IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キャスティングインの特許一覧

<>
  • 特開-液体散布方法 図1
  • 特開-液体散布方法 図2
  • 特開-液体散布方法 図3
  • 特開-液体散布方法 図4
  • 特開-液体散布方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089775
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】液体散布方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/18 20060101AFI20220609BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220609BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220609BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
A61L2/18
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193089
(22)【出願日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020201498
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503205481
【氏名又は名称】株式会社キャスティングイン
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌平
【テーマコード(参考)】
4C058
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058AA26
4C058AA30
4C058BB07
4C058DD07
4C058DD11
4C058EE03
4C058JJ06
4C058JJ22
4C058JJ28
4C058JJ29
4H011AA02
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】 散布されて処理対象物に付着した液体が均一に広がり、均質な効果を得やすい液体散布方法を提供する。
【解決手段】 本発明の液体散布方法は、無人航空機を用いて上空から液体を散布し、当該散布された液体の液滴を前記無人航空機のダウンウォッシュを利用して拡げる方法である。拡げられた液滴は前記無人航空機のダウンウォッシュによって乾燥させることもできる。前記液体には、抗菌・抗ウイルス金属系の抗菌・抗ウイルス剤を用いることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無人航空機を用いて上空から液体を散布して抗菌・抗ウイルス処理を行う方法であって、
前記無人航空機を用いて上空から液体を散布する工程と、
前記工程で散布された液体の液滴を前記無人航空機のダウンウォッシュを利用して拡げる、
ことを特徴とする液体散布方法。
【請求項2】
請求項1記載の液体散布方法において、
無人航空機のダウンウォッシュを利用して拡げられた液滴を、当該無人航空機のダウンウォッシュによって乾燥させる、
ことを特徴とする液体散布方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の液体散布方法において、
液体として、抗菌・抗ウイルス金属系の抗菌・抗ウイルス剤を用いる、
ことを特徴とする液体散布方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液体散布方法において、
処理対象物が立体構造物である、
ことを特徴とする液体散布方法。
【請求項5】
請求項4記載の液体散布方法において、
処理対象物が無人航空機側に露出する第一面と、当該無人航空機側に露出しない第二面を備えた立体構造物である、
ことを特徴とする液体散布方法。
【請求項6】
請求項5記載の液体散布方法において、
ダウンウォッシュの吹き返しの風によって、散布した液体を処理対象物の第二面に付着させる、
ことを特徴とする液体散布方法。
【請求項7】
請求項6記載の液体散布方法において、
