(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089708
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】ダイカストマシン
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20220609BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
B22D17/20 G
B22D17/32 Z
B22D17/32 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202323
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000222587
【氏名又は名称】東洋機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺田 貴明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 光貴
(57)【要約】
【課題】サーボバルブの不具合によるダウンタイムを削減すると共に、低コストで大型化を実現したダイカストマシンを提供する。
【解決手段】ダイカストマシンは、作動油を貯留する作動油タンク(41)と、予め蓄圧した作動油をヘッド側供給流路(L
2)を通じてヘッド室(37)に供給するアキュームレータ(44)と、ロッド室(38)から作動油タンクに至る戻り流路(L
4)に配置されて、戻り流路(L
4)を開放してプランジャの前進を許容する許容位置(I)、及び戻り流路(L
4)を遮断してプランジャの前進を制動する制動位置(G)の間で開度を調整可能な第1サーボバルブ(50)と、戻り流路(L
4)に第1サーボバルブ(50)と並列に配置されて、許容位置(I)及び制動位置(G)の間で開度を調整可能な第2サーボバルブ(51)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に形成されたキャビティに連通するスリーブと、
前記スリーブ内で前記キャビティに向けて前進することによって、前記スリーブ内の溶湯金属を前記キャビティに供給するプランジャと、
作動油がヘッド室に供給されることによって前記プランジャを前進させ、作動油がロッド室に供給されることによって前記プランジャを後退させる油圧シリンダと、
前記ヘッド室及び前記ロッド室に作動油を給排する油圧回路とを備えるダイカストマシンであって、
前記油圧回路は、
作動油を貯留する作動油タンクと、
予め蓄圧した作動油を、ヘッド側供給流路を通じて前記ヘッド室に供給するアキュームレータと、
前記ロッド室から前記作動油タンクに至る戻り流路に配置されて、前記戻り流路を開放して前記プランジャの前進を許容する許容位置、及び前記戻り流路を遮断して前記プランジャの前進を制動する制動位置の間で開度を調整可能な第1サーボバルブと、
前記戻り流路に前記第1サーボバルブと並列に配置されて、前記許容位置及び前記制動位置の間で開度を調整可能な第2サーボバルブとを備えることを特徴とするダイカストマシン。
【請求項2】
前記プランジャの前進速度の入力を受け付ける入力部と、
前記油圧回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記入力部に入力された前進速度が閾値速度より速い場合に、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブの両方を使用して、前記プランジャの前進速度を制御し、
前記入力部に入力された前進速度が前記閾値速度以下の場合に、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブの一方を使用して、前記プランジャの前進速度を制御することを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン。
【請求項3】
前記制御装置は、前記閾値速度以下の前進速度で前記プランジャを繰り返し前進させる場合において、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブをN(Nは1以上の整数)回ずつ交互に使用して、前記プランジャの前進速度を制御することを特徴とする請求項2に記載のダイカストマシン。
【請求項4】
前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブの故障を検知するセンサを備え、
