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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008967
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】生化学分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/03 20060101AFI20220106BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220106BHJP
   G01N 21/11 20060101ALI20220106BHJP
   G01N 27/27 20060101ALI20220106BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220106BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220106BHJP
   G01N 35/02 20060101ALI20220106BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220106BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20220106BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220106BHJP
【FI】
G01N21/03 Z
G01N21/64 F
G01N21/11
G01N27/27 C
G01N33/50 P
G01N33/68
G01N35/02 A
C12M1/34 E
C12M1/34 Z
C12Q1/48
C12Q1/48 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165703
(22)【出願日】2021-10-07
(62)【分割の表示】P 2018514713の分割
【原出願日】2017-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2016089362
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】松川 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】星野 昭裕
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
2G057
2G058
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA03
2G043DA01
2G043DA05
2G043DA06
2G043DA08
2G043EA01
2G043EA13
2G043EA17
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2G043HA15
2G043KA01
2G043KA02
2G043KA05
2G043KA09
2G043LA01
2G043MA01
2G043NA06
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FA11
2G057AA01
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2G057AA20
2G057AB01
2G057AB04
2G057AB06
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2G057AD01
2G057BA03
2G057BB06
2G057BD01
2G057BD02
2G057BD03
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2G057BD06
2G057BD08
2G057CB01
2G057DA06
2G057DA07
2G057DA11
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2G057DC07
2G057JB10
2G058CC02
2G058CC14
2G058CC17
2G058CC19
2G058GA01
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4B063QQ62
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4B063QR35
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4B063QR56
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4B063QR66
4B063QS02
4B063QS03
4B063QS24
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】光透過性を有する樹脂が高い精度で溶着されているとともに、明視野観察における十分な明るさを得ることができる反応容器及びこれを用いた生化学分析方法を提供する。
【解決手段】反応容器1は、第一表面に開口する複数の凹部を有する透明な基材2と、第一表面のうち複数の凹部を含んだ領域の内側において第一表面との間に隙間が空いた状態となるように領域の外側において基材に対して溶着された赤外線吸収性のカバー部材4とを備える。カバー部材において、波長532nmの光および波長632nmの光の透過率は0.01%以上47%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一表面に開口する複数の凹部を有する透明な基材と、
前記第一表面のうち前記複数の凹部を含んだ領域の内側において前記第一表面との間に隙間が空いた状態となるように前記領域の外側において前記基材に対して溶着された赤外線吸収性のカバー部材と、