ダウンウォッシュの吹き返しの風によって、処理対象物に付着した液体の液滴を拡げる又は/及び乾燥させる、
ことを特徴とする液体散布方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の液体散布方法において、
液滴による単位面積当たりの被覆率が90.69%未満である、
ことを特徴とする液体散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌効果と抗ウイルス効果の双方又はいずれか一方を有する液体(以下「抗菌・抗ウイルス剤」という)を、ドローンなどの無人航空機を用いて散布する液体散布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、除菌消臭液や消毒液などの液体を上空から散布する液体放出装置が知られている(特許文献1)。この液体放出装置は、菌や虫、におい成分などの対象物に対して、飛行するドローンから液体を放出できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-001005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のように上空から液体を散布する場合、散布された液体がまだらになることがあり、液体によって奏される各種効果(上記特許文献1の例では、除菌消臭効果や消毒効果など)にばらつきが生じることがある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、散布された液体を均一に拡げやすく、均質な効果を得やすい液体散布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体散布方法は、無人航空機を用いて上空から液体を散布し、当該散布された液体の液滴を無人航空機のダウンウォッシュを利用して拡げるようにした方法である。拡げられた液滴は無人航空機のダウンウォッシュによって乾燥させることもできる。液体には、抗菌・抗ウイルス金属系の抗菌・抗ウイルス剤を用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液体散布方法では、散布された液体の液滴を無人航空機のダウンウォッシュを利用して拡げるため、散布された液体が均一に拡がりやすく、均質な効果を得やすいという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の液体散布方法の一例を示すフローチャート。
図2】液体が立体構造物の第二面に付着する原理の説明図。
図3】実験1~4の概要を示す正面図。
図4】実験5及び6の概要を示す斜視図。
図5】実験5及び6の概要を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
本発明の液体散布方法の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。一例として図1に示す液体散布方法は、無人航空機X(図3)を用いて上空から液体を散布する工程S1と、散布された液体の液滴をダウンウォッシュによって拡げる工程S2を備えている。ここでいうダウンウォッシュは空気力学上の概念であり、無人航空機Xの回転部(翼やプロペラ、ブレードなど)によって生じる吹き下ろしの風や気流を意味する。また、液滴とは、散布された液体の一粒一粒を意味する。
【0010】
前記無人航空機Xを用いて上空から液体を散布する工程S1は、抗菌・抗ウイルス処理を行う領域に上空から液体を散布する工程である。無人航空機Xには、たとえば、液体を貯留するタンクや貯留したタンクを霧状にして散布(噴霧)する散布部(噴霧部)、無線通信部、撮影部(カメラなど)などを備えたドローンを用いることができる。
【0011】
無人航空機Xにはドローン以外のものを用いることもできる。ドローンを用いるかそれ以外の無人航空機Xを用いるかを問わず、翼やプロペラ、ブレードなどのダウンウォッシュを生じさせる要素を備えたものを用いる。
【0012】
液体を散布する高さは、無人航空機Xによるダウンウォッシュが処理対象物に届く高さ、一例としては、処理対象物と無人航空機Xの散布部の先端の距離が1~5m程度、好ましくは1~3m程度、さらに好ましくは2~3m程度とすることができる。
【0013】
