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特開2022-89707SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089707
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/50 20060101AFI20220609BHJP
   C07K 14/165 20060101ALI20220609BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20220609BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220609BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20220609BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220609BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20220609BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220609BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220609BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220609BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220609BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220609BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220609BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20220609BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20220609BHJP
【FI】
C12N15/50
C07K14/165 ZNA
C12N15/10 200Z
C12N15/63 Z
C07K16/10
C12N7/01
A61K39/215
A61K38/16
A61P37/04
A61P31/14
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/53 N
G01N33/569 L
C12Q1/68
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202318
(22)【出願日】2020-12-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】520350502
【氏名又は名称】HuLA immune株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】荒瀬 尚
(72)【発明者】
【氏名】劉 亞飛
(72)【発明者】
【氏名】神藤 康弘
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA28
2G045AA40
2G045DA37
2G045FB03
4B063QA05
4B063QA20
4B063QQ13
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR80
4B063QS38
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA45
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA22
4C084CA01
4C084NA14
4C084ZB051
4C084ZB052
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA02
4C085BA71
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA29
4H045EA31
4H045EA53
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる、Spikeタンパク質の変異体を提供する。
【解決手段】下記(Sm1)のアミノ酸配列からなるタンパク質であってよい、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体:(Sm1)野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、特定の配列)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(Sm)のアミノ酸配列からなるタンパク質である、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体:
(Sm)下記(Sm1)、(Sm2)、または(Sm3)のアミノ酸配列:
(Sm1)野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列;
(Sm2)(Sm1)のアミノ酸配列において、1~127個の挿入、付加、置換および/または欠失を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列;
(Sm3)(Sm1)のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列。
【請求項2】
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、請求項1記載の変異体。
【請求項3】
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、請求項1または2記載の変異体。
【請求項4】
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するアミノ酸配列である、請求項1から3のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項5】
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、請求項1から4のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のSpikeタンパク質の変異体の部分配列を有する部分ポリペプチドを含み、
前記部分ポリペプチドは、前記変異体における、少なくとも1つの変異アミノ酸を含む、変異ポリペプチド。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載のSpikeタンパク質の変異体を含む、SARS-CoV-2の変異ウイルス。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載のSpikeタンパク質の変異体および/または請求項6記載の変異ポリペプチドを含む、ウイルス様粒子。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載のSpikeタンパク質の変異体をコードする核酸分子および/または請求項6記載の変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含む、核酸。
【請求項10】
請求項9記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載のSpikeタンパク質の変異体、請求項6記載の変異ポリペプチド、請求項7記載の変異ウイルス、請求項8記載のウイルス様粒子、請求項9記載の核酸、および/または請求項10記載の発現ベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項12】
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法であって、
標的SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Stタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する変異工程を含む、方法。
【請求項13】
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法であって、
候補SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Scタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記Spikeタンパク質の変異体として選抜する選抜工程を含む、方法。
【請求項14】
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する抗体である、SARS-CoV-2の感染増強マーカー。
【請求項15】
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体であり、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である、SARS-CoV-2の感染増強マーカー。
【請求項16】
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する検出工程を含む、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。
【請求項17】
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含み、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)は、2019年11月に、中国の武漢市付近で発生が確認された後、世界的に流行している。また、SARS-CoV-2の感染により生じる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患者およびCOVID-19による死亡者が急増しており、治療薬およびワクチンの開発が進められている。
【0003】
SARS-CoV-2のヒトへの感染では、Spikeタンパク質と、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)との結合が、細胞内への感染を確立する上で重要であると考えられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Markus Hoffmann et.al., “SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor”, Cell, 2020, vol. 181, pages 271-280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コロナウイルス科のSARS-CoV-2(以下、「SARS2」ともいう)以外のウイルスでは、ウイルスに対する抗体により、Fc受容体依存的に感染増強(抗体依存性感染増強(ADE))が生じることが知られているが、抗体依存性感染増強のメカニズムに関しては、十分に明らかにされてはいない。また、SARS2においても、Fc受容体依存的なADEが確認されている。このため、SARS2のワクチンにおいて、感染増強の誘導能を有する抗体が誘導された場合、ワクチンの投与により、逆にCOVID-19の重症化を招く可能性が懸念されている。
【0006】
そこで、本発明は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうるSpikeタンパク質の変異体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明のSARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体(以下、「変異タンパク質」ともいう)は、下記(Sm)のアミノ酸配列からなるタンパク質である:
(Sm)下記(Sm1)、(Sm2)、または(Sm3)のアミノ酸配列:
(Sm1)野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列;
(Sm2)(Sm1)のアミノ酸配列において、1~127個の挿入、付加、置換および/または欠失を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列;
(Sm3)(Sm1)のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列。
【0008】
本発明の変異ポリペプチド(以下、「変異ペプチド」ともいう)は、本発明のSpikeタンパク質の変異体の部分配列を有する部分ポリペプチドを含み、
前記部分ポリペプチドは、前記変異体における、少なくとも1つの変異アミノ酸を含む。
【0009】
本発明のSARS-CoV-2の変異ウイルス(以下、「変異ウイルス」ともいう)は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体を含む。
【0010】
本発明のウイルス様粒子(以下、「VLP」ともいう)は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体および/または前記本発明の変異ポリペプチドを含む。
【0011】
本発明の核酸は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体をコードする核酸分子および/または前記本発明の変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含む。
【0012】
本発明の発現ベクターは、前記本発明の核酸を含む。
【0013】
本発明の医薬組成物は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体、前記本発明の変異ポリペプチド、前記本発明の変異ウイルス、前記本発明のウイルス様粒子、前記本発明の核酸、および/または前記本発明の発現ベクターと、薬学的に許容される担体とを含む。
【0014】
本発明は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法であって、
標的SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Stタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する変異工程を含む。
【0015】
本発明は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法であって、
候補SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Scタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記Spikeタンパク質の変異体として選抜する選抜工程を含む。
【0016】
本発明のSARS-CoV-2の感染増強マーカー(以下、「第1のマーカー」ともいう)は、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する抗体である。
【0017】
本発明のSARS-CoV-2の感染増強マーカー(以下、「第2のマーカー」ともいう)は、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体であり、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。
【0018】
本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法(以下、「第1の検出方法」ともいう)は、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する検出工程を含む。
【0019】
本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法(以下、「第2の検出方法」ともいう)は、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含み、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例1におけるSタンパク質における各抗体の認識部位および各抗体サンプルの存在下における、全長Sタンパク質発現細胞とACE2との結合を示すグラフである。
図2図2は、実施例1における各抗体サンプルの存在下における、全長Sタンパク質発現細胞とACE2との結合を示すグラフである。
図3図3は、実施例1における各抗体サンプルの存在下における、全長Sタンパク質発現細胞とACE2との結合を示すグラフである。
図4図4は、実施例2におけるSpikeタンパク質を発現するシュードタイプウイルスの感染結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例2におけるSARS-CoV-2の感染結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例3における蛍光強度の相対値を示すグラフである。
図7図7は、実施例4における感染増強抗体(クローン8D2、2210、2490)の蛍光強度の変化を示すグラフである。
図8図8は、実施例4における感染増強抗体が共通して認識するNTDのアミノ酸の位置を示す。
図9図9は、実施例5における抗体の結合量を示すヒストグラムである。
図10図10は、実施例6における抗体の結合量を示すヒストグラムである。
図11図11は、実施例7におけるSARS-CoV-2感染者血清中の抗NTD抗体価、抗RBD抗体価、ACE2結合性、感染増強抗体価の関係を示すグラフである。
図12図12は、実施例8におけるSARS-CoV-2感染者血清中の感染増強抗体価、抗RBD抗体価、またはACE2結合性の推移を示すグラフである。
図13図13は、実施例9における血清中の抗NTD抗体の結合量を示すヒストグラムである。
図14図14は、実施例10におけるSpikeタンパク質の構造を示す図である。
図15図15は、実施例11における血清中の抗体価を示すグラフである。
図16図16は、実施例12におけるACE2への結合性およびシュードタイプウイルスの感染割合を示すグラフである。
図17図17は、実施例13におけるACE2への結合性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、例をあげて説明する。以下の説明において、各発明の説明は、特に言及がない限り、互いに援用可能である。
【0023】
<定義>
本発明において、「SARS-CoV-2」は、severe acute respiratory syndrome coronavirus 2を意味する。前記SARSは、コロナウイルス科(Coronaviridae)のベータコロナウイルス属(Betacoronavirus)の、SARS関連コロナウイルス種(Severe acute respiratory syndrome-related coronavirus)に属するウイルスである。また、SARS2は、ゲノムとして、一本鎖のプラス鎖RNAを有するウイルスである。
【0024】
本発明において、「スパイクタンパク質(Sタンパク質)」は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のアミノ酸配列の全てまたは一部を有するタンパク質またはポリペプチドを意味する。前記Sタンパク質は、SARS2において、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、膜(M)タンパク質、およびエンベロープ(E)タンパク質とともに、ウイルス粒子を形成するタンパク質であり、前記ウイルス粒子のエンベロープから外側に向けて配置されている。前記Sタンパク質は、前述のように、ACE2を介して細胞内への感染を確立するのに重要であると推定されている。前記Sタンパク質は、例えば、GenbankにAccession No.:YP_009724390.1で登録されたアミノ酸配列からなるタンパク質(基準Sタンパク質(Ssタンパク質)、配列番号1)があげられる。また、前記Sタンパク質は、例えば、GenbankにAccession No.: NC_045512.2で登録された塩基配列(配列番号2、終止コドンを含む)の21563~25384番目の塩基配列によりコードされるタンパク質があげられる。本発明において、前記Sタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列において、括弧で囲まれた下線で示される細胞内領域のアミノ酸配列を欠失したタンパク質でもよい。また、前記Sタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号2の塩基配列において、括弧で囲まれた下線で示される細胞内領域のアミノ酸配列を欠失したタンパク質をコードする遺伝子でもよい。前記細胞内領域を欠失させることにより、前記Sタンパク質として、可溶型のSタンパク質を製造できる。
【0025】
基準Sタンパク質(配列番号1)
MFVFLVLLPLVSSQCVNLTTRTQLPPAYTNSFTRGVYYPDKVFRSSVLHSTQDLFLPFFSNVTWFHAIHVSGTNGTKRFDNPVLPFNDGVYFASTEKSNIIRGWIFGTTLDSKTQSLLIVNNATNVVIKVCEFQFCNDPFLGVYYHKNNKSWMESEFRVYSSANNCTFEYVSQPFLMDLEGKQGNFKNLREFVFKNIDGYFKIYSKHTPINLVRDLPQGFSALEPLVDLPIGINITRFQTLLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAYYVGYLQPRTFLLKYNENGTITDAVDCALDPLSETKCTLKSFTVEKGIYQTSNFRVQPTESIVRFPNITNLCPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHAPATVCGPKKSTNLVKNKCVNFNFNGLTGTGVLTESNKKFLPFQQFGRDIADTTDAVRDPQTLEILDITPCSFGGVSVITPGTNTSNQVAVLYQDVNCTEVPVAIHADQLTPTWRVYSTGSNVFQTRAGCLIGAEHVNNSYECDIPIGAGICASYQTQTNSPRRARSVASQSIIAYTMSLGAENSVAYSNNSIAIPTNFTISVTTEILPVSMTKTSVDCTMYICGDSTECSNLLLQYGSFCTQLNRALTGIAVEQDKNTQEVFAQVKQIYKTPPIKDFGGFNFSQILPDPSKPSKRSFIEDLLFNKVTLADAGFIKQYGDCLGDIAARDLICAQKFNGLTVLPPLLTDEMIAQYTSALLAGTITSGWTFGAGAALQIPFAMQMAYRFNGIGVTQNVLYENQKLIANQFNSAIGKIQDSLSSTASALGKLQDVVNQNAQALNTLVKQLSSNFGAISSVLNDILSRLDKVEAEVQIDRLITGRLQSLQTYVTQQLIRAAEIRASANLAATKMSECVLGQSKRVDFCGKGYHLMSFPQSAPHGVVFLHVTYVPAQEKNFTTAPAICHDGKAHFPREGVFVSNGTHWFVTQRNFYEPQIITTDNTFVSGNCDVVIGIVNNTVYDPLQPELDSFKEELDKYFKNHTSPDVDLGDISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQELGKYEQYIKWPWYIWLGFIAGLIAIVMVTIMLCCMTSCCSCLKGCCSCGSCC[KFDEDDSEPVLKGVKLHYT]
【0026】
基準Sタンパク質をコードする塩基配列(配列番号2)
5'-ATGTTTGTTTTTCTTGTTTTATTGCCACTAGTCTCTAGTCAGTGTGTTAATCTTACAACCAGAACTCAATTACCCCCTGCATACACTAATTCTTTCACACGTGGTGTTTATTACCCTGACAAAGTTTTCAGATCCTCAGTTTTACATTCAACTCAGGACTTGTTCTTACCTTTCTTTTCCAATGTTACTTGGTTCCATGCTATACATGTCTCTGGGACCAATGGTACTAAGAGGTTTGATAACCCTGTCCTACCATTTAATGATGGTGTTTATTTTGCTTCCACTGAGAAGTCTAACATAATAAGAGGCTGGATTTTTGGTACTACTTTAGATTCGAAGACCCAGTCCCTACTTATTGTTAATAACGCTACTAATGTTGTTATTAAAGTCTGTGAATTTCAATTTTGTAATGATCCATTTTTGGGTGTTTATTACCACAAAAACAACAAAAGTTGGATGGAAAGTGAGTTCAGAGTTTATTCTAGTGCGAATAATTGCACTTTTGAATATGTCTCTCAGCCTTTTCTTATGGACCTTGAAGGAAAACAGGGTAATTTCAAAAATCTTAGGGAATTTGTGTTTAAGAATATTGATGGTTATTTTAAAATATATTCTAAGCACACGCCTATTAATTTAGTGCGTGATCTCCCTCAGGGTTTTTCGGCTTTAGAACCATTGGTAGATTTGCCAATAGGTATTAACATCACTAGGTTTCAAACTTTACTTGCTTTACATAGAAGTTATTTGACTCCTGGTGATTCTTCTTCAGGTTGGACAGCTGGTGCTGCAGCTTATTATGTGGGTTATCTTCAACCTAGGACTTTTCTATTAAAATATAATGAAAATGGAACCATTACAGATGCTGTAGACTGTGCACTTGACCCTCTCTCAGAAACAAAGTGTACGTTGAAATCCTTCACTGTAGAAAAAGGAATCTATCAAACTTCTAACTTTAGAGTCCAACCAACAGAATCTATTGTTAGATTTCCTAATATTACAAACTTGTGCCCTTTTGGTGAAGTTTTTAACGCCACCAGATTTGCATCTGTTTATGCTTGGAACAGGAAGAGAATCAGCAACTGTGTTGCTGATTATTCTGTCCTATATAATTCCGCATCATTTTCCACTTTTAAGTGTTATGGAGTGTCTCCTACTAAATTAAATGATCTCTGCTTTACTAATGTCTATGCAGATTCATTTGTAATTAGAGGTGATGAAGTCAGACAAATCGCTCCAGGGCAAACTGGAAAGATTGCTGATTATAATTATAAATTACCAGATGATTTTACAGGCTGCGTTATAGCTTGGAATTCTAACAATCTTGATTCTAAGGTTGGTGGTAATTATAATTACCTGTATAGATTGTTTAGGAAGTCTAATCTCAAACCTTTTGAGAGAGATATTTCAACTGAAATCTATCAGGCCGGTAGCACACCTTGTAATGGTGTTGAAGGTTTTAATTGTTACTTTCCTTTACAATCATATGGTTTCCAACCCACTAATGGTGTTGGTTACCAACCATACAGAGTAGTAGTACTTTCTTTTGAACTTCTACATGCACCAGCAACTGTTTGTGGACCTAAAAAGTCTACTAATTTGGTTAAAAACAAATGTGTCAATTTCAACTTCAATGGTTTAACAGGCACAGGTGTTCTTACTGAGTCTAACAAAAAGTTTCTGCCTTTCCAACAATTTGGCAGAGACATTGCTGACACTACTGATGCTGTCCGTGATCCACAGACACTTGAGATTCTTGACATTACACCATGTTCTTTTGGTGGTGTCAGTGTTATAACACCAGGAACAAATACTTCTAACCAGGTTGCTGTTCTTTATCAGGATGTTAACTGCACAGAAGTCCCTGTTGCTATTCATGCAGATCAACTTACTCCTACTTGGCGTGTTTATTCTACAGGTTCTAATGTTTTTCAAACACGTGCAGGCTGTTTAATAGGGGCTGAACATGTCAACAACTCATATGAGTGTGACATACCCATTGGTGCAGGTATATGCGCTAGTTATCAGACTCAGACTAATTCTCCTCGGCGGGCACGTAGTGTAGCTAGTCAATCCATCATTGCCTACACTATGTCACTTGGTGCAGAAAATTCAGTTGCTTACTCTAATAACTCTATTGCCATACCCACAAATTTTACTATTAGTGTTACCACAGAAATTCTACCAGTGTCTATGACCAAGACATCAGTAGATTGTACAATGTACATTTGTGGTGATTCAACTGAATGCAGCAATCTTTTGTTGCAATATGGCAGTTTTTGTACACAATTAAACCGTGCTTTAACTGGAATAGCTGTTGAACAAGACAAAAACACCCAAGAAGTTTTTGCACAAGTCAAACAAATTTACAAAACACCACCAATTAAAGATTTTGGTGGTTTTAATTTTTCACAAATATTACCAGATCCATCAAAACCAAGCAAGAGGTCATTTATTGAAGATCTACTTTTCAACAAAGTGACACTTGCAGATGCTGGCTTCATCAAACAATATGGTGATTGCCTTGGTGATATTGCTGCTAGAGACCTCATTTGTGCACAAAAGTTTAACGGCCTTACTGTTTTGCCACCTTTGCTCACAGATGAAATGATTGCTCAATACACTTCTGCACTGTTAGCGGGTACAATCACTTCTGGTTGGACCTTTGGTGCAGGTGCTGCATTACAAATACCATTTGCTATGCAAATGGCTTATAGGTTTAATGGTATTGGAGTTACACAGAATGTTCTCTATGAGAACCAAAAATTGATTGCCAACCAATTTAATAGTGCTATTGGCAAAATTCAAGACTCACTTTCTTCCACAGCAAGTGCACTTGGAAAACTTCAAGATGTGGTCAACCAAAATGCACAAGCTTTAAACACGCTTGTTAAACAACTTAGCTCCAATTTTGGTGCAATTTCAAGTGTTTTAAATGATATCCTTTCACGTCTTGACAAAGTTGAGGCTGAAGTGCAAATTGATAGGTTGATCACAGGCAGACTTCAAAGTTTGCAGACATATGTGACTCAACAATTAATTAGAGCTGCAGAAATCAGAGCTTCTGCTAATCTTGCTGCTACTAAAATGTCAGAGTGTGTACTTGGACAATCAAAAAGAGTTGATTTTTGTGGAAAGGGCTATCATCTTATGTCCTTCCCTCAGTCAGCACCTCATGGTGTAGTCTTCTTGCATGTGACTTATGTCCCTGCACAAGAAAAGAACTTCACAACTGCTCCTGCCATTTGTCATGATGGAAAAGCACACTTTCCTCGTGAAGGTGTCTTTGTTTCAAATGGCACACACTGGTTTGTAACACAAAGGAATTTTTATGAACCACAAATCATTACTACAGACAACACATTTGTGTCTGGTAACTGTGATGTTGTAATAGGAATTGTCAACAACACAGTTTATGATCCTTTGCAACCTGAATTAGACTCATTCAAGGAGGAGTTAGATAAATATTTTAAGAATCATACATCACCAGATGTTGATTTAGGTGACATCTCTGGCATTAATGCTTCAGTTGTAAACATTCAAAAAGAAATTGACCGCCTCAATGAGGTTGCCAAGAATTTAAATGAATCTCTCATCGATCTCCAAGAACTTGGAAAGTATGAGCAGTATATAAAATGGCCATGGTACATTTGGCTAGGTTTTATAGCTGGCTTGATTGCCATAGTAATGGTGACAATTATGCTTTGCTGTATGACCAGTTGCTGTAGTTGTCTCAAGGGCTGTTGTTCTTGTGGATCCTGCTGC[AAATTTGATGAAGACGACTCTGAGCCAGTGCTCAAAGGAGTCAAATTACATTACACATAA]-3'
【0027】
前記Sタンパク質は、N末端からC末端に向かって、N末端ドメイン(NTDまたはNTD領域)および受容体結合ドメイン(RBDまたはRBD領域)を含むS1領域と、S2領域とを含む。前記基準Sタンパク質におけるNTD、RBDおよびS2領域のアミノ酸配列は、例えば、配列番号3~5のアミノ酸配列があげられる。
【0028】
基準Sタンパク質のNTD(配列番号3)
QCVNLTTRTQLPPAYTNSFTRGVYYPDKVFRSSVLHSTQDLFLPFFSNVTWFHAIHVSGTNGTKRFDNPVLPFNDGVYFASTEKSNIIRGWIFGTTLDSKTQSLLIVNNATNVVIKVCEFQFCNDPFLGVYYHKNNKSWMESEFRVYSSANNCTFEYVSQPFLMDLEGKQGNFKNLREFVFKNIDGYFKIYSKHTPINLVRDLPQGFSALEPLVDLPIGINITRFQTLLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAYYVGYLQPRTFLLKYNENGTITDAVDCALDPLSETKCTLKSFTVEKGIYQTSNFRVQPTESIVRF
【0029】
基準Sタンパク質のRBD(配列番号4)
NITNLCPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHAPATVCGPKKSTNLVKNKCVNFNFNGLTGTGVLTESNKKFLPFQQFGRDIADTTDAVRDPQTLE
【0030】
基準Sタンパク質のS2領域(配列番号5)
ILDITPCSFGGVSVITPGTNTSNQVAVLYQDVNCTEVPVAIHADQLTPTWRVYSTGSNVFQTRAGCLIGAEHVNNSYECDIPIGAGICASYQTQTNSPRRARSVASQSIIAYTMSLGAENSVAYSNNSIAIPTNFTISVTTEILPVSMTKTSVDCTMYICGDSTECSNLLLQYGSFCTQLNRALTGIAVEQDKNTQEVFAQVKQIYKTPPIKDFGGFNFSQILPDPSKPSKRSFIEDLLFNKVTLADAGFIKQYGDCLGDIAARDLICAQKFNGLTVLPPLLTDEMIAQYTSALLAGTITSGWTFGAGAALQIPFAMQMAYRFNGIGVTQNVLYENQKLIANQFNSAIGKIQDSLSSTASALGKLQDVVNQNAQALNTLVKQLSSNFGAISSVLNDILSRLDKVEAEVQIDRLITGRLQSLQTYVTQQLIRAAEIRASANLAATKMSECVLGQSKRVDFCGKGYHLMSFPQSAPHGVVFLHVTYVPAQEKNFTTAPAICHDGKAHFPREGVFVSNGTHWFVTQRNFYEPQIITTDNTFVSGNCDVVIGIVNNTVYDPLQPELDSFKEELDKYFKNHTSPDVDLGDISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQELGKYEQYIKWPWY
【0031】
前記基準Sタンパク質以外のSタンパク質のアミノ酸配列は、例えば、NCBI SARS-CoV-2 Resources(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/sars-cov-2/)、CoV-GLUE(http://cov-glue.cvr.gla.ac.uk/#/replacement)を参照できる。
【0032】
本発明において、「野生型スパイクタンパク質」(Swタンパク質)は、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列を基準とした際に、所定の位置のアミノ酸残基が、前記Ssタンパク質と同じである、スパイクタンパク質を意味する。前記所定の位置は、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位である。前記Ssタンパク質において、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸残基は、それぞれ、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217である。
【0033】
本発明において、「アンジオテンシン変換酵素2」(ACE2)は、ACEファミリーに属する亜鉛メタロプロテアーゼであり、レニン-アンジオテンシン系の調節因子として機能していると考えられている。また、ACE2は、前述のように、SARS2の細胞内への感染の確立に重要であると考えられている。前記ACE2タンパク質として、ヒトACE2タンパク質は、例えば、GenbankにAccession No.:NP_001358344.1で登録されたアミノ酸配列からなるタンパク質(配列番号6)があげられる。また、前記ヒトACE2タンパク質をコードする塩基配列は、例えば、GenbankにAccession No.:NM_001371415.1で登録された塩基配列(配列番号7、終止コドンを含む)によりコードされるタンパク質があげられる。
【0034】
ヒトACE2タンパク質(配列番号6)
MSSSSWLLLSLVAVTAAQSTIEEQAKTFLDKFNHEAEDLFYQSSLASWNYNTNITEENVQNMNNAGDKWSAFLKEQSTLAQMYPLQEIQNLTVKLQLQALQQNGSSVLSEDKSKRLNTILNTMSTIYSTGKVCNPDNPQECLLLEPGLNEIMANSLDYNERLWAWESWRSEVGKQLRPLYEEYVVLKNEMARANHYEDYGDYWRGDYEVNGVDGYDYSRGQLIEDVEHTFEEIKPLYEHLHAYVRAKLMNAYPSYISPIGCLPAHLLGDMWGRFWTNLYSLTVPFGQKPNIDVTDAMVDQAWDAQRIFKEAEKFFVSVGLPNMTQGFWENSMLTDPGNVQKAVCHPTAWDLGKGDFRILMCTKVTMDDFLTAHHEMGHIQYDMAYAAQPFLLRNGANEGFHEAVGEIMSLSAATPKHLKSIGLLSPDFQEDNETEINFLLKQALTIVGTLPFTYMLEKWRWMVFKGEIPKDQWMKKWWEMKREIVGVVEPVPHDETYCDPASLFHVSNDYSFIRYYTRTLYQFQFQEALCQAAKHEGPLHKCDISNSTEAGQKLFNMLRLGKSEPWTLALENVVGAKNMNVRPLLNYFEPLFTWLKDQNKNSFVGWSTDWSPYADQSIKVRISLKSALGDKAYEWNDNEMYLFRSSVAYAMRQYFLKVKNQMILFGEEDVRVANLKPRISFNFFVTAPKNVSDIIPRTEVEKAIRMSRSRINDAFRLNDNSLEFLGIQPTLGPPNQPPVSIWLIVFGVVMGVIVVGIVILIFTGIRDRKKKNKARSGENPYASIDISKGENNPGFQNTDDVQTSF
【0035】
ヒトACE2タンパク質をコードする塩基配列(配列番号7)
5'-atgtcaagctcttcctggctccttctcagccttgttgctgtaactgctgctcagtccaccattgaggaacaggccaagacatttttggacaagtttaaccacgaagccgaagacctgttctatcaaagttcacttgcttcttggaattataacaccaatattactgaagagaatgtccaaaacatgaataatgctggggacaaatggtctgcctttttaaaggaacagtccacacttgcccaaatgtatccactacaagaaattcagaatctcacagtcaagcttcagctgcaggctcttcagcaaaatgggtcttcagtgctctcagaagacaagagcaaacggttgaacacaattctaaatacaatgagcaccatctacagtactggaaaagtttgtaacccagataatccacaagaatgcttattacttgaaccaggtttgaatgaaataatggcaaacagtttagactacaatgagaggctctgggcttgggaaagctggagatctgaggtcggcaagcagctgaggccattatatgaagagtatgtggtcttgaaaaatgagatggcaagagcaaatcattatgaggactatggggattattggagaggagactatgaagtaaatggggtagatggctatgactacagccgcggccagttgattgaagatgtggaacatacctttgaagagattaaaccattatatgaacatcttcatgcctatgtgagggcaaagttgatgaatgcctatccttcctatatcagtccaattggatgcctccctgctcatttgcttggtgatatgtggggtagattttggacaaatctgtactctttgacagttccctttggacagaaaccaaacatagatgttactgatgcaatggtggaccaggcctgggatgcacagagaatattcaaggaggccgagaagttctttgtatctgttggtcttcctaatatgactcaaggattctgggaaaattccatgctaacggacccaggaaatgttcagaaagcagtctgccatcccacagcttgggacctggggaagggcgacttcaggatccttatgtgcacaaaggtgacaatggacgacttcctgacagctcatcatgagatggggcatatccagtatgatatggcatatgctgcacaaccttttctgctaagaaatggagctaatgaaggattccatgaagctgttggggaaatcatgtcactttctgcagccacacctaagcatttaaaatccattggtcttctgtcacccgattttcaagaagacaatgaaacagaaataaacttcctgctcaaacaagcactcacgattgttgggactctgccatttacttacatgttagagaagtggaggtggatggtctttaaaggggaaattcccaaagaccagtggatgaaaaagtggtgggagatgaagcgagagatagttggggtggtggaacctgtgccccatgatgaaacatactgtgaccccgcatctctgttccatgtttctaatgattactcattcattcgatattacacaaggaccctttaccaattccagtttcaagaagcactttgtcaagcagctaaacatgaaggccctctgcacaaatgtgacatctcaaactctacagaagctggacagaaactgttcaatatgctgaggcttggaaaatcagaaccctggaccctagcattggaaaatgttgtaggagcaaagaacatgaatgtaaggccactgctcaactactttgagcccttatttacctggctgaaagaccagaacaagaattcttttgtgggatggagtaccgactggagtccatatgcagaccaaagcatcaaagtgaggataagcctaaaatcagctcttggagataaagcatatgaatggaacgacaatgaaatgtacctgttccgatcatctgttgcatatgctatgaggcagtactttttaaaagtaaaaaatcagatgattctttttggggaggaggatgtgcgagtggctaatttgaaaccaagaatctcctttaatttctttgtcactgcacctaaaaatgtgtctgatatcattcctagaactgaagttgaaaaggccatcaggatgtcccggagccgtatcaatgatgctttccgtctgaatgacaacagcctagagtttctggggatacagccaacacttggacctcctaaccagccccctgtttccatatggctgattgtttttggagttgtgatgggagtgatagtggttggcattgtcatcctgatcttcactgggatcagagatcggaagaagaaaaataaagcaagaagtggagaaaatccttatgcctccatcgatattagcaaaggagaaaataatccaggattccaaaacactgatgatgttcagacctccttttag-3'
【0036】
本発明において、「Fc受容体」は、一般的に、抗体分子のFc領域に結合可能な受容体タンパク質として知られている。また、前記Fc受容体は、Fc受容体依存なADEにおいて重要な役割を果たしていると考えられている。前記Fc受容体は、例えば、IgA、IgG、IgE、またはIgMに対するFc受容体があげられ、具体例として、FcγR、FcαR、FcεR、FcμR、FcRn(胎児型Fc受容体)等があげられる。前記FcγRは、例えば、FcγR1(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB1(CD32)、FcγRIIB2(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)があげられる。なお、前記Fc受容体において、一般的に、FcγRII(CD32)がコロナウイルスにおけるADEに関与していると考えられている。
【0037】
本発明において、「ウイルス様粒子(VLP)」は、例えば、少なくとも1つの属性がウイルスに類似しているが、伝染性を有さない、または伝染性を有さないことが示されている構造体を意味する。本発明において、VLPは、例えば、VLPが有するタンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝情報または核酸を有しない。前記VLPは、一般的に、前記VLPが由来するウイルスのゲノムを欠いているため、非伝染性である。
【0038】
本発明において、「発現ベクター」(ベクター)は、in vitroまたはin vivoにおいて、宿主細胞に送達される核酸を含む組換えプラスミドまたはウイルスを意味する。
【0039】
本発明において、「ワクチン」は、例えば、弱毒化もしくは不活化(死滅)した病原体、または前記病原体から誘導された抗原決定基(エピトープ)の調製物であり、前記病原体に対する抗体免疫または細胞性免疫を誘導するために使用される調製物を意味する。本発明において、前記ワクチンは、例えば、SARS2に対する免疫、またはSARS2によって引き起こされるCOVID-19に対する防御を提供するために投与される調製物を意味してもよい。前記「ワクチン」は、例えば、対象に投与されることで免疫応答、すなわち、感染に起因する疾患を予防、または疾患の重症度を軽減する免疫をもたらす免疫原の懸濁液または溶液も意味してもよい。前記ワクチンは、例えば、「ワクチン組成物」または「ワクチン製剤」ということもできる。
【0040】
本発明において、「免疫応答」は、ヒト等の脊椎動物が示す、感染病原体または疾患に対する抗体または細胞により媒介される反応であって、感染の予防もしくは改善、または前記感染に起因する疾患症状の少なくとも1つを軽減する反応を意味する。前記抗体による反応の場合、前記免疫応答は、例えば、抗体による、感染病原体(例えば、免疫原、以下、同様。)の中和;感染病原体の細胞への侵入の阻止、阻害、防止、または抑止;感染病原体の複製の阻止;および/または宿主細胞への感染および宿主細胞の破壊から保護する抗体の産生を刺激;のいずれか少なくとも1つを意味する。また、前記細胞による反応の場合、前記免疫応答は、例えば、感染病原体または疾患に対するT細胞および/または他の白血球細胞により媒介される免疫応答を意味する。具体的に、前記免疫応答は、例えば、細胞による、感染または疾患の予防もしくは改善、または前記感染に起因する疾患症状の少なくとも1つの症状の軽減を意味する。前記免疫応答は、例えば、「防御応答」または「防御免疫応答」ということもできる。
【0041】
本発明において、被検者、または治療、投与、もしくは処置対象(以下、あわせて「投与対象」または「対象」という)は、特に制限されない。前記対象は、例えば、ヒト、またはヒトを除く非ヒト動物があげられる。前記非ヒト動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、イルカ、アシカ等の哺乳類;ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ等の鳥類;魚類;等があげられる。前記対象の年齢は、特に制限されず、例えば、新生児、乳児、幼児、児童、成人等があげられる。
【0042】
本発明において、「免疫賦活化剤」は、製剤または組成物において、特定の免疫原と組み合わせて使用されるとき、得られる免疫応答を増強、改変、または修飾する化合物を意味する。前記免疫応答の増強、改変、または修飾は、例えば、抗体応答および細胞性免疫応答の少なくとも一方の特異性の強化、増加、または増強を意味する。前記免疫応答の増強、改変、または修飾は、特定の抗原特異的免疫応答の低下、低減、または抑制を意味してもよい。前記免疫原は、例えば、前記変異タンパク質、前記変異ペプチド、前記変異タンパク質を含むSARS-CoV-2、前記変異タンパク質もしくは前記変異ペプチドを含むVLP、前記核酸分子、または前記発現ベクター等があげられる。前記免疫賦活化剤は、例えば、アジュバントを含む。
【0043】
前記抗体応答は、例えば、中和抗体および/または血清抗体の量を、ELISA法、リコンビナントACE2との結合阻害アッセイ、SARS2の感染阻害アッセイ、SARS2のシュードウイルスの感染阻害アッセイ等によって計測することによって測定できる。前記細胞性免疫応答は、例えば、細胞傷害性T細胞(CD8+T細胞)、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)、樹状細胞および/または他の細胞による応答を計測することによって、測定できる。前記T細胞による応答は、例えば、フローサイトメトリー;T細胞増殖アッセイ、T細胞傷害性アッセイ、テトラマーアッセイ、および/またはELISPOTアッセイ等により特異的マーカーを指標とするT細胞アッセイを用いて、例えば、CD4+および/またはCD8+細胞の存在量を計測することによって測定できる。
【0044】
本発明において、「陽性(+)」は、抗原抗体反応を利用して検出されるフローサイトメトリー等の解析方法により、前記抗原を発現しない陰性対照細胞または前記抗原と反応しない抗体を用いる陰性対照反応と比較して、高いシグナルが検出されることを意味する。また、本発明において、「陰性(-)」は、前記抗原を発現しない陰性対照細胞または前記抗原と反応しない抗体を用いる陰性対照反応と比較して、同等またはそれ以下のシグナルが検出されることを意味する。
【0045】
本発明において、「有効用量」は、例えば、免疫応答を誘導することにより、感染を予防および/または改善するのに十分な免疫原の量を意味する。また、前記「有効用量」は、感染または感染に起因する疾患の少なくとも1つの症状を軽減するのに十分な免疫原の量を意味してもよい。前記「有効用量」は、感染もしくは疾患の発症を遅延または最小限に低下、低減、もしくは抑制するのに十分な免疫原の量を意味してもよい。前記「有効用量」は、感染または疾患の治療もしくは管理において治療利益を提供するのに十分な免疫原の量を意味してもよい。前記「有効用量」は、単独または他の療法との併用で、感染または疾患の治療もしくは管理において治療利益を提供するのに十分な免疫原の量を意味してもよい。前記「有効用量」は、後のSARS2またはSARS2に起因する疾患への曝露に対する対象(例えば、ヒト)の自己免疫応答を亢進させるのに十分な免疫原の量であってもよい。前記「有効用量」は、SARS2を予防および/またはSARS2に起因する症状の重症度を軽減する用量であってもよい。前記「有効用量」は、例えば、「有効量」ということもできる。
【0046】
本発明において、「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的または部分的にコードされる、1または複数のポリペプチドを含むタンパク質を意味する。免疫グロブリン遺伝子は、例えば、κ、λ、α(α1、α2を含む)、γ(γ1、γ2、γ3、γ4を含む)、δ、εおよびμ等の定常領域をコードする遺伝子と、V領域、D領域、J領域等の無数の免疫グロブリン可変領域をコードしうる遺伝子とを含む。前記抗体は、例えば、重鎖および軽鎖を含む。前記軽鎖は、κおよびλを含み、それぞれ、κ鎖およびλ鎖を構成する。前記重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεを含み、それぞれ、免疫グロブリンのクラスであるIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを構成する。前記抗体は、四量体から構成される典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位であってもよい。この場合、前記抗体は、2つの同一のポリペプチド鎖の対から構成され、各対は、1つの軽鎖(約25kDa)と1つの重鎖(約50~70kDa)とから構成される。また、各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100~110個またはそれ以上のアミノ酸から構成される可変領域を規定する。前記抗体は、全長の免疫グロブリンでもよいし、その抗原結合断片でもよい。
【0047】
本発明において、「抗原結合断片」は、例えば、抗体の一部を含むポリペプチドであり、より具体的には、前記可変領域を含むポリペプチドである。前記抗原結合断片は、例えば、前記全長の免疫グロブリンに対して、様々なペプチダーゼによる消化によって産生することができる。前記抗原結合断片は、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖抗体(scFv)、およびこれらの重合体等があげられる。
【0048】
本発明において、「相補性決定領域」(CDR)は、免疫グロブリン(抗体)の可変領域において、抗原結合部位を形成する領域を意味する。前記CDRは、例えば、超可変領域ということもできる。前記CDRは、一般的に、抗体の可変領域でも、特に一次構造の変異性が高い領域であり、一次構造上において、通常、3箇所に分離している。前記抗体では、重鎖可変領域および軽鎖可変領域に、それぞれ3つのCDR(N末端側から、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3、N末端側から、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む。これらの部位は、立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対する特異性を決定している。本発明において、抗体のCDRは、Kabatの番号付けシステム(下記参考文献1)にしたがって決定できる。
参考文献1:Kabat et.al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest”, 1987, US Department of Health and Human Services, NIH, USA
【0049】
本発明において、「可変領域」は、前述のCDRの他に、例えば、フレームワーク領域(FR)を有してもよい。前記FRは、抗体の可変領域において、通常、4箇所に分離している。前記抗体では、重鎖可変領域および軽鎖可変領域に、それぞれ4つのFR(N末端側から、HFR1、HFR2、HFR3、およびHFR4、N末端側から、NFR1、NFR2、NFR3、およびNFR4)を含む。
【0050】
本発明において、「抗体」は、前述の前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域の他に、例えば、定常領域を有してもよい。前記定常領域は、例えば、ヒト定常領域、またはマウス定常領域である。抗体(イムノグロブリン)の場合、重鎖の定常領域は、例えば、CH1、CH2、およびCH3という領域を含み、軽鎖の定常領域は、例えば、CLという領域を含む。本発明の抗体が前記定常領域を有する場合、例えば、前記重鎖可変領域は、CH1、CH2、およびCH3の少なくとも1つと結合し、前記軽鎖可変領域は、前記CLと結合しており、前記重鎖可変領域は、例えば、CH1と直接結合している。
【0051】
本発明において、「ヒト抗体」は、重鎖および軽鎖がヒト免疫グロブリン由来の抗体を意味する。
【0052】
本発明において、「ヒト化抗体」は、非ヒト動物由来の抗体のCDRおよびヒト抗体由来のFRから構成される可変領域と、ヒト抗体由来の定常領域とから構成される抗体を意味する。
【0053】
本発明において、「キメラ抗体」は、重鎖および軽鎖の少なくとも一方が、非ヒト動物免疫グロブリン由来の可変領域とヒト免疫グロブリン由来の定常領域から構成される抗体、またはヒト免疫グロブリン由来の可変領域と非ヒト動物免疫グロブリン由来の定常領域から構成される抗体を意味する。
【0054】
本発明において、「治療」は、対象疾患の発症の抑制、防止、抑止、予防、または遅延、発症した対象疾患もしくはその症状の進行の停止、抑制、抑止、または遅延、および対象疾患の改善または寛解のいずれの意味で用いてもよい。
【0055】
本発明において、「単離された」は、同定され、かつ分離された状態、および/または自然状態での成分から回収された状態を意味する。前記「単離」は、例えば、少なくとも1つの精製工程を得ることにより実施できる。
【0056】
<変異タンパク質>
本発明は、SARS2のSタンパク質のACE2への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる変異タンパク質を提供する。本発明のSARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体は、下記(Sm)のアミノ酸配列からなるタンパク質である。本発明の変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。
【0057】
(Sm)下記(Sm1)、(Sm2)、または(Sm3)のアミノ酸配列:
(Sm1)野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列;
(Sm2)(Sm1)のアミノ酸配列において、1もしくは数個の挿入、付加、置換および/または欠失を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列;
(Sm3)(Sm1)のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列。
【0058】
本発明者らは、鋭意研究の結果、SARS2の感染者においては、Fc受容体非依存的にSARS2のヒト細胞への結合を増強する抗体が存在するとの知見を得た。また、本発明者らは、さらなる研究の結果、SARS2のSタンパク質の特定の部位(Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および/または217位のアミノ酸残基、特に、64位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基、または64位、66位、213位、および/または214位のアミノ酸残基)を認識する抗体、または前記抗体と競合する抗体が存在すると、前記Sタンパク質のヒト細胞上に発現するACE2タンパク質への結合能が増強されることを見出した。また、前記ACE2への結合能の増強は、Fc受容体非依存的に誘導されていることを確認した。具体的には、前記特定の部位に結合する抗体がSタンパク質に結合すると、前記Sタンパク質の構造(コンフォーメーション)変化が生じ、これにより、前記Sタンパク質の受容体結合ドメインがACE2に結合しやすい構造に変化する。この結果、Fc受容体非依存的に、前記Sタンパク質のACE2への結合能が増強されていると推定された。なお、一般的に知られているADEは、ウイルスと抗体とが複合体を形成し、抗体とFc受容体との結合を介して細胞と結合後、ウイルスが細胞内へと侵入および感染することにより生じる。このため、Fc受容体非依存的なADEは、本発明者らが初めて見出した新規なメカニズムのADEである。そして、本発明者らは、前記Sタンパク質における特定の部位のアミノ酸に変異を導入した変異体とすることにより、対象に投与した際に、前記Sタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導を抑制できることを見出し、本発明を確立するに至った。このため、本発明の変異タンパク質によれば、例えば、ワクチンの有効成分として用いた際に、Fc受容体非依存的に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体(以下、「ACE2結合増強抗体」ともいう)の誘導能を低減(抑制または低下ともいう)しうる。したがって、本発明の変異タンパク質によれば、例えば、Fc受容体非依存的なADEの発生を抑制しうるため、ワクチン接種者におけるADEのリスクを低減できる。
【0059】
本発明の変異タンパク質は、例えば、単離された変異タンパク質でもよいし、他の物質と混在した変異タンパク質でもよい。
【0060】
前記(Sm1)の30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位における変異アミノ酸の数は、1つでもよいし、複数(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個)でもよく、例えば、前記ACE2結合増強抗体の誘導能をより抑制できることから、後者である。前記変異タンパク質では、前記(Sm1)の30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位における変異アミノ酸の数を増やすことにより、より効率よく前記ACE2結合増強抗体の誘導能を抑制できると推定される。前記変異アミノ酸は、前記(Sm1)のアミノ酸配列と、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列とをアライメントした際に、前記(Sm1)のアミノ酸配列において、前記Ssタンパク質の対応する位置のアミノ酸とは異なるアミノ酸を意味する。前記アライメントは、例えば、FASTA、BLAST等を用いて、デフォルトのパラメータで実施できる。
【0061】
前記(Sm1)における変異アミノ酸が1つの場合、前記変異アミノ酸の位置は、例えば、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、または217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、または217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、より多くのACE2結合増強抗体の誘導能をより低減しうることから、好ましくは、64位、65位、66位、187位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、64位、66位、187位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または64位、66位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0062】
