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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089666
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202247
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 訓史
(72)【発明者】
【氏名】張 明光
(72)【発明者】
【氏名】金田 英樹
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA25
2H033BB13
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB39
2H033BE00
(57)【要約】
【課題】無端ベルトと摺動シートの摩耗を抑制する。
【解決手段】定着装置は、回転体120と、無端ベルト130と、ヒータと、摺動シート150と、加圧パッドと、を備える。無端ベルト130は、回転体120の外周面に接触し、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる。ヒータは、回転体120と無端ベルト130との少なくとも一方を加熱する。摺動シート150は、無端ベルト130の内周面に接し、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる。加圧パッドは、回転体120との間で無端ベルト130と摺動シート150とを挟む。無端ベルト130のナノインデンテーション法による微小硬度は、摺動シート150の微小硬度より大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、
前記回転体の外周面に接触する無端ベルトであって、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる無端ベルトと、
前記回転体と前記無端ベルトとの少なくとも一方を加熱するヒータと、
前記無端ベルトの内周面に接する摺動シートであって、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる摺動シートと、
前記回転体との間で前記無端ベルトと前記摺動シートとを挟む加圧パッドと、を備え、
前記無端ベルトのナノインデンテーション法による微小硬度は、前記摺動シートの微小硬度より大きいことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記無端ベルトの基材と、前記摺動シートの基材と、の少なくとも一方はポリイミドであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記無端ベルトの基材と、前記摺動シートの基材と、はポリイミドであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記無端ベルトの回転方向に沿って測定した前記無端ベルトの内周面の表面粗さRaは、前記回転方向に沿って測定した前記摺動シートの前記無端ベルトに対向する対向面の表面粗さRaより小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記無端ベルトと前記摺動シートの間には、グリースが配置され、
前記グリースは、パーフルオロポリエーテルを含む基油と、ポリテトラフルオロエチレンを含む増ちょう剤と、を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記グリースは、添加剤として、メラミンシアヌレートを含むことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記摺動シートの前記無端ベルトの内周面に対向する対向面は、前記無端ベルトに接触する接触部と、前記接触部から凹み前記無端ベルトに接触しない複数の凹部とを有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
所定面積の前記対向面における前記接触部の面積の割合は、50%以下であることを特徴とする請求項7に記載の定着装置。
【請求項9】
前記対向面は、複数の多角形の辺が尾根となる凹凸形状に形成され、
前記接触部は、前記多角形の辺に位置し、
前記凹部は、前記接触部に囲まれていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
前記多角形は、正方形であることを特徴とする請求項9に記載の定着装置。
【請求項11】
前記接触部は、前記無端ベルトの回転方向に対して斜めに延びていることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項12】