を備え、
前記カバー部材において、波長532nmの光および波長632nmの光の透過率が0.01%以上47%以下である、
反応容器。
【請求項2】
前記カバー部材は、可視光の波長域のうち480nm以上570nm以下の範囲の光の透過率が25%以上である、
請求項1に記載の反応容器。
【請求項3】
前記第一表面に対して垂直な方向において、前記カバー部材における前記第一表面側の赤外線吸収率が最も高い、
請求項1に記載の反応容器。
【請求項4】
前記凹部内に収容される液体に接触可能となるように前記凹部内に配された検出電極をさらに備える、
請求項1に記載の反応容器。
【請求項5】
前記領域を前記第一表面に複数有し、
複数の前記領域が互いに独立した複数の反応区画となるように複数の前記領域のそれぞれの外周が前記カバー部材に溶着されている、
請求項1に記載の反応容器。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の反応容器を用いた生化学分析方法であって、
前記凹部に一つの検出対象物質が入るように希釈された試料を前記基材と前記カバー部材との間の前記隙間に送液する送液工程と、
前記隙間に油性の封止液を送液して複数の凹部を個別に封止する封止工程と、
前記封止工程の後、前記凹部内の試料に対して前記一部の範囲の光を用いて明視野観察を行う第一観察工程と、
前記封止工程の後、前記凹部内の試料に前記基材を通じて励起光を照射するとともに前記励起光に対応して前記試料が発する蛍光を観察する第二観察工程と、
を含む、
生化学分析方法。
【請求項7】
前記封止工程の後、前記第二観察工程の前に、前記凹部内でシグナル増幅反応を行う反応工程をさらに含む、
請求項6に記載の生化学分析方法。
【請求項8】
前記シグナル増幅反応が酵素反応である、
請求項7に記載の生化学分析方法。
【請求項9】
前記酵素反応が等温反応である、
請求項8に記載の生化学分析方法。
【請求項10】
前記酵素反応がインベーダー反応である、
請求項8に記載の生化学分析方法。
【請求項11】
前記試料は、分析対象物となるDNA,RNA,miRNA,mRNA,又はタンパク質と、前記分析対象物に対する特異的標識物質と、を含む、
請求項6から請求項10のいずれか一項に記載の生化学分析方法。
【請求項12】
前記分析対象物は核酸を含み、
前記特異的標識物質は、前記分析対象物とは異なる核酸,酵素,粒子,抗体,及びリポソームの少なくとも一つを含む、
請求項11に記載の生化学分析方法。
【請求項13】
前記封止液は、フッ素系オイルとシリコン系オイルとの少なくともいずれかを含む、
請求項6に記載の生化学分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器及び生化学分析方法に関する。
本願は、2016年4月27日に日本に出願された特願2016-089362号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体分子を解析することによって疾患や体質の診断を行うことが知られている。
例えば、DNA内に記録されている一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)解析による体質診断、体細胞変異解析による抗がん剤の投与判断、ウイルスのタンパク質の解析による感染症対策等が知られている。
【0003】
例えば、がんの治療薬では、EGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)の投与前後でEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異の増幅量(コピー数)を定量することで、治療効果の指標とできることが示唆されている。従来、リアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を用いた定量が行われていたが、検査に使用された核酸の総量が変化することが定量性に影響を与えることがわかっており、今日では核酸の総量が定量性に影響しないデジタルPCR技術が開発されている。
【0004】
デジタルPCR技術とは、PCR試薬と核酸との混合物を多数の微小液滴に分割し、これらの微小液滴に対して、混合物中の核酸のうち検出対象となる核酸を鋳型とするPCR増幅を行うことにより、鋳型核酸を含んだ微小液滴からPCR増幅による蛍光等のシグナルを検出し、微小液滴の全数のうちシグナルが検出された微小液滴の割合を求めることによって、試料中の核酸を定量するデジタル解析技術のひとつである。
【0005】
デジタル解析技術は、混合物および微小液滴と結びつき発光する蛍光ビーズを封止して、顕微鏡で読み取り可能にするための封入容器を必要とする。この封入した容器内では、各蛍光ビーズと液滴を個別に判別可能にするため、容器内の底面にビーズが収まる微小な穴を均等に配置し、ビーズがそれぞれの穴に収まるよう、流し込みと封止を行う。
【0006】
デジタルPCRでは、1つの微小液滴に存在する鋳型となる核酸が0個ないし1個になるように、PCR反応試薬と核酸との混合物は希釈されている。デジタルPCRでは、核酸増幅の感度を高めるために、また多数の微小液滴に対して同時に核酸増幅を行うために、各微小液滴の体積は小さい方が好ましい。例えば、特許文献1には、各ウェルの容積が6nl(ナノリットル)となるように形成されたマイクロアレイ状の反応容器が開示されている。また、特許文献2には、深さ3μm、直径5μmのウェルが流路内に多数形成されたマイクロアレイに対して流路に試料を流して各ウェルに試料を導入した後、流路内の余剰試薬を封止液で押し出すことによって、各ウェル内に試料を導入する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/151135号
【特許文献2】国際公開第2014/007190号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