前記制御装置は、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブの一方の故障が前記センサによって検知された場合に、前記入力部に入力可能な前進速度を前記閾値速度以下に制限すると共に、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブの他方を使用して、前記プランジャの前進速度を制御することを特徴とする請求項2または3に記載のダイカストマシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯金属を金型内に射出して成形品を成形するダイカストマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金型のキャビティに連通するスリーブ内に配置されたプランジャと、スリーブ内でプランジャを進退させる油圧シリンダとを備えるダイカストマシンが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、特許文献2に記載されているようなサーボバルブを、油圧シリンダのロッド室から作動油タンクに至る戻り油路に配置して、プランジャの前進速度を制御するダイカストマシンも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-155378号公報
【特許文献2】特開昭53-6775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成のサーボバルブは、作動油に含まれる金属粉などの異物混入(所謂、コンタミネーション)の影響を受けやすい。そして、サーボバルブのスプールがコンタミネーションによって損傷すると、プランジャの前進速度を適切に制御できなくなるという課題がある。
【0006】
また、ダイカストマシンの大型化(1回に射出可能な溶湯金属の増量)を実現しようとすると、戻り流路を流れる作動油の流量を増やす必要があり、必然的にサーボバルブも大型化する。しかしながら、大型のサーボバルブは非常に高価であり、これがダイカストマシンの大型化を阻む一因となっている。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、サーボバルブでプランジャの前進速度を制御するダイカストマシンにおいて、サーボバルブの不具合によるダウンタイムを削減すると共に、低コストで大型化を実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、金型内に形成されたキャビティに連通するスリーブと、前記スリーブ内で前記キャビティに向けて前進することによって、前記スリーブ内の溶湯金属を前記キャビティに供給するプランジャと、作動油がヘッド室に供給されることによって前記プランジャを前進させ、作動油がロッド室に供給されることによって前記プランジャを後退させる油圧シリンダと、前記ヘッド室及び前記ロッド室に作動油を給排する油圧回路とを備えるダイカストマシンであって、前記油圧回路は、作動油を貯留する作動油タンクと、予め蓄圧した作動油を、ヘッド側供給流路を通じて前記ヘッド室に供給するアキュームレータと、前記ロッド室から前記作動油タンクに至る戻り流路に配置されて、前記戻り流路を開放して前記プランジャの前進を許容する許容位置、及び前記戻り流路を遮断して前記プランジャの前進を制動する制動位置の間で開度を調整可能な第1サーボバルブと、前記戻り流路に前記第1サーボバルブと並列に配置されて、前記許容位置及び前記制動位置の間で開度を調整可能な第2サーボバルブとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、サーボバルブの不具合によるダウンタイムを削減すると共に、ダイカストマシンの大型化を低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るダイカストマシンの側面図である。
【
図3】ダイカストマシンのハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係るダイカストマシン10の側面図である。ダイカストマシン10は、金型内に溶湯金属を射出して、成形品を製造する。
図1に示すように、ダイカストマシン10は、型締装置20と、射出装置30とを主に備える。
【0012】