前記接触部には、前記接触部の延びる方向に沿って延びる溝が形成されていることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項13】
前記溝の深さは、凹部の深さの0.1~0.005倍であることを特徴とする請求項12に記載の定着装置。
【請求項14】
前記溝は、
前記無端ベルトの移動する方向に向かうにつれて、前記摺動シートの幅方向の中央に近づく方向に延びた第1溝と、
前記無端ベルトの移動する方向に向かうにつれて、前記摺動シートの幅方向の中央から離れる方向に延びた第2溝と、を有し、
前記第1溝は、連続して延びており、
前記第2溝は、前記第1溝に分断されていることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の定着装置。
【請求項15】
前記加圧パッドは、第1加圧パッドと、前記第1加圧パッドより前記無端ベルトの回転方向の下流に配置される第2加圧パッドと、を有することを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項16】
前記第2加圧パッドは、前記第1加圧パッドよりデュロメータ硬さが高いことを特徴とする請求項15に記載の定着装置。
【請求項17】
前記第2加圧パッドは、前記第1加圧パッドから離れて位置し、
前記回転体と前記無端ベルトとが接触するニップ部のうち、前記第1加圧パッドおよび前記第2加圧パッドのいずれにも押圧されてない範囲は、前記ニップ部の全範囲の20~50%であることを特徴とする請求項15または請求項16に記載の定着装置。
【請求項18】
前記第2加圧パッドの押圧範囲は、前記ニップ部の全範囲の10~20%であることを特徴とする請求項17に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルトを備える定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加圧パッドを用いた定着装置において、無端ベルトと加圧パッドの間に摺動シートを持つものがある(特許文献1参照)。摺動シートは、無端ベルトと摺動シートとの摺動抵抗を低減し、摩耗量を少なくするために、表面硬度が無端ベルトの表面硬度以上となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-014893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、摺動シートの表面硬度を無端ベルトの表面硬度以上とした場合、無端ベルトが早く摩耗してしまう場合があった。摺動シートは、無端ベルトと常に接触しているのに対し、無端ベルトの内周面の各部は、摺動シートと接触する状態と接触しない状態を交互に繰り返している。このような場合、連続的に摺動している摺動シートよりも間欠的に摺動している無端ベルトの摩耗が早くなってしまう。このため、例えば、無端ベルトと摺動シートの両方の材質を同じ表面硬度の樹脂とした場合、無端ベルトの摩耗が摺動シートに比べて早くなってしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、無端ベルトと摺動シートの摩耗を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明に係る定着装置は、回転体と、ヒータと、加圧パッドと、摺動シートと、無端ベルトと、を備える。無端ベルトは、回転体の外周面に接触し、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる。ヒータは、回転体と無端ベルトとの少なくとも一方を加熱する。摺動シートは、無端ベルトの内周面に接し、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる。加圧パッドは、回転体との間で無端ベルトと摺動シートとを挟む。無端ベルトのナノインデンテーション法による微小硬度は、摺動シートの微小硬度より大きい。
【0007】
この構成によれば、無端ベルトの摩耗を抑制することができる。
【0008】
また、無端ベルトの基材と、摺動シートの基材と、の少なくとも一方はポリイミドである構成としてもよい。
【0009】
これによれば、ポリイミドは、耐熱性が高いので、無端ベルトまたは摺動シートの摩耗が抑制される。
【0010】
また、無端ベルトの基材と、摺動シートの基材と、はポリイミドである構成としてもよい。
【0011】
これによれば、ポリイミドは、耐熱性が高いので、無端ベルトおよび摺動シートの摩耗が抑制される。
【0012】