流路を有するマイクロアレイ状の反応容器は、複数の樹脂部材を溶着することによって製造することができる。デジタルPCRなどのデジタル解析技術では、反応容器内における反応状態を可視光や蛍光を用いて観察することがあり、反応容器には光透過性が求められることがある。樹脂部材同士を高い精度で溶着する技術として、光透過性を有する樹脂部材と光吸収性を有する樹脂部材とをレーザー溶着するレーザー透過溶着法が知られている。しかしながら、レーザー透過溶着法によって溶着された複数の樹脂部材は、光吸収性を有する樹脂部材を有しているので、全体としての光透過性が低く、可視光を用いた明視野観察をする場合に、視野が暗くなってしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、光透過性を有する樹脂が高い精度で溶着されているとともに、明視野観察における十分な明るさを得ることができる反応容器及びこれを用いた生化学分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一態様に係る反応容器は、第一表面に開口する複数の凹部を有する透明な基材と、前記第一表面のうち前記複数の凹部を含んだ領域の内側において前記第一表面との間に隙間が空いた状態となるように前記領域の外側において前記基材に対して溶着された赤外線吸収性のカバー部材と、を備え、前記カバー部材は、波長532nmの光および波長632nmの光の透過率が0.01%以上47%以下である。
【0011】
上記第一態様において、前記カバー部材は、可視光の波長域のうち480nm以上570nm以下の範囲の光の透過率が25%以上であってもよい。
【0012】
上記第一態様において、前記第一表面に対して垂直な方向において、前記カバー部材における前記第一表面側の赤外線吸収率が最も高くてもよい。
【0013】
上記第一態様において、上記態様の反応容器は、前記凹部内に収容される液体に接触可能となるように前記凹部内に配された検出電極をさらに備えていてもよい。
【0014】
上記第一態様に係る反応容器は、前記領域を前記第一表面に複数有し、複数の前記領域が互いに独立した複数の反応区画となるように複数の前記領域のそれぞれの外周が前記カバー部材に溶着されていてもよい。
【0015】
本発明の第二態様に係る生化学分析方法は、上記第一態様の反応容器を用いた生化学分析方法であって、前記凹部に一つの検出対象物質が入るように希釈された試料を前記基材と前記カバー部材との間の前記隙間に送液する送液工程と、前記隙間に油性の封止液を送液して複数の凹部を個別に封止する封止工程と、前記封止工程の後、前記凹部内の試料に対して前記一部の範囲の光を用いて明視野観察を行う第一観察工程と、前記封止工程の後、前記凹部内の試料に前記基材を通じて励起光を照射するとともに前記励起光に対応して前記試料が発する蛍光を観察する第二観察工程と、を含む。
【0016】
上記第二態様に係る生化学分析方法は、前記封止工程の後、前記第二観察工程の前に、前記凹部内でシグナル増幅反応を行う反応工程をさらに含んでもよい。
【0017】
上記第二態様において、前記シグナル増幅反応は、酵素反応であってもよい。
上記第二態様において、前記酵素反応は、等温反応であってもよい。
上記第二態様において、前記酵素反応は、インベーダー反応であってもよい。
【0018】
上記第二態様において、前記試料は、分析対象物となるDNA,RNA,miRNA,mRNA,又はタンパク質と、前記分析対象物に対する特異的標識物質と、を含んでいてもよい。
【0019】
上記第二態様において、前記分析対象物は核酸を含んでいてもよく、前記特異的標識物質は、前記分析対象物とは異なる核酸,酵素,粒子,抗体,及びリポソームの少なくとも一つを含んでいてもよい。
なお、粒子としては、ポリマービーズ、磁性ビーズ、蛍光ビーズ、蛍光標識磁性ビーズ、シリカビーズ、金属コロイドが挙げられる。
【0020】
上記第二態様において、前記封止液は、フッ素系オイルとシリコン系オイルとの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記態様に係る反応容器によれば、光透過性を有する樹脂が高い精度で溶着されているとともに、明視野観察における十分な明るさを得ることができる。
本発明の上記態様に係る生化学分析方法によれば、上記の反応容器を用いて明視野観察及び蛍光観察をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る反応容器の概観図である。
図2】本発明の一実施形態に係る反応容器の断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が透明である場合に対応する構成の反応容器を用いた明視野観察結果を示す写真である。
図4】本発明の一実施形態に係る反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が透明である場合に対応する構成の反応容器を用いた蛍光観察結果を示す写真である。
図5】本発明の一実施形態に係る反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光透過性を有して着色されている場合に対応する構成の反応容器を用いた明視野観察結果を示す写真である。
図6】本発明の一実施形態に係る反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光透過性を有して着色されている場合に対応する構成の反応容器を用いた蛍光観察結果を示す写真である。
図7】本発明の一実施形態に係る反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光不透過である場合に対応する構成の反応容器を用いた明視野観察結果を示す写真である。
図8】本発明の一実施形態に係る反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光不透過である場合に対応する構成の反応容器を用いた蛍光観察結果を示す写真である。