型締装置20は、金型21の開閉及び型締を行う。具体的には、型締装置20は、固定側金型22を支持する固定ダイプレート23と、可動側金型24を支持する可動ダイプレート25とを主に備える。固定側金型22及び可動側金型24は、ダイカストマシン10の左右方向(水平方向)において、互いに対面するように支持されている。
【0013】
可動ダイプレート25は、型開閉シリンダ26の駆動力がトグルリンク機構27を通じて伝達されることによって、タイバー28に沿って左右方向に移動する。可動ダイプレート25が左方向に移動すると、固定側金型22と可動側金型24とが離間(型開)する。一方、可動ダイプレート25が右方向に移動すると、固定側金型22と可動側金型24とが当接(型閉)する。そして、可動ダイプレート25を右方向に移動させる向きの圧力がさらに加わると、固定側金型22及び可動側金型24が型締される。
【0014】
射出装置30は、型締された金型21内に溶湯金属を射出する。射出装置30は、射出スリーブ(スリーブ)31と、プランジャ32と、油圧シリンダ33と、油圧回路40とを主に備える。本実施形態に係る射出装置30は、型締装置20と水平方向(型締装置20の右方)に離間して配置されている。
【0015】
射出スリーブ31は、固定ダイプレート23に取り付けられた円筒形状の部材である。射出スリーブ31の先端部は、型締された金型21の内部空間(以下、「キャビティ」と表記する。)に連通している。また、射出スリーブ31には、ラドル(図示省略)によって供給された溶湯金属が貯留される。
【0016】
プランジャ32は、射出スリーブ31内に進退可能に収容されている。プランジャ32が前進すると、射出スリーブ31に貯留された溶湯金属がキャビティに供給される。一方、プランジャ32が後退すると、ラドルから供給される溶湯金属を貯留する空間が射出スリーブ31内に形成される。
【0017】
油圧シリンダ33は、作動油が供給及び排出(以下、「給排」と表記する。)されて伸縮することによって、プランジャ32を進退させる。油圧シリンダ33への作動油の給排は、油圧回路40によって行われる。
図2に示すように、油圧シリンダ33は、シリンダチューブ34と、ピストン35と、ロッド36とで構成される。
【0018】
ピストン35は、シリンダチューブ34内を移動可能に構成されている。また、ピストン35は、シリンダチューブ34内を、ヘッド室37及びロッド室38に区画する。ロッド36は、基端がピストン35に接続され、シリンダチューブ34の外部に突出して、先端にプランジャ32が接続されている。
【0019】
ヘッド室37に作動油が供給され且つロッド室38から作動油が排出されると、ピストン35がロッド室38側に移動して、ロッド36が伸長する。これにより、射出スリーブ31内でプランジャ32が前進する。一方、ロッド室38に作動油が供給され且つヘッド室37から作動油が排出されると、ピストン35がヘッド室37側に移動して、ロッド36が縮小する。これにより、射出スリーブ31内でプランジャ32が後退する。
【0020】
また、
図2に示すように、ロッド36の位置は、位置センサ39によって検知される。位置センサ39は、ロッド36の位置を検知し、検知結果を示す位置信号を後述する制御装置60に出力する。位置センサ39は、例えば、リニアエンコーダである。
【0021】
図2は、油圧回路40の回路図である。
図2に示すように、油圧回路40は、作動油タンク41と、モータ42と、油圧ポンプ43と、アキュームレータ44と、チャージバルブ45と、前進制御バルブ46と、チェックバルブ47と、フィルタ48と、後退制御バルブ49と、第1サーボバルブ50と、第2サーボバルブ51とを主に備える。以下、第1サーボバルブ50及び第2サーボバルブ51を総称して、「サーボバルブ50、51」と表記することがある。
【0022】
油圧ポンプ43とアキュームレータ44とは、チャージ流路L1によって接続されている。アキュームレータ44と油圧シリンダ33のヘッド室37とは、チャージ流路L1から分岐したヘッド側供給流路L2によって接続されている。油圧ポンプ43と油圧シリンダ33のロッド室38とは、チャージ流路L1から分岐したロッド側供給流路L3によって接続されている。油圧シリンダ33のロッド室38とサーボバルブ50、51とは、ロッド側供給流路L3から分岐した戻り流路L4によって接続されている。
【0023】
作動油タンク41は、作動油を貯留する。モータ42は、油圧ポンプ43を駆動するための駆動力を発生させる。油圧ポンプ43は、モータ42の駆動力が伝達されて、作動油タンク41に貯留された作動油をチャージ流路L1に圧送する。
【0024】