処理対象物と無人航空機Xの散布部の先端の距離が5mより離れると、ダウンウォッシュが処理対象物に届きにくくなり、液体の液滴をダウンウォッシュによって拡げる工程S2において、液滴を拡げにくくなるおそれがある。また、処理対象物と無人航空機Xの散布部の先端の距離を離せば離すほど無人航空機Xの操縦が難しくなり、液体を目標位置に散布しにくくなる。
【0014】
一方、処理対象物と無人航空機Xの散布部の先端の距離が1mより近くなると、散布した液体の各液滴のサイズが大きくなり、隣接する液滴同士が一体化しやすくなる。液滴が一体化すると、液滴間で有効成分が移動して有効成分の偏在を招き、抗菌効果や抗ウイルス効果がばらつくおそれがある。
【0015】
ただし、ここで挙げた処理対象物と無人航空機Xの散布部の先端までの距離は一例であり、上記課題が生じない場合あるいは生じたとしてもその課題を解消できる場合には、処理対象物と無人航空機Xの散布部の先端までの距離を前記範囲外とすることもできる。
【0016】
液体の散布量(噴射量)や無人航空機Xの飛行速度、無人航空機Xの飛行回数(往復回数)などに特に制限はないが、液体を万遍なく付着させやすいように調整をするのが好ましい。
【0017】
前述のとおり、散布した液体の液滴同士が一体化すると、液滴間で有効成分が移動して有効成分の偏在を招き、均質な抗菌・抗ウイルス効果が得られにくくなるおそれがあるため、液体を散布する高さや散布量、飛行速度、飛行回数などは、この点を考慮して調整するのが好ましい。これらの調整を行うにあたっては、散布された液体に影響を及ぼし得る風や自然対流などの環境的要因を考慮するのが好ましい。
【0018】
この実施形態では、処理対象物の表面の単位面積当たり(たとえば、1mm)の液体の被覆率が90.69%未満になるようにしてある。被覆率を90.69%未満とすることで隣接する液滴同士の間隔を確保することができ、液滴同士が一体化することや一体化することによる前記問題の発生を防止することができる。被覆率は90.69%未満であればよく、たとえば、90%や85%、80%程度、あるいは80%未満とすることもできる。
【0019】
なお、被覆率90.69%未満というのは前記問題が生じにくい場合の一例であり、被覆率を90.69%以上とすることを排除するものではない。被覆率が90.69%以上であっても、処理対象物の材質によっては、液滴同士の一体化やそれに伴う不都合が生じないこともある。この場合には、被覆率が90.69%以上となるようにすることもできる。
【0020】
この工程S1で散布する液体(抗菌・抗ウイルス剤)には、銀や銅、金、白金、亜鉛、チタン、タングステンなどの抗菌・抗ウイルス作用を有する各種金属を含む液体を用いることができる。この実施形態では、散布する液体として、抗菌・抗ウイルス作用を有する銀ナノ粒子(銀粒子)が含有した銀水溶液を用いている。
【0021】
散布する液体(抗菌・抗ウイルス剤)には、抗菌作用と抗ウイルス作用の双方又はいずれか一方を有するもののほか、他の作用を有する液体を用いることもできる。なお、金属粒子の粒径はナノメートルオーダーに限らず、マイクロメートルオーダーやピコメートルオーダーであってもよい。
【0022】
散布する液体の液滴の粒径に特に限定はなく、たとえば、粒径1.0mm以上の粗霧、0.3~1.0mmの中霧、100~300μmの細霧、10~100μmの微霧、10μm以下の超微霧の中から、抗菌・抗ウイルス対象に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記散布された液体の液滴をダウンウォッシュによって拡げる工程S2は、無人航空機Xの回転部によって生じる吹き下ろしの風や気流を利用して、散布された液体の液滴を拡げる(微細化し均一化させる)工程である。ここでいう微細化とは、液滴の粒径を細かくすることを、均一化とは液滴の付着ムラが生じないように、処理対象物に万遍なく付着させることを意味する。換言すれば、この工程S2は、処理対象物に付着する前後の液体を微細化し、液滴が処理対象物に万遍なく付着するようにする工程ということができる。
【0024】
この工程S2は、無人航空機Xの垂直方向の位置や水平方向の位置を変えることなく行うこともできるが、散布された液体の液滴が拡がるように、無人航空機Xを水平方向や垂直方向に移動させながら行うこともできる。無人航空機Xを水平方向や垂直方向に移動させながら液滴を拡げる場合、無人航空機Xの移動と停止を繰り返しながら行うこともできる。
【0025】