図9】実施例2において、光の透過率の異なるカバー部材を有する複数の反応容器に対して明視野観察及び蛍光観察を行った結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の反応容器1の概観図である。図2は、本実施形態の反応容器1の断面図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態の反応容器1は、基材2とカバー部材4とを備えている。
基材2は、光透過性樹脂から形成される。本実施形態の基材2は、実質的に透明である。
基材2は、複数の凹部3を有する。基材2の凹部3は、基材2の表面(第一表面2a)に開口している。凹部3の形状、寸法、および配置は特に限定されない。本実施形態では、反応容器1を用いて行われる生化学分析において使用される一定量の試料を収容可能な同形同大の複数の凹部3が基材2に形成されている。また、反応容器1を用いて行われる生化学分析においてマイクロビーズが使用される場合には、マイクロビーズを1つ収容可能な形状及び寸法を有し、マイクロビーズを含んだ一定量の試料を収容可能な同形同大の凹部3が基材2に形成されている。
【0025】
本実施形態では、例えば、直径2μm以上直径5μm以下のマイクロビーズを収容可能であり容積が約15μlの凹部3が、第一表面2aに垂直な方向から見たときに三角格子状又は正方格子状を形成するように整列して基材2に形成されている。たとえば、直径3μmのマイクロビーズを収容することを想定した場合、凹部3の直径は例えば5μm、凹部3の深さは例えば3μmである。
基材2の第一表面2aのうち、複数の凹部3を含んだ領域は、生化学分析において分析対象となる1種類の試料が充填される領域となっている。この領域の内側では、基材2とカバー部材4との間に隙間(流路)Sが開けられている。
【0026】
カバー部材4は、基材2に対して溶着されている。カバー部材4には、基材2における上記の領域の内側における隙間Sの大きさを規定するためのスペーサ部5が、この領域を囲むように配されている。スペーサ部5は、カバー部材4の一部であり、樹脂から形成される。スペーサ部5は、カバー部材4の下面における外周縁部から基材2に向けて突出するように設けられている。スペーサ部5は、レーザー透過溶着法によって基材2に溶着されている。また、カバー部材4と基材2との間の隙間に試料等を注入するための開口4aがカバー部材4に形成されている。つまり、基材2とカバー部材4とはスペーサ部5を介して互いに溶着されており、基材2、カバー部材4、及びスペーサ部5によって囲まれた領域が流路(隙間)Sとなる。
【0027】
カバー部材4は、赤外線吸収性を有する。たとえば、カバー部材4は、赤外線の吸収を高めるための添加剤を含んだ熱可塑性樹脂から形成される。さらに、カバー部材4は、可視光の波長域のうち少なくとも一部の範囲の光を透過可能である。たとえば、カバー部材4の全光線透過率は、基材2の全光線透過率よりも低く、明視野観察において必要とする明るさを確保できる程度に高い。また、カバー部材4は、赤外領域における透過率が可視光領域における透過率よりも低くてもよい。たとえばカバー部材4は、赤外線不透過であるとともに、可視光については実質的に透明となる程度の透過性を有していてもよい。なお、カバー部材4のうち基材2に接する面は、赤外線の反射率が低いことが好ましい。
カバー部材4は、全体に亘って略均一な光透過性を有している。たとえば、カバー部材4は、シクロオレフィンポリマー(COP)やアクリル樹脂を含む熱可塑性樹脂から形成される。なお、カバー部材4における光透過性が、カバー部材4の厚さ方向に勾配を有していてもよい。たとえば、カバー部材4は、基材2側における光透過性が低く、基材2と反対側における光透過性が高くてもよい。この場合、カバー部材4において基材2の第一表面2a側は最も赤外線吸収率が高い。
【0028】
本実施形態において、カバー部材4の全光線透過率は、0.01~60%であることが好ましく、0.1~60%であることが好ましく、25~50%であることがさらに好ましい。カバー部材4の全光線透過率が、0.01%以上である場合、カバー部材の反対側から光を良好に視認することができる。カバー部材4の全光線透過率が、0.1%以上である場合、顕微鏡による観察時に、露光時間を少なくすることができる。また、カバー部材4の全光線透過率が、60%以下である場合、型が崩れず良好なレーザー溶着を行うことができる。さらに、カバー部材4の全光線透過率が25%以上である場合、明視野観察における十分な明るさを得ることができる。また、カバー部材4の全光線透過率が、50%以下である場合、顕微鏡による観察時のカバー部材の自家蛍光を軽減することができる。
【0029】
本実施形態の反応容器1の作用について、反応容器1の製造工程とともに説明する。
本実施形態の反応容器1の製造には、基材2の材料となる樹脂製の第一板状部材2Aと、カバー部材4の材料となる樹脂製の第二板状部材4Aとを用意する(図1参照)。
【0030】
続いて、第一板状部材2A及び第二板状部材4Aを加工する。
第一板状部材2Aに対しては、板厚方向の一方の面に複数の凹部3が形成される。一例として、図1に示すように、第一板状部材2Aの材料となる樹脂板2bにおける板厚方向の一方の面に、10mm四方の領域内に例えば5μmの直径の微小な孔が格子状に整列して開口するCYTOP(登録商標)(旭硝子)の層2cを形成する。即ち、第一板状部材2Aは樹脂板2bとCYTOPの層2cとを有する。CYTOP(登録商標)に形成された微小な孔が凹部3となる。第一板状部材2Aは、例えば実質的に透明な熱可塑性樹脂にCYTOP(登録商標)が形成されたものであり、少なくとも可視光及び赤外光の領域において実用上は透明と見做せる程度の光透過性を有している。また、第一板状部材は樹脂で一体成型されていてもよい。
樹脂からなる第一板状部材の材質の例としては、シクロオレフィンポリマーや、シクロオレフィンコポリマー、シリコン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、フッ素樹脂、アモルファスフッ素樹脂などが挙げられる。なお、第一板状部材の例として示されたこれらの材質はあくまでも例であり、第一板状部材の材質はこれらには限られない。
【0031】