前記(Sm1)における変異アミノ酸が複数の場合、前記変異アミノ酸の位置は、例えば、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、好ましくは、64位、65位、66位、187位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、64位、66位、187位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または64位、66位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、さらに好ましくは、(a)64位、65位、および/または66位、(b)187位、213位、および/または214位、(c)64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、(d)64位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または(e)64位、66位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、より好ましくは、(1)64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、(2)64位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または(3)64位、66位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0063】
前記(Sm1)においては、前記Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および/または217位に代えて、または加えて、68位、94位、97位、129位、185位、および/または215位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を変異アミノ酸の位置としてもよい。
【0064】
前記(Sm1)における変異アミノ酸の位置は、例えば、ACE2結合増強抗体の誘導能をより低減しうることから、好ましくは、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、またはN30、F32、W64、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、より好ましくは、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。前記(Sm1)における変異アミノ酸の位置は、例えば、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能をさらに低減しうることから、さらに好ましくは、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0065】
前記(Sm1)においては、前記Ssタンパク質におけるN30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、および/またはP217に代えて、または加えて、I68、S94、K97、K129、N185、および/またはD215のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を変異アミノ酸の位置としてもよい。
【0066】
本発明において、前記(Sm1)は、例えば、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列と同じであってもよい、すなわち、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列からなってもよい。
【0067】
本発明において、「ACE2結合増強抗体の誘導能」は、例えば、誘導能を測定する対象物(測定対象物)を用いて、非ヒト動物を免疫し、前記非ヒト動物の血液中に、ACE2結合増強抗体が誘導されるかを検討することにより、評価でき、具体例として、後述の実施例11と同様に実施できる。具体的には、まず、前記測定対象物と、任意に免疫賦活剤とを混合し、非ヒト動物に投与する。前記投与後2~4週間において、前記非ヒト動物から血液を回収し、血清を単離する。そして、前記血清中のACE2結合増強抗体を測定する。前記ACE2結合増強抗体の測定は、前記Swタンパク質、前記ACE2タンパク質、および前記血清の共存下で、前記Swタンパク質のACE2タンパク質への結合を検出することにより、測定してもよいし、前記血清中の抗体に、前記Ssタンパク質における所定の位置を認識する抗体が存在するかを測定することにより、間接的に測定してもよい。前者の場合、前記測定は、例えば、後述の実施例1と同様に実施できる。後者の場合、前記測定は、例えば、後述の実施例4と同様に実施できる。
【0068】
前記(Sm2)において、「1もしくは数個」は、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されている範囲であればよく、好ましくは、Sタンパク質またはSwタンパク質に対する抗体を誘導可能な範囲、すなわち、Sタンパク質またはSwタンパク質に結合可能な抗体(例えば、中和抗体)の免疫原となる範囲であればよい。前記「1もしくは数個」は、例えば、1~254個、1~250個、1~240個、1~230個、1~220個、1~210個、1~200個、1~190個、1~180個、1~170個、1~160個、1~150個、1~140個、1~130個、1~127個、1~120個、1~110個、1~100個、1~90個、1~80個、1~76個、1~70個、1~63個、1~60個、1~50個、1~40個、1~30個、1~25個、1~20個、1~10個、1~5個、1~3個、1~2個、または1個である。
【0069】
前記(Sm2)において、アミノ酸の置換等は、例えば、保存的置換であってもよい(以下、同様)。前記保存的置換は、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1個または数個のアミノ酸を、他のアミノ酸および/またはアミノ酸誘導体に置換することを意味する。「置換するアミノ酸」と「置換されるアミノ酸」とは、例えば、性質および/または機能が類似していることが好ましい。具体的には、例えば、疎水性および親水性の指標(ハイドロパシー)、極性、電荷等の化学的性質、または、二次構造等の物理的性質等が類似していることが好ましい。前記性質および/または機能が類似するアミノ酸またはアミノ酸誘導体は、例えば、当該技術分野において公知である。具体例として、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)は、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン等があげられ、極性アミノ酸(中性アミノ酸)は、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等があげられ、陽電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ)酸は、アルギニン、ヒスチジン、リジン等があげられ、負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸)は、アスパラギン酸、グルタミン酸等があげられる。
【0070】
前記(Sm3)において、「同一性」は、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されている範囲であればよく、好ましくは、Sタンパク質またはSwタンパク質に対する抗体を誘導可能な範囲、すなわち、Sタンパク質またはSwタンパク質に結合可能な抗体(例えば、中和抗体)の免疫原となる範囲であればよい。前記「同一性」は、例えば、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一性の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。前記「同一性」は、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。前記同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、デフォルトのパラメータにより算出できる(以下、同様)。
【0071】
前記変異タンパク質において、変異アミノ酸は、人為的に導入された変異でもよいし、SARS2のウイルス株等から単離された変異でもよい。前者の場合、前記「アミノ酸に変異を有する」は、例えば、「アミノ酸に変異が導入された」といえ、「変異されたアミノ酸」は、例えば、「変異が導入されたアミノ酸」ということができる。
【0072】
前記変異アミノ酸が人為的に導入された変異の場合、前記変異タンパク質は、Swタンパク質または変異タンパク質等のSタンパク質に対して、タンパク質に対するアミノ酸変異の導入方法を用いて導入できる。具体例として、前記変異は、ランダムに導入してもよいし(ランダムな変異導入方法)、部位特異的に導入してもよい(部位特異的な変異導入方法)。前記ランダムな変異を導入する場合、前記変異は、例えば、前記Sタンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはこれを含む発現ベクターについて、マンガンの存在下でPCR反応を実施することにより、ランダムに変異を導入できる。前記部位特異的な変異を導入する場合、前記変異は、例えば、前記Sタンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、任意の特定の部位における全種類の塩基対の変化を可能にするポリヌクレオチド(例えば、プライマー)特異的変異誘発法により導入できる。具体例として、前記特異的変異誘発法は、前記Sタンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはこれを含む発現ベクターの塩基配列と、前記変異を導入したいアミノ酸をコードするコドンに対して1または複数のミスマッチの塩基を含む部分的に相補的なポリヌクレオチドと、前記Sタンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはこれを含む発現ベクターとを用い、PCR反応を実施することにより導入できる。前記変異は、例えば、その他に、相同組換え(DNAシャフリング)、ウラシルを含む鋳型核酸分子を使用する変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的変異誘発、ホスホロチオエート修飾DNA変異誘発、ギャップドデュプレックスDNAを使用する変異誘発、点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用する変異誘発、欠失変異誘発、全遺伝子合成による変異誘発、二本鎖切断修復を使用した変異誘発、α線、β線、γ線、およびX線等の放射線照射処理による変異誘発、メタンスルホン酸エチル(EMS)、エチニルニトロソウレア(ENU)等の変異誘発剤による化学物質処理による変異誘発、重イオンビーム処理による変異誘発、ゲノム編集技術を用いた変異誘発または導入等があげられる。
【0073】
前記変異アミノ酸がウイルス株等から単離された変異の場合、前記変異アミノ酸は、SARS2のウイルス株から、前記Sタンパク質のアミノ酸配列を解析して、アミノ酸の変異を同定することにより、単離できる。
【0074】
前記変異アミノ酸において、変異の種類は、アミノ酸変異により、前記Swタンパク質における機能が修飾される範囲であればよく、前記アミノ酸変異により、変異後のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導を抑制できる範囲であることが好ましい。このため、前記「変異」は、例えば、修飾ということもできる。前記変異の種類は、例えば、アミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加があげられる。前記変異タンパク質に導入される変異の種類は、1種類でもよいし、複数種類でもよい。
【0075】
前記変異の種類は、例えば、変異アミノ酸を有する変異タンパク質の免疫原性を維持しやすく、前記変異タンパク質および前記Swタンパク質とで交差する中和抗体の産生誘導への影響が抑制されると想定されることから、置換が好ましい。前記変異が置換の場合、前記置換は、前述の保存的置換でないことが好ましく、特に、アミノ酸の側鎖の電荷が変化する置換が好ましい。このような置換を変異として導入することにより、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能をより低減しうる。具体例として、前記置換は、例えば、アラニンへの置換(アラニン置換)、糖鎖修飾モチーフ(NX[S/T])への置換があげられる。
【0076】
前記変異がアラニン置換である場合、前記(Sm1)のアミノ酸配列は、好ましくは、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、またはN30、F32、W64、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するアミノ酸配列であり、より好ましくは、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するアミノ酸配列であり、さらに好ましくは、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するアミノ酸配列である。
【0077】
前記変異が糖鎖修飾モチーフへの置換である場合、前記変異は、前記Ssタンパク質における64位のアミノ酸をN(アスパラギン)に、66位のアミノ酸をS(セリン)またはT(スレオニン)に置換することにより導入できる。具体例として、前記(Sm1)のアミノ酸配列は、例えば、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64NおよびH66SまたはW64NおよびH66Tの置換を有するアミノ酸配列である。
【0078】
前記置換は、アラニン置換および糖鎖修飾モチーフへの置換を組合せてもよい。この場合、前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前述のアラニン置換の例示において、W64およびH66を、W64NおよびH66S、またはW64NおよびH66Tに変更する以外は、同様のアミノ酸配列とできる。
【0079】
前記変異アミノ酸における変異は、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体(以下、「基準抗体」ともいう)との結合を低減させることが好ましい。これにより、本発明の変異タンパク質は、例えば、ワクチンの有効成分として用いた際に、前記変異アミノ酸を認識する抗体の誘導を抑制しうるため、より効果的に、前記Sタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導を抑制できる。
【0080】
本発明の変異タンパク質は、前述の変異アミノ酸に加えて、他のアミノ酸に変異を有してもよい。具体的には、前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位以外のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入されてもよい。具体例として、前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における986位および/または987位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有してもよい。この場合、前記変異タンパク質において、前記Ssタンパク質における986位(K)および987位(V)のアミノ酸は、プロリン(P)に置換されることが好ましい。これにより、前記変異タンパク質は、例えば、構造を安定化できる。
【0081】
本発明の変異タンパク質は、前記他のアミノ酸の変異の他の例として、フーリン分解部位(furin cleavage site)に変異を有してもよい。具体的には、前記変異タンパク質は、例えば、前記Ssタンパク質における682~685位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異が導入されてもよい。この場合、前記変異導入後のアミノ酸配列は、フーリンに分解されないアミノ酸配列とすることが好ましい。具体例として、前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における682位および/または685位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有してもよい。この場合、前記変異タンパク質において、前記Ssタンパク質における682位(R)および/または685位(R)のアミノ酸は、アラニン(A)、セリン(S)等に置換されることが好ましい。これにより、前記変異タンパク質は、例えば、S1領域およびS2領域への分解を抑制できるため、構造を安定化できる。
【0082】
本発明の変異タンパク質を可溶型タンパク質とする場合、前記変異タンパク質は、前記細胞内ドメインを欠失させることにより調製できる。前記変異タンパク質における細胞内ドメインは、例えば、前記Ssタンパク質における1255~1273位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0083】
前記基準抗体との結合の低減の確認方法は、例えば、前記アミノ酸変異が導入されたSタンパク質と、前記基準抗体との結合を、in vitroで検出する方法があげられる。前記検出方法は、例えば、ELISA、フローサイトメトリー、プルダウンアッセイ等があげられ、具体例として、後述の実施例5と同様にして実施できる。前記確認方法では、例えば、前記基準抗体を含まない試験系またはコントロール抗体を含む試験系と比較して、前記基準抗体との結合を示す有意な差(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%以上の差)のシグナルが検出された場合、前記基準抗体との結合が低減していると評価できる。前記変異アミノ酸を有する変異タンパク質としては、粗精製または精製された変異タンパク質を用いてもよいし、前記変異タンパク質を発現する細胞等の宿主細胞を用いてもよい。
【0084】
前記基準抗体は、前記Ssタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体であることが好ましい。前記結合能の増強の測定方法は、例えば、前記基準抗体の存在下、前記Ssタンパク質と、前記ACEタンパク質との結合を、in vitroで検出する方法があげられる。前記検出方法は、例えば、ELISA、フローサイトメトリー、プルダウンアッセイ等があげられ、具体例として、後述の実施例1と同様にして実施できる。前記測定方法では、例えば、前記基準抗体を含まない試験系またはコントロール抗体を含む試験系と比較して、前記Ssタンパク質と前記ACE2タンパク質との結合を示す有意な差(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%以上の差)のシグナルが検出された場合、前記Ssタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強していると評価できる。前記Ssタンパク質および/または前記ACE2タンパク質としては、粗精製または精製されたタンパク質を用いてもよいし、記Ssタンパク質または前記ACE2タンパク質を発現する細胞等の宿主細胞を用いてもよい。
【0085】
前記基準抗体は、前記Sタンパク質において、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する。前記基準抗体が認識するアミノ酸の説明は、前記変異タンパク質の(Sm1)における変異対象アミノ酸の説明および後述の第1のマーカーにおける抗体の説明を援用できる。
【0086】
前記基準抗体としては、例えば、下記の(H)の重鎖可変領域および(L)の軽鎖可変領域を含む、抗体があげられる。前記基準抗体は、前記Ssタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強できる抗体であることが好ましい。
【0087】
(H)重鎖可変領域:
配列番号8のアミノ酸配列(XYX)を含む、または、からなる重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号9のアミノ酸配列(XIX10GX11121314YX151617181920)を含む、または、からなるHCDR2、および配列番号10のアミノ酸配列(X21222324252627282930313233343536373839DX40)を含む、または、からなるHCDR3を含む、重鎖可変領域である。
は、SまたはTである;
は、存在しないか、Nである;
は、A、D、またはWである;
は、MまたはWである;
は、G、H、N、またはSである;
は、A、D、N、T、V、またはWである;
は、G、H、N、またはSである;
は、Q、T、またはYである;
は、A、D、S、またはNである;
10は、存在しないか、Tである;
11は、D、G、I、N、またはSである;
12は、E、N、P、SまたはTである;
13は、存在しないか、Kである;
14は、TまたはYである;
15は、A、N、P、またはVである;
16は、D、G、P、またはQである;
17は、GまたはSである;
18は、F、L、またはVである;
19は、K、R、またはTである;
20は、GまたはSである;
21は、存在しないか、Aである;
22は、DまたはRである;
23は、F、P、Q、T、またはWである;
24は、存在しないか、D、E、G、またはYである;
25は、G、S、Q、W、またはYである;
26は、D、F、G、またはLである;
27は、I、L、N、R、またはYである;
28は、存在しないか、G、L、P、T、W、またはYである;
29は、存在しないか、A、G、Q、S、またはTである;
30は、存在しないか、A、D、G、H、またはMである;
31は、存在しないか、S、V、またはYである;
32は、存在しないか、EまたはSである;
33は、存在しないか、L、S、W、またはYである;
34は、存在しないか、F、G、T、またはYである;
35は、存在しないか、A、G、L、またはYである;
36は、存在しないか、A、T、またはYである;
37は、FまたはYである;
38は、存在しないか、CまたはGである;
39は、存在しないか、Mである;
40は、F、I、またはVである。
【0088】
前記(H)重鎖可変領域は、例えば、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号10のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む、重鎖可変領域である。前記(H)重鎖可変領域は、例えば、配列番号8のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号9のアミノ酸配列からなるHCDR2、および配列番号10のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む、重鎖可変領域である。
【0089】
(L)軽鎖可変領域:
配列番号11のアミノ酸配列(X4142SX434445464748495051)を含む、または、からなる軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号12のアミノ酸配列(X5253SX54555657)を含む、または、からなるLCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列(X58QX5960616263646566T)を含む、または、からなるLCDR3を含む、軽鎖可変領域である:
41は、K、Q、またはRである;
42は、存在しないか、AまたはSである;
43は、存在しないか、QまたはVである;
44は、GまたはSである;
45は、存在しないか、I、L、またはVである;
46は、存在しないか、L、R、またはSである;
47は、存在しないか、Hである;
48は、存在しないか、NまたはSである;
49は、存在しないか、D、N、Y、またはWである;
50は、存在しないか、GまたはLである;
51は、存在しないか、A、G、またはKである;
52は、A、D、E、G、またはKである;
53は、AまたはVである;
54は、N、S、またはTである;
55は、LまたはRである;
56は、A、E、F、またはQである;
57は、SまたはTである;
58は、L、M、またはQである;
59は、A、H、L、S、またはYである;
60は、G、I、またはNである;
61は、N、S、またはQである;
62は、存在しないか、F、W、またはYである;
63は、存在しないか、P、S、またはWである;
64は、PまたはRである;
65は、存在しないか、Lである;
66は、存在しないか、Iである。
【0090】
前記(L)軽鎖可変領域は、例えば、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む、軽鎖可変領域である。前記(L)軽鎖可変領域は、例えば、配列番号11のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号12のアミノ酸配列からなるLCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む、軽鎖可変領域である。
【0091】
前記(H)の重鎖可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体は、例えば、下記(1)~(6)の抗体があげられる。下記(1)~(6)の抗体は、後述の実施例で示すように、前記Ssタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体、すなわち、ACE2結合増強抗体である。また、下記(1)~(6)の抗体は、ヒト由来の抗体である。
【0092】
(1)下記(HA)の重鎖可変領域と、下記(LA)の軽鎖可変領域とを含む抗体:
(H1)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、
HCDR1は、下記(H1-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR2が、下記(H2-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR3が、下記(H3-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである重鎖可変領域:
(H1-A)下記(H1-A1)、(H1-A2)または(H1-A3)のアミノ酸配列
(H1-A1)配列番号14(SYAMH)のアミノ酸配列
(H1-A2)配列番号14のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H1-A3)配列番号14のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H2-A)下記(H2-A1)、(H2-A2)または(H2-A3)のアミノ酸配列
(H2-A1)配列番号15(VISYDGSNKYYADSVKG)のアミノ酸配列
(H2-A2)配列番号15のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H2-A3)配列番号15のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H3-A)下記(H3-A1)、(H3-A2)または(H3-A3)のアミノ酸配列
(H3-A1)配列番号16(DQEWFRELFLFDY)のアミノ酸配列
(H3-A2)配列番号16のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H3-A3)配列番号16のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列;
(L1)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、
LCDR1は、下記(L1-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR2が、下記(L2-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR3が、下記(L3-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである軽鎖可変領域:
(L1-A)下記(L1-A1)、(L1-A2)または(L1-A3)のアミノ酸配列
(L1-A1)配列番号17(RASQGISSWLA)のアミノ酸配列
(L1-A2)配列番号17のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L1-A3)配列番号17のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L2-A)下記(L2-A1)、(L2-A2)または(L2-A3)のアミノ酸配列
(L2-A1)配列番号18(DASSLQS)のアミノ酸配列
(L2-A2)配列番号18のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L2-A3)配列番号18のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L3-A)下記(L3-A1)、(L3-A2)または(L3-A3)のアミノ酸配列
(L3-A1)配列番号19(QQANSFPPT)のアミノ酸配列
(L3-A2)配列番号19のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L3-A3)配列番号19のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【0093】
前記(1)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0094】
(2)下記(HB)の重鎖可変領域と、下記(LB)の軽鎖可変領域とを含む抗体:
(HB)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、
HCDR1は、下記(H1-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR2が、下記(H2-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR3が、下記(H3-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである重鎖可変領域:
(H1-B)下記(H1-B1)、(H1-B2)または(H1-B3)のアミノ酸配列
(H1-B1)配列番号20(SYWMN)のアミノ酸配列
(H1-B2)配列番号20のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H1-B3)配列番号20のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H2-B)下記(H2-B1)、(H2-B2)または(H2-B3)のアミノ酸配列
(H2-B1)配列番号21(NINQDGGEKYYVDSVRG)のアミノ酸配列
(H2-B2)配列番号21のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H2-B3)配列番号21のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H3-B)下記(H3-B1)、(H3-B2)または(H3-B3)のアミノ酸配列
(H3-B1)配列番号22(DPYDLYGDYGGTFDY)のアミノ酸配列
(H3-B2)配列番号22のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H3-B3)配列番号22のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列;
(LB)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、
LCDR1は、下記(L1-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR2が、下記(L2-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR3が、下記(L3-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである軽鎖可変領域:
(L1-B)下記(L1-B1)、(L1-B2)または(L1-B3)のアミノ酸配列
(L1-B1)配列番号23(RASQSVSSNLA)のアミノ酸配列
(L1-B2)配列番号23のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L1-B3)配列番号23のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L2-B)下記(L2-B1)、(L2-B2)または(L2-B3)のアミノ酸配列
(L2-B1)配列番号24(GASTRAT)のアミノ酸配列
(L2-B2)配列番号24のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L2-B3)配列番号24のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L3-B)下記(L3-B1)、(L3-B2)または(L3-B3)のアミノ酸配列
(L3-B1)配列番号25(QQYNNWWRT)のアミノ酸配列
(L3-B2)配列番号25のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L3-B3)配列番号25のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【0095】
前記(2)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、64位、66位、213位、214位、および216位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0096】
(3)下記(HC)の重鎖可変領域と、下記(LC)の軽鎖可変領域とを含む抗体:
(HC)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、
HCDR1は、下記(H1-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR2が、下記(H2-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR3が、下記(H3-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである重鎖可変領域:
(H1-C)下記(H1-C1)、(H1-C2)または(H1-C3)のアミノ酸配列
(H1-C1)配列番号26(SYWMS)のアミノ酸配列
(H1-C2)配列番号26のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H1-C3)配列番号26のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H2-C)下記(H2-C1)、(H2-C2)または(H2-C3)のアミノ酸配列
(H2-C1)配列番号27(NINQDGSEKYYVDSVKG)のアミノ酸配列
(H2-C2)配列番号27のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H2-C3)配列番号27のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H3-C)下記(H3-C1)、(H3-C2)または(H3-C3)のアミノ酸配列
(H3-C1)配列番号28(DWDYDILTGSWFGAFDI)のアミノ酸配列
(H3-C2)配列番号28のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H3-C3)配列番号28のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列;
(LC)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、
LCDR1は、下記(L1-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR2が、下記(L2-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR3が、下記(L3-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである軽鎖可変領域:
(L1-C)下記(L1-C1)、(L1-C2)または(L1-C3)のアミノ酸配列
(L1-C1)配列番号29(RASQGIRNDLG)のアミノ酸配列
(L1-C2)配列番号29のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L1-C3)配列番号29のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L2-C)下記(L2-C1)、(L2-C2)または(L2-C3)のアミノ酸配列
(L2-C1)配列番号30(AASSLQS)のアミノ酸配列
(L2-C2)配列番号30のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L2-C3)配列番号30のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L3-C)下記(L3-C1)、(L3-C2)または(L3-C3)のアミノ酸配列
(L3-C1)配列番号31(LQHNSYPLT)のアミノ酸配列
(L3-C2)配列番号31のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L3-C3)配列番号31のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【0097】
前記(3)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、68位、94位、97位、129位、185位、187位、213位、214位、215位、216位、217位、および258位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0098】
(4)下記(HD)の重鎖可変領域と、下記(LD)の軽鎖可変領域とを含む抗体:
(HD)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、
HCDR1は、下記(H1-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR2が、下記(H2-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR3が、下記(H3-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである重鎖可変領域:
(H1-D)下記(H1-D1)、(H1-D2)または(H1-D3)のアミノ酸配列
(H1-D1)配列番号32(TYAMN)のアミノ酸配列
(H1-D2)配列番号32のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H1-D3)配列番号32のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H2-D)下記(H2-D1)、(H2-D2)または(H2-D3)のアミノ酸配列
(H2-D1)配列番号33(WINTNTGNPTYAQGFTG)のアミノ酸配列
(H2-D2)配列番号33のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H2-D3)配列番号33のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H3-D)下記(H3-D1)、(H3-D2)または(H3-D3)のアミノ酸配列
(H3-D1)配列番号34(DQDSGYPTYYYYYMDV)のアミノ酸配列
(H3-D2)配列番号34のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H3-D3)配列番号34のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列;
(LD)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、
LCDR1は、下記(L1-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR2が、下記(L2-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR3が、下記(L3-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである軽鎖可変領域:
(L1-D)下記(L1-D1)、(L1-D2)または(L1-D3)のアミノ酸配列
(L1-D1)配列番号35(KSSQSLLHSDGK)のアミノ酸配列
(L1-D2)配列番号35のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L1-D3)配列番号35のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L2-D)下記(L2-D1)、(L2-D2)または(L2-D3)のアミノ酸配列
(L2-D1)配列番号36(EVSNRFS)のアミノ酸配列
(L2-D2)配列番号36のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L2-D3)配列番号36のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L3-D)下記(L3-D1)、(L3-D2)または(L3-D3)のアミノ酸配列
(L3-D1)配列番号37(MQSIQPPLT)のアミノ酸配列
(L3-D2)配列番号37のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L3-D3)配列番号37のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【0099】
前記(4)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、68位、94位、129位、185位、213位、214位、および258位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0100】
(5)下記(HE)の重鎖可変領域と、下記(LE)の軽鎖可変領域とを含む抗体:
(HE)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、
HCDR1は、下記(H1-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR2が、下記(H2-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR3が、下記(H3-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである重鎖可変領域:
(H1-E)下記(H1-E1)、(H1-E2)または(H1-E3)のアミノ酸配列
(H1-E1)配列番号38(SYAMH)のアミノ酸配列
(H1-E2)配列番号38のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H1-E3)配列番号38のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H2-E)下記(H2-E1)、(H2-E2)または(H2-E3)のアミノ酸配列
(H2-E1)配列番号39(DISYDGSEKYYADSVKG)のアミノ酸配列
(H2-E2)配列番号39のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H2-E3)配列番号39のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H3-E)下記(H3-E1)、(H3-E2)または(H3-E3)のアミノ酸配列
(H3-E1)配列番号40(DFGGDNTAMVEYFFDF)のアミノ酸配列
(H3-E2)配列番号40のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H3-E3)配列番号40のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列;
(LE)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、
LCDR1は、下記(L1-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR2が、下記(L2-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR3が、下記(L3-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである軽鎖可変領域:
(L1-E)下記(L1-E1)、(L1-E2)または(L1-E3)のアミノ酸配列
(L1-E1)配列番号41(RASQSISSWLA)のアミノ酸配列
(L1-E2)配列番号41のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L1-E3)配列番号41のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L2-E)下記(L2-E1)、(L2-E2)または(L2-E3)のアミノ酸配列
(L2-E1)配列番号42(KASSLES)のアミノ酸配列
(L2-E2)配列番号42のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L2-E3)配列番号42のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L3-E)下記(L3-E1)、(L3-E2)または(L3-E3)のアミノ酸配列
(L3-E1)配列番号43(QQYNSYSPT)のアミノ酸配列
(L3-E2)配列番号43のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L3-E3)配列番号43のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【0101】
前記(5)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、187位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0102】
(6)下記(HF)の重鎖可変領域と、下記(LF)の軽鎖可変領域とを含む抗体:
(HF)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、
HCDR1は、下記(H1-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR2が、下記(H2-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
HCDR3が、下記(H3-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである重鎖可変領域:
(H1-F)下記(H1-F1)、(H1-F2)または(H1-F3)のアミノ酸配列
(H1-F1)配列番号44(SYDMH)のアミノ酸配列
(H1-F2)配列番号44のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H1-F3)配列番号44のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H2-F)下記(H2-F1)、(H2-F2)または(H2-F3)のアミノ酸配列
(H2-F1)配列番号45(AIGTAGDTYYPGSVKG)のアミノ酸配列
(H2-F2)配列番号45のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H2-F3)配列番号45のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(H3-G)下記(H3-G1)、(H3-G2)または(H3-G3)のアミノ酸配列
(H3-G1)配列番号46(ADPYQLLGQHYYYGMDV)のアミノ酸配列
(H3-G2)配列番号46のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H3-G3)配列番号46のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列;
(LF)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、
LCDR1は、下記(L1-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR2が、下記(L2-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドであり、
LCDR3が、下記(L3-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドである軽鎖可変領域:
(L1-F)下記(L1-F1)、(L1-F2)または(L1-F3)のアミノ酸配列
(L1-F1)配列番号47(QSVSSSYLA)のアミノ酸配列
(L1-F2)配列番号47のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L1-F3)配列番号47のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L2-F)下記(L2-F1)、(L2-F2)または(L2-F3)のアミノ酸配列
(L2-F1)配列番号48(GASSRAT)のアミノ酸配列
(L2-F2)配列番号48のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L2-F3)配列番号48のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
(L3-F)下記(L3-F1)、(L3-F2)または(L3-F3)のアミノ酸配列
(L3-F1)配列番号49(QQYGSSPLIT)のアミノ酸配列
(L3-F2)配列番号49のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L3-F3)配列番号49のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【0103】
前記(6)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、129位、212位、213位、214位、215位、216位、217位、および237位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0104】
前記(1)~(6)の抗体の各CDRにおいて、「同一性」は、例えば、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一性の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。前記「同一性」は、それぞれ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。
【0105】
前記(1)~(6)の抗体の各CDRにおいて、欠失、置換、挿入および/または付加(以下、「置換等」という)に関する「1個または数個」は、それぞれ、例えば、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、1個である。
【0106】
前記置換は、例えば、前述の保存的置換であってもよい。
【0107】
前記各抗体において、CDR以外の領域は抗体としての構造を維持し、機能を発揮できる配列であれば特に制限されず、例えば、マウス由来の配列、ヒト由来の配列、他の哺乳動物由来の配列、それらのキメラ配列、および/または人工配列を用いることができる。前記CDR以外の領域は、例えば、フレームワーク領域(FR)、定常領域等があげられる。前記各抗体が定常領域を含む場合、前記重鎖および軽鎖の定常領域のアミノ酸配列は、例えば、下記参考文献2~4に記載のものを用いることができる。
参考文献2:S. Huck et.al., “Sequence of a human immunoglobulin gamma 3 heavy chain constant region gene: comparison with the other human C gamma genes.”, 1986, Nucleic Acids Res, vol. 14, No. 4, pages 1779-1789
参考文献3:P A Hieter et.al., “Evolution of human immunoglobulin kappa J region genes.”, 1982, J. Biol. Chem., vol. 257, pages 1516-1522
参考文献4:Philip A. Hieter et.al., “Cloned human and mouse kappa immunoglobulin constant and J region genes conserve homology in functional segments.”, 1980, Cell, vol. 22, pages 197-207
【0108】
前記各抗体において、FR領域のアミノ酸配列としては、以下のアミノ酸配列が例示できる。
【0109】
(HA)の重鎖可変領域におけるFR領域(HFR1~4)
HFR1:配列番号50のアミノ酸配列
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFS(配列番号50)
HFR2:配列番号51のアミノ酸配列
WVRQAPGKGLEWVA(配列番号51)
HFR3:配列番号52のアミノ酸配列
RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRVEDTAVYYCAR(配列番号52)
HFR4:配列番号53のアミノ酸配列
WGQGTLVTVSS(配列番号53)
【0110】
(LA)の軽鎖可変領域におけるFR領域(LFR1~4)
LFR1:配列番号54のアミノ酸配列
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITC(配列番号54)
LFR2:配列番号55のアミノ酸配列
WYQQKPGKAPKLLIY(配列番号55)
LFR3:配列番号56のアミノ酸配列
GVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC(配列番号56)
LFR4:配列番号57のアミノ酸配列
FGPGTKVDIK(配列番号57)
【0111】
(HB)の重鎖可変領域におけるFR領域(HFR1~4)
HFR1:配列番号58のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS(配列番号58)
HFR2:配列番号59のアミノ酸配列
WVRQAPGKGLEWVA(配列番号59)
HFR3:配列番号60のアミノ酸配列
RFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCAR(配列番号60)
HFR4:配列番号61のアミノ酸配列
WGQGTLVTVSS(配列番号61)
【0112】
(LB)の軽鎖可変領域におけるFR領域(LFR1~4)
LFR1:配列番号62のアミノ酸配列
EIVLTQSPATLSVSPGERATLSC(配列番号62)
LFR2:配列番号63のアミノ酸配列
WYQQKPGQAPRLLIY(配列番号63)
LFR3:配列番号64のアミノ酸配列
GIPARFSGSGSGTDFTLTISSLQSEDFALYYC(配列番号64)
LFR4:配列番号65のアミノ酸配列
FGQGTKVEIN(配列番号65)
【0113】
(HC)の重鎖可変領域におけるFR領域(HFR1~4)
HFR1:配列番号66のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS(配列番号66)
HFR2:配列番号67のアミノ酸配列
WVRQAPGKGLEWVA(配列番号67)
HFR3:配列番号68のアミノ酸配列
RFTISRDNAKNSLYLQVNSLRAEDTAVYYCAR(配列番号68)
HFR4:配列番号69のアミノ酸配列
WGQGTTVTVSS(配列番号69)
【0114】
(LC)の軽鎖可変領域におけるFR領域(LFR1~4)
LFR1:配列番号70のアミノ酸配列
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITC(配列番号70)
LFR2:配列番号71のアミノ酸配列
WYQQKPGKAPKRLIY(配列番号71)
LFR3:配列番号72のアミノ酸配列
GVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPEDFATYYC(配列番号72)
LFR4:配列番号73のアミノ酸配列
FGGGTKVEIK(配列番号73)
【0115】
(HD)の重鎖可変領域におけるFR領域(HFR1~4)
HFR1:配列番号74のアミノ酸配列
QVQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFT(配列番号74)
HFR2:配列番号75のアミノ酸配列
WVRQAPGQGLEWMG(配列番号75)
HFR3:配列番号76のアミノ酸配列
RFVFSLDTSVNTAFLHIGSLKAEDTAVYYCAR(配列番号76)
HFR4:配列番号77のアミノ酸配列
WGKGTTVTVSS(配列番号77)
【0116】
(LD)の軽鎖可変領域におけるFR領域(LFR1~4)
LFR1:配列番号78のアミノ酸配列
DIVMTQTPLSLSVTPGQPASISC(配列番号78)
LFR2:配列番79のアミノ酸配列
TYLYWYLQKPGQSPQLLIY(配列番号79)
LFR3:配列番号80のアミノ酸配列
GVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYC(配列番号80)
LFR4:配列番号81のアミノ酸配列
FGGGTKVEIK(配列番号81)
【0117】
(HE)の重鎖可変領域におけるFR領域(HFR1~4)
HFR1:配列番号82のアミノ酸配列
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFS(配列番号82)
HFR2:配列番号83のアミノ酸配列
WVRQAPGKGLEWVA(配列番号83)
HFR3:配列番号84のアミノ酸配列
RFTIYRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAK(配列番号84)
HFR4:配列番号85のアミノ酸配列
WGQGTLVTVSS(配列番号85)
【0118】
(LE)の軽鎖可変領域におけるFR領域(LFR1~4)
LFR1:配列番号86のアミノ酸配列
DIQMTQSPSTLSASVGDRVTITC(配列番号86)
LFR2:配列番号87のアミノ酸配列
WYQQKPGKAPKLLIY(配列番号87)
LFR3:配列番号88のアミノ酸配列
GVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYC(配列番号88)
LFR4:配列番号89のアミノ酸配列
FGQGTKVEIK(配列番号89)
【0119】
(HF)の重鎖可変領域におけるFR領域(HFR1~4)
HFR1:配列番号90のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS(配列番号90)
HFR2:配列番号91のアミノ酸配列
WVRQATGKGLEWVS(配列番号91)
HFR3:配列番号92のアミノ酸配列
RFTISRENAKNSLYLQMNSLRAGDTAVYYCAR(配列番号92)
HFR4:配列番号93のアミノ酸配列
WGQGTTVTVSS(配列番号93)
【0120】
(LF)の軽鎖可変領域におけるFR領域(LFR1~4)
LFR1:配列番号94のアミノ酸配列
EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRAS(配列番号94)
LFR2:配列番号95のアミノ酸配列
WYQQKPGQAPRLLIY(配列番号95)
LFR3:配列番号96のアミノ酸配列
GIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYC(配列番号96)
LFR4:配列番号97のアミノ酸配列
FGQGTRLEIK(配列番号97)
【0121】
前記各FRは、例えば、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有してもよい。前記「1または数個」は、前記CDRにおける「1または数個」の説明を援用できる。また、各FRは、各FRのアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記「同一性」は、前記CDRにおける「同一性」の説明を援用できる。
【0122】
前記(H)の重鎖可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体は、例えば、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体があげられる。下記(A)~(F)の抗体は、それぞれ、前記(1)~(6)の抗体に属する抗体である。
【0123】
前記(A)の抗体は、重鎖可変領域として、下記(H-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。また、前記(A)の抗体は、軽鎖可変領域として、下記(L-A)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。
【0124】
(H-A)下記(H-A1)、(H-A2)または(H-A3)のアミノ酸配列
(H-A1)配列番号98のアミノ酸配列
配列番号98:QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSSYAMHWVRQAPGKGLEWVAVISYDGSNKYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRVEDTAVYYCARDQEWFRELFLFDYWGQGTLVTVSS
(H-A2)配列番号98のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H-A3)配列番号98のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0125】