また、無端ベルトの回転方向に沿って測定した無端ベルトの内周面の表面粗さRaは、回転方向に沿って測定した摺動シートの前記無端ベルトに対向する対向面の表面粗さRaより小さい構成としてもよい。
【0013】
これによれば、表面粗さRaが大きいほど摩耗しやすくなるので、無端ベルトの表面粗さRaを摺動シートの表面粗さRaより小さくすることで無端ベルトと摺動シートの摩耗を抑制できる。
【0014】
また、無端ベルトと摺動シートの間には、グリースが配置され、グリースは、パーフルオロポリエーテルを含む基油と、ポリテトラフルオロエチレンを含む増ちょう剤と、を含む構成としてもよい。
【0015】
これによれば、無端ベルトと摺動シートの摩耗を抑制できる。
【0016】
また、グリースは、添加剤として、メラミンシアヌレートを含む構成としてもよい。
【0017】
これによれば、無端ベルトと摺動シートの摩耗をさらに抑制できる。
【0018】
また、摺動シートの無端ベルトの内周面に対向する対向面は、無端ベルトに接触する接触部と、接触部から凹み無端ベルトに接触しない複数の凹部とを有する構成としてもよい。
【0019】
これによれば、摺動シートは凹凸形状を有しており、接触部のみが無端ベルトと接触するので、摺動シートと無端ベルトとの接触面積を減らすことができる。このため、摺動シートと無端ベルトとの摩擦を軽減できる。また、摺動シートの凹部にグリースを保持できるので、さらに摺動シートと無端ベルトとの摩擦を軽減できる。
【0020】
また、前記摺動シートにおいて、所定面積の対向面における接触部の面積の割合は、50%以下である構成としてもよい。
【0021】
また、前記摺動シートにおいて、対向面は、複数の多角形の辺が尾根となる凹凸形状に形成され、接触部は、多角形の辺に位置し、凹部は、接触部に囲まれている構成としてもよい。
【0022】
これによれば、凹部が接触部に囲まれているため、グリースを保持しやすい。
【0023】
また、前記摺動シートにおいて、多角形は、正方形である構成としてもよい。
【0024】
これによれば、凹凸形状がシンプルであるので、摺動シートを製造しやすい。
【0025】
また、前記摺動シートにおいて、接触部は、無端ベルトの回転方向に対して斜めに延びている構成としてもよい。
【0026】
これによれば、接触部が延びる方向は、回転方向に平行ではなく、無端ベルトの回転方向に直交する方向でもないので、無端ベルトが回転したときに生ずる回転方向におけるニップ圧のムラを抑制できる。
【0027】
また、前記摺動シートにおいて、接触部には、接触部の延びる方向に沿って延びる溝が形成されている構成としてもよい。
【0028】
これによれば、溝にグリースを保持できるので、さらに摺動シートと無端ベルトとの摩擦を軽減できる。
【0029】
また、前記摺動シートにおいて、溝の深さは、凹部の深さの0.1~0.005倍である構成としてもよい。
【0030】
また、前記摺動シートにおいて、溝は、無端ベルトの移動する方向に向かうにつれて、摺動シートの幅方向の中央に近づく方向に延びた第1溝と、無端ベルトの移動する方向に向かうにつれて、摺動シートの幅方向の中央から離れる方向に延びた第2溝と、を有し、第1溝は、連続して延びており、第2溝は、第1溝に分断されている構成としてもよい。
【0031】
これによれば、無端ベルトが移動すると、第1溝によって、グリースを摺動シートの幅方向における中央に寄せることができる。第2溝は第1溝に分断されているので、グリースは外側に移動し難い。
【0032】
また、加圧パッドは、第1加圧パッドと、第1加圧パッドより無端ベルトの回転方向の下流に配置される第2加圧パッドと、を有する構成としてもよい。
【0033】
これによれば、加圧パッドが2つのパッドで形成されていることで、ニップ幅を長く確保できる。
【0034】
また、第2加圧パッドは、第1加圧パッドよりデュロメータ硬さが高い構成としてもよい。
【0035】
これによれば、柔らかい第1加圧パッドで押圧する範囲を長く確保でき、硬い第2加圧パッドで例えば光沢などの画質を適切に調整できる。
【0036】
また、第2加圧パッドは、第1加圧パッドから離れて位置し、回転体と無端ベルトとが接触するニップ部のうち、第1加圧パッドおよび第2加圧パッドのいずれにも押圧されてない範囲は、ニップ部の全範囲の20~50%である構成としてもよい。
【0037】
これによれば、2つのパッドに間隔があることで、ニップ幅を長く確保でき、かつ、ニップ部における無端ベルトと摺動シートの摩擦を軽減することができる。
【0038】
また、第2加圧パッドの押圧範囲は、ニップ部の全範囲の10~20%である構成としてもよい。
【0039】
これによれば、押圧力の高い第2加圧パッドの押圧範囲を小さくすることで、無端ベルトと摺動シートの摩擦を軽減することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、無端ベルトと摺動シートの摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザプリンタを示す断面図である。