第二板状部材4Aは、組立時に第一板状部材2A側に向けられる面にスペーサ部5を有するように成形される。たとえば、第二板状部材4Aは、全光線透過率が25%以上50%以下となるように添加剤が混合された熱可塑性樹脂の流動体を成形型を用いて成形することで、スペーサ部5を有する板状に成形される。また、第二板状部材4Aには、試料等を注入するための開口4aが形成される。成形された第二板状部材4Aにおいて第一板状部材2A側に向けられる面は、撥水性を高めるための表面処理が行われる。たとえば、成形された第二板状部材4Aにおいて第一板状部材2A側に向けられる面に、撥水性のコーティング剤を塗布してコーティング剤の層を形成する。
【0032】
第一板状部材2A及び第二板状部材4Aが上記のように成形されたら、第一板状部材2Aにおいて凹部3が開口する側の面(この面が基材2の第一表面2aとなる)に第二板状部材4Aのスペーサ部5が接するように、第一板状部材2Aと第二板状部材4Aとが重ねられる。さらに、第一板状部材2Aと第二板状部材4Aとが上記のように重ねられた状態で、近赤外線以上の長波長(例えば波長が800nm以上)のレーザーL(図1参照)を、第一板状部材2Aを透過させて第二板状部材4Aのスペーサ部5に照射する。スペーサ部5に照射するレーザーとして、固体レーザー(例えばYAGレーザー)や、半導体レーザー(レーザーダイオード)を使用することができる。使用可能なレーザーの波長は、例えば、800nm以上1000nm以下の範囲であってもよい。
【0033】
スペーサ部5に照射されるレーザーは、第一板状部材2Aにはほとんど吸収されず、スペーサ部5に吸収されるので、スペーサ部5を加熱する。これにより、スペーサ部5のうちレーザーが照射された部位が溶融し、さらに、第一板状部材2Aのうちスペーサ部5と接している部分が、スペーサ部5から伝わる熱によって溶融する。スペーサ部5に対するレーザーの照射が終了すると、スペーサ部5および第一板状部材2Aにおける溶融部分の温度が低下することで溶融部分が一体的に硬化する。その結果、第一板状部材2Aと第二板状部材4Aとがスペーサ部5において溶着される。第一板状部材2Aは反応容器1の基材2となり、第二板状部材4Aは反応容器1のカバー部材4となる。
【0034】
本実施形態の反応容器1において、レーザー透過溶着法によって基材2とカバー部材4とが溶着されているので、精密且つ確実な溶着が可能であり、基材2とカバー部材4との間に注入された試料等が漏れにくい。その結果、本実施形態の反応容器1によれば、反応容器1を用いた生化学分析の再現性に優れる。
特に本実施形態では、基材2が実質的に透明であり、カバー部材4の全光線透過率が25%以上であるので、明視野観察における十分な明るさを得ることができる。
このように、本実施形態の反応容器1によれば、光透過性を有する樹脂が高い精度で溶着されているとともに、明視野観察における十分な明るさを得ることができる。カバー部材4の全光線透過率(光学濃度)は、公知の測定方法を用いて測定することができる。なお、可視光透過率から近赤外線以上の長波長の光の透過率を推測することも可能である。例えば、COPでカバー部材を形成する場合、可視光の透過率が92%であると、近赤外線以上の長波長の光の透過率が90%になる。
【0035】
本実施形態の反応容器1を用いた生化学分析の一例を示す。
本実施形態の反応容器1は、試料に対してシグナル増幅反応を行ってシグナルを観察し、試料中の分析対象物の濃度を測定するために利用可能である。
【0036】
まず、反応容器1の凹部3に一分子の検出対象物質が入るように希釈された試料を、カバー部材4の開口4aから、基材2とカバー部材4との間の隙間に送液する(送液工程)。送液工程において送液される試料は、分析対象物となるDNA,RNA,miRNA,mRNA,又はタンパク質を含む。また試料は、分析対象物に対する検出試薬を含む。検出試薬は酵素や緩衝物質などを含む。試薬に含まれる酵素は、例えば解析対象物が核酸である場合には、解析対象物に関連する鋳型核酸に対する酵素反応などの生化学的反応を行うために、生化学的反応の内容に対応して選択される。鋳型核酸に対する生化学的反応は、例えば、鋳型核酸が存在する条件下でシグナル増幅が起こるような反応である。試薬は、例えば核酸を検出可能な方法に応じて選択される。具体的には、インベーダー(登録商標)法や、LAMP法(商標登録)、TaqMan(登録商標)法、又は蛍光プローブ法やその他の方法に使用される試薬が本実施形態の試薬に含まれる。
送液工程において基材2とカバー部材4との間の隙間に送液された試料は、複数の凹部3の内部に収容される。
【0037】
続いて、カバー部材4の開口4aから、基材2とカバー部材4との隙間に、油性の封止液を送液して複数の凹部3を個別に封止する(封止工程)。封止液は、フッ素系オイルとシリコン系オイルとのいずれか一方、またはその混合物等である。
封止工程において、封止液は、上記の送液工程において基材2とカバー部材4との隙間に送液された試料のうち、凹部3に収容されていない試料を置換する。これにより、封止液が複数の凹部3を個別に封止し、凹部3は独立した反応空間となる。
【0038】
続いて、凹部3内で所定の生化学反応を行う(反応工程)。本実施形態の反応工程では、凹部3内でシグナル増幅反応を行う。すなわち、凹部3内に特異的標識物質由来のシグナルが検出されるように、シグナルを観察可能なレベルまで、シグナルを反応工程により増幅させる。シグナルは、蛍光,発色,電位変化,pH変化などが挙げられる。本実施形態では、例えば、反応工程におけるシグナル増幅反応として、凹部3に分析対象物及び特異的標識物質がともに収容されている場合には、蛍光シグナルが増幅される。シグナル増幅反応は、例えば酵素反応である。一例として、シグナル増幅反応は、シグナル増幅のための酵素を含んだ試料が凹部3内に収容された状態で反応容器1を、所望の酵素活性が得られる一定温度条件で所定時間維持する等温反応である。具体例として、シグナル増幅反応として、インベーダー反応を用いることが可能である。この際、凹部3内の試料には、インベーダー反応試薬及び鋳型核酸が含まれている。反応工程における生化学反応がインベーダー反応である場合、等温反応による酵素反応によって、凹部3に分析対象物及び特異的標識物質がともに収容されている場合には、蛍光物質が消光物質から遊離することによって、励起光に対応して所定の蛍光シグナルを発する。