(L-A)下記(L-A1)、(L-A2)または(L-A3)のアミノ酸配列
(L-A1)配列番号99のアミノ酸配列
配列番号99:DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISSWLAWYQQKPGKAPKLLIYDASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQANSFPPTFGPGTKVDIK
(L-A2)配列番号99のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L-A3)配列番号99のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0126】
前記(H-A1)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-A1)、HCDR2の(H2-A1)、およびHCDR3の(H3-A1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(H-A2)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-A1)、HCDR2の(H2-A1)、およびHCDR3(H3-A1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号98のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(H-A3)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-A1)、HCDR2の(H2-A1)、およびHCDR3(H3-A1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号98のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0127】
前記(L-A1)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-A1)、LCDR2の(L2-A1)、およびLCDR3の(L3-A1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(L-A2)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-A1)、LCDR2の(L2-A1)、およびLCDR3の(L3-A1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号99のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(L-A3)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-A1)、LCDR2の(L2-A1)、およびLCDR3の(L3-A1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号99のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0128】
前記(A)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0129】
本発明の抗体は、例えば、前記重鎖可変領域が、前記(H-A1)であり、前記軽鎖可変領域が、前記(L-A1)であり、この組合せの抗体を、以下、「クローン2210」ともいう。前記クローン2210は、後述のように、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0130】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、前記「同一性」は、それぞれ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。
【0131】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、置換等に関する「1個または数個」は、それぞれ、例えば、1~30個、1~25個、1~20個、1~17個、1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、1個である。
【0132】
前記(B)の抗体は、重鎖可変領域として、下記(H-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。また、前記(B)の抗体は、軽鎖可変領域として、下記(L-B)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。
【0133】
(H-B)下記(H-B1)、(H-B2)または(H-B3)のアミノ酸配列
(H-B1)配列番号100のアミノ酸配列
配列番号100:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMNWVRQAPGKGLEWVANINQDGGEKYYVDSVRGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDPYDLYGDYGGTFDYWGQGTLVTVSS
(H-B2)配列番号100のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H-B3)配列番号100のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0134】
(L-B)下記(L-B1)、(L-B2)または(L-B3)のアミノ酸配列
(L-B1)配列番号101のアミノ酸配列
配列番号101:EIVLTQSPATLSVSPGERATLSCRASQSVSSNLAWYQQKPGQAPRLLIYGASTRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLQSEDFALYYCQQYNNWWRTFGQGTKVEIN
(L-B2)配列番号101のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L-B3)配列番号101のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0135】
前記(H-B1)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-B1)、HCDR2の(H2-B1)、およびHCDR3の(H3-B1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(H-B2)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-B1)、HCDR2の(H2-B1)、およびHCDR3(H3-B1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号100のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(H-B3)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-B1)、HCDR2の(H2-B1)、およびHCDR3(H3-B1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号100のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0136】
前記(L-B1)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-B1)、LCDR2の(L2-B1)、およびLCDR3の(L3-B1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(L-B2)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-B1)、LCDR2の(L2-B1)、およびLCDR3の(L3-B1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号101のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(L-B3)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-B1)、LCDR2の(L2-B1)、およびLCDR3の(L3-B1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号101のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0137】
前記(B)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、64位、66位、213位、214位、および216位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0138】
本発明の抗体は、例えば、前記重鎖可変領域が、前記(H-B1)であり、前記軽鎖可変領域が、前記(L-B1)であり、この組合せの抗体を、以下、「クローン2490」ともいう。前記クローン2490の抗体は、後述のように、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、64位、66位、213位、214位、および216位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0139】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、前記「同一性」は、それぞれ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。
【0140】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、置換等に関する「1個または数個」は、それぞれ、例えば、1~30個、1~25個、1~20個、1~17個、1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、1個である。
【0141】
前記(C)の抗体は、重鎖可変領域として、下記(H-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。また、前記(C)の抗体は、軽鎖可変領域として、下記(L-C)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。
【0142】
(H-C)下記(H-C1)、(H-C2)または(H-C3)のアミノ酸配列
(H-C1)配列番号102のアミノ酸配列
配列番号102:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMSWVRQAPGKGLEWVANINQDGSEKYYVDSVKGRFTISRDNAKNSLYLQVNSLRAEDTAVYYCARDWDYDILTGSWFGAFDIWGQGTTVTVSS
(H-C2)配列番号102のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H-C3)配列番号102のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0143】
(L-C)下記(L-C1)、(L-C2)または(L-C3)のアミノ酸配列
(L-C1)配列番号103のアミノ酸配列
配列番号103:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGIRNDLGWYQQKPGKAPKRLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPEDFATYYCLQHNSYPLTFGGGTKVEIK
(L-C2)配列番号103のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L-C3)配列番号103のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0144】
前記(H-C1)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-C1)、HCDR2の(H2-C1)、およびHCDR3の(H3-C1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(H-C2)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-C1)、HCDR2の(H2-C1)、およびHCDR3(H3-C1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号102のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(H-C3)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-C1)、HCDR2の(H2-C1)、およびHCDR3(H3-C1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号102のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0145】
前記(L-C1)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-C1)、LCDR2の(L2-C1)、およびLCDR3の(L3-C1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(L-C2)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-C1)、LCDR2の(L2-C1)、およびLCDR3の(L3-C1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号107のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(L-C3)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-C1)、LCDR2の(L2-C1)、およびLCDR3の(L3-C1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号107のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0146】
前記(C)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、68位、94位、97位、129位、185位、187位、213位、214位、215位、216位、217位、および258位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0147】
本発明の抗体は、例えば、前記重鎖可変領域が、前記(H-C1)であり、前記軽鎖可変領域が、前記(L-C1)であり、この組合せの抗体を、以下、「クローン8D2」ともいう。前記クローン8D2は、後述のように、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、68位、94位、97位、129位、185位、187位、213位、214位、215位、216位、217位、および258位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0148】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、前記「同一性」は、それぞれ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。
【0149】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、置換等に関する「1個または数個」は、それぞれ、例えば、1~30個、1~25個、1~20個、1~17個、1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、1個である。
【0150】
前記(D)の抗体は、重鎖可変領域として、下記(H-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。また、前記(D)の抗体は、軽鎖可変領域として、下記(L-D)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。
【0151】
(H-D)下記(H-D1)、(H-D2)または(H-D3)のアミノ酸配列
(H-D1)配列番号104のアミノ酸配列
配列番号104:QVQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFTTYAMNWVRQAPGQGLEWMGWINTNTGNPTYAQGFTGRFVFSLDTSVNTAFLHIGSLKAEDTAVYYCARDQDSGYPTYYYYYMDVWGKGTTVTVSS
(H-D2)配列番号104のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H-D3)配列番号104のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0152】
(L-D)下記(L-D1)、(L-D2)または(L-D3)のアミノ酸配列
(L-D1)配列番号105のアミノ酸配列
配列番号105:DIVMTQTPLSLSVTPGQPASISCKSSQSLLHSDGKTYLYWYLQKPGQSPQLLIYEVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCMQSIQPPLTFGGGTKVEIK
(L-D2)配列番号105のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L-D3)配列番号105のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0153】
前記(H-D1)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-D1)、HCDR2の(H2-D1)、およびHCDR3の(H3-D1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(H-D2)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-D1)、HCDR2の(H2-D1)、およびHCDR3(H3-D1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号104のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(H-D3)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-D1)、HCDR2の(H2-D1)、およびHCDR3(H3-D1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号104のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0154】
前記(L-D1)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-D1)、LCDR2の(L2-D1)、およびLCDR3の(L3-D1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(L-D2)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-D1)、LCDR2の(L2-D1)、およびLCDR3の(L3-D1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号105のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(L-D3)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-D1)、LCDR2の(L2-D1)、およびLCDR3の(L3-D1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号105のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0155】
前記(D)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、68位、94位、129位、185位、213位、214位、および258位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0156】
本発明の抗体は、例えば、前記重鎖可変領域が、前記(H-D1)であり、前記軽鎖可変領域が、前記(L-D1)であり、この組合せの抗体を、以下、「クローン2582」ともいう。前記クローン2582は、後述のように、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、68位、94位、129位、185位、213位、214位、および258位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0157】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、前記「同一性」は、それぞれ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。
【0158】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、置換等に関する「1個または数個」は、それぞれ、例えば、1~30個、1~25個、1~20個、1~17個、1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、1個である。
【0159】
前記(E)の抗体は、重鎖可変領域として、下記(H-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。また、前記(E)の抗体は、軽鎖可変領域として、下記(L-E)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。
【0160】
(H-E)下記(H-E1)、(H-E2)または(H-E3)のアミノ酸配列
(H-E1)配列番号106のアミノ酸配列
配列番号106:QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSSYAMHWVRQAPGKGLEWVADISYDGSEKYYADSVKGRFTIYRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKDFGGDNTAMVEYFFDFWGQGTLVTVSS
(H-E2)配列番号106のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H-E3)配列番号106のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0161】
(L-E)下記(L-E1)、(L-E2)または(L-E3)のアミノ酸配列
(L-E1)配列番号107のアミノ酸配列
配列番号107:DIQMTQSPSTLSASVGDRVTITCRASQSISSWLAWYQQKPGKAPKLLIYKASSLESGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCQQYNSYSPTFGQGTKVEIK
(L-E2)配列番号107のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L-E3)配列番号107のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0162】
前記(H-E1)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-E1)、HCDR2の(H2-E1)、およびHCDR3の(H3-E1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(H-E2)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-E1)、HCDR2の(H2-E1)、およびHCDR3(H3-E1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号106のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(H-E3)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-E1)、HCDR2の(H2-E1)、およびHCDR3(H3-E1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号106のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0163】
前記(L-E1)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-E1)、LCDR2の(L2-E1)、およびLCDR3の(L3-E1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(L-E2)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-E1)、LCDR2の(L2-E1)、およびLCDR3の(L3-E1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号107のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(L-E3)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-E1)、LCDR2の(L2-E1)、およびLCDR3の(L3-E1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号107のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0164】
前記(E)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、187位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0165】
本発明の抗体は、例えば、前記重鎖可変領域が、前記(H-E1)であり、前記軽鎖可変領域が、前記(L-E1)であり、この組合せの抗体を、以下、「クローン2369」ともいう。前記クローン2369は、後述のように、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、187位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0166】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、前記「同一性」は、それぞれ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。
【0167】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、置換等に関する「1個または数個」は、それぞれ、例えば、1~30個、1~25個、1~20個、1~17個、1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、1個である。
【0168】
前記(F)の抗体は、重鎖可変領域として、下記(H-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。また、前記(F)の抗体は、軽鎖可変領域として、下記(L-F)のアミノ酸配列を含む、またはからなるポリペプチドを含む。
【0169】
(H-F)下記(H-F1)、(H-F2)または(H-F3)のアミノ酸配列
(H-F1)配列番号108のアミノ酸配列
配列番号108:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYDMHWVRQATGKGLEWVSAIGTAGDTYYPGSVKGRFTISRENAKNSLYLQMNSLRAGDTAVYYCARADPYQLLGQHYYYGMDVWGQGTTVTVSS
(H-F2)配列番号108のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(H-F3)配列番号108のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0170】
(L-F)下記(L-F1)、(L-F2)または(L-F3)のアミノ酸配列
(L-F1)配列番号109のアミノ酸配列
配列番号109:EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYGSSPLITFGQGTRLEIK
(L-F2)配列番号109のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(L-F3)配列番号109のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列
【0171】
前記(H-F1)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-F1)、HCDR2の(H2-F1)、およびHCDR3の(H3-F1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(H-F2)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-F1)、HCDR2の(H2-F1)、およびHCDR3(H3-F1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号108のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(H-F3)のアミノ酸配列は、例えば、HCDR1の(H1-F1)、HCDR2の(H2-F1)、およびHCDR3(H3-F1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号108のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0172】
前記(L-F1)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-F1)、LCDR2の(L2-F1)、およびLCDR3の(L3-F1)のアミノ酸配列を含む配列である。前記(L-F2)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-F1)、LCDR2の(L2-F1)、およびLCDR3の(L3-F1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号109のアミノ酸配列に対して、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記(L-F3)のアミノ酸配列は、例えば、LCDR1の(L1-F1)、LCDR2の(L2-F1)、およびLCDR3の(L3-F1)のアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号109のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であってもよい。
【0173】
前記(F)の抗体は、例えば、前記Ssタンパク質を認識する抗体であり、好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、66位、213位、および214位のアミノ酸を認識する抗体であり、より好ましくは、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、129位、212位、213位、214位、215位、216位、217位、および237位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0174】
本発明の抗体は、例えば、前記重鎖可変領域が、前記(H-F1)であり、前記軽鎖可変領域が、前記(L-F1)であり、この組合せの抗体を、以下、「クローン2660」ともいう。前記クローン2660は、後述のように、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列において、30位、32位、64位、66位、129位、212位、213位、214位、215位、216位、217位、および237位のアミノ酸を認識する抗体である。
【0175】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、前記「同一性」は、それぞれ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上である。
【0176】
前記重鎖可変領域のポリペプチドおよび前記軽鎖可変領域のポリペプチドにおいて、置換等に関する「1個または数個」は、それぞれ、例えば、1~30個、1~25個、1~20個、1~17個、1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、1個である。
【0177】
前記(1)~(6)および(A)~(F)の抗体は、例えば、ヒトから単離された抗体に由来するアミノ酸配列である。
【0178】
前記(1)~(6)および(A)~(F)の抗体は、例えば、各抗体をコードする遺伝子を発現ベクターにクローニング後、後述の本発明の製造方法における発現ベクターと同様に宿主細胞に導入し、得られた形質転換体を培養することにより、培養上清から目的の抗体を取得できる。
【0179】
前記基準抗体は、例えば、前記Swタンパク質を免疫原として、哺乳類動物に免疫し、モノクローナル抗体を単離することにより調製してもよい。この場合、前記基準抗体の調製では、前記免疫原を投与された哺乳類動物から、抗体産生細胞を単離し、前記Swタンパク質に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを調製する。そして、前記基準抗体は、前記ハイブリドーマから得られた抗体について、前記Swタンパク質における前記所定の位置のアミノ酸を認識する抗体を同定することにより調製できる。前記モノクローナル抗体の調製は、例えば、周知の方法を用いて実施でき、下記参考文献5を参照できる。また、前記ハイブリドーマの調製は、例えば、下記参考文献6を参照できる。前記所定の位置のアミノ酸を認識する抗体は、例えば、後述の本発明の第1~第4の検出方法を用いて検出できる。
参考文献5:Ed Harlow et.al., “Antibodies :A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)
参考文献6:G. KOHLER, et.al., “Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity”, Nature, 1975, volume 256, pages495-497
【0180】
前記基準抗体のモノクローナル抗体は、例えば、ファージディスプレイ法により取得してもよい。この場合、ファージディスプレイ法では、まず、ファージ抗体ライブラリについて、前記Swタンパク質および変異タンパク質を用いて、後述の本発明の第1~第4の検出方法と同様にしてスクリーニングを行い、前記Swタンパク質の所定の位置のアミノ酸に対して結合性を有するファージを選抜する。つぎに、ファージディスプレイ法では、選抜されたファージが含む抗体対応配列について、単離または配列決定し、単離された配列または決定された配列情報に基づき、抗体または抗原結合ドメインをコードする核酸分子を含む発現ベクターを構築する。そして、前記得られた発現ベクターを、後述の本発明の製造方法における発現ベクターと同様に宿主細胞に導入し、得られた形質転換体を培養することにより、培養上清から目的の抗体を取得できる。
【0181】
本発明において、前記基準抗体は、ヒト抗体でもよいし、キメラ抗体でもよいし、ヒト化抗体でもよい。前記キメラ抗体は、例えば、可変領域が、ヒトのイムノグロブリン由来の可変領域であり、定常領域が非ヒト動物(マウス、ラット、ハムスター、ニワトリ等)由来の定常領域である抗体があげられる。この場合、前記キメラ抗体は、例えば、前記(1)~(6)の抗体をコードする遺伝子から可変領域を切り出し、前記非ヒト動物由来の定常領域と結合して作製することができる。前記非ヒト動物イムノグロブリン由来の定常領域は、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のIgG;IgM;IgA1、IgA2等のIgA;IgD;IgE;等のいずれのアイソタイプでもよいが、好ましくは、マウスIgGの定常領域である。
【0182】
前記キメラ抗体は、例えば、可変領域が、非ヒト動物(マウス、ラット、ハムスター、ニワトリ等)のイムノグロブリン由来の可変領域であり、定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であるキメラ抗体であってもよい。この場合、前記キメラ抗体は、例えば、以下のよう調製できる。具体的には、前記Swタンパク質をマウス等の非ヒト動物に免疫し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する可変領域を切り出し、ヒト由来の定常領域と結合して作製することができる。前記ヒトイムノグロブリン由来の定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のIgG;IgM;IgA1、IgA2等のIgA;IgD;IgE;等のいずれのアイソタイプでもよいが、好ましくは、ヒトIgGの定常領域である。
【0183】
前記ヒト化抗体は、例えば、特表平04-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を参照して、重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDRを単離し、ヒト由来イムノグロブリン遺伝子に移植する、遺伝子工学的手法により作製することができる。
【0184】
前記ヒト抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体は、例えば、発現ベクターにクローニング後、後述の本発明の製造方法における発現ベクターと同様に宿主細胞に導入し、得られた形質転換体を培養することにより、培養上清から目的の抗体を取得できる。
【0185】
本発明の変異タンパク質によれば、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。前記ACE2は、SARS2がSタンパク質を介して、対象への感染を確立するのに重要であるため、前記ACE2結合増強抗体は、いわゆる感染増強抗体として、ADEに寄与していると考えられる。このため、本発明の変異タンパク質によれば、ワクチンの有効成分として用いた際に、ワクチン摂取者におけるADEが発生する可能性を低減できると推定される。したがって、本発明の変異タンパク質は、後述の医薬組成物の有効成分として好適に使用できる。
【0186】
<変異ポリペプチド>
本発明は、SARS2のSタンパク質のACE2への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる変異ポリペプチドを提供する。本発明の変異ポリペプチドは、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体の部分配列を有する部分ポリペプチドを含み、前記部分ポリペプチドは、前記変異体における、少なくとも1つの変異アミノ酸を含む。本発明の変異ポリペプチドは、前記本発明の変異タンパク質の部分配列を有する部分ポリペプチドを含み、かつ前記変異アミノ酸を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は特に制限されない。本発明の変異ポリペプチドは、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。本発明の変異ポリペプチドは、前記本発明の変異タンパク質の説明を援用できる。
【0187】
前記変異ポリペプチドは、前記変異タンパク質の部分配列、すなわち、前記変異タンパク質の一部のアミノ酸配列を含み、かつ前記変異タンパク質における変異アミノ酸、すなわち、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸のうち、変異が導入された少なくとも1つまたは複数のアミノ酸残基を含めばよい。前記変異タンパク質が、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および/または217位に代えて、または加えて、68位、94位、97位、129位、185位、および/または215位に変異を有する場合、前記変異ポリペプチドは、例えば、これらのうち、変異が導入された少なくとも1つまたは複数のアミノ酸残基を含めばよい。
【0188】
前記変異ポリペプチドは、例えば、前記Sタンパク質に対する中和抗体を誘導しうり、かつSARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうることから、前記Sタンパク質の部分配列として、前記Sタンパク質のドメインを含むことが好ましい。前記ドメインは、例えば、前記Ssタンパク質におけるNTD領域、RBD領域、およびS2領域があげられる。前記変異ポリペプチドは、例えば、効果的に前記中和抗体を誘導しうり、かつSARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうることから、前記NTD領域および前記RBD領域を含むことが好ましい。
【0189】
本発明の変異ポリペプチドによれば、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。このため、本発明の変異ポリペプチドは、後述の医薬組成物の成分として好適に使用できる。
【0190】
<核酸>
本発明は、前記本発明の変異タンパク質および/または前記本発明の変異ポリペプチドをコードする核酸を提供する。本発明の核酸は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体をコードする核酸分子および/または前記本発明の変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含む。本発明の核酸は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体をコードする核酸分子および/または前記本発明の変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の核酸は、前記変異タンパク質および/または変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含むため、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。本発明の核酸は、前記本発明の変異タンパク質および変異ポリペプチドの説明を援用できる。
【0191】
本発明の核酸は、SARS2のゲノムRNAにおけるSタンパク質以外の領域を含んでもよく、全ゲノムRNAを含んでもよい。前記全ゲノムRNAは、例えば、GenbankにAccession No.: NC_045512.2で登録されている塩基配列が参照できる。
【0192】
本発明において、前記核酸は、デオキシヌクレオチド残基から構成されてもよいし、リボヌクレオチド残基から構成されてもよいし、両者から構成されてもよい。また、前記核酸は、天然の核酸残基から構成されてもよいし、非天然の核酸残基から構成されてもよいし、両者から構成されてもよい。具体例として、前記核酸は、例えば、天然および/または非天然の核酸残基から構成されるDNA、RNA、および/またはDNA/RNAを含む。前記非天然の核酸残基は、例えば、ヌクレオチド残基において、塩基、糖残基、もしくは糖リン酸骨格が修飾された修飾ヌクレオチド残基または修飾リボヌクレオチド残基があげられる。前記糖残基が修飾されている場合、前記非天然の核酸残基は、例えば、cEt(constrained ethyl bicyclic nucleic acid、Ionis Pharmaceuticals社製)、LNA((商標)、Locked Nucleic Acid)、ENA(登録商標、2’-O,4'-C-Ethylenebridged Nucleic Acid)等があげられる。前記核酸は、例えば、5’末端に5’キャップを有してもよい。
【0193】
本発明において、前記核酸は、一本鎖の核酸分子でもよいし、二本鎖の核酸分子でもよい。
【0194】
本発明の核酸において、前記本発明の変異タンパク質をコードする核酸分子および/または前記変異ポリペプチドをコードする核酸分子は、例えば、前記変異タンパク質のアミノ酸配列および変異ポリペプチドのアミノ酸配列に基づき、対応するコドンに置き換えることで設計可能である。前記核酸分子における塩基配列は、コドン最適化してもよい。
【0195】
本発明の核酸は、例えば、遺伝子工学的手法または有機合成的手法によって合成できる。この場合、本発明の核酸は、合成DNA、合成RNA、または合成DNA/RNAということもできる。
【0196】
本発明の核酸は、前記変異タンパク質および/または変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含むため、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。このため、本発明の核酸は、後述の医薬組成物の成分として好適に使用できる。
【0197】
<発現ベクター>
本発明は、前記本発明の変異タンパク質および/または前記本発明の変異ポリペプチドをコードする発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、本発明の核酸を含む。本発明の発現ベクターは、前記本発明の変異タンパク質、変異ポリペプチド、および核酸の説明を援用できる。本発明の発現ベクターは、前記本発明の変異タンパク質および変異ポリペプチドの遺伝子工学的手法による合成(製造)に有用である。
【0198】
前記発現ベクターは、例えば、組替えDNAということもできる。
【0199】
本発明の発現ベクターは、前記変異タンパク質および/または前記本発明の変異ポリペプチドを含む発現ベクターでもあり。このため、前記本発明の変異タンパク質および/または前記本発明の変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば、発現ベクターに挿入されている。以下、前記発現ベクターに、前記変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド(変異タンパク質のポリヌクレオチド)が挿入されている例をあげて説明するが、前記変異ポリペプチドの説明についても同様であり、前記変異ポリペプチドの説明は、「変異タンパク質」を「変異ポリペプチド」に読み替えて援用できる。
【0200】
前記変異タンパク質の発現ベクターは、例えば、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドが発現可能なように、変異タンパク質のポリヌクレオチドを含んでいればよく、その構成は、特に制限されない。
【0201】
前記変異タンパク質の発現ベクターは、例えば、骨格となるベクター(以下、「基本ベクター」ともいう)に、変異タンパク質のポリヌクレオチドを挿入することで作製できる。前記ベクターの種類は、特に制限されず、例えば、宿主細胞(宿主)の種類に応じて、適宜決定できる。
【0202】
前記宿主は、例えば、微生物、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、または、これらの培養細胞等の非ヒト宿主、単離したヒト細胞またはその培養細胞、鳥類細胞、哺乳類細胞等があげられる。前記原核生物は、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、マイコバクテリア等の細菌があげられる。前記真核生物は、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母等があげられる。前記動物細胞は、例えば、COS細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、マウスL細胞、LNCaP細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、およびアフリカミドリザル細胞、CV1細胞、HeLa細胞、MDCK細胞、Vero細胞、Hep-2細胞等があげられ、前記昆虫細胞は、例えば、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf)細胞(例えば、Sf9、Sf21)、トリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)細胞(例えばHigh Five細胞)、ショウジョウバエ属(Drosophila)のS2細胞があげられる。
【0203】
前記ベクター(基本ベクター)は、非ウイルスベクターおよびウイルスベクターがあげられる。前記ウイルスベクターは、例えば、バキュロウイルス;ワクシニアウイルス、アビポックスウイルス、カナリア痘ウイルス、鷄痘ウイルス、アライグマポックスウイルス、豚痘ウイルス等のポックスウイルス;イヌアデノウイルス等のアデノウイルス;アデノ随伴ウイルス;ヘルペスウイルス;レトロウイルス;等のウイルスベクターがあげられる。前記導入方法としてヒートショック法により宿主の形質転換を行う場合、前記ベクターは、例えば、バイナリーベクター等があげられる。前記ベクターは、例えば、pQE70、pQE60、pQE-9、pBluescript、Phagescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A、ptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5、pETDuet-1、pQE-80L、pUCP26Km等があげられる。大腸菌等の細菌に形質転換を行う場合、前記ベクターは、pETDuet-1ベクター(ノバジェン社)、例えば、pQE-80L(QIAGEN社)、pBR322、pB325、pAT153、pUC8等があげられる。前記酵母に形質転換を行なう場合、前記ベクターは、例えば、pFastBac1、pWINEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、pSG、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL、pYepSec1、pMFa、pYES2等があげられる。前記昆虫細胞に形質転換を行なう場合、前記ベクターは、例えば、pAc、pVL等があげられる。前記哺乳類細胞に形質転換を行なう場合、前記ベクターは、例えば、pCDM8、pMT2PC等があげられる。
【0204】
前記変異タンパク質の発現ベクターは、例えば、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドの発現および前記変異タンパク質のポリヌクレオチドがコードする前記本発明の変異タンパク質の発現を調節する、調節配列を有することが好ましい。前記調節配列は、例えば、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル配列、複製起点配列(ori)等があげられる。前記変異タンパク質の発現ベクターにおいて、前記調節配列の配置は特に制限されない。前記変異タンパク質の発現ベクターにおいて、前記調節配列は、例えば、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドの発現およびこれがコードする前記変異タンパク質の発現を、機能的に調節できるように配置されていればよく、公知の方法に基づいて配置できる。前記調節配列は、例えば、前記基本ベクターが予め備える配列を利用してもよいし、前記基本ベクターに、さらに、前記調節配列を挿入してもよいし、前記基本ベクターが備える調節配列を、他の調節配列に置き換えてもよい。
【0205】
前記変異タンパク質の発現ベクターは、例えば、さらに、選択マーカーのコード配列を有してもよい。前記選択マーカーは、例えば、薬剤耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、酵素マーカー、細胞表面レセプターマーカー等があげられる。
【0206】
前記ベクターへの、DNAの挿入、前記調節配列の挿入、および/または前記選択マーカーのコード配列の挿入は、例えば、制限酵素およびリガーゼを用いた方法で実施してもよいし、市販のキット等を用いてもよい。
【0207】
<形質転換体>
本発明は、前記本発明の核酸を含む、形質転換体を提供する。本発明の形質転換体は、本発明の核酸を含む。本発明の形質転換体は、前記本発明の変異タンパク質、変異ポリペプチド、および核酸の説明を援用できる。本発明の形質転換体は、前記変異タンパク質および/または変異ポリペプチドの合成(製造)に有用である。
【0208】
本発明の形質転換体では、本発明の核酸が外来性の分子として存在する。このため、本発明の形質転換体は、例えば、前記宿主に、前記本発明の核酸を導入することにより製造できる。
【0209】
前記核酸の導入方法は、特に制限されず、公知の方法により行うことができる。前記は、例えば、前記発現ベクターにより導入されてもよい。前記導入方法は、例えば、前記宿主の種類に応じて、適宜設定できる。前記導入方法は、例えば、パーティクルガン等の遺伝子銃による導入法、リン酸カルシウム法、ポリエチレングリコール法、リポソームを用いるリポフェクション法、エレクトロポレーション法、超音波核酸導入法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管等を用いた直接注入法、ハイドロダイナミック法、カチオニックリポソーム法、導入補助剤を用いる方法、アグロバクテリウムを介する方法等があげられる。前記リポソームは、例えば、リポフェクタミンおよびカチオニックリポソーム等があげられ、前記導入補助剤は、例えば、アテロコラーゲン、ナノ粒子およびポリマー等があげられる。前記宿主が、微生物の場合、例えば、中でも、E.coliまたはPs.putida等を介する方法が好ましい。前記本発明の変異タンパク質および/または変異ポリペプチドのポリヌクレオチドは、例えば、前記本発明の変異タンパク質および/または変異ポリペプチドの発現ベクターにより前記宿主に導入してもよい。
【0210】
<製造方法>
本発明は、前記本発明の変異タンパク質および/または変異ポリペプチドの製造方法を提供する。本発明の変異タンパク質および/または変異ポリペプチドの製造方法は、特に制限されず、例えば、遺伝子工学的手法による製造があげられる。この場合、本発明の製造補法は、前記変異タンパク質および/または前記変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現させる発現工程を含む。本発明の製造方法は、前記本発明の変異タンパク質、変異ポリペプチド、核酸、発現ベクター、および形質転換体の説明を援用できる。
【0211】
以下、本発明の製造方法において、前記変異タンパク質を発現させる例をあげて説明するが、前記変異ポリペプチドの説明についても同様であり、前記変異ポリペプチドの説明は、「変異タンパク質」を「変異ポリペプチド」に読み替えて援用できる。
【0212】
前記変異タンパク質のポリヌクレオチドの発現は、例えば、前記本発明の発現ベクターを使用して行ってもよい。前記変異タンパク質のポリヌクレオチドを発現させる方法は、特に制限されず、公知の方法が採用でき、例えば、宿主を使用してもよいし、無細胞タンパク質合成系を使用してもよい。
【0213】
前者の場合、例えば、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドまたはそれを含む発現ベクターが導入された前記宿主を使用し、前記宿主の培養により、前記宿主において前記変異タンパク質のポリヌクレオチドを発現させることが好ましい。このように、例えば、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドまたはそれを含む発現ベクターを宿主に導入することで、本発明の変異タンパク質を合成する形質転換体を製造でき、また、前記形質転換体の培養により、変異タンパク質を合成できる。
【0214】
前記宿主の培養の方法は、特に制限されず、前記宿主の種類に応じて適宜設定できる。培養に使用する培地は、特に制限されず、前記宿主の種類に応じて適宜決定できる。
【0215】
後者の場合、無細胞タンパク質合成系において、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドを発現させることが好ましい。この場合、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドの発現には、発現ベクターを使用してもよい。前記無細胞タンパク質合成系は、例えば、細胞抽出液と、各種成分を含むバッファーと、前記変異タンパク質のポリヌクレオチドが導入された発現ベクターとを用いて、公知の方法により行うことができ、例えば、市販の試薬キットが使用できる。
【0216】
本発明の第2の製造方法は、例えば、前記変異タンパク質を回収する回収工程を含んでもよい。前記回収工程は、例えば、公知のタンパク質等の精製方法を使用できる。前記精製方法は、特に制限されず、例えば、塩析;塩化セシウム、スクロース、イオジキサノール等を用いた密度勾配遠心分離;イオン交換カラム、ゲル濾過カラム等の各種カラムクロマトグラフィー等があげられる。前記各種精製工程において使用する溶媒は、特に制限されず、例えば、水、緩衝液等が使用できる。前記溶媒のpHは、例えば、6~8である。
【0217】
本発明の製造方法により得られた変異タンパク質は、例えば、そのまま粗精製タンパク質(非精製タンパク質)として使用してもよいし、部分的に精製した部分精製タンパク質として使用してもよいし、単一に精製した精製タンパク質として使用してもよい。
【0218】
また、本発明の製造方法は、得られた変異タンパク質を、例えば、凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどにより粉末化してもよい。この場合、本発明の製造方法は、例えば、変異タンパク質を予め酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、GOODバッファー(例えば、PIPES、MES、MOPS等)等の緩衝液に溶解させておいてもよい。
【0219】
<変異SARS-CoV-2>
本発明は、SARS2のSタンパク質のACE2への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる変異ウイルスを提供する。本発明のSARS-CoV-2の変異ウイルスは、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体を含む。本発明の変異ウイルスは、前記変異タンパク質を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の変異ウイルスは、前記Sタンパク質として、変異タンパク質を含むため、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。
【0220】
本発明において、前記変異ウイルスは、弱毒化ウイルスでもよいし、不活化ウイルスでもよい。前記弱毒化は、例えば、前記変異ウイルスを、例えば、in vitroで継代培養を繰り返すことにより実施できる。前記不活化は、例えば、紫外線、放射線等を前ウイルスに照射することにより実施できる。
【0221】
前記変異ウイルスは、野生型のSARS2ウイルスにおけるSタンパク質をコードする塩基配列を、前記変異タンパク質をコードする塩基配列に変更(置換)し、得られたSARS2ウイルスをコードするポリヌクレオチドを、宿主細胞で発現させることにより調製できる。前記変異の導入方法および宿主細胞を用いた調製方法は、例えば、下記参考文献7を参照できる。具体的には、SARS2のゲノムRNAからゲノムの全長を含むcDNAを合成し、発現ベクターにクローニングする。つぎに、前記ベクターにおいて、野生型のSARS2ウイルスにおけるSタンパク質をコードする塩基配列に変異を導入し、前記変異タンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを調製する。そして、前記発現ベクターからゲノムの全長RNAを転写し、得られたRNAを宿主細胞に導入することにより調製できる。前記宿主細胞としては、例えば、後述の宿主細胞を使用でき、好ましくは、Vero E6細胞等のVero細胞である。
参考文献7:Yixuan J. Hou et.al., “SARS-CoV-2 D614G variant exhibits efficient replication ex vivo and transmission in vivo”, Science, 2020, eabe8499
【0222】
本発明の変異ウイルスは、前記変異タンパク質を含むため、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。このため、本発明の変異ウイルスは、後述の医薬組成物の成分として好適に使用できる。
【0223】
<VLP>
本発明は、SARS2のSタンパク質のACE2への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうるウイルス様粒子を提供する。本発明のウイルス様粒子は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体および/または前記本発明の変異ポリペプチドを含む。本発明のVLPは、前記変異タンパク質および/または変異ポリペプチドを含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明のVLPは、前記Sタンパク質またはその部分ポリペプチドとして、前記変異タンパク質および/または変異ポリペプチドを含むため、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。
【0224】
本発明において、前記VLPは、例えば、VLPの形成が可能な発現系または宿主細胞を用いて製造できる。前記VLPは、例えば、前記Sタンパク質を、VLPの調製に用いるウイルス粒子の構成要素とあわせて宿主細胞に発現させることにより、製造できる。前記VLPの製造方法としては、例えば、下記参考文献8を参照できる。
参考文献8:L. Huhti et.al., “A comparison of methods for purification and concentration of norovirus GII-4 capsid virus-like particles”, Arch. Virol., 2010, vol. 155, No. 11, pages 1855-1858