アキュームレータ44は、作動油を圧縮した状態で貯留(蓄圧)し、圧縮された作動油を油圧シリンダ33のヘッド室37に供給する。より詳細には、アキュームレータ44には、チャージ流路L1を通じて油圧ポンプ43から供給される作動油が蓄圧される。また、アキュームレータ44から排出される作動油は、ヘッド側供給流路L2を通じてヘッド室37に供給される。
【0025】
チャージバルブ45は、チャージ流路L1に配置されている。より詳細には、チャージバルブ45は、チャージ流路L1のヘッド側供給流路L2との分岐位置より油圧ポンプ43側で、且つロッド側供給流路L3との分岐位置よりアキュームレータ44側に配置されている。チャージバルブ45は、非チャージ位置Aと、チャージ位置Bとに切替可能に構成されている。
【0026】
非チャージ位置Aは、チャージ流路L1を閉塞して、油圧ポンプ43から供給される作動油をアキュームレータ44にチャージ不能にする位置である。チャージ位置Bは、チャージ流路L1を開放して、油圧ポンプ43から供給される作動油をアキュームレータ44にチャージ(蓄圧)可能にする位置である。
【0027】
チャージバルブ45の初期位置は、非チャージ位置Aである。また、チャージバルブ45は、制御装置60から制御電圧が印加されることによって、非チャージ位置Aからチャージ位置Bに切り替えられる。さらに、チャージバルブ45は、制御装置60からの制御電圧の印加が停止することによって、再びチャージ位置Bから非チャージ位置Aに切り替えられる。
【0028】
前進制御バルブ46は、ヘッド側供給流路L2に配置されている。前進制御バルブ46は、還流位置Cと、供給位置Dとに切替可能に構成されている。還流位置Cは、アキュームレータ44及びヘッド室37の間を遮断し、ヘッド室37内の作動油を作動油タンク41に還流させる位置である。供給位置Dは、アキュームレータ44に蓄圧された作動油をヘッド室37に供給し、ヘッド室37及び作動油タンク41の間を遮断する位置である。
【0029】
前進制御バルブ46の初期位置は、還流位置Cである。また、前進制御バルブ46は、制御装置60から制御電圧が印加されることによって、還流位置Cから供給位置Dに切り替えられる。さらに、前進制御バルブ46は、制御装置60からの制御電圧の印加が停止することによって、再び供給位置Dから還流位置Cに切り替えられる。
【0030】
チェックバルブ47は、ロッド側供給流路L3に配置されている。より詳細には、チェックバルブ47は、ロッド側供給流路L3の戻り流路L4との分岐位置より油圧ポンプ43側に配置されている。チェックバルブ47は、油圧ポンプ43からロッド室38への向かう作動油の流れを許容し、ロッド室38から油圧ポンプ43へ向かう作動油の流れを遮断する。
【0031】
フィルタ48は、ロッド側供給流路L3に配置されている。より詳細には、フィルタ48は、チェックバルブ47より油圧ポンプ43側で且つ後退制御バルブ49よりロッド室38側に配置されている。フィルタ48は、油圧ポンプ43から供給された作動油が通過することによって、作動油に含まれる異物(例えば、金属粉など)を除去する。また、フィルタ48は、着脱(交換)可能に構成されている。
【0032】
後退制御バルブ49は、ロッド側供給流路L3に配置されている。より詳細には、後退制御バルブ49は、ロッド側供給流路L3のチェックバルブ47(より詳細には、フィルタ48)より油圧ポンプ43側に配置されている。後退制御バルブ49は、閉塞位置Eと、開放位置Fとに切替可能に構成されている。
【0033】
閉塞位置Eは、ロッド側供給流路L3を閉塞して、油圧ポンプ43からロッド室38への作動油の供給を停止する位置である。開放位置Fは、ロッド側供給流路L3を開放して、油圧ポンプ43からロッド室38へ作動油を供給する位置である。
【0034】
後退制御バルブ49の初期位置は、閉塞位置Eである。また、後退制御バルブ49は、制御装置60から制御電圧が印加されることによって、閉塞位置Eから開放位置Fに切り替えられる。さらに、後退制御バルブ49は、制御装置60からの制御電圧の印加が停止することによって、再び開放位置Fから閉塞位置Eに切り替えられる。
【0035】
サーボバルブ50、51は、戻り流路L4に並列に配置されている。ロッド室38から作動油タンク41に至る戻り流路L4は、第1サーボバルブ50を通過するルートと、第2サーボバルブ51を通過するルートとを有する。また、サーボバルブ50、51は、制御装置60の制御に従って、後述する制動位置G、ループ位置H、許容位置Iの間でスプール開度(開度)を調整可能な比例弁である。サーボバルブ50、51は、流量特性が同一であるのが望ましい。サーボバルブ50、51の構成は共通するので、以下、第1サーボバルブ50について詳細に説明する。