【0039】
反応工程の後、反応工程におけるシグナル増幅反応によって増幅されたシグナルを観察する。
まず、特異的標識物質が収容された凹部3を特定するために、凹部3内におけるマイクロビーズの有無を観察する(第一観察工程)。
第一観察工程では、反応容器1における第一表面2aに対して垂直な方向に照射する白色光を用いた明視野観察を行う。凹部3内にマイクロビーズが存在していればマイクロビーズの影が観察されるので、これによって、基材2上に形成された凹部3のうちマイクロビーズが収容されたビーズを特定することができる。
【0040】
第一観察工程では、複数の凹部3を含む領域のすべて、もしくは一部の区画を撮影し、画像として保存した上で、コンピューターシステムによる画像処理を実施する。
【0041】
次に、特異的標識物質と分析対象物とが凹部3内に共存している場合に上記の反応工程によって増幅するシグナルの有無を観察する(第二観察工程)。
第二観察工程では、たとえば上記のインベーダー反応が行われた場合には、蛍光物質に対応する励起光を、基材2側からカバー部材4側へ、基材2を通じて凹部3内へ照射し、試料に含まれる蛍光物質が発する蛍光を基材2側から観察する。基材2は実質的に透明であるので、蛍光観察に使用される公知の反応容器1と同等の感度で蛍光観察をすることができる。
【0042】
第二観察工程では、複数の凹部3を含む領域のすべて、もしくは一部の区画を撮影し、画像として保存した上で、コンピューターシステムによる画像処理を実施する。
【0043】
このように、本実施形態の反応容器1を用いた生化学分析方法によれば、明視野観察及び蛍光観察を行うことができる。
【0044】
(実験例)
カバー部材4の光透過性の程度が明視野観察及び蛍光観察に及ぼす影響について明らかにした実験例を以下に示す。以下に示す実験例において、本実施形態の反応容器1に相当する構成要素には、対応する符号が付されている。
本実験例では、実験用の反応容器10を製造するために、2枚の透明な樹脂製の板状部材を使用した。2枚の板状部材のうちの一方の板状部材から基材2を形成した。他方の板状部材に対して両面テープによってスペーサ部5を形成し、基材2に接着して上記のカバー部材4の代用とした。
2枚の板状部材の間に、蛍光標識マイクロビーズが分散された液体を注入し、さらに封止液によって複数の凹部3を個別に封止した。凹部3内に蛍光標識マイクロビーズが収容された状態を、蛍光顕微鏡(Olympus社製BX-51)を用いて観察(明視野観察及び蛍光観察)した。
【0045】
本実験例において製造された実験用の反応容器10は、全体として実質的に透明である。本実験例では、この実験用の反応容器10に、光透過性を有する着色フィルムと光不透過の黒色のフィルムとのいずれか一方を貼り付けて観察を行った。本実験例では、カバー部材4に相当する板状部材に上記の各フィルムを貼り付けた。
【0046】
図3は、本発明の反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が透明である場合に対応する構成の反応容器を用いた明視野観察結果を示す写真である。図4は、本発明の反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が透明である場合に対応する構成の反応容器を用いた蛍光観察結果を示す写真である。
図3及び図4に示すように、どちらのフィルムも貼り付けていない実験用の反応容器10の場合には、明視野観察により画像を得ることができ、蛍光観察によっても画像を得ることができた。
【0047】
図5は、本発明の反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光透過性を有して着色されている場合に対応する構成の反応容器を用いた明視野観察結果を示す写真である。図6は、本発明の反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光透過性を有して着色されている場合に対応する構成の反応容器を用いた蛍光観察結果を示す写真である。
図5及び図6に示すように、光透過性を有する着色フィルムを貼り付けた実験用の反応容器10の場合でも、明視野観察により画像を得ることができ、蛍光観察によっても画像を得ることができた。
【0048】
図7は、本発明の反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光不透過である場合に対応する構成の反応容器を用いた明視野観察結果を示す写真である。図8は、本発明の反応容器におけるカバー部材の光透過性に関する実験例において、カバー部材が光不透過である場合に対応する構成の反応容器を用いた蛍光観察結果を示す写真である。
図7及び図8に示すように、光不透過の黒色のフィルムを貼り付けた実験用の反応容器10の場合では、明視野観察により画像を得ることはできなかった。一方、この場合では、蛍光観察によって画像を得ることができた。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上記実施形態の反応容器は、凹部内に収容される液体に接触可能となるように凹部内に配された検出電極(不図示)をさらに備えていてもよい。この検出電極は、不図示の配線を通じて測定器に接続可能であり、pH測定その他の電気化学的な測定に使用可能である。
【0050】
また、上記実施形態の反応容器は、複数の凹部を含む領域を第一表面に複数有していてもよい。この場合の複数の領域は、互いに独立した複数の反応区画となる。すなわち、1つの反応区画となる1つの領域に対して1種類の試料が対応するように、複数の反応区画に互いに異なる試料を供給することができる。これらの複数の領域は、スペーサ部によって外周を囲まれており、スペーサ部がカバー部材に溶着されていることによって、試料が混ざることなく生化学分析をすることができる領域となっている。このように複数の反応区画が基材に設定されることにより、複数の試料に対する分析条件(温度や反応時間等)を揃えることができる。