場合によっては、無人航空機Xを、液体を散布する工程S1とは異なる位置(たとえば、液体を散布する工程S1よりも低い位置)に移動させたのち、その位置で液滴を拡げる工程S2を行うこともできる。いずれの場合も、無人航空機Xの操縦は地上からコントローラによって行うことができる。
【0026】
図1に破線で示すように、前記液体の液滴を拡げる工程S2の後には、ダウンウォッシュを利用して拡げた液滴を乾燥させる工程S3を入れることもできる。この工程S3は液滴を拡げる工程S2と同時に行うこともできる。
【0027】
この工程S3を行うことで、拡がった液滴を即座に乾燥させることができる。このため、液状では人体に有害な物質が含まれているような場合でも、乾燥によって人体に与えるリスクを取り除くことができる。
【0028】
たとえば、このような液体(抗菌・抗ウイルス剤)を用いて体育館内の処理(抗菌処理又は/及び抗ウイルス処理)を行う場合、強制的に乾燥をさせない場合には液体が乾燥するまで入館を制限する必要があるが、ダウンウォッシュを利用して強制的に乾燥させる場合には入館制限を最小限に止めることができる。このため、開館直前に処理が必要になった場合などでも使用することができる。
【0029】
液体の散布後には処理対象物が濡れ、そのままでは使用できないことがあるが、ダウンウォッシュによって微細化と均一化ならびに乾燥をさせることで、早期に使用可能な状態にすることができる。また、処理対象物の材質や劣化の程度、付着する液体の種類などによっては、処理対象物に必要以上の液体が付着したまま時間が経過すると、処理対象物自体が腐食するおそれがあるが、付着させた液体を乾燥させることでこのような問題も回避することができる。
【0030】
本発明の液体散布方法は、屋内に限らず、屋外の処理に用いることもできる。具体的には、体育館や教室、ビル(オフィスビル、駅ビルなど)、商業施設(店舗、映画館、劇場など)、公共施設(図書館、公民館、役所など)、屋内競技場、公共交通機関(バス、電車、飛行機など)、駅舎などがあげられる。不特定多数の人が利用する施設など、抗菌・抗ウイルス処理が必要とされる場所で、特に好適に用いることができる。
【0031】
広範囲の処理や高所からの処理を人手で行う場合、大変な労力を要するが、本発明の液体散布方法は、液体を上空から散布する方法であるため、広範囲の処理や高所からの処理を、労力をかけずに行うことができる。また、散布された液体の液滴を無人航空機Xのダウンウォッシュを利用して拡げるため、効果を均質にしやすくなる。
【0032】
本発明の液体散布方法は、平面構造物に限らず、立体構造物への液体散布にも用いることができる。立体構造物としては、たとえば、映画館や体育館、スタジアムなどに設置される座席などが想定される。
【0033】
特に、表裏面を備えた座席の座面やテーブルの天板などのように、無人航空機X側に露出する面(第一面)と無人航空機X側に露出しない面(第二面)を備えた立体構造物などへの液体散布に好適に用いることができる。ここでいう無人航空機X側に露出しない面というのは、処理対象物の上方を飛行している無人航空機X側からは見えない位置にある面程度の意味であり、座面の裏側や天板の裏側などが含まれる。
【0034】
一般に、液体を上空から散布する場合、処理対象物の上方を飛行している無人航空機X側からは見えない位置にある座面の裏面側(床面側)や天板の裏面側に液体を付着させるのは難しい。
【0035】
これに対し、本実施形態の方法では、図2に示すように、液滴を拡げる際に床面に吹き付けられた風(ダウンウォッシュ)が、吹き返しの風(床にあたって跳ね返った風)となって座席や天板の裏面側に回り込み、散布された液体を座席や天板の裏面側に付着させることができる。また、座席や天板の裏面側に付着した液体の液滴は、当該吹き返しの風によって拡げ、乾燥させることができる。
【0036】
映画館や体育館、スタジアムなどに設置される座席に液体を散布する場合、無人航空機Xを座席の横並び方向(以下「左右方向」という)に移動させながら散布することも、前後方向に移動させながら散布することもできる。本件出願人が行った実験では、無人航空機Xを前後方向に移動させた場合に、より効果的に、座面の裏面側に液体を付着させられることが確認できた(後述の実験7参照)。
【0037】
なお、ここで挙げた立体構造物は一例であり、立体構造物には座席やテーブル以外のものも含まれる。たとえば、屋内外に設置される階段(特に、垂直に立設される蹴込み板や手摺り壁などのないストリップ階段)や店舗内に設置されるシェルフや椅子などが含まれる。