【0036】
第1サーボバルブ50は、一対のパイロットポート50a、50bを備える。第1サーボバルブ50は、アキュームレータ(図示省略)から一対のパイロットポート50a、50bのいずれかにパイロット圧油が供給されることによって、制動位置Gと、ループ位置Hと、許容位置Iとの間でスプールが移動する。また、アキュームレータからパイロットポート50a、50bに至る流路には、フィルタ53が配置されている。
【0037】
制動位置Gは、戻り流路L4を遮断して、ロッド室38内の作動油が作動油タンク41に還流するのを阻止(換言すれば、プランジャ32の前進を制動)する位置である。ループ位置Hは、戻り流路L4のロッド室38側と、戻り流路L4の作動油タンク41側とを、独立したループ流路にする位置である。許容位置Iは、戻り流路L4を開放して、ロッド室38内の作動油が作動油タンク41に還流するのを許容(換言すれば、プランジャ32の前進を許容)する位置である。
【0038】
第1サーボバルブ50の初期位置は、制動位置Gである。また、サーボアンプ(図示省略)は、制御装置60から出力されるプランジャ32の前進速度の指令値に従って、パイロットポート50a、50bへのパイロット圧油の供給量を制御することによって、制動位置Gからループ位置Hまたは許容位置Iに向けてスプール開度を調整する。さらに、サーボアンプは、プランジャ32の現実の前進速度(以下、「実測値」と表記する。)を検出し、実測値が指令値に近づくようにスプール開度を調整する。
【0039】
また、第1サーボバルブ50には、故障検知センサ50cが設けられている。故障検知センサ50cは、第1サーボバルブ50の故障を検知し、検知結果を示す故障信号を制御装置60に出力する。故障検知センサ50cの具体的な構成は特に限定されないが、例えば、以下の構成が考えられる。
【0040】
一例として、故障検知センサ50cは、第1サーボバルブ50の上流側の油圧(一次圧)と、第1サーボバルブ50の下流側の油圧(二次圧)とを検知し、検知した圧力を示す圧力信号(故障信号)を制御装置60に出力する圧力センサでもよい。そして、制御装置60は、サーボアンプに出力した指令値と、一次圧及び二次圧の圧力差との関係に基づいて、第1サーボバルブ50が故障しているか否かを判定すればよい。
【0041】
他の例として、故障検知センサ50cは、第1サーボバルブ50のスプールの位置を検知し、検知した位置を示す位置信号(故障信号)を制御装置60に出力する位置センサでもよい。そして、制御装置60は、サーボアンプに出力した指令値と、スプールの位置との関係に基づいて、第1サーボバルブ50が故障しているか否かを判定すればよい。
【0042】
図3は、ダイカストマシン10のハードウェア構成図である。ダイカストマシン10は、制御装置60を備える。制御装置60は、例えば、演算手段であるCPU(Central Processing Unit)61、各種プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)62、及び演算手段の作業領域となるRAM(Random Access Memory)63を備える。そして、ROM62に記憶されたプログラムをCPU61が読み出して実行することによって、後述する各処理を実現してもよい。
【0043】
但し、制御装置60の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0044】
制御装置60は、ダイカストマシン10全体の動作を制御する。より詳細には、制御装置60は、位置センサ39から出力される位置信号と、故障検知センサ50c、51cから出力される故障信号とを取得する。また、制御装置60は、表示部として機能する表示入力装置64に情報を表示し、入力部として機能する表示入力装置64を通じて情報の入力を受け付ける。また、制御装置60は、チャージバルブ45、前進制御バルブ46、及び後退制御バルブ49へ制御電圧を印加及び印加停止する。さらに、制御装置60は、サーボバルブ50、51のサーボアンプに指令値を出力することによって、プランジャ32の前進速度を制御する(所謂、ALL-OUT制御)。
【0045】