図2】定着装置を示す断面図である。
図3図2における無端ベルトと摺動シートの一部を拡大して示す図である。
図4】摺動シートの対向面を拡大して示す斜視図である。
図5】摺動シートの対向面の平面図である。
図6】摺動シートの他の形態を示す斜視図(a),(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、発明の一実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、実施形態に係る定着装置8は、レーザプリンタなどの画像形成装置1で使用される。画像形成装置1は、本体筐体2と、シート供給部3と、露光装置4と、現像剤像形成部5と、定着装置8とを備えている。
【0043】
シート供給部3は、本体筐体2内の下部に設けられ、紙などのシートSが収容されるシートトレイ31と、シート供給機構32とを備えている。シートトレイ31内のシートSは、シート供給機構32により現像剤像形成部5に供給される。
【0044】
露光装置4は、本体筐体2内の上部に配置され、図示しない光源装置、符号を省略して示すポリゴンミラー、レンズ、反射鏡などを備えている。露光装置4は、光源装置から出射される画像データに基づく光ビーム(一点鎖線参照)を感光体ドラム61の表面で高速走査することで、感光体ドラム61の表面を露光する。
【0045】
現像剤像形成部5は、露光装置4の下方に配置されている。現像剤像形成部5は、プロセスカートリッジとして構成され、本体筐体2の前部に設けられたフロントカバー21を開いたときにできる開口から本体筐体2に対して着脱可能となっている。現像剤像形成部5は、感光体ドラム61と、帯電器62と、転写ローラ63と、現像ローラ64と、供給ローラ65と、乾式トナーからなる現像剤を収容する現像剤収容部66とを備えている。
【0046】
現像剤像形成部5は、帯電器62により感光体ドラム61の表面を一様に帯電する。その後、感光体ドラム61は、露光装置4からの光ビームにより表面が露光されることで、表面に画像データに基づく静電潜像が形成される。また、現像剤像形成部5は、現像剤収容部66内の現像剤を、供給ローラ65を介して現像ローラ64に供給する。
【0047】
そして、現像剤像形成部5は、現像ローラ64上の現像剤を感光体ドラム61上に形成された静電潜像に供給する。これにより、静電潜像が可視像化され、感光体ドラム61上に現像剤像が形成される。その後、現像剤像形成部5は、シート供給部3から供給されたシートSを感光体ドラム61と転写ローラ63との間で搬送することにより感光体ドラム61上の現像剤像をシートSに転写する。
【0048】
定着装置8は、現像剤像形成部5の後方に配置されている。定着装置8の詳細については後述する。定着装置8は、現像剤像が転写されたシートSを通過させることにより現像剤像をシートSに熱定着する。画像形成装置1は、現像剤像が熱定着されたシートSを搬送ローラ23と排出ローラ24により本体筐体2の外の排紙トレイ22上に排出する。
【0049】
図2に示すように、定着装置8は、加熱ユニット81と、加圧ユニット82とを備えている。加圧ユニット82は、図示せぬ押圧機構によって加熱ユニット81に向けて付勢されている。なお、以下の説明では、加圧ユニット82を加熱ユニット81に付勢する方向を、「所定方向」と称する。本実施形態では、所定方向は、後述する幅方向および移動方向と直交する方向であり、加熱ユニット81と加圧ユニット82が向かい合う方向である。
【0050】
加熱ユニット81は、ヒータ110と、回転体120とを備えている。また、加圧ユニット82は、無端ベルト130と、加圧パッドPと、ホルダ140と、摺動シート150と、上流ベルトガイド160と、下流ベルトガイド170と、ステイ180と、グリースGRとを備えている。なお、以下の説明では、無端ベルト130の幅方向を単に「幅方向」という。幅方向は、回転体120の回転軸線X1が延びる方向である。幅方向は、所定方向に直交している。
【0051】
ヒータ110は、回転体120と無端ベルト130との少なくとも一方を加熱する。本実施形態では、ヒータ110は、回転体120の内側に配置されており、回転体120を加熱する。
【0052】
回転体120は、円筒状のローラであり、素管121と、弾性層122とを有している。素管121は、金属製のパイプである。弾性層122は、回転軸線X1を中心に回転可能である。回転体120は、画像形成装置1に設けられた図示しないモータによって駆動されて回転する。弾性層122は、素管121の外周に設けられている。別の言い方をすると、回転体120は、表面に弾性層122を有する。弾性層122は、弾性を有している。