【0225】
本発明のVLPは、前記変異タンパク質および/または変異ポリペプチドを含むため、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。このため、本発明のVLPは、後述の医薬組成物の成分として好適に使用できる。
【0226】
<医薬組成物>
本発明は、ワクチンとして使用しうる、医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体、変異ポリペプチド、変異ウイルス、ウイルス様粒子、核酸、および/または発現ベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、有効成分として、Spikeタンパク質の変異体、変異ポリペプチド、変異ウイルス、ウイルス様粒子、核酸、および/または発現ベクター(以下、あわせて「有効成分」ともいう)を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の医薬組成物は、有効成分として、前記変異タンパク質もしくはその部分配列を含むポリペプチド、またはこれらをコードする核酸を含むため、ワクチンの有効成分として用いた際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。
【0227】
本発明の医薬組成物は、例えば、投与対象に投与することにより、Spikeタンパク質またはその部分配列を有するポリペプチドに対する抗体を誘導できる。このため、本発明の医薬組成物は、ワクチン、ワクチン組成物、またはワクチン製剤ということもできる。
【0228】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体を含む。前記担体は、前記有効成分を投与するための懸濁剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性剤、希釈剤、媒体、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等があげられ、本発明の効果を妨げない範囲で適切に添加することができる。
【0229】
前記懸濁剤は、特に制限されず、例えば、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等があげられる。
【0230】
前記溶液補助剤は、特に制限されず、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マクロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等があげられる。
【0231】
前記安定化剤は、特に制限されず、例えば、デキストラン40、メチルセルロース、ゼラチン、亜硫酸ナトリウム、メタ硫酸ナトリウム等があげられる。
【0232】
前記等張化剤は、特に制限されず、例えば、D-マンニトール、ソルビトール等があげられる。
【0233】
前記保存剤は、特に制限されず、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等があげられる。
【0234】
前記吸着防止剤は、特に制限されず、例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキシドプロピレンオキシド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等があげられる。
【0235】
前記含硫還元剤は、特に制限されず、例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオキト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸およびその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルホヒドリル基を有するもの等があげられる。
【0236】
前記酸化防止剤は、特に制限されず、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸およびその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルまたはエチレンジアミン4酢酸ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤等があげられる。
【0237】
本発明の医薬組成物は、さらに、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウム等の有機塩;グルコース等の糖類;等の一般的に添加される成分を適宜添加していてもよい。
【0238】
本発明の医薬組成物は、さらに、免疫賦活剤を含んでもよい。前記免疫賦活剤は、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、塩化アルミニウム、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、CpGオリゴヌクレオチド、Poly I:C、リポポリ多糖(LPS)等のToll様受容体刺激剤、サイトカイン、リンホカイン、ケモカイン等があげられる。前記サイトカインおよびリンホカインは、例えば、インターフェロン(IFN-γ)等のインターフェロン:TNF-α等の炎症性サイトカイン;IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-12、IL-13等のインターロイキン;顆粒球マクロファージ(GM)コロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)等の成長因子;Flt3リガンド;B7-1;B7-2;等があげられる。
【0239】
本発明の医薬組成物は、例えば、in vitroで用いてもよいし、in vivoで用いてもよい。本発明の医薬組成物は、例えば、研究用試薬として使用することもでき、医薬品として使用することもできる。前者の場合、本発明の医薬組成物は、試験試薬または試験キットということもできる。
【0240】
本発明の医薬組成物の投与対象は、特に制限されない。本発明の医薬組成物をin vivoで使用する場合、前記投与対象は、例えば、前述の例示を援用できる。前記本発明の医薬組成物をin vitroで使用する場合、前記投与対象は、例えば、細胞、組織、器官等があげられ、前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞、培養細胞等があげられ、前記組織または器官は、例えば、生体から採取した組織(生体組織)または器官等があげられる。前記細胞は、例えば、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)、幹細胞等があげられる。
【0241】
本発明の医薬組成物をin vivoで使用する場合、前記投与対象は、SARS2に感染していない健常者でもよいし、SARS2に感染している可能性がある者でもよいし、SARS2の感染者でもよい。
【0242】
本発明の医薬組成物の使用条件(投与条件)は、特に制限されず、例えば、前記医薬組成物における有効成分の種類(タンパク質、ペプチド、VLP、ウイルス、核酸等)、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。
【0243】
本発明の医薬組成物の投与方法は、例えば、脳内投与、髄腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与等が例示されるが、例えば、投与者の技術によらず、安全におよび安定的に投与できることから、筋肉内投与または皮下投与が好ましい。
【0244】
本発明の医薬組成物の投与量は、対象に投与した場合に、投与していない対象と比較してSARS2に対する抗体を誘導ができる量、すなわち、有効用量である。前記投与量は、例えば、投与対象の年齢、体重、症状等によって適宜決定することができる。具体例として、前記医薬組成物の投与量としては、例えば、以下の例があげられる。
変異タンパク質:1μg~10mg/1回
変異ペプチド:1μg~100mg/1回
核酸(mRNA):1μg~10mg/1回
核酸(DNA):1μg~1000mg/1回
変異ウイルス:1×10~1×1013viral particles/1回
VLP:1μg~10mg/1回
【0245】
本発明の医薬組成物の投与回数は、1または複数回である。前記複数回は、例えば、2回、3回、4回、5回またはそれ以上である。前記投与回数は、対投与象の治療効果を確認しながら、適宜決定されてもよい。前記複数回投与する場合、投与間隔は、投与対象の治療効果を確認しながら、適宜決定でき、例えば、1日1回、1週1回、2週1回、1ヶ月1回、3ヶ月1回、6か月1回等があげられる。
【0246】
本発明の医薬組成物は、投与対象におけるSARS2感染に起因する、少なくとも1つの症状を予防または軽減しうる。SARS2感染の症状は、例えば、鼻漏、咽頭痛、頭痛、嗄声、咳、喀痰、発熱、ラ音、喘鳴音、呼吸困難、肺炎等があげられる。本発明の医薬組成物は、SARS2感染に関連する少なくとも1つの症状の予防または軽減しうる。前記症状の軽減は、例えば、主観的または客観的に評価でき、具体例として、前記投与対象による自己評価;医師の評価;QOL(Quality of Life)評価;SARS2感染もしくはSARS2感染の症状の進行遅延、またはSARS2感染の症状の重症度の軽減の評価等があげられる。前記客観的な評価は、動物による評価でもよいし、ヒトによる評価でもよい。
【0247】
<処置方法>
本発明は、対象に対して、SARS2に対する防御免疫を付与し、かつACE2結合増強抗体の誘導を抑制しうる方法を提供する。本発明の処置方法は、対象の処置方法であって、前記対象に、前記本発明のSpikeタンパク質の変異体、変異ポリペプチド、変異ウイルス、ウイルス様粒子、核酸、発現ベクター、および/または医薬組成物を使用する。本発明の処置方法は、有効成分である、Spikeタンパク質の変異体、変異ポリペプチド、変異ウイルス、ウイルス様粒子、核酸、および/または発現ベクター(以下、あわせて「有効成分」ともいう)を使用することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の処置方法は、有効成分として、前記変異タンパク質もしくはその部分配列を含むポリペプチド、またはこれらをコードする核酸を含むため、対象に対して処置した際に、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。
【0248】
本発明の処置方法は、例えば、SARS2に対する防御免疫を付与しうることから、例えば、SARS2に対するワクチン接種方法、防御免疫の誘導方法、免疫応答の刺激方法、または免疫応答の誘導方法ということもできる。また、本発明の処置方法は、例えば、SARS2のSタンパク質またはその部分ポリペプチドに対する抗体を誘導できることから、SARS2のSタンパク質またはその部分ポリペプチドに対する抗体の誘導方法ということもできる。さらに、本発明の処置方法は、例えば、SARS2のSタンパク質のACE2への結合活性を増強させる抗体の誘導が低減された、SARS2のSタンパク質またはその部分ポリペプチドに対する抗体を誘導できることから、SARS2のSタンパク質のACE2への結合活性を増強させる抗体の誘導が低減された、SARS2のSタンパク質またはその部分ポリペプチドに対する抗体の誘導方法ということもできる。
【0249】
本発明において、前記有効成分および医薬組成物は、対象に投与され、前記対象における免疫応答を誘導することにより、SARSに対する防御免疫を前記対象に付与しうる。このため、本発明の処置方法は、例えば、前記対象に、前記有効成分および/または前記医薬組成物を投与する工程を含む。これにより、本発明の処置方法では、例えば、前記対象において、前記変異タンパク質および/またはその部分ポリペプチドに対する免疫応答が誘導され、前記変異タンパク質および/またはその部分ポリペプチドに対する抗体の産生等の体液性免疫応答、および/またはSタンパク質を発現するSARS2に対するT細胞等による細胞性免疫応答が生じる。なお、前記変異タンパク質は、前記ACE2結合増強抗体の結合部位以外のアミノ酸には変異が導入されておらず、かつSARS2の中和抗体は、後述の実施例で示すようにRBD領域に対する抗体である。このため、本発明の処置方法では、例えば、前記中和抗体の誘導能は、Swタンパク質を有効成分として用いた場合と同様に誘導されると推定される。また、本発明の処置方法では、前記変異タンパク質および/またはその部分ポリペプチドを用いるため、前記ACE2結合増強抗体の結合部位に少なくとも1つの変異が導入されているため、前記ACE2結合増強抗体のエピトープの一部または全部がない。このため、前記投与工程では、例えば、前記中和抗体が誘導される一方、前記ACE2結合増強抗体の誘導が低減される。
【0250】
本発明の処置方法において、前記投与工程は、1回または複数回実施する。前記投与工程における投与条件は、前記本発明の医薬組成物の説明を援用できる。
【0251】
<Spikeタンパク質の変異体の製造方法>
本発明は、前記変異タンパク質の製造方法を提供する。本発明の方法(以下、「変異体の製造方法」ともいう)は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法であって、標的SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Stタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する変異工程を含む。本発明の変異体の製造方法は、前記変異工程において、少なくとも所定の位置のアミノ酸に変異を導入することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明によれば、前記ACE2結合増強抗体の誘導能が低減されたSタンパク質の変異体を製造できる。
【0252】
本発明の変異体の製造方法で得られる変異タンパク質は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能を低減できるため、感染増強抗体の誘導または感染増強抗体に起因するADEの発生が低減されうると考えられる。このため、本発明の変異体の製造方法は、感染増強抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法またはADEの誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法ということもできる。
【0253】
前記変異工程では、前記所定の位置のアミノ酸に変異を導入する。前記変異工程では、例えば、前記Stタンパク質をコードする塩基配列(ポリヌクレオチド)に変異を導入することにより実施できる。
【0254】
前記変異工程において、前記変異を導入するアミノ酸(変異対象アミノ酸)は、前記Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸とのうち1つでもよいし、複数(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個)でもよく、例えば、前記ACE2結合増強抗体の誘導能をより抑制できることから、後者である。前記変異工程では、前記Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸における変異対象アミノ酸の数を増やすことにより、より効率よく前記ACE2結合増強抗体の誘導能を抑制できると推定される。
【0255】
前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸のうち1つに変異を導入する場合、前記変異対象アミノ酸の位置は、例えば、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、または217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、または217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、好ましくは、64位、65位、66位、187位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、64位、66位、187位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または64位、66位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0256】
前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸のうち複数に変異を導入する場合、前記変異対象アミノ酸の位置は、例えば、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、好ましくは、64位、65位、66位、187位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、64位、66位、187位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または64位、66位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、さらに好ましくは、(a)64位、65位、および/または66位、(b)187位、213位、および/または214位、または(c)64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、(d)64位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または(e)64位、66位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、より好ましくは、(1)64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、(2)64位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または(3)64位、66位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0257】
前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸は、例えば、前記Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および/または217位に代えて、または加えて、68位、94位、97位、129位、185位、および/または215位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸としてもよい。
【0258】
前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸の位置は、例えば、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能をより低減しうることから、好ましくは、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、またはN30、F32、W64、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、より好ましくは、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。前記Stタンパク質における変異対象アミノ酸の位置は、例えば、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能をさらに低減しうることから、さらに好ましくは、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0259】
前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸は、例えば、前記Ssタンパク質におけるN30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、および/またはP217に代えて、または加えて、I68、S94、K97、K129、N185、および/またはD215のアミノ酸残基と対応するアミノ酸としてもよい。
【0260】
前記変異導入工程において、導入されるアミノ酸変異の種類は、アミノ酸変異により、前記Stタンパク質における機能が修飾される範囲であればよく、前記アミノ酸変異により、変異後のStタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導を抑制できる範囲であることが好ましい。このため、前記「変異」は、例えば、修飾ということもできる。前記変異の種類は、例えば、アミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加があげられる。前記変異タンパク質に導入される変異の種類は、1種類でもよいし、複数種類でもよい。
【0261】
前記変異の種類は、例えば、変異アミノ酸を有する変異タンパク質の免疫原性を維持しやすく、前記変異タンパク質および前記Stタンパク質とで交差する中和抗体の産生誘導への影響が抑制されると想定されることから、置換が好ましい。前記変異が置換の場合、前記置換は、前述の保存的置換でないことが好ましく、特に、アミノ酸の側鎖の電荷が変化する置換が好ましい。このような置換を変異として導入することにより、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能をより低減しうる。具体例として、前記置換は、例えば、アラニンへの置換(アラニン置換)、糖鎖修飾モチーフ(NX[S/T])への置換があげられる。
【0262】
前記変異がアラニン置換である場合、前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸の変異は、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、またはN30、F32、W64、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸のアラニン置換であり、より好ましくは、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸のアラニン置換であり、さらに好ましくは、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸のアラニン置換である。
【0263】
前記変異が糖鎖修飾モチーフへの置換である場合、前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸の変異は、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における64位のアミノ酸のN(アスパラギン)の置換、および66位のアミノ酸のS(セリン)またはT(スレオニン)への置換があげられる。
【0264】
前記置換は、アラニン置換および糖鎖修飾モチーフへの置換を組合わせてもよい。、前記変異工程において、前記変異対象アミノ酸の変異は、例えば、前述のアラニン置換の例示において、前記Ssタンパク質におけるW64およびH66を、W64NおよびH66SまたはW64NおよびH66Tに変更する以外は、同様の変異である。
【0265】
前記変異工程では、例えば、部位特異的な変異導入方法により、前記所定の位置のアミノ酸にのみに変異を導入してもよいし、ランダムな変異導入方法により任意の位置のアミノ酸にのみ変異を導入してもよい。
【0266】
前記変異工程は、前記Stタンパク質のアミノ酸配列に変異を導入し、前記Stタンパク質のアミノ酸配列に変異が導入された候補タンパク質のアミノ酸配列を生成する生成工程と、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、ACE2への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体として選抜する選抜工程とを含むことが好ましい。
【0267】
前記生成工程では、例えば、前記Stタンパク質をコードする塩基配列(ポリヌクレオチド)に変異を導入することにより実施できる。前記変異の導入方法は、部位特異的な変異導入方法でもよいし、ランダムな変異導入方法でもよい。前記生成工程において、導入される変異の数は、特に制限されず、任意の数とできるが、好ましくは、前記Stタンパク質のアミノ酸配列に対して、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の同一性を有するように変異を導入する。
【0268】
前記選抜工程は、例えば、変異導入後のStタンパク質(候補タンパク質)をコードするポリヌクレオチオの塩基配列を解読し、得られた塩基配列をアミノ酸配列に変換し、解析することにより実施できる。そして、前記選抜工程では、得られた変異導入後のStタンパク質のアミノ酸配列と、前記Ssタンパク質のアミノ酸配列とを比較し、前記変異工程における変異対象アミノ酸に目的の変異が導入された変異体として選抜する。
【0269】
前記選抜工程では、さらに、変異導入後のStタンパク質について、前記基準抗体との結合性に基づき、選抜してもよい。この場合、前記選抜工程では、前記変異導入後のStタンパク質から、前記基準抗体との結合を低減させる変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する。具体的には、前記選抜工程では、例えば、前記変異導入後のStタンパク質と前記基準抗体との結合性が、前記変異導入前のStタンパク質と前記基準抗体との結合性より、有意に低下している場合、変異導入後のStタンパク質を選抜してもよい。前記変異導入後のStタンパク質と前記基準抗体との結合性、および前記変異導入前のStタンパク質と前記基準抗体との結合性は、例えば、in vitroで評価でき、具体例として、後述の実施例5と同様に評価できる。
【0270】
<Spikeタンパク質のスクリーニング方法>
本発明は、前記変異タンパク質のスクリーニング方法を提供する。本発明の方法(以下、「スクリーニング方法」ともいう)は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法であって、候補SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Scタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する選抜工程を含む。本発明のスクリーニング方法は、前記選抜工程において、少なくとも所定の位置のアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を選抜することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明によれば、前記ACE2結合増強抗体の誘導能が低減されたSタンパク質の変異体をスクリーニングできる。
【0271】
本発明のスクリーニング方法で得られる変異タンパク質は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能を低減できるため、感染増強抗体の誘導または感染増強抗体に起因するADEの発生が低減されうると考えられる。このため、本発明のスクリーニング方法は、感染増強抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法またはADEの誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法ということもできる。
【0272】
前記選抜工程は、前記本発明の変異体の製造方法の選抜工程と同様にして実施できる。
【0273】
<マーカー>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる、マーカーを提供する。本発明のマーカーは、Fc受容体非依存的に、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のACE2タンパク質への結合性を増強する抗体(ACE2結合増強抗体)である。本発明のマーカーは、前記ACE2結合増強抗体であることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明のマーカーによれば、SARS2への罹患の可能性等を試験できる。本発明のマーカーの具体例としては、例えば、後述の本発明の第1~第4のマーカーがあげられる。
【0274】
<第1のマーカー>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる、マーカーを提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強マーカーは、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する抗体である。本発明の第1のマーカーは、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する抗体を、感染増強のマーカーとすることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第1のマーカーによれば、SARS2への罹患の可能性等を試験できる。
【0275】
本発明の第1のマーカーでは、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第1のマーカーは、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強マーカーまたはSARS-CoV-2のACE2への結合増強マーカーということもできる。また、後述のように、前記感染増強抗体は、ADEを介したSARS2の重症化に関与していると推定される。このため、本発明の第1のマーカーは、例えば、ADEの予測マーカーまたは重症化マーカーということもできる。
【0276】
本発明の第1のマーカーにおいて、前記抗体の由来は、特に制限されず、例えば、被検者の種類によって適宜設定できる。前記抗体の由来は、例えば、前述の投与対象の例示を援用できる。前記抗体は、例えば、ヒト由来であることが好ましい。
【0277】
本発明の第1のマーカーにおいて、前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質でもよい。
【0278】
前記抗体が認識するアミノ酸は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位の変異アミノ酸のうち、1つでもよいし、複数(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個)でもよい。
【0279】
前記抗体が認識するアミノ酸が1つの場合、前記アミノ酸の位置は、例えば、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、または217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、または217位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、好ましくは、64位、65位、66位、187位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、64位、66位、187位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または64位、66位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0280】
前記抗体が認識するアミノ酸が複数の場合、前記アミノ酸の位置は、例えば、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、好ましくは、64位、65位、66位、187位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、64位、66位、187位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または64位、66位、213位、および214位におけるいずれか2つ以上のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、さらに好ましくは、(a)64位、65位、および/または66位、(b)187位、213位、および/または214位、または(c)64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、(d)64位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または(e)64位、66位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、より好ましくは、(1)64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、(2)64位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、または(3)64位、66位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0281】
前記抗体が認識するアミノ酸は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および/または217位に代えて、または加えて、68位、94位、97位、129位、185位、および/または215位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であってもよい。
【0282】
前記抗体が認識するアミノ酸の位置は、例えば、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体をより精度よく検出しうることから、好ましくは、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸、またはN30、F32、W64、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であり、より好ましくは、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸における1つまたは複数のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。前記抗体が認識するアミノ酸の位置は、例えば、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体をさらに精度よく検出しうることから、さらに好ましくは、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、H66、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸である。
【0283】
前記抗体が認識するアミノ酸は、例えば、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質におけるN30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、および/またはP217に代えて、または加えて、I68、S94、K97、K129、N185、および/またはD215のアミノ酸残基と対応するアミノ酸であってもよい。
【0284】
前記抗体は、例えば、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる抗体であることが好ましい。前記結合活性の増強は、例えば、前記Swタンパク質、前記ACE2タンパク質、および前記抗体の共存下で、前記Swタンパク質のACE2タンパク質への結合を検出することにより、測定してもよいし、前記抗体に、前記Ssタンパク質における所定の位置を認識する抗体が存在するかを測定することにより、間接的に測定してもよい。前者の場合、前記測定は、例えば、後述の実施例1と同様に実施できる。後者の場合、前記測定は、例えば、後述の実施例4と同様に実施できる。
【0285】
本発明の第1のマーカーにおいて、前記抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体でもよいし、エピトープが異なる抗体でもよい。
【0286】
前記抗体は、タンパク質でもよいし、前記抗体のタンパク質の遺伝子から転写されたmRNAでもよいが、好ましくは、タンパク質である。
【0287】
<第2のマーカー>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる、マーカーを提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強マーカーは、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体であり、前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。本発明の第2のマーカーは、前記基準抗体と競合する競合抗体を、感染増強のマーカーとすることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第2のマーカーによれば、SARS2への罹患の可能性等を試験できる。
【0288】
本発明の第2のマーカーでは、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第2のマーカーは、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強マーカーまたはSARS-CoV-2のACE2への結合増強マーカーということもできる。また、後述のように、前記感染増強抗体は、ADEを介したSARS2の重症化に関与していると推定される。このため、本発明の第2のマーカーは、例えば、ADEの予測マーカーまたは重症化マーカーということもできる。
【0289】
本発明の第2のマーカーにおいて、前記抗体の由来は、特に制限されず、例えば、被検者の種類によって適宜設定できる。前記抗体の由来は、例えば、前述の投与対象の例示を援用できる。前記抗体は、例えば、ヒト由来であることが好ましい。
【0290】
本発明の第2のマーカーにおいて、前記抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体であり、前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。前記基準抗体との競合は、例えば、前記Swタンパク質と、一方の抗体との結合により、他方の抗体の結合が抑制されるかを指標に測定できる。具体的には、前記Swタンパク質と、前記抗体とを接触させる。得られた混合物について、前記基準抗体と接触させ、前記基準抗体と前記Swタンパク質との結合が、前記抗体非存在下と比較して、抑制(低減または低下)されているかに基づき、前記競合が生じているかを評価する。前記基準抗体と前記Swタンパク質との結合が抑制されている場合、前記基準抗体と、前記抗体とは、競合していると評価できる。他方、前記基準抗体と前記Swタンパク質との結合が抑制されていない場合、前記基準抗体と、前記抗体とは、競合していないと評価できる。なお、前記Swタンパク質と、前記抗体および前記基準抗体とを順次接触させる例をあげて説明したが、三者を同時に接触させて測定してもよい。この場合、前記抗体の非存在下と比較して、前記基準抗体と前記Swタンパク質との結合が抑制されている場合、前記基準抗体と、前記抗体とは、競合していると評価できる。他方、前記抗体の非存在下と比較して、前記基準抗体と前記Swタンパク質との結合が抑制されていない場合、前記基準抗体と、前記抗体とは、競合していないと評価できる。
【0291】
本発明の第2のマーカーにおいて、前記抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体でもよいし、エピトープが異なる抗体でもよい。
【0292】
前記抗体は、タンパク質でもよいし、前記抗体のタンパク質の遺伝子から転写されたmRNAでもよいが、好ましくは、タンパク質である。
【0293】
<第3のマーカー>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる、マーカーを提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強マーカーは、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)に結合し、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体である。本発明の第3のマーカーは、前記Swタンパク質に結合し、かつ前記変異タンパク質を認識しない抗体を、感染増強のマーカーとすることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第3のマーカーによれば、SARS2への罹患の可能性等を試験できる。
【0294】
本発明の第3のマーカーでは、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第3のマーカーは、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強マーカーまたはSARS-CoV-2のACE2への結合増強マーカーということもできる。また、後述のように、前記感染増強抗体は、ADEを介したSARS2の重症化に関与していると推定される。このため、本発明の第3のマーカーは、例えば、ADEの予測マーカーまたは重症化マーカーということもできる。
【0295】
本発明の第3のマーカーにおいて、前記抗体の由来は、特に制限されず、例えば、被検者の種類によって適宜設定できる。前記抗体の由来は、例えば、前述の投与対象の例示を援用できる。前記抗体は、例えば、ヒト由来であることが好ましい。
【0296】
本発明の第3のマーカーにおいて、前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体である、すなわち、前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体ということもできる。前記抗体は、30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体であってもよい。この場合、前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体ということもできる。
【0297】
前記変異タンパク質における変異アミノ酸の位置は、例えば、前記本発明の変異タンパク質における(Sm1)のアミノ酸配列の説明を援用できる。
【0298】
本発明の第3のマーカーにおいて、前記抗体が変異タンパク質を認識しないとは、前記抗体の変異タンパク質への結合量が、前記抗体のSwタンパク質への結合量と比較して、有意に低減(低下または減少)していることを意味し、具体的には、前記抗体のSwタンパク質への結合量と比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上減少していることを意味する。前記抗体の変異タンパク質への結合量が、前記抗体のSwタンパク質への結合量は、例えば、後述の実施例5と同様に測定し、例えば、MFI(Mean Fluorescence Intensity)に基づき評価できる。
【0299】
本発明の第3のマーカーにおいて、前記抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体でもよいし、エピトープが異なる抗体でもよい。
【0300】
前記抗体は、タンパク質でもよいし、前記抗体のタンパク質の遺伝子から転写されたmRNAでもよいが、好ましくは、タンパク質である。
【0301】
<第4のマーカー>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる、マーカーを提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強マーカーは、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する抗体であり、前記基準抗体は、前記Swタンパク質を認識し、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体である。本発明の第4のマーカーは、前記基準抗体と競合する競合抗体を、感染増強のマーカーとすることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第4のマーカーによれば、SARS2への罹患の可能性等を試験できる。
【0302】
本発明の第4のマーカーでは、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第4のマーカーは、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強マーカーまたはSARS-CoV-2のACE2への結合増強マーカーということもできる。また、後述のように、前記感染増強抗体は、ADEを介したSARS2の重症化に関与していると推定される。このため、本発明の第4のマーカーは、例えば、ADEの予測マーカーまたは重症化マーカーということもできる。
【0303】
本発明の第4のマーカーにおいて、前記抗体の由来は、特に制限されず、例えば、被検者の種類によって適宜設定できる。前記抗体の由来は、例えば、前述の投与対象の例示を援用できる。前記抗体は、例えば、ヒト由来であることが好ましい。
【0304】
本発明の第4のマーカーにおいて、前記抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体であり、前記基準抗体は、前記Swタンパク質を認識し、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体である。前記基準抗体との競合は、例えば、前記本発明の第2のマーカーの説明と同様に評価できる。前記抗体が変異タンパク質を認識するかは、例えば、前記本発明の第3のマーカーの説明と同様に評価できる。前記基準抗体は、30位、32位、64位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体であってもよい。前記変異タンパク質は、前記本発明の変異タンパク質の説明を援用できる。
【0305】
本発明の第4のマーカーにおいて、前記抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体でもよいし、エピトープが異なる抗体でもよい。
【0306】
前記抗体は、タンパク質でもよいし、前記抗体のタンパク質の遺伝子から転写されたmRNAでもよいが、好ましくは、タンパク質である。
【0307】
<検出方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出方法を提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法は、被検者の生体試料について、Fc受容体非依存的に、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のACE2タンパク質への結合性を増強する抗体を検出する検出工程を含む。本発明の検出方法は、前記検出工程において、前記ACE2結合増強抗体を検出することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の検出方法によれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。本発明の検出方法の具体例としては、例えば、後述の本発明の第1~第4の検出方法があげられる。
【0308】
<第1の検出方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出方法を提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法は、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する検出工程を含む。本発明の第1の検出方法は、前記検出工程において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する抗体を、感染増強抗体として検出すること、すなわち、前記第1のマーカーを指標として用いることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第1の検出方法によれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。
【0309】
本発明の第1の検出方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第1の検出方法は、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強抗体の検出方法またはSARS-CoV-2のACE2への結合増強抗体の検出方法ということもできる。
【0310】
本発明の第1の検出方法によれば、前記ACE2結合増強抗体および/または前記感染増強抗体を検出できる。
【0311】
本発明の第1の検出方法では、例えば、前記抗体の有無を検出してもよいし、前記抗体の量を検出してもよい。前者の場合、本発明の第1の検出方法は、例えば、定性的な分析方法または定性的な測定方法ということもできる。また、後者の場合、本発明の第1の検出方法は、例えば、定量的な分析方法または定量的な測定方法ということもできる。前記検出は、例えば、検査または検知ということもできる。
【0312】
本発明において、前記生体試料の種類は、特に制限されず、例えば、生体から分離した、体液、体液由来細胞、器官、組織または細胞等があげられる。前記体液は、例えば、血液試料があげられ、具体例として、例えば、全血、血清、血漿等があげられる。前記体液由来細胞は、例えば、血液由来細胞があげられ、具体的には、血球、白血球、リンパ球等の血球細胞があげられる。前記生体試料は、例えば、患者や医師の負担を軽減できることから、全血、血清、または血漿が好ましく、より好ましくは、血清または血漿である。前記生体試料が液体試料の場合、前記生体試料は、水、緩衝液等の溶媒により希釈してもよい。また、前記生体試料が固体試料の場合、前記生体試料は、前記溶媒中に分散させることが好ましい。
【0313】
本発明の第1の検出方法において、前記検出工程における検出対象は、前記Swタンパク質において、Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸に対応するアミノ酸を認識する抗体であり、例えば、前述の基準抗体の説明を援用できる。前記検出工程において、前記検出対象の抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体のみを検出してもよいし、エピトープが異なる抗体をあわせて検出してもよい。
【0314】
前記検出工程では、前記被検者の生体試料について、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸を認識する抗体を検出する。前記検出工程は、例えば、前記Swタンパク質と、前記Swタンパク質において、前記所定の位置のアミノ酸に変異を導入した変異タンパク質とを用いて実施できる。前記変異タンパク質は、前記本発明の変異タンパク質における(Sm1)のアミノ酸配列の説明を援用できる。具体例として、前記検出工程では、前記生体試料と前記Swタンパク質とを接触させ、前記生体試料に含まれる抗体と、前記Swタンパク質との結合または結合量(「抗体の量」ともいう)を検出する(第1の検出工程)。また、前記検出工程では、前記生体試料と前記変異タンパク質とを接触させ、前記生体試料に含まれる抗体と、前記変異タンパク質との結合または結合量を検出する(第2の検出工程)。前記生体試料に含まれる抗体と、前記Swタンパク質または前記変異タンパク質との結合は、例えば、抗原抗体反応を用いたELISA法、フローサイトメトリー等により、測定できる。
【0315】
つぎに、前記検出工程では、前記第1の検出工程と前記第2の検出工程で得られた結果を比較(評価)することで、前記Swタンパク質との結合抗体が、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸を認識するかを評価できる(比較工程または評価工程)。具体的には、前記結合を指標とする場合、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合が見られない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸を認識する、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。他方、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられない場合、または前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合が見られる場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸を認識しない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。また、前記結合量を指標とする場合、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と比較して、有意に低下している場合(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上減少している場合)、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸を認識する、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含むと、評価できる。前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と有意な差がない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸を認識しない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。
【0316】
前記検出工程では、前記Swタンパク質に代えて、そのN末端ドメイン(NTD)を用いてもよい。また、前記検出工程では、前記変異タンパク質において、変異アミノ酸の位置を変更することにより、前記抗体が認識するアミノ酸の位置を変更でき、これにより、エピトープを特定できる。
【0317】
本発明の第1の検出方法では、例えば、さらに、前記生体試料における抗体が、例えば、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる抗体かを評価してもよい。前記結合活性の増強は、例えば、前記Swタンパク質、前記ACE2タンパク質、および前記生体試料の共存下で、前記Swタンパク質のACE2タンパク質への結合を検出することにより、測定できる。前記測定は、例えば、後述の実施例1と同様に実施できる。
【0318】
<第2の検出方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出方法を提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法は、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含み、前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。本発明の第2の検出方法は、前記検出工程において、前記基準抗体と競合する競合抗体を、感染増強抗体として検出すること、すなわち、前記第2のマーカーを指標として用いることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第1の検出方法によれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。
【0319】
本発明の第2の検出方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第2の検出方法は、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強抗体の検出方法またはSARS-CoV-2のACE2への結合増強抗体の検出方法ということもできる。
【0320】
本発明の第2の検出方法によれば、前記ACE2結合増強抗体および/または前記感染増強抗体を検出できる。
【0321】
本発明の第2の検出方法では、例えば、前記抗体の有無を検出してもよいし、前記抗体の量(前記ACE2結合増強抗体および/または前記感染増強抗体の量)を検出してもよい。前者の場合、本発明の第2の検出方法は、例えば、定性的な分析方法または定性的な測定方法ということもできる。また、後者の場合、本発明の第2の検出方法は、例えば、定量的な分析方法または定量的な測定方法ということもできる。前記検出は、例えば、検査または検知ということもできる。
【0322】
本発明の第2の検出方法において、前記検出工程における検出対象は、前記Swタンパク質との結合について、前記基準抗体と競合する抗体であり、前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体であり、前述の基準抗体の説明を援用できる。前記検出工程において、前記検出対象の抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体のみを検出してもよいし、エピトープが異なる抗体をあわせて検出してもよい。
【0323】
前記検出工程では、前記被検者の生体試料について、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含む。具体的には、前記検出工程は、前記Swタンパク質と、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質と、前記生体試料における抗体との結合または結合量を検出する(第1の検出工程)。つぎに、前記検出工程は、前記基準抗体の存在下、前記Swタンパク質と、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質と、前記生体試料における抗体との結合または結合量を検出する(第2の検出工程)。前記生体試料に含まれる抗体と、前記Swタンパク質との結合は、例えば、抗原抗体反応を用いたELISA法、フローサイトメトリー等により、測定できる。
【0324】
つぎに、前記検出工程では、前記第1の検出工程と前記第2の検出工程で得られた結果を比較(評価)することで、前記生体試料に含まれる抗体が、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体であるかを評価できる(比較工程または評価工程)。具体的には、前記結合を指標とする場合、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記基準抗体の存在下では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合が見られない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体である、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。他方、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられない場合、または前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記基準抗体の存在下でも前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合が見られる場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体ではない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。また、前記結合量を指標とする場合、前記検出工程では、前記基準抗体の存在下における生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質と結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と比較して、有意に低下している場合(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上減少している場合)、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体である、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。他方、前記基準抗体の存在下における生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質と結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と有意な差がない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体ではない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。
【0325】
前記検出工程では、前記生体試料と、前記Swタンパク質とを接触させた後、得られた混合物と前記基準抗体と接触させ、前記基準抗体が前記Swタンパク質に結合するかを検出してもよい。この場合、前記検出工程では、前記基準抗体の前記Swタンパク質への結合が検出されない場合、または前記基準抗体のSwタンパク質への結合が、前記生体試料非存在下と比較して低減する場合、前記生体試料における抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体である、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。他方、前記検出工程では、前記基準抗体の前記Swタンパク質への結合が検出される場合、前記生体試料における抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体ではない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。
【0326】
前記検出工程では、前記Swタンパク質に代えて、そのN末端ドメイン(NTD)を用いてもよい。
【0327】
本発明の第2の検出方法では、例えば、さらに、前記生体試料における抗体が、例えば、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる抗体かを評価してもよい。前記結合活性の増強は、例えば、前記Swタンパク質、前記ACE2タンパク質、および前記生体試料の共存下で、前記Swタンパク質のACE2タンパク質への結合を検出することにより、測定できる。前記測定は、例えば、後述の実施例1と同様に実施できる。
【0328】