【0051】
また、カバー部材は、可視光の波長域の一部の範囲の光の透過率が可視光の波長域における他の範囲の光の透過率よりも高くてもよい。たとえば、カバー部材は、可視光の波長域のうち480nm以上570nm以下の範囲の光の透過率が25%以上であってもよい。たとえば、カバー部材は、可視光の波長域のうち480nm以上570nm以下の範囲の光の透過率が25%以上であれば、緑色の蛍光等を良好に観察することができる。
【実施例0052】
[実施例1]
本発明の実施例1を以下に示す。
レーザー透過溶着法では、特定の波長を持つレーザー光を透過する透過材と、このレーザー光を吸収する吸収材をあわせて双方から加圧した後、上記のレーザー光を、透過材側から、透過材と吸収材との境界面にあてることによって、吸収材を溶解させる。これにより、吸収材が溶解するとともに、吸収材から透過材へも熱が伝わり、透過材の溶融温度を超えて透過材が加熱されることによって、透過材も溶解する。その結果、レーザー透過溶着法では、照射するレーザー光の波長に対する吸収率の低い透過材を溶着することができる。
本実施例では、レーザー透過溶着法を用いて反応容器を製造する際に吸収材として機能するカバー部材について、レーザー透過溶着法により基材に確実に溶着できるとともに、反応容器を用いた生化学反応においてカバー部材を透過する蛍光による蛍光観察ができるようにするための具体例を示す。
【0053】
本実施例における基材の材質は、シクロオレフィンポリマー(COP)(厚みは1mm)である。
本実施例におけるカバー部材の材料として、ポリスチレン(黒色)、PMMA(YL-500P-Y1 YAG(半透明)、シグマ光機製)を用いてカバー部材を作製した。
また、レーザー透過溶着法に適していないカバー部材の材料を示す比較例として、ポリスチレン(透明)、PMMA製(YL-500P-LD(半透明))、PMMA(YL-500P-Y2 アルゴン(半透明))についても示す。これらの材料は、YAGレーザーの吸収率が低い材料である。
本実施例及び比較例におけるレーザー溶着機として、YAGレーザー溶着機であるML-2030B(株アマダミヤチ製)を使用した。
【0054】
本実施例では、基材とカバー部材を密着させた後、ターンクリップで両素材を端で挟み込み、基材側を上になるように配置した。その後、基材側から垂直にレーザーを当てるように、レーザー溶着機に設置した。
【0055】
前述の基材、カバー部材として選んだ材料をそれぞれ組み合わせてレーザー溶着を実施した。レーザー溶着を実施するための設定項目は、照射電圧400V、照射時間1ms、照射回数を1秒で10回とし、互いに離間する三箇所にレーザー光を照射した。
結果として、溶着できたのは、カバー部材の材料として、ポリスチレン(黒色)を使用した場合、及び、PMMA(YL-500P-Y1 YAG(半透明))を使用した場合であった。
【0056】
次に、カバー部材となるそれぞれの材料に対して、緑色のフィルタをかけた白色光を通過させ、カバー部材の反対側から光を視認することができるかどうか確認した。
結果として、ポリスチレン(黒色)以外のすべての材料で光を視認することができた。
【0057】
以上のことから、基材とカバー部材との材料としてそれぞれCOPとPMMA(YL-500P-Y1 YAG(半透明))の組み合わせを使うことで、レーザー溶着を行うことができ、また、カバー部材側から光を検知できる材料構成を実現することができることが確認できた。
なお、基材の材質は、COP以外の光透過性樹脂であってもよい。
【0058】
[実施例2]
本発明の実施例2を以下に示す。
本実施例では、レーザー透過溶着法を用いて反応容器を製造する際に吸収材として機能するカバー部材について、レーザー透過溶着法により基材に確実に溶着できるとともに、反応容器を用いた生化学反応においてカバー部材を透過する蛍光による蛍光観察ができるようにするための具体例を示す。
【0059】
本実施例における基材の材質は、シクロオレフィンポリマー(COP)(厚みは0.3mm~1mm)である。本実施例におけるカバー部材の材質として、カーボンを添加したCOP材(黒色:透過率0.01%、0.1%、0.8%、6%、24%、47%)を用いてカバー部材を作製した。カーボン添加(カーボン含有)COP材は、市販の樹脂(プラスチック)着色用のカーボン材料から選定して、COP材作成時に混ぜ込むことで作製することができる。また、レーザー透過溶着法に適していないカバー部材の材料を示す比較例として、着色用カーボンを添加していない透明なCOP材(空気に対して、透過率91%)を使用した。また、明視野観察に適していないカバー部材の材料を示す比較例として、透過率0%のCOP材を使用した。
【0060】
<透過率の測定>
全光線透過率(光学濃度)の測定は、光学ベンチ上に、レーザー光源(2波長 532nm、632nm、出力 2mmW程度)、ピンホール、ミラー、サンプルホルダー、PD光検出器(アンリツ製OPTICAL POWER METER ML910B)をセットアップして透過率の測定を行った。なお、全光線透過率は、空気の透過率を100%とする相対値である。
【0061】
本実施例及び比較例におけるレーザー溶着機として、浜松ホトニクス製半導体レーザー(LD-HEATER)をレーザーに用いた溶着機で、波長は940nmを使用した。本実施例では、溶着用のエアーシリンダーに載せた金属ステージに基材とカバー部材を重ね密着させた後、エアーシリンダーを加圧して基材とカバー部材を透明なガラス板に押し当て密着させた。その後、透明なガラス板を通して、ガラス板に垂直にレーザーを当てるように、ロボットアームでレーザーヘッドをスキャンしレーザー溶着を実施した。
【0062】
前述の基材、カバー部材として選んだ材料をそれぞれ組み合わせてレーザー溶着を実施した。レーザー溶着を実施するための設定項目は、例えば、レーザーパワー、スキャンスピード、繰り返し数等である。
【0063】