【0053】
無端ベルト130は、金属などからなる無端状のベルトである。無端ベルト130は、画像形成装置1で搬送される最大のシートSの幅よりも大きな幅を有する。無端ベルト130は、回転体120の外周面に接触する。無端ベルト130は、回転体120との間でシートSを挟んで搬送する。無端ベルト130は、回転体120が回転したときに回転体120またはシートSとの摩擦によって図2の時計回りに従動回転する。
【0054】
加圧パッドPは、回転体120との間で無端ベルト130、摺動シート150およびシートSを挟んでニップ部NPを形成する部材である。なお、以下の説明では、ニップ部NPにおける無端ベルト130の移動方向を単に「移動方向」という。なお、本実施形態において、移動方向は、回転体120の外周面に沿った方向であるが、この方向は、おおよそ所定方向と幅方向に直交する方向に沿った方向であるため、所定方向と幅方向に直交する方向として図示することとする。なお、移動方向は、ニップ部NPでのシートSの搬送方向と同じ方向である。
【0055】
加圧パッドPは、第1加圧パッドP1と、第2加圧パッドP2とを有する。第2加圧パッドP2は、第1加圧パッドから移動方向の下流側に離れて位置する。第2加圧パッドP2は、第1加圧パッドP1よりデュロメータ硬さが高い。
【0056】
デュロメータ硬さは、ISO7619-1に規定されている。デュロメータ硬さは,規定した条件下で試験片に規定の押針を押し込んだときの押針の押込み深さから得られる値である。例えば、弾性層122のデュロメータ硬さが5の場合、第1加圧パッドP1のデュロメータ硬さは6~10、第2加圧パッドP2のデュロメータ硬さは70~90であることが好ましい。
【0057】
第1加圧パッドP1は、直方体状の部材である。第1加圧パッドP1は、シリコンゴムなどのゴムからなる。第1加圧パッドP1は、弾性を有し、弾性変形可能である。第1加圧パッドP1は、弾性層122よりも厚みが大きいので、回転体120と第1加圧パッドP1が互いに押し付けられた場合に、弾性層122の変形量は、第1加圧パッドP1の変形量より小さい。第1加圧パッドP1は、回転体120との間で無端ベルト130を挟んで第1ニップ部NP1を形成する。
【0058】
第2加圧パッドP2は、直方体状の部材である。第2加圧パッドP2は、シリコンゴムなどのゴムからなる。第2加圧パッドP2は、弾性を有し、弾性変形可能である。第2加圧パッドP2は、弾性層122よりもデュロメータ硬さが高いが、第2加圧パッドP2は、弾性層122よりも厚みが大きいので、回転体120と第1加圧パッドP1が互いに押し付けられた場合に、弾性層122の変形量は、第1加圧パッドP1の変形量より小さい。第2加圧パッドP2は、回転体120との間で無端ベルト130を挟んで第2ニップ部NP2を形成する。
【0059】
移動方向において、第1ニップ部NP1と第2ニップ部NP2との間には、加圧ユニット82からの圧力が直接作用しない第3ニップ部NP3が存在する。この第3ニップ部NP3では、無端ベルト130は回転体120に接触するものの、回転体120との間で無端ベルト130を挟む部材が存在しないため、圧力はほとんど加わらない。従って、シートSは、回転体120によって加熱されつつ、ほぼ加圧されることなく第3ニップ部NP3を通過する。本実施形態では、第1ニップ部NP1の上流端から第2ニップ部NP2の下流端までの領域、即ち、無端ベルト130の外周面と回転体120とが接触する全ての領域をニップ部NPと称する。つまり、本実施形態では、ニップ部NPは、第1加圧パッドP1および第2加圧パッドP2からの押圧力が加わらない部分を含む。
【0060】
回転体120と無端ベルト130とが接触するニップ部NPのうち、第1加圧パッドP1および第2加圧パッドP2のいずれにも押圧されてない範囲、すなわち第3ニップ部NP3の移動方向における大きさは、ニップ部NPの全範囲の移動方向における大きさの20~50%である。第2加圧パッドP2の押圧範囲、すなわち第2ニップ部NP2の移動方向における大きさは、ニップ部NPの全範囲の移動方向における大きさの10~20%である。
【0061】
ホルダ140は、加圧パッドNを保持する部材である。
【0062】
摺動シート150は、無端ベルト130の内周面131と加圧パッドPとの間で挟まれて配置されている。摺動シート150は、無端ベルト130の内周面131に接する。回転体120が回転した場合、摺動シート150は、無端ベルト130と常に接触する。これに対し、回転体120が回転した場合、無端ベルト130の内周面の各部は、摺動シート150と接触する状態と接触しない状態を交互に繰り返す。
【0063】