<第3の検出方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出方法を提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法は、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)に結合し、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を検出する検出工程を含む。本発明の第3の検出方法は、前記検出工程において、前記Swタンパク質に結合し、かつ前記変異タンパク質を認識しない抗体を、感染増強抗体として検出すること、すなわち、前記第3のマーカーを指標として用いることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第3の検出方法によれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。
【0329】
本発明の第3の検出方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第3の検出方法は、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強抗体の検出方法またはSARS-CoV-2のACE2への結合増強抗体の検出方法ということもできる。
【0330】
本発明の第3の検出方法によれば、前記ACE2結合増強抗体および/または前記感染増強抗体を検出できる。
【0331】
本発明の第3の検出方法では、例えば、前記抗体の有無を検出してもよいし、前記抗体の量を検出してもよい。前者の場合、本発明の第3の検出方法は、例えば、定性的な分析方法または定性的な測定方法ということもできる。また、後者の場合、本発明の第2の検出方法は、例えば、定量的な分析方法または定量的な測定方法ということもできる。前記検出は、例えば、検査または検知ということもできる。
【0332】
本発明の第3の検出方法において、前記検出工程における検出対象は、前記Swタンパク質に結合し、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体である。前記変異タンパク質は、前記本発明の変異タンパク質における(Sm1)のアミノ酸配列の説明を援用できる。前記検出工程において、前記検出対象の抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体のみを検出してもよいし、エピトープが異なる抗体をあわせて検出してもよい。
【0333】
前記検出工程では、前記生体試料と前記Swタンパク質とを接触させ、前記生体試料に含まれる抗体と、前記Swタンパク質との結合または結合量を検出する(第1の検出工程)。また、前記検出工程では、前記生体試料と前記変異タンパク質とを接触させ、前記生体試料に含まれる抗体と、前記変異タンパク質との結合または結合量を検出する(第2の検出工程)。前記生体試料に含まれる抗体と、前記Swタンパク質または前記変異タンパク質との結合は、例えば、抗原抗体反応を用いたELISA法、フローサイトメトリー等により、測定できる。
【0334】
つぎに、前記検出工程では、前記第1の検出工程と前記第2の検出工程で得られた結果を比較(評価)することで、前記Swタンパク質との結合抗体が、前記変異タンパク質を認識しないかを評価できる(比較工程または評価工程)。具体的には、前記結合を指標とする場合、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合が見られない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記変異タンパク質を認識しない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含むと、評価できる。他方、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられない場合、または前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合が見られる場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記変異タンパク質を認識する、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。また、前記結合量を指標とする場合、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と比較して、有意に低下している場合(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上減少している場合)、前記生体試料に含まれる抗体は、前記変異タンパク質を認識しない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。前記生体試料に含まれる抗体と前記変異タンパク質との結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と有意な差がない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記変異タンパク質を認識する、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まないと、評価できる。
【0335】
前記検出工程では、前記Swタンパク質に代えて、そのN末端ドメイン(NTD)を用いてもよい。また、前記検出工程では、前記変異タンパク質において、変異アミノ酸の位置を変更することにより、前記抗体が認識するアミノ酸の位置を変更でき、これにより、エピトープを特定できる。
【0336】
本発明の第3の検出方法では、例えば、さらに、前記生体試料における抗体が、例えば、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる抗体かを評価してもよい。前記結合活性の増強は、例えば、前記Swタンパク質、前記ACE2タンパク質、および前記生体試料の共存下で、前記Swタンパク質のACE2タンパク質への結合を検出することにより、測定できる。前記測定は、例えば、後述の実施例1と同様に実施できる。
【0337】
<第4の検出方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出方法を提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法は、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含み、前記基準抗体は、前記Swタンパク質を認識し、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)において、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない。本発明の第4の検出方法は、前記検出工程において、前記基準抗体と競合する競合抗体を、感染増強抗体として検出すること、すなわち、前記第4のマーカーを指標として用いるが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第4の検出方法によれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。
【0338】
本発明の第4の検出方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または感染増強抗体を指標としている。前記感染増強抗体では、前記抗体が、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合能を増強する機能を示すことにより、感染増強の機能性を生じると考えられる。このため、本発明の第4の検出方法は、例えば、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のACE2への結合増強抗体の検出方法またはSARS-CoV-2のACE2への結合増強抗体の検出方法ということもできる。
【0339】
本発明の第4の検出方法によれば、前記ACE2結合増強抗体および/または前記感染増強抗体を検出できる。
【0340】
本発明の第4の検出方法では、例えば、前記抗体の有無を検出してもよいし、前記抗体の量を検出してもよい。前者の場合、本発明の第4の検出方法は、例えば、定性的な分析方法または定性的な測定方法ということもできる。また、後者の場合、本発明の第4の検出方法は、例えば、定量的な分析方法または定量的な測定方法ということもできる。前記検出は、例えば、検査または検知ということもできる。
【0341】
本発明の第4の検出方法において、前記検出工程における検出対象は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体であり、前記基準抗体は、前記変異タンパク質を認識しない抗体であり、例えば、前述の基準抗体の説明を援用できる。前記検出工程において、前記検出対象の抗体は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい、すなわち、エピトープが同じ抗体のみを検出してもよいし、エピトープが異なる抗体をあわせて検出してもよい。
【0342】
前記検出工程では、前記被検者の生体試料について、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含む。具体的には、前記検出工程は、前記Swタンパク質と、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質と、前記生体試料における抗体との結合または結合量を検出する(第1の検出工程)。つぎに、前記検出工程は、前記基準抗体の存在下、前記Swタンパク質と、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質と、前記生体試料における抗体との結合または結合量を検出する(第2の検出工程)。前記生体試料に含まれる抗体と、前記Swタンパク質との結合は、例えば、抗原抗体反応を用いたELISA法、フローサイトメトリー等により、測定できる。
【0343】
つぎに、前記検出工程では、前記第1の検出工程と前記第2の検出工程で得られた結果を比較(評価)することで、前記生体試料に含まれる抗体が、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体であるかを評価できる(比較工程または評価工程)。具体的には、前記結合を指標とする場合、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記基準抗体の存在下では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合が見られない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体である、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。他方、前記検出工程では、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられない場合、または前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合がみられ、かつ前記基準抗体の存在下でも前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合が見られる場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体ではない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。また、前記結合量を指標とする場合、前記検出工程では、前記基準抗体の存在下における生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質と結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と比較して、有意に低下している場合(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上減少している場合)、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体である、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。他方、前記基準抗体の存在下における生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質と結合量が、前記生体試料に含まれる抗体と前記Swタンパク質との結合量と有意な差がない場合、前記生体試料に含まれる抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体ではない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。
【0344】
前記検出工程では、前記生体試料と、前記Swタンパク質とを接触させた後、得られた混合物と前記基準抗体と接触させ、前記基準抗体が前記Swタンパク質に結合するかを検出してもよい。この場合、前記検出工程では、前記基準抗体の前記Swタンパク質への結合が検出されない場合、または前記基準抗体のSwタンパク質への結合が、前記生体試料非存在下と比較して低減する場合、前記生体試料における抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体である、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含む、と評価できる。他方、前記検出工程では、前記基準抗体の前記Swタンパク質への結合が検出される場合、前記生体試料における抗体は、前記Swタンパク質との結合について、基準抗体と競合する抗体ではない、すなわち、前記生体試料は感染増強抗体を含まない、と評価できる。
【0345】
前記検出工程では、前記Swタンパク質に代えて、そのN末端ドメイン(NTD)を用いてもよい。
【0346】
本発明の第4の検出方法では、例えば、さらに、前記生体試料における抗体が、例えば、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる抗体かを評価してもよい。前記結合活性の増強は、例えば、前記Swタンパク質、前記ACE2タンパク質、および前記生体試料の共存下で、前記Swタンパク質のACE2タンパク質への結合を検出することにより、測定できる。前記測定は、例えば、後述の実施例1と同様に実施できる。
【0347】
<検出キット>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出キットを提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出キットは、Fc受容体非依存的に、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のACE2タンパク質への結合性を増強する抗体の検出試薬を含む。本発明の検出キットは、前記ACE2結合増強抗体の検出試薬を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明のキットによれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。本発明の検出キットの具体例としては、例えば、後述の第1~第2の検出キットがあげられる。本発明の検出キットの構成部材が1つの場合、本発明の検出キットは、例えば、検出試薬ということもできる。また、本発明の検出キットは、試験キットまたは診断キットということもできる。
【0348】
<第1の検出キット>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出キットを提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出キットは、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、を含む。本発明の第1の検出キットは、前記Swタンパク質および前記変異タンパク質を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第1のキットによれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。
【0349】
本発明の第1の検出キットは、例えば、前記本発明の第1の検出方法および第3の検出方法の実施に好適に使用できる。
【0350】
本発明の第1のキットは、前記Swタンパク質またはそのNTDと、前記変異タンパク質またはそのNTDとを含む。前記変異タンパク質またはそのNTDにおける変異アミノ酸の位置は、例えば、本発明の第1のキットで検出対象とする抗体のエピトープに応じて、適宜設定できる。前記変異タンパク質またはそのNTDにおける変異アミノ酸の位置は、例えば、前記本発明の変異タンパク質における(Sm1)のアミノ酸配列の説明を援用できる。前記変異タンパク質としては、前記本発明の変異タンパク質を用いてもよい。前記変異タンパク質またはそのNTDでは、前記変異アミノ酸の位置および/変異の種類が1種類であってもよいし、複数であってもよい。前記変異アミノ酸の位置および/変異の種類を複数とすることにより、本発明の第1のキットは、例えば、異なるエピトープを認識する抗体を同時に検出できる。
【0351】
本発明の第1のキットにおいて、前記Swタンパク質またはそのNTDは、単離されたSwタンパク質またはそのNTDでもよいし、前記Swタンパク質またはそのNTDを発現する宿主細胞でもよいし、前記Swタンパク質またはそのNTDを抗体のFc領域と融合したFc融合タンパク質でもよい。前記単離されたSwタンパク質またはそのNTDを用いる場合、前記Swタンパク質またはそのNTDは、担体に固定されてもよい。前記担体への固定は、例えば、直接または間接的な固定である。前記直接的な固定は、前記Swタンパク質またはそのNTDと前記担体との共有結合による固定である。前記間接的な固定は、前記Swタンパク質またはそのNTDと担体とが、例えば、前記担体に固定化されたSwタンパク質またはそのNTDに結合可能な分子(例えば、抗体、アプタマー)を介して結合している状態を意味する。前記Swタンパク質またはそのNTDに結合可能な分子は、例えば、前記Swタンパク質またはそのNTDとの結合において、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体と競合しない部位に結合し、好ましくは、前記Swタンパク質NTD以外のドメイン、すなわち、RBDおよび/またはS2に結合する。前記担体と、前記Swタンパク質またはそのNTDとが間接的に固定される場合、前記担体と、前記Swタンパク質またはそのNTDとは、例えば、いずれか一方と測定対象との混合に先立ち、同時に、または混合後に接触させる。前記担体は、前述の説明を援用できる。
【0352】
本発明の第1のキットにおいて、前記変異タンパク質またはそのNTDは、単離された変異タンパク質またはそのNTDでもよいし、前記変異タンパク質またはそのNTDを発現する宿主細胞でもよいし、前記変異タンパク質またはそのNTDを抗体のFc領域と融合したFc融合タンパク質でもよい。前記単離された変異タンパク質またはそのNTDを用いる場合、前記変異タンパク質またはそのNTDは、担体に固定されてもよい。前記担体は、前述の説明を援用できる。
【0353】
本発明の第1のキットにおいて、前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記変異タンパク質またはそのNTDは、例えば、標識されてもよい。この場合、前記標識は、例えば、測定方法の種類に応じて、アルカリフォスファターゼ(ALP)、ルシフェラーゼ等の酵素;放射性同位元素;粒子;蛍光タンパク質、蛍光色素等の蛍光物質;色素物質等の色素;発光物質;電子供与体;酵素の発色基質;DNP(ジニトロフェノール)、TNP(トリニトロフェノール)等のハプテン、ビオチン等のビタミン類;等があげられる。前記標識が酵素の場合、本発明の第1のキットは、さらに前記酵素の基質を含むことが好ましい。前記標識は、直接または間接的に前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記変異タンパク質またはそのNTDと結合していることが好ましい。
【0354】
前記本発明第1のキットは、例えば、前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記変異タンパク質またはそのNTDに結合した抗体を検出する試薬を含んでもよい。この場合、前記試薬は、例えば、前記抗体を認識する抗体、アプタマー等(2次抗体等)があげられる。前記2次抗体等は、例えば、前記抗体の定常領域またはFc領域を認識することが好ましい。また、前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記変異タンパク質またはそのNTDが標識されていない場合、前記2次抗体等は、標識されていることが好ましい。これにより、本発明の第1のキットは、前記Swタンパク質またはそのNTDと前記抗体との結合、および/または前記変異タンパク質またはそのNTDと前記抗体との結合を簡便に検出できる。
【0355】
本発明の第1のキットは、例えば、さらに、その他の構成要素を含んでもよい。前記構成要素は、例えば、前記担体、前記酵素の基質、緩衝液、洗浄液、使用説明書等があげられる。本発明の第1のキットにおける各試薬は、それぞれ、別個の容器に収容されてもよいし、同一の容器に混合または未混合で収容されてもよい。後者の場合、本発明の第1のキットは、第1の検出試薬ということもできる。本発明の第1のキットが前記基質を含む場合、前記基質は、例えば、前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記変異タンパク質またはそのNTDと別個の容器に収容されている。
【0356】
本発明の第1のキットは、例えば、前記Swタンパク質のRBDまたはS2領域に結合可能な抗体が固定化された担体と、前記Swタンパク質とを備えることが好ましい。また、本発明の第1のキットは、例えば、さらに、測定対象(例えば、生体試料)由来のSwタンパク質に結合した抗体を検出可能な検出試薬を備えることが好ましい。前記検出試薬は、例えば、前記抗体に対する抗体、すなわち、2次抗体があげられる。前記2次抗体は、標識されていることが好ましい。
【0357】
本発明の第1のキットは、前記変異タンパク質に代えて、ACE2タンパク質を含んでもよい。この場合、本発明の第1のキットは、前記試料に含まれるACE2結合増強抗体と、前記Swタンパク質またはそのNTDとの結合を、前記Swタンパク質またはそのNTDと前記ACE2タンパク質との結合を用いて検出する。前記ACE2タンパク質は、直接または間接的に標識と結合していることが好ましい。
【0358】
<第2の検出キット>
本発明は、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出キットを提供する。本発明のSARS-CoV-2の感染増強抗体の検出キットは、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、基準抗体とを含み、前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。本発明の第2の検出キットは、前記Swタンパク質および前記基準抗体を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第2のキットによれば、SARS2の感染増強に関与しうる抗体を検出できる。
【0359】
本発明の第2の検出キットは、例えば、前記本発明の第2の検出方法および第4の検出方法の実施に好適に使用できる。
【0360】
本発明の第2のキットにおいて、前記Swタンパク質またはそのNTDは、単離されたSwタンパク質またはそのNTDでもよいし、前記Swタンパク質またはそのNTDを発現する宿主細胞でもよいし、前記Swタンパク質またはそのNTDを抗体のFc領域と融合したFc融合タンパク質でもよい。前記単離されたSwタンパク質またはそのNTDを用いる場合、前記Swタンパク質またはそのNTDは、担体に固定されてもよい。前記担体への固定は、例えば、直接または間接的な固定である。前記直接的な固定は、前記Swタンパク質またはそのNTDと前記担体との共有結合による固定である。前記間接的な固定は、前記Swタンパク質またはそのNTDと担体とが、例えば、前記担体に固定化されたSwタンパク質またはそのNTDに結合可能な分子(例えば、抗体、アプタマー)を介して結合している状態を意味する。前記Swタンパク質またはそのNTDに結合可能な分子は、例えば、前記Swタンパク質またはそのNTDとの結合において、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体と競合しない部位に結合し、好ましくは、前記Swタンパク質NTD以外のドメイン、すなわち、RBDおよび/またはS2に結合する。前記担体は、前述の説明を援用できる。
【0361】
本発明の第2のキットにおいて、前記基準抗体が認識するアミノ酸の位置は、例えば、前記本発明の変異タンパク質における基準抗体の説明を援用できる。前記基準抗体において、前記認識するアミノ酸の位置は、1つでもよいし、複数でもよい。前記認識するアミノ酸の位置を複数とすることにより、本発明の第2のキットは、例えば、異なるエピトープを認識する抗体を同時に検出できる。
【0362】
本発明の第2のキットにおいて、前記基準抗体は、単離された基準抗体でもよいし、前記基準抗体を発現する宿主細胞でもよい。前記基準抗体を用いる場合、前記基準抗体は、担体に固定されてもよい。前記担体は、前述の説明を援用できる。前記基準抗体としては、前記抗原結合断片を用いてもよい。
【0363】
本発明の第2のキットにおいて、前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記基準抗体は、例えば、標識されてもよい。この場合、前記標識は、例えば、測定方法の種類に応じて、アルカリフォスファターゼ(ALP)、ルシフェラーゼ等の酵素;放射性同位元素;粒子;蛍光タンパク質、蛍光色素等の蛍光物質;色素物質等の色素;発光物質;電子供与体;酵素の発色基質;DNP(ジニトロフェノール)、TNP(トリニトロフェノール)等のハプテン、ビオチン等のビタミン類;等があげられる。前記標識が酵素の場合、本発明の第2のキットは、さらに前記酵素の基質を含むことが好ましい。前記標識は、直接または間接的に前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記基準抗体と結合していることが好ましい。
【0364】
前記本発明第2のキットは、例えば、前記Swタンパク質またはそのNTDに結合した抗体、および/または前記基準抗体を検出する試薬を含んでもよい。この場合、前記試薬は、例えば、前記抗体を認識する抗体、アプタマー等(2次抗体等)があげられる。前記2次抗体等は、例えば、前記抗体または前記基準抗体の定常領域またはFc領域を認識することが好ましい。また、前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記基準抗体が標識されていない場合、前記2次抗体等は、標識されていることが好ましい。これにより、本発明の第2のキットは、前記Swタンパク質またはそのNTDと前記抗体との結合、および/または前記Swタンパク質またはそのNTDと前記基準抗体との結合、または前記抗体と基準抗体と競合を簡便に検出できる。
【0365】
本発明の第2のキットは、例えば、さらに、その他の構成要素を含んでもよい。前記構成要素は、例えば、前記担体、前記酵素の基質、緩衝液、洗浄液、使用説明書等があげられる。本発明の第2のキットにおける各試薬は、それぞれ、別個の容器に収容されてもよいし、同一の容器に混合または未混合で収容されてもよい。後者の場合、本発明の第1のキットは、第2の検出試薬ということもできる。本発明の第2のキットが前記基質を含む場合、前記基質は、例えば、前記Swタンパク質またはそのNTD、および/または前記変異タンパク質またはそのNTDと別個の容器に収容されている。
【0366】
本発明の第2のキットは、例えば、前記Swタンパク質のRBDまたはS2に結合可能な抗体が固定化された担体と、前記Swタンパク質と、前記基準抗体とを備えることが好ましい。また、本発明の第2のキットは、例えば、さらに、測定対象(例えば、生体試料)由来のSwタンパク質に結合した抗体を検出可能な検出試薬を備えることが好ましい。前記検出試薬は、例えば、前記抗体に対する抗体、すなわち、2次抗体があげられる。前記2次抗体は、標識されていることが好ましい。
【0367】
本発明の第2のキットは、例えば、前記Swタンパク質またはそのNTDを含まなくてもよい。この場合、本発明の第1のキットは、SARS-CoV-2の感染増強の指標となりうる抗体の検出方法に用いるための、前記基準抗体ということもできる。
【0368】
本発明の第2のキットは、前記基準抗体に代えて、ACE2タンパク質を含んでもよい。この場合、本発明の第2のキットは、前記試料に含まれるACE2結合増強抗体と、前記Swタンパク質またはそのNTDとの結合を、前記Swタンパク質またはそのNTDと前記ACE2タンパク質との結合を用いて検出する。前記ACE2タンパク質は、直接または間接的に標識と結合していることが好ましい。
【0369】
<試験方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染のしやすさ(罹患の可能性)を試験する方法を提供する。本発明の方法は、SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、被検者の生体試料について、Fc受容体非依存的に、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のACE2タンパク質への結合性を増強する抗体を測定する測定工程を含む。本発明の試験方法は、前記測定工程において、前記ACE2結合増強抗体を測定することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の試験方法によれば、SARS2の感染のしやすさを試験できる。本発明の試験方法の具体例としては、例えば、後述の本発明の第1~第4の試験方法があげられる。
【0370】
<第1の試験方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染のしやすさ(罹患の可能性)を試験する方法を提供する。本発明の方法は、SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する測定工程を含む。本発明の第1の試験方法は、前記測定工程において、前記Ssタンパク質における所定の位置のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する抗体を、感染増強抗体として測定することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第1の試験方法によれば、SARS2の感染のしやすさを試験できる。
【0371】
本発明の第1の試験方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体を指標とすることにより、SARS2への感染のしやすさを試験(例えば、診断、評価、判定、予測、または判断)する。このため、本発明の第1の試験方法は、例えば、SARS2の罹患の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。また、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体は、SARS2感染者の重症化にも寄与すると推定される。このため、本発明の第1の試験方法は、例えば、SARS2の重症化もしくは重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法、またはSARS2感染時もしくは感染者における重症化または重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。本発明の第1の試験方法は、例えば、医師の判断工程を除く。
【0372】
本発明の第1の試験方法において、前記感染のしやすさは、例えば、感染の可能性、感染の危険度、感染の確率、罹患のしやすさ、罹患の可能性、罹患の危険度、罹患の確率等ともいうことができる。
【0373】
本発明の第1の試験方法において、前記測定工程は、前記本発明の第1の検出方法における検出工程と同様にして実施でき、例えば、「検出」を「測定」に読み替えてその説明を援用できる。
【0374】
本発明の第1の試験方法では、前記測定工程において、前記抗体として、前記抗体の量を測定することが好ましい。この場合、本発明の第1の試験方法は、さらに、前記抗体の量を、第1の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS2に感染する可能性(罹患の可能性)を試験する第1の試験工程を含んでもよい。前記第1の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体の量および/またはSARS2の罹患者(感染者)の生体試料における前記抗体の量に基づき設定された閾値である。前記第1の閾値は、例えば、同じSARS2感染者の治療後(例えば、治療直後)の前記抗体の量でもよい。
【0375】
前記第1の閾値は、例えば、健常者および/またはSARS2感染者から単離した生体試料(以下、「基準生体試料」ともいう)を用いて、得ることができる。また、予後の評価の場合、例えば、同じ被検者から治療後に単離した基準生体試料を用いてもよい。前記第1の閾値は、例えば、前記被検者の被検生体試料と同時に測定してもよいし、予め測定してもよい。後者の場合、例えば、前記被検者の被検生体試料を測定する度に、第1の閾値を得ることが不要となるため、好ましい。前記被検者の被検生体試料と前記基準生体試料は、例えば、同じ条件で採取し、同じ条件で前記抗体の量の測定を行うことが好ましい。
【0376】
前記第1の試験工程において、被検者のSARS2感染のしやすさの評価方法は、特に制限されず、前記第1の閾値の種類によって適宜決定できる。具体例として、前記被検者の被検生体試料における前記抗体の量が、前記健常者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に高い場合、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体の量と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に高い場合、前記被検者は、SARS2に感染する可能性がある、または感染する可能性が高いと評価できる。また、前記被検者の被検生体試料における前記抗体の量が、前記健常者の基準生体試料における前記抗体の量と同じ場合(有意差が無い場合)、前記健常者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に低い場合、および/または、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に低い場合、前記被検者は、SARS2に感染する可能性が無いまたは感染する可能性が低いと評価できる。なお、前記第1の試験工程における評価方法について、感染の可能性を例にあげて説明したが、前記評価方法は、重症化の可能性の評価方法として実施してもよい。この場合、感染する可能性は、重症化の可能性ということもできる。また、前記第1の試験工程において、前記被検者の被検生体試料における前記抗体の量を、重症化度ごとのSARS2感染者の基準生体試料における前記抗体の量と比較することで、SARS2の重症化度を評価できる。具体的には、前記被検者の被検生体試料が、例えば、いずれかの重症化度の前記基準生体試料と同程度の発現量の場合(有意差がない場合)、前記被検者は、前記重症化度の可能性があると評価できる。
【0377】
前記第1の試験工程において、予後の状態を評価する場合、例えば、前述と同様に評価判断してもよいし、第1の閾値として、同じ被検者の治療後の基準生体試料における前記抗体の量を使用して評価することもできる。具体例として、前記被検者の被検生体試料における前記抗体の量が、前記第1の閾値よりも有意に高い場合、前記被検者は、前記治療後、再発、悪化、または重症化の可能性があると評価できる。また、前記被検者の被検生体試料における前記抗体の量が、前記第1の閾値と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記第1の閾値よりも有意に低い場合、前記被検者は、前記治療後、再発、悪化もしくは重症化の可能性が無いもしくは可能性が低いと評価できる。
【0378】
本発明において、例えば、同じ被検者の生体試料を経時的に採取し、前記生体試料における前記抗体の量を比較してもよい。これによって、前記第1の試験工程では、例えば、経時的に前記抗体の量が増加すれば、SARS2に感染する可能性が高くなった、重症化してきた等の判断が可能であり、経時的に前記抗体の量が低下すれば、SARS2に感染する可能性が低くなったまたは軽症化してきた等の判断が可能である。
【0379】
本発明の第1の試験方法は、さらに、前記被検者の生体試料について、前記Swタンパク質の中和抗体を測定する第3の測定工程を含んでもよい。前記中和抗体は、例えば、前記Swタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に結合する抗体である。前記第3の測定工程では、前記中和抗体として、前記中和抗体の量を測定することが好ましい。前記中和抗体は、例えば、単離されたRBDまたはRBDを発現する宿主細胞を用いて測定でき、後述の実施例1と同様にして実施できる。
【0380】
本発明の第1の試験方法が前記第3の測定工程を含む場合、本発明の第1の試験方法は、前記中和抗体の量を、第2の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第2の試験工程を含むことが好ましい。この場合、前記第2の試験工程は、前記第1の試験工程と組合せて実施されることが好ましい。前記第2の閾値は、SARS2の罹患者(感染者)の生体試料における前記中和抗体の量および/またはSARS2の罹患(感染)後、回復した者(SARS2の回復者)の生体試料における前記中和抗体の量に基づき設定された閾値である。前記SARS2の回復者は、SARS2の感染から回復後、1、2、3、または6ヶ月以内の者であることが好ましい。
【0381】
前記第2の試験工程において、被検者のSARS2感染のしやすさの評価方法は、特に制限されず、前記第2の閾値の種類によって適宜決定できる。具体例として、前記被検者の被検生体試料における前記抗体の量が、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に高い場合、前記SARS2回復者の基準生体試料における前記抗体の量と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記SARS2回復者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に高い場合、前記被検者は、SARS2に感染する可能性がない、または感染する可能性が低いと評価できる。また、前記被検者の被検生体試料における前記抗体の量が、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体の量と同じ場合(有意差が無い場合)、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に低い場合、および/または、前記SARS2回復者の基準生体試料における前記抗体の量よりも有意に低い場合、前記被検者は、SARS2に感染する可能性があるまたは感染する可能性が高いと評価できる。このため、SARS2に感染する可能性があるまたは感染する可能性が高いと評価された被検者については、前述の第1の試験工程における評価を実施することが好ましい。なお、前記第2の試験工程における評価方法について、感染の可能性を例にあげて説明したが、前記評価方法は、重症化の可能性の評価方法として実施してもよい。この場合、感染する可能性は、重症化の可能性ということもできる。
【0382】
本発明の第1の試験方法が前記第3の測定工程を含む場合、本発明の第1の試験方法は、前記測定工程で得られた抗体の量と、前記第3の測定工程で得られた中和抗体の量との比に基づき、評価を行ってもよい。この場合、本発明の第1の試験方法は、前記測定工程における抗体の量(S)と、前記第3の測定工程における中和抗体の量(N)との抗体量比(S/N)を算出する算出工程と、前記抗体量比を、第3の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第3の試験工程とを含む。前記第3閾値は、例えば、健常者の生体試料における前記抗体量比、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体量比、および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記抗体量比に基づき設定された閾値である。前記SARS2の回復者は、SARS2の感染から回復後、1、2、3、または6ヶ月以内の者であることが好ましい。
【0383】
前記第3の試験工程において、被検者のSARS2感染のしやすさの評価方法は、特に制限されず、前記第3の閾値の種類によって適宜決定できる。具体例として、前記被検者の被検生体試料における前記抗体量比(S/N)が、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体量比(S/N)よりも有意に低い場合、前記SARS2回復者の基準生体試料における前記抗体量比(S/N)と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記SARS2回復者の基準生体試料における前記抗体量比(S/N)よりも有意に低い場合、前記被検者は、SARS2に感染する可能性がない、または感染する可能性が低いと評価できる。また、前記被検者の被検生体試料における前記抗体量比(S/N)が、前記健常者の基準生体試料における前記抗体量比(S/N)とより有意に高い場合、前記健常者の基準生体試料における前記抗体量比(S/N)と同じ場合(有意差が無い場合)、および/または、前記SARS2感染者の基準生体試料における前記抗体量比(S/N)よりも有意に高い場合、前記被検者は、SARS2に感染する可能性があるまたは感染する可能性が高いと評価できる。なお、前記第3の試験工程における評価方法について、感染の可能性を例にあげて説明したが、前記評価方法は、重症化の可能性の評価方法として実施してもよい。この場合、感染する可能性は、重症化の可能性ということもできる。
【0384】
本発明の第1の試験方法は、例えば、前記第1~第3の試験工程において、SARS2に感染する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者、重症化する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者に対し、さらに、SARS2の治療薬を投与する工程(投与工程)を含んでもよい。この場合、本発明の試験方法は、SARS2の試験および治療方法ということもできる。前記治療薬は、例えば、レムデシビル((2S)-2-{(2R,3S,4R,5R)-[5-(4-Aminopyrrolo[2,1-f][1,2,4]triazin-7-yl)-5-cyano-3,4-dihydroxy-tetrahydro-furan-2-ylmethoxy]phenoxy-(S)-phosphorylamino}propionic acid 2-ethyl-butyl ester)、ファビピラビル(6-fluoro-3-hydroxypyrazine-2-carboxamide)、デキサメタゾン、REGN-COV2等の抗SARS2抗体、ナファモスタット、ネルフィナビル等のプロテアーゼ阻害薬等があげられる。前記SARS2の治療薬は、例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 第3版(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000668291.pdf)を参照できる。前記投与工程における前記治療薬の投与条件は、例えば、各治療薬の通常の投与条件を参照できる。
【0385】
<第2の試験方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染のしやすさ(罹患の可能性)を試験する方法を提供する。本発明の方法は、SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を測定する測定工程を含み、前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である。本発明の第2の試験方法は、前記測定工程において、前記基準抗体と競合する競合抗体を、感染増強抗体として測定することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第2の試験方法によれば、SARS2の感染のしやすさを試験できる。
【0386】
本発明の第2の試験方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体を指標とすることにより、SARS2への感染のしやすさを試験(例えば、診断、評価、判定、予測、または判断)する。このため、本発明の第2の試験方法は、例えば、SARS2の罹患の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。また、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体は、SARS2感染者の重症化にも寄与すると推定される。このため、本発明の第2の試験方法は、例えば、SARS2の重症化もしくは重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法、またはSARS2感染時もしくは感染者における重症化または重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。本発明の第2の試験方法は、例えば、医師の判断工程を除く。
【0387】
本発明の第2の試験方法において、前記測定工程は、前記本発明の第2の検出方法における検出工程と同様にして実施でき、例えば、「検出」を「測定」に読み替えてその説明を援用できる。
【0388】
本発明の第2の試験方法において、前記測定工程で得られた結果を用いた前記被検者の評価は、前記本発明の第1の試験方法と同様にして実施でき、その説明を援用できる。
【0389】
本発明の第2の試験方法は、例えば、前記第1~第3の試験工程において、SARS2に感染する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者、重症化する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者に対し、さらに、SARS2の治療薬を投与する工程(投与工程)を含んでもよい。この場合、本発明の試験方法は、SARS2の試験および治療方法ということもできる。
【0390】
<第3の試験方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染のしやすさ(罹患の可能性)を試験する方法を提供する。本発明の方法は、SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)に結合し、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を測定する測定工程を含む。本発明の第3の試験方法は、前記測定工程において、前記Swタンパク質に結合し、かつ前記変異タンパク質を認識しない抗体を、感染増強抗体として測定することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第3の試験方法によれば、SARS2の感染のしやすさを試験できる。
【0391】
本発明の第3の試験方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体を指標とすることにより、SARS2への感染のしやすさを試験(例えば、診断、評価、判定、予測、または判断)する。このため、本発明の第3の試験方法は、例えば、SARS2の罹患の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。また、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体は、SARS2感染者の重症化にも寄与すると推定される。このため、本発明の第3の試験方法は、例えば、SARS2の重症化もしくは重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法、またはSARS2感染時もしくは感染者における重症化または重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。本発明の第3の試験方法は、例えば、医師の判断工程を除く。
【0392】
本発明の第3の試験方法において、前記測定工程は、前記本発明の第3の検出方法における検出工程と同様にして実施でき、例えば、「検出」を「測定」に読み替えてその説明を援用できる。
【0393】
本発明の第3の試験方法において、前記測定工程で得られた結果を用いた前記被検者の評価は、前記本発明の第1の試験方法と同様にして実施でき、その説明を援用できる。
【0394】
本発明の第3の試験方法は、例えば、前記第1~第3の試験工程において、SARS2に感染する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者、重症化する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者に対し、さらに、SARS2の治療薬を投与する工程(投与工程)を含んでもよい。この場合、本発明の試験方法は、SARS2の試験および治療方法ということもできる。
【0395】
<第4の試験方法>
本発明は、SARS-CoV-2の感染のしやすさ(罹患の可能性)を試験する方法を提供する。本発明の方法は、SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を測定する測定工程を含み、前記基準抗体は、前記Swタンパク質を認識し、 前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)において、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない。本発明の第4の試験方法は、前記測定工程において、前記基準抗体と競合する競合抗体を、感染増強抗体として測定することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の第4の試験方法によれば、SARS2の感染のしやすさを試験できる。
【0396】
本発明の第4の試験方法では、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体を指標とすることにより、SARS2への感染のしやすさを試験(例えば、診断、評価、判定、予測、または判断)する。このため、本発明の第4の試験方法は、例えば、SARS2の罹患の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。また、前記ACE2結合増強抗体および/または抗体感染増強抗体は、SARS2感染者の重症化にも寄与すると推定される。このため、本発明の第4の試験方法は、例えば、SARS2の重症化もしくは重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法、またはSARS2感染時もしくは感染者における重症化または重症化の可能性の試験、診断、評価、判定、予測、または判断方法ということもできる。本発明の第4の試験方法は、例えば、医師の判断工程を除く。
【0397】
本発明の第4の試験方法において、前記測定工程は、前記本発明の第4の検出方法における検出工程と同様にして実施でき、例えば、「検出」を「測定」に読み替えてその説明を援用できる。
【0398】
本発明の第4の試験方法において、前記測定工程で得られた結果を用いた前記被検者の評価は、前記本発明の第1の試験方法と同様にして実施でき、その説明を援用できる。
【0399】
本発明の第4の試験方法は、例えば、前記第1~第3の試験工程において、SARS2に感染する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者、重症化する可能性があるまたは可能性が高いと評価された被検者に対し、さらに、SARS2の治療薬を投与する工程(投与工程)を含んでもよい。この場合、本発明の試験方法は、SARS2の試験および治療方法ということもできる。
【0400】
<SARS-CoV-2の重症化の抑制方法>
本発明は、SARS-CoV-2の重症化を抑制しうる方法を提供する。本発明のSARS-CoV-2の重症化の抑制方法(以下、「抑制方法」ともいう)は、被検者の生体試料から前記被検者のSARS-CoV-2の感染増強の可能性を試験する試験工程と、前記試験工程において、感染増強の可能性があると評価された被検者に対して、SARS-CoV-2の治療薬を投与する投与工程とを含み、前記試験工程は、本発明の第1~第4の試験方法により実施される。本発明の抑制方法は、前記試験工程が、本発明の第1~第4の試験方法により実施されることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の抑制方法によれば、SARS2感染者の重症化を抑制しうる。
【0401】
本発明の抑制方法は、例えば、SARS感染者について、重症化しうる被検者かを評価し、前記被検者を治療できるため、SARS-CoV-2の重症化の評価および治療方法ということもできる。
【0402】
本発明において、「重症化」は、例えば、人工呼吸器の装着が必要な状態を意味する。
【0403】
本発明の抑制方法において、前記試験工程は、前記本発明の第1~第4の試験方法と同様にして実施できる。前記投与工程において、前記感染増強の可能性があるとの評価は、例えば、前記第1~第4の試験方法における試験工程と同様にして実施できる。
【0404】
前記投与工程において、SARS2の治療薬は、例えば、レムデシビル((2S)-2-{(2R,3S,4R,5R)-[5-(4-Aminopyrrolo[2,1-f][1,2,4]triazin-7-yl)-5-cyano-3,4-dihydroxy-tetrahydro-furan-2-ylmethoxy]phenoxy-(S)-phosphorylamino}propionic acid 2-ethyl-butyl ester)、ファビピラビル(6-fluoro-3-hydroxypyrazine-2-carboxamide)、デキサメタゾン、REGN-COV2等の抗SARS2抗体、ナファモスタット、ネルフィナビル等のプロテアーゼ阻害薬等があげられる。前記SARS2の治療薬は、例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 第3版(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000668291.pdf)を参照できる。前記投与工程における前記治療薬の投与条件は、例えば、各治療薬の通常の投与条件を参照できる。
【0405】
<感染増強抗体の低減剤>
本発明は、感染増強抗体を低減しうる低減剤を提供する。本発明は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の低減剤(以下、「低減剤」ともいう)であって、野生型Spikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインを含む。本発明の低減剤は、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインを含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の低減剤によれば、例えば、血液中の感染増強抗体を低減できる。
【0406】
前述のように、前記感染増強抗体は、ACE2への結合性を増強することにより、ADEを生じさせていると推定される。このため、本発明の感染増強抗体の低減剤は、例えば、ACE2結合増強抗体の低減剤ということもできる。
【0407】
本発明の低減剤において、前記Swタンパク質およびそのN末端ドメイン(NTD)は、単離されたタンパク質またはポリペプチドでもよいし、他の物質と共存してもよい。
【0408】
本発明の低減剤において、前記Swタンパク質およびNTDは、例えば、前記感染増強抗体を低減させる対象物と接触させた後、前記対象物と分離が容易であることから、担体に保持または固定されていることが好ましい。前記担体は、例えば、水、緩衝液等の水性溶媒に不溶または実質的に溶解しない素材で形成された担体が好ましい。前記担体は、例えば、アガロース製、樹脂製等のビーズ;中空糸膜、精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、不織布等のフィルター;多孔質体;等があげられる。前記Swタンパク質またはNTDは、例えば、N末端のアミノ基またはC末端のカルボキシル基をリンカーに結合させ、前記リンカーの他端を担体に結合させることにより、前記担体に保持または固定できる。前記担体が官能基を有する場合、前記Swタンパク質またはNTDは、N末端のアミノ基またはC末端のカルボキシル基を前記官能基と反応させることにより、固定してもよい。
【0409】
前記対象物は、特に制限されず、例えば、生体試料であり、好ましくは、血液であり、より好ましくは、SARS2感染者由来の血液である。
【0410】
本発明の低減剤は、前記Swタンパク質またはそのNTDを含むため、前記感染増強抗体の結合部位を含む。このため、本発明の低減剤によれば、前記感染増強抗体と抗原抗体反応を生じることにより、前記対象物中の感染増強抗体を低減できる。
【0411】
<感染増強抗体の低減方法>
本発明は、感染増強抗体を低減しうる方法を提供する。本発明の方法は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の低減方法(以下、「低減方法」という)であって、生体試料と、前記本発明の低減剤とを接触させることにより、前記生体試料における前記抗体を低減する低減工程を含む。本発明の低減方法は、前記Swタンパク質またはそのNTDを含む低減剤と、前記生体試料とを接触させることで、前記生体試料における前記抗体を低減することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の低減方法によれば、生体試料中の感染増強抗体を低減できる。
【0412】
本発明の低減方法は、前記低減工程の実施に先立ち、対象から生体試料を取得する取得工程を含んでもよい。前記取得工程は、前記対象から単離された生体試料を取得する工程であってもよい。前記対象からの生体試料の取得方法は、前記生体試料の種類に応じて適宜決定できる。前記生体試料が血液の場合、前記取得工程は、例えば、シリンジ等の血液採取器具、採血装置等を用いて実施できる。
【0413】
前記低減工程において、前記生体試料と前記低減剤との接触は、前記生体試料と前記低減剤とを共存させることにより実施でき、具体的には、前記生体試料と前記低減剤とを混合することにより実施できる。前記生体試料が固体試料である場合、前記低減工程に先立ち、前記生体試料と、溶媒とを予め接触させるか、前記低減工程において、前記生体試料および前記低減剤に加えて、前記溶媒も接触させることが好ましい。前記溶媒は、例えば、水、緩衝液等の水性溶媒があげられる。前記低減工程では、前記接触により、前記生体試料に含まれる感染増強抗体が、前記低減剤におけるSwタンパク質またはNTDと結合するため、前記生体試料における感染増強抗体を低減することができる。
【0414】
前記低減工程における接触条件は、特に制限されず、例えば、前記生体試料が変性しない温度、条件があげられる。具体例として、前記接触時の温度は、例えば、0~37℃である。前記接触の時間は、例えば、1~2時間である。
【0415】
前記低減工程において、前記生体試料と前記低減剤との量比は、特に制限されず、例えば、目的とする感染増強抗体の低減量に応じて適宜決定できる。前記低減工程において、前記感染増強抗体の低減量を多くする場合、前記生体試料(S)に対する前記低減剤(D)の量比(D/S)は、相対的に大きく設定する。他方、前記低減工程において、前記感染増強抗体の低減量を少なくする場合、前記生体試料に対する前記低減剤の量比(D/S)は、相対的に小さく設定する。
【0416】
本発明の低減方法は、前記低減工程後、前記生体試料と、前記低減剤とを分離する分離工程を含んでもよい。前記分離方法は、例えば、前記低減剤の形態により適宜決定できる。具体例として、前記低減剤が担体に保持されている場合、前記分離方法は、フィルター、多孔質体等を用いた公知の固液分離方法により実施できる。
【0417】
本発明の低減方法は、前記低減工程後の生体試料を、前記生体試料を取得した対象に投与する投与工程を含んでもよい。この場合、本発明の低減方法は、前記低減工程後に、前記分離工程を実施し、得られた液体画分を前記生体試料として対象に投与することが好ましい。
【実施例0418】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。なお、特に示さない限り、市販の試薬およびキット等は、そのプロトコルに従い使用した。
【0419】
[実施例1]
SARS-CoV-2の抗NTD抗体が、SARS2のSタンパク質のACE2への結合性を高めることを確認した。
【0420】
(1)抗体サンプルの作成
SARS2に結合する抗体を、下記参考文献9および10に記載されている、SARS2のSタンパク質に結合する100種類の抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列に基づき、抗体サンプルを調製した。具体的には、各抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードする遺伝子を、分泌型ヒトIgG1定常領域(Genbank Accession No.:ARA90394(タンパク質)、KY432415(mRNA))の部分配列(配列番号110)をコードする遺伝子(配列番号111)、またはヒトκ定常領域(Genbank Accession No.:CAC20459(タンパク質)、AJ294735(mRNA))の部分配列(配列番号112)をコードする遺伝子(配列番号113)と機能的に連結し、これを、プラスミドベクター(pCAGGS)にクローニングした。これにより、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に結合する100種類の抗体サンプルの発現ベクターを調製した。なお、各抗体のクローン名は、下記参考文献9および10の記載にしたがって付している。
参考文献9:Chi X. et.al., “A neutralizing human antibody binds to the N-terminal domain of the Spike protein of SARS-CoV-2.” Science, 2020, vol. 369, pages 650-655, doi:10.1126/science.abc6952
参考文献10:SJ, Zost. et al. “Rapid isolation and profiling of a diverse panel of human monoclonal antibodies targeting the SARS-CoV-2 spike protein.” Nat. Med., 2020, vol. 26, No. 9, pages 1422-1427, doi: 10.1038/s41591-020-0998-x.