【0038】
前記実施形態の液体散布方法は一例であり、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形、変更が可能である。また、前記実施形態の液体散布方法の各工程S1~S3はすべてが必須の工程というわけではなく、不要な工程は適宜省略又は変更することができる。
【0039】
本件出願人は、本発明の液体散布方法の効果を実証するため、次の実験1~6を行った。各実験の概要、条件及び結果は次のとおりである。
【0040】
[実験1の概要]
(1)図3に示すように、地元小学校の体育館に6つの試験体1a~1fを配置し、本発明の液体散布方法によって抗菌・抗ウイルス剤を散布(噴霧)した。
(2)抗菌・抗ウイルス剤を噴霧したのち、噴霧後の試験体1a~1fを回収し、各試験体1a~1fの表面(抗菌・抗ウイルス剤の噴霧面)に菌液を垂らした。ここでは、菌液として菌濃度10,000CFU/mlのカンジダ・アルビカンス用いた。
(3)各試験体1a~1fの表面に垂らした菌液の上面にフィルムを被せ、当該フィルムを動かして各試験体1a~1fの表面に菌液を拡げた(均した)。
(4)フィルムで菌液を拡げたのち、各試験体1a~1fの表面で菌と試験体1a~1fの表面の抗菌・抗ウイルス剤とを作用させ、菌液を垂らした後30分が経過したところでフィルムを剥がした。
(5)フィルムを剥がした各試験体1a~1fの表面から菌を回収し、その菌を培地に接種して48時間培養した後、繁殖した菌のコロニー数を測定した。
【0041】
実験1では、対照試料(コントロール)として、他の試験体1a~1fと同様のアクリル片に前記(2)に示す菌液を垂らしたのち、前記(3)~(5)に示す方法で処理したものを用いた。
【0042】
[実験1の条件]
実験1の条件は次のとおりである。
場所:地元小学校の体育館
試験体:アクリル片(縦50mm×横50mm×厚さ1.5mm)×6枚
実験1で用いた6枚の試験体1a~1fの設置位置は次のとおりである。
試験体1a:中心から室内側に1mの位置
試験体1b:中心から室内側に2mの位置
試験体1c:中心から室内側に3mの位置
試験体1d:中心から壁側に1mの位置
試験体1e:中心から壁側に2mの位置
試験体1f:中心から壁側に3mの位置
抗菌・抗ウイルス剤:銀ナノ粒子を含む銀水溶液
散布高度:床面より2mの位置
散布量:0.8ml/秒
無人航空機:既存のドローンにハンディータイプの噴霧機を固定した実験機を用いた
無人航空機の移動:散布状態で各試験体1a~1fの上方を2往復させた
抗菌・抗ウイルス剤の付着回数:2往復する間に4回に分けて抗菌・抗ウイルス剤を各試験体1a~1fに付着させた
【0043】
[実験1の結果]
実験1の結果を表1-1及び表1-2に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0044】
表1-1は各試験体1a~1f及びコントロールの菌数、除菌数及び除菌率を表したもの、表1-2は表1-1に示す各試験体1a~1fの除菌率を棒グラフで表したものである。表1-1において、除菌数はコントロールの平均菌数(432.0CFU/枚)と各試験体1a~1fについて測定された菌数の差分で表し、除菌率はコントロールの平均菌数と各試験体1a~1fの除菌数の割合(百分率)で表した。
【0045】
表1-1及び表1-2に示すとおり、実験1では、試験体1cを除くその他の試験体1a、1b、1d~1fについて除菌率99%以上という結果が得られた。試験体1c以外の試験体1a、1b、1d~1fにおける除菌率が99%以上であることから考えると、試験体1cの除菌率が78.70%にとどまったのは、ドローンの操縦誤差や空気中の対流などの影響によるものと考えられる。
【0046】
[実験2の概要]
実験2の概要は、実験1と同様である。実験2で用いた6枚の試験体2a~2fの設置位置は次のとおりである。実験2における試験体2a~2fは図3の試験体1a~1fに相当する。なお、コントロールには実験1と同じものを用いた。
試験体2a:中心から室内側に1mの位置
試験体2b:中心から室内側に2mの位置
試験体2c:中心から室内側に3mの位置
試験体2d:中心から壁側に1mの位置
試験体2e:中心から壁側に2mの位置
試験体2f:中心から壁側に3mの位置
【0047】
[実験2の条件]
実験2の条件は、散布高度を除き、実験1の条件と同様である。実験1では液体の散布高度を床面より2mの位置としたのに対し、実験2では液体の散布高度を床面より3mの位置とした。