摺動シート150は、シート状の部材である。摺動シート150は、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる。本実施形態では、摺動シート150は、ポリイミドからなる。すなわち、本実施形態では、無端ベルト130の基材と摺動シート150の基材は、共にポリイミドである。なお、摺動シート150は、表面に各種コーティングがされたものを採用することができる。
【0064】
図3に示すように、摺動シート150は、無端ベルト130の内周面131に対向する対向面151を有している。図4に示すように、対向面151は、複数の多角形の辺が尾根となる凹凸形状に形成されている。本実施形態では、対向面151は、複数の正方形の辺が尾根となる凹凸形状に形成されている。対向面151は、無端ベルト130に接触する接触部152と、無端ベルト130に接触しない複数の凹部153とを有する。
【0065】
所定面積の対向面151における接触部152の面積の割合は、50%以下である。接触部152は、対向面151に形成された正方形の辺に位置する。接触部152は、無端ベルト130の回転方向すなわち移動方向に対して斜めに延びている。接触部152には、接触部152の延びる方向に沿って延びる溝154が形成されている。
【0066】
溝154は、無端ベルト130の移動方向に対して斜めに延びている。溝154の深さは、凹部153の深さの0.1~0.005倍である。溝154は、第1溝154Aと、第2溝154Bと、を有している。
【0067】
図5に示すように、第1溝154Aは、無端ベルト130の移動方向に向かうにつれて、摺動シート150の幅方向の中央Cに近づく方向に延びている。第1溝154Aは、連続して延びている。第2溝154Bは、無端ベルト130の移動方向に向かうにつれて、摺動シート150の幅方向の中央Cから離れる方向に延びている。第2溝154Bは、第1溝154Aに分断されて途切れ途切れに延びている。
【0068】
凹部153は、接触部152から、無端ベルト130から離れる方向に凹む部分である。凹部153は、接触部152に囲まれている。図4に示すように、本実施形態では、接触部152が正方形に形成されているので、凹部153は、底を頂点とする四角錐形状である。
【0069】
無端ベルト130は、基材がガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂からなる。ガラス転移温度140℃以上の耐熱樹脂は、例えば、ポリイミド(ガラス転移温度220℃)、ポリエーテルエーテルケトン(ガラス転移温度143℃)、ポリエーテルイミド(ガラス転移温度216℃)などである。本実施形態では、無端ベルト130は、ポリイミドからなる。なお、無端ベルト130は、表面がフッ素樹脂などでコーティングがされていてもよい。
【0070】
無端ベルト130のナノインデンテーション法による微小硬度は、摺動シート150の微小硬度より大きい。微小硬度は、日本工業規格JIS Z2255で規定される超微小負荷硬さ試験方法に準じて測定されるものある。微小硬度は、無端ベルト130の内周面131、摺動シート150の対向面151における接触部152の微小硬度である。例えば、微小硬度は、無端ベルト130、摺動シート150の材料であるフィルム材を使って測定してもよい。
【0071】
無端ベルト130の回転方向に沿って測定した無端ベルト130の内周面131の表面粗さRaは、回転方向に沿って測定した摺動シート150の無端ベルト130に対向する対向面151の表面粗さRaより小さい。表面粗さRaは、日本工業規格JIS B0601で規定される方法に準じて測定されるものである。
【0072】
図2に戻り、上流ベルトガイド160は、シートSの搬送方向におけるニップ部NPよりも上流で無端ベルト130の移動を案内する部材である。上流ベルトガイド160は、無端ベルト130が滑らかに回転できるような曲面を有する。
【0073】
下流ベルトガイド170は、シートSの搬送方向におけるニップ部NPよりも下流で無端ベルト130の移動を案内する部材である。上流ベルトガイド160は、無端ベルト130が滑らかに回転できるような曲面を有する。
【0074】
ステイ180は、ホルダ140、上流ベルトガイド160および下流ベルトガイド170を支持する部材である。ステイ180は、金属板をプレス成形してなる。
【0075】
グリースGRは、無端ベルト130と摺動シート150の間に設けられ、無端ベルト130と摺動シート150の間の摩擦を軽減するためのものである。グリースGRは、無端ベルト130の内周面131、摺動シート150の接触部152、凹部153および溝154に位置している。
【0076】
グリースGRは、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含んでいる。グリースGRは、ちょう度が、25℃において330~385であることが望ましい。グリースGRは、ちょう度が、25℃において335~350であることがさらに望ましい。グリースGRの降伏応力は、50~250Paである。