より詳細には、制御装置60は、前進制御バルブ46を還流位置Cから供給位置Dに切り替えられることによって、ヘッド側供給流路L2を通じてアキュームレータ44からヘッド室37に予め定められた圧力(流量)の作動油が供給される。また、制御装置60は、サーボバルブ50、51のスプール開度を調整することによって、戻り流路L4を通じてロッド室38から作動油タンク41に還流する作動油の流量を調整する。
【0046】
すなわち、制御装置60は、サーボバルブ50、51のスプール開度を増大させることによって、プランジャ32を加速させる。一方、制御装置60は、サーボバルブ50、51のスプール開度を減小させることによって、プランジャ32を減速(制動)させる。また、サーボバルブ51、51のスプール開度が小さいほど、プランジャ32の減速度(制動力)は大きくなる。
【0047】
表示入力装置64は、オペレータに報知すべき各種情報を表示するディスプレイ、及びオペレータによる操作を受け付けるボタン、スイッチ、ダイヤルなどを備えるユーザインタフェースである。また、表示入力装置64は、ディスプレイに重畳されたタッチパネルを備えてもよい。表示入力装置64は、オペレータの入力操作を受け付けて、受け付けた入力操作に対応する入力信号を制御装置60に出力する。
【0048】
次に、
図4を参照して、前進速度設定処理を説明する。
図4は、前進速度設定処理のフローチャートである。前進速度設定処理は、プランジャ32の前進速度Vをオペレータに設定させる処理である。制御装置60は、例えば、表示入力装置64を通じたオペレータの指示によって、前進速度設定処理を開始する。
【0049】
まず、制御装置60は、故障検知センサ50c、51cから出力される故障信号に基づいて、サーボバルブ50、51が故障しているか否かを判定する(S11)。そして、制御装置60は、サーボバルブ50、51の少なくとも一方が故障していないと判定した場合に、表示入力装置64を通じてオペレータにプランジャ32の前進速度Vを入力させる。一方図示は省略するが、制御装置60は、サーボバルブ50、51の両方が故障していると判定した場合に、表示入力装置64を通じてダイカストマシン10のメンテナンスを促して、ステップS12以降の処理を実行せずに前進速度設定処理を終了する。
【0050】
より詳細には、制御装置60は、サーボバルブ50、51の両方が故障していないと判定した場合に(S11:No)、下限速度(MIN)及び上限速度(MAX)の範囲で前進速度Vを入力させる(S12)。一方、制御装置60は、サーボバルブ50、51の一方が故障し、他方が故障していないと判定した場合に(S11:Yes)、予め定められた下限速度(MIN)及び閾値速度(Vth)の範囲で前進速度Vを入力させる(S13)。
【0051】
下限速度は、予め定められたプランジャ32の前進速度の下限値であって、上限速度及び閾値速度より遅い速度である。下限速度は、サーボバルブ50、51の一方のみを使用して、実現可能な値である。
【0052】
上限速度は、予め定められたプランジャ32の前進速度の上限値であって、下限速度及び閾値速度より速い速度である。上限速度は、サーボバルブ50、51の一方のみでは実現できず、サーボバルブ50、51の両方を使用して実現可能な値である。上限速度は、例えば、サーボバルブ50、51の両方のスプール開度を最大(位置I)にすることによって実現される。
【0053】
閾値速度は、下限速度及び上限速度の間の予め定められた速度である。閾値速度は、サーボバルブ50、51の一方のみを使用して、実現可能な値である。閾値速度は、例えば、サーボバルブ50、51の一方のスプール開度を最大(位置I)にし、サーボバルブ50、51の他方のスプール開度を最小(位置G)にすることによって実現される。この場合の閾値速度は、上限速度の半分の速度である。
【0054】
制御装置60は、表示入力装置64を通じてオペレータが前進速度Vを入力するまで(S14:No)、ステップS15以降の処理の実行を待機する。そして、制御装置60は、表示入力装置64を通じてオペレータが前進速度Vを入力したことによって(S14:Yes)、入力された前進速度VをRAM63に記憶させて(S15)、前進速度設定処理を終了する。
【0055】
次に、
図5を参照して、射出制御処理を説明する。
図5は、射出制御処理のフローチャートである。射出制御処理は、複数の成形品を連続して成形する処理である。射出制御処理の開始時点において、金型21は型締され、射出スリーブ31には溶湯金属が貯留され、アキュームレータ44には所定圧力の作動油が蓄圧されているものとする。また、射出制御処理で成形される成形品の数を成形数M
thとし、現在の成形品の成形数を保持する変数をMとする。
【0056】