【0421】
ヒトIgG1定常領域(配列番号110)
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0422】
ヒトIgG1定常領域をコードする遺伝子(配列番号111)
5'-GCCTCCACCAAGGGCCCATCGGTCTTCCCCCTGGCACCCTCCTCCAAGAGCACCTCTGGGGGCACAGCGGCCCTGGGCTGCCTGGTCAAGGACTACTTCCCCGAACCGGTGACGGTGTCGTGGAACTCAGGAGCCCTGACCAGCGGCGTGCACACCTTCCCGGCTGTCCTACAGTCCTCAGGACTCTACTCCCTCAGCAGCGTGGTGACCGTGCCCTCCAGCAGCTTGGGCACCCAGACCTACATCTGCAACGTGAATCACAAGCCCAGCAACACCAAGGTGGACAAGAGAGTTGAGCCCAAATCTTGTGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCAGCACCTGAACTCCTGGGGGGACCGTCAGTCTTCCTCTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACCCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACATGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCACGAAGACCCTGAGGTCAAGTTCAACTGGTACGTGGACGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTACAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGCCCTCCCAGCCCCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCCCGGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTATAGCAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGTCTCCGGGTAAATGA-3'
【0423】
ヒトκ鎖定常領域(配列番号112)
AAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0424】
ヒトκ鎖定常領域をコードする遺伝子(配列番号113)
5'-GCtGCACCATCTGTCTTCATCTTCCCGCCATCTGATGAGCAGTTGAAATCTGGAACTGCCTCTGTTGTGTGCCTGCTGAATAACTTCTATCCCAGAGAGGCCAAAGTACAGTGGAAGGTGGATAACGCCCTCCAATCGGGTAACTCCCAGGAGAGTGTCACAGAGCAGGACAGCAAGGACAGCACCTACAGCCTCAGCAGCACCCTGACGCTGAGCAAAGCAGACTACGAGAAACACAAAGTCTACGCCTGCGAAGTCACCCATCAGGGCCTGAGCTCGCCCGTCACAAAGAGCTTCAACAGGGGAGAGTGTTAG-3'
【0425】
前記発現ベクターの宿主細胞は、293T細胞(理化学研究所 バイオリソースセンターから入手)を使用した。まず、24ウェルプレートに、前記293T細胞を、2×10細胞/500μl/wellとなるように播種した。つぎに、前記293T細胞への発現ベクターの導入は、トランスフェクション試薬(PEI max、Polyscience社製)を2mg/mlとなるように精製水で溶かしたPEI max溶液を使用した。具体的には、2μl PEI max溶液と50μlの無血清培地(OPTI-MEM(登録商標)、GIBCO社製)との混合液を、0.8μgの前記各抗体サンプルの発現ベクターを、50μlの無血清培地に添加後、混和し、トランスフェクション試薬を調製した。そして、前記トランスフェクション試薬を各ウェルに添加し、前記発現ベクターを293T細胞に導入した。前記導入後、前記293T細胞を、10%FBS(Biological Industries社製)、ペニシリン(終濃度100U/ml)およびストレプトマイシン(終濃度100μg/ml)を添加したDMEM培地に播種し、37℃、5%COの条件で2日間培養した。前記培養後、培養上清を回収した。
【0426】
(2)抗体サンプルの精製
回収した培養上清中の各抗体サンプルについて、プロテインAを用いて精製した。具体的には、100μlの培養上清をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍希釈したサンプルを、Profinia(Bio Rad社製)を用い、アフィニティークロマトグラフにより精製した。前記アフィニティークロマトグラフでは、プロテインAを含むカラム(Bil-Scale mini UNO Sphere SUPrA Cartridege、Bio Rad社製)を使用した。そして、前記サンプルを前記カラムに供し、前記回収した培養上清中の各抗体と前記カラム中のプロテインAとを反応させた。反応後の前記カラムを、PBSで、1回洗浄した。そして、0.1mol/l Glycine-HCl(pH2.8)を添加し、前記カラムからSARS2のSタンパク質に結合する抗体を回収した。
【0427】
(3)SARS2のSタンパク質発現細胞の作成
前記各抗体をコードする遺伝子に代えて、SARS2のSタンパク質の全長配列(Ssタンパク質(配列番号1))をコードする遺伝子(配列番号2)についてコドン最適化したSsタンパク質のコード遺伝子(配列番号114)、SARS2のSsタンパク質のNTD領域(GenBank Accession No.:NC_045512.2の14~333番目のアミノ酸配列(配列番号3))をコードする遺伝子(配列番号115)、SARS2のSsタンパク質のRBD領域(GenBank Accession No.:NC_045512.2の335~587番目のアミノ酸配列(配列番号4))をコードする遺伝子(配列番号116)、またはSARS2のSsタンパク質のS2領域(GenBank Accession No.:NC_045512.2の588~1219番目のアミノ酸配列(配列番号5))をコードする遺伝子(配列番号117)を用い、プラスミドベクターとして、pME18sを用いた以外は前記実施例1(1)と同様にして、SARS2のSsタンパク質発現ベクター(全長、NTD領域、RBD領域、またはS2領域)を調製した。前記各発現ベクターを293T細胞にトランスフェクションし、全長SARS2のSsタンパク質発現細胞(全長Sタンパク質発現細胞)、SARS2のSsタンパク質NTD領域発現細胞(SARS2-NTD発現細胞)、SARS2のSsタンパク質RBD領域発現細胞(SARS2-RBD発現細胞)、およびSARS2のSsタンパク質S2領域発現細胞(SARS2-S2発現細胞)を作成した。以下の実験で用いる293T細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞は、いずれもFc受容体を発現していないことが知られている。このため、以下の知見は、Fc受容体非依存的なメカニズムで生じる現象といえる。なお、各タンパク質のN末端には、シグナル配列とFlagタグと(MRAWIFFLLCLAGRALAASDYKDDDDKLE(配列番号118)を付加した。以下の実施例において、変異タンパク質は、類似の配列を持つSタンパク質(Ssタンパク質)をコードする遺伝子からQuickChangeマルチ変異誘発キット(Agilent Technologies社製)を使用して合成した。また、以下の実施例で用いるSタンパク質(Swタンパク質)としては、Ssタンパク質のアミノ酸配列を用いた。
【0428】
コドン最適化されたSsタンパク質のコード遺伝子(配列番号114)
5'-ATGTTCGTTTTCCTCGTACTGCTCCCTCTCGTGAGCAGCCAATGTGTGAATTTGACTACCCGCACACAACTTCCGCCAGCGTATACAAATTCCTTCACGCGAGGGGTATACTATCCCGATAAAGTTTTTCGATCCTCCGTGCTGCATTCAACACAAGATTTGTTTCTCCCATTTTTTAGTAATGTCACCTGGTTCCATGCCATCCACGTAAGCGGCACTAATGGGACCAAACGCTTCGATAACCCGGTCTTGCCCTTTAATGACGGCGTGTACTTCGCCAGCACTGAGAAAAGCAATATTATCAGAGGTTGGATTTTCGGCACGACCCTTGATAGCAAGACGCAGAGCCTGCTCATTGTCAACAATGCCACCAATGTAGTAATTAAGGTCTGCGAATTTCAATTCTGCAATGACCCCTTTTTGGGTGTGTACTACCACAAAAACAATAAAAGCTGGATGGAGTCTGAGTTTCGAGTGTATTCCTCAGCAAATAACTGCACCTTTGAATATGTGTCTCAGCCATTTCTCATGGATTTGGAAGGCAAACAAGGGAACTTCAAAAACCTCAGGGAGTTCGTCTtcaaaaatatcgatggttattttaagatttattctaagcacacgcctatcaacctGGTGCGCGACCTCCCGCAAGGCTTCTCCGCACTGGAGCCTCTTGTCGATCTGCCCATCGGCATCAATATTACCAGGTTTCAGACGCTTCTGGCCCTGCATCGGAGTTATCTTACCCCCGGAGACTCCTCTAGCGGTTGGACAGCAGGCGCTGCGGCTTACTACGTGGGATATCTCCAGCCGCGAACATTTCTCTTGAAATACAATGAGAATGGTACCATCACGGATGCAGTCGACTGCGCGTTGGACCCACTCTCCGAAACCAAATGCACTTTGAAATCATTCACAGTAGAAAAGGGAATATACCAGACTTCAAATTTTAGGGTCCAGCCTACCGAATCCATTGTCAGGTTTCCCAATATCACGAATTTGTGCCCGTTCGGAGAAGTCTTTAATGCGACGAGATTTGCCAGTGTATATGCATGGAATAGAAAGCGCATCTCCAACTGTGTAGCTGATTACTCTGTGCTGTATAACTCAGCTTCTTTCAGTACTTTCAAGTGTTACGGGGTGTCTCCAACAAAGCTTAATGATTTGTGTTTTACGAATGTGTATGCAGACTCATTTGTGATTCGGGGGGACGAGGTGCGCCAGATTGCACCAGGGCAGACGGGGAAAATTGCTGACTATAACTACAAGCTCCCCGACGATTTCACAGGCTGCGTCATAGCCTGGAATAGCAATAATCTGGATAGTAAGGTAGGCGGCAATTACAATTATCTGTATCGCCTTTTTAGAAAGTCCAACCTTAAACCATTTGAGAGGGACATAAGCACGGAAATATATCAAGCGGGGTCCACACCTTGCAATGGGGTCGAAGGATTCAACTGTTACTTCCCGTTGCAGTCCTATGGGTTCCAGCCGACTAACGGAGTTGGATATCAGCCCTACCGCGTGGTTGTACTTAGTTTCGAGCTGCTTCACGCTCCGGCTACTGTATGCGGACCTAAAAAATCCACCAACCTCGTAAAGAATAAGTGCGTAAACTTTAACTTCAATGGACTTACGGGGACCGGTGTCTTGACTGAGTCTAATAAAAAATTCCTCCCGTTCCAACAATTTGGGCGGGACATTGCAGACACCACGGACGCTGTAAGAGATCCTCAGACTCTTGAAATACTTGATATTACGCCCTGTTCATTCGGTGGAGTCTCTGTCATTACGCCGGGAACTAATACATCAAACCAAGTCGCGGTTCTCTACCAGGACGTAAACTGTACCGAAGTCCCTGTCGCGATCCATGCAGACCAGCTGACGCCAACTTGGCGGGTTTATAGTACCGGTTCAAATGTATTCCAAACCCGCGCCGGGTGTCTCATTGGCGCCGAACATGTGAATAATTCCTACGAATGCGACATACCCATAGGAGCAGGGATCTGCGCAAGCTATCAGACACAGACAAACTCCCCACGGCGAGCGAGGTCTGTTGCCAGTCAAAGTATCATAGCGTATACTATGAGCCTCGGAGCTGAGAACtccgtggcctatTCCAACAACTCAATTGCGATCCCTACAAACTTTACTATTAGCGTGACTACCGAGATCCTTCCTGTATCAATGACAAAAACGAGCGTGGACTGTACTATGTATATTTGCGGTGATTCCACAGAATGCTCTAACCTTCTCCTTCAGTACGGGAGCTTCTGCACACAACTGAACCGGGCTTTGACCGGCATCGCGGTTGAGCAGGATAAAAATACGCAGGAAGTATTTGCGCAAGTCAAACAAATATATAAAACACCTCCAATTAAAGATTTCGGTGGATTTAATTTCTCACAGATTCTTCCGGACCCGTCTAAGCCGAGTAAGCGGTCCTTTATTGAGGATTTGCTTTTCAACAAAGTCACCTTGGCTGACGCTGGCTTTATAAAGCAATACGGGGACTGCCTTGGGGACATCGCAGCACGCGATCTGATTTGCGCACAAAAATTTAATGGGTTGACAGTGCTTCCTCCGCTTCTGACCGACGAGATGATAGCCCAGTATACTAGTGCGCTTCTCGCAGGCACGATTACTTCAGGTTGGACATTCGGGGCAGGTGCAGCCCTGCAAATTCCGTTCGCGATGCAAATGGCGTACCGGTTTAACGGAATAGGCGTGACACAAAACGTGCTCTATGAGAACCAAAAACTGATTGCCAACCAATTCAACAGTGCTATAGGGAAAATCCAGGACTCTCTCTCCAGTACTGCCTCCGCATTGGGAAAATTGCAAGACGTTGTAAACCAGAATGCTCAGGCGCTGAATACGTTGGTCAAACAGCTCAGTAGTAACTTTGGGGCTATAAGCAGTGTTCTTAATGATATTCTTTCTCGGCTCGATAAGGTTGAGGCAGAAGTCCAAATCGACCGACTTATTACTGGGAGATTGCAATCACTGCAAACATACGTAACACAACAACTCATCCGCGCGGCAGAGATACGAGCGTCAGCAAACCTGGCAGCGACCAAGATGAGCGAGTGCGTGCTCGGTCAGTCAAAGCGCGTGGACTTTTGTGGGAAGGGTTATCATCTCATGTCATTTCCACAATCCGCGCCACATGGGGTAGTCTTTTTGCACGTAACATACGTACCAGCGCAAGAAAAGAATTTTACCACGGCACCAGCAATTTGCCACGATGGGAAGGCTCACTTCCCGCGGGAGGGGGTGTTTGTTAGCAATGGTACGCATTGGTTTGTTACTCAACGCAACTTTTACGAGCCGCAAATCATTACGACAGATAATACATTTGTATCAGGTAACTGTGACGTGGTAATCGGCATTGTAAATAATACTGTTTATGACCCATTGCAGCCAGAACTTGATTCCTTTAAAGAGGAGCTGGATAAGTACTTTAAAAACCACACCTCACCAGACGTTGACTTGGGCGACATCTCAGGAATAAATGCCTCAGTCGTGAATATACAAAAGGAGATTGATAGACTTAATGAAGTTGCCAAAAACCTCAACGAATCCCTCATAGATCTGCAAGAGTTGGGCAAATACGAGCAATATATTAAATGGCCCTGGTATATTTGGTTGGGGTTCATCGCTGGGCTTATAGCGATTGTTATGGTTACCATCATGCTTTGTTGCATGACAAGTTGTTGCTCATGCCTTAAGGGTTGCTGCAGCTGTGGCTCATGCTGC[AAGTTCGACGAAGACGATTCAGAACCAGTACTCAAGGGGGTCAAATTGCATTATACTtag]-3'
【0429】
NTD領域をコードする遺伝子(配列番号115)
5'-CAATGTGTGAATTTGACTACCCGCACACAACTTCCGCCAGCGTATACAAATTCCTTCACGCGAGGGGTATACTATCCCGATAAAGTTTTTCGATCCTCCGTGCTGCATTCAACACAAGATTTGTTTCTCCCATTTTTTAGTAATGTCACCTGGTTCCATGCCATCCACGTAAGCGGCACTAATGGGACCAAACGCTTCGATAACCCGGTCTTGCCCTTTAATGACGGCGTGTACTTCGCCAGCACTGAGAAAAGCAATATTATCAGAGGTTGGATTTTCGGCACGACCCTTGATAGCAAGACGCAGAGCCTGCTCATTGTCAACAATGCCACCAATGTAGTAATTAAGGTCTGCGAATTTCAATTCTGCAATGACCCCTTTTTGGGTGTGTACTACCACAAAAACAATAAAAGCTGGATGGAGTCTGAGTTTCGAGTGTATTCCTCAGCAAATAACTGCACCTTTGAATATGTGTCTCAGCCATTTCTCATGGATTTGGAAGGCAAACAAGGGAACTTCAAAAACCTCAGGGAGTTCGTCTtcaaaaatatcgatggttattttaagatttattctaagcacacgcctatcaacctGGTGCGCGACCTCCCGCAAGGCTTCTCCGCACTGGAGCCTCTTGTCGATCTGCCCATCGGCATCAATATTACCAGGTTTCAGACGCTTCTGGCCCTGCATCGGAGTTATCTTACCCCCGGAGACTCCTCTAGCGGTTGGACAGCAGGCGCTGCGGCTTACTACGTGGGATATCTCCAGCCGCGAACATTTCTCTTGAAATACAATGAGAATGGTACCATCACGGATGCAGTCGACTGCGCGTTGGACCCACTCTCCGAAACCAAATGCACTTTGAAATCATTCACAGTAGAAAAGGGAATATACCAGACTTCAAATTTTAGGGTCCAGCCTACCGAATCCATTGTCAGGTTT-3'
【0430】
RBD領域をコードする遺伝子(配列番号116)
5'-AATATCACGAATTTGTGCCCGTTCGGAGAAGTCTTTAATGCGACGAGATTTGCCAGTGTATATGCATGGAATAGAAAGCGCATCTCCAACTGTGTAGCTGATTACTCTGTGCTGTATAACTCAGCTTCTTTCAGTACTTTCAAGTGTTACGGGGTGTCTCCAACAAAGCTTAATGATTTGTGTTTTACGAATGTGTATGCAGACTCATTTGTGATTCGGGGGGACGAGGTGCGCCAGATTGCACCAGGGCAGACGGGGAAAATTGCTGACTATAACTACAAGCTCCCCGACGATTTCACAGGCTGCGTCATAGCCTGGAATAGCAATAATCTGGATAGTAAGGTAGGCGGCAATTACAATTATCTGTATCGCCTTTTTAGAAAGTCCAACCTTAAACCATTTGAGAGGGACATAAGCACGGAAATATATCAAGCGGGGTCCACACCTTGCAATGGGGTCGAAGGATTCAACTGTTACTTCCCGTTGCAGTCCTATGGGTTCCAGCCGACTAACGGAGTTGGATATCAGCCCTACCGCGTGGTTGTACTTAGTTTCGAGCTGCTTCACGCTCCGGCTACTGTATGCGGACCTAAAAAATCCACCAACCTCGTAAAGAATAAGTGCGTAAACTTTAACTTCAATGGACTTACGGGGACCGGTGTCTTGACTGAGTCTAATAAAAAATTCCTCCCGTTCCAACAATTTGGGCGGGACATTGCAGACACCACGGACGCTGTAAGAGATCCTCAGACTCTTGAA-3'
【0431】
S2領域をコードする遺伝子(配列番号117)
5'-ATACTTGATATTACGCCCTGTTCATTCGGTGGAGTCTCTGTCATTACGCCGGGAACTAATACATCAAACCAAGTCGCGGTTCTCTACCAGGACGTAAACTGTACCGAAGTCCCTGTCGCGATCCATGCAGACCAGCTGACGCCAACTTGGCGGGTTTATAGTACCGGTTCAAATGTATTCCAAACCCGCGCCGGGTGTCTCATTGGCGCCGAACATGTGAATAATTCCTACGAATGCGACATACCCATAGGAGCAGGGATCTGCGCAAGCTATCAGACACAGACAAACTCCCCACGGCGAGCGAGGTCTGTTGCCAGTCAAAGTATCATAGCGTATACTATGAGCCTCGGAGCTGAGAACtccgtggcctatTCCAACAACTCAATTGCGATCCCTACAAACTTTACTATTAGCGTGACTACCGAGATCCTTCCTGTATCAATGACAAAAACGAGCGTGGACTGTACTATGTATATTTGCGGTGATTCCACAGAATGCTCTAACCTTCTCCTTCAGTACGGGAGCTTCTGCACACAACTGAACCGGGCTTTGACCGGCATCGCGGTTGAGCAGGATAAAAATACGCAGGAAGTATTTGCGCAAGTCAAACAAATATATAAAACACCTCCAATTAAAGATTTCGGTGGATTTAATTTCTCACAGATTCTTCCGGACCCGTCTAAGCCGAGTAAGCGGTCCTTTATTGAGGATTTGCTTTTCAACAAAGTCACCTTGGCTGACGCTGGCTTTATAAAGCAATACGGGGACTGCCTTGGGGACATCGCAGCACGCGATCTGATTTGCGCACAAAAATTTAATGGGTTGACAGTGCTTCCTCCGCTTCTGACCGACGAGATGATAGCCCAGTATACTAGTGCGCTTCTCGCAGGCACGATTACTTCAGGTTGGACATTCGGGGCAGGTGCAGCCCTGCAAATTCCGTTCGCGATGCAAATGGCGTACCGGTTTAACGGAATAGGCGTGACACAAAACGTGCTCTATGAGAACCAAAAACTGATTGCCAACCAATTCAACAGTGCTATAGGGAAAATCCAGGACTCTCTCTCCAGTACTGCCTCCGCATTGGGAAAATTGCAAGACGTTGTAAACCAGAATGCTCAGGCGCTGAATACGTTGGTCAAACAGCTCAGTAGTAACTTTGGGGCTATAAGCAGTGTTCTTAATGATATTCTTTCTCGGCTCGATAAGGTTGAGGCAGAAGTCCAAATCGACCGACTTATTACTGGGAGATTGCAATCACTGCAAACATACGTAACACAACAACTCATCCGCGCGGCAGAGATACGAGCGTCAGCAAACCTGGCAGCGACCAAGATGAGCGAGTGCGTGCTCGGTCAGTCAAAGCGCGTGGACTTTTGTGGGAAGGGTTATCATCTCATGTCATTTCCACAATCCGCGCCACATGGGGTAGTCTTTTTGCACGTAACATACGTACCAGCGCAAGAAAAGAATTTTACCACGGCACCAGCAATTTGCCACGATGGGAAGGCTCACTTCCCGCGGGAGGGGGTGTTTGTTAGCAATGGTACGCATTGGTTTGTTACTCAACGCAACTTTTACGAGCCGCAAATCATTACGACAGATAATACATTTGTATCAGGTAACTGTGACGTGGTAATCGGCATTGTAAATAATACTGTTTATGACCCATTGCAGCCAGAACTTGATTCCTTTAAAGAGGAGCTGGATAAGTACTTTAAAAACCACACCTCACCAGACGTTGACTTGGGCGACATCTCAGGAATAAATGCCTCAGTCGTGAATATACAAAAGGAGATTGATAGACTTAATGAAGTTGCCAAAAACCTCAACGAATCCCTCATAGATCTGCAAGAGTTGGGCAAATACGAGCAATATATTAAATGGCCCTGGTAT-3'
【0432】
(4)ビオチン化ACE2マウスIgG2a Fc融合タンパク質の調製
下記参考文献11および12に記載の方法に従って、hACE2-マウスIgG2a Fc融合タンパク質をコードするACE2-Fc融合タンパク質発現ベクターを調製した。前記各抗体の発現ベクターに代えて、ACE2-Fc融合タンパク質発現ベクターを用いた以外は前記実施例1(1)と同様にして、ACE2-Fc融合タンパク質発現細胞を調製し、培養上清を回収した。そして、前記抗体サンプルの培養上清に代えて、ACE2-Fc融合タンパク質発現細胞の培養上清を用いた以外は前記実施例1(2)と同様にして、ACE2-Fc融合タンパク質を精製した。精製したACE2-Fc融合タンパク質を、スルホ-NHS-LC-ビオチン(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてビオチン化し、ビオチン化ACE2-Fc融合タンパク質を調製した。
参考文献11:Hirayasu K et.al. “Microbially cleaved immunoglobulins are sensed by the innate immune receptor LILRA2.”, Nat. Microbiol. 2016, Vol. 1, Article number:16054
参考文献12:Satoh T et.al., “PILRα is a herpes simplex virus-1 entry coreceptor that associates with glycoprotein”, B. Cell., 2008, vol. 132, pages 935-944
【0433】
(5)ドメインおよびACE2結合性の確認
前記実施例1(3)の全長Ssタンパク質発現細胞、SARS2-NTD発現細胞、SARS2-RBD発現細胞、またはSARS2-S2発現細胞に、前記実施例1(1)の各抗体のサンプル(終濃度3μg/ml)を10μl添加した。そして、得られた反応液を、4℃で30分間インキュベートし、反応させた。前記反応後、得られた反応液にAPC標識抗マウスIgG抗体を添加して染色し、得られた細胞をフローサイトメーター(Atune(商標)、Thermo Fisher Scientific社)を用いて解析した。これにより、各抗体のSsタンパク質における認識部位を確認した。コントロールは、前記抗体サンプルを添加しなかった以外は同様にして測定した。そして、コントロールにおける測定値(MFI)を基準とし、各抗体サンプルにおける測定値(MFI)を補正した。なお、フローサイトメトリーデータの分析は、FlowJo version 10.7(BD Biosciences社製)を使用した(以下、同様)。
【0434】
また、前記全長Ssタンパク質発現細胞に、前記実施例1(1)の各抗体のサンプル(終濃度3μg/ml)を10μl添加した後、前記実施例1(4)で得られたビオチン化ACE2-Fc融合タンパク質(終濃度2.7μg/ml)を10μl添加した。そして、得られた反応液を、4℃で30分間インキュベートし、反応させた。前記反応後の反応液15μlに対し、APC標識ストレプトアビジン(終濃度2μg/ml)を10μl添加して染色し、得られた細胞について前記フローサイトメーターを用いて解析した。これにより、各抗体の存在下における、前記全長Ssタンパク質発現細胞と、ACE2との結合を確認した。コントロールは、前記抗体サンプルを添加しなかった以外は同様にして測定した。そして、コントロールにおける測定値を基準とし、各抗体サンプルにおける測定値を補正した。これらの結果を図1に示す。
【0435】
図1は、Ssタンパク質における各抗体の認識部位および各抗体サンプルの存在下における、全長Ssタンパク質発現細胞とACE2との結合を示すグラフである。図1において、横軸は、抗体サンプルの種類を示し、縦軸は、Ssタンパク質のドメインへの結合性およびSsタンパク質のACE2結合性の相対値を示す。なお、図示していないが、いずれのクローンも全長Ssタンパク質発現細胞への結合が確認された。図1に示すように、各抗体クローンのうち、SARS2のSタンパク質のNTDに結合する抗NTD抗体の6クローン(クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、クローン8D2)の存在下では、前記全長Ssタンパク質発現細胞とACE2との結合が増強されることがわかった。すなわち、これらの抗体が存在すると、Ssタンパク質のACE2への結合性が増強されることがわかった。なお、RBD領域およびS2領域に結合する抗体では、Ssタンパク質のACE2への結合能を増強させる抗体は存在せず、NTD領域に結合する抗体の一部が、Ssタンパク質のACE2への結合能を増強させることから、NTD領域に対する抗体の一定の領域に結合する抗体が、Ssタンパク質のACE2への結合能を増強させる機能を有することが示唆された。他方、RBD領域に結合する抗体が存在すると、Ssタンパク質のACE2への結合性が低減することがわかった。これらのことから、SARS-CoV-2の感染者において、Ssタンパク質のACE2への結合性を増強させる抗体が存在することがわかった。また、ACE2は、SARS2の感染の確立に重要であることから、被検者におけるこれらの抗体を検出することにより、SARS2への易感染性および重症化の試験を実施できることが示唆された。さらに、SARS2のスパイクタンパク質の抗RBD抗体が、中和抗体として使用できることがわかった。なお、前述のように、293T細胞等は、Fc受容体依存的なADEに必須のFc受容体を発現していない。このため、前記SARS2感染者におけるACE2結合増強抗体は、Fc受容体非依存的な機構で、Ssタンパク質のACE2タンパク質への結合性を増強していることがわかった。
【0436】
Ssタンパク質とACE2との結合を増強する抗体(抗NTD抗体)の6クローン(クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、クローン8D2)について、アミノ酸配列を同定した。各抗体のアミノ酸配列を以下に示す。各アミノ酸配列において、下線で示すアミノ酸配列が、N端からC端に向かって、それぞれ、CDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列に対応する。
【0437】
クローン2210重鎖可変領域(配列番号98)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSSYAMHWVRQAPGKGLEWVAVISYDGSNKYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRVEDTAVYYCARDQEWFRELFLFDYWGQGTLVTVSS
【0438】
クローン2210軽鎖可変領域(配列番号99)
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISSWLAWYQQKPGKAPKLLIYDASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQANSFPPTFGPGTKVDIK
【0439】
クローン2490重鎖可変領域(配列番号100)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMNWVRQAPGKGLEWVANINQDGGEKYYVDSVRGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDPYDLYGDYGGTFDYWGQGTLVTVSS
【0440】
クローン2490軽鎖可変領域(配列番号101)
EIVLTQSPATLSVSPGERATLSCRASQSVSSNLAWYQQKPGQAPRLLIYGASTRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLQSEDFALYYCQQYNNWWRTFGQGTKVEIN
【0441】
クローン8D2重鎖可変領域(配列番号102)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMSWVRQAPGKGLEWVANINQDGSEKYYVDSVKGRFTISRDNAKNSLYLQVNSLRAEDTAVYYCARDWDYDILTGSWFGAFDIWGQGTTVTVSS
【0442】
クローン8D2軽鎖可変領域(配列番号103)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGIRNDLGWYQQKPGKAPKRLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPEDFATYYCLQHNSYPLTFGGGTKVEIK
【0443】
クローン2582重鎖可変領域(配列番号104)
QVQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFTTYAMNWVRQAPGQGLEWMGWINTNTGNPTYAQGFTGRFVFSLDTSVNTAFLHIGSLKAEDTAVYYCARDQDSGYPTYYYYYMDVWGKGTTVTVSS
【0444】
クローン2582軽鎖可変領域(配列番号105)
DIVMTQTPLSLSVTPGQPASISCKSSQSLLHSDGKTYLYWYLQKPGQSPQLLIYEVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCMQSIQPPLTFGGGTKVEIK
【0445】
クローン2369重鎖可変領域(配列番号106)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSSYAMHWVRQAPGKGLEWVADISYDGSEKYYADSVKGRFTIYRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKDFGGDNTAMVEYFFDFWGQGTLVTVSS
【0446】
クローン2369軽鎖可変領域(配列番号107)
DIQMTQSPSTLSASVGDRVTITCRASQSISSWLAWYQQKPGKAPKLLIYKASSLESGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCQQYNSYSPTFGQGTKVEIK
【0447】
クローン2660重鎖可変領域(配列番号108)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYDMHWVRQATGKGLEWVSAIGTAGDTYYPGSVKGRFTISRENAKNSLYLQMNSLRAGDTAVYYCARADPYQLLGQHYYYGMDVWGQGTTVTVSS
【0448】
クローン2660軽鎖可変領域(配列番号109)
EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYGSSPLITFGQGTRLEIK
【0449】
(6)ACE2結合性の確認
つぎに、上記各クローンと、NTD領域に結合するもののACE2への結合能の増強活性が弱いクローン2016およびクローン4A8とについて、所定濃度(0、0.1、0.3、1、3または10μg/ml)となるように、各抗体を添加した以外は、前記実施例1(5)と同様に、ACE2との結合を確認した。なお、クローン2016およびクローン4A8については、前記参考文献9および10に記載のアミノ酸配列に基づき、前記実施例1(1)および(2)と同様に調製した。以下、他の抗体クローンについても、特に言及がない限り同様に、前記参考文献9および10に記載のアミノ酸配列に基づき調製している。これらの結果を図2に示す。
【0450】
図2は、各抗体サンプルの存在下における、全長Ssタンパク質発現細胞とACE2との結合を示すグラフである。図2において、横軸は、抗体サンプルの濃度を示し、縦軸は、Ssタンパク質のACE2結合性の相対値を示す。図2に示すように、クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、およびクローン8D2では、濃度依存的に、Ssタンパク質のACE2への結合性が増強された。他方、クローン2016およびクローン4A8では、いずれの濃度においても、Ssタンパク質のACE2への結合性が増強は、観察されなかった。
【0451】
(7)中和抗体のACE2結合性への影響の確認
つぎに、上記のうち5クローン(クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン8D2)と、ACE2への結合能の増強活性が弱いクローン4A8とについて、3μg/mlとなるように、各抗体を添加し、さらに、中和抗体であるクローンC144(抗RBD抗体)を、所定濃度(0、0.1、0.3、1、3または10μg/ml)となるように添加した以外は、以外は、前記実施例1(6)と同様に、ACE2との結合を確認した。これらの結果を図3に示す。
【0452】
図3は、各抗体サンプルの存在下における、全長Ssタンパク質発現細胞とACE2との結合を示すグラフである。図3において、横軸は、C144抗体の濃度を示し、縦軸は、ACE結合性を示す。図3に示すように、C144非存在下では、前記実施例1(6)と同様に、濃度依存的に、Ssタンパク質のACE2への結合性が増強された。他方、C144存在下では、濃度依存的に、Ssタンパク質のACE2への結合性の増強が見られるものの、C144非存在下と比べて、ACE2への結合が抑制された。これらの結果から、SARS2感染者では、Ssタンパク質のACE2への結合性を増強する抗体が存在すること、前記抗体による結合性の増強は、中和抗体により抑制できることがわかった。
【0453】
[実施例2]
Sタンパク質のACE2への結合性を増強する抗体が、SARS2の感染増強作用を示すことを確認した。
【0454】
(1)SARS2感染者の血清由来抗NTD抗体の調製
クローン2369、クローン2490、クローン抗体2582、およびクローン8D2は、前記実施例1(1)と同様にして調製した。
【0455】
(2)SARS2のSタンパク質発現シュードタイプウイルスの調製
SARS2の全長Ssタンパク質を発現する遺伝子を、pME18sプラスミドにクローニングし、SARS2の全長Ssタンパク質発現ベクターを得た。その後、前記SARS2の全長Ssタンパク質発現ベクターを293T細胞に一過性にトランスフェクションし、SARS2の全長Ssタンパク質発現細胞を作成した。前記トランスフェクションの24時間後、培地を新しい培地に交換し、GFPレポーター遺伝子を組み込んだVSV-G欠損水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus:VSV)を添加し、2時間インキュベートして前記細胞にウイルスを感染させた。つぎに、前記細胞の培地を、FBSを含まないDMEM培地で洗浄した。そして、10%FBS添加DMEMを添加し、37℃、5%COの条件で48時間培養した。前記培養後、SARS2の全長Ssタンパク質を含むシュードタイプウイルスを含む上清を回収し、分注後に、使用時まで-80℃で保存した。
【0456】
(3)ACE2恒常発現細胞の調製
ヒトACE2(GenBank Accession No.: NP_001358344.1(配列番号6))のコーディング領域(GenBank Accession No.: NM_001371415.1の50~2467番目の塩基配列)をコードするポリヌクレオチド(配列番号7)を、pMXsベクターにクローニングし、ヒトACE2発現ベクターを作成した。ポリエチレンイミン(PEI; Polysciences社製)を使用し、前記ヒトACE2発現ベクターと、amphotropicウイルスのエンベロープタンパク質発現ベクターとをPlatE細胞にトランスフェクションし、48時間培養することにより、レトロウイルスを発現させた。前記培養後、前記レトロウイルスを含む培養上清を回収した。前記培養上清と、DOTAPリポソームトランスフェクション試薬(Roche社製)とプレミックスした後、2400rpm、32℃、2時間の条件で、HEK293T細胞にスピントランスフェクション後、3日間培養した。前記培養後、回収した細胞を蛍光標識した抗ACE2抗体(R&D Systems社製)を用いて染色し、前記染色後の細胞について、SH800Sセルソーター(ソニー社製)でACE2陽性細胞を選別し、ACE2恒常発現細胞を得た。
【0457】
(4)感染試験
前記ACE2恒常発現細胞を、96ウェルプレートに20000cell/wellとなるように播種し、SARS2の全長Ssタンパク質を含むシュードタイプウイルスを10μl添加した。つぎに、前記実施例2(1)で調製した抗NTD抗体(クローン2369、クローン2490、クローン抗体2582、クローン8D2、またはクローン4A2)を、所定濃度(0、0.03、0.01、0.1、1、または10μg/mlとなるように添加し、37℃、24時間の条件でインキュベートした。これにより、前記細胞にシュードタイプウイルスを感染させた。前記インキュベート後、BD FACSVerse(商標)フローサイトメーターにより、GFPシグナルを検出することにより、シュードタイプウイルスの感染を検出した。参考例は、抗NTD抗体に代えて、Ssタンパク質のACE2への結合増強能のない抗NTD抗体(クローン4A2)を使用した以外は同様とした。さらに、コントロールは、抗NTD抗体を添加しなかった以外は同様にして実施した。そして、コントロールにおけるシュードタイプウイルスの感染量または感染割合を基準とし、各抗体における感染細胞の割合の相対値を算出した。これらの結果を図4に示す。
【0458】
図4は、シュードタイプウイルスの感染割合を示すグラフである。図4において、横軸は、抗体サンプルの濃度を示し、縦軸は、シュードタイプウイルスの感染割合を示す。図4に示すように、参考例の抗体(クローン4A2)と比較して、クローン2369、クローン2490、クローン抗体2582、クローン8D2の存在下では、SARS2のSsタンパク質を発現するシュードタイプウイルスの感染割合が濃度依存的に増加することがわかった。なお、図示していないが、クローン2210を用いた場合も、同様に濃度依存的に感染割合が増加することを確認している。これらの結果から、Ssタンパク質のACE2への結合性を増強する抗体は、SARS2の感染増強作用を示すことがわかった。
【0459】
(5)SARS2の感染実験
つぎに、Ssタンパク質のACE2への結合性を増強する抗体が、SARS2の感染増強能を有するかを確認した。まず、SARS2としては、神奈川県衛生研究所で取得された、SARS2のKNG19-020株を利用した。具体的には、SARS2のウイルスストックは、TMPRSS2を発現するVeroE6細胞を用いて増幅した。得られたウイルスストック(6.25 log TCID50)を2%FBS含有DMEM培地で100倍に希釈し、1×10細胞/mlの感染対象細胞と混合した。前記混合時にあわせて、クローン2490の終濃度が、1μg/mlとなるように添加した。前記感染対象細胞としては、HEK293細胞、前述のヒトACE2を発現するHEK293細胞、およびヒトACEを発現するHuh7細胞を用いた。前記混合後、37℃、5%CO、湿潤条件下で3時間培養した。前記培養後、DMEMで細胞を洗浄することによりウイルスを除去した。前記ウイルスの除去後、さらに、前記培養条件で2日間培養した。そして、培養後の培養上清を回収し、ウイルスRNA回収キット(QIAamp viral RNA extraction kit、Qiagen社製)を用いて、前記培養上清からウイルスRNAを抽出した。そして、得られたRNAおよび下記N2プライマーセットを用いて、定量的PCRを実施することにより、培養上清中のウイルスのコピー数を測定した。これらの結果を、図5に示す。
【0460】
・N2プライマーセット
フォワードプライマー(配列番号119)
5'-AGCCTCTTCTCGTTCCTCATCAC-3'
リバースプライマー(配列番号120)
5'-CCGCCATTGCCAGCCATTC-3'
【0461】
図5は、SARS2の感染結果を示すグラフである。図5において、(A)は、HEK293細胞を用いた結果であり、(B)は、ACE2を発現するHEK293細胞を用いた結果であり、(C)は、Huh7を用いた結果である。図5(A)~(C)において、横軸は、抗体の有無を示し、縦軸は、ウイルス量を示す。図4(A)に示すように、Ssタンパク質が結合するACE2が発現していない細胞では、抗体の有無で、SARS2の感染量は変化しなかった。他方、図5(B)および(C)に示すように、ACE2発現細胞では、抗体が存在すると、SARS2の感染量が増強された。これらの結果から、前記Ssタンパク質のACE2への結合性を増強する抗体は、SARS2のSsタンパク質のACE2への結合性を増強させることにより、ACE2発現細胞への感染を増強することがわかった。
【0462】
[実施例3]
Sタンパク質のACE2への結合性を増強する抗体が、Sタンパク質への結合において競合することを確認した。
【0463】
(1)抗NTD抗体の調製
クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、およびクローン8D2は、前記実施例1(1)と同様にして調製した(競合抗体)。また、定常領域について、ヒトIgG1に代えて、マウスIgG2aを用いた以外は、同様にして各クローンの定常領域がmIgG2aである抗体を調製した(バインダー抗体)。また、コントロールの競合抗体として、S2領域に結合するクローン2147抗体を同様にして調製した。
【0464】
(2)抗NTD抗体の競合性確認
前記実施例1(3)のSARS2の全長Ssタンパク質およびGFPの遺伝子を導入した細胞に、前記実施例3(1)の6種類の抗NTD抗体(競合抗体)またはコントロールの抗体を添加し、さらに前記実施例3(1)で調製した、定常領域がマウスIgG2aである6種類の抗NTD抗体(バインダー抗体)をそれぞれ添加した。各抗体の濃度は、10μg/mlとした。前記添加後、4℃、30分間の条件でインキュベートした。前記インキュベート後、各細胞を、APC標識抗マウスIgG抗体で染色した。コントロールは、前記バインダー抗体に代えて、前記実施例1(4)で得られたビオチン化ACE2-Fc融合タンパク質を2.7μg/mlとなるように添加し、その後APC標識ストレプトマイシンで染色した以外は、同様にして実施した(ACE2)。そして、コントロールにおけるコントロールの競合抗体(クローン2147とACE2との組合せ)を添加した際の蛍光強度(MFI)を約100とし、蛍光強度の相対値として算出した。これらの結果を図6に示す。
【0465】
図6は、蛍光強度の相対値を示すグラフである。図6に示すように、6種類の抗NTD抗体(クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、クローン8D2)は、いずれの組み合わせであっても蛍光強度の相対値が低下し、互いに競合することがわかった。また、いずれの抗体も、Sタンパク質のACE2への結合性を増強することが再確認された。これらのことから、Sタンパク質のACE2への結合性を増強させる抗体(感染増強抗体)は、SARS2のSタンパク質における結合部位の一部または全部が互いに重複しているか、Sタンパク質と抗体との結合に起因する立体障害が生じる範囲で結合していることがわかった。また、前記6種類の抗NTD抗体を基準抗体とし、Sタンパク質への結合の競合性を指標とすることで、Sタンパク質のACE2への結合性を増強させる抗体を検出できることがわかった。
【0466】
[実施例4]
Sタンパク質のACE2への結合性を増強させる抗体のエピトープマッピングを行い、Sタンパク質における同一領域を認識していることを確認した。
【0467】
SARS2のSsタンパク質のNTDについて、N末端側から順に1アミノ酸ずつアラニンに置換した各種変異NTD-PILR-TMをコードする遺伝子を含む発現ベクターを用いた以外は、前記実施例1(3)と同様にして、各種変異NTD発現細胞を作成した。前記変異NTD発現細胞と、Ssタンパク質のACE2への結合性を増強させる抗体(クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、クローン8D2(感染増強抗体))とを反応させた。前記反応後、前記変異NTD発現細胞をAPC標識抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社製)で染色した。また、前記抗体に代えて、Ssタンパク質のACE2への結合性を増強させない抗体(クローン4A8)またはNTDのN末端に付加したFlagに対する抗体を用いた以外は、同様にして実施した。なお、クローン4A8は、実施例1(1)の各抗体と同様にして調製した。コントロールは、野生型SARS2のSsタンパク質のNTD発現細胞を使用した以外は同様とし、各種変異NTD発現細胞と、野生型NTD発現細胞(SARS-NTD発現細胞)との蛍光強度を比較した。各サンプルの蛍光強度は、抗Flag抗体を用いた場合の蛍光強度で補正した。これらの結果を図7および8に示す。
【0468】
図7は、感染増強抗体(クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、クローン8D2)の蛍光強度の変化を示すグラフである。図7において、横軸は、NTDの変異アミノ酸の位置を示し、縦軸は、蛍光強度の相対値(対数)を示す。なお、図7においては、蛍光強度の相対値に変化があった前後のアミノ酸のデータを示している。図8は、感染増強抗体が共通して認識するNTDのアミノ酸の位置を示す。図7に示すように、各感染増強抗体は、一部のエピトープに異なる点があるものの、Ssタンパク質の64位、66位、187位、213位、および214位、特に、64位、66位、213位、および214位のアミノ酸については、複数の感染増強抗体が認識し、これらのアミノ酸に変異を導入した変異タンパク質の場合、結合能が低下すると推定された。なお、各抗体のエピトープのアミノ酸の位置については、前述のアミノ酸と一致した。また、図8(A)において、白線で囲った領域で示すように、各抗体の認識部位を比較すると、(B)に示すように、感染増強抗体は、SARS2のSタンパク質の立体構造において円状のスポットで示す領域を共通して認識することがわかった。また、このように立体構造において認識領域が近似しているため、感染増強抗体間での競合が生じていると推定された。また、各感染増強抗体において、8D2が、他の感染増強抗体が認識する部位の共通部位をよく認識しており、競合性を指標に試験する際の基準抗体として適していることがわかった。
【0469】
[実施例5]
感染増強抗体の認識部位を変異させた変異タンパク質を調製し、感染増強抗体が結合しなくなることを確認した。
【0470】
QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー株式会社)を用い、添付のプロトコルに従って、全長SARS2のSsタンパク質において、64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸のうち1つ以上をアラニンに置換した変異タンパク質をコードする発現ベクターを調製した。前記SARS2の全長Ssタンパク質の発現ベクターに代えて、前記変異タンパク質をコードする発現ベクターを用いた以外は、前記実施例1(3)と同様にして、変異タンパク質を発現する細胞を調製した。前記変異タンパク質を発現する細胞と、感染増強抗体(クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、クローン8D2)、非感染増強NTD抗体(クローン4A8、クローン2016)、またはSARS2のRBDに対するマウス抗体(クローン5-1-1)とを共存させ、4℃、30分間の条件でインキュベートした。前記インキュベート後、前記細胞を、APC標識抗ヒトIgG抗体またはAPC標識抗マウスIgG抗体を添加して染色し、フローサイトメーターで解析した。コントロールは、全長Ssタンパク質発現細胞を用いた、または前記抗体を用いなかった以外は同様にして実施した。これらの結果を図9に示す。なお、Ssタンパク質の65位のアミノ酸(F)は、64位(W)および66位(H)のアミノ酸の内側(Ssタンパク質の内側)に配置されているため、Ssタンパク質の表面には露出しておらず、感染増強抗体の認識部位ではない。ただし、65位のアミノ酸(F)をアラニン置換と組合せると、感染増強抗体の結合がより低下することを別途確認している。これは、65位のアミノ酸への置換により、64位および66位のアミノ酸の位置が変化することによると推定される。
【0471】
図9は、各抗体の結合量を示すヒストグラムである。図9(A)において、上段から下段に向かって、クローン2210、クローン2369、クローン2490、クローン2582、クローン2660、およびクローン8D2の結果を示す。図9(A)において、ヒストグラムの上段は、アラニン置換を行なった変異対象アミノ酸を示す。また、図9(B)および(C)において、上段の各図が、野生型スパイクタンパク質の発現細胞を用いた結果を示し、下段の各図が、変異タンパク質の発現細胞を用いた結果を示す。図9(B)および(C)において、各ヒストグラムの上部、またはヒストグラム内の上部に使用したクローン名を示している。図9の各ヒストグラムにおいて、横軸は、抗体の結合量を示し、横軸は、細胞のカウント数を示す。また、図9(A)の各ヒストグラムにおいて、実線のヒストグラムは、変異タンパク質を発現する細胞を用いた結果を示し、網掛けのヒストグラムは、全長Ssタンパク質発現細胞を用いた結果(コントロール)を示す。図9(B)および(C)の各ヒストグラムにおいて、実線のヒストグラムは、各抗体を添加した結果を示し、網掛けのヒストグラムは、各抗体を添加しなかった結果(コントロール)を示す。図9(A)に示すように、64位および66位と、213位および214位とは、それぞれ1つをアラニン置換した場合と比較して、複数をアラニン置換することにより、感染増強抗体の結合を効果的に抑制できた。また、図9(A)~(C)に示すように、SARS2のSsタンパク質の64位、66位、213位、および214位のアミノ酸をアラニン置換した変異体タンパク質、64位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸をアラニン置換した変異タンパク質、ならびに64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸をアラニン置換した変異タンパク質には、感染増強抗体が結合せず、非感染増強抗体および中和抗体のみが結合した。このため、感染増強抗体の認識部位を変異させた変異タンパク質では、感染増強抗体が結合しなくなることがわかり、また、Ssタンパク質の64位、66位、213位、および214位に変異を導入することにより効果的に結合を抑制できることがわかった。また、生体内で感染増強抗体が誘導されるためには、Sタンパク質に、感染増強抗体のエピトープが存在する必要がある。このため、前記感染増強抗体の認識部位を変異させたSARS2の変異スパイクタンパク質は、Sタンパク質のACE2への結合性を増強する抗体および感染増強抗体の誘導が抑制された、SARS2のワクチンの免疫原として使用できると推定された。
【0472】
[実施例6]
SARS2の感染者の血清中に、感染増強抗体が存在することを確認した。
【0473】
PCR検査により、SARS2に感染したと診断された重症患者(人工呼吸器を装着(以下、同様)、n=3)から、血清を採取した。なお、本実施例で使用したSARS2感染者の血清は、すべて、2%CHAPSで5分間処理し、血清中に含まれるSARS2を不活化処理した(以下、同様)。前記血清を、0.1%BSAおよび0.05%NaN含有HANKS緩衝液により100倍に希釈し、希釈血清を得た。つぎに、前記実施例1(3)のSARS2の全長Ssタンパク質およびGFP発現293T細胞に、10μlの希釈血清を添加し、反応させた。前記反応後の反応液に、35ng/mlとなるように、基準抗体(実施例2のバインダー抗体の8D2)を10μl加え、さらに反応させた。その後、APC標識抗マウスIgG抗体で染色し、GFP陽性細胞におけるAPCの蛍光強度を前記フローサイトメーターで解析した。比較例として、SARS2感染者の血清に代えて、健常人の血清(n=2)を使用した以外は同様に解析した。また、コントロールは、前記基準抗体を未添加とした以外は同様にして試験を行った。なお、ヒト血清の採取および使用については、大阪大学により承認を得た上で、提供者から書面による同意を得て採取および使用した(以下、同様)。これらの結果を図10に示す。
【0474】
図10は、抗体の結合量を示すヒストグラムである。図10において、横軸は、前記血清中の抗体の結合量を示し、横軸は、細胞のカウント数を示す。また、図10において、各ヒストグラムの上は、血清サンプルの種類を示し、網掛けのヒストグラムは、基準抗体未添加(コントロール)のサンプルの結果を示し、実線のヒストグラムは、基準抗体を添加したサンプルの結果を示す。図10に示すように、健常者の血清では、コントロールと比較して、基準抗体との競合により、血清由来の抗体の結合量に変化がなかった。すなわち、感染増強抗体が含まれていないことがわかった。これに対して、SARS2感染者の血清では、コントロールと比較して、基準抗体との競合により、血清由来の抗体の結合量が低下した。すなわち、SARS2感染者の血清は、感染増強抗体を含むことが分かった。また、SARS2感染者の重症患者において、感染増強抗体が生じていることから、感染増強抗体が、重症化マーカーとして使用しうることが確認された。
【0475】
[実施例7]
SARS2感染者血清において、抗NTD抗体価、抗RBD抗体価、ACE2結合性、および感染増強抗体価を評価し、それぞれが相関するかを確認した。
【0476】
(1)抗NTD抗体価の測定
SARS2の患者(n=54、総検体数88検体)の入院時から退院時までに経時的に採取した血清から、前記実施例6と同様にして10μlの希釈血清を調製した。前記希釈血清を、前記実施例1(3)のSARS2-NTD発現細胞に添加し、反応させた。その後、APC標識抗ヒトIgG抗体で染色し、GFP陽性細胞におけるAPCの蛍光強度を前記フローサイトメーターで解析し、SARS2感染者血清における抗NTD抗体価を測定した。
【0477】
(2)抗RBD抗体(中和抗体)価の測定
SARS2-NTD発現細胞に代えて、前記実施例1(3)のSARS2-RBD発現細胞を用いた以外は、前記実施例7(1)と同様にして、SARS2感染者血清における抗RBD抗体価を測定した。
【0478】
(3)感染増強抗体価の測定
前記血清を、0.1%BSAおよび0.05%NaN含有HANKS緩衝液により30倍に希釈し、30倍希釈血清を得た。前記実施例1(3)で得られたSARS2の全長Ssタンパク質およびGFP発現293T細胞に、10μlの前記30倍希釈血清を添加し、反応させた。前記反応後、得られた反応液に、35ng/mlとなるように、基準抗体(実施例2のバインダー抗体の8D2)を10μl加え、さらに反応させた。その後、APC標識抗マウスIgG抗体で染色し、GFP陽性細胞におけるAPCの蛍光強度を前記フローサイトメーターで解析し、感染増強抗体価を測定した。
【0479】
(4)ACE2結合性の測定
前記実施例1(1)で得られた抗体に代えて、前記希釈血清を用いた以外は前記実施例1(5)と同様にして、前記希釈血清の存在下における、前記全長Ssタンパク質発現細胞と、ACE2の結合性を確認した。これらの結果を図11に示す。
【0480】
図11は、SARS-CoV-2感染者血清中の抗NTD抗体価、抗RBD抗体価、ACE2結合性、感染増強抗体価の関係を示すグラフである。図11において、(A)は、使用した測定系の概要を示し、(B)は、ACE2結合性と抗RBD抗体価との関係を示し、(C)は、抗NTD抗体価と抗RBD抗体価の関係を示し、(D)は、感染増強抗体価と抗RBD抗体価の関係を示し、(E)は、抗RBD抗体価が低い群(低RBD抗体価群)、抗RBD抗体価が中程度の群(中RBD抗体価群)、および抗RBD抗体価が高い群(高RBD抗体価群)における、ACE2結合性と感染増強抗体価の関係を示す。図11(B)において、横軸は、抗RBD抗体価を示し、縦軸は、ACE2結合性を示す。図11(C)において、横軸は、抗RBD抗体価を示し、縦軸は、抗NTD抗体価を示す。図11(D)において、横軸は、抗RBD抗体価を示し、縦軸は、感染増強抗体価を示す。図11(E)において、上段のグラフは、図11(B)のグラフと同じものであり、横軸は、抗RBD抗体価を示し、縦軸は、ACE2結合性を示す。図11(E)の下段のグラフは、ACE2結合性と感染増強抗体価の関係を示し、左から、低RBD抗体価群、中RBD抗体価群、高RBD抗体価群の結果を示す。また、図11(E)の下段のグラフにおいて、横軸は、感染増強抗体価を示し、縦軸は、ACE2結合性を示す。
【0481】
図11(B)に示すように、抗RBD抗体価の上昇に伴い、全長スパイク発現細胞とACE2の結合性が低下するため、抗RBD抗体がSARS2の中和抗体として機能することが確認された。また、図11(C)に示すように、抗RBD抗体価の上昇と、抗NTD抗体価の上昇とは相関することがわかった。すなわち、SARS2の感染により、Sタンパク質の様々な部位に対する抗体が同時に誘導されることがわかった。また、図11(B)および(D)に示すように、抗RBD抗体価が低い患者群(図11(B)および(D)において、網掛けで示す群)においては、ACE2結合性および感染増強抗体価にばらつきがみられたが、抗RBD抗体価が高い患者群と比較して、ACE2結合性が高かった。そして、図11(E)に示すように、低RBD抗体価群、中RBD抗体価群、および高RBD抗体価群を比較すると、抗RBD抗体価の上昇に伴い、感染増強抗体価も上昇しているが、ACE2結合性は低下した。これらのことから、抗RBD抗体価の上昇が不十分なSARSの感染初期において、感染増強抗体価が高いと、SARS2のSタンパク質のACE2への結合性が増強され、その結果、感染増強が生じて重症化が引き起こされると推定された。したがって、感染増強抗体価が、感染性および重症化の指標となることが示唆された。
【0482】
[実施例8]
SARS2感染後の感染増強抗体価、抗RBD抗体価、およびACE2結合性の推移を確認した。
【0483】
PCR検査により、SARS2にの感染したと診断された患者3名(重症患者)から、入院後定期的に採取した血清を用いた以外は、前記実施例7と同様にして、各患者血清における感染増強抗体価、抗RBD抗体価、およびACE2結合性の推移を確認した。患者番号30の患者は、入院後1、6、8、13日目に血清を採取し、患者番号74の患者は、入院後1、8,16、19、22、27日目に血清を採取し、患者番号68の患者は、入院後1、7、13、18、23日目に血清を採取した。これらの結果を図12に示す。
【0484】
図12は、各感染者血清中の感染増強抗体価、抗RBD抗体価、またはACE2結合性の推移を示すグラフである。図12において、横軸は、入院後の経過時間を示し、縦軸は、抗RBD抗体価、またはACE2結合性を示す。図12において、上段の3図が、感染増強抗体価の推移を示すグラフであり、中段の3図が、抗RBD抗体価の推移を示すグラフであり、下段の3図が、ACE2結合性を示すグラフである。図12の各図において、左から、患者番号30、患者番号74、および患者番号68の結果を示す。図8に示すように、いずれの患者においても、抗RBD抗体価よりも感染増強抗体価が先に上昇することがわかった。また、抗RBD抗体価が低い(抗RBD抗体が産生されていない)感染初期において、感染増強抗体価の上昇に伴い、ACE2結合性が上昇することがわかった。このため、感染初期において、感染増強抗体価が高いと、SARS2のSタンパク質のACE2への結合性が増強され、その結果、感染増強が生じて重症化が引き起こされていることが確認された。したがって、感染増強抗体価が、感染性および重症化の指標となることがわかった。
【0485】
[実施例9]
SARS-CoV-2非感染者の血清中の抗NTD抗体価を確認した。
【0486】
2019年6月以前に採取された、SARS-CoV-2に感染していない、アメリカ人の健常者(n=48)の血清(GeorgeKingBio-Medicalから購入)を使用した以外は前記実施例7(1)と同様にして、抗NTD抗体価を測定した。また、コントロールは、前記血清を未添加とした以外は、同様にして測定した。これらの結果を図13に示す。
【0487】