【0077】
グリースGRのちょう度と降伏応力は、基油と増ちょう剤の配合比によって調整することができる。
【0078】
ちょう度は、日本工業規格JIS K2220で規定される方法に準じて測定されるものある。グリースGRのちょう度は、25℃で、ちょう度計に取り付けた円すいを、つぼに満たした試料に落下させ、5秒間進入した深さを読み取って求める(JIS K2220 7.1参照)。
【0079】
本願における降伏応力は、貯蔵弾性率G′=損失弾性率G″となるときの応力値である。貯蔵弾性率G′と損失弾性率G″は、日本工業規格JIS K7244-10で規定されるレオメータ(粘弾性測定装置)で測定される。この場合において、レオメータの測定周波数は1Hzとしている。
貯蔵弾性率G′および損失弾性率G″は、歪を徐々に大きくしながら、応力を測定していくと、歪γ0、位相差δ、応力ピークσ0が測定できる。
貯蔵弾性率G′は、弾性体成分ピーク値を歪のピーク値で割ったものである(G′=σ0×cosδ÷γ0)。
損失弾性率G″は、粘性体成分ピーク値を歪のピーク値で割ったものである(G″=σ0×sinδ÷γ0)。
【0080】
基油はフッ素油からなる。フッ素油は、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)である。本実施形態では、基油は、パーフルオロポリエーテルを含む。本実施形態の基油の粘度は、40℃で100~400mm/Sである。
【0081】
増ちょう剤は、フッ素を含む固体潤滑剤からなる。本実施形態では、フッ素を含む固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0082】
添加材は、結晶が層状であり、フッ素を含まない固体潤滑剤である。フッ素を含まない層状の固体潤滑剤は、例えば、メラミンシアヌレート(MCA)、二硫化モリブデン、グラファイトである。本実施形態では、固体潤滑剤はメラミンシアヌレート(MCA)である。メラミンシアヌレートの粒径は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒径より10~20倍大きい。
【0083】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
摺動シート150は、無端ベルト130と常に接触しているのに対し、無端ベルト130の内周面の各部は、摺動シート150と接触する状態と接触しない状態を交互に繰り返している。このような場合、連続的に摺動している摺動シート150よりも間欠的に摺動している無端ベルト130の摩耗が早くなってしまう。
本実施形態の定着装置8では、無端ベルト130と摺動シート150が共に、ポリイミドからなるが、無端ベルト130のナノインデンテーション法による微小硬度は、摺動シート150の微小硬度より大きいので、無端ベルト130の摩耗を抑制することができる。この結果、定着装置8は、無端ベルト130が摺動シート150に対して必要以上に早く摩耗することなく、バランスよく摩耗していくので、定着装置8の寿命が長くなる。
【0084】
また、無端ベルトの回転方向に沿って測定した無端ベルト130の内周面131の表面粗さRaは、回転方向に沿って測定した摺動シートの表面粗さRaより小さい。表面粗さRaが大きいほど摩耗しやすくなるので、無端ベルト130の表面粗さRaを摺動シート150の表面粗さRaより小さくすることで無端ベルト130と摺動シート150の摩耗を抑制できる。
【0085】
また、無端ベルト130と摺動シート150の間に配置されたグリースGRは、パーフルオロポリエーテルを含む基油と、ポリテトラフルオロエチレンを含むので、無端ベルト130と摺動シート150の摩耗を抑制できる。
【0086】
また、グリースGRは、添加剤として、結晶が層状であり、フッ素を含まない固体潤滑剤であるメラミンシアヌレートをさらに含むので、無端ベルト130と摺動シート150の摩耗をさらに抑制できる。
【0087】
また、摺動シート150の対向面151は、無端ベルト130に接触する接触部152と、複数の凹部153とを有する。このため、摺動シート150は、無端ベルト130と摺動シート150との接触面積を減らすことができ、無端ベルト130と摺動シート150の摩擦を軽減できる。また、摺動シート150の凹部153にグリースGRを保持できるので、さらに摺動シート150と無端ベルト130との摩擦を軽減できる。
【0088】
また、摺動シート150の凹部153が接触部152に囲まれているため、グリースGRを保持しやすい。
【0089】
また、摺動シート150は、複数の正方形の辺が尾根となる凹凸形状に形成されている。摺動シート150の凹凸形状がシンプルであるので、摺動シート150を製造しやすい。
【0090】
