒性を示すタンパク質などの発現制御、代謝化合物の簡易的な濃度測定などに利用できる。これにより、バイオ医薬品や産業酵素の生産性を大きく高めたり、菌株構築の時間を圧倒的に短縮させることができ、高度な代謝や遺伝子ネットワーク制御を行うことができる。そのため、特に代謝工学や合成生物学分野において産業応用が期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0093】
配列番号1:DAPG応答型の転写因子(PhlF)のアミノ酸配列
配列番号2:D-camphor応答型またはBorneol応答型の転写因子(CamR)のアミノ酸配列
配列番号3:HSL応答型の転写因子(LuxR)のアミノ酸配列
配列番号4:Dox応答型の転写因子(TetR)のアミノ酸配列
配列番号5:転写因子(PhlF)の核酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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