図13は、各血清中の抗NTD抗体の結合量を示すヒストグラムである。図13の各ヒストグラムにおいて、横軸は、前記血清における抗NTD抗体の結合量を示すグラフであり、縦軸は、細胞数のカウントを示す。図13において、網掛けのヒストグラムは、コントロール(血清未添加)の結果を示し、実線のヒストグラムは、各血清サンプルの結果を示す。図13に示すように、健常者由来の血清において、25検体から抗NTD抗体価が存在することを確認できた。SARS2への感染において、欧米人は、アジア人より感染率および重症化率が高いことが示唆されている。前記抗NTD抗体は、感染増強抗体を含む指標であるため、抗NTD抗体が見られる健常者は、一定程度、感染増強抗体を保有すると推定される。このため、欧米人は、感染増強抗体を保有する人が一定割合存在するため、アジア人より感染率および重症化率が高いと推定された。また、血清中に抗NTD抗体を保有する人に対し、SARS-CoV-2の全長スパイクタンパク質を有効成分とするワクチンを投与すると、感染増強抗体の産生増強を誘導する可能性があるため、本発明の変異タンパク質を、ワクチンの有効成分とすることにより、感染増強抗体の産生誘導および増強を抑制できる可能性が示唆された。
【0488】
[実施例10]
感染増強抗体の結合により、Sタンパク質のACE2への結合性が増強されるメカニズムを確認した。
【0489】
感染増強抗体によるSタンパク質のACE2への結合性の増強のメカニズムについて、Sタンパク質の結晶構造解析のデータに基づき、検討した。前記Sタンパク質の結晶構造としては、Protein Data bankにおける以下のPDB番号で登録されているSタンパク質の結晶構造解析のデータを用いた。なお、Sタンパク質は、A鎖、B鎖およびC鎖の三量体であるため、各鎖のPDB番号を示している。前記データには、Sタンパク質がACE2への結合性を有する構造(RBD-Up)における結晶構造解析のデータと、Sタンパク質がACE2への結合性を有さない構造(RBD-Down)における結晶構造解析のデータとが含まれる。そこで、RBD-Up構造を取っているデータと、RBD-Down構造のデータを分類し、各分類のデータを、それぞれで重畳させた三次元データを作製した。そして、前記三次元データにおいて、前記感染増強抗体の結合部位のアミノ酸の位置の変化を検討した。この結果を図14に示す。
【0490】
(RBD-downの解析に使用したデータ)
7jjj-A, 7jjj-D, 7jji--A, 7jji-B, 7jji-C, 7jjj-B, 7jjj-E, 7jjj-C, 7jjj-F, 6xr8-A, 6xr8-B, 6xr8-C, 6zge-A, 6zge-B, 6zge-C, 6zgi-A, 6zgi-B, 6zgi-C, 6zgh-C, 7a94-B, 7a94-C, 6zgh-B, 6zoz-A, 6zoz-B, 6zoz-C, 7a93-C, 6zgg-A, 6zgg-C, 7a95-B, 7a97-C, 7a96-C, 6xlu-B, 6xlu-C, 6zp2-A, 6zp2-B, 6zp2-C, 6xlu-A, 6xM5-A, 6xM5-B, 7c21-B, 6zxn-B, 6zxn-B, 6zxn-C, 7c21-C, 6xM4-C, 6xM3-C, 6xM3-A, 6xM0-A, 6xM4-A, 7cn9-C, 6xm5-C, 6xey-A, 6xey-B, 6xm0-C, 6xey-C, 6zp0-A, 6zp0-B, 6zp0-C, 7cai-C, 6zoy-A, 6zoy-B, 6zoy-C, 6x6p-A, 6x6p-B, 6x6p-C, 6zox-A, 6zox-B, 6zox-C, 6zp1-A, 6zp1-B, 6zp1-C, 7cn9-B, 6xf5-A, 6xf5-B, 6xf5-C, 7chh-C, 7byr-B, 6z97-A, 7chh-B, 6xf6-A, 6z43-B, 6zhd-B, 6xf6-C, 6z43-C, 6z97-C, 6zhd-C, 6zwv-A, 6zwv-B, 6zwv-C, 7jzl-A, 7jzn-A, 6xkl-B, 6xkl-C, 6vsb-B, 6vsb-C, 7byr-C, 6vxx-A, 6vxx-B, 6vxx-C, 6x29-A, 6x29-B, 6x29-C, 6x2c-A, 6x2c-B, 6x2c-C, 6vyb-A, 6x2a-A, 6x2b-A, 6xcM-A, 6x2a-C, 6vyb-C, 6wps-A, 6wps-B, 6wps-E, 6wpt-C, 6x79-A, 6x79-B, 6x79-C, 6wpt-A, 6zow-C, 6zp5-B, 6zp7-B, 6zow-B, 6zp5-C, 6zp7-C, 6zgh-A
【0491】
(RBD-upの解析に使用したデータ)
7a94-A, 7a93-A, 7a93-B, 6zgg-B, 7a95-C, 7a95-A, 7a97-B, 7a98-A, 7a98-B, 7a98-C, 7a96-A, 7a96-B, 7a97-A, 6zxn-A, 6xm3-B, 6xm4-B, 6xm0-B, 7c21-A, 7cak-A, 7cak-B, 7cak-C, 7cai-A, 7cai-B, 7cn9-A, 7chh-A, 6wpt-B, 6zow-A, 6xs6-C, 6xs6-A, 6xs6-B, 6zdh-A, 6zdh-B, 6zdh-C, 6z97-B, 6zp5-A, 6zp7-A, 6z43-A, 6zhd-A, 7jzn-C, 6xcm-B, 6xcm-C, 6xcn-A, 6xcn-C, 6xcn-E, 7jzl-C, 7jzn-B, 7jzl-B, 6xkl-A, 6vsb-A, 7byr-A, 6vyb-B, 6x2b-B, 6x2b-C, 6x2a-B, 6xf6-B
【0492】
図14は、Sタンパク質の構造を示す図である。図14において、(A)は、RBD-Upの構造を示し、(B)は、RBD-Downの構造を示す。図14(A)および(B)に示すように、RBD-downの構造では、Ssタンパク質における64位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸(64位のアミノ酸(W))が、NTD領域の内部に埋まっている部分が多く、NTD領域の表面への露出が少なかった。これに対して、RBD-Upの構造では、64位のアミノ酸の大半が、NTD領域の表面に露出していた。また、図14(A)および(B)に示すように、RBD-downの構造では、Sタンパク質における64位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸がブロードに分布しているのに対して、RBD-upの構造では、一箇所に集合するような、すなわち、互いにより近位に配置されていた。また、前記感染増強抗体がSタンパク質に結合すると、Sタンパク質のACE2への結合性が増強されることから、前記感染増強抗体がSタンパク質に結合した場合、前記Sタンパク質は、RBD-Up構造となっていると推定される。これらのことから、感染増強抗体は以下のメカニズムでSタンパク質のACE2への結合性が増強していると推定される。前記感染増強抗体がSタンパク質に結合しようと、前記Sタンパク質における位置、特に感染増強抗体が認識するアミノ酸位置がSタンパク質の表面側に移動し、かつ前記認識対象のアミノ酸が近位に配置されるように移動し、前記Sタンパク質と前記感染増強抗体との結合が生じる。前記認識アミノ酸の移動に伴い、前記Sタンパク質の他のアミノ酸の位置も変化し、前記Sタンパク質の構造が、RBD-down構造からRBD-Up構造に変化する。この結果、前記Sタンパク質のRBD領域が、ACE2に結合可能な構造となり、前記Sタンパク質は、ACE2への結合性が増強されると推定される。すなわち、前記感染増強抗体は、Sタンパク質と結合することにより、前記Sタンパク質のコンフォメーションをRBD-downの構造からRBD-Upの構造に変化させていると推定された。また、このようなメカニズムでACE2への結合性を増強するため、Fc受容体非依存的なADEを誘導化能であると推定された。なお、本発明は、上記推定には何ら制限されない。
【0493】
[実施例11]
感染増強抗体の認識部位に変異を導入することにより、対象に投与した際に、感染増強抗体の誘導能が抑制されることを確認した。
【0494】
抗原サンプルとして、B16G10細胞に、全長のSsタンパク質またはSsタンパク質のNTD領域を発現させた細胞を調製した。具体的には、まず、SARS2のSsタンパク質のNTD領域をコードする遺伝子を、pME18S発現ベクターにクローニングし、SARS2のSsタンパク質のNTD発現ベクターを得た。前記PEIトランスフェクション試薬を用い、前記発現ベクターをマウスB16G10細胞に一過性にトランスフェクトし、48時間培養した。前記培養後、細胞を回収し、-30℃、30分間の凍結処理を行った後、得られた凍結処理物(マウス1匹あたり3×10細胞/100μl)を等量の完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社製)で完全に乳化して抗原サンプルとした。前記抗原サンプルを、7週齢のBALB/cマウスの足蹠と尾の付け根に注射して免疫し、前記免疫後14日目にマウス血清を回収した。また、前記Ssタンパク質または前記Ssタンパク質のNTD領域において、W64A、F65A、H66A、K187A、V213A、およびR214Aのアミノ酸変異を導入した、変異タンパク質または変異ペプチド(変異タンパク質のNTD領域)を用いた以外は、同様にしてマウス血清を回収した。
【0495】
得られた血清について、前記実施例7(1)~(3)と同様にして、抗RBD抗体価、抗NTD抗体価、および感染増強抗体価を測定した。なお、前記Ssタンパク質および変異タンパク質については、中和抗体と感染増強抗体の誘導能の変化を検討するため、抗RBD抗体価および感染増強抗体価を測定した。また、前記Ssタンパク質のNTD領域および変異ポリペプチドについては、変異によるNTDに対する抗体誘導能を検討するため、抗NTD抗体価、および感染増強抗体価を測定した。さらに、前記Ssタンパク質のNTD領域および変異ポリペプチドについては、変異タンパク質のNTDに対する抗体価を検討するため、前記SARS-NTD発現細胞に変異ポリペプチドと同様の変異を導入した細胞を用いて、変異ポリペプチドに対する抗体価を検討した。これらの結果を、図15に示す。
【0496】
図15は、血清中の抗体価を示すグラフである。図15において、(A)は、免疫方法の概要を示し、(B)および(C)は、前記Ssタンパク質のNTD領域または変異ポリペプチドを用いた結果を示し、(D)は、免疫方法の概要を示し、(E)および(F)は、Sタンパク質または変異タンパク質を用いた結果を示す。図15(B)、(C)および(E)において、横軸は、免疫原を示し、縦軸は、各抗体の抗体価を示す。また、図15(F)において、横軸は、免疫原を示し、縦軸は、抗RBD抗体価に対する感染増強抗体価の比を示す。図15(B)に示すように、前記Ssタンパク質のNTD領域を免疫原とした場合、前記Ssタンパク質のNTD領域および変異ポリペプチドに対する抗体の誘導能に差は認められなかった。他方、前記変異ポリペプチドを免疫原とした場合、前記Ssタンパク質のNTD領域および変異ポリペプチドに対する抗体の誘導能は低下した。図15(C)に示すように、変異ポリペプチドを免疫原とした場合、前記Sタンパク質のNTD領域を免疫原とした場合と比較して、感染増強抗体の誘導能が大きく低下していた。また、図15(E)に示すように、前記Ssタンパク質および変異タンパク質を免疫原とした場合、いずれも同程度の抗RBD抗体、すなわち、中和抗体を誘導可能であった。他方、図15(F)に示すように、変異タンパク質を免疫原とした場合、前記Ssタンパク質を免疫原とした場合と比較して、中和抗体に対する感染増強抗体の誘導能が有意に低下していた。以上のことから、感染増強抗体の認識部位に変異を導入することにより、対象に投与した際に、感染増強抗体の誘導能が抑制できることがわかった。このため、本発明の変異タンパク質によれば、中和抗体の誘導能を維持しつつ、感染増強抗体の誘導を抑制できるため、ワクチン接種者におけるADEのリスクを低減できると推定された。
【0497】
[実施例12]
Sタンパク質における感染増強抗体の認識部位のアミノ酸は、Sタンパク質のACE2への結合を抑制していることを確認した。
【0498】
(1)変異タンパク質発現細胞の調製
前記Ssタンパク質における感染増強抗体の認識部位のアミノ酸(64W、66H、187K、213V、214R)のいずれか1つのアミノ酸をアラニン置換した変異タンパク質を発現させた以外は、前記実施例1(2)と同様にして変異タンパク質発現細胞を調製した。
【0499】
(2)ACE2への結合性
得られた変異タンパク質発現細胞を用い、抗体を添加しなかった以外は、前記実施例1(5)と同様にして、ACE2への結合性を測定した。
【0500】
(2)SARS2のSタンパク質発現シュードタイプウイルスの調製
前記Ssタンパク質における感染増強抗体の認識部位のアミノ酸(64W、66H、187K、213V、214R)のいずれか1つのアミノ酸をアラニン置換した変異タンパク質を発現させた以外は、前記実施例2(2)と同様にして、変異タンパク質を発現するシュードタイプウイルスを調製した。また、コントロールとして、Ssタンパク質を発現するシュードタイプウイルスを調製した。
【0501】
(4)感染試験
つぎに、前記実施例12(3)で調製したシュードタイプウイルスを用いた以外は、前記実施例2(4)と同様にして、ACE2恒常発現細胞への感染実験を行ない、感染細胞の割合を測定した。これらの結果を図16に示す。
【0502】
図16は、ACE2への結合性およびシュードタイプウイルスの感染割合を示すグラフである。図16において、(A)は、変異タンパク質のACE2への結合性を示す結果であり、(B)は、変異タンパク質発現シュードタイプウイルスの感染割合の結果を示すグラフである。図16(A)に示すように、前記Ssタンパク質における64位、187位、または213位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入した場合、ACE2への結合が抑制されず、むしろ結合が増強された。他方、前記Ssタンパク質の65位、66位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入した場合、ACE2への結合が抑制された。また、図16(B)に示すように、前記Ssタンパク質における64位、66位、187位、213位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入した場合、ACE2発現細胞への感染が抑制されず、むしろ感染が増強された。他方、前記Ssタンパク質の65位、66位、または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入した場合、ACE2発現細胞へ感染が抑制された。これらのことから、Sタンパク質における感染増強抗体の認識部位のアミノ酸は、Sタンパク質のACE2への結合およびそれを介した感染を抑制していることが示唆された。
【0503】
[実施例13]
感染増強抗体がSタンパク質に結合することにより、Sタンパク質のコンフォメーションが変化し、ACE2の結合性が増強されることを確認した。
【0504】
(1)Sタンパク質発現細胞の調製
下記参考文献13に記載のS-R/PP/x1変異体は、Sタンパク質内でジスルフィド結合が形成されるため、RBD領域がクローズ(RBD-down)の状態で固定され、オープン(RBD-up)な状態にはならないことが知られている。そこで、前記S-R/PP/x1変異体を用いて、前記感染増強抗体が、Sタンパク質のコンフォメーションを変化させることにより、ACE2の結合性を増強していることを確認した。具体的には、まず、下記配列番号121のアミノ酸配列からなる野生型Sタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号122)を用いた以外は、前記実施例1(3)と同様にして、野生型Sタンパク質を発現する細胞を調製した。また、前記野生型Sタンパク質発現細胞において、S383C、D985C、K986P、およびV987Pのアミノ酸変異が導入された変異タンパク質を発現する細胞を調製した。
参考文献13:Xiaoli Xiong et.al., “A thermostable, closed SARS-CoV-2 spike protein trimer”, Nature Structural & Molecular Biology, vol. 27, pages 934-941
【0505】
野生型Sタンパク質(配列番号121)
MFVFLVLLPLVSSQCVNLTTRTQLPPAYTNSFTRGVYYPDKVFRSSVLHSTQDLFLPFFSNVTWFHAIHVSGTNGTKRFDNPVLPFNDGVYFASTEKSNIIRGWIFGTTLDSKTQSLLIVNNATNVVIKVCEFQFCNDPFLGVYYHKNNKSWMESEFRVYSSANNCTFEYVSQPFLMDLEGKQGNFKNLREFVFKNIDGYFKIYSKHTPINLVRDLPQGFSALEPLVDLPIGINITRFQTLLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAYYVGYLQPRTFLLKYNENGTITDAVDCALDPLSETKCTLKSFTVEKGIYQTSNFRVQPTESIVRFPNITNLCPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVCPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHAPATVCGPKKSTNLVKNKCVNFNFNGLTGTGVLTESNKKFLPFQQFGRDIADTTDAVRDPQTLEILDITPCSFGGVSVITPGTNTSNQVAVLYQDVNCTEVPVAIHADQLTPTWRVYSTGSNVFQTRAGCLIGAEHVNNSYECDIPIGAGICASYQTQTNSPRRARSVASQSIIAYTMSLGAENSVAYSNNSIAIPTNFTISVTTEILPVSMTKTSVDCTMYICGDSTECSNLLLQYGSFCTQLNRALTGIAVEQDKNTQEVFAQVKQIYKTPPIKDFGGFNFSQILPDPSKPSKRSFIEDLLFNKVTLADAGFIKQYGDCLGDIAARDLICAQKFNGLTVLPPLLTDEMIAQYTSALLAGTITSGWTFGAGAALQIPFAMQMAYRFNGIGVTQNVLYENQKLIANQFNSAIGKIQDSLSSTASALGKLQDVVNQNAQALNTLVKQLSSNFGAISSVLNDILSRLCPPEAEVQIDRLITGRLQSLQTYVTQQLIRAAEIRASANLAATKMSECVLGQSKRVDFCGKGYHLMSFPQSAPHGVVFLHVTYVPAQEKNFTTAPAICHDGKAHFPREGVFVSNGTHWFVTQRNFYEPQIITTDNTFVSGNCDVVIGIVNNTVYDPLQPELDSFKEELDKYFKNHTSPDVDLGDISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQELGKYEQYIKWPWYIWLGFIAGLIAIVMVTIMLCCMTSCCSCLKGCCSCGSCCKFDEDDSEPVLKGVKLHYT
【0506】
野生型Sタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号122)
5'-ATGTTCGTTTTCCTCGTACTGCTCCCTCTCGTGAGCAGCCAATGTGTGAATTTGACTACCCGCACACAACTTCCGCCAGCGTATACAAATTCCTTCACGCGAGGGGTATACTATCCCGATAAAGTTTTTCGATCCTCCGTGCTGCATTCAACACAAGATTTGTTTCTCCCATTTTTTAGTAATGTCACCTGGTTCCATGCCATCCACGTAAGCGGCACTAATGGGACCAAACGCTTCGATAACCCGGTCTTGCCCTTTAATGACGGCGTGTACTTCGCCAGCACTGAGAAAAGCAATATTATCAGAGGTTGGATTTTCGGCACGACCCTTGATAGCAAGACGCAGAGCCTGCTCATTGTCAACAATGCCACCAATGTAGTAATTAAGGTCTGCGAATTTCAATTCTGCAATGACCCCTTTTTGGGTGTGTACTACCACAAAAACAATAAAAGCTGGATGGAGTCTGAGTTTCGAGTGTATTCCTCAGCAAATAACTGCACCTTTGAATATGTGTCTCAGCCATTTCTCATGGATTTGGAAGGCAAACAAGGGAACTTCAAAAACCTCAGGGAGTTCGTCTTCAAAAATATCGATGGTTATTTTAAGATTTATTCTAAGCACACGCCTATCAACCTGGTGCGCGACCTCCCGCAAGGCTTCTCCGCACTGGAGCCTCTTGTCGATCTGCCCATCGGCATCAATATTACCAGGTTTCAGACGCTTCTGGCCCTGCATCGGAGTTATCTTACCCCCGGAGACTCCTCTAGCGGTTGGACAGCAGGCGCTGCGGCTTACTACGTGGGATATCTCCAGCCGCGAACATTTCTCTTGAAATACAATGAGAATGGTACCATCACGGATGCAGTCGACTGCGCGTTGGACCCACTCTCCGAAACCAAATGCACTTTGAAATCATTCACAGTAGAAAAGGGAATATACCAGACTTCAAATTTTAGGGTCCAGCCTACCGAATCCATTGTCAGGTTTCCCAATATCACGAATTTGTGCCCGTTCGGAGAAGTCTTTAATGCGACGAGATTTGCCAGTGTATATGCATGGAATAGAAAGCGCATCTCCAACTGTGTAGCTGATTACTCTGTGCTGTATAACTCAGCTTCTTTCAGTACTTTCAAGTGTTACGGGGTGTGTCCAACAAAGCTTAATGATTTGTGTTTTACGAATGTGTATGCAGACTCATTTGTGATTCGGGGGGACGAGGTGCGCCAGATTGCACCAGGGCAGACGGGGAAAATTGCTGACTATAACTACAAGCTCCCCGACGATTTCACAGGCTGCGTCATAGCCTGGAATAGCAATAATCTGGATAGTAAGGTAGGCGGCAATTACAATTATCTGTATCGCCTTTTTAGAAAGTCCAACCTTAAACCATTTGAGAGGGACATAAGCACGGAAATATATCAAGCGGGGTCCACACCTTGCAATGGGGTCGAAGGATTCAACTGTTACTTCCCGTTGCAGTCCTATGGGTTCCAGCCGACTAACGGAGTTGGATATCAGCCCTACCGCGTGGTTGTACTTAGTTTCGAGCTGCTTCACGCTCCGGCTACTGTATGCGGACCTAAAAAATCCACCAACCTCGTAAAGAATAAGTGCGTAAACTTTAACTTCAATGGACTTACGGGGACCGGTGTCTTGACTGAGTCTAATAAAAAATTCCTCCCGTTCCAACAATTTGGGCGGGACATTGCAGACACCACGGACGCTGTAAGAGATCCTCAGACTCTTGAAATACTTGATATTACGCCCTGTTCATTCGGTGGAGTCTCTGTCATTACGCCGGGAACTAATACATCAAACCAAGTCGCGGTTCTCTACCAGGACGTAAACTGTACCGAAGTCCCTGTCGCGATCCATGCAGACCAGCTGACGCCAACTTGGCGGGTTTATAGTACCGGTTCAAATGTATTCCAAACCCGCGCCGGGTGTCTCATTGGCGCCGAACATGTGAATAATTCCTACGAATGCGACATACCCATAGGAGCAGGGATCTGCGCAAGCTATCAGACACAGACAAACTCCCCACGGCGAGCGAGGTCTGTTGCCAGTCAAAGTATCATAGCGTATACTATGAGCCTCGGAGCTGAGAACTCCGTGGCCTATTCCAACAACTCAATTGCGATCCCTACAAACTTTACTATTAGCGTGACTACCGAGATCCTTCCTGTATCAATGACAAAAACGAGCGTGGACTGTACTATGTATATTTGCGGTGATTCCACAGAATGCTCTAACCTTCTCCTTCAGTACGGGAGCTTCTGCACACAACTGAACCGGGCTTTGACCGGCATCGCGGTTGAGCAGGATAAAAATACGCAGGAAGTATTTGCGCAAGTCAAACAAATATATAAAACACCTCCAATTAAAGATTTCGGTGGATTTAATTTCTCACAGATTCTTCCGGACCCGTCTAAGCCGAGTAAGCGGTCCTTTATTGAGGATTTGCTTTTCAACAAAGTCACCTTGGCTGACGCTGGCTTTATAAAGCAATACGGGGACTGCCTTGGGGACATCGCAGCACGCGATCTGATTTGCGCACAAAAATTTAATGGGTTGACAGTGCTTCCTCCGCTTCTGACCGACGAGATGATAGCCCAGTATACTAGTGCGCTTCTCGCAGGCACGATTACTTCAGGTTGGACATTCGGGGCAGGTGCAGCCCTGCAAATTCCGTTCGCGATGCAAATGGCGTACCGGTTTAACGGAATAGGCGTGACACAAAACGTGCTCTATGAGAACCAAAAACTGATTGCCAACCAATTCAACAGTGCTATAGGGAAAATCCAGGACTCTCTCTCCAGTACTGCCTCCGCATTGGGAAAATTGCAAGACGTTGTAAACCAGAATGCTCAGGCGCTGAATACGTTGGTCAAACAGCTCAGTAGTAACTTTGGGGCTATAAGCAGTGTTCTTAATGATATTCTTTCTCGGCTCTGTCCGCCTGAGGCAGAAGTCCAAATCGACCGACTTATTACTGGGAGATTGCAATCACTGCAAACATACGTAACACAACAACTCATCCGCGCGGCAGAGATACGAGCGTCAGCAAACCTGGCAGCGACCAAGATGAGCGAGTGCGTGCTCGGTCAGTCAAAGCGCGTGGACTTTTGTGGGAAGGGTTATCATCTCATGTCATTTCCACAATCCGCGCCACATGGGGTAGTCTTTTTGCACGTAACATACGTACCAGCGCAAGAAAAGAATTTTACCACGGCACCAGCAATTTGCCACGATGGGAAGGCTCACTTCCCGCGGGAGGGGGTGTTTGTTAGCAATGGTACGCATTGGTTTGTTACTCAACGCAACTTTTACGAGCCGCAAATCATTACGACAGATAATACATTTGTATCAGGTAACTGTGACGTGGTAATCGGCATTGTAAATAATACTGTTTATGACCCATTGCAGCCAGAACTTGATTCCTTTAAAGAGGAGCTGGATAAGTACTTTAAAAACCACACCTCACCAGACGTTGACTTGGGCGACATCTCAGGAATAAATGCCTCAGTCGTGAATATACAAAAGGAGATTGATAGACTTAATGAAGTTGCCAAAAACCTCAACGAATCCCTCATAGATCTGCAAGAGTTGGGCAAATACGAGCAATATATTAAATGGCCCTGGTATATTTGGTTGGGGTTCATCGCTGGGCTTATAGCGATTGTTATGGTTACCATCATGCTTTGTTGCATGACAAGTTGTTGCTCATGCCTTAAGGGTTGCTGCAGCTGTGGCTCATGCTGCAAGTTCGACGAAGACGATTCAGAACCAGTACTCAAGGGGGTCAAATTGCATTATACTTAG-3'
【0507】
(2)ACE2結合性の確認
前記実施例13(1)の野生型Sタンパク質発現細胞または変異型Sタンパク質発現細胞に、前記クローン2490またはクローン8D2(終濃度3μg/ml)を10μl添加した後、前記実施例1(4)で得られたビオチン化ACE2-Fc融合タンパク質(終濃度2.7μg/ml)を10μl添加した。そして、得られた反応液を、4℃で30分間インキュベートし、反応させた。前記反応後の反応液15μlに対し、APC標識ストレプトアビジン(終濃度2μg/ml)を10μl添加して染色し、得られた細胞について前記フローサイトメーターを用いて解析した。これにより、各抗体の存在下における、前記全長Ssタンパク質発現細胞と、ACE2との結合を確認した。コントロールは、前記抗体サンプルを添加しなかった以外は同様にして測定した。これらの結果を図17に示す。
【0508】
図17は、各抗体サンプルの存在下における、野生型Sタンパク質発現細胞または変異型Sタンパク質発現細胞とACE2との結合を示すグラフである。図17において、横軸は、Sタンパク質の種類を示し、縦軸は、ACE結合性(MFI)を示す。図17に示すように、野生型Sタンパク質発現細胞を用いた場合、クローン2490およびクローン8D2存在下では、Sタンパク質のACE2への結合性が増強された。他方、変異型Sタンパク質発現細胞を用いた場合、クローン2490およびクローン8D2存在下でも、Sタンパク質のACE2への結合性は変化しなかった。前述のように、前記変異型Sタンパク質発現細胞が発現するS-R/PP/x1変異体は、RBD領域がクローズ(RBD-down)で固定され、オープン(RBD-up)にはならない。このため、前記感染増強抗体は、前述の所定の位置に結合することで、Sタンパク質のコンフォメーションをRBD-downからRBD-upに変化させ、これにより、前記Sタンパク質のACE2への結合性を増強していることがわかった。
【0509】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0510】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
<Spikeタンパク質の変異体>
(付記1)
下記(Sm)のアミノ酸配列からなるタンパク質である、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体:
(Sm)下記(Sm1)、(Sm2)、または(Sm3)のアミノ酸配列:
(Sm1)野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列;
(Sm2)(Sm1)のアミノ酸配列において、1~127個の挿入、付加、置換および/または欠失を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列;
(Sm3)(Sm1)のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持されているアミノ酸配列。
(付記2)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1記載の変異体。
(付記3)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1または2記載の変異体。
(付記4)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1から3のいずれかに記載の変異体。
(付記5)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1から4のいずれかに記載の変異体。
(付記6)
前記変異は、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体との結合を低減させる、付記1から5のいずれかに記載の変異体。
(付記7)
前記抗体は、下記(H)の重散可変領域と、下記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記6記載の変異体:
(H)重鎖可変領域:
配列番号8のアミノ酸配列(XYX)を含む、または、からなる重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号9のアミノ酸配列(XIX10GX11121314151617181920)を含む、または、からなるHCDR2、および配列番号10のアミノ酸配列(X21222324252627282930313233343536373839DX40)を含む、または、からなるHCDR3を含む、重鎖可変領域であり、
は、SまたはTであり、
は、存在しないか、Nであり、
は、A、D、またはWであり、
は、MまたはWであり、
は、G、H、N、またはSであり、
は、A、D、N、T、V、またはWであり、
は、G、H、N、またはSであり、
は、Q、T、またはYであり、
は、A、D、S、またはNであり、
10は、存在しないか、Tであり、
11は、D、G、I、N、またはSであり、
12は、E、N、P、SまたはTであり、
13は、存在しないか、Kであり、
14は、TまたはYであり、
15は、A、N、P、またはVであり、
16は、D、G、P、またはQであり、
17は、GまたはSであり、
18は、F、L、またはVであり、
19は、K、R、またはTであり、
20は、GまたはSであり、
21は、存在しないか、Aであり、
22は、DまたはRであり、
23は、F、P、Q、T、またはWであり、
24は、存在しないか、D、E、G、またはYであり、
25は、G、S、Q、W、またはYであり、
26は、D、F、G、またはLであり、
27は、I、L、N、R、またはYであり、
28は、存在しないか、G、L、P、T、W、またはYであり、
29は、存在しないか、A、G、Q、S、またはTであり、
30は、存在しないか、A、D、G、H、またはMであり、
31は、存在しないか、S、V、またはYであり、
32は、存在しないか、EまたはSであり、
33は、存在しないか、L、S、W、またはYであり、
34は、存在しないか、F、G、T、またはYであり、
35は、存在しないか、A、G、L、またはYであり、
36は、存在しないか、A、T、またはYであり、
37は、FまたはYであり、
38は、存在しないか、CまたはGであり、
39は、存在しないか、Mであり、
40は、F、I、またはVである;
(L)軽鎖可変領域:
配列番号11のアミノ酸配列(X4142SX434445464748495051)を含む、または、からなる軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号12のアミノ酸配列(X5253SX54555657)を含む、または、からなるLCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列(X58QX5960616263646566T)を含む、または、からなるLCDR3を含む、軽鎖可変領域であり、
41は、K、Q、またはRであり、
42は、存在しないか、AまたはSであり、
43は、存在しないか、QまたはVであり、
44は、GまたはSであり、
45は、存在しないか、I、L、またはVであり、
46は、存在しないか、L、R、またはSであり、
47は、存在しないか、Hであり、
48は、存在しないか、NまたはSであり、
49は、存在しないか、D、N、Y、またはWであり、
50は、存在しないか、GまたはLであり
51は、存在しないか、A、G、またはKであり、
52は、A、D、E、G、またはKであり、
53は、AまたはVであり、
54は、N、S、またはTであり、
55は、LまたはRであり、
56は、A、E、F、またはQであり、
57は、SまたはTであり、
58は、L、M、またはQであり、
59は、A、H、L、S、またはYであり、
60は、G、I、またはNであり、
61は、N、S、またはQであり、
62は、存在しないか、F、W、またはYであり、
63は、存在しないか、P、S、またはWであり、
64は、PまたはRであり、
65は、存在しないか、Lであり、
66は、存在しないか、Iである。
(付記8)
前記抗体は、下記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記6または7記載の変異体。
(1)配列番号14のアミノ酸配列(SYAMH)からなる重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号15のアミノ酸配列(VISYDGSNKYYADSVKG)からなるHCDR2、および配列番号16のアミノ酸配列(DQEWFRELFLFDY)からなるHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列(RASQGISSWLA)からなる軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号18のアミノ酸配列(DASSLQS)からなるLCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列(QQANSFPPT)からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(2)配列番号20のアミノ酸配列(SYWMN)からなるHCDR1、配列番号21のアミノ酸配列(NINQDGGEKYYVDSVRG)からなるHCDR2、および配列番号22のアミノ酸配列(DPYDLYGDYGGTFDY)からなるHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列(RASQSVSSNLA)からなるLCDR1、配列番号24のアミノ酸配列(GASTRAT)からなるLCDR2、および配列番号25のアミノ酸配列(QQYNNWWRT)からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(3)配列番号26のアミノ酸配列(SYWMS)からなるHCDR1、配列番号27のアミノ酸配列(NINQDGSEKYYVDSVKG)からなるHCDR2、および配列番号28のアミノ酸配列(DWDYDILTGSWFGAFDI)からなるHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号29のアミノ酸配列(RASQGIRNDLG)からなるLCDR1、配列番号30のアミノ酸配列(AASSLQS)からなるLCDR2、および配列番号31のアミノ酸配列(LQHNSYPLT)からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(4)配列番号32のアミノ酸配列(TYAMN)からなるHCDR1、配列番号33のアミノ酸配列(WINTNTGNPTYAQGFTG)からなるHCDR2、および配列番号34のアミノ酸配列(DQDSGYPTYYYYYMDV)からなるHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号35のアミノ酸配列(KSSQSLLHSDGK)からなるLCDR1、配列番号36のアミノ酸配列(EVSNRFS)からなるLCDR2、および配列番号37のアミノ酸配列(MQSIQPPLT)からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(5)配列番号38のアミノ酸配列(SYAMH)からなるHCDR1、配列番号39のアミノ酸配列(DISYDGSEKYYADSVKG)からなるHCDR2、および配列番号40のアミノ酸配列(DFGGDNTAMVEYFFDF)からなるHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号41のアミノ酸配列(RASQSISSWLA)からなるLCDR1、配列番号42のアミノ酸配列(KASSLES)からなるLCDR2、および配列番号43のアミノ酸配列(QQYNSYSPT)からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(6)配列番号44のアミノ酸配列(SYDMH)からなるHCDR1、配列番号45のアミノ酸配列(AIGTAGDTYYPGSVKG)からなるHCDR2、および配列番号46のアミノ酸配列(ADPYQLLGQHYYYGMDV)からなるHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号47のアミノ酸配列(QSVSSSYLA)からなるLCDR1、配列番号48のアミノ酸配列(GASSRAT)からなるLCDR2、および配列番号49のアミノ酸配列(QQYGSSPLIT)からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む抗体。
(付記9)
前記抗体は、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記6から8のいずれかに記載の変異体:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
(付記10)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1から9のいずれかに記載の変異体。
(付記11)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1から10のいずれかに記載の変異体。
(付記12)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1から11のいずれかに記載の変異体。
(付記13)
前記変異が、置換である、付記1から12のいずれかに記載の変異体。
(付記14)
前記変異は、アラニン置換である、付記1から13にいずれかに記載の変異体。
(付記15)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するアミノ酸配列である、付記1から14のいずれかに記載の変異体。
(付記16)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するアミノ酸配列である、付記1から15のいずれかに記載の変異体。
(付記17)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するアミノ酸配列である、付記1から16のいずれかに記載の変異体。
(付記18)
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、付記1から17のいずれかに記載の変異体。
<変異ポリペプチド>
(付記19)
付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体の部分配列を有する部分ポリペプチドを含み、
前記部分ポリペプチドは、前記変異体における、少なくとも1つの変異アミノ酸を含む、変異ポリペプチド。
(付記20)
付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体のN末端ドメイン(NTD)および/または受容体結合ドメイン(RBD)を含む、付記19記載の変異ポリペプチド。
<SARS-CoV-2>
(付記21)
付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体を含む、SARS-CoV-2の変異ウイルス。
(付記22)
弱毒化ウイルスまたは不活化ウイルスである、付記21記載の変異ウイルス。
<VLP>
(付記23)
付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体および/または付記19または20記載の変異ポリペプチドを含む、ウイルス様粒子。
<核酸>
(付記24)
付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体をコードする核酸分子および/または付記19または20記載の変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含む、核酸。
<発現ベクター>
(付記25)
付記24記載の核酸を含む、発現ベクター。
(付記26)
前記発現ベクターは、ウイルスベクターである、付記25記載の発現ベクター。
<医薬組成物>
(付記27)
付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体、付記19また20記載の変異ポリペプチド、付記21または22記載の変異ウイルス、付記23記載のウイルス様粒子、付記24記載の核酸、および/または付記25または26記載の発現ベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
(付記28)
免疫賦活化剤を含む、付記27記載の医薬組成物。
<Spikeタンパク質の変異体の製造方法>
(付記29)
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法であって、
標的SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Stタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する変異工程を含む、方法。
(付記30)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する、付記29記載の方法。
(付記31)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する、付記29または30記載の方法。
(付記32)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する、付記29から31のいずれかに記載の方法。
(付記33)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する、付記29から32のいずれかに記載の方法。
(付記34)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体との結合を低減させる変異を導入する、付記29から33のいずれかに記載の方法。
(付記35)
前記抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記34記載の方法。
(付記36)
前記抗体は、前記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記34または35記載の変異体。
(付記37)
前記抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記34から36のいずれかに記載の変異体:
(付記38)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する、付記29から37のいずれかに記載の方法。
(付記39)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する、付記29から38のいずれかに記載の方法。
(付記40)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を導入する、付記29から39のいずれかに記載の方法。
(付記41)
前記変異が、置換である、付記29から40のいずれかに記載の方法。
(付記42)
前記変異は、アラニン置換である、付記29から41のいずれかに記載の方法。
(付記43)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸をアラニンに置換する、付記29から42のいずれかに記載の方法。
(付記44)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸をアラニンに置換する、付記29から43のいずれかに記載の方法。
(付記45)
前記変異工程では、前記Stタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸をアラニンに置換する、付記29から44のいずれかに記載の方法。
(付記46)
前記変異工程は、
前記Stタンパク質のアミノ酸配列に変異を導入し、前記Stタンパク質のアミノ酸配列に変異が導入された候補タンパク質のアミノ酸配列を生成する生成工程と、
前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、ACE2への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体として選抜する選抜工程と、
を含む、付記29から45のいずれかに記載の方法。
(付記47)
前記生成工程では、前記Stタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに変異を導入し、前記Stタンパク質のアミノ酸配列に変異が導入された候補タンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを生成することにより、前記候補タンパク質を生成する、付記46記載の方法。
(付記48)
前記生成工程では、前記候補タンパク質のアミノ酸配列が、前記Stタンパク質のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するように変異を導入する、付記46または47記載の方法。
(付記49)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から48のいずれかに記載の方法。
(付記50)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から49のいずれかに記載の方法。
(付記51)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から50のいずれかに記載の方法。
(付記52)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から51のいずれかに記載の方法。
(付記53)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体との結合を低減させる変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から52のいずれかに記載の方法。
(付記54)
前記抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記53記載の方法。
(付記55)
前記抗体は、前記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記53または54記載の方法。
(付記56)
前記抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記53から55のいずれかに記載の方法。
(付記57)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から56のいずれかに記載の方法。
(付記58)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から57のいずれかに記載の方法。
(付記59)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から58のいずれかに記載の方法。
(付記60)
前記変異が、置換である、付記46から59のいずれかに記載の方法。
(付記61)
前記変異は、アラニン置換である、付記46から60のいずれかに記載の変異体。
(付記62)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から61のいずれかに記載の方法。
(付記63)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から62のいずれかに記載の方法。
(付記64)
前記選抜工程では、前記候補タンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する、付記46から63のいずれかに記載の方法。
(付記65)
前記Stタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質である、付記46から64のいずれかに記載の方法。
<Spikeタンパク質のスクリーニング方法>
(付記66)
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法であって、
候補SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Scタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する選抜工程を含む、方法。
(付記67)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66記載の方法。
(付記68)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66または67記載の方法。
(付記69)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から68のいずれかに記載の方法。
(付記70)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から69のいずれかに記載の方法。
(付記71)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体との結合を低減させる変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から70のいずれかに記載の方法。
(付記72)
前記抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記71記載の方法。
(付記73)
前記抗体は、前記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記71または72記載の方法。
(付記74)
前記抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記71から73のいずれかに記載の方法。
(付記75)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から74のいずれかに記載の方法。
(付記76)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から75のいずれかに記載の方法。
(付記77)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から77のいずれかに記載の方法。
(付記78)
前記変異が、置換である、付記66から77のいずれかに記載の方法。
(付記79)
前記変異は、アラニン置換である、付記66から78のいずれかに記載の変異体。
(付記80)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から79のいずれかに記載の方法。
(付記81)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から80のいずれかに記載の方法。
(付記82)
前記選抜工程では、前記Scタンパク質から、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸にアラニン置換を有するScタンパク質を、前記変異体として選抜する、付記66から81のいずれかに記載の方法。
<処置方法>
(付記83)
対象の処置方法であって、前記対象に、付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体、付記19また20記載の変異ポリペプチド、付記21または22記載の変異ウイルス、付記23記載のウイルス様粒子、付記24記載の核酸、付記25または26記載の発現ベクター、および/または付記27または28記載の医薬組成物を使用する、方法。
(付記84)
前記対象に、付記1から18のいずれかに記載のSpikeタンパク質の変異体、付記19また20記載の変異ポリペプチド、付記21または22記載の変異ウイルス、付記23記載のウイルス様粒子、付記24記載の核酸、付記25または26記載の発現ベクター、および/または付記27または28記載の医薬組成物を投与する工程を含む、付記83記載の方法。
(付記85)
前記対象は、ヒトである、付記83または84記載の方法。
(付記86)
前記処置は、ワクチン接種である、付記83から85のいずれかに記載の方法。
(付記87)
前記処置は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質またはその部分ポリペプチドに対する抗体の誘導である、付記83から86のいずれかに記載の方法。
(付記88)
前記処置は、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる抗体の誘導が低減された、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質またはその部分ポリペプチドに対する抗体の誘導である、付記83から87のいずれかに記載の方法。
<第1の感染増強マーカー>
(付記89)
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する抗体である、SARS-CoV-2の感染増強マーカー。
(付記90)
前記抗体は、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記89記載の感染増強マーカー。
(付記91)
前記抗体は、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記89または90記載の感染増強マーカー。
(付記92)
前記抗体は、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記89から91のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記93)
前記抗体は、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記89から92のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記94)
前記抗体は、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記89から93のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記95)
前記抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記89から94のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記96)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記89から95のいずれかに記載の感染増強マーカー。
<第2の感染増強マーカー>
(付記97)
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体であり、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である、SARS-CoV-2の感染増強マーカー。
(付記98)
前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記97記載の感染増強マーカー。
(付記99)
前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記97または98記載の感染増強マーカー。
(付記100)
前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記97から99のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記101)
前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記97から100のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記102)
前記抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記97から101のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記103)
前記基準抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記97から102のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記104)
前記基準抗体は、下記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記97から103のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記105)
前記基準抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記97から104のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記106)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記97から105のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記107)
前記競合抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる、付記97から106のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記108)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記97から107のいずれかに記載の感染増強マーカー。
<第3の感染増強マーカー>
(付記109)
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)に結合し、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体である、SARS-CoV-2の感染増強マーカー。
(付記110)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記109記載の感染増強マーカー。
(付記111)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記109または110記載の感染増強マーカー。
(付記112)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記109から111のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記113)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記109から112のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記114)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記109から113のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記115)
前記抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記109から114のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記116)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記109から115のいずれかに記載の感染増強マーカー。
<第4の感染増強マーカー>
(付記117)
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する抗体であり、
前記基準抗体は、
前記Swタンパク質を認識し、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体である、SARS-CoV-2の感染増強マーカー。
(付記118)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記117記載の感染増強マーカー。
(付記119)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記117または118記載の感染増強マーカー。
(付記120)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記117から119のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記121)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する、付記117から120のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記122)