また、摺動シート150は、接触部152が無端ベルト130の回転方向に対して斜めに延びている。このため、無端ベルト130が回転したときに生ずる回転方向におけるニップ圧のムラを抑制できる。
【0091】
また、摺動シート150は、接触部152には、接触部152の延びる方向に沿って延びる溝154が形成されている。このため、溝154にグリースGRを保持できるので、さらに摺動シート150と無端ベルト130との摩擦を軽減できる。
【0092】
また、摺動シート150の溝154は、第1溝154Aと第2溝154Bを有している。図5に示すように、第1溝154Aは、摺動シート150の幅方向の中央Cに近づく方向に延び、かつ、連続して延びているため、無端ベルト130が移動すると、第1溝154Aによって、グリースGRを摺動シート150の幅方向における中央Cに寄せることができる。一方、第2溝154Bは、第1溝154Aに分断されているので、グリースGRは外側に移動し難い。
【0093】
また、加圧パッドPは、第1加圧パッドP1と、第2加圧パッドP2とを有する。このため、ニップ幅を長く確保できる。
【0094】
また、第2加圧パッドP2は、第1加圧パッドP1より硬いので、柔らかい第1加圧パッドP1で押圧する範囲を長く確保でき、硬い第2加圧パッドP2で例えば光沢などの画質を適切に調整できる。
【0095】
また、図2に示すように、ニップ部NPのうち、第1加圧パッドP1および第2加圧パッドP2のいずれにも押圧されてない範囲(第3ニップ部NP3)は、ニップ部NPの全範囲の20~50%である。このため、第1加圧パッドP1、第2加圧パッドP2に間隔があることで、ニップ幅を長く確保でき、かつ、ニップ部NPにおける無端ベルト130と摺動シート150の摩擦を軽減することができる。
【0096】
また、第2加圧パッドP2の押圧範囲は、ニップ部NPの全範囲の10~20%である。このため、押圧力の高い第2加圧パッドP2の押圧範囲を小さくすることで、無端ベルト130と摺動シート150の摩擦を軽減することができる。
【0097】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
【0098】
前記実施形態では、回転体として、ヒータ110を内蔵した円筒状のローラを例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ヒータによって内周面が加熱される無端ベルトであってもよい。また、ヒータを回転体の外部に配置し、回転体の外周面を加熱する外部加熱方式や、IH(Induction Heating)方式でもよい。また、無端ベルトの内部にヒータを配置し、無端ベルトの外周面に接触する回転体を間接的に加熱してもよい。また、回転体と無端ベルトがそれぞれヒータを内蔵していてもよい。
【0099】
前記実施形態では、無端ベルト130の基材と摺動シート150の基材は、共にポリイミドであったが、本発明はこれに限定されず、無端ベルトの基材と、摺動シートの基材と、の少なくとも一方がポリイミドである構成としてもよい。
例えば、無端ベルトの基材がポリイミドからなり、摺動シートの基材が他の耐熱樹脂からなる構成であってもよい。また、無端ベルトの基材が他の耐熱樹脂からなり、摺動シートの基材がポリイミドからなる構成であってもよい。
【0100】
また、無端ベルト130の基材と摺動シート150の基材が共にポリイミドでない構成としてもよい。
【0101】
前記実施形態では、摺動シート150の対向面151は、複数の正方形の辺が尾根となる凹凸形状に形成されていたが、本発明はこれに限定されず、長方形、平行四辺形、または四角形以外に多角形であってもよい。例えば、図6(a)に示すように、摺動シート250の対向面は、複数の六角形の辺が尾根となる凹凸形状に形成されている。また、図6(b)に示すように、摺動シート350の対向面は、複数の三角形の辺が尾根となる凹凸形状に形成されている。このような摺動シート250,350であっても、前記実施形態と同様な効果が得られる。なお、図6(a),(b)では、接触部に形成された溝を省略しているが、前記実施形態と同様に溝が形成されている構成とすることができる。
【0102】
前記した実施形態および変形例で説明した各要素を、任意に組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 画像形成装置
8 定着装置
110 ヒータ
120 回転体
121 素管
122 弾性層
130 無端ベルト
131 内周面
140 ホルダ
150 摺動シート
151 対向面
152 接触部
153 凹部
154 溝
154A 第1溝
154B 第2溝
GR グリース
N 加圧パッド
NP ニップ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6