まず、制御装置60は、変数Mを初期化(=1)する。次に、制御装置60は、チャージバルブ45を非チャージ位置Aにし、前進制御バルブ46を供給位置Dにし、後退制御バルブ49を閉塞位置Eにし、サーボバルブ50のスプール開度を
図6に従って調整する(S21、射出前進)。
図6は、前進速度制御処理のフローチャートである。
【0057】
制御装置60は、前進速度設定処理で設定された前進速度Vと、閾値速度Vthとを比較する(S31)。そして、制御装置60は、前進速度Vが閾値速度Vthより速い場合に(S31:Yes)、サーボバルブ50、51の両方のスプール開度を前進速度Vに応じて調整する(S32)。すなわち、前進速度Vが大きいほど、サーボバルブ50、51両方のスプール開度が大きくなる。
【0058】
また、制御装置60は、前進速度Vが閾値速度Vth以下の場合に(S31:No)、サーボバルブ50、51の一方が故障しているか否かを判定する(S33)。そして、制御装置60は、サーボバルブ50、51の一方が故障していると判定した場合に(S33:Yes)、サーボバルブ50、51の他方のスプール開度を前進速度Vに応じて調整すると共に、サーボバルブ50、51の一方(すなわち、故障した方のサーボバルブ)を制動位置Gに維持する(S34)。
【0059】
さらに、制御装置60は、サーボバルブ50、51の両方が故障していないと判定した場合に(S33:No)、変数Mが奇数か否かを判定する(S35)。そして、制御装置60は、変数Mが奇数の場合に(S35:Yes)、第1サーボバルブ50のスプール開度を前進速度Vに応じて調整すると共に、第2サーボバルブ51を制動位置Gに維持する(S36)。一方、制御装置60は、変数Mが偶数の場合に(S35:No)、第2サーボバルブ51のスプール開度を前進速度Vに応じて調整すると共に、第1サーボバルブ50を制動位置Gに維持する(S37)。
【0060】
これにより、ヘッド側供給流路L2を通じてアキュームレータ44からヘッド室37に作動油が供給され、戻り流路L4を通じてロッド室38から作動油タンク41に作動油が排出される。その結果、前進速度設定処理で設定された前進速度Vでプランジャ32が前進し、射出スリーブ31内の溶湯金属がキャビティ内に射出される。
【0061】
次に、制御装置60は、位置センサ39から出力される位置信号に基づいて、プランジャ32が予め定められた前進位置に到達するまで(S22:No)、ステップS21の状態を維持する。そして、制御装置60は、プランジャ32が前進位置に到達した後に(S22:Yes)、型締装置20に金型21を型開させると共に、可動側金型24に保持された成形品をロボットアーム(図示省略)に取り出させる。
【0062】
また、制御装置60は、型締装置20による型開き動作に連動して、サーボバルブ50、51の一方を制動位置Gとし、サーボバルブ50、51の他方を予め定められた突出し速度に対応するスプール開度に調整する(S23、突出)。なお、他のバルブ45、46、49の状態は、ステップS21と同様である。これにより、プランジャ32は、前進速度から突出し速度まで減速(制動)し、低速でビスケットに押し付けられて、型開き動作に連動して固定側金型22からビスケットを突出す。
【0063】
なお、ビスケットとは、型開された固定側金型21内において、射出スリーブ31とキャビティとの間の空間(湯口)に残存する固化した金属を指す。また、突出し速度は、前進速度よりも十分に遅い速度である。また、ステップS23において、サーボバルブ50、51のどちらを制動位置Gとするかは、例えば、
図6のステップS35~S37と同様であってもよい。さらに、ステップS23の処理中は、アキュームレータ44から作動油を供給せずに、不図示の流路を通じて油圧ポンプ43から作動油が供給されるようにしてもよい。
【0064】
次に、制御装置60は、ステップS23の実行時点からビスケットの突出しが完了するまで(S24:No)、ステップS23の状態を維持する。そして、制御装置60は、ビスケットの突出しが完了したタイミングで(S24:Yes)、チャージバルブ45を非チャージ位置Aにし、前進制御バルブ46を還流位置Cにし、後退制御バルブ49を開放位置Fにし、サーボバルブ50、51を制動位置Gにする(S25、射出後退)。これにより、ロッド側供給流路L3を通じて油圧ポンプ43からロッド室38に作動油が供給され、前進制御バルブ46を通じてヘッド室37から作動油タンク41に作動油が排出される。
【0065】