前記変異タンパク質は、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記117から121のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記123)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記117から122のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記124)
前記競合抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる、付記117から123のいずれかに記載の感染増強マーカー。
(付記125)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記117から124のいずれかに記載の感染増強マーカー。
<第1の感染増強抗体の検出方法>
(付記126)
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する検出工程を含む、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。
(付記127)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記126記載の検出方法。
(付記128)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較することにより、前記抗体を検出する比較工程を含む、付記127記載の検出方法。
(付記129)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する、付記126から128のいずれかに記載の検出方法。
(付記130)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記129記載の検出方法。
(付記131)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較する比較工程を含む、付記130記載の検出方法。
(付記132)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する、付記126から128のいずれかに記載の検出方法。
(付記133)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記132記載の検出方法。
(付記134)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較する比較工程を含む、付記133記載の検出方法。
(付記135)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および/または214位、64位、66位、187位、213位、および/または214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する、付記126から134のいずれかに記載の検出方法。
(付記136)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸に変異が導入された第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記135記載の検出方法。
(付記137)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較する比較工程を含む、付記136記載の検出方法。
(付記138)
前記検出工程で検出された抗体について、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させるかを評価する評価工程を含む、付記126から137のいずれかに記載の検出方法。
(付記139)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、および/またはP217のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する、付記126から138のいずれかに記載の検出方法。
(付記140)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記126から139のいずれかに記載の検出方法。
<第2の感染増強抗体の検出方法>
(付記141)
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含み、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。
(付記142)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記141記載の検出方法。
(付記143)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記141または142記載の検出方法。
(付記144)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記141から143のいずれかに記載の検出方法。
(付記145)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記141から144のいずれかに記載の検出方法。
(付記146)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記141から145のいずれかに記載の検出方法。
(付記147)
前記基準抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記141から145のいずれかに記載の検出方法。
(付記148)
前記基準抗体は、前記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記141から147のいずれかに記載の検出方法。
(付記149)
前記基準抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記141から148のいずれかに記載の検出方法。
(付記150)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させる、付記141から149のいずれかに記載の検出方法。
(付記151)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
前記基準抗体の存在下、Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記141から150のいずれかに記載の検出方法。
(付記152)
前記検出工程は、
前記第1検出工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較することにより、前記基準抗体と競合する競合抗体を検出する比較工程を含む、付記151記載の検出方法。
(付記153)
前記検出工程で検出された抗体について、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させるかを評価する評価工程を含む、付記141から152のいずれかに記載の検出方法。
(付記154)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記141から153のいずれかに記載の検出方法。
<第3の感染増強抗体の検出方法>
(付記155)
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)に結合し、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を検出する検出工程を含む、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。
(付記156)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記155記載の検出方法。
(付記157)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較することにより、前記抗体を検出する比較工程を含む、付記156記載の検出方法。
(付記158)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を検出する、付記155から157のいずれかに記載の検出方法。
(付記159)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記158記載の検出方法。
(付記160)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較する比較工程を含む、付記159記載の検出方法。
(付記161)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を検出する、付記155から157のいずれかに記載の検出方法。
(付記162)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記161記載の検出方法。
(付記163)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較する比較工程を含む、付記162記載の検出方法。
(付記164)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を検出する、付記155から163のいずれかに記載の検出方法。
(付記165)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸に変異が導入された第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記164記載の検出方法。
(付記166)
前記検出工程は、
前記第1検出工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程における前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較する比較工程を含む、付記165記載の検出方法。
(付記167)
前記検出工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する、付記155から166のいずれかに記載の検出方法。
(付記168)
前記検出工程で検出された抗体について、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させるかを評価する評価工程を含む、付記155から167のいずれかに記載の検出方法。
(付記169)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記155から168のいずれかに記載の検出方法。
<第4の感染増強抗体の検出方法>
(付記170)
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を検出する検出工程を含み、
前記基準抗体は、
前記Swタンパク質を認識し、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)において、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。
(付記171)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記170記載の検出方法。
(付記172)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記170または171記載の検出方法。
(付記173)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記170から172のいずれかに記載の検出方法。
(付記174)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記170から173のいずれかに記載の検出方法。
(付記175)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記170から174のいずれかに記載の検出方法。
(付記176)
前記基準抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記170から175のいずれかに記載の検出方法。
(付記177)
前記基準抗体は、前記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記170から176のいずれかに記載の検出方法。
(付記178)
前記基準抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記170から177のいずれかに記載の検出方法。
(付記179)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記170から178のいずれかに記載の検出方法。
(付記180)
前記検出工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第1の検出工程と、
前記基準抗体の存在下、Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を検出する第2の検出工程とを含む、付記170から179のいずれかに記載の検出方法。
(付記181)
前記検出工程は、
前記第1検出工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果と、前記第2検出工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の検出結果とを比較することにより、前記基準抗体と競合する競合抗体を検出する比較工程を含む、付記180記載の検出方法。
(付記182)
前記検出工程で検出された抗体について、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のACE2への結合活性を増強させるかを評価する評価工程を含む、付記170から181のいずれかに記載の検出方法。
(付記183)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記170から182のいずれかに記載の検出方法。
<第1および第3の感染増強抗体の検出キット>
(付記184)
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出キット。
(付記185)
前記変異タンパク質は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第1の変異タンパク質である、付記184記載の検出キット。
(付記186)
前記変異タンパク質は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第2の変異タンパク質である、付記184または185記載のキット。
(付記187)
前記変異タンパク質は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第3の変異タンパク質である、付記184から186のいずれかに記載の検出キット。
(付記188)
付記126から140および155から169のいずれかに記載の感染増強抗体の検出方法に用いる、付記184から187のいずれかに記載の検出キット。
<第2および第4の感染増強抗体の検出キット>
(付記189)
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、基準抗体とを含み、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出キット。
(付記190)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記189記載の検出キット。
(付記191)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記189または190記載の検出キット。
(付記192)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記189から191いずれかに記載の検出キット。
(付記193)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記189から192のいずれかに記載の検出キット。
(付記194)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記189から193のいずれかに記載の検出キット。
(付記195)
前記基準抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記189から194のいずれかに記載の検出キット。
(付記196)
前記基準抗体は、前記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記189から195のいずれかに記載の検出キット。
(付記197)
前記基準抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記189から196のいずれかに記載の検出キット。
(付記198)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記189から197のいずれかに記載の検出キット。
(付記199)
付記141から154および170から183のいずれかに記載の感染増強抗体の検出方法に用いる、付記189から198のいずれかに記載の検出キット。
<第1の感染の可能性の試験方法>
(付記200)
SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する測定工程を含む、試験方法。
(付記201)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記200記載の試験方法。
(付記202)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較することにより、前記抗体を測定する比較工程を含む、付記201記載の試験方法。
(付記203)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する、付記200から202のいずれかに記載の試験方法。
(付記204)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記203記載の試験方法。
(付記205)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較する比較工程を含む、付記204記載の試験方法。
(付記206)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する、付記200から205のいずれかに記載の試験方法。
(付記207)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記206記載の試験方法。
(付記208)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較する比較工程を含む、付記207記載の試験方法。
(付記209)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および/または214位、64位、66位、187位、213位、および/または214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する、付記200から208のいずれかに記載の試験方法。
(付記210)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸に変異が導入された第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記209記載の試験方法。
(付記211)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較する比較工程を含む、付記210記載の試験方法。
(付記212)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定する、付記200から211のいずれかに記載の試験方法。
(付記213)
前記抗体の量を、第1の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第1の試験工程を含む、付記212記載の試験方法。
(付記214)
前記第1の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体の量に基づき設定された閾値である、付記213記載の試験方法。
(付記215)
前記第1の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第1の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記214記載の試験方法。
(付記216)
前記被検者の生体試料について、前記Swタンパク質の中和抗体を測定する第3の測定工程を含む、付記200から215のいずれかに記載の試験方法。
(付記217)
前記中和抗体は、前記Swタンパク質の受容体結合ドメインに結合する抗体である、付記216記載の試験方法。
(付記218)
前記第3の測定工程において、前記中和抗体として、中和抗体の量を測定する、付記216または217記載の試験方法。
(付記219)
前記中和抗体の量を、第2の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第2の試験工程を含む、付記218記載の試験方法。
(付記220)
前記第2の閾値は、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記中和抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記中和抗体の量に基づき設定された閾値である、付記219記載の試験方法。
(付記221)
前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第2の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が低いとする、付記220記載の試験方法。
(付記222)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定し、
前記被検者の生体試料について、Swタンパク質の中和抗体の量を測定する第3の測定工程と、
前記測定工程における抗体の量(S)と、前記第3の測定工程における中和抗体の量(N)との抗体量比(S/N)を算出する算出工程と、
前記抗体量比を、第3の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第3の試験工程を含む、付記200から221のいずれかに記載の試験方法。
(付記223)
前記第3の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体量比、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体量比、および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記抗体量比に基づき設定された閾値である、付記222記載の試験方法。
(付記224)
前記第3の試験工程において、前記被検者の生体試料における前記抗体量比(S/N)が、前記第3の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記223記載の試験方法。
(付記225)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する、付記200から224のいずれかに記載の試験方法。
(付記226)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記200から225のいずれかに記載の試験方法。
<第2の感染の可能性の試験方法>
(付記227)
SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を測定する測定工程を含み、
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体である、試験方法。
(付記228)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記227記載の試験方法。
(付記229)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記227または228記載の試験方法。
(付記230)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記227から229のいずれかに記載の試験方法。
(付記231)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記227から230のいずれかに記載の試験方法。
(付記232)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸を認識する、付記227から231のいずれかに記載の試験方法。
(付記233)
前記基準抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記227から232のいずれかに記載の試験方法。
(付記234)
前記基準抗体は、下記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記227から233のいずれかに記載の試験方法。
(付記235)
前記基準抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記227から234のいずれかに記載の試験方法。
(付記236)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記227から235のいずれかに記載の試験方法。
(付記237)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
前記基準抗体の存在下、Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記227から236のいずれかに記載の試験方法。
(付記238)
前記測定工程は、
前記第1測定工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較することにより、前記基準抗体と競合する競合抗体を測定する比較工程を含む、付記237記載の試験方法。
(付記239)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定する、付記227から238のいずれかに記載の試験方法。
(付記240)
前記抗体の量を、第1の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第1の試験工程を含む、付記239記載の試験方法。
(付記241)
前記第1の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体の量に基づき設定された閾値である、付記240記載の試験方法。
(付記242)
前記第1の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第1の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記241記載の試験方法。
(付記243)
前記被検者の生体試料について、Swタンパク質の中和抗体を測定する第3の測定工程を含む、付記227から242のいずれかに記載の試験方法。
(付記244)
前記中和抗体は、前記Swタンパク質の受容体結合ドメインに結合する抗体である、付記243記載の試験方法。
(付記245)
前記第3の測定工程において、前記中和抗体として、中和抗体の量を測定する、付記243または244記載の試験方法。
(付記246)
前記中和抗体の量を、第2の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第2の試験工程を含む、付記245記載の試験方法。
(付記247)
前記第2の閾値は、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記中和抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記中和抗体の量に基づき設定された閾値である、付記246記載の試験方法。
(付記248)
前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第2の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が低いとする、付記247記載の試験方法。
(付記249)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定し、
前記被検者の生体試料について、Swタンパク質の中和抗体の量を測定する第3の測定工程と、
前記測定工程における抗体の量(S)と、前記第3の測定工程における中和抗体の量(N)との抗体量比(S/N)を算出する算出工程と、
前記抗体量比を、第3の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第3の試験工程を含む、付記237から238のいずれかに記載の試験方法。
(付記250)
前記第3の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体量比、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体量比、および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記抗体量比に基づき設定された閾値である、付記249記載の試験方法。
(付記251)
前記第3の試験工程において、前記被検者の生体試料における前記抗体量比(S/N)が、前記第3の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記250記載の試験方法。
<第3の感染増強抗体の試験方法>
(付記252)
SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)に結合し、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を測定する測定工程を含む、試験方法。
(付記253)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記252記載の試験方法。
(付記254)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較することにより、前記抗体を測定する比較工程を含む、付記253記載の試験方法。
(付記255)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を測定する、付記252から254のいずれかに記載の試験方法。
(付記256)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記255記載の試験方法。
(付記257)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記第1の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較する比較工程を含む、付記256記載の試験方法。
(付記258)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を測定する、付記252から257のいずれかに記載の試験方法。
(付記259)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異が導入された第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記258記載の試験方法。
(付記260)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記第2の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較する比較工程を含む、付記259記載の試験方法。
(付記261)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない抗体を測定する、付記252から260のいずれかに記載の試験方法。
(付記262)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および/または214位のアミノ酸に変異が導入された第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記261記載の試験方法。
(付記263)
前記測定工程は、
前記第1測定工程における前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程における前記第3の変異タンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較する比較工程を含む、付記262記載の試験方法。
(付記264)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する、付記252から263のいずれかに記載の試験方法。
(付記265)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定する、付記252から264のいずれかに記載の試験方法。
(付記266)
前記抗体の量を、第1の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第1の試験工程を含む、付記265記載の試験方法。
(付記267)
前記第1の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体の量に基づき設定された閾値である、付記266記載の試験方法。
(付記268)
前記第1の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第1の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記267記載の試験方法。
(付記269)
前記被検者の生体試料について、前記Swタンパク質の中和抗体を測定する第3の測定工程を含む、付記252から268のいずれかに記載の試験方法。
(付記270)
前記中和抗体は、前記Swタンパク質の受容体結合ドメインに結合する抗体である、付記269記載の試験方法。
(付記271)
前記第3の測定工程において、前記中和抗体として、中和抗体の量を測定する、付記269または270記載の試験方法。
(付記272)
前記中和抗体の量を、第2の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第2の試験工程を含む、付記271記載の試験方法。
(付記273)
前記第2の閾値は、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記中和抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記中和抗体の量に基づき設定された閾値である、付記272記載の試験方法。
中和抗体
(付記274)
前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第2の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が低いとする、付記273記載の試験方法。
(付記275)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定し、
前記被検者の生体試料について、Swタンパク質の中和抗体の量を測定する第3の測定工程と、
前記測定工程における抗体の量(S)と、前記第3の測定工程における中和抗体の量(N)との抗体量比(S/N)を算出する算出工程と、
前記抗体量比を、第3の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第3の試験工程を含む、付記252から264のいずれかに記載の試験方法。
(付記276)
前記第3の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体量比、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体量比、および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記抗体量比に基づき設定された閾値である、付記275記載の試験方法。
(付記277)
前記第3の試験工程において、前記被検者の生体試料における前記抗体量比(S/N)が、前記第3の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記276記載の試験方法。
(付記278)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する、付記252から277のいずれかに記載の試験方法。
(付記279)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記252から278のいずれかに記載の試験方法。
<第4の感染増強抗体の試験方法>
(付記280)
SARS-CoV-2への感染しやすさの試験方法であって、
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)との結合について、基準抗体と競合する競合抗体を測定する測定工程を含み、
前記基準抗体は、
前記Swタンパク質を認識し、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)において、30位、32位、64位、65位、66位、186位、187位、211位、213位、214位、216位、および217位のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、試験方法。
(付記281)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、および/または66位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記280記載の試験方法。
(付記282)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、187位、213位、および/または214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記280または281記載の試験方法。
(付記283)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、65位、66位、187位、213位、および214位からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記280から282のいずれかに記載の試験方法。
(付記284)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、64位、66位、213位、および214位、64位、66位、187位、213位、および214位、または64位、65位、66位、187位、213位、および214位のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記280から283のいずれかに記載の試験方法。
(付記285)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有する変異タンパク質を認識しない、付記280から284のいずれかに記載の試験方法。
(付記286)
前記基準抗体は、前記(H)の重散可変領域と、前記(L)の軽鎖可変領域とを含む抗体である、付記280から285のいずれかに記載の試験方法。
(付記287)
前記基準抗体は、前記(1)~(5)および(6)からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記280から286のいずれかに記載の試験方法。
(付記288)
前記基準抗体は、前記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および(F)2660抗体からなる群から選択された少なくとも1つの抗体である、付記280から287のいずれかに記載の試験方法。
(付記289)
前記基準抗体は、前記Swタンパク質との結合により、前記Swタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合活性を増強させる、付記280から288のいずれかに記載の試験方法。
(付記290)
前記測定工程は、
Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第1の測定工程と、
前記基準抗体の存在下、Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料とを接触させ、前記Swタンパク質またはそのN末端ドメインと、前記生体試料における抗体との結合を測定する第2の測定工程とを含む、付記280から289のいずれかに記載の試験方法。
(付記291)
前記測定工程は、
前記第1測定工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果と、前記第2測定工程におけるSwタンパク質またはそのN末端ドメインに対する抗体の測定結果とを比較することにより、前記基準抗体と競合する競合抗体を測定する比較工程を含む、付記290記載の試験方法。
(付記292)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定する、付記280から291のいずれかに記載の試験方法。
(付記293)
前記抗体の量を、第1の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第1の試験工程を含む、付記292記載の試験方法。
(付記294)
前記第1の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体の量に基づき設定された閾値である、付記293記載の試験方法。
(付記295)
前記第1の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第1の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記294記載の試験方法。
(付記296)
前記被検者の生体試料について、前記Swタンパク質の中和抗体を測定する第3の測定工程を含む、付記280から295のいずれかに記載の試験方法。
(付記297)
前記中和抗体は、前記Swタンパク質の受容体結合ドメインに結合する抗体である、付記296記載の試験方法。
(付記298)
前記第3の測定工程において、前記中和抗体として、中和抗体の量を測定する、付記296または297記載の試験方法。
(付記299)
前記中和抗体の量を、第2の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第2の試験工程を含む、付記298記載の試験方法。
(付記300)
前記第2の閾値は、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記中和抗体の量および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記中和抗体の量に基づき設定された閾値である、付記299記載の試験方法。
中和抗体
(付記301)
前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料における抗体の量が、前記第2の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が低いとする、付記300記載の試験方法。
(付記302)
前記測定工程において、前記抗体として、抗体の量を測定し、
前記被検者の生体試料について、Swタンパク質の中和抗体の量を測定する第3の測定工程と、
前記測定工程における抗体の量(S)と、前記第3の測定工程における中和抗体の量(N)との抗体量比(S/N)を算出する算出工程と、
前記抗体量比を、第3の閾値と比較することにより、前記被検者がSARS-CoV-2に感染する可能性を試験する第3の試験工程を含む、付記280から301のいずれかに記載の試験方法。
(付記303)
前記第3の閾値は、健常者の生体試料における前記抗体量比、SARS-CoV-2の罹患者の生体試料における前記抗体量比、および/またはSARS-CoV-2の罹患後、回復した者の生体試料における前記抗体量比に基づき設定された閾値である、付記302記載の試験方法。
(付記304)
前記第3の試験工程において、前記被検者の生体試料における前記抗体量比(S/N)が、前記第3の閾値より高い場合、前記被検者は、SARS-CoV-2に罹患する可能性が高いとする、付記303記載の試験方法。
(付記305)
前記測定工程において、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、N30、F32、W64、F65、H66、F186、K187、N211、V213、R214、L216、およびP217のアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する、付記280から304のいずれかに記載の試験方法。
(付記306)
前記Swタンパク質は、前記Ssタンパク質である、付記280から305のいずれかに記載の試験方法。
<SARS-CoV-2の重症化の抑制方法>
(付記307)
被検者の生体試料から前記被検者のSARS-CoV-2の感染増強の可能性を試験する試験工程と、
前記試験工程において、感染増強の可能性があると評価された被検者に対して、SARS-CoV-2の治療薬を投与する投与工程とを含み、
前記試験工程は、付記200から306のいずれかに記載の試験方法により実施される、SARS-CoV-2の重症化の抑制方法。
<感染増強抗体の低減剤>
(付記308)
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の低減剤であって、
野生型Spikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインを含む、低減剤。
(付記309)
担体を含み、
前記Swタンパク質は、担体に保持されている、付記308記載の低減剤。
(付記310)
前記担体は、ビーズまたはフィルターである、付記309記載の低減剤。
<感染増強抗体の低減方法>
(付記311)
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の低減方法であって、
生体試料と、付記308から310のいずれかに記載の低減剤とを接触させることにより、前記生体試料における前記抗体を低減する低減工程を含む、低減方法。
(付記312)
前記低減工程に先立ち、対象から前記生体試料を取得する取得工程を含む、付記311記載の低減方法。
(付記313)
前記低減工程後、前記生体試料を、前記生体試料を取得した対象に投与する投与工程を含む、付記311または312記載の低減方法。
【産業上の利用可能性】
【0511】
以上のように、本発明によれば、SARS2のSタンパク質のACE2タンパク質への結合能を増強する抗体の誘導能を低減しうる。したがって、本発明の変異タンパク質によれば、例えば、ワクチン接種者におけるADEのリスクを低減できる。このため、本発明は、例えば、医薬分野等において極めて有用である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2022089707000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-04-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(Sm)のアミノ酸配列からなるタンパク質である、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体:
(Sm)下記(Sm1)、(Sm2)、または(Sm3)のアミノ酸配列:
(Sm1)野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されるアミノ酸配列;
(Sm2)(Sm1)のアミノ酸配列において、1~127個の挿入、付加、置換および/または欠失を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持され、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されているアミノ酸配列;
(Sm3)(Sm1)のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持され、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されているアミノ酸配列
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体
【請求項2】
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、請求項1記載の変異体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体のN末端ドメイン含む、変異ポリペプチド。
【請求項4】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体を含む、SARS-CoV-2の変異ウイルス。
【請求項5】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体および/または請求項記載の変異ポリペプチドを含む、ウイルス様粒子。
【請求項6】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体をコードする核酸分子および/または請求項記載の変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含む、核酸。
【請求項7】
請求項記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項8】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体、請求項記載の変異ポリペプチド、請求項記載の変異ウイルス、請求項記載のウイルス様粒子、請求項記載の核酸、および/または請求項記載の発現ベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項9】
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法であって、
標的SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Stタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異導入された候補タンパク質を生成する生成工程と、
前記変異導入後のStタンパク質から、基準抗体との結合が低減される変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する選抜工程とを含み、
前記基準抗体は、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体である、方法
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体
【請求項10】
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法であって、
候補SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Scタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されるScタンパク質を、前記Spikeタンパク質の変異体として選抜する選抜工程を含む、方法
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体
【請求項11】
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する検出工程を含む、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。
【請求項12】
SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出に用いるキットであって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、検出キット:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項13】
SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出に用いる試薬であって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、検出試薬:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項14】
SARS-CoV-2感染者における重症化の可能性の試験方法であって、
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を測定する測定工程を含む、試験方法。
【請求項15】
SARS-CoV-2感染者における重症化の可能性の試験に用いるキットであって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、試験キット:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項16】
SARS-CoV-2感染者における重症化の可能性の試験に用いる試薬であって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、試験試薬:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(Sm)のアミノ酸配列からなるタンパク質である、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質の変異体:
(Sm)下記(Sm1)、(Sm2)、または(Sm3)のアミノ酸配列:
(Sm1)野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されるアミノ酸配列;
(Sm2)(Sm1)のアミノ酸配列において、1~127個の挿入、付加、置換および/または欠失を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持され、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されているアミノ酸配列;
(Sm3)(Sm1)のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、かつ、(Sm1)の変異されたアミノ酸が維持され、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されているアミノ酸配列;
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項2】
前記(Sm1)のアミノ酸配列は、前記Swタンパク質において、前記Ssタンパク質における、W64、H66、V213、およびR214、W64、H66、K187、V213、およびR214、またはW64、F65、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有するアミノ酸配列である、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体のN末端ドメイン含む、変異ポリペプチド。
【請求項4】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体を含む、SARS-CoV-2の変異ウイルス。
【請求項5】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体および/または請求項3記載の変異ポリペプチドを含む、ウイルス様粒子。
【請求項6】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体をコードする核酸分子および/または請求項3記載の変異ポリペプチドをコードする核酸分子を含む、核酸。
【請求項7】
請求項6記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項8】
請求項1または2に記載のSpikeタンパク質の変異体、請求項3記載の変異ポリペプチド、請求項4記載の変異ウイルス、請求項5記載のウイルス様粒子、請求項6記載の核酸、および/または請求項7記載の発現ベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項9】
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体の製造方法であって、
標的SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Stタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異が導入された候補タンパク質を生成する生成工程と
前記変異導入後のStタンパク質から、基準抗体との結合が低減される変異を有する候補タンパク質を、前記変異体として選抜する選抜工程とを含み、
前記基準抗体は、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体である、方法:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項10】
SARS-CoV-2のSpikeタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能を増強する抗体の誘導能が低減されたSpikeタンパク質の変異体のスクリーニング方法であって、
候補SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Scタンパク質)のアミノ酸配列において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減されるScタンパク質を、前記Spikeタンパク質の変異体として選抜する選抜工程を含む、方法:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項11】
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体を検出する検出工程を含む、SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出方法。
【請求項12】
SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出に用いるキットであって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、検出キット:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項13】
SARS-CoV-2の感染増強抗体の検出に用いる試薬であって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、検出試薬:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項14】
SARS-CoV-2感染者における重症化の可能性の試験方法であって、
被検者の生体試料について、野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基に対応するアミノ酸を認識する抗体の量を測定する測定工程と
前記抗体の量を、第1の閾値と比較することにより、前記被検者の重症化の可能性を試験する第1の試験工程とを含み、
前記第1の閾値は、健常者および/またはSARS-CoV-2感染者から単離した生体試料における前記抗体の量であり、
前記第1の試験工程において、
前記被検者の生体試料における前記抗体の量が、前記健常者の生体試料における前記抗体の量よりも高い場合、前記感染者の生体試料における前記抗体の量と同じ場合、および/または、前記感染者の生体試料における前記抗体の量よりも高い場合、前記被検者は、重症化する可能性がある、または重症化する可能性が高いとし、
前記被検者の生体試料における前記抗体の量が、前記健常者の生体試料における前記抗体の量と同じ場合、前記健常者の生体試料における前記抗体の量よりも低い場合、および/または、前記感染者の生体試料における前記抗体の量よりも低い場合、前記被検者は、重症化する可能性がない、または重症化する可能性が低いとする、試験方法。
【請求項15】
SARS-CoV-2感染者における重症化の可能性の試験に用いるキットであって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、試験キット:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。
【請求項16】
SARS-CoV-2感染者における重症化の可能性の試験に用いる試薬であって、
野生型SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Swタンパク質)またはそのN末端ドメインと、
前記Swタンパク質において、基準SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(Ssタンパク質、配列番号1)における、W64、H66、K187、V213、およびR214のアミノ酸からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基と対応するアミノ酸に変異を有し、前記変異により、下記(A)2210抗体、(B)2490抗体、(C)8D2抗体、(D)2582抗体、(E)2369抗体、および/または(F)2660抗体との結合が低減された変異タンパク質またはそのN末端ドメインとを含む、試験試薬:
(A)配列番号98のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号99のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(B)配列番号100のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号101のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(C)配列番号102のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号103のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(D)配列番号104のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(E)配列番号106のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号107のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体;
(F)配列番号108のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号109のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、を含む抗体。