【0048】
[実験2の結果]
実験2の結果を表2-1及び表2-2に示す。
【表2-1】
【表2-2】
【0049】
表2-1は各試験体2a~2f及びコントロールの菌数、除菌数及び除菌率を表したもの、表2-2は表2-1に示す各試験体2a~2fの除菌率を棒グラフで表したものである。表2-1において、除菌数はコントロールの平均菌数(432.0CFU/枚)と各試験体2a~2fについて測定された菌数の差分で表し、除菌率はコントロールの平均菌数と各試験体2a~2fの除菌数の割合(百分率)で表した。
【0050】
表2-1及び表2-2に示すとおり、実験2では、すべての試験体2a~2fについて除菌率99%以上という結果が得られた。
【0051】
[実験3の概要]
実験3の概要は、実験1と同様である。実験3で用いた6枚の試験体3a~3fの設置位置は次のとおりである。実験3における試験体3a~3fは図3の試験体1a~1fに相当する。なお、コントロールには実験1と同じものを用いた。
試験体3a:中心から室内側に1mの位置
試験体3b:中心から室内側に2mの位置
試験体3c:中心から室内側に3mの位置
試験体3d:中心から壁側に1mの位置
試験体3e:中心から壁側に2mの位置
試験体3f:中心から壁側に3mの位置
【0052】
[実験3の条件]
実験3の条件は、無人航空機Xの移動回数及び抗菌・抗ウイルス剤の付着回数を除き、実験1の条件と同様である。実験1では2往復する間に4回に分けて抗菌・抗ウイルス剤を各試験体1a~1fに付着させているのに対し、実験3では4往復する間に8回に分けて抗菌・抗ウイルス剤を各試験体3a~3fに付着させた。
【0053】
[実験3の結果]
実験3の結果を表3-1及び表3-2に示す。
【表3-1】
【表3-2】
【0054】
表3-1は各試験体3a~3f及びコントロールの菌数、除菌数及び除菌率を表したもの、表3-2は表3-1に示す各試験体3a~3fの除菌率を棒グラフで表したものである。表3-1において、除菌数はコントロールの平均菌数(432.0CFU/枚)と各試験体3a~3fについて測定された菌数の差分で表し、除菌率はコントロールの平均菌数と各試験体3a~3fの除菌数の割合(百分率)で表した。
【0055】
表3-1及び表3-2に示すとおり、実験3では、試験体3cを除く試験体3a、3b、3d~3fについて除菌率100%という結果が得られた。試験体3cの除菌率は100%には届かなかったものの、除菌率は99.54%と概ね100%に近い数値であった。
【0056】
[実験4の概要]
実験4の概要は、実験1と同様である。実験4で用いた6枚の試験体4a~4fの設置位置は次のとおりである。実験4における試験体4a~4fは図3の試験体1a~1fに相当する。なお、コントロールには実験1と同じものを用いた。
試験体4a:中心から室内側に1mの位置
試験体4b:中心から室内側に2mの位置
試験体4c:中心から室内側に3mの位置
試験体4d:中心から壁側に1mの位置
試験体4e:中心から壁側に2mの位置
試験体4f:中心から壁側に3mの位置
【0057】
[実験4の条件]
実験4の条件は、散布高度を除き、実験3の条件と同様である。実験3では液体の散布高度を床面より2mの位置としたのに対し、実験4では液体の散布高度を床面より3mの位置とした。
【0058】
[実験4の結果]
実験4の結果を表4-1及び表4-2に示す。
【表4-1】
【表4-2】
【0059】
表4-1は各試験体4a~4f及びコントロールの菌数、除菌数及び除菌率を表したもの、表4-2は表4-1に示す各試験体4a~4fの除菌率を棒グラフで表したものである。表4-1において、除菌数はコントロールの平均菌数(432.0CFU/枚)と各試験体4a~4fについて測定された菌数の差分で表し、除菌率はコントロールの平均菌数と各試験体4a~4fの除菌数の割合(百分率)で表した。
【0060】
表4-1及び表4-2に示すとおり、実験4では、すべての試験体4a~4fについて除菌率100%という結果が得られた。
【0061】
[実験5の概要]
(1)図4に示すように、地元小学校の体育館に折り畳みテーブルDを設置し、そのテーブルDの上に上段座席C1に見立てたパイプ椅子を3つ横並びに配置するとともに、テーブルDの前側に下段座席C2に見立てたパイプ椅子を3つ横並びに配置した。