次に、制御装置60は、位置センサ39から出力される位置信号に基づいて、プランジャ32が予め定められた後退位置に到達するまで(S26:No)、ステップS25の状態を維持する。そして、制御装置60は、プランジャ32が後退位置に到達したタイミングで(S26:Yes)、チャージバルブ45を非チャージ位置Aにし、前進制御バルブ46を還流位置Cにし、後退制御バルブ49を閉塞位置Eにし、サーボバルブ50、51を制動位置Gにする(S27、射出動作完了)。これにより、プランジャ32が後退位置で停止する。
【0066】
また図示は省略するが、制御装置60は、ステップS25~S27の処理と並行して、射出スリーブ31に溶湯金属を貯留する。さらに図示は省略するが、制御装置60は、アキュームレータ44内の作動油の圧力が下限値を下回った場合に、チャージバルブ45をチャージ位置Bに切り替える。これにより、チャージ流路L1を通じて油圧ポンプ43からアキュームレータ44に作動油が供給される。そして、制御装置60は、アキュームレータ44内の作動油の圧力が上限値に達したタイミングでチャージバルブ45を非チャージ位置Aに切り替える。アキュームレータ44に作動油をチャージする処理は、例えば、型開、成形品の取出し、溶湯金属の補給などと並行して実行される。
【0067】
次に、制御装置60は、変数Mと、成形数Mthとを比較する(S28)。そして、制御装置60は、変数Mが成形数Mthに到達していないと判定した場合に(S28:No)、変数Mに1を加算して(S29)、ステップS21~S27の射出処理を再び実行する。一方、制御装置60は、変数Mが成形数Mthに達したと判定した場合に(S28:Yes)、射出制御処理を終了する。
【0068】
すなわち、制御装置60は、成形数M
thの成形品を成形するまでステップS21~S29の射出処理を繰り返す。そして、制御装置60は、前進速度Vが閾値速度V
th以下で且つサーボバルブ50、51の両方が故障していない場合に、繰り返し実行されるステップS21(
図6のS35~S37)において、サーボバルブ50、51を交互に使用してプランジャ32の前進速度Vを制御する。
【0069】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0070】
上記の実施形態によれば、サーボバルブ50、51を戻り流路L4に並列に配置したので、一方のサーボバルブ50、51が故障したとしても、他方のサーボバルブ50、51でALL-OUT制御を継続することができる。また、サーボバルブ50、51の両方を使用してALL-OUT制御を実行することにより、小型のサーボバルブ50、51で1回に射出可能な溶湯金属の量を増やすことができる。すなわち、サーボバルブ50、51の不具合によるダウンタイムを削減すると共に、ダイカストマシン10の大型化を低コストで実現することができる。
【0071】
また、上記の実施形態によれば、前進速度Vが閾値速度Vth以下の場合に、サーボバルブ50、51を交互に使用してプランジャ32の前進速度Vを制御することによって、長期間に亘ってサーボバルブ50、51を使用しないことによるスプールの固着を防止することができる。なお、上記の実施形態では、サーボバルブ50、51を1回ずつ交互に使用する例を説明したが、N(Nは1以上の整数)回ずつ交互に使用してもよい。
【0072】
さらに、上記の実施形態によれば、サーボバルブ50、51の一方が故障した場合に、前進速度設定処理で設定可能な前進速度Vを下限速度(MIN)~閾値速度(Vth)の範囲に制限すると共に、サーボバルブ50、51の他方を使用してALL-OUT制御を実行する。これにより、制限された性能の範囲内で射出成形を継続することができる。
【0073】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
10…ダイカストマシン、20…型締装置、21…金型、22…固定側金型、23…固定ダイプレート、24…可動側金型、25…可動ダイプレート、26…型開閉シリンダ、27…トグルリンク機構、28…タイバー、30…射出装置、31…射出スリーブ、32…プランジャ、33…油圧シリンダ、34…シリンダチューブ、35…ピストン、36…ロッド、37…ヘッド室、38…ロッド室、39…位置センサ、40…油圧回路、41…作動油タンク、42…モータ、43…油圧ポンプ、44…アキュームレータ、45…チャージバルブ、46…前進制御バルブ、47…チェックバルブ、48…フィルタ、49…後退制御バルブ、50,51…サーボバルブ、50a,50b,51a,51b…パイロットポート、50c,51c…故障検知センサ、60…制御装置、61…CPU、62…ROM、64…報知装置