次に、基材となるそれぞれの材料に対して、緑色のフィルタをかけた白色光を通過させ、カバー部材の反対側から光を視認することができるかどうか確認した。光源及びフィルタとして、分析対象が発する光の波長と同様の波長を有する光を発するように光源及びフィルタを用いてもよい。白色光は、LED、蛍光ランプ等から適宜選択できる。光源として、分析対象が発する光の波長と同様の波長を有する光を発する光源を用いてもよい。レーザー溶着及び視認の結果を表1に示す。表1中、溶着の欄において、「〇」は良好に溶着できたこと、「×」は溶着できなかったことを示す。また、表1中、ビーズの観察の欄において、「〇」は光を視認することができたこと、「×」は光を視認することができなかったことを示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、レーザー溶着の結果、基材やカバー部材の型が崩れず溶着できたのは、カバー部材の材料として、透過率0%~47%を使用した場合であった。一方で、透過率91%の材料は、溶けずに溶着することができなかった。また、透過率60%以下においては基材やカバー部材の型が崩れずに溶着できることを確認している。
また、透過率0.01%~47%の材料を使用した場合では、カバー部材の基材と反対側から照射した光を基材側から視認することができた。一方で、透過率0%の材料を使用した場合では、カバー部材の反対側から光を視認することができなかった。
【0066】
以上のことから、カバー部材をCOP材で形成する場合、透過率を0.01%~47%にすると、良好なレーザー溶着を行うことができ、また、カバー部材側から光を検知できる材料構成を実現することができる。なお、基材の材質は、COP以外の光透過性樹脂であってもよい。
【0067】
また、各透過率において、露光時間を変えて撮影を行ない、透過率が撮影時間に与える影響を確認した。図9は、透過率0%、0.1%、24%、47%、91%、100%のカバー部材に対して露光時間を変えて明視野及び蛍光観察を行った結果を示す写真である。この結果、透過率0.1%以上であれば、1秒以内の露光時間で鮮明な明視野画像を得ることができた。一方、透過率が0.1%より低い場合には、露光時間が1秒超必要であり、明視野画像を得るためにより長い撮影時間を要した。
【符号の説明】
【0068】
1 反応容器
2 基材
2A 第一板状部材
3 凹部
4 カバー部材
4A 第二板状部材
5 スペーサ部
10 実験用の反応容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2021-11-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一表面に開口する複数の凹部を有する透明な基材と、
前記第一表面のうち前記複数の凹部を含んだ領域の内側において前記第一表面との間に隙間が空いた状態となるように前記領域の外側において前記基材に対して溶着された赤外線吸収性のカバー部材と、
を備え、
前記カバー部材は、可視光の波長域のうち少なくとも一部の範囲の光を透過可能である反応容器を用いた生化学分析方法であって、
前記凹部に一つの検出対象物質が入るように希釈された試料を前記基材と前記カバー部材との間の前記隙間に送液する送液工程と、
前記隙間に油性の封止液を送液して複数の凹部を個別に封止する封止工程と、
前記封止工程の後、前記凹部内の試料に対して垂直な方向に照射する白色光を用いて前記基材側から明視野観察を行う第一観察工程と、
前記封止工程の後、前記凹部内の試料に前記基材に対して溶着された赤外線吸収性のカバー部材を通じて励起光を照射するとともに前記励起光に対応して前記試料が発する蛍光を前記基材側から観察する第二観察工程と、
を含む、
生化学分析方法。
【請求項2】
前記カバー部材は、可視光の波長域のうち480nm以上570nm以下の範囲の光の透過率が25%以上である、
請求項1に記載の生化学分析方法
【請求項3】
前記第一表面に対して垂直な方向において、前記カバー部材における前記第一表面側の赤外線吸収率が最も高い、
請求項1に記載の生化学分析方法
【請求項4】
前記領域を前記第一表面に複数有し、
複数の前記領域が互いに独立した複数の反応区画となるように複数の前記領域のそれぞれの外周が前記カバー部材に溶着されている、
請求項1に記載の生化学分析方法
【請求項5】
前記カバー部材は、前記基材に向けて突出するスペーサ部を有し、前記スペーサ部が前記基材に溶着されることにより前記隙間が形成されている、
請求項1に記載の生化学分析方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、生化学分析方法に関する。
本願は、2016年4月27日に日本に出願された特願2016-089362号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、光透過性を有する樹脂が高い精度で溶着されているとともに、明視野観察における十分な明るさを得ることができる生化学分析方法を提供することを目的とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明は、第一表面に開口する複数の凹部を有する透明な基材と、第一表面のうち複数の凹部を含んだ領域の内側において第一表面との間に隙間が空いた状態となるように領域の外側において基材に対して溶着された赤外線吸収性のカバー部材と、を備え、カバー部材が可視光の波長域のうち少なくとも一部の範囲の光を透過可能である反応容器を用いた生化学分析方法である。
この生化学分析方法は、凹部に一つの検出対象物質が入るように希釈された試料を基材とカバー部材との間の隙間に送液する送液工程と、隙間に油性の封止液を送液して複数の凹部を個別に封止する封止工程と、封止工程の後、凹部内の試料に対して垂直な方向に照射する白色光を用いて基材側から明視野観察を行う第一観察工程と、封止工程の後、凹部内の試料に基材に対して溶着された赤外線吸収性のカバー部材を通じて励起光を照射するとともに励起光に対応して試料が発する蛍光を基材側から観察する第二観察工程とを含む。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
本発明によれば、光透過性を有する樹脂が高い精度で溶着されているとともに、明視野観察における十分な明るさを得ることができる反応容器を用いて明視野観察及び蛍光観察をすることができる。