(2)上段中央のパイプ椅子C1の背凭れの前面側、座面表側、座面裏側、座面下部及び上段席前通路、並びに下段中央のパイプ椅子C2の背凭れの前面側、座面表側、座面裏側、座面下部及び下段席前通路に一枚ずつ試験体5a~5jを配置し、本発明の液体散布方法によって抗菌・抗ウイルス剤を散布(噴霧)した。
(3)抗菌・抗ウイルス剤を噴霧したのち、噴霧後の試験体5a~5jを回収し、各試験体5a~5jの表面(抗菌・抗ウイルス剤の噴霧面)に菌液を垂らした。ここでは、菌液として菌濃度10,000CFU/mlのカンジダ・アルビカンス用いた。
(4)各試験体5a~5jの表面に垂らした菌液の上面にフィルムを被せ、当該フィルムを動かして各試験体5a~5jの表面に菌液を拡げた(均した)。
(5)フィルムで菌液を拡げたのち、各試験体5a~5jの表面で菌を培養し、菌液を垂らした後30分が経過したところでフィルムを剥がした。
(6)フィルムを剥がした各試験体5a~5jについて、その表面の菌のコロニー数を測定した。
【0062】
[実験5の条件]
実験5の条件は次のとおりである。
場所:地元小学校の体育館
試験体:アクリル片(縦50mm×横50mm×厚さ1.5mm)×10枚
実験5で用いた10枚の試験体5a~5jの設置位置は次のとおりである(図4参照)。なお、コントロールには実験1と同じものを用いた。
試験体5a:上段席前通路
試験体5b:上段席直下の床
試験体5c:上段席の座面裏側
試験体5d:上段席の座面表側
試験体5e:上段席の背凭れの前面側
試験体5f:下段席前通路
試験体5g:下段席直下の床
試験体5h:下段席の座面裏側
試験体5i:下段席の座面表側
試験体5j:下段席の背凭れの前面側
抗菌・抗ウイルス剤:銀ナノ粒子を含む銀水溶液
散布高度:下段席前通路から3m上方の位置
散布量:0.8ml/秒
無人航空機:既存のドローンにハンディータイプの噴霧機を固定した実験機を用いた
無人航空機の移動:散布状態で各試験体5a~5jの上方を座席の左右方向に2往復させた
抗菌・抗ウイルス剤の付着回数:2往復する間に4回に分けて抗菌・抗ウイルス剤を各試験体5a~5jに付着させた
【0063】
[実験5の結果]
実験5の結果を表5-1及び表5-2に示す。
【表5-1】
【表5-2】
【0064】
表5-1は各試験体5a~5j及びコントロールの菌数、除菌数及び除菌率を表したもの、表5-2は表5-1に示す各試験体5a~5jの除菌率を棒グラフで表したものである。表5-1において、除菌数はコントロールの平均菌数(432.0CFU/枚)と各試験体5a~5jについて測定された菌数の差分で表し、除菌率はコントロールの平均菌数と各試験体5a~5jの除菌数の割合(百分率)で表した。
【0065】
表5-1及び表5-2に示すとおり、実験5では、試験体5c及び試験体5jを除いて除菌率90%以上という結果が得られた。試験体5c及び試験体5jの除菌率は90%に届かなかったものの、それぞれの除菌率は試験体5cが83.80%、試験体5jが87.73%といずれも高い数値であった。この結果から、前記実施形態の液体散布方法によれば、無人航空機X側に露出している面(座席の表面や上段席前通路、下段席前通路)のほか、無人航空機X側に露出していない面(座席の裏面や座面下部)に対しても液体を効果的に付着させられることが確認できた。
【0066】
[実験6の概要]
実験6の概要は、無人航空機Xの移動回数及び抗菌・抗ウイルス剤の付着回数を除き、実験5と同様である。実験6で用いた10枚の試験体6a~6jの設置位置は次のとおりである。なお、コントロールには実験1と同じものを用いた。
試験体6a:上段席前通路
試験体6b:上段席直下の床
試験体6c:上段席の座面裏側
試験体6d:上段席の座面表側
試験体6e:上段席の背凭れの前面側
試験体6f:下段席前通路
試験体6g:下段席直下の床
試験体6h:下段席の座面裏側
試験体6i:下段席の座面表側
試験体6j:下段席の背凭れの前面側
【0067】
[実験6の条件]
実験6の条件は、無人航空機Xの移動回数及び抗菌・抗ウイルス剤の付着回数を除き、実験5の条件と同様である。実験5では2往復する間に4回に分けて抗菌・抗ウイルス剤を各試験体5a~5jに付着させたのに対し、実験6では4往復する間に8回に分けて抗菌・抗ウイルス剤を各試験体6a~6jに付着させた。
【0068】
[実験6の結果]
実験6の結果を表6-1及び表6-2に示す。
【表6-1】
【表6-2】
【0069】
表6-1は各試験体6a~6j及びコントロールの菌数、除菌数及び除菌率を表したもの、表6-2は表6-1に示す各試験体6a~6jの除菌率を棒グラフで表したものである。表6-1において、除菌数はコントロールの平均菌数(432.0CFU/枚)と各試験体6a~6jについて測定された菌数の差分で表し、除菌率はコントロールの平均菌数と各試験体6a~6jの除菌数の割合(百分率)で表した。
【0070】
表6-1及び表6-2に示すとおり、実験6では、すべての試験体6a~6jについて除菌率95%以上という結果が得られた。この結果から、前記実施形態の液体散布方法によれば、無人航空機X側に露出している面(座席の表面や上段席前通路、下段席前通路)のほか、無人航空機X側に露出していない面(座席の裏面や座面下部)に対しても液体を効果的に付着させられることが確認できた。
【0071】
本件出願人は、立体構造物について、無人航空機Xの飛行方向の違いによる効果の違いを検証するため、実験1~6とは別の日に実験7を行った。実験7の概要、条件及び結果は次のとおりである。
【0072】
[実験7の概要]
実験7の概要は、無人航空機Xの移動方向を除き、実験5と同様である。実験7では、4枚の試験体7a~7dを用いた。試験体7a~7dの設置位置は次のとおりである。なお、コントロールには実験1と同じ方法で用意したものを用いた。
試験体7a:上段席の背凭れの前面側
試験体7b:上段席の座面裏側
試験体7c:下段席の背凭れの前面側
試験体7d:下段席の座面裏側
【0073】
[実験7の条件]
実験7の条件は、実施日及び無人航空機Xの移動方向を除き、実験5の条件と同様である。実験5では、無人航空機Xを座席の左右方向に移動させながら液体を散布したのに対し、実験7では、無人航空機Xを座席の前後方向に移動させながら液体を散布した。
【0074】
[実験7の結果]
実験7の結果を表7-1及び表7-2に示す。
【表7-1】
【表7-2】
【0075】
表7-1は各試験体7a~7d及びコントロールの菌数、除菌数及び除菌率を表したもの、表7-2は表7-1に示す各試験体7a~7dの除菌率を棒グラフで表したものである。表7-1において、除菌数はコントロールの平均菌数(495.3CFU/枚)と各試験体7a~7dについて測定された菌数の差分で表し、除菌率はコントロールの平均菌数と各試験体7a~7dの除菌数の割合(百分率)で表した。
【0076】
表7-1及び表7-2に示すとおり、実験7では、すべての試験体7a~7dについて除菌率100%という結果が得られた。
【0077】
無人航空機Xの移動方向による効果の違いを比較するため、実験7の各試験体の除菌率と実験5のうち実験7に対応する試験体5c、5e、5h、5jの除菌率を表した棒グラフを図8に示す。
【表8】
【0078】
表8に示すとおり、無人航空機Xを座席の前後方向に移動させながら処理を行った場合、無人航空機Xを座席の左右方向に移動させながら処理を行った場合に比べて、除菌率が高いことが確認できた。もちろん、無人航空機Xを座席の左右方向に移動させながら処理を行った場合でも除菌率は80%以上であり、十分な抗菌効果があるといえるが、無人航空機Xを座席の前後方向に移動させながら処理を行った場合の方が、抗菌効果が高いことが確認できた。
【0079】
前記各実験は抗菌効果について検証を行ったが、銀水溶液の有効成分である銀粒子(銀ナノ粒子)に抗ウイルス効果があることは公知の技術であることから、本発明においても、少なくとも、銀水溶液を用いた場合には抗ウイルス効果も認められる。このことは、抗菌作用や抗ウイルス作用を有する各種金属銀水溶液以外についても同様である。
【0080】
なお、銀粒子(銀ナノ粒子)に抗ウイルス効果があることは、たとえば、Biochemical and Biophysical Research Communicationsに掲載された論文「銀ナノ粒子のSARS―CoV-2に対する強力な抗ウイルス効果(スンダラージ・S・ジェレミア、宮川圭、森田武、山岡祐太郎、亮明秀)などに開示されている。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の液体散布方法は、公共交通機関や公共施設、体育館など、比較的広範囲の抗菌処理や抗ウイルス処理を行う場合に、特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
1a~1f 試験体
5a~5j 試験体
C1 上段座席
C2 下段座席
D 折り畳みテーブル
X 無人航空機
図1
図2
図3
図4
図5